説明

機械特性、寸法安定性に優れた高分子電解質組成物及びその製造方法

【課題】少量あるいは多量の添加であっても効率よく機械特性、寸法安定性および耐湿熱性を向上させたパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂100質量部と窒化ホウ素ナノチューブ0.01〜100質量部とからなるパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂と窒化ホウ素ナノチューブとを均一に分散させたパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物、およびその製造方法に関する。更に詳しくは、構造の規定された無機のナノチューブをフィラーとしてナノ分散させることにより、少量のフィラー添加においても、従来のパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂及びその組成物に比べて効率よく機械特性、寸法安定性、湿熱特性等を向上させたパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、従来にない機械的物性、電気的特性、熱的特性等を有するためナノテクノロジーの有力な素材として注目を浴び、広範な分野で応用の可能性が検討され、一部実用化が開始されている。
ポリマーコンポジットとしては、フィラーにカーボンナノチューブを用いてポリマーに添加することで、ポリマーの機械的物性、導電性、耐熱性等を改質する試みも行われている。
【0003】
例えば多層カーボンナノチューブとの樹脂組成物による導電性、線膨張係数や機械特性(特許文献1、2)、遮熱性または電磁波透過性(特許文献3)の改良に関する報告例が開示されている。また、カーボンナノチューブを共役系高分子で被覆することで、カーボンナノチューブの分散性を極めて高め、少ないカーボンナノチューブの量でマトリクス樹脂に高い導電性を付与するとの報告(特許文献4参照)がある。
【0004】
また、ポリメチルメタクリレートやポリスチレンのような側鎖構造を有するポリマーとカーボンナノチューブからなるポリマーコンポジットに関して、共役系高分子で単層カーボンナノチューブを被覆することにより、わずかな単層カーボンナノチューブ添加量であっても弾性率が飛躍的に向上するとの報告(特許文献5参照)がある。
【0005】
一方、カーボンナノチューブと構造的な類似性を有する窒化ホウ素ナノチューブも、従来にない特性を有する材料として注目を浴びている(特許文献6参照)。更にカーボンナノチューブには無い高い耐酸化性、絶縁特性を併せ持ち、炭素系ナノ素材の使用できない環境、用途への応用が期待されている。特許文献5にはカーボンナノチューブの代わりに窒化ホウ素ナノチューブを使用してもよいとの記載があるが、飛躍的な効果を得るためには側鎖構造を有するポリマーに限定されておりそれ以外の主鎖型芳香族ポリマーでの具体的な報告はされていない。
【0006】
パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂(以後PFSA系樹脂と略することがある)は、イオン交換特性を有する高分子固体電解質であり、低作動温度、高出力密度及び短起動時間等の利点を有する燃料電池用の電解質膜としての応用が期待されている。PFSA系樹脂は、疎水性のパーフルオロアルキル基を主鎖に、親水性のイオン交換基を側鎖の末端に有する構造をしている。このポリマーは高次構造としてイオン交換基がフルオロカーボンマトリックス中で会合し、クラスター構造を形成し、ここに水分子が水和会合構造を形成することで高いプロトン伝導性が発現していると考えられている。従ってPFSA系樹脂が高い導電性を示すには、適切な含水状態である必要がある。電解質膜を適切な含水状態に保つには、加湿器等の補機による方法と電解質の薄膜化による方法が挙げられ、特に薄膜化による含水状態の安定化はデバイスの小型化と電池性能の改良に重要である。
【0007】
一方、疎水性のパーフルオロアルキル基はマトリックスとして樹脂ポリマー形状を保持するが、そのファンデルワールス力のみによって強度が決まっている。従って薄膜化に伴う膜強度の低下は燃料電池使用に伴う劣化と併せて電解質膜としての耐久性を損なうことになり、この解決は膜の実用化のための大きな課題の一つである。従来、PFSA膜の薄膜化時の補強については、「ナフィオン」系材料に補強材を入れた各種の複合電解質膜が提案されており、例えば、特許文献7には含フッ素系イオン交換膜に多孔性繊維による補強材を施しこの補強材中に含フッ素系モノマーが重合されて形成された電解質膜材料が開示され、更に特許文献8にはスルホン酸基を含有するパーフルオロカーボン重合体をパーフルオロカーボン重合体織布で補強した電解質膜材料が開示されている。また繊維補強以外にも、例えば特許文献9,10には、PFSA膜の三次元網目構造中に有機酸、多酸等が導入されたものやエポキシ基を含有するシラン系カップリング剤等の架橋反応生成物を複合、強化した素材が開示されている。しかしながらマクロ多孔性繊維や織布で補強した電解質膜は、その湿潤、乾燥のサイクルでの電解質の膨潤と収縮により、補強材と電解質との間でマクロな界面剥離が発生し、ケミカルショートを起こす可能性があり、電解質膜としては、十分な信頼性があるとはいえない。更に特許文献9、10に開示された電解質膜複合材料なども、分子レベルにまで材料特性の改善を要求したものではなく、補強材への電解質のマクロ充填という手法によって機械的強度を高めるようにしたものであり、分子レベルにおける材料特性の本質的な改善が図られていない。一方で特許文献11のように、もともと機械強度に優れる炭化水素系スルホン酸型交換樹脂を補強用樹脂成分とナノブレンドすることで更に耐久性の改良を行う提案もなされているが、パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂と異なり、本質的な特性であるヒドロキシルラジカルによる化学的分解による膜強度低下という課題を残している。
