説明

正浸透用誘導溶液、これを用いた正浸透水処理装置、および正浸透水処理方法

【課題】正浸透用誘導溶液、これを用いた正浸透水処理装置、および正浸透水処理方法の提供。
【解決手段】温度感応性側鎖がグラフト重合された第1の構造単位と、親水性官能基を含む第2の構造単位と、を含む共重合体を含む正浸透用の誘導溶質が提供される。前記温度感応性側鎖は、温度感応性部分を含有する側鎖形成用の構造単位を含んでいてもよい。前記第1の主鎖と前記第2の構造単位のうちの少なくとも1つは、ビニル系化合物、R(CO)NH(ここで、RはC2〜C6のアルキレン基である)で表される環状イミドおよびこれらの組み合わせから選ばれたいずれか一種から誘導された構造単位を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正浸透用誘導溶液、これを用いた正浸透水処理装置、および正浸透水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水処理分野においては、逆浸透工程(reverse osmosis)による淡水化方法が広く知られている。浸透現象とは、低濃度側の水が高濃度の溶液に向かって移動する現象のことを言うが、逆浸透淡水化工程は、人為的に強い圧力を加えて逆方向に水を移動させて淡水を生産する工程である。逆浸透工程は強い圧力を必要とするため、エネルギー消費が極めて多いと言える。最近では、エネルギー効率を高めるために、浸透圧の原理をそのまま利用する正浸透(forward osmosis)工程が提案されており、浸透誘導溶液に用いる溶質としては、炭酸水素アンモニウム(ammonium bicarbonate)、二酸化硫黄(sulfur dioxide)、脂肪族アルコール(aliphatic alcohols)、硫酸アルミニウム(aluminum sulfate)、グルコース(glucose)、フルクトース(fructose)、硝酸カリウム(potassium nitrate)などが挙げられる。中でも、炭酸水素アンモニウム(ammonium bicarbonate)誘導溶液が最も広く知られているが、これは、正浸透過程後に、約60℃の温度でアンモニアと二酸化炭素とに分解されて分離され得る。これらに加えて、新たに提案された誘導溶液物質としては、親水性ペプチドなどを付着したナノ磁性粒子(磁場で分離する)、デンドリマーなどの高分子電解質(限外ろ過膜、ナノろ過膜で分離する)などが挙げられる。
【0003】
炭酸水素アンモニウムの場合には、60℃以上に加熱しなければ気化が進まないため高いエネルギー消耗量が求められ、しかも、アンモニアを完璧に除去することは事実上困難であるため、アンモニア臭がして食水として使用することはできない。ナノ磁性粒子の場合には、磁場によって分離・凝集された磁性粒子の再分散が困難であり、ナノ粒子を完全に除去することができないため、ナノ粒子の毒性問題も考慮せねばならない。高分子イオン(デンドリマー、タンパク質など)技術もまた、高分子の大きさが数〜数十nmのレベルであるためナノろ過膜、限外ろ過膜などのフィルターが必要であり、しかも、ろ過後に固まった高分子の再分散も困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、分離・回収に費やされるエネルギーを低減した正浸透用の誘導溶質を提供することである。
【0005】
本発明の他の目的は、前記正浸透用の誘導溶質を含む浸透誘導溶液を用いた正浸透水処理装置を提供することである。
【0006】
本発明のさらに他の目的は、前記正浸透用の誘導溶質を用いる正浸透水処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、第1の構造単位と第2の構造単位とを含み、前記第1の構造単位は第1の主鎖と第1の側鎖とを含み、前記第1の側鎖は前記第1の主鎖にグラフト重合された温度感応性側鎖であり、前記温度感応性側鎖は少なくとも1つの側鎖の構造単位を含み、前記少なくとも1つの側鎖の構造単位は温度感応性部分(moiety)を含有し、前記第2の構造単位は親水性官能基を含む正浸透用の誘導溶質を提供する。
【0008】
前記温度感応性部分(moiety)は、下記の一般式1で表される1価の置換基、下記の一般式2で表される1価の置換基、または、下記の一般式3で表される2価の置換基であってもよい。
【0009】
[一般式1]
*−C(=O)N(R)(R
式中、
およびRは、各々独立して、水素であるか、あるいは、直鎖状若しくは分枝鎖状のC3〜C5のアルキル基であり、前記RおよびRのうちの少なくとも一方は水素ではなく、
【0010】
[一般式2]
【化1】

式中、
は、C3〜C5のアルキレン基であり、
【0011】
[一般式3]
【化2】

式中、
は、直鎖状若しくは分枝鎖状のC3〜C5のアルキル基である。
【0012】
前記第1の主鎖と前記第2の構造単位のうちの少なくとも1つは、ビニル系化合物、R(CO)NH(ここで、RはC2〜C6のアルキレン基である)で表される環状イミド(cyclic imide)およびこれらの組み合わせから選ばれたいずれか一種から誘導された構造単位を含んでいてもよい。
【0013】
前記側鎖の構造単位の少なくとも一つは下記の一般式4で表される構造単位、下記の一般式5で表される構造単位、または、下記の一般式6で表される構造単位であってもよい。
【0014】
[一般式4]
【化3】

