説明

橋梁押出し架設工法

【課題】橋桁に発生するたわみを抑制しながら架設することができる橋桁の押出し架設工法を提供すること。
【解決手段】第1の橋桁と第2の橋桁との端部が、所定の間隔をあけて対向する所定位置まで、第1の橋桁と第2の橋桁とを両側から順次接合しながら押出す。第1の橋桁と第2の橋桁との橋面上には、所定の間隔をあけて橋軸方向に対の止め具を取り付け、この対の止め具間を接続した緊張材に緊張力を導入する。この緊張力により、橋軸方向に作用する圧縮力を橋桁に作用させて、第1の橋桁と第2の橋桁との端部の変位を抑制し、前記第1の橋桁と前記第2の橋桁とを閉合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は橋梁の押出し架設工法に係り、特に押出し橋桁の先端部に発生する撓みを低減して橋桁の架設の精度を高めるようにした橋梁押出し架設工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種橋梁形式や架橋地点の条件等に適した橋梁の様々な架設工法が提案され、実施されている。その中でも、押出し架設工法は、橋脚間にベントの設置が困難である場合など、桁下空間の使用が制限される場合等に一般に用いられている。
【0003】
図4は、従来の押出し架設工法によりプレストレストコンクリート(以下PCとする)製の橋桁が架設されている様子を示した側面図である。また、図5は、図4中で示した“V”部の拡大図を示している。
橋桁50を構成する橋桁ブロック(本明細書では橋桁50を破線で区切った個々の部位をブロックと呼ぶ。)は、図4の両サイド(いわゆる起点側、終点側の両方。本明細書では、図中左側を起点側とする。)に示した製作ヤード70で製作する。そして、製作した橋桁ブロックに、順次隣接する橋桁ブロックを公知の接合手段で連結して、橋桁50を形成していく。このように所定スパンの橋桁50を構成し、自走台車62や橋脚天端に設置された押出し装置63により図中矢印で示した方向に橋桁50を順次押出す。そして、押出したそれぞれの橋桁50を、橋脚60上やベント61上に設置されたローラ64を介して送り出し、中央径間Lに張り出した状態で所定の間隔L1をあけて架設する。次に、この間隔L1からなる空間に、鉄筋工等の工程を経た後コンクリートを打設して閉合し、一連の橋桁50を構成する。このような押出し架設工法を採用することで、道路75等の交差物件に支障をきたすことなく、橋桁50を架設することができる。
【0004】
しかしながら、中央径間Lにおいて張出した橋桁50は、図5に示すように、下側に撓み、隣接する橋桁50同士を精度良く取り合わせることが難しい場合があった。特に、橋桁50の張り出し長が大きい場合には、橋桁50の撓みも大きくなり、完成時の出来形精度の確保が難しかった。一般にこのような自重による撓みを考慮して、橋桁50を予め上げ越して(キャンバーを付加して)製作することが行なわれるが、押出し架設工法の特性上、橋桁50の縦断あるいは横断方向を直線あるいは単Rに設定することが好ましいため、製作時にキャンバーを付加することが難しい。
【0005】
特許文献1には、対向する橋桁端部に互いに凹凸嵌合する雌雄ガイドキーを配置して、橋桁を押出してこの雌雄ガイドキーを嵌合させることで、接続する橋桁同士の中心軸を自動的に一致することができるとする発明が記載されている。
【特許文献1】特開2005−163409公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された発明では、張出した橋桁50の撓みが大きい場合には、雌雄ガイドキーを嵌合させることが困難となる。そのため、雌雄ガイドキーを嵌合することができない場合には、橋脚等にジャッキを配置して橋桁50を持ち上げなければならない。しかし、橋桁の張り出し量が大きい場合は、橋桁端面を合わせるのには相当量のジャッキアップが必要となり、作業量も多くなる。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、橋桁に発生する撓みを低減しながら架設することができる橋梁押出し架設工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る押出し架設工法は、第1の橋桁と第2の橋桁とを両側から順次接合しつつ押出し、該第1の橋桁と第2の橋桁とを閉合架設する橋梁押出し架設工法において、前記第1の橋桁および前記第2の橋桁の中立軸より上方に、橋軸方向に作用する圧縮力を導入して、該第1の橋桁,第2の橋桁の押出し時に端部に生じる撓みを低減して前記第1の橋桁と前記第2の橋桁とを閉合することを特徴とする。
