説明

止水板並びに鋼コンクリート複合構造物

【課題】コンクリートの劣化度合を早期にしかも高精度に確認する。
【解決手段】合成床版3の鋼製底板13に形成された開口31に配設される止水板において、止水板を埋設するコンクリート19を開口31を介して視認可能とするために透明な基板と、水分と反応して変性又は変色する水分反応性薬剤が基板上に塗布され、さらに水溶性フィルムが水分反応性薬剤を被覆することにより、コンクリートの劣化度合を確認可能な構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼コンクリート複合構造物の鋼製底板に形成された開口に配設される止水板、並びに当該止水板が配設された鋼コンクリート複合構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、橋梁分野において、鋼コンクリート複合構造である合成床版が盛んに使用されている。合成床版は鋼板を用いて鋼殻を形成し、この鋼殻を型枠としてコンクリートを打設する。鋼殻はコンクリートが硬化した後も特段撤去しない構成とされているため、現場打ちコンクリート床版で必要とされる成型用型枠や足場等の設置工程を省略することができる。このため、このような合成床版を使用する鋼コンクリート複合構造では、施工期間を大幅に短縮することができるという利点がある。
【0003】
また、合成床版においては、コンクリートを硬化させた後、アクリル系樹脂や防水シートをコンクリート表面に敷設することにより防水層を形成させ、その上からアスファルトコンクリートを打設する。しかしながら、この合成床版を形成させた後、車輌による繰り返し荷重、衝撃荷重、過積載車輌の走行や地震等の想定外荷重、防水材料の経年劣化等によって防水層が破損してしまう場合もある。また同様の理由により、合成床版を構成するコンクリートに亀裂が入り、これを上下に貫通することになる。
【0004】
このようなコンクリート内部を上下に貫通する亀裂が形成された合成床版に対して、雨水はかかる亀裂を介してコンクリート底面へと浸透していくことになる。そして、このコンクリート内部に浸透した雨水により、コンクリート内部に配設された鉄筋や底面を構成する鋼殻が腐食し、ひいては疲労耐久性が低下し、合成床版が急速に劣化することになる。
【0005】
このため、合成床版を構成するコンクリート内部における浸透水の浸透状況を目視確認するための技術が従来において提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。この非特許文献1の開示技術では、コンクリート底面に接する鋼殻に対して直径25mm程度の開口を形成させる。特にこの開口は、合成床版の縦横断勾配の低い箇所や、構造上、施工上において床版コンクリートを貫通するひび割れが発生し易い連続桁の中間支点付近、更には床版コンクリートの打ち継ぎ目近傍に重点的に配設される。こうした開口から水分やコンクリートの成分が溶けたエフロレッセンスが流出し、これによって床版コンクリート内部を貫通する亀裂の発生の有無を判別することが可能となる。
【0006】
また、鋼殻底面に形成された開口から赤い錆汁が流れて出てきた場合に鉄筋や底鋼板に腐食が発生していることを判定することができ、別途合成床版を検査することによる耐久性の判断を促すことが可能となる。
【0007】
ちなみに、この合成床版を構成する鋼殻底板における開口をゴム等の弾性パッキング材により塞ぎ、コンクリート内への雨水の浸透を当該パッキング材を介してモニタリングする方法も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。更に合成床版を構成する鋼殻底板における開口を樟脳などの昇華性物質からなる止水栓により塞ぎ、当該止水板を介してモニタリングする方法も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【非特許文献1】複合構造物の性能照査指針(案)「合成床版編」10章 pp.128
【特許文献1】特開昭58−101951号公報
【特許文献2】特開2005−36481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した特許文献1の開示技術では、一般的に合成床版の架設時には外部足場を必要としない。このため、高所に位置する鋼殻の底鋼板の下側からゴム製のパッキング材を撤去するために高所作業車を用いる必要が生じ、施工性の観点において課題を有していた。
【0009】
