説明

機器内の固体ウラン測定装置

【課題】検出器設置空間が狭隘であっても、極低線量で複数核種が存在する条件で、機器内に存在している固体ウランの識別及び線量測定を外部から簡便に行えるようにする。
【解決手段】被測定機器の近傍に設置されるγ線検出器10と、その検出信号を伝送する光ケーブル12と、検出信号を分析・演算処理する信号処理装置14とを具備している。γ線検出器は、電極で挟まれた化合物半導体からなる薄板状の検出器母材を複数枚積層して1系統分の検出素子26とし、それを複数並置して複数系統の検出要素28とし、各系統毎にプリアンプ30を設置して検出信号を得る構造である。信号処理装置は、各系統毎に検出信号を増幅するメインアンプ32と、増幅したパルス信号を波高分析処理してウラン235に起因するγ線を計測する波高分析部34と、計測結果を加算して信号強度をウラン量に換算する加算処理部36と、その結果を表示する表示部38とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心機などの機器内に存在している固体ウランの量を外部から簡便に測定できる小型の測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス遠心分離法のウラン濃縮施設では、多数の遠心機が狭小間隔で配列され、配管で相互接続されてカスケードを構成している。このような施設において、遠心機群の運転に伴って、各遠心機内に固体ウランがどの程度の量、存在しているかなどについてモニタリングできれば、システムの安全性や運転効率などの面で有用な情報が得られることになる。しかし、この種の遠心機内に存在している固体ウラン量は一般にかなり少なく、しかも遠心機の周囲には高感度の大型検出器を設置するような余分なスペースは殆どない。
【0003】
ところで、極低線量で且つ複数核種が存在する条件での、核種識別及び線量測定などを目的とするγ線測定のためには、従来、エネルギー分解能が高く、計数効率も高いGe結晶を検出器母材とした半導体検出器が用いられている。しかし、Ge結晶を用いた検出器は、液体窒素や電気的手段によりGe結晶を冷却しつつ測定する必要があるため、測定時にはGe結晶を冷却装置と結合させなければならない。Ge検出器の冷却の必要性並びに液体窒素による冷却設備に関しては、例えば特許文献1などに記載がある。このように、付設する冷却機構のためにγ線検出装置が大型化し、測定現場において検出装置の設置空間を確保できないことがあった。特に、ガス遠心分離法のウラン濃縮施設では、多数の遠心機が狭小間隔で配列され、配管などで相互接続されているため、γ線検出装置が大型だと、その設置空間を確保することができない問題があった。
【特許文献1】特開平11−153672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、検出器設置空間が狭隘であっても、極低線量で複数核種が存在する条件で、遠心機などの機器内に存在しているウラン235の識別及び線量測定を外部から簡便に行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、被測定機器の近傍に設置されるγ線検出器と、その検出信号を伝送するケーブルと、伝送されてきた検出信号を分析・演算処理する信号処理装置とを具備し、前記γ線検出器は、電極で挟まれた化合物半導体からなる薄板状の検出器母材を複数枚積層して1系統分の検出素子とし、該検出素子を複数並置して複数系統の検出要素を形成し、該検出要素の各系統毎にプリアンプを設置して独立に検出信号を出力させる構造であり、前記信号処理装置は、各系統毎の検出信号を独立に増幅するメインアンプと、各メインアンプで増幅したパルス信号をそれぞれ独立に波高分析処理してウラン235に起因するγ線を計測する波高分析部と、それぞれの計測結果を加算して信号強度をウラン量に換算する加算処理部と、その結果を表示する表示部とからなることを特徴とする機器内の固体ウラン測定装置である。
【0006】
