説明

正極活物質、これを採用した正極及びリチウム電池、並びにその製造方法

【課題】正極活物質、これを採用した正極及びリチウム電池、並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】一次粒子の直径が1μm以上であり、X線回折ピーク強度のI(111)/I(311)が1.0以上であるスピネル構造を有するリチウムマンガン酸化物と、該一次粒子の内部及び表面のうち一つ以上に配されたホウ素元素と、を含む正極活物質である。前記一次粒子直径が5ないし10μmであり、前記X線回折ピーク強度のI(111)/I(311)が、1.5ないし3.0であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質、これを採用した正極及びリチウム電池、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池用正極活物質として、LiNiO、LiCoO、LiMn、LiFePO、LiNiCo1−x(0≦x≦1)、LiNi1−x−yCoMn(0≦x≦0.5、0≦y≦0.5)などの遷移金属化合物、あるいはそれらとリチウムとの酸化物が使われる。
【0003】
リチウムコバルト酸化物、例えば、LiCoOは、比較的高価であり、実質的な電気容量が約140mAh/gであり、制限的な電気容量を有する。そして、前記LiCoOは、充電電圧を4.2V以上に上昇させれば、リチウムが50%以上除去され、電池内でLi1−xCoO(1>x>0.5)形態で存在する。前記Li1−xCoO(1>x>0.5)形態の酸化物は、構造的に不安定であり、充放電サイクルが進むにつれて、電気容量が急激に減少する。
【0004】
前記リチウムコバルト酸化物で、コバルトの一部が、他の遷移金属で置換された化合物、例えば、LiNiCo1−x(x=1,2)またはLiNi1−x−yCoMn(0≦x≦0.5、0≦y≦0.5)は、高温でスウェリング抑制特性に劣る。
【0005】
リチウムマンガン酸化物、例えば、LiMnは、低価であり、常温安定性に優れる。一般的に、リチウムマンガン酸化物は、高温で、固相反応法、溶融塩法などで製造される。高温で製造されるリチウムマンガン酸化物は、不安定な構造を有する。一方、低温で製造されるリチウムマンガン酸化物は、一次粒子の直径が縮小し、比表面積が増大するにつれて、高温充放電時に、サイクル特性、安定性などが低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、増大した粒径を有する新規の正極活物質を提供するものである。
【0007】
本発明はまた、前記正極活物質を含む正極を提供するものである。
【0008】
本発明はまた、前記正極を採用したリチウム電池を提供するものである。
【0009】
本発明はまた、前記正極活物質の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一側面によると、一次粒子の直径が1μm以上であり、X線回折ピーク強度のI(111)/I(311)が1.0以上であるスピネル構造を有するリチウムマンガン酸化物と、前記一次粒子の内部及び表面のうち一つ以上に配されたホウ素元素と、を含む正極活物質が提供される。
【0011】
他の一側面によると、前記正極活物質を含む正極が提供される。
【0012】
さらに他の一側面によると、前記正極を採用したリチウム電池が提供される。
【0013】
さらに他の一側面によると、リチウム前駆体、マンガン前駆体、ホウ素系化合物及び選択的にドーパント前駆体を混合して混合物を準備する段階と、前記混合物を700ないし900℃の温度で焼成する段階と、を含む正極活物質の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、増大した一次粒子直径を有する新規の正極活物質を含むことによって、リチウム電池の高温サイクル特性及び高温安定性が向上しうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】実施例1で製造された正極活物質粉末に係るXRDスペクトルである。
【図1B】比較例1で製造された正極活物質粉末に係るXRDスペクトルである。
【図2A】実施例1で製造された正極活物質粉末に係るSEMイメージである。
【図2B】比較例1で製造された正極活物質粉末に係るSEMイメージである。
