欠陥診断方法および欠陥診断システム
【課題】構造物の欠陥の形状および深さを短時間で正確に検知できる欠陥診断方法および欠陥診断システムを実現する。
【解決手段】本発明に係る欠陥診断システム1は、赤外線カメラ5とコンピュータ10とを備え、対象構造物2の内部の欠陥を検知する欠陥診断システムであって、赤外線カメラ5は、対象構造物2の撮像面4の少なくとも一部を所定の時間間隔をおいて撮影して、複数の熱画像を取得し、コンピュータ10の画像解析装置12は、取得された各熱画像について、鏡像周期拡張により、複数の無限熱画像を作成し、複数の無限熱画像に基づいて、逆解析によって、欠陥の形状および表面からの深さを推定する。
【解決手段】本発明に係る欠陥診断システム1は、赤外線カメラ5とコンピュータ10とを備え、対象構造物2の内部の欠陥を検知する欠陥診断システムであって、赤外線カメラ5は、対象構造物2の撮像面4の少なくとも一部を所定の時間間隔をおいて撮影して、複数の熱画像を取得し、コンピュータ10の画像解析装置12は、取得された各熱画像について、鏡像周期拡張により、複数の無限熱画像を作成し、複数の無限熱画像に基づいて、逆解析によって、欠陥の形状および表面からの深さを推定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物内部の剥離や空洞などの欠陥を検出する欠陥診断方法および欠陥診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンクリート構造物における剥落事故の原因となる構造物表層部の剥離や空洞などの欠陥を検出する方法として、構造物をハンマー等で叩いた際の音によって欠陥の有無を判定する打音検査が行われていた。しかしながら、打音検査では、多大な労力を必要とすることから、それに代わる有効な手法として、非接触で広範囲の検査を行うことができる赤外線サーモグラフィ法が広く用いられている。
【0003】
赤外線サーモグラフィ法は、構造物内部の剥離や空洞などの欠陥の断熱性によって熱の移動が妨げられることで生じる表面温度場の変化を赤外線カメラで捉えることにより、これらの欠陥の検出を行うものである。赤外線サーモグラフィ法では、構造物内部に熱の移動を生じさせるために加熱または冷却が必要であり、加熱/冷却方法によって、ヒーターやフラッシュランプ、低温ガス吹きつけなどによるアクティブ法と、日照や自然空冷を用いるパッシブ法に分けられる。
【0004】
しかしながら、従来の赤外線サーモグラフィ法では、欠陥を含む部位を撮影した熱画像は一般に可読性が低く、欠陥の検出感度が検査員の技量に大きく依存するため、欠陥の形状や深さなどの定量的評価が困難であるという問題があった。そこで、欠陥を検出する新たな方法として、詳細な熱収支モデルに基づく順解析結果との差分をとる手法、詳細な熱収支モデルに基づく逆解析を行う手法や、アクティブ加熱に基づくロックインサーモグラフィなどの手法が提案されている(例えば、特許文献1〜4および非特許文献1〜2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3407000号公報(2003年3月14日登録)
【特許文献2】特許第3834749号公報(2006年8月4日登録)
【特許文献3】特開平5−108796号公報(1993年4月30日公開)
【特許文献4】特開平11−258188号公報(1999年9月24日公開)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】阪上隆英、他5名、「ロックイン赤外線サーモグラフィによるコンクリート構造物の非破壊検査」、日本機械学会関西支部第76期定時総会講演会論文集、2001年、No.014-1、p.6-15〜6-16
【非特許文献2】増田新、他3名、「熱画像の逆解析によるコンクリート構造物の欠陥検出と深さ推定」、日本機械学会論文集(C編)、2008年、74巻、740号、p.789〜797
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の発明は、屋外環境下において撮影した1枚の熱画像から欠陥の検出と深さおよび3次元形状の定量化を可能とする手法であり、熱画像のエッジパターン特徴量に着目することによって課題を解決している。しかしながら、該発明では、空隙の深さ、厚さを推定するための回帰式の導出のために、基準となる熱収支モデルに対する精密な順解析を必要とする。このため、上記発明においては、対象構造物の3次元形状、撮像面以外の面における熱収支特性と熱負荷(日射条件など)に関する詳細な事前知識を必要とするという問題があり、実用性に疑問がある。
【0008】
特許文献2に記載の発明は、RC造り或はSRC造りのコンクリート構造物を対象にしたものであり、熱伝導逆解析に基づいて欠陥位置を同定している。しかしながら、鉄筋または鉄骨へのアクティブ加熱を前提としており、また、熱伝導逆解析の具体的内容は、記述されていない。
【0009】
特許文献3および特許文献4に記載の発明は、健全状態を表す熱収支解析モデルの順解析結果と取得された熱画像との差異から、画像中の欠陥部分を抽出するものである。そのため、該発明では、欠陥の深さを知ることができないほか、順解析を行うために対象構造物の3次元形状、撮像面以外の面における熱収支特性と熱負荷(日射条件など)に関する詳細な事前知識を必要とするという問題がある。
【0010】
このように、特許文献1〜4に記載の発明は、詳細な熱収支モデルに基づくため、対象構造物の構造、環境、全表面の熱収支特性、熱負荷(日射条件など)に関する詳細な事前知識を必要とするという問題があり、実用性が難しい。
【0011】
また、非特許文献1、2には、検査時間が長くかかる(数十分から数時間)という問題がある。
【0012】
具体的には、非特許文献1に記載の発明では、ある周期で点灯・消灯するランプヒータによって対象物を周期加熱し、これをロックイン計測することによって、熱負荷入力に対する温度応答の位相遅れを算出し、加熱周期の変化に対する位相遅れの変化の関係から欠陥までの深さを算出している。周期加熱を行うことによってSN比を向上させることができる反面、コンクリート構造物の場合、長い計測時間を必要とするという問題がある。
【0013】
非特許文献2に記載の発明では、表面熱画像の逆解析により、欠陥形状の鮮明化と欠陥深さの推定を行うことができるが、対象構造物が熱的に定常状態にあることが必須条件となっている。このため、パッシブ加熱法においては、日射条件など熱負荷条件の変化が少ないことが実施条件となることから、実施可能性が自然条件に大きく依存するという問題がある。また、アクティブ加熱法においては、対象構造物が定常状態に達するまで加熱をしなければならず、数時間単位の加熱時間を必要とすることから、短時間に広い範囲を低コストで検査可能であるという赤外線サーモグラフィ法の本来の利点を相殺してしまうという問題がある。
【0014】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、構造物の欠陥の形状および深さを短時間で正確に検知できる欠陥診断方法および欠陥診断システムを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明に係る欠陥診断方法は、対象構造物の内部の欠陥を検知する欠陥診断方法であって、所定の時間間隔における上記対象構造物の表面の少なくとも一部の複数の熱画像を取得する熱画像取得工程と、取得された各熱画像について、画像と当該画像の鏡像対称画像とを繋ぎ合わせ、当該鏡像対称画像と当該鏡像対称画像のさらなる鏡像対称画像とをさらに繋ぎ合わせる処理を繰り返すことにより、複数の無限熱画像を作成する鏡像周期拡張工程と、上記複数の無限熱画像に基づいて、逆解析によって上記欠陥の形状および上記表面からの深さを推定する逆解析工程と、を有することを特徴としている。
【0016】
上記の構成によれば、熱画像取得工程において取得された複数の熱画像を、鏡像周期拡張工程において、x、y軸方向に無限の広がりを持った無限平板領域である複数の無限熱画像に変換する。これにより、元の熱画像の温度分布には存在しない不連続性が導入されることを回避しつつ、撮像領域外の情報を利用することなく熱伝導逆解析が可能になる。さらに、逆解析工程において、所定の時間間隔における複数の無限熱画像に基づいて逆解析を行うので、対象構造物の温度が非定常状態であっても、正確に欠陥の形状および表面からの深さを推定できる。また、対象構造物が定常状態である必要がないので、診断に要する時間を短縮することができる。したがって、構造物の欠陥の形状および深さを短時間で正確に検知できる欠陥診断方法を実現することができる。
【0017】
本発明に係る欠陥診断方法では、上記熱画像取得工程では、M+1(Mは1以上の整数)枚の熱画像を取得し、上記熱画像の撮像面は矩形であり、上記逆解析工程は、上記熱画像取得工程の時刻t0、t0+Δt1、・・・、t0+ΔtMにおける熱画像から、下記の式(A)によって、上記撮像面の温度のべき展開係数を求め、下記の式(B)によって、上記撮像面の深さ方向熱流束のべき展開係数を求める第1の演算工程と、上記温度のべき展開係数と上記熱流束のべき展開係数とを2重フーリエ変換する第2の演算工程と、下記の式(C)により、規定の深さに位置するn(nは1以上の整数)層目の温度と深さ方向熱流束とを求める第3の演算工程と、撮像面の各点における深さ方向熱流束の絶対値が最小になる深さを求める第4の演算工程と、を有することが好ましい。
【0018】
【数1】
【0019】
【数2】
【0020】
【数3】
【0021】
θm:撮像面の温度のm次べき展開係数
qm:撮像面の深さ方向熱流束のm次べき展開係数
x:撮像面の横方向の座標
y:撮像面の縦方向の座標
z:撮像面に垂直な深さ方向の座標
θ(x、y、z、t):任意の点(x、y、z)任意の時刻tにおける温度
qz(x、y、z、t):任意の点(x、y、z)任意の時刻tにおける深さ方向の熱流束
a:熱拡散率 a=κ/(cρ)
c:比熱
ρ:密度
κ:熱伝導率
α0:撮像面における総合熱伝達係数
θ0:撮像面における周囲温度
q0:撮像面への熱流束入力
Fxy:x、yに関する2重フーリエ変換
IFxy:x、yに関する2重逆フーリエ変換
kx:x軸方向の波数
ky:y軸方向の波数
本発明に係る欠陥診断方法では、上記逆解析工程の後に、推定された欠陥の上記表面からの深さを色情報としてマッピングする欠陥可視化工程を有することが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、推定された欠陥の上記表面からの深さが色情報としてマッピングされるので、欠陥の状態を直感的に把握することができる。
【0023】
