正孔注入輸送層を有するデバイス、及びその製造方法、並びに正孔注入輸送層形成用インク
【課題】製造プロセスが容易でありながら、長寿命を達成可能なデバイスを提供する。
【解決手段】基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスであって、前記正孔注入輸送層が、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属と保護剤とを含むか、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有することを特徴とする、デバイスである。
【解決手段】基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスであって、前記正孔注入輸送層が、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属と保護剤とを含むか、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有することを特徴とする、デバイスである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子などの有機デバイス及び量子ドット発光素子を含む正孔注入輸送層を有するデバイス、及びその製造方法、並びに正孔注入輸送層形成用インクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機物を用いたデバイスは、有機エレクトロルミネセンス素子(以下、有機EL素子という。)、有機トランジスタ、有機太陽電池、有機半導体等、広範な基本素子及び用途への展開が期待されている。また、その他に正孔注入輸送層を有するデバイスには、量子ドット発光素子、酸化物系化合物太陽電池等がある。
【0003】
有機EL素子は、発光層に到達した電子と正孔とが再結合する際に生じる発光を利用した電荷注入型の自発光デバイスである。この有機EL素子は、1987年にT.W.Tangらにより蛍光性金属キレート錯体とジアミン系分子とからなる薄膜を積層した素子が低い駆動電圧で高輝度な発光を示すことが実証されて以来、活発に開発されている。
【0004】
有機EL素子の素子構造は、陰極/有機層/陽極から構成される。この有機層は、初期の有機EL素子においては発光層/正孔注入層とからなる2層構造であったが、現在では、高い発光効率と長駆動寿命を得るために、電子注入層/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/正孔注入層とからなる5層構造など、様々な多層構造が提案されている。
これら電子注入層、電子輸送層、正孔輸送層、正孔注入層などの発光層以外の層には、電荷を発光層へ注入・輸送しやすくする効果、あるいはブロックすることにより電子電流と正孔電流のバランスを保持する効果や、光エネルギー励起子の拡散を抑制するなどの効果があるといわれている。
【0005】
電荷輸送能力および電荷注入能力の向上を目的として、酸化性化合物を、正孔輸送性材料に混合して電気伝導度を高くすることが試みられている(特許文献1、特許文献2)。
特許文献1においては、酸化性化合物すなわち電子受容性化合物として、トリフェニルアミン誘導体と6フッ化アンチモン等の対アニオンを含む化合物や7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン等の炭素−炭素二重結合の炭素にシアノ基が結合した電子受容性が極めて高い化合物が用いられている。
特許文献2においては、酸化性ドーパントとして、一般的な酸化剤が挙げられ、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、及びアリールアミンとハロゲン化金属又はルイス酸との塩が挙げられている。
【0006】
特許文献3〜6においては、酸化性化合物すなわち電子受容性化合物として、化合物半導体である金属酸化物が用いられている。注入特性や電荷移動特性が良い正孔注入層を得ることを目的として、例えば五酸化バナジウムや三酸化モリブデンなどの金属酸化物を用いて蒸着法で薄膜を形成したり、或いはモリブデン酸化物とアミン系の低分子化合物との共蒸着により混合膜を形成している。
特許文献7においては、5酸化バナジウムの塗膜形成の試みとして、酸化性化合物すなわち電子受容性化合物として、オキソバナジウム(V)トリ−i−プロポキシドオキシドを溶解させた溶液を用い、それと正孔輸送性高分子との混合塗膜の形成後に水蒸気中で加水分解させてバナジウム酸化物として、電荷移動錯体を形成させる作製方法が挙げられている。
特許文献8においては、三酸化モリブデンの塗膜形成の試みとして、三酸化モリブデンを物理的に粉砕して作製した微粒子を溶液に分散させてスラリーを作製し、それを塗工して正孔注入層を形成して長寿命な有機EL素子を作製することが記載されている。
【0007】
一方、有機トランジスタは、π共役系の有機高分子や有機低分子からなる有機半導体材料をチャネル領域に使用した薄膜トランジスタである。一般的な有機トランジスタは、基板、ゲート電極、ゲート絶縁層、ソース・ドレイン電極、及び有機半導体層の構成からなる。有機トランジスタにおいては、ゲート電極に印加する電圧(ゲート電圧)を変化させることで、ゲート絶縁膜と有機半導体膜の界面の電荷量を制御し、ソース電極及びドレイン電極間の電流値を変化させてスイッチングを行なう。
【0008】
有機半導体層とソース電極またはドレイン電極との電荷注入障壁を低減することにより、有機トランジスタのオン電流値を向上させ、かつ素子特性を安定化させる試みとして、有機半導体中に電荷移動錯体を導入することによって、電極近傍の有機半導体層中のキャリア密度を増加させることが知られている(例えば、特許文献9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−36390号公報
【特許文献2】特許第3748491号公報
【特許文献3】特開2006−155978号公報
【特許文献4】特開2007−287586号公報
【特許文献5】特許第3748110号公報
【特許文献6】特許第2824411公報
【特許文献7】SID 07 DIGEST p.1840-1843 (2007)
【特許文献8】特開2008−041894号公報
【特許文献9】特開2002−204012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1から特許文献9で開示されたような酸化性材料を正孔輸送性材料に用いても、長寿命素子の実現は困難であるか、更に寿命を向上させる必要があった。特許文献1、2、8、及び9で開示されている酸化性材料では、正孔輸送性材料への酸化能力が低いか、薄膜中での分散安定性が悪いためと推測される。例えば、特許文献1及び特許文献2の両方で用いられているカチオン性トリフェニルアミン誘導体と6フッ化アンチモンとからなる酸化性材料を正孔輸送材料に混合した場合、電荷移動錯体を生成させる一方、電荷移動錯体と同数の遊離の対アニオン種である6フッ化アンチモンが薄膜中に存在する。この遊離の6フッ化アンチモンは駆動時に泳動し、材料が一部で凝集したり、隣接層との界面に析出するなど、薄膜中の材料の駆動時の分散安定性が悪くなると推定される。このような駆動中における分散安定性の変化は、素子中のキャリア注入や輸送を変化させるために、寿命特性に悪影響を及ぼすと考えられる。また、特許文献3〜5で開示されている金属酸化物では、正孔注入特性は向上するものの、隣接する有機化合物層との界面の密着性が不十分になり、寿命特性に悪影響を及ぼしていると考えられる。
【0011】
また、特許文献1から特許文献9で開示されていたような酸化性材料は、溶液塗布法により成膜する正孔輸送性高分子化合物と、同時に溶解するような溶剤溶解性が十分ではなく、酸化性材料のみで凝集しやすかったり、使用可能な溶剤種も限られるため汎用性に欠けるなどの問題があった。特に無機化合物のモリブデン酸化物においては比較的高い特性が得られているものの、溶剤に不溶であり溶液塗布法を用いることができないという課題があった。例えば、特許文献8には平均粒径20nmの酸化モリブデン微粒子を溶媒に分散させたスラリーを用いて、スクリーン印刷法により電荷注入層を作製した旨の記述がある。しかしながら、特許文献8のようにMoO3粉末を粉砕する方法だと、例えば10nm程度の正孔注入層を形成する要求に対して10nm以下のスケールで粒径のそろった微粒子を作製することは、実際には非常に困難である。また、粉砕されて作製される酸化モリブデン微粒子は、凝集させることなく溶液中に安定的に分散させることがさらに困難である。微粒子の溶液化が不安定であると、塗布膜作製の際に凹凸の大きな平滑性が悪い膜しか形成できず、デバイスの短絡の原因となる。蒸着法でしか薄膜形成できないと、発光層をインクジェット法等の溶液塗布法で塗り分けて形成しても、結局、溶液塗布法の利点を活かすことができないという問題があった。すなわち、親液性となるモリブデン酸化物によって各発光層の間の隔壁(バンク)の撥液性を損なわないために、無機化合物のモリブデン酸化物を含有する正孔注入層あるいは正孔輸送層を、高精細マスクを用いて蒸着する必要があり、結局コストや歩留まりの点から、溶液塗布法の利点を活かすことができなかった。さらに、無機化合物のモリブデン酸化物は酸素欠損型の酸化物半導体で、電気伝導性は酸化数+6のMoO3よりも酸化数+5のMo2O5は常温で良導体であるが大気中では不安定であり、容易に熱蒸着できる化合物は、MoO3あるいはMoO2などの安定な価数をもつ酸化化合物に限定される。
成膜性や薄膜の安定性は素子の寿命特性と大きく関係する。一般的に有機EL素子の寿命とは、一定電流駆動などで連続駆動させたときの輝度半減時間とし、輝度半減時間が長い素子ほど長駆動寿命であるという。
【0012】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶液塗布法により正孔注入輸送層を形成可能で製造プロセスが容易でありながら、長寿命を達成可能なデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、正孔注入輸送層に、遷移金属含有ナノ粒子を用いることで、溶液塗布法により正孔注入輸送層を形成でき製造プロセスが容易でありながら、電荷移動錯体を形成可能で正孔注入特性を向上し、且つ、隣接する電極や有機層との密着性にも優れた、安定性の高い膜となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明のデバイスは、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスであって、前記正孔注入輸送層が、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属と保護剤とを含むか、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明のデバイスに用いられる遷移金属含有ナノ粒子は、無機化合物のモリブデン酸化物等を用いる場合と異なり、ナノ粒子中に保護剤として有機部分を含み、溶剤に分散性を有する。そのため、溶液塗布法によって薄膜形成が可能であることから、製造プロセス上のメリットが大きい。撥液性バンクを持つ基板に正孔注入輸送層から発光層までを順次塗布プロセスのみで形成できる。それ故、無機化合物のモリブデン酸化物の場合のように正孔注入層を高精細なマスク蒸着等で蒸着した後に、正孔輸送層や発光層を溶液塗布法で形成し、さらに第二電極を蒸着するようなプロセスと比較して、単純であり、低コストでデバイスを作製できる利点がある。
【0015】
本発明のデバイスに用いられる少なくとも遷移金属酸化物を含むナノ粒子(以下、単に「遷移金属含有ナノ粒子」という)は、無機化合物のモリブデン酸化物を用いる場合と異なり、ナノ粒子中に保護剤として有機部分を含むため、有機物である正孔輸送性化合物との相溶性が良好となり、且つ、隣接する有機層との界面の密着性も良好となる。また、遷移金属含有ナノ粒子は含まれる遷移金属乃至遷移金属化合物の反応性が高く、電荷移動錯体を形成しやすいと考えられる。そのため、遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を備えた本発明のデバイスは、低電圧駆動、高電力効率、長寿命なデバイスを実現することが可能である。
また、本発明のデバイスにおいては、遷移金属含有ナノ粒子の保護剤の種類を選択したり修飾することにより、親水性・疎水性、電荷輸送性、あるいは密着性などの機能性を付与するなど、多機能化することが容易である。
【0016】
本発明のデバイスにおいては、前記遷移金属含有ナノ粒子に含まれる、遷移金属、及び、遷移金属化合物中の遷移金属が、モリブデン、タングステン、バナジウム、及びレニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属であることが、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
【0017】
本発明のデバイスにおいては、前記正孔注入輸送層は、含まれる遷移金属がそれぞれ異なる2種類以上の遷移金属含有ナノ粒子を含有しても良い。
【0018】
本発明のデバイスにおいては、前記遷移金属含有ナノ粒子の平均粒径が15nm以下であることが、薄膜を形成可能で、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
【0019】
本発明のデバイスにおいては、前記正孔注入輸送層は、前記遷移金属含有ナノ粒子、及び正孔輸送性化合物を少なくとも含有することが、駆動電圧の低下や素子寿命を更に向上させる点から好ましい。
【0020】
本発明のデバイスにおいては、前記正孔注入輸送層は、前記遷移金属含有ナノ粒子を含有する層と、正孔輸送性化合物を含有する層とが少なくとも積層された層からなる層であっても良い。
【0021】
本発明のデバイスにおいては、前記遷移金属含有ナノ粒子を含有する層と、前記遷移金属含有ナノ粒子及び正孔輸送性化合物を少なくとも含有する層とが少なくとも積層された層からなる層であっても良い。
【0022】
本発明のデバイスにおいては、前記遷移金属含有ナノ粒子の前記保護剤が、前記遷移金属及び/又は遷移金属化合物と連結する作用を生ずる連結基と、芳香族炭化水素及び/又は複素環とを含むことが、駆動電圧の低下や素子寿命を更に向上させる点から好ましい。
【0023】
本発明のデバイスにおいては、前記遷移金属含有ナノ粒子において、前記保護剤が、電荷輸送性基を含むことが、駆動電圧の低下や素子寿命を更に向上させる点から好ましい。
【0024】
本発明のデバイスにおいては、前記正孔輸送性化合物が、原子量の総和MAが100以上である部分Aを有する化合物であり、
前記遷移金属含有ナノ粒子中の前記保護剤が、連結基の他に、原子量の総和MBが100以上であり、当該原子量の総和MBと前記原子量の総和MAが下記式(I)の関係を満たし、当該原子量の総和MBが保護剤の分子量の1/3より大きい部分Bを有し、
前記部分Aの溶解度パラメータSAと、前記部分Bの溶解度パラメータSBが、下記式(II)の関係を満たすことが、駆動電圧の低下や素子寿命を更に向上させる点から好ましい。
|MA−MB|/MB≦2 式(I)
|SA−SB|≦2 式(II)
【0025】
本発明のデバイスにおいては、前記部分Bは、前記部分Aと同一の骨格、又は同一の骨格内にスペーサー構造を含む類似骨格を有することが、駆動電圧の低下や素子寿命を更に向上させる点から好ましい。
【0026】
本発明のデバイスにおいては、前記連結基が、以下の一般式(1a)〜(1l)で示される官能基より選択される1種以上であることが、膜の安定性の点から好ましい。
【0027】
【化1】
(式中、Z1、Z2及びZ3は、各々独立にハロゲン原子、又はアルコキシ基を表す。)
【0028】
本発明のデバイスにおいては、前記正孔輸送性化合物が、正孔輸送性高分子化合物であることが、駆動電圧の低下や素子寿命を更に向上させる点から好ましい。
【0029】
本発明のデバイスは、少なくとも発光層を含む有機層を含有する有機EL素子として好適に用いられる。
【0030】
また、本発明に係るデバイスの製造方法は、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスの製造方法であって、
遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子と、有機溶媒とを含有する正孔注入輸送層形成用インクを調製する工程と、前記正孔注入輸送層形成用インクを用いて、前記電極上のいずれかの層上に正孔注入輸送層を形成する工程と、前記遷移金属含有ナノ粒子の遷移金属及び/又は遷移金属化合物の少なくとも一部を遷移金属酸化物とする酸化物化工程、とを有することを特徴とする。
【0031】
本発明に係るデバイスの製造方法によれば、溶液塗布法により正孔注入輸送層を形成可能で製造プロセスが容易でありながら、長寿命を達成可能なデバイスを提供することが可能である。
【0032】
本発明に係るデバイスの製造方法においては、前記酸化物化工程は前記正孔注入輸送層形成用インクを調製後、正孔注入輸送層を形成する工程前に行ってもよいし、正孔注入輸送層を形成する工程後に行ってもよい。
すなわち、一態様としては、前記電極上のいずれかの層上に、遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を形成する工程と、前記正孔注入輸送層における遷移金属含有ナノ粒子中の遷移金属及び/又は遷移金属化合物の少なくとも一部を遷移金属酸化物とする酸化物化工程を有する。
別の一態様としては、前記正孔注入輸送層形成用インクを調製する工程後、正孔注入輸送層を形成する工程前に、前記酸化物化工程が実施され、酸化物化された正孔注入輸送層形成用インクを用いて、前記正孔注入輸送層を形成することを特徴とする。
【0033】
本発明に係るデバイスの製造方法においては、前記酸化物化工程が、酸素存在下で実施されることが好ましい。
【0034】
本発明に係るデバイスの製造方法においては、前記酸化物化工程として、加熱工程、及び/又は、光照射工程、及び/又は、活性酸素を作用させる工程を用いることができる。
【0035】
また、本発明に係る正孔注入輸送層形成用インクは、遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子と、有機溶媒とを含有することを特徴とする。
【0036】
また、本発明に係る正孔注入輸送層形成用インクにおいては、前記遷移金属含有ナノ粒子が少なくとも遷移金属酸化物を含んでいても良い。
【発明の効果】
【0037】
本発明のデバイスは、製造プロセスが容易でありながら、長寿命を達成可能である。
本発明に係るデバイスの製造方法によれば、製造プロセスが容易でありながら、長寿命を達成可能なデバイスを提供することが可能である。
また、本発明に係る正孔注入輸送層形成用インクによれば、製造プロセスが容易でありながら、長寿命を達成可能なデバイスを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係るデバイスの基本的な層構成を示す断面概念図である。
【図2】本発明に係るデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の一例を示す断面模式図である。
【図3】本発明に係るデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の他の一例を示す断面模式図である。
【図4】本発明に係るデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の他の一例を示す断面模式図である。
【図5】本発明に係るデバイスの別の実施形態である有機トランジスタの層構成の一例を示す断面模式図である。
【図6】本発明に係るデバイスの別の実施形態である有機トランジスタの層構成の他の一例を示す断面模式図である。
【図7】遷移金属含有ナノ粒子の粒子径を測定した結果を示す図である。
【図8】実施例5及び比較例3の交流−直流変換特性の評価に用いた回路を示す図である。
【図9】サンプル1について合成後1日、38日、64日経過後に得られたXPSスペクトルの一部拡大図を示す。
【図10】サンプル2及びサンプル4について得られたXPSスペクトルの一部拡大図を示す。
【図11】サンプル3及びサンプル5について得られたXPSスペクトルの一部拡大図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
1.デバイス
本発明のデバイスは、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスであって、前記正孔注入輸送層が、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属と保護剤とを含むか、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有することを特徴とする。
【0040】
本発明のデバイスは、前記正孔注入輸送層が、遷移金属含有ナノ粒子を含有することにより、正孔注入特性が向上され、且つ、隣接する電極や有機層との密着性にも優れた、安定性の高い膜となるため、素子の長寿命化を達成可能である。また、本発明のデバイスは、無機化合物の遷移金属酸化物を用いる場合と異なり、ナノ粒子中に粒子表面を保護する保護剤として有機部分を含み、溶剤に分散性を有するため、溶液塗布法によって薄膜形成が可能であることから、製造プロセスが容易である。
【0041】
このように、本発明のデバイスに用いられる遷移金属含有ナノ粒子が寿命を向上できるのは、遷移金属含有ナノ粒子は含まれる遷移金属又は遷移金属化合物の反応性が高く、正孔輸送性化合物との間で、或いは遷移金属含有ナノ粒子同士で、電荷移動錯体を形成し易いからであると推定される。また、遷移金属含有ナノ粒子は、無機化合物の遷移金属酸化物と異なり、ナノ粒子中に保護剤として有機部分を含むため、有機物である正孔輸送性化合物との相溶性が良好となり、且つ、隣接する有機層との界面の密着性も良好となる。そのため、遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を備えた本発明のデバイスは、低電圧駆動、高電力効率で、特に寿命が向上したデバイスを実現できると推定される。
また、本発明のデバイスにおいては、遷移金属含有ナノ粒子の保護剤の種類を選択したり修飾することにより、親水性・疎水性、電荷輸送性、あるいは密着性などの機能性を付与するなど、多機能化することが容易である。
【0042】
また、本発明のデバイスは、溶液塗布法によって正孔注入輸送層を形成することができるので、撥液性バンクを持つ基板に正孔注入輸送層から発光層までを順次塗布プロセスのみで形成できる。そのため、無機化合物の遷移金属酸化物の場合のように正孔注入層を高精細なマスク蒸着等で蒸着した後に、正孔輸送層や発光層を溶液塗布法で形成し、さらに第二電極を蒸着するようなプロセスと比較して、単純であり、低コストでデバイスを作製できる利点がある。
【0043】
なお、電荷移動錯体を形成していることは、例えば、1H NMR測定により、遷移金属含有ナノ粒子を電荷輸送性化合物の溶液へ混合した場合、電荷輸送性化合物の6〜10ppm付近に観測される芳香環に由来するプロトンシグナルの形状やケミカルシフト値が、遷移金属含有ナノ粒子を混合する前と比較して変化する現象が観測されることによって示唆される。
【0044】
以下、本発明に係るデバイスの層構成について説明する。
本発明に係るデバイスは、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスである。
本発明に係るデバイスには、有機EL素子、有機トランジスタ、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、有機半導体を包含する有機デバイスのほか、正孔注入輸送層を有する量子ドット発光素子、酸化物系化合物太陽電池等も含まれる。
図1は本発明に係る有機デバイスの基本的な層構成を示す断面概念図である。本発明のデバイスの基本的な層構成は、基板7上に対向する2つの電極(1及び6)と、その2つの電極(1及び6)間に配置され少なくとも正孔注入輸送層2を含む有機層3を有する。
基板7は、デバイスを構成する各層を形成するための支持体であり、必ずしも電極1の表面に設けられる必要はなく、デバイスの最も外側の面に設けられていればよい。
【0045】
正孔注入輸送層2は、少なくとも遷移金属含有ナノ粒子を含有し、電極1から有機層3への正孔の注入及び/又は輸送を担う層である。
有機層3は、正孔注入輸送されることにより、デバイスの種類によって様々な機能を発揮する層であり、単層からなる場合と多層からなる場合がある。有機層が多層からなる場合は、有機層は、正孔注入輸送層の他に更に、デバイスの機能の中心となる層(以下、機能層と称呼する。)や、当該機能層の補助的な層(以下、補助層と称呼する。)を含んでいる。例えば、有機EL素子の場合、正孔注入輸送層の表面に更に積層される正孔輸送層が補助層に該当し、当該正孔輸送層の表面に積層される発光層が機能層に該当する。
電極6は、対向する電極1との間に正孔注入輸送層2を含む有機層3が存在する場所に設けられる。また、必要に応じて、図示しない第三の電極を有していてもよい。これらの電極間に電場を印加することにより、デバイスの機能を発現させることができる。
【0046】
図2は、本発明に係るデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の一例を示す断面模式図である。本発明の有機EL素子は、電極1の表面に正孔注入輸送層2が積層され、当該正孔注入輸送層2の表面に補助層として正孔輸送層4a、機能層として発光層5が積層された形態を有する。このように、本発明に特徴的な正孔注入輸送層を正孔注入層の位置で用いる場合には、導電率の向上に加え、当該正孔注入輸送層は電荷移動錯体を形成して溶液塗布法に用いた溶媒に不溶になるので、上層の正孔輸送層を積層する際にも溶液塗布法を適用することが可能である。更に、電極との密着性向上も期待できる。
図3は、本発明に係るデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の別の一例を示す断面模式図である。本発明の有機EL素子は、電極1の表面に補助層として正孔注入層4bが形成され、当該正孔注入層4bの表面に正孔注入輸送層2、機能層として発光層5が積層された形態を有する。このように、本発明に特徴的な正孔注入輸送層を正孔輸送層の位置で用いる場合には、導電率の向上に加え、当該正孔注入輸送層は電荷移動錯体を形成して溶液塗布法に用いた溶媒に不溶になるので、上層の発光層を積層する際にも溶液塗布法を適用することが可能である。
図4は、本発明に係るデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の別の一例を示す断面模式図である。本発明の有機EL素子は、電極1の表面に正孔注入輸送層2、機能層として発光層5が順次積層された形態を有する。このように、本発明に特徴的な正孔注入輸送層を1層で用いる場合には、工程数が削減されるというプロセス上のメリットがある。
なお、上記図2〜図4においては、正孔注入輸送層2、正孔輸送層4a、正孔注入層4bのそれぞれが、単層ではなく複数層から構成されているものであっても良い。
【0047】
上記図2〜図4においては、電極1は陽極、電極6は陰極として機能する。上記有機EL素子は、陽極と陰極の間に電場を印加されると、正孔が陽極から正孔注入輸送層2及び正孔輸送層4を経て発光層5に注入され、且つ電子が陰極から発光層に注入されることにより、発光層5の内部で注入された正孔と電子が再結合し、素子の外部に発光する機能を有する。
素子の外部に光を放射するため、発光層の少なくとも一方の面に存在する全ての層は、可視波長域のうち少なくとも一部の波長の光に対する透過性を有することを必要とする。また、発光層と電極6(陰極)の間には、必要に応じて電子輸送層及び/又は電子注入層が設けられていてもよい(図示せず)。
【0048】
図5は、本発明に係るデバイスの別の実施形態である有機トランジスタの層構成の一例を示す断面模式図である。この有機トランジスタは、基板7上に、電極9(ゲート電極)と、対向する電極1(ソース電極)及び電極6(ドレイン電極)と、電極9、電極1、及び電極6間に配置された前記有機層としての有機半導体層8と、電極9と電極1の間、及び電極9と電極6の間に介在する絶縁層10を有し、電極1と電極6の表面に、正孔注入輸送層2が形成されている。
上記、有機トランジスタは、ゲート電極における電荷の蓄積を制御することにより、ソース電極−ドレイン電極間の電流を制御する機能を有する。
【0049】
図6は、本発明に係るデバイスの実施形態である有機トランジスタの別の層構成の一例を示す断面模式図である。この有機トランジスタは、基板7上に、電極9(ゲート電極)と、対向する電極1(ソース電極)及び電極6(ドレイン電極)と、電極9、電極1、及び電極6間に配置された前記有機層として本発明の正孔注入輸送層2を形成して有機半導体層8とし、電極9と電極1の間、及び電極9と電極6の間に介在する絶縁層10を有している。この例においては、正孔注入輸送層2が有機半導体層8となっている。
【0050】
尚、本発明のデバイスの層構成は、上記例示に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、本発明に係るデバイスの各層について詳細に説明する。
【0051】
(1)正孔注入輸送層
本発明のデバイスは、少なくとも正孔注入輸送層を含む。本発明のデバイスが有機デバイスであって、有機層が多層の場合には、有機層は、正孔注入輸送層の他に更に、デバイスの機能の中心となる層や、当該機能層を補助する役割を担う補助層を含んでいるが、それらの機能層や補助層は、後述するデバイスの具体例において、詳細に述べる。
【0052】
本発明のデバイスにおける正孔注入輸送層は、少なくとも遷移金属含有ナノ粒子を含有するものである。本発明のデバイスにおける正孔注入輸送層は、遷移金属含有ナノ粒子のみからなるものであっても良いが、更に他の成分を含有していても良い。中でも、更に正孔輸送性化合物を含有することが、駆動電圧の低下や素子寿命を更に向上させる点から、好ましい。
【0053】
更に正孔輸送性化合物を含有する場合に、本発明のデバイスにおける正孔注入輸送層は、遷移金属含有ナノ粒子と正孔輸送性化合物を含有する混合層1層からなるものであっても良いし、当該混合層を含む複数層からなるものであっても良い。また、前記正孔注入輸送層は、遷移金属含有ナノ粒子を含有する層と、正孔輸送性化合物を含有する層とが少なくとも積層された複数層からなるものであっても良い。更に、前記正孔注入輸送層は、遷移金属含有ナノ粒子を含有する層と、遷移金属含有ナノ粒子、並びに、正孔輸送性化合物を少なくとも含有する層とが少なくとも積層された層からなるものであっても良い。
【0054】
本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属と保護剤とを含むか、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物と保護剤とを含むものである。当該遷移金属含有ナノ粒子は、通常、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属を含有する粒子、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物を含有する粒子と、当該粒子表面を保護する保護剤とを含有するものである。本発明の遷移金属含有ナノ粒子においては、特に粒子表面に、保護剤として有機化合物が付着しているので、特許文献8のような単に遷移金属酸化物が粉砕されて形成された粒子と異なり、ナノ粒子の分散安定性が非常に高いものとなり、均一性の高いnmオーダーの薄膜を形成することができる。当該薄膜は、経時安定性及び均一性が高いためショートし難い。更に、隣接する電極や有機層との密着性に優れるようになる。なおここで、ナノ粒子とは、直径がnm(ナノメートル)オーダー、すなわち1μm未満の粒子をいう。
