説明

正孔輸送層組成物および関連ダイオード装置

関連エレクトロルミネセント装置の性能を増強させるための、シリル化アリールアミンおよびポリマー成分を含む正孔輸送層組成物。




【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本出願は、2003年12月10日に出願された出願番号第60/528,325号からの優先権の恩典を主張する。この内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
合衆国政府は、国立科学財団からノースウエスタン大学への助成金番号DMR-0076097に従い、本発明に対し一定の権利を有する。
【0003】
発明の背景
様々なディスプレイ技術における潜在用途に刺激され、有機発光ダイオード(OLED)の分野で目覚ましい科学的および技術的進歩が最近、達成されている。OLEDは「二重注入」装置であり、正孔および電子が対向する電極から活性分子/高分子媒質中に注入され、励起子崩壊により発光が起きる。OLED応答は通常、下記特性に関して評価される:輝度--単位面積あたりの光強度、ターンオン電圧--装置が1cd/m2まで(〜1cd/m2)の輝度に達するのに必要な電圧、および電流効率--単位電流密度あたりの輝度。最適装置性能を達成するためには、別個の正孔輸送層(HTL)、放出層(EML)、および電子輸送層(ETL)機能を有する多層構造を有することが望ましいと考えられている。HTLの役割は、アノード(通常ITO-スズドープ酸化インジウム)からの正孔注入を最大化するだけでなく、EMLからの効率を減少させる電子オーバーフローをブロックし、励起子をEML内に閉じ込めることである。そのような多層構造を使用して、真空蒸着により作成された小分子系OLEDでは高性能装置が実現されている。典型的な低分子HTLはトリアリールアミン系材料、例えばNPBまたはTPD(図1)であり、かなり高いLUMOレベルおよび大きなHOMO-LUMOギャップのために、適当な正孔輸送および電子ブロッキング/励起子ブロッキング能力を有することが知られている。
【0004】
ポリマー系LED(PLED)では、単層ポリマー装置が、製造の容易さおよび大きなキャリヤ移動度などの明かな魅力を有しているが、それらの性能は、いくつかある因子の中で、ITO仕事関数(4.7eV)およびEML HOMOレベル(5.3〜5.9eV)のミスマッチに起因する、ITOアノードからEMLポリマーのHOMOレベルへの非効率的な正孔注入により制限される。低分子対応物と比較して、多層PLED装置は、溶液流延法において次を堆積させる間に前の層の一部を溶解してしまう危険のために極めて製造しにくい。従来のPLED HTLの例はp-ドープ導電性ポリマー、例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホネート)(PEDOT-PSS)、ポリアニリン-カンファースルホン酸(PANI-CSA)、およびポリピロール-ドデシルベンゼンスルホン酸(Ppy-BDSA)である。ほとんどの場合、これらのHTL膜はスピンコーティング後、高い温度(200℃まで(〜200℃))で硬化され、このため不溶性となる。これらの従来のHTLはPLEDアノード正孔注入(アノード仕事関数を増加させエネルギー不連続を平滑化することによる)および装置性能を著しく増強させることが示されている。
【0005】
しかしながら、これらのHTLはまた、ITOアノードの腐食、典型的な芳香族EMLとの低い表面エネルギー整合性、ポリフルオレンEMLの発光低下酸化ドーピングの媒介などの深刻な欠点を有する。さらに、PEDOT-PSSが真に高性能のPLED HTLに対し要求される電子ブロッキング能力の大きさを有するかどうかについて、依然として疑問が残る。これらのより従来型の導電性ポリマーHTLの他に、光または熱により架橋可能な、インサイチュー重合されるPLED HTLに焦点をあてて熱心な研究活動が行われている。これらの架橋可能なHTLのほとんどは高温焼成(150〜200℃)または紫外線光化学処理のいずれかを必要とする。さらに、これらの架橋膜の多くは材料の架橋時の体積収縮による微小クラッキングに見舞われ、これはPLED装置において望ましくない漏れ電流に至ることがある。
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
以上を鑑みると、本発明の目的は、正孔輸送組成物、材料および/または層を提供し、これにより、上記で概略を示したものを含む従来の様々な欠陥および欠点を克服することである。当業者であれば、本発明の1または複数の局面が一定の目的を満たし、1または複数の他の局面が一定の他の目的を満たすことができることが理解されるであろう。各目的は、あらゆる点で、本発明の全ての局面に同様に適用されない場合がある。そのようなものとして、下記目的は、本発明の任意の1つの局面に関し、選択的に考えることができる。
【0007】
本発明の目的は、ある範囲の正孔輸送層組成物を提供することであり、そのような組成物は、正孔輸送シラン誘導成分および正孔輸送ポリマー成分の有用性によってのみ制限され、そのような成分の例、あれこれの混合物または混和性、および得られたポリマーを組み入れたシロキサン-結合マトリクス/ネットワークおよび対応する正孔輸送機能は本明細書で提供される。
【0008】
本発明の別の目的は、有利なHOMO-LUMOエネルギーレベルを考慮して企図される、組成的および/または構造的に適合する、入手可能な電子放出材料(emissive material)または導電層と共に使用するための前記範囲の正孔輸送組成物を提供することである。
【0009】
本発明の目的は、本明細書で企図されるように、発光ダイオードを使用した任意のエレクトロルミネセント装置、物品またはディスプレイシステムに組み入れるための、本明細書で企図されるような、一定範囲の正孔輸送層組成物の任意の1つを提供することとすることができる。
【0010】
本発明の他の目的、特徴、利点および長所は、この概要および様々な好ましい態様の説明から明らかになると思われ、様々なエレクトロルミネセント装置、成分および組立/製造技術の知識を有する当業者には容易に理解できるであろう。そのような目的、特徴、利点および長所は、添付の実施例、データ、図面、および導くことができる全ての妥当な推論を、単独で、または本明細書に組み入れた参考文献と共に考慮すると、上記から、明白になるであろう。
【0011】
部分的には、本発明は、ポリマー正孔輸送成分および下記から選択される化学式のシリル化アリールアミン成分を含む正孔輸送組成物に関するものとすることができる。

そのような組成物では、Arはアリーレンとすることができ、nは1〜約4の範囲の整数とすることができる。置換基R1〜R7は、HおよびC1〜約C6の範囲のアルキル部分から独立して選択することができ、該部分のそれぞれは加水分解性シリル基を含む。R1〜R3の少なくとも1つおよびR4〜R7の少なくとも1つはアルキル部分である。加水分解性シリル基の範囲は本発明を理解する当業者には周知であり、例えば、トリアルコキシシリル、トリハロシリル、ジアルコキシハロシリル、ジアルキルハロシリル、ジハロアルキルシリルおよびジハロアルコキシシリルなどの官能基が挙げられるが、それらに限定されない。置換基アルキル部分および関連シリル基を共に有するそのようなアリールアミン成分としては、共に係属中の、2004年8月24日に出願された出願番号第10/924,730号、特に図2A〜2Gおよび11A〜11Dならびに対応する明細書および実施例、および1998年11月10日に発行された米国特許第5,834,100号、特に図2A〜2Cならびに対応する明細書および実施例においてより詳細に記述されている化合物が挙げられるが、それらに限定されない。これらの各々は参照により全体が本明細書に組み入れられる。
【0012】
一定の非制限的態様では、R1〜R3の少なくとも1つおよびR4〜R7の少なくとも1つは、末端トリハロシリルまたはトリアルコキシシリル基のいずれかを含むC2〜C4アルキル部分とすることができる。本明細書でより詳細に記述するように、そのような官能基は、使用する処理または製造条件下で、シロキサン結合形成を介する基板収着または縮合または分子間架橋に対し十分な程度まで加水分解可能である。とにかく、そのような組成物のポリマー成分は、他の点では、OLED作製において別個の正孔輸送および/または放出層として当技術において使用される、そのようなポリマー範囲から選択することができる。
【0013】