ここでγ線検出器は、Pt電極とIn電極で挟まれたCdTeからなる薄板状の検出器母材を3〜7枚積層して1系統分の検出素子とし、その検出素子を2〜6個並置して並置数に対応した系統数の検出要素を形成し、該検出要素の検出器母材重ね合わせ面がγ線飛来方向と平行になるようにプリアンプと共に検出器筐体内に組み込まれる。検出要素の数が多すぎると、装置が複雑になるしコストアップとなるため、より好ましくは3〜4個程度とするのがよい。各プリアンプ間には電磁シールドが施されている構造が好ましい。なお、波高分析部は、ウラン235に起因する185.7keVのγ線に対応し且つバックグラウンドを除去するため、185.7keVの中心チャンネルと、その上側チャンネルと下側チャンネルの計測値を求めるものである。
【0007】
本発明に係る測定装置が測定対象とする機器は、典型的にはガス遠心法のウラン濃縮施設における遠心機であるが、その他、原子力関連施設で固体ウランが蓄積される、あるいは蓄積される恐れがある機器や配管などもある。
【発明の効果】
【0008】
本発明で用いるγ線検出器は、検出器母材としてバンドギャップが大きく高密度で高原子番号の化合物半導体を使用し、電極間の検出器母材を薄板状としたことにより、常温で測定可能なため冷却装置が不要であり、小型化と高エネルギー分解能を両立させることができる。また、肉厚の薄い検出器母材を、電極を介して複数枚積層することで、γ線入射面積をかせぎ、しかもγ線と反応し生じた電子と正孔が高い割合で電極まで到達するため高いエネルギー分解能を維持することができる。更に本発明は、検出器母材を複数枚積層した検出素子を複数並置して複数系統の検出要素とし、各系統毎にプリアンプを設置して独立に検出信号を出力させる構造なので、検出要素の静電容量を制限しノイズレベルを抑制することができ、しかも十分に大きなγ線入射面積を得ることができる。
【0009】
また、各系統毎の検出信号を独立に増幅して波高分析処理した後、それぞれの波高分析処理結果を加算するように構成しているので、それによってもS/Nが向上する。波高処理部は、全体のスペクトルを計測するのではなく、ウラン235に起因するγ線の計測に特化しているので、回路構成は簡素化され、安価に製作できる。
【0010】
これらによって、本発明に係る機器内の固体ウラン測定装置は、γ線検出器が小型化できるため、従来の大型Ge検出器では測定できなかった狭隘な測定現場におけるγ線測定が可能となり、ガス遠心法のウラン濃縮施設における遠心機内に存在している固体ウランなど極低線量で複数核種が存在する条件でもウラン235の識別及び線量測定を行うことが可能となる。
【0011】
また、γ線検出器が小型のため、被測定機器に対してγ線検出器を移動させたり、測定方向を変えたりすることも可能であり、複数個配列して測定することも可能となり、γ線源の可視化に利用することも可能になる。
【実施例】
【0012】
図1は本発明に係る機器内の固体ウラン測定装置の一実施例を示すブロック図である。この測定装置は、被測定機器の近傍に設置される(例えば遠心機の場合は、その端板の斜め上側に、該遠心機に向けて設置するのが好ましい)γ線検出器10と、その検出信号を光通信で伝送する光ケーブル12と、伝送されてきた検出信号を分析・演算処理する信号処理装置14とからなる。
【0013】
γ線検出器の要部の詳細を図2に示す。Aは検出要素であり、Bは検出素子の断面を表している。Pt電極20とIn電極22で挟まれたCdTeからなる薄板状の検出器母材24を5枚積層して1系統分の検出素子26を構成する。このような検出素子26を4個並置して4系統の検出要素28とする。この検出要素28は、検出器母材重ね合わせ面がγ線飛来方向と平行になるようにプリアンプと共に検出器筐体内に組み込まれる。
【0014】
