説明

機能性磁性細菌

【課題】磁性細菌の特有の性質を利用し、該磁性細菌が持つ細胞表層タンパク質に対して機能性ペプチドを融合し、更に機能的に優れた機能性磁性細菌を提供すること。
【解決手段】特定の磁性細菌を採択し、そのキャリアータンパク質のゲノム、プロテオーム解析結果に基づいて、遺伝子操作を行なうことにより、磁性細菌の細胞表層タンパク質に様々な機能性分子をディプレイすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性磁性細菌に関する。さらに詳しくは、重金属の回収能力に優れた機能性磁性細菌に関する。また、本発明は、上記機能性磁性細菌を利用した重金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機能性微生物を産出する方法として、いわゆる細胞ディスプレイ技術が提案されている。例えば、金属結合性ペプチド、酵素及び抗原等を細胞表層にディスプレイすることにより微生物に機能を持たせることが可能となっている。
【0003】
細胞ディスプレイ技術の一つであるファージディスプレイ法は、標的分子との特異的な物理的会合によってスクリーニングされるペプチドをコードするDNA配列を特定する方法である。このファージは、ファージゲノムを封入するキャプシド上のタンパク質にペプチドやタンパク質をディスプレイするものである(例えば、特許文献1)。
【0004】
ミニ細胞ディスプレイ法としては、プラスミド又は発現ベクターがコードしたミニ細胞ディスプレイを用いるペプチドディスプレイライブラリーによって、目的物質のスクリーニングをする方法が開示されている(例えば、特許文献2)。上記ディスプレイ法においては、所望の機能的特性及び結合特性を有するペプチドについてのミニ細胞ディスプレイライブラリーを作製し、目的のオリゴヌクレオチド又はペプチドを選択することができるものである。
【0005】
また、酵素ディスプレイ法としては、例えばタンパク質−タンパク質結合に接近可能な形態でポリペプチドを酵母細胞の細胞壁に結合させるための遺伝子方法が開示されている。具体的には、酵母Aga2P細胞壁タンパク質のC末端に目的のポリペプチドを遺伝的に結合する方法が開示されている(例えば特許文献3)。これらの遺伝的結合方法により、表現型特徴を有するタンパク質を同定することができることが記載されている。
【0006】
このように細胞ディスプレイ技術においては、機能性細胞に要求される機能に応じたディスプレイされる分子を選択し、かつその分子サイズの制御、さらには細胞ディスプレイ後の機能性微生物の安定性を勘案することが必要となる。つまり、機能性微生物そのものだけでなく目的に合ったキャリアータンパク質を選択することが極めて重要となる。
【0007】
一方、磁性細菌は、菌体内に50〜100nmの単磁区のマグネタイトからなる磁気微粒子(バイオマグネタイト)を20個程度保持し、磁力線に沿って遊走する細菌であることが報告されている(例えば、非特許文献1)。かかる磁性細菌は、体内に磁気微粒子を有することから磁石等により磁場をかけることによって磁性細菌(菌体)を回収し濃縮することが可能であることが示唆されている(例えば、非特許文献2)。しかしながら、磁性細菌のこのような特性を活かし、磁性細菌の持つキャリアータンパク質を用いて、磁性細菌を機能性微生物として機能を更に向上させた報告例はなされていない。大腸菌由来のOmpAタンパク質については、すでにその立体構造が決定されており、細胞表層ディスプレイに用いられた例が報告されている (例えば、非特許文献3)。
【0008】
また、磁性細菌(Magnetospirillum sp.)AMB−1由来の磁気微粒子膜特異的タンパク質であるMms16に機能性ペプチドを結合させた融合タンパク質が開示されており、この融合タンパク質が、GTPase活性能を有することが説明されている(例えば、特許文献4)。しかしながら、上記融合タンパク質であるMms16をキャリアータンパク質として採用した際には、
機能性ペプチドが磁気微粒子上に発現するとされており、ライブラリー化する際に細胞破際、洗浄工程など処理時間に大きな問題がある。
【0009】
なお、本発明に関連する先行技術文献としては、以下のものがある。
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,571,698号
【特許文献2】特開2005−218415号公報
【特許文献3】特公表2002−508977号公報
【特許文献4】特開2002−176989号公報