【図3】一実施形態によるリチウム電池の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、例示的な実施形態による正極活物質、これを含む正極、前記正極を採用したリチウム電池及び前記正極活物質の製造方法について、さらに詳細に説明する。
【0017】
一実施形態による正極活物質は、一次粒子の直径が1μm以上であり、X線回折(XRD:X−ray diffraction)ピーク強度のI(111)/I(311)が1.0以上であるスピネル構造を有するリチウムマンガン酸化物と、前記一次粒子の内部及び表面のうち一つ以上に配されたホウ素元素と、を含む。
【0018】
前記正極活物質は、図1Aから分かるように、XRDスペクトルで、ブラッグ2θ角18.5±1°で示される(111)結晶面に係るピーク、ブラッグ2θ角36.2±0.2°で示される(311)結晶面に係るピークを示す。前記(111)結晶面に係るピークと、(311)結晶面に係るピークとの強度比であるI(111)/I(311)が1.0以上である。例えば、前記I(111)/I(311)が1.0ないし3.0である。例えば、前記I(111)/I(311)が1.5ないし3.0である。例えば、前記I(111)/I(311)が2.0ないし3.0である。
【0019】
また、前記正極活物質は、リチウムマンガン酸化物一次粒子の内部または表面に、ホウ素元素をさらに含む。前記ホウ素元素は、前記正極活物質の製造過程で使われるホウ素系化合物の残留物である。
【0020】
前記正極活物質は、リチウムマンガン酸化物一次粒子の粒径が増大することによって、リチウムマンガン酸化物の結晶性が向上しうる。前記リチウムマンガン酸化物は、一部または全部が結晶性である。前記リチウムマンガン酸化物が向上した結晶性を有することによって、前記正極活物質を含む電池の充放電特性が向上しうる。また、Mn溶出が抑制され、高温充放電特性及び高温安定性が向上しうる。
【0021】
前記リチウムマンガン酸化物一次粒子の粒径は、5μm以上である。例えば、前記リチウムマンガン酸化物一次粒径は、6μm以上である。例えば、前記リチウムマンガン酸化物一次粒子粒径が、5ないし20μmである。例えば、前記リチウムマンガン酸化物一次粒子粒径が、5ないし10μmである。例えば、前記リチウムマンガン酸化物の一次粒子直径が、6ないし10μmである。前記5μm以上の一次粒子粒径の範囲で、さらに向上した充放電特性及び高温安定性が得られる。
【0022】
前記正極活物質は、XRDスペクトルで、前記リチウムマンガン酸化物のCuK−アルファ(α)特性X線波長1.541Åに係るブラッグ2θ角の36.2±0.2°で示されるピークの半値幅(FWHM:full width at half maximum)が0.6以下である。すなわち、結晶性が低いか、又は非晶質であるリチウムマンガン酸化物に比べて、シャープなピーク形態を示すものである。例えば、前記半値幅は、0.01ないし0.6である。例えば、前記半値幅は、0.2ないし0.5である。例えば、前記半値幅は、0.2ないし0.4である。例えば、前記半値幅は、0.25ないし0.35である。
【0023】
前記正極活物質の比表面積は、0.2ないし1.3m/gである。前記比表面積の範囲で、向上した充放電特性及び高温安定性が得られる。
【0024】
前記リチウムマンガン酸化物の二次粒子の平均粒径(D50)は、10ないし20μmである。前記二次粒子は、複数の一次粒子が結合した挙動粒子を意味する。前記二次粒子の平均粒径(D50)は、レーザ式粒度分布測定装置で測定されうる。前記平均粒径の範囲で、向上した充放電特性及び高温安定性が得られる。
【0025】
前記一次粒子の内部、表面またはそれらのいずれにも配されるホウ素元素の含有量は、正極活物質総重量の1ないし2,000ppmである。例えば、前記ホウ素元素の含有量は、100ないし2,000ppmである。例えば、前記ホウ素元素の含有量は、400ないし1,800ppmである。例えば、前記ホウ素元素の含有量は、400ないし1,000ppmである。例えば、前記ホウ素元素の含有量は、400ないし800ppmである。
【0026】
前記リチウムマンガン酸化物は、下記化学式1で表示される。
【0027】
LiMn2−y(化学式1)
前記化学式1で、0.9≦x≦1.4、0≦y≦1であり、前記Mが、Al、Co、Ni、Cr、Fe、Zn、Mg及びLiからなる群から選択された一つ以上の金属である。
【0028】
