説明

止血スポンジ

本発明は、生体材料の多孔質マトリックスと、止血性複合スポンジの少なくとも1つの表面と安定に結合する適用組織に対する該スポンジの付着性を増強する材料とを含む、止血性複合スポンジ、これらのスポンジを製造する方法、及び止血におけるその使用を提供する。別の一態様は、止血性多孔質複合スポンジを傷害部位に施す工程を含む、傷害を処置する方法に関する。本明細書に開示するようなスポンジと薬学的活性物質とを含む創傷被覆材を調製するためのキットも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止血スポンジ、該スポンジを製造する方法、及び止血におけるその使用の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト又は動物起源の凝固因子に基づく生物学的糊が長年知られている。フィブリノーゲン及び第XIII因子に基づく組織接着剤を製造する方法が、特許文献1、特許文献2及び特許文献3に記載されている。組織接着剤は、通常、トロンビンを含む別個の成分と一緒に適用される。トロンビンは、フィブリノーゲンに対して酵素的に作用してフィブリンを形成し、第XIII因子に作用して活性第XIIIa因子を形成する。活性第XIIIa因子は、フィブリンを架橋して安定なフィブリン凝塊を得る。
【0003】
コラーゲンパッドは、創傷治癒を改善するのに、又は止血に、長年使用されてきた。止血におけるその作用機序は、血小板の凝集及び活性化、活性化された血小板表面におけるトロンビン形成、並びにフィブリノーゲンに対するトロンビンの触媒作用による止血性フィブリン凝塊の形成に基づく。コラーゲンパッド又はシートの止血作用を改善するために、かかるパッド内に止血の因子を含めることが示唆された。
【0004】
特許文献4には、フィブリノーゲン及び第XIII因子と組み合わせたコラーゲンに基づく組織接着剤が記載されている。この材料は、すぐに使用できる凍結乾燥形態で提供される。フィブリノーゲン及び第XIII因子は、平坦なコラーゲン材料にフィブリノーゲンと第XIII因子を含む溶液を含浸させ、該材料を凍結乾燥させることによって、コラーゲンと組み合わせられる。
【0005】
特許文献5は、スポンジ中に均一に分布したコラーゲン及び血液凝固の活性化因子又は前駆賦活体に基づく止血スポンジを開示している。このスポンジは、乾燥形態で提供され、風乾又は凍結乾燥させることができる。しかし、それでも、このスポンジは少なくとも2%の含水量を有する。
【0006】
特許文献6は、多官能的に活性化された合成親水性ポリマーを使用した架橋コラーゲンを含む生体接着性組成物、及びかかる組成物を使用して第1の表面と第2の表面を接着する方法を考察している。第1と第2の表面の少なくとも一方は天然組織表面とすることができる。
【0007】
機械的に破壊されてその物性を変化させたコラーゲン含有組成物が特許文献7、特許文献8及び特許文献9に記載されている。これらの特許は、一般に、線維性及び不溶性コラーゲンに関する。注射用コラーゲン組成物が特許文献10に記載されている。注射用骨/軟骨組成物が特許文献11に記載されている。水中に懸濁させることができ、特定の表面電荷密度を有するサイズ範囲5μmから850μmの乾燥粒子を含むコラーゲンベースの送達マトリックスが特許文献12に記載されている。創傷包帯(wound dressing)を形成するエアロゾル噴霧剤として有用である粒径1μmから50μmのコラーゲン調製物が特許文献13に記載されている。コラーゲン組成物を記載している別の特許としては、特許文献14及び特許文献15が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4,362,567号明細書
【特許文献2】米国特許第4,298,598号明細書
【特許文献3】米国特許第4,377,572号明細書
【特許文献4】米国特許第4,600,574号明細書
【特許文献5】国際公開第97/37694号
【特許文献6】米国特許第5,614,587号明細書
【特許文献7】米国特許第5,428,024号明細書
【特許文献8】米国特許第5,352,715号明細書
