説明

機能性粒子

【課題】標的物質の分離に好ましく、かつ、非特異結合が生じにくい粒子を提供する。
【解決手段】 標的物質が結合できる粒子であって、標的物質を結合させることが可能な物質または官能基が粒子本体の表面に固定化されており、粒子の平均サイズが1mm〜2cmであって、粒子の密度が1.0〜23g/cmであり、粒子本体が金属または合金を含んで成ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的物質の分離、固定化、分析、抽出、精製、反応などに適した機能性粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞、蛋白質、核酸または化学物質等の標的物質の定量、分離、精製および分析等の生化学用途に利用される機能材として、特定の標的物質と特異的に結合または反応する複合粒子が従来より知られている(特許文献1参照)。かかる複合粒子は、磁性を帯びており、例えば非磁性のビーズ中に磁性体材料を含ませることによって形成される。標的物質の分離に際しては、まず、標的物質が含まれる試料中に複合粒子を供し、複合粒子の表面に標的物質を結合させる。次いで、磁場の印加により複合粒子を移動させて集合・凝集させ、その後、集合・凝集した複合粒子を回収することによって、複合粒子に結合した標的物質を回収している。このような磁場または磁気を用いた手法(以下では「磁気分離法」または単に「磁気分離」とも呼ぶ)は、遠心分離法、カラム分離法または電気泳動法などの手法に比べて、少量の試料に対しても実施でき、また、標的物質を変性させずに短時間で実施できる特徴を有している。
また、標的物質の分離を目的とした粒子で、自然沈降で十分な分離速度を持つ粒子が報告されている(特許文献2参照)。この粒子は、密度が3.5g/cm3〜9.0g/cm3と比重が大きいことにより、自然沈降での標的物質の分離を可能にしている。
また、標的物質の分析を目的とする粒子としては、ラテックス凝集免疫比濁法に用いられるポリマー粒子が挙げられる。
上記、磁性粒子及び、特許文献2に記載の粒子、またはラテックス凝集免疫比濁法に用いられる粒子等、生化学用途に用いられる粒子は、通常、ナノメートルからマイクロメートルの範囲の粒子径を持ち、粒子を利用する際、一種類の磁気分離の対象物質に対して、多数の粒子を同時にバルクとして利用したり、多数の粒子を同時にバルクとして平均値を分析したり、または、多数の異なる分析対象を多数の粒子で一度に同時分析する際に用いる。また、粒子を標識する対象物が細胞や菌の場合は対象物がマイクロメートルサイズで、そのサイズよりも小さい粒子が必要となるので、粒子サイズが小さい方が好ましかった。
一方、粒子サイズが小さい場合、一粒子ずつを扱う場合には、顕微鏡を用いるたり、マイクロメートルサイズで加工された容器が必要となるなど、粒子を扱う際に、取り扱いの精度を必要とした。
【0003】
【特許文献1】特表平04−501956号公報
【特許文献2】WO2007126151(A1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものである。つまり、本発明の課題は、取り扱い容易であり、かつ粒子表面に結合した物質の分布が観察可能な、標的物質の分離、分析に好ましい粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、粒子の平均サイズを1mm〜2cmとし、該粒子の密度を1.0g/cm〜23g/cmとし、更に「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」を該粒子本体の表面に固定化した構成とした。
【0006】
また、この構成でも分離速度が足らない可能性や、磁気により粒子を移動させることを考慮し、磁気捕集、磁気移動が可能なように密度の大きな粒子の上に磁性層を持ち、最表面に「標的物質と結合することが可能な物質または官能基」を持つような構成も可能である。
本発明の粒子は、その表面に、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」が固定化されている。換言すれば、「標的物質と結合する物質または官能基」が固定化されている。従って、標的物質と粒子とを共存させると、標的物質が粒子に結合することができるので、標的物質の分離、精製または抽出などの種々の用途に対して本発明の粒子を用いることができるだけでなく、更にはテーラーメード医療技術の用途に対しても本発明の粒子を用いることができる。ここで、「標的物質」とは、分離のみならず、抽出、定量、精製または分析などの種々の対象になり得る物質を実質的に意味しており、粒子に直接的または間接的に結合できるものであれば、いずれの種類の物質であってもかまわない。具体的な標的物質として例えば、核酸、蛋白質(例えばアビジンおよびビオチン化HRPなども含む)、糖、脂質、ペプチド、細胞、真菌、細菌、酵母、ウィルス、糖脂質、糖蛋白質、錯体、無機物、ベクター、低分子化合物、高分子化合物、抗体または抗原等を挙げることができる。本発明の粒子は、このように種々の標的物質の分離、精製、抽出もしくは分析に用いることができる点で、種々の機能を奏するものといえる。従って、本発明の粒子は「機能性粒子」と呼ぶことができる。
【0007】
本発明の粒子は、粒子本体に貫通孔が形成されておらず、多孔質の形態でないという構成も可能である。その場合は、粒子の比表面積が0.00001m/g〜1.0m/gと比較的小さくなっている。
【0008】
尚、本明細書において、「粒子本体が貫通孔を有さない」とは、粒子本体が実質的に中実であり、粒子が内部貫通ネットワーク構造を有さないことを意味している。即ち、本明細書にいう「粒子本体が貫通孔を有さない」とは、「粒子本体または粒子本体コア部が中実である」、「粒子表面が凹凸状になっていても、凹部が粒子内部にまで存在しない」、及び「一般的な多孔質粒子と比べた場合、かさ密度がより大きいこと」と同義である。
本明細書において「分離」とは、核酸、蛋白質、糖、脂質、ペプチド、細胞、真菌、細菌、酵母、ウィルス、糖脂質、糖蛋白質、錯体、無機物、ベクター、低分子化合物、高分子化合物、抗体または抗原等の標的物質を含んだ試料(例えば、ヒト又は動物の尿、血液、血清、血漿、精液、唾液、汗、涙、腹水、羊水等の体液;ヒト又は動物の臓器、毛髪、皮膚、爪、骨、筋肉又は神経組織等の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;便懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;培養細胞又は培養組織の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;ウィルスの懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;菌体の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;土壌懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;植物の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;食品・加工食品懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;排水等)から標的物質を分離することを指しており、より具体的には、試料中に含まれる標的物質を粒子に結合させた後、標的物質が結合した粒子を移動させることによって標的物質を試料から選別することを実質的に意味している。なお、本発明の粒子が磁性を有する場合には、磁場の印加によって、分離速度を付加的に大きくできる。また、粒子が強い磁性を有した場合、これまでの一般的な磁性粒子と異なり、液中に粒子捕捉用の永久磁石または電磁石を投入することにより、粒子を直接、回収することが可能となる。また、粒子サイズが1mm〜2cmと比較的大きいため、粒子捕捉用の磁石から粒子を簡単に取り外すことが可能である。これまで、ナノ〜マイクロメートルサイズの磁性粒子を粒子捕捉用の磁石で直接補足し、液外に取り出すと、磁性粒子が粒子捕捉用の磁石に吸着したり、分散液を抱えて吸着する場合も生じるので、吸着した磁性粒子を粒子捕捉用の磁石から回収するのには、溶液での洗浄回収を行う等、回収が困難だった。言い換えれば、一般的にはナノ〜マイクロメートルサイズの磁性粒子で磁気分離を行う際には、磁性粒子の入った容器外から磁気を作用させ、容器の内壁に磁性粒子を捕捉し、溶液を容器外に回収することになるが、本発明の粒子は、溶液を容器中に残したまま、磁性粒子を直接回収することも可能となる。
