説明

歩行特性評価システムおよび軌跡生成方法

【課題】 歩行が困難な患者などにおける種々の3次元歩行特性を、どこでも無拘束で長時間測定して導出することができ、医師などの診断に必要な情報を十分に提示することのできる歩行特性評価システムを提供すること。
【解決手段】 歩行特性評価システム1は、一または複数の身体装着型センサ2、携帯型データ記録装置3および解析装置4からなる。身体装着型センサ2としては足の加速度および角速度を測定可能、かつ、少なくとも足爪先装着用のセンサを備え、携帯型データ記録装置3は身体装着型センサ2によって測定されたデータを記録し、解析装置4はそのデータを演算処理して一歩ごとの足爪先の3次元軌跡を生成可能なように形成された構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歩行特性評価システムおよび軌跡生成方法に係り、人間の歩行特性、特に歩行が困難な患者などにおける歩数、歩幅、歩調、歩行速度、爪先と床との距離、爪先の振り上げ角度あるいは踵の角度などといった3次元歩行特性を、どこでも無拘束で長時間測定し、医師や検査者が病状や治療効果の診断に利用する情報を提示することのできる、歩行特性評価システムおよび軌跡生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歩行が困難な患者などの3次元歩行特性を測定して、医師や検査者による診断に利用可能な情報を得る方法は、検査者が巻き尺やストップウォッチを使用して、患者の歩幅や歩行周期を実測するというものであった。しかし、一歩ごとに歩行周期や歩幅のばらつきを求めることは不可能であった。
【0003】
また、ビデオカメラを利用することによって、一歩ごとの歩行特性を評価することは可能であるが、長距離歩行に対しては適用できるものではない。さらに、歩数計を利用することで長距離歩行時でも一歩ごとに歩行周期を求めることは可能であるが、歩幅の計測は不可能である。すなわち、従来の技術では、長時間に亘り、場所に依存せず歩行特性を計測し評価することは困難であった。
【0004】
なお、歩行や足の動きを3次元的に計測、分析する手法に関しては近年、技術的提案もなされている。後掲特許文献1に開示されている技術はその一例であり、歩行者などのステップの仕方に配慮した歩行動作評価を支援することを目的として、爪先側に配された第1の三軸のジャイロセンサと、踵側に配された第2の三軸のジャイロセンサとを有する靴を用いて、靴の爪先側のジャイロセンサの出力と、踵側のジャイロセンサの出力により歩行動作に関する評価情報を生成する評価情報生成手段と、評価情報生成手段で生成した評価情報を出力する出力手段とを備えた解析装置を提案している。
【0005】
【特許文献1】特開2008−073285号公報「靴、その靴を履いた人の歩行・走行動作評価支援装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1開示技術は、測定・分析に特別な靴が必要である上、特に歩行が困難な患者などにおける歩数、歩幅、歩調、歩行速度、爪先と床との距離、爪先の振り上げ角度あるいは踵の角度などといった3次元歩行特性を、場所を選ばず無拘束で長時間測定して、医師などの診断に利用する情報を十分に提供できるものとはいえない。
【0007】
本発明の課題は、かかる従来の問題を解決しようとするものであり、人間の歩行特性、特に歩行が困難な患者などにおける種々の3次元歩行特性を、どこでも無拘束で長時間測定して、測定データからより有用な3次元歩行特性データを導出することができ、医師などの診断に必要な情報を十分に提示することのできる、歩行特性評価システムおよび軌跡生成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、被験者の足に装着できる小型軽量のセンサを用い、歩行の一歩ごとの足爪先の3次元軌跡を生成する方法に基づいて課題を解決し得ることを見出し、本発明に至った。すなわち、本願において特許請求もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0009】
(1) 一または複数の身体装着型センサ、携帯型データ記録装置および解析装置からなる歩行特性評価システムであって、該身体装着型センサは足の加速度および角速度を測定可能でありかつ少なくとも足爪先装着用のものが備えられており、該携帯型データ記録装置は該身体装着型センサにより測定されたデータを記録するものであり、該解析装置は該携帯型データ記録装置に記録されたデータを演算処理して一歩ごとの足爪先の3次元軌跡を生成する、歩行特性評価システム。
