説明

樹脂鋳型からの剥離方法

【課題】樹脂成形体を破損することなく樹脂鋳型から剥離する方法を提供すること。
【解決手段】樹脂鋳型から樹脂成形体を剥離する方法であって、該樹脂鋳型の鋳型部には樹脂成形体が形成されており、該樹脂鋳型に気相雰囲気下で超音波振動を与える工程を含む剥離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体を効率良く樹脂鋳型から剥離する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療機器、例えば眼内レンズ、コンタクトレンズには、鋳型中で成形体を作成し、これを鋳型から剥離して製造されるものがある。このような医療機器の製造方法にはいくつかの方法が考案されている。例えば、特許文献1にはポリプロピレン樹脂鋳型内でキャスト重合した後、成形体を鋳型から剥離し、表面をプラズマ重合処理して表面特性を改良した眼のレンズに関する記載がある。これらを表面処理しないで表面の水濡れ性に優れたコンタクトレンズを製造する方法として、特許文献2にはモノマーに不溶で、少なくとも1つの面が接触角65〜80度である樹脂、例えばポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、エチレンビニルアルコール共重合体から選ばれた樹脂鋳型で製造する記載がある。
【特許文献1】特表平11−502949号公報
【特許文献2】PCT/JP00/08912(WO00/49070号パンフレット)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
樹脂鋳型から樹脂成形体を剥離する際には以下の各問題点が指摘される。例えば、ポリアルキレン樹脂鋳型から成形体を剥離し、その表面をプラズマ重合処理する方法では、鋳型から成形体を剥離する際には問題ないが、プラズマ重合処理という後工程の故に、歩留まりの低下やそれから発生するコストの増加という問題点がある。一方ポリアミド、ポリエステル、エチレンビニルアルコール共重合体から選ばれた樹脂鋳型で製造する場合には、鋳型と成形体の密着性が高いため剥離する際に成形体にキズやカケが発生するという問題や、樹脂の射出成形性が不安定となる問題があった。特に、キズやカケを回避するために、従来これらの樹脂鋳型で製造する場合には、型剥離時には、重合され型に張り付いているレンズを型ごと水又は溶剤に浸漬するいわゆるウェット剥離が行われている。ウェット状態のレンズは空気中に放置すると乾燥し、製品の品質に悪影響が出ることがあるため、剥離後に行うキズやカケをチェックする外観検査工程では、水中検査を余儀なくされ取り扱いが面倒で、専用の検査装置を必要とし、製造工程が複雑になる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するため、本発明者らは成形体、特に表面の濡れ性が要求される医療機器、例えば眼内レンズ、コンタクトレンズのキャスト重合の剥離工程を検討し鋭意研究を重ねた結果、重合後のコンタクトレンズ等を鋳型ごと水又は溶剤に浸漬することなく、気相雰囲気下で超音波振動を直接鋳型に与えることで、鋳型と接着していたレンズが容易に剥離されるという驚くべき結果を得、本発明を完成する事ができた。すなわち、本発明としては以下の各発明が例示される。
(1) 樹脂鋳型から樹脂成形体を剥離する方法であって、該樹脂鋳型の鋳型部には樹脂成形体が形成されており、該樹脂鋳型に気相雰囲気下で超音波振動を与える工程を含む剥離方法。
(2) 樹脂成形体の樹脂が、シリコーンマクロマー及び親水性モノマーを含有する混合物をキャスト重合して得られるものであり、樹脂鋳型の樹脂がポリエステルから選択されるものである(1)に記載の剥離方法。
(3) 樹脂成形体が、眼内レンズ又はコンタクトレンズである、(1)又は(2)に記載の剥離方法。
(4) 超音波振動が、該樹脂鋳型の少なくとも一部に接する部材を介して与えられる(1)ないし(3)のいずれかに記載の剥離方法。
(5) 樹脂鋳型から樹脂成形体を製造する方法であって、該樹脂鋳型の鋳型部には樹脂成形体が形成されており、該樹脂鋳型に気相雰囲気下で超音波振動を与える工程を含む製造方法。
(6) 樹脂成形体の樹脂が、シリコーンマクロマー及び親水性モノマーを含有する混合物をキャスト重合して得られるものであり、樹脂鋳型の樹脂がポリエステルから選択されるものである(5)に記載の製造方法。
(7) 樹脂成形体が、眼内レンズ又はコンタクトレンズである、(5)又は(6)に記載の製造方法。
(8) 超音波振動が、該樹脂鋳型の少なくとも一部に接する部材を介して与えられる(5)ないし(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9) 樹脂成形体の製造方法であって、樹脂鋳型内の鋳型部に樹脂成形体を形成する工程と、前記鋳型部に樹脂成形体を形成した樹脂鋳型に気相雰囲気下で超音波振動を与える工程と、前記超音波を与えた樹脂鋳型の鋳型部から樹脂成形体を剥離する工程とを含むことを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
(10) 上記(6)〜(8)のいずれかである上記(9)に記載の樹脂成形体の製造方法。
(11) 樹脂成形体の製造方法であって、射出成形によりそれぞれ製造された第一の樹脂鋳型及び第二の樹脂鋳型からなる樹脂鋳型対を用意する工程と、シリコーンマクロマー、疎水性モノマー、親水性モノマー及び開始剤を調合して得られる重合液を用意する工程と、前記第一の樹脂鋳型に前記調合された重合液を滴下し、前記第二の樹脂鋳型を重ね合わせ密閉し、前記重合液が充填された所望の成形体の形状を有する鋳型部を実現する工程と、熱、紫外線、電子線、及びガンマ線からなる群から選択される手段で前記鋳型部の重合液を硬化させ所望の樹脂成形体を得る工程と、前記鋳型部に樹脂成形体を形成した樹脂鋳型対に気相雰囲気下で超音波振動を与える工程と、前記第一の樹脂鋳型と前記第二の樹脂鋳型とを開離し、前記第一の樹脂鋳型又は第二の樹脂鋳型から前記樹脂成形体を剥離する工程とを含むことを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
(12) 上記(6)〜(8)のいずれかである上記(11)に記載の樹脂成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明によると、コンタクトレンズ等の樹脂成形体を損傷することなく容易に鋳型から剥離できる。
【0006】
また、本発明によると、水濡れ性が要求される医療機器、特に、眼内レンズ、コンタクトレンズ等の成形体の製造においては、成形体を鋳型から剥離する際に従来行われていた水相に浸漬する工程を設ける必要がなく、気相中で剥離できる。したがって、成形体を鋳型から剥離した後に成形体のディメンション、光学特性、外観等の検査も空気等の気相中でかつ室温で出来、作業効率が優れ大量生産が簡便に行える効果がある。
【0007】
本発明の方法によれば、樹脂鋳型から樹脂成形体を容易に剥離することができるので、鋳型内で成形された成形体の樹脂表面が樹脂鋳型の表面粗さから受ける影響の程度を減らすことができる。したがって、本発明の方法を使用することにより、樹脂鋳型およびこれを成形するための金型の表面を処理し、その粗さを低減させるために要する工程を省略ないし簡便にすることができ、これにより成形体製造の総コストを下げることができる。
【0008】
以下、本発明の方法を詳細に説明する。
【0009】
本発明は、前述に示した通り、樹脂鋳型から樹脂成形体を剥離する方法であって、該樹脂鋳型の鋳型部には樹脂成形体が形成されており、該樹脂鋳型に気相雰囲気下で超音波振動を与える工程を含む剥離方法である。
【0010】
また本発明は、樹脂鋳型部に樹脂成形体が形成されており、該樹脂鋳型に気相雰囲気下で超音波振動を与え該樹脂鋳型から該樹脂成形体を剥離する工程を含む樹脂成形体の製造方法である。
【0011】
以下特に断らない限り、剥離方法と製造方法とを合わせて説明することとする。
【0012】
本発明における樹脂鋳型は、その鋳型部において未硬化の樹脂成形体原料から硬化せしめ所望の形状の樹脂成形体を形成するための鋳型部を有する固体部材と理解できる。
【0013】
鋳型部は、硬化完了までの間未硬化の樹脂成形体原料を所望の形状に保持するための空間と理解される。鋳型部は、樹脂鋳型を構成する固形部材により密閉された空間となっている場合であることも好ましいが、その他の形態として、樹脂鋳型により形成されるくぼみや浅い凹面を利用する場合もある。
【0014】
樹脂鋳型を構成する固形部材の材料は形状、個数などは特に限定されることはなく、1個の固形部材から成る場合の他、通常は2個以上の固体部材が組み合わせされて鋳型部を形作ることも好ましい。所望の形状を形成するために鋳型部を適宜設計すれば良いが、樹脂鋳型における他の部分の形状や構成等は特に限定されるものではない。通常は静置された状態にて操作されることが多いが、場合によっては、スピンキャスト等のように、回転させるなどの動的な状態で使用することも可能である。
【0015】
樹脂鋳型の材質としては、鋳型部が親水性樹脂であることが好ましく、例えばポリエステル、ポリアミド、エチレンビニルアルコール共重合体といった樹脂が例示される。一方かかる部材の鋳型部以外については金属等で強度等別の特性を付与することもできるし、または樹脂であっても、疎水性の樹脂等とすることもできる。
【0016】
樹脂成形体原料が硬化して樹脂成形体になるに際して、その硬化の状態としては、ゲル状あるいは固体状であることが例示できるが、通常は、固体状であることが好ましい。硬化に際しては、架橋反応等により重合される場合が好ましい例として挙げられるが、例えば、高温等で成形性が付与された樹脂成形体原料を鋳型部に保持し、冷却等により硬化されるような場合も好ましい。また所謂、熱可塑性樹脂を利用することも好ましい。加熱により樹脂成形体原料に成形性を付与し成形する場合には、例えば用いる樹脂成形体原料のガラス転移点付近の温度にすることが通例であり、ガラス転移点以上の温度にすることがさらに好ましい。
【0017】
本発明において、一般的には樹脂成形体原料が流動性を有することが好ましい。樹脂成形体原料は、樹脂成形体の用途、形状、機能等により適宜の樹脂原料が選択でき、公知の樹脂原料を利用することができる。
【0018】