【非特許文献1】「生命工学への招待」103頁、(松永是、竹山春子他編、朝倉書店株式会社)
【非特許文献2】特開2004−261169号公報
【非特許文献3】特開2004−290039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のような状況に鑑み、本発明の課題は、磁性細菌の特有の性質を利用し、
磁性細菌の細胞膜に存在するタンパク質の細胞外領域に重金属と結合する能力を有する一又は複数のアミノ酸を挿入し、更に機能的に優れた機能性磁性細菌を提供することにある。また、本発明の課題は、上記機能性磁性細菌を使用した重金属の回収方法を提供することにある。
さらに、本発明の課題は、上記機能性磁性細菌を使用して、水質環境汚染の原因となっている重金属の一つであるカドミウムを回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の磁性細菌を採択し、そのキャリアータンパク質のゲノム、プロテオーム解析結果に基づいて、
磁性細菌の細胞膜に存在するタンパク質の細胞外領域を特定し重金属と結合する能力を有する一又は複数のアミノ酸を容易にディプレイできることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、以下の技術的事項から構成される。すなわち、
(1)磁性細菌の細胞膜に存在するタンパク質の細胞外領域に、重金属と結合する能力を有する一又は複数のアミノ酸が挿入されたことを特徴とする機能性磁性細菌。
(2)配列番号1に記載されたアミノ酸配列において、以下の部位又はその近傍に一又は複数のアミノ酸が挿入されたことを特徴とする(1)に記載の機能性磁性細菌。
148番目 Val ,163番目 Asn ,238番目 Leu ,263番目 Phe ,
285番目 Ala
(3)前記複数のアミノ酸は、ヒスタグであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の機能性磁性細菌。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の機能性磁性細菌をコードする遺伝子。
(5)(4)に記載の遺伝子を含むベクター。
(6)重金属を含有する水溶液に(1)〜(3)の機能性磁性細菌を接触させ、
前記水溶液中の重金属を前記機能性磁性細菌に吸着させることを特徴とする重金属の回収方法。
(7)前記重金属は、カドミウムであることを特徴とする(7)に記載の重金属の回収方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、磁気微粒子(バイオマグネタイト)を生成する磁性細菌の細胞膜に存在するタンパク質の細胞外領域に重金属と結合する能力を有する一又は複数のアミノ酸がディプレイされた機能性磁性細菌が提供される。すなわち、本発明の機能性磁性細菌は、その磁性細菌の細胞膜に存在するタンパク質の細胞外領域に金属結合性ペプチド等の一又は複数のアミノ酸をディスプレイしてあるので、磁性細菌の特性に加えさらに機能性分子が有する機能を発揮することができる。たとえば、複数のアミノ酸が金属結合性ペプチドである場合には、これを磁気による回収可能な磁性細菌ホストとして用いて工業排水中のカドミウム、鉛、クロム等の重金属を簡易且つ容易に回収することができる。
【0014】
また、本発明の重金属の回収方法は、上記機能性磁性細菌を使用しているので、汚水中の重金属を効率よくかつ安価に回収することができ、いわゆるバイオレメディエーションに、好適に適用することができる。特に、本発明の重金属の回収方法は、重金属の回収反応の際にエネルギーを必要としないことから、環境浄化のためのコストをきわめて抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明の機能性磁性細菌は、磁性細菌の細胞膜に存在するタンパク質の細胞外領域に、重金属と結合する能力を有する一又は複数のアミノ酸が挿入されたことを特徴とするものである。本発明の機能性磁性細菌を構成する磁性細菌の細胞膜に存在するタンパク質としては、配列表の配列番号1に記載されたアミノ酸配列からなる磁気微粒子特異的なタンパク質であるメンブランスペシフィックプロテイン1(以下、Msp1と略する。)や配列番号1に記載されたアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸からなるタンパク質を挙げることができる。これは、磁性細菌が保持する細胞膜に存在するタンパク質を網羅的に同定したことに起因するものであり、Msp1のほか、機能性ペプチドの性質に応じてキャリアータンパク質を選択できる。