(2) 前記解析装置は、一歩ごとに水平方向および垂直方向加速度の2階積分によって足爪先の3次元軌跡を生成可能に構成されていることを特徴とする、(1)に記載の歩行特性評価システム。
(3) 前記解析装置は、一歩ごとに水平方向および垂直方向加速度の2階積分によって足爪先の3次元軌跡を生成可能であり、一歩ごとの足爪先の3次元軌道および方向を描画可能に構成されていることを特徴とする、(1)に記載の歩行特性評価システム。
(4) 前記解析装置は、一歩ごとの3次元軌跡から、歩数、歩幅、歩調、歩行速度、足爪先と歩行面との距離および足爪先の振り上げ角度の各3次元歩行特性を導出可能に構成されていることを特徴とする、(2)または(3)に記載の歩行特性評価システム。
【0010】
(5) 前記解析装置は、一歩ごとの3次元軌跡から、一重複歩距離および歩行周期の各3次元歩行特性を導出可能に構成されていることを特徴とする、(2)または(3)に記載の歩行特性評価システム。
(6) 歩行特性評価に利用可能な軌跡を生成、表示する方法であって、加速度および角速度測定可能なセンサにより測定された加速度および角速度データに基づき、運動の周期ごとに水平方向および垂直方向加速度の2階積分によって3次元軌跡を生成し、該センサ設置部位の3次元軌道および方向を運動の周期ごとに描画して表示する、軌跡生成方法。
(7) 前記センサは歩行者の足爪先に装着可能であることによって、歩行時における足爪先の軌跡を生成、表示可能であることを特徴とする、(6)に記載の軌跡生成方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の歩行特性評価システムおよび軌跡生成方法は上述のように構成されるため、これによれば、人間の歩行特性、特に歩行が困難な患者などにおける歩数、歩幅、歩調、歩行速度、爪先と床との距離、爪先の振り上げ角度あるいは踵の角度などといった3次元歩行特性を、どこでも無拘束で長時間測定して、測定データからより有用な3次元歩行特性データを導出することができ、医師などの診断に必要な情報を十分に提示することができる。
【0012】
特に本発明システムは、歩行特性の評価に際して、長時間に亘り場所を選ばず検査が行えることと、一歩ごとに足爪先挙動を3次元で測定することを同時に実現できる。従来のビデオカメラを利用した歩行特性評価では、室内の限られた環境での短時間・短距離の検査しかできなかった。また長時間の検査では、検査者が被験者とともに歩行することで実現可能ではあるが、客観的に一歩ごとの歩行特性を評価することは不可能であった。本発明は、このような問題点を一度に解決できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について、図面を用いてより詳細に説明する。
図1は、本発明の歩行特性評価システムの基本構成を示す概念図である。図示するように本歩行特性評価システム1は、一または複数の身体装着型センサ2、携帯型データ記録装置3、および解析装置4からなる。そして、身体装着型センサ2としては、足の加速度および角速度を測定可能であるとともに、少なくとも足爪先装着用のセンサが備えられており、また携帯型データ記録装置3は、身体装着型センサ2によって測定されたデータを記録するものであり、また解析装置4は、携帯型データ記録装置3に記録されたデータを演算処理して一歩ごとの足爪先の3次元軌跡を生成するように形成されていることを、主たる構成とする。
【0014】
かかる構成により本システム1では、身体装着型センサ2は被験者の身体、特に足に装着され、かつ携帯型データ記録装置3は被験者において携帯された状態もしくは被験者に伴う状態にて、測定・解析の準備がなされる。身体装着型センサ2としては、最低限、足爪先装着用のセンサが被験者の足爪先に装着される。被験者が歩行を開始すると、足の加速度および角速度の身体装着型センサ2による測定が開始されるが、最低限、足爪先に装着されたセンサ(2)によって、足爪先の加速度および角速度の測定が連続してなされる。
【0015】
身体装着型センサ2にて測定された足の加速度および角速度の測定データは、携帯型データ記録装置3に記録され、ここに記録されたデータは、解析装置4において演算処理され、最終的に、歩行を行った被験者の各種歩行特性のデータが得られる。つまり、最低限測定される被験者の足爪先の一歩ごとの3次元軌跡が解析装置4では生成され、その軌跡に基づき、各種の歩行特性のデータが得られる。
【0016】