上記の課題を解決するために、本発明に係る欠陥診断システムは、サーモグラフィ装置とコンピュータとを備え、対象構造物の内部の欠陥を検知する欠陥診断システムであって、上記サーモグラフィ装置は、上記対象構造物の表面の少なくとも一部を所定の時間間隔をおいて撮影して、複数の熱画像を取得し、上記コンピュータは、取得された各熱画像について、画像と当該画像の鏡像対称画像とを繋ぎ合わせ、当該鏡像対称画像と当該鏡像対称画像のさらなる鏡像対称画像とをさらに繋ぎ合わせる処理を繰り返すことにより、複数の無限熱画像を作成する鏡像周期拡張手段と、上記複数の無限熱画像に基づいて、逆解析によって上記欠陥の形状および上記表面からの深さを推定する逆解析手段と、を有することを特徴としている。
【0024】
上記の構成によれば、鏡像周期拡張手段が、サーモグラフィ装置によって取得された複数の熱画像を、x、y軸方向に無限の広がりを持った無限平板領域である複数の無限熱画像に変換する。これにより、元の熱画像の温度分布には存在しない不連続性が導入されることを回避しつつ、撮像領域外の情報を利用することなく熱伝導逆解析が可能になる。さらに、逆解析手段が、所定の時間間隔における複数の無限熱画像に基づいて逆解析を行うので、対象構造物の温度が非定常状態であっても、正確に欠陥の形状および表面からの深さを推定できる。また、対象構造物が定常状態である必要がないので、診断に要する時間を短縮することができる。したがって、構造物の欠陥の形状および深さを短時間で正確に検知できる欠陥診断システムを実現することができる。
【0025】
本発明に係る欠陥診断システムでは、上記サーモグラフィ装置は、M+1(Mは1以上の整数)枚の熱画像を取得し、上記熱画像の撮像面は矩形であり、上記逆解析手段は、上記サーモグラフィ装置が時刻t0、t0+Δt1、・・・、t0+ΔtMに取得した熱画像から、下記の式(A)によって、上記撮像面の温度のべき展開係数を求め、下記の式(B)によって、上記撮像面の深さ方向熱流束のべき展開係数を求め、上記温度のべき展開係数と上記熱流束のべき展開係数とを2重フーリエ変換し、下記の式(C)により、規定の深さに位置するn(nは1以上の整数)層目の温度と深さ方向熱流束とを求め、撮像面の各点における深さ方向熱流束の絶対値が最小になる深さを求めることが好ましい。
【0026】
【数1】
【0027】
【数2】
【0028】
【数3】
【0029】
θm:撮像面の温度のm次べき展開係数
qm:撮像面の深さ方向熱流束のm次べき展開係数
x:撮像面の横方向の座標
y:撮像面の縦方向の座標
z:撮像面に垂直な深さ方向の座標
θ(x、y、z、t):任意の点(x、y、z)任意の時刻tにおける温度
qz(x、y、z、t):任意の点(x、y、z)任意の時刻tにおける深さ方向の熱流束
a:熱拡散率 a=κ/(cρ)
c:比熱
ρ:密度
κ:熱伝導率
α0:撮像面における総合熱伝達係数
θ0:撮像面における周囲温度
q0:撮像面への熱流束入力
Fxy:x、yに関する2重フーリエ変換
IFxy:x、yに関する2重逆フーリエ変換
kx:x軸方向の波数
ky:y軸方向の波数
本発明に係る欠陥診断システムでは、上記コンピュータは、推定された欠陥の上記表面からの深さを色情報としてマッピングする欠陥可視化手段を有することが好ましい。
【0030】
上記の構成によれば、推定された欠陥の上記表面からの深さが色情報としてマッピングされるので、欠陥の状態を直感的に把握することができる。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明に係る欠陥診断方法は、対象構造物の内部の欠陥を検知する欠陥診断方法であって、所定の時間間隔における上記対象構造物の表面の少なくとも一部の複数の熱画像を取得する熱画像取得工程と、取得された各熱画像について、画像と当該画像の鏡像対称画像とを繋ぎ合わせ、当該鏡像対称画像と当該鏡像対称画像のさらなる鏡像対称画像とをさらに繋ぎ合わせる処理を繰り返すことにより、複数の無限熱画像を作成する鏡像周期拡張工程と、上記複数の無限熱画像に基づいて、逆解析によって上記欠陥の形状および上記表面からの深さを推定する逆解析工程と、を有する構成である。また、本発明に係る欠陥診断システムは、サーモグラフィ装置とコンピュータとを備え、対象構造物の内部の欠陥を検知する欠陥診断システムであって、上記サーモグラフィ装置は、上記対象構造物の表面の少なくとも一部を所定の時間間隔をおいて撮影して、複数の熱画像を取得し、上記コンピュータは、取得された各熱画像について、画像と当該画像の鏡像対称画像とを繋ぎ合わせ、当該鏡像対称画像と当該鏡像対称画像のさらなる鏡像対称画像とをさらに繋ぎ合わせる処理を繰り返すことにより、複数の無限熱画像を作成する鏡像周期拡張手段と、上記複数の無限熱画像に基づいて、逆解析によって上記欠陥の形状および上記表面からの深さを推定する逆解析手段と、を有する構成である。したがって、構造物の欠陥の形状および深さを短時間で正確に検知できる欠陥診断方法および欠陥診断システムを実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係る欠陥診断システムの概略構成を示す図である。
【図2】上記欠陥診断システムによって診断される対象構造物の内部を示す断面図である。
【図3】(a)〜(c)は、領域の鏡像周期拡張の手順を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る逆解析の手順を示すフローチャートである。
【図5】推定された欠陥の深さ画像の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施例1に係る実験の概略構成を示す図である。
【図7】(a)〜(c)はそれぞれ、加熱開始から26分後、28分後および30分後の表面温度画像である。
【図8】図7に示す表面温度画像に基づいて、定常モデルに基づく従来の逆解析法による逆解析を行い、深さ画像を計算した結果を示す図である。
【図9】図7に示す表面温度画像に基づいて、本発明による逆解析法による逆解析を行い、深さ画像を計算した結果を示す図である。
【図10】(a)は、実施例2において用いる直方体モデルを示す平面図であり、(b)は、該直方体モデルの断面図である。
【図11】D=0.02mの場合について、有限要素解析で求めた直方体モデルの表面温度分布を示す図であり、(a)加熱開始20分後の表面温度分布を示しており、(b)は、加熱開始60分後の表面温度分布を示している。
【図12】加熱開始20分後の推定した内部熱流束分布から作成した深さ画像であり、(a)は、0次近似の場合を示しており、(b)は、2次近似の場合を示している。
【図13】加熱開始60分後の推定した内部熱流束分布から作成した深さ画像であり、(a)は、0次近似の場合を示しており、(b)は、2次近似の場合を示している。
【図14】加熱開始20分後の直方体モデルの中央点における温度と熱流束の推定値の深さ方向分布を、真値とともにプロットしたグラフである。
【図15】加熱開始60分後の直方体モデルの中央点における温度と熱流束の推定値の深さ方向分布を、真値とともにプロットしたグラフである。
【図16】(a)は、欠陥深さD=0.02mの場合における、熱画像の撮影時刻(加熱開始からの経過時間)と欠陥深さの推定値との関係をプロットしたグラフであり、(b)は、欠陥深さD=0.04mの場合における、熱画像の撮影時刻(加熱開始からの経過時間)と欠陥深さの推定値との関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施の一形態について、図1〜図16に基づいて説明すれば以下のとおりである。
【0034】
(欠陥診断システム1の構成)
図1は、本実施形態に係る欠陥診断システム1の概略構成を示す図である。欠陥診断システム1は、対象構造物2の内部の欠陥を検知するシステムであり、赤外線カメラ5およびコンピュータ10から構成される。
【0035】
本実施形態では、対象構造物2は橋梁のコンクリート床板であり、対象構造物2の上面が非定常光源である日射3で加熱されている。上面(加熱面)への入射熱量および撮像領域以外の面の境界条件は未知である。赤外線カメラ(サーモグラフィ装置)5は、対象構造物2の下面(撮像面)4を所定の時間間隔をおいて撮影し、複数の熱画像データをコンピュータ10に出力する。なお、4aは赤外線カメラ5の撮像領域を示している。コンピュータ10は、画像記憶装置11、画像解析装置12、表示装置13およびデータ入力装置14を備えており、赤外線カメラ5から出力された熱画像データに基づいて、対象構造物2の内部の欠陥の形状および深さを推定する。
【0036】
図2は、対象構造物2の内部を示す断面図である。同図に示すように、対象構造物2の加熱面から入射した熱は、対象構造物2の厚さ方向に伝導し、対象構造物2の内部に熱流束6を形成する。ここで、加熱面の反対側の撮像面4の表層近くに剥離欠陥7があるとする。剥離欠陥7は薄い空洞層であるため、熱の伝導が妨げられ、その結果、撮像面4の剥離欠陥7に該当する位置に、低温部分4bが形成される。したがって、撮像面4の表面温度分布を逆解析することによって、剥離欠陥7の形状と撮像面4からの深さを推定することができる。
【0037】
欠陥診断システム1では、撮像面4の表面温度分布を把握するために、撮像面4を赤外線カメラ5で撮影し熱画像(温度画像)を取得する。このとき、赤外線カメラ5は、一定時間をおいて熱画像を複数枚取得し、画像記憶装置11に熱画像を格納する。なお、本実施形態では、赤外線カメラ5による撮像領域4aは矩形であり、赤外線カメラ5の光学系と撮影面との幾何学的配置によって画像がひずむ場合は、画像を矩形領域にマッピングするために、あおり補正など適切な処理を施すものとする。
【0038】
画像解析装置12は、CPUで構成され、画像記憶装置11に格納された熱画像データに対して逆解析を行い、表示装置13に逆解析の結果が表示される。また、検査員はキーボードやマウスなどのデータ入力装置14によって、各種のパラメータを入力することができる。続いて、画像解析装置12における処理内容を説明する。
【0039】
(鏡像周期拡張)
矩形の撮像領域4aを一方の面として、撮像領域4aを深さ方向にdだけ平行移動した面を対面とする直方体領域において、撮像面4内の縦横方向にx、y軸を設定し、深さ方向にz軸を設定し、撮像面4をz=0、反対側の対面をz=dと定める。
【0040】
次に、この直方体領域をx、y軸方向に周期的に繋ぎ合わせ、z軸方向の厚さがdで、x、y軸方向に無限の広がりを持った無限平板領域に拡張する。これによって対象構造物は無限平板として扱えるようになるため、逆解析が著しく簡単になるほか、撮像領域以外の情報を知ることなく熱伝導逆解析を行うことが可能になる。
【0041】
ただし、単に周期的に領域を繋ぎ合わせた場合、領域の繋ぎ目において元の温度分布には存在しない不連続性が導入されることとなる。そこで、本実施形態では、不連続性を回避するため、以下の操作で直方体領域を無限平板領域に拡張する。本実施形態では、この操作を鏡像周期拡張と呼ぶ。
