説明

機器のバーンイン方法およびシステム

【課題】非試験機器を分解する必要性を軽減、さらにはなくす簡単なバーンイン工程を確保したま、先行技術と比較して簡略化された、温度変化速度を向上させるための手段を提供する。
【解決手段】恒温槽の温度上昇および/または下降に関する少なくとも1つの遷移を含むサイクルにより機器を恒温槽に通す工程を含む、送風を具備する機器のバーンイン方法において、恒温槽の温度遷移の少なくとも一部分の間、機器への送風を切ることを特徴とする方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器、特に航空電子機器などの機器のバーンイン(熱衝撃試験)方法およびシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
バーンインは、生産工程においてシステムの潜在的欠陥を引き起こすことを目的とする。したがって、電子分野においては、欠陥は主に溶接の構成部品(プリント回路も含む)およびプリント回路への構成部品の接続の次元に位置するものである。
【0003】
バーンインは、振動、衝撃強度におけるバーンイン、温度バーンインなど、様々な物理的現象に関連することがある。本発明は熱サイクル運転による温度バーンインに関する。
【0004】
熱サイクル運転によるバーンインの効果における優位な要因の1つは温度変化時の温度変化速度である。この変化速度は機器の構成部品に対して有効でなければならない。
【0005】
先行技術は、急激な温度変化を機器に印加するために高性能な恒温槽を使用するというものである。
【0006】
簡単に言えば、恒温槽は加熱システムと冷却システムとを搭載した等温閉容器である。加熱システムは従来のように電気抵抗を基本とするものである。
【0007】
冷却システムは2種類、すなわち、冷却ユニット、蒸発器およびコンデンサを含む冷却機、ならびに、恒温槽に液体窒素を注入し恒温槽の窒素を気化する方式のシステムが存在し得る。
【0008】
従来の恒温槽の温度変化速度が2℃/分であるのに対し、いわゆるVRT(高速温度変化)恒温槽の場合、温度変化速度は10℃/分から始まり、きわめて特殊な機械の場合には60℃/分にまで達することがある。
【0009】
ただ、問題は機器を構成する要素にこれらの温度変化を直接印加することが不可能であることである。
【0010】
実際、恒温槽の温度変化は、恒温槽の空気と機器との間の熱交換により機器に反映される。
【0011】
したがって原理的には、熱交換が存在するためには、機器を取り囲む空気は機器とは異なる温度でなければならない。差が大きければ大きいほど熱交換も大きくなる。第2の物理的現象は、熱量を保存することにより温度変化に対抗する機器の熱慣性である。
【0012】
これら2つの現象が組み合わさった結果、恒温槽の温度変化と機器の温度変化との間にずれが生じ、また変化勾配の減衰が生じる。
【0013】
したがって、ある所与の恒温槽かつある所与の温度変化速度の場合、機器の慣性が大きければ大きいほど、熱交換は少なくなり機器の温度変化速度は小さくなる。
【0014】
機器レベルにおける温度変化速度の追従を向上させるためには熱交換を向上させる必要があり、従来、3つの解決方法が実施されている。
【0015】
第1に、電子基板を機器の空気に直接接触させる方法が知られているが、この場合、基板を直接接触させるために機器を部分的に分解する必要がある。
【0016】
これには、機器の熱慣性が減少する、基板の熱交換が促進される、という2つの長所がある。
【0017】
次に、もし機器への送風が行なわれている場合には、この送風量を増加させる方法が知られている。この方法の唯一の長所は、空気と電子基板または機器との間の熱交換が促進されることである。
【0018】
最後に第3の方法は、基板または機器のレベルで得ようと思う変化速度よりもはるかに高い温度変化能力を有する恒温槽を使用することである。
【0019】
これら3つの方法は併用することができるものの、たとえ熱交換が完璧であっても、依然として、機器の構成要素は恒温槽の温度変化に追従できない。
【0020】
したがって到達可能温度の変化速度は恒温槽の温度変化速度以下である。実際には大きな差が存在するので恒温槽をきわめて大型にしなければならない。
【0021】
さらにバーンインは機器の製造工程の終了時に行われるので機器は完全に組み立てられているため、機器のハウジング内の基板のレベルにおいて主に対流により行われる熱交換が容易に行われない。