【特許文献9】米国特許第5,204,382号明細書
【特許文献10】米国特許第4,803,075号明細書
【特許文献11】米国特許第5,516,532号明細書
【特許文献12】国際公開第96/39159号
【特許文献13】米国特許第5,196,185号明細書
【特許文献14】米国特許第5,672,336号明細書
【特許文献15】米国特許第5,356,614号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の主題は、生体材料のマトリックスと、止血性複合スポンジの少なくとも1つの表面と安定に結合する、適用組織に対する該スポンジの付着性を増強する材料とを含む、止血性多孔質複合スポンジであって、該材料がヒドロゲル形成成分を本質的に含まない、止血性複合スポンジである。
【0010】
創傷治癒用の以前の線維状生体材料のパッド、特にコラーゲンパッドは、止血の困難な状態(例えば、ヘパリン処置後)では、止血に失敗することが見いだされた。本発明のスポンジは止血を改善する。
【0011】
さらに、更なる材料が活性止血層としてバイオマトリックス材料表面に存在する場合、かかる層は、特にスポンジを組織に適用中に、さらに、該組織の形状寸法に合わせたときに、材料がスポンジから剥離する傾向にある点で不安定になりやすいことも見いだされた。
【0012】
例えば粒子材料、例えばゼラチン粒子などの更なるヒドロゲル形成成分の欠如は、全体として、特にスポンジの低膨潤性に関して、有利な諸性質を有することも見いだされた。
【0013】
本発明のスポンジが提供されるので、これらの欠点を克服することができた。
【0014】
別の一態様は、
a)生体材料のマトリックスの多孔質スポンジを用意する工程、
b)適用組織に対する該スポンジの付着性を増強する材料を懸濁物、溶液又は粉体の形態で用意する工程であって、ここで該材料はヒドロゲル形成成分を本質的に含まない工程、
c)止血性複合スポンジが得られるように、b)の材料が該スポンジの少なくとも1つの表面と安定に結合するように、a)とb)を接触させる工程、必要に応じて
d)工程c)で得られた複合スポンジを乾燥させる工程、必要に応じて
e)工程c)又はd)で得られた該複合スポンジを滅菌する工程
を含む、止血性多孔質スポンジを製造する方法に関する。
【0015】
別の一態様は、止血性多孔質複合スポンジを傷害部位に施す工程を含む、傷害を処置する方法に関する。
【0016】
本明細書に開示するようなスポンジと薬学的活性物質とを含む創傷被覆材(wound coverage)を調製するためのキットも提供する。このキット及びその成分は、特に、傷害の処置のための医用スポンジの製造用である。
【0017】
以下に開示する好ましい実施形態はすべて、特定の実施形態の例であるが、全般的な発明概念を必ずしも限定しないことを当業者は容易に理解する。さらに、特別な実施形態はすべて、相互に排他的でない場合、すべての発明態様及び実施形態の任意の組合せを包含し得る。当業者によって認識されるような均等物又は自明な変更若しくは改変はすべて、本発明に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施例10に記載のような動物モデルにおける実施例1によって調製されたスポンジの止血性能を示す。
【図2】図2は、実施例10に記載のような動物モデルにおける実施例4によって調製されたスポンジの止血性能を示す。
【図3】図3は、実施例10に記載のような動物モデルにおける実施例5によって調製されたスポンジの止血性能を示す。
【図4】図4は、実施例10に記載のような動物モデルにおける実施例6によって調製されたスポンジの止血性能を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の目的は止血性多孔質複合スポンジであって、該スポンジは、生体材料のマトリックスと、該スポンジの少なくとも1つの表面と安定に結合する、適用組織に対する該スポンジの付着性を増強する材料とを含み、ここで、該材料がヒドロゲル形成成分を本質的に含まない、止血性複合スポンジである。
【0020】