【0042】
図3(a)〜(c)は、領域の鏡像周期拡張の手順を示す図である。まず、図3(a)に示す直方体領域と、そのx方向およびy方向の鏡像を、図3(b)に示すように、領域の継ぎ目における温度が連続になるようにつなぎ合わせる。同じ要領で、図3(c)に示すように、各領域を単位セルとして周期拡張する。このように、単純な周期拡張ではなく、いったん鏡像対称拡張を行ってから周期拡張を行うことによって、元の温度分布には存在しない不連続性が導入されることを回避できる。
【0043】
(非定常層間伝達マトリクス)
矩形に撮像領域4aを一面とする直方体領域を、上記の方法によってx、y方向に鏡像周期拡張した無限平板領域において、任意の点(x、y、z)における温度をθ(x、y、z、t)とすると、無限平板領域における3次元非定常熱伝導方程式および撮像面4の境界条件は次の式(1)および(2)のようになる。
【0044】
【数4】
【0045】
ただし、qzは深さ方向の熱流束であり、
【0046】
【数5】
【0047】
と定義される。また、aは熱拡散率、cは比熱、ρは密度、κは熱伝導率、α0は撮像面4における総合熱伝達係数、θ0は撮像面における周囲温度、q0は撮像面への熱流束入力である。これらのパラメータは全て既知であり、検査員がデータ入力装置14を用いて画像解析装置12に入力する。
【0048】
欠陥部は、平板表面から深さDの位置にある表面に平行な厚さhの層状の有限領域であり、その境界Γdefectを内部断熱境界と仮定すると、欠陥部上下面における深さ方向熱流束は、
【0049】
【数6】
【0050】
となる。
【0051】
無限平板領域をz軸方向に仮想的に層分割する。第n番目の層をz∈[zn−1、zn]と定め、z0=0とする。
【0052】
次に、上記の支配方程式(1)をx、yに関して2重フーリエ変換すると、式(5)を得る。
【0053】
【数7】
【0054】
ここで、Fxyはx、yに関する2重フーリエ変換、ハットは2重フーリエ変換領域での量を表す。また、k(=√(kx2+ky2))、kxおよびkyは、x、y軸方向の波数である。
【0055】
式(5)を解くために、温度場と深さ方向熱流束場を時間について、べき展開近似する。
【0056】
【数8】
【0057】
式(6)の第1式をx、yに関して2重フーリエ変換して式(5)に代入し、時間に関して同次数の係数を等値すると、式(7)を得る。
【0058】
【数9】
【0059】
式(7)を、ハットθM、 ハットθM−1、・・・、ハットθ0の順にzに関する初期値問題として解くと、第n−1層および第n層の温度展開係数の2重フーリエ変換と熱流束展開係数との2重フーリエ変換を関連づける式(8)を得る。
【0060】
【数10】
【0061】
ここで、Hnは層間伝達マトリクスであり、波数領域で第n−1層の温度および熱流束を第n層の温度および熱流束に写像するものである。Hnを構成するHnmの具体的な内容をm=0からm=2まで示すと、式(9)〜(11)のようになる。
【0062】
【数11】
【0063】
式(8)による内部場の推定は不安定性を有するため、実際には対角ブロックHn0の代わりにTikhonovの正則化を行った式(12)を用いる。
【0064】
【数12】
【0065】
ここで、λは正則化パラメータである。
【0066】
(逆解析の手順)
以上のように導いた式を用いて、画像解析装置12において実施する逆解析の手順は、以下の通りである。
【0067】
まず、解析に必要なパラメータ(撮像面の境界条件、対象物の熱伝導率および熱拡散率)、および、べき展開近似の打ち切り次数Mをデータ入力装置14から入力する。次に、撮像領域4a(z=0)での温度のべき展開係数θmと熱流束のべき展開係数qmとを計算する。撮像領域4aの温度の展開係数は、時刻t0、t0+Δt1、・・・、t0+ΔtMにおいて赤外線カメラ5で取得した熱画像から、次の連立1次方程式(13)を解くことによって求められる。
【0068】
【数13】
【0069】
また、撮像領域4aの熱流束の展開係数は、既知の境界条件式(2)から撮像領域4aでの深さ方向熱流束を計算した後、次の連立方程式(14)を解くことによって求められる。
【0070】
【数14】
【0071】
図3(b)に示すように鏡像拡張してから、これらの温度のべき展開級数および熱流束のべき展開級数を高速2重フーリエ変換することによりベクトル(ハットu0)を求める。このベクトル(ハットu0)を初期値として、式(8)により逐次的に内部境界面におけるベクトル(ハットun)を求めていく。任意の内部境界面における温度分布と深さ方向熱流束分布とは、これらを高速2重逆フーリエ変換し、べき展開式(6)に戻すことによって求めることができる。
【0072】
図4は、本実施形態に係る逆解析の手順を示すフローチャートである。まず、データ入力装置14によって、熱伝導率、熱拡散率、表面の境界条件などの逆解析に必要なパラメータを入力する(ステップS1)。続いて、対象構造物2の表面の温度画像を赤外線カメラ5で撮影する(ステップS2、熱画像取得工程)。続いて、べき展開近似の打ち切り次数Mを0に設定して(ステップS3)、あおり補正など必要な処理を行い、表面の温度分布を計算する(ステップS4)。次に、境界条件を用いて表面の熱流束分布を計算し(ステップS5)、式(13)、式(14)を解いて、表面温度のべき展開係数と熱流束のべき展開係数とを計算する(ステップS6、第1の演算工程)。続いて、これらの温度のべき展開級数および熱流束のべき展開級数を高速2重フーリエ変換して、ベクトル(ハットu0)を求める(ステップS7、第2の演算工程)。
【0073】
続いて、ベクトル(ハットu0)を初期値として、式(8)により逐次的に内部境界面におけるベクトル(ハットun)を求める。具体的には、まずn=1に設定して(ステップS8)、式(8)により、n−1層目の温度および熱流束のべき展開係数のフーリエ変換からn層目の温度および熱流束のべき展開係数のフーリエ変換を求め(ステップS9)、n層目の表面温度のべき展開係数と熱流束のべき展開係数とを高速2重逆フーリエ変換して、式(6)により、n層目の温度と深さ方向熱流束を求める(ステップS10、第3の演算工程)。n層目の深さが規定の深さに達していない場合(ステップS11において「NO」)、nを1増加させて(ステップS12)、再度ステップS9およびS10を行い、このサイクルをn層目の深さが規定の深さに達するまで繰り返す。
【0074】
n層目の深さが規定の深さに達した場合(ステップS11において「YES」)、一定時間をおいて対象構造物2の表面の温度画像を赤外線カメラ5で撮影する(ステップS13、熱画像取得工程)。ここで、式(13)によって、表面温度の予測を行い、ステップS13において撮影された温度画像と予測温度との誤差が規定範囲内であるかを判定する(ステップS14)。上記誤差が規定範囲内ではない場合(ステップS14において「NO」)、べき展開近似の打ち切り次数Mを1増加させて(ステップS15)、再度ステップS4〜S14の処理を繰り返す。上記誤差が規定範囲内である場合(ステップS14において「YES」)、撮像面の各点における深さ方向熱流束を深さ方向にスキャンし深さ方向熱流束の絶対値が最小になる深さを求めてこれを欠陥深さとし(ステップS16、第4の演算工程)、各点の欠陥深さを画像化した深さ画像を作成する(ステップS17)。
【0075】
以上のようにして撮像領域4aから深さ方向に順次内部層の温度および深さ方向熱流束の分布を求めていき、各点において深さ方向熱流束がゼロになる深さに断熱層(すなわち欠陥)が存在すると判定する。
【0076】
続いて、深さ画像を表示装置13に表示することにより、欠陥の深さと形状を可視化することができる(ステップS18)。図5は、推定された欠陥の深さ画像の一例を示している。深さ画像では、推定された欠陥の撮像領域4aからの深さが色情報として各ピクセルにマッピングされており、深さと色との対応関係はカラーバーに示される。したがって、欠陥の状態を直感的に把握することができる。
【0077】
以上のように、本実施形態に係る欠陥診断システム1では、従来の欠陥診断システムにおいて実用化に向けての障害となっていた定常性の条件を取り除き、非定常な熱画像から欠陥像の再構築を行うことができるので、欠陥の形状および深さを短時間で正確に検知できる。
【実施例1】
【0078】
本発明に係る欠陥診断システムによって、短時間で正確に欠陥の形状および深さを検知できることを確認するため、下記のような実験を行った。
【0079】
図6は、本実施例に係る実験の概略構成を示す図である。同図に示すように、ホットプレート20の上に熱伝導性のシリコンラバーシート21を挟んでモルタル試験片22を載せた。シリコンラバーシート21は、モルタル試験片22とホットプレート20との隙間をなくし、モルタル試験片22の背面が均一に加熱されるようにするために用いた。ホットプレートの温度を50℃に設定してモルタル試験片22を加熱し、試験片の真上に赤外線カメラを固定し、モルタル試験片22の表面の熱画像を撮影した。また、モルタル試験片22の側面はスタイロフォームで囲い、断熱境界を再現した。
【0080】
モルタル試験片22は、一辺300mm、厚さ60mmの直方体である。モルタル試験片22の内部には、人工欠陥として、撮像面のほぼ中央の、撮像面から深さ20mmの位置に、一辺100mm、厚さ10mmの正方形状のスタイロフォームを埋め込んだ。以上の構成で、赤外線カメラによって撮影した複数毎の熱画像データに基づいて、欠陥の深さを推定した。
【0081】
図7(a)〜(c)はそれぞれ、加熱開始から26分後、28分後および30分後の表面温度画像を示している。
【0082】
また、図8および図9は、図7に示す表面温度画像を元に逆解析を行い、深さ画像を計算した結果を示す図である。ここで、図8は、定常モデルに基づく逆解析法(非特許文献2の手法)を用いた結果を示しており、図9は、本発明による逆解析法(M=2)を用いた結果を示している。定常モデルに基づく手法では、推定された欠陥の深さ(9mm)が実際(20mm)よりはるかに浅い。一方、本発明による手法では、推定された欠陥の深さが24mmであり、ほぼ正確に欠陥の深さが推定されている。この結果から、本発明に係る欠陥測定方法は、非定常状態の対象構造物であっても、正確に欠陥の深さを測定できることが分かる。また、測定時間が4分と非常に短時間であるため、実用性が高い。
【実施例2】
【0083】
また、本発明に係る欠陥診断システムによって、短時間で正確に欠陥の形状および深さを検知できることを確認するため、シミュレーションによる下記のような数値実験を行った。
【0084】
