説明

正極活物質及び該活物質を用いたリチウム二次電池

【課題】正極活物質のLiと水系溶媒との反応を抑制し、優れた電池特性を有するリチウム二次電池および該電池の製造に好適な正極活物質を提供する。
【解決手段】本発明によると、リチウム二次電池の正極活物質層を形成するための、水系溶媒と正極活物質とを含む水系ペーストの調製に用いられる正極活物質が提供される。該正極活物質は、少なくともLiとNiとを構成金属元素とする複合酸化物により構成され、その表面の少なくとも一部は水溶性Li化合物で被覆されている。上記水溶性Li化合物の被覆量は、中和滴定法に基づく該化合物中のLiのモル数mLiと前記複合酸化物を構成するLi以外の全金属元素の合計モル数Mallとの比(mLi/Mall)が0.018〜0.032になるように規定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質とその製造方法に関する。さらには該正極活物質を用いて構築されたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池やニッケル水素電池等の二次電池は、電気を駆動源とする車両搭載用電源、あるいはパソコン及び携帯端末その他の電気製品等に搭載される電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられるものとして期待されている。リチウム二次電池に関連する技術文献として特許文献1〜4が挙げられる。
この種のリチウム二次電池の一つの典型的な構成では、電極集電体の表面にリチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出し得る電極活物質層(具体的には、正極活物質層および負極活物質層)を有する。例えば、正極の場合、リチウムとニッケル等の遷移金属とを構成金属元素として含む複合酸化物から成る正極活物質が、適当な溶媒(例えば水等の水系溶媒や各種の有機溶剤)に分散された状態のペースト状組成物(ペースト状組成物にはスラリー状組成物が包含される。以下、この種の組成物を単にペーストと呼称する。)が正極集電体上に塗布されることにより形成された正極活物質層を有している。
【0003】
ところで、リチウム二次電池の正極活物質を構成する複合酸化物のうち、ニッケルを主体として構成されるいわゆるリチウムニッケル系複合酸化物:LiNi1−y(MはNi以外の適当な他の1種又は2種以上の金属元素)は、従来のコバルト酸リチウム等よりも理論上のリチウムイオン吸蔵容量が大きく、また、コバルトのようなコスト高の金属材料の使用量を削減できる等の観点から、リチウム二次電池の製造上好ましい正極材料として注目されている。
例えば、この種の正極活物質に関連する従来技術として特許文献1には、リチウム二次電池の内部抵抗の増加および放電容量の低下を抑制して充放電サイクル特性を向上させるべく、使用するリチウムニッケル系正極活物質の比表面積を限定し且つ当該活物質表面を水溶性高分子で被覆したことを特徴とするリチウム二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−42817号公報
【特許文献2】特開2006−73482号公報
【特許文献3】特開2000−30693号公報
【特許文献4】特開2004−214187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、正極活物質層形成用のペーストを調製する際、溶媒として水系溶媒を使用することが注目されている。水系溶媒を用いて成るペースト(以下、「水系ペースト」ともいう。)は、有機溶剤を用いて成るペースト(以下、「溶剤ペースト」ともいう。)に比べて、有機溶剤およびそれに伴う産業廃棄物が少なくて済み、尚且つそのための設備及び処理コストが発生しないことから総じて環境負荷が低減される利点を有するからである。
【0006】
しかしながら、正極活物質としてリチウムニッケル系複合酸化物を使用して水系ペーストを調製した場合、水系溶媒(典型的には水)とリチウムニッケル系複合酸化物とが典型的には以下の反応式:
O+LiNiO → NiOOH+Li+OH
に示すような反応を生じる虞があった。
かかる反応は、上記反応式から明らかなように、まず第1に、水系溶媒中にリチウムイオンが流出することにより電池容量の低下を招くため好ましくない。第2に、上記反応の進行によって正極活物質の導電性が低下し、充放電の繰り返しにより電池内(正極内)の反応抵抗の増大をもたらすため好ましくない。かかる問題に関し、上述の特許文献1に記載の技術は、正極活物質と水との接触をある程度制限するものにすぎないため、根本的な解決策とはならない。また、上記特許文献2に記載の技術は、溶剤ペーストを用いて形成された正極活物質層から電解液中に正極活物質の構成元素であるMnの溶出を抑制するものであり、上記水系ペースト特有の問題を解決するものではない。
【0007】
そこで、本発明は、上述したように、正極活物質としてのリチウムニッケル系複合酸化物を含む正極活物質層形成用水系ペーストと該水系ペーストを用いてリチウム二次電池を製造する際の問題点を解決すべく創出されたものであり、その目的とするところは、当該正極活物質のリチウムと水系溶媒(典型的には水)との反応を抑制し、優れた電池特性(例えば、ハイレート特性またはサイクル特性)を有するリチウム二次電池を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そのようなリチウム二次電池の製造に好適な水系ペースト用の正極活物質およびその製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、本発明により、リチウム二次電池の正極活物質層を形成するための水系溶媒と正極活物質とを含む水系ペーストを調製するのに用いられる該水系ペースト調製用の正極活物質が提供される。ここで開示される正極活物質は、少なくともリチウムとニッケルを構成金属元素とする複合酸化物(リチウムニッケル系複合酸化物)により構成されている。該複合酸化物の表面の少なくとも一部は水溶性リチウム化合物で被覆されている。上記水溶性リチウム化合物の被覆量は、中和滴定法に基づく該水溶性リチウム化合物中のリチウムのモル数mLiおよび前記複合酸化物を構成するリチウム以外の全ての金属元素の合計モル数Mallに基づいて下記式(a):
A=mLi/Mall (a);
により表されるリチウムのモル比(A)が0.018〜0.032になるように規定されている。
【0009】
なお、本明細書において「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間のリチウムイオンの移動により充放電が実現される二次電池をいう。一般に、リチウムイオン電池と称される二次電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。
また、本明細書において「正極活物質」とは、二次電池において電荷担体となる化学種(すなわちリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出(典型的には挿入および脱離)可能な正極側の物質をいう。
【0010】
本発明によって提供される正極活物質は、リチウム二次電池の正極活物質層を形成するための水系ペースト調製用の正極活物質である。正極活物質(リチウムニッケル系複合酸化物)を水系溶媒(典型的には水)と混合して正極活物質層形成用のペーストを調製すると、水系溶媒中に正極活物質の構成元素であるリチウムイオンが流出し、該ペーストを用いて構築されるリチウム二次電池の電池容量が低下することがある。また、正極活物質中のリチウムイオンが流出すると、正極活物質の導電性(導電パス)が低下し、充放電の繰り返しにより電池内(正極内)の反応抵抗が増大する虞がある。このような正極活物質と水系溶媒との反応によって生じ得る水系ペースト特有の問題を解決すべく、ここに開示されるリチウムニッケル系複合酸化物(以下、単に「複合酸化物」と呼称する場合もある)により構成される水系ペースト調製用正極活物質では、該複合酸化物の表面の少なくとも一部が、上記規定される被覆量の水溶性リチウム化合物によって被覆されている。そのため、該正極活物質と水系溶媒とが混合されて水系ペーストが調製されるとき、該複合酸化物の結晶中からリチウムイオンが流出する事象を抑制することができる。典型的には、結晶からのリチウムイオン流出よりも先に上記被覆されている水溶性リチウム化合物のリチウムイオンが水系溶媒に流出(溶解)することにより、正極活物質が本来有しているリチウムイオンの流出を防止することができる。これにより、結晶中に高密度のリチウムが保持された状態のままの正極活物質を含む水系ペーストが調製されるため、リチウム二次電池の電池容量を低下させる虞が排除される。
上記水溶性リチウム化合物の被覆量が0.018(モル比)よりも小さすぎる場合には、結晶からのリチウムイオン流出を抑制する効果が小さくなり、上述のように電池内の反応抵抗が増大することがあり得る。他方、上記被覆量が0.032(モル比)よりも大きすぎる場合には、水系ペーストに大量のリチウムイオンが溶解することにより、高pHを呈する水系ペーストが調製される。かかる高pHの水系ペーストは、粘性が高くなるため、正極集電体に均一に薄く塗布され難く、結果として電池性能の低下をもたらす。したがって、上記量の水溶性リチウム化合物が被覆された水系ペースト調製用正極活物質を用いることにより、複合酸化物中のリチウムと水系溶媒との反応が抑制され、その結果、優れた電池特性(サイクル特性またはハイレート特性)、特に低温高出力使用条件下において良好な電池特性(低温出力特性)を有するリチウム二次電池が提供され得る。
【0011】
ここで、上記水溶性リチウム化合物の被覆量は、本発明に係る水系ペースト調製用正極活物質を水に分散させ、この分散液に塩化バリウムを加えることにより炭酸系イオンを炭酸バリウムとして除去した後、塩酸で滴定して遊離のアルカリ成分を定量することにより求めることができる。上記滴定においては、pH8付近の第一中和点(変曲点)を、典型的には電位差計を用いて判断するとよい。