少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属を含有する粒子、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物を含有する粒子は、単一構造であっても複合構造であっても良く、コア・シェル構造、合金、島構造等であっても良い。遷移金属含有ナノ粒子に含まれる遷移金属化合物としては、酸化物、硫化物、ホウ化物、セレン化物、ハロゲン化物、錯体等が挙げられる。但し、本願において、遷移金属含有ナノ粒子中には、遷移金属酸化物が必ず含まれる。遷移金属酸化物が必ず含まれることにより、イオン化ポテンシャルの値が最適になったり、不安定な酸化数+0の金属からの酸化による変化をあらかじめ抑制しておくことにより、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させることが可能になる。中でも、遷移金属含有ナノ粒子中に酸化数の異なる遷移金属酸化物が共存して含まれることが好ましい。酸化数の異なる遷移金属酸化物が共存して必ず含まれることにより、酸化数のバランスによって正孔輸送や正孔注入性が適度に制御されることにより、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させることが可能になる。なお、ナノ粒子内には処理条件によって様々な価数の遷移金属原子や化合物、例えば酸化物やホウ化物など、が混在していても良い。
【0055】
本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子に含まれる、遷移金属、又は、遷移金属化合物に含まれる遷移金属としては、具体的には例えば、モリブデン、タングステン、バナジウム、レニウム、ニッケル、銅、チタン、白金、銀等が挙げられる。
中でも、前記遷移金属含有ナノ粒子に含まれる、遷移金属、及び、遷移金属化合物中の遷移金属が、モリブデン、タングステン、バナジウム、及びレニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属であることが、反応性が高いことから、電荷移動錯体を形成し易く、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
【0056】
本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子に含まれる、遷移金属酸化物は、遷移金属及び遷移金属化合物中に90モル%以上含まれることが好ましく、更に、95モル%以上含まれることが駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
【0057】
保護剤の種類は適宜選択され、特に限定されないが、遷移金属含有粒子の表面保護と分散安定性の点から、前記遷移金属及び/又は遷移金属化合物と連結する作用を生ずる連結基と、疎水性を有する有機基とが含まれることが好ましい。保護剤としては、例えば、疎水性を有する有機基の末端に連結基として親水性基を有する構造が挙げられる。保護剤は低分子化合物であっても高分子化合物であっても良い。
【0058】
連結基としては、遷移金属及び/又は遷移金属化合物と連結する作用を有すれば、特に限定されない。連結には、吸着や配位も含まれるが、イオン結合、共有結合等の化学結合であることが好ましい。保護剤中の連結基の数は分子内に1つ以上であればいくつであっても良い。後述する正孔輸送性化合物に遷移金属含有ナノ粒子を分散させる場合に、当該連結基が保護剤1分子内に2つ以上存在すると、保護剤同士が重合して後述する正孔輸送性化合物と相溶性の悪い連結基部分がバインダー成分である正孔輸送性化合物側に露出して、正孔輸送性化合物と遷移金属含有ナノ粒子の相溶性を阻害する可能性がある。従って、このような場合には、連結基は保護剤の1分子内に1つであることが好ましい。連結基の数が1分子内に1つの場合は、保護剤は粒子と結合するか、2分子反応で二量体を形成して反応が停止する。当該二量体については、粒子との密着性が弱いため、洗い流す工程を付与すると膜中から容易に取り除くことができる。
【0059】
連結基としては、例えばカルボキシル基、アミノ基、水酸基、チオール基、アルデヒド基、スルホン酸基、アミド基、スルホンアミド基、リン酸基、ホスフィン酸基、P=O基などの親水性基が挙げられる。連結基としては、以下の一般式(1a)〜(1l)で示される官能基より選択される1種以上であることが好ましい。
【0060】
【化2】
【0061】
保護剤に含まれる有機基としては、炭素数が4以上、好ましくは炭素数が6〜30、より好ましくは8〜20の直鎖又は分岐の飽和又は不飽和アルキル基や、芳香族炭化水素及び/又は複素環等が挙げられる。中でも、保護剤が、前記遷移金属及び/又は遷移金属化合物と連結する作用を生ずる連結基と、芳香族炭化水素及び/又は複素環とを含むことが、正孔輸送性化合物との相溶性の向上、隣接する有機層との密着性向上などにより、膜の分散安定性が向上し、長駆動寿命化に寄与する点から好ましい。
【0062】
芳香族炭化水素及び/又は複素環としては、具体的には例えば、ベンゼン、トリフェニルアミン、フルオレン、ビフェニル、ピレン、アントラセン、カルバゾール、フェニルピリジン、トリチオフェン、フェニルオキサジアゾール、フェニルトリアゾール、ベンゾイミダゾール、フェニルトリアジン、ベンゾジアチアジン、フェニルキノキサリン、フェニレンビニレン、フェニルシロール、及びこれらの構造の組み合わせ等が挙げられる。
また、本発明の効果を損なわない限り、芳香族炭化水素及び/又は複素環を含む構造に置換基を有していても良い。置換基としては、例えば、炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基の中では、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が好ましい。
【0063】
保護剤は、電荷輸送性基を有することが、正孔輸送性化合物との相溶性や電荷輸送性の向上により、長駆動寿命化に寄与する点から、好ましい。電荷輸送性基とは、その化学構造基が電子或いは正孔のドリフト移動度を有する性質を示す基であり、又別の定義としてはTime−Of−Flight法などの電荷輸送性能を検知できる既知の方法により電荷輸送に起因する検出電流が得られる基として定義できる。電荷輸送性基がそれ自身単独で存在しえない場合は、当該電荷輸送性基に水素原子を付加した化合物が電荷輸送性化合物であればよい。電荷輸送性基としては、例えば、後述するような、正孔輸送性化合物(アリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体等)において、水素原子を除いた残基が挙げられる。
【0064】
本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子において、遷移金属化合物及び遷移金属と、保護剤との含有比率は、適宜選択され、特に限定されないが、遷移金属化合物及び遷移金属100重量部に対して、保護剤が10〜20重量部であることが好ましい。
【0065】
本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子の平均粒径は、特に限定されるものではなく例えば0.5nm〜999nmの範囲内であるが、0.5nm〜50nmの範囲内、中でも0.5nm〜20nmの範囲内であることが好ましい。本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子の平均粒径は、更に、15nm以下であることが好ましく、特に1nm〜10nmの範囲内であることが好ましい。粒子径が小さすぎるものは、製造が困難であるからである。一方、粒子径が大きすぎると、単位重量当たりの表面積(比表面積)が小さくなり、所望の効果が得られない可能性があり、さらに薄膜の表面粗さが大きくなりショートが多発する恐れがあるからである。
ここで平均粒径は、動的光散乱法により測定される個数平均粒径であるが、正孔注入輸送層に分散された状態においては、平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて得られた画像から、遷移金属含有ナノ粒子が20個以上存在していることが確認される領域を選択し、この領域中の全ての遷移金属含有ナノ粒子について粒径を測定し、平均値を求めることにより得られる値とする。
【0066】
本発明の正孔注入輸送層において、遷移金属含有ナノ粒子は、含まれる遷移金属がそれぞれ異なる2種類以上の遷移金属含有ナノ粒子を含有していても良い。遷移金属、及び、遷移金属化合物中の遷移金属として、単一の金属を含む単一金属含有ナノ粒子を2種以上用いる場合には、正孔輸送性や正孔注入性を互いに補い合ったり、光触媒性など他の機能を併せ持つ正孔注入輸送層を形成できるというメリットがある。
【0067】
本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子の製造方法は、上述した遷移金属含有ナノ粒子を得ることができる方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、遷移金属錯体と上記保護剤を有機溶媒中で反応させるなどの液相法等が挙げられる。
【0068】
一方、本発明で用いられる正孔輸送性化合物は、正孔輸送性を有する化合物であれば、適宜用いることができる。ここで、正孔輸送性とは、公知の光電流法により、正孔輸送による過電流が観測されることを意味する。
正孔輸送性化合物としては、低分子化合物の他、高分子化合物も好適に用いられる。正孔輸送性高分子化合物は、正孔輸送性を有し、且つ、ゲル浸透クロマトグラフィーのポリスチレン換算値による重量平均分子量が2000以上の高分子化合物をいう。本発明の正孔注入輸送層においては、溶液塗布法により安定な膜を形成することを目的として、正孔輸送性材料としては有機溶媒に溶解しやすく且つ化合物が凝集し難い安定な塗膜を形成可能な高分子化合物を用いることが好ましい。
【0069】
正孔輸送性化合物としては、特に限定されることなく、例えばアリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等を挙げることができる。アリールアミン誘導体の具体例としては、N,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン)(α−NPD)、4,4',4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’,4”−トリス(N−(2−ナフチル)−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(2−TNATA)など、カルバゾール誘導体としては4,4−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)など、フルオレン誘導体としては、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)−9,9−ジメチルフルオレン(DMFL−TPD)など、ジスチリルベンゼン誘導体としては、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−[(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]スチルベン(DPAVB)など、スピロ化合物としては、2,7−ビス(N−ナフタレン−1−イル−N−フェニルアミノ)−9,9−スピロビフルオレン(Spiro−NPB)、2,2’,7,7’−テトラキス(N,N−ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン(Spiro−TAD)などが挙げられる。
また、正孔輸送性高分子化合物としては、例えばアリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等を繰り返し単位に含む重合体を挙げることができる。
【0070】
アリールアミン誘導体を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、非共役系の高分子としてコポリ[3,3’−ヒドロキシ−テトラフェニルベンジジン/ジエチレングリコール]カーボネート(PC−TPD−DEG)、下記構造で表されるPTPDES及びEt-PTPDEK等、共役系の高分子としてポリ[N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)−ベンジジン]を挙げることができる。アントラセン誘導体類を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(9,10−アントラセン)]等を挙げることができる。カルバゾール類を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリビニルカルバゾール(PVK)等を挙げることができる。チオフェン誘導体類を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(ビチオフェン)]等を挙げることができる。フルオレン誘導体を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)等を挙げることができる。スピロ化合物を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−co−(9,9’−スピロ−ビフルオレン−2,7−ジイル)]等を挙げることができる。これらの正孔輸送性高分子化合物は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0071】
【化3】
【0072】
正孔輸送性高分子化合物としては、中でも、下記一般式(2)で示される化合物であることが、隣接する有機層との密着安定性が良好になりやすく、HOMOエネルギー値が陽極基板と発光層材料の間である点からも好ましい。
【0073】
【化4】
(式(2)において、Ar1〜Ar4は、相互に同一であっても異なっていてもよく、共役結合に関する炭素原子数が6個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の芳香族炭化水素基、または共役結合に関する炭素原子数が4個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の複素環基を示す。nは0〜10000、mは0〜10000であり、n+m=10〜20000である。また、2つの繰り返し単位の配列は任意である。)
【0074】
また、2つの繰り返し単位の配列は任意であり、例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
nの平均は、5〜5000であることが好ましく、更に10〜3000であることが好ましい。また、mの平均は、5〜5000であることが好ましく、更に10〜3000であることが好ましい。また、n+mの平均は、10〜10000であることが好ましく、更に20〜6000であることが好ましい。
【0075】
上記一般式(2)のAr1〜Ar4において、芳香族炭化水素基における芳香族炭化水素としては、具体的には例えば、ベンゼン、フルオレン、ナフタレン、アントラセン、及びこれらの組み合わせ、並びにそれらの誘導体、更に、フェニレンビニレン誘導体、スチリル誘導体等が挙げられる。また、複素環基における複素環としては、具体的には例えば、チオフェン、ピリジン、ピロール、カルバゾール、及びこれらの組み合わせ、並びにそれらの誘導体等が挙げられる。
【0076】
上記一般式(2)のAr1〜Ar4が置換基を有する場合、当該置換基は、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基やアルケニル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ビニル基、アリル基等であることが好ましい。
【0077】
上記一般式(2)で示される化合物として、具体的には例えば、下記式(4)で示されるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)、下記式(5)で示されるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−co−(N,N’−ビス{4−ブチルフェニル}−ベンジジンN,N’−{1,4−ジフェニレン})]、下記式(6)で示されるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)](PFO)が好適な化合物として挙げられる。
【0078】
【化5】
【0079】
【化6】
【0080】
【化7】
【0081】
本発明の正孔注入輸送層において正孔輸送性化合物が用いられる場合には、上記正孔輸送性化合物が、原子量の総和MAが100以上である部分Aを有する化合物であり、
前記遷移金属含有ナノ粒子中の前記保護剤が、上記連結基の他に、原子量の総和MBが100以上であり、当該原子量の総和MBと前記原子量の総和MAが下記式(I)の関係を満たし、当該原子量の総和MBが保護剤の分子量の1/3より大きい部分Bを有し、
前記部分Aの溶解度パラメータSAと、前記部分Bの溶解度パラメータSBが、下記式(II)の関係を満たすことが、好ましい。
|MA−MB|/MB≦2 式(I)
|SA−SB|≦2 式(II)
【0082】
正孔輸送性化合物の部分A、及び遷移金属含有ナノ粒子中の保護剤の部分Bが上記式(I)、(II)の関係を満たすことにより、当該部分Aと当該部分Bとの分子極性のマッチングが良好となり、同じ層か又は隣接する層に含まれ得る正孔輸送性化合物と遷移金属含有ナノ粒子の相溶性や密着性が向上する。これにより遷移金属含有ナノ粒子の分散安定性が高まり、成膜した際や長時間の発光デバイスの駆動による、遷移金属含有ナノ粒子同士の凝集や相分離を防止し、長駆動寿命を有する電子デバイスを得ることができる。
【0083】
この場合、前記正孔輸送性化合物において、原子量の総和MAは150以上がより好ましく、200以上が特に好ましい。前記部分Aが正孔輸送性化合物の1分子内に2つ以上含まれる、例えば、正孔輸送性化合物が繰り返し単位を有する高分子化合物である場合には、当該複数の部分Aに含まれる原子の原子量の総和は、部分Aを有する正孔輸送性化合物の分子量の1/3より大きいことが、正孔輸送性化合物と遷移金属含有ナノ粒子の相溶性をより向上させる点から好ましく、更に2/5以上、特に3/5以上が好ましい。
【0084】
一方、遷移金属含有ナノ粒子中の保護剤の部分Bの原子の原子量の総和MBは、150以上が好ましく、また、保護剤の分子量の2/5以上がより好ましく、3/5以上が特に好ましい。
また、上記式(I)を満たすように、MAとMBの差が小さい材料を用いることが好ましい。MAとMBの差は小さいほど好ましく、|MA−MB|/MBの値は、1以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。
【0085】
上記式(II)において、上記SAとSBの差は、1以下であることが好ましく、0.5以下であることが更に好ましい。
ここで、溶解度パラメータ(以下、SP値と呼称する場合がある。)とは、物質同士の相溶性、非相溶性を示す指標であり、分子中の基の極性と関係する指標である。接触する2つの物質間でSP値の差が小さければ、2つの分子同士の極性の差も小さくなる。この場合、2つの物質間での凝集力が近くなるため、相溶性、溶解性が大きく、易溶性となり、界面の密着安定性、つまり接触面は安定に保たれる。一方、SP値の差が大きければ、2つの物質間での凝集力の差も大きくなる。この場合、相溶性、溶解性が小さく、難溶性乃至不溶性となり、2つの物質の分散性は不安定であり、2つの物質間での接触面積を小さくするように界面が変化する。
【0086】
SP値の測定方法や計算方法は幾つかあるが、本発明においては、Bicerranoの方法[Prediction of polymer properties, Marcel Dekker Inc., New York (1993)]により決定する。Bicerranoの方法では高分子の溶解度パラメータを、原子団寄与法により求めている。
この文献から求められない場合は、他の公知の文献、例えば、Fedorsの方法[Fedors, R. F., Polymer Eng. Sci., 14, 147 (1974)]あるいはAskadskiiの方法[A. A. Askadaskii et al., Vysokomol. Soyed., A19, 1004 (1977).]に示された方法を用いることができる。Fedorsの方法では高分子の溶解度パラメータを、原子団寄与法により求めているが、原子団寄与法とは分子をいくつかの原子団に分割し、各原子団に経験パラメータを割り振って分子全体の物性を決定する手法である。
【0087】
分子の溶解度パラメータδは以下の式で定義される。
δ≡(δd2+δp2+δh2)1/2
ここに、δdはLondon分散力項、δpは分子分極項、δhは水素結合項である。各項は、当該分子の構成原子団iの各項のモル引力乗数(Fdi,Fpi,Ehi)及びモル体積Viを用いて以下の式で計算される。
【0088】
δd2=ΣFdi/ΣVi
δp2=(ΣFpi2)1/2/ΣVi
δh2=(ΣEhi/ΣVi)1/2
【0089】
構成原子団iの各項のモル引力乗数(Fdi,Fpi,Ehi)及び分子容Viは表1に示す3次元溶解度パラメータ計算表に掲載の数値を用いる。この表に掲載されていない原子団については、各項のモル引力乗数(Fdi,Fpi,Ehi)はvan Krevelenによる値(下記文献A及びB)を使用し、モル体積ViはFedorsによる値(文献C)を使用する。
【0090】
【表1】
【0091】
文献A:K.E.Meusburger : “Pesticide Formulations : Innovations and Developments” Chapter 14 (Am.Chem.Soc.), 151-162(1988)
文献B:A.F.M.Barton : “Handbook of Solubility Parameters and Other Cohesion Parameters” (CRC Press Inc., Boca Raton,FL) (1983)
文献C:R.F.Fedors : Polymer Eng. Sci., 14,(2), 147−154 (1974)
【0092】
尚、混合薄膜の凝集安定性を評価するための実験的な評価方法として、薄膜を加熱してその表面モルフォロジー変化を観察する方法があるが、基板や空気界面とのSP値のマッチングの影響を受け、さらに定量化も困難である。従って、混合薄膜の安定性を評価する方法として上記計算による方法が望ましい。
【0093】
前述の式(I)、式(II)を考慮する場合、正孔輸送性化合物の部分Aは、前記遷移金属含有ナノ粒子の保護剤の部分Bと同一の骨格、又は同一の骨格内にスペーサー構造を含む類似骨格を有することが、前記式(II)で表わされるSAとSBの差が小さくなり、正孔輸送性化合物と前記遷移金属含有ナノ粒子の相溶性を向上させ、当該保護剤により保護された遷移金属含有ナノ粒子の分散安定性が向上したり、隣接層との密着性が向上し、長駆動寿命化に寄与する点から好ましい。
【0094】
尚、骨格とは部分A又は部分Bから置換基を除いた構造をいう。ここで、スペーサー構造を含むとは、骨格を伸長する原子が存在することを意味する。骨格を伸長する原子としては、炭素数1〜12の炭化水素構造が好ましいが、エーテル結合等、その他の原子が含まれていても良い。
【0095】
部分Aと部分Bが共通に有する骨格としては、具体例としては、トリフェニルアミン骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、ピレン骨格、アントラセン骨格、カルバゾール骨格、フェニルピリジン骨格、トリチオフェン骨格、フェニルオキサジアゾール骨格、フェニルトリアゾール骨格、ベンゾイミダゾール骨格、フェニルトリアジン骨格、ベンゾジアチアジン骨格、フェニルキノキサリン骨格、フェニレンビニレン骨格、フェニルシロール骨格、及びこれらの骨格が組み合わされてなる骨格等が挙げられる。
部分Aと部分Bは、骨格が同一又は類似していれば、骨格上の置換基の種類、数、位置が異なっていてもよい。骨格上に置換基としては、上記ナノ粒子における保護剤で述べたような置換基が挙げられる。
【0096】
なお、正孔輸送性化合物の部分A、及び前記遷移金属含有ナノ粒子の保護剤の部分Bは、それぞれ、1つの分子内に2種類以上存在してもよい。この場合、全体に占める共通部分の割合が大きくなり、すなわち、前記式(II)で表わされるSAとSBの差が小さくなり、正孔輸送性化合物と遷移金属含有ナノ粒子の相溶性が向上する。
【0097】
正孔輸送性化合物として、1種類、又は2種類以上の繰り返し単位を有する高分子化合物を用いる場合、通常、当該繰り返し単位の中から1種類又は2種類以上を選択して部分Aとし、前記遷移金属含有ナノ粒子の保護剤として、当該部分Aと同一の骨格、又は同一の骨格内にスペーサー構造を含む類似骨格を有する部分Bを有する保護剤を用いる。
【0098】
正孔輸送性化合物が上記化学式(2)で示される化合物であるとき、前記遷移金属含有ナノ粒子の保護剤としては、下記化学式(3)で示される化合物を好適に用いることができる。
【0099】
【化8】
(但し、Ar5〜Ar8は、相互に同一であっても異なっていてもよく、共役結合に関する炭素原子数が6個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の芳香族炭化水素基、または共役結合に関する炭素原子数が4個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の複素環基を示す。qは0〜10、rは0〜10であり、q+r=1〜20である。また、2つの繰り返し単位の配列は任意である。Yは連結基を示す。)
【0100】
Ar5〜Ar8において、芳香族炭化水素基における芳香族炭化水素としては、具体的には例えば、ベンゼン、フルオレン、ナフタレン、アントラセン、及びこれらの組み合わせ、並びにそれらの誘導体、更に、フェニレンビニレン誘導体、スチリル誘導体等が挙げられる。また、複素環基における複素環としては、具体的には例えば、チオフェン、ピリジン、ピロール、カルバゾール、及びこれらの組み合わせ、並びにそれらの誘導体等が挙げられる。Ar5〜Ar8においても、上記一般式(2)のAr1〜Ar4が置換基を有する場合と同様の置換基を有していても良い。
【0101】
一般式(3)において、Ar5、Ar6、及びAr7の組み合わせ及び/又はAr8は、一般式(2)におけるAr1、Ar2、及びAr3の組み合わせ及び/又はAr1、Ar2、Ar3及びAr4のいずれかと、少なくとも芳香族炭化水素基または複素環基の骨格が同一であることが好ましい。
【0102】
本発明の正孔注入輸送層において、前記正孔輸送性化合物が用いられる場合には、正孔輸送性化合物の含有量は、前記遷移金属含有ナノ粒子100重量部に対して、10〜10000重量部であることが、正孔注入輸送性を高くし、且つ、膜の安定性が高く長寿命を達成する点から好ましい。
正孔注入輸送層において、前記正孔輸送性化合物の含有量が少なすぎると、正孔輸送性化合物を混合した相乗効果が得られ難い。一方、前記正孔輸送性化合物の含有量が多すぎると、遷移金属含有ナノ粒子を用いる効果が得られ難くなる。
【0103】
本発明の正孔注入輸送層は、本発明の効果を損なわない限り、バインダー樹脂や硬化性樹脂や塗布性改良剤などの添加剤を含んでいても良い。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。また、熱または光等により硬化するバインダー樹脂を含有していてもよい。熱または光等光等により硬化する材料としては、上記正孔輸送性化合物において分子内に硬化性の官能基が導入されたもの、あるいは、硬化性樹脂等を使用することができる。具体的に、硬化性の官能基としては、アクリロイル基やメタクリロイル基などのアクリル系の官能基、またはビニレン基、エポキシ基、イソシアネート基等を挙げることができる。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂であっても光硬化性樹脂であってもよく、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、シランカップリング剤等を挙げることができる。
【0104】
上記正孔注入輸送層の膜厚は、目的や隣接する層により適宜決定することができるが、通常0.1〜1000nm、好ましくは1〜500nmである。
また、上記正孔注入輸送層の仕事関数は5.0〜6.0eV、更に5.0〜5.8eVであることが、正孔注入効率の点から好ましい。
【0105】
本発明の正孔注入輸送層は、溶液塗布法で形成することが可能である。本発明の正孔注入輸送層は、溶液塗布法により形成されることが、製造プロセスが容易な上、ショートが発生しにくいため歩留まりが高く、電荷移動錯体を形成して長寿命を達成する点から好ましい。この場合、本発明の正孔注入輸送層は、少なくとも遷移金属含有ナノ粒子が良好に分散する溶媒中で分散させた溶液(正孔注入輸送層形成用インク)を用いて、溶液塗布法により形成する。また、更に正孔輸送性化合物が含まれる正孔注入輸送層を形成する場合、遷移金属含有ナノ粒子と、正孔輸送性化合物とを、双方が良好に溶解乃至分散する溶媒中で混合した溶液を用いて、溶液塗布法により形成する。この場合、遷移金属含有ナノ粒子と正孔輸送性化合物の双方が良好に溶解乃至分散する溶媒中で混合すると、溶液中で遷移金属含有ナノ粒子と正孔輸送性化合物が相互作用し、電荷移動錯体を形成しやすくなるため、正孔輸送性及び膜の経時安定性に優れた正孔注入輸送層を形成できる。このように電荷移動錯体を形成した正孔注入輸送層は、正孔注入輸送層を形成する際に用いた溶媒に不溶になる傾向があり、当該正孔注入輸送層の上層に該当する有機層を形成する場合も、当該正孔注入輸送層を溶出させることなく溶液塗布法を用いる可能性が広がる。
溶液塗布法は、下記、デバイスの製造方法の項目において説明する。
【0106】
(2)基板
基板は、本発明のデバイスの支持体になるものであり、例えばフレキシブルな材質であっても、硬質な材質であってもよい。具体的に用いることができる材料としては、例えば、ガラス、石英、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエステル、ポリカーボネート等を挙げることができる。
これらのうち、合成樹脂製の基板を使用する場合には、ガスバリア性を有することが望ましい。基板の厚さは特に限定されないが、通常、0.5〜2.0mm程度である。
【0107】
(3)電極
本発明のデバイスは、基板上に対向する2つ以上の電極を有する。
本発明のデバイスにおいて、電極は、金属又は金属酸化物で形成されることが好ましく、公知の材料を適宜採用することができる。通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物などの金属酸化物により形成することができる。
【0108】
電極は、通常、基板上にスパッタリング法、真空蒸着法などの方法により形成されることが多いが、塗布法やディップ法等の湿式法により形成することもできる。電極の厚さは、各々の電極に要求される透明性等により異なる。透明性が必要な場合には、電極の可視光波長領域の光透過率が、通常、60%以上、好ましくは80%以上となることが望ましく、この場合の厚さは、通常10〜1000nm、好ましくは20〜500nm程度である。
本発明においては、電極上に、電荷注入材料との密着安定性を向上させるために、更に金属層を有していても良い。金属層は金属が含まれる層をいい、上述のような通常電極に用いられる金属や金属酸化物から形成される。
【0109】
(4)その他
本発明のデバイスは、必要に応じて、電子注入電極と有機層の間に、従来公知の電子注入層及び/又は電子輸送層を有していてもよい。
【0110】
2.有機EL素子
【0111】
本発明のデバイスの一実施形態として、少なくとも本発明の正孔注入輸送層及び発光層を含む有機層を含有する、有機EL素子が挙げられる。
以下、有機EL素子を構成する各層について、図2〜4を用いて順に説明する。
(基板)
基板7は、有機EL素子の支持体になるものであり、例えばフレキシブルな材質であっても、硬質な材質であってもよい。具体的には、例えば、上記デバイスの基板の説明において挙げたものを用いることができる。
発光層5で発光した光が基板7側を透過して取り出される場合においては、少なくともその基板7が透明な材質である必要がある。
【0112】
(陽極、陰極)