図10(a)は、本実施例において用いる直方体モデル30を示す平面図であり、(b)は、直方体モデル30の断面図である。直方体モデル30の材質はモルタルを想定し、縦0.3m、横0.3m、高さ0.06mである。また、直方体モデル30は、欠陥として表面(撮像面)30aからDの深さに、厚さ0.01mの正方形状の欠陥(空洞)31を有するとする。欠陥31の内部境界全てを断熱境界、側面全てを断熱境界、表面を熱伝達境界とし、初期温度は室温とする。時刻ゼロから背面30bに一定温度拘束を与えて有限要素法によって非定常熱伝導解析を行い、得られた内部温度場および熱流束場を逆問題に対する真値として扱った。有限要素解析に用いたパラメータの値を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
図11は、D=0.02mの場合について、有限要素解析で求めた直方体モデル30の表面温度分布を示す図であり、(a)加熱開始20分後の表面温度分布を示しており、(b)は、加熱開始60分後の表面温度分布を示している。図11では、欠陥31に対応する位置で低温部が出現していることがわかるが、低温部の輪郭は不明瞭で欠陥形状が判別できない上に、欠陥31の深さに関する情報は得られない。
【0087】
図12は、加熱開始20分後の推定した内部熱流束分布から作成した深さ画像であり、(a)は、0次近似の場合を示しており、(b)は、2次近似の場合を示している。また、図13は、加熱開始60分後の推定した内部熱流束分布から作成した深さ画像であり、(a)は、0次近似の場合を示しており、(b)は、2次近似の場合を示している。図12および図13において、画像右隣のバーは、推定された深さ(単位m)を表している。
【0088】
図12(a)に示すように、0次近似の場合は、一見、欠陥像が鮮明化されているようであるが、深さの値は全く正確でなく、ごく表面に近い値として推定されている。これに対し、図12(b)に示すように、2次近似の場合は、得られた深さ画像は元の温度画像に比べて欠陥像が縮小されているものの輪郭は鮮明化されており、欠陥が正方形であること、および、その深さが0.02m付近であることが明瞭に読み取れる。同様の傾向は図13においても見られるが、2次近似の場合の欠陥像の縮小は比較的軽微である。
【0089】
温度場の時間依存性のべき展開近似次数の影響を詳しく見るため、直方体モデル30の中央点における温度と熱流束の推定値の深さ方向分布を、真値とともにプロットしたものを図14および図15に示す。熱流束のグラフにはゼロレベルを破線で示しているが、これと熱流束の曲線との交点が中央点における欠陥深さである。
【0090】
まず、近似次数の違いの影響に着目すると、0次近似より2次近似のほうが内部温度・熱流束場の深さ方向依存性を適切に表現できていることがわかる。すなわち、時間依存性の表現力を高めることが空間依存性の表現力をも高めている。このことは、前述の式(7)を使って説明することが可能である。式(7)で波数をゼロとした式は、各層の温度の面内積分値を与える式となる。ここで、M=0とすると(0次近似)、式(7)は、
【0091】
【数15】
【0092】
となり、これより、温度の面内積分値は深さ方向に1次関数として推定されることがわかる。M=1とした場合(1次近似)は、
【0093】
【数16】
【0094】
となり、温度の面内積分値は、深さ方向に3次関数になり、同様に、M=2とした場合(2次近似)は5次関数になる。つまり、温度の時間依存性のべき展開近似の次数を高くすると、時間依存性の表現力が高められて、より強い非定常性を持ったデータに対応できるようになると同時に、空間依存性の表現力も高められ、その結果、深さの推定精度が向上する。
【0095】
次に、加熱開始後の経過時刻による違いを見てみると、加熱開始20分後では、加熱面(深さ0.06m)から始まった温度上昇が欠陥の下流側にほとんど到達していないのに対し、加熱開始60分後では、欠陥下流側の領域の温度が十分に上昇している。これによって欠陥縁部を迂回して通過する深さ方向の熱流束が大きくなり、図12(b)に比べて図13(b)の欠陥縁部の形状推定精度が高まっている。
【0096】
最後に、非定常性を考慮した本発明に係る逆解析手法の有効性を確認するために、使用する画像の撮影時刻(加熱開始からの経過時間)と欠陥深さの推定値との関係を、欠陥深さD=0.02mおよびD=0.04mの場合についてプロットしたものを、それぞれ図16(a)および(b)に示す。同図より、全体的な傾向として、加熱開始から時間が経過するほど推定精度が高くなっていくことが分かる。これは、加熱開始からの時間が経過するにしたがって、系が定常状態に近づいていくためである。
【0097】
特に、0次近似すなわち定常熱伝導場を仮定した解法は、系が定常状態に至る過渡領域(非定常領域)においては全く信頼性がない。これに対し、1次近似の非定常熱伝導場を仮定した解法では著しく精度が向上し、2次近似の非定常熱伝導場を仮定した解法では、浅い欠陥に対しては良好な深さ推定精度を確保できている。なお、深い欠陥については、さらに高次の近似の非定常熱伝導場を仮定した解法を採用すればよい。
【0098】
(実施形態の総括)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、構造物内部の剥離や空洞などの欠陥を検出する欠陥診断システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0100】
1 欠陥診断システム
2 対象構造物
3 日射
4 撮像面
4a 撮像領域
4b 低温部分
5 赤外線カメラ(サーモグラフィ装置)
6 熱流束
7 剥離欠陥(欠陥)
10 コンピュータ
11 画像記憶装置
12 画像解析装置(鏡像周期拡張手段、逆解析手段、欠陥可視化手段)
13 表示装置(欠陥可視化手段)
14 データ入力装置
20 ホットプレート
21 シリコンラバーシート
22 モルタル試験片(対象構造物)
30 直方体モデル(対象構造物)
30a 表面
30b 背面
31 欠陥
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物内部の剥離や空洞などの欠陥を検出する欠陥診断方法および欠陥診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンクリート構造物における剥落事故の原因となる構造物表層部の剥離や空洞などの欠陥を検出する方法として、構造物をハンマー等で叩いた際の音によって欠陥の有無を判定する打音検査が行われていた。しかしながら、打音検査では、多大な労力を必要とすることから、それに代わる有効な手法として、非接触で広範囲の検査を行うことができる赤外線サーモグラフィ法が広く用いられている。
【0003】
赤外線サーモグラフィ法は、構造物内部の剥離や空洞などの欠陥の断熱性によって熱の移動が妨げられることで生じる表面温度場の変化を赤外線カメラで捉えることにより、これらの欠陥の検出を行うものである。赤外線サーモグラフィ法では、構造物内部に熱の移動を生じさせるために加熱または冷却が必要であり、加熱/冷却方法によって、ヒーターやフラッシュランプ、低温ガス吹きつけなどによるアクティブ法と、日照や自然空冷を用いるパッシブ法に分けられる。
【0004】
しかしながら、従来の赤外線サーモグラフィ法では、欠陥を含む部位を撮影した熱画像は一般に可読性が低く、欠陥の検出感度が検査員の技量に大きく依存するため、欠陥の形状や深さなどの定量的評価が困難であるという問題があった。そこで、欠陥を検出する新たな方法として、詳細な熱収支モデルに基づく順解析結果との差分をとる手法、詳細な熱収支モデルに基づく逆解析を行う手法や、アクティブ加熱に基づくロックインサーモグラフィなどの手法が提案されている(例えば、特許文献1〜4および非特許文献1〜2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3407000号公報(2003年3月14日登録)
【特許文献2】特許第3834749号公報(2006年8月4日登録)
【特許文献3】特開平5−108796号公報(1993年4月30日公開)
【特許文献4】特開平11−258188号公報(1999年9月24日公開)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】阪上隆英、他5名、「ロックイン赤外線サーモグラフィによるコンクリート構造物の非破壊検査」、日本機械学会関西支部第76期定時総会講演会論文集、2001年、No.014-1、p.6-15〜6-16
【非特許文献2】増田新、他3名、「熱画像の逆解析によるコンクリート構造物の欠陥検出と深さ推定」、日本機械学会論文集(C編)、2008年、74巻、740号、p.789〜797
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の発明は、屋外環境下において撮影した1枚の熱画像から欠陥の検出と深さおよび3次元形状の定量化を可能とする手法であり、熱画像のエッジパターン特徴量に着目することによって課題を解決している。しかしながら、該発明では、空隙の深さ、厚さを推定するための回帰式の導出のために、基準となる熱収支モデルに対する精密な順解析を必要とする。このため、上記発明においては、対象構造物の3次元形状、撮像面以外の面における熱収支特性と熱負荷(日射条件など)に関する詳細な事前知識を必要とするという問題があり、実用性に疑問がある。
【0008】
特許文献2に記載の発明は、RC造り或はSRC造りのコンクリート構造物を対象にしたものであり、熱伝導逆解析に基づいて欠陥位置を同定している。しかしながら、鉄筋または鉄骨へのアクティブ加熱を前提としており、また、熱伝導逆解析の具体的内容は、記述されていない。
【0009】
特許文献3および特許文献4に記載の発明は、健全状態を表す熱収支解析モデルの順解析結果と取得された熱画像との差異から、画像中の欠陥部分を抽出するものである。そのため、該発明では、欠陥の深さを知ることができないほか、順解析を行うために対象構造物の3次元形状、撮像面以外の面における熱収支特性と熱負荷(日射条件など)に関する詳細な事前知識を必要とするという問題がある。
【0010】
このように、特許文献1〜4に記載の発明は、詳細な熱収支モデルに基づくため、対象構造物の構造、環境、全表面の熱収支特性、熱負荷(日射条件など)に関する詳細な事前知識を必要とするという問題があり、実用性が難しい。
【0011】
また、非特許文献1、2には、検査時間が長くかかる(数十分から数時間)という問題がある。
【0012】
具体的には、非特許文献1に記載の発明では、ある周期で点灯・消灯するランプヒータによって対象物を周期加熱し、これをロックイン計測することによって、熱負荷入力に対する温度応答の位相遅れを算出し、加熱周期の変化に対する位相遅れの変化の関係から欠陥までの深さを算出している。周期加熱を行うことによってSN比を向上させることができる反面、コンクリート構造物の場合、長い計測時間を必要とするという問題がある。