本発明システム1において、身体装着型センサ2は一または複数設けられるが、得るべき歩行特性に鑑み、最低限設ける足爪先装着用のセンサも左右両足用の計2個を備えることが、本発明目的の歩行特性評価上極めて望ましい。したがって身体装着型センサ2は2個以上とすることが、極めて望ましい。また、場所に依存することなく長時間歩行特性を評価可能とするため、身体装着型センサ2はできるだけ小型かつ軽量であることが望ましい。
【0017】
また、足爪先に加えて踵に身体装着型センサを設けることは、特に推奨される。この場合も左右両足用の計2個を設けることが本発明目的の歩行特性評価上望ましく、この場合は、足爪先用と合わせて計4個のセンサが備えられることとなる。つまり、左右両足爪先と踵にセンサ2を取り付けることによって、足の加速度と角速度を測定する。なお身体装着型センサ2は加速度および角速度を測定できるものであれば、その具体的構造、仕様等は特に限定されない。
【0018】
携帯型データ記録装置3も同様に、身体装着型センサ2により測定されたデータを記録して解析装置4での処理に供することができるものであれば、その具体的構造、仕様等は特に限定されない。従来公知で入手可能な携帯型データロガーを適宜選択して用いることができる。携帯型データロガーとしては、SDカード等着脱可能なメモリを搭載できるものを用いれば、取扱いが便利である。
【0019】
携帯型データ記録装置3は、被験者が携帯できるサイズ・重量の仕様のものを用いることができ、この場合は身体装着型センサ2と同様被験者の身体に装着あるいは携帯保持される。一方、携帯型データ記録装置3は必ずしも被験者によって携帯されるべき仕様とする必要はなく、たとえばこれを携帯しないことが推奨されるような被験者用として、身体装着型センサ2からのデータを無線受信できる携帯型データ記録装置3とし、伴って歩行する者や移動装置がこれを携帯保持することが可能な構成としてもよい。
【0020】
本発明歩行評価システム1の解析装置4は、水平方向および垂直方向加速度の2階積分によって、被験者の歩行の一歩ごとの足爪先の3次元軌跡を生成可能に構成されたものである。かかる構成によって本解析装置4では、足爪先の3次元軌跡が生成される。また、生成された軌跡を画像として認識可能とするために、本解析装置4に映像ディスプレイや印刷装置等の画像出力手段を設けた場合には、一歩ごとの足爪先の3次元軌道および方向が描画されて、画像としての出力を得ることができる。
【0021】
すなわち、身体装着型センサ2により測定されたデータは、携帯型データ記録装置3により媒介され、解析装置4において処理されて、被験者の一歩ごとの3次元軌跡が得られる。ここで、携帯型データ記録装置3による媒介は、上述の着脱可能なメモリ媒体による形態が便利であるが、無線等による通信手段を介した転送でもよい。いずれにせよ解析装置4においては、歩行特性評価用の解析プログラムによって、送られてきたデータに基づき、3次元足爪先軌道と足爪先の方向が1歩毎に描画され、3次元足爪先軌跡を生成することができる。
【0022】
そして、このようにしてに得られた3次元足爪先軌跡に基づき、歩数、歩幅、歩調、歩行速度、足爪先と歩行面との距離、および足爪先の振り上げ角度の各3次元歩行特性を得ることが可能である。さらには、一重複歩距離および歩行周期の各3次元歩行特性を導出可能な構成とすることもできる。これらは、ファイルに保存したり、グラフとして描画することできる。
【0023】
以下、加速度および角速度データを基にして、足爪先の3次元軌跡を生成する具体的手順の例を説明する。
図2は、本発明歩行特性評価システムにおける3次元軌跡生成方法の例を示すフローチャートである。手順を追って説明すると、図示するように、加速度および角速度データは解析装置に転送されて、内蔵された解析ソフトウェア(○付数字3 以下、「《3》」のように表記する。)の機能により、まず手順《4》において、角速度波形から、一歩分の遊脚状態の選択がなされる。ここで、遊脚とは爪先に装着したセンサが動いている状態であり、立脚はセンサが静止している状態をいう。摺り足歩行などの場合、爪先が地面に接しているが、移動している場合も遊脚と定義する。
【0024】
図2−2は、以下説明する立脚と遊脚の判断、および遊脚期間の決定方法を示すグラフである。立脚と遊脚の判断は、爪先で測定した角速度の合成値(3軸合成角速度)で観測される遊脚開始直後のピークP,P,Pを利用する。具体的には、P,P,Pを検出し、それぞれの時刻T,T,Tから対象とする遊脚候補のTa=T−Tおよび Tb=T−T を求める。対象とする遊脚の期間は、TのA秒前から、TのB秒後まで、と決定する。
【0025】
ここで、AとBは歩行距離の推定誤差を最小にするように実験的に求めた値であり、次式のように、TaおよびTbに依存する。
【0026】
【数1】