したがって、本発明は、PLEDのための強固で、効率のよい、接着HTLへのシロキサン架橋アプローチを使用することができる。一定の態様は、例えば、4,4’-ビス[(p-トリクロロシリルプロピルフェニル)フェニルアミノ]ビフェニル(すなわち、TPDSi2または、例えば、対応するモノシリル化化合物、すなわちTPDSi、およびトリシリル化化合物、すなわちTPDSi3)、これはN,N-ジフェニル-N,N-ビス(3-メチルフェニル)-1,1-ビフェニル)-4,4-ジアミン)(TPD、代表的な低分子HTL材料)の正孔輸送効率およびオルガノシラニル基の強い架橋/緻密化傾向を組み合わせたものである、を使用し、有効な基板官能基(例えば、ヒドロキシ)と縮合させ、および/またはTPDSi2および正孔輸送ポリマー(例えば、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-co-N-(4-(3-メチルプロピル))ジフェニルアミン)、TFB)を含む架橋ブレンドHTLネットワークまたはTPDSi2およびTFB混合物もしくはブレンド(すなわち、TPDSi2+TFB)のいずれかを、適した基板および従来のPLED HTL(例えば、PEDOT-PPS)と共に提供することができる(図1を参照のこと)。本発明のそのようなHTL組成物または組み合わせを、選択的に、TPDSi2の1もしくは複数の層または別のシリル化芳香族アミンと共に、基板(例えば、PLEDアノード)上で使用し、さらに性能を向上させることができる。適したアノード(例えば、ITO)へのTPDSi2の収着または結合により、アノードからHTLへの正孔注入が容易になり、装置耐久性が増強される。
【0014】
限定はしないが、本発明の一定の他の組成物は、他のシリル化成分、例えばジフェニル[4-(3-トリクロロシリルプロピル)フェニル]アミン、トリアリールアミン(すなわち、TAA)ならびに、モノシリル化化合物(すなわち、TAASi)以外に、ジシリル化化合物(すなわち、TAASi2)およびトリシリル化化合物(すなわち、TAASi3)を含むことができる。そのようなアリールアミン成分のアイデンティティとは関係なく、ポリマー正孔輸送成分は、頭文字PDHFDDOP、PDHFDHPおよびPDHFにより表されるものを含むがそれらに限定されない有効範囲のポリ(フルオレン)化合物の任意の1つから選択することができる。そのような化合物は当技術分野では公知であり、共に係属中の出願番号第10/507,715号および2003年3月14日に出願された関連国際出願第PCT/US03/07963においてより詳細に記述されている。これらの内容は参照により全体が本明細書に組み入れられる。本発明の正孔輸送組成物は、適したシリル化アリールアミン成分およびポリマー正孔輸送成分の有用性、装置製造に対するあれこれの混合物および混和性、ならびに得られたポリマー-混入シロキサン-結合マトリクス/ネットワークおよび対応する正孔輸送機能にのみ限定される。
【0015】
本発明の代表的な組成物(例えば、TPDSi2+TFB)は、例えば、PEDOT-PSSに比べより大きな電子ブロッキング能力を有することが示されており、これが、BT系電子支配的PLEDの電流効率が10倍増強する理由であると考えられる。さらに、TPDSi2+TFBなどのこれに限定されない組成物は、PEDOT-PSS-コートITO上に堆積させることができ、多層HTLが形成される。例えば、そのような二重層HTLは効果的にITO表面を平坦化し、装置漏れ電流を最小に抑えることができる。同時に、優れた正孔注入および電子ブロッキング能力を有し、これら全てを合わせると、優れたPLED性能が得られ、最大電流効率は17cd/Aと高く、最大輝度は140,000cd/cm2と高く、ターンオン電圧は2Vと低い。とにかく、アノードまたは別のHTL成分上にスピンコーティングすると、本発明の組成物は雰囲気条件下および/または残存溶媒を除去するために加熱すると、硬化または架橋することができる。得られた膜は別のHTLまたはEML成分の堆積に対し耐性がある。本発明のPLED HTLを作製するオルガノシロキサンアプローチは多くの他の魅力を提供し、例えば、製造が容易であり、HTL成分の選択がフレキシブルであり、PEDOT-PSS誘導EMLルミネセンスクエンチングが減少し、高性能PLEDを達成するための有益な戦略として適用することができる。
【0016】
一定の態様の詳細な説明
このように共に使用することができる種類のTPDSi2 SAM修飾アノードにより、裸アノードを有するものに比べ、2桁まで(〜2桁)大きな、アノードからPLED装置への正孔注入が得られる。そのような観察結果は、2002年3月15日に出願された共に係属中の出願番号第10/099,131号においてより詳細に記述され、検討されている。この内容は参照により本明細書に組み入れられる。本明細書で記述されるように、TPDSi2 SAMでITOアノードを修飾すると、ITO表面の親水性が変化すると考えられ、親水性ITOと疎水性ポリマーとの間の表面エネルギーのミスマッチが最小に抑えられる。界面エネルギーが有機LEDの応答特性において重要な役割を果たすことは広く認識されている。修飾ITOと活性ポリマーとの間の界面親和性が改善されたことが、TPDSi2 SAMによる正孔注入の増強の理由である可能性が高い。この表面機能化効果は、UPS研究において検出された有利な界面双極子/真空レベルシフトによりさらに増強させることも可能である。また、従来の発光ポリマーと裸ITOアノードの間には物理的接触しか存在しないが、SAM修飾PLED装置では、TPDSi2 SAMはITOアノードに化学的に結合され、これにより、より近接し、より熱的に強固なTPDSi2 SAM正孔輸送ユニットのITOアノードへの接触が得られ、したがって、より効率のより正孔注入が得られる可能性がある。
【0017】
そのようなアノード修飾に関係なく、本発明のHTL組成物は効果的に正孔注入を増強させることができる。(図2について説明すると、いくつかのアノード/HTL膜構造が示されている。対応する装置構造は、例えば、下記で記述した特別な放出層(TFBなど)を備える)。例えば、ITO/TPDSi2+TFB/TFB/Au/Alを備える正孔オンリー装置(図2、装置2を参照のこと)は、ITO/TFB/Au/Alの正孔オンリー装置(図2、装置5を参照のこと)よりも200倍大きな正孔注入フルエンスを示す。装置2のTPDSi2+TFB/TFB界面では、正孔輸送は、完璧に近いHOMOレベルアラインメントで、同じTFB構造から伝播させることができる。そのため、装置2と装置5の間の正孔注入特性の差は、当然、ITO/TFBおよびITO/TPDSi2+TFB界面の非常に異なる性質に起因する。装置5では、ITO表面とTFB層との間に共有結合は存在しない。このように、ITOとTFBとの間の表面エネルギーミスマッチおよびITOからTFBへの0.8eVの固有正孔注入障壁が、低い正孔注入性能の原因である可能性がある。しかしながら、装置2では、TPDSi2はITO表面に共有結合し、これによりTPDSi2正孔輸送ユニットはITO表面と非常に近接して接触(1nm未満)する。さらに、HTL組成物のTFBポリマー鎖は架橋されたTPDSi2マトリクス内に固定され、正孔輸送TFB鎖のいくつかのフラクションがITOアノードと密接に接触すると考えられ、その結果、ITOからHTLへの正孔注入が容易になる。結果から、HTLとITOアノードの間の化学結合が、効率のよいアノード正孔注入を達成する際に本質的な役割を果たすことが示される。
【0018】
TPDSi2およびTFB成分はどちらもHTL組成物の正孔輸送能力に寄与する。TPDSi2+TFBブレンドの正孔輸送能力を証明するために、ITO/HTL/TFB+BT(1:4)ブレンド(70nm)/Ca(10nm)/Al(100nm)の構造を有する装置を作製した。HTL成分は1)TPDSi2+TFBブレンド、2)TPDSi2+ポリスチレン(PS)ブレンド、または3)1,6-ビス(トリクロロシリル)ヘキサン(C6Si2)+TFBブレンドのいずれかとした。ポリスチレンおよびC6Si2は電気絶縁材料であり;そのため、HTL2)または3)では、唯一の正孔輸送成分はTPDSi2またはTFBであり、TPDSi2またはTFBのTPDSi2+TFBブレンドの正孔輸送能力への寄与は別個に評価することができる。HTL1)に基づく装置のL-VおよびCE-V応答を図6に示す:最大電流効率13.5cd/Aまで(〜13.5cd/A)、ターンオン電圧2.0Vまで(〜2.0V)である。HTL1)、2)および3)に基づくそのようなPLED装置のいくつかの性能特性を表1で比較する。HTL2)、および3)に基づくPLED装置は、8.5-9.0cd/Aまで(〜8.5-9.0cd/A)の最大電流効率および2.5-3.0Vまで(〜2.5-3.0V)のターンオン電圧を示す。この結果から、TPDSi2およびTFBのどちらもがTPDSi2+TFBブレンドの正孔輸送特性に大きく寄与することが示唆される。
【0019】
(表1)ITO/HTL/TFB+BTブレンド/Ca/Al構造を有するPLED装置の最大電流効率およびターンオン電圧の比較

比較したHTLは下記の通りである:1)TPDSi2+TFBブレンド;2)C6Si2+TFBブレンド;3)TPDSi2+ポリスチレンブレンド。
【0020】
