説明

歩行型芝刈機

【課題】歩行型芝刈機における他の構造物に対する、リヤシールドの引っ掛かりを防止すること。
【解決手段】歩行型芝刈機10は、芝草を刈る刈刃を回転可能に収納した下開放のハウジング11と、このハウジングから後方へ延びた操作ハンドルと、ハウジングの後端部11aから下方へ延びたリヤシールド40とを有している。リヤシールドは、弾性を有したシートからなる。このシートは、ハウジングの後端部11aに取り付けられた上端部41から下端部42までの高さ方向の中央部位48に、薄肉部49が形成されている。薄肉部の厚みは、他の部位47a,47bの厚みよりも小さく設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歩行型芝刈機、特にハウジングの後部に設けられるリヤシールドの改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
歩行型芝刈機は、家庭の庭などの狭いエリアでの芝草を刈るのに適しており、刈刃を収納したハウジングから後方へ延びた操作ハンドルを有している。この種の歩行型芝刈機としては、例えば下記の特許文献1に記載された技術が知られている。
【0003】
この特許文献1で知られている歩行型芝刈機は、刈刃を回転可能に収納したハウジングと、ハウジングから後方へ延びた操作ハンドルと、ハウジングの後端部から下方へ延びたリヤシールドとを有している。歩行型芝刈機による芝刈り作業中には、歩行型芝刈機から作業者へ飛散してくる種々の飛散物、例えば、刈刃によって弾き飛ばされた小石や、刈刃によって刈られた芝草がある。このような飛散物が作業者へ向かって飛散しないように、リヤシールドによって阻止することができる。
【0004】
リヤシールドは、全体にわたって厚みが均一な1枚のラバー製シートからなり、下端部が地面を擦るように垂れ下がっている。作業者は、作業状況に応じて歩行型芝刈機を方向転換させる。つまり、歩行型芝刈機を方向転換する際に、作業者は操作ハンドルを押し引き操作することによって歩行型芝刈機を前進、後退させる。前進と後退とを切り替える度に、リヤシールドには表裏逆向きの力が作用する。その度に、リヤシールドは表裏方向へ折れ曲がるので、折れ曲がったときに、車軸等の他の構造物への引っ掛かりが発生しないような配慮が必要である。一般に、刈刃による芝刈り高さを調整するために、ハウジングの地上高は調整可能である。特に、ハウジングの地上高が最低に調整された場合には、リヤシールドの折れ曲がり状態が顕著になる。
【0005】
これに対し、リヤシールドの折れ曲がりを抑制するために、リヤシールドの曲げ剛性を高めることが考えられる。しかし、これではリヤシールドの柔軟性が低下し、歩行型芝刈機を方向転換する際の走行抵抗が増してしまうので、得策ではない。また、曲げ剛性を増したリヤシールドでは、摩耗や折損に対する耐久性を高める上で、不利である。一方、リヤシールドの折れ曲がりを抑制するために、別個の抑制部材を設けるのでは、部品数が増すので得策ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭64−37217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、歩行型芝刈機における他の構造物に対する、リヤシールドの引っ掛かりを防止することができる技術を、提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明では、芝草を刈る刈刃を回転可能に収納した下開放のハウジングと、このハウジングから後方へ延びた操作ハンドルと、前記ハウジングの後端部から下方へ延びたリヤシールドとを有している歩行型芝刈機において、前記リヤシールドは、弾性を有したシートからなり、このシートは、前記ハウジングの後端部に取り付けられた上端部から下端部までの高さ方向の中央部位に、薄肉部が形成されており、前記薄肉部の厚みは、他の部位の厚みよりも小さく設定されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明では、前記シートの下端部は、断面円形状の円形部に形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明では、前記シートは、前記