また、特許文献2の開示技術では、昇華性物質を空気中に露出させておくと、時間経過とともに消滅してしまうため現場での品質管理が困難である。また不測の工期遅延等が発生した場合には、予め準備していた昇華栓が消滅してしまい、その使用タイミングの見極めが困難になるという問題点があった。また、特許文献2において開示されているこの昇華栓は、厚みが大きく、これに伴って合成床版を構成する内部充填コンクリートの厚みが薄くなってしまうという問題点があった。さらに従来の方法で使用するゴム栓の単価に対して、このような昇華性物質からなる昇華栓の単価は25倍程度であり、経済性の観点から改善の余地があった。
【0010】
さらに、単に鋼殻に開口を穿設する従来のモニタリング方法では、漏水等を介して顕著な変化が開口から確認できるまでに、コンクリートが相当劣化してしまい、劣化の早期発見並びに劣化度合の早期確認が困難になるという問題点があった。
【0011】
また、内部コンクリートの劣化が認められ、補修作業として劣化コンクリートを撤去した後、再度コンクリートを打設する場合にも前述したコンクリート漏洩や止水栓の撤去作業の煩雑さが残るという問題点もあった。
【0012】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、鋼コンクリート複合構造物の鋼製底板に形成された開口に配設される止水板において、コンクリートの劣化度合を早期にしかも高精度に確認することができ、更に経済性にも優れた止水板並びに鋼コンクリート複合構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、本発明を適用した止水板は、鋼コンクリート複合構造物の鋼製底板に形成された開口に配設される止水板において、当該止水板を埋設するコンクリートを上記開口を介して視認可能とするために透明な基板を備え、水分と反応して変性又は変色する水分反応性薬剤が上記基板上に塗布され、さらに水溶性フィルムが上記水分反応性薬剤を被覆してなることを特徴とする。
【0014】
上述した課題を解決するために、本発明を適用した止水板は、鋼コンクリート複合構造物の鋼製底板に形成された開口に配設される止水板において、当該止水板を埋設するコンクリートを上記開口を介して視認可能とするために水溶性フィルムで構成された基板を備えることを特徴とする。
【0015】
上述した課題を解決するために、本発明を適用した止水板は、鋼コンクリート複合構造物の鋼製底板に形成された開口に配設される止水板において、上記開口に遊嵌可能な凸部が底面に凸設され、当該止水板を埋設するコンクリートを上記開口を介して視認可能とするために透明な基板を備え、上記凸部内に形成された収容室には水分と反応して変性又は変色する水分反応性薬剤が注入され、更に上記基板表面から上記収容室を覆うように水溶性フィルムが貼着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上述した構成からなる本発明では、水分と反応して変性又は変色する水分反応性薬剤が透明な基板上に塗布され、さらに水溶性フィルムが水分反応性薬剤を被覆してなる。また、この止水板は、合成床版における鋼製底板に形成された開口に配設される。このため、合成床版の供用中に何らかの理由でコンクリートに亀裂が発生し、またかかる亀裂が伝播して鋼製底板まで到達した場合においても、水分反応性薬剤の変性又は変色を基板を介して早期に明確に目視で検知することができる。しかも、水溶性フィルムは、コンクリートの打設時において、水分反応性薬剤に対して水分を遮蔽する役割を担い、更にコンクリートの打設後は溶失するため、水分反応性薬剤とコンクリートと直接的に接触させることが可能となる。その結果、コンクリートに対して事後的に導入された亀裂を介した雨水の浸透のみをより高精度に検知することが可能となる。
【0017】
更に本発明を適用した止水板は、開口に配設する際において、単に当該開口を塞ぐようにして載置すれば足り、特別な外部足場や高所作業車を用いる必要も無く、安価な施工を実現することが可能となる。また、止水板は、極めて安価な材料のみで構成することが可能であり、しかも作製容易であることから、経済性の観点においても優れた形態といえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、鋼コンクリート複合構造物の鋼殻の底面に形成された開口に配設される止水板について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