電極1および電極6は、発光層5で発光した光の取り出し方向により、どちらの電極に透明性が要求されるか否かが異なり、基板7側から光を取り出す場合には電極1を透明な材料で形成する必要があり、また電極6側から光を取り出す場合には電極6を透明な材料で形成する必要がある。
基板7の発光層側に設けられている電極1は、発光層に正孔を注入する陽極として作用し、基板7の発光層側に設けられている電極6は、発光層5に電子を注入する陰極として作用する。
本発明において、陽極及び陰極は、上記デバイスの電極の説明において列挙した金属又は金属酸化物で形成されることが好ましい。
【0113】
(正孔注入輸送層、正孔輸送層、及び正孔注入層)
正孔注入輸送層2、正孔輸送層4a、及び正孔注入層4bは、図2〜4に示すように、発光層5と電極1(陽極)の間に適宜形成される。図2のように、本発明に係る正孔注入輸送層2の上に更に正孔輸送層4aを積層し、その上に発光層を積層してもよいし、図3のように、正孔注入層4bの上に更に本発明に係る正孔注入輸送層2を積層し、その上に発光層を積層してもよいし、図4のように、電極1の上に、本発明に係る正孔注入輸送層2を積層しその上に発光層を積層してもよい。
【0114】
図2のように、本発明に係る正孔注入輸送層2の上に更に正孔輸送層4aを積層する場合に、正孔輸送層4aに用いられる正孔輸送材料は特に限定されない。本発明に係る正孔注入輸送層において説明した正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。中でも、隣接する本発明に係る正孔注入輸送層2に用いられている正孔輸送性化合物と同じ化合物を用いることが、正孔注入輸送層と正孔輸送層の界面の密着安定性を向上させ、長駆動寿命化に寄与する点から好ましい。
正孔輸送層4aは、正孔輸送材料を用いて、後述の発光層と同様方法で形成することができる。正孔輸送層4aの膜厚は、通常0.1〜1μm、好ましくは1〜500nmである。
【0115】
図3のように、正孔注入層4bの上に更に本発明に係る正孔注入輸送層2を積層する場合に、正孔注入層4bに用いられる正孔注入材料は特に限定されず、従来公知の化合物を用いることができる。例えば、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
正孔注入層4bは、正孔注入材料を用いて、後述の発光層と同様方法で形成することができる。正孔注入層4bの膜厚は、通常1nm〜1μm、好ましくは2nm〜500nm、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0116】
さらに、正孔注入特性を考慮すると、電極1側から有機層である発光層5に向かって各層の仕事関数(HOMO)の値が階段状に大きくなるような正孔注入材料及び正孔輸送材料を選択して、各界面での正孔注入のエネルギー障壁をできるだけ小さくし、電極1と発光層5の間の大きな正孔注入のエネルギー障壁を補完することが好ましい。
【0117】
具体的には例えば、電極1にITO(UVオゾン洗浄直後の仕事関数5.0eV)を用い、発光層5にAlq3(HOMO5.7eV)を用いた場合、正孔注入輸送層を構成する材料としてTFB(仕事関数5.4eV)と遷移金属含有ナノ粒子(仕事関数5.0〜5.7eV)の混合物というように選択して、電極1側から発光層5に向かって各層の仕事関数の値が順に大きくなるような層構成をとるように配置することが好ましい。なお、上記仕事関数又はHOMOの値は、光電子分光装置AC−1(理研計器製)を使用した光電子分光法の測定値より引用した。
このような層構成の場合、電極1(UVオゾン洗浄直後の仕事関数5.0eV)と発光層5(例えばHOMO5.7eV)の間の正孔注入の大きなエネルギー障壁を、HOMOの値が階段状になるように補完可能で、正孔注入効率に非常に優れた正孔注入輸送層が得られる。
【0118】
(発光層)
発光層5は、図2〜4に示すように、電極1が形成された基板7と電極6との間に、発光材料により形成される。
本発明の発光層に用いられる材料としては、通常、発光材料として用いられている材料であれば特に限定されず、蛍光材料およびりん光材料のいずれも用いることができる。具体的には、色素系発光材料、金属錯体系発光材料等の材料を挙げることができ、低分子化合物または高分子化合物のいずれも用いることができる。
【0119】
(色素系発光材料の具体例)
色素系発光材料としては、例えば、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、(フェニルアントラセン誘導体、)、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、シクロペンタジエン誘導体、シロール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、スチルベン誘導体、スピロ化合物、チオフェン環化合物、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリアゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、ピラゾリンダイマー、ピリジン環化合物、フルオレン誘導体、フェナントロリン類、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体等を挙げることができる。またこれらの2量体や3量体やオリゴマー、2種類以上の誘導体の化合物も用いることができる。
これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0120】
(金属錯体系発光材料の具体例)
金属錯体系発光材料としては、例えばアルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体等、あるいは中心金属にAl、Zn、Be等または、Tb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダール、キノリン構造等を有する金属錯体を挙げることができる。
これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0121】
(高分子系発光材料)
高分子系発光材料としては、分子内に上記低分子系材料を分子内に直鎖あるいは側鎖あるいは官能基として導入されたもの、重合体およびデンドリマー等を使用することができる。
例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレノン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、及びそれらの共重合体等を挙げることができる。
【0122】
(ドーパントの具体例)
上記発光層中には、発光効率の向上や発光波長を変化させる等の目的でドーピング材料を添加してもよい。高分子系材料の場合は、これらを分子構造の中に発光基として含んでいても良い。このようなドーピング材料としては、例えばペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクドリン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体を挙げることができる。またこれらにスピロ基を導入した化合物も用いることができる。
これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0123】
本発明においては、発光層の材料としては蛍光発光する低分子化合物または高分子化合物や、燐光発光する低分子化合物または高分子化合物のいずれをも用いることができる。本発明において、発光層を設ける下地層が本発明の上記正孔注入輸送層である場合、当該正孔注入輸送層は電荷移動錯体を形成して溶液塗布法に用いたキシレン等の非水系溶媒に不溶になる傾向があり、発光層の材料としては、キシレン等の非水系溶媒に溶解しやすく溶液塗布法により層を形成する高分子型材料を用いることが可能である。この場合、蛍光発光する高分子化合物または蛍光発光する低分子化合物を含む高分子化合物や、燐光発光する高分子化合物または燐光発光する低分子化合物を含む高分子化合物を好適に用いることができる。
【0124】
発光層は、発光材料を用いて、溶液塗布法または蒸着法または転写法により形成することができる。溶液塗布法は、後述のデバイスの製造方法の項目において説明するのと同様の方法を用いることができる。蒸着法は、例えば真空蒸着法の場合には、発光層の材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10‐4Pa程度にまで排気した後、ルツボを加熱して、発光層の材料を蒸発させ、ルツボと向き合って置かれた基板7、電極1、正孔注入輸送層2、及び正孔輸送層4aの積層体の上に発光層5を形成させる。転写法は、例えば、予めフィルム上に溶液塗布法又は蒸着法で形成した発光層を、電極上に設けた正孔注入輸送層2に貼り合わせ、加熱により発光層5を正孔注入輸送層2上に転写することにより形成される。また、フィルム、発光層5、正孔注入輸送層2の順に積層された積層体の正孔注入輸送層側を、電極上に転写してもよい。
発光層の膜厚は、通常、1〜500nm、好ましくは20〜1000nm程度である。本発明は、正孔注入輸送層を溶液塗布法で形成することが好適であるため、発光層も溶液塗布法で形成する場合はプロセスコストを下げることができるという利点がある。
【0125】
3.有機トランジスタ
本発明に係るデバイスの別の実施形態として、有機トランジスタが挙げられる。以下、有機トランジスタを構成する各層について、図5及び図6を用いて説明する。
図5に示されるような本発明の有機トランジスタは、電極1(ソース電極)と電極6(ドレイン電極)の表面に正孔注入輸送層2が形成されているため、それぞれの電極と有機半導体層との間の正孔注入輸送能力が高くなり、且つ本発明の正孔注入輸送層の膜安定性が高いため、長駆動寿命化に寄与する。
本発明の有機トランジスタは、図6に示されるような、本発明の正孔注入輸送層2が有機半導体層8として機能するものであっても良い。
また、本発明の有機トランジスタは、図5に示されるように電極1(ソース電極)と電極6(ドレイン電極)の表面に正孔注入輸送層2を形成し、更に有機半導体層8として電極表面に形成した正孔注入輸送層とは材料が異なる本発明の正孔注入輸送層2を形成してもよい。
【0126】
図5に示されるような有機トランジスタを形成する場合に、有機半導体層を形成する材料としては、ドナー性(p型)の、低分子あるいは高分子の有機半導体材料が使用できる。
上記有機半導体材料としては、ポルフィリン誘導体、アリールアミン誘導体、ポリアセン誘導体、ペリレン誘導体、ルブレン誘導体、コロネン誘導体、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体、ペリレンテトラカルボン酸二無水化物誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリチオフェンビニレン誘導体、ポリチオフェン−複素環芳香族共重合体とその誘導体、α−6−チオフェン、α−4−チオフェン、ナフタレンのオリゴアセン誘導体、α−5−チオフェンのオリゴチオフェン誘導体、ピロメリト酸二無水物誘導体、ピロメリト酸ジイミド誘導体を用いることができる。具体的には、ポルフィリン誘導体としては例えばフタロシアニンや銅フタロシアニンなどの金属フタロシアニンを挙げることができ、アリールアミン誘導体としては例えばm−TDATAを用いることができ、ポリアセン誘導体としては、例えばナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ペンタセンを挙げることができる。また、これらポルフィリン誘導体やトリフェニルアミン誘導体などにルイス酸や四フッ化テトラシアノキノジメタン(F4−TCNQ)、バナジウムやモリブデンなど無機の酸化物などを混合し、導電性を高くした層を用いることもできる。
【0127】
図5に示されるような、本発明の正孔注入輸送層を含む有機トランジスタを形成する場合であっても、前記有機半導体層8を構成する化合物としては、本発明の正孔注入輸送層に用いられる正孔輸送性化合物、中でも正孔輸送性高分子化合物を用いることが、本発明の正孔注入輸送層2と有機半導体層8の界面の密着安定性を向上させ、長駆動寿命化に寄与する点から好ましい。
【0128】
有機半導体層のキャリア移動度は10−6cm/Vs以上であることが、特に有機トランジスタに対しては10−3cm/Vs以上であることが、トランジスタ特性の点から好ましい。
また、有機半導体層は、上記有機EL素子の発光層と同様に、溶液塗布法またはドライプロセスにより形成することが可能である。
【0129】
基板、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極と、絶縁層については、特に限定されず、例えば以下のような材料を用いて形成することができる。
基板7は、本発明のデバイスの支持体になるものであり、例えばフレキシブルな材質であっても、硬質な材質であってもよい。具体的には、上記有機EL素子の基板と同様のもの用いることができる。
ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極としては、導電性材料であれば特に限定されないが、本発明に係る電荷輸送材料を用いて、金属イオンが配位している化合物が吸着してなる正孔注入輸送層2を形成する点からは、金属又は金属酸化物であることが好ましい。具体的には、上述の有機EL素子における電極と同様の金属又は金属酸化物を用いることができるが、特に、白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、ITOおよび炭素が好ましい。
【0130】
ゲート電極を絶縁する絶縁層には種々の絶縁材料を用いることができ、無機酸化物でも有機化合物でも用いることが出来るが、特に、比誘電率の高い無機酸化物が好ましい。無機酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコニウム酸チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウムなどが挙げられる。それらのうち好ましいのは、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタンである。窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの無機窒化物も好適に用いることができる。
【0131】
有機化合物としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、およびシアノエチルプルラン、ポリマー体、エラストマー体を含むホスファゼン化合物、等を用いることができる。
【0132】
なお、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、有機半導体等のその他の有機デバイス、正孔注入輸送層を有する量子ドット発光素子、酸化物系化合物太陽電池等についても、正孔注入輸送層を上記本発明に係る正孔注入輸送層とすれば、その他の構成は特に限定されず、適宜公知の構成と同じであって良い。
【0133】
4.デバイスの製造方法
本発明のデバイスの製造方法は、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスの製造方法であって、
遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子と、有機溶媒とを含有する正孔注入輸送層形成用インクを調製する工程と、
前記正孔注入輸送層形成用インクを用いて、前記電極上のいずれかの層上に正孔注入輸送層を形成する工程と、
前記遷移金属含有ナノ粒子の遷移金属及び/又は遷移金属化合物の少なくとも一部を遷移金属酸化物とする酸化物化工程、とを有することを特徴とする。
【0134】
本発明に係るデバイスの製造方法においては、遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層は、上述のように正孔注入輸送層形成用インクを用いて、溶液塗布法により形成される。溶液塗布法を用いることにより、正孔注入輸送層の形成の際に蒸着装置が不要で、マスク蒸着等を用いることなく、塗り分けも可能であり、生産性が高く、また、電極と正孔注入輸送層の界面、及び正孔注入輸送層と有機層界面の密着安定性が高いデバイスを形成できる。
【0135】
ここで溶液塗布法とは、少なくとも遷移金属含有ナノ粒子と、有機溶媒とを含有する正孔注入輸送層形成用インクを調製し、当該インクを下地となる電極又は層上に塗布し、乾燥して正孔注入輸送層を形成する方法である。正孔注入輸送層形成用インクは、必要に応じて、正孔輸送性化合物、及び、正孔のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤などの添加剤とを添加し、溶解乃至分散して調製しても良い。
【0136】
溶液塗布法として、例えば、浸漬法、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、デイップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法などの液体滴下法などが挙げられる。単分子膜を形成したい場合には、浸漬法、デイップコート法が好適に用いられる。
【0137】
インクに用いられる溶媒としては、遷移金属含有ナノ粒子と、必要に応じて正孔輸送性化合物などのその他成分とが良好に溶解乃至分散すれば特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、テトラリン、メシチレン、アニソール、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン、クロロホルム、安息香酸エチル、安息香酸ブチル等が挙げられる。
【0138】
本発明のデバイスの製造方法においては、遷移金属含有ナノ粒子の遷移金属及び/又は遷移金属化合物の少なくとも一部を遷移金属酸化物とする酸化物化工程を有することにより、溶剤溶解性のない遷移金属酸化物を含有する層を、蒸着法を用いることなく溶液塗布法を用いて形成することが可能である。また、遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層中の遷移金属含有ナノ粒子の遷移金属及び/又は遷移金属化合物の少なくとも一部を遷移金属酸化物とすることにより、隣接する有機層との密着性を保持したまま、適宜正孔注入輸送性を変化させることも可能である。また、酸化物化工程を有することにより、膜強度を向上させることも可能である。
【0139】
本発明に係るデバイスの製造方法において、前記酸化物化工程は、前記正孔注入輸送層形成用インクを調製後、正孔注入輸送層を形成する工程前に行ってもよいし、正孔注入輸送層を形成する工程後に行ってもよい。
【0140】
すなわち、一態様としては、遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子と、有機溶媒とを含有する正孔注入輸送層形成用インクを調製し、当該インクを用いて、電極上のいずれかの層上に、遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を形成する工程と、前記正孔注入輸送層中の遷移金属含有ナノ粒子における遷移金属及び/又は遷移金属化合物の少なくとも一部を遷移金属酸化物とする酸化物化工程を有する製造方法が挙げられる。このようにすると、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属と保護剤とを含むか、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を形成することができる。
【0141】
別の一態様としては、遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子と、有機溶媒とを含有する正孔注入輸送層形成用インクを調製する工程後、正孔注入輸送層を形成する工程前に、前記酸化物化工程が実施され、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子と有機溶媒とを含有する、酸化物化された正孔注入輸送層形成用インクを調製する工程を有する。当該酸化物化された正孔注入輸送層形成用インクにおける遷移金属含有ナノ粒子は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属と保護剤とを含むか、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物と保護剤とを含む。そして、当該酸化物化された正孔注入輸送層形成用インクを用いて、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属と保護剤とを含むか、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を形成する。当該層を形成後、さらに、酸化物化工程を行っても良い。
【0142】
酸化物化する手段としては、例えば、加熱工程、光照射工程、活性酸素を作用させる工程などが挙げられ、これらを適宜併用しても良い。酸化物化は、効率的に酸化を行うため、酸素存在下で実施されることが好ましい。
加熱工程を用いる場合には、加熱手段としては、ホットプレート上で加熱する方法やオーブン中で加熱する方法などが挙げられる。加熱温度としては、50〜250℃が好ましい。加熱温度により、遷移金属含有ナノ粒子の正孔輸送性化合物に対する相互作用や遷移金属含有ナノ粒子同士の相互作用に違いが生じるため、適宜調節することが好ましい。
【0143】
光照射工程を用いる場合には、光照射手段としては、紫外線を露光する方法等が挙げられる。光照射量により、遷移金属含有ナノ粒子の正孔輸送性化合物に対する相互作用や遷移金属含有ナノ粒子同士の相互作用に違いが生じるため、適宜調節することが好ましい。
【0144】
活性酸素を作用させる工程を用いる場合には、活性酸素を作用させる手段としては、紫外線によって活性酸素を発生させて作用させる方法や、酸化チタンなどの光触媒に紫外線を照射することによって活性酸素を発生させて作用させる方法が挙げられる。活性酸素量により、遷移金属含有ナノ粒子の正孔輸送性化合物に対する相互作用や遷移金属含有ナノ粒子同士の相互作用に違いが生じるため、適宜調節することが好ましい。
【0145】
デバイスの製造方法における、その他の工程については、従来公知の工程を適宜用いることができる。
【実施例】
【0146】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。尚、実施例中、部は特に特定しない限り重量部を表す。また、層又は膜の厚みは平均膜厚で表わされている。
【0147】
[合成例1]
次の手順で、n−ヘキサデシルアミンで保護されたモリブデン含有ナノ粒子を合成した。25ml三ッ口フラスコ中に、n−ヘキサデシルアミン 0.8g(関東化学株式会社製)、n−オクチルエーテル 12.8g(東京化成工業株式会社製)を量り取り、攪拌しながら減圧し、低揮発成分除去のために室温(24℃)にて1hr放置した。真空下から大気雰囲気へ変更し、モリブデンヘキサカルボニル 0.8g(関東化学株式会社製)を添加した。この混合液をアルゴンガス雰囲気とし、攪拌しながら280℃まで加熱し、その温度を1h維持した。その後、この混合液を室温(24℃)まで冷却し、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更した後、エタノールを20g滴下した。次いで、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した後、下記に示す手順で再沈殿による精製を行った。
すなわち、沈殿物をクロロホルム3gと混合して分散液とし、この分散液にエタノール6gを滴下することにより精製された沈殿物を得た。
このようにして得られた再沈殿液を遠心分離し、沈殿物を反応液から分離した後、乾燥することにより、黒色のモリブデン含有ナノ粒子の精製物を得た。
【0148】
[合成例2]
次の手順で、n−ヘキサデシルアミンで保護されたバナジウム含有ナノ粒子を合成した。50ml三ッ口フラスコ中に、バナジウムアセチルアセトナート 0.7g(Aldrich社製)、n−ヘキサデシルアミン 2.4g(関東化学株式会社製)、n−オクチルエーテル 25.0g(東京化成工業株式会社製)を量り取り、攪拌しながら減圧し、低揮発成分除去のために室温(24℃)にて2時間放置した。この混合液をアルゴンガス雰囲気とし、攪拌しながら280℃まで加熱し、その温度を1時間維持した。その後、この混合液を室温(24℃)まで冷却し、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更した後、エタノール/メタノール混合溶液(重量比8:3)を55g滴下した。次いで、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した後、下記に示す手順で再沈殿による精製を行った。
すなわち、沈殿物をクロロホルム 6.5gと混合して分散液とし、この分散液にエタノール 13gを滴下することにより精製された沈殿物を得た。
このようにして得られた再沈殿液を遠心分離し、沈殿物を反応液から分離した後、乾燥することにより、黒色のバナジウム含有ナノ粒子の精製物を得た。
【0149】
[合成例3]
次の手順で、n−ヘキサデシルアミンで保護されたタングステン含有ナノ粒子を合成した。50ml三ッ口フラスコ中に、n−ヘキサデシルアミン 0.8g(関東化学株式会社製)、n−オクチルエーテル 25.6g(東京化成工業株式会社製)を量り取り、攪拌しながら減圧し、低揮発成分除去のために室温(24℃)にて1時間放置した。真空下から大気雰囲気へ変更し、タングステンヘキサカルボニル 0.8g(Aldrich社製)を添加した。この混合液をアルゴンガス雰囲気とし、攪拌しながら280℃まで加熱し、その温度を1時間維持した。その後、この混合液を室温(24℃)まで冷却し、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更した後、エタノール 40gを滴下した。次いで、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した後、下記に示す手順で再沈殿による精製を行った。
すなわち、沈殿物をクロロホルム 13gと混合して分散液とし、この分散液にエタノール 13gを滴下することにより精製された沈殿物を得た。
このようにして得られた再沈殿液を遠心分離し、沈殿物を反応液から分離した後、乾燥することにより、黒色のタングステン含有ナノ粒子の精製物を得た。
【0150】
[合成例4]
25ml三ッ口フラスコ中に、合成例1と同様にして得られたn−ヘキサデシルアミンで保護されたモリブデン含有ナノ粒子 0.05gを量り取り、トルエン 5gを加えて分散させた。この分散液をアルゴンガス雰囲気とし、攪拌しながら室温(24℃)中でFO-TPA-OP(O)Cl2(下記化学式)の1重量%トルエン溶液 1gを滴下した。その後、この混合液を60℃まで加熱し、72時間攪拌した後、室温(24℃)まで冷却し、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更した。次いで、反応液にエタノール 10gを滴下し、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した後、下記に示す手順で再沈殿による精製を行った。
すなわち、沈殿物をクロロホルム 5gと混合して分散液とし、この分散液にエタノール 10gを滴下することにより精製された沈殿物を得た。
このようにして得られた再沈殿液を遠心分離し沈殿物を反応液から分離した後、乾燥することにより、FO-TPA-OP(O)Cl2で保護されたモリブデン含有ナノ粒子の精製物を得た。
【0151】
【化9】
(化学式中、それぞれのRは、オクチル基である。)
【0152】
[比較合成例1](MoO3スラリーの作製)
ペイントシェーカーに、MoO3粉末0.3gをトルエン溶媒30gと直径3mmのジルコニアビーズを混ぜて、物理的に粉砕しながら溶媒中に分散させて、MoO3のトルエン分散液を得た。つぎにその分散液を直径0.3mmのジルコニアビーズで24時間分散させて、上澄みの分散液を0.2μmのフィルターでろ過してMoO3スラリーを作製した。
【0153】
[粒子径の測定]
合成例1〜4で得られた遷移金属含有ナノ粒子の粒子径を動的光散乱法にて測定した。測定には動的光散乱測定装置(日機装株式会社製、ナノトラック粒度分布測定装置 UPA−EX150)を用いた。測定試料として、遷移金属含有ナノ粒子をクロロホルムに分散させた溶液(濃度:4.6mg/ml)を用いた。合成例1のモリブデン含有ナノ粒子についての個数平均粒径は6.2nmであった。合成例1の測定結果を図7に示す。また、合成例2のバナジウム含有ナノ粒子についての個数平均粒径は22.3nmであった。合成例3のタングステン含有ナノ粒子についての個数平均粒径は10.3nmであった。合成例4のFO−TPA−OP(O)Cl2で保護されたモリブデン含有ナノ粒子についての個数平均粒径は12.4nmであった。
また、比較合成例1のMoO3粒子についての個数平均粒径は25.0nmであった。
【0154】
[モリブデン含有ナノ粒子の価数の測定]
X線光電子分光法にてモリブデン含有ナノ粒子の価数を測定した。測定にはKratos社製ESCA-3400型を用いた。測定に用いたX線源としては、下記サンプル1についてはAlKα線を用い、下記サンプル2〜4についてはMgKα線を用いた。モノクロメーターは使用せず、加速電圧10kV、フィラメント電流20mAの条件で測定した。
【0155】
(サンプル1:モリブデン含有ナノ粒子の粉末)
測定試料は、アルミホイル上に合成例1のモリブデン(Mo)含有ナノ粒子粉末を置き、その上からカーボンテープを貼り付けた試料台を押し付けて作製した。このモリブデン含有ナノ粒子は合成から1日後に測定された。
Moの酸化数が+4であるMoO2の3d5/2に帰属されるスペクトル(ピーク位置229.5eV)と、Moの酸化数が+6であるMoO3の3d 5/2に帰属されるスペクトルが(ピーク位置232.5eV)に観測された。Moの酸化数が0であるMo金属に由来するピークもショルダーとして観測された。Moの酸化数が0のピークが弱く、酸化モリブデンのピークが支配的である理由は、通常XPSの場合には表面から深さ1nm程度しか測定できないため、Mo金属は中心部のみに存在し、酸化された表面を主に観察しているものと推定される。つまり、ナノ粒子はMo金属とMoO2とMoO3が混在しているものと考えられる。
サンプル1について、合成1日経過後、合成後38日経過後、あるいは64日経過後にXPS測定を行った結果を図9に示す。徐々に酸化数が0のMoのショルダーが消失し、酸化数が+4のMoと酸化数が+6のMoのみに変質している。このナノ粒子は球の外部から酸化され、外部が酸化数が+6のMoで内部が酸化数が+4のMoのシェル構造をとっているものと推察される。
【0156】
(サンプル2:Mo含有ナノ粒子膜(10nm))
測定試料は、合成例1のMo含有ナノ粒子を大気中でシクロヘキサノンに0.5wt%溶解させてインクを作製した。当該インクを、大気中でITOガラス基板の上にスピンナーで塗布して、Mo含有ナノ粒子薄膜を形成した。薄膜は大気中にて200℃で30分乾燥した。MoO3の3d 5/2に帰属されるスペクトルが(ピーク位置232.5eV)に観測された。さらに下記サンプル3とスペクトルを比較すると、Moの酸化数が+6であるMoO3だけでなく、231.2eV近傍に酸化数が+5のMoと推定されるピークがショルダーとして観察された。
【0157】
(サンプル3:MoO3膜(20nm))
測定試料は、青白色のMoO3粉末(フルウチ化学製)を真空中(圧力:1×10−4Pa)にて抵抗加熱によりITOガラス基板上に蒸着して形成した。
その結果、Moの酸化数が+6であるMoO3の3d 5/2に帰属されるスペクトルのみが観察された。
【0158】
(サンプル4:サンプル2のArスパッタ処理)
サンプル2で得られたMo含有ナノ粒子薄膜について、Arでスパッタ処理を行い、
表面から約10nm程度を除去したサンプル4を作製した。サンプル4のXPSスペクトルを図10に示す。サンプル4ではMoの酸化数が+4であるMoO2に帰属するピークが観測され、酸化数が0のピークは観測されなかった。この結果は、ナノ粒子の内部にあった酸化数が+4のMoがスパッタによって表出したことを示している。以下のサンプル5との比較から、ナノ粒子の内部には酸化数が+4のMoが存在することを明らかにされた。下地のITOが見えるまでスパッタを繰り返したが、酸化数が0のピークは観測されなかった。