本発明の粒子は、一粒子ずつ扱うのが容易で、しかも粒子表面に結合した物質の分布が観察可能なだけでなく、磁性を帯びた粒子の場合は、磁石を用いて、磁石に直接、粒子を捕捉できるので、本発明の粒子を用いると、複雑な機構を用いずに標的物質の分離、固定化、分析、抽出、精製または反応などを行うことができる。換言すれば、本発明の粒子を用いると、標的物質の分離、固定化、分析、抽出、精製または反応を行う簡易なシステムが得られることになる。尚、本発明の粒子は、そのようなシステムの小型化またはチップ化にとっても有効である。
本発明の粒子は、粒子本体が貫通孔を有さない場合、実質的に非多孔質とみなすことができるので、標的物質以外の物質が粒子に結合する非特異結合を抑えることができる。換言すれば、粒子の非多孔質に起因して、標的物質以外の物質が吸収・吸着され得る粒子細孔または粒子表面が少なく又は実質的に存在せず、標的物質以外の物質が粒子に結合することを抑制することができる。
このように、本発明の粒子は、非特異結合を抑えることができるので、簡易な操作だけで、効率よく標的物質の精製や分離を実施することができる。
【0009】
尚、本発明の粒子の本体表面にはポリマーが被着していてもよい。この場合、その被着しているポリマー(以下では「被着ポリマー」ともいう)の表面に「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」を固定化させることができる。これによって、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」を粒子本体に共有結合させることが困難な場合であっても、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」を粒子表面に固定化できる。また、粒子本体表面に固定化された「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」が、種々の使用条件下の用途において粒子本体表面から分離してしまうことが懸念される用途では、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」を被着ポリマーに固定化させることによって粒子本体からの分離を防止することができる。また、被着させるポリマーとして、各種分子または金属イオン等が透過しにくいポリマーを選択すると、粒子本体表面または粒子内部からの金属イオン(即ち、粒子の構成成分たる金属のイオン)の溶出を抑えることができ、粒子の種々の用途において金属イオン等に起因した不要な反応を抑えることもできる。
【0010】
また、本発明の粒子表面には、金などの金属が存在していてもよい。なお、金属は粒子表面の少なくとも一部に存在する態様を実質的に意味している。また、粒子表面に金属膜を形成する形状であっても、粒子表面に金属粒子が担持された形状であってもよい。但し、好ましい態様では、粒子本体が金属被膜に内包されるように、粒子本体の表面全体が金属で被覆されている。粒子本体の表面の被覆割合をより高くすることは、標的物質をより多く結合させることができる点で好ましい。金属の被覆方法に際しては、無電解めっき法、電気めっき法、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学蒸着法またはメカノケミカル法などを用いることができる。
【0011】
なお、本発明において、粒子表面に存在する金属は金であることが好ましいが、チオール基、チオエーテル基またはジスルフィド基等の硫黄を介して結合可能な無機物質ならば使用可能で、特に、金のみに限定されるものではない。本発明の粒子の金表面に固定化可能な「標的物質を結合させることが可能な物質」(以下では「標的物質が結合可能な物質」ともいう)は、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、核酸、酵素、アプタマー、抗体、プロテインA、プロテインG等が挙げられる。
【0012】
本明細書において「固定化」とは、「標的物質が結合可能な物質」、「標的物質が結合可能な官能基」または、「標的物質」が粒子本体の金表面にチオール基、チオエーテル基またはジスルフィド基を介して直接取り付けられている態様を意味する。なお、本明細書において「標的物質が結合」という用語は、粒子に対して標的物質が「吸着」または「吸収」される態様をも包含している。
本発明の粒子は、その表面に、チオール基、チオエーテル基またはジスルフィド基と結合可能な金がコートされている。従って、チオール基、チオエーテル基またはジスルフィド基で修飾した「標的物質に結合可能な物質」を粒子に固定化し、標的物質と粒子とを共存させると、標的物質が粒子に結合することができる。また、一方にチオール基、チオエーテル基またはジスルフィド基を持ち、もう一方にカルボキシル基、水酸基、エポキシ基、トシル基、スクシンイミド基、マレイミド基、チオール基、チオエーテル基およびジスルフィド基などの硫化物官能基、アルデヒド基、アジド基、ヒドラジド基、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基、イミドエステル基、カルボジイミド基、イソシアネート基、ヨードアセチル基、アシル基、ならびに、二重結合を持つような二官能または三官能性の「標的物質が結合可能な官能基」を有するリンカーが粒子表面に結合した「標的物質が結合可能な官能基」を有する粒子と標的物質を共存させると、標的物質が粒子に結合することができる。これらの「標的物質が結合可能な官能基」を有する粒子と標的物質との結合は縮合剤等の反応試薬が必要な場合も生じる。なお、「標的物質が結合可能な官能基」は、上述した官能基の誘導体であってもかまわない。
さらに、標的物質にチオール基、チオエーテル基またはジスルフィド基が存在する場合やチオール基、チオエーテル基またはジスルフィド基を修飾した標的物質の場合は標的物質と金コート粒子とを共存させると、標的物質が粒子に結合することができるので標的物質の分離、精製または抽出などの種々の用途に対して本発明の粒子を用いることができる。
ここで、「標的物質」とは、分離のみならず、抽出、定量、精製または分析などの種々の対象になり得る物質を実質的に意味しており、粒子に直接的または間接的に結合できるものであれば、いずれの種類の物質であってもかまわない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下では、まず、本発明の粒子を詳細に説明し、その後、本発明の分離方法を説明する。
粒子の密度が1.0g/cmよりも小さくなると、自然沈降のみによる粒子の移動速度が実用上好ましくない一方、密度が23g/cmよりも大きい粒子は、現存する物質の密度を考慮すると製造が現実的に困難であるとともに、標的物質を結合させる際に行う攪拌にとって、良好な分散状態とするのが難しく、好ましくない。従って、本発明の粒子の密度は、1.0g/cm〜23g/cmであり、より好ましくは2.0g/cm〜9.0g/cmであり、更に好ましくは、5.5g/cm〜7.0g/cmである。ここで、本明細書にいう「密度」とは、物質自身が占める体積だけを密度算定用の体積とする真密度を意味しており、製真密度測定装置ウルトラピクノメーター1000(ユアサアイオニクス社製)を使用することによって求めることができる。
【0014】
本発明の粒子は、粒子本体に貫通孔が実質的に形成されておらず、多孔質形態となっていないという特徴も有している。このことは、本発明の比表面積が0.00001m/g〜1.0m/gと比較的小さくなっていることからも理解できる。「粒子本体に貫通孔が実質的に形成されていない」とは、粒子本体が実質的に中実であり、粒子が内部貫通ネットワーク構造を有さないことを意味している。即ち、本明細書にいう「粒子本体に貫通孔が実質的に形成されていない」とは、「粒子本体または粒子本体コア部が中実である」、「粒子表面が凹凸状になっていても、凹部が粒子内部にまで存在しない」、及び「一般