【0015】
[一般式5]
【化4】

【0016】
[一般式6]
【化5】

式中、
およびRは、各々独立して、直鎖状若しくは分枝鎖状のC3〜C5のアルキル基であり、Rは、C3〜C5のアルキレン基である。
【0017】
前記温度感応性側鎖は、上記の一般式4で表される構造単位、上記の一般式5で表される構造単位、上記の一般式6で表される構造単位およびこれらの組み合わせから選ばれたいずれか一種を含んでいてもよい。
【0018】
前記温度感応性側鎖は、上記の一般式4で表される構造単位、上記の一般式5で表される構造単位、または、上記の一般式6で表される構造単位をn個含んでいてもよく、前記nは、2〜30の整数であってもよい。
【0019】
前記側鎖の構造単位が、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、N,N−ジエチルアクリルアミド(DEAAM)、N−ビニルカプロラクタム(VCL)およびこれらの組み合わせから選ばれたいずれか一種から誘導されたものであってもよい。
【0020】
前記親水性官能基は、水素、ヒドロキシ基、アミド基およびこれらの組み合わせから選ばれたいずれか一種を含んでいてもよい。
【0021】
前記第2の構造単位は第2の主鎖および第2の側鎖を含んでいてもよく、前記親水性官能基が、前記第2主鎖若しくは前記第2の側鎖に置換されていてもよい。
【0022】
前記共重合体は、前記第1の構造単位および前記第2の構造単位を1:99〜99:1のモル比で含んでいてもよい。
【0023】
前記共重合体の数平均分子量が、5、000〜100、000であってもよい。
【0024】
前記共重合体が、下限臨界溶液温度(LCST)未満では水への溶解度が100g/L以上であり、且つ、前記下限臨界溶液温度(LCST)以上では水への溶解度が1g/L以下であってもよい。
【0025】
前記下限臨界溶液温度(LCST)が、10〜50℃であってもよい。
【0026】
前記共重合体が、前記下限臨界溶液温度(LCST)未満では前記共重合体の温度感応性側鎖が水と水素結合を形成し、且つ、前記下限臨界溶液温度(LCST)以上では前記共重合体の温度感応性側鎖間で水素結合を形成して可逆的に自己凝集してもよい。
【0027】
前記共重合体において、下限臨界溶液温度(LCST)の前後に、全体の誘導溶質の50重量%以上の粒径が10倍〜10、000倍増大してもよい。
【0028】
本発明の他の実施形態によれば、精製されるべき分離対象物質が含まれている流入水(feed solution)と、前記正浸透用の誘導溶質を含む浸透誘導溶液(osmosis draw solution)と、一方の面は前記流入水に接し、他方の面は前記浸透誘導溶液に接するように位置する半透膜と、前記浸透誘導溶液の誘導溶質を分離して回収する回収システムと、前記回収システムによって回収された浸透誘導溶液の誘導溶質を前記半透膜に接する浸透誘導溶液に再投入する連結手段と、を備える正浸透水処理装置を提供する。
【0029】
前記正浸透水処理装置は、前記流入水から前記浸透誘導溶液へと浸透圧によって前記半透膜を通過して移動した水を含む浸透誘導溶液に対して、前記回収システムによって誘導溶質が分離された残部を処理水として排出する手段をさらに備えていてもよい。
【0030】
前記回収システムは、前記誘導溶質を下限臨界溶液温度(LCST)以上に加熱して可逆的に自己凝集させる温度調節手段を備えていてもよい。
【0031】
前記連結手段は、前記回収された誘導溶質に対して凝集を解砕するために、下限臨界溶液温度(LCST)未満に冷却する温度調節手段を備えていてもよい。
【0032】
前記回収システムは、精密ろ過膜(MF:microfiltration membrane)、限外ろ過膜 (UF:ultra filtration memebrane)、ナノろ過膜 (NF:nano filtration membrane)または遠心分離機を備えていてもよい。
【0033】
本発明のさらに他の実施形態によれば、精製されるべき不純物が含まれている流入水を、前記正浸透用の誘導溶質を含む浸透誘導溶液と半透膜を挟んで接しさせて、前記流入水中の水を、流入水よりも高い浸透圧濃度を有する前記浸透誘導溶液へと浸透圧によって半透膜を通過させて移動させるステップと、前記流入水から前記半透膜を通過して移動した水を含む浸透誘導溶液を、下限臨界溶液温度(LCST)以上に加熱して、浸透誘導溶液内の誘導溶質を可逆的に自己凝集させるステップと、前記流入水から前記半透膜を通過して移動した水を含む浸透誘導溶液から、前記可逆的に自己凝集した誘導溶質を分離・回収するステップと、前記流入水から前記半透膜を通過して移動した水を含む浸透誘導溶液から、前記可逆的に自己凝集した誘導溶質が除去された残部を、処理水として排出するステップと、を含む正浸透水処理方法を提供する。
【0034】
前記正浸透水処理方法は、前記回収された誘導溶質を下限臨界溶液温度(LCST)以下に冷却して凝集を解砕した後に、前記半透膜に接する浸透誘導溶液に再投入するステップをさらに含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0035】
前記正浸透用誘導溶液を用いた正浸透水処理装置は、誘導溶質の分離・回収に費やされるエネルギーが節減され、しかも、水処理効果に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態による正浸透水処理装置の模式図である。