【0008】
水分管理のための薄膜化が可能な固体電解質複合膜を提供するべく、PFSA系樹脂をベースに強化用フィラー素材を複合することでデバイスとして高性能な燃料電池用の電解質膜を提供することが望まれているが、上述したバルクフィラーの効果不足や不均一分散による樹脂の物性低減などの課題を解決すべく、大きな比表面積により少量でも効果の高く、真にナノレベルで分散可能なナノフィラーの探索が望まれている。
【0009】
【特許文献1】特開2004−124086号公報
【特許文献2】特開2005−133047号公報
【特許文献3】特開2004−075400号公報
【特許文献4】特開2004−2621号公報
【特許文献5】特開2004−244490号公報
【特許文献6】特開2000−109306号公報
【特許文献7】特公平4−58822号公報
【特許文献8】特開平6−231780号公報
【特許文献9】特開平6−196016号公報
【特許文献10】特開2006−202749号公報
【特許文献11】特開2004−319442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は、水分管理のための薄膜化が可能な固体電解質複合膜を提供することを目的に、機械的強度に優れたミクロな分子レベルでのパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂複合材を実現することで、機械的強度、寸法安定性および耐湿熱性等が向上した高導電性のPFSA系固体電解質膜を提供することにある。そのために、従来のようなバルク、あるいはナノ分散困難な無機フィラーに替えて、組成物の成形性や均一性に影響を与えないことが必要な用途を含めごく少量あるいは比較的多量の添加においても効率よく機械特性、寸法安定性、に加えて成形加工性や熱伝導性等を向上させたパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、窒化ホウ素ナノチューブをパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂に添加することにより、効率よく機械特性、寸法安定性及び湿熱特性等に優れた樹脂組成物が得られることを見出し本発明に到達した。すなわち、本発明は、
1.パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂100質量部と窒化ホウ素ナノチューブ0.01〜100質量部とからなるパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物。
2.窒化ホウ素ナノチューブの平均直径が0.4nm〜1μm、アスペクト比が5以上であることを特徴とする上記1に記載のパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物。
3.窒化ホウ素ナノチューブが共役系高分子で被覆されていることを特徴とする上記1または2に記載のパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物。
4.上記1〜3の何れかに記載のパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物からなるパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂成形体。
5.窒化ホウ素ナノチューブをパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂または該樹脂溶液に混合分散させる工程を含む上記1に記載のパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物の製造方法。
6.窒化ホウ素ナノチューブが、共役系高分子で被覆されたものである上記5に記載のパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物の製造方法。
により構成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によりパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂中に窒化ホウ素ナノチューブが均一にナノ分散している樹脂組成物が得られ、従来のパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂に対して更に優れた機械特性、寸法安定性および耐湿熱性を付与することが期待される。本発明のパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物は、湿式、乾湿式製膜などの成形方法によりフィルムや多孔膜繊維の如き構造体に成形でき、そのような成形品、積層品は、機械特性、寸法安定性及び耐湿熱性に優れるため、小型軽量で高出力密度を有し、低温度運転可能な固体高分子燃料電池用の薄膜電解質膜として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明を詳細に説明する。
(窒化ホウ素ナノチューブ)
本発明において、窒化ホウ素ナノチューブとは、窒化ホウ素からなるチューブ状材料であり、理想的な構造としては6角網目の面がチューブ軸に平行に管を形成し、一重管もしくは多重管になっているものである。窒化ホウ素ナノチューブの平均直径は、好ましくは0.4nm〜1μm、より好ましくは0.6〜500nm、さらにより好ましくは0.8〜200nmである。ここでいう平均直径とは、一重管の場合、その平均外径を、多重管の場合はその最外側の管の平均外径を意味する。平均長さは、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。アスペクト比は、好ましくは5以上、更に好ましくは10以上である。アスペクト比の上限は、平均長さが10μm以下であれば限定されるものではないが、上限は実質25000である。よって、窒化ホウ素ナノチューブは、平均直径が0.4nm〜1μm、アスペクト比が5以上であることが好ましい。
