説明

機械式継手

【課題】非磁性の機械式継手において、高い機械式的強度を得ることを目的とする。
【解決手段】非磁性の金属からなる鉄筋を連結する機械式継手であって、非磁性のステレンス鋼からなり、端部が開口し、鉄筋3が挿入される貫挿孔1aを備えた略筒状のスリーブ1と、スリーブ1の貫挿孔1a内に挿入された鉄筋3に対し、スリーブ1からかかる応力を緩衝する緩衝材4とを有する。鉄筋3は、スリーブ1の貫挿孔1a内に圧着して取り付けられ、緩衝材4は少なくとも、鉄筋3が挿入される貫挿孔1aの開口端部近傍において、貫挿孔1aを形成するスリーブ1の内周面と、鉄筋3の外周面との間に挟み込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非磁性の金属材料からなる鉄筋を連結する機械式継手に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建造物の建造にあたって、建造物の補強のために鉄筋が利用されている。また、鉄筋を連結するために各種の継手が用いられている。
現在、広く市場に供給されている機械式継手は、必要とされる強度や材料費、製造時における加工のしやすさなどの観点から、鉄を主材としたものが主流である。
【0003】
しかしながら、鉄筋は様々な建造物に用いられるため、利用される環境も多岐にわたっている。そのため、例えば、磁場に対する影響が懸念されるような環境下などでは、鉄などの磁性体を主材としたものを用いるのは好ましくない。
【0004】
この点、特許文献1では、ステンレス鉄筋母材を熱接合してなるステンレス鉄筋継手であって、酸化スケールと母地との界面における固溶Cr濃度:80〜13.5%を含有し、残部は鉄及び不可避不純物からなるステンレス鉄筋継手が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−90456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら今のところ、非磁性の金属材料からなる鉄筋を連結する機械式継手は提供されていない。
この点、本願発明者らは、非磁性の金属材料からなる鉄筋をステンレス製のスリーブによって連結する機械式継手を製造したが、スリーブの貫挿孔に挿入された鉄筋は、この貫挿孔の開口端部付近で破断しやすく、材料として用いている金属が本来発揮し得るはずの疲労強度を得ることができなかった。
【0007】
発明者らが検討したところ、このように非磁性の金属材料からなる鉄筋が破断してしまったのは、鉄筋及びスリーブの材料として用いた金属の硬度や、スリーブの貫挿孔の開口端部付近における非磁性鉄筋への応力集中と微細な傷などに原因があるらしいことが分かった。
【0008】
そこで、本発明は、非磁性の金属材料からなる鉄筋を連結する機械式継手において、鉄筋に対する応力集中を防いで、高い機械的強度を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る機械式継手は、非磁性の金属からなる鉄筋を連結する機械式継手であって、非磁性のステレンス鋼からなり、端部が開口し、上記鉄筋が挿入される貫挿孔を備えた略筒状のスリーブと、上記スリーブの貫挿孔内に挿入された鉄筋に対し、上記スリーブからかかる応力を緩衝する緩衝材と、を有し、上記鉄筋は、上記スリーブの貫挿孔内に圧着して取り付けられ、上記緩衝材は少なくとも、上記鉄筋が挿入される貫挿孔の開口端部近傍において、上記貫挿孔を形成するスリーブの内周面と、上記鉄筋の外周面との間に挟み込まれることを特徴とする。
【0010】
なお、本発明において、非磁性の金属と言ったときには、必ずしも厳密な非磁性を要求するものではなく、低磁性のものも含む。さらにここで言う低磁性とは、磁性が好ましくない、本発明に係る機械式継手が利用される環境において、当該環境に対する磁性の影響を無視できる、あるいは磁性の影響が許容される範囲の磁性を意味する。
また、本発明の別の観点に係る機械式継手は、非磁性の金属からなる鉄筋を連結する機械式継手であって、非磁性のステレンス鋼からなり、端部が開口し、上記鉄筋が挿入される貫挿孔を備えた略筒状のスリーブと、上記スリーブの貫挿孔内に挿入された鉄筋に対し、上記スリーブからかかる応力を緩衝する緩衝剤と、を有し、上記鉄筋は、上記スリーブの貫挿孔内に圧着して取り付けられ、上記緩衝剤は少なくとも、上記鉄筋が挿入される貫挿孔の開口端部近傍において、上記貫挿孔を形成するスリーブの内周面、あるいは上記鉄筋の外周面に塗装されることを特徴とする。
