説明

正極活物質及びそれを用いた二次電池

【課題】 4価のマンガンを含むリチウムマンガン酸化物を用いる正極活物質において、充放電特性の低下を抑制する技術を提供する。
【解決手段】 正極活物質20は、フッ化物の支持塩を含む非水系電解液とともに使用される。正極活物質20は、複数の粒子21を有する。粒子21は、第1粒子21aと、第1粒子21aの表面を被覆している第2粒子21bを備えている。第1粒子21aは、少なくともLiMnOを含んでいる。第2粒子21bは、耐フッ酸性を有する金属酸化物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物の支持塩を含む非水系電解液とともに使用される正極活物質、及びその正極活物質を用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等では、フッ化物の支持塩を含む非水系電解液が用いられることがある。そのような非水系電解液とともに使用される正極活物質として、LiMn等の3価のマンガンを含むリチウムマンガン酸化物を使用することが検討されてきた。しかしながら、3価のマンガンを含むリチウムマンガン酸化物は、二次電池の充放電を繰り返すうちに、マンガンが溶出し、充放電特性が低下するという問題を有していた。
【0003】
LiMnO等の4価のマンガンを含むリチウムマンガン酸化物は、3価のマンガンを含むリチウムマンガン酸化物よりも構造が安定しているものの、従来は充放電が不可能と考えられていた。しかしながら、非特許文献1に開示されているように、4価のマンガンを含むリチウムマンガン酸化物は、およそ4.8Vまで充電することにより、充放電可能であることが見いだされている。そのため、二次電池の正極活物質として、LiMnO等の4価のマンガンを含むリチウムマンガン酸化物を利用することが研究されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】C. Gan, H. Zhan, X. Hu, and Y. Zhou, Electrochemistry Communication, 7, 1318-1322, (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、4価のマンガンを含むリチウムマンガン酸化物は、3価のマンガンを含むリチウムマンガン酸化物よりも構造が安定しているので、二次電池の正極活物質として有用な材料として注目されている。しかしながら、実際には、4価のマンガンを含むリチウムマンガン酸化物であっても、充放電を繰り返すうちに充放電容量が低下するという問題がある。すなわち、4価のマンガンを含むリチウムマンガン酸化物を正極活物質の材料としても、サイクル特性が低下するという現象を十分に抑制することができない。そこで、本明細書に開示する技術は、4価のマンガンを含むリチウムマンガン酸化物を用いる正極活物質において、充放電特性の低下を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らの研究により、4価のマンガンを含むリチウムマンガン酸化物を正極活物質として用いる場合、高電圧(およそ4.8V)で充電することが必要なため、支持塩に含まれるフッ素イオンと電解液に含まれる水分との反応が促進され、多量のフッ酸が生じることが分ってきた。フッ酸が正極活物質に接触することにより、正極活物質を構成している材料が劣化し、充放電特性が低下することが判明した。
【0007】
本明細書で開示する正極活物質は、4価のマンガンを含むリチウムマンガン酸化物の表面を、耐フッ酸性を有する金属酸化物で被覆することを特徴とする。これにより、電解液中に大量のフッ酸が生じても、正極活物質が保護され、正極活物質の劣化を抑制することができる。
【0008】
本明細書では、フッ化物の支持塩を含む非水系電解液とともに使用される正極活物質が提供される。その正極活物質は、第1粒子と、第1粒子の表面を被覆している第2粒子とを備えている。第1粒子は、少なくともLiMnOを含んでいる。第2粒子は、耐フッ酸性を有する金属酸化物である。なお、第2粒子が第1粒子の表面を「被覆している」とは、第1粒子の表面に、第1粒子よりも小径の複数の第2粒子が均一に付着している状態のことをいう。換言すると、第1粒子の表面が、電解液と直接接触しないように第2粒子によって保護されている。
【0009】
耐フッ酸性を有する金属酸化物として、Al、ZrO、ZnO、Nb、Ta及びTiOから選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。このような金属酸化物は、LiMnO等のリチウムマンガン酸化物対する付着性が良好であり、耐フッ酸性を有している。上記金属酸化物は特に、Al又はZrOの少なくとも一種を含むことが好ましく、Al又はZrO単体であることがより好ましい。