薄肉部から前記操作ハンドル側へ突出した突起部を有していることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明では、前記円形部は、前記突起部の先端よりも前記操作ハンドル側へ突出していることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明では、前記シートの上端部は、前記ハウジングの後端部にスイング可能に支持される被支持部を一体に形成されており、前記シートは、前記被支持部から、前記シートの下端部とは反対側へ向かって延びた、リブを有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明では、ハウジングの後端部から下方へ延びたリヤシールドの高さ方向の中央部位に、厚みの小さい薄肉部が形成されている。このため、リヤシールドに対して表裏方向の力が作用したときには、リヤシールドにおける折れ曲がり部位を、薄肉部に特定することができる。歩行型芝刈機が前進や後退する度に、リヤシールドには表裏逆向きの力が作用する。そのときには、薄肉部がリヤシールドの表裏方向へ折れ曲がる。
【0014】
このように、請求項1に係る発明では、リヤシールドにおける折れ曲がり部位を、予め設定された特定の部位に限定したので、表裏方向に折れ曲がったリヤシールドが、歩行型芝刈機の他の構造物(ハウジング、車軸等)に引っかかることを、規制することができる。しかも、リヤシールドの高さ方向の中央部位に薄肉部を形成するだけの、簡単な構成でよい。また、リヤシールドの折れ曲がりを抑制するために、リヤシールドの曲げ剛性を高める必要もない。
【0015】
請求項2に係る発明では、シートの下端部が断面円形状の円形部に形成されているので、芝刈機を前進・後退させたときに、下端部が地面や芝草に引っ掛かり難い。このため、芝刈機の走行抵抗を低減させることができる。しかも、芝刈機の走行時に、下端部がハウジング内に巻き込まれ難い。
【0016】
請求項3に係る発明では、薄肉部から操作ハンドル側へ突出した突起部を有している。リヤシールドの下半分が、薄肉部から上に折れ曲がった場合には、下端部が持ち上がってハウジング内に位置し得る(例えばハウジング内の種々の部材に引っ掛かる)。このときに、突起部は地面に最も接近することになるので、地面から露出している芝草や小石等の露出物に引っ掛かり易い。芝刈機を前後進させたときには、突起部が芝草等の露出物に引っ掛かる、いわゆる引っ掛かり現象が発生し得る。芝刈機が前後進したときに、この引っ掛かり現象によって突起部は停止しようとする。持ち上がっている状態の下端部は、突起部の停止によって押し戻されて、地面に倒れる。つまり、引っ掛かり現象は、持ち上がっている状態の下端部を倒す切っ掛けとなる。このように、突起部を設けるだけの簡単な構成によって、持ち上がってハウジング内に位置している下端部を簡単に地面に戻すことができる。
【0017】
請求項4に係る発明では、円形部が突起部の先端よりも操作ハンドル側へ突出している。このため、芝刈機の前後進に応じてリヤシールドが前後方向へ移動した場合に、突起部が芝草等の露出物に引っ掛かる、いわゆる引っ掛かり現象が発生し難い。従って、芝刈機の走行抵抗を抑制することができる。
【0018】
請求項5に係る発明では、リヤシールドにおいて、ハウジングに支持される被支持部から上方へ、リブが延びている。このため、リヤシールドが前にスイングしたときに、リブは後方にスイングしてハウジングに当たる。この結果、リヤシールドが前にスイングするスイング量は規制される。
【0019】
例えば、芝刈機が後退した場合には、リヤシールドが前にスイングすることによって、薄肉部を折れ曲がり基端として下半分が上に折れ曲がることにより、下端部が持ち上がってハウジング内に位置することがあり得る。つまり、リヤシールドがハウジング内に巻き込まれる。この場合に、リブは後方にスイングしてハウジングに当たる。リヤシールドが前にスイングするスイング量は規制される。従って、折れ曲がっているリヤシールドの下端部が、ハウジング内に位置している種々の部材に当たることを、極力抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例1に係る歩行型芝刈機の斜視図である。