的な多孔質粒子と比べた場合、かさ密度がより大きいこと」と同義である。
本発明の粒子は、密度が大きいだけでなく、比表面積が0.00001m/g〜1.0m/gと比較的小さく、実質的に非多孔質とみなすことができるので、標的物質以外の物質が粒子に結合する非特異結合を抑えることができる。また、“非多孔質”ゆえ、粒子が貫通孔(即ち、内部貫通ネットワーク構造)などを有していないので、標的物質を含んだ試料に粒子を供する際に空気などの気体が粒子内部に取り込まれることが抑制され、自然沈降させるだけでも十分な分離速度を得ることができる。
本発明の粒子の好ましい比表面積は、0.00001m/g〜1.0m/gであり、より好ましくは0.00005m/g〜0.5m/gであり、更に好ましくは0.0002m/g〜0.2m/gであり、例えば、0.001m/g〜0.05m/gである。本発明の粒子が、実質的に非多孔質の際は、標的物質以外の物質が粒子に結合する可能性(即ち、「非特異結合の可能性」)が抑えられている。これは、標的物質の分離精度が向上することを意味している。本明細書にいう「比表面積」は、比表面積細孔分布測定装置Belsorp−mini(日本ベル社製)を使用することによって求めた比表面積値のことを指している。
【0015】
本発明の粒子本体の材質は、上述のような密度・比表面積に資するものであれば、特に限定されるものではない。好ましくは、粒子本体は、金属、金属酸化物または合金から形成されており、例えば、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Ag(銀)、Au(金)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、W(タングステン)、Rh(ロジウム)、Os(オスミウム)、Re(レニウム)、Ir(イリジウム)、Ru(ルテニウム)、Mo(モリブデン)、Hf(ハフニウム)、およびTa(タンタル)から成る群から選択される少なくとも1種類以上の遷移金属元素を含んで成る。あるいは、本発明の粒子本体は、例えば、Al(アルミニウム)、Pb(鉛)、Bi(ビスマス)およびTl(タリウム)から成る群から選択される少なくとも1種類以上の典型金属元素を含んで成る。かかる遷移金属元素と典型金属元素とが混在して成る粒子本体であってもかまわない。金属酸化物の場合は、例えば、ジルコニア(酸化ジルコニウム、イットリウム添加酸化ジルコニウム)、酸化鉄およびアルミナから成る群から選択される少なくとも1種以上の材料から粒子本体が形成されていることが好ましい。
本発明の粒子は、“磁性”を有していなくても短時間の分離に供し得るものであるが、付加的には“磁性”を帯びていてもよい(以下、磁性を帯びている本発明の粒子を「磁性粒子」とも称す)。なぜなら、粒子の磁気分離操作を補助的に行うことができるからである。つまり、試料中にて「金被膜および/または金粒子を備えた磁性粒子」をより速く移動させることができ、標的物質(より具体的には「粒子に結合した標的物質」)をより短時間で分離することが可能となる。また、磁気により、上下方向や水平移動といった磁気移動も可能となる。
磁性粒子の材質は、粒子が磁性を帯びることになる限り、特に限定されるものではない。例えば、粒子本体が、フェライト、マグネタイト、γ−酸化鉄ならびに「遷移金属および鉄を含んで成る酸化物」から成る群から選択される少なくとも1種以上の鉄酸化物を含んで成るものであってよい。あるいは、粒子本体が、ニッケル、コバルト、鉄およびそれらの金属を含んで成る合金から成る群から選択される少なくとも1種以上の金属材料を含んで成るものであってよい。上記の「遷移金属および鉄を含んで成る酸化物」は、ガーネット構造を有するものが好ましい。このような「遷移金属および鉄を含んで成るガーネット構造の酸化物」は、一般的にYIGと呼ばれるものであり、例えば、Y3Fe5O12の組成式で表される化合物やこの化合物のYの一部をビスマスで置換したBixY3−xFe5O12(0<X<3)である。
磁性粒子の粒子本体は、“磁性を帯びていない粒子本体前駆体”を磁性物質でコーティングすることによって形成してもよい。磁性物質のコーティングに際しては、無電解メッキ法、電気メッキ法、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学蒸着法またはメカノケミカル法などを用いることができる。なお、ここでいう「磁性を帯びていない粒子本体前駆体」とは、例えば、Cu等から成る粒子本体前駆体を意味しており、「磁性物質」としては、上述の磁性材質と同様、フェライト、マグネタイト、γ−酸化鉄、または、遷移金属および鉄を含んで成るガーネット構造の酸化物などの鉄酸化物を挙げることができるだけでなく、ニッケル、コバルト、鉄、または、それらの金属を含んで成る合金も挙げることができる。粒子本体前駆体の表面に形成される磁性物質コーティングが少なすぎると、最終的に得られる粒子の磁化の値が小さくなり、所望の磁気分離特性が得られない可能性がある。従って、磁性物質コーティングの体積が、粒子本体の体積に対して5%以上であることが好ましい。磁性物質コーティングの厚さは、粒子本体の直径に対して1.7%以上であることが好ましい。ちなみに、磁性物質コーティングを「磁性を帯びていない粒子本体前駆体」に供する態様のみならず、「磁性を帯びていない粒子前駆体」の中に磁性物質を含ませる態様であってもよい。
粒子の磁気特性としては、例えば飽和磁化および保磁力がある。一般に、飽和磁化の値が大きいほど磁界に対する粒子の応答性が向上する。ここで、本発明のような密度が比較的大きい粒子を製造するには、磁性を帯びていない粒子の表面もしくは内部に磁性物質を持たすことが好ましい。磁性物質は磁性を帯びていない粒子よりも密度が小さいことが多いために、供する磁性物質の量を制限することによって必要な密度を維持しなければならず、85A・m/kgよりも大きい飽和磁化を得ることは実際には困難である。その一方、飽和磁化が0.5A・m/kgよりも小さいと磁界に対する粒子の応答性が必要以上に低下するために好ましくない。従って、本発明の粒子の飽和磁化は、好ましくは0.5A・m/kg〜85A・m/kg(0.5emu/g〜85emu/g)であり、より好ましくは3A・m/kg〜10A・m/kg(3emu/g〜10emu/g)である。また、一般に、保磁力の値が大きくなると粒子が凝集し易くなる。しかしながら、保持力の値が大きすぎると凝集作用が強くなりすぎ、粒子が分散しなくなってしまう。そのため、保磁力は、好ましくは、0kA/m〜23kA/m(0〜300エルステッド)であり、より好ましくは0kA/m〜15.95kA/m(0〜200エルステッド)であり、更に好ましくは0kA/m〜7.97kA/m(0〜100エルステッド)である。
本明細書の「飽和磁化」および「保磁力」の値は、振動試料型磁力計(東英工業製、型式VSM−5)を用いて測定される値のことを指している。具体的には、「飽和磁化」は、797kA/m(10キロエルステッド)の磁界を印加した際の磁化量から求められる飽和磁化の値である。「保磁力」は、797kA/mの磁界を印加した後、磁界をゼロに戻し、更に、磁界を逆方向に徐々に増加させた場合において、磁化量がゼロになる印加磁界の値である。
本発明の粒子の形状は特に制限はなく、例えば、球形状、楕円体形状、粒形状、板形状、針形状または多面体形状(例えば立方体形状)等であってよい。尚、磁性を帯びていない粒子本体前駆体に磁性物質をコーティングすることを通じて本発明の粒子を得る場合では、「磁性を帯びていない粒子前駆体」が球形状または楕円体形状を有していることが好ましい。