本発明による「安定に結合」とは、適用組織に対する上記スポンジの付着性を増強する材料が、このスポンジを該組織に適用して、該組織の形状寸法に適合させる間に、該スポンジが例えばその適用中に屈曲しても、該スポンジと堅固に結合したままであることを意味する。
【0021】
好ましくは、上記生体材料はコラーゲン、タンパク質、生体高分子又は多糖である。特に好ましいのは、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、多糖、例えばキトサン、及びその誘導体からなる群から選択される生体材料、より好ましいのはコラーゲン及びキトサン、特に好ましいのはコラーゲンである。
【0022】
上記スポンジは、傷害部位に適用したときに体液を吸収することができる生体材料の多孔質ネットワークである。さらに、上記スポンジは、通常、柔軟であり、種々の形状寸法の多様な組織及び場所に適用するのに適している。
【0023】
本発明のために使用されるコラーゲンは、多孔質又は線維状マトリックスに加工することができる液状、ペースト状、線維状又は粉状のコラーゲン材料由来の材料を含めて、ゲルの形成に適した任意のコラーゲンに由来することができる。スポンジ製造用のコラーゲンゲルの調製は、例えば、(参照により本明細書に援用する)欧州特許第0891193号に記載されており、ゲル形成が起こるまでの酸性化と、それに続くpH中和を含み得る。ゲル形成能又は溶解性を改善するために、上記コラーゲンは、乾燥したときに安定なスポンジを形成する性質が低下しない限り、(部分的に)加水分解又は改変することができる。
【0024】
本発明によるコラーゲンスポンジは、好ましくは、コラーゲンフィルムの密度よりも低密度である。好ましくは、密度は約5から約100mg/cmであるのに対して、フィルムの密度は約650mg/cmよりも高い。本発明による特に好ましいコラーゲンスポンジは、Matristypt(登録商標)の名称で市販されているものである。
【0025】
スポンジマトリックスのコラーゲン又はゼラチンは、好ましくは動物起源、好ましくはウシ又はウマのものである。しかし、異種タンパク質に対して患者が過敏である場合、ヒトコラーゲンを使用することもできる。上記スポンジの更なる成分は、好ましくはヒト起源であり、それによって特にヒトへの適用に適したスポンジになる。
【0026】
好ましい一実施形態においては、上記スポンジの多孔質ネットワークを形成する線維状生体適合ポリマーのマトリックス材料は、乾燥多孔質スポンジの1〜50%、1〜10%、好ましくは約3%を構成する(w/w%)。
【0027】
好ましい一実施形態においては、適用組織に対する上記スポンジの付着性を増強する材料は、以下、「材料」と呼ぶが、第1の架橋可能成分と、反応可能な条件下で該第1の架橋可能成分と架橋する第2の架橋可能成分とを含む、2種類のプレポリマーの混合物、又は該スポンジと結合した形成されたポリマーである。
【0028】
上記スポンジの少なくとも1つの表面と安定に結合する、適用組織に対する該スポンジの付着性を増強する材料は、ヒドロゲル形成成分を本質的に含まず、特に粒子状ヒドロゲル形成成分、例えば、ゼラチン粒子材料やゼラチン粒子を含まない。
【0029】
より好ましくは、上記第1及び/又は第2の架橋可能成分は、ポリエチレングリコール(PEG)の誘導体、例えば、所与の条件下で反応することができる誘導体を含む。好ましくは、架橋可能成分の一方は、組織と共有結合的に反応することができる。
【0030】
止血剤として使用するためのスポンジに適したかかる材料は、例えば、(参照によりその全体を本明細書に援用する)国際特許公開第2008/016983号に開示されており、商標CoSeal(登録商標)で市販されている。好ましい材料は、付加的な止血をそれ自体で媒介し、漏出域を機械的にふさぐのに適切であり得る。かかる材料は、例えば、生体再吸収性ポリマー、特に体液に曝露されると架橋及び凝固するポリマーである。更なる実施形態においては、材料は再吸収性及び/又は生体適合性であり、被験体、特にヒト被験体によって、6か月未満、3か月未満、1か月未満又は2週間未満で分解され得る。
【0031】
