説明

正極活物質およびその製造法ならびに非水電解質二次電池

【課題】 非水電解質二次電池の製造方法と活物質において、特に高温環境下の充放電サイクルで発生するガスを抑え、信頼性の高い電池を得るための正極活物質の製造方法と活物質を提供する。
【解決手段】 リチウムイオンの放出と吸蔵が可能なリチウム遷移金属複合酸化物粒子表面の一部に金属被覆層を形成する工程と、窒化物被覆層を形成する工程とを有することを特徴とする正極活物質の製造法と、その製造方法により製造した物を活物質とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関し、特に正極活物質の製造法および正極材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノートパソコン等のポータブル、コードレス機器の普及により、これらの機器に電力を供給する電池の需要が高まっており、繰り返し充放電が可能な二次電池が求められている。なかでも、電解液が水溶液系の二次電池に比べて作動電圧、エネルギー密度が高く、小型軽量な電池を実現できる非水電解質二次電池に対する期待は大きい。
【0003】
その非水電解質二次電池を構成する正極活物質として、様々な化合物があるが、特にLiCoO2やLiNiO2、LiMn24などのリチウム遷移金属複合酸化物と一部を他の元素で置換あるいは固溶させた化合物は、動作電位も高く、炭素材料等の負極と組み合わせて高い作動電圧の電池を実現できる点で優れており、すでに実用化されているものもある。
【0004】
このように、非水電解質二次電池は水溶液系二次電池に比べて電池電圧が高いという特徴があるが、電圧が高いことに加え活性も高いため、充電状態で電解液が酸化分解してガス発生し、電池が膨れたり、漏液を起こしたり、ガスによって電解液が排除されて電極反応面積が減少するために電池特性も低下することや、混入した水分とも反応して、直接あるいは反応生成物を介して電解液の分解を引き起こすという課題があった。そのため、活物質の表面を修飾したり、改質したりする研究がなされており、例えば正極活物質の表面に各種化合物の層を形成することが提案されていた。(例えば特許文献1参照)
また、表面修飾・改質のための製造方法としては、負極材料の導電性を改善するためではあるが、圧縮力および摩砕力よりなる機械的エネルギーを作用させるメカノケミカル反応を利用して、活物質粒子の表面に導電性材料を圧延し活物質表面を改質する方法が提案されている。(例えば特許文献2参照)
【特許文献1】特開平8−222219号公報
【特許文献2】特開2001−15101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記特許文献1のような従来の技術では、活物質に表面層を被覆してガス発生を抑制することはできるが、例えば、電子抵抗の大きい酸化物などによる表面層では、イオン伝導を阻害する上に電子伝導性に乏しいため、大電流放電特性等の電池特性が犠牲になって、電池トータルでの性能バランスが十分でなかった。
【0006】
そこで、電子伝導性に優れる金属あるいは窒化物などによる被覆を検討したところ、金属表面層においては、実際の電極作製工程で圧延加工した場合に、圧力によって表面層が破壊されてガス抑制効果が低下する問題があった。一方、窒化物表面層は、硬度が高く圧延加工に対する耐久性はあるものの、充放電に伴う活物質の膨張収縮に対して対応できずに活物質から剥離してしまう問題があった。
【0007】
さらに製造方法の点からも、これらの表面層を形成する際に、メカノフュージョン等の機械的エネルギーを与えて融合させる手法を用いると、正極活物質の一部が削り取られて微粒子粉末が生成したり、機械的エネルギーを与える装置から混入する不純物のために、ガス発生を抑制する効果以上に逆にガス発生量が増えたり、電池の微小短絡が発生して電
圧が低下したりする問題が起きた。特許文献2のように負極ではほとんど問題にならなかった不純物による微小短絡が大きな課題となった理由は、負極と本発明の正極では電位が異なるため、混入した金属の溶解性が違っているためであると推測される。
【0008】
以上のように従来の技術は、実際の電池製造工程での課題や実使用時における課題を考慮しておらず、電極の圧延による被覆層の破壊や、充放電に伴う活物質の膨張収縮による被覆層の剥離といった課題を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記のような課題を鑑みてなされたのであり、本発明の正極活物質の製造法は、リチウムイオンの放出と吸蔵が可能なリチウム遷移金属複合酸化物粒子表面の一部に金属被覆層を形成する工程と、窒化物被覆層を形成する工程とを有することを特徴とするものである。
【0010】
また、その製造法を用い正極活物質が、リチウムイオンの放出と吸蔵が可能なリチウム遷移金属複合酸化物粒子表面の少なくとも一部が金属窒化物で被覆されていることを特徴とするものである。
【0011】
このような製造工程を経ることで、リチウムイオンの放出と吸蔵が可能なリチウム遷移金属複合酸化物粒子表面の一部を金属窒化物で被覆することができる。
【0012】