【図2】実施例1に従い合成された共重合体のNMR分析スペクトルである。
【図3】実施例2に従い合成された共重合体のNMR分析スペクトルである。
【図4】実施例1に従い合成された共重合体から製造された浸透誘導溶液の温度に応じた溶解度のグラフである。
【図5】実施例2に従い合成された共重合体から製造された浸透誘導溶液の温度に応じた溶解度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の一実施形態について、本発明が属する技術分野において通常の知識を持った者が容易に実施できるように詳述する。しかしながら、本発明は種々の異なる形態によって実現可能であり、ここで説明する実施形態に限定されるものではない。
【0038】
この明細書において、「置換」とは、特に断りのない限り、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、イミノ基(=NH、=NR’、R’は、C1〜C10のアルキル基である)、アミノ基(−NH、−NH(R’’)、−N(R’’’)(R’’’’)、R’’〜R’’’’は、各々独立して、C1〜C10のアルキル基である)、アミジノ基、ヒドラジン基、ヒドラゾン基、カルボキシル基、C1〜C30のアルキル基;C1〜C10のアルキルシリル基;C3〜C30のシクロアルキル基;C6〜C30のアリール基;C2〜C30のヘテロアリール基;C1〜C10のアルコキシ基;ハロゲン基;トリフルオロメチル基などのC1〜C10のフルオロアルキル基で置換されたものを意味する。
【0039】
この明細書において、「ヘテロ」とは、特に断りのない限り、一つの化合物または置換基内にN、O、SおよびPよりなる群から選ばれるヘテロ原子を1〜3個含み、且つ、残部は炭素であるものを意味する。
【0040】
この明細書において、「これらの組み合わせ」とは、特に断りのない限り、2以上の置換基が単一結合または連結基によって結合されているか、あるいは、2以上の置換基が縮合して結合されているものを意味する。
【0041】
また、この明細書において、「*」とは、同じまたは異なる原子もしくは一般式と連結される部分を意味する。
【0042】
この明細書において、「アルキル(alkyl)基」とは、特に断りのない限り、あるアルケニル(alkenyl)やアルキニル(alkynyl)を含んでいない「飽和アルキル(saturated alkyl)基」;または、少なくとも一つのアルケニルまたはアルキニルを含んでいる「不飽和アルキル(unsaturated alkyl)基」をいずれも含むものを意味する。前記「アルケニル」とは、少なくとも二つの炭素原子が少なくとも一つの炭素−炭素の二重結合を形成する置換基を意味し、前記「アルキニル」とは、少なくとも二つの炭素原子が少なくとも一つの炭素−炭素の三重結合を形成する置換基を意味する。
【0043】
前記アルキル基は、C1〜C30の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基であってもよく、より具体的に、C1〜C6のアルキル基、C7〜C10のアルキル基、または、C11〜C20のアルキル基であってもよい。
【0044】
例えば、C1〜C4のアルキル基とは、アルキル鎖に1〜4個の炭素原子が存在するものを意味し、これは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチルおよびt−ブチルよりなる群から選ばれることを示す。
【0045】
典型的なアルキル基には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、エテニル基、プロフェニル基、ブテニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などがある。
【0046】
「芳香族基」とは、環状の置換基の全ての元素がp−オービタルを有しており、これらのp−オービタルが共役(conjugation)を形成している置換基を意味する。その具体例としては、アリール基とヘテロアリール基が挙げられる。
【0047】
「アリール(aryl)基」とは、単一環または融合環(すなわち、炭素原子の隣り合う対を共有する複数の環)置換基を含む。
【0048】
「ヘテロアリール(heteroaryl)基」とは、アリール基内にN、O、SおよびPよりなる群から選ばれるヘテロ原子を1〜3個含み、且つ、残部は炭素であるものを意味する。前記ヘテロアリール基が融合環である場合、各々の環ごとに前記ヘテロ原子を1〜3個含んでいてもよい。
【0049】
本発明の一実施形態による正浸透用の誘導溶質は、第1の構造単位と第2の構造単位とを含む共重合体を含む。前記第1の構造単位は第1の主鎖と第1の側鎖とを含み、前記第1の側鎖は前記第1の主鎖にグラフト重合された温度感応性側鎖であり、前記温度感応性側鎖は少なくとも1つの側鎖の構造単位を含み、前記少なくとも1つの側鎖の構造単位は温度感応性部分(moiety)を含む。前記第2の構造単位は親水性官能基を含む。
【0050】
前記温度感応性部分(moiety)は、下記の一般式1で表される1価の置換基、下記の一般式2で表される1価の置換基、または、下記の一般式3で表される2価の置換基であってもよい。
【0051】
[一般式1]
*−C(=O)N(R)(R
式中、
およびRは、各々独立して、水素であるか、あるいは、直鎖状若しくは分枝鎖状のC3〜C5のアルキル基であり、前記RおよびRのうちの少なくとも一方は水素ではなく、
【0052】
[一般式2]
【化6】