有効HTLはアノードからの正孔注入を最大化させるだけでなく、EMLからの電子オーバーフローをブロックし、励起子をEML内に閉じ込めるように機能することができる。しかしながら、PEDOT-PSSが真に高性能のPLED HTLに対し十分な電子ブロッキング能力を有するかどうかは明確ではない。例えば、PEDOT-PSSは、従来の電子ブロッキングトリアリールアミン低分子HTLに比べ、ずっと大きな導電率、および著しく異なるコア構造を有し、著しく異なるレベルの電子ブロッキング性能を有する可能性もある。当技術分野における最近の研究では、ポリフルオレン系PLEDの最大電流効率は、PEDOT-PSS HTLとEMLとの間にポリ(フェニレンビニレン)(PPV)電子閉じ込め層を挿入することによりおおよそ2倍になることが示された。この結果から、PEDOT-PSS HTLはPPV程大きな電子ブロッキング能力を有さないことが示唆される。
【0021】
本発明の1つの組成物/ブレンド、TPDSi2+TFBは、NPBおよびTPDなどの典型的なHTL/電子-ブロッカーのコア構造と同様のトリアリールアミンコア構造を有し、同等の電子ブロッキング特性を有する可能性がある。これらの理由のために、TPDSi2+TFBブレンドがPEDOT-PSSよりも大きな電子ブロッキング能力を有するかどうかを決定すること、および電子ブロッキング能力の違いがPLED装置応答にどのように影響を与えるかを決定することが興味深い。PEDOT-PSSおよびTPDSi2+TFBブレンドの電子ブロッキング特性を評価するために、電子支配PLEDをEMLとしてBTおよびカソードとしてCaを用いて作製した(図8)。BTは優れた電子輸送能力を有するが、正孔輸送能力が低く(図3)、BT/Ca系装置では、HTL/BT界面に到達するかなりの電子束が存在するはずであり、HTL/BT界面で電子ブロッキング特性を調べる理想的なモデル構造が得られる。
【0022】
装置3(ITO/PEDOT-PSS/TPDSi2+TFBブレンド/BT/Ca/Al)と装置4(ITO/PEDOT-PSS/BT/Ca/Al)との間の明かな違いは、PEDOT-PSSとBT層との間の薄いTPDSi2+TFBブレンド層の存在のみである。図8に示されるように、装置3での電流効率の10倍増強および総電流の低下は、TPDSi2+TFB/BT界面でのTPDSi2+TFBブレンドの顕著な電子ブロッキング特性を反映する。そのため、装置4では、かなりの電子束が単にBT層を通過しなければならず、正孔と衝突/再結合せず、その後、非生産的にITOアノードに高導電性PEDOT-PSS HTLを通って単に排出され、このため、正孔-電子再結合効率が低くなり、装置電流効率が低くなる。明らかに、TPDSi2+TFBブレンドは従来のPEDOT-PSS HTLよりもかなり大きな電子ブロッキング特性を示し、PLED性能はPEDOT-PSS HTL上に薄いTPDSi2+TFBブレンド電子ブロッキング中間層を堆積させることにより劇的に増強させることができる。
【0023】
PLED HTLはまたアノード表面を平坦化させ、局所短絡電流を阻止し、これにより装置性能および性能の均一性を改善するように機能することができる。本明細書で使用する市販のITO源は、接触モードAFMによれば3.0〜4.0nmのRMS粗さ(RMS roughness)を有し、時に、AFMにより表面上に20nmもの高さのスパイクが観察される。EMLとしてBTを使用する電子支配PLED装置のシリーズでは(図8)、HTL/BT界面に到達するかなりの電子束が存在するはずであり、これはアノード/HTL-媒介漏れ電流を増幅するように作用することができる。そのため、本発明のBT系PLEDシリーズは良好なモデルシステムを表し、このシステムで、様々なHTLに関連する漏れ電流レベルおよび平坦化効果が研究できる。図8で示されるように、裸ITOをアノードとして使用する場合、BT系装置5(ITO/BT/Ca/Al)は1mA/cm2まで(〜1mA/cm2)の実質的な漏れ電流密度を裏付ける。TPDSi2 SAM疎水性構造の水分を排除する能力は、1上のBT系装置(ITO/TPDSi2 SAM/BT/Ca/Al)における漏れ電流の低減で重要な役割をはたす可能性がある。しかしながら、TPDSi2 SAMはITO表面で共形単層被覆を提供するだけであるが、識別可能な平坦化効果は有さない(RMS粗さ=3.9nm)。そのため、TPDSi2 SAM/BT系装置対裸ITOでは漏れ電流密度は減少したが依然として有意の量存在する(0.01〜0.1mA/cm2)。スピンコートTPDSi2+TFBブレンドはまたITO表面を平坦化することができ(RMS粗さは1.7nmに減少)、これにより装置の漏れ電流密度はより大きく減少する(0.001〜0.01mA/cm2まで)。TPDSi2+TFBブレンドコーティング(厚さ10-15nmまで(〜10-15nm))は、ITO表面スパイクを完全に被覆するには不十分な場合があるが、二重層HTL(PEDOT-PSS/TPDSi2+TFBブレンド)は60nmまで(〜60nm)の厚さを有し、より効果的にITO表面を平坦化することができ(RMS粗さは現在1nmまで(〜1nm))、これは図8の装置3で観察されるごくわずかな漏れ電流密度(2Vでの電流0.00001mA/cm2まで(〜0.00001mA/cm2)--器具類の不確実な限界と同等)と一致する。
【0024】
二重層HTL系装置対TPDSi2 SAMのみ、HTLブレンド、およびPEDOT-PSSに基づく装置の応答特性は、3つの観点から分析することができる:1)正孔注入能力(正孔オンリー装置を用いて研究);2)電子ブロッキング能力(BT系電子支配的PLED装置により研究);3)アノード平坦化効果および漏れ電流密度。
【0025】
図7に示されるように、二重層HTLはTPDSi2 SAMに比べわずかに高い正孔注入能力を提供するが、それだけでは、図6B(電流効率、17cd/A対6cd/A)における対応するPLED装置の装置効率の違いを説明することができない。TPDSi2構造は電子ブロッキングであるべきであるが、極薄のTPDSi2 SAMが電子のオーバーフローを効果的にブロックするのに十分厚いかどうかという疑問がある。図8Bからわかるように、TPDSi2 SAM系BT装置の最大電流効率は、二重層HTL系装置の20%まで(〜20%)にすぎず、おそらく、TPDSi2 SAMの電子ブロッキング能力は、二重層HTLの電子ブロッキング能力よりかなり弱いことが示される。さらに、図8Aにおいて示されるように、TPDSi2 SAMおよび二重層HTL系装置のターンオン電圧はそれぞれ、5.5Vおよび3.1Vである。当技術分野では、HTL/EML界面で電子密度の増加により、より低い電場でのアノード正孔注入を増強させることができ、その結果、HTL/EML界面でより大きな電子ブロッキング能力を有する装置はより低いターンオン電圧を示すべきである。そのため、TPDSi2 SAM系装置のかなり大きなターンオン電圧はさらに、TPDSi2 SAMが二重層HTLよりも弱い電子ブロッキング能力を有するという主張を裏付ける。
【0026】
最後に、図8Cに示されるように、TPDSi2 SAM系装置は2Vで、二重層HTL系装置の1000倍大きな漏れ電流を示し、これはおそらく、ITO表面上のTPDSi2 SAM平坦化効果の欠如によるものである。文献で記述されているように、電荷トンネリングおよび鏡像力が1nmまで(〜1nm)の長さスケールで存在することがあり、これはTPDSi2 SAMの電子ブロッキングトリアリールアミンコア構造の幅に匹敵し、極薄TPDSi2 SAMを通る可能な電子トンネリングが得られる。結論として、TPDSi2 SAM構造は電子ブロッキングするが、薄すぎて最適電子ブロッキングを提供することができないか、または局所漏れ電流を阻止することができないと考えられ、これがまた、二重層HTL系PLEDが優れた性能を示す理由である。
【0027】
図7に示されるように、二重層HTLおよび対応するブレンドHTLの正孔注入能力は同程度である。しかしながら、図8から、ブレンドHTL系装置に比べ、二重層HTL系装置はさらに50%高い電流効率および0.4V低いターンオン電圧を示すことに注意するべきである。これによりブレンドHTL組成物ではわずかに弱い電子ブロッキング能力が示唆される。限定はされないが、ブレンドHTL(厚さ10-15nmまで(〜10-15nm))はITO表面、とりわけ、かなりの漏れ電流密度を誘導することがあり、電子ブロッキング性能に逆効果を与える可能性のある、時々見られるスパイクを完全に被覆するためには不十分な厚さであると思われる。ITO/TPDSi2+TFB膜のAFM分析からこの状況が裏付けられると思われる:ITO由来の表面スパイクはTPDSi2+TFBコーティングにより著しく減少するが、依然として、時に観察されることがある。
【0028】
上記で記述したように、BT系電子支配装置シリーズでは、二重層HTL装置は、少なくとも一部は、電子ブロッキング特性が増強されるために、PEDOT-PSS装置よりも10倍まで(〜10倍)大きな電流効率を示す。さらに、他の因子もまた重要な役割を果たす場合がある。上記で記述したように、PEDOT-PSSはポリフルオレンEML酸化的ドーピングを媒介し、発光効率の減少に至ることが示されている。本発明の二重層HTL組成物では、TFB成分はEMLブレンド中の正孔輸送成分として一般的に使用されており、TPDSi2成分は安定で、中性に帯電したシロキサンおよびアリールアミン部分を提供するので、どちらの成分もPEDOT-OSSのようにルミネセンスクエンチングを誘導するはずはない。そのため、本発明の二重層HTLは、PEDOT-PSS層をEMLから分離することにより、PEDOT-PSS誘導ルミネセンスクエンチングを減少させる可能性がある。