本発明の粒子の平均サイズ(即ち「平均粒子サイズ」)は1mm〜2cmであることが好ましい。平均粒子サイズが1mmよりも小さいと、一粒子ずつを扱う場合には、顕微鏡を用いるたり、マイクロメートルサイズで加工された容器が必要となるなど、扱いにくい。一方、平均粒子サイズが2cmよりも大きいと、粒子自体を測定することや、分析機器内で粒子を用いることが困難となる。ここでいう「粒子サイズ」とは、粒子のあらゆる方向における長さのうち最大となる長さを実質的に意味しており、「平均粒子サイズ」・「平均サイズ」とは、例えば30個の粒子のサイズを測定し、その数平均として算出した粒子サイズを実質的に意味している。ちなみに、純金属から成る粒子はサイズが小さくなると、急激な酸化が生じやすく、場合によっては粒子が発火する危険性があるが、本発明のような比較的大きい粒子サイズでは、急激な酸化が生じにくく、粒子が発火する危険性は低減されている。
本発明の粒子は、上述したように、粒子本体表面に金被膜および/または金粒子が設けられていてもよい(つまり、金の形態としては、“殻状層の形態”や“粒子として担持された形態”となっている)。金被膜の平均厚さは、好ましくは1nm〜10μm程度となっている。金被膜は、粒子本体表面を全体的に覆うように形成されている態様のみならず、粒子本体表面の少なくとも一部を覆うように形成されている態様であってもよい。金被覆の形成には、無電解メッキ法、電気メッキ法、置換メッキ法、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学蒸着法またはメカノケミカル法などを用いることができる。例えば、無電解メッキ法を挙げると、粒子本体にニッケルメッキを行い、さらに置換メッキで金メッキをすることによって、粒子本体表面に金被覆を形成できる。
【0016】
本発明の粒子の本体表面に固定化されている「標的物質を結合させることが可能な物質」(以下では「標的物質が結合可能な物質」ともいう)は、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジンおよびニュートラアビジンから成る群から選択される少なくとも1種以上の物質であることが好ましい。また、本発明の粒子の本体表面に固定化されている「標的物質を結合させることが可能な官能基」(以下では「標的物質が結合可能な官能基」ともいう)は、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、トシル基、スクシンイミド基、マレイミド基、チオール基、チオエーテル基およびジスルフィド基などの硫化物官能基、アルデヒド基、アジド基、ヒドラジド基、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基、イミドエステル基、カルボジイミド基、イソシアネート基、ヨードアセチル基、カルボキシル基のハロゲン置換体、ならびに、二重結合から成る群から選択される少なくとも1種以上の官能基であることが好ましい。なお、「標的物質が結合可能な官能基」は、上述した官能基の誘導体であってもかまわない。
【0017】
本明細書において「固定化」とは、一般的に、粒子本体の表面付近に「標的物質が結合可能な物質」または「標的物質が結合可能な官能基」が存在している態様を実質的に意味しており、必ずしも「標的物質が結合可能な物質」または「標的物質が結合可能な官能基」が粒子本体の表面に直接取り付けられている態様のみを意味するものではない。また、「固定化」とは、粒子表面の少なくとも一部に「標的物質が結合可能な物質または官能基」が固定化されている態様を実質的に意味しており、「標的物質が結合可能な物質または官能基」が必ずしも粒子表面全体にわたって固定化されていなくてもよい。但し、好ましい態様では、粒子本体が「標的物質が結合可能な物質または官能基」に内包されるように、「標的物質が結合可能な物質または官能基」が粒子表面全体にわたって存在している。なお、本明細書において「標的物質が結合」という用語は、粒子に対して標的物質が「吸着」または「吸収」される態様を包含しているのみならず、標的物質と粒子との間に働く種々の「親和力」に起因して標的物質が粒子に結合される態様をも包含している。
【0018】
本発明の粒子本体には「標的物質が結合可能な物質」または「標的物質が結合可能な官能基」が固定化されているので、かかる物質または官能基を介して標的物質を粒子に結合させることができる。
【0019】
「標的物質が結合可能な物質」を粒子本体に固定化させる手法は、特に制限されるものではなく、「標的物質が結合可能な物質」を粒子本体に結合または付着させることができるものであれば、いずれの手法を用いてもよい。「標的物質が結合可能な物質」を粒子本体に直接的に結合または付着させることに限らず、必要に応じて、珪素含有物質(例えばシロキサン、シランカップリング剤およびケイ酸ナトリウムなど)、または、標的物質が結合もしくは付着可能な官能基を有する樹脂等の他の物質を予め粒子本体に付着または導入してもよい。尚、珪素含有物質を用いた場合では、粒子本体の表面には「標的物質が結合可能な物質」が固定化されていると共に、かかる珪素含有物質が存在することになる。
「標的物質が結合可能な物質」を粒子本体に固定化させる手法の一例を説明すると、例えば、粒子本体の表面にエポキシ基やアミノ基を有するシランカップリング剤を反応させることによって、「標的物質が結合可能な物質」を粒子に固定化させることができる。
【0020】
同様に、「標的物質が結合可能な官能基」を粒子本体に固定化させる手法は、特に制限されるものではなく、「標的物質が結合可能な官能基」を粒子に結合または付着させることができるものであれば、いずれの手法を用いてもよい。例えば、必要に応じて、「標的物質が結合可能な官能基」を化学的に処理して別の官能基に変換し、反応性や吸着性等を変更してもよい。「標的物質が結合可能な物質」と同様に、「標的物質が結合可能な官能基」を粒子本体に直接的に結合または付着させるだけでなく、必要に応じて、珪素含有物質(例えばシロキサン、シランカップリング剤およびケイ酸ナトリウムなど)、標的物質が結合もしくは付着可能な官能基を有する樹脂等の他の物質を予め粒子本体に付着または導入したり、あるいは、粒子本体の表面に金被着処理を施した上で標的物質が結合もしくは付着可能な官能基を有する含硫黄化合物等の他の物質を予め粒子本体に付着または導入したりすることによって、「標的物質が結合可能な官能基」を粒子本体に固定化させ易くしてもよい。例えば、珪素含有物質を用いた場合では、粒子本体の表面には「標的物質が結合可能な官能基」が固定化されていると共に、かかる珪素含有物質が存在することになる。
【0021】
以下では、「標的物質が結合可能な官能基」を粒子に固定化する手法の一例として、シロキサンを用いた手法を説明する。
《シロキサンを用いた官能基の固定化》
この手法は、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン(以下では「TMCTS」と略称する)で粒子本体の表面を予め被覆する手法である。かかる手法は、TMCTS膜が粒子本体の表面に一層だけ形成された時点で、反応を終了する特徴を有している。
【0022】
(前処理工程)
まず、有機溶剤中に前駆体粒子を分散させることによって得られる分散液にTMCTSを加える。この際、粒子表面にTMCTSが1層形成されるのに充分な量のTMCTSを加える。次いで、分散液をエバポレートして分散液から溶媒を除去し、真空デシケーター中で粒子を加熱乾燥させ、その後、150℃の恒温槽中にて加熱する。用いる有機溶剤は、エバポレータで蒸発しやすい沸点の低いものであれば、いずれの種類の有機溶剤でもよく、例えば、トルエン、ヘキサンまたはベンゼン等を挙げることができる。なお、真空デシケーター内部が加熱乾燥に付されると、化学蒸着法(CVD法)と同じ効果がもたらされるので、加熱温度はTMCTSが蒸発し、かつ分解等起きない範囲にすることが必要となる。具体的には30〜80℃程度の加熱温度が好ましい。最後に行う恒温槽中での加熱工程は、粒子表面に付いたTMCTS同士の反応を進める過程である。温度が高くなりすぎると、TMCTSの分解が生じやすくなると共に、長時間実施すると、引き続いて行う官能基の固定化工程で必要とされる反応点がなくなってしまうので、100〜200℃の加熱温度および2時間以内の反応時間が好ましい。なお、粒子が疎水性となることから、粒子表面にTMCTS膜が形成されたことを確認できる。
【0023】
(官能基の固定化工程)