本発明を適用した止水板は、例えば図1に示すような合成床版3を初めとした鋼コンクリート複合構造物に配設される。この合成床版3は、橋軸直角方向Aに向けて所定間隔で主桁11が配設され、主桁11の上部には、ずれ止め部材23が設置されている。ちなみに、このずれ止め部材23は、この主桁11付近において鋼製底板13を曲げ下げて設置し、コンクリート19で一体化されている。このコンクリート19の上面には、防水シート93が被覆され、当該防水シート93の上層はアスファルト94により舗装されている。
【0020】
また、鋼製底板13上には長手方向が橋軸直角方向Aへ配向するI形鋼又はH形鋼からなる形鋼20が橋軸方向Bに所定間隔をあけて並列配置されている。ちなみに、この橋軸方向Bは、車両や歩行者等の進行方向に相当するものである。
【0021】
さらに、形鋼20の下フランジ21の両側縁と、鋼製底板13の間が連続隅肉溶接または断続隅肉溶接により固着されることで、形鋼20と鋼製底板13とが固着一体化されている。形鋼20の上フランジ22には、当該形鋼20の長手方向と略垂直方向に縦鉄筋17が互いに平行となるように配設されている。また、この形鋼20間には、形鋼20の長手方向に沿って、所定長伸長する横鉄筋18が配筋されている。さらに、これら形鋼20並びに縦鉄筋17、横鉄筋18には、コンクリート19と一体化されている。
【0022】
また、道路橋示方書ではコンクリート19表面から縦鉄筋17、横鉄筋18までの距離(かぶり)を30mm以上と規定している。鋼製底板13上に取り付けられる各部材高さ及びかぶりを考慮すると合成床版3の総厚は160mm〜300mmとなる。さらに、図1に示すような合成床版3では、形鋼20に孔を開け、その中に鉄筋を通している。これは、合成床版3を設計する際において、鋼製底板13には荷重分担を期待していないことに基づくものである。(必ずしも鋼製底板に荷重分担を期待していないわけではない。形鋼に孔を開ける理由はコンクリートが形鋼によって遮断されるのを防ぐためであり、ずれ止め機能を低下させないことを期待している。)活荷重が作用すると、支点近傍を除く合成床版3下部には曲げによる引張荷重が作用する。コンクリート19のみでは引張荷重に対して抵抗できないため、形鋼20に孔を開け、縦鉄筋17、横鉄筋18を配設することにより、曲げ耐力を向上させる。
【0023】
また、この鋼製底板13には、さらに開口31が設けられている。この開口31は、貫通穴として構成されてなり、縦横断勾配の低い箇所や、構造上、施工上においてコンクリート19を貫通するひび割れが発生し易い連続桁の中間支点付近、更にはコンクリート19の打ち継ぎ目近傍に重点的に配設される。
【0024】
なお、上述したずれ止め部材23の配設や開口31の穿設等については予め工場において行い、その後現場に搬送してこれらを施工することになる。
【0025】
第1の実施形態
本発明を適用した止水板1は、鋼製底板13に形成された開口31に配設される。この止水板1は、例えば図2に示すように、基板41と、基板41の表面において塗布される水分反応性薬剤42と、かかる水分反応性薬剤42を被覆する水溶性フィルム43とを備えている。ちなみに、この図2(a)は、止水板1の斜視図を、また図2(b)は、止水板1の平面図を示している。
【0026】
基板41は、透明な材料で構成されている。この基板41は、例えばビニル素材やプラスチック素材等のようにコンクリート打設時の打設圧に耐える強度が必要となる。実験によれば開口31の径25mmに対して、ビニル素材やプラスチック素材等で構成される基板41の板厚が0.20mmよりも薄いとコンクリート打設時における打設圧により面外へ大きく変形し、接着面が剥離してしまい、コンクリート19内に浸透してきた水分の漏出を引き起こしてしまう。また、基板41の板厚が1.0mmよりも厚い場合には、縦鉄筋17、横鉄筋18を覆うコンクリート19のかぶり厚を減少させる要因になり、構造上好ましくない。このため、基板41の板厚は、0.20mm以上であり、1.0mm以下で構成されていることが望ましい。
【0027】
なお、この基板41の例としてビニル素材、又はプラスチック素材を挙げたが、これに限定されるものではなく、光透過性があり、水分反応性薬剤の変色が確認できる透明材質で上述した機能を満足するものであれば、いかなる材料で構成するようにしてもよい。
【0028】
水分反応性薬剤42は、例えば表1に示すように塩化コバルトや硫酸アンモニウム鉄のように水分と反応することにより変色又は変性する粉体状の材料で構成される。
【0029】
【表1】

【0030】