ここで、本発明において、特に限定するものではないが、より剥離をし易くするためには、樹脂成形体はある程度硬い成形体の方が超音波を効率よく伝達する上で好ましいと思われる。具体的にJIS K 7113等に準拠した引張り試験により得られる引っ張りの弾性率としての数値を例示するならば、例えば、下限としては、弾性率が0.2MPa以上であることが例示できる。また、0.4MPa以上であることが好ましく、0.7MPa以上であることが特に好ましい。一方、樹脂成形体の弾性率の上限としては、特に限定されるものではないが例えば、100MPa以下が好ましく、さらには80MPa以下がより好ましく、50MPa以下が特に好ましい。しかしながら樹脂成形体の用途、形状、機能等によって、樹脂成形体に必要とされる弾性率が決まる場合もあり、樹脂成形体に必要とされる範囲と剥離工程における好ましい範囲とを比較して丁度良い範囲を考慮する必要もある。
【0019】
本発明の効果、利益を最大とする樹脂成形体としては、医療用の樹脂成形体であることが好ましい例として挙げられる。医療用としては比較的無菌状態となることが好ましく、また、生体との適合性の良いことや、表面の水濡れ性が良いことが好ましい。一般的に樹脂成形体と親水性鋳型部の密着性が高まれば樹脂鋳型からの樹脂成形体の剥離は困難となる。樹脂成形体に表面水濡れ性を要求する場合の一例を挙げるとすると、特に限定されるものではないが、表面水濡れ性の尺度である液滴法による接触角の下限としては、例えば5°以上が例示され、10°以上がより好ましく、20°以上が特に好ましい。一方、上限としては、特に限定されるものではないが、例えば90°以下が例示され、80°以下が好ましく、70°以下がより好ましく、60°以下が特に好ましい。その他に、表面が柔らかくキズがつきやすい樹脂成形体、さらに、樹脂成形体の表面または端部における、欠落、欠損、キズ等の欠損を極端に嫌う樹脂成形体も好ましい例として挙げられる。このような樹脂成形体は薄すぎると超音波のエネルギーが過度に浸透して、結果として成形体の破損にいたる恐れがある一方、生体への適合可能な厚みの上限もありえる。樹脂成形体の用途等において決められることであり特に限定されるわけではないが、厚みが最大部分において下限が0.05mm以上であるのが一般的であり、0.07mm以上がより好ましく、0.1mm以上が特に好ましい。上限としては限定されないが、例えば100mm以下が例示され、90mm以下がより好ましく80mm以下が特に好ましい。表面等に樹脂成形体の切れ端等が付着していることが問題となる樹脂成形体においても本発明の剥離方法を採用することが好ましい。その他に、極めて表面が滑らかである樹脂成形体、特に樹脂成形体の表面において光が適正な光屈折を行うべき樹脂成形体、または樹脂成形体自体を光が適正に透過し得る樹脂成形体である場合も好ましい例として挙げられる。
【0020】
成形後の樹脂成形体を適宜の溶剤にて抽出し、抽出前後の重量の変化量を元の樹脂成形体の重量にて除した百分率を抽出率と呼ぶ。重合にて成形時の硬化を行わせしめる場合にはこの抽出率を考慮すべきこともある。すなわち、本発明の樹脂成形体においては、その抽出率が余りに高い数値である場合には樹脂成形体の強度が充分得られない等の必ずしも好ましい状況とは言えず、その観点からは、より低い抽出率であることが好ましい。一方、抽出率が低い場合には一般的に樹脂鋳型と樹脂成形体との密着力が高まる傾向があり、剥離がより困難となることがある。樹脂成形体の用途等や、剥離の容易さ等により許容される抽出率は適宜選択されることであり、特に限定されないが、抽出率の下限は、例えば2%以上が例示され、4%以上がより好ましく、6%以上であることが特に好ましい。一方、硬化した物質内の残存物は一般的には少ない方が好ましく、上限としては例えば60%以下が例示され、50%以下であることがより好ましく、45%以下が特に好ましい。上述の溶剤としては適宜の溶剤が採用でき、水、有機溶剤が例示できるが、有機溶剤としてはアルコール系溶媒が通常は好適であり、例えば、エタノールが挙げられ、その他、イソプロパノール、メタノール等が例示できる。また抽出温度としては室温の他に、加温状況や還流下にて行うことができるが、通常、23℃、エタノールにより、16時間以上の抽出する条件が例示できる。
【0021】
また、特に限定されるわけではないが、樹脂成形体の表面積が大きすぎても小さすぎても伝達する超音波の制御が難しくなることもあり得る。その観点からすれば、下限値としては例えば50mm2以上が例示され、100mm2以上がより好ましく、250mm2以上がより特に好ましい。上限としては特に限定されないが、例えば500mm2以下が例示され、400mm2以下がより好ましく、350mm2以下が特に好ましい。
【0022】
本発明はさらに、未硬化の樹脂成形体原料を樹脂鋳型の鋳型部に接触させ、鋳型部の通りに形状を形成させる工程、該未硬化の樹脂成形性体原料を何らかの方法で硬化させる工程、硬化した樹脂成形体を超音波によりキズ等欠損無く剥離する工程からなる製造方法に関するものである。
【0023】
本発明はさらに、キャスト重合により成形される樹脂成形体の製造方法であって、樹脂成形体にキズなどの欠損部が発生することなく剥離される工程を、気相雰囲気下で超音波振動を与えることで容易にする方法に関するものである。
【0024】
本発明の剥離工程においては、樹脂鋳型と所望の形状に形成された樹脂成形体とが互いに強く接触しあう状況から互いを分離する。
【0025】
本発明はさらに、キャスト重合により成形される医療機器の剥離方法であって、成形体を樹脂鋳型から剥離する際に、前記鋳型を気相雰囲気下で超音波振動を与えて前記鋳型から樹脂成形体を剥離するのを容易にする剥離方法に関するものである。
【0026】
本発明はさらに、キャスト重合により形成される医療機器の製造方法であって、樹脂鋳型を用意する工程と、シリコーンマクロマー、疎水性モノマー、親水性モノマー及び開始剤を調合して得られる未硬化の樹脂成形体原料である重合液を用意する工程と、成形された樹脂鋳型に調合された重合液を滴下し、成形された樹脂鋳型を重ね合わせ密閉することで得られる成形体の形状を実現する工程と、熱、紫外線、あるいは電子線やガンマ線等で鋳型内の重合液を硬化させ所望の樹脂成形体を得る工程と、得られた樹脂成形体を樹脂鋳型部に形成した該樹脂鋳型に気相雰囲気下で超音波振動を与える工程と、樹脂鋳型を開離し中の樹脂成形体を樹脂鋳型から剥離する工程とを含むことを特徴とする樹脂成形体の製造方法に関するものである。
【0027】
本発明の方法を適用することのできる樹脂成形体について説明する。
【0028】
樹脂成形体には、医療機器(例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工心臓、人工心臓弁、埋込型ペースメーカー、血液回路、カテーテル等)等の成形体が含まれ、本発明の方法は特に、コンタクトレンズ、眼内レンズ等形状が小さく、薄い医療機器のキャスト重合による成形体に有利に適用することができる。
【0029】
本発明の樹脂成形体の原料となる樹脂成形体原料は、単一の分子種の化合物、又は複数の分子種の化合物の混合物からなることが出来、例えば、モノマーと呼ばれる単量体やマクロマーと呼ばれる多量体を複数種類混合させた樹脂成形体原料が例示される。
【0030】
本発明の樹脂成形体の具体例であるコンタクトレンズには、ヒドロキシエチルメタクリレート、n−ビニルピロリドンなどを主成分かつ主な樹脂成形体原料とする含水ソフトコンタクトレンズ、シリコン系モノマーあるいはマクロマーと種々のモノマーとを混合した樹脂成形体原料を共重合したシリコン系非含水ソフトコンタクトレンズまたはシリコン系含水ソフトコンタクトレンズなどが含まれる。これらのうち、シリコン系含水ソフトコンタクトレンズは酸素透過性が高く、眼に対してより安全なコンタクトレンズであるだけでなく、表面が親水性で脂質汚れが付きにくく、眼表面への固着がしにくいことが期待されるので好ましい。シリコン系含水ソフトコンタクトレンズとしては、例えばポリシロキサンマクロマーと親水性モノマーを主成分とするポリマーからなり、ポリシロキサンマクロマーが70〜30重量%、親水性モノマーの合計が30〜70重量%であるポリマーからなる含水性のレンズがあげられる。さらに具体的には、ポリシロキサンマクロマーとしては分子末端に重合性の不飽和基を有するシリコン系マクロマー、そのパーフロロ変性マクロマー、またはポリアルキレングリコール変性マクロマーなどのシリコン系マクロマーなどが使用できる。その具体例は特開平3−240021号公報、特開平3−257420号公報、特開平4−50814号公報、特願平3−202106号(特開平5−045612号公報)、WO出願 JP00/08912号(WO 01/44861号パンフレット)などに記載されている。
【0031】
これらのうち、特に下記式(1)で表される親水性ポリシロキサンマクロマーがレンズの表面水濡れ性、酸素透過性、機械的強度並びに弾性率などの特性バランスに優れるため好ましい。特に限定されるわけではないが、具体的には以下のような特性バランスが好ましい例として挙げられる。表面水濡れ性の尺度として一般的に用いられている液滴法による接触角としては、特に限定されないが、下限としては通常5°以上が例示され、7°以上が好ましく、10°以上がより好ましく、20°以上が特に好ましい。上限としては特に限定されないが、通常90°以下が例示され、80°以下、または70°以下が好ましく、60°以下がさらに好ましく、50°以下が特に好ましい例として挙げられる。この時、酸素透過性は、ISO9913-1:1996に準拠した方法により測定され、当該分野において標準的な測定単位であるDk/tにおいて特に限定はされないが、下限として通常50×10-9以上が例示され、80×10-9以上が好ましく、100×10-9以上がより好ましく、150×10-9以上が特に好ましい。上限としては特に限定されないが、通常300×10-9以下が好ましく、250×10-9以下がさらに好ましく、200×10-9以下が特に好ましい例として挙げられる。強度としては、特には限定されないが、例えばJIS K 7113等に準拠した引っ張り強度として、下限としては通常0.5MPa以上が好ましく、1.0MPa以上がより好ましく、2.0MPa以上が特に好ましい。上限としては、4MPa以下が好ましく、3.5MPa以下がさらに好ましく、3.0MPa以下が特に好ましい例として挙げられる。弾性率としては、特に限定されるものではないが、同じくJIS K 7113等に準拠した引っ張り試験による弾性率として通常0.2MPa以上が好ましく、0.4MPa以上がより好ましく、0.7MPa以上が特に好ましい。上限としては、2.0MPa以下が好ましく、1.5MPa以下がさらに好ましく、1.2MPa以下が特に好ましい例として挙げられる。
【0032】
【化1】

