説明

機能性素子の製造方法とカラーフィルタ

【課題】 基板の上に形成された隔壁で囲まれた領域に塗工液を吐出して得た塗膜には、乾燥後形状においてセル中央部の膜厚がセル周縁部の膜厚よりも厚くなる傾向がある。その膜厚差が機能層の機能に不都合を及ぼし、例えば、カラーフィルタにおいては色ムラの発生、またそれに伴う高コントラスト比が得られないといった問題が発生する。このような問題が生じないようにするためには、隔壁内における機能層が充分な平坦性を有する必要性がある。本発明の課題は充分な平坦性を持つ機能層を有する機能性素子の製造方法を提供することである。
【解決手段】隔壁近傍の蒸発速度が中央部の5〜25倍にすることによって、隔壁の高さをD1とし、ある位置xでの膜厚をD2(x)としたときに、|D1−D2(x)|≦D1/10の範囲内にある領域が、隔壁内部の機能層の全領域の3/4以上となる平坦性を実現した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上の隔壁で区切られた領域(部分)に形成された機能層を有する機能性素子の製造方法において、その機能に不都合を生じさせないために高精度に平坦化した機能層を有する機能性素子の製造方法とその方法を使用したカラーフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、より高精細かつ美麗なディスプレイの製造競争が激化している。その中で、より高精細で薄層であるといった要求を満たすものとして、有機エレクトロルミネッセント素子(以下、有機EL素子とする)やカラーフィルタなどが注目を浴びている。これら有機EL素子やカラーフィルタなどの機能層にはサイズ、位置、膜厚等に関して高精度のパターニング技術が要求されている。
【0003】
上記要求に応えるパターニング技術として、代表的な方法にフォトリソグラフィー方式がある。フォトリソグラフィー方式では基板全体に塗工層を形成した後に不要な部分を取り除くことで微細なパターニングを行う。この方法では形成するパターンの種類によっては、大部分の塗工層を除去する場合がある。このため、材料の無駄や工程数の増加を招く。これに対し近年インキジェット方式が注目を集めている。インキジェット方式はこのような無駄が発生しないため、環境負荷の低減と大幅なコストダウン、形成工程の短縮など利点が多い方法である。
【0004】
特許文献1〜3に、インキジェット方式を用いて微細パターニングを行う基板の製造方法が提案されている。すなわち、インキジェット方式を用いたカラーフィルタ基板の製造方法として、異なる色の着色インキが混合しないように、各色間に隔壁を設ける方法が開示されている。隔壁は、ブラックマトリックスとしても作用するように、黒色樹脂層とし、フォトリソグラフィ方式等で形成している。さらに隔壁に含フッ素化合物などの撥インキ剤を含有させて、隔壁を乗り越えて着色インクが隣接する凹部へ溢流しないようにしている。
【0005】
図1に機能性素子の塗工領域を表す。図1において、基板1の上に形成された隔壁2で囲まれ、区切られた矩形状の領域3はセルと呼ばれる。隔壁で囲まれた部分(セル)内に塗工液を吐出し、溶媒を蒸発乾燥させ機能膜を形成する方法では、形成された機能層の表面は平坦とならず、図2に示すように、断面が凸形状(図2(a))、や凹形状(図2(c)、になる場合が多い。ここで図2は、図1のA−A’で切断した機能性素子の断面説明図である。
【0006】
凸形状となるか凹形状となるかは、機能層の素材の性質や基板の性質、さらには溶媒の種類、隔壁の材料等によって異なる。機能層の中心部と端部の膜厚差が大きい場合、その差を起因とする問題が発生する。例えば、機能層がカラーフィルタの着色層の場合には、膜厚差に起因する色ムラや、コントラスト性能が低下するといった問題が発生する。また、機能層が有機EL素子の発光層の場合には発光色調ムラが発生し、また素子寿命が短くなる。
【0007】
従って、図2(b)に示した平坦な機能層が好ましい。さらに、図2(b)では、機能層の厚さが隔壁の厚さと同じであるが、これも好ましい場合が多い。例えば、カラーフィルタにおいては、機能層である着色層と隔壁との間に段差があると、その上に形成する透
明導電膜に亀裂が発生しやすい、という問題が生じる。
【0008】
より高精細で、機能に不都合を生じない程度の平坦性を有する機能性素子を製造するために、特許文献4において平坦性を向上するための手法が開示されている。しかし、これらの従来の方法では形成した機能層は平坦であるが、隔壁と機能層との間に段差があるという問題がある