【0029】
図6に示されるように、EMLがバランスのとれた電荷輸送を有するTFB+BT系装置シリーズでは、二重層HTLはさらに、PEDOT-PSSよりも著しく高い装置性能を提供する(電流効率=17cd/A対10cd/A)。この理由は、TFB+BTはバランスのとれた電子および正孔輸送を有するが、依然として無視できない電子流がPEDOT-PSS HTL/EML界面に到達し、装置4では正孔と再結合せず、このため、再結合効率が低くなり、発光効率が低くなることにあると考えられる。二重層HTLにより減少するPEDOT-PSS誘導ルミネセンスクエンチもまた、ここで重要な役割を果たす可能性がある。
【0030】
前記特性および比較を、下記表2にまとめて示す。二重層HTL系装置の17cd/A電流効率は今日まで報告されている最も高いPLED電流効率の1つである。さらに材料および装置構造を改良すると、さらなる改善が期待できる。さらに、本発明の二重層HTLアプローチは多くの他の魅力を提供する: 1)利便性:TPDSi2+TFB成分ブレンドの架橋は、空気中、室温でのスピンコーティング後数秒以内で完了し、特別な高温焼成、光、熱架橋は必要ない;2)フレキシビリティ:TPDSi2以外のシロキサン材料およびTFB以外のポリマーもまた適用できるはずである;次世代のより大きな正孔輸送能力および/または電子ブロッキング能力を有するシロキサンまたはポリマーはさらにより効果的な正孔輸送および電子ブロッキング層ならびにより優れたPLED性能を提供するはずである;3)エネルギー同調:PLEDエネルギーレベルマッチングは、EML HOMOレベルにマッチする正孔輸送ポリマーを使用することにより容易に調節可能である。限定はしないが、TFBはHTLおよびEML装置構成要素の正孔輸送成分として使用した。このように、HTLからEMLへの正孔輸送は同じTFB構造を通して伝播させることができ、完全に近いHTL-EML HOMOレベル整合が得られる。そのため、本発明の様々な組成物を用いるそのようなアプローチを、PLED HTL-EML HOMOレベルアラインメントを操作する一般戦略として使用することができる。
【0031】
(表2)PLED作製に対するTPDSi2 SAM、ブレンドHTL、二重層HTL、およびPEDOT-PSS特徴の比較

【0032】
当技術分野で最近示されたように、PEDOT-PSS HTLとフルオレン系EMLとの間にポリ(p-フェニレンビニレン)(PPV)電子閉じ込め層を挿入すると、PLED装置の電流密度は20%まで(〜20%)だけ減少し、最大電流効率は約2倍となった。その研究では、EMLはポリ(9,9-ジオクチルフルオレン)(PFO)およびBTのブレンドであり;すなわち、均衡電荷輸送EMLであった。観察された電流密度の減少は、一部には、PFOに比べPPVの正孔移動度が10倍低くなることによる可能性がある。しかしながら、電流減少のみでは、電流効率の倍増の説明には十分ではない。効率増加へのかなりの寄与は、PPV/EML界面での電子ブロッキング効果に起因すること、PEDOT-PSS HTLはPPVと同じほど大きな電子ブロッキング能力は有していない可能性があることが示唆される。
【0033】
この問題を調べるために、電子支配EMLとして均衡電荷輸送を備えるEMLではなく、BTを選択して、電子支配PLED構造、PEDOT-PSS/BT/Caを作製した。この場合、かなりの電子電流がPEDOT-PSS/BT界面に到達し、界面での電子ブロッキング効果が容易に研究できる。このモデル構造を使用し、PEDOT-PSS HTLとBE EMLとの間にTPDSi2+TFB電子ブロッキング層(EBL)を挿入すると、PLED装置の電流効率が15倍まで(〜15倍)増加し、電流密度が2倍減少し、明確な結果として、HTL/EML界面で効果的な電子ブロッキングが得られる。結果から、PEDOT-PSS HTLが現在のTPDSi2+TFB組成物よりもかなり弱い電子ブロッキング能力を有することも示される。
【0034】
本発明の組成物(例えば、TPDSi2+TFBブレンド)はEBLとしてPPVに対し、他の重要な魅力を提供し、そのようなものとしては下記が挙げられるが、それらに限定されない:1)正孔オンリー装置データにより支持されるように(図7)、TPDSi2+TFBブレンドはPFOまたはTFBに匹敵する正孔移動度を有し、PLEDアノード正孔注入を抑制しない。対照的に、PPVは大部分のポリフルオレンEMLより低い正孔移動度を有し、これにより装置における正孔注入が減少し、装置の動作電圧が増加する可能性がある。2)TPDSi2+TFBブレンドはせいぜい、青色領域で弱いルミネセンスを示すにすぎず、周知の効率のよい黄色-緑色発光ポリマーであるPPVよりEML発光を妨害する可能性が低い。3)TPDSi2+TFBブレンドの作製は好都合である。上記のように、TPDSi2+TFBブレンドの架橋は、空気中、室温でのスピンコーティング後数秒以内に完了し、特別な高温硬化、光、または熱架橋は必要ない。しかしながら、不溶性PPV層の作製では、PPV前駆体のスピンコーティング、その後高温(200〜300℃)インサイチュー重合が関係する。得られたPPV層はいかなる明確な様式でもアノード表面に共有結合しない。4)PPVは2.7eVまで(〜2.7eV)のLUMOエネルギーを有する;しかしながら、TPDSi2+TFBブレンドのLUMOエネルギーは2.3eVまで(〜2.3eV)であり(図3)、これは典型的なEML LUMO値(2.8〜3.1eV)よりも少なくとも0.5eV小さく、そのため、対PPVで、より大きな電子ブロッキング能力が得られるはずである。
【0035】
本発明のシロキサンHTLアプローチの結果は少なくとも2倍である。第1に、結果から初めて、電子支配EMLを用いて高性能PLEDが達成されることが示されている。従来のPLED装置では、p-ドープ導電ポリマー(例えば、PEDOT-PPS)が通常HTLとして使用され、優れたPLED性能を達成するには、均衡のとれた正孔および電子輸送を有するEMLが必要であり、高性能PLED EMLの選択は現在までかなり制限されている。多くの単極放出ポリマー(unipolar emissive polymer)(電子支配または正孔支配)は、それらの顕著なルミネセンス特性に関わらず、PLED装置性能が劣っており、PLED EML用途には適していないと考えられていた。そのような電子支配EML材料の例はBTであり、これは優れたエレクトロルミネセント特性を有するが、高い電子支配輸送能力を有する。結果として、EMLとしてBTおよびHTLとしてPEDOT-PSSを使用するPLEDは通常低い装置性能を示す(電流効率1〜2cd/A53)。しかしながら、ここでBT系PLEDは、従来のPEDOT-PSS HTLをより大きな電子ブロッキング能力を有する本発明の架橋シロキサン系HTL組成物と置換すると、優れた性能を示すことができる。この結果から、PEDOT-PSS/BT/Ca系装置の限界性能は、BTの単極電荷輸送特性ではなく、PEDOT-PSS HTLの不十分な電子ブロッキング能力により引き起こされることが示される。PLED構造において電子ブロッキングHTLを使用することにより、PLED EMLの選択は、もはや均衡電荷輸送放出ポリマーに限定されず、結果的に、PLED EMLのさらなる開発および最適化ではずっと大きなフレキシビリティが存在するはずである。
【0036】
さらに、本発明の電子支配EML(BT)および電子ブロッキングHTL(例えば、様々なTPDSi2+TFB系二重層HTL組成物)に基づくPLEDの性能(例えば、電流効率=17cd/A)は電荷均衡EML(TFB+BTブレンド)および導電性ポリマーHTL(PEDOT-PSS;電流効率=10cd/A)に基づく従来のPLEDの性能を著しく上回る。この結果は、PEDOT-PSS/TFB+BT系装置では、TFB+BTは均衡のとれた電子および正孔輸送を有するが、HTL/EML界面に到達し、アノードに再結合して排出され、そのため発光効率が低くなる、無視できない電子束が存在する可能性があるという点で、理論的に説明することができる。さらに、そのような装置のピーク再結合ゾーンはTFB+BT EMLの中央部分付近に位置するはずであり、ピーク再結合ゾーンとカソードまたはPEDOT-PSS HTL間の距離は35nmまで(〜35nm)であるはずであり、これによりかなりのカソードまたはPEDOT-PSS誘導ルミネセンスクエンチングに至る可能性がある。しかしながら、TPDSi2+TFB/BT系装置では、ピーク再結合ゾーンは、カソードから70nmまで(〜70nm)離れているTPDSi2+TFB/BT界面付近に位置するはずであり、より小さなカソード誘導ルミネセンスクエンチが得られる。また、TPDSi2+TFB層はPEDOT-PSS HTLのようにルミネセンスをクエンチしない。そのトリアリールアミンコア構造がPLED EML構成要素で広く使用されているからである。そのため、PLEDを設計する2つのアプローチの中では(電子支配EMLおよび電子ブロッキングHTLを有するPLED、または電荷均衡EMLおよび従来のHTLを有するPLED)、前者において著しく大きなPLED性能が得られると考えられる。より基本的には、本発明は、新規HTL組成物を使用し、HTL電子ブロッキング特性を最適化すると、EMLの電荷輸送特性を単に操作するよりも、高性能PLEDを達成するより生産的なアプローチとなる可能性があることを示している。
