説明

機械振動出力装置及び動作方法

【課題】体性感覚を操作することと視覚情報の提示を組み合わせて、使用者の運動中に、任意の身体部位に運動感覚の不整合感を誘発させることを課題とし、それを実現する装置を提供する。
【解決手段】肢運動検出手段11が使用者200の肢が運動していることが検出すると、機械振動刺激生成部31は、所定の振動出力時間を設定して機械的な振動のパターンを生成し、そのパターンに基づく信号を機械振動刺激手段32から出力する。肢位置検出手段12によって使用者200の肢の位置が検出され、その位置の検出によって所定の表示時間を設定して肢位置提示手段41が、使用者200の所定の肢の位置を示す画像を提示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体の運動感覚を操作する装置及び同装置の動作方法に関係し、運動感覚を利用したゲーム・アミューズメント機器や、運動感覚や運動機能の評価及び改善を目的とした医療診断装置、スポーツ・リハビリテーションの訓練機器などへの利用が想定される。
【背景技術】
【0002】
我々の身体の動きは、主に視覚と体性感覚を統合することによって知覚され、その知覚された感覚は運動感覚(kinesthesia)と呼ばれる。体性感覚とは、筋内の筋紡錘に由来する身体の位置感覚を指す。
これまで、運動感覚を外部から意図的に操作する手段として、視覚にバイアスを与え体性感覚との間にズレを作り、運動感覚に不整合感を生じさせる装置が存在する。その手段としては、プリズム眼鏡(例えば、非特許文献1参照。)や回転マウスディスプレイ(例えば、非特許文献2参照。)などがある。
そして、これらの手段を用いることにより生じる運動感覚の不整合状況を利用して、その不整合状況に適応する運動能力の評価や、高次脳機能障害のリハビリテーションなどに応用されている。
【非特許文献1】T. A. Martin.J. G. Keating, H. R. Goodkin, A. J. Bastian and W. T. Thach, “Throwing while looking through prisms II. Specificity and storage of multiple gaze-throw calibrations", Oxford University Press, Vol. 199, p. 1199-1211, 1996.
【非特許文献1】H. Imamizu, S. Miyauchi, T. Tamada et al. , "Human cerebellar activity reflecting an acquired internal model of a new tool", Nature, Vol. 403, p. 192−195, (13 January 2000).
【非特許文献3】Burke et al. J Physiol 261, p. 673-693,1976.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来方式による視覚を操作して運動感覚に不整合感を与える手法では、視覚情報の性質上、その影響は全身性に及ぶこととなる。例えば、プリズム眼鏡環境下で物体に手を伸ばそうとすれば、右手にも左手にもその影響は及ぶこととなる。したがって、特定の身体部位を対象に、或いは複数の部位について独立に不整合感を生じさせる状況を作ることは困難であるという問題がある。
【0004】
そこで本発明は、使用者の運動中に、任意の身体部位に運動感覚の不整合感を誘発させることを課題とし、それを実現する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題を解決するために、本発明は、使用者の特定の身体部位を振動させる大きさの機械的な振動を生成し、該生成した振動を伝達する振動面を介して出力し、該振動の有無による該使用者の肢の運動量の変化を検出することを特徴とする機械振動出力装置である。
また、本発明は、使用者の肢が運動していることを検出する肢運動検出手段と、前記使用者の筋に機械的な振動刺激を印加する機械振動刺激手段と、入力されるタイミング信号に基づいて機械的な振動のパターンを生成し、前記機械振動刺激手段に出力する機械振動刺激生成部と、前記使用者の肢の位置を検出する肢位置検出手段と、入力されるタイミングで信号に基づいて画像を提示する肢位置提示手段と、前記肢運動検出手段によって使用者の肢が運動中であることが検出され、該運動中の検出によって適宜刺激時間を設定して前記機械振動刺激生成部に第1のタイミング信号を出力し、前記肢位置検出手段によって使用者の肢の位置が検出され、該位置の検出によって適宜表示時間を設定して前記肢位置提示手段に第2のタイミング信号を出力するタイミング制御部と、を備えることを特徴とする機械振動出力装置である。