水分反応性薬剤42は、表1に示す材料のうち、環境に対する無毒性を考慮して塩化コバルトを適用することが望ましい。しかしながら、この水分反応性物質42は表1に示す薬剤に限定されるものではなく、水分と反応し変成が容易に確認できるものであればいかなる材料を適用するようにしてもよい。なお、鋼製底板13の裏面は防錆のためめっき処理が施されているか、又は塗装処理されている。このため、水分反応性薬剤12を構成する材料を選定する上では、鋼製底板13の裏面の色と比較して識別可能な変色を呈するか否かを選定条件とするようにしてもよい。
【0031】
水溶性フィルム43は、日本合成化学(株)製のハイセロン(登録商標)であり、これは部分ケン化ポリビニルアルコール(PVOH)を原料として表2に示すように多種類開発されている。
【0032】
【表2】

【0033】
コンクリート19は、通常アルカリ性を呈するため、表2中S型を使用することが望ましい。また、水溶性フィルム43は、水温の上昇に比例して溶解速度も向上する。コンクリート19の水和反応による断熱温度上昇量は配合する単位セメント量に比例する。このため、コンクリート19の厚みを1m以上で構成する場合には、この水溶性フィルム43を、H型とすることが望ましい。
【0034】
このような材質からなる水溶性フィルム43を、水分反応性薬剤42を覆うようにして、基板41上に貼り付ける。これにより、コンクリート19の打設時において、コンクリート19が水分反応性薬剤42と直接的に接触するのを防止することが可能となる。このため、コンクリート19の打設時においてコンクリート中の水分が水分反応性薬剤42へと浸透してしまうのを防止することができ、かかる水分に基づいて水分反応性薬剤42自身が変色してしまうのを防止することが可能となる。
【0035】
水溶性フィルム43は、コンクリート打設後において、コンクリート内に浸透してきた水分を水分反応性薬剤42により直接的に検知できるようにするために、ちょうどコンクリート19の硬化が終了する時間に溶けて無くなる程度の膜厚で構成することが望ましい。
【0036】
水溶性フィルム43は、コンクリート19が水セメント比50%程度であるとき、20μmよりも膜厚が薄い場合には打設時のコンクリート19中の水分により早期に溶解してしまう。その結果、特にコンクリート19が硬化する前に水溶性フィルム43が溶解してしまい、ひいては水分反応性薬剤42がコンクリート19中の水分と反応して変色してしまう。一方、この水溶性フィルム43の膜厚が400μmよりも厚い場合には、コンクリート19が硬化する時間である7時間経過後も溶けずに残存してしまい、コンクリート19中に浸透してきた水分に対する水分反応性薬剤42の変色を妨げ、初期の水分の検知を実現することができなくなる。このため、水溶性フィルム43の膜厚は、20μm以上であり、400μm以下であることが望ましい。以上の膜厚は、あくまで、水溶性フィルム43をS型で構成する場合についての例であるが、これに限定されるものではなく、他の型を適用した場合においても、打設したコンクリート19が硬化するまでは水分を遮断し、コンクリート硬化後には水分と反応して溶失するという前記機能を満足する膜厚で構成されていればよい。
【0037】
ちなみに、本発明を適用した止水板1では、基板41上において水分反応性薬剤42、水溶性フィルム43が事前に積層され、一体化されていることから、持ち運び容易性を向上させることが可能となる。また、この止水板1を、鋼製底板13に形成された開口31に配設する際には、図3に示すように、この一体化された形状からなる止水板1を開口31に載置すれば終了することから、施工容易性を向上させることが可能となる。
【0038】
なお、この基板41並びに水溶性フィルム43の形状、並びに水分反応性薬剤42の塗布形状は、円形である場合に限定されるものではなく、いかなる形状で構成されていてもよい。
【0039】
次に、本発明に係る止水板1を合成床版3に適用する方法について説明をする。ちなみに、以下の説明においては、基板41として板厚0.2mm、1辺が70mmの正方形のビニル製の板を使用し、その表面上に、乾燥させた塩化コバルト、硫酸アンモニウム鉄といった水分反応性薬剤42を塗布し、これを覆うようにして水溶性フィルム43としてのハイセロン(登録商標)のS型を使用した場合を例に挙げている。
【0040】