式中、
は、C3〜C5のアルキレン基であり、
【0053】
[一般式3]
【化7】

式中、
は、直鎖状若しくは分枝鎖状のC3〜C5のアルキル基である。
【0054】
前記正浸透用の誘導溶質は、正浸透水処理工程に使用可能である。
【0055】
前記正浸透水処理工程は、流入水に比べて高濃度の浸透誘導溶液(osmosis draw solution)を用いて、流入水から浸透誘導溶液へと水分子を移動させた後、浸透誘導溶液から誘導溶質を分離して再使用して、淡水を生産する水処理工程である。
【0056】
前記正浸透用の誘導溶質は、前記正浸透工程において、誘導溶液の分離・回収時にかかるエネルギーコストを節減したものである。具体的に、前記正浸透用の誘導溶質は、温度によって親水性が調節される温度感応性側鎖が導入された第1の構造単位と、親水性官能基を含む第2の構造単位と、を含む共重合体を含んでいることから、誘導溶液の分離・回収が行い易い。
【0057】
前記共重合体は、高温下で親水性が急減して可逆的に自己凝集し、水への溶解度が下がりついに不溶性となる。このように高温下で可逆的に自己凝集した前記共重合体は粒径が増大するので、浸透誘導溶液から分離し易くなる。例えば、前記共重合体は、前記特性温度以上において、分子間(intermolecularまたはintramolecular)の疎水性作用(hodrophobic interaction)によって前記温度感応性側鎖が凝集して沈殿物を形成するので、水と分離し易い。
【0058】
前記不溶性が高まった粒子から形成された共重合体は、精密ろ過膜(MF:microfiltration membrane)、限外ろ過膜 (UF:ultra filtration memebrane)、ナノろ過膜 (NF:nano filtration membrane)または遠心分離機などを用いて、過剰なエネルギーを費やすことなく、分離し易い。
【0059】
前記共重合体は、低温下では親水性が高く、しかも、水に高濃度にて溶解できるので、高濃度の浸透誘導溶液として用いられる結果、浸透圧を高められる。
【0060】
前記共重合体は、前記温度感応性側鎖が導入されて、上述した温度感応性といった特徴が与えられるが、前記「温度感応性」との用語は、高温および低温における水への溶解度の違いが大きくて、温度の増大に伴い可逆的に自己凝集する特性を有するということを意味する。
【0061】
「下限臨界溶液温度(LCST:low critical solutiontemperature)」とは、前記温度感応性共重合体が溶液と分離できる最低の温度(水に溶解できる最高の温度)を意味し、前記共重合体の前記下限臨界溶液温度は、約10〜約50℃の範囲内に存在してもよく、例えば、約25〜約45℃、具体的に、約30〜約40℃の範囲内に存在してもよい。
【0062】
前記共重合体は、前記下限臨界溶液温度(LCST)未満では親水性が高くて前記温度感応性側鎖が水と水素結合を形成することにより、水に溶解されたままで存在することができる。これに対し、前記共重合体は、前記下限臨界溶液温度(LCST)以上では親水性が低下して、前記温度感応性側鎖間で水素結合を形成し、これにより、可逆的に自己凝集した粒子として沈殿(precipitation)され得る。
【0063】
このように可逆的な自己凝集が形成されることにより、前記共重合体は、下限臨界溶液温度(LCST)の前後において、水への溶解度の変化が急激に発生する。
【0064】
前記共重合体は、下限臨界溶液温度(LCST)未満では親水性を示すので水への溶解度が高い結果、高濃度の浸透誘導溶液としての使用に好適であり、下限臨界溶液温度(LCST)以上では疎水性を示すので可逆的に自己凝集して沈殿される結果、浸透誘導溶液から分離し易く、しかも、分離された共重合体をさらに下限臨界溶液温度(LCST)未満に冷却することにより親水性を帯びさせることができるため、浸透誘導溶液として再使用し易い。
【0065】
前記共重合体は、例えば、前記下限臨界溶液温度(LCST)未満では水への溶解度が約100g/L以上であり、且つ、前記下限臨界溶液温度(LCST)以上では水への溶解度が約1g/L以下であってもよい。具体的に、前記共重合体は、前記下限臨界溶液温度(LCST)未満では水への溶解度が約200g/L〜約800g/Lであり、且つ、前記下限臨界溶液温度(LCST)以上では水への溶解度が約0.1g/L〜約10g/Lであってもよい。より具体的に、前記共重合体は、前記下限臨界溶液温度(LCST)未満では水への溶解度が約500g/L〜約800g/Lであり、且つ、前記下限臨界溶液温度(LCST)以上では水への溶解度が約0.1g/L〜約1g/Lであってもよい。
【0066】
本発明の一実施形態において、前記第1の主鎖と前記第2の構造単位のうちの少なくとも1つは、ビニル系化合物、R(CO)NH(ここで、RはC2〜C6のアルキレン基である)で表される環状イミド(cyclic imide)およびこれらの組み合わせから選ばれたいずれか一種から誘導された構造単位を含んでいてもよい。
【0067】
例えば、前記スクシンイミドから誘導された構造単位に前記温度感応性側鎖を連結して第1の構造単位を形成してもよい。このとき、前記温度感応性側鎖は、前記第1の主鎖を形成する炭素原子または窒素原子に連結され得る。
【0068】
前記温度感応性側鎖は、連結基を介して前記第1の主鎖に連結されてもよい。前記連結基は、前記温度感応性側鎖を前記第1の主鎖に連結するために、合成過程で使用可能な化合物から誘導された連結基であってもよい。
【0069】
前記側鎖の構造単位の少なくとも1つは、具体的に、下記の一般式4で表される構造単位、下記の一般式5で表される構造単位、または、下記の一般式6で表される構造単位であってもよい。
【0070】
[一般式4]
【化8】