【0012】
ここに開示される水系ペースト調製用正極活物質の好ましい一態様では、上記正極活物質を構成する複合酸化物が、以下の一般式:
Li(Ni1−yCo1−zMe (1)
(式(1)中のx,yおよびzは、
0.99≦x≦1.12、
0≦y≦0.25、
0≦z≦0.1であり、
Meは、存在しないか或いはAl、Mn、Mg、Ti、Fe、Cu、ZnおよびGaから成る群から選択される1種又は2種以上の元素である。)で示される複合酸化物である。
上記複合酸化物は、リチウムのモル比xが0.99≦x≦1.12(典型的には1≦x≦1.12)であって、化学量論組成よりも過剰量のリチウムを含み得る結晶構造を有し、また、リチウム(Li)以外の構成金属元素としてニッケル(Ni)を含んでいる。さらに、微少含有金属元素として、コバルト(Co)及び/又はMe元素を含み得る。このように本発明によると、ニッケルの含有率が高い複合酸化物を正極活物質として採用して水系ペーストを調製した場合でも、内部抵抗の上昇を抑制し、高容量化あるいは高出力化を実現し得る水系ペーストを提供することができる。
【0013】
また、好ましい一態様では、上記水溶性リチウム化合物が水酸化リチウムである。水酸化リチウムは、水に対して溶解性が高く、かつ上記複合酸化物を製造する際の出発原料(後述する複合酸化物製造用原料のリチウム供給源)として好適に採用され得る。かかる水溶性リチウム化合物が複合酸化物に被覆された正極活物質は、水系溶媒と混合され水系ペーストが調製される際、該水溶性リチウム化合物が水系溶媒に先に溶解する。そのため、複合酸化物の結晶中のリチウムと水系溶媒との反応が抑制され、該結晶中に高密度のリチウムが保持された状態で正極活物質層形成用の水系ペーストを調製することができる。その結果、該正極活物質を用いることにより、優れた電池特性(サイクル特性または低温出力特性)を有するリチウム二次電池を提供することができる。
【0014】
ところで、リチウムニッケル系複合酸化物の表面に水酸化リチウムを有する正極活物質は、該表面に炭酸リチウムをも有することが多い。かかる炭酸リチウムは、正極活物質の原料(Li源)として炭酸リチウムを用いた場合にその一部が残留し得るほか、水酸化リチウムが空気中の二酸化炭素と反応することによっても生成し得る。したがって、複合酸化物の表面に所定量の水酸化リチウムを意図的に存在させようとすると、正極活物質の製造や取扱い(保存、輸送など)の際の条件等によって、該複合酸化物の表面に比較的多くの炭酸リチウムが存在するものとなり得る。しかしながら、炭酸リチウムは水に対する溶解性が低いため、水酸化リチウムとは異なり、水系ペーストの調製後も複合酸化物の表面に留まって内部抵抗を増加させる要因となり得る。
【0015】
そこで、ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記水系ペースト調製用正極活物質において、水溶性リチウム化合物(典型的には水酸化リチウム)に含まれるLi量と炭酸リチウムに含まれるLi量との関係を規定する。すなわち、上記一態様に係る正極活物質は、前記リチウムのモル比(A)と、
前記正極活物質についての高周波燃焼−赤外吸収法に基づく炭素量WTC(質量%)および前記複合酸化物を構成するリチウム以外の全ての金属元素の合計モル数Mallに基づいて下記式(b):
B=WTC×(1/12)×2÷Mall (b);
により算出される、WTCに対応する量の炭酸リチウム(LiCO)に含まれるリチウムのモル比(B)とが、以下の関係式(c):
0<(1.2A−B)<0.03 (c);
を満たすことを特徴とする。かかる正極活物質によると、水溶性リチウム化合物(典型的には水酸化リチウム)の被覆量をここに開示される好ましい範囲に規定することによる効果が、より適切に(より確実に)発揮され得る。
【0016】
ここに開示される技術の他の好ましい一態様では、上記水系ペースト調製用正極活物質において、該正極活物質は一次粒子が複数集合した二次粒子の形態を呈し、前記一次粒子は、X線回折により求められる(003)面方向の結晶子径d(Å)が次式:1300Å≦d≦1500Å;を満たす。かかる正極活物質は、一次粒子の結晶子径がより大きい正極活物質に比べて、より内部抵抗の低いものとなり得る。また、一般にSOC(State of Charge;充電状態)が比較的低いとき(例えば、SOCが20%程度のとき)は、よりSOCが高いとき(例えば60〜80%程度)に比べて内部抵抗が高くなる傾向にあるところ、正極活物質が上記結晶子径を満たすことは低SOC域における内部抵抗の低減に特に大きく寄与する。したがって、このような正極活物質によると、より幅広いSOC域において良好な出力を示すリチウム二次電池が構築され得る。
【0017】
また、本発明は、上記目的を実現する他の側面として、少なくともリチウムとニッケルを構成金属元素とする複合酸化物により構成されるリチウム二次電池用正極活物質を製造する方法を提供する。ここに開示される製造方法は、リチウム供給源とニッケル供給源とを包含する複合酸化物製造用原料を、リチウムのモル数MLiと他の全ての構成金属元素の合計モル数Mallとのモル比(MLi/Mall)が、1<MLi/Mallとなるようにリチウム過剰に調製すること;および上記リチウム過剰に調製した複合酸化物製造用原料を焼成することによって、上記複合酸化物から成る正極活物質であって該複合酸化物の表面の少なくとも一部が水溶性リチウム化合物で被覆された正極活物質を生成すること;を包含する。
ここで、上記複合酸化物製造用原料を調製するにあたって使用されるリチウム供給源の量は、上記水溶性リチウム化合物の被覆量が、中和滴定法に基づく該水溶性リチウム化合物中のリチウムのモル数mLiおよび前記複合酸化物を構成するリチウム以外の全ての金属元素の合計モル数Mallに基づいて下記式(a):
A=mLi/Mall (a);
により表されるリチウムのモル比(A)が0.018〜0.032になるように規定されることを特徴とする。
かかる製造方法によると、上記複合酸化物製造用原料を構成するリチウムと他の全ての構成金属元素(ここでいう構成金属元素は、ニッケル、コバルトおよび後述する式(1)中のMe元素を包含する。)とのモル組成比(MLi/Mall)が1を超えることにより、該複合酸化物の表面の少なくとも一部が水溶性リチウム化合物で被覆された正極活物質を得ることができる。また、ここに開示される製造方法では、上記モル比(A)が0.018〜0.032となるようにリチウム供給源の量が調整される。その結果、かかる製造方法により得られた正極活物質を使用して水系ペーストを調製する際、該複合酸化物の表面に被覆された水溶性リチウム化合物のリチウムイオンが水系溶媒に先に溶解し、該複合酸化物の結晶からのリチウムイオンの流出が最小限に抑えられる。このように、水系ペースト調製時における複合酸化物中のリチウムと水系溶媒との反応が抑制されるため、該ペーストを用いて構築されるリチウム二次電池の電池容量を低下させることがない。したがって、ここに開示される技術によると、優れた電池特性(サイクル特性またはハイレート特性)、特に低温高出力使用条件下において良好な出力特性を有するリチウム二次電池の構成材料として有用な正極活物質を製造する方法を提供することができる。
【0018】
ここに開示される正極活物質の好ましい一態様では、上記複合酸化物製造用原料を、一般式:
Li(Ni1−yCo1−zMe (1)
(式(1)中のx,yおよびzは、
0.99≦x≦1.12、
0≦y≦0.25、
0≦z≦0.1であり、
Meは、存在しないか或いはAl、Mn、Mg、Ti、Fe、Cu、ZnおよびGaから成る群から選択される1種又は2種以上の元素である。)で示される複合酸化物が生成されるように全ての構成金属元素の供給源を包含し、且つ上記のようにリチウム過剰に調製する。
上記複合酸化物におけるリチウムのモル比xが0.99≦x≦1.12(典型的には1≦x≦1.12、例えば1.00<x≦1.12)であって、かつ化学量論組成よりも過剰量のリチウムが含まれるように上記複合酸化物製造用原料を調製することにより、該複合酸化物の表面の少なくとも一部に水溶性リチウム化合物が被覆された正極活物質を生成することができる。加えて、ニッケルの含有比率が高くなるように上記原料を調製することにより、導電性の高い正極活物質が得られ、ひいては高容量化あるいは高出力化を実現し得るリチウム二次電池を提供することができる。
【0019】
また、好ましい一態様では、上記複合酸化物製造用原料は、上記複合酸化物の表面を被覆する上記水溶性リチウム化合物が、水酸化リチウムとなるように調製される。水酸化リチウムは、水に対する溶解性が高く、上記複合酸化物を構成するリチウム元素のリチウム供給源となり得る。そのため、上記複合酸化物製造用原料は、該複合酸化物の表面の少なくとも一部を被覆する水溶性リチウム化合物および該複合酸化物中のリチウム元素となり得る水酸化リチウムをリチウム供給源として調製されることにより、高容量化あるいは高出力化を実現し得るリチウム二次電池用正極活物質を提供することができる。
【0020】
また、本発明によると、ここに開示されるいずれかの正極活物質(ここに開示されるいずれかの製造方法により得られた正極活物質であり得る。)と水系溶媒とを含む水系ペーストが提供される。本発明によって提供される水系ペーストには、正極活物質を構成する複合酸化物の表面の少なくとも一部を被覆する水溶性リチウム化合物(典型的にはリチウムイオン)が溶解している。そのため、該複合酸化物の結晶からのリチウムイオンの流出が最小限に抑えられていることから、該水系ペーストを用いて構築されるリチウム二次電池の電池容量の低下が効果的に抑制され得る。また、本発明では従来のように過剰量のリチウムイオンが水系ペーストに溶け出すことがないため、適度な粘性(ここでいうペーストの粘性はpH依存によるものであって、高pHペーストほど粘性が高くなる傾向にある。)を備えており、薄く均一に良好な状態で正極集電体表面に塗布され得る。これにより、反応抵抗が抑制された、優れた電池特性(サイクル特性または低温出力特性)を有するリチウム二次電池を構築するための水系ペーストを提供することができる。