適用組織に対する上記スポンジの付着性を増強する特別な材料は、第1の架橋可能成分、反応可能な条件下で該第1の架橋可能成分と架橋する第2の架橋可能成分を含み得る。上記第1と第2の架橋可能成分は架橋して層を形成する。
【0032】
第1の架橋可能成分は複数の求核基を含むことができ、第2の架橋可能成分は複数の求電子基を含むことができる。生物学的流体と接触すると、又は別の反応可能な条件下で、架橋可能な第1と第2の成分は架橋して、間隙を有する多孔質マトリックスを形成する。
【0033】
一部の態様においては、材料の第1の架橋可能成分は、m個の求核基を有する多求核ポリアルキレンオキシドを含み、第2の架橋可能成分は多求電子ポリアルキレンオキシドを含む。多求核ポリアルキレンオキシドは、2個以上の求核基、例えば、NH、−SH、−H、−PH及び/又は−CO−NH−NHを含むことができる。ある場合には、多求核ポリアルキレンオキシドは2個以上の第一級アミノ基を含む。ある場合には、多求核ポリアルキレンオキシドは2個以上のチオール基を含む。多求核ポリアルキレンオキシドは、ポリエチレングリコール又はその誘導体とすることができる。ある場合には、ポリエチレングリコールは2個以上の求核基を含み、第一級アミノ基及び/又はチオール基を含むことができる。多求電子ポリアルキレンオキシドは、CON(COCH、−COH、−CHO、−CHOCH、−N=C=O、−SOCH=CH、N(COCH)及び/又は−S−S−(CN)などの2個以上の求電子基を含むことができる。多求電子ポリアルキレンオキシドは、2個以上のスクシンイミジル基を含むことができる。多求電子ポリアルキレンオキシドは、2個以上のマレイミジル基を含むことができる。ある場合には、多求電子ポリアルキレンオキシドは、ポリエチレングリコール又はその誘導体とすることができる。
【0034】
特別な実施形態においては、第1及び/又は第2の架橋可能成分は、好ましくはPEGを含む、合成ポリマーである。ポリマーは、組織との架橋及び付着に適した活性側基を含むPEGの誘導体とすることができる。好ましくは、上記接着剤は、スクシンイミジル、マレイミジル及び/又はチオール基を含む。2個のポリマー構成では、一方のポリマーは、スクシニル又はマレイミジル基を有することができ、他方のポリマーは第1のポリマーの基と結合することができるチオール又はアミノ基を有することができる。接着剤のこれら又は追加の基は、組織への付着を容易にすることができる。
【0035】
好ましくは、上で言及したように、改変PEG材料など、適用組織に対する上記スポンジの付着性を増強する材料は、生体材料1cm当たり5から50mg、好ましくは生体材料、例えばコラーゲン1cm当たり10から20mgの範囲で存在する。
【0036】
スポンジは全体として生分解性であり、in vivoでの生分解に適しており、又は生体再吸収性であり、すなわちin vivoで再吸収され得る。十分な再吸収は、細胞外断片がさほど残っていないことを意味する。生分解性材料は、生体系から除去することができる単位、及び/又は生体系に化学的に取り込むことができる単位に生物学的に分解され得る点で、非生分解性材料とは異なる。好ましい一実施形態においては、特定の材料、マトリックス材料又はスポンジ全体は、被験体、特にヒト被験体によって、6か月未満、3か月未満、1か月未満、2週間未満で分解され得る。
【0037】
好ましい一実施形態においては、上記スポンジは、適用組織に対する該スポンジの付着性を増強する材料を連続又は不連続な層の形態で該スポンジの少なくとも1つの表面に有する。
【0038】
本発明のスポンジは、好ましくは、全厚が2.5mm未満、より好ましくは約1mmから約2.5mmである。
【0039】
本発明のスポンジは、好ましくは、低侵襲手術において、例えば腹腔鏡検査適用のために使用される。
【0040】
スポンジは、乾燥させることができ、乾燥後、スポンジの含水量は少なくとも0.5(本明細書ではw/w単位の百分率)とすることができる。ある実施形態においては、スポンジは凍結乾燥又は風乾することができる。
【0041】