【0159】
(サンプル5:サンプル3のArスパッタ処理)
Arスパッタにより酸素が選択スパッタされて、還元される可能性を考慮して、サンプル4のリファレンスとして、サンプル3のArスパッタ処理についても同様にXPS測定を行った。
サンプル3で得られたMoO3膜について、Arでスパッタ処理を行い、表面から
約10nm程度を除去したサンプル5を作製した。サンプル5のXPSスペクトルを図11に示す。サンプル5については、MoO3の酸素が優勢的にスパッタされて酸化数が+5のMoは出現するが、酸化数が+4のMoは観測されなかった。下地のITOが見えるまでスパッタを繰り返したが、酸化数が+4のピークは観測されなかった。
【0160】
[表面粗さ測定]
表面形状測定には、プローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製、Nanopics1000)を用い、100μm×100μmの面積をタッピングモードで測定した。添付ソフトウェアの中心線平均粗さRaを用いて比較した。この中心線平均粗さRaは、表面粗さ値はJIS B0601で定義されている中心線平均粗さRaを、測定面に対して適用できるよう、3次元に拡張したパラメータである。
【0161】
(1)Mo含有ナノ粒子膜
合成例1で得られたMo含有ナノ粒子を、トルエン中に0.4重量%の濃度で溶解させ、洗浄されたITOガラス基板の上にスピンコート法により塗布して、Mo含有ナノ粒子を含有する薄膜を形成した。溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて大気中200℃で30分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層の乾燥後の厚みは10nmであった。なおMo含有ナノ粒子は合成して5日以上大気中で放置したものはトルエンに溶解しないが、合成してすぐの材料はトルエン中に安定して分散する。
このMoナノ粒子膜のRaを測定したところ、0.42nmであった。
【0162】
(2)Mo含有ナノ粒子とTFBの混合膜
合成例1で得られたMo含有ナノ粒子とTFB(ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)])を、それぞれトルエン中に0.2重量%の濃度で溶解させ、洗浄されたITOガラス基板の上にスピンコート法により塗布して、Mo含有ナノ粒子とTFBの混合膜を形成した。溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて大気中200℃で30分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層の乾燥後の厚みは10nmであった。
このMoナノ粒子膜のRaを測定したところ、1.08nmであった。上記(1)のMo含有ナノ粒子膜より表面が粗い原因として、Mo含有ナノ粒子の保護剤とTFBの相溶性が悪いためと考えられる(SA-SB=2.3)。SA-SBは表2に記載されているように求められた。
【0163】
(3)TPA−TFAつきMo含有ナノ粒子とTFBの混合膜
合成例4で得られたTPA−FOつきMo含有ナノ粒子を、トルエン中に0.4重量%の濃度で溶解させ、洗浄されたITOガラス基板の上にスピンコート法により塗布して、モリブデン含有ナノ粒子を含有する薄膜を形成した。溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて大気中200℃で30分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層の乾燥後の厚みは10nmであった。
この混合膜のRaを測定したところ、0.35nmであった。上記(1)のMo含有ナノ粒子膜より表面が平滑な原因として、Mo含有ナノ粒子の保護剤とTFBの相溶性が良いためと考えられる(SA-SB=0.3)。SA-SBは表2に記載されているように求められた。
【0164】
【表2】
【0165】
[実施例1]
ガラス基板の上に透明陽極、正孔注入輸送層としてMo含有ナノ粒子を含有する層と正孔輸送性化合物を含有する層との積層体、正孔輸送層、発光層、電子注入層、陰極の順番に成膜して積層し、最後に封止して有機EL素子を作製した。透明陽極と正孔注入輸送層以外は、水分濃度0.1ppm以下、酸素濃度0.1ppm以下の窒素置換グローブボックス内で作業を行った。
【0166】
まず、透明陽極として酸化インジウム錫(ITO)の薄膜(厚み:150nm)を用いた。ITO付ガラス基板(三容真空社製)をストリップ状にパターン形成した。パターン形成されたITO基板を、中性洗剤、超純水の順番に超音波洗浄し、UVオゾン処理を施した。UVオゾン処理後のITOのHOMOは5.0eVであった。
【0167】
次に、上記の合成例1で得られたMo含有ナノ粒子を、安息香酸エチル中に0.4重量%の濃度で溶解させ、正孔注入輸送層(1)形成用インクを調製した。
続いて、上記正孔注入輸送層(1)形成用インクを、洗浄された陽極の上にスピンコート法により塗布して、遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を形成した。正孔注入輸送層(1)形成用インクの塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて大気中200℃で30分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層(1)の乾燥後の厚みは10nmであった。
【0168】
次に、作製した正孔注入輸送層(1)の上に、正孔注入輸送層(2)として共役系の高分子材料であるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)薄膜(厚み:10nm)を形成した。キシレンにTFBを0.4重量%の濃度で溶解させた溶液を、スピンコート法により塗布して成膜した。TFB溶液の塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて200℃で30分乾燥させた。
次に、成膜した正孔注入輸送層(2)の上に、正孔輸送層としてビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン)(α−NPD)薄膜(厚み:100nm)、さらに当該正孔輸送層の上に発光層としてトリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)薄膜(厚み:60nm)を形成した。正孔輸送層および発光層は真空中(圧力:1×10−4Pa)で、抵抗加熱蒸着法により成膜した。
【0169】
次に、作製した発光層の上に、電子注入層としてフッ化リチウム(LiF)(厚み:0.5nm)、陰極としてAl(厚み:100nm)を順次成膜した。真空中(圧力:1×10−4Pa)で、抵抗加熱蒸着法により成膜した。
最後に陰極形成後、グローブボックス内にて無アルカリガラスとUV硬化型エポキシ接着剤を用いて封止し、実施例1の有機EL素子を作製した。
【0170】
[実施例2]
実施例1における正孔注入輸送層を、TFBと合成例1のMo含有ナノ粒子を重量比2:1で混合した層(1層)のみとし、正孔注入輸送層(2)を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の有機EL素子を作製した。
正孔注入輸送層は、TFBとMo含有ナノ粒子を重量比2:1で安息香酸エチル中に
0.4重量%の濃度で溶解させた正孔注入輸送層形成用塗布溶液を調製し、この正孔注入輸送層形成用塗布液を、洗浄された陽極の上にスピンコート法により塗布することにより形成した。正孔注入輸送層形成用塗布液の塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて200℃で30分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層の厚みは10nmであった。
【0171】
[実施例3]
実施例2において、正孔注入輸送層の乾燥を200℃で30分の代わりに、100℃で30分とした以外は、実施例2と同様にして有機EL素子を作製した。
【0172】
[実施例4]
実施例1において、正孔注入輸送層(2)としてTFBの代わりに、TFBと遷移金属含有ナノ粒子を重量比2:1で混合した層を用いた以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
正孔注入輸送層(2)は、TFBと合成例1の遷移金属含有ナノ粒子を重量比2:1で安息香酸エチル中に0.4重量%の濃度で溶解させた正孔注入輸送層(2)形成用塗布溶液を調製し、この正孔注入輸送層(2)形成用塗布液を、成膜された正孔注入輸送層(1)の上にスピンコート法により塗布することにより形成した。正孔注入輸送層(2)形成用塗布液の塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて200℃で30分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層(2)の厚みは10nmであった。
【0173】
[比較例1]
実施例1において、正孔注入輸送層としてTFB薄膜(厚み:10nm)のみを形成した以外は、実施例1と同様にして比較例1の有機EL素子を作製した。
【0174】
[比較例2]
比較例1において、正孔注入輸送層としてTFB薄膜を形成する代わりに、酸化モリブデン(MoO3)薄膜(厚み:1nm)を形成した以外は、比較例1と同様にして比較例2の有機EL素子を作製した。
MoO3薄膜は、真空中(圧力:1×10−4Pa)で、抵抗加熱蒸着法により成膜した。
【0175】
上記実施例及び比較例において作製した有機EL素子は、いずれもAlq3由来の緑色に発光した。これらについて、10mA/cm2での駆動時の印加電圧、及び寿命特性の評価を下記方法により行った。結果を表3に示す。
有機EL素子の寿命特性は、定電流駆動で輝度が経時的に徐々に低下する様子を観察して評価した。ここでは初期輝度5000cd/m2に対して保持率が80%の輝度に劣化するまでの時間(hr.)を寿命(LT80)とした。
【0176】
【表3】
【0177】
<結果のまとめ>
比較例1と実施例1を比較すると、比較例1のTFBのみの場合より、遷移金属含有ナノ粒子とTFBを積層した方が駆動電圧は下がり、寿命特性LT80も長くなった。これは、遷移金属含有ナノ粒子とTFBが層界面において相互作用し、TFBへの電荷注入特性およびTFBの電荷輸送の安定性が向上したことと、さらに、遷移金属含有ナノ粒子を含有することにより、隣接する電極(ITO)および正孔輸送層(α−NPD)との親和性が高まり、これにより層間の界面の密着安定性が向上したからであると考えられる。
さらに、比較例1と実施例2および3を比較すると、TFBに遷移金属含有ナノ粒子を混合した方が、駆動電圧が低下し、寿命特性LT80も長くなった。これは、遷移金属含有ナノ粒子とTFBを混合することにより、相互作用がしやすくなり、電荷注入特性及び電荷輸送の安定性がさらに向上したからと考えられる。実施例2と実施例3で乾燥温度によって特性に差が出ており、加熱温度により遷移金属含有ナノ粒子の正孔輸送性化合物に対する相互作用や遷移金属含有ナノ粒子同士の相互作用に違いがあることが考えられる。すなわち、200℃乾燥で寿命特性LT80が長いのは、遷移金属含有ナノ粒子のTFBとの相互作用や遷移金属含有ナノ粒子同士の相互作用が強く、100℃乾燥では加熱による相互作用が200℃に比較して弱いと予想される。また、駆動電圧も5.6Vから5.3Vに低下しており、基材であるITOとの相互作用にも上記と同様な違いがあることが推定された。
実施例4は、遷移金属含有ナノ粒子の層と、TFBと遷移金属含有ナノ粒子の混合層との積層(実施例1と実施例2の組み合わせ)であるが、電極(ITO)と混合層の間に遷移金属含有ナノ粒子の層が挿入されることにより、駆動電圧がさらに低下した。電極(ITO)と混合層の界面において、遷移金属含有ナノ粒子が金属と配位子を含有することによってITOおよびTFBとの親和性が高まり、これにより界面の密着安定性が向上したからであると考えられる。
実施例1〜4のいずれにおいても、比較例2のMoO3を用いたときと比較して寿命特性LT80が長かった。これは無機物であるMoO3を用いたときに比べて、無機物と有機物を含有する遷移金属含有ナノ粒子を用いることにより、隣接する電極(ITO)および正孔輸送層a(TFB)との間の界面密着性が高くなったことによると考えられる。
【0178】
[実施例5]
有機EL素子は、透明陽極付ガラス基板の上に、正孔注入輸送層として、Mo含有ナノ粒子を含有する層(正孔注入層)と、正孔輸送性化合物を含有する層(正孔輸送層)との積層体、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、陰極の順番に成膜して積層し、最後に封止して作製した。
まず、透明陽極として酸化インジウム錫(ITO)の薄膜(厚み:150nm)を用いた。ITO付ガラス基板(三容真空社製)をストリップ状にパターン形成した。パターン形成されたITO基板を、中性洗剤、超純水の順番に超音波洗浄し、UVオゾン処理を施した。
【0179】
次に、上記の合成例1で得られたMo含有ナノ粒子を、シクロヘキサノン中に0.4重量%の濃度で溶解させ、正孔注入輸送層(1)形成用インクを調製した。続いて、上記正孔注入輸送層(1)形成用インクを、洗浄された陽極の上にスピンコート法により塗布して、Mo含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を形成した。正孔注入輸送層(1)形成用インクの塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて200℃で30分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層(1)の厚みは10nmであった。以上の正孔注入輸送層(1)の塗布と乾燥工程はすべて大気中で行った。
【0180】
次に、作製した正孔注入輸送層(1)の上に、正孔注入輸送層(2)として共役系の高分子材料であるTFB薄膜(厚み:30nm)を形成した。キシレンにTFBを0.7重量%の濃度で溶解させた溶液を、スピンコート法により塗布して成膜した。TFB溶液の塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて200℃で30分乾燥させた。
次に、上記正孔注入輸送層(2)の上に、発光層としてトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)3)を発光性ドーパントとして含有し、4,4’−ビス(2、2−カルバゾル−9−イル)ビフェニル(CBP)をホストとして含有した混合薄膜を蒸着形成した。混合薄膜は、真空中(圧力:1×10−4Pa)で抵抗加熱法によりホストとドーパントの体積比が20:1、合計膜厚が40nmになるように共蒸着で形成した。
【0181】
次に、上記発光層の上に、正孔ブロック層としてビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq)薄膜を蒸着形成した。BAlq薄膜は、真空中(圧力:1×10−4Pa)で抵抗加熱法により膜厚が15nmになるように形成した。
次に、上記正孔ブロック層の上に、電子輸送層としてトリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)薄膜を蒸着形成した。Alq3薄膜は、真空中(圧力:1×10−4Pa)で抵抗加熱法により膜厚が15nmになるように形成した。
次に、作製した発光層の上に、電子注入層としてLiF(厚み:0.5nm)、陰極としてAl(厚み:100nm)を順次成膜した。真空中(圧力:1×10−4Pa)で、抵抗加熱蒸着法により成膜した。
最後に陰極形成後、グローブボックス内にて無アルカリガラスとUV硬化型エポキシ接着剤を用いて封止し、実施例5の有機EL素子を作製した。作製した素子はIr(ppy)3の発光を示す緑に発光した。
【0182】
[実施例6]
実施例5において、正孔注入輸送層(1)に用いる遷移金属ナノ粒子として、Mo含有ナノ粒子の代わりに合成例3で得られたタングステン含有ナノ粒子を用いた以外は、実施例5と同様にして、実施例6の有機EL素子を作製した。
【0183】
[実施例7]
実施例5において、正孔注入輸送層(1)に用いる遷移金属ナノ粒子として、Mo含有ナノ粒子の代わりに合成例2で得られたバナジウム含有ナノ粒子を用いた以外は、実施例5と同様にして、実施例7の有機EL素子を作製した。
【0184】
[実施例8]
実施例5において、正孔注入輸送層(1)に用いる遷移金属ナノ粒子として、合成例1で得られたMo含有ナノ粒子と合成例3で得られたタングステン含有ナノ粒子を混合(重量比で1:1)して用いた以外は、実施例5と同様にして、実施例8の有機EL素子を作製した。
【0185】
[実施例9]
実施例5において、正孔注入輸送層(1)形成用インクの塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて200℃で30分乾燥させた後、更に、UVオゾンにより強制酸化させた以外は、実施例5と同様にして、実施例9の有機EL素子を作製した。
【0186】
[実施例10]
実施例5における正孔注入輸送層(1)を、TFBと合成例1のMo含有ナノ粒子を重量比2:1で混合した層とした以外は、実施例5と同様にして、実施例10の有機EL素子を作製した。
正孔注入輸送層(1)は、TFBとMo含有ナノ粒子を重量比2:1でシクロヘキサノン中に0.4重量%の濃度で溶解させた正孔注入輸送層(1)形成用インクを調製し、この正孔注入輸送層(1)形成用インクを、洗浄された陽極の上にスピンコート法により塗布することにより形成した。正孔注入輸送層(1)形成用インクの塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて200℃で30分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層(1)の厚みは10nmであった。
【0187】
[実施例11]
実施例10において、正孔注入輸送層(1)に用いられる遷移金属含有ナノ粒子として、合成例1で得られたMo含有ナノ粒子の代わりに、合成例4で得られたMo含有ナノ粒子を用いた以外は、実施例10と同様にして、実施例11の有機EL素子を作製した。
【0188】
[比較例3]
実施例5において、正孔注入輸送層としてTFB薄膜(厚み:10nm)のみを形成した以外は、実施例5と同様にして比較例3の有機EL素子を作製した。
【0189】
上記実施例5〜11及び比較例3において作製した有機EL素子は、いずれも緑色に発光した。これらについて、10mA/cm2での駆動時の印加電圧、電流効率、及び寿命特性の評価を下記方法により行った。結果を表4に示す。
電流効率は、電流−電圧−輝度(I−V−L)測定により算出した。I−V−L測定は、陰極を接地して陽極に正の直流電圧を100mV刻みで走査(1sec./div.)して印加し、各電圧における電流と輝度を記録して行った。輝度はトプコン(株)製輝度計BM−8を用いて測定した。得られた結果を基に、電流効率(cd/A)は発光面積と電流と輝度から計算して算出した。
有機EL素子の寿命特性は、定電流駆動で輝度が経時的に徐々に低下する様子を観察して評価した。ここでは初期輝度20,000cd/m2に対して保持率が50%の輝度に劣化するまでの時間(hr.)を寿命(LT50)とした。
【0190】
【表4】
【0191】
<結果のまとめ>
実施例5,6,7と比較例3を比較すると、本発明の遷移金属ナノ粒子の層が挿入されることにより、低電圧化し、長寿命化することがわかる。この結果は、本発明の遷移金属含有ナノ粒子を含有することにより、隣接する電極(ITO)および正孔輸送層a(TFB)との親和性が高まり、これにより層間の界面の密着安定性が向上したからであると考えられる。
実施例8については、MoとWを混合しても特性が良いことを示している。
実施例5と実施例9を比較すると、強制酸化された素子の方が、若干低電圧化し長寿命化している。酸化処理により注入性をコントロールできることを示している。
実施例10と実施例11を比較すると、TFBと親和性の良い分散剤を使用した実施例11の方が低電圧化し、長寿命化した。この結果は、実施例11については分散剤自体が正孔輸送性を持ち、かつバインダーとの相溶性が高く、円滑に正孔輸送され、膜の安定性が高くなったことを示している。
【0192】
[実施例12]
実施例5において、発光層として1−tert−ブチル―ペリレン(TBP)を発光性ドーパントとして含有し、2−メチル−9,10ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)をホストとして含有した混合薄膜(40nm)を塗布形成した以外は実施例5と同様にして、実施例12の有機EL素子を作製した。トルエンに固形分としてMADNとTBPの重量比が20:1になるように、1.0重量%の固形分濃度で溶解させた溶液を、スピンコート法により塗布して成膜した。溶液の塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて100℃で10分乾燥させた。作製した素子は、TBPの発光を示す青に発光した。
【0193】
[比較例4]
実施例12において、正孔注入輸送層(1)を比較合成例1で作製したスラリーを塗布形成した以外は実施例12と同様にして、比較例4の有機EL素子を作製した。比較合成例1のスラリーの固形分は不明であるが、スピンコート法により塗布して成膜し、スラリーを塗布した後に膜厚を測定したところ約10nm程度であった。溶液の塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて100℃で10分乾燥させたが少し白濁した。作製した素子は、TBPの発光を示す青に発光したが、ショートが多かった。
【0194】
【表5】
【0195】
<結果のまとめ>
実施例12と比較例4を比較すると、実施例12の素子の方が低電圧で駆動し長寿命であった。この結果は、物理的に粉砕して作製したMoO3スラリーと比較して、本願のMoナノ粒子は粒子の大きさの均一性が高く、さらにモリブデンが酸化数+4、+5、+6の複合体のシェル構造になっていることが、何らかの低電圧化や長寿命化に寄与しているものと考えられる。また比較例4については、粒度分布測定では25nm程度と細かく分散している様子が確認できたが、薄膜が白濁したことから膜形成の際に凝集しやすいかあるいはインキそれ自体の分散安定性が低いものと推察される。
【0196】
[実施例13]
ガラス基板の上に陽極、正孔注入輸送層として遷移金属含有ナノ粒子を含有する層、有機半導体層、陰極の順番に成膜して積層し、最後に封止して有機ダイオード素子を作製した。有機半導体層は、水分濃度0.1ppm以下、酸素濃度0.1ppm以下の窒素置換グローブボックス内で作製した。
【0197】
まず、ガラス基板(三容真空社製)を、水、アセトン、IPA(イソプロピルアルコール)の順番に超音波洗浄した。続いて、陽極としてクロム(Cr)(厚み:5nm)、Au(厚み:45nm)を順次成膜した。真空中(圧力:5×10−4Pa)で、抵抗加熱蒸着法により成膜した。
【0198】
金電極作製後、UVオゾン処理後を行い、洗浄された陽極の上にスピンコート法により、遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層(10nm)を形成した。塗布液には、上記の合成例1で得られた遷移金属含有ナノ粒子を、安息香酸エチル中に0.4重量%の濃度で分散させた溶液を用いた。薄膜形成後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて大気中200℃で30分乾燥させた。
【0199】
次に、作製した正孔注入輸送層の上に、有機半導体層として共役系の高分子材料であるポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)薄膜(厚み:100nm)を形成した。
【0200】
次に、作製した有機半導体層の上に、陰極としてAl(厚み:100nm)を成膜した。真空中(圧力:5×10−4Pa)で、抵抗加熱蒸着法により成膜した。
最後に陰極形成後、グローブボックス内にて無アルカリガラスとUV硬化型エポキシ接着剤を用いて封止し、実施例13の有機ダイオード素子を作製した。
【0201】
[比較例5]
実施例13において、正孔注入輸送層を用いなかった以外は、実施例13と同様にして比較例5の有機ダイオード素子を作製した。
【0202】
上記実施例及び比較例において作製した有機ダイオードについて、電流−電圧特性、交流−直流変換特性、及び寿命特性の評価を下記方法により行った。結果を表6に示す。
有機ダイオード素子の交流−直流変換特性は正弦波(振幅5V、周波数13.56 MHz)を図8に示した回路1に印加したときの、抵抗(100kΩ)両端の電位差を電圧計で測定することで行った。有機ダイオード素子の寿命特性は、直流定電圧(5V)駆動で電流が経時的に徐々に低下する様子を観察して評価した。なお、実施例13と比較例5では、初期電流値に対して保持率が50%に劣化するまでの時間(hr.)を寿命とした。
【0203】
【表6】
【0204】
<結果のまとめ>
比較例5と実施例13を比較すると、比較例5に比べ、遷移金属含有ナノ粒子を用いた方が順バイアス時の電流が増加し、変換される直流電圧も増加している。また、寿命特性も長くなった。これは、遷移金属含有ナノ粒子とP3HTが層界面において相互作用し、P3HTへの電荷注入特性およびP3HTの電荷輸送の安定性が向上したことと、さらに、遷移金属含有ナノ粒子が隣接する電極(Au)および有機半導体層(P3HT)との親和性が高まり、これにより層間の界面の密着安定性が向上したからであると考えられる。
【符号の説明】
【0205】
1 電極
2 正孔注入輸送層
3 有機層
4a 正孔輸送層
4b 正孔注入層
5 発光層
6 電極
7 基板
8 有機半導体層
9 電極
10 絶縁層
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子などの有機デバイス及び量子ドット発光素子を含む正孔注入輸送層を有するデバイス、及びその製造方法、並びに正孔注入輸送層形成用インクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機物を用いたデバイスは、有機エレクトロルミネセンス素子(以下、有機EL素子という。)、有機トランジスタ、有機太陽電池、有機半導体等、広範な基本素子及び用途への展開が期待されている。また、その他に正孔注入輸送層を有するデバイスには、量子ドット発光素子、酸化物系化合物太陽電池等がある。
【0003】
有機EL素子は、発光層に到達した電子と正孔とが再結合する際に生じる発光を利用した電荷注入型の自発光デバイスである。この有機EL素子は、1987年にT.W.Tangらにより蛍光性金属キレート錯体とジアミン系分子とからなる薄膜を積層した素子が低い駆動電圧で高輝度な発光を示すことが実証されて以来、活発に開発されている。
【0004】
有機EL素子の素子構造は、陰極/有機層/陽極から構成される。この有機層は、初期の有機EL素子においては発光層/正孔注入層とからなる2層構造であったが、現在では、高い発光効率と長駆動寿命を得るために、電子注入層/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/正孔注入層とからなる5層構造など、様々な多層構造が提案されている。
これら電子注入層、電子輸送層、正孔輸送層、正孔注入層などの発光層以外の層には、電荷を発光層へ注入・輸送しやすくする効果、あるいはブロックすることにより電子電流と正孔電流のバランスを保持する効果や、光エネルギー励起子の拡散を抑制するなどの効果があるといわれている。
【0005】
電荷輸送能力および電荷注入能力の向上を目的として、酸化性化合物を、正孔輸送性材料に混合して電気伝導度を高くすることが試みられている(特許文献1、特許文献2)。
特許文献1においては、酸化性化合物すなわち電子受容性化合物として、トリフェニルアミン誘導体と6フッ化アンチモン等の対アニオンを含む化合物や7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン等の炭素−炭素二重結合の炭素にシアノ基が結合した電子受容性が極めて高い化合物が用いられている。
特許文献2においては、酸化性ドーパントとして、一般的な酸化剤が挙げられ、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、及びアリールアミンとハロゲン化金属又はルイス酸との塩が挙げられている。
【0006】
特許文献3〜6においては、酸化性化合物すなわち電子受容性化合物として、化合物半導体である金属酸化物が用いられている。注入特性や電荷移動特性が良い正孔注入層を得ることを目的として、例えば五酸化バナジウムや三酸化モリブデンなどの金属酸化物を用いて蒸着法で薄膜を形成したり、或いはモリブデン酸化物とアミン系の低分子化合物との共蒸着により混合膜を形成している。
特許文献7においては、5酸化バナジウムの塗膜形成の試みとして、酸化性化合物すなわち電子受容性化合物として、オキソバナジウム(V)トリ−i−プロポキシドオキシドを溶解させた溶液を用い、それと正孔輸送性高分子との混合塗膜の形成後に水蒸気中で加水分解させてバナジウム酸化物として、電荷移動錯体を形成させる作製方法が挙げられている。
特許文献8においては、三酸化モリブデンの塗膜形成の試みとして、三酸化モリブデンを物理的に粉砕して作製した微粒子を溶液に分散させてスラリーを作製し、それを塗工して正孔注入層を形成して長寿命な有機EL素子を作製することが記載されている。
【0007】
一方、有機トランジスタは、π共役系の有機高分子や有機低分子からなる有機半導体材料をチャネル領域に使用した薄膜トランジスタである。一般的な有機トランジスタは、基板、ゲート電極、ゲート絶縁層、ソース・ドレイン電極、及び有機半導体層の構成からなる。有機トランジスタにおいては、ゲート電極に印加する電圧(ゲート電圧)を変化させることで、ゲート絶縁膜と有機半導体膜の界面の電荷量を制御し、ソース電極及びドレイン電極間の電流値を変化させてスイッチングを行なう。
【0008】
有機半導体層とソース電極またはドレイン電極との電荷注入障壁を低減することにより、有機トランジスタのオン電流値を向上させ、かつ素子特性を安定化させる試みとして、有機半導体中に電荷移動錯体を導入することによって、電極近傍の有機半導体層中のキャリア密度を増加させることが知られている(例えば、特許文献9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−36390号公報
【特許文献2】特許第3748491号公報
【特許文献3】特開2006−155978号公報
【特許文献4】特開2007−287586号公報
【特許文献5】特許第3748110号公報
【特許文献6】特許第2824411公報
【特許文献7】SID 07 DIGEST p.1840-1843 (2007)
【特許文献8】特開2008−041894号公報
【特許文献9】特開2002−204012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1から特許文献9で開示されたような酸化性材料を正孔輸送性材料に用いても、長寿命素子の実現は困難であるか、更に寿命を向上させる必要があった。特許文献1、2、8、及び9で開示されている酸化性材料では、正孔輸送性材料への酸化能力が低いか、薄膜中での分散安定性が悪いためと推測される。例えば、特許文献1及び特許文献2の両方で用いられているカチオン性トリフェニルアミン誘導体と6フッ化アンチモンとからなる酸化性材料を正孔輸送材料に混合した場合、電荷移動錯体を生成させる一方、電荷移動錯体と同数の遊離の対アニオン種である6フッ化アンチモンが薄膜中に存在する。この遊離の6フッ化アンチモンは駆動時に泳動し、材料が一部で凝集したり、隣接層との界面に析出するなど、薄膜中の材料の駆動時の分散安定性が悪くなると推定される。このような駆動中における分散安定性の変化は、素子中のキャリア注入や輸送を変化させるために、寿命特性に悪影響を及ぼすと考えられる。また、特許文献3〜5で開示されている金属酸化物では、正孔注入特性は向上するものの、隣接する有機化合物層との界面の密着性が不十分になり、寿命特性に悪影響を及ぼしていると考えられる。