【0037】
発明の実施例
下記の非制限的実施例およびデータは、本明細書で記述した技術および方法により得ることができる、様々な正孔輸送組成物および/または層を備える発光ダイオード装置のアセンブリを含む、本発明の組成物、装置および/または方法に関する様々な局面および特徴を説明する。従来技術に比べ、本発明の組成物、層および/または装置は、驚くべき、予期されない、およびそれに反する結果およびデータを提供する。いくつかの組成物および関連する装置構造を使用することにより本発明の有用性を説明するが、当業者であれば、本発明の範囲に相応する様々な他の正孔輸送組成物、層、発光媒体および/または装置を使用して同等の結果を得ることができることは理解されると思われる。
【0038】
材料
フルオレン、n-ブチルリチウム、およびn-オクチルブロミドなどの開始材料はAldrichから購入した。無水トルエンはAldrichから購入し、Grubbsカラムシステムを通して、さらにO2およびH2Oを除去した(Grubbsカラムシステムは2つの18Lステンレス鋼カラムから構成される。第1のカラムには活性アルミナが充填され、これによりH2Oなどの極性不純物が除去され;第2のカラムは銅触媒、Q5が充填され、これにより微量O2が除去される)。エチルエーテルを乾燥させ、Na/ベンゾフェノンから蒸留した。PEDOT-PSSを含む水溶液(Baytron P)をH.C. Starck、Bayer社から購入し、さらに修飾せずに使用した(Baytron PグレードVP AI 4083を使用した。これは1:6の規定PEDOT/PSS比、および1000Ω・cmの鋳造膜抵抗率を有する)。特に記載がなければ、全ての他の試薬は受理したまま使用した。酸化スズインジウム(ITO)-コートガラスシート(20Ω/□、RMA粗さ=30〜40Å)をColorado Concept Coatingから購入した。X線鏡面反射率測定のための単結晶Si(111)基板をSilicon Sense Inc.から購入した。
【0039】
一般的な物理測定
溶媒としてCDCl3を使用し、Varian VXR-400 MHz NMR分光計を使用してNMR分析を実施した。化学シフトは残留プロトン化溶媒共鳴を参照した。Midwest Microanalysis Lab(Indianapolis、IL)で元素分析を実施した。全ての有機材料の構造をNMRおよび元素分析により立証した。SDT2960同時DTA-TGA機器(TA機器)で、10℃/分の走査速度で、窒素下、熱重量分析(TGA)を実施した。合成したポリマーの分子量を、Waters2410屈折率検出器およびWaters515HPLCポンプを備えたWaters室温ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)システムを用いてポリスチレン標準に対し測定した。Varian Cary IE UV可視機器を用いて有機膜の光吸収分光法を実施した。
【0040】
薄膜全ての形態を、AおよびDスキャナを備えたNanoscope III(Digital Instruments, Inc.)を用い、原子間力顕微鏡観察法(AFM)により評価した。画像は全て、周囲条件下、錐体先端を有し、円錐角が70°で、曲率半径が20〜50nmであるSi3N4カンチレバーとの接触様式で記録した。先端回旋については説明を試みなかった。カンチレバーは0.12N/mの力定数を有した。高さモードを用い、20〜60nNの総力および10Hzまで(〜10Hz)の走査速度で画像を獲得した。同じ画像を少なくとも3度走査し、再現性を確保し、ならびに異なる領域サイズを走査することにより(すなわち、より高いまたはより低い倍率)、画像の一貫性を証明した。RMS表面粗さ値は全て、25μm2の領域にわたって報告する。有機薄膜全ての厚さをTencor P-10表面プロファイラーを用いて測定した。
【0041】
EA125エネルギーアナライザを備えたOmicron ESCAプローブを用い、Northwestern大学でX線光電子分光分析(XPS)を実施した。光電子放出は、動作電力300Wの単色Al Kα放射(1486.6eV)により刺激した。低エネルギーエレクトロンフラッドガンを、電荷中和のために使用した。調査走査および高分解能走査を、それぞれ50および25eVのパスエネルギーを使用して収集した。スペクトルの結合エネルギーは、284.8eVで設定したC1s結合エネルギーを基準とした。
【0042】
TPDSi2 SAM修飾ITOのイオン化ポテンシャル(IP)および仕事関数を、Kratos Axis-165 Ultra光電子分光計の21.2eV He(I)源(Omicron H15-13)を用いて、Arizona大学で紫外線光電子分光法(UPS)により決定した。清浄な基板の仕事関数は、光イオン化のための高い運動エネルギーオンセットと低い運動エネルギーカットオフの間のエネルギー差を記録することにより得た。試料は±5Vでバイアスし、低い運動エネルギーカットオフ領域の勾配を増強させた。光イオン化に対する高い運動エネルギーオンセットの推定値は、発光スペクトルの高運動エネルギー部分のゼロカウントベースラインへの外挿により得た。分子修飾物質の自己組織化膜のITO試料では、これらの修飾物質のトリアリールアミンコアに対するHOMOおよびIPがUPSデータから得られ、清浄なITO基板に対する真空レベルのシフトが補正された。HOMO値は明確に規定される光イオン化ピークのメジアンエネルギーから推定したが、IP値はゼロ強度へのそのピークの高い運動エネルギーエッジを外挿することにより推定した。報告した値はどちらも真空レベルの見かけのシフトに対し補正した。
【0043】
実施例1
ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-co-N-(4-(3-メチルプロピル))ジフェニルアミン)(TFB)の合成
従来のSuzukiカップリング法および文献で記述されている手順と同様の手順を用いて、2,7-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-9,9-ジオクチルフルオレンおよび4-(3-メチルプロピル)-N,N-ビス(4-ブロモフェニル)アニリンからTFBを合成した。試薬2,7-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-9,9-ジオクチルフルオレンおよび4-(3-メチルプロピル)-N,N-ビス(4-ブロモフェニル)アニリンを、文献に記述されている手順を用いて合成した。実験の詳細は下記の通りである。
【0044】
窒素下、酸素を含まないトルエン10mLに溶解した精製した4-(3-メチルプロピル)-N,N-ビス(4-ブロモフェニル)アニリン(0.459g、1.0mmol)および2,7-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-9,9-ジオクチルフルオレン(0.642g、1.0mmol)の混合物に、相間移動触媒「Aliquat 336」0.1g(0.25mmol)および2M Na2CO3水溶液6mL(Na2CO3水溶液にN2を10分間パージし、その後、反応物に添加した)を添加した;その後、混合物を窒素下、20分間撹拌し、触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)3mg(4μmol)を添加した。反応物を120℃まで(〜120℃)で4〜6時間、激しく撹拌し、高粘性混合物を得て、粘度を減少させ、激しい撹拌を維持するために、その後、5〜10mLのトルエンを添加した。反応混合物を同じ条件下で10時間維持し、その後、フェニルエチレンボロネート0.10mL(0.80mmol)を添加した。さらに10時間の反応時間後、ブロモベンゼン0.30mL(2.2mmol)をエンドキャッピング剤として添加した。さらに5時間後、反応混合物をメタノール400mL中に注ぎ入れ、沈澱したポリマー生成物を収集すると、0.70gの淡黄色ポリマーが得られた。その後、ポリマーをトルエン中に繰り返し溶解し注意深く精製し、メタノールで沈澱させると、イオン性不純物および触媒残渣が除去された。この手順により得られたTFBの数平均および重量平均分子量(MnおよびMw)をGPCにより溶離剤としてTHF、およびポリスチレン標準を使用して決定すると、それぞれ、31,000および88,000であった(多分散性=2.88)。