【0017】
上記磁性細菌の細胞膜に存在するタンパク質の中でも、細胞外膜に局在し、磁性細菌の中でも最も発現量が多いことから前述したMsp1をキャリアータンパク質として使用することが好ましい。
【0018】
また、本発明の磁性細菌の細胞膜に存在するタンパク質として、これらのタンパク質と特異的に結合する抗体が特異的に結合する組み換えタンパク質を挙げることができる。これらのタンパク質は、後述するようにDNA配列情報に基づき公知の方法で作製することができるほか、例えば、磁性細菌マグネトスピリラムマグネティカムAMB−1(Magnetospirillum magneticum AMB−1、以下「AMB−1」と略する。)等磁性細菌の細胞破砕液を三画分し、各タンパク質のSDS−PAGEプロフィールを比較することによっても容易に作製することができる。
【0019】
また、本発明の対象となる遺伝子は、配列番号1に記載されたアミノ酸配列からなる磁性細菌に特異的な細胞膜に存在するタンパク質Msp1をコードする遺伝子、また、配列番号1に記載されたアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸からなるタンパク質をコードする遺伝子や、配列番号2に記載された塩基配列又はその相補的配列並びにこれらの配列の一部又は全部を含む遺伝子を例示することができる。
【0020】
これらの遺伝子は、DNA列情報に基づき、公知の方法によって調製することができる。また、配列番号2に記載された塩基配列又はその相補的配列並びにこれらの配列の一部又は全部をプローブとして、各種DNAライブラリーに対してストリンジェントな条件でハイブリダイゼイションを行い、該プローブにハイブリダイズするDNAを単離することにより、磁性細菌に特異的な細胞膜に存在するタンパク質であるMsp1のDNAと同様な活性を有するタンパク質をコードするDNAを得ることもできる。かかるDNAを取得するためのハイブリダイゼイションの条件としてはハイブリダイゼイションのストリンジェンシーに影響を与える要素に応じて適宜設定することができる。
【0021】
本発明において、その細胞表層タンパク質の外膜にディスプレイされる一又は複数のアミノ酸としては、磁性細菌が本来有する機能を阻害することなく、一又は複数のアミノ酸が有する所定の機能を発揮することができれば特に制限されるものではない。例えば、ディスプレイすることができる複数のアミノ酸としては、6His(HHHHHH)、HA(ヘマグルチニン)、FLAG(DYKDDDDK)、MYC(EQKLISEEDL)等のエピトープタグを用いることができる。親和性タグとしては、GST、マルトース結合タンパク質、ビオチン化ペプチド、オリゴビスチジン等を例示することができる。
【0022】
上記複数のアミノ酸の中でも、金属親和性を有するタグであり、特に汚水中の重金属を容易に回収することができる観点からすれば、ヒスタグ(His:(HHHHHH)が特に好ましい。
【0023】
さらに本発明の機能性磁性細菌は、汚水中の重金属を認識して結合することができる6〜10個の複数のアミノ酸配列や5〜8の単糖の配列からなる構造単位である機能性ペプチドを磁性細菌の細胞膜に存在するタンパク質の細胞外領域にディスプレイすることもできる。すなわち、カドミウム等の特定の重金属を認識することができるアミノ酸配列をコードする塩基配列を標識として、磁性細菌の細胞膜に存在するタンパク質の細胞外領域に導入し、機能性ペプチドにより重金属等を検出し、溶液中の重金属等を分離できるものである。なお、上記これらの機能性ペプチドは、常法に従い、容易に作製することができる。
【0024】
次に、本発明の機能性磁性細菌の作製方法について説明する。まず、機能性磁性細菌を作製するに際して、上記機能性ペプチドを磁性細菌の細胞膜に存在するタンパク質を明らかにする必要がある。タンパク質の構造を明らかにする方法としては特に制限されるものではないが、後述する実施例に示すような二次構造予測プログラム等の公知の方法により膜タンパク質の構造情報を明らかにすることができる。このように磁性細菌の細胞膜に存在するタンパク質の構造を明らかにした上で、一又は複数のアミノ酸の挿入位置を決定する。膜タンパクの構造解析により、細胞外領域(ループ)に相当する箇所を検出して、該箇所をアミノ酸の挿入位置として決定することができる。なお、アミノ酸の挿入箇所は1つに限定されるものではなく、必要に応じて挿入箇所を複数設定することができる。