また、本発明の製造方法によって、金属窒化物の被覆層が窒素濃度の傾斜材料であり、リチウム遷移金属複合酸化物との界面に金属層、あるいは窒素濃度がほぼゼロの金属層が存在する特徴を持つ正極活物質を具現化できる。このような正極活物質は、金属あるいは窒素固溶量の少ない層によって充放電時の膨張収縮に対しても活物質との密着性を保つ一方、窒素固溶量の多い層が硬化層として機能して圧延工程を経験した後も被覆層の効果を維持できることから、電池の製造工程の課題を解決して、充放電や高温環境下における保存時などのガス発生を抑制して電池の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように本発明の製造方法を用いれば、充放電特性に優れ、かつ高温環境での充放電サイクルや、保存後においてもガス発生しにくい高い信頼性を有する正極活物質と非水電解質二次電池を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者らが鋭意検討した結果、まずリチウム遷移金属複合酸化物の一部に金属を被覆して、次いで窒化する工程を経ることで電池性能を落とさずにガス発生抑制するために効果的な被覆層を形成できることが分かった。それも単なる窒化物の被覆ではなく、リチウム遷移金属複合酸化物と被覆している窒化物の界面に窒素濃度がほぼゼロの層、あるいは金属層が存在するように被覆層の表面から活物質界面にかけて窒素元素濃度が傾斜した構成の窒化物被覆層を形成することがより好ましい。
【0015】
金属窒化物には高い硬度を有するものもあり、金属窒化物のみで形成された強固な被覆層は、電極の圧延工程でリチウム遷移金属複合酸化物粒子どうしが擦れ合っても壊れることは無かったが、電池の充放電に伴う膨張収縮の繰り返しに耐えきれず、充放電サイクルが進むと剥離してガス発生抑制効果が低下した。これに対して本発明のリチウム遷移金属複合酸化物との界面から被覆層表面に向かって窒素元素の濃度が増えていくような窒化物被覆層を形成すると、内部の金属あるいはそれに近い組成の部分が充放電に伴う膨張収縮の応力を緩和して被覆層の剥離を防ぎ、ガス発生抑制効果を持続させることができる。
【0016】
この様な形態を有する被覆層を形成するためには、単に窒化物をメカノフュージョン法のような機械的エネルギーによってリチウム遷移金属複合酸化物に融合させる方法であったり、窒化物そのものの蒸着、焼き付けなどの方法では困難で、リチウム遷移金属複合酸化物の表面に金属層を形成する第一の工程と、その金属層を窒化するかまたはその上に窒化物層を形成する第二の工程を設けた製造方法をとる必要がある。
【0017】
金属層はリチウム遷移金属複合酸化物に密着させやすいことから、被覆層とリチウム遷移金属複合酸化物の界面に存在させることが好ましい。金属層の形成方法としては例えば、無電解メッキ等のメッキ法、物理蒸着、化学蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、溶射、アルキルアルミニウム等の有機金属化合物を用いる方法等の方法で金属層を形成することができる。金属層は、Ni、Co、Ti、Zn、Zr、Al、Nb、V、Ta、Liなどの単一の金属でもAl−Ti合金のような合金でも良いが、窒化物の形成しやすさや、正極電位での安定性、窒化物を形成した際の電子伝導性や硬度の面からは、Ti、Zn、Zr、Al、Nb、V、Taの群から選ばれる少なくとも一種類であることが好ましい。
【0018】
また、副反応を抑え、強度を持たせるための窒化物の形成については、ガス窒化法、プラズマ窒化法等の方法で窒化することができる。ガス窒化法で用いるガスとしては、例えばアンモニアガス、アンモニアと窒素の混合ガスやさらに一酸化炭素、水素等を加えた混合ガスなどを用いることができ、数百℃の温度から窒化が可能であることから、活物質の結晶性低下に伴う電池容量の低下を防ぐことができる。また、プラズマ窒化(イオン窒化)法の雰囲気の例としては、窒素ガス、窒素と水素の混合ガス、窒素やアンモニアと不活性ガスの混合ガスなどの雰囲気が挙げられる。この窒化法は一般に600℃以下の比較的低温で行うことができるため、この方法も活物質の結晶性を大きく変化させたり分解を起こして電池の容量が低下するといった不具合の発生を防ぐことができる。
【0019】
以上のような金属層の形成と窒化の工程は別々の装置で行っても良いし、連続的に処理可能な装置であっても良い。連続処理の一つの方法としては、物理蒸着の一種であるイオンプレーティング法が考えられる。始めにアルゴンプラズマ雰囲気で金属を蒸着させて、途中から窒素やアンモニア等の反応性ガスを加えて導入することで金属窒化物の被膜を堆積させることもできる。あるいは、同様にスパッタリング法においても、アルゴン雰囲気で金属を蒸着した後に反応性ガスを導入して金属窒化物を蒸着することもできる。
【0020】