【0045】
実施例2
ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-co-ベンゾチアジアゾール)(BT)の合成
従来のSuzukiカップリング法および文献で記述されている手順と同様の手順を用いて、2,7-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-9,9-ジオクチルフルオレンおよび4,7-ジブロモ-2,1,3-ベンゾチアジアゾールからBTを合成した。4,7-ジブロモ-2,1,3-ベンゾチアジアゾール試薬を、文献に記述されている手順を用いて合成した。実験の詳細は下記の通りである。
【0046】
不活性雰囲気下、50mL反応フラスコに、精製4,7-ジブロモ-2,1,3-ベンゾチアジアゾール0.15g(0.51mmol)および酸素を含まないTHF3mLを入れた。次に、4,7-ジブロモ-2,1,3-ベンゾチアジアゾール混合物を撹拌しながら60℃まで(〜60℃)にし、この時点で、ベンゾチアジアゾールを溶解させた。脱イオン水2mLに溶解したビス(テトラエチルアンモニウム)カーボネート(1.0g 3.0mol)にN2ガスを10分間パージし、その後、反応フラスコに添加し、混合物を窒素下、10分間撹拌した。次に、2,7-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-9,9-ジオクチルフルオレン(0.34g、0.52mmol)をトルエン3mLに溶解し、N2ガスを10分間パージし、反応フラスコに添加した。反応混合物を、窒素下、20分間撹拌し、その後、触媒(Ph3P)4Pd 3mg(4μmol)を添加した。反応混合物を激しく撹拌し、90℃で18時間還流させると、その間に、反応混合物が高粘性となった。その後、ブロモベンゼン(0.10mL、0.70mmol)を添加し、10時間後、フェニルエチレンボロネート(0.30mL、2.4mmol)をエンドキャッピング剤として添加した。5時間後、反応混合物をメタノール300mL中に注ぎ入れ、沈澱したポリマーを収集すると、0.3gの黄色の繊維状生成物が得られた。その後、ポリマーをトルエン中に繰り返し溶解しメタノールで沈澱させることにより注意深く精製すると、イオン性不純物および触媒残渣が除去された。この手順により得られたBTの数平均分子量および重量平均分子量(MnおよびMw)を、GPCにより溶離剤としてTHF、およびポリスチレン標準を使用して決定すると、それぞれ、143,000および269,000であった(多分散性=1.88)。

【0047】
実施例3
TPDSi2自己組織化単分子層(SAM)の作製手順
清浄なITO基板を最初にO2プラズマで3分間処理し、その後、乾いた清浄なSchlenkフラスコに移した。厳密なSchlenkプロトコルに従い、Schlenkフラスコを火炎またはヒートガンを用いてさらに乾燥させ、続いて、シリンジによりTPDSi2の1.0mM乾燥トルエン溶液をSchlenkフラスコに添加した。ITO基板を95℃まで(〜95℃)のTPDSi2溶液に40分間浸漬させ、その後、無水トルエンを用いて3度すすぎ、超音波処理した。次に、基板を水/アセトン混合物(1:100)に超音波処理をしながら5分間浸漬させ、その後、120℃オーブンに30分間移した。シリル誘導体化TPDおよびTAAを前記用途、ならびに文献で記述したように調製する。
J.Cui, Q. Huang, J.G.C. Veinot, H. Yan、およびT.J. Marks, Adv. Mater. 14, 565(2002); およびJ.Cui, Q. Huang, Q. Wang, およびT.J. Marks, Langmuir 17, 2051-2054(2001)を参照のこと。
【0048】
実施例4
X線鏡面反射率測定
コート単結晶Si(111)基板上でX線鏡面反射率実験を、National Synchrotron Light SourceのNaval Research Laboratory X23Bビームラインで実施した。この測定手順およびその後のデータ解析の詳細は他の箇所で記述されている(Cui, J.; Huang, Q.;Wang, Q.;Marks, T.J.Langmuir 2001, 17, 2051-2054。Cui, J.; Huang, Q.;Veinot, J.C.G.;Yan, H.;Wang, Q.;Hutchinson, G.R.;Richter, A.G.;Evmenenko, G.;Dutta, P.;Marks, T.J.Langmuir 2002,18, 9958-9970。Roscoe, S.B.;Kakkar, A.K.;Marks, T.J.; Malik, A.; Durbin, M.K.; Lin, W.P.; Wong, G.K.; Dutta, P. Langmuir 1996, 12, 4218-4223。Malik, A.; Lin, W.; Durbin, M.K.; Marks, T.J.; Dutta, P.J. Chem. Phys. 1997, 107, 645-652)。
【0049】
実施例5
従来のPEDOT-PSS HTLの堆積
本発明と比較する目的で、PEDOT-PSSの堆積のために、ITO基板を最初に、上記で記述した標準有機溶媒/超音波処置手順を使用して洗浄し、その後、酸素プラズマ処理により清浄にし、その後直ちに、市販のPEDOT-PSS溶液をITO上に3000rpmまで(〜3000rpm)でスピンコーティングした。得られた膜をその後、ホットプレート上、空気中、150-200℃まで(〜150-200℃)で10分間硬化させ、不活性雰囲気グローブボックス中で保存し、その後TPDSi2+TFBブレンドまたはEMLを堆積させた。
【0050】
実施例6a
スピンコートしたTPDSi2+TFBブレンド膜の堆積
TPDSi2+TFBブレンドコーティングの堆積では、標準有機溶媒/または超音波処理手順を用いて、ITO基板を清浄にしたが、普通の酸素プラズマ処理は必要ないと考えられた。無水トルエンに溶解したTPDSi2およびTFB溶液(それぞれ2.5mg/mLまで(〜2.5mg/mL)の濃度)を最初、不活性雰囲気グローブボックス(O2および湿度レベル1ppm未満)中で調製し、その後ブレンドした(TPDSi2:TFBの質量比=1:1)。ブレンド溶液をグローブボックスから、密閉シリンジを使用して移動させ、その後、清浄なITO基板上に3000rpmまで(〜3000rpm)でスピンコートした(TPDSi2+TFBの膜厚15nmまで(〜15nm))。得られた膜を90℃まで(〜90℃)、真空オーブン(15 Torr)で0.5時間乾燥させ、任意で、グローブボックス中に貯蔵し、その後放出層(EML)をスピンコーティングした。
【0051】
実施例6b
限定はされないが約3:1〜約1:3の範囲の、異なるTPD-Si2/TFBブレンド比を有するTPD-Si2/TFB HTLを使用すると、PLED装置性能の結果は全て、PEDOT系装置と同等であり、またはそれより優れていた。同様に、本発明のより広範な局面に従い、TPD-Si2以外のシランおよびTFB以外のポリマーを有する組成ブレンド、例えば、TAA/TFBブレンド、TPD-Si2/ポリスチレンブレンド、およびポリ(N-ビニルカルバゾール)とのシリル化TPDまたはTAAなども使用したが、得られたPLED装置性能は全て、PEDOT系装置と同等であり、またはそれより優れていた。さらに、これらの新規HTLを、他の波長を発光するPLED、例えばポリ(9,9-ジオクチルフルオレン)(PFO)の放出層に基づく青色発光PLEDで試験すると、対応するPLED性能において同等の増強が得られた。とにかく、そのような組成物の電気特性(例えば、HOMOレベル)は、異なるポリマー成分を様々なシリル化成分とブレンドし、放出層ポリマーの電気特性を近似またはマッチさせることにより調整することができる。同様に、使用したシリル化成分の量を変動させ、アノード基板とのシロキサン結合を調整することができ、分子間架橋により、強い基板接着が得られ、得られた膜はスピンコート溶媒に対し不溶になる。
【0052】
実施例7
TPDSi2+TFBブレンド膜の溶解度試験
TPDSi2+TFBブレンド膜(1:1質量比)の光吸収スペクトルをVarian Cary 1E UV-Visible分光光度計を用いて記録した。キシレン(1mLまで(〜1mL)、EMLスピンコーティングのための溶媒)を前記手順により調製したTPDSi2+TFBブレンド膜上にスピンコートし、真空オーブン内、90℃で5分間乾燥させた。キシレンスピンコーティング前後の同じTPDSi2+TFBブレンド膜の光吸収スペクトルを、同じ分光計および同じ機器セットアップを使用して、同じブランク基板に対し測定し、比較した。
【0053】
実施例8
PLED装置作製