【0022】
基板を恒温槽の空気に直接接触させるために機器を開くか分解する方法が知られているが、その方法だと、分解/再組立作業に関して大幅なコスト増が生じ、操作時の基板の劣化にともなうリスクがある。またそれは物流に関する影響もある。
【0023】
送風流量を増加させた場合でも、機器内の温度変化への影響は恒温槽の設定値よりもはるかに低いままである。
【0024】
冷気をつくるために液体窒素を使用する特殊な恒温槽を使用する場合、適切な熱交換を行うためには基板を露出することを余儀なくされる。
【0025】
製造工程への影響の他にも、これらの恒温槽が大量に窒素を消費することにともなう仕入および運用コストは大きな欠点となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、非試験機器を分解する必要性を軽減、さらにはなくす簡単なバーンイン工程を確保したまま、先行技術と比較して簡略化された、温度変化速度を向上させるための手段を提供することを目的とする。
【0027】
本発明は、機器側から見た場合、遷移が一瞬にして行われるよう、高温から低温への移行および低温から高温への移行の時間を一時停止することになるという原理に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
これを実現するために本発明は、恒温槽の温度上昇および/または下降に関する少なくとも1つの遷移を含むサイクルにより機器を恒温槽に通す工程を含む、送風を具備する機器のバーンイン方法であって、恒温槽の温度遷移の少なくとも一部分の間、機器への送風を切ることを特徴とする方法を提供する。
【0029】
有利には、前記遷移の終了時に機器への送風を再起動する。
【0030】
機器は、送風されていない時には恒温槽との熱交換はほとんどないため、恒温槽は自身の遷移をする時間がある。したがって、送風が再起動されると、既に温度が変化した空気が機器を通過するが、機器の温度はほとんど変わらない。
【0031】
有利には、機器への送風を強制的に行うために機器への送風の通常流量よりも高い流量で送風を再起動する。
【0032】
本発明の第1の実施形態によれば、サイクルは少なくとも1つの高温ステージを有する。この場合、前記高温ステージは、この場合好ましくは80℃程度の温度である。
【0033】
本発明の代替的または補完的実施形態によれば、サイクルは少なくとも1つの低温ステージを有する。この場合、前記低温ステージは−40℃程度の温度である。
【0034】
高温ステージから始まる場合には、有利には、機器への送風を切断してから温度下降を開始し、恒温槽の温度と機器の温度の最大差が得られるまで切断を継続する。
【0035】
低温ステージから始まる場合には、有利には、機器への送風を切断してから温度上昇を開始し、恒温槽の温度と機器の温度の最大差が得られるまで切断を継続する。
【0036】
後者の場合、有利には、機器の内部温度の上昇を回避するために、温度上昇前および温度上昇中においては機器への電源を切る。
【0037】
同じく本発明によれば、恒温槽に部分的に充填するために、移行に関して、恒温槽が一杯である時に到達する最大性能に等しい恒温槽設定値が適用されるのが有利である。
【0038】
本発明のその他の特徴および長所は、図面を添付した以下の説明を読むことにより明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】送風停止の有無による温度上昇および下降の比較を示す、時間の経過にともなう温度変化を示す第1のグラフ図である。
【図2】時間の経過にともなう温度変化速度、ならびに送風停止の有無による温度勾配の変化を示す第2のグラフ図である。
【図3】多回数温度上昇および下降サイクルバーンインプロセスの例を示す第3のグラフ図である。
【図4】被試験機器が内部に配置される恒温槽の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明は熱サイクルによる電子カードまたは機器のバーンインに適用される。
【0041】
図4は、機器への送風機器13に接続された制御回路12を具備する本発明による方法の一環としての恒温槽を示している。
【0042】
制御回路は恒温槽のサイクル運転の設定値に応じて送風機器13を運転させ、サイクル運転の設定値を含むコントローラ14により制御される。
【0043】