スポンジは、例えば(参照により本明細書に援用する)米国特許第5,714,370号に開示された、フィブリノーゲン、トロンビン又はトロンビン前駆体を含めて、血液凝固の活性化因子又は前駆賦活体を更に含むことができる。トロンビン又はトロンビン前駆体は、血液と接触したとき、又は患者に適用後、それぞれトロンビン活性を有するタンパク質、及びトロンビン活性を誘導するタンパク質として理解される。その活性は、トロンビン活性(NIH単位)、又は対応するNIH単位を発生させるトロンビン等価活性(equivalent activity)として表される。スポンジにおける活性は100〜10,000、好ましくは500〜5,000とすることができる。以下、トロンビン活性は、両方、すなわちトロンビン活性又は任意の等価活性を含むと理解される。トロンビン活性を有するタンパク質は、アルファトロンビン、メイゾトロンビン、トロンビン誘導体又は組換えトロンビンからなる群から選択することができる。適切な前駆体は、プロトロンビン、必要に応じてリン脂質と一緒の第Xa因子、第IXa因子、活性化プロトロンビン複合体、FEIBA、内因性若しくは外因性凝固の任意の活性化因子若しくは前駆賦活体、又はその混合物からなる群から選択される可能性がある。
【0042】
本発明による止血スポンジは、更なる生理的物質と併用することができる。例えば、スポンジは、好ましくは、さらに、薬理活性物質、中でも、プラスミノゲン活性化因子阻害剤、または、プラスミン阻害剤、または、線維素溶解剤の不活化剤などの抗線維素溶解剤を含む。好ましい抗線維素溶解剤は、アプロチニン又はアプロチニン誘導体、アルファ2−マクログロブリン、プロテインC又は活性化プロテインCの阻害剤又は不活化剤、天然基質と競合的に作用するプラスミンと結合する基質模倣物、及び線維素溶解活性を阻害する抗体からなる群から選択される。
【0043】
更なる薬理活性物質として、抗菌剤、または、抗真菌剤などの抗生物質を、好ましくはスポンジ中に均一に分布する成分として、本発明によるスポンジと併用することができる。成長因子及び/又は鎮痛剤(pain killer)などの更なる生理活性物質が本発明のスポンジ中に存在することもできる。かかるスポンジは、例えば、創傷治癒に有用であり得る。
【0044】
スポンジの再吸収を調節し得る、すなわち加速又は阻害し得る、特定の酵素又は酵素阻害剤とのさらなる組合せも好ましい。それにはコラゲナーゼ、そのエンハンサー又は阻害剤が含まれる。さらに、適切な防腐剤をスポンジと併用することができ、又はスポンジ中に含めることができる。
【0045】
好ましい一実施形態は、血液凝固の活性化因子又は前駆賦活体を唯一の有効成分として含む止血スポンジの使用に関するが、血液凝固速度、止血、及び引張り強さ、内部(接着)強度、および耐久性などの封着(sealing)の品質に影響を及ぼす更なる物質を含むことができる。
【0046】
血液凝固の因子、補因子などの内因性又は外因性凝固を促進又は改善する凝血促進剤、第XIII因子、組織因子、プロトロンビン複合体、活性化プロトロンビン複合体、又はその複合体の一部、プロトロンビナーゼ複合体、リン脂質、及びカルシウムイオンを使用することができる。正確な封着が必要である外科的処置の場合、止血スポンジを患者に適用した後かつ凝固が影響を受ける前の作用期間を延長することが好ましいこともある。凝固反応の延長は、本発明によるスポンジが適切な量の血液凝固阻害剤を更に含む場合に確保される。必要に応じてヘパリンと一緒のアンチトロンビンIIIなどの阻害剤、又は任意の他のセリンプロテアーゼ阻害剤が好ましい。
【0047】
材料の局所的不安定性又は凝固性亢進を防止するために、かかる添加剤、特に材料中に均一に分布したトロンビン又はトロンビン前駆体を有することも好ましい。恐らくは均一混合物におけるトロンビンとコラーゲンの密接接触のために、ある程度の含水量でも、トロンビン活性は驚くほど安定である。それでも、ポリオール、多糖、ポリアルキレングリコール、アミノ酸又はその混合物からなる群から好ましくは選択されるトロンビン安定剤を本発明に従って使用することができる。ソルビトール、グリセロール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グルコース、またはサッカロースなどの単糖若しくは二糖類、又はトロンビン活性を安定化可能な任意の糖若しくは硫酸化(sulfonated)アミノ酸の例示的使用が好ましい。