【0011】
また、上記ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼であるものとしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スリーブの貫挿孔の開口端部付近における応力集中を防ぐことができる。その結果、繰り返し応力が加えられても鉄筋3が破断しにくく、高い疲労強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る機械式継手の構造を示す一部断面図である。
【図2】本実施形態に係る機械式継手において、鉄筋を連結する工程を示す部分透視図である。
【図3】本実施形態に係る機械式継手の構造を示す一部断面図である。
【図4】本発明の別の実施形態に係る機械式継手において、鉄筋を連結する工程を示す部分透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。
図1に示されるように、本実施形態に係る鉄筋の機械式継手は、略筒状のスリーブ1、ボルト2、及び緩衝材4から構成される。
【0015】
スリーブ1は、略円筒形状からなり、一端側を構成する鉄筋挿入部11と、他端側を構成するボルト螺合部12とから構成される。
また、スリーブ1は、両端が開口し、一端側開口部から鉄筋が挿入される貫挿孔1aを有している。
このスリーブ1の貫挿孔1aは、鉄筋挿入部11内に形成された鉄筋挿入孔11aと、ボルト螺合部12内に形成されたボルト螺合孔12aとからなる。
【0016】
鉄筋挿入部11内に形成された鉄筋挿入孔11aは、内周面が平滑で、鉄筋3の直径と略同じ径を有し、開口部から鉄筋3が挿入される。
この鉄筋挿入部11には、鉄筋3を連結する際、外周面から径方向内側に押圧力を加える塑性加工が施され、これにより、緩衝材4が巻き付けられた鉄筋3がスリーブ1の内周面に圧着されている。
【0017】
一方、ボルト螺合部12は予め、鉄筋挿入部11と同じ径から塑性加工によって縮径されており、鉄筋挿入部11よりも僅かに径が小さい。
このボルト螺合部12内に形成されたボルト螺合孔12aの内周面には、雌ネジが形成されている。このボルト螺合孔12aには、外周面に雄ネジが形成されたボルト2が螺合する。
【0018】
以上の形状からなるスリーブ1は、ステンレス鋼からなり、例えば、JIS鋼種記号SUS304やSUS305、SUS316などのオーステナイト系の非磁性のステンレス鋼がより好適に用いられる。
なお、本発明の実施においては、スリーブ1が示す磁性は出来る限り抑制されることが好ましく、塑性加工によって磁性を帯びない金属材料がある場合には、上記に例示した金属材料によらず、当該金属材料を用いてもよい。
【0019】
また、ボルト2は、外周面に雄ネジが形成された円柱状の部材である。
このボルト2は、スリーブ1と同じステンレス鋼からなる。
【0020】
ボルト2の外径は、スリーブ1のボルト螺合孔12aの径に対応しており、ボルト2は、内周面に雌ネジが形成されたボルト螺合孔12aに螺入させることができる。
さらに、ボルト2の軸心方向の長さは、ボルト螺合孔12aの長さの約2倍であり、一端側を一のスリーブ1のボルト螺合孔12aに螺入させると共に、他端側を他のスリーブ1のボルト螺合孔12aに螺入させることにより、鉄筋3が挿入されたスリーブ1同士を連結することができる。
【0021】
鉄筋3は、外周面に凹凸状のリブが形成された異形鉄筋であり、非磁性の金属からなるが、特に言及がない限り、本発明の実施における非磁性の概念には低磁性が含まれ、したがって非磁性の鉄筋3には低磁性のものも含まれる。
【0022】
緩衝材4は、スリーブ1の貫挿孔内1aに挿入された鉄筋3に対し、スリーブ1からかかる応力を緩衝するシート状の部材である。