【0021】
また、本発明によると、ここに開示される水系ペーストを使用して形成された正極活物質層を正極集電体上に有することを特徴とするリチウム二次電池が提供される。
さらに、本発明によると、ここに開示されるリチウム二次電池を備える車両が提供される。
本発明によって提供されるリチウム二次電池は、上述のように特に車両に搭載される電源として適した電池特性(サイクル特性またはハイレート特性)、特に低温高出力使用条件下において良好な出力特性を示すものであり得る。したがって、ここに開示されるリチウム二次電池は、ハイブリッド自動車、電気自動車のような電動機を備える自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用の電源として好適に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一実施形態に係るリチウム二次電池の外形を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1におけるII−II線断面図である。
【図3】水溶性リチウム化合物の被覆量(モル比(A))と水系ペーストの粘度との関係を示すグラフである。
【図4】水溶性リチウム化合物の被覆量(モル比(A))と低温出力との関係を示すグラフである。
【図5】水溶性リチウム化合物の被覆量(モル比(A))と内部抵抗増加率との関係を示すグラフである。
【図6】一実施形態に係るリチウム二次電池を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【図7】水系ペーストの調製前後における水溶性リチウム化合物の挙動を説明するための模式図である。
【図8】リチウムのモル比(C)と内部抵抗値との関係を示すグラフである。
【図9】SOCと内部抵抗値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、正極および負極を備えた電極体の構成および製造方法、セパレータや電解質の構成および製造方法、リチウム二次電池その他の電池の構築に係る一般的技術等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0024】
本発明によって提供される正極活物質は、リチウム二次電池の正極活物質層を形成するための水系溶媒と正極活物質とを含む水系ペーストを調製するのに用いられる該水系ペースト調製用の正極活物質であり、少なくともリチウムとニッケルを構成金属元素とする複合酸化物により構成される。以下、上記正極活物質および該活物質の製造方法を詳細に説明するが、本発明をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。
【0025】
まず、本実施形態に係る水系ペースト調製用の正極活物質について説明する。
ここに開示される正極活物質は、少なくともリチウムとニッケルを構成金属元素とする複合酸化物により構成されている。そして、該複合酸化物の表面の少なくとも一部は、水溶性リチウム化合物で被覆されている。リチウムとニッケルを主な構成金属元素とする、所謂リチウムニッケル系複合酸化物は、コバルト酸リチウム等のリチウムコバルト系複合酸化物よりも理論上のリチウムイオン吸蔵容量が大きく、高エネルギー密度が得られるものとして注目されている。他方で、リチウムニッケル系複合酸化物は、リチウム二次電池の正極活物質層を形成するための水系溶媒(典型的には水)と正極活物質とを含む水系ペーストを調製する際、水系溶媒と複合酸化物とが典型的には以下の反応式:
O+LiNiO → NiOOH+Li++OH
に示すような反応を生じるため、水系溶媒中に複合酸化物の構成元素であるリチウムイオンが流出し、リチウム二次電池の電池容量が低下したり、正極活物質の導電性(導電パス)が低下して電池内(正極内)の反応抵抗が増大したりする虞があった。
しかしながら、ここに開示される水系ペースト調製用の正極活物質は、該複合酸化物の表面の少なくとも一部が水溶性リチウム化合物で被覆されているため、該複合酸化物の結晶中からリチウムイオンが流出するのが抑制されている。典型的には、その流出より先に上記被覆された水溶性リチウム化合物のリチウムイオンが水系溶媒に流出(溶解)するため、高密度のリチウムが保持された状態のままの複合酸化物を含有する水系ペーストが調製される。
【0026】
上記水系ペーストの調製に用いられる水系溶媒とは、典型には水であるが、全体として水性を示すものであればよく、例えば低級アルコール(メタノール、エタノール等)を含む水溶液も好ましく使用し得る。すなわち、水または水を主体とする混合溶媒を好ましく用いることができる。該混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)の1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。例えば、水系溶媒の凡そ80質量%以上(より好ましくは凡そ90質量%以上、さらに好ましくは凡そ95質量%以上)が水である溶媒が好ましい。特に好ましい例として、実質的に水からなる溶媒が挙げられる。
【0027】
上記複合酸化物の表面を被覆する水溶性リチウム化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、過酸化リチウム、リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、酢酸リチウムおよびヨウ化リチウム等、または水酸化リチウム・一水和物(LiOH・HO)のような結晶水のあるものが挙げられる。また、水に対する溶解度の大きい、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)および硫酸リチウム(LiSO)が好ましく、水酸化リチウムが特に好ましい。なお、ここに開示される技術における水溶性リチウム化合物は、これらのいずれか1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0028】
上記水溶性リチウム化合物の被覆量は、中和滴定法に基づく該水溶性リチウム化合物中のリチウムのモル数mLiと、前記複合酸化物(正極活物質)を構成するリチウム以外の全ての金属元素の合計モル数Mallとのモル比(A)=mLi/Mallが、好ましくは0.018〜0.032、特に好ましくは0.018〜0.03、例えば0.018〜0.028になるように規定される。好ましい一態様では、上記中和滴定法を以下のようにして実施する。すなわち、所定量の正極活物質を水に分散させ、これに塩化バリウムを加えて炭酸系イオンを炭酸バリウムとして除去した後、塩酸で中和滴定してpH8付近の第一中和点(変曲点)までの滴定量を判断することによって、上記所定量の複合酸化物の表面を被覆する水溶性リチウム化合物の量を、該化合物に含まれるLi換算の被覆量α(質量%)として求めることができる。具体的には以下の式(2)を用いてαを求めることができる。
α(質量%)=(D×F×K×M÷S)÷10 (2)
D:第一中和点までの塩酸滴定量(mL)
F:塩酸のファクター
K:リチウムの原子量(6.941g/mol)
M:塩酸のモル濃度(mol/L)
S:正極活物質の質量(g)
上記水溶性リチウム化合物中のリチウムのモル数mLiはα/Kにより表される。したがって、(α/K)/Mallによりモル比(A)を算出することができる。このようにして求められるモル比(A)が0.018〜0.032である正極活物質は、複合酸化物中のリチウムと水系溶媒との反応が抑制されるため、優れた電池特性(サイクル特性またはハイレート特性)、特に低温高出力使用条件下において良好な出力特性を有するリチウム二次電池用の正極活物質となり得る。
【0029】
なお、上記中和滴定法は、正極活物質を水に分散させておく時間(水溶性リチウム化合物を溶出させる時間)を概ね同程度に揃えて実施することが好ましい。このことによって上記被覆量をより精度よく把握することができる。好ましい一態様では、上記水分散時間を120秒〜300秒程度の間に設定される概ね一定の時間(例えば180秒)とする。かかる水分散時間の管理を容易に行う一方法として、水に正極活物質を分散させてから所定時間(水分散時間)経過後に、濾過等により正極活物質を水から分離する方法が例示される。その後、残った水(濾液)に塩化バリウムを加え、次いで中和滴定を行うとよい。
【0030】
ここに開示される水系ペースト調製用正極活物質の好ましい一態様では、該正極活物質において、前記リチウムのモル比(A)と、
前記正極活物質についての高周波燃焼−赤外吸収法に基づく炭素量WTC(質量%)および前記複合酸化物(正極活物質)を構成するリチウム以外の全ての金属元素の合計モル数Mallに基づいて下記式(b):
B=WTC×(1/12)×2÷Mall (b);
により算出される、WTCに対応する量のLiCOに含まれるリチウムのモル比(B)とが、以下の関係式(c):
0<(1.2A−B)<0.03 (c);
を満たす。以下、上記1.2A−B(モル比)を「Li量(C)」と表記することがある。なお、上記式(b)中の12は炭素の原子量を表している。
【0031】
ここに開示される技術の典型的な態様では、上記中和滴定法において塩酸で滴定されるアルカリ成分の大部分(実質的に全部であり得る。)が、複合化合物表面のLiOHに由来する。この場合、Liのモル比(A)は、正極活物質に含まれるLi以外の全金属元素のモル数Mallに対する「複合化合物表面のLiOHのモル数」の比を示す値として把握され得る。
【0032】