【0014】
窒化ホウ素ナノチューブの平均直径およびアスペクト比は、電子顕微鏡による観察から求めることが出来る。例えばTEM(透過型電子顕微鏡)測定を行い、その画像から直接窒化ホウ素ナノチューブの直径および長手方向の長さを測定することが可能である。また組成物中の窒化ホウ素ナノチューブの形態は例えば繊維軸と平行に切断した繊維断面のTEM(透過型電子顕微鏡)測定により把握することが出来る。
【0015】
窒化ホウ素ナノチューブは、アーク放電法、レーザー加熱法、化学的気相成長法を用いて合成できる。また、ホウ化ニッケルを触媒として使用し、ボラジンを原料として合成する方法も知られている。また、カーボンナノチューブを鋳型として利用して、酸化ホウ素と窒素を反応させて合成する方法もが提案されている。本発明に用いられる窒化ホウ素ナノチューブは、これらの方法により製造されるものに限定されない。窒化ホウ素ナノチューブは、強酸処理や化学修飾された窒化ホウ素ナノチューブも使用することができる。
【0016】
窒化ホウ素ナノチューブは共役系高分子で被覆されていることが好ましい。窒化ホウ素ナノチューブを被覆する共役系高分子は、窒化ホウ素ナノチューブと相互作用が強く、マトリクス樹脂であるパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂との相互作用も強いものが好ましい。これらの共役系高分子としては、例えば、ポリフェニレンビニレン系高分子、ポリチオフェン系高分子、ポリフェニレン系高分子、ポリピロール系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリアセチレン系高分子等が挙げられる。中でも、ポリフェニレンビニレン系高分子、ポリチオフェン系高分子が好ましい。
【0017】
更に共役高分子による被覆以外にも、窒化ホウ素ナノチューブはカップリング剤で表面被覆処理されていてもよい。ここで使用されるカップリング剤としては、例えばシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等を挙げることができる。シラン系カップリング剤としては、具体的にはγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン等を例示できる。またチタネート系カップリング剤としては、具体的にはイソプロピルトリイソステアロイルチタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート等を例示できる。
【0018】
窒化ホウ素ナノチューブは、カーボンナノチューブに匹敵する優れた機械的物性、熱伝導性を有するだけでなく、化学的に安定でカーボンナノチューブよりも優れた耐酸化性を有することが知られている。また、ホウ素原子と窒素原子の間のダイポール相互作用により局所的な極性構造を有しており、極性構造を有する媒体への親和性、分散性がカーボンナノチューブより優れることが期待される。更に電子構造的に広いバンドギャップを有するため絶縁性であり、絶縁放熱材料としても期待できる他、カーボンナノチューブと異なり白色であることから着色を嫌う用途にも応用できるなど、ポリマーの特徴を活かしたコンポジット創製が可能となる。
【0019】
本発明の樹脂組成物においては、パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂100質量部に対して、窒化ホウ素ナノチューブが、0.01〜100質量部の範囲内で含有されるものである。本発明におけるパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂100質量部に対する上記窒化ホウ素ナノチューブの含有量の下限は、0.01質量部であるが、本発明においては特に、0.05質量部以上が好ましく、より好ましくは0.1質量部以上であることが好ましい。一方、パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂100質量部に対する窒化ホウ素ナノチューブの含有量の上限は、上述したように100質量部以下であるが、本発明においては、80質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましい。上記範囲内とすることにより、窒化ホウ素ナノチューブをパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂に均一に分散させることが可能となるからである。また、窒化ホウ素ナノチューブが過度に多い場合は、均一な樹脂組成物を得ることが困難となり好ましくない。本発明の樹脂組成物は、窒化ホウ素ナノチューブに由来する窒化ホウ素フレーク、触媒金属等を含む場合がある。
【0020】
本発明で使用するパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂としては、全フッ素化されたアルキルスルホン酸基を持ったものであれば好適に使用することができる。そのようなフッ素系ポリマーとしては、下記式(1)に示すナフィオン(Nafion(登録商標)、米国デュポン社)、下記式(2)のフレミオン、(Flemion(登録商標)、旭硝子社株式会社)、下記式(3)アシプレックス(Aciplex(登録商標)、旭化成株式会社)等が知られている。
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

【0023】
【化3】

【0024】