例えば、前記リチウムマンガン酸化物は、下記化学式2で表示される。
【0029】
LiMn2−yAl(化学式2)
前記化学式2で、0.9≦x≦1.4、0≦y≦1である。
【0030】
例えば、前記リチウムマンガン酸化物は、LiMn、又はLiMn2−bAl(0.9≦a≦1.2、0≦b≦0.2である。
【0031】
他の実施形態による正極は、前記正極活物質を含む。前記正極は、例えば、前記正極活物質及び結着剤などを含む正極活物質組成物が、一定の形状で成形されるか、又は、前記正極活物質組成物が銅箔、アルミ箔のような集電体に塗布される方法で製造されうる。
【0032】
具体的には、前記正極活物質、導電材料、結合剤及び溶媒が混合された正極活物質組成物を準備する。前記正極活物質組成物が金属集電体上に直接コーティングされ、正極板が製造される。代案としては、前記正極活物質組成物が別途の支持体上にキャスティングされた後、前記支持体から剥離されたフィルムが金属集電体上にラミネートされて正極板が製造されうる。前記正極は、前記で列挙した形態に限定されるものではなく、前記形態以外の形態でも可能である。
【0033】
前記導電材料としては、カーボンブラック、黒鉛微粒子などが使われるが、それらに限定されるものではなく、当技術分野で導電材料として使われるものであるならば、いずれも使われる。
【0034】
前記結合剤としては、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン・コポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、及びその混合物、またはスチレンブタジエンゴム系ポリマーなどが使われるが、それらに限定されるものではなく、当技術分野で結合剤として使われるものであるならば、いずれも使われる。
【0035】
前記溶媒としては、N−メチルピロリドン、アセトンまたは水などが使われるが、それらに限定されるものではなく、当技術分野で使われるものであるならば、いずれも使われる。
【0036】
前記正極活物質、導電材料、結合剤及び溶媒の含有量は、リチウム電池で一般的に使われるレベルである。リチウム電池の用途及び構成によって、前記導電材料、結合材及び溶媒のうち一つ以上が省略されうる。
【0037】
さらに他の実施形態によるリチウム電池は、前記正極活物質を含む正極を採用する。前記リチウム電池は、次のような方法で製造されうる。
【0038】
まず、前記の正極製造方法によって正極が製造される。
【0039】
次に、負極活物質、導電材料、結合剤及び溶媒を混合し、負極活物質組成物を準備する。前記負極活物質組成物が金属集電体上に直接コーティングされて乾燥され、負極板が製造される。代案としては、前記負極活物質組成物が別途の支持体上にキャスティングされた後、前記支持体から剥離されたフィルムが金属集電体上にラミネートされ、負極板が製造されうる。
【0040】
前記負極活物質は、リチウムの吸蔵/放出が可能な化合物であり、当技術分野で、負極活物質として使用可能であるものであるならば、いずれも使われる。例えば、リチウム金属、リチウム合金、炭素材、グラファイト、またはそれらの混合物などが使われる。
【0041】
負極活物質組成物で、導電材料、結合剤及び溶媒は、前記正極活物質組成物の場合と同じものを使用することができる。一方、前記正極活物質組成物及び/または負極活物質組成物に可塑剤をさらに付加し、電極板内部に気孔を形成することも可能である。
【0042】
前記負極活物質、導電材料、結合剤及び溶媒の含有量は、リチウム電池で一般的に使用するレベルである。リチウム電池の用途及び構成によって、前記導電材料、結合剤及び溶媒のうち一つ以上が省略されうる。
【0043】
次に、前記正極と負極との間に挿入されるセパレータを準備する。前記セパレータは、リチウム電池で一般的に使われるものであるならば、いずれも使われる。電解質のイオン流動に対して低抵抗でありつつ、電解液の含湿能に優れるものが使われる。例えば、ガラスファイバ、ポリエステル、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、またはそれらの化合物のうちから選択されたものであり、不織布状または織布状であってもよい。例えば、リチウムイオン電池には、ポリエチレン、ポリプロピレンのような巻き取り可能なセパレータが使われ、リチウムイオンポリマー電池には、有機電解液含浸能に優れるセパレータが使われる。例えば、前記セパレータは、下記方法によって製造されうる。