特許文献5は、機能層の断面形状が凸形状となってしまう場合には、溶媒の蒸発速度を速く、一方、凹形状になってしまう場合は蒸発速度を遅くすることによって、平坦性の向上を行うことを提案している。しかし送風による制御では、送風自体の制御が難しいことに起因するムラが発生するため、高い膜厚精度を要求される製品では使用することが困難である。また、生産性の向上の為に蒸発速度は出来る限り速いことが要求されているため、生産において蒸発速度の制御を行うことは難しい。
【0009】
以下に特許文献を示す。
【特許文献1】特開平6−347637号公報
【特許文献2】特開平7−35915号公報
【特許文献3】特開平7−35917号公報
【特許文献4】特開2007−256313公報
【特許文献5】特許第3857161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
基板の上に形成された隔壁で囲まれた領域に塗工液を吐出して得た塗膜には、乾燥後形状においてセル中央部の膜厚がセル周縁部の膜厚よりも厚くなる傾向がある。その膜厚差が機能層の機能に不都合を及ぼし、例えば、カラーフィルタにおいては色ムラの発生、またそれに伴う高コントラスト比が得られないといった問題が発生する。このような問題が生じないようにするためには、隔壁内における機能層が充分な平坦性を有する必要性がある。本発明の課題は充分な平坦性を持つ機能層の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するためのものであり、本発明の請求項1に係わる発明は、溶媒を含む機能層形成用塗工液を、基板上の隔壁で囲まれた領域に塗工することにより基板上に塗膜を形成した後、前記塗膜の溶剤を蒸発させて固化させる乾燥工程を有する機能性素子の製造方法において、隔壁近傍の溶剤の蒸発速度を、隔壁で囲まれた領域(セル)の中央部の蒸発速度、に比べて速くすることを特徴とする機能性素子の製造方法である。
ある。
【0012】
本発明の請求項2に係わる発明は、隔壁近傍の溶剤の蒸発速度を中央部の溶剤の蒸発速度の5〜25倍とすることを特徴とする請求項1に記載の機能性素子の製造方法である。
【0013】
本発明の請求項3に係わる発明は、前記機能層形成塗工液がインクジェット法により塗工されることを特徴とする請求項1または2に記載の機能性素子の製造方法である。
【0014】
本発明の請求項4に係わる発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法で製造された機能性素子を着色層として用いたことを特徴とするカラーフィルタである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明の効果は、中央部から周縁部への塗工液の流動を充分に行わせるために、溶媒蒸発速度分布を制御し、中央部より周辺部蒸発速度を速くしているので、機能層形成用塗工が溶剤蒸発中にセル周辺部、すなわち隔壁近傍へ流動するので、平坦な機能層を形成することができる点である。
【0016】
セル内へ供給した機能膜形成用塗工液の塗液の乾燥現象は、気層の状態や隔壁内の塗液の濃度分布などによって複雑な挙動を示す。表面張力による流動が充分に起きている間は、乾燥が進むにつれ平坦性が向上していく。しかし、均一に乾燥が進行した場合、中央部から端部への流動が乾燥の序盤、もしくは中盤に止まってしまう。その結果、乾燥後の形状から平坦性が失われる。蒸発速度分布をつけることで、乾燥終盤まで流動を持続させることができる。
【0017】
請求項2の発明の効果は、機能層の平坦化の効果が著しい蒸発速度分布を指定した点である。
【0018】
上記請求項1または2のいずれかに記載された発明においては、請求項3に記載するように、機能層形成用塗工液の塗工方法はインクジェット法であることが望ましい。インクジェット法により隔壁内に吐出された塗液は、乾燥後に平坦性が低い膜厚差の大きな凸形状を形成するおそれが大きく、本発明はそれら機能層の凸形状を平坦化する効果を持つためである。
【0019】
上記請求項1から請求請3までのいずれか1項に記載された発明においては、請求項4に記載するように、機能層がカラーフィルタであることが望ましい。カラーフィルタにおいては、平坦性の良化がコントラスト性能の良化とコスト低減につながり、効果が高いためである。
【0020】
以上のごとく、本発明によれば、平坦な機能層を有する機能性素子を製造することが出来る。その結果、例えばカラーフィルタについては、コントラスト性能の良化とコスト低減されたカラーフィルタを製造することが出来るようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明における「平坦な機能層」の条件を、隔壁の高さをD1とし、ある位置xでの機能層の膜厚をD2(x)としたときに、|D1−D2(x)|≦D1/10、の範囲内にある領域が、各セル内の機能層全域に対して3/4以上の領域を占める場合、とする。