上述の前処理工程に引き続いて、官能基の固定化工程を実施する。固定化する官能基を含んだ化合物は、その末端に二重結合が存在することが必要であるが、それ以外は特に制限はない。例えば、用いる化合物において官能基と二重結合部位との間がどのような構造であってもよい。なお、官能基は一つとは限らず、複数であってもかまわない。また、複数の異なる種類の官能基を固定化してもかまわない。
【0024】
例えばエポキシ基またはカルボキシル基等の官能基を固定化する反応過程では、TMCTSに含まれるSi−Hの部分と、エポキシ基またはカルボキシル基等の官能基を含む化合物の二重結合部とが相互に反応して官能基が粒子表面に導入されることになる。具体的な操作としては、前処理工程で得られた粒子を溶媒中に分散させ、加温状態で、反応触媒と固定化すべき官能基を持つ化合物とを添加し、数時間反応させる。用いる溶媒は、固定化すべき官能基を持つ化合物が溶解できると共に、60℃以上に加温でも安定した反応速度が得られるものであれば、いずれの種類の溶媒であってもよく、例えば、水、エチレングリコールなどが挙げられる。同様に、反応触媒も上述の反応を促進させるものであれば、いずれの種類の触媒を用いてもよく、例えば、塩化白金酸などを用いることができる。
【0025】
次に、以下では、「ポリマーが粒子本体に被着している粒子」の態様について説明する。
【0026】
ある好適な態様では、ポリマーが粒子本体の表面の一部に被着しており、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」が粒子本体またはポリマーの表面に固定化されている。また、別の態様では、ポリマーが粒子本体の表面全体を被覆しており、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」がポリマーの表面に固定化されている。ポリマーが粒子本体の表面全体を被覆している場合、粒子の有する形態に基づいて、本発明の粒子を「内包粒子」または「コア−シェル構造の粒子」と呼ぶこともできる。
【0027】
粒子本体表面に被着しているポリマーは、「標的物質が結合可能な物質」または「標的物質が結合可能な官能基」の固定化に寄与するものが好ましく、「標的物質が結合可能な物質」または「標的物質が結合可能な官能基」の種類、粒子の使用条件、その他必要な特性等により、任意に選択することができる。代表的な被着ポリマーを例示すれば、ポリスチレンまたはその誘導体、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリビニルエーテル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミンおよびポリエチレンイミンから成る群から選択される少なくとも1種以上の合成高分子化合物を挙げることができる。なお、このような合成高分子化合物に限定されず、これらの変性物または共重合体であってもかまわない。更には、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロースもしくはアルギン酸ナトリウム等の半合成高分子化合物、または、キトサン、キチン、デンプン、ゼラチンもしくはアラビアゴム等の天然高分子化合物等のポリマーであってもかまわない。尚、「標的物質が結合可能な物質」または「標的物質が結合可能な官能基」が結合または付着できる官能基が予め導入されているポリマーであってもよい。
【0028】
粒子表面または粒子内部からの金属イオン(即ち、粒子本体を構成している金属のイオン)の溶出を抑えることを主たる目的とする場合には、粒子本体を構成する各種分子または金属イオン等が透過しにくい被着ポリマーを選択すればよく、例えば、水系で粒子を使用する場合には、水が透過しにくいポリスチレン、ポリメタクリル酸アルキル、ポリビニルエーテルまたはポリ酢酸ビニルなどのポリマーを選択すればよい。
【0029】
本明細書において「被着」とは、粒子表面の少なくとも一部にポリマーが付着または存在している態様を実質的に意味しており、ポリマーが必ずしも粒子本体の表面全体に付着または存在してなくてもよい。但し、好ましい態様では、粒子本体がポリマー被膜に内包されるように、粒子本体の表面全体がポリマーで被覆されている。粒子本体の表面全体がポリマーで被覆されていると、ポリマー表面に固定化すべき「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」をより多くすることができる点で好ましいだけでなく、粒子本体の構成材料に起因する金属イオン(即ち、粒子本体を構成する金属のイオン)等の溶出をより抑えることが可能となる点で好ましい。
【0030】
ポリマーを粒子本体に被着させる手法は、特に制限されるものではなく、ポリマーを粒子本体表面に付着することができるものであれば、いずれの手法を用いてもよい。例えば、以下の手法を挙げることができる。
【0031】
(1)前駆体粒子の表面から重合を開始する手法
(2)前駆体粒子の存在下で重合を行い、重合物を粒子表面に析出させる手法
(3)モノマーエマルジョン中に前駆体粒子を内包して重合を行う手法
(4)予め重合して得ておいたポリマーの溶液に前駆体粒子を混合させ、粒子表面にポリマーを析出させる手法
上記手法をより具体的に説明すると、(1)の手法では、前駆体粒子の表面に開始剤や連鎖移動剤を結合または吸着させて、粒子表面からポリマーを伸張させることによって、前駆体粒子の表面にポリマーを被着させる。(2)の手法では、重合反応の進行とともに析出するモノマーを用いて前駆体粒子の存在下で重合を行うことによって、前駆体粒子の表面にポリマーを被着させる。ポリマーと粒子とが引き合うように各々の電荷を選択したり、粒子表面に重合性二重結合を固定しておく等によって被着をより効率的に行うことができる。(3)の手法では、モノマーエマルジョンを形成し得るモノマーと溶剤との組合せを選択し、それにより得られるモノマーエマルジョン中に前駆体粒子を内包させて重合することによって、粒子表面にポリマーを被着させる。この場合、前駆体粒子がモノマーエマルジョン中に優先的に存在するように、モノマーに馴染みをよくする表面処理や界面活性剤等を用いるとよい。また、(4)の手法では、ポリマー溶液中に前駆体粒子を混入し、貧溶剤を加えたり、pHを変化させたり、塩を多量に加えたりすることによってポリマーの溶解性を低下させて析出させることによって、前駆体粒子の表面にポリマーを被着させる。この場合も電荷の選択や重合性二重結合の固定等の手法は有効である。また、前駆体粒子を電荷の異なるポリマー溶液に交互に浸して、粒子表面に積層を形成してもよい。
【0032】
尚、上述のような手法では、マイクロカプセル化手法、エマルジョン重合等の種々の方法が従来公知であり、それらを用いて実施することができる。
【0033】
ポリマーの被着処理に先立って、前駆体粒子の表面に特定の処理を施してもよい。例えば、磁性化処理の他、金属もしくは無機物によるコート処理、界面活性剤の吸着処理、シランカップリング剤もしくはチタンカップリング剤等の反応性物質を用いた処理、シロキサン被覆処理およびシロキサン中のSi−Hへの官能基導入処理(ヒドロシリル化反応)、酸処理もしくはアルカリ処理、溶剤洗浄処理、または、研磨処理等を施してもよい。これらの処理により、前駆体粒子の表面の汚れの除去、前駆体粒子の表面の電荷の制御、粒子表面への反応性官能基の導入が行われるので、ポリマーの被着効率が向上したり、被着ポリマーと粒子表面との密着性が向上したりする。尚、シロキサンまたはシランカップリング剤等の珪素含有物質を用いた場合では、本発明の粒子の本体表面には「標的物質が結合可能な物質または官能基」および被着ポリマーの他に、かかる珪素含有物質が存在すること(例えば、珪素化合物が粒子本体表面と被着ポリマー表面との間に介在し得ること)になることを理解されよう。開始剤および/または重合性二重結合を前駆体粒子の表面に予め結合または吸着させて重合を行うと、被着ポリマーの表面析出が生じやすくなるので、ポリマーの被着処理に有利となり得る。その他、非特異結合の低減、金属イオン等の溶出の抑制、密度の調整、色や蛍光等の付与等、別の特性を付与するための処理を施してもよい。
【0034】
被着ポリマーには架橋処理を施してもよい。被着ポリマーが架橋されると、被着ポリマーの耐久性、耐溶剤性または低膨潤性等の特性が向上し得る。架橋の方法は特に制限されないが、代表的な手法を分類すると、以下のようになる。