バーンインサイクルVRTは少なくとも1つの高温ステージおよび1つの低温ステージを有する。民生航空機器の場合、80℃までの上昇および−40℃までの下降を有するサイクルは一般的であり、本発明のために提供される例はこの範囲内にある。
【0044】
図1は時間の経過にともなう温度変化のグラフを示す。
【0045】
この図では:
− 恒温槽1の設定温度を実線で、
− 先行技術におけるような送風の停止がない機器2の温度を点線で、
− 送風の停止がある機器3の温度を一点鎖線で、
示してある。
【0046】
本発明によれば、すなわち高温ステージから始まる場合、すなわち図1の例においては、−5分から0分の間、機器への送風を切断してから温度下降を開始する。
【0047】
図1の参照番号1の恒温槽の温度降下は5分程度の時間で行われる。
【0048】
送風停止時間は恒温槽温度降下速度および機器の慣性に応じて調節されるが、その様子は曲線3に示してあり、その曲線の上方に小さな第1の温度降下勾配3.1が見える。実際、機器は送風されていないが、機器の温度は降下する。
【0049】
恒温槽温度と機器温度の間の差が最大になると送風の再起動が行なわれるが、これはすなわち曲線3の線分3.1と3.2の間の屈曲点に相当する。
【0050】
送風が再起動されると、機器への送風が作動したままになっている曲線2の場合よりも強い勾配により、機器温度はきわめて急速に降下する。
【0051】
すると勾配は線分3.2の大部分においてきわめて急峻な部分を含み、それは空の恒温槽の遷移勾配に近い。
【0052】
上昇時においては45分後、遷移開始時に送風を切る。
【0053】
送風の切りの間、若干の上昇3.3が見られ、次にこの送風の再起動時に急勾配曲線3.4が見られる。
【0054】
この場合、電子構成部品に電源が供給された時にこれらの部品の熱散逸によって生じる内部温度の上昇の問題を回避するために、温度上昇前および温度上昇中においては機器には電源を供給しない方が有利であり、そうすることにより温度上昇3.3が減少、さらには消失する。
【0055】
実際、恒温槽が−40℃の時には、機器からエネルギーが散逸するので、電子構成部品は高温ではなくなる。
【0056】
送風は行ったままで機器の電源を切ることにより、機器の温度は−40℃に戻る。
【0057】
最終チェック項目はバーンインの再現性である。実際、恒温槽の性能はその負荷によって異なる。この負荷は機器の生産速度にともなって変化する。恒温槽の負荷の大小に関わらず適切な再現性を確保するための方法は、恒温槽が一杯になった時に到達する最大性能に等しい(上昇および下降における)恒温槽設定値を適用することである。恒温槽は、ほぼ空になると、一杯であった時と同じ設定値に従う。
【0058】
例に使用する恒温槽は、無負荷時に20℃/分の温度変化に到達する仕様になっている。
【0059】
温度下降時および上昇時に機器への送風が起動されると、下降および上昇曲線2は、恒温槽の設定勾配の半分から1/4程度の勾配を有するということがわかる。
【0060】
送風が切られると、曲線3のように遅延が投入されるが、勾配ははるかに急峻であり、これらの漸近部分以外のところでは設定勾配に近い。
【0061】
曲線は機器内の温度の平均値に相当する。
【0062】
このように本発明による方法は構成部品の温度変化に影響を及ぼしていることがわかる。また、送風の停止に関連付けられた時間的ずれにより、勾配をより急峻にすることができることもわかる。
【0063】
図2のグラフは時間の経過にともなう温度変化の速度を示すものであり、点線の曲線4は時間の経過に応じて送風が変化する機器の場合を、一点鎖線の曲線5は遷移時に送風が停止する機器の場合を示す。
【0064】
このグラフ上では、送風の停止によって生じる遅延は、特に、曲線部分5.1および5.4において明らかにされている。送風の再起動は、曲線5の部分5.2および5.5の急激な変化によって明らかにされている。
【0065】
反対に、送風が維持されている機器の場合の曲線4上では、機器の温度変化速度の変動はより少なくかつより減衰されており、温度が変化する時間はほぼ2倍になり、最大変化量はほぼ1/2になっている。
【0066】
こうすることにより、本発明の方法により、機器への送風の制御以外の追加費用の必要なく、恒温槽によって生じる温度変化を被試験機器によりよく反映させることが可能になる。
【0067】