【0044】
高分子樹脂、充填剤及び溶媒を混合し、セパレータ組成物を準備する。前記セパレータ組成物が、電極上部に直接コーティング及び乾燥され、セパレータが形成されうる。または、前記セパレータ組成物が支持体上にキャスティング及び乾燥された後、前記支持体から剥離されたセパレータ・フィルムが電極上部にラミネートされ、セパレータが形成されうる。
【0045】
前記セパレータ製造に使われる高分子樹脂は、特別に限定されるものではなく、電極板の結合材に使われる物質がいずれも使われる。例えば、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン・コポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレートまたはそれらの混合物などが使われる。
【0046】
次に、電解質を準備する。
【0047】
例えば、前記電解質は、有機電解液である。また、前記電解質は、固体である。例えば、ボロン酸化物、リチウム酸窒化物などであるが、それらに限定されるものではなく、当技術分野で固体電解質として使われるものであるならば、いずれも使用可能である。前記固体電解質は、スパッタリングなどの方法で、前記負極上に形成されうる。
【0048】
例えば、有機電解液が電解質として使われうる。有機電解液は、有機溶媒にリチウム塩が溶解されて製造されうる。
【0049】
前記有機溶媒は、当技術分野で有機溶媒として使われるものであるならば、いずれも使われる。例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、ベンゾニトリル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン、ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、スルホラン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、ジエチレングリコール、ジメチルエーテル、またはそれらの混合物などである。
【0050】
前記リチウム塩も、当技術分野で、リチウム塩として使われるものであるならば、いずれも使用されうる。例えば、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiClO、LiCFSO、Li(CFSON、LiCSO、LiAlO、LiAlCl、LiN(C2x+1SO)(CyF2y+1SO)(ただし、x,yは自然数)、LiCl、LiIまたはそれらの混合物などである。
【0051】
図3から分かるように、前記リチウム電池1は、正極3、負極2及びセパレータ4を含む。前述の正極3、負極2及びセパレータ4が巻き取られたり折り畳まれたりして、電池ケース5に収容される。次に、前記電池ケース5に有機電解液が注入され、キャップ・アセンブリ6で密封され、リチウム電池1が完成される。前記電池ケースは、円筒形、角形、薄膜型などである。例えば、前記リチウム電池は、薄膜型電池である。前記リチウム電池は、リチウムイオン電池である。
【0052】
前記正極と負極との間にセパレータが配され、電池構造体が形成されうる。前記電池構造体がバイセル構造に積層された後、有機電解液に含浸され、得られた結果物がポーチに収容されて密封されれば、リチウムイオンポリマー電池が完成される。
【0053】
また、前記電池構造体は、複数個積層されて電池パックを形成し、このような電池パックが高容量及び高出力が要求されるあらゆる機器に使われる。例えば、ノート型パソコン、スマートフォン、電気自動車(EV:electric vehicle、EV)などに使われる。
【0054】
特に、前記リチウム電池は、高温充放電特性及び高温安定性に優れるので、電気自動車に適している。例えば、プラグイン・ハイブリッド自動車(PHEV:plug-in hybrid electric vehicle)などのハイブリッド自動車に適している。
【0055】
さらに他の実施形態による正極活物質の製造方法は、リチウム前駆体、マンガン前駆体、ホウ素系化合物及び選択的にドーパント前駆体を混合して混合物を準備する段階と、前記混合物を700ないし900℃の温度で焼成する段階と、を含む。
【0056】
前記製造方法で、ホウ素系化合物を添加することによって、低い焼成温度でも、増大した粒径及び結晶性を有する活物質粉末が製造されうる。