【図2】図1に示された歩行型芝刈機の後部を下から見た斜視図である。
【図3】図2に示された歩行型芝刈機の後部を側方から見た断面図である。
【図4】図3に示されたリヤシールドを拡大した図である。
【図5】図3に示された歩行型芝刈機を後退させたときのリヤシールドの状態を説明する図である。
【図6】図5に示されたリヤシールドが折れ曲がることによって、下端部が持ち上がっている状態を説明する図である。
【図7】図6に示されたリヤシールドの下端部が地面に倒れた状態を説明する図である。
【図8】本発明の実施例2に係るリヤシールドの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を実施するための形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0022】
実施例1に係る歩行型芝刈機について説明する。なお、図中、Frは前側、Rrは後側、Leは左側、Riは右側を示している。
【0023】
図1に示されるように、歩行型芝刈機10は、芝草を刈る歩行型自走式作業機であって、下開放のハウジング11と、ハウジング11の前部に備えた左右の前輪12,12と、ハウジング11の後部に備えた左右の後輪13,13と、ハウジング11の中央内部に収納された芝刈用の刈刃14と、ハウジング11の上部に備えたエンジン15と、ハウジング11から後方へ延びた操作ハンドル16と、ハウジング11の左上部に備えた高さ調整グリップ18とからなる。
【0024】
ハウジング11は、例えば樹脂の成型品からなり、機体の役割を兼ねており、上面にエンジン15を重ねてボルト止めすることによって、一体的に組み付けたものである。エンジン15は、下端から下方の芝地(図示せず)へ向かってハウジング11内まで延びた、出力軸15aを有している、いわゆるバーチカルエンジンである。この出力軸15aは、芝地(地面)に対して略垂直な駆動軸である。
【0025】
出力軸15aには、ハウジング11内において刈刃14が取り付けられている。エンジン15で刈刃14を駆動することにより、刈刃14はハウジング11内において、出力軸15aを中心として回転可能である。
【0026】
歩行型芝刈機10(以下、単に芝刈機10という。)は、エンジン15によって刈刃14を回転させることにより、芝草を刈り取るとともに、ハウジング11内に空気の流れ(旋回流)を発生させ、この旋回流により、刈刃14で刈った芝草を刈り芝収納体Bgに送り込んで収納することができる。
【0027】
操作ハンドル16は、芝刈機10を正面から見たときに、概ね門形状(逆U字状)に形成されている。高さ調整グリップ18は、ハウジング11の地上高を調整するときに、作業者が握って昇降操作するための、前後方向に細長い部材である。ハウジング11の地上高を調整することによって、刈刃14による芝刈り高さを調整することができる。
【0028】
図2及び図3に示されるように、ハウジング11は後下部に左右の後輪支持板21,21、無段変速装置31及び伝動軸32を備えている。詳しく述べると、ハウジング11は後下部の左右側部に、それぞれ軸受22を介して左右の後輪支持板21,21の中央部を前後方向に回転可能に支持している。左右の後輪支持板21,21は、伝動軸32の回転中心Prから前上方にオフセットした部位に車軸23,23を介して後輪13,13を支持している。
【0029】
左右の後輪支持板21,21同士は、回転中心Prから前下方にオフセットした部位が、連結ロッド24によって互いに連結されている。左の後輪支持板21は、回転中心Prから後上方にオフセットした部位にアーム連結ピン25を有するとともに、回転中心Prから後下方にオフセットした部位にバネ掛けピン26を有している。アーム連結ピン25は、略水平な連結アーム27の後端部を回転可能に連結している。バネ掛けピン26に掛けられたバネ28は、ハウジング11の地上高が高くなる方向に、左の後輪支持板21を弾発している。
【0030】
図示せぬ調整ロック部を解除操作した後に、高さ調整グリップ18(図1参照)を持ち上げたときに、連結アーム27が前方Fr(図3の矢印Af方向)へ変位することによって、左の後輪支持板21は車軸23,23を基準として図3の反時計回り方向(矢印Ar方向)へ回転変位する。このため、連結ロッド24は、車軸23,23を基準として同方向Arへ想像線の位置Qrまで回転変位する。この結果、右の後輪支持板21も、左の後輪支持板21と共に回転変位することになる。