【0071】
[一般式5]
【化9】

【0072】
[一般式6]
【化10】

式中、
およびRは、各々独立して、直鎖状若しくは分枝鎖状のC3〜C5のアルキル基であり、
は、C3〜C5のアルキレン基である。
【0073】
前記温度感応性側鎖は、上記の一般式4で表される構造単位、上記の一般式5で表される構造単位、上記の一般式6で表される構造単位、およびこれらの組み合わせから選ばれたいずれか一種を含んでいてもよい。
【0074】
例えば、前記温度感応性側鎖は、上記の一般式4で表される構造単位、上記の一般式5で表される構造単位、または、上記の一般式6で表される構造単位をn個含んでいてもよく、前記nは、2〜30の整数であってもよい。
【0075】
前記nは、具体的に、2〜8であってもよく、より具体的に、前記nは、4〜6であってもよい。
【0076】
前記側鎖の構造単位は、例えば、N−イソプロピルアクリルアミド(N−isopropylacrylamide;NIPAM)、N,N−ジエチルアクリルアミド(N,N−diethylacrylamide;DEAAM)、N−ビニルカプロラクタム(N−vinylcaprolactam;VCL)およびこれらの組み合わせから選ばれたモノマーから誘導された構造単位であってもよい。
【0077】
前記第2の構造単位に含まれる親水性官能基は、末端が、例えば、水素、ヒドロキシ基、アミド基およびこれらの組み合わせから選ばれたいずれか一種を含んでいてもよい。
【0078】
前記第2の構造単位は第2の主鎖および第2の側鎖を含んでいてもよく、前記親水性官能基は、前記第2の主鎖または前記第2の側鎖に置換されていてもよい。前記親水性官能基が前記第2の主鎖に導入される場合は、第2の主鎖に連結された水素に置換される場合であるか、または2価の親水性官能基が前記第2の主鎖の一部を形成してもよく、前記親水性官能基が前記第2の側鎖に導入される場合は、前記第2の側鎖に含有されている水素に前記親水性官能基が置換された場合であるか、または2価の親水性官能基が前記第2の側鎖の一部を形成してもよい。
【0079】
本発明の一実施形態において、前記第2の構造単位として、親水性官能基を有するスクシンイミドから誘導された構造単位を使用してもよい。前記第2の構造単位の具体例としては、ポリヒドロキシエチルアスパルトアミド(PHEA)、ポリアスパラギン、ポリヒドロキシルエチルアクリレート、ポリメチルメタアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメタアクリレートなどが挙げられる。
【0080】
前記共重合体の数平均分子量が約5、000〜約100、000であってもよい。具体的に、前記共重合体の数平均分子量が約10、000〜約50、000であってもよく、より具体的に、前記共重合体の数平均分子量が約10、000〜約35、000であってもよい。前記範囲の分子量を有する共重合体を正浸透用の誘導溶質として使用して、下限臨界溶液温度(LCST)未満で高濃度の浸透誘導溶液を製造することができる。
【0081】
前記共重合体は、前記第1の構造単位および前記第2の構造単位を約1:99〜約99:1のモル比で含んでいてもよい。具体的に、前記共重合体は、前記第1の構造単位および前記第2の構造単位を約1:99〜約70:30の重量比で含んでいてもよく、より具体的に、前記共重合体は、前記第1の構造単位および前記第2の構造単位を約5:95〜約50:50の重量比で含んでいてもよい。前記範囲の含量比である限り、前記共重合体が温度感応特性を有しつつも、浸透圧を発現する過剰な濃度が得られる溶解度を有することができる。
【0082】
前記共重合体は、前記第1の構造単位および前記第2の構造単位のブロック共重合体(block copolymer)、交互共重合体(alternating copolymer)、ランダム共重合体(random copolymer)、グラフト共重合体(graft copolymer)およびこれらの組み合わせから選ばれたいずれか一種を含んでいてもよい。
【0083】
前記共重合体は、下限臨界溶液温度(LCST)以上で可逆的に自己凝集するため、下限臨界溶液温度(LCST)未満に比べて、下限臨界溶液温度(LCST)以上における粒径が急増する。前記共重合体において、下限臨界溶液温度(LCST)の前後に、全体の誘導溶質の約50重量%以上の粒径が約10倍〜約10、000倍増大することができる。具体的に、前記共重合体において、下限臨界溶液温度(LCST)の前後に、全体の誘導溶質の約50重量%以上の粒径が約100倍〜約10、000倍増大することができ、より具体的に、前記共重合体において、下限臨界溶液温度(LCST)の前後に、全体の誘導溶質の約50重量%以上の粒径が約1、000倍〜約10、000倍増大することができる。このときの粒径の変化は、動的光散乱法(Dynamic Light Scattering)によって水力半径(hydraulic radius)を測定するときに、粒径が約10倍〜約10、000倍増大するものとして測定され得る。
【0084】
上記のように粒径が増大した共重合体、すなわち、下限臨界溶液温度(LCST)以上において、共重合体粒子の水力半径が、例えば、約100nm〜約10、000nmであってもよい。具体的に、前記下限臨界溶液温度(LCST)以上において、共重合体粒子の水力半径が約300nm〜約50μmであってもよく、より具体的に、前記下限臨界溶液温度(LCST)以上において、共重合体粒子の水力半径が約300nm〜約5μmであってもよい。
【0085】
本発明の他の実施形態によれば、前記正浸透誘導溶質を用いる正浸透水処理装置を提供する。
【0086】
前記正浸透水処理装置は、精製されるべき分離対象物質が含まれている流入水(feed solution)と、前記正浸透用の誘導溶質を含む浸透誘導溶液(osmosis draw solution)と、一方の面は前記流入水に接し、他方の面は前記浸透誘導溶液に接するように位置する半透膜と、前記浸透誘導溶液の誘導溶質を分離して回収する回収システムと、前記回収システムによって回収された浸透誘導溶液の誘導溶質を前記半透膜に接する浸透誘導溶液に再投入する連結手段と、を備える。
【0087】
前記半透膜は、水透過性であり、且つ、分離対象物質に対して非透過性である半透過性(semi−permeable)の正浸透用の分離膜である。