この緩衝材4には例えば、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、ポリエステル系樹脂等を用いることができ、より具体的にはこれらの樹脂を用いたゴム、テープ、熱収縮チューブなどを利用することができる。そのほか、緩衝材4には、スリーブ1から鉄筋1にかかる応力を緩衝できる限り、布テープなども用いることができる。
【0023】
以上の構成からなる機械式継手によって鉄筋3を連結する工程を、図2を参照して説明する。
まず、スリーブ1を二つ用意し、各スリーブ1の鉄筋挿入孔11aに鉄筋3を挿入する。この際、予め鉄筋3の外周面に緩衝材4を巻き付けておく。
【0024】
そして、鉄筋挿入孔11aに鉄筋3が挿入された二つのスリーブ1を、ボルト螺合孔12aの開口端部を向かい合わせにし、夫々のボルト螺合孔12aに、ボルト2の一端側あるいは他端側を螺合させる。
【0025】
さらに、鉄筋挿入孔11a内に鉄筋3が挿入された鉄筋挿入部11を、外周面から径方向内側に向かって押圧し、塑性加工を施す。押圧によって鉄筋挿入孔11aは縮径し、緩衝材4を挟んで、鉄筋挿入孔11aの内周面と鉄筋3とが圧着する。
【0026】
これにより、緩衝材4が、上記貫挿孔を形成するスリーブの内周面と、上記鉄筋の外周面との間に挟み込まれた状態で、二つのスリーブ1夫々の鉄筋挿入孔11aに鉄筋3が圧着する。また、スリーブ1がボルト2によって連結されて、二本の鉄筋3が連結される。
【0027】
なお、緩衝材4は、必ずしも鉄筋3全体に巻き付ける必要はなく、少なくとも図3に示されるように、鉄筋3の外周面のうち、鉄筋3をスリーブ1の貫挿孔1aに挿入した際、鉄筋3が挿入される鉄筋挿入孔11の開口端部近傍にあたる箇所に巻き付けられていればよい。
【0028】
本実施形態に係る機械式継手によれば、少なくとも、鉄筋3の外周面のうち、鉄筋3をスリーブ1の貫挿孔1aに挿入した際、応力が集中しやすい、鉄筋3が挿入される鉄筋挿入孔11aの開口端部近傍にあたる箇所において、スリーブ1による鉄筋3の締め付けが緩く、応力が分散する。その結果、当該箇所における、スリーブ1から鉄筋3にかかる応力の集中を防ぐことができ、スリーブ1から鉄筋3に応力が繰り返し又は継続的にかかった場合でも、鉄筋3が破断しにくく、高い疲労強度が実現される。
なお、緩衝材4を、鉄筋3が挿入される鉄筋挿入孔11aの開口端部近傍のみに巻き付けた場合、鉄筋3に対する締め付けは、緩衝材4が巻き付けられていない鉄筋挿入孔11aの奥側の部分に対して、緩衝材4が巻き付けられている鉄筋挿入孔11aの開口側の部分のほうが緩やかである。そのため、鉄筋挿入孔11aの奥から開口端部に向かって、鉄筋3に対する締め付けが緩やかとなるため、応力の集中をさらに防ぐことができる。
【0029】
また、本発明の別の実施形態によれば、図4に示されるように、予め鉄筋の外周形状に応じた挿通孔51を備えた筒状の緩衝材5を用いてもよい。
この緩衝材5は、緩衝材4と同様に各種の樹脂等によって構成され、鉄筋5を挿通させるための挿通孔51と、緩衝材5が、スリーブ1の貫挿孔1aの奥に入り込み過ぎてしまうのを防ぐ鍔部51を備えている。
【0030】
緩衝材5を用いて、スリーブ1に鉄筋3を挿し込む際には、先にスリーブ1の鉄筋挿入孔11aに緩衝材5を挿し込み、鉄筋挿入孔11aの内周面を緩衝材5で覆ってから、鉄筋3を鉄筋挿入孔11aに挿し込んでもよいし、鉄筋3を緩衝材5の挿通孔51に挿し込むことによって鉄筋3の外周面を緩衝材5で覆った後、緩衝材5と共に鉄筋3をスリーブ1の鉄筋挿入孔11aに挿し込んでもよい。
【0031】
鉄筋3をスリーブ1の鉄筋挿入孔11aに挿し込む際には、緩衝材5の鍔部51が鉄筋挿入孔11aの開口縁部に引っ掛かるため、緩衝材5が鉄筋挿入孔11aに入り込み過ぎるのを防ぐことができる。これにより、鉄筋挿入孔11aの開口端部において、鉄筋挿入孔11aの内周面と鉄筋3との間に緩衝材5を挟み込ませることができる。また、鉄筋3をスリーブ1の鉄筋挿入孔11aに挿し込んだ状態においても、鍔部51によって、緩衝材5が鉄筋挿入孔11aに入り込み過ぎるのを防ぐことができる。
本実施形態によれば、スリーブ1の鉄筋挿入孔11aに鉄筋3を挿入する際、緩衝材5がずれにくく、確実に鉄筋挿入孔11aと鉄筋3との間に緩衝材5を挟みこむことができる。また、緩衝材4を鉄筋3に巻き付ける場合に比べ、スリーブ1の鉄筋挿入孔11aに緩衝材5を挿し込んだりするだけでよいので、手間がかからず便利である。