【発明の効果】
【0006】
この本発明によれば、機械振動出力装置は、使用者の特定の身体部位を振動させる大きさの機械的な振動を生成し、その生成した振動を伝達する振動面を介して出力し、振動の有無による使用者の肢の運動量の変化を検出することとする。
これにより、振動面を介して出力する振動の変化に応じた使用者の肢の運動量の変化を検出することができ、使用者の特定の身体部位の振動による運動量への影響を検出することができる。
【0007】
また、この本発明によれば、機械振動出力装置は、肢運動検出手段が使用者の肢が運動していることを検出する。機械振動刺激手段は、振動を伝達する振動面を介して、入力される信号に応じた機械的な振動を出力する。機械振動刺激生成部は、入力されるタイミング信号に基づいて機械的な振動のパターンを生成し、そのパターンに基づく信号を機械振動刺激手段に出力する。肢位置検出手段は、使用者の肢の位置を検出する。肢位置提示手段は、入力されるタイミング信号に基づいて使用者の所定の肢の位置を示す画像を提示する。タイミング制御部は、肢運動検出手段によって使用者の肢が運動していることが検出されると、所定の振動出力時間を設定して機械振動刺激生成部に第1のタイミング信号を出力し、肢位置検出手段によって使用者の肢の位置が検出され、その位置の検出によって所定の表示時間を設定して肢位置提示手段に第2のタイミング信号を出力することとした。
これにより、体性感覚の操作に基づいて運動感覚の不整合感を誘発でき、従来の視覚の操作に基づく手法とは異なり、特定の身体部位に限定して不整合感を生じさせることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態による機械振動出力装置を示す概略ブロック図である。
この図には、機械振動出力装置100と、機械振動出力装置100と接触する使用者200が示されている。なお、使用者200は、機械振動出力装置100には含まれない。
【0009】
機械振動出力装置100は、運動検出部10、制御処理部20、振動発生部30、映像表示部40を備える。
運動検出部10は、肢運動検出手段11と肢位置検出手段12とからなる。
運動検出部10において肢運動検出手段11は、使用者200の肢の運動を検出し、肢位置検出手段12は、使用者200の肢の位置を検出する。
肢運動検出手段11は、肢に設けられ肢の運動を直接的に検出する物理的なセンサー又は肢の運動を間接的に検出する仮想的なセンサー、及びそれらのセンサーによって検出された信号の判定処理を行う判定処理部からなる。その直接的に検出する物理的なセンサーとしては、スイッチや加速度センサーなどがある。また間接的に検出する仮想的なセンサーとしては、肢の位置を逐次検出した位置情報に基づく信号処理や、肢の状態を撮像した画像情報からの画像処理などを用いることができ、そのような仮想センサーを用いることにより運動を検出することができる。さらに、仮想的なセンサーの応用として、実際に肢の運動を検出する方法に代えて、ブザーなどを用いて、ブザーを鳴動させ、使用者200の肢運動開始時刻を調節する方法も考えられる。
肢位置検出手段12は、肢に設けられ肢の位置を直接的に検出する物理的なセンサー又は肢の位置を間接的に検出する仮想的なセンサー、及びそれらのセンサーによって検出された信号の判定処理を行う判定処理部からなる。その直接的に検出する物理的なセンサーとしては、スイッチや加速度センサーなどがある。また間接的に検出する仮想的なセンサーとしては、肢の状態を撮像した画像情報からの画像処理などによって位置を検出することもできる。
【0010】
制御処理部20は、機械振動出力装置100において行われる各種処理の制御を行う。
制御処理部20は、タイミング制御部21、入力処理部22、統計処理部23を備える。
制御処理部20においてタイミング制御部21は、入力される使用者の肢の位置情報並びに運動中を示す情報に基づき、機械的な振動を出力するタイミングを示す制御信号(第1のタイミング信号)を出力する。また、タイミング制御部21は、入力される使用者の肢の位置情報並びに運動中を示す情報に基づき、使用者に示す運動指標としての目標位置を提示するタイミングを示す制御信号(第2のタイミング信号)を出力する。
入力処理部22は、機械振動出力装置100の操作入力の検出処理を行う。