【0048】
別の一実施形態においては、液体を吸収することができる生体適合性再吸収性ヒドロゲルが本発明のスポンジに含まれる。
【0049】
本発明は、本発明によるスポンジを含む、創傷被覆材も提供する。スポンジ及び追加の層すべてを、適切な寸法のすぐに使用できる創傷被覆材中に備えることができる。スポンジ及び/又は被覆材は、適応症に応じて、好ましくは少なくとも3mm又は少なくとも5mm及び/又は最高20mmの厚さの、パッド又はシートとすることができる。比較的厚い柔軟なスポンジを創傷に適用するときには、血液及びフィブリノーゲンが、更なる創傷分泌物(secret)の吸収のための障壁として作用し得るフィブリンが形成される前に、スポンジを通して吸収され得ることが重要である。
【0050】
本発明の別の一態様は、
a)生体材料のマトリックスを含むスポンジを用意する工程、
b)適用組織に対する該スポンジの付着性を増強する材料を懸濁物、溶液又は粉体の形態で用意する工程、
c)b)の材料が該スポンジの少なくとも1つの表面に存在するようにa)とb)を接触させる工程、及び必要に応じて
d)工程c)で得られたスポンジを乾燥させる工程
を含む、止血性多孔質スポンジを製造する方法に関する。
【0051】
乾燥は、凍結乾燥又は風乾を含むことができ、流体の揮発性成分を除去することを含む。
【0052】
更に別の一態様においては、本発明は、上記本発明による方法によって得ることができる止血性多孔質スポンジを提供する。止血スポンジのための上記好ましい実施形態はすべて、この得ることができるスポンジを包含することもできる。
【0053】
本発明は、生体材料のマトリックスと適用組織に対する上記スポンジの付着性を増強する材料とを含む止血性多孔質複合スポンジを施すことを含む、傷害を処置する方法も提供する。傷害は、創傷、出血、損傷組織及び/又は出血組織を含み得る。
【0054】
本発明は、さらに、以下の実施例によって例示されるが、それに限定されない。
【0055】
以下の略語を使用する。
【0056】
COH102 ペンタエリスリトールポリ(エチレングリコール)エーテルテトラスクシンイミジルグルタラート
COH206 ペンタエリスリトールポリ(エチレングリコール)エーテルテトラチオール
EtOH エタノール
PEG ポリエチレングリコール
PET ポリエチレンテレフタラート
【実施例】
【0057】
(実施例1)
2種類の反応性PEGの酸性溶液で処理されたコラーゲンスポンジ
PEG濃度(COH102とCOH206 1:1)が10mg/cm、35mg/cm、70mg/cm及び100mg/cmのCOH102とCOH206の水性の酸性溶液(pH3.0、HCl)を調製し、9×7cm PETトレイに充填する。先に充填したPEG溶液と同じ体積の9×7cmの市販ウシコラーゲンスポンジ(Matristypt(登録商標))を溶液の上に置く。PEG溶液の吸収後、コラーゲン材料を凍結乾燥させる。
【0058】
凍結乾燥後、乾燥スポンジを乾燥剤と一緒に水蒸気不透過性ポーチに詰め、さらに例えば25kGrayでガンマ滅菌することができる。
【0059】
(実施例2)
2種類の反応性PEGのEtOH溶液で処理されたコラーゲンスポンジ
COH102及びCOH206を、完全に乾燥させたEtOHに溶解させる。10mg/cm、35mg/cm、70mg/cm及び100mg/cmのPEG濃度(COH102とCOH206 1:1)を調製し、溶液を9×7cm PETトレイに充填する。先に充填したPEG溶液と同じ体積の9×7cmの市販ウシコラーゲンスポンジ(Matristypt(登録商標))を溶液の上に置く。PEG溶液の吸収後、コラーゲン材料を真空室で乾燥させる。
【0060】
乾燥スポンジを乾燥剤と一緒に水蒸気不透過性ポーチに詰め、例えば25kGrayでガンマ滅菌することができる。
【0061】
(実施例3)
コラーゲン/反応性PEG構築物の調製
種々の濃度(2.15mg/cm、4.3mg/cm及び7.2mg/cm)のウシ真皮コラーゲンを含み、PEG(COH102とCOH206 1:1)濃度が7.2mg/cm、14.3mg/cm、28.6mg/cm及び57.3mg/cmの水性の酸性溶液(pH3.0、HCl)22mlを調製し、PETトレイに充填し、凍結乾燥させる。