[ここで、R、R、R、Rはそれぞれ炭素数1〜12の炭化水素基またはトリメチルシロキシ基から選ばれた基であり;Xは式(2)で表される重合性置換基であり;
【0033】
【化2】


(Rは水素またはメチル基、Zは−NHCOO−、−NHCONH−、
−OCONH−R−NHCOO−、−NHCONH−R−NHCONH−
および−OCONH−R−NHCONH−から選ばれた基(R、R、Rは炭素数2〜13の炭化水素基)であり、mは0〜10、nは3〜10、
pはmが0のとき0であり、mが1以上のとき1である。qは0〜20の整数である。)
構造Yは下記式で表される構造単位[I]および[II]が結合してなり、
構造単位[I]と[II]の結合数の比率は[I]/[II]=0.1〜200
であり、[I]と[II]の合計数は10〜1000である。
【0034】
【化3】


(ここで、R及びR10はそれぞれ炭素数1〜12の炭化水素基、炭素数1〜12のフッ素置換炭化水素基およびトリメチルシロキシ基から選択された基であって、同一でも異なっていてもよい。R11およびR12はそれぞれ炭素数1〜12の炭化水素基、トリメチルシロキシ基または親水性置換基からなる基であって、R11またはR12の少なくとも一方は親水性置換基である。ここでいう親水性置換基とは水酸基またはオキシアルキレン基から選ばれた置換基が少なくとも1個結合してなる鎖状または環状の炭化水素基である。)]
ここで親水性ポリシロキサンマクロマーの構造単位[I]は、R及びR10が炭化水素基のみのもの[Ia]、少なくとも一つがトリメチルシロキシ基であるもの[Ib]、少なくとも一つがフッ素置換炭化水素基であるもの[Ic]からなるもの、あるいはこれらから選ばれた2以上を含む構造であってもよく、構造単位[I]および[II]の結合形式はブロック的に結合しているもの、ランダム的に結合しているもの、それらが混合しているものを含んでいても良い。該ポリシロキサンマクロマーの構造単位[II]における親水性置換基は水酸基、オキシアルキレン基から選ばれた置換基が少なくとも1個結合してなる鎖状または環状の炭化水素基であるが、式(3)または式(4)で表される基であるものが好ましい。
【0035】
【化4】