【0057】
前記製造方法は、リチウム前駆体、マンガン前駆体及びホウ素系化合物を混合する混合物を準備し、前記混合物に、択一的にドーパント前駆体をさらに添加して準備する。
【0058】
すなわち、前記製造方法で、マンガン前駆体とドーパント前駆体とが別途に混合される段階を含まない。
【0059】
前記混合物で、前記ホウ素系化合物の含有量は、前記混合物総重量の0.1ないし10重量%である。例えば、前記ホウ素系化合物の含有量は、0.5ないし10重量%である。例えば、前記ホウ素系化合物の含有量は、0.5ないし5重量%である。例えば、前記ホウ素系化合物の含有量は、0.5ないし2重量%である。前記0.5重量%以上のホウ素系化合物含有量の範囲で、さらに向上した充放電特性及び高温安定性が得られる。
【0060】
前記ホウ素系化合物は、B、HBO及びLiからなる群から選択された一つ以上の化合物であるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、ホウ素元素を含む化合物であって、当技術分野で使用できるものであるならば、いずれも可能である。
【0061】
前記製造方法で、選択的に添加される前記ドーパント前駆体は、Al、Co、Ni、Cr、Fe、Zn、Mg及びLiからなる群から選択された一つ以上の金属を含む前駆体である。例えば、Alである。前記ドーパント前駆体の含有量は、前記混合物総重量の0.5ないし2.5重量%であるが、必ずしもかような範囲に限定されるものではない。
【0062】
例えば、前記製造方法で、前記焼成は、800ないし900℃で行われる。例えば、前記焼成は、700ないし800℃未満で行われる。
【0063】
前記製造方法で、前記焼成は、空気雰囲気で5ないし30時間行われる。例えば、前記焼成は、乾燥空気雰囲気で15ないし25時間行われる。
【0064】
例えば、前記正極活物質は、リチウム前駆体として、LiCO;マンガン前駆体として、MnO、MnまたはMn;ホウ素系化合物として、LiB4OまたはH3BO;選択的にMgO、NiOまたはAlなどを混合して混合物を準備した後、前記混合物を空気雰囲気で700ないし900℃の温度で、5ないし30時間焼成して製造することができる。
【0065】
以下の実施例及び比較例を介して、本発明についてさらに詳細に説明する。ただし、実施例は、本発明を例示するためのものであり、それらのみで本発明の範囲が限定されるものではない。
【0066】
[正極活物質の製造]
[実施例1:Li1.05Mn1.85Al0.1の製造]
出発物質として、炭酸リチウム(LiCO)、二酸化マンガン(MnO)、アルミナ(Al)及びホウ酸(HBO)を選定した。
【0067】
Li1.05Mn1.85Al0.1を175.81モル製造するために、Li:Mn:Alのモル比が1.05:1.85:0.1になるように、前記炭酸リチウム(LiCO)、二酸化マンガン(MnO)、アルミナ(Al)を混合し、ここにホウ酸を添加して混合物を準備した。前記混合物でホウ酸の含有量は、前記混合物総重量の0.5重量%であった。
【0068】
前記出発物質を乳鉢で混合した後、前記混合物をファーネス(furnace)に入れ、乾燥空気を流しつつ、800℃で20時間熱処理して正極活物質を製造した。前記正極活物質をファーネスでそのまま冷却させた。得られた正極活物質粉末の一次粒子の直径は、6μmであった。前記一次粒子の直径は、SEM(scanning electron microscope)写真から、平均値を測定して使用した。実施例1で製造された正極活物質一次粒子のSEM写真を図2Aに示した。
【0069】
[実施例2]
ホウ酸の含有量を0.3重量%に変更したことを除いては、実施例1と同じ方法で正極活物質一次粒子を製造した。得られた正極活物質一次粒子の粒径は、1μmであった。
【0070】
[実施例3]
ホウ酸の含有量を0.7重量%に変更したことを除いては、実施例1と同じ方法で正極活物質一次粒子を製造した。得られた正極活物質一次粒子の粒径は、8μmであった。
【0071】
[実施例4]
ホウ酸の含有量を1.0重量%に変更したことを除いては、実施例1と同じ方法で正極活物質一次粒子を製造した。得られた正極活物質一次粒子の粒径は、9μmであった。
【0072】
[実施例5]
熱処理温度を700℃に変更したことを除いては、実施例1と同じ方法で正極活物質一次粒子を製造した。得られた正極活物質一次粒子の粒径は、3μmであった。