【0010】
本明細書では、上記した正極活物質を有する二次電池も提供される。
【発明の効果】
【0011】
本明細書で開示される技術によると、二次電池の充放電特性の低下を抑制することができる正極活物質を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】二次電池の構造を説明するための断面図を示す。
【図2】正極活物質の拡大断面図を示す。
【図3】Alを被覆した正極活物質を用いた二次電池のインピーダンス測定の結果を示す。
【図4】ZrOを被覆した正極活物質を用いた二次電池のインピーダンス測定の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で開示する正極活物質は、耐フッ酸性が高いので、高電圧で充放電する二次電池に好適に使用することができる。以下、本明細書に開示する実施形態について詳細に説明する。
【0014】
(二次電池)
本明細書に開示する正極活物質は、セパレータを介して対向する電極対(正極及び負極)を有するセルが複数積層された積層タイプの二次電池、及び、セパレータを介して対向する電極対を有するシート状のセルが渦巻状に加工された捲回型の二次電池の双方に使用することができる。二次電池の基本構造について、図1に示す積層タイプの二次電池を説明する。
【0015】
二次電池10は、ケース12,正極24,負極18,セパレータ32及び非水電解液26を有している。正極24,負極18,セパレータ32及び非水電解液26は、ケース12内に配置されている。正極24は、正極集電体22と正極活物質20を有している。負極18は、負極集電体14と負極活物質16を有している。正極活物質20と負極活物質16の間にセパレータ32が配置されており、正極活物質20と負極活物質16を絶縁している。セパレータ32は多孔質であり、内部を非水系電解液である非水電解液26が移動することができる。正極集電体22は外部端子30に接続されており、負極集電体14は外部端子34に接続されている。外部端子30,34間に電圧を印加することによって二次電池10を充電することができる。また、外部端子30,34間に負荷を接続することによって、二次電池10から放電することができる。
【0016】
(正極活物質)
図2に示すように、正極活物質20は複数の粒子21を備えている。換言すると、粒子21が複数個集まることによって正極活物質20が形成されている。正極活物質20粒子21と粒子21の間には隙間が存在し、リチウムイオンがその隙間に侵入及び脱離する。粒子21は、第1粒子21aと第2粒子21bを備える。第1粒子21aは、少なくとも4価のマンガン酸化物であるLiMnOを含んでいる。第1粒子21aは、他の4価のマンガン酸化物を含んでいてもよいし、3価のマンガン酸化物を含んでいてもよい。あるいは、第1粒子21aは、マンガンを含まないリチウム金属酸化物を含んでいてもよい。他の4価のマンガン酸化物として、例えばLi(NiCoMn)0.33,Li(NiMn)0.5等が挙げられる。3価のマンガン酸化物として、例えばLiMn,LiMnO等が挙げられる。マンガンを含まないリチウム金属酸化物として、例えばLiNiO,LiCoO,LiNi0.8Co0.15Al0.05等が挙げられる。
【0017】
第2粒子21bは、Al、ZrO、ZnO、Nb、Ta及びTiO等の耐フッ酸性を有している金属酸化物、あるいは、それらの混合物であることが好ましい。第2粒子21bは、第1粒子21aの全面を覆っていることが好ましい。
【0018】
(正極集電体)
正極集電体22として、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)等、又はそれらの複合材料を用いることができる。上記した正極活物質20の粒子21を、必要に応じて導電材、結着剤等とともに正極集電体22に付着させることにより、正極24が形成される。
【0019】
(負極活物質)
負極活物質16は、リチウムイオンが侵入及び脱離可能な材料で構成されている。負極活物質16の典型的な材料として、Li、Na等のアルカリ金属、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、高配向性グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を用いることができる。
【0020】
(負極集電体)