(ここでR13は炭素数3〜12の炭化水素基であって、炭素炭素間に−O−、−CO−、−COO−からなる基を挟んでいてもよく、OH基は同一炭素原子上には1個のみ置換され、aは1よりも大きい数である)
【0036】
【化5】


(ここで、R14は炭素数3〜12の炭化水素基であって、炭素炭素間に−O−、−CO−、−COO−からなる基を挟んでいてもよい。R15は炭素数2〜4の炭化水素であって、bが2以上の場合、異なる炭素数であっても良い。bは1〜200であり、Zは水素原子、炭素数1〜12の炭化水素または−OCOR16(R16は炭素数1〜12の炭化水素基)から選ばれた基を示す)
さらに好ましくは親水性基が、-COH、-C16OH、-COCOH、-COCHCH(OH)CH、-CCOOCOH、-CCOOCHCH(OH)Cなどの1価アルコール置換基、-COCHCH(OH)CHOH、-CCOOCHCH(OH)CHOH、-COCHC(CHOH)などの多価アルコール置換基、-C(OCOH、-C(OC0OH、-C(OC10OCH、-C(OC10-(OC10OCなどのポリオキシアルキレン基から選ばれたものがある。これらの中で特に、−COH、 −COCHCH(OH)CHOH、 −COCOHなどのアルコール置換基、 −C(OCcOH −C(OCdOCH( c、dは2〜40でる)などのポリオキシエチレン基であるものが親水性、酸素透過性のバランスがとれている点で優れている。
【0037】
またはR10としてのフッ素置換炭化水素基は材料に耐汚染性を付与するが、フッ素原子が多すぎると親水性を低下させるため、炭化水素の水素原子の40〜85%がフッ素原子に置換した炭素数1〜12の置換基が好ましく、例えば、3,3,3-トリフルオロプロピル基、1,1,2,2−テトラヒドロパーフルオロオクチル基、1,1,2,2−テトラヒドロパーフルオロデシル基等があり、なかでも3,3,3-トリフルオロプロピル基が親水性、酸素透過性のバランスが優れる点で好ましい。また親水性置換基およびフッ素置換炭化水素基のほかにRまたはR10としてSi原子に結合してもよい置換基或いはR11またはR12としてSi原子に結合する置換基としては炭素数1〜12の炭化水素基またはトリメチルシロキシ基であり、それらは互いに同一でも異なっていても良く、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基で、柔軟性に富み、酸素透過性も良好であることからメチル基が特に好ましい。
【0038】
シロキサン構造単位[I]、親水性置換基が結合したシロキサン構造単位[II]の比率は[I]/[II]で0.1〜200であり、シロキサン構造単位[I]の割合が少ないとシロキサン鎖の柔軟性と酸素透過性が低下する一方、親水性置換基が少なすぎると、親水性が低下し表面濡れ性が悪化する。さらにシロキサン構造単位[I]と[II]の合計数は10〜1000が良いが、より好ましくは20〜500である。ポリシロキサン鎖が短いと重合体の柔軟性、酸素透過性が低下する。又、シロキサン鎖が長すぎると単量体自体でも粘度が著しく大きくなり、モノマーの製造や取扱いが困難となるとともに、重合性が低下し好ましくない。
【0039】
重合可能な不飽和部分を含む重合性置換基(X)はシロキサン鎖の末端に結合しており、該不飽和部位の構造としてはアクリレート基あるいはメタクリレート基が重合性の観点から好ましい。該不飽和部分は炭素数0〜10の炭化水素架橋を介してSi原子との連結部分基に結合してよい。Si原子との連結部分基としてはウレタン結合またはウレア結合を含む炭化水素基が好ましく、該ウレタン結合またはウレア結合(Z1)は、更にオキシエチレン基を介して炭化水素に結合し、そこに含まれていても良い。ウレタン結合およびウレア結合は極性が高く、重合体の親水性を増加させるとともに、強度を大きくする。上記ウレタン結合またはウレア結合は、Si原子との連結部分基で2個存在することも可能である。例えば、−OCONH−R−NHCOO−、−NHCONH−R−NHCONH−および−OCONH−R−NHCONH−(R、R、Rは炭素数2〜13の炭化水素基)を例示できる。これらの構造はジイソシアナート化合物との反応により導入され、両イソシアナートは炭素数2〜13の炭化水素基により相互に結合され得、該炭化水素基は鎖状、環状あるいは芳香族化炭化水素基であってもよい。より好ましくは耐光性の良好な脂肪族炭化水素基がよい。使用できるジイソシアナート化合物の例としては、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアナートなどがある。
【0040】
Si原子との連結部分基中、オキシエチレン基を介してウレタン結合またはウレア結合が結合してもよい炭化水素基、つまりウレタン結合またはウレア結合を含む炭化水素基における炭化水素には3〜10個の炭素原子が含まれ得る。
【0041】
本発明で開示した親水性ポリシロキサンマクロマーの合成方法は種々考えられるが、例えばヒドロシラン(Si-H)を有する環状シロキサン、炭化水素基を有する環状シロキサンおよび両末端にヒドロキシアルキル基を有するジシロキサン、場合によりフッ素置換炭化水素基を有する環状シロキサンを加えた混合物を硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸、酸性白土などの酸性触媒を用いて開環重合し、両末端に水酸基を有し、ヒドロシリル基含有ポリシロキサン化合物を得る。その際、それぞれの環状シロキサンとジシロキサン化合物の仕込み比率を変えることで重合度およびフッ素置換基、ヒドロシリル基の導入割合が異なったシロキサン化合物が得られる。次にイソシアネート基含有アクリレート、あるいはイソシアネート基含有メタクリレートをシロキサン末端の水酸基と反応させ両末端に重合性置換基を有するヒドロシラン含有含フッ素シロキサン化合物を得る。ここで、イソシアネート基含有メタクリレート化合物としては、例えばメタクリロキシエチルイソシアネート、メタクリロイルイソシアネートなどがあり、さらにヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレートなどの水酸基含有アクリレートあるいは水酸基含有メタクリレートと種々のジイソシアネート化合物と反応させて得られるアクリレート基あるいはメタクリレート基含有イソシアナート化合物も利用できる。次に、不飽和炭化水素基を有する親水性化合物を塩化白金酸など遷移金属触媒を用いヒドロシランに付加反応させる、いわゆるヒドロシリル化反応を利用することで親水性ポリシロキサンマクロマーを得ることができる。ここでヒドロシリル化反応の際に、水酸基、カルボン酸などの活性水素化合物が存在すると副反応として脱水素反応を起こすことが知られていて、あらかじめ活性水素を保護したり、バッファー剤を添加し、副反応を抑える方法が、例えば、米国特許第3907851号、特開昭62−195389号公報に記載されている。また別の合成ルートとしては両末端に水酸基を有するヒドロシリル基含有ポリシロキサン化合物の合成後、先にヒドロシリル化による親水性化合物の導入を行い、その後にイソシアネート基含有メタクリレートなどを反応させ、シロキサン末端に重合性置換基を導入する方法もある。この場合にも親水性化合物中にイソシアネートと反応しうる活性水素が存在する場合には保護基を導入し、イソシアネートとの反応を防止する方法が知られている。また出発原料に環状シロキサンに代わって、ジメトキシシラン化合物やジエトキシシラン化合物などの珪酸エステル誘導体を用いることもできる。こうして得られる親水性ポリシロキサンマクロマーの2種以上を混合して使用する事もできる。
【0042】
これら親水性ポリシロキサンマクロマーの具体例としては下記のものがある。
【0043】
【化6】