【0025】
本発明の機能性磁性細菌は、一又は複数のアミノ酸の挿入位置を磁性細菌の細胞膜に存在するタンパク質の細胞外領域と定め、これをタンパク質の構造情報に基づき決定した後、各挿入位置に一又は複数のアミノ酸を挿入する。一又は複数のアミノ酸を挿入するためには、挿入に必要なプライマーセットをデザインし、機能性タグをSite−directed mutagenesis法等の公知の方法によって挿入する。また同様に、相同性組み換えによっても一又は複数のアミノ酸を挿入することができる。
【0026】
本発明は、磁気を利用した重金属の回収を目的としているので、宿主細胞として、磁性細菌を採択した点に特徴を有するものである。使用することができる
磁性細菌としては、その内部に磁性微粒子を有するものであれば、特に限定されるものでなく、例えばマグネトスピリラムマグネティカムAMB−1(FERM BP 5458)、デサルフォビブリオマグネティカス RS−1(Desulfovibrio magneticus RS−1、FERM P−13283。)等の磁性細菌を使用することができる。なお、磁性細菌の培養は、磁性細菌を嫌気条件下で分離用培地に炭素源と酵母エキス等の酵素を添加して所定温度にて培養を行うことができる。
【0027】
本発明において使用できる発現系としては、磁性細菌の細胞膜に存在するタンパク質を磁性細菌内で発現させることができる発現系であれば、特に制限されるものではないが、たとえば細菌プラスミド由来、酵母プラスミド由来等のパポバウイルス、ワシクニアウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス由来のベクター等を例示することができる。本発明においては、磁性細菌由来のプロモーターを有する組み換えプラスミドベクターが好ましい。
【0028】
別の観点においては、本発明は機能性磁性細菌を利用した重金属の回収方法に関する。すなわち、本発明の機能性磁性細菌とカドミウム等の重金属を含有する汚水を接触させることにより、機能性磁性細菌の膜タンパク質上にディスプレイされた複数のアミノ酸により重金属が吸着され、汚水中の重金属を回収することができる。上記重金属の回収方法においては、膜タンパク質にディスプレイさせる一又は複数のアミノ酸により、回収する重金属を適宜選択することができる。回収可能な重金属は、特に制限されるものではないが、水質汚染の主要な原因となっているカドミウム、鉛等の重金属の他、テリウム、リチウム、セリウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛等を例示することができる。例えば、汚水中のカドミウム等の重金属を回収する機能を有する磁性細菌を産出する場合には、機能性ペプチドとして、ヒスタグを使用することが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、本発明について実施例を用いて詳細に説明するが、本発明は何らこれに制限されるものではない。
【0030】
(実施例1)
<発現ベクターの構築>
本実施例においては、大腸菌と磁性細菌のシャトルベクターとして慣用的に使用されているpUMGを採択し、このシャトルベクターに、磁性細菌の中で最も高発現のMsp1タンパク質のプロモーター領域の配列をライゲーションし、発現ベクターであるpUMP1を構築した。pUMP1を構築する概略を図1に示す。まず、Msp1タンパク質のプロモーター領域を、その3’末端にNsi1サイトを付加するプライマーセットを用いてPCRを行なった。PCRは、以下のプライマーを使用し、所定の条件で行なった。
forward primer : TTGACTGGCGGCGCCCATCATGGCGTG(配列番号3)
reverse primer : atgcatTGGCCGCGACCGCTATCCAAATGA(配列番号4)
なお、上記配列番号中、 大文字はテンプレートの相補配列を示し、 小文字は制限酵素サイトの配列を示す(以下に示す配列においても同様)。
【0031】
上記PCRにより得られたMsp1のプロモーター領域の増幅遺伝子断片をpUMG のSsp1サイトにライゲーションし、大腸菌DH5aを形質転換した。得られたコロニーからプラスミドを抽出し、Ssp1及び、Nsi1を用いてインサートの確認及びシーケンサーによる配列の確認を行った。
【0032】