一方、Liのモル比(B)は、正極活物質に含まれるLi以外の全金属元素のモル数Mallに対する「複合化合物表面のLiCOのモル数(Li換算)」の比を示す値として把握され得る。このモル比(B)は、典型的には、JIS Z2615(金属材料の炭素定量方法通則)に規定される高周波燃焼−赤外吸収法により測定される炭素量WTC(質量%)から算出される。具体的には、後述する実施例に記載の炭素量WTC測定方法を好ましく採用することができる。この炭素量WTCに上記式(b)を適用することにより、WTC(質量%)に対応するLi量(B)(モル比)を求めることができる。
【0033】
ここに開示される水系ペースト調製用正極活物質の好ましい一態様では、「1.2A−B」により定義されるLi量(C)(モル比)が0<C<0.03を満たすように規定されている。Cが0.003≦C≦0.02(例えば0.01<C<0.02)を満たす正極活物質がより好ましい。上述したモル比(A)が所定の数値範囲を満たすことに加えて、AとBとの関係を上記範囲に規定することにより、結晶中のLi溶出防止に役立つLiOHを適正量(典型的には0.018≦A≦0.032)含みつつ、そのLiOHの存在量を考慮して、電池性能(例えば出力性能)を低下させ得るLiCOの存在量が適度な範囲に抑えられた水系ペースト調製用正極活物質が実現され得る。また、Cが上記数値範囲にある正極活物質では、例えば図8に示されるように、Cと内部抵抗値との間に強い相関がみられる。したがって、正極活物質におけるCの値を管理することにより、該正極活物質から調製された水系ペーストを用いて製造されたリチウム二次電池の内部抵抗を精度良く管理することができる。
【0034】
このようにLi量(C)(モル比)を所定範囲に規定することの意義を、図7に示す模式図を参照しつつ、さらに具体的に説明する。すなわち、1<MLi/Mallとなるように調整された複合酸化物製造用原料を焼成してなる正極活物質は、例えばLi源としてLiOHのみを使用した場合、図7(a)に示すように、複合酸化物82の表面を被覆する水溶性リチウム化合物84の大部分がLiOHであり、LiOHの一部が環境中のCOと反応して生じたLiCOを含むとしてもその量は少量に留まることが望ましい。Li量(C)が上述した好ましい範囲にあることは、正極活物質80が図7(a)からイメージされる状態にあることに関連づけられる。かかる状態にある正極活物質80は、水系ペーストに調整されることにより、図7(b)に示すように、LiOHが水に溶解して複合酸化物82の表面が露出し、リチウムイオンの出入りに適した表面状態が提供される。したがって、かかる正極活物質80を用いて構築されたリチウム二次電池は、内部抵抗が効果的に低減されたものとなり得る。
【0035】
これに対して、Li量(C)(モル比)が上述した好ましい範囲よりも小さすぎる正極活物質は、図7(c)からイメージされる正極活物質180に対応づけられる。例えば、Li源の一部または全部としてLiCOを使用した場合や、Li源としてLiOHのみを使用した場合であっても保存雰囲気や保存時間によってLiOHの一部または全部が環境中のCOと反応してLiCOを生じることにより、図7(c)に示すような正極活物質180となり得る。この図7(c)に示す正極活物質180は、図7(d)に示すように水系ペーストに調整された場合、LiOHは水に溶解するが、水に対する溶解性の低いLiCOはその大部分が複合酸化物82の表面に残り、電解液と複合酸化物との反応(リチウムイオンの挿入・脱離反応)を阻害する要因となり得る。したがって、かかる正極活物質180を用いて構築されたリチウム二次電池は、内部抵抗の高いものとなりがちである。なお、Li量(C)が上述した好ましい範囲よりも大きすぎると、水系ペーストを調製した場合にその粘度が高くなりすぎることがある。
【0036】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記炭素量WTCが、WTC≦0.13質量%(典型的にはWTC<0.13質量%)を満たす。より好ましくはWTC≦0.12質量%である。かかる水系ペースト調製用正極活物質によると、より内部抵抗の低い(したがって出力性能に優れた)リチウム二次電池が構築され得る。好ましい一態様では、化学量論量に対して1.04〜1.12倍のモル数のLi源を含むように(換言すれば、1.04≦MLi/Mall≦1.12となるように)複合酸化物製造用原料を調整する。通常は、1.04≦MLi/Mall≦1.08とすることにより、好適な結果が実現され得る。
【0037】
なお、モル比(A)、(B)および(C)は、例えば、使用するLi源の種類、複合酸化物製造用原料におけるMLi/Mallの値、焼成条件、放冷条件、保存条件等により調節することができる。焼成、放冷および保存の各条件の具体的な内容としては、温度、時間、雰囲気(例えばCO濃度や湿度)等が例示される。
【0038】
さらに、上記正極活物質を構成する複合酸化物の好ましい一態様としては、以下の一般式:
Li(Ni1−yCo1−zMe (1)
(式(1)中のx,yおよびzは、
0.99≦x≦1.12、
0≦y≦0.25、
0≦z≦0.1であり、
Meは、存在しないか或いはアルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)およびガリウム(Ga)から成る群から選択される1種又は2種以上の元素である。)で示される。
すなわち、上記複合酸化物のリチウム(Li)のモル比xが、0.99≦x≦1.12(典型的には1≦x≦1.12)であって、化学量論組成よりも過剰のリチウムを含み得る結晶構造を有しており、リチウムの含有率が高い複合酸化物により正極活物質が構成される。また、リチウム以外の構成金属元素として、ニッケル(Ni)を含み、微少含有金属元素として、コバルト(Co)及び/又はMe元素を含み得る。さらに、ニッケルのモル比は、コバルトまたはMe元素のモル比、またはコバルトおよびMe元素の合計モル比よりも大きく、リチウムに次いで含有モル比が高くなるように構成される。
【0039】
また、上記式(1)中のMeで表わされる元素としては、存在しないか或いはアルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)およびガリウム(Ga)が好ましく、好適例としてAlが挙げられる。また、Me元素は、上記列挙した元素群から選択される1種又は2種以上の元素であり得る。ただし、Me元素として2種以上選択される場合は、各元素の合計モル数を示すzが、0≦z≦0.1である必要がある。これらの元素を適切なモル比で含有されることにより、正極活物質の導電性を向上させ、結果としてリチウム二次電池の内部抵抗の上昇を抑制することができる。
【0040】
ここに開示される水系ペースト調製用正極活物質は、典型的には、一次粒子が複数集合した二次粒子の形態を呈する。好ましい一態様では、前記一次粒子は、X線回折(例えば、CuKα線を用いたX線回折)により求められる(003)面方向の結晶子径d(Å)が1300Å≦d≦1500Å(典型的には1300Å<d≦1500Åを満たす。上記結晶子径dとしては、(003)面に対応する回折ピークの半値幅からSherrerの計算式により求められる値を採用することができる。かかる正極活物質は、一次粒子の結晶子径がより大きい正極活物質に比べて内部抵抗の低いものとなり得る。また、正極活物質が上記結晶子径を満たすことは、低SOC域における内部抵抗の低減に特に大きく寄与する。したがって、このような正極活物質によると、より幅広いSOC域において優れた出力性能を示す(換言すれば、内部抵抗または出力性能のSOC依存性が少ない)リチウム二次電池が構築され得る。低SOC域(例えばSOC20%)における内部抵抗の低減効果の観点からは、dが1350Å≦d≦1500Åであることが好ましく、より好ましくは1400Å≦d≦1500Å(例えば1400Å<d≦1500Å)である。
【0041】
結晶子径dの調節は、種々の手法により行うことができる。例えば、dをより大きくする手法として:ここに開示される複合酸化物製造用原料におけるMLi/Mallをより大きくする;上記複合酸化物製造用原料の焼成温度をより高くする;上記複合酸化物製造用原料の焼成時間をより長くする;等の手法を例示することができる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて採用することができる。
【0042】
なお、本発明者らの検討によれば、モル比(A)および(C)の一方または両方をここに開示される好ましい範囲に規定することによる内部抵抗の低減については、低SOC域から中〜高SOC域に至るまで概ね同程度の効果が発揮されることが確認された。したがって、上記AおよびCの一方または両方の規定と、結晶子径dの規定とを組み合わせて適用することにより、かかる組み合わせによる相乗効果として、より幅広いSOC域(特に、低SOC側により広いSOC域)において内部抵抗が大きく低減されたリチウム二次電池、ならびに、該電池を作製するのに適した水系ペースト調整用正極活物質が提供され得る。
【0043】
次いで、少なくともリチウムとニッケルを構成金属元素とする複合酸化物により構成されるリチウム二次電池用正極活物質を製造する方法について詳細に説明する。
ここに開示される製造方法は、以下の工程:
(1)リチウム供給源と、ニッケル供給源とを包含する複合酸化物製造用原料を調製する工程、(2)上記複合酸化物製造用原料を焼成する工程、を包含する。
【0044】
まず、複合酸化物の主構成元素を供給するための、リチウム供給源とニッケル供給源とを包含する複合酸化物製造用原料を調製する。上記複合酸化物の好適な実施形態の一つとして、以下の式(1)で表わされる複合酸化物が挙げられる。
Li(Ni1−yCo1−zMe (1)
(式(1)中のx,yおよびzは、
0.99≦x≦1.12、
0≦y≦0.25、
0≦z≦0.1であり、
ここで、Meは、存在しないか或いはAl、Mn、Mg、Ti、Fe、Cu、ZnおよびGaから成る群から選択される1種又は2種以上の元素である。)
そして、上記式(1)で示される複合酸化物が焼成により製造されるように設定されたモル比で混合し、全ての構成金属元素の供給源から成る複合酸化物製造用原料が調製される。