【0011】
また、特許文献1から特許文献9で開示されていたような酸化性材料は、溶液塗布法により成膜する正孔輸送性高分子化合物と、同時に溶解するような溶剤溶解性が十分ではなく、酸化性材料のみで凝集しやすかったり、使用可能な溶剤種も限られるため汎用性に欠けるなどの問題があった。特に無機化合物のモリブデン酸化物においては比較的高い特性が得られているものの、溶剤に不溶であり溶液塗布法を用いることができないという課題があった。例えば、特許文献8には平均粒径20nmの酸化モリブデン微粒子を溶媒に分散させたスラリーを用いて、スクリーン印刷法により電荷注入層を作製した旨の記述がある。しかしながら、特許文献8のようにMoO3粉末を粉砕する方法だと、例えば10nm程度の正孔注入層を形成する要求に対して10nm以下のスケールで粒径のそろった微粒子を作製することは、実際には非常に困難である。また、粉砕されて作製される酸化モリブデン微粒子は、凝集させることなく溶液中に安定的に分散させることがさらに困難である。微粒子の溶液化が不安定であると、塗布膜作製の際に凹凸の大きな平滑性が悪い膜しか形成できず、デバイスの短絡の原因となる。蒸着法でしか薄膜形成できないと、発光層をインクジェット法等の溶液塗布法で塗り分けて形成しても、結局、溶液塗布法の利点を活かすことができないという問題があった。すなわち、親液性となるモリブデン酸化物によって各発光層の間の隔壁(バンク)の撥液性を損なわないために、無機化合物のモリブデン酸化物を含有する正孔注入層あるいは正孔輸送層を、高精細マスクを用いて蒸着する必要があり、結局コストや歩留まりの点から、溶液塗布法の利点を活かすことができなかった。さらに、無機化合物のモリブデン酸化物は酸素欠損型の酸化物半導体で、電気伝導性は酸化数+6のMoO3よりも酸化数+5のMo2O5は常温で良導体であるが大気中では不安定であり、容易に熱蒸着できる化合物は、MoO3あるいはMoO2などの安定な価数をもつ酸化化合物に限定される。
成膜性や薄膜の安定性は素子の寿命特性と大きく関係する。一般的に有機EL素子の寿命とは、一定電流駆動などで連続駆動させたときの輝度半減時間とし、輝度半減時間が長い素子ほど長駆動寿命であるという。
【0012】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶液塗布法により正孔注入輸送層を形成可能で製造プロセスが容易でありながら、長寿命を達成可能なデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、正孔注入輸送層に、遷移金属含有ナノ粒子を用いることで、溶液塗布法により正孔注入輸送層を形成でき製造プロセスが容易でありながら、電荷移動錯体を形成可能で正孔注入特性を向上し、且つ、隣接する電極や有機層との密着性にも優れた、安定性の高い膜となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明のデバイスは、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスであって、前記正孔注入輸送層が、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属と保護剤とを含むか、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明のデバイスに用いられる遷移金属含有ナノ粒子は、無機化合物のモリブデン酸化物等を用いる場合と異なり、ナノ粒子中に保護剤として有機部分を含み、溶剤に分散性を有する。そのため、溶液塗布法によって薄膜形成が可能であることから、製造プロセス上のメリットが大きい。撥液性バンクを持つ基板に正孔注入輸送層から発光層までを順次塗布プロセスのみで形成できる。それ故、無機化合物のモリブデン酸化物の場合のように正孔注入層を高精細なマスク蒸着等で蒸着した後に、正孔輸送層や発光層を溶液塗布法で形成し、さらに第二電極を蒸着するようなプロセスと比較して、単純であり、低コストでデバイスを作製できる利点がある。
【0015】
本発明のデバイスに用いられる少なくとも遷移金属酸化物を含むナノ粒子(以下、単に「遷移金属含有ナノ粒子」という)は、無機化合物のモリブデン酸化物を用いる場合と異なり、ナノ粒子中に保護剤として有機部分を含むため、有機物である正孔輸送性化合物との相溶性が良好となり、且つ、隣接する有機層との界面の密着性も良好となる。また、遷移金属含有ナノ粒子は含まれる遷移金属乃至遷移金属化合物の反応性が高く、電荷移動錯体を形成しやすいと考えられる。そのため、遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を備えた本発明のデバイスは、低電圧駆動、高電力効率、長寿命なデバイスを実現することが可能である。
また、本発明のデバイスにおいては、遷移金属含有ナノ粒子の保護剤の種類を選択したり修飾することにより、親水性・疎水性、電荷輸送性、あるいは密着性などの機能性を付与するなど、多機能化することが容易である。
【0016】
本発明のデバイスにおいては、前記遷移金属含有ナノ粒子に含まれる、遷移金属、及び、遷移金属化合物中の遷移金属が、モリブデン、タングステン、バナジウム、及びレニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属であることが、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
【0017】
本発明のデバイスにおいては、前記正孔注入輸送層は、含まれる遷移金属がそれぞれ異なる2種類以上の遷移金属含有ナノ粒子を含有しても良い。
【0018】
本発明のデバイスにおいては、前記遷移金属含有ナノ粒子の平均粒径が15nm以下であることが、薄膜を形成可能で、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
【0019】
本発明のデバイスにおいては、前記正孔注入輸送層は、前記遷移金属含有ナノ粒子、及び正孔輸送性化合物を少なくとも含有することが、駆動電圧の低下や素子寿命を更に向上させる点から好ましい。
【0020】
本発明のデバイスにおいては、前記正孔注入輸送層は、前記遷移金属含有ナノ粒子を含有する層と、正孔輸送性化合物を含有する層とが少なくとも積層された層からなる層であっても良い。
【0021】
本発明のデバイスにおいては、前記遷移金属含有ナノ粒子を含有する層と、前記遷移金属含有ナノ粒子及び正孔輸送性化合物を少なくとも含有する層とが少なくとも積層された層からなる層であっても良い。
【0022】
本発明のデバイスにおいては、前記遷移金属含有ナノ粒子の前記保護剤が、前記遷移金属及び/又は遷移金属化合物と連結する作用を生ずる連結基と、芳香族炭化水素及び/又は複素環とを含むことが、駆動電圧の低下や素子寿命を更に向上させる点から好ましい。
【0023】
本発明のデバイスにおいては、前記遷移金属含有ナノ粒子において、前記保護剤が、電荷輸送性基を含むことが、駆動電圧の低下や素子寿命を更に向上させる点から好ましい。
【0024】
本発明のデバイスにおいては、前記正孔輸送性化合物が、原子量の総和MAが100以上である部分Aを有する化合物であり、
前記遷移金属含有ナノ粒子中の前記保護剤が、連結基の他に、原子量の総和MBが100以上であり、当該原子量の総和MBと前記原子量の総和MAが下記式(I)の関係を満たし、当該原子量の総和MBが保護剤の分子量の1/3より大きい部分Bを有し、
前記部分Aの溶解度パラメータSAと、前記部分Bの溶解度パラメータSBが、下記式(II)の関係を満たすことが、駆動電圧の低下や素子寿命を更に向上させる点から好ましい。
|MA−MB|/MB≦2 式(I)
|SA−SB|≦2 式(II)
【0025】
本発明のデバイスにおいては、前記部分Bは、前記部分Aと同一の骨格、又は同一の骨格内にスペーサー構造を含む類似骨格を有することが、駆動電圧の低下や素子寿命を更に向上させる点から好ましい。
【0026】
本発明のデバイスにおいては、前記連結基が、以下の一般式(1a)〜(1l)で示される官能基より選択される1種以上であることが、膜の安定性の点から好ましい。
【0027】
【化1】
(式中、Z1、Z2及びZ3は、各々独立にハロゲン原子、又はアルコキシ基を表す。)
【0028】
本発明のデバイスにおいては、前記正孔輸送性化合物が、正孔輸送性高分子化合物であることが、駆動電圧の低下や素子寿命を更に向上させる点から好ましい。
【0029】
本発明のデバイスは、少なくとも発光層を含む有機層を含有する有機EL素子として好適に用いられる。
【0030】
また、本発明に係るデバイスの製造方法は、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスの製造方法であって、
遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子と、有機溶媒とを含有する正孔注入輸送層形成用インクを調製する工程と、前記正孔注入輸送層形成用インクを用いて、前記電極上のいずれかの層上に正孔注入輸送層を形成する工程と、前記遷移金属含有ナノ粒子の遷移金属及び/又は遷移金属化合物の少なくとも一部を遷移金属酸化物とする酸化物化工程、とを有することを特徴とする。
【0031】
本発明に係るデバイスの製造方法によれば、溶液塗布法により正孔注入輸送層を形成可能で製造プロセスが容易でありながら、長寿命を達成可能なデバイスを提供することが可能である。
【0032】
本発明に係るデバイスの製造方法においては、前記酸化物化工程は前記正孔注入輸送層形成用インクを調製後、正孔注入輸送層を形成する工程前に行ってもよいし、正孔注入輸送層を形成する工程後に行ってもよい。
すなわち、一態様としては、前記電極上のいずれかの層上に、遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を形成する工程と、前記正孔注入輸送層における遷移金属含有ナノ粒子中の遷移金属及び/又は遷移金属化合物の少なくとも一部を遷移金属酸化物とする酸化物化工程を有する。
別の一態様としては、前記正孔注入輸送層形成用インクを調製する工程後、正孔注入輸送層を形成する工程前に、前記酸化物化工程が実施され、酸化物化された正孔注入輸送層形成用インクを用いて、前記正孔注入輸送層を形成することを特徴とする。
【0033】
本発明に係るデバイスの製造方法においては、前記酸化物化工程が、酸素存在下で実施されることが好ましい。
【0034】
本発明に係るデバイスの製造方法においては、前記酸化物化工程として、加熱工程、及び/又は、光照射工程、及び/又は、活性酸素を作用させる工程を用いることができる。
【0035】
また、本発明に係る正孔注入輸送層形成用インクは、遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子と、有機溶媒とを含有することを特徴とする。
【0036】
また、本発明に係る正孔注入輸送層形成用インクにおいては、前記遷移金属含有ナノ粒子が少なくとも遷移金属酸化物を含んでいても良い。
【発明の効果】
【0037】
本発明のデバイスは、製造プロセスが容易でありながら、長寿命を達成可能である。
本発明に係るデバイスの製造方法によれば、製造プロセスが容易でありながら、長寿命を達成可能なデバイスを提供することが可能である。
また、本発明に係る正孔注入輸送層形成用インクによれば、製造プロセスが容易でありながら、長寿命を達成可能なデバイスを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係るデバイスの基本的な層構成を示す断面概念図である。
【図2】本発明に係るデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の一例を示す断面模式図である。
【図3】本発明に係るデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の他の一例を示す断面模式図である。
【図4】本発明に係るデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の他の一例を示す断面模式図である。
【図5】本発明に係るデバイスの別の実施形態である有機トランジスタの層構成の一例を示す断面模式図である。
【図6】本発明に係るデバイスの別の実施形態である有機トランジスタの層構成の他の一例を示す断面模式図である。
【図7】遷移金属含有ナノ粒子の粒子径を測定した結果を示す図である。
【図8】実施例5及び比較例3の交流−直流変換特性の評価に用いた回路を示す図である。
【図9】サンプル1について合成後1日、38日、64日経過後に得られたXPSスペクトルの一部拡大図を示す。
【図10】サンプル2及びサンプル4について得られたXPSスペクトルの一部拡大図を示す。
【図11】サンプル3及びサンプル5について得られたXPSスペクトルの一部拡大図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
1.デバイス
本発明のデバイスは、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスであって、前記正孔注入輸送層が、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属と保護剤とを含むか、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有することを特徴とする。
【0040】
本発明のデバイスは、前記正孔注入輸送層が、遷移金属含有ナノ粒子を含有することにより、正孔注入特性が向上され、且つ、隣接する電極や有機層との密着性にも優れた、安定性の高い膜となるため、素子の長寿命化を達成可能である。また、本発明のデバイスは、無機化合物の遷移金属酸化物を用いる場合と異なり、ナノ粒子中に粒子表面を保護する保護剤として有機部分を含み、溶剤に分散性を有するため、溶液塗布法によって薄膜形成が可能であることから、製造プロセスが容易である。
【0041】
このように、本発明のデバイスに用いられる遷移金属含有ナノ粒子が寿命を向上できるのは、遷移金属含有ナノ粒子は含まれる遷移金属又は遷移金属化合物の反応性が高く、正孔輸送性化合物との間で、或いは遷移金属含有ナノ粒子同士で、電荷移動錯体を形成し易いからであると推定される。また、遷移金属含有ナノ粒子は、無機化合物の遷移金属酸化物と異なり、ナノ粒子中に保護剤として有機部分を含むため、有機物である正孔輸送性化合物との相溶性が良好となり、且つ、隣接する有機層との界面の密着性も良好となる。そのため、遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を備えた本発明のデバイスは、低電圧駆動、高電力効率で、特に寿命が向上したデバイスを実現できると推定される。
また、本発明のデバイスにおいては、遷移金属含有ナノ粒子の保護剤の種類を選択したり修飾することにより、親水性・疎水性、電荷輸送性、あるいは密着性などの機能性を付与するなど、多機能化することが容易である。
【0042】
また、本発明のデバイスは、溶液塗布法によって正孔注入輸送層を形成することができるので、撥液性バンクを持つ基板に正孔注入輸送層から発光層までを順次塗布プロセスのみで形成できる。そのため、無機化合物の遷移金属酸化物の場合のように正孔注入層を高精細なマスク蒸着等で蒸着した後に、正孔輸送層や発光層を溶液塗布法で形成し、さらに第二電極を蒸着するようなプロセスと比較して、単純であり、低コストでデバイスを作製できる利点がある。
【0043】
なお、電荷移動錯体を形成していることは、例えば、1H NMR測定により、遷移金属含有ナノ粒子を電荷輸送性化合物の溶液へ混合した場合、電荷輸送性化合物の6〜10ppm付近に観測される芳香環に由来するプロトンシグナルの形状やケミカルシフト値が、遷移金属含有ナノ粒子を混合する前と比較して変化する現象が観測されることによって示唆される。
【0044】
以下、本発明に係るデバイスの層構成について説明する。
本発明に係るデバイスは、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスである。
本発明に係るデバイスには、有機EL素子、有機トランジスタ、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、有機半導体を包含する有機デバイスのほか、正孔注入輸送層を有する量子ドット発光素子、酸化物系化合物太陽電池等も含まれる。
図1は本発明に係る有機デバイスの基本的な層構成を示す断面概念図である。本発明のデバイスの基本的な層構成は、基板7上に対向する2つの電極(1及び6)と、その2つの電極(1及び6)間に配置され少なくとも正孔注入輸送層2を含む有機層3を有する。
基板7は、デバイスを構成する各層を形成するための支持体であり、必ずしも電極1の表面に設けられる必要はなく、デバイスの最も外側の面に設けられていればよい。
【0045】
正孔注入輸送層2は、少なくとも遷移金属含有ナノ粒子を含有し、電極1から有機層3への正孔の注入及び/又は輸送を担う層である。
有機層3は、正孔注入輸送されることにより、デバイスの種類によって様々な機能を発揮する層であり、単層からなる場合と多層からなる場合がある。有機層が多層からなる場合は、有機層は、正孔注入輸送層の他に更に、デバイスの機能の中心となる層(以下、機能層と称呼する。)や、当該機能層の補助的な層(以下、補助層と称呼する。)を含んでいる。例えば、有機EL素子の場合、正孔注入輸送層の表面に更に積層される正孔輸送層が補助層に該当し、当該正孔輸送層の表面に積層される発光層が機能層に該当する。
電極6は、対向する電極1との間に正孔注入輸送層2を含む有機層3が存在する場所に設けられる。また、必要に応じて、図示しない第三の電極を有していてもよい。これらの電極間に電場を印加することにより、デバイスの機能を発現させることができる。
【0046】
図2は、本発明に係るデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の一例を示す断面模式図である。本発明の有機EL素子は、電極1の表面に正孔注入輸送層2が積層され、当該正孔注入輸送層2の表面に補助層として正孔輸送層4a、機能層として発光層5が積層された形態を有する。このように、本発明に特徴的な正孔注入輸送層を正孔注入層の位置で用いる場合には、導電率の向上に加え、当該正孔注入輸送層は電荷移動錯体を形成して溶液塗布法に用いた溶媒に不溶になるので、上層の正孔輸送層を積層する際にも溶液塗布法を適用することが可能である。更に、電極との密着性向上も期待できる。
図3は、本発明に係るデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の別の一例を示す断面模式図である。本発明の有機EL素子は、電極1の表面に補助層として正孔注入層4bが形成され、当該正孔注入層4bの表面に正孔注入輸送層2、機能層として発光層5が積層された形態を有する。このように、本発明に特徴的な正孔注入輸送層を正孔輸送層の位置で用いる場合には、導電率の向上に加え、当該正孔注入輸送層は電荷移動錯体を形成して溶液塗布法に用いた溶媒に不溶になるので、上層の発光層を積層する際にも溶液塗布法を適用することが可能である。
図4は、本発明に係るデバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の別の一例を示す断面模式図である。本発明の有機EL素子は、電極1の表面に正孔注入輸送層2、機能層として発光層5が順次積層された形態を有する。このように、本発明に特徴的な正孔注入輸送層を1層で用いる場合には、工程数が削減されるというプロセス上のメリットがある。
なお、上記図2〜図4においては、正孔注入輸送層2、正孔輸送層4a、正孔注入層4bのそれぞれが、単層ではなく複数層から構成されているものであっても良い。
【0047】
上記図2〜図4においては、電極1は陽極、電極6は陰極として機能する。上記有機EL素子は、陽極と陰極の間に電場を印加されると、正孔が陽極から正孔注入輸送層2及び正孔輸送層4を経て発光層5に注入され、且つ電子が陰極から発光層に注入されることにより、発光層5の内部で注入された正孔と電子が再結合し、素子の外部に発光する機能を有する。
素子の外部に光を放射するため、発光層の少なくとも一方の面に存在する全ての層は、可視波長域のうち少なくとも一部の波長の光に対する透過性を有することを必要とする。また、発光層と電極6(陰極)の間には、必要に応じて電子輸送層及び/又は電子注入層が設けられていてもよい(図示せず)。
【0048】
図5は、本発明に係るデバイスの別の実施形態である有機トランジスタの層構成の一例を示す断面模式図である。この有機トランジスタは、基板7上に、電極9(ゲート電極)と、対向する電極1(ソース電極)及び電極6(ドレイン電極)と、電極9、電極1、及び電極6間に配置された前記有機層としての有機半導体層8と、電極9と電極1の間、及び電極9と電極6の間に介在する絶縁層10を有し、電極1と電極6の表面に、正孔注入輸送層2が形成されている。
上記、有機トランジスタは、ゲート電極における電荷の蓄積を制御することにより、ソース電極−ドレイン電極間の電流を制御する機能を有する。
【0049】
図6は、本発明に係るデバイスの実施形態である有機トランジスタの別の層構成の一例を示す断面模式図である。この有機トランジスタは、基板7上に、電極9(ゲート電極)と、対向する電極1(ソース電極)及び電極6(ドレイン電極)と、電極9、電極1、及び電極6間に配置された前記有機層として本発明の正孔注入輸送層2を形成して有機半導体層8とし、電極9と電極1の間、及び電極9と電極6の間に介在する絶縁層10を有している。この例においては、正孔注入輸送層2が有機半導体層8となっている。
【0050】
尚、本発明のデバイスの層構成は、上記例示に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、本発明に係るデバイスの各層について詳細に説明する。
【0051】
(1)正孔注入輸送層
本発明のデバイスは、少なくとも正孔注入輸送層を含む。本発明のデバイスが有機デバイスであって、有機層が多層の場合には、有機層は、正孔注入輸送層の他に更に、デバイスの機能の中心となる層や、当該機能層を補助する役割を担う補助層を含んでいるが、それらの機能層や補助層は、後述するデバイスの具体例において、詳細に述べる。
【0052】
本発明のデバイスにおける正孔注入輸送層は、少なくとも遷移金属含有ナノ粒子を含有するものである。本発明のデバイスにおける正孔注入輸送層は、遷移金属含有ナノ粒子のみからなるものであっても良いが、更に他の成分を含有していても良い。中でも、更に正孔輸送性化合物を含有することが、駆動電圧の低下や素子寿命を更に向上させる点から、好ましい。
【0053】
更に正孔輸送性化合物を含有する場合に、本発明のデバイスにおける正孔注入輸送層は、遷移金属含有ナノ粒子と正孔輸送性化合物を含有する混合層1層からなるものであっても良いし、当該混合層を含む複数層からなるものであっても良い。また、前記正孔注入輸送層は、遷移金属含有ナノ粒子を含有する層と、正孔輸送性化合物を含有する層とが少なくとも積層された複数層からなるものであっても良い。更に、前記正孔注入輸送層は、遷移金属含有ナノ粒子を含有する層と、遷移金属含有ナノ粒子、並びに、正孔輸送性化合物を少なくとも含有する層とが少なくとも積層された層からなるものであっても良い。
【0054】
本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属と保護剤とを含むか、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物と保護剤とを含むものである。当該遷移金属含有ナノ粒子は、通常、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属を含有する粒子、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物を含有する粒子と、当該粒子表面を保護する保護剤とを含有するものである。本発明の遷移金属含有ナノ粒子においては、特に粒子表面に、保護剤として有機化合物が付着しているので、特許文献8のような単に遷移金属酸化物が粉砕されて形成された粒子と異なり、ナノ粒子の分散安定性が非常に高いものとなり、均一性の高いnmオーダーの薄膜を形成することができる。当該薄膜は、経時安定性及び均一性が高いためショートし難い。更に、隣接する電極や有機層との密着性に優れるようになる。なおここで、ナノ粒子とは、直径がnm(ナノメートル)オーダー、すなわち1μm未満の粒子をいう。
少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属を含有する粒子、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物を含有する粒子は、単一構造であっても複合構造であっても良く、コア・シェル構造、合金、島構造等であっても良い。遷移金属含有ナノ粒子に含まれる遷移金属化合物としては、酸化物、硫化物、ホウ化物、セレン化物、ハロゲン化物、錯体等が挙げられる。但し、本願において、遷移金属含有ナノ粒子中には、遷移金属酸化物が必ず含まれる。遷移金属酸化物が必ず含まれることにより、イオン化ポテンシャルの値が最適になったり、不安定な酸化数+0の金属からの酸化による変化をあらかじめ抑制しておくことにより、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させることが可能になる。中でも、遷移金属含有ナノ粒子中に酸化数の異なる遷移金属酸化物が共存して含まれることが好ましい。酸化数の異なる遷移金属酸化物が共存して必ず含まれることにより、酸化数のバランスによって正孔輸送や正孔注入性が適度に制御されることにより、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させることが可能になる。なお、ナノ粒子内には処理条件によって様々な価数の遷移金属原子や化合物、例えば酸化物やホウ化物など、が混在していても良い。
【0055】
本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子に含まれる、遷移金属、又は、遷移金属化合物に含まれる遷移金属としては、具体的には例えば、モリブデン、タングステン、バナジウム、レニウム、ニッケル、銅、チタン、白金、銀等が挙げられる。
中でも、前記遷移金属含有ナノ粒子に含まれる、遷移金属、及び、遷移金属化合物中の遷移金属が、モリブデン、タングステン、バナジウム、及びレニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属であることが、反応性が高いことから、電荷移動錯体を形成し易く、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
【0056】
本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子に含まれる、遷移金属酸化物は、遷移金属及び遷移金属化合物中に90モル%以上含まれることが好ましく、更に、95モル%以上含まれることが駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
【0057】
保護剤の種類は適宜選択され、特に限定されないが、遷移金属含有粒子の表面保護と分散安定性の点から、前記遷移金属及び/又は遷移金属化合物と連結する作用を生ずる連結基と、疎水性を有する有機基とが含まれることが好ましい。保護剤としては、例えば、疎水性を有する有機基の末端に連結基として親水性基を有する構造が挙げられる。保護剤は低分子化合物であっても高分子化合物であっても良い。
【0058】
連結基としては、遷移金属及び/又は遷移金属化合物と連結する作用を有すれば、特に限定されない。連結には、吸着や配位も含まれるが、イオン結合、共有結合等の化学結合であることが好ましい。保護剤中の連結基の数は分子内に1つ以上であればいくつであっても良い。後述する正孔輸送性化合物に遷移金属含有ナノ粒子を分散させる場合に、当該連結基が保護剤1分子内に2つ以上存在すると、保護剤同士が重合して後述する正孔輸送性化合物と相溶性の悪い連結基部分がバインダー成分である正孔輸送性化合物側に露出して、正孔輸送性化合物と遷移金属含有ナノ粒子の相溶性を阻害する可能性がある。従って、このような場合には、連結基は保護剤の1分子内に1つであることが好ましい。連結基の数が1分子内に1つの場合は、保護剤は粒子と結合するか、2分子反応で二量体を形成して反応が停止する。当該二量体については、粒子との密着性が弱いため、洗い流す工程を付与すると膜中から容易に取り除くことができる。
【0059】
連結基としては、例えばカルボキシル基、アミノ基、水酸基、チオール基、アルデヒド基、スルホン酸基、アミド基、スルホンアミド基、リン酸基、ホスフィン酸基、P=O基などの親水性基が挙げられる。連結基としては、以下の一般式(1a)〜(1l)で示される官能基より選択される1種以上であることが好ましい。
【0060】
【化2】
【0061】
保護剤に含まれる有機基としては、炭素数が4以上、好ましくは炭素数が6〜30、より好ましくは8〜20の直鎖又は分岐の飽和又は不飽和アルキル基や、芳香族炭化水素及び/又は複素環等が挙げられる。中でも、保護剤が、前記遷移金属及び/又は遷移金属化合物と連結する作用を生ずる連結基と、芳香族炭化水素及び/又は複素環とを含むことが、正孔輸送性化合物との相溶性の向上、隣接する有機層との密着性向上などにより、膜の分散安定性が向上し、長駆動寿命化に寄与する点から好ましい。
【0062】
芳香族炭化水素及び/又は複素環としては、具体的には例えば、ベンゼン、トリフェニルアミン、フルオレン、ビフェニル、ピレン、アントラセン、カルバゾール、フェニルピリジン、トリチオフェン、フェニルオキサジアゾール、フェニルトリアゾール、ベンゾイミダゾール、フェニルトリアジン、ベンゾジアチアジン、フェニルキノキサリン、フェニレンビニレン、フェニルシロール、及びこれらの構造の組み合わせ等が挙げられる。
また、本発明の効果を損なわない限り、芳香族炭化水素及び/又は複素環を含む構造に置換基を有していても良い。置換基としては、例えば、炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基の中では、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が好ましい。
【0063】
保護剤は、電荷輸送性基を有することが、正孔輸送性化合物との相溶性や電荷輸送性の向上により、長駆動寿命化に寄与する点から、好ましい。電荷輸送性基とは、その化学構造基が電子或いは正孔のドリフト移動度を有する性質を示す基であり、又別の定義としてはTime−Of−Flight法などの電荷輸送性能を検知できる既知の方法により電荷輸送に起因する検出電流が得られる基として定義できる。電荷輸送性基がそれ自身単独で存在しえない場合は、当該電荷輸送性基に水素原子を付加した化合物が電荷輸送性化合物であればよい。電荷輸送性基としては、例えば、後述するような、正孔輸送性化合物(アリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体等)において、水素原子を除いた残基が挙げられる。
【0064】
本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子において、遷移金属化合物及び遷移金属と、保護剤との含有比率は、適宜選択され、特に限定されないが、遷移金属化合物及び遷移金属100重量部に対して、保護剤が10〜20重量部であることが好ましい。
【0065】
本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子の平均粒径は、特に限定されるものではなく例えば0.5nm〜999nmの範囲内であるが、0.5nm〜50nmの範囲内、中でも0.5nm〜20nmの範囲内であることが好ましい。本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子の平均粒径は、更に、15nm以下であることが好ましく、特に1nm〜10nmの範囲内であることが好ましい。粒子径が小さすぎるものは、製造が困難であるからである。一方、粒子径が大きすぎると、単位重量当たりの表面積(比表面積)が小さくなり、所望の効果が得られない可能性があり、さらに薄膜の表面粗さが大きくなりショートが多発する恐れがあるからである。