Ssp1及び、Nsi1による制限酵素消化パターンから、pUMG のSsp1サイトにMsp1タンパク質のプロモーター配列がクローニングされ、その直後にNsi1サイトが挿入されていることが示めされた。さらに、DNAシーケンスによる配列の確認を行ったところ、正確にこれらの配列がクローニングされていることが確認された。
【0033】
(実施例2)
<膜タンパク質の選択及びクローニング>
Msp1遺伝子の両末端にNsi1サイトを付加したプライマーセットを用いてPCRを行なった。PCRは、以下のプライマーを使用し、所定の条件で行なった。
forward primer : atgcatTTGGGGGTCGTTTTCGCAAAG(配列番号5)
reverse primer : atgcatTTAGAAGGACAGCGACAGAC(配列番号6)
【0034】
pGEM−T EasyベクターにTAクローニングした。得られたコロニーのプラスミドを抽出し、制限酵素消化及び、シーケンサーによって配列の確認を行った。Msp1遺伝子をNsi1消化し精製を行った後、pUMP1のNsi1サイトにライゲーションすることによって、融合タンパク質であるpUMP1Msp1を構築した。構築されたMP1Msp1を図2に示す。
【0035】
(実施例3)
<キャリアータンパク質遺伝子へのヒスタグ配列融合>
Msp1は、その立体構造が決定されていないため、二次構造予測プログラムを用いて構造を予測し、Histag(ヒスタグ)挿入部位を選択した。図3に、Msp1の2次元立体構造を示す。さらに表1に、図3の分析結果に基づいたHistag(ヒスタグ)の挿入部位を示す。それぞれの挿入部位にHistag(ヒスタグ)とNhe1サイトを挿入するためのプライマーセットをデザインした。上記表1にこれらのデザインしたプライマーセットを示す(配列番号7〜配列番号29)。
【0036】
【表1】

【0037】
本実施例でキャリアータンパク質として用いるMsp1の二次構造を解析したところ、規則正しくβ-strand構造が並んでいることが示された。このことから、Msp1は、一般的なouter membrane protein (大腸菌由来のOmpAタンパク質) にも見られるβ-barrel構造を持つことが考えられた。予測されたβ-strandの間 (ループ部位) 、数箇所に連続してHis tagを挿入することによって、細胞外にHis tagが挿入できると考えられる。そこで、Msp1のループと考えられる部位11箇所を選択し、ヒスタグを挿入することとした。Msp1の二次構造予測結果と、決定したヒスタグ挿入部位を図3に示す。
【0038】
(実施例4)
<磁性細菌形質転換体におけるプラスミドの保持確認>
磁性細菌をOD(600)= 0.3まで好気培養し、8,000×g、4 ℃で10分間遠心回収した。さらに、TESバッファーで2回洗浄することによって磁性細菌のコンピテント細胞を調製した。その後、作製したHis tag挿入プラスミドを用い、調製したコンピテント細胞の形質転換を行った。継代培養した形質転換体のプラスミドを抽出し、Nhe1及びKph1で消化することにより、プラスミドを保持していることを確認した。結果を図4に示す。図4によれば、想定されるバンドパターン (5.0 kbp、3.0 kbp付近) が得られ、このとき、ヒスタグの挿入されている位置に応じて、それぞれのプラスミドにおける制限酵素消化断片の泳動度が少しずつ異なることが確認された。これよりMsp1は11種のpUMP1を保持する形質転換体が作製されたことが明らかとなった 。
【0039】
(実施例5)
<Histag(ヒスタグ)融合タンパク質の発現確認>
pUMP1Msp1−124H(Msp1タンパク質中124番目のValの直後にHistag(ヒスタグ)が挿入されたプラスミド) を保持する磁性細菌をそれぞれ培養し、回収した菌体を超音波破砕した。
【0040】
菌体破砕液を8,000×gで10分間遠心することで未破砕物及び封入体を除去した後、152,000×gで超遠心することによって水溶性画分と膜画分に分離した。分離の工程を図5に示す。
【0041】
未破砕物及び封入体画分と膜画分を可溶化buffer (40 mM Tris base7 M urea、