また、窒化の工程が表面に被覆した金属の窒化のみならず、被覆されていない活物質表面の窒化も同時に行って、活物質の表面に窒素元素が侵入、拡散、あるいは置換していても効果的である。本発明者らが検討したところ、活物質表面を上記の方法で窒化処理した場合にもガス発生抑制効果が認められ、表面への窒素元素が存在しており、侵入、固溶していることが分かった。ガス発生抑制メカニズムは明らかではないが、リチウム遷移金属複合酸化物の酸素と置換した窒素から電子が供与されて充電時の遷移金属の見かけ価数が低下した可能性や、合成時にできた不純物で、ガス発生に寄与する可能性のある酸化物や水酸化物、炭酸塩(例えはNiO、Ni(OH)2、CoO、Co34、Co(OH)2、Li2O、LiOH、LiCO等)が窒化されて不活性になった可能性が考えられる。
【0021】
以上、本発明の被覆層の形成方法について例示したが、これらに限定されるものではない。
【0022】
本発明に用いられる非水電解質二次電池用正極活物質としてはリチウム遷移金属複合酸化物を用いることができる。例えば、一般式LixNi(1-y-z)Coyz2(xは充放電で変化する変数であり、0<x<1.1、0<y≦0.5、0≦z<0.5、Mは、Al
、Mn、Mg、Ca、Fe、Ti、Zn、Sr、Ba、Zr、Y、B、Taからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素で表されるリチウム遷移金属複合酸化物は好適である。また、複数の異なった正極材料を混合して用いることも可能である。正極活物質粒子の平均粒径は特に限定はされないが、1〜30μmであることが好ましい。
【0023】
本発明で使用される正極用導電剤は、用いる正極材料の充放電電位において、化学変化を起こさない電子伝導性材料であれば何でもよい。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛などのグラファイト類、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカ−ボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウム等の金属粉末類、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物あるいはポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などを単独又はこれらの混合物として含ませることができる。これらの導電剤のなかで、人造黒鉛、アセチレンブラックが特に好ましい。導電剤の添加量は、特に限定されないが、正極材料に対して1〜50重量%が好ましく、特に1〜30重量%が好ましい。カーボンやグラファイトでは、2〜15重量%が特に好ましい。
【0024】
本発明に用いられる正極用結着剤としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。本発明に於いて好ましい材料としてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)があげられる。
【0025】
本発明に用いられる正極用集電体としては、用いる正極材料の充放電電位において化学変化を起こさない電子伝導体であれば何でもよく、一般に知られているアルミニウム、導電性樹脂などを用いることができる。厚みは、特に限定されないが、1〜500μmのものが用いられる。
【0026】
電極合剤には、導電剤や結着剤の他、フィラー、分散剤、イオン伝導体、圧力増強剤及びその他の各種添加剤を用いることができる。フィラーは、構成された電池において、化学変化を起こさない繊維状材料であれば何でも用いることができる。通常、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系ポリマー、ガラス、炭素などの繊維が用いられる。フィラーの添加量は特に限定されないが、電極合剤に対して0〜30重量%が好ましい。
【0027】
本発明における負極板と正極板の構成は、少なくとも正極合剤面の対向面に負極合剤面が存在していることが好ましい。
【0028】
本発明の負極活物質は、主成分が黒鉛材料または難黒鉛化性炭素質材料である。負極には特性改善の目的のために導電材を用いることもでき、電子伝導性材料であれば何でもよい。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛、膨張黒鉛などのグラファイト類、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカ−ボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、銅、ニッケル等の金属粉末類およびポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などを単独又はこれらの混合物として含ませることができる。これらの導電材のなかで、人造黒鉛、アセチレンブラック、炭素繊維が特に好ましい。導電材の添加量は、特に限定されないが、負極活物質に対して1〜30重量%が好ましく、特に1〜10重量%が好ましい。本発明に用いられる負極用結着剤としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであっても良く、好ましい結着剤として、スチレンブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン、エチレン−アクリル酸共重合体または前記材料の(Na+)イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸共重合体または前記材料の(Na+)イオン架橋体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体または前記材料の(Na+)イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体または前記材料の(Na+)イオン架橋体の単独又は混合物を挙げることができる。