【0031】
左右の後輪支持板21,21の回転に応じて、車軸23,23に対する回転中心Prは上方へ変位する。この結果、ハウジング11の地上高は高くなる。その後、調整ロック部をロック操作することによって、ハウジング11は調整された地上高を維持する。その後、調整ロック部を再び解除操作した後に、高さ調整グリップ18(図1参照)を降ろすことによって、上述の地上高を下げることができる。
【0032】
伝動軸32は、無段変速装置31に連結され、回転中心Prにおいて車幅方向へ水平に延びている。この伝動軸32の両端は、左右の後輪13,13の内部において、図示せぬギヤ伝動機構を介して後輪13,13に連結されている。
【0033】
エンジン15によって無段変速装置31、伝動軸32及びギヤ伝動機構を介して後輪13,13を正転駆動することにより、芝刈機10を前方へ自走させて、芝刈り作業を進めることができる。また、芝刈機10を方向転換する際には、作業者が操作ハンドル16を押し引き操作することによって、芝刈機10を前進、後退させることができる。
【0034】
ところで、図1〜3に示されるように、芝刈機10はリヤシールド40を有している。このリヤシールド40は、ハウジング11の後端部11aから下方へ延びて、下端部42が地面Laを擦るように垂れ下がっている。芝刈機10による芝刈り作業中には、芝刈機10から作業者へ飛散してくる種々の飛散物、例えば、刈刃14によって弾き飛ばされた小石や、刈刃14によって刈られた芝草がある。このような飛散物が後方の作業者へ向かって飛散しないように、リヤシールド40によって阻止することができる。
【0035】
リヤシールド40は、軟質ラバーシートや軟質樹脂シート等の、弾性を有した1枚のシートからなる。このシートの幅は、ハウジング11の後端部11aの左右側壁11b,11b間にわたって覆うことが可能な大きさに設定されている。
【0036】
ここで、リヤシールド40において、ハウジング11に支持される方の一端部41のことを「上端部41」といい、一端部41とは反対側の端部42のことを「下端部42」ということにする。また、リヤシールド40において、ハウジング11に支持されたときに、前方Frの刈刃14側に向く方の面43のことを「シート前面43」又は「刈刃側の面43」といい、後方Rrの操作ハンドル16側に向く方の面44のことを「シート後面44」又は「ハンドル側の面44」ということにする。
【0037】
以下、リヤシールド40について、図2〜図4に基づき詳しく説明する。リヤシールド40(シート)の上端部41は、ハウジング11の後端部11aに支持ピン61(図3参照)によって、前後スイング可能に支持されている。具体的に述べると、上端部41は、一体に形成された被支持部45を有している。被支持部45は、水平な支持ピン61を通すことが可能な貫通孔45aを有している、水平なチューブ状に形成されている。この貫通孔45aを通した支持ピン61は、ハウジング11の後端部11aの左右側壁11b,11bに取り付けられる。このため、被支持部45はハウジング11の後端部11aに前後スイング可能に支持される。
【0038】
リヤシールド40は、被支持部45から、リヤシールド40の下端部42とは反対側、つまり地面Laから離れる方向へ向かって延びた、縦板状のリブ46(縦板46)を有している。このリブ46の幅は、リヤシールド40の全幅と概ね同じである。被支持部45の中心45bからリブ46の先端46aまでの長さ(リブ長さ)は、Hrである。リブ46の厚みはt3である。
【0039】
リヤシールド40の下端部42、つまり、シートの下端部42は、地面Laに接地可能な部位であって、断面円形状の円形部に形成されている。以下、下端部42のことを適宜「円形部42」という。この円形部42は断面真円状であって、車幅方向に貫通した貫通孔42aを有した水平なチューブ状に形成されている。
【0040】
リヤシールド40において、上端部41の下から下端部42の上までの範囲47は、平板状(シート状)である。以下、この範囲47のことを「平板範囲47」という。平板範囲47には、高さ方向の中央部位48に薄肉部49が形成されている。平板範囲47において、薄肉部49を除いた他の部分47a,47bのことを「他の部位47a,47b」という。つまり、他の部位47a,47bは、平板範囲47において薄肉部49よりも上の部分と下の部分のことである。