ここで平均粒径は、動的光散乱法により測定される個数平均粒径であるが、正孔注入輸送層に分散された状態においては、平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて得られた画像から、遷移金属含有ナノ粒子が20個以上存在していることが確認される領域を選択し、この領域中の全ての遷移金属含有ナノ粒子について粒径を測定し、平均値を求めることにより得られる値とする。
【0066】
本発明の正孔注入輸送層において、遷移金属含有ナノ粒子は、含まれる遷移金属がそれぞれ異なる2種類以上の遷移金属含有ナノ粒子を含有していても良い。遷移金属、及び、遷移金属化合物中の遷移金属として、単一の金属を含む単一金属含有ナノ粒子を2種以上用いる場合には、正孔輸送性や正孔注入性を互いに補い合ったり、光触媒性など他の機能を併せ持つ正孔注入輸送層を形成できるというメリットがある。
【0067】
本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子の製造方法は、上述した遷移金属含有ナノ粒子を得ることができる方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、遷移金属錯体と上記保護剤を有機溶媒中で反応させるなどの液相法等が挙げられる。
【0068】
一方、本発明で用いられる正孔輸送性化合物は、正孔輸送性を有する化合物であれば、適宜用いることができる。ここで、正孔輸送性とは、公知の光電流法により、正孔輸送による過電流が観測されることを意味する。
正孔輸送性化合物としては、低分子化合物の他、高分子化合物も好適に用いられる。正孔輸送性高分子化合物は、正孔輸送性を有し、且つ、ゲル浸透クロマトグラフィーのポリスチレン換算値による重量平均分子量が2000以上の高分子化合物をいう。本発明の正孔注入輸送層においては、溶液塗布法により安定な膜を形成することを目的として、正孔輸送性材料としては有機溶媒に溶解しやすく且つ化合物が凝集し難い安定な塗膜を形成可能な高分子化合物を用いることが好ましい。
【0069】
正孔輸送性化合物としては、特に限定されることなく、例えばアリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等を挙げることができる。アリールアミン誘導体の具体例としては、N,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン)(α−NPD)、4,4',4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’,4”−トリス(N−(2−ナフチル)−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(2−TNATA)など、カルバゾール誘導体としては4,4−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)など、フルオレン誘導体としては、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)−9,9−ジメチルフルオレン(DMFL−TPD)など、ジスチリルベンゼン誘導体としては、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−[(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]スチルベン(DPAVB)など、スピロ化合物としては、2,7−ビス(N−ナフタレン−1−イル−N−フェニルアミノ)−9,9−スピロビフルオレン(Spiro−NPB)、2,2’,7,7’−テトラキス(N,N−ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン(Spiro−TAD)などが挙げられる。
また、正孔輸送性高分子化合物としては、例えばアリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等を繰り返し単位に含む重合体を挙げることができる。
【0070】
アリールアミン誘導体を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、非共役系の高分子としてコポリ[3,3’−ヒドロキシ−テトラフェニルベンジジン/ジエチレングリコール]カーボネート(PC−TPD−DEG)、下記構造で表されるPTPDES及びEt-PTPDEK等、共役系の高分子としてポリ[N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)−ベンジジン]を挙げることができる。アントラセン誘導体類を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(9,10−アントラセン)]等を挙げることができる。カルバゾール類を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリビニルカルバゾール(PVK)等を挙げることができる。チオフェン誘導体類を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(ビチオフェン)]等を挙げることができる。フルオレン誘導体を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)等を挙げることができる。スピロ化合物を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−co−(9,9’−スピロ−ビフルオレン−2,7−ジイル)]等を挙げることができる。これらの正孔輸送性高分子化合物は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0071】
【化3】
【0072】
正孔輸送性高分子化合物としては、中でも、下記一般式(2)で示される化合物であることが、隣接する有機層との密着安定性が良好になりやすく、HOMOエネルギー値が陽極基板と発光層材料の間である点からも好ましい。
【0073】
【化4】
(式(2)において、Ar1〜Ar4は、相互に同一であっても異なっていてもよく、共役結合に関する炭素原子数が6個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の芳香族炭化水素基、または共役結合に関する炭素原子数が4個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の複素環基を示す。nは0〜10000、mは0〜10000であり、n+m=10〜20000である。また、2つの繰り返し単位の配列は任意である。)
【0074】
また、2つの繰り返し単位の配列は任意であり、例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
nの平均は、5〜5000であることが好ましく、更に10〜3000であることが好ましい。また、mの平均は、5〜5000であることが好ましく、更に10〜3000であることが好ましい。また、n+mの平均は、10〜10000であることが好ましく、更に20〜6000であることが好ましい。
【0075】
上記一般式(2)のAr1〜Ar4において、芳香族炭化水素基における芳香族炭化水素としては、具体的には例えば、ベンゼン、フルオレン、ナフタレン、アントラセン、及びこれらの組み合わせ、並びにそれらの誘導体、更に、フェニレンビニレン誘導体、スチリル誘導体等が挙げられる。また、複素環基における複素環としては、具体的には例えば、チオフェン、ピリジン、ピロール、カルバゾール、及びこれらの組み合わせ、並びにそれらの誘導体等が挙げられる。
【0076】
上記一般式(2)のAr1〜Ar4が置換基を有する場合、当該置換基は、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基やアルケニル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ビニル基、アリル基等であることが好ましい。
【0077】
上記一般式(2)で示される化合物として、具体的には例えば、下記式(4)で示されるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)、下記式(5)で示されるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−co−(N,N’−ビス{4−ブチルフェニル}−ベンジジンN,N’−{1,4−ジフェニレン})]、下記式(6)で示されるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)](PFO)が好適な化合物として挙げられる。
【0078】
【化5】
【0079】
【化6】
【0080】
【化7】
【0081】
本発明の正孔注入輸送層において正孔輸送性化合物が用いられる場合には、上記正孔輸送性化合物が、原子量の総和MAが100以上である部分Aを有する化合物であり、
前記遷移金属含有ナノ粒子中の前記保護剤が、上記連結基の他に、原子量の総和MBが100以上であり、当該原子量の総和MBと前記原子量の総和MAが下記式(I)の関係を満たし、当該原子量の総和MBが保護剤の分子量の1/3より大きい部分Bを有し、
前記部分Aの溶解度パラメータSAと、前記部分Bの溶解度パラメータSBが、下記式(II)の関係を満たすことが、好ましい。
|MA−MB|/MB≦2 式(I)
|SA−SB|≦2 式(II)
【0082】
正孔輸送性化合物の部分A、及び遷移金属含有ナノ粒子中の保護剤の部分Bが上記式(I)、(II)の関係を満たすことにより、当該部分Aと当該部分Bとの分子極性のマッチングが良好となり、同じ層か又は隣接する層に含まれ得る正孔輸送性化合物と遷移金属含有ナノ粒子の相溶性や密着性が向上する。これにより遷移金属含有ナノ粒子の分散安定性が高まり、成膜した際や長時間の発光デバイスの駆動による、遷移金属含有ナノ粒子同士の凝集や相分離を防止し、長駆動寿命を有する電子デバイスを得ることができる。
【0083】
この場合、前記正孔輸送性化合物において、原子量の総和MAは150以上がより好ましく、200以上が特に好ましい。前記部分Aが正孔輸送性化合物の1分子内に2つ以上含まれる、例えば、正孔輸送性化合物が繰り返し単位を有する高分子化合物である場合には、当該複数の部分Aに含まれる原子の原子量の総和は、部分Aを有する正孔輸送性化合物の分子量の1/3より大きいことが、正孔輸送性化合物と遷移金属含有ナノ粒子の相溶性をより向上させる点から好ましく、更に2/5以上、特に3/5以上が好ましい。
【0084】
一方、遷移金属含有ナノ粒子中の保護剤の部分Bの原子の原子量の総和MBは、150以上が好ましく、また、保護剤の分子量の2/5以上がより好ましく、3/5以上が特に好ましい。
また、上記式(I)を満たすように、MAとMBの差が小さい材料を用いることが好ましい。MAとMBの差は小さいほど好ましく、|MA−MB|/MBの値は、1以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。
【0085】
上記式(II)において、上記SAとSBの差は、1以下であることが好ましく、0.5以下であることが更に好ましい。
ここで、溶解度パラメータ(以下、SP値と呼称する場合がある。)とは、物質同士の相溶性、非相溶性を示す指標であり、分子中の基の極性と関係する指標である。接触する2つの物質間でSP値の差が小さければ、2つの分子同士の極性の差も小さくなる。この場合、2つの物質間での凝集力が近くなるため、相溶性、溶解性が大きく、易溶性となり、界面の密着安定性、つまり接触面は安定に保たれる。一方、SP値の差が大きければ、2つの物質間での凝集力の差も大きくなる。この場合、相溶性、溶解性が小さく、難溶性乃至不溶性となり、2つの物質の分散性は不安定であり、2つの物質間での接触面積を小さくするように界面が変化する。
【0086】
SP値の測定方法や計算方法は幾つかあるが、本発明においては、Bicerranoの方法[Prediction of polymer properties, Marcel Dekker Inc., New York (1993)]により決定する。Bicerranoの方法では高分子の溶解度パラメータを、原子団寄与法により求めている。
この文献から求められない場合は、他の公知の文献、例えば、Fedorsの方法[Fedors, R. F., Polymer Eng. Sci., 14, 147 (1974)]あるいはAskadskiiの方法[A. A. Askadaskii et al., Vysokomol. Soyed., A19, 1004 (1977).]に示された方法を用いることができる。Fedorsの方法では高分子の溶解度パラメータを、原子団寄与法により求めているが、原子団寄与法とは分子をいくつかの原子団に分割し、各原子団に経験パラメータを割り振って分子全体の物性を決定する手法である。
【0087】
分子の溶解度パラメータδは以下の式で定義される。
δ≡(δd2+δp2+δh2)1/2
ここに、δdはLondon分散力項、δpは分子分極項、δhは水素結合項である。各項は、当該分子の構成原子団iの各項のモル引力乗数(Fdi,Fpi,Ehi)及びモル体積Viを用いて以下の式で計算される。
【0088】
δd2=ΣFdi/ΣVi
δp2=(ΣFpi2)1/2/ΣVi
δh2=(ΣEhi/ΣVi)1/2
【0089】
構成原子団iの各項のモル引力乗数(Fdi,Fpi,Ehi)及び分子容Viは表1に示す3次元溶解度パラメータ計算表に掲載の数値を用いる。この表に掲載されていない原子団については、各項のモル引力乗数(Fdi,Fpi,Ehi)はvan Krevelenによる値(下記文献A及びB)を使用し、モル体積ViはFedorsによる値(文献C)を使用する。
【0090】
【表1】
【0091】
文献A:K.E.Meusburger : “Pesticide Formulations : Innovations and Developments” Chapter 14 (Am.Chem.Soc.), 151-162(1988)
文献B:A.F.M.Barton : “Handbook of Solubility Parameters and Other Cohesion Parameters” (CRC Press Inc., Boca Raton,FL) (1983)
文献C:R.F.Fedors : Polymer Eng. Sci., 14,(2), 147−154 (1974)
【0092】
尚、混合薄膜の凝集安定性を評価するための実験的な評価方法として、薄膜を加熱してその表面モルフォロジー変化を観察する方法があるが、基板や空気界面とのSP値のマッチングの影響を受け、さらに定量化も困難である。従って、混合薄膜の安定性を評価する方法として上記計算による方法が望ましい。
【0093】
前述の式(I)、式(II)を考慮する場合、正孔輸送性化合物の部分Aは、前記遷移金属含有ナノ粒子の保護剤の部分Bと同一の骨格、又は同一の骨格内にスペーサー構造を含む類似骨格を有することが、前記式(II)で表わされるSAとSBの差が小さくなり、正孔輸送性化合物と前記遷移金属含有ナノ粒子の相溶性を向上させ、当該保護剤により保護された遷移金属含有ナノ粒子の分散安定性が向上したり、隣接層との密着性が向上し、長駆動寿命化に寄与する点から好ましい。
【0094】
尚、骨格とは部分A又は部分Bから置換基を除いた構造をいう。ここで、スペーサー構造を含むとは、骨格を伸長する原子が存在することを意味する。骨格を伸長する原子としては、炭素数1〜12の炭化水素構造が好ましいが、エーテル結合等、その他の原子が含まれていても良い。
【0095】
部分Aと部分Bが共通に有する骨格としては、具体例としては、トリフェニルアミン骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、ピレン骨格、アントラセン骨格、カルバゾール骨格、フェニルピリジン骨格、トリチオフェン骨格、フェニルオキサジアゾール骨格、フェニルトリアゾール骨格、ベンゾイミダゾール骨格、フェニルトリアジン骨格、ベンゾジアチアジン骨格、フェニルキノキサリン骨格、フェニレンビニレン骨格、フェニルシロール骨格、及びこれらの骨格が組み合わされてなる骨格等が挙げられる。
部分Aと部分Bは、骨格が同一又は類似していれば、骨格上の置換基の種類、数、位置が異なっていてもよい。骨格上に置換基としては、上記ナノ粒子における保護剤で述べたような置換基が挙げられる。
【0096】
なお、正孔輸送性化合物の部分A、及び前記遷移金属含有ナノ粒子の保護剤の部分Bは、それぞれ、1つの分子内に2種類以上存在してもよい。この場合、全体に占める共通部分の割合が大きくなり、すなわち、前記式(II)で表わされるSAとSBの差が小さくなり、正孔輸送性化合物と遷移金属含有ナノ粒子の相溶性が向上する。
【0097】
正孔輸送性化合物として、1種類、又は2種類以上の繰り返し単位を有する高分子化合物を用いる場合、通常、当該繰り返し単位の中から1種類又は2種類以上を選択して部分Aとし、前記遷移金属含有ナノ粒子の保護剤として、当該部分Aと同一の骨格、又は同一の骨格内にスペーサー構造を含む類似骨格を有する部分Bを有する保護剤を用いる。
【0098】
正孔輸送性化合物が上記化学式(2)で示される化合物であるとき、前記遷移金属含有ナノ粒子の保護剤としては、下記化学式(3)で示される化合物を好適に用いることができる。
【0099】
【化8】
(但し、Ar5〜Ar8は、相互に同一であっても異なっていてもよく、共役結合に関する炭素原子数が6個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の芳香族炭化水素基、または共役結合に関する炭素原子数が4個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の複素環基を示す。qは0〜10、rは0〜10であり、q+r=1〜20である。また、2つの繰り返し単位の配列は任意である。Yは連結基を示す。)
【0100】
Ar5〜Ar8において、芳香族炭化水素基における芳香族炭化水素としては、具体的には例えば、ベンゼン、フルオレン、ナフタレン、アントラセン、及びこれらの組み合わせ、並びにそれらの誘導体、更に、フェニレンビニレン誘導体、スチリル誘導体等が挙げられる。また、複素環基における複素環としては、具体的には例えば、チオフェン、ピリジン、ピロール、カルバゾール、及びこれらの組み合わせ、並びにそれらの誘導体等が挙げられる。Ar5〜Ar8においても、上記一般式(2)のAr1〜Ar4が置換基を有する場合と同様の置換基を有していても良い。
【0101】
一般式(3)において、Ar5、Ar6、及びAr7の組み合わせ及び/又はAr8は、一般式(2)におけるAr1、Ar2、及びAr3の組み合わせ及び/又はAr1、Ar2、Ar3及びAr4のいずれかと、少なくとも芳香族炭化水素基または複素環基の骨格が同一であることが好ましい。
【0102】
本発明の正孔注入輸送層において、前記正孔輸送性化合物が用いられる場合には、正孔輸送性化合物の含有量は、前記遷移金属含有ナノ粒子100重量部に対して、10〜10000重量部であることが、正孔注入輸送性を高くし、且つ、膜の安定性が高く長寿命を達成する点から好ましい。
正孔注入輸送層において、前記正孔輸送性化合物の含有量が少なすぎると、正孔輸送性化合物を混合した相乗効果が得られ難い。一方、前記正孔輸送性化合物の含有量が多すぎると、遷移金属含有ナノ粒子を用いる効果が得られ難くなる。
【0103】
本発明の正孔注入輸送層は、本発明の効果を損なわない限り、バインダー樹脂や硬化性樹脂や塗布性改良剤などの添加剤を含んでいても良い。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。また、熱または光等により硬化するバインダー樹脂を含有していてもよい。熱または光等光等により硬化する材料としては、上記正孔輸送性化合物において分子内に硬化性の官能基が導入されたもの、あるいは、硬化性樹脂等を使用することができる。具体的に、硬化性の官能基としては、アクリロイル基やメタクリロイル基などのアクリル系の官能基、またはビニレン基、エポキシ基、イソシアネート基等を挙げることができる。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂であっても光硬化性樹脂であってもよく、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、シランカップリング剤等を挙げることができる。
【0104】
上記正孔注入輸送層の膜厚は、目的や隣接する層により適宜決定することができるが、通常0.1〜1000nm、好ましくは1〜500nmである。
また、上記正孔注入輸送層の仕事関数は5.0〜6.0eV、更に5.0〜5.8eVであることが、正孔注入効率の点から好ましい。
【0105】
本発明の正孔注入輸送層は、溶液塗布法で形成することが可能である。本発明の正孔注入輸送層は、溶液塗布法により形成されることが、製造プロセスが容易な上、ショートが発生しにくいため歩留まりが高く、電荷移動錯体を形成して長寿命を達成する点から好ましい。この場合、本発明の正孔注入輸送層は、少なくとも遷移金属含有ナノ粒子が良好に分散する溶媒中で分散させた溶液(正孔注入輸送層形成用インク)を用いて、溶液塗布法により形成する。また、更に正孔輸送性化合物が含まれる正孔注入輸送層を形成する場合、遷移金属含有ナノ粒子と、正孔輸送性化合物とを、双方が良好に溶解乃至分散する溶媒中で混合した溶液を用いて、溶液塗布法により形成する。この場合、遷移金属含有ナノ粒子と正孔輸送性化合物の双方が良好に溶解乃至分散する溶媒中で混合すると、溶液中で遷移金属含有ナノ粒子と正孔輸送性化合物が相互作用し、電荷移動錯体を形成しやすくなるため、正孔輸送性及び膜の経時安定性に優れた正孔注入輸送層を形成できる。このように電荷移動錯体を形成した正孔注入輸送層は、正孔注入輸送層を形成する際に用いた溶媒に不溶になる傾向があり、当該正孔注入輸送層の上層に該当する有機層を形成する場合も、当該正孔注入輸送層を溶出させることなく溶液塗布法を用いる可能性が広がる。
溶液塗布法は、下記、デバイスの製造方法の項目において説明する。
【0106】
(2)基板
基板は、本発明のデバイスの支持体になるものであり、例えばフレキシブルな材質であっても、硬質な材質であってもよい。具体的に用いることができる材料としては、例えば、ガラス、石英、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエステル、ポリカーボネート等を挙げることができる。
これらのうち、合成樹脂製の基板を使用する場合には、ガスバリア性を有することが望ましい。基板の厚さは特に限定されないが、通常、0.5〜2.0mm程度である。
【0107】
(3)電極
本発明のデバイスは、基板上に対向する2つ以上の電極を有する。
本発明のデバイスにおいて、電極は、金属又は金属酸化物で形成されることが好ましく、公知の材料を適宜採用することができる。通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物などの金属酸化物により形成することができる。
【0108】
電極は、通常、基板上にスパッタリング法、真空蒸着法などの方法により形成されることが多いが、塗布法やディップ法等の湿式法により形成することもできる。電極の厚さは、各々の電極に要求される透明性等により異なる。透明性が必要な場合には、電極の可視光波長領域の光透過率が、通常、60%以上、好ましくは80%以上となることが望ましく、この場合の厚さは、通常10〜1000nm、好ましくは20〜500nm程度である。
本発明においては、電極上に、電荷注入材料との密着安定性を向上させるために、更に金属層を有していても良い。金属層は金属が含まれる層をいい、上述のような通常電極に用いられる金属や金属酸化物から形成される。
【0109】
(4)その他
本発明のデバイスは、必要に応じて、電子注入電極と有機層の間に、従来公知の電子注入層及び/又は電子輸送層を有していてもよい。
【0110】
2.有機EL素子
【0111】
本発明のデバイスの一実施形態として、少なくとも本発明の正孔注入輸送層及び発光層を含む有機層を含有する、有機EL素子が挙げられる。
以下、有機EL素子を構成する各層について、図2〜4を用いて順に説明する。
(基板)
基板7は、有機EL素子の支持体になるものであり、例えばフレキシブルな材質であっても、硬質な材質であってもよい。具体的には、例えば、上記デバイスの基板の説明において挙げたものを用いることができる。
発光層5で発光した光が基板7側を透過して取り出される場合においては、少なくともその基板7が透明な材質である必要がある。
【0112】
(陽極、陰極)
電極1および電極6は、発光層5で発光した光の取り出し方向により、どちらの電極に透明性が要求されるか否かが異なり、基板7側から光を取り出す場合には電極1を透明な材料で形成する必要があり、また電極6側から光を取り出す場合には電極6を透明な材料で形成する必要がある。
基板7の発光層側に設けられている電極1は、発光層に正孔を注入する陽極として作用し、基板7の発光層側に設けられている電極6は、発光層5に電子を注入する陰極として作用する。
本発明において、陽極及び陰極は、上記デバイスの電極の説明において列挙した金属又は金属酸化物で形成されることが好ましい。
【0113】
(正孔注入輸送層、正孔輸送層、及び正孔注入層)
正孔注入輸送層2、正孔輸送層4a、及び正孔注入層4bは、図2〜4に示すように、発光層5と電極1(陽極)の間に適宜形成される。図2のように、本発明に係る正孔注入輸送層2の上に更に正孔輸送層4aを積層し、その上に発光層を積層してもよいし、図3のように、正孔注入層4bの上に更に本発明に係る正孔注入輸送層2を積層し、その上に発光層を積層してもよいし、図4のように、電極1の上に、本発明に係る正孔注入輸送層2を積層しその上に発光層を積層してもよい。
【0114】
図2のように、本発明に係る正孔注入輸送層2の上に更に正孔輸送層4aを積層する場合に、正孔輸送層4aに用いられる正孔輸送材料は特に限定されない。本発明に係る正孔注入輸送層において説明した正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。中でも、隣接する本発明に係る正孔注入輸送層2に用いられている正孔輸送性化合物と同じ化合物を用いることが、正孔注入輸送層と正孔輸送層の界面の密着安定性を向上させ、長駆動寿命化に寄与する点から好ましい。
正孔輸送層4aは、正孔輸送材料を用いて、後述の発光層と同様方法で形成することができる。正孔輸送層4aの膜厚は、通常0.1〜1μm、好ましくは1〜500nmである。
【0115】
図3のように、正孔注入層4bの上に更に本発明に係る正孔注入輸送層2を積層する場合に、正孔注入層4bに用いられる正孔注入材料は特に限定されず、従来公知の化合物を用いることができる。例えば、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
正孔注入層4bは、正孔注入材料を用いて、後述の発光層と同様方法で形成することができる。正孔注入層4bの膜厚は、通常1nm〜1μm、好ましくは2nm〜500nm、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0116】
さらに、正孔注入特性を考慮すると、電極1側から有機層である発光層5に向かって各層の仕事関数(HOMO)の値が階段状に大きくなるような正孔注入材料及び正孔輸送材料を選択して、各界面での正孔注入のエネルギー障壁をできるだけ小さくし、電極1と発光層5の間の大きな正孔注入のエネルギー障壁を補完することが好ましい。
【0117】
具体的には例えば、電極1にITO(UVオゾン洗浄直後の仕事関数5.0eV)を用い、発光層5にAlq3(HOMO5.7eV)を用いた場合、正孔注入輸送層を構成する材料としてTFB(仕事関数5.4eV)と遷移金属含有ナノ粒子(仕事関数5.0〜5.7eV)の混合物というように選択して、電極1側から発光層5に向かって各層の仕事関数の値が順に大きくなるような層構成をとるように配置することが好ましい。なお、上記仕事関数又はHOMOの値は、光電子分光装置AC−1(理研計器製)を使用した光電子分光法の測定値より引用した。
このような層構成の場合、電極1(UVオゾン洗浄直後の仕事関数5.0eV)と発光層5(例えばHOMO5.7eV)の間の正孔注入の大きなエネルギー障壁を、HOMOの値が階段状になるように補完可能で、正孔注入効率に非常に優れた正孔注入輸送層が得られる。
【0118】
(発光層)
発光層5は、図2〜4に示すように、電極1が形成された基板7と電極6との間に、発光材料により形成される。
本発明の発光層に用いられる材料としては、通常、発光材料として用いられている材料であれば特に限定されず、蛍光材料およびりん光材料のいずれも用いることができる。具体的には、色素系発光材料、金属錯体系発光材料等の材料を挙げることができ、低分子化合物または高分子化合物のいずれも用いることができる。
【0119】
(色素系発光材料の具体例)
色素系発光材料としては、例えば、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、(フェニルアントラセン誘導体、)、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、シクロペンタジエン誘導体、シロール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、スチルベン誘導体、スピロ化合物、チオフェン環化合物、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリアゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、ピラゾリンダイマー、ピリジン環化合物、フルオレン誘導体、フェナントロリン類、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体等を挙げることができる。またこれらの2量体や3量体やオリゴマー、2種類以上の誘導体の化合物も用いることができる。
これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0120】
(金属錯体系発光材料の具体例)
金属錯体系発光材料としては、例えばアルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体等、あるいは中心金属にAl、Zn、Be等または、Tb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダール、キノリン構造等を有する金属錯体を挙げることができる。
これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0121】
(高分子系発光材料)
高分子系発光材料としては、分子内に上記低分子系材料を分子内に直鎖あるいは側鎖あるいは官能基として導入されたもの、重合体およびデンドリマー等を使用することができる。
例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレノン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、及びそれらの共重合体等を挙げることができる。
【0122】
(ドーパントの具体例)
上記発光層中には、発光効率の向上や発光波長を変化させる等の目的でドーピング材料を添加してもよい。高分子系材料の場合は、これらを分子構造の中に発光基として含んでいても良い。このようなドーピング材料としては、例えばペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクドリン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体を挙げることができる。またこれらにスピロ基を導入した化合物も用いることができる。
これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0123】