本発明で使用されるパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で上記パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂以外の種々の熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂および/または熱可塑性樹脂を配合することができる。これらの各種樹脂を配合する場合、その配合量はパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂に対して重量比で等重量以下、特に1/2以下が好ましい。具体的な樹脂として例えば、レゾール型フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂等の硬化性樹脂、や、フルオロアルキル樹脂、アラミド樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられるが、本発明で用いられるパーフルオロカーボン酸との相溶性があるものであればこれらに限定されるものではない。
【0025】
(樹脂組成物の製造方法について)
本発明のパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物の製造方法としては以下に示す方法が好ましく挙げられる。
樹脂組成物の製造方法として、パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂中に窒化ホウ素ナノチューブを以下に述べる幾つかの手法により溶液状態にて高せん断応力下に混合、分散することによる方法を好ましく用いることができる。
【0026】
窒化ホウ素ナノチューブ含有パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂溶液の製造方法としては、A)パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂を溶解させることが可能な溶媒に窒化ホウ素ナノチューブを分散させた分散液を調製し、パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂を添加、溶解させてパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂と窒化ホウ素ナノチューブからなる混合溶液を調製する方法、B)パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂を溶解させることが可能な溶媒にパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂を溶解して調整した樹脂溶液に窒化ホウ素ナノチューブを添加して分散させる方法、C)パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂を溶解させることができる溶媒にパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂と窒化ホウ素ナノチューブを添加して調製する方法等が利用できる。本発明では何れかの方法を単独で用いるか、あるいは何れかの方法を組み合わせても良い。中でも、A)の窒化ホウ素ナノチューブ分散液にパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂を添加、溶解させる方法が好ましい。
【0027】
この際に例えば窒化ホウ素ナノチューブを溶媒中でビーズミル処理することや超音波処理を施す、強力なせん断処理を施すことなどにより窒化ホウ素ナノチューブの分散性を向上することができる。中でも、超音波処理を施す方法が好ましい。本発明においても窒化ホウ素ナノチューブ分散液にパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂を添加して、超音波処理等を施すことにより、窒化ホウ素ナノチューブの分散性が飛躍的に向上することを見出した。
【0028】
本発明においてパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂あるいはその前駆体を溶解させるために適当な溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、のようなプロトン性極性溶媒の他、アセトン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶媒あるいはこれら各種混合溶媒が挙げられるがこれらに限定されるものではなく、必要に応じて溶媒を選ぶことができる。
【0029】
また、パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂が所望の溶剤に溶解し難い場合、溶剤共存下に加熱せしめ可塑化膨潤混合による樹脂組成物の製造を好ましく実施することができる。この場合の混合方法としても特に制限はないが、例えば一軸あるいは二軸押し出し機、ニーダー、ラボプラストミル、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、タンブラー、ミキシングロール等で通常公知の溶融混合機に供給して、パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂の構造や溶媒種類により室温〜200℃の温度で混練する方法や更に混練してロール化するプロセスを好ましく実施することができる。
【0030】
更に、共役系高分子やカップリング剤で表面を被覆処理された窒化ホウ素ナノチューブを使用する場合は、窒化ホウ素ナノチューブにこれらを被覆処理した後、被覆された窒化ホウ素ナノチューブを上記のようにパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂に混合分散させることにより本発明の樹脂組成物を製造することができる。