【0013】
非特許文献2に記載の発明では、表面熱画像の逆解析により、欠陥形状の鮮明化と欠陥深さの推定を行うことができるが、対象構造物が熱的に定常状態にあることが必須条件となっている。このため、パッシブ加熱法においては、日射条件など熱負荷条件の変化が少ないことが実施条件となることから、実施可能性が自然条件に大きく依存するという問題がある。また、アクティブ加熱法においては、対象構造物が定常状態に達するまで加熱をしなければならず、数時間単位の加熱時間を必要とすることから、短時間に広い範囲を低コストで検査可能であるという赤外線サーモグラフィ法の本来の利点を相殺してしまうという問題がある。
【0014】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、構造物の欠陥の形状および深さを短時間で正確に検知できる欠陥診断方法および欠陥診断システムを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明に係る欠陥診断方法は、対象構造物の内部の欠陥を検知する欠陥診断方法であって、所定の時間間隔における上記対象構造物の表面の少なくとも一部の複数の熱画像を取得する熱画像取得工程と、取得された各熱画像について、画像と当該画像の鏡像対称画像とを繋ぎ合わせ、当該鏡像対称画像と当該鏡像対称画像のさらなる鏡像対称画像とをさらに繋ぎ合わせる処理を繰り返すことにより、複数の無限熱画像を作成する鏡像周期拡張工程と、上記複数の無限熱画像に基づいて、逆解析によって上記欠陥の形状および上記表面からの深さを推定する逆解析工程と、を有することを特徴としている。
【0016】
上記の構成によれば、熱画像取得工程において取得された複数の熱画像を、鏡像周期拡張工程において、x、y軸方向に無限の広がりを持った無限平板領域である複数の無限熱画像に変換する。これにより、元の熱画像の温度分布には存在しない不連続性が導入されることを回避しつつ、撮像領域外の情報を利用することなく熱伝導逆解析が可能になる。さらに、逆解析工程において、所定の時間間隔における複数の無限熱画像に基づいて逆解析を行うので、対象構造物の温度が非定常状態であっても、正確に欠陥の形状および表面からの深さを推定できる。また、対象構造物が定常状態である必要がないので、診断に要する時間を短縮することができる。したがって、構造物の欠陥の形状および深さを短時間で正確に検知できる欠陥診断方法を実現することができる。
【0017】
本発明に係る欠陥診断方法では、上記熱画像取得工程では、M+1(Mは1以上の整数)枚の熱画像を取得し、上記熱画像の撮像面は矩形であり、上記逆解析工程は、上記熱画像取得工程の時刻t0、t0+Δt1、・・・、t0+ΔtMにおける熱画像から、下記の式(A)によって、上記撮像面の温度のべき展開係数を求め、下記の式(B)によって、上記撮像面の深さ方向熱流束のべき展開係数を求める第1の演算工程と、上記温度のべき展開係数と上記熱流束のべき展開係数とを2重フーリエ変換する第2の演算工程と、下記の式(C)により、規定の深さに位置するn(nは1以上の整数)層目の温度と深さ方向熱流束とを求める第3の演算工程と、撮像面の各点における深さ方向熱流束の絶対値が最小になる深さを求める第4の演算工程と、を有することが好ましい。
【0018】
【数1】
【0019】
【数2】
【0020】
【数3】
【0021】
θm:撮像面の温度のm次べき展開係数
qm:撮像面の深さ方向熱流束のm次べき展開係数
x:撮像面の横方向の座標
y:撮像面の縦方向の座標
z:撮像面に垂直な深さ方向の座標
θ(x、y、z、t):任意の点(x、y、z)任意の時刻tにおける温度
qz(x、y、z、t):任意の点(x、y、z)任意の時刻tにおける深さ方向の熱流束
a:熱拡散率 a=κ/(cρ)
c:比熱
ρ:密度
κ:熱伝導率
α0:撮像面における総合熱伝達係数
θ0:撮像面における周囲温度
q0:撮像面への熱流束入力
Fxy:x、yに関する2重フーリエ変換
IFxy:x、yに関する2重逆フーリエ変換
kx:x軸方向の波数
ky:y軸方向の波数
本発明に係る欠陥診断方法では、上記逆解析工程の後に、推定された欠陥の上記表面からの深さを色情報としてマッピングする欠陥可視化工程を有することが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、推定された欠陥の上記表面からの深さが色情報としてマッピングされるので、欠陥の状態を直感的に把握することができる。
【0023】
上記の課題を解決するために、本発明に係る欠陥診断システムは、サーモグラフィ装置とコンピュータとを備え、対象構造物の内部の欠陥を検知する欠陥診断システムであって、上記サーモグラフィ装置は、上記対象構造物の表面の少なくとも一部を所定の時間間隔をおいて撮影して、複数の熱画像を取得し、上記コンピュータは、取得された各熱画像について、画像と当該画像の鏡像対称画像とを繋ぎ合わせ、当該鏡像対称画像と当該鏡像対称画像のさらなる鏡像対称画像とをさらに繋ぎ合わせる処理を繰り返すことにより、複数の無限熱画像を作成する鏡像周期拡張手段と、上記複数の無限熱画像に基づいて、逆解析によって上記欠陥の形状および上記表面からの深さを推定する逆解析手段と、を有することを特徴としている。
【0024】
上記の構成によれば、鏡像周期拡張手段が、サーモグラフィ装置によって取得された複数の熱画像を、x、y軸方向に無限の広がりを持った無限平板領域である複数の無限熱画像に変換する。これにより、元の熱画像の温度分布には存在しない不連続性が導入されることを回避しつつ、撮像領域外の情報を利用することなく熱伝導逆解析が可能になる。さらに、逆解析手段が、所定の時間間隔における複数の無限熱画像に基づいて逆解析を行うので、対象構造物の温度が非定常状態であっても、正確に欠陥の形状および表面からの深さを推定できる。また、対象構造物が定常状態である必要がないので、診断に要する時間を短縮することができる。したがって、構造物の欠陥の形状および深さを短時間で正確に検知できる欠陥診断システムを実現することができる。
【0025】
本発明に係る欠陥診断システムでは、上記サーモグラフィ装置は、M+1(Mは1以上の整数)枚の熱画像を取得し、上記熱画像の撮像面は矩形であり、上記逆解析手段は、上記サーモグラフィ装置が時刻t0、t0+Δt1、・・・、t0+ΔtMに取得した熱画像から、下記の式(A)によって、上記撮像面の温度のべき展開係数を求め、下記の式(B)によって、上記撮像面の深さ方向熱流束のべき展開係数を求め、上記温度のべき展開係数と上記熱流束のべき展開係数とを2重フーリエ変換し、下記の式(C)により、規定の深さに位置するn(nは1以上の整数)層目の温度と深さ方向熱流束とを求め、撮像面の各点における深さ方向熱流束の絶対値が最小になる深さを求めることが好ましい。
【0026】
【数1】
【0027】
【数2】
【0028】
【数3】
【0029】
θm:撮像面の温度のm次べき展開係数
qm:撮像面の深さ方向熱流束のm次べき展開係数
x:撮像面の横方向の座標
y:撮像面の縦方向の座標
z:撮像面に垂直な深さ方向の座標
θ(x、y、z、t):任意の点(x、y、z)任意の時刻tにおける温度
qz(x、y、z、t):任意の点(x、y、z)任意の時刻tにおける深さ方向の熱流束
a:熱拡散率 a=κ/(cρ)
c:比熱
ρ:密度
κ:熱伝導率
α0:撮像面における総合熱伝達係数
θ0:撮像面における周囲温度
q0:撮像面への熱流束入力
Fxy:x、yに関する2重フーリエ変換
IFxy:x、yに関する2重逆フーリエ変換
kx:x軸方向の波数
ky:y軸方向の波数
本発明に係る欠陥診断システムでは、上記コンピュータは、推定された欠陥の上記表面からの深さを色情報としてマッピングする欠陥可視化手段を有することが好ましい。
【0030】
上記の構成によれば、推定された欠陥の上記表面からの深さが色情報としてマッピングされるので、欠陥の状態を直感的に把握することができる。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明に係る欠陥診断方法は、対象構造物の内部の欠陥を検知する欠陥診断方法であって、所定の時間間隔における上記対象構造物の表面の少なくとも一部の複数の熱画像を取得する熱画像取得工程と、取得された各熱画像について、画像と当該画像の鏡像対称画像とを繋ぎ合わせ、当該鏡像対称画像と当該鏡像対称画像のさらなる鏡像対称画像とをさらに繋ぎ合わせる処理を繰り返すことにより、複数の無限熱画像を作成する鏡像周期拡張工程と、上記複数の無限熱画像に基づいて、逆解析によって上記欠陥の形状および上記表面からの深さを推定する逆解析工程と、を有する構成である。また、本発明に係る欠陥診断システムは、サーモグラフィ装置とコンピュータとを備え、対象構造物の内部の欠陥を検知する欠陥診断システムであって、上記サーモグラフィ装置は、上記対象構造物の表面の少なくとも一部を所定の時間間隔をおいて撮影して、複数の熱画像を取得し、上記コンピュータは、取得された各熱画像について、画像と当該画像の鏡像対称画像とを繋ぎ合わせ、当該鏡像対称画像と当該鏡像対称画像のさらなる鏡像対称画像とをさらに繋ぎ合わせる処理を繰り返すことにより、複数の無限熱画像を作成する鏡像周期拡張手段と、上記複数の無限熱画像に基づいて、逆解析によって上記欠陥の形状および上記表面からの深さを推定する逆解析手段と、を有する構成である。したがって、構造物の欠陥の形状および深さを短時間で正確に検知できる欠陥診断方法および欠陥診断システムを実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係る欠陥診断システムの概略構成を示す図である。
【図2】上記欠陥診断システムによって診断される対象構造物の内部を示す断面図である。
【図3】(a)〜(c)は、領域の鏡像周期拡張の手順を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る逆解析の手順を示すフローチャートである。
【図5】推定された欠陥の深さ画像の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施例1に係る実験の概略構成を示す図である。
【図7】(a)〜(c)はそれぞれ、加熱開始から26分後、28分後および30分後の表面温度画像である。
【図8】図7に示す表面温度画像に基づいて、定常モデルに基づく従来の逆解析法による逆解析を行い、深さ画像を計算した結果を示す図である。
【図9】図7に示す表面温度画像に基づいて、本発明による逆解析法による逆解析を行い、深さ画像を計算した結果を示す図である。