本発明においては、発光層の材料としては蛍光発光する低分子化合物または高分子化合物や、燐光発光する低分子化合物または高分子化合物のいずれをも用いることができる。本発明において、発光層を設ける下地層が本発明の上記正孔注入輸送層である場合、当該正孔注入輸送層は電荷移動錯体を形成して溶液塗布法に用いたキシレン等の非水系溶媒に不溶になる傾向があり、発光層の材料としては、キシレン等の非水系溶媒に溶解しやすく溶液塗布法により層を形成する高分子型材料を用いることが可能である。この場合、蛍光発光する高分子化合物または蛍光発光する低分子化合物を含む高分子化合物や、燐光発光する高分子化合物または燐光発光する低分子化合物を含む高分子化合物を好適に用いることができる。
【0124】
発光層は、発光材料を用いて、溶液塗布法または蒸着法または転写法により形成することができる。溶液塗布法は、後述のデバイスの製造方法の項目において説明するのと同様の方法を用いることができる。蒸着法は、例えば真空蒸着法の場合には、発光層の材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10‐4Pa程度にまで排気した後、ルツボを加熱して、発光層の材料を蒸発させ、ルツボと向き合って置かれた基板7、電極1、正孔注入輸送層2、及び正孔輸送層4aの積層体の上に発光層5を形成させる。転写法は、例えば、予めフィルム上に溶液塗布法又は蒸着法で形成した発光層を、電極上に設けた正孔注入輸送層2に貼り合わせ、加熱により発光層5を正孔注入輸送層2上に転写することにより形成される。また、フィルム、発光層5、正孔注入輸送層2の順に積層された積層体の正孔注入輸送層側を、電極上に転写してもよい。
発光層の膜厚は、通常、1〜500nm、好ましくは20〜1000nm程度である。本発明は、正孔注入輸送層を溶液塗布法で形成することが好適であるため、発光層も溶液塗布法で形成する場合はプロセスコストを下げることができるという利点がある。
【0125】
3.有機トランジスタ
本発明に係るデバイスの別の実施形態として、有機トランジスタが挙げられる。以下、有機トランジスタを構成する各層について、図5及び図6を用いて説明する。
図5に示されるような本発明の有機トランジスタは、電極1(ソース電極)と電極6(ドレイン電極)の表面に正孔注入輸送層2が形成されているため、それぞれの電極と有機半導体層との間の正孔注入輸送能力が高くなり、且つ本発明の正孔注入輸送層の膜安定性が高いため、長駆動寿命化に寄与する。
本発明の有機トランジスタは、図6に示されるような、本発明の正孔注入輸送層2が有機半導体層8として機能するものであっても良い。
また、本発明の有機トランジスタは、図5に示されるように電極1(ソース電極)と電極6(ドレイン電極)の表面に正孔注入輸送層2を形成し、更に有機半導体層8として電極表面に形成した正孔注入輸送層とは材料が異なる本発明の正孔注入輸送層2を形成してもよい。
【0126】
図5に示されるような有機トランジスタを形成する場合に、有機半導体層を形成する材料としては、ドナー性(p型)の、低分子あるいは高分子の有機半導体材料が使用できる。
上記有機半導体材料としては、ポルフィリン誘導体、アリールアミン誘導体、ポリアセン誘導体、ペリレン誘導体、ルブレン誘導体、コロネン誘導体、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体、ペリレンテトラカルボン酸二無水化物誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリチオフェンビニレン誘導体、ポリチオフェン−複素環芳香族共重合体とその誘導体、α−6−チオフェン、α−4−チオフェン、ナフタレンのオリゴアセン誘導体、α−5−チオフェンのオリゴチオフェン誘導体、ピロメリト酸二無水物誘導体、ピロメリト酸ジイミド誘導体を用いることができる。具体的には、ポルフィリン誘導体としては例えばフタロシアニンや銅フタロシアニンなどの金属フタロシアニンを挙げることができ、アリールアミン誘導体としては例えばm−TDATAを用いることができ、ポリアセン誘導体としては、例えばナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ペンタセンを挙げることができる。また、これらポルフィリン誘導体やトリフェニルアミン誘導体などにルイス酸や四フッ化テトラシアノキノジメタン(F4−TCNQ)、バナジウムやモリブデンなど無機の酸化物などを混合し、導電性を高くした層を用いることもできる。
【0127】
図5に示されるような、本発明の正孔注入輸送層を含む有機トランジスタを形成する場合であっても、前記有機半導体層8を構成する化合物としては、本発明の正孔注入輸送層に用いられる正孔輸送性化合物、中でも正孔輸送性高分子化合物を用いることが、本発明の正孔注入輸送層2と有機半導体層8の界面の密着安定性を向上させ、長駆動寿命化に寄与する点から好ましい。
【0128】
有機半導体層のキャリア移動度は10−6cm/Vs以上であることが、特に有機トランジスタに対しては10−3cm/Vs以上であることが、トランジスタ特性の点から好ましい。
また、有機半導体層は、上記有機EL素子の発光層と同様に、溶液塗布法またはドライプロセスにより形成することが可能である。
【0129】
基板、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極と、絶縁層については、特に限定されず、例えば以下のような材料を用いて形成することができる。
基板7は、本発明のデバイスの支持体になるものであり、例えばフレキシブルな材質であっても、硬質な材質であってもよい。具体的には、上記有機EL素子の基板と同様のもの用いることができる。
ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極としては、導電性材料であれば特に限定されないが、本発明に係る電荷輸送材料を用いて、金属イオンが配位している化合物が吸着してなる正孔注入輸送層2を形成する点からは、金属又は金属酸化物であることが好ましい。具体的には、上述の有機EL素子における電極と同様の金属又は金属酸化物を用いることができるが、特に、白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、ITOおよび炭素が好ましい。
【0130】
ゲート電極を絶縁する絶縁層には種々の絶縁材料を用いることができ、無機酸化物でも有機化合物でも用いることが出来るが、特に、比誘電率の高い無機酸化物が好ましい。無機酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコニウム酸チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウムなどが挙げられる。それらのうち好ましいのは、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタンである。窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの無機窒化物も好適に用いることができる。
【0131】
有機化合物としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、およびシアノエチルプルラン、ポリマー体、エラストマー体を含むホスファゼン化合物、等を用いることができる。
【0132】
なお、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、有機半導体等のその他の有機デバイス、正孔注入輸送層を有する量子ドット発光素子、酸化物系化合物太陽電池等についても、正孔注入輸送層を上記本発明に係る正孔注入輸送層とすれば、その他の構成は特に限定されず、適宜公知の構成と同じであって良い。
【0133】
4.デバイスの製造方法
本発明のデバイスの製造方法は、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスの製造方法であって、
遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子と、有機溶媒とを含有する正孔注入輸送層形成用インクを調製する工程と、
前記正孔注入輸送層形成用インクを用いて、前記電極上のいずれかの層上に正孔注入輸送層を形成する工程と、
前記遷移金属含有ナノ粒子の遷移金属及び/又は遷移金属化合物の少なくとも一部を遷移金属酸化物とする酸化物化工程、とを有することを特徴とする。
【0134】
本発明に係るデバイスの製造方法においては、遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層は、上述のように正孔注入輸送層形成用インクを用いて、溶液塗布法により形成される。溶液塗布法を用いることにより、正孔注入輸送層の形成の際に蒸着装置が不要で、マスク蒸着等を用いることなく、塗り分けも可能であり、生産性が高く、また、電極と正孔注入輸送層の界面、及び正孔注入輸送層と有機層界面の密着安定性が高いデバイスを形成できる。
【0135】
ここで溶液塗布法とは、少なくとも遷移金属含有ナノ粒子と、有機溶媒とを含有する正孔注入輸送層形成用インクを調製し、当該インクを下地となる電極又は層上に塗布し、乾燥して正孔注入輸送層を形成する方法である。正孔注入輸送層形成用インクは、必要に応じて、正孔輸送性化合物、及び、正孔のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤などの添加剤とを添加し、溶解乃至分散して調製しても良い。
【0136】
溶液塗布法として、例えば、浸漬法、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、デイップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法などの液体滴下法などが挙げられる。単分子膜を形成したい場合には、浸漬法、デイップコート法が好適に用いられる。
【0137】
インクに用いられる溶媒としては、遷移金属含有ナノ粒子と、必要に応じて正孔輸送性化合物などのその他成分とが良好に溶解乃至分散すれば特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、テトラリン、メシチレン、アニソール、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン、クロロホルム、安息香酸エチル、安息香酸ブチル等が挙げられる。
【0138】
本発明のデバイスの製造方法においては、遷移金属含有ナノ粒子の遷移金属及び/又は遷移金属化合物の少なくとも一部を遷移金属酸化物とする酸化物化工程を有することにより、溶剤溶解性のない遷移金属酸化物を含有する層を、蒸着法を用いることなく溶液塗布法を用いて形成することが可能である。また、遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層中の遷移金属含有ナノ粒子の遷移金属及び/又は遷移金属化合物の少なくとも一部を遷移金属酸化物とすることにより、隣接する有機層との密着性を保持したまま、適宜正孔注入輸送性を変化させることも可能である。また、酸化物化工程を有することにより、膜強度を向上させることも可能である。
【0139】
本発明に係るデバイスの製造方法において、前記酸化物化工程は、前記正孔注入輸送層形成用インクを調製後、正孔注入輸送層を形成する工程前に行ってもよいし、正孔注入輸送層を形成する工程後に行ってもよい。
【0140】
すなわち、一態様としては、遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子と、有機溶媒とを含有する正孔注入輸送層形成用インクを調製し、当該インクを用いて、電極上のいずれかの層上に、遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を形成する工程と、前記正孔注入輸送層中の遷移金属含有ナノ粒子における遷移金属及び/又は遷移金属化合物の少なくとも一部を遷移金属酸化物とする酸化物化工程を有する製造方法が挙げられる。このようにすると、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属と保護剤とを含むか、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を形成することができる。
【0141】
別の一態様としては、遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子と、有機溶媒とを含有する正孔注入輸送層形成用インクを調製する工程後、正孔注入輸送層を形成する工程前に、前記酸化物化工程が実施され、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子と有機溶媒とを含有する、酸化物化された正孔注入輸送層形成用インクを調製する工程を有する。当該酸化物化された正孔注入輸送層形成用インクにおける遷移金属含有ナノ粒子は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属と保護剤とを含むか、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物と保護剤とを含む。そして、当該酸化物化された正孔注入輸送層形成用インクを用いて、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属と保護剤とを含むか、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を形成する。当該層を形成後、さらに、酸化物化工程を行っても良い。
【0142】
酸化物化する手段としては、例えば、加熱工程、光照射工程、活性酸素を作用させる工程などが挙げられ、これらを適宜併用しても良い。酸化物化は、効率的に酸化を行うため、酸素存在下で実施されることが好ましい。
加熱工程を用いる場合には、加熱手段としては、ホットプレート上で加熱する方法やオーブン中で加熱する方法などが挙げられる。加熱温度としては、50〜250℃が好ましい。加熱温度により、遷移金属含有ナノ粒子の正孔輸送性化合物に対する相互作用や遷移金属含有ナノ粒子同士の相互作用に違いが生じるため、適宜調節することが好ましい。
【0143】
光照射工程を用いる場合には、光照射手段としては、紫外線を露光する方法等が挙げられる。光照射量により、遷移金属含有ナノ粒子の正孔輸送性化合物に対する相互作用や遷移金属含有ナノ粒子同士の相互作用に違いが生じるため、適宜調節することが好ましい。
【0144】
活性酸素を作用させる工程を用いる場合には、活性酸素を作用させる手段としては、紫外線によって活性酸素を発生させて作用させる方法や、酸化チタンなどの光触媒に紫外線を照射することによって活性酸素を発生させて作用させる方法が挙げられる。活性酸素量により、遷移金属含有ナノ粒子の正孔輸送性化合物に対する相互作用や遷移金属含有ナノ粒子同士の相互作用に違いが生じるため、適宜調節することが好ましい。
【0145】
デバイスの製造方法における、その他の工程については、従来公知の工程を適宜用いることができる。
【実施例】
【0146】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。尚、実施例中、部は特に特定しない限り重量部を表す。また、層又は膜の厚みは平均膜厚で表わされている。
【0147】
[合成例1]
次の手順で、n−ヘキサデシルアミンで保護されたモリブデン含有ナノ粒子を合成した。25ml三ッ口フラスコ中に、n−ヘキサデシルアミン 0.8g(関東化学株式会社製)、n−オクチルエーテル 12.8g(東京化成工業株式会社製)を量り取り、攪拌しながら減圧し、低揮発成分除去のために室温(24℃)にて1hr放置した。真空下から大気雰囲気へ変更し、モリブデンヘキサカルボニル 0.8g(関東化学株式会社製)を添加した。この混合液をアルゴンガス雰囲気とし、攪拌しながら280℃まで加熱し、その温度を1h維持した。その後、この混合液を室温(24℃)まで冷却し、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更した後、エタノールを20g滴下した。次いで、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した後、下記に示す手順で再沈殿による精製を行った。
すなわち、沈殿物をクロロホルム3gと混合して分散液とし、この分散液にエタノール6gを滴下することにより精製された沈殿物を得た。
このようにして得られた再沈殿液を遠心分離し、沈殿物を反応液から分離した後、乾燥することにより、黒色のモリブデン含有ナノ粒子の精製物を得た。
【0148】
[合成例2]
次の手順で、n−ヘキサデシルアミンで保護されたバナジウム含有ナノ粒子を合成した。50ml三ッ口フラスコ中に、バナジウムアセチルアセトナート 0.7g(Aldrich社製)、n−ヘキサデシルアミン 2.4g(関東化学株式会社製)、n−オクチルエーテル 25.0g(東京化成工業株式会社製)を量り取り、攪拌しながら減圧し、低揮発成分除去のために室温(24℃)にて2時間放置した。この混合液をアルゴンガス雰囲気とし、攪拌しながら280℃まで加熱し、その温度を1時間維持した。その後、この混合液を室温(24℃)まで冷却し、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更した後、エタノール/メタノール混合溶液(重量比8:3)を55g滴下した。次いで、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した後、下記に示す手順で再沈殿による精製を行った。
すなわち、沈殿物をクロロホルム 6.5gと混合して分散液とし、この分散液にエタノール 13gを滴下することにより精製された沈殿物を得た。
このようにして得られた再沈殿液を遠心分離し、沈殿物を反応液から分離した後、乾燥することにより、黒色のバナジウム含有ナノ粒子の精製物を得た。
【0149】
[合成例3]
次の手順で、n−ヘキサデシルアミンで保護されたタングステン含有ナノ粒子を合成した。50ml三ッ口フラスコ中に、n−ヘキサデシルアミン 0.8g(関東化学株式会社製)、n−オクチルエーテル 25.6g(東京化成工業株式会社製)を量り取り、攪拌しながら減圧し、低揮発成分除去のために室温(24℃)にて1時間放置した。真空下から大気雰囲気へ変更し、タングステンヘキサカルボニル 0.8g(Aldrich社製)を添加した。この混合液をアルゴンガス雰囲気とし、攪拌しながら280℃まで加熱し、その温度を1時間維持した。その後、この混合液を室温(24℃)まで冷却し、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更した後、エタノール 40gを滴下した。次いで、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した後、下記に示す手順で再沈殿による精製を行った。
すなわち、沈殿物をクロロホルム 13gと混合して分散液とし、この分散液にエタノール 13gを滴下することにより精製された沈殿物を得た。
このようにして得られた再沈殿液を遠心分離し、沈殿物を反応液から分離した後、乾燥することにより、黒色のタングステン含有ナノ粒子の精製物を得た。
【0150】
[合成例4]
25ml三ッ口フラスコ中に、合成例1と同様にして得られたn−ヘキサデシルアミンで保護されたモリブデン含有ナノ粒子 0.05gを量り取り、トルエン 5gを加えて分散させた。この分散液をアルゴンガス雰囲気とし、攪拌しながら室温(24℃)中でFO-TPA-OP(O)Cl2(下記化学式)の1重量%トルエン溶液 1gを滴下した。その後、この混合液を60℃まで加熱し、72時間攪拌した後、室温(24℃)まで冷却し、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更した。次いで、反応液にエタノール 10gを滴下し、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した後、下記に示す手順で再沈殿による精製を行った。
すなわち、沈殿物をクロロホルム 5gと混合して分散液とし、この分散液にエタノール 10gを滴下することにより精製された沈殿物を得た。
このようにして得られた再沈殿液を遠心分離し沈殿物を反応液から分離した後、乾燥することにより、FO-TPA-OP(O)Cl2で保護されたモリブデン含有ナノ粒子の精製物を得た。
【0151】
【化9】
(化学式中、それぞれのRは、オクチル基である。)
【0152】
[比較合成例1](MoO3スラリーの作製)
ペイントシェーカーに、MoO3粉末0.3gをトルエン溶媒30gと直径3mmのジルコニアビーズを混ぜて、物理的に粉砕しながら溶媒中に分散させて、MoO3のトルエン分散液を得た。つぎにその分散液を直径0.3mmのジルコニアビーズで24時間分散させて、上澄みの分散液を0.2μmのフィルターでろ過してMoO3スラリーを作製した。
【0153】
[粒子径の測定]
合成例1〜4で得られた遷移金属含有ナノ粒子の粒子径を動的光散乱法にて測定した。測定には動的光散乱測定装置(日機装株式会社製、ナノトラック粒度分布測定装置 UPA−EX150)を用いた。測定試料として、遷移金属含有ナノ粒子をクロロホルムに分散させた溶液(濃度:4.6mg/ml)を用いた。合成例1のモリブデン含有ナノ粒子についての個数平均粒径は6.2nmであった。合成例1の測定結果を図7に示す。また、合成例2のバナジウム含有ナノ粒子についての個数平均粒径は22.3nmであった。合成例3のタングステン含有ナノ粒子についての個数平均粒径は10.3nmであった。合成例4のFO−TPA−OP(O)Cl2で保護されたモリブデン含有ナノ粒子についての個数平均粒径は12.4nmであった。
また、比較合成例1のMoO3粒子についての個数平均粒径は25.0nmであった。
【0154】
[モリブデン含有ナノ粒子の価数の測定]
X線光電子分光法にてモリブデン含有ナノ粒子の価数を測定した。測定にはKratos社製ESCA-3400型を用いた。測定に用いたX線源としては、下記サンプル1についてはAlKα線を用い、下記サンプル2〜4についてはMgKα線を用いた。モノクロメーターは使用せず、加速電圧10kV、フィラメント電流20mAの条件で測定した。
【0155】
(サンプル1:モリブデン含有ナノ粒子の粉末)
測定試料は、アルミホイル上に合成例1のモリブデン(Mo)含有ナノ粒子粉末を置き、その上からカーボンテープを貼り付けた試料台を押し付けて作製した。このモリブデン含有ナノ粒子は合成から1日後に測定された。
Moの酸化数が+4であるMoO2の3d5/2に帰属されるスペクトル(ピーク位置229.5eV)と、Moの酸化数が+6であるMoO3の3d 5/2に帰属されるスペクトルが(ピーク位置232.5eV)に観測された。Moの酸化数が0であるMo金属に由来するピークもショルダーとして観測された。Moの酸化数が0のピークが弱く、酸化モリブデンのピークが支配的である理由は、通常XPSの場合には表面から深さ1nm程度しか測定できないため、Mo金属は中心部のみに存在し、酸化された表面を主に観察しているものと推定される。つまり、ナノ粒子はMo金属とMoO2とMoO3が混在しているものと考えられる。
サンプル1について、合成1日経過後、合成後38日経過後、あるいは64日経過後にXPS測定を行った結果を図9に示す。徐々に酸化数が0のMoのショルダーが消失し、酸化数が+4のMoと酸化数が+6のMoのみに変質している。このナノ粒子は球の外部から酸化され、外部が酸化数が+6のMoで内部が酸化数が+4のMoのシェル構造をとっているものと推察される。
【0156】
(サンプル2:Mo含有ナノ粒子膜(10nm))
測定試料は、合成例1のMo含有ナノ粒子を大気中でシクロヘキサノンに0.5wt%溶解させてインクを作製した。当該インクを、大気中でITOガラス基板の上にスピンナーで塗布して、Mo含有ナノ粒子薄膜を形成した。薄膜は大気中にて200℃で30分乾燥した。MoO3の3d 5/2に帰属されるスペクトルが(ピーク位置232.5eV)に観測された。さらに下記サンプル3とスペクトルを比較すると、Moの酸化数が+6であるMoO3だけでなく、231.2eV近傍に酸化数が+5のMoと推定されるピークがショルダーとして観察された。
【0157】
(サンプル3:MoO3膜(20nm))
測定試料は、青白色のMoO3粉末(フルウチ化学製)を真空中(圧力:1×10−4Pa)にて抵抗加熱によりITOガラス基板上に蒸着して形成した。
その結果、Moの酸化数が+6であるMoO3の3d 5/2に帰属されるスペクトルのみが観察された。
【0158】
(サンプル4:サンプル2のArスパッタ処理)
サンプル2で得られたMo含有ナノ粒子薄膜について、Arでスパッタ処理を行い、
表面から約10nm程度を除去したサンプル4を作製した。サンプル4のXPSスペクトルを図10に示す。サンプル4ではMoの酸化数が+4であるMoO2に帰属するピークが観測され、酸化数が0のピークは観測されなかった。この結果は、ナノ粒子の内部にあった酸化数が+4のMoがスパッタによって表出したことを示している。以下のサンプル5との比較から、ナノ粒子の内部には酸化数が+4のMoが存在することを明らかにされた。下地のITOが見えるまでスパッタを繰り返したが、酸化数が0のピークは観測されなかった。
【0159】
(サンプル5:サンプル3のArスパッタ処理)
Arスパッタにより酸素が選択スパッタされて、還元される可能性を考慮して、サンプル4のリファレンスとして、サンプル3のArスパッタ処理についても同様にXPS測定を行った。
サンプル3で得られたMoO3膜について、Arでスパッタ処理を行い、表面から
約10nm程度を除去したサンプル5を作製した。サンプル5のXPSスペクトルを図11に示す。サンプル5については、MoO3の酸素が優勢的にスパッタされて酸化数が+5のMoは出現するが、酸化数が+4のMoは観測されなかった。下地のITOが見えるまでスパッタを繰り返したが、酸化数が+4のピークは観測されなかった。
【0160】
[表面粗さ測定]
表面形状測定には、プローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製、Nanopics1000)を用い、100μm×100μmの面積をタッピングモードで測定した。添付ソフトウェアの中心線平均粗さRaを用いて比較した。この中心線平均粗さRaは、表面粗さ値はJIS B0601で定義されている中心線平均粗さRaを、測定面に対して適用できるよう、3次元に拡張したパラメータである。
【0161】
(1)Mo含有ナノ粒子膜
合成例1で得られたMo含有ナノ粒子を、トルエン中に0.4重量%の濃度で溶解させ、洗浄されたITOガラス基板の上にスピンコート法により塗布して、Mo含有ナノ粒子を含有する薄膜を形成した。溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて大気中200℃で30分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層の乾燥後の厚みは10nmであった。なおMo含有ナノ粒子は合成して5日以上大気中で放置したものはトルエンに溶解しないが、合成してすぐの材料はトルエン中に安定して分散する。
このMoナノ粒子膜のRaを測定したところ、0.42nmであった。
【0162】
(2)Mo含有ナノ粒子とTFBの混合膜
合成例1で得られたMo含有ナノ粒子とTFB(ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)])を、それぞれトルエン中に0.2重量%の濃度で溶解させ、洗浄されたITOガラス基板の上にスピンコート法により塗布して、Mo含有ナノ粒子とTFBの混合膜を形成した。溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて大気中200℃で30分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層の乾燥後の厚みは10nmであった。
このMoナノ粒子膜のRaを測定したところ、1.08nmであった。上記(1)のMo含有ナノ粒子膜より表面が粗い原因として、Mo含有ナノ粒子の保護剤とTFBの相溶性が悪いためと考えられる(SA-SB=2.3)。SA-SBは表2に記載されているように求められた。
【0163】
(3)TPA−TFAつきMo含有ナノ粒子とTFBの混合膜
合成例4で得られたTPA−FOつきMo含有ナノ粒子を、トルエン中に0.4重量%の濃度で溶解させ、洗浄されたITOガラス基板の上にスピンコート法により塗布して、モリブデン含有ナノ粒子を含有する薄膜を形成した。溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて大気中200℃で30分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層の乾燥後の厚みは10nmであった。
この混合膜のRaを測定したところ、0.35nmであった。上記(1)のMo含有ナノ粒子膜より表面が平滑な原因として、Mo含有ナノ粒子の保護剤とTFBの相溶性が良いためと考えられる(SA-SB=0.3)。SA-SBは表2に記載されているように求められた。
【0164】
【表2】
【0165】
[実施例1]
ガラス基板の上に透明陽極、正孔注入輸送層としてMo含有ナノ粒子を含有する層と正孔輸送性化合物を含有する層との積層体、正孔輸送層、発光層、電子注入層、陰極の順番に成膜して積層し、最後に封止して有機EL素子を作製した。透明陽極と正孔注入輸送層以外は、水分濃度0.1ppm以下、酸素濃度0.1ppm以下の窒素置換グローブボックス内で作業を行った。
【0166】
まず、透明陽極として酸化インジウム錫(ITO)の薄膜(厚み:150nm)を用いた。ITO付ガラス基板(三容真空社製)をストリップ状にパターン形成した。パターン形成されたITO基板を、中性洗剤、超純水の順番に超音波洗浄し、UVオゾン処理を施した。UVオゾン処理後のITOのHOMOは5.0eVであった。
【0167】
次に、上記の合成例1で得られたMo含有ナノ粒子を、安息香酸エチル中に0.4重量%の濃度で溶解させ、正孔注入輸送層(1)形成用インクを調製した。
続いて、上記正孔注入輸送層(1)形成用インクを、洗浄された陽極の上にスピンコート法により塗布して、遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を形成した。正孔注入輸送層(1)形成用インクの塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて大気中200℃で30分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層(1)の乾燥後の厚みは10nmであった。
【0168】
次に、作製した正孔注入輸送層(1)の上に、正孔注入輸送層(2)として共役系の高分子材料であるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)薄膜(厚み:10nm)を形成した。キシレンにTFBを0.4重量%の濃度で溶解させた溶液を、スピンコート法により塗布して成膜した。TFB溶液の塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて200℃で30分乾燥させた。
次に、成膜した正孔注入輸送層(2)の上に、正孔輸送層としてビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン)(α−NPD)薄膜(厚み:100nm)、さらに当該正孔輸送層の上に発光層としてトリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)薄膜(厚み:60nm)を形成した。正孔輸送層および発光層は真空中(圧力:1×10−4Pa)で、抵抗加熱蒸着法により成膜した。
【0169】
次に、作製した発光層の上に、電子注入層としてフッ化リチウム(LiF)(厚み:0.5nm)、陰極としてAl(厚み:100nm)を順次成膜した。真空中(圧力:1×10−4Pa)で、抵抗加熱蒸着法により成膜した。
最後に陰極形成後、グローブボックス内にて無アルカリガラスとUV硬化型エポキシ接着剤を用いて封止し、実施例1の有機EL素子を作製した。
【0170】
[実施例2]