【0073】
[実施例6]
熱処理温度を900℃に変更したことを除いては、実施例1と同じ方法で正極活物質一次粒子を製造した。得られた正極活物質一次粒子の粒径は、7μmであった。
【0074】
[比較例1]
ホウ酸を添加しないことを除いては、実施例1と同じ方法で正極活物質一次粒子を製造した。得られた正極活物質一次粒子の粒径は、0.2μmであった。比較例1で製造された正極活物質一次粒子のSEM写真を図2Bに示した。
【0075】
[比較例2]
ホウ酸の代わりにAlFを添加したことを除いては、実施例1と同じ方法で正極活物質一次粒子を製造した。得られた正極活物質一次粒子の粒径は、0.2μmであった。
【0076】
[比較例3]
窒素通気の下で、3.5モルの水酸化ナトリウムに、0.5モルの硫酸マンガンを添加し、全量を1Lとし、得られた水酸化マンガンを90℃で1時間熟成させた。熟成後、空気を通気させて90℃で酸化させ、水洗い、乾燥後に、酸化マンガン粒子粉末を得た。
【0077】
前記酸化マンガン粒子を含有する水懸濁液を、フィルタプレスを利用して、5倍量の水で水洗いした後、酸化マンガン粒子の濃度が10重量%になるように希釈させた。この懸濁液に対して、0.2モル/lのアルミン酸ナトリウム水溶液を、Mn:Al=95:5になるように、反応槽内に連続供給した。反応槽は、撹拌器で常に撹拌を行いつつ、同時に、0.2モル/lの硫酸水溶液をpH=8±0.5になるように自動供給を行い、水酸化アルミニウムで被覆された酸化マンガン粒子を含む懸濁液を得た。
【0078】
この懸濁液を、フィルタプレスを利用して酸化マンガン粒子の重量に対して、10倍の水によって水洗いした後、乾燥を行い、水酸化アルミニウムで被覆された酸化マンガン粒子を得た。
【0079】
得られた水酸化アルミニウムで被覆されたMn粒子粉末、炭酸リチウム及びホウ酸を、Li:Mn:Al=1.072:1.828:0.10、及びホウ酸中のホウ素が、Mnに対して2.0モル%の比率になるように称量し、1時間乾式混合を行い、均一混合物を得た。得られた混合物30gをアルミナるつぼに入れ、960℃、空気雰囲気で3時間維持し、正極活物質粒子粉末を得た。得られた正極活物質一次粒子の粒径は、5.0μmであった。
【0080】
[正極及びリチウム電池の製造]
[実施例7]
実施例1で合成された正極活物質粉末と、炭素導電材料(ケッチェンブラック、EC−600JD)とを、93:3の重量比で均一に混合した後、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)バインダ溶液を添加し、活物質:炭素導電材料:バインダ=93:3:4の重量比になるようにスラリを製造した。
【0081】
15μm厚のアルミニウムホイル上に、前記活物質スラリをコーティングした後、乾燥させて正極極板を作り、さらに真空乾燥させ、直径12mmのコインセル(CR2032タイプ)を製造した。
【0082】
セル製造時に、対極(counter electrode)としては、金属リチウムを使用し、セパレータとしては、ポリプロピレンセパレータ(Cellgard(登録商標)3510)を使用し、電解質としては、エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)(3:7体積比)混合溶媒に、1.3M LiPFが溶解されたものを使用した。
【0083】
[実施例8ないし12]
実施例2ないし6で合成された正極活物質粉末をそれぞれ使用したことを除いては、実施例7と同じ方法で、リチウム電池を製造した。
【0084】
[比較例4]
比較例1で合成された正極活物質粉末を使用したことを除いては、実施例7と同じ方法で、リチウム電池を製造した。
【0085】
[比較例5及び6]
比較例2及び3で合成された正極活物質粉末をそれぞれ使用したことを除いては、比較例4と同じ方法で、リチウム電池を製造した。
【0086】
[評価例1:XRD実験]
実施例1及び比較例1で製造された正極活物質粉末に対して、XRD実験を行った。実験条件は、CuK−アルファ(α)特性X線波長1.541Åであった。
【0087】
図1A及び図1Bから分かるように、実施例1及び比較例1の正極活物質一次粒子は、ブラッグ2θ角18.5±1°で示される(111)結晶面に係るピーク、ブラッグ2θ角36.2±0.2°で示される(311)結晶面に係るピークを示した。
【0088】