ここで、Y:
【0044】
【化7】


若しくは、式(5)において、Y:
【0045】
【化8】


または、
【0046】
【化9】


ここで、Y:
【0047】
【化10】


または、
【0048】
【化11】


ここで、Y:
【0049】
【化12】


または、
【0050】
【化13】


ここで、Y:
【0051】
【化14】


若しくは、式(9)において、Y:
【0052】
【化15】


または、
【0053】
【化16】


ここで、Y:
【0054】
【化17】

【0055】
医療機器、特にコンタクトレンズは、上記のポリシロキサンマクロマーから選ばれた少なくとも1種が70〜30重量%、親水性モノマーが30〜70重量%のものが使用され、ポリシロキサンマクロマーが65〜40重量%、親水性モノマーの合計が35〜60重量%のものが上記諸特性のバランスが取れている事から好ましい。
【0056】
ポリシロキサンマクロマーが余りに低すぎると、酸素透過性が得られない場合がある。また、ポリシロキサンマクロマーが余りに高すぎると、水濡れ性が低下することがある。よって、高い酸素透過性と水濡れ性が必要である場合にはある範囲を選択することが好ましい。
【0057】
本発明で使用できる親水性モノマーは、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート、ヒドロキシブチルメタアクリレート、グリセリルメタアクリレートなどのヒドロキシ基を含有する(メタ)アクリレート、N−ビニル−N−メチルアセトアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−フォルムアミド、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、2−ビニルピリジン、N−メチルイタコンイミド、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−ビニルイミダゾール、N−オクタデシルアクリルアミド、1−ビニル−2−メチルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルオキサゾリドン、N−ビニルスクシンイミドなどのN原子含有モノマーなどがあり、ポリシロキサンマクロマーとの溶解性、得られるポリマーの物性のバランスなどから好ましくは2−ヒドロキシエチルメタアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート、ヒドロキシブチルメタアクリレート、N−ビニル−N−メチルアセトアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−フォルムアミド、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアクリルアミドから選ばれた1種以上が使用される。
【0058】
上記のコンタクトレンズは、その実用性能を維持する目的でさらに共重合可能なモノマーを使用する事が可能である。その構成物に制限は無いが、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、アクリル酸などのアクリル系モノマー、メチルメタアクリレート、エチルメタアクリレートなどのメタアクリル系モノマー、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタアクリレート、ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリルプロピルメタアクリレート、ペンタメチルジシロキサンプロピルメタアクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルオキシエチルメタアクリレート、トリス(ポリジメチルシロキシ)シリルプロピルメタアクリレートなどのシリコン系モノマー、シロキサニル基とメタアクリレート基の間にウレタン結合、グリセリル基、ポリアルキレングリコール基など親水性基を有するもの、あるいはシロキサニル基の一部を末端ヒドロキシ基あるいはポリアルキレングリコール基で置換した親水性シロキサニルメタアクリレート、トリス(ジメチルトリフロロプロピルシロキシ)シリルプロピルメタアクリレートなどのフルオロシリコン系モノマー、2,2,2−トリフロロエチルメタアクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフロロプロピルメタアクリレート、ヘキサフロロイソプロピルメタアクリレートなどのパーフロロアルキル系モノマー、1,1,2,2−テトラフロロエトキシ−2−ヒドロキシプロピルメタアクリレートなどの水酸基を有するフロロアルキル系及びフロロアルキルエーテル系モノマー、エチレングリコールジメタアクリレート、テトラエチレングリコールジメタアクリレート、テトラメチルジシロキサンビス(プロピルメタアクリレート)などの架橋性モノマーなど共重合可能な化合物との共重合物がある。
【0059】
上記のコンタクトレンズは、上記モノマー及びマクロマーから選ばれた混合物に、熱、UV、電子線あるいは放射線などにより重合を開始する重合開始剤を添加して重合したポリマーから製造されることが好ましい。その目的に応じて染料、顔料、UV吸収剤などの添加物を加える事も可能である。
【0060】
上記のコンタクトレンズは、そのポリマーのミクロ構造、マクロ構造を本発明の目的に合うようにコントロールする為に、上記モノマーおよびマクロマーから選ばれた混合物にさらにモノマー混合物に可溶で、低級アルコールあるいは水に可溶の有機溶媒を0.2〜50重量%の範囲で添加する事ができる。これら有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコール、エトキシエタノール、グリセリン、ジメチルアセトアミド、ジメチルフォルムアミド、テトラヒドロフラン、リン酸アルキルエステル、ピロリドンなどが使用できる。
【0061】
上記のコンタクトレンズの重合自体は、従来のレンズ製造方法で使用する重合方法を利用でき、例えば、レンズの形状に相当する重合鋳型の中にモノマー混合物を注入して重合するキャスト法で製造できる。なお、キャスト重合で製造した後にレンズを鋳型から剥離し、レンズ表面をオゾン処理、プラズマ照射処理する事により表面特性特に水濡れ性などをさらに改良する事も可能である。例えば、具体的な例の1つとして、上記ポリシキサンマクロマーおよび親水性モノマーを含む混合物に重合開始剤を加え、本発明の鋳型に注入して加熱重合し、製造することができる。
【0062】
本発明の方法を適用することのできる樹脂鋳型について説明する。
【0063】
本発明の方法で用いる樹脂鋳型としては、ポリエステル樹脂が好適である。
【0064】
ポリエステル樹脂としては、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート共重合体、液晶ポリエチレンテレフタレレート、ポリアリレート、等が含まれる。これらのうち、特にポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート共重合体において、本発明の効果が顕著であるので、それらは好適な態様である。
【0065】
ポリトリメチレンテレフタレート及びその共重合体(以下「PTT」と略す)はトリメチレングリコールとテレフタル酸を主成分とするポリエステルであり、例えば特開平5−262862号公報、特開平8−311177号公報、特開2000−159875号公報などに記載されている。また、PTTの重合度を高め、成形性を改良したり、熱安定性を高める方法、低分子量の副生物の生成を抑制する方法などが開発され、高重合度で良好な熱安定性を有するPTTの製造方法が特表2002−543227号公報に記載され、再溶融しても低分子量副生物が少ない組成物とその製造方法が特開2003−119266号公報、および特開2003−155335号公報に記載され、安定した溶融成型が出来るポリマーチップが特開2003−73462号公報に記載され、熱安定性が高く、低分子量の副生物の生成が少ない組成物が特開2003−160648号公報、および特開2003−342356号公報に記載され、重合度が高く、色調に優れ溶融成型性に優れた製造方法が特開2004−269571号公報および特開2005−60528号公報に記載され、低分子量の副生物の生成を抑制する方法が特表2005−520896号公報および特表2005−520897号公報に記載されている。また、ポリトリメチレンテレフタレートの共重合体は特表2002−543227号公報カラム0036及び0039、特開2003−73462号公報カラム0014、特開2003−119266号公報カラム0012、特開2003−155335号公報カラム0010から0011、特開2003−160648号公報カラム0012から0013、特開2003−342356号公報カラム0017、特開2004−189977号公報カラム0009から0011、特開2005−60528号公報カラム0013等に記載されている。
【0066】
例えば、ポリトリメチレンテレフタレートの共重合モノマーとしては、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル−2,2’−ジカルボン酸、ビフェニル−3,3’−ジカルボン酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ビス(4,4’−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、3,5−ジカルボン酸ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボン酸ベンゼンスルホン酸トリブチルメチルホスホニウム塩などの塩、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジシクロヘキシルジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸類およびそれらのエステル誘導体類、並びにエチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、4,4’−ジシクロヘキシルヒドロキシメタン、4,4’−ジシクロヘキシルヒドロキシプロパン、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加ジオール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどのトリオール類などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
更に、本発明の方法で用いる樹脂鋳型は、これらPTTにその性質を大きく変えない範囲、例えば5〜30重量%の範囲内で他の熱可塑性樹脂たとえばポリエチレンテレフタレート、イオノマーなどを溶融混練したポリマーブレンド体も使用可能である。PTTは商業的にはサンデルタ株式会社製、商品名:サンビスロン、シェルケミカルズ社製、商品名:コルテラが知られている。これらのうち、サンビスロン A0120が射出成型性に優れ好ましい。
【0068】
液晶PETとしては、ポリエチレンテレフタレートとパラヒドロキシ安息香酸共重合体が知られており、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名:ノバキュレート、ユニチカ社製、商品名:ロッドランなどがある。
【0069】
ポリアリレートとしては、ビスフェノールAとフタル酸との共重合体が知られており、ユニチカ社製、商品名:Uポリマーなどがある。
【0070】
本発明の方法で使用する樹脂鋳型には、その目的により熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、滑剤、離型剤、顔料、フィラー、補強剤等を適宜添加することが出来る。
【0071】
本発明の方法で使用する樹脂鋳型は、その目的に応じてさまざまな形態のものが使用が可能であり、例えば特開昭52−117647号公報、特開昭62−297120号公報、特開平9−183132号、WO2004/039555公報に例示されているコンタクトレンズのキャスト重合用の鋳型、あるいは特開昭63−3910号公報、特表平8−505095号公報特許登録03726268号、特開2006-001286号に例示されている片面ないしは両面切削加工によりコンタクトレンズを製造する材料を重合する重合型などに使用が可能である。
【0072】
本発明の方法は、樹脂成形体と樹脂鋳型との密着性が高い成形体と樹脂鋳型との組み合わせに適用する場合に特に、その優れた効果を発揮することができる。具体的には、本発明の方法を適用することのできる好ましい組み合わせには、樹脂成形体として、上述の式(1):
【0073】
【化18】