【0035】
(1)a.前駆体粒子へのポリマー被着処理に際して架橋、b.被着処理後に架橋
(2)a.架橋剤を添加(室温や低温で進行する架橋も含む)、b.架橋性官能基をポリマー中に導入
(3)a.熱架橋、b.放射線架橋
上記手法(1)、(2)および(3)は種々に組み合わせることができることに留意されたい。例えば、(1)aかつ(2)aかつ(3)aの3つを組み合わせる例としては、前駆体粒子の表面から重合を開始したり重合物を前駆体粒子の表面に析出させたりしてポリマーを被着させる処理に際して2官能性のモノマーを含めて加熱処理を行う手法、または、モノマーエマルジョン中に前駆体粒子を内包して重合を行う処理に際して2官能性のモノマーを含めて加熱処理を行う手法を挙げることができる。また、(1)bかつ(2)aかつ(3)aの3つを組み合わせる例としては、カルボキシル基を有するポリマーの析出またはカルボキシル基を有するモノマーの重合によって前駆体粒子を被着させる系において、被着後に多官能性エポキシ架橋剤を添加し、熱を加えて架橋させる手法を挙げることができる。なお、同様の系においてカルボキシル基の代わりに水酸基、エポキシ架橋剤の代わりにイソシアネート架橋剤を用いて架橋させる手法も考えられる。(2)bに属する例としては、被着ポリマー中にエポキシ基、イソシアネート基または二重結合等を導入する手法が挙げられる。ここで、エポキシ基またはイソシアネート基の導入には(3)aを用いることができ、二重結合の導入には(3)bを用いることができる。
【0036】
被着ポリマーが用いられる場合、本発明の粒子の本体表面および/または被着ポリマー表面に「標的物質が結合可能な物質」または「標的物質が結合可能な官能基」が固定化されていることを理解されよう。
【0037】
粒子本体の表面に被着ポリマーを設ける態様において「標的物質が結合可能な官能基」を固定化させる手法は、特に制限されるものではなく、「標的物質が結合可能な官能基」を粒子本体に結合または付着させることができるものであれば、いずれの手法を用いてもよい。更に、「標的物質が結合可能な官能基」の固定化は、ポリマーの被着処理前、被着処理中または被着処理後のいずれに行ってもよい。
【0038】
粒子本体の表面に被着ポリマーを設ける態様において「標的物質が結合可能な官能基」を固定化させる手法としては、例えば、被着すべきポリマーの重合反応に際して、「標的物質が結合可能な官能基」を有するモノマーを重合または共重合させる方法がある。この場合、「標的物質が結合可能な官能基」を有するモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノアルキル、(メタ)アクリル酸イソシアナートアルキル、p−スチレンスルホン酸(塩)、ジメチロールプロパン酸、N−アルキルジエタノールアミン、(アミノエチルアミノ)エタノールまたはリジン等を挙げることができる。
【0039】
粒子本体の表面に被着ポリマーを設ける態様において「標的物質に対する結合性がより高い官能基」を固定化したい場合には、上記手法で被着ポリマーに導入された官能基aに対して反応性を有する他の官能基bと「標的物質に対する結合性がより高い官能基c」との2つの官能基を有する化合物を、粒子に付加的に導入してもよい。この場合、官能基aと官能基bとが結合することによって、「標的物質に対する結合性がより高い官能基c」が固定化された粒子を得ることができる。また、被着ポリマー表面と「標的物質が結合可能な官能基」との間を離したい場合または粒子本体表面と「標的物質が結合可能な官能基」との間を離したい場合(即ち、「リンカー」を導入したい場合)にも同様に、導入された官能基aに対して反応性を有する他の官能基bと「標的物質が結合可能な官能基」との2つの官能基を有する化合物を、官能基aが導入された粒子に付加的に導入してもよい(この場合も同様に、官能基aと官能基bとの結合を介して「標的物質が結合可能な官能基」が粒子に固定化される)。尚、このような化合物の導入を2回以上繰り返し行って、リンカーをより長くしてもよい。被着ポリマー表面と「標的物質が結合可能な官能基」との間がより離れると、又は、粒子本体表面と「標的物質が結合可能な官能基」との間がより離れると、「標的物質が結合可能な官能基」の自由度が高まって、その反応性が向上するだけでなく、標的物質の自由度も高まって標的物質の機能が抑制されない等の有利な効果を期待できる。被着ポリマー主鎖から官能基までの原子数をリンカーの長さと定義すると、リンカーの長さは原子5個以上50個以下で上記の効果が特に期待できる。ちなみに、リンカーの主鎖としては、生態関連物質等の非特異吸着性の低いもの(例えばポリエチレングリコール鎖)を用いることが特に好ましい。
【0040】
粒子本体の表面に被着ポリマーを設ける態様において「標的物質が結合可能な物質」を固定化させる手法は、特に制限されるものではなく、「標的物質が結合可能な物質」を粒子に結合または付着させることができるものであれば、いずれの手法を用いてもよい。「標的物質が結合可能な物質」の固定化も、ポリマーの被着処理前、被着処理中または被着処理後のいずれに行ってもよい。
【0041】
例えば、上述の「標的物質が結合可能な官能基」を導入する手法と同様な手法で、「標的物質が結合可能な物質」を粒子に固定化させることができる。一例を挙げると、「標的物質が結合可能な物質」と結合性を有する官能基を粒子本体表面または被着ポリマー表面に予め導入し、その官能基を介して「標的物質が結合可能な物質」を粒子に固定化することができる。また、被着ポリマーとして疎水性ポリマーを用い、「標的物質が結合可能な物質」として疎水性のものを用いると、水中においては疎水性の物質同士が吸着する所謂「疎水性相互作用」が生じることになるので、疎水性の「標的物質が結合可能な物質」を被着ポリマー表面に固定化させることができる。
【0042】
次に、以下において、本発明の粒子と標的物質との結合態様について説明する。本発明の粒子と標的物質とを共存させると、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」と標的物質との間に働く吸着力または親和力によって、標的物質が粒子に結合することになる。以下分類して説明するため、「吸着」を「化学吸着」と同義とする。
【0043】
「吸着力」に起因して、標的物質が粒子に結合する態様の一例としては、「標的物質」がアビジンであり、粒子本体がジルコニアから形成されており、「標的物質を結合させることができる物質または官能基」がエポキシ基である場合である。
「親和力」に関しては、標的物質との間に働く親和力の種類に基づいて、粒子本体表面に固定化されている「標的物質を結合させることができる物質または官能基」を大きく次の5つに分類できる(尚、各分類において挙げる物質または官能基は、あくまでも例示にすぎず、その他の物質または官能基も考えられることに留意されたい)。尚、そのような親和力に起因する場合、「標的物質を結合させることができる物質または官能基」は、以下では「親和性を有する物質または官能基」と呼ぶ。
(1)標的物質との間に働く親和力が、静電相互作用、π−π相互作用、π−カチオン相互作用または双極子相互作用に起因する「親和性を有する物質または官能基」の例
シリカ、活性炭、スルホン酸基、カルボキシル基、ジエチルアミノエチル基、トリエチルアミノエチル基、フェニル基、アルギニン、セルロース、リジン、ポリリジン、ポリアミド、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、クラウンエーテルもしくはπ電子を有する環状化合物、または、それらの官能基誘導体、酸素結合体もしくは蛍光プローブ結合体など。
(2)標的物質との間に働く親和力が疎水相互作用に起因する「親和性を有する物質または官能基」の例
アルキル基、オクタデシル基、オクチル基、シアノプロピル基もしくはブチル基またはフェニル基、または、それらの官能基誘導体、酸素結合体もしくは蛍光プローブ結合体など。
(3)標的物質との間に働く親和力が水素結合に起因する「親和性を有する物質または官能基」の例