【0022】
図2に図1のA−A’面で切った機能性素子の塗工領域断面説明図を示す。基板1上に隔壁2が作られ、隔壁間のセル3に機能層形成用の塗工液を塗布し、溶媒を蒸発させて機能層4が形成される。なお、機能層4(a)は中央部が盛り上がっている凸形状であり、機能層4(b)は均一な厚さであり、機能層4(c)は隔壁周辺部が盛り上がっている凹形状である。本発明では、まず、平坦な機能層を作成することが目的であり、さらに隔壁部との段差が少ない4(b)の構造を得ることが目的である。
【0023】
図3にカラーフィルタを対象としたときの図1のA−A’面で切った断面図を示す。基板上にコントラスト向上のためにブラックマトリックス(以下BMと表記)が形成される。BM間に3原色、R(red)、G(Green)、B(Blue)の画素パターンを所定の領域に形成する。一般的な形成方法としては、顔料分散法、染料法、電着法、印刷法、転写法やインクジェット方式などが挙げられる。
【0024】
隔壁で囲まれたセルに塗工液を供給し、溶媒を蒸発させて機能層を形成した場合の機能層の断面形状は、図3に示したように中央部が凸状になったり、逆に凹状になったりして、図2示したような平坦状にすることが難しいことが知られている。
【0025】
セル内の塗工液の塗液の乾燥は、一般的に塗液の濃度状態や気層の状態に応じた複雑な
乾燥挙動を示す。乾燥初期においては、表面張力の効果による液の流動により徐々に平坦性が向上していく。しかし、乾燥が進むにつれ充分な液の流動が行われなくなり、複雑な乾燥挙動による非平坦化効果が液の流動による平坦化効果を上回ることによって、乾燥後の機能層における平坦性が失われる。多くの場合中心部で凸形状に盛り上がる。
【0026】
発明者らは、隔壁近傍において溶媒を速く蒸発させることによって、塗液中心部の流動性を確保させ、端部に塗液が流れるようにして、平坦化し得ることを見出した。
【0027】
塗液の乾燥現象として知られているものにコーヒーステイン現象と呼ばれる現象がある。この現象は、端部(周辺部)の溶媒蒸発速度が速い場合に発生する。その理由は、蒸発が進むにつれ、中央部に対して端部の濃度が高くなっていき、結果として、乾燥後に端部が盛り上がるからである。端部と中央部の溶媒の蒸発速度が同じ場合に、乾燥後に凸形状になってしまう場合において、端部の溶媒蒸発速度を速くすることによって、端部が相対的に盛り上がることになる。その結果、上記のような平坦にする効果が発生するものと考えられる。
【0028】
本発明における塗工液の塗工手段としては、隔壁内に塗液を吐出することができる吐出装置であれば限定はされないが、インクジェット装置であることがより望ましい。インクジェット法により塗工されたカラーフィルタでは、塗工液の効率的な使用や形成工程の短縮によるコスト削減が見込まれるからである。
【0029】
蒸発速度の制御方法としては、特に限定はされないが送風や密閉、減圧による気相部位の制御が望ましい。その他の方法例としては隔壁部分を例えばレーザー光で加熱して、温度分布をつくり、蒸発速度分布を作る方法がある。カラーフィルタの場合、隔壁は黒色であり、光を吸収する。機能層作成用塗工液が吸収しない波長帯の光を照射して、隔壁のみを加熱する方法もある。また、塗工液を供給する前に、基板を加熱せず、隔壁のみを加熱しておく方法もある。その方法としては、ガラス基板の場合、ガラスは透過するが、隔壁では吸収される波長の紫外線、可視光を照射する方法がある。また、隔壁上にメッシュ状のフタをのせて蒸発速度の分布をつける方法もある。
【0030】
本発明の機能性素子の製造方法は平坦性が要求されるものであれば特に限定されないが、カラーフィルタの製造に使用することが特に望ましい。カラーフィルタは機能性素子の膜厚差が色ムラやコントラスト比悪化の原因となるおそれが大きく、平坦形状が得られることによる高性能化が可能となるためである。その他、有機EL膜の製造にも好ましい方法である。
【0031】
以下に本発明の実施例について具体的に説明する。
【0032】
<実施例1>
セル内の機能層の塗工液の溶媒の蒸発速度を、隔壁近傍と中央部で変えた場合の数値解析を実施した。溶媒が蒸発して乾燥した機能層の膜厚分布から平坦性が十分であるかどうかを評価した。膜厚分布は、図1のA−A’の断面において、セル1個分(要素1個分)を対象とした。なお、A−A’は一方の隔壁に平行で、セルの中央部を通過している。隔壁高さは2μmとした。隔壁間の距離は400μmとした。中央部の蒸発速度を3×10-7m/sとした。隔壁近傍の蒸発速度を中央部の5倍にしたときの、乾燥後の膜厚形状の結果を図4に示す。膜面高さが隔壁高さ2μmから±10%内に収まっている領域は83%であり、本発明の「平坦な機能層」の条件を満たしている。