統計処理部23は、運動検出部10で検出された肢の位置並びに運動状態の検出結果を、内部に備える記憶領域に記憶し、記憶された情報の統計処理を行って、それらの情報の検出結果及び統計処理の結果を出力する。
制御処理部20では、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)21、RAM(Random Access Memory)などを含んで構成され、その記憶領域に記憶されたデータを用いて、同じく記憶されたプログラムが実行され、それぞれの処理の制御が行われる。
【0011】
振動発生部30は、入力されるタイミング信号にしたがって、機械的な振動を出力する。
振動発生部30は、機械振動刺激生成部31、機械振動刺激手段32を備える。
振動発生部30において機械振動刺激生成部31は、機械的な振動を行うことを指示する制御信号が入力されると、振動刺激のパターンを生成して出力する。
機械振動刺激手段32は、機械振動刺激生成部31によって生成された振動刺激のパターンに応じて、振動を伝達する振動面を介して機械的な振動を出力する。機械振動刺激手段32は、使用者200の所定の部位にその振動面を接して設けられ、出力する振動を使用者200に伝達する。
映像表示部40は、入力されるタイミング信号にしたがって、使用者に示される所定の部位の運動指標としての目標位置41−1と41−2を提示する。
【0012】
この図に示される使用者200における体性感覚バイアス81、視覚82、運動感覚の不整合感83は、使用者200が感じる感覚の関係をモデル化したものである。
使用者200は、与えられる機械的な振動による刺激を受けることにより、実際の体性感覚と異なる体性感覚バイアス81を知覚する。また、使用者200は、提示される所定の部位の目標位置41−1と41−2並びにその所定の部位における肢の動きを視覚82により知覚する。そして、使用者200は、体性感覚バイアス81と視覚82から、運動中の肢の動きにおける視覚と体性感覚との間にズレを感じ、運動感覚の不整合感83を知覚することになる。
【0013】
図1に示した機械振動出力装置100の概略動作について説明する。
機械振動出力装置100は、使用者200の特定部位に振動発生部30の振動が出力される面が接して配置される。機械振動出力装置100には、必要とされる各種設定が入力され、入力処理部22によって入力処理が行われ、各種処理の設定情報がRAM(半導体メモリー)などに割り付けられた記憶領域に記録される。設定される設定情報としては、振動出力に関するものとして、使用者200の運動を検出した後に振動出力を開始するまでの時間、振動出力を継続する時間、振動出力の振動パターン、振動出力の強度などがある。また、設定される設定情報としては、表示出力に関するものとして、振動出力を継続する時間、表示する目標位置41−1と41−2の位置と大きさと形状、目標位置41−1と41−2の表示を継続する時間などがある。
【0014】
機械振動出力装置100は、運動検出部10によって使用者200の肢が運動中であることが検出され、その検出信号がタイミング制御部21に入力される。タイミング制御部21では、検出信号が入力されると予め定められた設定により適宜刺激時間(振動出力の継続時間)が調節され、機械的な振動出力を制御するタイミング信号を機械振動刺激生成部31に入力する。そのタイミング信号が入力されると、機械振動刺激生成部31は、振動刺激のパターンを生成し、生成された振動刺激のパターン情報を機械振動刺激手段32に入力する。生成された振動刺激パターン情報が入力されると、機械振動刺激手段32は、定められた振動を出力する。
機械振動刺激手段32によって出力された振動は、機械振動出力装置100に接している使用者200に伝導する。その振動の大きさは、使用者200の筋に達して、振動刺激として作用する大きさとする。機械振動刺激手段32が出力した振動により生じる振動刺激は、使用者200の運動測定対象部位として選定された肢の知覚に体性感覚バイアス81として作用する。
以上に示した振動処理の処理過程と並行して、肢位置検出手段12によって使用者200の肢の位置が検出され、検出された位置情報が、タイミング制御部21に入力される。タイミング制御部21では、位置情報が入力されると予め定められた設定により適宜表示時間(表示出力の継続時間)が調節され、映像表示部40に表示する。
【0015】
同じくタイミング制御部21を介して肢位置提示手段41によって適当な時刻に使用者へ視覚情報として視覚82を与える。
これらによって、使用者200は肢運動中の視覚82と体性感覚の間にズレを感じ、運動感覚の不整合感83を知覚する。