【図10】(a)は、実施例2において用いる直方体モデルを示す平面図であり、(b)は、該直方体モデルの断面図である。
【図11】D=0.02mの場合について、有限要素解析で求めた直方体モデルの表面温度分布を示す図であり、(a)加熱開始20分後の表面温度分布を示しており、(b)は、加熱開始60分後の表面温度分布を示している。
【図12】加熱開始20分後の推定した内部熱流束分布から作成した深さ画像であり、(a)は、0次近似の場合を示しており、(b)は、2次近似の場合を示している。
【図13】加熱開始60分後の推定した内部熱流束分布から作成した深さ画像であり、(a)は、0次近似の場合を示しており、(b)は、2次近似の場合を示している。
【図14】加熱開始20分後の直方体モデルの中央点における温度と熱流束の推定値の深さ方向分布を、真値とともにプロットしたグラフである。
【図15】加熱開始60分後の直方体モデルの中央点における温度と熱流束の推定値の深さ方向分布を、真値とともにプロットしたグラフである。
【図16】(a)は、欠陥深さD=0.02mの場合における、熱画像の撮影時刻(加熱開始からの経過時間)と欠陥深さの推定値との関係をプロットしたグラフであり、(b)は、欠陥深さD=0.04mの場合における、熱画像の撮影時刻(加熱開始からの経過時間)と欠陥深さの推定値との関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施の一形態について、図1〜図16に基づいて説明すれば以下のとおりである。
【0034】
(欠陥診断システム1の構成)
図1は、本実施形態に係る欠陥診断システム1の概略構成を示す図である。欠陥診断システム1は、対象構造物2の内部の欠陥を検知するシステムであり、赤外線カメラ5およびコンピュータ10から構成される。
【0035】
本実施形態では、対象構造物2は橋梁のコンクリート床板であり、対象構造物2の上面が非定常光源である日射3で加熱されている。上面(加熱面)への入射熱量および撮像領域以外の面の境界条件は未知である。赤外線カメラ(サーモグラフィ装置)5は、対象構造物2の下面(撮像面)4を所定の時間間隔をおいて撮影し、複数の熱画像データをコンピュータ10に出力する。なお、4aは赤外線カメラ5の撮像領域を示している。コンピュータ10は、画像記憶装置11、画像解析装置12、表示装置13およびデータ入力装置14を備えており、赤外線カメラ5から出力された熱画像データに基づいて、対象構造物2の内部の欠陥の形状および深さを推定する。
【0036】
図2は、対象構造物2の内部を示す断面図である。同図に示すように、対象構造物2の加熱面から入射した熱は、対象構造物2の厚さ方向に伝導し、対象構造物2の内部に熱流束6を形成する。ここで、加熱面の反対側の撮像面4の表層近くに剥離欠陥7があるとする。剥離欠陥7は薄い空洞層であるため、熱の伝導が妨げられ、その結果、撮像面4の剥離欠陥7に該当する位置に、低温部分4bが形成される。したがって、撮像面4の表面温度分布を逆解析することによって、剥離欠陥7の形状と撮像面4からの深さを推定することができる。
【0037】
欠陥診断システム1では、撮像面4の表面温度分布を把握するために、撮像面4を赤外線カメラ5で撮影し熱画像(温度画像)を取得する。このとき、赤外線カメラ5は、一定時間をおいて熱画像を複数枚取得し、画像記憶装置11に熱画像を格納する。なお、本実施形態では、赤外線カメラ5による撮像領域4aは矩形であり、赤外線カメラ5の光学系と撮影面との幾何学的配置によって画像がひずむ場合は、画像を矩形領域にマッピングするために、あおり補正など適切な処理を施すものとする。
【0038】
画像解析装置12は、CPUで構成され、画像記憶装置11に格納された熱画像データに対して逆解析を行い、表示装置13に逆解析の結果が表示される。また、検査員はキーボードやマウスなどのデータ入力装置14によって、各種のパラメータを入力することができる。続いて、画像解析装置12における処理内容を説明する。
【0039】
(鏡像周期拡張)
矩形の撮像領域4aを一方の面として、撮像領域4aを深さ方向にdだけ平行移動した面を対面とする直方体領域において、撮像面4内の縦横方向にx、y軸を設定し、深さ方向にz軸を設定し、撮像面4をz=0、反対側の対面をz=dと定める。
【0040】
次に、この直方体領域をx、y軸方向に周期的に繋ぎ合わせ、z軸方向の厚さがdで、x、y軸方向に無限の広がりを持った無限平板領域に拡張する。これによって対象構造物は無限平板として扱えるようになるため、逆解析が著しく簡単になるほか、撮像領域以外の情報を知ることなく熱伝導逆解析を行うことが可能になる。
【0041】
ただし、単に周期的に領域を繋ぎ合わせた場合、領域の繋ぎ目において元の温度分布には存在しない不連続性が導入されることとなる。そこで、本実施形態では、不連続性を回避するため、以下の操作で直方体領域を無限平板領域に拡張する。本実施形態では、この操作を鏡像周期拡張と呼ぶ。
【0042】
図3(a)〜(c)は、領域の鏡像周期拡張の手順を示す図である。まず、図3(a)に示す直方体領域と、そのx方向およびy方向の鏡像を、図3(b)に示すように、領域の継ぎ目における温度が連続になるようにつなぎ合わせる。同じ要領で、図3(c)に示すように、各領域を単位セルとして周期拡張する。このように、単純な周期拡張ではなく、いったん鏡像対称拡張を行ってから周期拡張を行うことによって、元の温度分布には存在しない不連続性が導入されることを回避できる。
【0043】
(非定常層間伝達マトリクス)
矩形に撮像領域4aを一面とする直方体領域を、上記の方法によってx、y方向に鏡像周期拡張した無限平板領域において、任意の点(x、y、z)における温度をθ(x、y、z、t)とすると、無限平板領域における3次元非定常熱伝導方程式および撮像面4の境界条件は次の式(1)および(2)のようになる。
【0044】
【数4】
【0045】
ただし、qzは深さ方向の熱流束であり、
【0046】
【数5】
【0047】
と定義される。また、aは熱拡散率、cは比熱、ρは密度、κは熱伝導率、α0は撮像面4における総合熱伝達係数、θ0は撮像面における周囲温度、q0は撮像面への熱流束入力である。これらのパラメータは全て既知であり、検査員がデータ入力装置14を用いて画像解析装置12に入力する。
【0048】
欠陥部は、平板表面から深さDの位置にある表面に平行な厚さhの層状の有限領域であり、その境界Γdefectを内部断熱境界と仮定すると、欠陥部上下面における深さ方向熱流束は、
【0049】
【数6】
【0050】
となる。
【0051】
無限平板領域をz軸方向に仮想的に層分割する。第n番目の層をz∈[zn−1、zn]と定め、z0=0とする。
【0052】
次に、上記の支配方程式(1)をx、yに関して2重フーリエ変換すると、式(5)を得る。
【0053】
【数7】
【0054】
ここで、Fxyはx、yに関する2重フーリエ変換、ハットは2重フーリエ変換領域での量を表す。また、k(=√(kx2+ky2))、kxおよびkyは、x、y軸方向の波数である。
【0055】
式(5)を解くために、温度場と深さ方向熱流束場を時間について、べき展開近似する。
【0056】
【数8】
【0057】
式(6)の第1式をx、yに関して2重フーリエ変換して式(5)に代入し、時間に関して同次数の係数を等値すると、式(7)を得る。
【0058】
【数9】
【0059】
式(7)を、ハットθM、 ハットθM−1、・・・、ハットθ0の順にzに関する初期値問題として解くと、第n−1層および第n層の温度展開係数の2重フーリエ変換と熱流束展開係数との2重フーリエ変換を関連づける式(8)を得る。
【0060】
【数10】
【0061】
ここで、Hnは層間伝達マトリクスであり、波数領域で第n−1層の温度および熱流束を第n層の温度および熱流束に写像するものである。Hnを構成するHnmの具体的な内容をm=0からm=2まで示すと、式(9)〜(11)のようになる。
【0062】
【数11】
【0063】
式(8)による内部場の推定は不安定性を有するため、実際には対角ブロックHn0の代わりにTikhonovの正則化を行った式(12)を用いる。
【0064】
【数12】
【0065】
ここで、λは正則化パラメータである。
【0066】
(逆解析の手順)
以上のように導いた式を用いて、画像解析装置12において実施する逆解析の手順は、以下の通りである。
【0067】
まず、解析に必要なパラメータ(撮像面の境界条件、対象物の熱伝導率および熱拡散率)、および、べき展開近似の打ち切り次数Mをデータ入力装置14から入力する。次に、撮像領域4a(z=0)での温度のべき展開係数θmと熱流束のべき展開係数qmとを計算する。撮像領域4aの温度の展開係数は、時刻t0、t0+Δt1、・・・、t0+ΔtMにおいて赤外線カメラ5で取得した熱画像から、次の連立1次方程式(13)を解くことによって求められる。
【0068】
【数13】
【0069】
また、撮像領域4aの熱流束の展開係数は、既知の境界条件式(2)から撮像領域4aでの深さ方向熱流束を計算した後、次の連立方程式(14)を解くことによって求められる。
【0070】
【数14】
【0071】
図3(b)に示すように鏡像拡張してから、これらの温度のべき展開級数および熱流束のべき展開級数を高速2重フーリエ変換することによりベクトル(ハットu0)を求める。このベクトル(ハットu0)を初期値として、式(8)により逐次的に内部境界面におけるベクトル(ハットun)を求めていく。任意の内部境界面における温度分布と深さ方向熱流束分布とは、これらを高速2重逆フーリエ変換し、べき展開式(6)に戻すことによって求めることができる。
【0072】
図4は、本実施形態に係る逆解析の手順を示すフローチャートである。まず、データ入力装置14によって、熱伝導率、熱拡散率、表面の境界条件などの逆解析に必要なパラメータを入力する(ステップS1)。続いて、対象構造物2の表面の温度画像を赤外線カメラ5で撮影する(ステップS2、熱画像取得工程)。続いて、べき展開近似の打ち切り次数Mを0に設定して(ステップS3)、あおり補正など必要な処理を行い、表面の温度分布を計算する(ステップS4)。次に、境界条件を用いて表面の熱流束分布を計算し(ステップS5)、式(13)、式(14)を解いて、表面温度のべき展開係数と熱流束のべき展開係数とを計算する(ステップS6、第1の演算工程)。続いて、これらの温度のべき展開級数および熱流束のべき展開級数を高速2重フーリエ変換して、ベクトル(ハットu0)を求める(ステップS7、第2の演算工程)。
【0073】