【0033】
<実施例2>
次に、隔壁近傍の蒸発速度を中央部の20倍にしたときの乾燥後の形状結果を図5に示
す。隔壁近傍の蒸発速度を中央部の20倍にしたときの膜面高さが隔壁高さ2μmから±10%内に収まっている領域は83%であり、本発明の「平坦な機能層」の条件を満たしている。
【0034】
以下に本発明の比較例について説明する。
【0035】
<比較例1>
蒸発速度を全領域で一定(隔壁近傍の蒸発速度=中央部の蒸発速度)にしたときの乾燥後の形状結果を図6に示す。中央部の液が高い形状(凸形状)になり、膜面高さが隔壁高さから±10%の範囲外になっている。蒸発速度を全領域で一定にしたときの膜面高さが隔壁高さ2μmから±10%内に収まっている領域は44%であって、本発明の「平坦な機能層」の条件を満たしていない。
【0036】
<比較例2>
隔壁近傍の蒸発速度を中央部の50倍にしたときの乾燥後の形状結果を図7に示す。中央部付近で膜面高さが隔壁高さの±10%内に収まらない空間が生じている。隔壁近傍の蒸発速度を中央部の50倍にしたときの膜面高さが隔壁高さ2μmから±10%内に収まっている領域は66%であって、本発明の「平坦な機能層」の条件を満たしていない。
【0037】
図8に、セル内の機能膜の隔壁近傍と中央部の溶媒蒸発速度の比と、機能膜全体に対して、膜厚が隔壁高さの±10%内に収まっている機能膜の割合の関係を示した。機能膜の全領域において溶媒の蒸発速度を一様とした場合の結果と比較すると、隔壁近傍の蒸発速度を隔壁で囲まれた部分(セル)の中央部に比べて速くすることにより平坦性が向上している。また、隔壁近傍の蒸発速度が中央部の蒸発速度の5〜25倍であるときに、本発明において設定した「平坦な機能層」の条件、すなわち、隔壁の高さをD1、ある位置xでの機能層の膜厚をD2(x)として、全体の3/4以上の領域において、|D1−D2(x)|≦D1/10であること、が満たされている。
【0038】
以上の結果から、本発明の効果があることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】機能性素子と機能膜の形成領域の説明図である。
【図2】機能性素子の断面の模式図である。
【図3】カラーフィルタの断面の模式図である。
【図4】実施例1における機能層の断面形状を示す説明図である。
【図5】実施例2における機能層の断面形状を示す説明図である。
【図6】比較例1における機能層の断面形状を示す説明図である。
【図7】比較例2における機能層の断面形状を示す説明図である。
【図8】機能層端部(周辺部)の溶媒蒸発速度を増した場合の、機能層の平坦度の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1・・・基板
2・・・隔壁
3・・・セル
4・・・機能膜
4(R)、4(G)、4(B)・・・着色層(赤)、(緑)、(青)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒を含む機能層形成用塗工液を、基板上の隔壁で囲まれた領域に塗工することにより基板上に塗膜を形成した後、前記塗膜の溶剤を蒸発させて固化させる乾燥工程を有する機能性素子の製造方法において、隔壁近傍の溶剤の蒸発速度を、隔壁で囲まれた領域の中央部の蒸発速度に比べて速くすることを特徴とする機能性素子の製造方法。
【請求項2】
隔壁近傍の溶剤の蒸発速度を中央部の溶剤の蒸発速度の5〜25倍とすることを特徴とする請求項1に記載の機能性素子の製造方法。
【請求項3】
前記機能層形成塗工液をインクジェット法により塗工することを特徴とする請求項1または2に記載の機能性素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法で製造された機能性素子を着色層として用いたことを特徴とするカラーフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−229665(P2009−229665A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73189(P2008−73189)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】