DNA、RNA、Oligo(dT)、キチン、キトサン、アミロース、セルロース、デキストリン、デキストラン、プルラン、多糖、リジン、ポリリジン、ポリアミド、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)もしくはβ-グルカン、または、それらの官能基誘導体、酸素結合体もしくは蛍光プローブ結合体など。
(4)標的物質との間に働く親和力が配位結合に起因する「親和性を有する物質または官能基」の例
イミノジ酢酸、ニッケル、ニッケルイオン、ニッケル錯体、コバルト、コバルトイオン、コバルト錯体、銅、銅イオンもしくは銅錯体、または、それらの酸素結合体もしくは蛍光プローブ結合体など。
(5)標的物質との間に働く親和力が生化学的相互作用に起因する「親和性を有する物質または官能基」の例(生化学的相互作用:生体分子に関する相互作用を含むものであって、抗原・抗体反応、リガンド・レセプター結合、水素結合、配位結合、疎水相互作用、静電相互作用、π−π相互作用、π−カチオン相互作用、双極子相互作用およびファンデルワールス力などが単独または二種以上で連係して働く相互作用)
抗原、抗体、レセプター、リガンド、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジンニュートラアビジン、シリカ、活性炭、ケイ酸マグネシウム、ハイドロキシアパタイト、アルブミン、アミロース、セルロース、レクチン、プロテインA、プロテインG、Sタンパク質、デキストリン、デキストラン、プルラン、多糖、カルモジュリン、ニッケル、ニッケルイオン、ニッケル錯体、コバルト、コバルトイオン、コバルト錯体、銅、銅イオン、銅錯体、ゼラチン、N-アセチルグルコサミン、イミノジ酢酸、アミノフェニルホウ酸、エチレンジアミン二酢酸、アミノベンズアミジン、アルギニン、リジン、ポリリジン、ポリアミド、ジエチルアミノエチル基、トリエチルアミノエチル基、ECTEOLA-セルロース、フィブロネクチン、ビトロネクチン、アルギニン-グリシン-アスパラギン(RGD)酸配列を含むペプチド、ラミニン、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、コラーゲン、コンカナバリンA、アデノシン5'リン酸(ATP) 、ADP、ATP、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、アクリジン色素、アプロチニン、オボムコイド、トリプシンインヒビターやプロテアーゼインヒビター等のインヒビター類、ホスホリルエタノールアミン、フェニルアラニン、プロタミン、シバクロンブルー、プロシオンレッド、ヘパリン、グルタチオン、DIG、DIG抗体、DNA、RNA、Oligo(dT)、キチン、キトサン、β-グルカン、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、ヒアルロン酸、エラスチン、セリシンもしくはフィブロイン、または、それらの官能基誘導体、酸素結合体もしくは蛍光プローブ結合体など。
【0044】
上述の分類から分かるように、本明細書で用いる「親和性を有する」とは、標的物質と粒子に固定化される物質または官能基との間に、静電相互作用、π−π相互作用、π−カチオン相互作用、双極子相互作用、疎水相互作用、生化学的相互作用、水素結合または配位結合などがもたらされることを実質的に意味している。粒子本体に固定化される物質または官能基の種類によっては、上述の親和性を2種以上兼ね備える場合があり、上述の分類で重複する物質または官能基が存在する場合がある点に留意されたい。また、上述の分類に必ずしも限定される必要はなく、標的物質に対して作用し、標的物質を粒子表面またはその近傍に存在させる機能を有するものであれば、いずれの物質または官能基を粒子に固定化させてもよい(一例を挙げるとすると、標的物質との相補的な形状に起因して親和性を有するものが考えられる)。
【0045】
前駆体となる粒子の表面に「標的物質に対して親和性を有する物質または官能基」を固定化させる態様または方法は何ら制限されるものではない。例えば、高分子、無機化合物、低分子リンカーまたはカップリング剤等を介在させることによって、「標的物質に対して親和性を有する物質または官能基」を未固定の粒子表面に結合作用、吸着作用または吸収作用で固定化することができる。また、粒子の一般的な被覆法を用いることによっても「標的物質に対して親和性を有する物質または官能基」を未固定の粒子表面に固定化することができる。
【0046】
「標的物質に対して親和性を有する物質」を粒子本体に固定化させる手法の一例を説明する。例えば、「標的物質に対して親和性を有する物質」として抗体を用いた場合、前述のシロキサンを用いた官能基の固定化の手法によって、シロキサンのSi−Hの部分に二重結合とエポキシ基有する化合物(グリシジルメタクリレート)を反応させ、粒子表面にエポキシ基を固定化する。さらに、得られた粒子を水中で抗体と撹拌することによって、抗体を粒子に固定化できる。
【0047】
また、「標的物質に対して親和性を有する官能基」を粒子表面に固定化する手法も、例えば、前述したようなシロキサンを用いた手法で行うことができる。
【0048】
次に、以下において、本発明の粒子を用いた分離方法について詳細に説明する。かかる分離方法は、上述した本発明の粒子を用いて、試料中から標的物質を分離する又は標的物質を固定した粒子を得る方法である。本発明の分離方法は、
(i)標的物質を含んで成る試料と本発明の粒子とを接触させ、粒子と標的物質とを結合させる工程、
(ii)試料を静置に付して、試料中で粒子を自然沈降させる工程、および
(iii)試料中で沈殿した粒子を回収することによって、標的物質を試料から分離する又は標的物質を固定した粒子を得る工程
を含んで成る。
工程(i)では、標的物質を含んで成る試料と本発明の粒子とが接触し、粒子と標的物質とが相互に結合される(図1(a)参照)。例えば、標的物質を含んで成る試料に対して粒子を供給することによって、試料と粒子とを接触させる。結合が促進されるように、必要に応じて、攪拌処理を施してもよい。供される粒子は、一般的には、単一の粒子ではなく、上述したような平均サイズ1mm〜2cmの粒子が複数個存在する粉末形態の粒子として供給され得る。供される粉末形態の粒子の量は、試料の種類や分離用途などとの関係で決まってくるものであり、総括的に特定できるものではないが、例を挙げるとすると、一粒子から使用でき、分析、研究用途ではグラム単位まで(10−2g〜10g程度)となり、工業的に利用する場合はキログラム単位(1〜10kg程度)からトン単位(1〜10t程度)までとなり得る。
工程(ii)にて粒子の自然沈降がもたらされるように、標的物質を含んで成る試料は、例えば、ビーカー、メスシリンダー、試験管、マイクロチューブ、バイオチップ、化学チップ、μ-TASチップなどに仕込んだ状態で用いることが好ましい。
【0049】
標的物質と粒子との間の結合は、それらの間に働く吸着力または親和力によって引き起こされる。より具体的には、粒子本体に固定化されている「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」と標的物質との間で吸着力または親和力が働くことによって、標的物質と粒子とが相互に結合する。尚、試料中に供する粉末形態の粒子の量によっては、標的物質の結合に寄与しない粒子も存在し得る(例えば粒子を過剰に供給した場合)。尚、本発明の方法で用いる粒子は、標的物質以外の物質が粒子に結合する非特異結合を抑えることができる粒子である。従って、試料中に標的物質以外の物質が含まれていても、標的物質を優先的に粒子に結合できる。
【0050】