【0032】
なお、以上の本実施形態に係る機械式継手では、スリーブ1やボルト2は、非磁性のステンレス鋼からなるものとしたが、これに限らず、応力によって強く帯磁するものでなければ、他の非磁性の金属材料を用いることもできる。
【0033】
また、以上の本実施形態に係る機械式継手では、一対のスリーブ1とボルト2により、鉄筋3を連結するものとしたが、例えば、両端に鉄筋3を挿入するための開口部が形成された貫挿孔を有した円筒形状からなるスリーブにより、2本の鉄筋3の端部を夫々、一端側又は他端側の開口部から挿入し、これを外周面から押圧することにより、鉄筋と機械式継手とを圧着させるものとしてもよい。この場合には、一対の鉄筋3に対し、当該スリーブの両開口端部において、緩衝材4を巻き付けたり、緩衝材5を取り付けたりすればよい。
【0034】
以上の本実施形態では、貫挿孔1aを形成するスリーブ1の内周面と、鉄筋3の外周面との間にシート状の緩衝材4あるいは緩衝材5を挟み込むものとしたが、別の実施形態では、鉄筋3の外周面、あるいは、貫挿孔1aを形成するスリーブ1の内周面に緩衝剤を塗装するようにしてもよい。
この場合の緩衝剤は例えば、エポキシ系樹脂塗料、ウレタン系樹脂塗料、シリコーン系樹脂塗料、ポリサルファイド系樹脂、ポリエステル系樹脂塗料などの樹脂塗料である。
このような緩衝剤を用い、鉄筋3をスリーブ1に挿入する前に、鉄筋3の外周面、あるいは、貫挿孔1aを形成するスリーブ1の内周面に樹脂塗装を施しておくことで、当該塗装面に塗膜が形成され、緩衝材4、5を用いた場合と同様に、スリーブ1から鉄筋3にかかる応力を緩衝することができる。
なお、このような緩衝剤を用いる場合にも、上述した緩衝材4、5を用いる場合と同様、鉄筋3の外周面のうち、鉄筋3をスリーブ1の貫挿孔1aに挿入した際、鉄筋3が挿入される鉄筋挿入孔11の開口端部近傍にあたる箇所に緩衝材を塗装するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 スリーブ
1a 貫挿孔
11 鉄筋挿入部
11a 鉄筋挿入孔
12 ボルト螺合部
12a ボルト螺合孔
2 ボルト
3 鉄筋
4 緩衝材
5 緩衝材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性の金属からなる鉄筋を連結する機械式継手であって、
非磁性のステレンス鋼からなり、端部が開口し、上記鉄筋が挿入される貫挿孔を備えた略筒状のスリーブと、
上記スリーブの貫挿孔内に挿入された鉄筋に対し、上記スリーブからかかる応力を緩衝する緩衝材と、を有し、
上記鉄筋は、上記スリーブの貫挿孔内に圧着して取り付けられ、
上記緩衝材は少なくとも、上記鉄筋が挿入される貫挿孔の開口端部近傍において、上記貫挿孔を形成するスリーブの内周面と、上記鉄筋の外周面との間に挟み込まれる、
ことを特徴とする機械式継手。
【請求項2】
非磁性の金属からなる鉄筋を連結する機械式継手であって、
非磁性のステレンス鋼からなり、端部が開口し、上記鉄筋が挿入される貫挿孔を備えた略筒状のスリーブと、
上記スリーブの貫挿孔内に挿入された鉄筋に対し、上記スリーブからかかる応力を緩衝する緩衝剤と、を有し、
上記鉄筋は、上記スリーブの貫挿孔内に圧着して取り付けられ、
上記緩衝剤は少なくとも、上記鉄筋が挿入される貫挿孔の開口端部近傍において、上記貫挿孔を形成するスリーブの内周面、あるいは上記鉄筋の外周面に塗装される、
ことを特徴とする機械式継手。
【請求項3】
上記ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼である、
請求項1又は2記載の機械式継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−83118(P2013−83118A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224752(P2011−224752)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(396016504)株式会社富士ボルト製作所 (21)
【Fターム(参考)】