【0016】
なお、肢の位置及び動きを提示する方法として、肢(身体)に取り付けられたレーザー発光装置が出力するレーザー光をスクリーンに直接投影することにより肢の位置及び動き提示するなどの方法も考えられる。この方法を用いる場合では、スクリーンに提示されたレーザー光による視覚表示が、使用者200自身の肢位置を反映するものと使用者200に認識させることが必要となる。これは、スクリーンに提示されたレーザー光の位置が、使用者200の肢の位置と離れていることにより、使用者200自身の肢位置を反映することを認識しにくいためである。
【0017】
図を参照し、具体的な実施形態として手関節の屈曲運動を対象とした場合の構成について説明する。
図2は、本発明における手関節屈曲運動を対象とした機械振動出力装置100の概略構成図である。
使用者200の前腕の上方に設けられる映像表示部40には、2つの目標位置41−1と41−2とが表示される。2つの目標位置41−1と41−2の位置関係は、手関節屈曲動作によって、手先が届く範囲に設定される。
目標位置41−1は、手首の関節を伸ばした場合に、手の先端を示す位置(以下、「手先位置カーソル」という。)に配置する。また、目標位置41−2は、手首の関節を所定の範囲で曲げた場合に、手の先端を示す位置(以下、「目標」という。)に配置する。
【0018】
使用者200は、運動検出部10(手関節運動計測装置)に掌を固定して、前腕の上方の映像表示部40に提示された目標位置41−1(手先位置カーソル)を見ながら、同じく映像表示部40に提示された目標位置41−2(目標)に対して手関節の屈曲動作を行う。この際、使用者の手関節伸筋腱部に付けられた機械振動出力装置100によって、振動刺激を印加する。
対象とする筋の腱部に適当な振動刺激を与えると、筋にある筋紡錘の感覚線維が刺激され、体性感覚入力が増大することが知られている(非特許文献3参照)。ここで与える振動刺激では効果的に筋紡錘の感覚線維を活性化させるために、機械振動出力装置100が出力する振動は、周波数80〜100Hz程度の正弦波パターンとする。
【0019】
図を参照し、使用者200の肢運動を例に、運動と機械的な振動による刺激との時間関係を説明する。
図3は、実施形態における肢運動と機械振動出力装置100による処理におけるタイミングチャートである。
ここで示すタイミングチャートでは、使用者200は身体部位に関する視覚表示を見ながら肢運動を行う場合を示している。すなわち、時刻tにおいて、機械振動出力装置100における肢位置提示手段41は、目標位置41−1と41−2を使用者200に提示する。時刻tでは、肢位置提示手段41は、目標位置41−1と41−2の提示を継続させたまま、使用者200に運動を開始させる。それとともに、機械振動出力装置100の機械振動刺激手段32は機械的な振動を出力する。時刻tでは、使用者200に運動を終了させるとともに、機械振動刺激手段32は振動を停止する。また、肢位置提示手段41は、目標位置41−1と41−2の提示を終了する。
このタイミングチャートで示した処理では、使用者200の運動動作中に振動刺激を与えることにより、使用者200は視覚と体性感覚のズレを知覚し、運動感覚の不整合感83を得ることになる。
【0020】
図に示したタイミングチャートは、一例であり、処理パターンを下記に示す。
パターン1V:肢位置提示手段41は、目標位置41−1と41−2を提示しながら使用者200に運動動作を行わせる。機械振動出力装置100の機械振動刺激手段32は、使用者200の運動動作中に機械的な振動を出力する。このパターンでは、使用者200は、運動動作中に提示される目標位置41−1と41−2を意識して運動をすることができる。すなわち、上記のタイミングチャートに示した動作となる。
【0021】
パターン2V:肢位置提示手段41による目標位置41−1と41−2の提示は、使用者200の運動動作開始前だけに行い、使用者200の運動操作中は提示しない。機械振動出力装置100の機械振動刺激手段32は、使用者200の運動動作中に機械的な振動を出力する。このパターンでは、使用者200は、運動動作中に目標位置41−1と41−2を参照することができず、目標位置41−1と41−2の記憶を頼りに運動をすることとなる。すなわち、時刻tにおいて、肢位置提示手段41は、目標位置41−1と41−2を提示する。時刻tでは、肢位置提示手段41は、目標位置41−1と41−2の提示を終了する。そして、使用者200に運動を開始させるとともに、機械振動出力装置100の機械振動刺激手段32は、機械的な振動を出力する。時刻tでは、使用者200に運動を終了させるとともに、機械振動出力装置100の機械振動刺激手段32は、振動を停止する。