【0088】
前記正浸透用の誘導溶質の詳細は、上述した通りである。
【0089】
前記浸透誘導溶液は、処理水よりも高い浸透圧を有するように濃度を調節して得ることができる。本発明の一実施形態において、上述した誘導溶質を約10wt%の濃度で含むように製造された浸透誘導溶液は、約50気圧の浸透圧が実現可能である。他の実施形態において、上述の誘導溶質を約20wt%の濃度で含むように製造された浸透誘導溶液は、約100気圧の浸透圧が実現可能である。
【0090】
前記正浸透水処理装置は、前記流入水から前記浸透誘導溶液へと浸透圧によって前記半透膜を通過した水を含む浸透誘導溶液に対して、前記回収システムによって誘導溶質が分離された残部を処理水として排出する手段をさらに備えていてもよい。
【0091】
前記正浸透水処理装置の作動機構は、処理の対象となる流入水中の水を、浸透圧を用いて、高濃度の浸透誘導溶液へと半透膜を通過させて移動させ、前記流入水中の含水浸透誘導溶液を回収システムに移動させて正浸透用の誘導溶質を分離・除去した残部を処理水として排出するものである。前記分離された正浸透用の誘導溶質は、処理の対象となる流入水と半透膜を挟んで接した浸透誘導溶液に再投入して再使用することができる。
【0092】
前記回収システムにおける正浸透用の誘導溶質の分離・回収は、上述したように、前記共重合体の温度感応性といった特性を用いて行うことができる。すなわち、前記回収システムが温度調節手段を備え、前記共重合体を下限臨界溶液温度(LCST)以上に加熱して可逆的に自己凝集させて誘導溶質の粒径を増大させた後に、ろ過して分離することができる。
【0093】
前記ろ過は、精密ろ過膜(MF:microfiltration membrane)、限外ろ過膜 (UF:ultra filtration memebrane)、ナノろ過膜 (NF:nano filtration membrane)または遠心分離機などを用いて行うことができる。例えば、ミクロ寸法のミセルネットワークを形成したブロック共重合体の粒子に対して、精密ろ過膜によりろ過して分離を行うことができるので、このような回収システムによれば、作動エネルギーが大幅に節減可能になる。
【0094】
前記分離・回収された誘導溶質である共重合体をさらに流入水に接する浸透誘導溶液に添加して再使用するには、下限臨界溶液温度(LCST)未満に冷却してさらに浸透誘導溶液への溶解度を高める必要がある。このため、前記連結手段は、下限臨界溶液温度(LCST)未満に冷却する温度調節手段を備えていてもよく、前記温度調節手段を用いて、前記回収された誘導溶質を下限臨界溶液温度(LCST)未満に冷却することにより、凝集の解砕された誘導溶質を前記半透膜に接する浸透誘導溶液に再投入することができる。
【0095】
このように前記共重合体を正浸透用の誘導溶質として使用すれば、正浸透工程は、前記下限臨界溶液温度(LCST)以下で駆動しつつ、前記回収システムにおいて下限臨界溶液温度(LCST)以上に温度を調節して、誘導溶質を容易に分離・回収することができる。なお、前記共重合体は、約10〜約50℃の範囲の比較的に低めの下限臨界溶液温度(LCST)を有することができるので、誘導溶質の回収に際して高温といった条件を求めず、作動エネルギーを節減できるという側面で有利である。
【0096】
このように、前記正浸透水処理装置は、分離された誘導溶質を簡単に温度調節によって再使用することができるというメリットがある。
【0097】
前記流入水は、海水(sea water)、汽水(brackish water)、地下水(ground water)、廃水(waste water)などであってもよい。例えば、前記正浸透水処理装置を用いて海水を浄水して飲用水を得ることができる。
【0098】
本発明のさらに他の実施形態によれば、精製されるべき不純物が含まれている流入水を前記正浸透用の誘導溶質を含む浸透誘導溶液と半透膜を挟んで接しさせて、前記流入水中の水を、流入水よりも高い浸透圧濃度を有する前記浸透誘導溶液へと浸透圧によって半透膜を通過させて移動させるステップと、前記流入水から前記半透膜を通過して移動した水を含む浸透誘導溶液を、下限臨界溶液温度(LCST)以上に加熱して、浸透誘導溶液内の誘導溶質を可逆的に自己凝集させるステップと、前記流入水から前記半透膜を通過して移動した水を含む浸透誘導溶液から、前記可逆的に自己凝集した誘導溶質を分離・回収するステップと、前記流入水から前記半透膜を通過して移動した水を含む浸透誘導溶液から、前記可逆的に自己凝集した誘導溶質が除去された残部を、処理水として排出するステップと、を含む正浸透水処理方法が提供される。
【0099】
前記正浸透用の誘導溶質の詳細は、上述した通りである。
【0100】
前記正浸透水処理方法は、前記回収された誘導溶質を下限臨界溶液温度(LCST)以下に冷却して凝集を解砕した後、前記半透膜に接する浸透誘導溶液に再投入するステップをさらに含んでいてもよい。
【0101】
前記下限臨界溶液温度(LCST)が、上述したように、約10〜約50℃であってもよい。
【0102】
図1は、前記正浸透水処理方法によって作動可能な前記正浸透水処理装置の模式図である。
【0103】
[実施例1]
1)NIPAamオリゴマーの合成
ラジカル重合によって、下記の一般式7で表されるNIPAam(N−イソプロピルアクリルアミド)オリゴマーを合成する。精製されたNIPAamモノマー6g(0.053モル)、連鎖移動剤(chain transfer agent)としてのアミノエタンチオール塩酸塩(aminoethanethiol hydrochloride;AET−HCl)0.1897g(0.0016モル)、アゾビスイソブチロニトリル(azobisisobutyronitile;AIBN)0.087g(0.001モル)、ジメチルホルムアミド(dimethylforamide;DMF)31.34mLを用い、3口丸底フラスコにおいて、75℃の窒素雰囲気下で15時間反応させる。重合されたNIPAamオリゴマーは、ジエチルエーテルで精製して真空オーブンで一晩中乾燥する。重合されたオリゴマー末端のHClを除去するために、NIPAamオリゴマーモル比の2倍となるトリエチルアミンを入れて24時間反応させた後、ジエチルエーテルで精製して真空オーブンで一晩中乾燥する。
【0104】
[一般式7]
【化11】