【0062】
乾燥スポンジを乾燥剤と一緒に水蒸気不透過性ポーチに詰め、例えば25kGrayでガンマ滅菌することができる。
【0063】
(実施例4)
2層コラーゲン/反応性PEG構築物の調製
実施例3に記載のような酸性コラーゲン/PEG溶液(pH3.0、HCl)11ml及び22mlをPETトレイに充填し、−20℃ですぐに凍結させる。氷相の上に1%ウシ真皮コラーゲン溶液pH3.0(HCl)11ml又は22mlを塗布し、得られた構築物を凍結乾燥させる。
【0064】
乾燥スポンジを乾燥剤と一緒に水蒸気不透過性ポーチに詰め、例えば25kGrayでガンマ滅菌することができる。
【0065】
(実施例5)
反応性PEGによるコラーゲンスポンジの均一コーティング
COH102とCOH206の1:1粉体混合物を、市販コラーゲンスポンジの一表面に、又は実施例1、2、3及び4に記載のような方法の一つの後に調製されたスポンジ上に、均一に散布する。2mg/cm、7mg/cm、10mg/cm、14mg/cm及び20mg/cmのPEG量をコーティングのために使用する。PEG粉体混合物は、例えば、PEG粉体混合物を含むスポンジを60から65℃の予熱オーブンに4分間入れるなどして融解することによって、スポンジ表面に固定される。
【0066】
乾燥スポンジを乾燥剤と一緒に水蒸気不透過性ポーチに詰め、例えば25kGrayでガンマ滅菌することができる。
【0067】
(実施例6)
反応性PEGによるコラーゲンスポンジの不連続コーティング
パッド表面が部分的に遮蔽され、PEG粉体で部分的に覆われないように、コーティング前に格子をコラーゲンスポンジ表面に置くことを除いては、実施例5に記載のようにパッドを調製する。メッシュサイズ5mm及び10mmの格子マトリックスを使用し、粉体散布後に除去する。粉体の固定、パッケージング及び滅菌は実施例5に記載のとおりである。
【0068】
これらの試作品は、血液をコラーゲンパッド中により浸透させることができ、そこでコラーゲンの凝血促進活性による凝固が起こる。反応性PEGは、創面へのパッドの接着を確実にする。
【0069】
(実施例7)
架橋PEGによるコラーゲン構築物の調製
a)ウシコラーゲンスポンジ上に反応性PEG COH102とCOH206(1:1)を、二重シリンジとガス駆動スプレーヘッドで構成される市販噴霧アプリケーター(Duplospray、Baxter)を使用して噴霧する。一方のシリンジはpH3.0のCOH102とCOH206を含み、第2のシリンジはpH9.4の緩衝剤を含む。2つのPEG成分の重合は、沈積直後にコラーゲン表面で起こる。スポンジは、真空室で乾燥させることができる。
【0070】
b)コラーゲンスポンジを実施例1に記載のように酸性PEG溶液で処理する。2つのPEG成分とコラーゲンマトリックスの架橋を開始するために、湿ったスポンジを塩基性バッファー系(basic buffer system)で処理し、その後凍結乾燥させることができる。
【0071】
(実施例8)
反応性PEGによるキトサン/ゼラチンスポンジの連続コーティング
COH102とCOH206の1:1粉体混合物を市販キトサン/ゼラチン(Chitoskin(登録商標)、Beese Medical)スポンジの一表面に均一に散布する。14mg/cmのPEG量をコーティングに使用する。PEG粉体混合物は、例えば、PEG粉体混合物を含むスポンジを60から65℃の予熱オーブンに4分間入れるなどして融解することによって、スポンジ表面に固定される。
【0072】
乾燥スポンジを乾燥剤と一緒に水蒸気不透過性ポーチに詰め、例えば25kGrayでガンマ滅菌することができる。
【0073】
(実施例9)
反応性PEGによる酸化セルロース織物のコーティング
COH102とCOH206の1:1粉体混合物を市販酸化セルロース織物(Traumstem(登録商標)、Bioster)の一表面に均一に散布する。14mg/cmのPEG量をコーティングに使用する。PEG粉体混合物は、例えば、PEG粉体混合物を含むスポンジを60から65℃の予熱オーブンに4分間入れるなどして融解することによって、スポンジ表面に固定される。