【0045】
上記複合酸化物製造用原料として、必須構成元素であるリチウム供給源およびニッケル供給源と、選択的構成元素であるコバルト供給源およびMe元素供給源とを用意する。
リチウム供給源を包含する化合物としては、生成する正極活物質の表面が水溶性リチウム化合物で被覆されるような材料が用いられる。例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、過酸化リチウム、リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、酢酸リチウムおよびヨウ化リチウム等、または水酸化リチウム・一水和物(LiOH・HO)のような結晶水のあるものが挙げられる。なかでも、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)または硫酸リチウム(LiSO)が好ましく、水酸化リチウムが特に好ましい。なお、これらは1種を単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
また、ニッケル供給源を包含する化合物としては、ニッケルを構成元素とする水酸化物、酸化物、硫化物、各種の塩(例えば炭酸塩)、ハロゲン化物(例えばフッ化物)等の化合物が選択され得る。例えば、炭酸ニッケル、酸化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、水酸化ニッケル、シュウ酸ニッケル、オキシ水酸化ニッケル等が挙げられる。
【0047】
さらに、必須構成元素ではないが、コバルトを構成元素として含むものであってもよい。かかるコバルト供給源を包含する化合物としては、コバルトを構成元素とする水酸化物、酸化物、硫化物、各種の塩(例えば炭酸塩)、ハロゲン化物(例えばフッ化物)等の化合物が選択され得る。特に限定されないが、例えば、炭酸コバルト、酸化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、水酸化コバルト、オキシ水酸化コバルト等が挙げられる。
【0048】
また好ましくは、ニッケル供給源、コバルト供給源をそれぞれ別の化合物として用意する代わりに、供給されるべき構成元素(ニッケルおよびコバルト)を包含する水酸化物を使用することができる。かかる水酸化物は、各化合物を所定のモル比で混合し、好ましくは不活性ガス雰囲気のような非酸化性雰囲気中、アルカリ条件下で原料化合物を還元することによって2種以上の構成元素を含む水酸化物を生成することができる。こうして生成した水酸化物を使用することにより、上記リチウム供給源と良好に混じり合い、結晶の成長が促進される。
【0049】
また、ここで開示されるリチウムニッケル系複合酸化物は、リチウムおよびニッケル以外の構成金属元素としてコバルトを含み得るが、これらの金属元素の一部を置換し、上記式(1)中のMeで表わされる、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)およびガリウム(Ga)から成る群から選択される1種又は2種以上の金属元素を含むものであってもよい。当該Me元素のモル組成比zは、0≦z≦0.1を満足する数である。即ち、Me元素は、存在しないか、若しくはいずれの主構成金属元素(リチウム、ニッケル)よりも小さいモル比で含まれる。このうち、Alを構成元素とするアルミニウム供給源の添加が特に好ましい。これらの元素を適切なモル比で加えることにより、正極活物質の導電性を向上させることができる。
【0050】
次いで、上記用意した各構成元素の供給源を秤量し、混合して複合酸化物製造用原料を調製する。このとき上記式(1)中のモル比となるように上記供給源をそれぞれ調整(秤量)して複合酸化物製造用原料を調製する。好ましくは、リチウムのモル数MLiと他の全ての構成金属元素の合計モル数(Mall)とのモル比(MLi/Mall)が、1<MLi/Mallとなるようにリチウム過剰に調製する。さらに、好ましくは、Liのモル比(A)が0.018〜0.032になるようにリチウム供給源を添加する。これにより、複合酸化物の結晶構造中に化学量論組成よりも過剰量のリチウムを含み、且つ、該複合酸化物の表面の少なくとも一部が水溶性リチウム化合物で被覆された正極活物質を得ることができる。
【0051】
なお、各供給源を混合して複合酸化物製造用原料を調製するのに際し、必要に応じて攪拌(混練、粉砕を含む)を行うことができる。混合に用いる装置としては特に限定するものではないが、例えば、プラネタリーミキサー、遊星式撹拌装置、デスパー、ボールミル、ニーダ、ミキサー等を使用することにより、各供給源が均一に拡散または浸透され安定した混合状態を形成することができる。
【0052】
各種の供給源化合物を混合して複合酸化物製造用原料を調製した後、当該複合酸化物製造用原料を適当な温度で焼成する。焼成は、酸化性の雰囲気、例えば大気中や大気よりも酸素がリッチな雰囲気中で行うことが望ましい。また、焼成温度は特に限定されないが、酸化雰囲気中において650℃以上850℃以下の範囲内に最高焼成温度を決定するのが好ましい。さらに好ましくは、調製した複合酸化物製造用原料を先ず400℃以上500℃未満の温度範囲内に設定された中間焼成温度で仮焼成し、次いで650℃以上850℃以下の温度範囲内に設定された最高焼成温度まで昇温して焼成する。かかる温度域で仮焼成することにより、結晶の急激な成長を抑制し、さらに昇温して焼成することで結晶構造中に化学量論組成よりも過剰にリチウムを含む複合酸化物であって、該表面の少なくとも一部には水溶性リチウム化合物が被覆された正極活物質が得られる。
なお、焼成時間については、特に限定するものではないが、上記設定した最高焼成温度まで昇温した後、該温度域で5〜24時間程度(例えば7時間)焼成するのが好ましい。また、焼成後はできる限り水との接触を遮断し、低湿度環境下で余熱を取るのが好ましい。
【0053】
本実施形態に係る製造方法により得られるリチウム二次電池用の正極活物質は、複合酸化物の表面の少なくとも一部が水溶性リチウム化合物で被覆されている。かかる被覆量は、従来公知の中和滴定法により容易に確認することができる。例えば、該中和滴定法の一例として挙げるならば、上記製造した正極活物質を水に分散させ、これに塩化バリウムを加えて炭酸系イオンを難溶性の炭酸バリウムとして除去した後、塩酸で中和滴定し、電位差計を用いて中和点を判断することにより、水溶性リチウム化合物のLi換算の被覆量α(質量%)を求めることができる。具体的には以下の式より求めることができる。
α(質量%)=(D×F×K×M÷S)÷10 (2)
D:塩酸の滴定量(mL)
F:塩酸のファクター
K:リチウムの原子量(6.941g/mol)
M:塩酸のモル濃度(mol/L)
S:正極活物質の質量(g)
上記αを用いて、A=(α/K)/Mallにより(すなわち、A=mLi/Mallにより)表される水溶性リチウム化合物のLi換算の被覆量(モル比(A))が、好ましくは0.018〜0.032、特に好ましくは0.018〜0.03、例えば0.018〜0.028である正極活物質は、複合酸化物中のリチウムと水系溶媒との反応が抑制されるため、優れた電池特性(サイクル特性またはハイレート特性)、特に低温高出力使用条件下において良好な出力特性を有するリチウム二次電池用の正極活物質が提供される。
【0054】
以下、ここに開示される製造方法により得られるリチウム二次電池用正極活物質(典型的には水系ペースト調製用正極活物質)を使用した水系ペースト、及び該ペーストを用いた正極、および該正極を備えるリチウム二次電池の一実施形態につき、図1および図2に示す模式図を参照しつつ説明するが、本発明をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。
【0055】
図1は、一実施形態に係る角型形状のリチウム二次電池を模式的に示す斜視図であり、図2は、図1中のII−II線断面図である。図1および図2に示されるように、本実施形態に係るリチウム二次電池100は、直方体形状の角型の電池ケース10と、該ケース10の開口部12を塞ぐ蓋体14とを備える。この開口部12より電池ケース10内部に扁平形状の電極体(捲回電極体20)及び電解質を収容することができる。また、蓋体14には、外部接続用の正極端子38と負極端子48とが設けられており、それら端子38,48の一部は蓋体14の表面側に突出している。また、外部端子38,48の一部はケース内部で内部正極端子37または内部負極端子47にそれぞれ接続されている。
【0056】
図2に示されるように、本実施形態では該ケース10内に捲回電極体20が収容されている。該電極体20は、長尺シート状の正極集電体32の表面に正極活物質層34が形成された正極シート30、長尺シート状の負極集電体42の表面に負極活物質層44が形成された負極シート40、および長尺シート状のセパレータ50からなる。そして、正極シート30及び負極シート40を2枚のセパレータ50と共に重ね合わせて捲回し、得られた捲回電極体20を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状に成形されている。
【0057】
また、捲回される正極シート30において、その長手方向に沿う一方の端部35は正極活物質層34が形成されずに正極集電体32が露出した部分(正極活物質層非形成部36)を、捲回される負極シート40においても、その長手方向に沿う一方の端部45は負極活物質層44が形成されずに負極集電体42が露出した部分(負極活物質層非形成部46)をそれぞれ有する。そして、正極集電体32の正極活物質層非形成部36に内部正極端子37が、負極集電体42の該露出端部には内部負極端子47がそれぞれ接合され、上記扁平形状に形成された捲回電極体20の正極シート30または負極シート40と電気的に接続されている。正負極端子37,47と正負極集電体32,42とは、例えば超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合され得る。