【0031】
窒化ホウ素ナノチューブを共役高分子やカップリング剤で被覆する方法として特に限定はされないが、例えば窒化ホウ素ナノチューブを超音波撹拌装置やヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の混合機、ホモジナイザーのような高速攪拌またはアトライター、ボールミル等を用いて攪拌しつつ、これに共役高分子やカップリング剤を無溶媒下、あるいはトルエン、キシレン、各種アルコール等の溶媒に溶解させた液を滴下又は噴霧添加することにより行い得る。
【0032】
ここで無溶媒下にて被覆処理を行う場合、加熱溶融している共役高分子や液状カップリング試剤に対して窒化ホウ素ナノチューブを添加して混合する方法が好ましく、また溶媒を使用する場合は共役高分子またはカップリング剤が溶解する溶媒中でこれらを窒化ホウ素ナノチューブと混合し分散する方法等が挙げられる。特にこの場合は超音波攪拌混合による被覆処理を好ましく実施することができる。
【0033】
更に、本発明のパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物には、種々の目的に応じ、本発明の効果を損なわない範囲において、タルク、カオリン、有機リン化合物などの結晶核剤、カルボン酸エステル、チオエーテル系化合物、リン酸エステル系化合物、有機リン化合物などの可塑剤、ポリオレフィン系化合物、シリコーン系化合物、長鎖脂肪族エステル系化合物、長鎖脂肪族アミド系化合物などの離型剤、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物などの酸化防止剤、高級脂肪酸アミド類、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸リチウムなどの滑剤、着色剤、顔料および染料を併用できる他、充填剤、熱安定剤、金属不活性化剤、光安定剤、表面処理剤、難燃剤、発泡剤、加工助剤、分散剤、気泡防止剤等の添加剤を添加しても差し支えない。
【0034】
(パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂成形体)
本発明のパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物は、調製した後に更に溶液からの湿式成形、乾湿成形、圧縮成形等を経て繊維、フィルム、シートといった任意の構造に加工することができる。
【0035】
成形方法としては例えば、該組成物と上述の添加剤とを均一に混合、成形する際には、乾燥ジェット湿式紡糸、キャスト法あるいはスピンコート製膜、カレンダー成形、押出成形法、射出成形法、圧縮成形法等、任意の成形法が採用できる。このうち押出成形法としてはT−ダイ法、中空成形法、パイプ押出法、線状押出法、異型ダイ押出法等が挙げられる。成膜法により任意の形状に加工することも可能である。またこの際に原料の混合順序にも特に制限はなく、例えばパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂と窒化ホウ素ナノチューブとその他の原材料を一度に配合後上記の方法により混練する方法、一部の添加剤を樹脂組成物に配合後上記の方法により混練、更に残りの添加剤を配合し混練する方法、あるいは一部の添加剤を配合後単軸あるいは2軸の押出機により混練中にサイドフィーダーを用いて残りの添加剤を混合する方法など、条件に応じて何れの方法を任意に用いてもよい。また、添加成分によっては他の成分を上記の方法などで混練、ペレット化した後に最終的な成形体に加工する直前に別途添加して成形に供することももちろん可能である。
【0036】
なお、これらの成形工程において、流動配向、せん断配向、又は延伸配向させることによりパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂中の窒化ホウ素ナノチューブの配向を高め機械特性を向上させることができる。更にフィルムまたはシートの場合は、一般的に行われる延伸加工、例えば、一軸延伸、ゾーン延伸、フラット逐次延伸、フラット同時二軸延伸、チューブラー同時延伸を施すことで更に樹脂や窒化ホウ素ナノチューブの配向を高め特性改良することも好ましく実施できる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。また使用したパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂はアルドリッチ社(株)製のナフィオン樹脂(ナフィオン(登録商標) 過フッ素化イオン交換樹脂、20質量%イソプロピルアルコール溶液)である。
【0038】
(1)引張強度測定
引張強度は、50mm×10mmのサンプルを用い、引張り速度5mm/分で行いオリエンテックUCT−1Tによって測定した。
(2)熱膨張係数
熱膨張係数は、TAインストルメント製TA2940を用いて空気中、30〜80℃の範囲で昇温速度10℃/分にて測定し、セカンドスキャンの値より求めた。
【0039】
[参考例1 窒化ホウ素ナノチューブの製造]
窒化ホウ素製のるつぼに、1:1のモル比でホウ素と酸化マグネシウムを入れ、るつぼを高周波誘導加熱炉で1300℃に加熱した。ホウ素と酸化マグネシウムは反応し、気体状の酸化ホウ素(B)とマグネシウムの蒸気が生成した。この生成物をアルゴンガスにより反応室へ移送し、温度を1100℃に維持してアンモニアガスを導入した。酸化ホウ素とアンモニアが反応し、窒化ホウ素が生成した。1.55gの混合物を十分に加熱し、副生成物を蒸発させると、反応室の壁から310mgの白色の固体が得られた。続いて得られた白色固体を濃塩酸で洗浄、イオン交換水で中性になるまで洗浄後、60℃で減圧乾燥を行い窒化ホウ素ナノチューブ(以下、BNNTと略すことがある)を得た。得られたBNNTは、平均直径が27.6nm、平均長さが2460nmのチューブ状であった。