【0041】
他の部位47a,47bの厚み、つまりシート厚みはt1である。このシート厚みt1は、リヤシールド40の折れ曲がりを抑制することが可能な厚みに、設定されることが好ましい。シート厚みt1は、被支持部45の外径や円形部42の外径よりも小さく、例えば外径の概ね1/3に設定されている。
【0042】
一方、リヤシールド40において、上端部41から下端部42までの高さ方向の中央部位48に形成されている薄肉部49は、他の部位47a,47bよりも薄肉状に形成されている。薄肉部49の厚みt2は、他の部位47a,47bの厚みt1も小さく、例えば、シート厚みt1の概ね1/2に設定されている。
【0043】
さらに、リヤシールド40は、図3に示されるようにシート後面44からハウジング11の後方へ向かって延びる突起部51を有している。より詳しく述べると、この突起部51は、薄肉部49から操作ハンドル16(図1参照)側へ突出した横板状のリブである。この突起部51は、薄肉部49に対して略直角である。突起部51の幅、つまり左右方向の寸法は、リヤシールド40の全幅と概ね同じである。
【0044】
上述の円形部42は、突起部51の先端51aよりも操作ハンドル16側(シート後面44側)へ突出している。つまり、図4に示されるように、円形部42の直径はDeである。円形部42の中心は、リヤシールド40の厚み方向の中心線CLを通り、半径はX1である(X1=De/2)。一方、中心線CLから突起部51の先端51aまでの突出量はX2である。円形部42の半径X1、つまり円形部42の突出量X1は、突起部51の突出量X2よりも大きい(X1>X2)。
【0045】
薄肉部49の上下方向の範囲、つまりシートが上端部41から下端部42へ延びる方向の範囲の大きさはWtである。突起部51の中心51bは、薄肉部49の上下方向の範囲の中央部位(真ん中)に位置する。支持ピン61によって支持される被支持部45の中心45bから突起部51の中心51bまでの距離(上半距離)は、Huである。一方、突起部51の中心51bから下端部42の下端面42bまでの距離(下半距離)は、Hdである。
【0046】
次に、上記構成のリヤシールド40の作用を説明する。
図5(a)は、芝刈機10を前進走行(矢印fr方向へ走行)させている状態を示している。この場合に、リヤシールド40の下端部42は引きずられており、地面Laや芝草Grの上を摺りながら移動する。下端部42は断面円形状の円形部に形成されているので、地面Laや芝草Grに引っ掛かり難い。このため、芝刈機10の走行抵抗を低減させることができる。このことは、芝刈機10を後退走行させた場合も同様である。しかも、芝刈機10の走行時に、下端部42がハウジング11内に巻き込まれ難い。
【0047】
その後、芝刈機10を方向転換する際に、作業者が操作ハンドル16(図1参照)を押し引き操作することによって、芝刈機10を前進、後退(矢印rr方向へ走行)させる。このときに、地面Laや芝草Grに対する下端部42の走行抵抗によって、リヤシールド40に折れ曲がり荷重が作用する。作業者の負担をより軽減するには、折れ曲がり荷重を低減することが好ましい。これに対して、リヤシールド40の高さ途中に薄肉状の薄肉部49が形成されている。このように、リヤシールド40の厚みは均一ではなく、所定位置に厚みが小さくなる部分49(薄肉部49)が設定されている。薄肉部49は、リヤシールド40における他の部位47a,47bに比べて、厚み方向に折れ曲がり易い、いわゆる屈曲性部位である。このため、図5(b)に示されるように、リヤシールド40は薄肉部49でのみ、シート前面43側(ハウジング11)側へ折れ曲がることになる。薄肉部49が容易に折れ曲がるので、後退走行をするときの芝刈機10の走行抵抗を、低減させることができる。
【0048】
その後、薄肉部49を折れ曲がり基端としてリヤシールド40の下半分が折れ曲がるにつれて、図5(c)に示されるように、リヤシールド40はハウジング11内に巻き込まれる。つまり、リヤシールド40は被支持部45を中心として、図時計回りにスイングする。しかし、リヤシールド40の上端には縦板状のリブ46が形成されている。リヤシールド40が巻き込まれる過程において、リブ46はハウジング11の内面に当たる。リヤシールド40は、図時計回りにこれ以上スイングすることを、ハウジング11によって規制される。従って、折れ曲がっているリヤシールド40の下端部42が、ハウジング11内に位置している種々の部材(無段変速装置31等)に当たることを、極力抑制することができる。