で表される親水性ポリシロキサンマクロマー
[式中、R1、R2、R3、R4はメチル基であり、Xは上述の式(2):
【0074】
【化19】

で表される重合性置換基であり{式中、R5はメチル基、Z1は−NHCOO−または−OCONH−R−NHCOO−(Rは炭素数2〜13の炭化水素基)でありmは0〜10、nは3〜10、pはmが0のとき0であり、mが1以上のとき1である。qは0〜20の整数である。} 、構造Yが下記式で表される構造単位(Ic)、(IIc)及び(IIIc)が結合してなる。
【0075】
【化20】

(R19は親水性置換基であって、以下の式(9)または(10)式から選ばれる。
−C(OCOH (9)
−C(OCOCH (10)
(式中、c、dは1〜40である)。
【0076】
構造単位(Ic)、(IIc)及び(IIIc)の連結数の比率は((Ic)+(IIc)/(IIIc)=0.5〜100、(IIc)/(Ic)=0〜1であり、さらに(Ic)と(IIc)と(IIIc)の合計数は7〜1000である。)]
を40〜60重量部と、その他親水性及び疎水性モノマー 60〜40重量部とを混合して得られる重合液、および樹脂鋳型として、サンデルタ株式会社製ポリトリメチレンテレフタレート (サンビスロンTM A0120)のコンタクトレンズのためのキャスト重合用鋳型の組み合わせで作製されるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ等がある。
【0077】
本発明の方法で使用する超音波について説明する。
【0078】
本発明の方法では、樹脂鋳型の鋳型部に樹脂成形体を形成し、この樹脂鋳型に気相雰囲気下で超音波振動を与える。
【0079】
超音波振動の付与は、空気中、不活性気体(N、Ar等)中など気相中で行われ、雰囲気温度および気圧は特に制限は無いが、剥離工程においては、樹脂成形体や樹脂鋳型等の形状や性状に悪影響を与えたり、剥離に悪影響がない限り、通常室温であることが好ましい。樹脂成形体等や工程により変化することが出来、特に限定するものではないが、通常は0℃以上、好ましくは10℃以上、場合によっては20℃以上が例示される。上限としては、通常40℃以下が例示され、30℃以下が好ましい例として示される。本発明の超音波振動の付与は、例えば、市販の超音波ウエルダーを用いて行えるが、当該分野で一般的にホーンと呼ばれるツールを利用して、これを鋳型の少なくとも1部に所定の圧力で接するように配置することが、超音波振動を対象となる鋳型と成形体に効率よく伝えられるため好ましい。
【0080】
前述したホーンは、通常、その断面積が根元(超音波発生装置側)から先端にかけて細くなった形状を有し、その材料は、通常、ステンレス等金属である。ホーンの先端形状は一般的には平坦であるが、鋳型外面が曲面の場合には好ましくは、レンズ全体へ均一な振動付与を目的として鋳型構造に沿った球面とし、ホーンの先端が鋳型に当接できるようにする。このホーンの形状、大きさ(断面積)、鋳型へ接する圧力等を以下に説明する超音波条件と関連させて適宜調整することで成形体を破壊することなく界面の剥離を効率よく促進できることが見出された。
【0081】
本発明で使用する超音波は周波数16kHz以上40kHs以下(波長0.8〜2.1cm)のものとすることができる。超音波の振幅、エネルギー密度、伝達時間及びホーンを鋳型に接触させる圧力は、キズ、カケ等を形成することなく成形体を鋳型から剥離でき、且つ成形体を破損しないように適宜これらの条件を組み合わせればよい。これらの条件は、ホーンの材料、その形や大きさ、対象となる鋳型及び成形体の材料や形、構造、複数の鋳型からなる場合にはその組み合わせ状態等によって異なるが、コンタクトレンズのような成形体に対してその湾曲面全体に沿った断面の先端を有するホーンを用いた場合には、振幅50μm以下、エネルギー密度1200W/cm2以下、伝達時間5秒以下、圧力0.2MPa以下のものが使用可能で、剥離する成形体の破損を避けるためには、これら超音波の条件は、それぞれ周波数18〜30KHz、振幅5〜25μm、エネルギー密度200〜600W/cm2以、伝達時間0.5〜3秒、圧力0.05〜0.1MPaが好ましく、周波数19〜20KHz、振幅5〜10μm、エネルギー密度300〜400W/cm2、伝達時間0.5〜1秒、圧力0.05〜0.07MPaがさらに好ましい。
【0082】
以下、本発明についてコンタクトレンズを例にして詳細に述べるが、これに限られるものではない。
【0083】
本発明によれば、新規な剥離法は、気相中で超音波振動を好ましくは集中的に鋳型のレンズ曲面に付与する工程が含まれ、通常は、その後鋳型を開離する工程および開離された鋳型からレンズを引き剥がす工程が続く。超音波は、当該分野では一般的に知られていることであるが、先端を細くしたいわゆる超音波ホーンによりそのエネルギーを集中させることが可能である。本発明ではその集中された超音波振動をレンズが鋳型に密着している部分であってレンズとは反対側の面、すなわち直径15mm程度の曲面領域に与える。超音波は鋳型材料を通して鋳型材料とレンズ材料の界面にて剥離現象に寄与する。ただし、この剥離現象は鋳型の勘合にまで影響するほどの多大なものではないので、鋳型の外観上は目立った変化は見られない。しかしながら、その後の工程で、上型と下型が開かれた後、レンズを鋳型面から剥離する際、非常に容易にレンズが鋳型面から剥離され、かつ、レンズには無理に剥離された時に見られるキズは一切見られないか、または殆ど無視できる発生頻度である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0084】
成形体を樹脂鋳型から剥離する際に、前記鋳型を液体に浸漬させることなく、ホーンにより超音波振動を鋳型の成形体との接着部に集中的に付与して前記鋳型から成形体を剥離する剥離方法の実施例について、図面を参照しながら説明する。ただし、当該発明はこの実施例に制限されるものではない。
【0085】
図1において従来のキャスト重合によるレンズの製造工程(重合まで)を示す。下型1の内側湾曲面111にあらかじめ調合されたモノマー調合液aが滴下される。次に上型がかぶせられる。ここで余分なモノマー調合液aは下型1と上型2の鋳型内側湾曲面111と211で形成されるレンズ形状の空洞部3から周辺空間4へ押し出され余剰リングを形成する。その後、鋳型に入れられたモノマー調合液は加熱されポリマーへと重合硬化される。その後鋳型は剥離工程へと移され、レンズが取り出される。
【0086】
この剥離工程は、鋳型とレンズの剥離性により様々な方法が採られるが、例えば、その概略断面図を図3に示す。重合された鋳型を裏返し、下型湾曲部11の外側湾曲面112(凸面)に上方から超音波ウエルダー(図示せず)の超音波ホーン5を所定の圧力で当てる。該ホーンの先端には下型のレンズ部形状に沿った凹型湾曲面511が形成されていて、鋳型を通して鋳型とレンズの界面に超音波振動を付与する。その結果、鋳型部で鋳型とレンズの間に剥離現象を引き起こす。その後図2のように、鋳型周辺にある平坦部14,24の隙間に金属板Mなどが挿入される。金属板Mが下型平坦部14のエッジ15を支点として回転され、梃子の原理で下型1と上型2を引き剥がすいわゆる機械的分離が行われる。レンズは下型あるいは上型に付着しているので、エッジをピンセット等(図示せず)で把持したり、吸盤等(図示せず)に貼り付けて剥離する。