【0029】
本発明に用いられる負極用集電体としては、構成された電池において化学安定な電子伝導体であれば何でも良く、銅、チタンなどを用いることができる。厚みは、特に限定されないが、1〜500μmのものが用いられる。
【0030】
正極と負極の電極合剤には、導電材や結着剤の他、フィラー、分散剤、イオン伝導体、圧力増強剤及びその他の各種添加剤を用いることができる。フィラーは、構成された電池において、化学変化を起こさない繊維状材料であれば何でも用いることができる。通常、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系ポリマー、ガラス、炭素などの繊維が用いられる。フィラーの添加量は特に限定されないが、電極合剤に対して0〜10重量%が好ましい。
【0031】
電池の形状はコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型、電気自動車等に用いる大型のものなどいずれにも適用できる。また、本発明の非水電解質二次電池は、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に用いることができるが、特にこれらに限定されるわけではない。
【実施例1】
【0032】
次に本発明の具体例を説明する。
【0033】
《実施例1》
被覆処理をおこなう正極活物質として、LiNi0.81Co0.15Al0.042の場合を例にとる。この正極活物質は、従来から公知の方法で水酸化ニッケルNi(OH)2を合成する際に、水酸化コバルトCo(OH)2を共沈させてできた複合水酸化物と、水酸化アルミニウムと、水酸化リチウムを、Li/(Ni+Co+Al)=1.05のモル比となるように混合して、酸素気流下750℃で24時間焼成して合成した。なおAlやそれ以外の元素を添加する場合には、その水酸化物や酸化物、硝酸塩、硫酸塩、金属の形で添加することもできるし、Ni、Coと共に共沈させた複合水酸化物として添加することもできる。
【0034】
こうしてできたLiNi0.81Co0.15Al0.042に1PaのArガス中で、スパッタリング法によってバナジウム(V)金属を被覆した。被覆の状態は、SEM、EPMA、XPS等の分析方法で確認した。さらに、低真空中で窒素と水素の混合ガスを用いてグロー放電によるプラズマ窒化(イオン窒化)処理を行った。プラズマ窒化処理の条件は、活物質を処理装置の陰極上に装入して、処理室が1000Paになる様に調整した窒素と水素の混合ガス(各50%)を処理室へ導入しつつ、電圧を印可してグロー放電を発生して窒化を行った。活物質が約500℃となるようにヒーターを併用して調整して、2時間処理した。
【0035】
SEM、EPMA、XPS等の分析方法によって、得られた活物質の表面には窒化バナジウムが被覆されており、活物質表面との界面付近では窒素濃度が低く、金属バナジウムの存在も確認した。
【0036】
こうして得られた正極活物質を用いて、以下の様にコイン型の非水電解質二次電池を作製した。このコイン型非水電解質二次電池の断面図を図1に示す。分散溶媒として十分に脱水されたN−メチルピロリジノン(NMP)を用いて、正極活物質と、アセチレンブラック(AB)と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、100:5:4の重量比で混練して活物質合剤ペーストを作製した。このペーストをアルミニウム箔でできた正極芯材1の上に塗布・乾燥した後、ローラーを用いて圧延して正極の電極シートを作製した。圧延後の正極2の密度は3.86g/ccであった。この正極の電極シートを直径15mmの
円盤状に打ち抜き、コイン電池用の正極とした。
【0037】
一方、負極は水を分散溶媒として、活物質の鱗片状黒鉛、結着剤のスチレンブタジエン系ゴムを、100:3の重量比で混練して合剤ペーストを作り、銅箔でできた負極芯材3に塗布・乾燥し、ローラーにて圧延して負極電極シートとした。これを110℃で10時間真空乾燥して、直径16mmの円盤状に打ち抜き、コイン電池用の負極4とした。
【0038】
また、ポリプロピレン製の微多孔膜をセパレータ5として、電解液は1mol/LのLiPF6を体積比1:3のエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートに溶解させて用いた。
【0039】