【0009】
また、上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る押出し架設工法は、橋桁ブロックを順次接合しつつ押出して所定箇所に架設する橋梁押出し架設工法において、前記橋桁の中立軸より上方に、橋軸方向に作用する圧縮力を導入して、該橋桁の先端部の撓みを低減し、該橋桁の先端部を押出し先位置の下部構造に到達させることを特徴とする。
【0010】
前記橋桁の橋面上に所定の間隔をあけて一対の止め具を取り付け、前記一対の止め具間を緊張材で接続し、前記緊張材に緊張力を導入して、前記圧縮力を導入してもよい。
【発明の効果】
【0011】
以上のように本発明によれば、押し出し時に橋桁に発生する撓みを低減させて、高精度に橋桁を架設することができる架設工法を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る押出し架設工法により架設されている橋桁の張り出し部に着目した側面図である。本実施形態に係る押出し架設工法の大部分の工程は、図4をもとに説明した従来の架設工法と同様であるため、上述した説明と異なる点を中心に説明する。
図に示すように、両サイドから押出されたそれぞれの橋桁10は、その端面を対向するように、橋脚20から張り出した状態で架設されている。それぞれの橋桁10先端付近の橋面上には第1の止め具11aが取り付けられており、この第1の止め具11aから所定の間隔をあけて第2の止め具11b(以下、第1の止め具11aと第2の止め具11bとを区別しない場合は、止め具11と記す)が橋面上に取り付けられている。そして、第1の止め具11aと第2の止め具11bとには、両者を接続するワイヤ12が取り付けられている。
【0013】
図2は図1中の矢視II-IIで示した橋桁の断面斜視図を示している。図に示すように、第1の止め具11a、第2の止め具11b、及び両者を接続するワイヤ12は、橋軸方向に沿って2列、橋面上に設置されている。止め具11は、ベースプレート11cと、ベースプレート11cに溶接されPCケーブルが定着するケーブル定着部11dとから構成されており、止め具11はアンカーボルト11eにより橋面上に固定されている。ケーブル12は、例えばPC鋼より線から構成されている。ケーブル12には、所定の緊張力を導入し、ケーブル12の両端部に備えた図示しない定着具を介して、第1の止め具11aと第2の止め具11bとを接続する。
【0014】
以上の構成により、張出し状態にある橋桁10に発生する撓みは、ケーブル12に導入した緊張力により低減される。これは、ケーブル12に導入した緊張力の作用位置(定着位置)が、橋桁10の中立軸の位置から離れていることによって付加された曲げモーメントに起因する。
【0015】
このように、張出し状態にある橋桁10の撓みを低減することで、隣接する橋桁10同士を容易に取り合わせることができる。そして、ケーブル12に緊張力を導入した状態で閉合部に鉄筋工等の施工を行ない、さらにコンクリートを打設して橋桁10を閉合する。次に、閉合部に打設したコンクリートが所定の強度を発揮するまで養生期間を設けた後、ケーブル12の緊張状態を開放して止め具11を橋面から取り外す。
【0016】
なお、ケーブル12に緊張力を導入する時期については、橋桁10の押出し時に既に導入しておいてもよいし、あるいは橋桁10の閉合作業の直前に導入してもよい。いずれにしても、ケーブル12に導入する緊張力による橋桁10に発生する断面力の増分を、橋桁10の設計に反映させておく必要がある。
【0017】
以上のように本発明に係る押出し架設工法を用いると、橋面上に取り付けた止め具11を介してケーブル12に緊張力を導入することで、張出し状態となった橋桁10の撓みを低減して、隣接する橋桁10同士を容易に取り合わせることが可能となる。特に、止め具11aを橋桁10の先端付近に取付けているため、橋桁10先端部の調整が非常に容易である。また、ケーブル12に導入する緊張力を調整することで、所定の出来形精度を確保することができる。
【0018】