続いて、ベクトル(ハットu0)を初期値として、式(8)により逐次的に内部境界面におけるベクトル(ハットun)を求める。具体的には、まずn=1に設定して(ステップS8)、式(8)により、n−1層目の温度および熱流束のべき展開係数のフーリエ変換からn層目の温度および熱流束のべき展開係数のフーリエ変換を求め(ステップS9)、n層目の表面温度のべき展開係数と熱流束のべき展開係数とを高速2重逆フーリエ変換して、式(6)により、n層目の温度と深さ方向熱流束を求める(ステップS10、第3の演算工程)。n層目の深さが規定の深さに達していない場合(ステップS11において「NO」)、nを1増加させて(ステップS12)、再度ステップS9およびS10を行い、このサイクルをn層目の深さが規定の深さに達するまで繰り返す。
【0074】
n層目の深さが規定の深さに達した場合(ステップS11において「YES」)、一定時間をおいて対象構造物2の表面の温度画像を赤外線カメラ5で撮影する(ステップS13、熱画像取得工程)。ここで、式(13)によって、表面温度の予測を行い、ステップS13において撮影された温度画像と予測温度との誤差が規定範囲内であるかを判定する(ステップS14)。上記誤差が規定範囲内ではない場合(ステップS14において「NO」)、べき展開近似の打ち切り次数Mを1増加させて(ステップS15)、再度ステップS4〜S14の処理を繰り返す。上記誤差が規定範囲内である場合(ステップS14において「YES」)、撮像面の各点における深さ方向熱流束を深さ方向にスキャンし深さ方向熱流束の絶対値が最小になる深さを求めてこれを欠陥深さとし(ステップS16、第4の演算工程)、各点の欠陥深さを画像化した深さ画像を作成する(ステップS17)。
【0075】
以上のようにして撮像領域4aから深さ方向に順次内部層の温度および深さ方向熱流束の分布を求めていき、各点において深さ方向熱流束がゼロになる深さに断熱層(すなわち欠陥)が存在すると判定する。
【0076】
続いて、深さ画像を表示装置13に表示することにより、欠陥の深さと形状を可視化することができる(ステップS18)。図5は、推定された欠陥の深さ画像の一例を示している。深さ画像では、推定された欠陥の撮像領域4aからの深さが色情報として各ピクセルにマッピングされており、深さと色との対応関係はカラーバーに示される。したがって、欠陥の状態を直感的に把握することができる。
【0077】
以上のように、本実施形態に係る欠陥診断システム1では、従来の欠陥診断システムにおいて実用化に向けての障害となっていた定常性の条件を取り除き、非定常な熱画像から欠陥像の再構築を行うことができるので、欠陥の形状および深さを短時間で正確に検知できる。
【実施例1】
【0078】
本発明に係る欠陥診断システムによって、短時間で正確に欠陥の形状および深さを検知できることを確認するため、下記のような実験を行った。
【0079】
図6は、本実施例に係る実験の概略構成を示す図である。同図に示すように、ホットプレート20の上に熱伝導性のシリコンラバーシート21を挟んでモルタル試験片22を載せた。シリコンラバーシート21は、モルタル試験片22とホットプレート20との隙間をなくし、モルタル試験片22の背面が均一に加熱されるようにするために用いた。ホットプレートの温度を50℃に設定してモルタル試験片22を加熱し、試験片の真上に赤外線カメラを固定し、モルタル試験片22の表面の熱画像を撮影した。また、モルタル試験片22の側面はスタイロフォームで囲い、断熱境界を再現した。
【0080】
モルタル試験片22は、一辺300mm、厚さ60mmの直方体である。モルタル試験片22の内部には、人工欠陥として、撮像面のほぼ中央の、撮像面から深さ20mmの位置に、一辺100mm、厚さ10mmの正方形状のスタイロフォームを埋め込んだ。以上の構成で、赤外線カメラによって撮影した複数毎の熱画像データに基づいて、欠陥の深さを推定した。
【0081】
図7(a)〜(c)はそれぞれ、加熱開始から26分後、28分後および30分後の表面温度画像を示している。
【0082】
また、図8および図9は、図7に示す表面温度画像を元に逆解析を行い、深さ画像を計算した結果を示す図である。ここで、図8は、定常モデルに基づく逆解析法(非特許文献2の手法)を用いた結果を示しており、図9は、本発明による逆解析法(M=2)を用いた結果を示している。定常モデルに基づく手法では、推定された欠陥の深さ(9mm)が実際(20mm)よりはるかに浅い。一方、本発明による手法では、推定された欠陥の深さが24mmであり、ほぼ正確に欠陥の深さが推定されている。この結果から、本発明に係る欠陥測定方法は、非定常状態の対象構造物であっても、正確に欠陥の深さを測定できることが分かる。また、測定時間が4分と非常に短時間であるため、実用性が高い。
【実施例2】
【0083】
また、本発明に係る欠陥診断システムによって、短時間で正確に欠陥の形状および深さを検知できることを確認するため、シミュレーションによる下記のような数値実験を行った。
【0084】
図10(a)は、本実施例において用いる直方体モデル30を示す平面図であり、(b)は、直方体モデル30の断面図である。直方体モデル30の材質はモルタルを想定し、縦0.3m、横0.3m、高さ0.06mである。また、直方体モデル30は、欠陥として表面(撮像面)30aからDの深さに、厚さ0.01mの正方形状の欠陥(空洞)31を有するとする。欠陥31の内部境界全てを断熱境界、側面全てを断熱境界、表面を熱伝達境界とし、初期温度は室温とする。時刻ゼロから背面30bに一定温度拘束を与えて有限要素法によって非定常熱伝導解析を行い、得られた内部温度場および熱流束場を逆問題に対する真値として扱った。有限要素解析に用いたパラメータの値を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
図11は、D=0.02mの場合について、有限要素解析で求めた直方体モデル30の表面温度分布を示す図であり、(a)加熱開始20分後の表面温度分布を示しており、(b)は、加熱開始60分後の表面温度分布を示している。図11では、欠陥31に対応する位置で低温部が出現していることがわかるが、低温部の輪郭は不明瞭で欠陥形状が判別できない上に、欠陥31の深さに関する情報は得られない。
【0087】
図12は、加熱開始20分後の推定した内部熱流束分布から作成した深さ画像であり、(a)は、0次近似の場合を示しており、(b)は、2次近似の場合を示している。また、図13は、加熱開始60分後の推定した内部熱流束分布から作成した深さ画像であり、(a)は、0次近似の場合を示しており、(b)は、2次近似の場合を示している。図12および図13において、画像右隣のバーは、推定された深さ(単位m)を表している。
【0088】
図12(a)に示すように、0次近似の場合は、一見、欠陥像が鮮明化されているようであるが、深さの値は全く正確でなく、ごく表面に近い値として推定されている。これに対し、図12(b)に示すように、2次近似の場合は、得られた深さ画像は元の温度画像に比べて欠陥像が縮小されているものの輪郭は鮮明化されており、欠陥が正方形であること、および、その深さが0.02m付近であることが明瞭に読み取れる。同様の傾向は図13においても見られるが、2次近似の場合の欠陥像の縮小は比較的軽微である。
【0089】
温度場の時間依存性のべき展開近似次数の影響を詳しく見るため、直方体モデル30の中央点における温度と熱流束の推定値の深さ方向分布を、真値とともにプロットしたものを図14および図15に示す。熱流束のグラフにはゼロレベルを破線で示しているが、これと熱流束の曲線との交点が中央点における欠陥深さである。
【0090】
まず、近似次数の違いの影響に着目すると、0次近似より2次近似のほうが内部温度・熱流束場の深さ方向依存性を適切に表現できていることがわかる。すなわち、時間依存性の表現力を高めることが空間依存性の表現力をも高めている。このことは、前述の式(7)を使って説明することが可能である。式(7)で波数をゼロとした式は、各層の温度の面内積分値を与える式となる。ここで、M=0とすると(0次近似)、式(7)は、
【0091】
【数15】
【0092】
となり、これより、温度の面内積分値は深さ方向に1次関数として推定されることがわかる。M=1とした場合(1次近似)は、
【0093】
【数16】
【0094】
となり、温度の面内積分値は、深さ方向に3次関数になり、同様に、M=2とした場合(2次近似)は5次関数になる。つまり、温度の時間依存性のべき展開近似の次数を高くすると、時間依存性の表現力が高められて、より強い非定常性を持ったデータに対応できるようになると同時に、空間依存性の表現力も高められ、その結果、深さの推定精度が向上する。
【0095】
次に、加熱開始後の経過時刻による違いを見てみると、加熱開始20分後では、加熱面(深さ0.06m)から始まった温度上昇が欠陥の下流側にほとんど到達していないのに対し、加熱開始60分後では、欠陥下流側の領域の温度が十分に上昇している。これによって欠陥縁部を迂回して通過する深さ方向の熱流束が大きくなり、図12(b)に比べて図13(b)の欠陥縁部の形状推定精度が高まっている。
【0096】
最後に、非定常性を考慮した本発明に係る逆解析手法の有効性を確認するために、使用する画像の撮影時刻(加熱開始からの経過時間)と欠陥深さの推定値との関係を、欠陥深さD=0.02mおよびD=0.04mの場合についてプロットしたものを、それぞれ図16(a)および(b)に示す。同図より、全体的な傾向として、加熱開始から時間が経過するほど推定精度が高くなっていくことが分かる。これは、加熱開始からの時間が経過するにしたがって、系が定常状態に近づいていくためである。
【0097】
特に、0次近似すなわち定常熱伝導場を仮定した解法は、系が定常状態に至る過渡領域(非定常領域)においては全く信頼性がない。これに対し、1次近似の非定常熱伝導場を仮定した解法では著しく精度が向上し、2次近似の非定常熱伝導場を仮定した解法では、浅い欠陥に対しては良好な深さ推定精度を確保できている。なお、深い欠陥については、さらに高次の近似の非定常熱伝導場を仮定した解法を採用すればよい。
【0098】
(実施形態の総括)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、構造物内部の剥離や空洞などの欠陥を検出する欠陥診断システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0100】
1 欠陥診断システム
2 対象構造物
3 日射
4 撮像面
4a 撮像領域
4b 低温部分
5 赤外線カメラ(サーモグラフィ装置)
6 熱流束
7 剥離欠陥(欠陥)
10 コンピュータ
11 画像記憶装置
12 画像解析装置(鏡像周期拡張手段、逆解析手段、欠陥可視化手段)
13 表示装置(欠陥可視化手段)
14 データ入力装置
20 ホットプレート
21 シリコンラバーシート
22 モルタル試験片(対象構造物)
30 直方体モデル(対象構造物)
30a 表面
30b 背面
31 欠陥