これらの正負極、セパレータ、電解液をコイン型電池の電池ケース6に入れ、封口板7を被せてガスケット8を介してかしめ、直径20mm、厚さ1.6mmのコイン型電池を作製した。電池ケース6と封口板7には、予め各々にアルミニウムメッシュ製の正極集電体9と、ニッケルメッシュ製の負極集電体10を溶接しておいた。この電池をA1とする。この電池の設計容量は、12mAhである。
【0040】
以上の活物質合成時あるいは電池作製時の取り扱い環境は、可能な限り水分の少ない環境で行った。
【0041】
《実施例2》
正極活物質LiNi0.81Co0.15Al0.042に、バナジウム金属のスパッタの後、プラズマ窒化処理を行う代わりにこの金属を被覆した活物質を環状炉に入れ、アンモニアガスを流しながら500℃で50時間窒化処理を行ってガス窒化処理したこと以外は、実施例1と同様にコイン型電池を作製した。この電池をA2とする。
【0042】
《実施例3》
正極活物質LiNi0.81Co0.15Al0.042に、1PaのArガス中で、スパッタリング法によってバナジウム金属を被覆した後、つづいてスパッタ中に窒素ガスをさらに導入して窒化バナジウムを被覆した以外は、実施例1と同様にコイン型電池を作製した。この電池をA3とする。
【0043】
《実施例4》
正極活物質LiNi0.81Co0.15Al0.042を、0.1Paのアルゴンガスを導入したイオンプレーティング装置に装入して、まずバナジウム金属の蒸着を行い、つづいて蒸着中に窒素ガスを加えていき、窒化バナジウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様にコイン型電池を作製した。この電池をA4とする。
【0044】
《実施例5》
正極活物質LiNi0.81Co0.15Al0.042に、スパッタリング法によってチタン(Ti)金属を被覆した以外は、実施例1と同様にコイン型電池を作製した。この電池をA5とする。
【0045】
《実施例6》
正極活物質LiNi0.81Co0.15Al0.042に、スパッタリング法によってアルミニウム金属を被覆した以外は、実施例1と同様にコイン型電池を作製した。この電池をA6とする。
【0046】
《実施例7》
正極活物質LiNi0.81Co0.15Al0.042に、スパッタリング法によって亜鉛(Z
n)金属を被覆した以外は、実施例1と同様にコイン型電池を作製した。この電池をA7とする。
【0047】
《実施例8》
正極活物質LiNi0.81Co0.15Al0.042に、スパッタリング法によってニオブ(Nb)金属を被覆した以外は、実施例1と同様にコイン型電池を作製した。この電池をA8とする。
【0048】
《実施例9》
正極活物質LiNi0.81Co0.15Al0.042に、スパッタリング法によってジルコニウム(Zr)金属を被覆した以外は、実施例1と同様にコイン型電池を作製した。この電池をA9とする。
【0049】
《実施例10》
正極活物質LiNi0.81Co0.15Al0.042に、スパッタリング法によってタンタル(Ta)金属を被覆した以外は、実施例1と同様にコイン型電池を作製した。この電池をA10とする。
【0050】
《実施例11》
正極活物質LiNi0.81Co0.15Al0.042に、スパッタリング法によってニッケル(Ni)金属を被覆した以外は、実施例1と同様にコイン型電池を作製した。この電池をA11とする。
【0051】
《実施例12》
正極活物質LiNi0.81Co0.15Al0.042に、無電解メッキ法(塩基性浴)によってニッケル(Ni)金属を被覆した以外は、実施例1と同様にコイン型電池を作製した。この電池をA12とする。メッキ液の成分としては、NiSO4・7H2O、NaH2PO2、NaOHを用いて、pHを約9、液温90℃にて処理した。
【0052】
《比較例1》
正極活物質LiNi0.81Co0.15Al0.042に、スパッタリング法によってバナジウム金属を被覆したのみで、窒化被膜を形成しない活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様にコイン型電池を作製した。この電池をB1とする。
【0053】
《比較例2》
正極活物質LiNi0.81Co0.15Al0.042に、メカノフュージョン法によって窒化バナジウムを付着させた活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様にコイン型電池を作製した。この電池をB2とする。
【0054】
《比較例3》
焼成後の正極活物質LiNi0.81Co0.15Al0.042をそのまま用いたこと以外は、実施例1と同様にコイン型電池を作製した。この電池をB3とする。
【0055】
以上の様にして作製した電池を表1にまとめた。
【0056】
【表1】

【0057】
またそれらの電池の評価を行った。
【0058】
まず、圧延工程における活物質あるいは被覆層の破壊の程度を評価するため、活物質を円盤状のペレットの成型金型に入れて60Mpaの圧力を加えた後、取り出して解砕して粒度分布を測定した。1ミクロン未満の微粉の有無について、表2に示す。
【0059】