式中、nは、重合度を意味する。
【0105】
2)SI−g−Oligo NIPAamの合成
ポリスクシンイミド(Polysuccinimide)0.4gと、NIPAamオリゴマー0.27gをDMF3.35mlの溶媒に溶かし、70℃で48時間反応させる。
【0106】
3)PSI−g−Oligo NIPAam−PHEAの合成
下記の一般式8で表されるPSI−g−Oligo NIPAam−PHEAを合成する。
【0107】
[一般式8]
【化12】

式中、
Rは、下記の一般式9で表され、
R’は、−CH−CH−OHであり、
m、およびnは、重合度を示す。
【0108】
[一般式9]
【化13】

【0109】
エタノールアミン0.137mLに、前記合成されたPSI−g−Oligo NIPAamの1.675mlを入れて、50℃で6時間反応させる。合成されたPSI−g−Oligo NIPAam−PHEAは、透析チューブ(dialysis tube)に入れて2日間精製した後、凍結乾燥させる。
【0110】
前記合成されたPSI−g−Oligo NIPAam−PHEAは、上記の一般式8において、m:n=10:90である。
【0111】
図2は、前記合成された共重合体、PSI−g−Oligo NIPAam−PHEAのH−NMR分析スペクトルである。
【0112】
[実施例2]
実施例1に従い合成されたPNIPAamオリゴマーを、置換度を異ならせて、ポリスクシンイミドにグラフトさせる。ポリスクシンイミド(Polysuccinimide)0.4gと、NIPAamオリゴマー1.08gをDMF7.4ml溶媒に溶かし、70℃で48時間反応させてPSI−g−Oligo NIPAam(DS40)を得る。
【0113】
エタノールアミン0.137mLに、用意されたPSI−g−Oligo NIPAam(DS40)3.7mLを反応させた後、精製し且つ乾燥する。実施例2に従い合成されたPSI−g−Oligo NIPAam−PHEAは、上記の一般式8において、m:n=40:60である。
【0114】
図3は、前記合成された共重合体、PSI−g−Oligo NIPAam−PHEAのH−NMR分析スペクトルである。
【0115】
[比較例1]
NIPAam(N−イソプロピルアクリルアミド)単分子化合物を用意する。
【0116】
[実験例1:分子量の評価]
前記合成された共重合体のH−NMRスペクトルを分析することにより、各々の置換度を計算することができる。すなわち、第1の構造単位の置換度を計算すれば、実施例1では6.3モル%であり、実施例2では33モル%である。前記合成に用いられたポリスクシンイミド主鎖の重合度が133.8であるため、共重合体の数平均分子量を計算すれば、実施例1では23、000であり、実施例2では30、000である。
【0117】
[実験例2:浸透誘導溶液の製造および浸透圧の分析]
下記表1に示す種々の濃度の浸透誘導溶液を製造し、メンブレイン測定法を用いた浸透圧測定機器(Osmomat090、Gonotek)を用いて、実施例1〜2に従い製造された共重合体を含む浸透誘導溶液の浸透圧を分析する。
【0118】
【表1】

【0119】
[実験例3:浸透誘導溶液の溶解度の評価]
実施例1および実施例2に従い製造された共重合体を1wt%含む浸透誘導溶液に対して、常温から徐々に昇温させた後、さらに常温まで降温させつつ、温度に応じた溶液の溶解度の変化を吸光度の測定によって観察する。図4は、実施例1の共重合体から製造された浸透誘導溶液の温度に応じた溶解度のグラフであり、図5は、実施例2の共重合体から製造された浸透誘導溶液の温度に応じた溶解度のグラフである。昇温を行いつつ、溶液がいきなり白濁し始める温度を「下限臨界溶液温度(LCST)」とし、下記表2にまとめて示す。
【0120】
【表2】

【0121】
実施例1および実施例2は、双方とも、加熱時に32℃辺りで吸光度が急増し(自己凝集していることを意味する)、冷却時には30℃辺りで吸光度がさらに急減することが(再溶解していることを意味する)分かる。分析の結果、加熱および冷却の際に約2〜3℃の温度差が見られるのは、分析装備の構造から、測定溶液を一様に攪拌することができないため、セル内部の温度分布が不均一であることに起因する。
【0122】
以上、本発明の好適な実施形態を詳述したが、本発明の権利範囲はこれらの実施形態に何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲に定義されている本発明の基本概念を用いた当業者の種々の変形および改良もまた本発明の権利範囲に属するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の構造単位と第2の構造単位とを含み、
前記第1の構造単位は第1の主鎖と第1の側鎖とを含み、
前記第1の側鎖は前記第1の主鎖にグラフト重合された温度感応性側鎖であり、
前記温度感応性側鎖は少なくとも1つの側鎖の構造単位を含み、
前記少なくとも1つの側鎖の構造単位は温度感応性部分を含有し、
前記第2の構造単位は親水性官能基を含み、
前記温度感応性部分は、下記の一般式1で表される1価の置換基、下記の一般式2で表される1価の置換基、または、下記の一般式3で表される2価の置換基である、正浸透用の誘導溶質:
[一般式1]
*−C(=O)N(R)(R
式中、
およびRは、各々独立して、水素であるか、あるいは、直鎖状若しくは分枝鎖状のC3〜C5のアルキル基であり、前記RおよびRのうちの少なくとも一方は水素ではなく、
[一般式2]
【化1】

式中、
は、C3〜C5のアルキレン基であり、
[一般式3]
【化2】

式中、
は、直鎖状若しくは分枝鎖状のC3〜C5のアルキル基である。
【請求項2】
前記第1の主鎖と前記第2の構造単位のうちの少なくとも1つは、ビニル系化合物、R(CO)NH(ここで、RはC2〜C6のアルキレン基である)で表される環状イミドおよびこれらの組み合わせから選ばれたいずれか一種から誘導された構造単位を含む、請求項1に記載の正浸透用の誘導溶質。
【請求項3】
前記側鎖の構造単位の少なくとも一つは下記の一般式4で表される構造単位、下記の一般式5で表される構造単位、およびこれらの組み合わせから選ばれたいずれか一種を含む、請求項1に記載の正浸透用の誘導溶質:
[一般式4]
【化3】