ここで薄板状の検出器母材は、それぞれ10mm×10mm×0.5mm(厚さ)の大きさで、それを5枚積層したものが1系統分となり、4系統分を並置することで10mm×10mm×10mmの実効体積となる。吸収長(検出器母材の長さに対するγ線の吸収割合)を考慮して、γ線入射方向の検出素子寸法(奥行き寸法)を10mm程度に設定することで、ウラン235に起因する185.7keVのγ線の吸収割合を90%以上となるようにし、しかも検出器母材の肉厚を薄く(典型的には0.5mm程度)することで検出器母材内でγ線と反応し生じた電子と正孔が高い割合で電極まで到達することになり、それらによって、高いエネルギー分解能を得ることが可能となり、適切な計数効率が得られることになる。また検出器母材を積層・並置することで、10mm×10mm程度の十分大きなγ線入射面積を確保して感度を向上させている。
【0015】
更に、検出器母材にバンドギャップの大きな化合物半導体を用いることで、常温での測定を可能(冷却装置が不要)とし、プリアンプも内蔵させた状態で、検出器筐体の全長を15cm程度に小型化できるため、被測定機器である遠心機の周囲に設置することが可能となる。
【0016】
各系統の検出素子26の出力は、それぞれ対応するプリアンプ30に個別に入力し、信号の増幅、S/Nの改善、インピーダンス整合などが行われる。検出素子での信号の減衰やS/Nの劣化を抑えるため、プリアンプ30は検出素子26の直近に配置され、それらは検出器筐体内に収められる。本発明では検出器母材として半導体を使用しており、半導体検出器では検出素子の静電容量が印加電圧によって変化するので、プリアンプにはその影響を受けない電荷有感型のプリアンプ(チャージ・センシティブ・アンプ)を用いている。このような構成で、各プリアンプからは対応する各系統毎に独立に検出信号が出力する。対応する各系統毎に独立に検出信号を出力させるように構成することで、各検出素子における検出器母材の積層枚数を適切にし静電容量を制限してノイズレベルを抑制する。
なお、系統間のクロストークを防ぐため、プリアンプ30間に電磁シールド31を施している。
【0017】
前述のように、γ線検出器10と信号処理装置14との間の信号の伝送は、電磁的な外乱を抑制するため、光ファイバケーブル12による光通信で行っている。
【0018】
信号処理装置14は、各系統毎の検出信号を独立に増幅するメインアンプ32と、各メインアンプで増幅したパルス信号をそれぞれ独立に波高分析処理してウラン235に起因するγ線を計測する波高分析部34と、それぞれの計測結果を加算して信号強度をウラン量に換算する加算処理部36と、その結果を表示する表示部38とからなる。
【0019】
各メインアンプ32は、各系統毎のプリアンプ出力に対して、それぞれ個別にパルス処理を行う。具体的には、パルス波高の増幅、S/Nの改善などの処理であり、直線性に優れた線形アンプ(スペクトロスコピー・アンプ)を用いる。各メインアンプ32で増幅されたパルス信号は、対応する波高分析部34で、それぞれ独立に波高分析処理される。波高分析部34では、メインアンプ32からのパルス信号の波高値(アナログ量)をADC(アナログ−デジタル変換器)でデジタル量(ch単位)に高速変換する。ここでは、波高分析部34は、ウラン235に起因する185.7keVのγ線に対応する計数値を得るものであり、185.7keVの中心チャンネルと、それに対して下側チャンネルと上側チャンネルのデータメモリに計数値が累積される。下側チャンネルと上側チャンネルの計数値は、バックグラウンドの算出などに用いられる。このように本発明装置では固体ウランのみの計測機能を具備していればよく、スペクトルとしては計測する必要はない。そのため、信号処理装置も大幅に簡素化できる。
【0020】
加算処理部36では、最終的に4系統の3チャンネル(185.7keVの中心チャンネルと、その下側チャンネル及び上側チャンネル)での累積計数値を加算する。これによって、バックグラウンドを除去してウラン235に起因する185.7keVのγ線の信号強度を求める。このようにして得られる信号強度は、ウラン量との間に相関(両対数グラフで直線性)があることから、それを利用してウラン量に換算し、表示部38でウラン量を表示させる。なお、信号強度の校正は、別途、高感度Ge検出器などを利用してを行えばよい。
【0021】