【0049】
ここで、図4に示されるリブ46のリブ長さHr及び厚みt3については、図5(c)に示されるように、折れ曲がっているリヤシールド40の下端部42が、ハウジング11内に位置している種々の部材に当たることを規制することが可能であって、しかも、自己の弾性力によって地面Laへ戻すことが可能なように設定される。例えば、リブ46の厚みt3は、シート厚みt1よりも小さく設定されることが好ましい。
【0050】
図5(c)の状態の後、図6(a),(b)に示されるように、リヤシールド40が折れ曲がることによって、下端部42は持ち上がって、ハウジング11内に位置している種々の部材間の隙間δ、例えば無段変速装置31と連結ロッド24との間の隙間δに位置することが有り得る。これに対して、下端部42は断面円形状の円形部に形成されている。上記隙間δの大きさYδについては、リヤシールド40の設計段階において既知である。このため、下端部42(円形部)の直径Deは、隙間δの大きさYδよりも大きくなるように設定される。従って、下端部42が隙間δに入り込む心配はない。
【0051】
ところで、リヤシールド40における薄肉部49及び突起部51の位置や薄肉部49の範囲Wtは、次のように設定されている。つまり、図6(a)に示すように、ハウジング11内に位置している種々の部材24,31間の隙間δに、下端部42が位置したときに、薄肉部49及び突起部51が地面Laに最も接近するように、リヤシールド40における薄肉部49及び突起部51の位置や薄肉部49の範囲Wtが設定される。このようにして、図4に示される上半距離Hu及び下半距離Hdや薄肉部49の範囲Wtが決まる。
【0052】
地面Laに最も接近している突起部51は、図6(c)に示されるように、地面Laから露出している芝草Grや小石等の露出物に引っ掛かり易い。図6(a)〜(c)に示されるように、芝刈機10を前進走行させたときに、突起部51が芝草Gr等の露出物に引っ掛かる、いわゆる引っ掛かり現象が発生する。芝刈機10が前進したときに、この引っ掛かり現象によって突起部51は停止しようとする。持ち上がっている状態の下端部42は、突起部51の停止によって前下方(矢印dg方向)へ押し戻されて、図7(a)に示されるように地面Laに倒れる。つまり、引っ掛かり現象は、持ち上がっている状態の下端部42を倒す切っ掛けとなる。
【0053】
図7(b)は、図7(a)に示されているリヤシールド40の下半分を拡大して表している。断面円形状の下端部42は、突起部51の先端51aよりもシート後面44側(地面La側)へ突出している。このため、図7(a),(b)に示されるように、芝刈機10の前後移動に応じてリヤシールド40が前後方向へ移動した場合に、突起部51が芝草Gr等の露出物に引っ掛かる、いわゆる引っ掛かり現象は発生し難い。従って、芝刈機10の走行抵抗を抑制することができる。
【0054】
以上の説明をまとめると次の通りである。
実施例1では、図3に示されるように、ハウジング11の後端部11aから下方へ延びたリヤシールド40の高さ方向の中央部位48に、厚みの小さい薄肉部49が形成されている。このため、リヤシールド40に対して表裏方向の力が作用したときには、リヤシールド40における折れ曲がり部位を、薄肉部49に特定することができる。芝刈機10が前進や後退する度に、リヤシールド40には表裏逆向きの力が作用する。そのときには、薄肉部49がリヤシールド40の表裏方向へ折れ曲がる。
【0055】
このように、実施例1では、リヤシールド40における折れ曲がり部位を、予め設定された特定の部位(薄肉部49)に限定したので、表裏方向に折れ曲がったリヤシールド40が、芝刈機10の他の構造物(ハウジング11や無段変速装置31等)に引っかかることを、規制することができる。しかも、リヤシールド40の高さ方向の中央部位48に薄肉部49を形成するだけの、簡単な構成でよい。また、リヤシールド40の折れ曲がりを抑制するために、リヤシールド40の曲げ剛性を高める必要もない。