図1Aから分かるように、実施例1の正極活物質一次粒子は、(111)結晶面に係るピーク強度:(311)結晶面に係るピーク強度の比であるI(111)/I(311)の値が2.53であり、ブラッグ2θ角の36.2±0.2°で示されるピークの半値幅(FWHM)が0.3±0.05であった。
【0089】
これに比べ、図1Bから分かるように、比較例1の正極活物質一次粒子は、ブラッグ2θ角の36.2±0.2°で示されるピークの半値幅(FWHM)が0.7±0.05であった。
【0090】
すなわち、実施例1の正極活物質は、比較例1の正極活物質に比べ、結晶性が向上して半値幅が減少した。
【0091】
[評価例2:BET比表面積の測定]
実施例1ないし4及び比較例1及び2の正極活物質粉末に対して、BET比表面積を測定し、その結果を下記表1に示した。
【0092】
【表1】

【0093】
前記表1から分かるように、実施例1ないし6の正極活物質は、比較例1及び2の正極活物質に比べて、減少した比表面積を示した。
【0094】
[評価例3:平均粒径(D50)測定]
実施例1ないし4,6及び比較例1,2の正極活物質粉末に対して、レーザ粒度分布測定装置を使用し、体積基準の二次粒子の平均粒径(D50)を測定し、その結果を下記表2に示した。前記二次粒子(挙動粒子)は、複数の一次粒子が結合して形成された粒子を意味する。
【0095】
【表2】

【0096】
前記表2から分かるように、実施例1ないし4,6の正極活物質は、比較例1及び2の正極活物質に比べ、増大した二次粒子の平均粒径を示した。
【0097】
[評価例4:ホウ素含有量測定]
実施例1ないし4及び比較例1で製造された正極活物質粉末に含まれたホウ素元素の含有量をICP(ion coupled plasma)で測定し、その結果を下記表3に示した。
【0098】
【表3】

【0099】
表3から分かるように、実施例1ないし4の正極活物質は、400ないし2,000ppm範囲のホウ素元素を含んでいる。比較例1の正極活物質では、ホウ素が検出されていない。
【0100】
[評価例5:高温寿命特性評価]
前記実施例7ないし12及び比較例4ないし6で製造された前記コインセルに対して、25℃で、リチウム金属対比で3ないし4.3Vの電圧範囲で、0.1C rateの定電流で2回充放電させた(化成段階)。
【0101】
次に、前記コインセルを、60℃で、リチウム金属対比で、3ないし4.3Vの電圧範囲で、1C rateの定電流で100回充放電させ、その結果を下記表4に示した。
【0102】
容量維持率は、下記数式1で表示される。
【0103】
(数学式1)
容量維持率[%]=[100回目サイクルでの放電容量/最初のサイクルでの放電容量]×100
【0104】
【表4】

【0105】
前記表4から分かるように、実施例7ないし12のリチウム電池は、比較例4ないし6のリチウム電池に比べて、向上した高温寿命特性を示した。
【0106】
[評価例6:高温安定性評価]
前記実施例7ないし12及び比較例4ないし6で製造された前記コインセルに対して、25℃で、リチウム金属対比で3ないし4.3Vの電圧範囲で、0.1C rateの定電流で2回充放電させた(化成段階)。
【0107】
前記化成段階を経たリチウム電池に対して、25℃で、リチウム金属対比で4.3Vに達するまで0.1C rateの定電流で最初に充電させた後、3.0Vに達するまで、0.1C rateの定電流で最初に放電した。このときの放電容量を標準容量と仮定した。
【0108】
次に、前記リチウム電池に対して、リチウム金属対比で4.3Vに達するまで、0.1C rateの定電流で充電させた後、60℃のオーブンに入れて4週間保存した後、25℃で、リチウム金属対比で3Vに達するまで、0.1C rateの定電流で2回目の放電を行った。
【0109】
次に、前記リチウム電池に対して、リチウム金属対比で4.3Vに達するまで、0.1C rateの定電流で3回目の充電を行った後、3.0Vに達するまで、0.1C rateの定電流で3回目の放電を行った。
【0110】
前記充放電の結果を、下記表5に示した。回復率(recovery ratio)は、下記数式2で表示される。
【0111】
(数学式2)
容量回復率[%]=[3回目の放電時の放電容量/最初の放電時の放電容量(標準容量)]×100
【0112】
【表5】

【0113】
前記表5から分かるように、実施例7ないし12のリチウム電池は、比較例4ないし6のリチウム電池に比べて、高温安定性が向上した。
【符号の説明】