TPDSi2 SAM、ブレンドHTL、および二重層HTLを用いて、2つのシリーズのPLED装置を作製した。PEDOT-PSSに基づくPLEDもまた対照として作製した。EMLとしてTFB+BT(1:4)を使用した第1のシリーズは、TFB-BT系シリーズと呼び;装置構造は、ITO/HTL/TFB+BT(1:4)ブレンド(70nm)/Ca(10nm)/Al(100nm)である。EMLとしてBTを使用する第2の装置シリーズはBT系シリーズと呼ばれ;装置構造はITO/HTL/BT(70nm)/Ca(10nm)/Al(100nm)である。調べた構造を図2にまとめて示す。HTLコート基板上にキシレン溶液からEMLをスピンコートすると、ステッププロフィロメトリーにより測定すると70nmまで(〜70nm)の厚さのEMLが得られた。その後、得られた膜を真空オーブン内、90℃(〜90℃)で一晩中乾燥させ、その後、グローブボックスに入れた。不活性雰囲気グローブボックスの内部で、10-6 Torr未満の真空下、10mm2の電極領域を規定するためにシャドウマスクを使用して、EML上にCaを熱蒸着させ、続いて、保護層としてAlを堆積させた。得られたPLED装置について、密閉アルミニウム試料容器内で、乾燥窒素雰囲気下、コンピュータ制御したKeithley 2400源計器および、較正珪素光検出器を備えたIL 1700 Research Radiometerを用いてキャラクタリゼーションを実施した。
【0054】
実施例9
正孔オンリー装置作製
ITO/HTL/TFB(75nm)/Au(14nm)/Al(120nm)構造の一連の正孔オンリー装置もまた、記述した堆積手順を用いて作製した。本発明の正孔オンリー装置のI-V応答については、同じコンピュータ制御Keithley 2400源計器を用いてプローブステーションでキャラクタリゼーションを実施した。
【0055】
実施例10
ITOまたはPEDOT-PSSコートITO基板上でのTPDSi2 SAMおよびTPDSi2+TFBブレンド膜に対する表面キャラクタリゼーション結果
TPDSi2 SAM、TPDSi2+TFBブレンドHTL、および二重層HTL(図2)に基づくPLEDの装置応答特性を、支配的な電子輸送または均衡がとれた正孔および電子輸送を有するEMLを用いて比較する。従来のPEDOT-PSS HTLを有するPLED装置もまた作製し、対照として調べた。最後に様々なHTLの正孔注入能力を評価し、正孔オンリー装置を用いて比較する。
【0056】
実施例10a
TPDSi2 SAMのキャラクタリゼーション
TPDSi2 SAM修飾ITOのUPSキャラクタリゼーションにより、この分子修飾物質により導入される真空レベルのシフトに対する較正後、共有結合により結合されたトリアリールアミンに対するIPは約5.2eVであること(図3)、HOMOメジアンエネルギーは約6.1eVであることが示された。TPDSi2 SAM修飾時の真空レベルシフト/界面双極子生成は+0.1eVまで(〜+0.1eV)であることが決定され、これにより、原則的には、固有正孔注入障壁が減少し、これにより正孔注入が増強されるはずである。対照的に、裸ITOの仕事関数は4.5eVであることがわかっており、一般に文献値と一致する。
【0057】
単結晶Si(111)基板上で堆積させたTPDSi2 SAMに対するX線反射率(XRR)測定により、1.77nmの厚さ(近似AM1-レベル計算により評価すると1.44nmまで(〜1.44nm)の値に近い、図1)が得られ、ほとんどのTPDSi2分子がおおよそ「垂直」方向で基板上に化学吸着されることが示唆される(図1)。
【0058】
TPDSi2 SAM修飾ITOの前進水接触角は80°であり、清浄なITO、ITO/PEDOT-PSS、およびTFB表面に対する関連角度はそれぞれ0〜20°、30°および90°である。当技術分野では、電子輸送層表面エネルギーマッチングが有機LEDの応答特性において重要な役割を果たすことが一般に認められる。親水性ITOと疎水性ポリマーとの間の表面エネルギーミスマッチは、ITO/ポリマー界面でよくない物理-電子接触を引き起こし、このため、不十分なアノード正孔注入および熱的不安定性を引き起こす可能性がある。ITOアノードをTPDSi2 SAMで修飾すると、ITO/ポリマー界面での表面エネルギーミスマッチを減少させ、PLEDアノード正孔注入を促進する可能性がある。従来の研究により、修飾により小分子正孔輸送構造への正孔注入が増強されることが示されているからである。
【0059】
実施例10b
ITO上でのTPDSi2+TFBブレンドのキャラクタリゼーション
ITO基板上でのTPDSi2+TFBブレンド(1:1質量比)の光吸収スペクトルを、キシレンですすぐ前後で記録した。図4Aでは、架橋TPDSi2+TFB HTL上へのキシレン(EMLの堆積のための溶媒)のスピンコーティング後、TPDSi2+TFB膜の光吸収は本質的に変わらないままであり、これにより、EMLのスピンコーティングに課せられる条件下での、硬化TPDSi2+TFBブレンドの不溶性が示される。しかしながら、ブレンド中に架橋可能なTPDSi2がないと、TFB-オンリーHTLはキシレンスピンコーティングにより容易に溶解する(図4B)。
【0060】
TPDSi2+TFBブレンド膜の組成物を、XPSによっても調べた。PEDOT-PSSなどの従来のPLED HTLに対する重要な問題点は、その溶液が1まで(〜1)のpH値を有することであり、ITOは酸性水溶液による腐食に対し感受性があることがわかっている。実際、PEDOT-PSSはITOとの反応を受けること、HTLおよびEML構造中にインジウム汚染を導入することが示されている。ここで、XPSを使用して、鋳造後のITO基板上のPEDOT-PSSおよびTPDSi2+TFBブレンドの膜組成を研究し、その後オーブン(120℃)で、空気下、1週間加熱した。PEDOT-PSS中の最終インジウム組成を決定すると1.5%まで(〜1.5%)であり、TPDSi2+TFB膜中では、機器検出限界よりも低かった(インジウムに対し0.05原子%未満)。ITO上のPEDOT-PSSおよびTPDSi2+TFBブレンド膜のXPSスペクトルを図5で比較する。
【0061】
同様の溶解度試験では、PEDOT-PSSコートITO上のTPDSi2+TFBブレンドもまた、キシレンスピンコーティング手順下では不溶性であることが証明されている。さらに、XPS測定により、空気中120℃で1週間加熱した後、PEDOT-PSSコートITO上のTPDSi2+TFBブレンド膜中のインジウム汚染はごくわずかであることが証明されている。
【0062】
実施例11
表面形態研究
図2の概略図について説明すると、TPDSi2 SAM(膜1)、TPDSi2+TFBブレンドHTL(膜2)、二重層HTL(膜3)、PEDOT-PSS HTL(膜4)および裸ITO基板(膜5)の表面形態を接触モードAFMにより研究した。本発明のITO基板のRMS粗さをAFMにより決定すると3.0〜4.0nmであった。膜1、2、3、および4のRMS粗さを決定すると、それぞれ、3.9nm、1.7nm、1.0nm、および1.1nmであり、膜1、2、3、および4の膜厚を表面プロフィロメトリーにより決定すると、それぞれ、1.8nm、15nm、60nm、および45nmであった。このように、TPDSi2 SAMはITO上ではTPDSi2分子の共形被覆を提供するが、有意の平坦化効果を有さないことが明確にわかる。対照的に、ブレンドHTLはITO上でかなりの平坦化を達成するが、二重層HTLおよびPEDOT-PSS HTLにより得られる平坦化が依然としてより大きい。
【0063】
実施例12
EMLとしてTFB+BTブレンドを有する膜1、2、3、および4を基本とするPLED装置の応答比較
膜1、2、3、および4上で作製したBT系PLEDの応答特性を、図6Aおよび6Bにおいて、それぞれ輝度-電圧(L-V)および電流効率-電圧(CE-V)特性に対し比較する。二重層HTL系装置(ITO/PEDOT-PSS/TPDSi2+TFBブレンド)は最も優れた性能を示す:2.3Vまで(〜2.3V)で作動し、5〜6Vで17cd/Aまで(〜17cd/A)の最大電流効率に到達する。二重層HTLおよびブレンドHTL系装置は、2A/cm2もの高さの電流密度に耐えることができ、この電流密度レベルでは、装置は140,000cd/m2まで(〜140,000cd/m2)の最大輝度を示し、依然として13cd/Aもの高さの電流効率を示す。HTLとしてPEDOT-PSSを備える対照装置と比較して、本発明の二重層HTLおよびブレンドHTL系装置はそれぞれ、70%および40%高い電流効率、ならびに2倍高い最大光出力を示す。
【0064】
実施例13
正孔オンリー装置により評価した構造1、2、3、4、および5の正孔注入能力の比較
膜1、2、3、4、および5を用いて作製したTFB系正孔オンリー装置の電流密度対電場特性を図7で比較する。構造1、2、3および4に基づく装置の正孔注入フルエンスは、裸ITO系装置よりも50〜200倍高い。これらのデータから、TPDSi2 SAM、ブレンドHTL、および二重層HTLは全て、裸ITOアノードに比べ100倍まで(〜100倍)高い正孔注入およびPEDOT-PSS HTLと比べ同等の正孔注入を提供する。