応力は機器に加えられ、温度変化速度によって異なるが、同じレベルの応力の場合、性能が低い恒温槽、すなわち有意に安価な恒温槽を使用することができる。
【0068】
反対に、高性能な恒温槽を用いた場合、本発明を用いることなく現在市販されている最も高性能な恒温槽で加えることができる応力と同等の高い応力を加えることができる。
【0069】
図3の既知のサイクル運転例の場合のように、機器に20℃/分の温度変化を加える必要がある具体的な実施例を想定した場合、本発明の方法により、機器を分解することなく従来の恒温槽を使用することが可能になる。
【0070】
したがって、高性能な恒温槽を使用する必要がないため、恒温槽の最適化をはかることができる。
【0071】
変化速度をさらに向上させるためには、送風を再起動する際に本方法をさらに本格的に行う必要がある。
【0072】
本発明は図示例に限定されるものではなく、特に、異なる温度閾値を含むサイクルに適用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 恒温槽
2 先行技術におけるような送風の停止がない機器
3 送風の停止がある機器
3.1 第1の温度降下勾配
3.2 線分
3.3 若干の上昇
3.4 急勾配曲線
4 時間の経過に応じて送風が変化する機器の場合
5 遷移時に送風が停止する機器の場合
5.1、5.4 送風の停止によって生じる遅延
5.2、5.5 送風の再起動


【特許請求の範囲】
【請求項1】
恒温槽の温度上昇および/または下降に関する少なくとも1つの遷移を含むサイクルにより機器を恒温槽に通す工程を含む、送風を具備する機器のバーンイン方法において、恒温槽の温度遷移の少なくとも一部分の間、機器への送風を切ることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記遷移の終了時に機器への送風を再起動することを特徴とする請求項1に記載のバーンイン方法。
【請求項3】
機器への送風を強制的に行うために機器への送風の通常流量よりも高い流量で送風を再起動することを特徴とする請求項2に記載の機器のバーンイン方法。
【請求項4】
サイクルが少なくとも1つの高温ステージを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の機器のバーンイン方法。
【請求項5】
前記高温ステージが80℃程度の温度であることを特徴とする請求項4に記載の機器のバーンイン方法。
【請求項6】
サイクルが少なくとも1つの低温ステージを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の機器のバーンイン方法。
【請求項7】
前記低温ステージが−40℃程度の温度であることを特徴とする請求項6に記載の機器のバーンイン方法。
【請求項8】
高温ステージから始まり、機器への送風を切断してから温度下降を開始し、恒温槽の温度と機器の温度の最大差が得られるまで切断を継続することを特徴とする、請求項4に記載の機器のバーンイン方法。
【請求項9】
低温ステージから始まり、機器への送風を切断してから温度上昇を開始し、恒温槽の温度と機器の温度の最大差が得られるまで切断を継続することを特徴とする請求項6に記載の機器のバーンイン方法。
【請求項10】
機器の内部温度の上昇を回避するために、温度上昇前および温度上昇中においては機器への電源を切ることを特徴とする請求項6または9に記載の機器のバーンイン方法。
【請求項11】
恒温槽の温度サイクル運転の設定値を含むコントローラ(14)により機器への送風を制御することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の機器のバーンイン方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−526688(P2011−526688A)
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515558(P2011−515558)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051202
【国際公開番号】WO2010/004165
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(509265313)エアバス オペラシオン(エス.ア.エス) (20)
【Fターム(参考)】