【実施例2】
【0056】
実施例2に係る歩行型芝刈機について説明する。図8は、実施例2のリヤシールド40A〜40Cの断面構造を示している。実施例2は、図4に示された下端部42を、図8(a)に示された下端部42A、図8(b)に示された下端部42B、又は図8(c)に示された下端部42Cに変更したことを特徴とし、他の構成及び作用については上記図1〜図7に示される歩行型芝刈機10の構成及び作用と同じなので、説明を省略する。
【0057】
具体的には、図8(a)に示されたリヤシールド40Aの下端部42Aは、貫通孔を有していない、いわゆる中実の断面円形状の円形部に形成されている。下端部42A(円形部42A)は断面真円状である。
【0058】
図8(b)に示されたリヤシールド40Bの下端部42Bは、断面視において、上端部41へ向かう方向に細長い楕円形状の円形部に形成されている。下端部42B(円形部42B)は、車幅方向に貫通した貫通孔42Baを有した水平なチューブ状に形成されている。
【0059】
図8(c)に示されたリヤシールド40Cの下端部42Cは、断面視において、略J字状に形成されている。つまり、下端部42Cは平板範囲47の下端からシート後面44側へ略半円状に折れ曲がっており、折れ曲がり先端42Caは、上端部41を向いている。中心線CLからの折れ曲がり寸法は、図4に示された円形部42の突出量X1と同じである。
【0060】
なお、本発明では、歩行型芝刈機10は、エンジン15等の駆動源による自走式芝刈機に限定されるものではなく、作業者が押し引き操作することによって前後進する形式であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の歩行型作業機は、ロータリ式芝刈機に適用するのに好適である。
【符号の説明】
【0062】
10…歩行型芝刈機、11…ハウジング、11a…後端部、14…刈刃、16…操作ハンドル、40…リヤシールド(シート)、41…上端部、42…下端部(円形部)、45…被支持部、46…リブ、47a,47b…他の部位、48…中央部位、49…薄肉部、51…突起部、51a…先端、CL…リヤシールドの厚み方向の中心線、Gr…芝草、La…地面、t2…薄肉部の厚み、t1…他の部位の厚み、X1…円形部の突出量、X2…突起部の突出量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芝草を刈る刈刃を回転可能に収納した下開放のハウジングと、このハウジングから後方へ延びた操作ハンドルと、前記ハウジングの後端部から下方へ延びたリヤシールドとを有している歩行型芝刈機において、
前記リヤシールドは、弾性を有したシートからなり、
このシートは、前記ハウジングの後端部に取り付けられた上端部から下端部までの高さ方向の中央部位に、薄肉部が形成されており、
前記薄肉部の厚みは、他の部位の厚みよりも小さく設定されていることを特徴とする歩行型芝刈機。
【請求項2】
前記シートの下端は、断面円形状の円形部に形成されていることを特徴とする請求項1記載の歩行型芝刈機。
【請求項3】
前記シートは、前記薄肉部から前記操作ハンドル側へ突出した突起部を有していることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の歩行型芝刈機。
【請求項4】
前記円形部は、前記突起部の先端よりも前記操作ハンドル側へ突出していることを特徴とする請求項3記載の歩行型芝刈機。
【請求項5】
前記シートの上端部は、前記ハウジングの後端部にスイング可能に支持される被支持部を一体に形成されており、
前記シートは、前記被支持部から、前記シートの下端部とは反対側へ向かって延びた、リブを有していることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の歩行型芝刈機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−206005(P2011−206005A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78915(P2010−78915)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】