【0065】
実施例14
EMLとしてのBTを有する構造1、2、3、4、および5を基本とする装置の応答比較
HOMOおよびLUMOエネルギーにより暗示されるように(図3)、BTは高電子支配発光ポリマーである。そのため、BT/Ca系PLED装置では、HTL/EML界面に到達する実質的なカソードから発生する電子電流が存在し、BT/Ca系PLED装置はそのため、HTL/EML界面でHTLの電子ブロッキング特性を評価するための従来モデルである。構造1、2、3、4、および5を使用したBT系装置の応答特性を図8A、8Bおよび8Cにおいて、それぞれ、輝度-電圧(L-V)、電流効率-電圧(CE-V)、および電流密度-電圧(I-V)応答に対し比較する。膜1、2、3、4、および5を用いて作製した本発明のBT系装置のターンオン電圧はそれぞれ、3.1、3.5、4.3、5.5および10Vである(ターンオン電圧は、装置が1cd/m2まで(〜1cd/m2)の輝度に到達するのに必要とされる電圧として規定される)。最も効率の高いブレンドHTL系装置は、6〜8V範囲で10〜11cd/Aの電流効率を達成し、最も効率の高い二重層HTL系装置は6〜8V範囲で15〜17cd/Aの電流効率を示す。最大電流効率のこれらの値は、裸ITO系装置の値よりも1000倍まで(〜1000倍)高い。さらに、HTLとしてPEDOT-PSSのみを有する装置と比較して、本発明のブレンドHTLおよび二重層HTL系装置は10倍まで(〜10倍)高い電流効率を示し、これはHTL/EML界面での効果的な電子ブロッキングによることは明確である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】従来の小分子、ならびに本発明による、OLEDおよびPLEDを作製するために現在使用されているポリマー材料の化学構造を示す図である。
【図2】対応するPLED装置構造を作製する際に使用するアノード/HTL構成を示す図である。
【図3】本発明の使用により得られる有利なエネルギー関係を示す、PLED成分の比較HOMO-LUMOエネルギー図である。
【図4】キシレン溶解度試験前後の(A)TPDSi2+TFB HTLおよび(B)TFBのみの膜の光吸収を示す図である。記号:点線はすすぎ前、実線はすすぎ後を示す。
【図5】300Wの動作電力の1486.6eV単色A1Kα放射を用いた(A)ITO/TPDSi2+TFBブレンドおよび(B)ITO/PEDOT-PSSのXPSスペクトルである。
【図6】ITO/HTL/TFB+BTブレンド/Ca/Al構造を有するPLED装置での、動作電圧の関数としての(A)光出力-電圧特性、(B)電流効率-電圧特性を示す図である。比較したHTLは、1、四角:TPDSi2 SAM; 2、黒丸:ブレンドHTL;3、三角:二重層HTL;4、菱形:PEDOT-PSSとする(参考のために、データ点を通る線を引く)。
【図7】ITO/HTL/TFB/Au/Al構造を有する正孔オンリー装置に対する電流密度対電場応答を示す図である。比較したHTLは、1、四角:TPDSi2 SAM; 2、黒丸:ブレンドHTL;3、三角:二重層HTL;4、菱形:PEDOT-PSS;5、白丸、裸ITOとする(参考のために、データ点を通る線を引く)。
【図8】ITO/HTL/BT/Ca/Al構造を有する装置での、駆動電圧の関数としての(A)光出力-電圧特性、(B)電流効率-電圧特性、(C)電流密度-電圧特性を示す図である。比較したHTLは、1、四角:TPDSi2 SAM; 2、黒丸:ブレンドHTL;3、三角:二重層HTL;4、菱形:PEDOT-PSS;5、白丸、裸ITOとする(参考のために、データ点を通る線を引く)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー正孔輸送成分および下記から選択される化学式のシリル化アリールアミン成分を含む正孔輸送組成物:

式中、Arはアリーレンであり;nは1〜約4の範囲の整数であり;R1〜R7は、HおよびC1〜約C6の範囲のアルキル部分から独立して選択され、該部分のそれぞれは加水分解性シリル基を含み、ここで、R1〜R3の少なくとも1つおよびR4〜R7の少なくとも1つは該アルキル部分の一つである。
【請求項2】
R1〜R7が、トリハロシリルおよびトリアルコキシシリルから選択される官能基を含むC1〜C6アルキル部分から選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
Arがフェニルであり、かつnが2である、請求項2記載の化合物。
【請求項4】
R1〜R7が、アルキルトリハロシリルおよびアルキルトリアルコキシシリル部分から独立して選択される、請求項2記載の化合物。
【請求項5】
R1〜R3の1つがプロピルトリクロロシリル部分であり、R4〜R7の1つがプロピルトリクロロシリル部分である、請求項4記載の化合物。
【請求項6】
Arがフェニルであり、かつnが2である、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
ポリマー成分がポリ(フルオレン)である、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
ポリマー成分が、TFB、BTおよびそれらの化合物から選択される、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
シリル化アリールアミン成分がTAASi3およびTPDSi2から選択される、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
ポリマー成分が、TFB、BTおよびそれらの化合物から選択される、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
アリールアミン成分が基板上で縮合される、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
1つのアリールアミン成分が、シロキサン結合により別の該アリールアミン成分に架橋される、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
装置のアノード上に正孔輸送ポリマーを含む、ポリマー発光ダイオード装置における請求項1記載の組成物。
【請求項14】
ポリマーがPEDOT-PSSである、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
装置の放出層が、正孔輸送組成物のポリマー成分を含むポリマーである、請求項13記載の組成物。
【請求項16】
TFB、BTおよびそれらの化合物から選択されるポリマー成分;および下記化学式のシリル化アリールアミン成分を含む正孔輸送組成物:

式中、R4〜R7は、HおよびC1〜約C6の範囲のアルキル部分から独立して選択され、該アルキル部分のそれぞれは加水分解性シリル基をさらに含み、ここで、R4〜R7の少なくとも1つは該アルキル部分の一つである。
【請求項17】
R4〜R7の各々が、C2〜C4アルキル部分を含む、請求項16記載の組成物。
【請求項18】
R4およびR5の各々がHであり、R6およびR7の各々がC2〜C4アルキル部分を含む、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
R6およびR7部分の各々がさらに、ハロシリルおよびアルコキシシリルから選択されるシリル基を含む、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
ポリマー成分がTFBを含む、請求項16記載の組成物。
【請求項21】
R4およびR5の各々がHであり、R6およびR7の各々がC2〜C4アルキル部分を含む、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
アリールアミン成分がTPDSi2である、請求項21記載の組成物。
【請求項23】
ポリマー発光ダイオード装置における請求項21記載の組成物。
【請求項24】
正孔輸送ポリマーが組成物と装置のアノードとの間に配置される、請求項22記載の組成物。
【請求項25】
ポリマーがPEDOT-PSSであり、アリールアミン成分がTPDSi2であり、および装置の放出層がTFBを含む、請求項24記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−517384(P2007−517384A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544011(P2006−544011)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/041386
【国際公開番号】WO2005/060624
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(596057893)ノースウエスタン ユニバーシティ (35)
【Fターム(参考)】