先ず図4(a)に示すように、コンクリート19を打設する前に、鋼製底板13に設けられた開口31を覆うようにして止水板1を載置し、これを貼り付けた後、図4(b)に示すように合成床版3を構築する上で一般的に使用される水セメント比50%程度のコンクリート19を打設する。このコンクリート19の打設時において、水溶性フィルム43は、かかるコンクリート19内の水分を水分反応性薬剤42に対して一時的に遮断する。しかし、コンクリート19は経時的に徐々に硬化し、コンクリート19が完全に硬化した後には水溶性フィルム43が溶失し、水分反応性薬剤42が水溶性フィルム43を介すことなくコンクリート19と直接的に接触する。
【0041】
次に、図4(c)に示すように、車輌による繰り返し荷重、衝撃荷重、過積載車輌の走行や地震等の想定外荷重、防水材料の経年劣化等の原因により、コンクリート19に亀裂45が発生することになる。そして、かかる亀裂45を介して雨水がコンクリート19内部へ浸透していくことになる。更にこのコンクリート19において形成された亀裂45が徐々に伝播していき、図4(d)に示すように鋼製底板13にまで到達したとき、コンクリート19内部を浸透した雨水は、鋼製底板13上に滞留することになる。
【0042】
そして、この鋼製底板13上に滞留した雨水が、開口31に設置された止水板1にまで到達すると、これを構成する水分反応性薬剤42がこれと接触することになる。この段階では、水溶性フィルム43が既に溶失していることから、止水板1に到達した雨水を、即座にこの水分反応性薬剤42と反応させることが可能となる。その結果、例えば水分反応性薬剤42として塩化コバルトを使用している場合には、かかる水分と反応することにより青から赤へと変色することになる。この水分反応性薬剤42の変色状況は、基板41を介して外側から容易に視認することが可能となる。特に基板41は、開口31を介して、合成床版3の下側から視認することができ、しかも透明状であることから、水分反応性薬剤42の変色状況を容易に、しかも早期に確認することが可能となる。
【0043】
また、本構造物の管理者は、定期的に合成床版3の鋼殻の開口31に設けられた止水板1の変色状況を目視点検することにより、合成床版3の健全性を容易に確認することが可能となる。
【0044】
このように、本発明を適用した止水板1では、水分と反応して変性又は変色する水分反応性薬剤42が透明な基板41上に塗布され、さらに水溶性フィルム43が水分反応性薬剤42を被覆してなる。また、この止水板1は、合成床版3における鋼製底板13に形成された開口31に配設される。このため、合成床版3の供用中に何らかの理由でコンクリート19に亀裂45が発生し、またかかる亀裂45が伝播して鋼製底板13まで到達した場合においても、水分反応性薬剤42の変性又は変色を基板41を介して早期に明確に目視で検知することができる。しかも、水溶性フィルム43は、コンクリート19の打設時において、水分反応性薬剤42に対して水分を遮蔽する役割を担い、更にコンクリート19の打設後は溶失するため、水分反応性薬剤42とコンクリート19と直接的に接触させることが可能となる。その結果、コンクリート19に対して事後的に導入された亀裂45を介した雨水の浸透のみをより高精度に検知することが可能となる。
【0045】
更に本発明を適用した止水板1は、開口31に配設する際において、単に当該開口31を塞ぐようにして載置すれば足り、特別な外部足場や高所作業車を用いる必要も無く、安価な施工を実現することが可能となる。また、止水板1は、極めて安価な材料のみで構成することが可能であり、しかも作製容易であることから、経済性の観点においても優れた形態といえる。
【0046】
なお、この止水板1は、施工時において図5に示すように保護シール27、28を貼着するようにしてもよい。この保護シール27は、それぞれ水溶性フィルム43の表面に、また保護シール28は、基板41の下面に貼着される。保護シール27を設ける理由としては、施工前において水溶性フィルム43を水分から保護するためであり、また保護シール28を設ける理由としては、基板41の下面に形成される接着層44を保護するためである。これにより、施工時において施工現場の降雨により水溶性フィルム43が溶失してしまうのを防止することが可能となる。なお、止水板1は、実際に開口31に配設する直前において、この保護シール27、28を剥がして使用する。
【0047】
第2の実施形態
次に本発明における第2の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0048】
図6は、第2の実施形態を適用した止水板2を示している。この止水板2は、鋼製底板13に形成された開口31に配設され、水溶性フィルム43から構成される基板51を備えている。ちなみに、この図6(a)は、止水板21の斜視図を、また図6(b)は、止水板2の平面図を示している。