負極集電体14として、アルミニウム、ニッケル、銅(Cu)等、又はそれらの複合材料を用いることができる。上記した負極活物質16を、必要に応じて導電材、結着剤等とともに負極集電体14に付着させることにより、負極18が形成される。
【0021】
(セパレータ)
セパレータ32は、正極24と負極18とを分離し、内部に非水電解液26を保持するものである。セパレータ32として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂からなる多孔質フィルム、あるいは、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、メチルセルロース等からなる織布または不織布を使用することができる。
【0022】
(非水電解液)
非水電解液26として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等、又はこれらの混合液を用いることができる。なお、非水電解液26に溶解させるフッ化物の支持塩(電解質)として、例えば、LiPF、LiBF、LiAsF等を使用することができる。これらの支持塩は、フッ素イオンを含んでいる。
【0023】
上記したように、二次電池10では、正極活物質20が、4価のマンガン酸化物であるLiMnOを含んでいる。LiMnOは、およそ4.8Vまで充電することにより充放電可能である。換言すると、二次電池10は、およそ4.8Vという従来よりも高い充放電容量を有している。二次電池10では、従来よりも高い電圧が印加されるので、非水電解液26中の支持塩が分解しやすい。上記したように、非水電解液26中の支持塩はフッ素イオンを含んでいる。二次電池10に高い電圧が印加されると、非水電解液26に含まれる水分が支持塩を構成しているフッ素イオンと反応し、フッ酸(HF)が生じる。フッ酸がLiMnOに直接接触すると、LiMnOに劣化が生じる。具体的には、フッ酸がLiMnOに接することにより、Li,Mnが電解液中に溶出したり、LiMnOの結晶構造が変化したりする。
【0024】
しかしながら、二次電池10では、第1粒子21aの表面を第2粒子21bが被覆している。そのため、電解液中で生じたフッ酸が、第1粒子21aに直接接触することが抑制される。それにより、LiMnOの劣化が抑制され、二次電池10の充放電特性の低下を抑制することができる。
【0025】
LiMnOの劣化の有無は、充電後の二次電池のインピーダンスを測定することにより評価することができる。LiMnOが劣化すると、正極の内部抵抗が大きくなる。二次電池のインピーダンスを測定し、コールコールプロットの正極抵抗成分の円弧を比較することにより、正極の内部抵抗を比較することができる。円弧が小さいほど、正極の内部抵抗が小さいといえる。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明を具現化した実施例について説明する。なお、以下の実施例は、本発明を説明するための具体例であって、本発明を限定するものではない。なお、以下では、捲回型(ラミネート型)の二次電池について説明する。
【実施例1】
【0027】
まず、正極活物質の製造方法について説明する。アルミニウムイソプロポキシド(Al[OCH(CH)])0.2gにエタノール(脱水)250mlを加え、常温で24時間攪拌し、アルミニウムイソプロポキシドをエタノール(脱水)に溶解させた。その溶液内にLiMnOとLi(NiCoMn)0.33との混合物を20g加え、攪拌しながら加熱することにより溶媒を蒸発させた。乾燥後の粉末を、マッフル炉を用いて、大気中にて400℃で5時間焼成した。これにより、図2に示すように、第1粒子(LiMnOとLi(NiCoMn)0.33の混合物)21aの表面に第2粒子(Al)21bが被覆された粒子21が得られた。
【0028】
正極の製造方法について説明する。矩形状の正極集電体を準備する。正極集電体の材料はアルミニウムである。その後、上記の正極活物質とアセチレンブラック,ポリフッ化ビニリデン(PVdF),N―メチル−2−ピロリドン(NMP)を混練し、ペースト状にする。次いで、正極集電体の表面に上記のペーストを塗布し、80℃で乾燥させたものをロールプレスする。これにより、正極が完成する。
【0029】
負極の製造方法について説明する。負極集電体として、矩形状の銅(Cu)を準備する。その後、人造黒鉛,ケッチェンブラック,カルボキシメチルセルロース(CMC),スチレンブタジエンゴム(SBR)を、溶媒として水を用いて混練し、ペースト状にする。次いで、負極集電体の表面に上記のペーストを塗布し、80℃で乾燥させたものをロールプレスする。これにより、負極が完成する。
【0030】