【0022】
パターン3V:肢位置提示手段41による目標位置41−1と41−2の提示は、使用者200の運動動作開始前だけに行い、使用者200の運動動作中は提示しない。使用者200の運動動作中には、運動している身体部分も参照できないように視覚の取得を制限する。また、機械振動出力装置100の機械振動刺激手段32は、使用者200の運動動作中に機械的な振動を出力する。このパターンでは、使用者200は、自らの運動動作も確認することができず、目標位置41−1と41−2の記憶を頼りに運動をすることとなる。すなわち、時刻tにおいて、肢位置提示手段41は、目標位置41−1と41−2を提示する。時刻tでは、肢位置提示手段41は、目標位置41−1と41−2の提示を終了する。そして、使用者200に運動を開始させるとともに、機械振動出力装置100の機械振動刺激手段32は、機械的な振動を出力する。その際、使用者200の身体部位も使用者200からは、見えないように視覚を遮断する。時刻tでは、使用者200に運動を終了させるとともに、機械振動出力装置100の機械振動刺激手段32は、振動を停止する。
【0023】
さらに、上記に示したパターン1V、パターン2V及びパターン3Vにおいて与えていた運動動作中の機械的な振動出力を停止させて行う処理パターンがあり、それぞれパターン1NV、パターン2NV、パターン3NVとする。すなわち、上記に示したパターン1V、パターン2V及びパターン3Vにおいて行われていた機械振動刺激手段32による機械的な振動を出力する処理が、行われない処理パターンとなる点が異なる。
【0024】
このような条件下において、運動中の使用者200がどのような運動感覚の不整合感83を知覚しているかは、振動刺激により生じる体性感覚へのバイアス効果から導かれる。そのバイアス効果は、肢の位置の視覚情報がない場合を設定し、振動刺激がある場合とない場合とでの運動量を比較し検出することができる。すなわち、肢の位置の視覚情報がない場合とは、使用者200から自らの手先の位置を見ることができない場合のことをいう。そのため、使用者200は、視覚によってその運動を補正することができない。この視覚情報がない場合での運動は、体性感覚に依存した運動感覚に基づいて実行されることになる。
【0025】
図を参照し、振動刺激による体性感覚へのバイアス効果について説明する。
図4は、図3で示した肢運動と機械振動出力装置による処理の検出結果をグラフ化したものである。
図4(a)は上述の手関節屈曲運動を手先位置の視覚情報なしで実施した場合の手先位置の結果示したものである。このグラフの縦軸は、手先位置の移動量を示し、検出結果の平均値と検出値の標準偏差範囲を棒グラフで示す。
グラフGA1(白色)は、振動刺激を与えない場合の移動量を示し、グラフGA2(黒色)は、振動刺激を与えた場合の移動量を示す。また、運動動作中に振動刺激を与える場合と与えない場合とは任意の時間で切り換えられる。すなわち、前述のパターン3Vとパターン3NVをランダムに切り換えたものである。
【0026】
この図において、グラフGA1で示す振動刺激を与えた場合(パターン3V)は、グラフGA2で示す振動刺激を与えない場合(パターン3NV)に比べて、手関節の運動量が、平均値も、ばらつき範囲の最大値も小さくなっていることが示される。このことは、振動刺激が手関節の屈曲方向への体性感覚バイアスを生じさせていたことを示している。
振動刺激の有無に関係なく、体性感覚としては同じ運動量となるように運動を行っている。それにもかかわらず、振動刺激を与えない場合(パターン3NV)より、振動刺激を与えた場合(パターン3V)の運動量が小さく、その差は振動刺激による影響が現れたものである。これにより、その振動刺激が付加されたことにより、体性感覚にその影響によるバイアス分が付加され、そのバイアス分だけ少ない運動量でも同じ体性感覚(=運動感覚)が得られることで、屈曲運動が小さくなったと解釈できる。
【0027】
図4(b)は、図2に示したように、手関節屈曲運動を手先位置の目標位置41−1と41−2を示し、手先の視覚情報を与えた場合の結果を示したものである。このグラフの縦軸は、手先位置の移動量を示し、検出結果の平均値と標準偏差範囲を棒グラフで示す。
グラフGB1(白色)は、振動刺激を与えない場合の移動量を示し、グラフGB2(黒色)は、振動刺激を与えた場合の移動量を示す。また、運動中に振動刺激を与える場合と与えない場合とは任意の時間で切り換えられる。すなわち、前述のパターン1Vとパターン1NVをランダムに切り換えたものである。