【0049】
この基板51を構成する水溶性フィルム43は、上述と同様の材質からなる。ちなみに、以下の実施の形態においては、この基板51として、日本合成化学(株)製のハイセロン(登録商標)のS型を使用する場合を例にとり説明をする。
【0050】
基板51は、コンクリート19の打設時において、主として開口31を被覆することによりこれを閉口する役割を担うことによりコンクリート19の開口31からの漏出を防止し、またコンクリート19の打設後において、雨水の浸透を検知する役割を担う。即ち、この基板51は、コンクリート19が硬化した後に、鋼製底板13裏面から付着する霧や結露といった水分と反応することで徐々に溶失することで、当該基板51自体が溶失し、これにより被覆されていた開口31が開くことにより、コンクリート19が開口31を介して直接的に外部へと露出することになる。このため、点検者は、合成床版3において形成された開口31を介してコンクリート19の健全性を確認していくことになる。
【0051】
この基板51は、その板厚が200μm未満である場合には、コンクリート19打設時における打設圧力に耐え切れず、コンクリート19が硬化する前に基板51が破れてしまい開口31からコンクリート19が漏出してしまう。また基板51は、その板厚が400μmを超える場合に、コンクリート19硬化後における基板51を構成する水溶性フィルムの残存量が増加してしまい、この基板51が水分と反応することによる所期の開口が形成されなくなる。また基板51は、その板厚が400μmを超える場合に、基板51の溶解物が開口31からツララ上に垂れ下がるため景観上も好ましくない。400μm以下の膜厚では開口部周辺に溶解物が張り付くため、ツララ上に垂れ下がることはない。これらを考慮すれば、水溶性フィルムの膜厚は200μm以上、400μm以下にすることが望ましい。
【0052】
次に、本発明に係る止水板2を合成床版3に適用する方法について説明をする。
【0053】
先ず図7(a)に示すように、コンクリート19を打設する前に、鋼製底板13に設けられた開口31を覆うようにして止水板2を載置し、これを貼り付けた後、図7(b)に示すように、合成床版3を構築する上で一般的に使用される水セメント比50%程度のコンクリート19を打設する。このコンクリート19の打設時において、水溶性フィルム43からなる基板51は、コンクリート19内の水分と反応して徐々に溶失していくことになる。そして、コンクリート19は経時的に徐々に硬化し、コンクリート19が完全に硬化した後には水溶性フィルム43からなる基板51が完全に溶失し、コンクリート19が開口31を介して外部へと直接露出することになる。
【0054】
次に、図7(c)に示すように、車輌による繰り返し荷重、衝撃荷重、過積載車輌の走行や地震等の想定外荷重、防水材料の経年劣化等の原因により、コンクリート19に亀裂45が発生することになる。そして、かかる亀裂45を介して雨水がコンクリート19内部へ浸透していくことになる。更にこのコンクリート19において形成された亀裂45が徐々に伝播していき、図7(d)に示すように鋼製底板13にまで到達したとき、コンクリート19内部を浸透した雨水は、鋼製底板13上に滞留することになる。そして、この鋼製底板13上に滞留した雨水を開口31を介して識別することが可能となる。即ち、本構造物の管理者は、定期的に合成床版3の鋼殻の開口31からの雨水の漏洩状況を目視点検することにより、合成床版3の健全性を容易に確認することが可能となる。
【0055】
このように、本発明を適用した止水板2では、水溶性フィルム43から構成される基板51を備えているため、コンクリート19の打設時において、コンクリート19の開口31からの漏洩を防止することができ、ちょうどコンクリート19の打設が終了する頃に、当該基板51を溶失させることが可能となる。また、コンクリート19に対して事後的に導入された亀裂45を介した雨水の浸透を、開口31を介して直接視認することが可能となる。
【0056】
更に本発明を適用した止水板2は、上述した止水板1と同様に、開口31に配設する際において、単に当該開口31を塞ぐようにして載置すれば足り、特別な外部足場や高所作業車を用いる必要も無く、安価な施工を実現することが可能となる。また、止水板2は、極めて安価な材料のみで構成することが可能であり、しかも作製容易であることから、経済性の観点においても優れた形態といえる。なお、これ以外の第1の実施形態と同様の効果を奏することは勿論である。
【0057】