2Mthiourea4%CHAPS(3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]-1-propanesulfonate) )を用い、4 ℃で振とうして可溶化した。標準タンパク質としてBSAを用い、得られた各画分のタンパク質をBradford法により定量した。その後、各画分のアクリルアミド濃度12.5 %の分離ゲルを用いてSDS-PAGEを行った (Laemmli, UK., 1970) 。泳動後のゲルとPVDF膜をA液 (0.3 M Tris、20 % Methanol、0.02 % SDS、pH : 9.5) 、B液 (25 mM Tris、20 % Methanol、0.02 % SDS、pH : 9.3) 、C液 (25 mM Tris、0.04 M 6-amino-n-caproic acid、20 % Methanol、0.02 % SDS、pH : 9.5) に浸したろ紙の間に挟み1時間通電するセミドライ法 (Andersen, K., 1984) でブロッティングを行った。ブロッティング後の、PVDF膜を1 %BSAを含む PBST (10 mM PBS、0.1 % Tween20) 中で1時間以上ブロッキングした。PBSTで10分間洗浄した後、一次抗体として抗6×His tag抗体を室温で1時間反応させた。PBSTによる10分間の洗浄を3回繰り返した後、二次抗体としてアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG抗体 (invitrogen) を室温で1時間反応させた。さらに、PBSTによる10分間の洗浄を3回繰り返し、基質としてNBT/BCIP-Blue Liquid Substate (sigma) を加え発色させることによって抗原抗体反応の検出を行った。
【0042】
pUMP1Msp1-124Hを保持する磁性細菌のタンパク質を分画し、6×His tag抗体を用いてWestern blottingを行った。その結果を図6に示す。それぞれプラスミドを保持する形質転換体において、43.4 kDa (Msp1-124H) のHis tag融合タンパク質の特異的なバンドが検出された 。また、それぞれ特異的なバンドは全細胞画分、封入体画分、細胞膜画分のみで見られ、水溶性画分には見られなかった。このことから、Msp1-124Hが発現し、細胞膜に局在していることが示唆された。
【0043】
(実施例6)
< 磁性細菌におけるカドミウム回収能の評価>
磁性細菌におけるカドミウムの細胞局在性の評価として、培養後の細胞をカドミウムに暴露し、分画してから各画分に含まれるカドミウム量を測定することで評価を行った 。評価方法の概略を図7に示す。まず、AMB−1の野生株を1010 cellsに調整し、10 mM HEPES bufferに懸濁し、終濃度100μMのカドミウムを添加した後、3時間室温で振とうしながらインキュベーションを行った。
【0044】
その後、以下の方法で各画分に局在するカドミウムを評価した。菌体を8000×gで5 分間遠心回収した後、HEPES bufferで細胞を3回洗浄し、その上清を洗浄画分 (図7中の[1]) とした。残った細胞を10mMEDTAで洗浄し、遠心回収後の上清を細胞表層画分、沈殿を細胞内画分とした (図7中の[2]及び[3]) 。それぞれの画分を酸洗浄した試験管に分注し、9.6規定の硝酸溶液を加えた。オイルバスを用い、180 ℃で有機物を分解すると共に乾燥させた。2 mlの硝酸 (0.1規定) を加えた後、30℃で20分間超音波による溶解を行った。その後、硝酸(0.1規定) を3 ml加え、全体量を5 mlにそろえ、それぞれの画分に含まれるカドミウムを原子分光吸光光度計で測定した。また、標準液として原子吸光分析用標準液、1000ppmカドミウム (和光純薬業株式会社) を用い、硝酸(0.1規定)で適宜希釈して検量線を作成し、評価を行った。結果を図8に示す。
【0045】
図8からわかるようにEDTA洗浄後も細胞に吸着しているカドミウム量が野生型の磁性細菌よりも形質転換体の方が多いことが示された。このことから、形質転換体はカドミウムをより強固に吸着し、細胞外膜に何かしらの影響を与え、カドミウムの取り込みを促進していることが示唆された。
【0046】
(実施例7)
<免疫染色によるHis Tagの細胞表層ディスプレイ技術評価>
これまで作製してきた形質転換体を定常期まで培養した。得られた菌体を細胞数1.0×108にそろえ、一次抗体としてマウス由来抗6×His抗体 (1/1000) をオーバーナイトでゆるやかに振とうしながら反応させた。遠心回収後、二次抗体としてPhycoerythrin (PE)標識goat由来抗mouse IgG (1/500) を用い、4 h振とうした。
【0047】
その後、PBSで洗浄後、PE由来の蛍光強度を測定した (ex.: 550 nm, em.: 570 nm) 。さらに、野生株の菌体及び最も蛍光強度を示した株について蛍光顕微鏡を用いて観察した。