実施例1における正孔注入輸送層を、TFBと合成例1のMo含有ナノ粒子を重量比2:1で混合した層(1層)のみとし、正孔注入輸送層(2)を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の有機EL素子を作製した。
正孔注入輸送層は、TFBとMo含有ナノ粒子を重量比2:1で安息香酸エチル中に
0.4重量%の濃度で溶解させた正孔注入輸送層形成用塗布溶液を調製し、この正孔注入輸送層形成用塗布液を、洗浄された陽極の上にスピンコート法により塗布することにより形成した。正孔注入輸送層形成用塗布液の塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて200℃で30分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層の厚みは10nmであった。
【0171】
[実施例3]
実施例2において、正孔注入輸送層の乾燥を200℃で30分の代わりに、100℃で30分とした以外は、実施例2と同様にして有機EL素子を作製した。
【0172】
[実施例4]
実施例1において、正孔注入輸送層(2)としてTFBの代わりに、TFBと遷移金属含有ナノ粒子を重量比2:1で混合した層を用いた以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
正孔注入輸送層(2)は、TFBと合成例1の遷移金属含有ナノ粒子を重量比2:1で安息香酸エチル中に0.4重量%の濃度で溶解させた正孔注入輸送層(2)形成用塗布溶液を調製し、この正孔注入輸送層(2)形成用塗布液を、成膜された正孔注入輸送層(1)の上にスピンコート法により塗布することにより形成した。正孔注入輸送層(2)形成用塗布液の塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて200℃で30分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層(2)の厚みは10nmであった。
【0173】
[比較例1]
実施例1において、正孔注入輸送層としてTFB薄膜(厚み:10nm)のみを形成した以外は、実施例1と同様にして比較例1の有機EL素子を作製した。
【0174】
[比較例2]
比較例1において、正孔注入輸送層としてTFB薄膜を形成する代わりに、酸化モリブデン(MoO3)薄膜(厚み:1nm)を形成した以外は、比較例1と同様にして比較例2の有機EL素子を作製した。
MoO3薄膜は、真空中(圧力:1×10−4Pa)で、抵抗加熱蒸着法により成膜した。
【0175】
上記実施例及び比較例において作製した有機EL素子は、いずれもAlq3由来の緑色に発光した。これらについて、10mA/cm2での駆動時の印加電圧、及び寿命特性の評価を下記方法により行った。結果を表3に示す。
有機EL素子の寿命特性は、定電流駆動で輝度が経時的に徐々に低下する様子を観察して評価した。ここでは初期輝度5000cd/m2に対して保持率が80%の輝度に劣化するまでの時間(hr.)を寿命(LT80)とした。
【0176】
【表3】
【0177】
<結果のまとめ>
比較例1と実施例1を比較すると、比較例1のTFBのみの場合より、遷移金属含有ナノ粒子とTFBを積層した方が駆動電圧は下がり、寿命特性LT80も長くなった。これは、遷移金属含有ナノ粒子とTFBが層界面において相互作用し、TFBへの電荷注入特性およびTFBの電荷輸送の安定性が向上したことと、さらに、遷移金属含有ナノ粒子を含有することにより、隣接する電極(ITO)および正孔輸送層(α−NPD)との親和性が高まり、これにより層間の界面の密着安定性が向上したからであると考えられる。
さらに、比較例1と実施例2および3を比較すると、TFBに遷移金属含有ナノ粒子を混合した方が、駆動電圧が低下し、寿命特性LT80も長くなった。これは、遷移金属含有ナノ粒子とTFBを混合することにより、相互作用がしやすくなり、電荷注入特性及び電荷輸送の安定性がさらに向上したからと考えられる。実施例2と実施例3で乾燥温度によって特性に差が出ており、加熱温度により遷移金属含有ナノ粒子の正孔輸送性化合物に対する相互作用や遷移金属含有ナノ粒子同士の相互作用に違いがあることが考えられる。すなわち、200℃乾燥で寿命特性LT80が長いのは、遷移金属含有ナノ粒子のTFBとの相互作用や遷移金属含有ナノ粒子同士の相互作用が強く、100℃乾燥では加熱による相互作用が200℃に比較して弱いと予想される。また、駆動電圧も5.6Vから5.3Vに低下しており、基材であるITOとの相互作用にも上記と同様な違いがあることが推定された。
実施例4は、遷移金属含有ナノ粒子の層と、TFBと遷移金属含有ナノ粒子の混合層との積層(実施例1と実施例2の組み合わせ)であるが、電極(ITO)と混合層の間に遷移金属含有ナノ粒子の層が挿入されることにより、駆動電圧がさらに低下した。電極(ITO)と混合層の界面において、遷移金属含有ナノ粒子が金属と配位子を含有することによってITOおよびTFBとの親和性が高まり、これにより界面の密着安定性が向上したからであると考えられる。
実施例1〜4のいずれにおいても、比較例2のMoO3を用いたときと比較して寿命特性LT80が長かった。これは無機物であるMoO3を用いたときに比べて、無機物と有機物を含有する遷移金属含有ナノ粒子を用いることにより、隣接する電極(ITO)および正孔輸送層a(TFB)との間の界面密着性が高くなったことによると考えられる。
【0178】
[実施例5]
有機EL素子は、透明陽極付ガラス基板の上に、正孔注入輸送層として、Mo含有ナノ粒子を含有する層(正孔注入層)と、正孔輸送性化合物を含有する層(正孔輸送層)との積層体、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、陰極の順番に成膜して積層し、最後に封止して作製した。
まず、透明陽極として酸化インジウム錫(ITO)の薄膜(厚み:150nm)を用いた。ITO付ガラス基板(三容真空社製)をストリップ状にパターン形成した。パターン形成されたITO基板を、中性洗剤、超純水の順番に超音波洗浄し、UVオゾン処理を施した。
【0179】
次に、上記の合成例1で得られたMo含有ナノ粒子を、シクロヘキサノン中に0.4重量%の濃度で溶解させ、正孔注入輸送層(1)形成用インクを調製した。続いて、上記正孔注入輸送層(1)形成用インクを、洗浄された陽極の上にスピンコート法により塗布して、Mo含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を形成した。正孔注入輸送層(1)形成用インクの塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて200℃で30分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層(1)の厚みは10nmであった。以上の正孔注入輸送層(1)の塗布と乾燥工程はすべて大気中で行った。
【0180】
次に、作製した正孔注入輸送層(1)の上に、正孔注入輸送層(2)として共役系の高分子材料であるTFB薄膜(厚み:30nm)を形成した。キシレンにTFBを0.7重量%の濃度で溶解させた溶液を、スピンコート法により塗布して成膜した。TFB溶液の塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて200℃で30分乾燥させた。
次に、上記正孔注入輸送層(2)の上に、発光層としてトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)3)を発光性ドーパントとして含有し、4,4’−ビス(2、2−カルバゾル−9−イル)ビフェニル(CBP)をホストとして含有した混合薄膜を蒸着形成した。混合薄膜は、真空中(圧力:1×10−4Pa)で抵抗加熱法によりホストとドーパントの体積比が20:1、合計膜厚が40nmになるように共蒸着で形成した。
【0181】
次に、上記発光層の上に、正孔ブロック層としてビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq)薄膜を蒸着形成した。BAlq薄膜は、真空中(圧力:1×10−4Pa)で抵抗加熱法により膜厚が15nmになるように形成した。
次に、上記正孔ブロック層の上に、電子輸送層としてトリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)薄膜を蒸着形成した。Alq3薄膜は、真空中(圧力:1×10−4Pa)で抵抗加熱法により膜厚が15nmになるように形成した。
次に、作製した発光層の上に、電子注入層としてLiF(厚み:0.5nm)、陰極としてAl(厚み:100nm)を順次成膜した。真空中(圧力:1×10−4Pa)で、抵抗加熱蒸着法により成膜した。
最後に陰極形成後、グローブボックス内にて無アルカリガラスとUV硬化型エポキシ接着剤を用いて封止し、実施例5の有機EL素子を作製した。作製した素子はIr(ppy)3の発光を示す緑に発光した。
【0182】
[実施例6]
実施例5において、正孔注入輸送層(1)に用いる遷移金属ナノ粒子として、Mo含有ナノ粒子の代わりに合成例3で得られたタングステン含有ナノ粒子を用いた以外は、実施例5と同様にして、実施例6の有機EL素子を作製した。
【0183】
[実施例7]
実施例5において、正孔注入輸送層(1)に用いる遷移金属ナノ粒子として、Mo含有ナノ粒子の代わりに合成例2で得られたバナジウム含有ナノ粒子を用いた以外は、実施例5と同様にして、実施例7の有機EL素子を作製した。
【0184】
[実施例8]
実施例5において、正孔注入輸送層(1)に用いる遷移金属ナノ粒子として、合成例1で得られたMo含有ナノ粒子と合成例3で得られたタングステン含有ナノ粒子を混合(重量比で1:1)して用いた以外は、実施例5と同様にして、実施例8の有機EL素子を作製した。
【0185】
[実施例9]
実施例5において、正孔注入輸送層(1)形成用インクの塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて200℃で30分乾燥させた後、更に、UVオゾンにより強制酸化させた以外は、実施例5と同様にして、実施例9の有機EL素子を作製した。
【0186】
[実施例10]
実施例5における正孔注入輸送層(1)を、TFBと合成例1のMo含有ナノ粒子を重量比2:1で混合した層とした以外は、実施例5と同様にして、実施例10の有機EL素子を作製した。
正孔注入輸送層(1)は、TFBとMo含有ナノ粒子を重量比2:1でシクロヘキサノン中に0.4重量%の濃度で溶解させた正孔注入輸送層(1)形成用インクを調製し、この正孔注入輸送層(1)形成用インクを、洗浄された陽極の上にスピンコート法により塗布することにより形成した。正孔注入輸送層(1)形成用インクの塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて200℃で30分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層(1)の厚みは10nmであった。
【0187】
[実施例11]
実施例10において、正孔注入輸送層(1)に用いられる遷移金属含有ナノ粒子として、合成例1で得られたMo含有ナノ粒子の代わりに、合成例4で得られたMo含有ナノ粒子を用いた以外は、実施例10と同様にして、実施例11の有機EL素子を作製した。
【0188】
[比較例3]
実施例5において、正孔注入輸送層としてTFB薄膜(厚み:10nm)のみを形成した以外は、実施例5と同様にして比較例3の有機EL素子を作製した。
【0189】
上記実施例5〜11及び比較例3において作製した有機EL素子は、いずれも緑色に発光した。これらについて、10mA/cm2での駆動時の印加電圧、電流効率、及び寿命特性の評価を下記方法により行った。結果を表4に示す。
電流効率は、電流−電圧−輝度(I−V−L)測定により算出した。I−V−L測定は、陰極を接地して陽極に正の直流電圧を100mV刻みで走査(1sec./div.)して印加し、各電圧における電流と輝度を記録して行った。輝度はトプコン(株)製輝度計BM−8を用いて測定した。得られた結果を基に、電流効率(cd/A)は発光面積と電流と輝度から計算して算出した。
有機EL素子の寿命特性は、定電流駆動で輝度が経時的に徐々に低下する様子を観察して評価した。ここでは初期輝度20,000cd/m2に対して保持率が50%の輝度に劣化するまでの時間(hr.)を寿命(LT50)とした。
【0190】
【表4】
【0191】
<結果のまとめ>
実施例5,6,7と比較例3を比較すると、本発明の遷移金属ナノ粒子の層が挿入されることにより、低電圧化し、長寿命化することがわかる。この結果は、本発明の遷移金属含有ナノ粒子を含有することにより、隣接する電極(ITO)および正孔輸送層a(TFB)との親和性が高まり、これにより層間の界面の密着安定性が向上したからであると考えられる。
実施例8については、MoとWを混合しても特性が良いことを示している。
実施例5と実施例9を比較すると、強制酸化された素子の方が、若干低電圧化し長寿命化している。酸化処理により注入性をコントロールできることを示している。
実施例10と実施例11を比較すると、TFBと親和性の良い分散剤を使用した実施例11の方が低電圧化し、長寿命化した。この結果は、実施例11については分散剤自体が正孔輸送性を持ち、かつバインダーとの相溶性が高く、円滑に正孔輸送され、膜の安定性が高くなったことを示している。
【0192】
[実施例12]
実施例5において、発光層として1−tert−ブチル―ペリレン(TBP)を発光性ドーパントとして含有し、2−メチル−9,10ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)をホストとして含有した混合薄膜(40nm)を塗布形成した以外は実施例5と同様にして、実施例12の有機EL素子を作製した。トルエンに固形分としてMADNとTBPの重量比が20:1になるように、1.0重量%の固形分濃度で溶解させた溶液を、スピンコート法により塗布して成膜した。溶液の塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて100℃で10分乾燥させた。作製した素子は、TBPの発光を示す青に発光した。
【0193】
[比較例4]
実施例12において、正孔注入輸送層(1)を比較合成例1で作製したスラリーを塗布形成した以外は実施例12と同様にして、比較例4の有機EL素子を作製した。比較合成例1のスラリーの固形分は不明であるが、スピンコート法により塗布して成膜し、スラリーを塗布した後に膜厚を測定したところ約10nm程度であった。溶液の塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて100℃で10分乾燥させたが少し白濁した。作製した素子は、TBPの発光を示す青に発光したが、ショートが多かった。
【0194】
【表5】
【0195】
<結果のまとめ>
実施例12と比較例4を比較すると、実施例12の素子の方が低電圧で駆動し長寿命であった。この結果は、物理的に粉砕して作製したMoO3スラリーと比較して、本願のMoナノ粒子は粒子の大きさの均一性が高く、さらにモリブデンが酸化数+4、+5、+6の複合体のシェル構造になっていることが、何らかの低電圧化や長寿命化に寄与しているものと考えられる。また比較例4については、粒度分布測定では25nm程度と細かく分散している様子が確認できたが、薄膜が白濁したことから膜形成の際に凝集しやすいかあるいはインキそれ自体の分散安定性が低いものと推察される。
【0196】
[実施例13]
ガラス基板の上に陽極、正孔注入輸送層として遷移金属含有ナノ粒子を含有する層、有機半導体層、陰極の順番に成膜して積層し、最後に封止して有機ダイオード素子を作製した。有機半導体層は、水分濃度0.1ppm以下、酸素濃度0.1ppm以下の窒素置換グローブボックス内で作製した。
【0197】
まず、ガラス基板(三容真空社製)を、水、アセトン、IPA(イソプロピルアルコール)の順番に超音波洗浄した。続いて、陽極としてクロム(Cr)(厚み:5nm)、Au(厚み:45nm)を順次成膜した。真空中(圧力:5×10−4Pa)で、抵抗加熱蒸着法により成膜した。
【0198】
金電極作製後、UVオゾン処理後を行い、洗浄された陽極の上にスピンコート法により、遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層(10nm)を形成した。塗布液には、上記の合成例1で得られた遷移金属含有ナノ粒子を、安息香酸エチル中に0.4重量%の濃度で分散させた溶液を用いた。薄膜形成後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて大気中200℃で30分乾燥させた。
【0199】
次に、作製した正孔注入輸送層の上に、有機半導体層として共役系の高分子材料であるポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)薄膜(厚み:100nm)を形成した。
【0200】
次に、作製した有機半導体層の上に、陰極としてAl(厚み:100nm)を成膜した。真空中(圧力:5×10−4Pa)で、抵抗加熱蒸着法により成膜した。
最後に陰極形成後、グローブボックス内にて無アルカリガラスとUV硬化型エポキシ接着剤を用いて封止し、実施例13の有機ダイオード素子を作製した。
【0201】
[比較例5]
実施例13において、正孔注入輸送層を用いなかった以外は、実施例13と同様にして比較例5の有機ダイオード素子を作製した。
【0202】
上記実施例及び比較例において作製した有機ダイオードについて、電流−電圧特性、交流−直流変換特性、及び寿命特性の評価を下記方法により行った。結果を表6に示す。
有機ダイオード素子の交流−直流変換特性は正弦波(振幅5V、周波数13.56 MHz)を図8に示した回路1に印加したときの、抵抗(100kΩ)両端の電位差を電圧計で測定することで行った。有機ダイオード素子の寿命特性は、直流定電圧(5V)駆動で電流が経時的に徐々に低下する様子を観察して評価した。なお、実施例13と比較例5では、初期電流値に対して保持率が50%に劣化するまでの時間(hr.)を寿命とした。
【0203】
【表6】
【0204】
<結果のまとめ>
比較例5と実施例13を比較すると、比較例5に比べ、遷移金属含有ナノ粒子を用いた方が順バイアス時の電流が増加し、変換される直流電圧も増加している。また、寿命特性も長くなった。これは、遷移金属含有ナノ粒子とP3HTが層界面において相互作用し、P3HTへの電荷注入特性およびP3HTの電荷輸送の安定性が向上したことと、さらに、遷移金属含有ナノ粒子が隣接する電極(Au)および有機半導体層(P3HT)との親和性が高まり、これにより層間の界面の密着安定性が向上したからであると考えられる。
【符号の説明】
【0205】
1 電極
2 正孔注入輸送層
3 有機層
4a 正孔輸送層
4b 正孔注入層
5 発光層
6 電極
7 基板
8 有機半導体層
9 電極
10 絶縁層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスであって、
前記正孔注入輸送層が、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属と保護剤とを含むか、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有することを特徴とする、デバイス。
【請求項2】
前記遷移金属含有ナノ粒子に含まれる、遷移金属、及び、遷移金属化合物中の遷移金属が、モリブデン、タングステン、バナジウム、及びレニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属であることを特徴とする、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記正孔注入輸送層は、含まれる遷移金属がそれぞれ異なる2種類以上の遷移金属含有ナノ粒子を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記遷移金属含有ナノ粒子の平均粒径が15nm以下であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のデバイス。
【請求項5】
前記正孔注入輸送層は、前記遷移金属含有ナノ粒子、及び正孔輸送性化合物を少なくとも含有することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載のデバイス。
【請求項6】
前記正孔注入輸送層は、前記遷移金属含有ナノ粒子を含有する層と、正孔輸送性化合物を含有する層とが少なくとも積層された層からなることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載のデバイス。
【請求項7】
前記正孔注入輸送層は、前記遷移金属含有ナノ粒子を含有する層と、前記遷移金属含有ナノ粒子及び正孔輸送性化合物を少なくとも含有する層とが少なくとも積層された層からなることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載のデバイス。
【請求項8】
前記遷移金属含有ナノ粒子の前記保護剤が、前記遷移金属及び/又は遷移金属化合物と連結する作用を生ずる連結基と、芳香族炭化水素及び/又は複素環とを含むことを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載のデバイス。
【請求項9】
前記遷移金属含有ナノ粒子の前記保護剤が、電荷輸送性基を含むことを特徴とする、請求項1乃至8のいずれかに記載のデバイス。
【請求項10】
前記正孔輸送性化合物が、原子量の総和MAが100以上である部分Aを有する化合物であり、
前記遷移金属含有ナノ粒子中の前記保護剤が、連結基の他に、原子量の総和MBが100以上であり、当該原子量の総和MBと前記原子量の総和MAが下記式(I)の関係を満たし、当該原子量の総和MBが保護剤の分子量の1/3より大きい部分Bを有し、
前記部分Aの溶解度パラメータSAと、前記部分Bの溶解度パラメータSBが、下記式(II)の関係を満たすことを特徴とする、請求項5乃至9のいずれかに記載のデバイス。
|MA−MB|/MB≦2 式(I)
|SA−SB|≦2 式(II)
【請求項11】
前記部分Bは、前記部分Aと同一の骨格、又は同一の骨格内にスペーサー構造を含む類似骨格を有することを特徴とする、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記連結基が、下記一般式(1a)〜(1l)で示される官能基より選択される1種以上であることを特徴とする、請求項8乃至11のいずれかに記載のデバイス。
【化1】
(式中、Z1、Z2及びZ3は、各々独立にハロゲン原子、又はアルコキシ基を表す。)
【請求項13】
前記正孔輸送性化合物が、正孔輸送性高分子化合物であることを特徴とする、請求項5乃至12のいずれかに記載のデバイス。
【請求項14】
前記デバイスが、少なくとも発光層を含む有機層を含有する有機EL素子である、請求項1乃至13のいずれかに記載のデバイス。
【請求項15】
基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスの製造方法であって、
遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子と、有機溶媒とを含有する正孔注入輸送層形成用インクを調製する工程と、
前記正孔注入輸送層形成用インクを用いて、前記電極上のいずれかの層上に正孔注入輸送層を形成する工程と、
前記遷移金属含有ナノ粒子の遷移金属及び/又は遷移金属化合物の少なくとも一部を遷移金属酸化物とする酸化物化工程、とを有することを特徴とする、デバイスの製造方法。
【請求項16】
前記電極上のいずれかの層上に、遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を形成する工程と、前記正孔注入輸送層における遷移金属含有ナノ粒子中の遷移金属及び/又は遷移金属化合物の少なくとも一部を遷移金属酸化物とする酸化物化工程を有することを特徴とする、請求項15に記載のデバイスの製造方法。
【請求項17】
前記正孔注入輸送層形成用インクを調製する工程後、正孔注入輸送層を形成する工程前に、前記酸化物化工程が実施され、酸化物化された正孔注入輸送層形成用インクを用いて、前記正孔注入輸送層を形成する工程を有することを特徴とする、請求項15に記載のデバイスの製造方法。
【請求項18】
前記酸化物化工程が、酸素存在下で実施されることを特徴とする、請求項15乃至17のいずれかに記載のデバイスの製造方法。
【請求項19】
前記酸化物化工程が、加熱工程を含むことを特徴とする、請求項15乃至18のいずれかに記載のデバイスの製造方法。
【請求項20】
前記酸化物化工程が、光照射工程を含むことを特徴とする、請求項15乃至19のいずれかに記載のデバイスの製造方法。
【請求項21】
前記酸化物化工程が、活性酸素を作用させる工程を含むことを特徴とする、請求項15乃至20のいずれかに記載のデバイスの製造方法。
【請求項22】
遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子と、有機溶媒とを含有することを特徴とする、正孔注入輸送層形成用インク。
【請求項23】
前記遷移金属含有ナノ粒子が少なくとも遷移金属酸化物を含むことを特徴とする、請求項22に記載の正孔注入輸送層形成用インク。
【請求項1】
基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスであって、
前記正孔注入輸送層が、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物及び遷移金属と保護剤とを含むか、又は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有することを特徴とする、デバイス。
【請求項2】
前記遷移金属含有ナノ粒子に含まれる、遷移金属、及び、遷移金属化合物中の遷移金属が、モリブデン、タングステン、バナジウム、及びレニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属であることを特徴とする、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記正孔注入輸送層は、含まれる遷移金属がそれぞれ異なる2種類以上の遷移金属含有ナノ粒子を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記遷移金属含有ナノ粒子の平均粒径が15nm以下であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のデバイス。
【請求項5】
前記正孔注入輸送層は、前記遷移金属含有ナノ粒子、及び正孔輸送性化合物を少なくとも含有することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載のデバイス。
【請求項6】
前記正孔注入輸送層は、前記遷移金属含有ナノ粒子を含有する層と、正孔輸送性化合物を含有する層とが少なくとも積層された層からなることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載のデバイス。
【請求項7】
前記正孔注入輸送層は、前記遷移金属含有ナノ粒子を含有する層と、前記遷移金属含有ナノ粒子及び正孔輸送性化合物を少なくとも含有する層とが少なくとも積層された層からなることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載のデバイス。
【請求項8】
前記遷移金属含有ナノ粒子の前記保護剤が、前記遷移金属及び/又は遷移金属化合物と連結する作用を生ずる連結基と、芳香族炭化水素及び/又は複素環とを含むことを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載のデバイス。
【請求項9】
前記遷移金属含有ナノ粒子の前記保護剤が、電荷輸送性基を含むことを特徴とする、請求項1乃至8のいずれかに記載のデバイス。
【請求項10】
前記正孔輸送性化合物が、原子量の総和MAが100以上である部分Aを有する化合物であり、
前記遷移金属含有ナノ粒子中の前記保護剤が、連結基の他に、原子量の総和MBが100以上であり、当該原子量の総和MBと前記原子量の総和MAが下記式(I)の関係を満たし、当該原子量の総和MBが保護剤の分子量の1/3より大きい部分Bを有し、
前記部分Aの溶解度パラメータSAと、前記部分Bの溶解度パラメータSBが、下記式(II)の関係を満たすことを特徴とする、請求項5乃至9のいずれかに記載のデバイス。
|MA−MB|/MB≦2 式(I)
|SA−SB|≦2 式(II)
【請求項11】
前記部分Bは、前記部分Aと同一の骨格、又は同一の骨格内にスペーサー構造を含む類似骨格を有することを特徴とする、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記連結基が、下記一般式(1a)〜(1l)で示される官能基より選択される1種以上であることを特徴とする、請求項8乃至11のいずれかに記載のデバイス。
【化1】
(式中、Z1、Z2及びZ3は、各々独立にハロゲン原子、又はアルコキシ基を表す。)
【請求項13】
前記正孔輸送性化合物が、正孔輸送性高分子化合物であることを特徴とする、請求項5乃至12のいずれかに記載のデバイス。
【請求項14】
前記デバイスが、少なくとも発光層を含む有機層を含有する有機EL素子である、請求項1乃至13のいずれかに記載のデバイス。
【請求項15】
基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置された正孔注入輸送層を有するデバイスの製造方法であって、
遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子と、有機溶媒とを含有する正孔注入輸送層形成用インクを調製する工程と、
前記正孔注入輸送層形成用インクを用いて、前記電極上のいずれかの層上に正孔注入輸送層を形成する工程と、
前記遷移金属含有ナノ粒子の遷移金属及び/又は遷移金属化合物の少なくとも一部を遷移金属酸化物とする酸化物化工程、とを有することを特徴とする、デバイスの製造方法。
【請求項16】
前記電極上のいずれかの層上に、遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層を形成する工程と、前記正孔注入輸送層における遷移金属含有ナノ粒子中の遷移金属及び/又は遷移金属化合物の少なくとも一部を遷移金属酸化物とする酸化物化工程を有することを特徴とする、請求項15に記載のデバイスの製造方法。
【請求項17】
前記正孔注入輸送層形成用インクを調製する工程後、正孔注入輸送層を形成する工程前に、前記酸化物化工程が実施され、酸化物化された正孔注入輸送層形成用インクを用いて、前記正孔注入輸送層を形成する工程を有することを特徴とする、請求項15に記載のデバイスの製造方法。
【請求項18】
前記酸化物化工程が、酸素存在下で実施されることを特徴とする、請求項15乃至17のいずれかに記載のデバイスの製造方法。
【請求項19】
前記酸化物化工程が、加熱工程を含むことを特徴とする、請求項15乃至18のいずれかに記載のデバイスの製造方法。
【請求項20】
前記酸化物化工程が、光照射工程を含むことを特徴とする、請求項15乃至19のいずれかに記載のデバイスの製造方法。
【請求項21】
前記酸化物化工程が、活性酸素を作用させる工程を含むことを特徴とする、請求項15乃至20のいずれかに記載のデバイスの製造方法。
【請求項22】
遷移金属及び/又は遷移金属化合物と保護剤とを含む遷移金属含有ナノ粒子と、有機溶媒とを含有することを特徴とする、正孔注入輸送層形成用インク。
【請求項23】
前記遷移金属含有ナノ粒子が少なくとも遷移金属酸化物を含むことを特徴とする、請求項22に記載の正孔注入輸送層形成用インク。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−290204(P2009−290204A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109732(P2009−109732)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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