因みに、この止水板2は、施工時において図8に示すように保護シール27、28を貼着するようにしてもよい。この保護シール27は、それぞれ基板51の表面に、また保護シール28は、基板41の下面に貼着される。保護シール27を設ける理由としては、施工前において水溶性フィルム43から構成される基板51を水分から保護するためであり、また保護シール28を設ける理由としては、基板51の下面に形成される接着層44を保護するためである。これにより、施工時において施工現場の降雨により水溶性フィルム43からなる基板51が溶失してしまうのを防止することが可能となる。なお、止水板2は、実際に開口31に配設する直前において、この保護シール27、28を剥がして使用する。
【0058】
第3の実施形態
次に本発明における第3の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0059】
図9は、第3の実施形態を適用した止水板5を示している。この止水板5は、鋼製底板13に形成された開口31に配設される。この止水板5は、開口31に遊嵌可能な凸部63が底面に凸設された透明な基板61を備えている。そして、この凸部63は、内部に水分反応性薬剤42を注入するための空間としての収容室64が設けられている。この収容室64は、通常、基板61の表面において開口66を介して開口している。しかし、この凸部63における収容室64内に水分反応性薬剤42が注入された後、開口66は、水溶性フィルム43により被覆される。その結果、この収容室64は、基板61の表面から水溶性フィルム43により覆われるようにして密封されることになる。
【0060】
このような形状からなる止水板5では、凸部63が下側に向けて凸設された形状とされているため、当該凸部63を鋼製底板13に形成された開口31に挿入して嵌めこむことができ、より確実な設置を実現することが可能となる。
【0061】
凸部63を円柱状に構成する場合には、25mmの径からなる開口31に挿入して嵌合させるために、その外径は24mm以下とされていることが必要となる。なお、この凸部63は円柱状で構成されているがこれに限定されるものではなく、いかなる形状で構成されていてもよい。
【0062】
また、この止水板5は、鋼製底板13との間で確実に固定するため、図10に示すように、基板61の底面において接着層44が形成されていてもよい。止水板1は、施工時において図10に示すように保護シール27、28を貼着するようにしてもよい。この保護シール27は、それぞれ水溶性フィルム43並びに基板61の表面に、また保護シール28は、基板61の下面に貼着される。保護シール27を設ける理由としては、施工前において水溶性フィルム43を水分から保護するためであり、また保護シール28を設ける理由としては、基板41の下面に形成される接着層44を保護するためである。これにより、施工時において施工現場の降雨により水溶性フィルム43が溶失してしまうのを防止することが可能となる。なお、止水板5は、実際に開口31に配設する直前において、この保護シール27、28を剥がして使用されることになる。
【0063】
次に、本発明に係る止水板5を合成床版3に適用する方法について説明をする。
【0064】
先ず図11(a)に示すように、コンクリート19を打設する前に、鋼製底板13に設けられた開口31を覆うようにして止水板5を載置する。このとき、凸部63を開口31に遊嵌させるようにして配置することになる。その後、図11(b)に示すようにコンクリート19を打設する。このコンクリート19の打設時において、水溶性フィルム43は、かかるコンクリート19内の水分を、凸部63中の水分反応性薬剤42に対して一時的に遮断する。しかし、コンクリート19は経時的に徐々に硬化し、コンクリート19が完全に硬化した後には水溶性フィルム43が溶失し、凸部63内の水分反応性薬剤42が水溶性フィルム43を介すことなくコンクリート19と直接的に接触する。
【0065】
次に、図11(c)に示すように、コンクリート19に亀裂45が発生することになる。そして、かかる亀裂45を介して雨水がコンクリート19内部へ浸透していくことになる。更にこのコンクリート19において形成された亀裂45が徐々に伝播していき、図11(d)に示すように鋼製底板13にまで到達したとき、コンクリート19内部を浸透した雨水は、鋼製底板13上に滞留することになる。
【0066】