【0114】
1 リチウム電池
2 負極
3 陽極
4 セパレータ
5 電池ケース
6 キャップ・アセンブリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子の直径が1μm以上であり、X線回折ピーク強度のI(111)/I(311)が1.0以上であるスピネル構造を有するリチウムマンガン酸化物と、
前記一次粒子の内部及び表面のうち一つ以上に配されたホウ素元素と、を含む正極活物質。
【請求項2】
前記一次粒子直径が、5ないし10μmであることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記X線回折ピーク強度のI(111)/I(311)が、1.5ないし3.0であることを特徴とする請求項1に記載の活物質。
【請求項4】
前記リチウムマンガン酸化物のCuK−アルファ(α)特性X線波長1.541Åに係るブラッグ2θ角の36.2±0.2°で示されるピークの半値幅(FWHM)が、0.6以下であることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記リチウムマンガン酸化物の比表面積が、0.2ないし1.3m/gであることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記リチウムマンガン酸化物の二次粒子の平均粒径(D50)が、10ないし20μmであることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記ホウ素元素の含有量が、前記正極活物質総重量の1ないし2,000ppmであることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記リチウムマンガン酸化物が、下記化学式1で表示され、前記化学式1で、0.9≦x≦1.4、0≦y≦1であり、前記Mが、Al、Co、Ni、Cr、Fe、Zn、Mg及びLiからなる群から選択された一つ以上の金属であることを特徴とする、請求項1に記載の正極活物質。
LiMn2−y(化学式1)
【請求項9】
前記リチウムマンガン酸化物が、下記化学式2で表示され、前記化学式2で、0.9≦x≦1.4、0≦y≦1であることを特徴とする、請求項1に記載の正極活物質。
LiMn2−yAl(化学式2)
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のうち、いずれか1項に記載の正極活物質を含む正極。
【請求項11】
請求項10に記載の正極を採用したリチウム電池。
【請求項12】
リチウム前駆体、マンガン前駆体、ホウ素系化合物及び選択的にドーパント前駆体を混合して混合物を準備する段階と、
前記混合物を700ないし900℃の温度で焼成する段階と、を含む正極活物質の製造方法。
【請求項13】
前記ホウ素系化合物の含有量が、前記混合物総重量の0.1ないし10重量%であることを特徴とする請求項12に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項14】
前記ホウ素系化合物が、B、HBO及びLiからなる群から選択された一つ以上であることを特徴とする請求項12に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項15】
前記ドーパント前駆体が、Al、Co、Ni、Cr、Fe、Zn、Mg及びLiからなる群から選択された一つ以上の金属を含む前駆体であることを特徴とする請求項12に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項16】
前記焼成が、空気雰囲気で5ないし30時間行われることを特徴とする請求項12に記載の正極活物質の製造方法。

【図3】
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【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2012−146662(P2012−146662A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−2856(P2012−2856)
【出願日】平成24年1月11日(2012.1.11)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】