【0087】
本発明の別の実施形態の概略断面図を図4に示す。重合された鋳型の上型湾曲部21の外側湾局面212(凹面)に上方から超音波ウエルダー(図示せず)の超音波ホーン5’を所定の圧力で当てる。該ホーンの先端には上型のレンズ部形状に沿った凸型湾曲面511’が形成されていて、鋳型を通して鋳型とレンズの界面に超音波振動を付与する。その結果、鋳型部で鋳型とレンズの間に剥離現象を引き起こす。その後は、先の実施態様と同様に鋳型周辺にある平坦部の隙間に金属板などが挿入、回転され、梃子の原理で下型と上型を引き剥がすいわゆる機械的分離が行われる。レンズは下型あるいは上型に付着しているので、エッジをピンセット等で把持し剥離する。
【0088】
本発明の別の実施態様の概略断面図を図5に示す。上記図3に示す場合と同様に、下型湾曲部11の外側湾曲面112(凸面)に上方から超音波ウエルダー(図示せず)の超音波ホーン5を所定の圧力で当てる。該ホーンの先端には下型のレンズ部形状に沿った凹型湾曲面511が形成されている。上記図3に示す実施態様では、該ホーンの先端の曲面はレンズ部全体の形状に沿った形状及び大きさとなっているが、この実施態様では、該ホーン先端の曲面はレンズ部の一部のみを覆う形状及び大きさとなっている。該ホーン先端の表面積は、レンズ曲面の表面積の1〜80%程度にすることができる。この実施態様では、ホーン5を図5に示す矢印の方向に走査することにより、鋳型を通して鋳型とレンズの界面に超音波振動を付与する。超音波振動を付与した結果、鋳型部で鋳型とレンズの間に剥離現象を引き起こす。その後の操作は、図3に示す実施態様で説明したものと同様にすることができる。この実施態様では、レンズの破損を防止する等のために超音波の振幅、エネルギー密度、圧力および伝達時間の組み合わせを適宜調節する。一般的には、超音波の振幅、エネルギー密度および圧力を図3に示す実施態様での場合よりも小さくする一方で、総伝達時間は長くし、走査により伝達される超音波エネルギーの総量が図3に示す場合と同程度になるようにすればよい。また、ホーンの走査中に振幅などを変更して伝達する超音波振動に意図的な分布を与えることも出来る。この実施態様を採用することにより、より細やかな振動条件を設定できるという利点がある。
【0089】
本発明の別の実施態様の概略断面図を図6に示す。上記図4に示す場合と同様に、重合された鋳型の上型湾曲部21の外側湾局面212(凹面)に上方から超音波ウエルダー(図示せず)の超音波ホーン5’を所定の圧力で当てる。該ホーンの先端には上型のレンズ部形状に沿った凸型湾曲面511’が形成されている。上記図4に示す実施態様では、該ホーンの先端の曲面はレンズ部全体の形状に沿った形状および大きさとなっているが、この実施態様では、該ホーン先端の曲面はレンズ部の一部のみを覆う形状及び大きさとなっている。該ホーン先端の表面積は、レンズ曲面の面積の1〜80%程度にすることができる。この実施態様では、ホーン5’を図6の矢印の方向に走査することにより、鋳型を通して鋳型とレンズの界面に超音波振動を付与する。超音波振動を付与した結果、鋳型部で鋳型とレンズの間に剥離現象を引き起こす。その後の操作は、図4に示す実施態様で説明したものと同様にすることができる。この実施態様でも、レンズの破損を防止する等のために超音波の振幅、エネルギー密度、圧力および伝達時間の組み合わせを適宜調節する。一般的には、超音波の振幅、エネルギー密度および圧力を図4に示す実施態様での場合よりも小さくする一方で、総伝達時間は長くし、走査により伝達される超音波エネルギーの総量が図4に示す場合と同程度になるようにすればよい。この実施態様でも、ホーンの走査中に振幅などを変更して伝達する超音波振動に意図的な分布を与えることもできる。この実施態様を採用することにより、やはり細やかな振動条件を設定できるという利点がある。
【0090】
上記図5に示す実施態様の変形例の概略断面図を図7に示す。図7の実施態様では、ホーン5を走査するのではなく、概略同じ形状のホーンを複数本同時に鋳型の凸型湾曲面511に当てるものである。この変形例を採用することにより、超音波振動に意図的な分布をもたせた伝達を行いながら図5の例に比べて作業時間の短縮が可能という利点がある。
【0091】
上記図6に示す実施態様の変形例を図8に示す。図8の実施態様では、ホーン5’を走査するのではなく、ホーン5’の先端を数本に分岐させ、これらの先端を鋳型の凹型湾曲面511’に当てるものである。この変形例を採用することにより、図7と同じように超音波振動に意図的な分布をもたせた伝達と図6に比べて作業時間の短縮を両立させるという利点がある。
【0092】
(超音波ホーンの作製例)
以下実施例1から3にて使用するための超音波ホーン105を図9(正面図)の様に作製した。本体は、概略円筒形状をしているが、正確には最も太い上部A部からやや細い中央部B部になだらかに接続し、さらに先端の最も細い先端部Cへと移行している。上部A部の直径は34.0mm、中央部B部の直径は25.6mm、先端部C部の直径は17.0mmである。上部A部から中央部B部へは、角度にして約160°で移行し最後はなめらかに接続されている。B部からC部へ移行する部分は端面から1.5mmのところから斜め45°に角をとる、機械設計分野で一般的に呼ばれるC面取りを施す。先端部Cの端部には鋳型の下型湾曲部に沿わせるため、図10にその拡大図(一部)に示す様な凹型湾曲部が形成されている。凹面半球の曲率半径は9.4mmで開口部は直径14.7mmの円形である。ホーンの上部Aの上端には、Aに設けられた雄ネジの底部に当接するまでねじ込まれたネジ部Dが設けられている。ホーン本体材質はアルミニウムである。ネジ部は鋼である。このネジ部によりウェルダー本体(図示せず)に取り付けることができる。
【実施例1】
【0093】
WO 2006/026474に記載の方法に従って分子量15,000の親水性シロキサニルマクロマーM3Uを合成した。
【0094】
上記親水性シロキサニルマクロマー49重量部、N−ビニルピロリドン22重量部、N−ビニル−フォルムアミド11重量部、ヒドロキシブチルメタアクリレート11重量部、イソボルニルメタアクリレート6.7重量部、トリアリルイソシアヌレート0.1重量部のモノマー調合液にエトキシエタノール30重量部を加え、これに重合開始剤アゾビスバレロニトリル0.6%を添加し重合液とした。一方、サンデルタ株式会社製PTT樹脂(商品名サンビスロン型番A0120)をアーブルグ社製射出成形機(型式270型、型締め力50トン、シリンダー径25mm、最大射出容量49ml)を用いて直径30mm、湾曲部厚さ約2〜2.5mmのコンタクトレンズのためのキャスト重合用鋳型を成形した(シリンダー温度245℃、ノズル温度240℃、金型温度100℃で、射出速度、保圧力を適宜調整した。)。これを3組用意し、これに前述の重合液を注入し、80℃で1時間加熱して重合した。重合した鋳型に対して、超音波ホーンの作製例にある超音波ホーンを装着した超音波ウェルダー(精電舎電子工業製Σ1200)で図3に示すように下記条件により下型側から超音波振動を空気中(室温、常圧)で付与した。
周波数 19.15kHz
圧力 0.1MPa