【0048】
カドミウムの結合評価から作製された形質転換体において細胞表層にHisTagがディスプレイされている株及びされていない株の差異が観察された。そこで細胞表層へのディスプレイを確認するために免疫染色による評価を行った。作製された形質転換体を免疫染色し、蛍光強度の差をそれぞれ確認したところ、以下に示すような結果が得られた。結果を図9に示す。図9が示すとおり、Msp1の238残基目にHisTagを挿入した際に、最も効率よく細胞表層にディスプレイされることが示された。このことから、Msp1の238残基目にHisTagを挿入した形質転換体において、さらに重金属回収能の上昇が期待された。
【0049】
また蛍光顕微鏡観察からも野生型の細胞に対してHisTag抗体が結合せず、Msp1の238残基目にHisTagを挿入した株にのみ特異的に結合することが示された。結果を図10に示す。図10からHisTagの細胞表層ディスプレイが行えていることが示された。
【0050】
(実施例8)
< 磁性細菌形質転換体における生育への影響>
形質転換体の生育曲線を作成したところ、野生株と比較して大きな差異は認められなかった。また、顕微鏡によって細胞の形態を観察した結果、同様に形質転換体と野生株に大きな差異は観察されなかった。結果を図11に示す。このことから、ヒスタグ融合タンパク質の発現は磁性細菌の生育に影響しないことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の機能性磁性細菌は、カドミウム等の重金属の回収することができ、これを自然界に応用することによりバイオレメンディエーション等の環境技術の発展に大きく貢献することができる。同時に、エタノール生産、バイオパニング、特定分子のスクリーニング等の化学、医薬医療分野の発展に貢献することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】発現ベクターpUMP1Msp1を構築する工程の概略図を示す。
【図2】発現ベクターpUMP1Msp1構造を示す。
【図3】Msp1の2次元構造及びヒスタグ挿入部位を示す。
【図4】制限酵素消化断片の泳動度の測定写真を示す。
【図5】ヒスタグ融合タンパク質の発現を確認する方法概略を示す。
【図6】Msp1―124Hのウエスタンブロティングの結果を示す。
【図7】カドミウム回収能の評価方法についての概略図を示す。
【図8】野生型と形質転換体におけるカドミウムの吸着量を示す。
【図9】Msp1の細胞ディスプレイ評価結果を示す。
【図10】野生型と形質転換体における免疫染色後の蛍光顕微鏡観察をした観測写真を示す。
【図11】野生型と形質転換体における育成への影響を評価した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性細菌の細胞膜に存在するタンパク質の細胞外領域に、重金属と結合する能力を有する一又は複数のアミノ酸が挿入されたことを特徴とする機能性磁性細菌。
【請求項2】
配列番号1に記載されたアミノ酸配列において、以下の部位又はその近傍に一又は複数のアミノ酸が挿入されたことを特徴とする請求項1に記載の機能性磁性細菌。
148番目 Val ,163番目 Asn ,238番目 Leu ,263番目 Phe ,
285番目 Ala
【請求項3】
前記複数のアミノ酸は、ヒスタグであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の機能性磁性細菌。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の機能性磁性細菌をコードする遺伝子。
【請求項5】
請求項4に記載の遺伝子を含むベクター。
【請求項6】
重金属を含有する水溶液に
請求項1〜請求項3記載の機能性磁性細菌を接触させ、
前記水溶液中の重金属を前記機能性磁性細菌に吸着させることを特徴とする重金属の回収方法。
【請求項7】
前記重金属は、カドミウムであることを特徴とする請求項7に記載の重金属の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−263817(P2008−263817A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109353(P2007−109353)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】