また、できあがった電池については、充電および放電電流2mA、電圧範囲2.5V〜4.2Vの定電流充放電を25℃環境下で3サイクル行った。このうち各実施例と比較例の10セルずつを充電状態で45℃環境に3日放置したときの電圧不良電池の割合を表2に示した。電池電圧が3.9V以下になったセルを不良とした。
【0060】
これとは別に高温充放電サイクルでのガス発生を評価するために、まず充電状態で初期の電池厚みを測定した(各n=5セル)。その後、45℃の環境下で、上記と同じ充放電電流値、電圧範囲でのサイクル試験を行い、50サイクル経過後の充電状態で電池の厚みを測定した。電池厚みの変化と放電容量の維持率を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表1および表2から分かる様に、焼成後の活物質をそのまま用いた比較例3はもとより、金属被覆のみ行った比較例1や、窒化物を表面に融合させた比較例2においても、本実施例よりも多くのガスが発生して電池の膨れが大きかった。金属被覆のみでは、プレス試験後の微粉の存在から、圧延時の圧力で被覆層あるいは活物質の一部が崩れたものと推察される。メカノフュージョン法による窒化物被覆は、被覆工程で大きな圧力がかかるため、硬い窒化物層が形成される前に活物質の一部が崩れて微粉が生成された可能性や、充放電の膨張収縮に窒化物層が追随できずに崩れた可能性が考えられる。また、電圧不良が多発したことから、メカノフュージョン処理工程で、用いたステンレス容器の一部が混入して不具合を引き起こしたものと推察される。
【0063】
一方、本発明の製造方法で作製した活物質は、プレスされた際にも微粉を生成しにくく、高温環境下でのガス発生を抑制することが期待される。実際に、45℃サイクルでの電池の膨れが非常に小さく、充放電時の活物質の膨張収縮にもかかわらず強固な被膜を保持して電解液との反応を抑えていることが分かった。また、ガス発生が抑えられたために電極間にガスがたまることもなく、サイクル後の容量維持率も高かった。
【0064】
更に、本実施例以外の活物質組成、つまり、LiCoO、LiNiOおよびLiMnOでも実験を行い、同様の結果が得られた。
【0065】
また、上記の活物質を用い、スパッタリング法でコバルト(Co)金属とリチウム(Li)金属を被覆し、プラズマ窒化法を用いても、同様の結果が得られた。
【0066】
なお、本発明は、上記の実施例に記載された製造方法・条件に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の非水電解質二次電池用正極材料およびそれを用いた電池は、信頼性の優れた寿命の長いポータブル用電源等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施例の非水電解質二次電池の断面図
【符号の説明】
【0069】
1 正極芯材
2 正極
3 負極芯材
4 負極
5 セパレータ
6 電池ケース
7 封口板
8 ガスケット
9 正極集電体
10 負極集電体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンの放出と吸蔵が可能なリチウム遷移金属複合酸化物粒子表面の一部に金属被覆層を形成する工程と、窒化物被覆層を形成する工程とを有することを特徴とする正極活物質の製造法。
【請求項2】
窒化物被覆層を形成する工程が、金属層と前記金属層で被覆されていないリチウム遷移金属複合酸化物粒子表面の両方を窒化することを特徴とする請求項1記載の正極活物質の製造法。
【請求項3】
リチウムイオンの放出と吸蔵が可能なリチウム遷移金属複合酸化物粒子表面の少なくとも一部が金属窒化物で被覆されていることを特徴とする請求項1または2記載の製造法で製造された正極活物質。
【請求項4】
前記金属窒化物が窒素濃度の傾斜材料であり、リチウム遷移金属複合酸化物との界面に金属層が存在していることを特徴とする請求項3記載の正極活物質。
【請求項5】
リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面を被覆する金属あるいは窒化物が、Ni、Co、Ti、Zn、Zr、Al、Nb、V、Ta、Liおよびその窒化物の群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3または4記載の正極活物質。
【請求項6】
リチウム遷移金属複合酸化物が、LiMO2(MはNi、CoまたはMnの少なくとも一種類以上)で表されることを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載の正極活物質。
【請求項7】
請求項3から6のいずれかに記載の正極活物質を用いたことを特徴とする非水電解質二次電池。


【図1】
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【公開番号】特開2006−196433(P2006−196433A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−216721(P2005−216721)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】