振幅 60%
時間 1秒
その後、図2に示す様な機械的分離が行われ、その後、レンズはそのエッジを先端が丸いピンセットで把持され、剥離が実施された。得られたソフトコンタクトレンズは直径13.2mm(エッジ部は除く)、厚み0.1mm、内面曲率9mmであった。全てのレンズは良好に剥離された。
【0095】
これらのレンズをさらにニコン社製拡大投影機により20倍に拡大して観察した。
全てのレンズは、キズ、カケもほとんど無い良好なレンズが作製されていることが確認された。
【実施例2】
【0096】
実施例1と同様に合成したシロキサニルマクロマーM3U 49重量部、N−ビニルピロリドン22重量部、N−ビニル−フォルムアミド5.6重量部、N−ビニル−N−メチル−アセトアミド5.6重量部、ヒドロキシブチルメタアクリレート11重量部、イソボルニルメタアクリレート6.7重量部、トリアリルイソシアヌレート0.1重量部のモノマー調合液にエトキシエタノール30重量部を加え、これに重合開始剤アゾビスバレロニトリル0.6%を添加し、PTT樹脂(サンデルタ株式会社製 サンビスロンTM A0120)製のコンタクトレンズのためのキャスト重合用鋳型を3組用意し、これに注入し、80℃で1時間加熱して重合した。重合した鋳型に対して、実施例1と同様に、超音波ホーンの作製例にある超音波ホーンを装着した超音波ウエルダー(精電舎電子工業製Σ1200)で下記条件により下型側から超音波振動を空気中(室温、常圧)で付与した。
周波数 19.15kHz
圧力 0.07MPa
振幅 50%
時間 1秒
その後、実施例1と同様に、機械的分離、レンズエッジからの剥離が行われた。全てのレンズは良好に剥離された。
【0097】
これらのレンズをさらにニコン社製拡大投影機により20倍に拡大して観察した。
【0098】
全てのレンズは、キズ、カケもほとんど無い良好なレンズが作製されていることが確認された。
【実施例3】
【0099】
実施例1と同様に合成したシロキサニルマクロマーM3U 54重量部、N−ビニルピロリドン20重量部、N−ビニル−フォルムアミド5重量部、N−ビニル−N−メチル−アセトアミド5重量部、ヒドロキシブチルメタアクリレート10重量部、イソボルニルメタアクリレート6重量部、トリアリルイソシアヌレート0.1重量部のモノマー調合液にエトキシエタノール30重量部を加え、これに重合開始剤アゾビスバレロニトリル0.6%を添加し、PTT樹脂(サンデルタ株式会社製 サンビスロンTM A0120)製のコンタクトレンズのためのキャスト重合用鋳型を3組用意し、これに注入し、80℃で1時間加熱して重合した。重合した鋳型に対して、実施例1と同様に、超音波ホーンの作製例にある超音波ホーンを装着した超音波ウエルダー(精電舎電子工業製Σ1200)で下記条件により下型側から超音波振動を空気中(室温、常圧)で付与した。
周波数 19.15kHz
圧力 0.07MPa
振幅 40%
時間 1秒
その後、実施例1と同様に、機械的分離、レンズエッジからの剥離が行われた。全てのレンズは良好に剥離された。
【0100】
これらのレンズをさらにニコン社製拡大投影機により20倍に拡大して観察した。
【0101】
全てのレンズは、キズ、カケもほとんど無い良好なレンズが作製されていることが確認された。
【0102】
(比較例)
実施例1と同じようにシロキサニルマクロマーを合成し、モノマー調合液を調整しエトキシエタノール、重合開始剤を添加し実施例1と同ように2組のPTT樹脂製鋳型に注入し、同じ条件で重合した。重合後、超音波振動を付与しないことを除き実施例1と同様に機械的分離、レンズエッジからの剥離が行われた。
【0103】
2枚中2枚のレンズで剥離中に中心部に裂けが発生した。
【0104】
これらのレンズをさらにニコン社製拡大投影機により20倍に拡大して観察した。
【0105】
2枚中2枚のレンズ全面に直径数ミクロンから数十ミクロンの大きさで星状の形状をしたいわゆる剥離キズが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】従来のキャスト重合によるレンズの製造工程(重合まで)を説明する概略断面図
【図2】鋳型の剥離を説明する概略断面図
【図3】本発明による鋳型に超音波振動付与を説明する概略断面図
【図4】本発明による別の超音波振動付与を説明する概略断面図
【図5】本発明による別の超音波振動付与を説明する概略断面図
【図6】本発明による別の超音波振動付与を説明する概略断面図
【図7】本発明による超音波振動付与の変形例を説明する概略断面図
【図8】本発明による超音波振動付与の変形例を説明する概略断面図
【図9】本発明の実施例で使用した超音波ホーンの正面図
【図10】図9の超音波ホーン先端部の拡大正面図
【符号の説明】
【0107】
1 下型
2 上型
11 下型湾曲部
111 下型の内側湾曲面
112 下型の外側湾曲面
21 上型湾曲部
211 上型の内側部湾曲面
212 上型の外側湾曲面
3 レンズ形状空洞部
4 周辺空間
5 超音波ホーン
511 超音波ホーン凹型湾曲面
5’ 別の実施例による超音波ホーン
511’ 別の実施例による超音波ホーン凸型湾曲面
a モノマー調合液
M 剥離用金属板
105 超音波ホーン
A 超音波ホーン上部
B 超音波ホーン中央部
C 超音波ホーン先端部
D 超音波ホーンネジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂鋳型から樹脂成形体を剥離する方法であって、該樹脂鋳型の鋳型部には樹脂成形体が形成されており、該樹脂鋳型に気相雰囲気下で超音波振動を与える工程を含む剥離方法。
【請求項2】
鋳型部に樹脂成形体が形成されている樹脂鋳型に気相雰囲気下で超音波振動を与え該樹脂鋳型から該樹脂成形体を剥離する工程を含む樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
樹脂鋳型の樹脂が親水性であり、その鋳型部で親水性の樹脂成形体が硬化反応で得られるものである請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
樹脂成形体の樹脂が、シリコーンマクロマー及び親水性モノマーを含有する混合物をキャスト重合して得られるものであり、樹脂鋳型の樹脂が、ポリエステルから選択されるものである請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
樹脂成形体が、眼内レンズ又はコンタクトレンズである、請求項2又は3又は4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
超音波振動が、該樹脂鋳型の少なくとも一部に接する部材を介して与えられる請求項2ないし5のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−49480(P2008−49480A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−224953(P2006−224953)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(390031015)旭化成アイミー株式会社 (8)
【Fターム(参考)】