【0027】
この方法により得られた遊脚を利用して求めた歩行距離は、通常の前進歩行の他、速い歩行やゆっくりした歩行、横歩きや後ろ歩きに対しても高い精度で推定可能である。また、式の係数を変更することにより、摺り足歩行に対しても遊脚の判断を行うことが可能である。
【0028】
手順《4》により一歩分の遊脚状態が選択(探索)された後、手順《5》へと進む。手順《5》では、足の初期状態、すなわち姿勢・フレームマトリクスが計算されて、一定の算出値が得られる。そしてここでの算出値が用いられて手順《6》において、角速度が積分され、足の姿勢更新がなされる。
【0029】
ここで姿勢更新とは、歩行中に足が回転することによって変化するセンサシステムの向きや傾き(フレームマトリックス)を計算によって求めることである。具体的には、下式のように、
センサで測定した角速度ω’=[ω' ω' ω']を、直前のフレームマトリックスEによって、
固定座標系の角速度ω=[ω ω ω]に変換する。
ω=Eω’
【0030】
ここで、遊脚直前のフレームマトリックスE(n=0)は、
立脚時の測定加速度a’=[a' a' a']と重力加速度gを利用し、以下のように求める。
【0031】
【数2】

【0032】
図2−3は、上記式にて示した重力加速度gを利用した遊脚開始時の足の姿勢(フレームマトリックスE)の導出に関し、各計測軸の角度計算方法を示す図である。また、
図2−4は、重力加速度gを利用した遊脚開始時の足の姿勢(フレームマトリックスE)の導出方法を示す図である。これらに示すように、センサ装着時には、フレームマトリックスのiベクトルが爪先方向を向くように合わせる。次に、遊脚開始後の測定角速度ω’からサンプリング周期Δt中のフレームマトリックスの回転量θを求め、ベクトルωの周りに角度θだけ回転させる次式の等価回転マトリックスRωθ を直前のフレームマトリックスEに適用して次のフレームマトリックスEn+1を、次式のようにして求める。
【0033】
【数3】

【0034】
ついで手順《7》では、更新した足の姿勢が利用されて、測定加速度の座標変換および積分がなされる。つまり、
測定加速度a’=[a' a' a']は下式のように、フレームマトリックスEによって、
固定座標系の加速度a=[a]に変換する。
a=Ea’
【0035】
一歩分の爪先の3次元経路p(t)=[p(t) p(t) p(t) ]は、
一歩分の遊脚時間中の加速度a(t)=[a(t) a(t) a(t) ]を積分して、
3次元速度v(t)=[v(t) v(t) v(t) ]を求め、再度積分して求める。すなわち次式の通りである。
【0036】
【数4】

【0037】
手順《7》において加速度座標変換と積分がなされた後、手順《8》において遊脚終了時とその後の立脚時のフレームマトリックスが一致するように、遊脚時のフレームマトリックスが修正される。つまり、遊脚中の推定フレームマトリックスは、角速度の積分により更新するが、積分誤差の影響で、正しいフレームマトリックスとは異なる値となる。一方、遊脚終了後の立脚時のフレームマトリックスは、垂直軸周りの方向の誤差を無視すれば、重力加速度を利用して正確に求めることが可能である。そこで、遊脚終了後の推定フレームマトリックスEと、重力加速度から求めたフレームマトリックスE'が一致するように、遊脚時のフレームマトリックスEを修正する。初めに、以下の式により、E'をベクトルωの周りに角度θ回転させてEと一致させる、
等価回転行列Rωeθe の成分を求める。
【0038】
【数5】

【0039】
これより、角度θとベクトルωは以下のようになる。
【0040】
【数6】

【0041】
結局、遊脚中の正しいフレームマトリックスE'は、次式のように推定する。
なお図2−5は、以上述べたフレームマトリクスの修正方法を示す説明図である。図中、「FM」とはフレームマトリクスを示す。
【0042】
【数7】

【0043】
手順《8》についで、手順《9》において遊脚終了時速度がゼロとなるように加速度の積分誤差除去(修正)の処理がなされて、一歩分の解析処理が終了となる。加速度の積分誤差修正は次のように行う。
誤差を含む計測加速度a(t)は、真の加速度a(t)と加速度のオフセット値aeを用いて、下式のように表されると仮定する。
(t)=a(t)+ae
【0044】
これを積分して速度を求めると、以下のようになる。
【0045】
【数8】