標的物質は、前述したように、例えば、核酸、蛋白質(例えばアビジンおよびビオチン化HRPなども含む)、糖、脂質、ペプチド、細胞、真菌、細菌、酵母、ウィルス、糖脂質、糖蛋白質、錯体、無機物、ベクター、低分子化合物、高分子化合物、抗体または抗原等である。また、試料は、前述したように、例えば、ヒト又は動物の尿、血液、血清、血漿、精液、唾液、汗、涙、腹水、羊水等の体液;ヒト又は動物の臓器、毛髪、皮膚、爪、骨、筋肉又は神経組織等の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;便懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;培養細胞又は培養組織の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;ウィルスの懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;菌体の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;土壌懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;植物の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;食品・加工食品懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;排水等である。
【0051】
工程(ii)では、粒子が供された試料を静置に付して、試料中で本発明の粒子を自然沈降させる(図1(b)参照)。本発明の方法で用いる粒子は、上述したような密度特性および比表面積特性を有するものであるため、比較的速い自然沈降速度が得られる。換言すれば、用いる粒子の密度が大きいだけでなく、粒子の比表面積が0.00001m/g〜1.0m/gと比較的小さく実質的に非多孔質とみなすことができるので、標的物質を含んだ試料に粒子を供する際に空気などの気体が粒子内部に取り込まれた状態となることが抑制される(即ち、気体が粒子内部に存在し得ないので、気体に起因した浮力作用などの影響を排除することができる)。その結果、粒子を自然沈降させるだけでも十分な分離速度を得ることができる。
【0052】
工程(iii)では、試料中で沈殿した本発明の粒子(図1(c)参照)が回収されることによって、標的物質が試料から分離される又は標的物質が固定された粒子が得られる。例えば、自然沈降に起因して試料の下方領域または容器の底領域に粒子が沈殿するので、上澄みが試料の上方領域に形成される。従って、かかる上澄みをピペットなどで吸引除去することによって、試料中で沈殿した粒子を回収することができる。回収された粒子には、上述したように標的物質が結合しているので、粒子の回収によって標的物質が試料から分離されることになる。
【0053】
このように本発明の方法では、試料中の標的物質を分離できたり、あるいは、標的物質が固定化された粒子を得ることができるので、それらを応用することによって、細胞、蛋白質、核酸または化学物質等の種々の標的物質の分析、抽出、精製および反応等が可能となる。より具体的に言うと、上述のような標的物質の分離、固定化を行うシステムの構築以外にも、標的物質の分析、抽出、精製または反応などを行うシステムの構築が可能となる。例えば、「標的物質の分析を行うシステム」では、チップ内に標的物質と結合可能な抗体を固定した粒子を装填した形態でチップ内に標的物質を注入することによりチップ内粒子に標的物質を固定し、さらに標的物質に結合する酵素、蛍光色素、磁性体などを結合させた抗体をマーカーとして標的物質量を吸光、化学発光、蛍光、または磁気などにより検出することにより、また、標的物質が核酸である場合には標的物質と結合可能な核酸を固定した粒子を装填した形態でチップ内に酵素または蛍光色素を固定した標的物質を注入することによりチップ内粒子に標的物質を固定し、標的物質量を吸光、化学発光、蛍光、または磁気などにより検出することにより標的物質を定量分析または定性分析することができる。この際、各反応段階においてチップ上に複数個ある反応槽のうち同一箇所で実施しても、別の箇所で実施してもかまわない。また、チップ上に複数個ある反応槽間の移動、もしくは各反応槽中での撹拌に重力を用いることが可能である。また、「標的物質の抽出を行うシステム」または「標的物質を精製するシステム」では、上述した本発明の方法の工程(iii)の分離のあとに、標的物質を粒子からはずし遊離させる物質を用いる、または必要な加熱、冷却などの処理を行うことにより、標的物質を抽出または精製することができる。更に、「標的物質の反応を行うシステム」では、チップ内に標的物質と結合可能な物質を固定した粒子を装填した形態でチップ内に標的物質を注入することによりチップ内粒子に標的物質を固定し、チップ上に複数個ある反応槽の各所において混合、加熱、撹拌、紫外線照射などを行うことで、標的物質の反応を実施できる。この際、チップ上に複数個ある反応槽間の移動、もしくは各反応槽中での撹拌に重力を用いることが可能である。また、酵素や触媒を粒子に固定して、重力を利用して反応系に投入することも可能である。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【0055】
例えば、(1)標的物質の分離に際して粒子への非特異結合または非特異吸着を更に抑えるために、(2)粒子の親和性を制御するために、または(3)官能基を導入するための基材として用いるために、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリジメチルアクリルアミド、デキストラン、プルラン、アガロース、セファロース、アミロース、セロビオース、キチン、キトサン、多糖、正常血清、ウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、カゼイン、脱脂粉乳およびこれらの官能基誘導体から成る群から選択される少なくとも1種以上の物質を粒子本体表面に付着させてもよい。付着方法としては、特に限定されるものではなく、粒子の一般的な被覆法を用いてよい。例えば、ポリエチレングリコールを用いた場合では、粒子本体の表面には「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」が固定化されていると共に、かかるポリエチレングリコールが存在することになる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の粒子は、細胞、蛋白質、核酸または化学物質等の標的物質の定量、分離、精製および分析等に利用できる。例えば、本発明の粒子は、DNA等の核酸を結合させることができ、結果的にDNAの塩基配列の解析に用いることができるので、テーラーメード医療技術に資するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質が結合できる粒子であって、
前記標的物質を結合させることが可能な物質または官能基が粒子本体の表面に固定化されており、
前記粒子の平均サイズが1mm〜2cmであり、前記粒子の密度が3.51.0g/cm〜23g/cmであることを特徴とする粒子。
【請求項2】
前記粒子の比表面積が0.00001m/g〜1.0m/gであることを特徴とする、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記粒子本体が、金属、金属酸化物または合金を含んで成ることを特徴とする、請求項1または2に記載の粒子。
【請求項4】
前記粒子本体が、ジルコニア、イットリウム添加ジルコニア、酸化鉄およびアルミナから成る群から選択される少なくとも1種以上の材料から形成されていることを特徴とする、請求項3に記載の粒子。
【請求項5】
前記粒子本体が、シリカ、ガラス、酸化鉄から成る群から選択される少なくとも1種以上の材料から形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の粒子。
【請求項6】
前記粒子が磁性を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の粒子。
【請求項7】
飽和磁化が0.5〜85A・m/kgであることを特徴とする、請求項6に記載の粒子。
【請求項8】
前記標的物質を結合させることが可能な金が粒子表面に被覆されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の粒子。

【公開番号】特開2011−7543(P2011−7543A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149392(P2009−149392)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】