そして、この鋼製底板13上に滞留した雨水が、開口31に設置された止水板5にまで到達すると、凸部63内に滲出することになり、水分反応性薬剤42がこれと接触することになる。この段階では、水溶性フィルム43が既に溶失していることから、止水板5に到達した雨水を、即座にこの水分反応性薬剤42と反応させることが可能となる。その結果、例えば水分反応性薬剤42として塩化コバルトを使用している場合には、かかる水分と反応することにより青から赤へと変色することになる。この水分反応性薬剤42の変色状況は、凸部63を介して外側から容易に視認することが可能となる。
【0067】
また、本構造物の管理者は、定期的に合成床版3の鋼殻の開口31に設けられた止水板5の変色状況を目視点検することにより、合成床版3の健全性を容易に確認することが可能となる。また、それ以外の第1の実施形態と同様の効果を奏することは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明を適用した止水板が配設される鋼コンクリート複合構造物を示す図である。
【図2】(a)は本発明を適用した第1の実施形態における止水板の斜視図であり、(b)は本発明を適用した第1の実施形態における止水板の平面図である。
【図3】本発明を適用した第1の実施形態における止水板を鋼製底板に形成された開口に配設する例を示す図である。
【図4】本発明に係る止水板を合成床版に適用する方法について説明するための図である。
【図5】本発明を適用した第1の実施形態における止水板に対して保護シールを貼着する例を示す図である。
【図6】(a)は本発明を適用した第2の実施形態における止水板の斜視図であり、(b)は本発明を適用した第2の実施形態における止水板の平面図である。
【図7】本発明を適用した第2の実施形態における止水板を鋼製底板に形成された開口に配設する例を示す図である。
【図8】本発明を適用した第2の実施形態における止水板に対して保護シールを貼着する例を示す図である。
【図9】本発明を適用した第3の実施形態における止水板の斜視図である。
【図10】本発明を適用した第3の実施形態における止水板に対して保護シールを貼着する例を示す図である。
【図11】本発明を適用した第3の実施形態における止水板による止水状態の確認方法について説明するための図である。
【符号の説明】
【0069】
1、2 止水板
3 合成床版
11 主桁
13 鋼製底板
17 縦鉄筋
18 横鉄筋
19 コンクリート
20 形鋼
21 下フランジ
22 上フランジ
23 ずれ止め部材
27、28 保護シール
31 開口
41 基板
42 水分反応性薬剤
43 水溶性フィルム
44 接着層
45 亀裂
51 基板
61 基板
63 凸部
64 収容室
66 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼コンクリート複合構造物の鋼製底板に形成された開口に配設される止水板において、
当該止水板を埋設するコンクリートを上記開口を介して視認可能とするために透明な基板を備え、
水分と反応して変性又は変色する水分反応性薬剤が上記基板上に塗布され、さらに水溶性フィルムが上記水分反応性薬剤を被覆してなること
を特徴とする止水板。
【請求項2】
鋼コンクリート複合構造物の鋼製底板に形成された開口に配設される止水板において、
当該止水板を埋設するコンクリートを上記開口を介して視認可能とするために水溶性フィルムで構成された基板を備えること
を特徴とする止水板。
【請求項3】
鋼コンクリート複合構造物の鋼製底板に形成された開口に配設される止水板において、
上記開口に遊嵌可能な凸部が底面に凸設され、当該止水板を埋設するコンクリートを上記開口を介して視認可能とするために透明な基板を備え、
上記凸部内に形成された収容室には水分と反応して変性又は変色する水分反応性薬剤が注入され、
更に上記基板表面から上記収容室を覆うように水溶性フィルムが貼着されていること
を特徴とする止水板。
【請求項4】
上記水分反応性薬剤は、塩化コバルト、バリウム、又は硫酸アンモニウム鉄であること
を特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項記載の止水板。
【請求項5】
請求項1〜4のうち何れか1項記載の止水板が、鋼殻の底面に形成された開口に配設されていること
を特徴とする鋼コンクリート複合構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−256914(P2009−256914A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105091(P2008−105091)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】