【0046】
ここで、Tは遊脚の継続時間、V(t)は真の速度、Veは加速度積分の誤差により生じた遊脚終了時の推定速度であり、本来ゼロとなるべき値である。これより、真の速度V(t)は次式のように求められる。
なお図2−6は、以上述べた加速度の積分誤差修正方法を示す説明図である。
【0047】
【数9】

【0048】
手順《9》の処理がなされた後、手順《10》においては、歩行が継続しているか、終了したかが判断される。「終了」と判断された場合は、手順《11》において解析結果の描画、ファイル等への出力処理がなされ、一連の解析が終了となる(手順《12》)。一方、歩行が「継続している」と判断された場合は、手順《4》へと戻り、以降の手順が繰り返される。このような手順によって、足爪先の3次元軌跡が生成される。後述する実施例では、図6にその描画例を示す。
【0049】
なお図中、手順《11》において、出力される歩行特性として列挙された事項のうち、歩調とは、1分あたりの歩数である。また、歩行周期とは、遊脚と立脚を合わせた時間である。本発明においては、一歩分の遊脚開始の時刻から次の遊脚開始の時刻までとしている。
【0050】
図3は、本発明歩行特性評価システムにおいて生成した3次元軌跡から各歩行特性を導出する過程を示すフローチャートである。図示するように、まず手順《1》において、解析結果から全ての爪先軌道と爪先方向のデータが準備される。そして手順《2》においては、爪先軌跡の数から歩数が決定されて歩数データとして得られる。またこれと並行的な手順《3》においては、爪先軌跡が合計されて、総歩行距離が算出され、相歩行距離データとして得られる。
【0051】
また手順《2》、《3》と並行的な手順《4》においては、手順《1》において準備された全ての爪先軌道と爪先方向のデータの中から、一歩分の爪先軌道すなわち3次元歩行経路と爪先方向が選択される。ここでは、全歩数分の遊脚区間に対して、最初の一歩目から順次一歩分の遊脚区間を対象として、計算から求めた3次元爪先軌道の情報と、爪先の方向を表すフレームマトリックスのiベクトル成分が選択される。
【0052】
手順《4》において選択された一歩分の爪先軌道と爪先方向の各データに基づいて、並行的な手順《5》、《7》、《10》および《11》において、それぞれ演算処理がなされて各歩行特性データが得られる。すなわち手順《5》においては、一歩の開始と終了の時刻が導出され、各時刻データが得られる。また手順《7》においては、一歩の開始と終了の位置が導出され、各位置データが得られる。また手順《10》においては、足爪先と歩行面との距離が計算され、距離データが得られる。また手順《11》においては、足爪先の振り上げ角度が計算され、振り上げ角度データが得られる。
【0053】
さらに、手順《5》において得られた各時刻データに基づいて、手順《6》において、歩調(一分あたりの歩数)および歩行周期が計算されて、これらのデータが得られる。また、手順《7》において得られた一歩の開始と終了の位置データに基づいて、手順《8》において、歩幅が計算されて、歩幅データが得られる。そして、手順《6》において得られた歩調(歩行周期)データと、手順《8》において得られた歩幅データに基づいて、手順《9》において、一歩分の歩行速度が計算されて、一歩分の歩行速度データが得られる。このような手順によって、各歩行特性データが得られる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明がかかる実施例に限定されるものではない。
<実施例 足爪先装着型センサによる歩行特性評価システム>
身体装着型センサとして、足爪先装着型センサのみを用いた歩行特性評価システムを構築した。
【0055】
図4は、被験者の足(靴)の爪先にセンサを装着し、これが携帯型データ記録装置(データロガー)と接続されている状態を示した写真である。また、
図5は、本実施例システムの構成を示すブロック図である。図4に示す足爪先装着型センサにより、被験者の歩行中の足の加速度および角速度信号が測定される。測定されたデータは、データロガーに装着されたSDカードに記録される。その後、SDカードに記録されたデータは、解析プログラムに読み込まれる。解析プログラムによってデータは処理され、一歩ごとに、加速度および角速度を積分して足爪先の3次元位置と方向が求められる。
【0056】
図6は、本実施例システムにより描画、生成された全ての3次元爪先経路と爪先の方向が描画されたグラフである。このようにして全ての3次元軌跡が得られる。これに基づき、各歩行特性データを得る手順を示す。遊脚開始の時刻を0、遊脚終了の時刻をTとする。また、xyz方向の移動距離をそれぞれ p(t)、p(t)、p(t) 、遊脚直前の立脚時のフレームマトリックスのiベクトル成分を
=[ix0y0z0 ]、遊脚時のフレームマトリックスのiベクトルの成分を
i=[i ] とすると、次に示す各式によって、各歩行特性データが得られる。
【0057】
【数10】