【0040】
[実施例1]
参考例1で得られた0.30質量部の窒化ホウ素ナノチューブを25質量部のイソプロパノールに添加して、超音波バスにて4時間処理を行い、窒化ホウ素ナノチューブ分散液を調整した。上記窒化ホウ素ナノチューブ分散液にナフィオン溶液(アルドリッチ社(株)製 ナフィオン 過フッ素化イオン交換樹脂、20質量%イソプロピルアルコール溶液)1.50質量部を添加して超音波バスにて30分処理を行ったところ、飛躍的に窒化ホウ素ナノチューブの分散性が向上した。続いてナフィオン溶液73.50質量部を続けて添加して40℃で更に超音波バスにて30分処理を行った。得られた窒化ホウ素ナノチューブ含有ナフィオン溶液をガラス基板上に200μmのドクターブレードを使用してキャストした後、50℃で30分、ついで80℃で1時間加熱乾燥することによりフィルムを作成した。これをイオン交換水に浸漬してガラス基板から剥離後、フィルムを金枠に固定して30mmHg(4kPa)にて80℃で1時間、120℃で1時間減圧乾燥を実施した。フィルムの厚みは47μm、熱膨張係数は29.1ppm/℃、引張弾性率は0.25GPa、破断強度は11.9MPaであった。
【0041】
[実施例2]
(共役系高分子で被覆した窒化ホウ素ナノチューブの作製)
参考例1で得られた0.1質量部の窒化ホウ素ナノチューブを100質量部のジクロロメタンに添加して超音波バスにて2時間処理を行い、窒化ホウ素ナノチューブ分散液を調整した。続いて0.1質量部のアルドリッチ製ポリ(m−フェニレンビニレン−co−2,5−ジオクトキシ−p−フェニレンビニレン)を添加して超音波処理を1時間実施した。得られた分散液をミリポア製オムニポアメンブレンフィルター0.1μでろ過し、大量のジクロロメタンで洗浄後、60℃減圧乾燥を2時間行うことで黄色の共役高分子で被覆された窒化ホウ素ナノチューブを得た。窒化ホウ素ナノチューブ上に被覆された共役系高分子の量は窒化ホウ素ナノチューブに対して4.2重量%であった。
【0042】
(窒化ホウ素ナノチューブ含有パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂の作製)
上記で作製した共役系高分子で被覆された窒化ホウ素ナノチューブ0.30質量部を、25質量部のイソプロパノールに添加して、超音波バスにて2時間処理を行い、窒化ホウ素ナノチューブ分散液を調整した。上記窒化ホウ素ナノチューブ分散液にナフィオン溶液(アルドリッチ社(株)製 ナフィオン 過フッ素化イオン交換樹脂、20質量%イソプロピルアルコール溶液)75質量部を添加して超音波バスにて30分処理を行うことで得られた窒化ホウ素ナノチューブ含有ナフィオン溶液をガラス基板上に200μmのドクターブレードを使用してキャストした後、50℃で30分、ついで80℃で1時間加熱乾燥することによりフィルムを作成した。これをイオン交換水に浸漬してガラス基板から剥離後、フィルムを金枠に固定して30mmHg(4kPa)にて80℃で1時間、120℃で1時間減圧乾燥を実施した。フィルムの厚みは48μm、熱膨張係数は28.5ppm/℃、引張弾性率は0.26GPa、破断強度は12.1MPaであった。
【0043】
[比較例1]
窒化ホウ素ナノチューブを含有しない以外は、実施例1と同様にナフィオンのフィルムを作製した。フィルムの厚みは44μm、熱膨張係数は44.6ppm/℃、引張弾性率は0.167GPa、破断強度は11.6MPaであった。
【0044】
以上の結果より本発明の窒化ホウ素ナノチューブを含有するパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物は、窒化ホウ素ナノチューブを含有しないパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂に比べて優れた機械特性、寸法安定性、耐熱性を有することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂100質量部と窒化ホウ素ナノチューブ0.01〜100質量部とからなるパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物。
【請求項2】
窒化ホウ素ナノチューブの平均直径が0.4nm〜1μm、アスペクト比が5以上であることを特徴とする請求項1に記載のパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物。
【請求項3】
窒化ホウ素ナノチューブが共役系高分子で被覆されていることを特徴とする請求項1または2に記載のパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物からなるパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂成形体。
【請求項5】
窒化ホウ素ナノチューブをパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂または該樹脂溶液に混合分散させる工程を含む請求項1記載のパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
窒化ホウ素ナノチューブが、共役系高分子で被覆されたものである請求項5記載のパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2009−256534(P2009−256534A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110103(P2008−110103)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】