[一般式5]
【化4】

[一般式6]
【化5】

式中、
およびRは、各々独立して、直鎖状若しくは分枝鎖状のC3〜C5のアルキル基であり、
は、C3〜C5のアルキレン基である。
【請求項4】
前記温度感応性側鎖が、上記の一般式4で表される構造単位、上記の一般式5で表される構造単位、または、上記の一般式6で表される構造単位をn個含んでいてもよく、前記nは、2〜30の整数である、請求項3に記載の正浸透用の誘導溶質。
【請求項5】
前記側鎖の構造単位が、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、N,N−ジエチルアクリルアミド(DEAAM)、N−ビニルカプロラクタム(VCL)およびこれらの組み合わせから選ばれたいずれか一種から誘導されたものである、請求項1に記載の正浸透用の誘導溶質。
【請求項6】
前記親水性官能基は、水素、ヒドロキシ基、アミド基およびこれらの組み合わせから選ばれたいずれか一種を含む、請求項1に記載の正浸透用の誘導溶質。
【請求項7】
前記第2の構造単位は第2の主鎖と第2の側鎖とを含み、
前記親水性官能基が、前記第2の主鎖若しくは前記第2の側鎖に置換されている、請求項1に記載の正浸透用の誘導溶質。
【請求項8】
前記共重合体は、前記第1の構造単位および前記第2の構造単位を1:99〜99:1のモル比で含む、請求項1に記載の正浸透用の誘導溶質。
【請求項9】
前記共重合体の数平均分子量が、5、000〜100、000である、請求項1に記載の正浸透用の誘導溶質。
【請求項10】
前記共重合体が、前記下限臨界溶液温度(LCST)未満では水への溶解度が100g/L以上であり、且つ、前記下限臨界溶液温度(LCST)以上では水への溶解度が1g/L以下である、請求項1に記載の正浸透用の誘導溶質。
【請求項11】
前記下限臨界溶液温度(LCST)が、10〜50℃である、請求項10に記載の正浸透用の誘導溶質。
【請求項12】
前記共重合体が、前記下限臨界溶液温度(LCST)未満では前記共重合体の温度感応性側鎖が水と水素結合を形成し、且つ、前記下限臨界溶液温度(LCST)以上では前記共重合体の温度感応性側鎖間で水素結合を形成して可逆的に自己凝集する、請求項1に記載の正浸透用の誘導溶質。
【請求項13】
前記共重合体において、下限臨界溶液温度(LCST)の前後に、全体の誘導溶質の50重量%以上の粒径が10倍〜10、000倍増大する、請求項1に記載の正浸透用の誘導溶質。
【請求項14】
精製されるべき分離対象物質が含まれている流入水と、
前記請求項1から請求項13のいずれかに記載の正浸透用の誘導溶質を含む浸透誘導溶液と、
一方の面は前記流入水に接し、他方の面は前記浸透誘導溶液に接するように位置する半透膜と、
前記浸透誘導溶液の誘導溶質を分離して回収する回収システムと、
前記回収システムによって回収された浸透誘導溶液の誘導溶質を前記半透膜に接する浸透誘導溶液に再投入する連結手段と、
を備える正浸透水処理装置。
【請求項15】
前記正浸透水処理装置は、前記流入水から浸透誘導溶液へと浸透圧によって前記半透膜を通過した水を含む浸透誘導溶液に対して、前記回収システムによって誘導溶質が分離された残部を処理水として排出する手段をさらに備える、請求項14に記載の正浸透水処理装置。
【請求項16】
前記回収システムは、前記誘導溶質を下限臨界溶液温度(LCST)以上に加熱して可逆的に自己凝集させる温度調節手段を備える、請求項14に記載の正浸透水処理装置。
【請求項17】
前記連結手段は、前記回収された誘導溶質に対して凝集を解砕するために、下限臨界溶液温度(LCST)未満に冷却する温度調節手段を備える、請求項14に記載の正浸透水処理装置。
【請求項18】
前記回収システムは、精密ろ過膜(MF)、限外ろ過膜 (UF)、ナノろ過膜 (NF)または遠心分離機を備える、請求項14に記載の正浸透水処理装置。
【請求項19】
精製されるべき不純物が含まれている流入水を、前記請求項1から請求項13のうちのいずれかに記載の正浸透用の誘導溶質を含む浸透誘導溶液と半透膜を挟んで接しさせて、前記流入水中の水を、流入水よりも高い浸透圧濃度を有する前記浸透誘導溶液へと浸透圧によって半透膜を通過させて移動させるステップと、
前記流入水から前記半透膜を通過して移動した水を含む浸透誘導溶液を、下限臨界溶液温度(LCST)以上に加熱して、浸透誘導溶液内の誘導溶質を可逆的に自己凝集させるステップと、
前記流入水から前記半透膜を通過して移動した水を含む浸透誘導溶液から、前記可逆的に自己凝集した誘導溶質を分離・回収するステップと、
前記流入水から前記半透膜を通過して移動した水を含む浸透誘導溶液から、前記可逆的に自己凝集した誘導溶質が除去された残部を、処理水として排出するステップと、
を含む、正浸透水処理方法。
【請求項20】
前記正浸透水処理方法は、前記回収された誘導溶質を下限臨界溶液温度(LCST)以下に冷却して凝集を解砕した後に、前記半透膜に接する浸透誘導溶液に再投入するステップをさらに含む、請求項19に記載の正浸透水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−170954(P2012−170954A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−32565(P2012−32565)
【出願日】平成24年2月17日(2012.2.17)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung−ro,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do,Republic of Korea
【Fターム(参考)】