【0058】
なお図7は、一歩分の遊脚期における爪先の3次元経路を示すグラフである。また図8は、本実施例システムによる爪先と床との角度すなわち爪先角度θの導出方法を示す説明図である。さらに図9の歩行特性解析結果例に示すように、一歩ごとの重複歩距離や歩行周期の結果を提示することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の歩行特性評価システムによれば、歩行特性の評価に際して、長時間に亘り場所を選ばず検査が行えることと、一歩ごとに足爪先挙動を3次元で測定することを同時に実現でき、関連産業分野において利用性が高い発明である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の歩行特性評価システムの基本構成を示す概念図である。
【図2】本発明歩行特性評価システムにおける3次元軌跡生成方法を示すフローチャートである。
【図2−2】立脚と遊脚の判断、および遊脚期間の決定方法を示すグラフである。
【図2−3】重力加速度gを利用した遊脚開始時の足の姿勢(フレームマトリックスE )の導出に関し、各計測軸の角度計算方法を示す図である。
【図2−4】重力加速度gを利用した遊脚開始時の足の姿勢(フレームマトリックスE )の導出方法を示す図である。
【図2−5】フレームマトリクスの修正方法を示す説明図である。
【図2−6】加速度の積分誤差修正方法を示す説明図である。
【図3】本発明歩行特性評価システムにおいて生成した3次元軌跡から各歩行特性を導出する過程を示すフローチャートである。
【0061】
【図4】被験者の足(靴)の爪先にセンサを装着し、これが携帯型データ記録装置(データロガー)と接続されている状態を示した写真である。
【図5】本実施例システムの構成を示すブロック図である。
【図6】本実施例システムにより描画、生成された全ての3次元爪先経路と爪先の方向が描画されたグラフである。
【図7】一歩分の遊脚期における爪先の3次元経路を示すグラフである。
【図8】本実施例システムによる爪先と床との角度すなわち爪先角度θの導出方法を示す説明図である。
【図9】本実施例システムにより得られた歩行特性の解析結果例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
1…歩行特性評価システム
2…身体装着型センサ
3…携帯型データ記録装置
4…解析装置























【特許請求の範囲】
【請求項1】
一または複数の身体装着型センサ、携帯型データ記録装置および解析装置からなる歩行特性評価システムであって、該身体装着型センサは足の加速度および角速度を測定可能でありかつ少なくとも足爪先装着用のものが備えられており、該携帯型データ記録装置は該身体装着型センサにより測定されたデータを記録するものであり、該解析装置は該携帯型データ記録装置に記録されたデータを演算処理して一歩ごとの足爪先の3次元軌跡を生成する、歩行特性評価システム。
【請求項2】
前記解析装置は、一歩ごとに水平方向および垂直方向加速度の2階積分によって足爪先の3次元軌跡を生成可能に構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の歩行特性評価システム。
【請求項3】
前記解析装置は、一歩ごとに水平方向および垂直方向加速度の2階積分によって足爪先の3次元軌跡を生成可能であり、一歩ごとの足爪先の3次元軌道および方向を描画可能に構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の歩行特性評価システム。
【請求項4】
前記解析装置は、一歩ごとの3次元軌跡から、歩数、歩幅、歩調、歩行速度、足爪先と歩行面との距離および足爪先の振り上げ角度の各3次元歩行特性を導出可能に構成されていることを特徴とする、請求項2または3に記載の歩行特性評価システム。
【請求項5】
前記解析装置は、一歩ごとの3次元軌跡から、一重複歩距離および歩行周期の各3次元歩行特性を導出可能に構成されていることを特徴とする、請求項2または3に記載の歩行特性評価システム。
【請求項6】
歩行特性評価に利用可能な軌跡を生成、表示する方法であって、加速度および角速度測定可能なセンサにより測定された加速度および角速度データに基づき、運動の周期ごとに水平方向および垂直方向加速度の2階積分によって3次元軌跡を生成し、該センサ設置部位の3次元軌道および方向を運動の周期ごとに描画して表示する、軌跡生成方法。
【請求項7】
前記センサは歩行者の足爪先に装着可能であることによって、歩行時における足爪先の軌跡を生成、表示可能であることを特徴とする、請求項6に記載の軌跡生成方法。


【図1】
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【図2】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図2−5】
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【図2−6】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−110399(P2010−110399A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283978(P2008−283978)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】