本発明で用いているγ線検出器(1系統分)の有効性を確認するため、遠心機内のウラン線源量を測定した結果(エネルギースペクトル:パルス波高分布)を図3に示す。測定対象核種はウラン235であり、そのγ線のエネルギーは185.7keVである。ここでは、γ線検出器としての有効性を示すため、計測したスペクトルを示している。Aは遠心機内のウラン量が少ない場合、Bは遠心機内のウラン量が多い場合である。図3から、ウラン235のγ線である185.7keVの信号が得られる(ウラン235のγ線がバックグラウンドと識別して計測できる)と共に、機器内の固体ウラン内包量に応じた強度が得られることが確認できた。
【0022】
図4は、天然ウラン量と信号強度の相関を示すグラフである。両対数グラフでプロットすると、ウラン量と信号強度とは直線性がある。本発明は、この相関を利用しており、それによって信号強度からウラン量を求めている。
【0023】
以上、遠心機内に存在している固体ウランの測定を例にとって説明したが、本発明は、原子力関連施設内での機器や配管に内包されている固体ウランの量の測定に使用できることは言うまでもない。また、検出器が小型化できることから、複数の検出器を配置して測定したり、移動して測定することで、固体ウランの分布状況を可視化することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る機器内の固体ウラン測定装置の一実施例を示すブロック図。
【図2】そのγ線検出器の要部の詳細図。
【図3】γ線検出器で得られたスペクトルの例を示す説明図。
【図4】信号強度と天然ウラン量との相関を示す説明図。
【符号の説明】
【0025】
10 γ線検出器
12 光ファイバ
14 信号処理装置
20 Pt電極
22 In電極
24 検出器母材
26 検出素子
28 検出要素
30 プリアンプ
32 メインアンプ
34 波高分析部
36 加算処理部
38 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定機器の近傍に設置されるγ線検出器と、その検出信号を伝送するケーブルと、伝送されてきた検出信号を分析・演算処理する信号処理装置とを具備し、
前記γ線検出器は、電極で挟まれた化合物半導体からなる薄板状の検出器母材を複数枚積層して1系統分の検出素子とし、該検出素子を複数並置して複数系統の検出要素を形成し、該検出要素の各系統毎にプリアンプを設置して独立に検出信号を出力させる構造であり、前記信号処理装置は、各系統毎の検出信号を独立に増幅するメインアンプと、各メインアンプで増幅したパルス信号をそれぞれ独立に波高分析処理してウラン235に起因するγ線を計測する波高分析部と、それぞれの計測結果を加算して信号強度をウラン量に換算する加算処理部と、その結果を表示する表示部とからなることを特徴とする機器内の固体ウラン測定装置。
【請求項2】
γ線検出器は、Pt電極とIn電極で挟まれたCdTeからなる薄板状の検出器母材を3〜7枚積層して1系統分の検出素子とし、その検出素子を2〜6個並置して並置数に対応した系統数の検出要素を形成し、該検出要素の検出器母材重ね合わせ面がγ線飛来方向と平行になるようにプリアンプと共に検出器筐体内に組み込まれ、各プリアンプ間には電磁シールドが施されている請求項1記載の機器内の固体ウラン測定装置。
【請求項3】
波高分析部は、ウラン235に起因する185.7keVのγ線に対応し且つバックグラウンドを除去するため、185.7keVの中心チャンネルと、その上側チャンネルと下側チャンネルの計測値を求めるものである請求項1又は2記載の機器内の固体ウラン測定装置。
【請求項4】
被測定機器がガス遠心法のウラン濃縮施設における遠心機である請求項3記載の機器内の固体ウラン測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−229257(P2009−229257A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75371(P2008−75371)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】