【0058】
正極(典型的には正極シート30)は、長尺状の正極集電体32の上に正極活物質を含む正極活物質層34が形成された構成を備える。正極集電体32としては、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。正極集電体32の形状は、リチウム二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。
【0059】
次に、上記正極活物質層34を形成するための水系ペーストの調製方法について説明する。
ここに開示される水系ペーストは、水系溶媒と、上述の製造方法を用いて得られた表面の少なくとも一部が水溶性リチウム化合物で被覆されたリチウムニッケル系複合酸化物からなる正極活物質とが包含され、かかる材料の他に一般的なリチウム二次電池に配合され得る一種または二種以上の結着材や導電材等を必要に応じて含有させることができる。
【0060】
まず、導電材としては、カーボン粉末やカーボンファイバー等の導電性粉末材料が好ましく用いられる。例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、グラファイト粉末等が好ましく、これらのうち一種のみを用いられていても二種以上が併用されていてもよい。
【0061】
また、結着材としては、水に溶解する水溶性のポリマー材料が好ましい。カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。また、水に分散する(水分散性の)ポリマー材料を好適に用いることができる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂、酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)、アラビアゴム等のゴム類が例示される。
【0062】
ここに開示される水系ペーストは、本発明に係る正極活物質と上記例示した導電材と結着材等の添加材とを、適当な水系溶媒に添加し、分散または溶解させて混合することにより調製することができる。こうして調製される水系ペーストは、正極活物質を構成する複合酸化物の表面の少なくとも一部を被覆する水溶性リチウム化合物(典型的にはリチウムイオン)が溶解されている。そのため、該複合酸化物中からのリチウムイオンの溶出が最小限に抑えられており、該水系ペーストを用いて構築されるリチウム二次電池の電池容量の低下が抑制される。さらに、従来のように過剰量のリチウムイオンが水系ペーストに溶け出さないため、適度な粘性(pH依存による粘性であって、通常高pHペーストほど粘性が高くなる)を備えており、薄く均一に良好な状態で正極集電体表面に塗布され得る。
【0063】
そして、調製した水性ペーストを正極集電体32に塗布し、水系溶媒を揮発させて乾燥させた後、圧縮(プレス)する。これにより該水系ペーストを使用して形成された正極活物質層34を正極集電体32上に有するリチウム二次電池用の正極が得られる。
ここで、正極集電体32に水性ペーストを塗布する方法としては、従来公知の方法と同様の技法を適宜採用することができる。例えば、スリットコーター、ダイコーター、グラビアコーター、コンマコーター等の適当な塗布装置を使用することにより、正極集電体32に水性ペーストを好適に塗布することができる。また、溶媒を乾燥するにあたっては、自然乾燥、熱風、低湿風、真空、赤外線、遠赤外線、および電子線を、単独または組合せにて用いることにより良好に乾燥し得る。さらに、圧縮方法としては、従来公知のロールプレス法、平板プレス法等の圧縮方法を採用することができる。かかる厚さを調整するにあたり、膜厚測定器で該厚みを測定し、プレス圧を調整して所望の厚さになるまで複数回圧縮してもよい。
【0064】
一方、負極(典型的には負極シート40)は、長尺状の負極集電体42(例えば銅箔)の上に負極活物質層44が形成された構成であり得る。負極活物質は、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。好適例として、カーボン粒子が挙げられる。少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が好ましく用いられる。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもののいずれの炭素材料も好適に使用され得る。
【0065】
また、負極活物質層44には、上記負極活物質の他に、一般的なリチウム二次電池に配合され得る一種または二種以上の結着材等の材料を必要に応じて含有させることができる。そして、負極活物質と結着材等とを適当な溶媒(水、有機溶媒およびこれらの混合溶媒)に添加し、分散または溶解させて調製したペーストまたはスラリー状の組成物を負極集電体42に塗布し、溶媒を乾燥させて圧縮することにより好ましく作製され得る。
【0066】
また、正負極シート30、40間に使用される好適なセパレータシート50としては、多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成されたものが挙げられる。例えば、合成樹脂製(例えばポリエチレン等のポリオレフィン製)多孔質セパレータシートを好適に使用し得る。なお、電解質として固体電解質若しくはゲル状電解質を使用する場合には、セパレータが不要な場合(即ちこの場合には電解質自体がセパレータとして機能し得る。)があり得る。
【0067】
また、電解質は、従来からリチウム二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種又は二種以上を用いることができる。また、上記支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。なお、非水電解液における支持塩の濃度は、従来のリチウム二次電池で使用される非水電解液と同様でよく、特に制限はない。適当なリチウム化合物(支持塩)を0.1〜5mol/L程度の濃度で含有させた電解質を使用することができる。
【0068】
また、一実施形態に係るリチウム二次電池100の構築について大まかな手順を説明する。上記作製した正極シート30および負極シート40を2枚のセパレータ50と共に積重ね合わせて捲回し、積層方向から押しつぶして拉げさせることによって電極体20を扁平形状に成形し、電池ケース10に収容して電解質を注入後、該ケース開口部12に蓋体14を装着し、封止することによって、本実施形態のリチウム二次電池100を構築することができる。なお、上記電池ケース10の構造、大きさ、材料(例えば金属製またはラミネートフィルム製であり得る)等について特に制限はない。
【0069】
このようにして構築されたリチウム二次電池は、上述したように、優れた電池特性(電池容量、サイクル特性またはハイレート特性)、特に低温高出力使用条件下において良好なサイクル特性を示すものであり得る。
【0070】
なお、この明細書により開示される事項には、以下のものが含まれる。
(1)評価対象たる正極活物質について、上述した被覆量αを把握する工程;
上記で把握した被覆量αと目標とする数値(所定の合格基準)とを比較する工程;
上記被覆量αが上記目標数値を満たす場合には当該正極活物質を合格と判定し、満たさない場合には不合格と判定する工程;
合格と判定された正極活物質と水系溶媒とを含む水系ペーストを調製する工程;
その水系ペーストを正極集電体に付与することにより、該集電体上に正極活物質層を有する正極を作製する工程;および、
その正極を用いてリチウム二次電池を構築する工程;
を包含する、リチウム二次電池製造方法。
【0071】
(2)リチウム二次電池の正極を製造するための水系ペーストの調製に使用する正極活物質の品質を評価する方法であって、
評価対象たる正極活物質について、上述した被覆量αを把握する工程;
上記で把握した被覆量αと目標とする数値(所定の合格基準)とを比較する工程;および、
上記被覆量αが上記目標数値を満たす場合には当該正極活物質を合格と判定し、満たさない場合には不合格と判定する工程;
を包含する、正極活物質の品質評価方法。
【0072】
上記(1)および(2)において、不合格と判定された正極活物質は、αが上記範囲を満たすような処理を施した上で水系ペーストの調製に使用してもよく、該正極活物質と有機溶剤とを含む溶剤系ペースト(正極活物質層形成用の組成物)の調製に使用してもよい。また、上記被覆量αは、典型的には上述した中和滴定法を用いてその都度実際に測定することにより把握することができるが、かかる態様に限定されず、例えば過去の実績等に基づいて被覆量αを把握(推定)してもよい。上記合否判定の基準としては、被覆量αが上記範囲を満たすか否かに替えて、あるいはかかる基準に加えて、他のパラメータ(好適例として、Li量(C)および結晶子径が挙げられる。)の1または2以上がここに開示される好ましい範囲を満たすか否かを採用してもよい。また、上記被覆量α(質量%)からモル比(A)を把握し、そのモル比(A)と所定の合格基準(例えば0.018〜0.032(モル比))とを比較して合否を判定してもよい。
【0073】
以下の試験例において、ここで開示される複合酸化物の表面の少なくとも一部に水溶性リチウム化合物が被覆された正極活物質を使用してリチウム二次電池(サンプル電池)を構築し、その性能評価を行った。
【0074】
<試験例1:正極活物質の製造>
まず、以下の手順で正極活物質を製造した。すなわち、ニッケル供給源としての硫酸ニッケル(NiSO)と、コバルト供給源としての硫酸コバルト(CoSO)とを所定のモル比となるように混合して硫酸塩水溶液を調製した。次に、約50℃に加温しつつ、この溶液にアンモニア(NH)水溶液と水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)とを少量ずつ供給しながら中和し、約pH11に調整してスラリーを作製した。このスラリーを水洗、ろ過し、次いで凡そ70℃で乾燥することによって、ニッケルコバルト複合水酸化物(Ni1−yCo(OH))(ここで、yは、0≦y≦0.25を満足する数である。)から成る粉末を得た。