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象構造物の内部の欠陥を検知する欠陥診断方法であって、
所定の時間間隔における上記対象構造物の表面の少なくとも一部の複数の熱画像を取得する熱画像取得工程と、
取得された各熱画像について、画像と当該画像の鏡像対称画像とを繋ぎ合わせ、当該鏡像対称画像と当該鏡像対称画像のさらなる鏡像対称画像とをさらに繋ぎ合わせる処理を繰り返すことにより、複数の無限熱画像を作成する鏡像周期拡張工程と、
上記複数の無限熱画像に基づいて、逆解析によって上記欠陥の形状および上記表面からの深さを推定する逆解析工程と、
を有することを特徴とする欠陥診断方法。
【請求項2】
上記熱画像取得工程では、M+1(Mは1以上の整数)枚の熱画像を取得し、上記熱画像の撮像面は矩形であり、
上記逆解析工程は、
上記熱画像取得工程の時刻t0、t0+Δt1、・・・、t0+ΔtMにおける熱画像から、下記の式(A)によって、上記撮像面の温度のべき展開係数を求め、下記の式(B)によって、上記撮像面の深さ方向熱流束のべき展開係数を求める第1の演算工程と、
上記温度のべき展開係数と上記熱流束のべき展開係数とを2重フーリエ変換する第2の演算工程と、
下記の式(C)により、規定の深さに位置するn(nは1以上の整数)層目の温度と深さ方向熱流束とを求める第3の演算工程と、
撮像面の各点における深さ方向熱流束の絶対値が最小になる深さを求める第4の演算工程と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の欠陥診断方法。
【数1】
【数2】
【数3】
θm:撮像面の温度のm次べき展開係数
qm:撮像面の深さ方向熱流束のm次べき展開係数
x:撮像面の横方向の座標
y:撮像面の縦方向の座標
z:撮像面に垂直な深さ方向の座標
θ(x、y、z、t):任意の点(x、y、z)任意の時刻tにおける温度
qz(x、y、z、t):任意の点(x、y、z)任意の時刻tにおける深さ方向の熱流束
a:熱拡散率 a=κ/(cρ)
c:比熱
ρ:密度
κ:熱伝導率
α0:撮像面における総合熱伝達係数
θ0:撮像面における周囲温度
q0:撮像面への熱流束入力
Fxy:x、yに関する2重フーリエ変換
IFxy:x、yに関する2重逆フーリエ変換
kx:x軸方向の波数
ky:y軸方向の波数
【請求項3】
上記逆解析工程の後に、
推定された欠陥の上記表面からの深さを色情報としてマッピングする欠陥可視化工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載の欠陥診断方法。
【請求項4】
サーモグラフィ装置とコンピュータとを備え、
対象構造物の内部の欠陥を検知する欠陥診断システムであって、
上記サーモグラフィ装置は、上記対象構造物の表面の少なくとも一部を所定の時間間隔をおいて撮影して、複数の熱画像を取得し、
上記コンピュータは、
取得された各熱画像について、画像と当該画像の鏡像対称画像とを繋ぎ合わせ、当該鏡像対称画像と当該鏡像対称画像のさらなる鏡像対称画像とをさらに繋ぎ合わせる処理を繰り返すことにより、複数の無限熱画像を作成する鏡像周期拡張手段と、
上記複数の無限熱画像に基づいて、逆解析によって上記欠陥の形状および上記表面からの深さを推定する逆解析手段と、
を有することを特徴とする欠陥診断システム。
【請求項5】
上記サーモグラフィ装置は、M+1(Mは1以上の整数)枚の熱画像を取得し、上記熱画像の撮像面は矩形であり、
上記逆解析手段は、
上記サーモグラフィ装置が時刻t0、t0+Δt1、・・・、t0+ΔtMに取得した熱画像から、下記の式(A)によって、上記撮像面の温度のべき展開係数を求め、
下記の式(B)によって、上記撮像面の熱流束のべき展開係数を求め、
上記温度のべき展開係数と上記熱流束のべき展開係数とを2重フーリエ変換し、
下記の式(C)により、規定の深さに位置するn(nは1以上の整数)層目の温度と深さ方向熱流束とを求め、
撮像面の各点における深さ方向熱流束の絶対値が最小になる深さを求めることを特徴とする請求項4に記載の欠陥診断システム。
【数1】
【数2】
【数3】
θm:撮像面の温度のm次べき展開係数
qm:撮像面の深さ方向熱流束のm次べき展開係数
x:撮像面の横方向の座標
y:撮像面の縦方向の座標
z:撮像面に垂直な深さ方向の座標
θ(x、y、z、t):任意の点(x、y、z)任意の時刻tにおける温度
qz(x、y、z、t):任意の点(x、y、z)任意の時刻tにおける深さ方向の熱流束
a:熱拡散率 a=κ/(cρ)
c:比熱
ρ:密度
κ:熱伝導率
α0:撮像面における総合熱伝達係数
θ0:撮像面における周囲温度
q0:撮像面への熱流束入力
Fxy:x、yに関する2重フーリエ変換
IFxy:x、yに関する2重逆フーリエ変換
kx:x軸方向の波数
ky:y軸方向の波数
【請求項6】
上記コンピュータは、
推定された欠陥の上記表面からの深さを色情報としてマッピングする欠陥可視化手段を有することを特徴とする請求項4または5に記載の欠陥診断システム。
【請求項1】
対象構造物の内部の欠陥を検知する欠陥診断方法であって、
所定の時間間隔における上記対象構造物の表面の少なくとも一部の複数の熱画像を取得する熱画像取得工程と、
取得された各熱画像について、画像と当該画像の鏡像対称画像とを繋ぎ合わせ、当該鏡像対称画像と当該鏡像対称画像のさらなる鏡像対称画像とをさらに繋ぎ合わせる処理を繰り返すことにより、複数の無限熱画像を作成する鏡像周期拡張工程と、
上記複数の無限熱画像に基づいて、逆解析によって上記欠陥の形状および上記表面からの深さを推定する逆解析工程と、
を有することを特徴とする欠陥診断方法。
【請求項2】
上記熱画像取得工程では、M+1(Mは1以上の整数)枚の熱画像を取得し、上記熱画像の撮像面は矩形であり、
上記逆解析工程は、
上記熱画像取得工程の時刻t0、t0+Δt1、・・・、t0+ΔtMにおける熱画像から、下記の式(A)によって、上記撮像面の温度のべき展開係数を求め、下記の式(B)によって、上記撮像面の深さ方向熱流束のべき展開係数を求める第1の演算工程と、
上記温度のべき展開係数と上記熱流束のべき展開係数とを2重フーリエ変換する第2の演算工程と、
下記の式(C)により、規定の深さに位置するn(nは1以上の整数)層目の温度と深さ方向熱流束とを求める第3の演算工程と、
撮像面の各点における深さ方向熱流束の絶対値が最小になる深さを求める第4の演算工程と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の欠陥診断方法。
【数1】
【数2】
【数3】
θm:撮像面の温度のm次べき展開係数
qm:撮像面の深さ方向熱流束のm次べき展開係数
x:撮像面の横方向の座標
y:撮像面の縦方向の座標
z:撮像面に垂直な深さ方向の座標
θ(x、y、z、t):任意の点(x、y、z)任意の時刻tにおける温度
qz(x、y、z、t):任意の点(x、y、z)任意の時刻tにおける深さ方向の熱流束
a:熱拡散率 a=κ/(cρ)
c:比熱
ρ:密度
κ:熱伝導率
α0:撮像面における総合熱伝達係数
θ0:撮像面における周囲温度
q0:撮像面への熱流束入力
Fxy:x、yに関する2重フーリエ変換
IFxy:x、yに関する2重逆フーリエ変換
kx:x軸方向の波数
ky:y軸方向の波数
【請求項3】
上記逆解析工程の後に、
推定された欠陥の上記表面からの深さを色情報としてマッピングする欠陥可視化工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載の欠陥診断方法。
【請求項4】
サーモグラフィ装置とコンピュータとを備え、
対象構造物の内部の欠陥を検知する欠陥診断システムであって、
上記サーモグラフィ装置は、上記対象構造物の表面の少なくとも一部を所定の時間間隔をおいて撮影して、複数の熱画像を取得し、
上記コンピュータは、
取得された各熱画像について、画像と当該画像の鏡像対称画像とを繋ぎ合わせ、当該鏡像対称画像と当該鏡像対称画像のさらなる鏡像対称画像とをさらに繋ぎ合わせる処理を繰り返すことにより、複数の無限熱画像を作成する鏡像周期拡張手段と、
上記複数の無限熱画像に基づいて、逆解析によって上記欠陥の形状および上記表面からの深さを推定する逆解析手段と、
を有することを特徴とする欠陥診断システム。
【請求項5】
上記サーモグラフィ装置は、M+1(Mは1以上の整数)枚の熱画像を取得し、上記熱画像の撮像面は矩形であり、
上記逆解析手段は、
上記サーモグラフィ装置が時刻t0、t0+Δt1、・・・、t0+ΔtMに取得した熱画像から、下記の式(A)によって、上記撮像面の温度のべき展開係数を求め、
下記の式(B)によって、上記撮像面の熱流束のべき展開係数を求め、
上記温度のべき展開係数と上記熱流束のべき展開係数とを2重フーリエ変換し、
下記の式(C)により、規定の深さに位置するn(nは1以上の整数)層目の温度と深さ方向熱流束とを求め、
撮像面の各点における深さ方向熱流束の絶対値が最小になる深さを求めることを特徴とする請求項4に記載の欠陥診断システム。
【数1】
【数2】
【数3】
θm:撮像面の温度のm次べき展開係数
qm:撮像面の深さ方向熱流束のm次べき展開係数
x:撮像面の横方向の座標
y:撮像面の縦方向の座標
z:撮像面に垂直な深さ方向の座標
θ(x、y、z、t):任意の点(x、y、z)任意の時刻tにおける温度
qz(x、y、z、t):任意の点(x、y、z)任意の時刻tにおける深さ方向の熱流束
a:熱拡散率 a=κ/(cρ)
c:比熱
ρ:密度
κ:熱伝導率
α0:撮像面における総合熱伝達係数
θ0:撮像面における周囲温度
q0:撮像面への熱流束入力
Fxy:x、yに関する2重フーリエ変換
IFxy:x、yに関する2重逆フーリエ変換
kx:x軸方向の波数
ky:y軸方向の波数
【請求項6】
上記コンピュータは、
推定された欠陥の上記表面からの深さを色情報としてマッピングする欠陥可視化手段を有することを特徴とする請求項4または5に記載の欠陥診断システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図10】
【図14】
【図15】
【図16】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図10】
【図14】
【図15】
【図16】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−122859(P2011−122859A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278932(P2009−278932)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】
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