【0074】
乾燥スポンジを乾燥剤と一緒に水蒸気不透過性ポーチに詰め、例えば25kGrayでガンマ滅菌することができる。
【0075】
(実施例10)
前臨床応用
上記実施例によって調製したスポンジを、肝臓擦過モデルのヘパリン処置ブタ(1.5倍ACT)において試験する。回転研磨機を用いて直径1.8cmの出血した環状の傷を肝葉表面に作る。3×3cmスポンジを適用し、食塩水緩衝剤を吸わせたガーゼ小片と一緒に傷に対して2分間軽く押しつける。ガーゼ除去後、図1から4に示すように良好な止血性能が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
止血性複合スポンジであって、該スポンジは、
生体材料のマトリックスの多孔質スポンジと、
該スポンジの少なくとも1つの表面と安定に結合する、適用組織に対する該スポンジの付着性を増強する材料と
を含み、ここで、該材料がヒドロゲル形成成分を本質的に含まない、止血性複合スポンジ。
【請求項2】
前記生体材料が、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、多糖、例えばキトサン、及びその誘導体からなる群から選択される、請求項1に記載のスポンジ。
【請求項3】
前記適用組織に対する前記スポンジの付着性を増強する前記材料が、第1の架橋可能成分と、反応可能な条件下で該第1の架橋可能成分と架橋する第2の架橋可能成分とを含む、2種類のプレポリマーの混合物、又は前もって形成されたポリマーである、請求項1又は2に記載のスポンジ。
【請求項4】
前記第1及び/又は第2の架橋可能成分が、ポリエチレングリコールの誘導体を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のスポンジ。
【請求項5】
前記適用組織に対する前記スポンジの付着性を増強する前記材料が、該スポンジの少なくとも1つの表面に連続又は不連続な層を形成する、請求項1から4のいずれか一項に記載のスポンジ。
【請求項6】
全厚が約1mmから約2.5mmである、請求項1から5のいずれか一項に記載のスポンジ。
【請求項7】
低侵襲手術において、例えば腹腔鏡検査適用に使用するための、請求項1から6のいずれか一項に記載のスポンジ。
【請求項8】
前記適用組織に対する前記スポンジの付着性を増強する前記材料が、生体材料1cm当たり5から500mg、好ましくは1cm当たり5から100mgの濃度で存在する、請求項1から7のいずれか一項に記載のスポンジ。
【請求項9】
止血性複合スポンジを製造する方法であって、
a)生体材料のマトリックスの多孔質スポンジを用意する工程、
b)適用組織に対する該スポンジの付着性を増強する材料を懸濁物、溶液又は粉体の形態で用意する工程であって、ここで該材料はヒドロゲル形成成分を本質的に含まない工程、
c)止血性複合スポンジが得られるように、b)の該材料が該スポンジの少なくとも1つの表面と安定に結合するように、a)とb)を接触させる工程、必要に応じて
d)工程c)で得られた該複合スポンジを乾燥させる工程、必要に応じて
e)工程c)又はd)で得られた該複合スポンジを滅菌する工程
を含む、方法。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項に記載の止血性複合スポンジを施す工程を含む、創傷、出血、損傷組織及び/又は出血組織を処置する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2013−514093(P2013−514093A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543413(P2012−543413)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際出願番号】PCT/AT2010/000486
【国際公開番号】WO2011/079336
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】