上述した実施形態では、張出し状態となった橋桁10の撓みを低減して、隣接する橋桁10同士を取り合わせたり、出来高精度を確保する目的でケーブル12に緊張力を導入したが、以下に示す他の実施形態であっても本発明の効果を享受することができる。
図3は、本発明の他の実施形態に係る押出し架設工法(図中矢印方向に押出す)により架設されている橋桁の張出し部に着目した側面図である。本実施形態では、鋼製のトラスからなる手延機15が、橋桁10の先端に取り付けられている。手延機15は、いち早く隣接する橋脚20等の下部構造に到達することで、橋桁10が橋脚20から張出した状態を減らし橋桁10に作用する断面力を低減する目的で用いられる。本実施形態では、手延機15上に止め具11aが、橋桁10の橋面上に止め具11bが取り付けられ、これらの間をケーブル12が接続する構成となっている。
【0019】
このような構成により、手延機15が下方に垂れさがり橋脚20上に到達できないおそれがある場合に、ケーブル12に緊張力を導入して手延機15を上方に変位させることで、手延機15を橋脚20上に到達させることができる。
なお、本実施形態では、橋桁10の先端に手延機15を設置した場合について説明したが、手延機15を設置しない場合には、橋桁10の先端付近に止め具11aを取り付け、緊張材12に緊張力を導入して橋桁10の先端部を上方に変位させることで、橋桁10を橋脚20上に到達できるようにしてもよい。
【0020】
本発明は上述した実施形態に限られず、様々な変形及び応用が可能である。上述した実施形態では、橋面に2列のケーブル12を配したが、これは一例を示したに過ぎず、橋桁10の撓みを低減するために必要な力等をもとにして、適切なケーブル12の本数を設定するのがよい。また、止め具11も橋桁10の中立軸上方でケーブル12を定着することができる構造であればよく、上述した構造に限定するものではない。
【0021】
また、上述した実施形態では、PC桁からなる橋桁について説明してきたが、当然ながら鋼桁について採用しても、本発明の効果を享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る押出し架設工法により架設されている橋桁の張り出し部に着目した側面図。
【図2】図1中の矢視II−IIで示した橋桁の断面斜視図。
【図3】本発明の他の実施形態に係る押出し架設工法により架設されている橋桁の張出し部に着目した側面図。
【図4】従来の押出し架設工法により橋桁が架設されている様子を示した側面図。
【図5】図4中で示した“V”部の拡大図。
【符号の説明】
【0023】
10,50 橋桁
11a,11b 止め具
12 ケーブル
15 手延機
20,60 橋脚
30,75 道路
70 製作ヤード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の橋桁と第2の橋桁とを両側から順次接合しつつ押出し、該第1の橋桁と第2の橋桁とを閉合架設する橋梁押出し架設工法において、
前記第1の橋桁および前記第2の橋桁の中立軸より上方に、橋軸方向に作用する圧縮力を導入して、該第1の橋桁,第2の橋桁の押出し時に端部に生じる撓みを低減して前記第1の橋桁と前記第2の橋桁とを閉合することを特徴とする押出し架設工法。
【請求項2】
橋桁ブロックを順次接合しつつ押出して所定箇所に架設する橋梁押出し架設工法において、
前記橋桁の中立軸より上方に、橋軸方向に作用する圧縮力を導入して、該橋桁の先端部の撓みを低減し、該橋桁の先端部を押出し先位置の下部構造に到達させることを特徴とする押出し架設工法。
【請求項3】
前記橋桁の橋面上に所定の間隔をあけて一対の止め具を取り付け、前記一対の止め具間を緊張材で接続し、前記緊張材に緊張力を導入して、前記圧縮力を導入することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の橋梁押出し架設工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−37833(P2010−37833A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202855(P2008−202855)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】