上記ニッケルコバルト複合水酸化物を、水酸化ナトリウム(NaOH)とアルミン酸ナトリウム(NaAlO)が溶解された水溶液に分散させ、攪拌しつつ硫酸水溶液(HSO)で中和し、ニッケルコバルト複合水酸化物表面に水酸化アルミニウムを析出させたスラリーを調製した。このスラリーを水洗、ろ過し、次いで凡そ100℃で乾燥した後、700℃に加熱して焼成することによって、ニッケルコバルトアルミニウム含有複合酸化物((Ni1−yCo1−zAlO)(ここでyおよびzは、0≦y≦0.25、0≦z≦0.1を全て満足する数である。)を合成した。
【0075】
次に、上記複合酸化物に、リチウム供給源としての水酸化リチウム(LiOH)を、Liのモル数と他の全ての構成金属元素(Ni,Co,Al)の合計モル数(Mall)とがさまざまなモル比(MLi/Mall)となるような分量で混合し、複数サンプルの複合酸化物製造用原料を調製した。そして、調製した各原料を酸素中において室温から凡そ700〜800℃の温度域まで昇温し、当該温度域で約7時間焼成することにより、複合酸化物の表面の少なくとも一部に水溶性リチウム化合物が被覆された正極活物質(Li(Ni1−yCo1−zAl)(ここで、x,yおよびzは、0.99≦x≦1.12、0≦y≦0.25、0≦z≦0.1を全て満足する数である。)を得た。
【0076】
こうして製造した各正極活物質について、複合酸化物の表面に被覆された水溶性リチウム化合物の被覆量をそれぞれ測定した。測定方法は、正極活物質2.01g〜2.04gを秤量し、攪拌しながらイオン交換水に分散(溶解)して全量を100mLにした。これに10%塩化バリウム溶液2mLを加え、攪拌しながら1mol/L塩酸で中和滴定し、電位差計を用いてpH8の第一中和点を判断することによって、水溶性リチウム化合物の被覆量α(質量%)を、以下の(2)式を用いて求めた。
α(質量%)=(D×F×K×M÷S)÷10 (2)
D:第一中和点までの塩酸滴定量(mL)
F:塩酸のファクター
K:リチウムの原子量(6.941g/mol)
M:塩酸のモル濃度(1mol/L)
S:正極活物質の質量(g)
さらに、上記αから、次式:(α/K)/Mall;により、上記被覆量αに対応するLi量(モル比(A))を算出した。
【0077】
<試験例2:水系ペーストの調製>
上記製造した各正極活物質を用いて、水系ペーストを調製した。すなわち、正極における正極活物質層を形成するにあたり、該正極活物質と、導電材としてのアセチレンブラックと、結着材としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを、これらの材料の質量%比が88:10:1:1となるように秤量し、上記材料の固形分率が54質量%になるように水系溶媒(イオン交換水)に添加した。このとき、上記正極活物質と水系溶媒(HO)とのモル組成比は、正極活物質1に対して、水が凡そ0.75〜1.05(例えば0.97程度)の範囲になるように調製した。次いで、プラネタリーミキサーで50分間混合し、正極活物質層形成用の水系ペーストを調製した。
【0078】
<試験例3:水系ペーストの粘度>
上記調製した水系ペーストの粘性について、粘度測定計を用いて求めた。そして、各正極活物質の複合酸化物の表面を被覆するリチウム被覆量と水系ペーストの粘度との関係を調べた。図3に、その結果を示す。
【0079】
図3は、横軸が複合酸化物の表面を被覆する水溶性リチウム化合物の被覆量(モル比)であり、縦軸が水系ペーストの粘度を示す。
図3から明らかなように、リチウム被覆量が大きいほど、水系ペーストの粘度が高くなる傾向にあることが確認された。さらに、被覆量(モル比)が0.018〜0.03程度では水系ペーストの粘度は凡そ3000〜5000mPa・sであるが、被覆量(モル比)が0.036以上になると著しく粘度が高くなる(約13000mPa・s)ことが示された。
【0080】
<試験例4:水系ペーストを使用した試験用リチウム二次電池の構築>
上記調製した水系ペーストを、正極集電体としての厚み約15μmのアルミニウム箔の両面に、合計塗布量(固形分換算)が凡そ9.5mg/cmとなるように塗布した。次いで、ペースト中の水分を乾燥させ、ローラプレス機にてシート状に引き伸ばして層厚が60μm(正極集電体の厚みを含む)の厚さに調製し、正極活物質層を形成することにより、リチウム二次電池用の正極(正極シート)を作製した。
【0081】
次に、リチウム二次電池用の負極を作製した。すなわち、負極活物質としての(アモルファスカーボンでコーティング処理した)グラファイトと、結着材としてのスチレンブタジエンゴム(SBR)、とカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、これら材料の質量%比が98:1:1となるようにイオン交換水と混合して、負極活物質層形成用のペーストを調製した。そして、負極集電体としての厚み約10μmの銅箔の両面に、かかるペーストの合計塗布量(固形分換算)が凡そ9.0mg/cmの範囲となるように塗布した。次いで、ペースト中の水分を乾燥させ、ローラプレス機にてシート状に引き伸ばして層厚が60μm(負極集電体の厚みを含む)の厚さに調製し、負極活物質層を形成することにより、リチウム二次電池用の負極(負極シート)を作製した。
【0082】
上記作製した正極シートおよび負極シートを2枚の多孔性セパレータと共に重ね合わせて捲回し、積層方向から押しつぶして拉げさせることによって電極体を扁平形状に成形した。そして、該電極体をケースに収容し、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とを1:1の体積比で含む混合溶媒に支持塩LiPFを1mol/Lの濃度で溶解した電解質を注入した。次いで、コンディショニング処理として2Aの定電流で4.1Vまで充電することにより、試験用リチウム二次電池を構築した。
【0083】
<試験例5:低温出力特性>
次に、各リチウム二次電池の低温条件下における出力特性を調べた。すなわち、25℃の温度条件下、3.0V迄の定電流放電後、定電流定電圧で充電を行ってSOC(State of Charge)40%に調整した。その後、−30℃にて適宜電流を変化させ、放電開始から2秒後の電圧を測定し、サンプル電池のI−V特性グラフを作成した。放電カット電圧は2.0Vとした。かかるI−V特性グラフから出力値(W)を求めた。そして、各正極活物質の複合酸化物の表面を被覆するリチウム被覆量と低温出力との関係を調べた。図4にその結果を示す。
【0084】
図4は、横軸が複合酸化物の表面を被覆する水溶性リチウム化合物の被覆量(モル比)を示し、縦軸が低温出力値を示す。
図4から明らかなように、リチウム被覆量(モル比)が大きいほど出力値は高くなることが確認された。また、被覆量(モル比)が0.018〜0.02のリチウム二次電池においても、出力が凡そ110Wあり、低温出力特性が良好であることが示された。
【0085】
<試験例6:内部抵抗増加率>
次に、各リチウム二次電池の内部抵抗増加率を調べた。すなわち、25℃の温度条件下にて、定電流定電圧(CC−CV)充電によって各電池をSOC60%の充電状態に調整した。その後、25℃にて60Aで放電し、放電開始から10秒後の電圧値をプロットしてI−V特性グラフを作成した。このI−V特性グラフの傾きから、25℃における初期内部抵抗値(mΩ)を算出した。
そして、同様の条件で各電池をSOC60%に調整した後、60℃において、これらの電池に対し、SOC80%まで定電流(10A)にて充電し、SOC30%まで定電流(10A)にて放電させる充放電サイクルを2000サイクル繰り返した。これら2000サイクル後の電池について、上記初期内部抵抗値の測定と同様にして内部抵抗値を測定した。そして、横軸をサイクル数の平方根とし、縦軸を内部抵抗値とするグラフを作成し、上記充放電サイクルの前後における内部抵抗値の増加率として、そのグラフの傾きを求めた。各正極活物質の複合酸化物の表面を被覆するリチウム被覆量と内部抵抗増加率との関係を調べた。その結果を図5に示す。
【0086】
図5は、横軸が複合酸化物の表面を被覆する水溶性リチウム化合物の被覆量(モル比)を示し、縦軸が内部抵抗増加率を示す。
図5から明らかなように、充放電サイクルを2000サイクル繰り返した場合、リチウム被覆量(モル比)が小さいほど、内部抵抗増加率が大きくなることが確認された。しかしながら、被覆量(モル比)が凡そ0.02〜0.022と少ないリチウム二次電池においても、内部抵抗の顕著な増加は見られなかった。
【0087】
<試験例7:炭酸リチウム量の影響>
試験例1に係る正極活物質の製造と同様にして、複合酸化物製造用原料におけるMLi/Mallが異なる複数種類の正極活物質を作製した。それらを保存雰囲気および保存時間の一方または両方が異なる種々の条件で保存した後の正極活物質サンプル(合計22種)について、被覆量αおよび炭素量WTCを測定した。得られたαおよびWTCをそれぞれ式(a),(b)に代入してLiのモル比(A),(B)を求め、さらにLi量(C)を算出した。なお、αの測定は試験例1と同様にして行った。WTCの測定は以下の方法により行った。
【0088】
(炭素量WTCの測定)
測定装置:
LECO社製の炭素硫黄分析装置、型式「CS−600」
測定条件:
キャリアガス 酸素(>99.5%)
ルツボ LECO社製セラミックルツボ
標準試料 社団法人日本鉄鋼連盟 JSS 061−1(C:0.63%)
JSS 173−7(C:0.038%)
分析操作:
1)ルツボを精密天秤に載せてゼロ点設定をし、5秒間質量が変動しないことを確認する。
2)試料0.2〜0.3gを0.1mgの桁まで秤量し、ルツボに入れる。
3)助燃剤としてWおよびSnを添加し、WTCを測定する(n=2)
【0089】
(内部抵抗値の測定)