【0028】
この図において、視覚情報がある場合(パターン1Vとパターン1NV)には、グラフGB2によって示す振動刺激を与えた体性感覚バイアスがある場合(パターン1V)であっても、グラフGB1によって示す振動刺激を与えない場合(パターン1NV)でも、同等の手関節屈曲運動が実施されている。この結果から、視覚情報に基づいて運動が実行されたことが示される。つまり、グラフGB2に示された結果から、その場合において使用者200が行った運動は、視覚情報に適応した運動であったことを意味している。この振動刺激が与えられた場合における体性感覚は、そのバイアス効果によって振動刺激のない場合よりも過多になっており、使用者200の運動感覚に不整合感が生じている。
【0029】
以上の結果より、本発明の機能を有する装置は、視覚と体性感覚との間にズレを生じさせ、任意の身体部位について運動感覚の不整合感を知覚させることを可能にする。
【0030】
また、図1の機械振動刺激生成部31及び機械振動刺激手段32を複数用いることで、複数の身体部位を操作対象とすることもできる。
また、同一身体部位について、体性感覚バイアスの方向性(屈曲或いは伸展方向など)、すなわち不整合感の方向性を変化させることも容易である。
以上のように、本発明は運動感覚の不整合感を誘発できる自由度が従来技術に比べて大きいため、産業への応用も展開しやすいと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態における構成概要図である。
【図2】本発明における手関節屈曲運動を対象とした装置の―実施例における計測装置構成の概略図である。
【図3】実施形態における肢運動と機械振動出力装置による処理におけるタイミングチャートである。
【図4】実施形態における肢運動を機械振動出力装置を用いて検出した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0032】
100 機械振動出力装置
10 運動検出部
11 肢運動検出手段
12 肢位置検出手段
20 制御処理部
21 タイミング制御部
22 入力処理部
23 統計処理部
30 振動発生部
31 機械振動刺激生成部
32 機械振動刺激手段
40 映像表示部
41 肢位置提示手段
200 使用者
81 体性感覚バイアス
82 視覚
83 運動感覚の不整合感

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の特定の身体部位を振動させる大きさの機械的な振動を生成し、該生成した振動を伝達する振動面を介して出力し、該振動の有無による該使用者の肢の運動量の変化を検出することを特徴とする機械振動出力装置。
【請求項2】
使用者の肢が運動していることを検出する肢運動検出手段と、
振動を伝達する振動面を介して、入力される信号に応じた機械的な振動を出力する機械振動刺激手段と、
入力されるタイミング信号に基づいて機械的な振動のパターンを生成し、該パターンに基づく信号を前記機械振動刺激手段に出力する機械振動刺激生成部と、
前記使用者の肢の位置を検出する肢位置検出手段と、
入力されるタイミング信号に基づいて前記使用者の所定の肢の位置を示す画像を提示する肢位置提示手段と、
前記肢運動検出手段によって前記使用者の肢が運動していることが検出され、該運動していることが検出されることによって所定の振動出力時間を設定して前記機械振動刺激生成部に第1のタイミング信号を出力し、前記肢位置検出手段によって前記使用者の肢の位置が検出され、該位置の検出によって所定の表示時間を設定して前記肢位置提示手段に第2のタイミング信号を出力するタイミング制御部と、
を備えることを特徴とする機械振動出力装置。
【請求項3】
使用者の肢が運動していることを検出する肢運動検出過程と、
前記肢運動検出過程によって使用者の肢が運動していることが検出され、該運動していることが検出されることによって所定の刺激時間を設定して機械的な振動のパターンを生成し、振動を伝達する振動面を介して機械的な振動を出力する過程と、
前記使用者の肢の位置を検出する肢位置検出過程と、
前記肢位置検出過程によって使用者の肢の位置が検出され、該位置の検出によって所定の表示時間を設定して前記使用者の所定の肢の位置を示す画像を提示する肢位置提示過程と、
を備えることを特徴とする機械振動出力装置の動作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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