次に、ポリプロピレン(PP)製のフィルムを用意し、正極と負極をPPフィルムを介して対向させ、ラミネート型の電極体を作成した。次いで、電極体と電解液を容器に収容した後、容器を密閉して二次電池を製造した。電解液の溶媒は、ECとDECの体積比が3:7の混合液を使用した。電解液の支持塩として、LiPFを使用し、溶媒に対して1mol/L混合した。
【0031】
上記の二次電池についてインピーダンスの測定を行った。すなわち、二次電池を充電した状態で、インピーダンス測定により正極の抵抗を測定した。比較例として、第1粒子の表面に第2粒子を被覆していない正極活物質を用いて二次電池を製造し、インピーダンス測定を行った。結果を図3に示す。
【0032】
図3に示すように、本実施例の二次電池は、比較例の二次電池に比べ、コールコールプロットの円弧の大きさが小さい。この結果は、本実施例の二次電池は、比較例の二次電池に比べ、正極の内部抵抗が小さいことを示している。インピーダンス測定の結果は、耐フッ酸性を有する第2粒子で第1粒子の表面を被覆することにより、二次電池内で発生したフッ酸による正極活物質の劣化が抑制されることを示している。すなわち、4価のマンガン酸化物の表面をAlで被覆することにより、高電圧の充電に伴って二次電池内でフッ酸が発生しても、正極活物質の劣化が抑制される。正極活物質の劣化が抑制されれば、充放電特性の低下を長期間に亘って抑制することができる。本実施例の二次電池は、従来の二次電池よりも充放電特性の低下を長期間に亘って抑制することができる。
【実施例2】
【0033】
本実施例の二次電池では、第2粒子21bの材料が、実施例1の材料(Al)と異なるだけである。本実施例では、第2粒子21bの材料としてZrOを用いる。その他の構成は、実施例1と同じである。以下の説明では、実施例1と異なる構成だけを説明する。
【0034】
正極活物質の製造方法について説明する。ジルコニウムエトキシド(Zr(CO))0.2gにエタノール(脱水)250mlを加え、常温で24時間攪拌し、ジルコニウムエトシキドをエタノール(脱水)に溶解させた。その溶液内にLiMnOとLi(NiCoMn)0.33との混合物を20g加え、攪拌しながら加熱することにより溶媒を蒸発させた。乾燥後の粉末を、マッフル炉を用いて、大気中にて400℃で5時間焼成した。これにより、図2に示すように、第1粒子21aの表面に第2粒子(ZrO)21bが被覆された粒子21が得られた。
【0035】
上記の正極活物質を用いて二次電池を製造し、インピーダンス測定を行った。結果を図4に示す。図4には、比較例として、第1粒子の表面に第2粒子を被覆していない正極活物質を用いた二次電池のインピーダンス測定の結果も示す。
【0036】
図4に示すように、第2粒子21bの材料としてZrOを用いても、比較例の二次電池に比べ、コールコールプロットの円弧の大きさが小さい。すなわち、図4は、4価のマンガン酸化物の表面をZrOで被覆すると、フッ酸による正極活物質の劣化が抑制されることを示している。本実施例の二次電池は、従来の二次電池よりも充放電特性の低下を長期間に亘って抑制することができる。
【0037】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0038】
20:正極活物質
21a:第1粒子
21b:第2粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化物の支持塩を含む非水系電解液とともに使用される正極活物質であって、
第1粒子と、
第1粒子の表面を被覆している第2粒子と、を備えており、
前記第1粒子は、少なくともLiMnOを含んでおり
前記第2粒子は、耐フッ酸性を有する金属酸化物であることを特徴とする正極活物質。
【請求項2】
前記金属酸化物が、Al、ZrO、ZnO、Nb、Ta及びTiOから選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記金属酸化物が、Al又はZrOであることを特徴とする請求項2に記載の正極活物質。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの正極活物質を有する二次電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−209064(P2012−209064A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72620(P2011−72620)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】