各正極活物質サンプルを用いて、試験例2,4と同様にして試験用リチウム二次電池を構築した。25℃の温度条件下にて、定電流定電圧(CC−CV)充電によって各電池をSOC60%に調整した。該電池を同温度条件下にて12C(60A)の放電レートで放電させ、放電開始から10秒後の電圧値をプロットしてI−V特性グラフを作成した。このI−V特性グラフの傾きから、各電池の内部抵抗値(常温におけるSOC60%内部抵抗値)を算出した。
【0090】
各正極活物質サンプルのLi量(C)(モル比)と、該サンプルを用いて構築されたリチウム二次電池のIV抵抗との関係をプロットしたグラフを図8に示す。このグラフから判るように、Li量(C)の値(モル比)が0<C<0.03(より具体的には0.003≦C≦0.02、特に0.01<C<0.02)の範囲にある正極活物質を用いてなる電池は、内部抵抗値が低く、Li量(C)と内部抵抗値との相関も高いことが確認された。
【0091】
<試験例8:結晶子径の影響>
試験例1に係る正極活物質の製造と同様にして、ただし複合酸化物製造用原料におけるMLi/Mallの値、その焼成温度および焼成時間を調整することにより、(003)面方向の結晶子径dが異なる4種類の正極活物質サンプル(サンプル8a〜8d)を作製した。上記結晶子径dは、X線回折装置(PANalytical製、X’Pert PRO)により求めた。また、各サンプルについて、試験例7と同様にしてモル比(A)、炭素量WTC、モル比(B)およびモル比(C)を求めた。それらの結果を表1に示す。
【0092】
(内部抵抗値および低温出力の測定)
各正極活物質サンプルを用いて、試験例2,4と同様にして試験用リチウム二次電池を構築した。25℃の温度条件下にて、定電流定電圧(CC−CV)充電によって各電池をSOC20%、40%、60%または80%に調整した。該電池を同温度条件下にて12C(60A)の放電レートで放電させ、放電開始から10秒後の電圧値をプロットしてI−V特性グラフを作成した。このI−V特性グラフの傾きから、各電池の内部抵抗値を算出した。また、各電池につき、試験例5と同様にして低温出力を測定した。得られた結果を表1および図9に示す。
【0093】
これらの図表に示されるように、いずれの正極活物質サンプルを用いた電池でもSOC20%のときはSOC60%〜80%のときに比べて内部抵抗が高くなったが、結晶子径が1300Åに満たないサンプルaに比べて、サンプル8b〜8dでは低SOCに伴う内部抵抗の上昇が少なかった。特に、サンプル8cでは、SOC20%における内部抵抗値が顕著に低減され、その結果、より広いSOC範囲においてよりフラットな出力特性を示すリチウム二次電池が実現された。また、表1に示すように、かかる内部抵抗の低減効果は、低温出力特性にもよく反映されることが確認された。
【0094】
【表1】

【0095】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および実施例は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、電極体構成材料や電解質が異なる種々の内容の電池であってもよい。また、該電池の大きさおよびその他の構成についても、用途(典型的には車載用)によって適切に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の方法により得られた正極活物質を用いて構築したリチウム二次電池は、上述したように優れた電池特性(サイクル特性または低温出力特性)を有するため、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源として好適に使用し得る。したがって本発明は、図6に模式的に示すように、かかるリチウム二次電池(典型的には複数直列接続してなる組電池)100を電源として備える車両1(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)を提供する。
【符号の説明】
【0097】
1 車両
10 電池ケース
12 開口部
14 蓋体
20 捲回電極体
30 正極シート
32 正極集電体
34 正極活物質層
38 外部正極端子
40 負極シート
42 負極集電体
44 負極活物質層
48 外部負極端子
50 セパレータ
100 リチウム二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池の正極活物質層を形成するための水系溶媒と正極活物質とを含む水系ペーストを調製するのに用いられる該水系ペースト調製用の正極活物質であって、
該正極活物質は、少なくともリチウムとニッケルを構成金属元素とする複合酸化物により構成されており、
該複合酸化物の表面の少なくとも一部は水溶性リチウム化合物で被覆されており、
ここで前記水溶性リチウム化合物の被覆量は、中和滴定法に基づく該化合物中のリチウムのモル数mLiおよび前記複合酸化物を構成するリチウム以外の全ての金属元素の合計モル数Mallに基づいて下記式(a):
A=mLi/Mall (a);
により表されるリチウムのモル比(A)が0.018〜0.032になるように規定されていることを特徴とする、水系ペースト調製用正極活物質。
【請求項2】
前記正極活物質を構成する複合酸化物は、以下の一般式:
Li(Ni1−yCo1−zMe (1)
(式(1)中のx,yおよびzは、
0.99≦x≦1.12、
0≦y≦0.25、
0≦z≦0.1であり、
Meは、存在しないか或いはAl、Mn、Mg、Ti、Fe、Cu、ZnおよびGaから成る群から選択される1種又は2種以上の元素である。)
で示される複合酸化物であることを特徴とする、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記水溶性リチウム化合物は、水酸化リチウムである、請求項1または2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記リチウムのモル比(A)と、
前記正極活物質についての高周波燃焼−赤外吸収法に基づく炭素量WTC(質量%)および前記複合酸化物を構成するリチウム以外の全ての金属元素の合計モル数Mallに基づいて下記式(b):
B=WTC×(1/12)×2÷Mall (b);
により算出される、WTCに対応する量の炭酸リチウムに含まれるリチウムのモル比(B)とが、以下の関係式(c):
0<(1.2A−B)<0.03 (c);
を満たすことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項5】
一次粒子が複数集合した二次粒子の形態を呈し、
前記一次粒子は、X線回折により求められる(003)面方向の結晶子径d(Å)が次式:1300Å≦d≦1500Å;を満たす、請求項1から4のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項6】
少なくともリチウムとニッケルを構成金属元素とする複合酸化物により構成されるリチウム二次電池用正極活物質を製造する方法であって:
リチウム供給源とニッケル供給源とを包含する複合酸化物製造用原料を、リチウムのモル数MLiと他の全ての構成金属元素の合計モル数Mallとのモル比(MLi/Mall)が、1<MLi/Mallとなるようにリチウム過剰に調製すること;および
前記リチウム過剰に調製した複合酸化物製造用原料を焼成することによって、前記複合酸化物から成る正極活物質であって該複合酸化物の表面の少なくとも一部が水溶性リチウム化合物で被覆された正極活物質を生成すること;
を包含し、
ここで前記複合酸化物製造用原料を調製するにあたって使用されるリチウム供給源の量は、前記水溶性リチウム化合物の被覆量が、中和滴定法に基づく該化合物中のリチウムのモル数mLiおよび前記複合酸化物を構成するリチウム以外の全ての金属元素の合計モル数Mallに基づいて下記式(a):
A=mLi/Mall (a);
により表されるリチウムのモル比(A)が0.018〜0.032になるように規定されることを特徴とする、製造方法。
【請求項7】
前記複合酸化物製造用原料は、一般式:
Li(Ni1−yCo1−zMe (1)
(式(1)中のx,yおよびzは、
0.99≦x≦1.12、
0≦y≦0.25、
0≦z≦0.1を全て満足する数であり、
Meは、存在しないか或いはAl、Mn、Mg、Ti、Fe、Cu、ZnおよびGaから成る群から選択される1種又は2種以上の元素である。)
で示される複合酸化物が生成されるように全ての構成金属元素の供給源を包含し、且つリチウム過剰に調製することを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記複合酸化物製造用原料は、前記複合酸化物の表面を被覆する前記水溶性リチウム化合物が、水酸化リチウムとなるように調製されることを特徴とする、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
リチウム二次電池の正極活物質層を形成するための正極活物質と水系溶媒とを含む水系ペーストであって、
前記正極活物質として請求項1から5のいずれか一項に記載の正極活物質または請求項6から8のいずれか一項に記載の製造方法により得られた正極活物質を含むことを特徴とする、水系ペースト。
【請求項10】
請求項9に記載の水系ペーストを使用して形成された正極活物質層を正極集電体上に有することを特徴とする、リチウム二次電池。
【請求項11】
車両の駆動電源として用いられる、請求項10に記載のリチウム二次電池。
【請求項12】
請求項10または11に記載のリチウム二次電池を備える、車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−96655(P2011−96655A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222701(P2010−222701)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】