説明

歩行訓練システム

【課題】堅実なフェイルセーフを備えており、ユーザがバランスを崩したときにすばやく停止する歩行訓練システムを提供する。
【解決手段】歩行訓練システム100は、ユーザの脚に装着され、脚の関節にトルクを加えるアクチュエータを有している脚装具12と、手摺50を備える。手摺50には、ユーザから受ける荷重を検出する荷重センサ52が配置されている。歩行訓練システム100は、荷重センサ52が検出した荷重が閾値を超えた場合に、歩行動作に応じた脚装具の制御を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの脚にトルクを与えて歩行動作を補助する歩行訓練システムに関する。特に、ユーザがバランスを崩したときに、すみやかにアクチュエータの制御を停止することのできる歩行訓練システムに関する。本明細書では、ユーザが自由に動かすことのできる脚を健常脚(sound leg)と称し、自由に動かすことできない脚を患脚(affected leg)と称する。
【背景技術】
【0002】
患脚の関節にトルクを与えることによってユーザの歩行を補助する歩行補助装置が研究されている。例えば、特許文献1には、健常脚の動きと同じになるように患脚の関節にトルクを与える歩行補助装置が開示されている。ユーザの筋力を補助する装置であってユーザが装着する装置には特にフェイルセーフ機能が重要であり、例えば特許文献2に、使用者が転びそうになる等の危険な姿勢状態であると判断したときにはアクチュエータの制御を停止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−116893号公報
【特許文献2】特開2001−276100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2の技術は、ユーザの姿勢から、ユーザが転びそうか否かを判断するが、姿勢からは的確に判断することが難しい。また、ユーザの体に直接に力(トルク)を加える歩行補助装置は、ユーザが転びそうか否かではなく、ユーザが、予定された歩行動作の補助を受けるのに適した状態か否かで判断すべきである。「歩行補助を受けるのに適していないユーザの状態」は、典型的には、ユーザがバランスを崩した状態である。本願発明は、上記課題に鑑みて創作された。本発明の目的は、ユーザがバランスを崩した状態を的確に検知して歩行動作に応じた制御を迅速に停止する歩行訓練システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ユーザは、バランスを崩した場合には何かに捕まろうとする。生活の場でなく、歩行訓練のための環境では、手摺などの補助具が配置される。ユーザは、バランスを崩したときには近傍に配置された補助具(例えば手摺)に自重を預けることが多い。別言すると、補助具に加わるユーザの荷重が大きい場合、ユーザはバランスを崩している可能性が高い。本発明は、上記の知見に基づいて創作された。本発明は、歩行訓練の場では、ユーザが装着する歩行補助装置のほかに補助具を備え得ることに着目する。ユーザが装着する歩行補助装置と協働する補助具を利用することによって、ユーザがバランスを崩したことを的確に検知する。
【0006】
本発明は、脚装具と補助具を備える歩行訓練システムに具現化することができる。脚装具は、ユーザの脚の関節にトルクを加えるアクチュエータと、アクチュエータを制御するコントローラを有しており、ユーザの脚に装着される。コントローラは、ユーザの歩行動作に応じてアクチュエータを制御する。補助具は、ユーザの近傍に配置され、ユーザが体を預けて自重を支えることができる。補助具は、例えば、手摺、杖、上方から吊り下げられてユーザが掴むことのできる吊具、或いは、上方からユーザを吊り支える懸架具でよい。
【0007】
補助具には、荷重センサが取り付けられている。荷重センサは、補助具がユーザから受ける荷重を検出する。この歩行訓練システムは、コントローラが、荷重センサが検出した荷重が閾値を超えた場合に、歩行動作に応じた制御を停止することを特徴とする。この歩行訓練システムは、ユーザが体を預けて自重を支えることができる補助具に荷重センサを備え、その荷重センサが検出した荷重が過度のときに歩行動作に応じたアクチュエータの制御を停止する。この歩行訓練システムは、ユーザがバランスを崩したことを補助具の力センサによって検知し、歩行動作に応じた制御を迅速に停止する。
【0008】
例えば安心感を得るなど、ユーザはバランスを崩していなくとも手摺などに手を掛けることがある。従って、補助具に荷重が加わった場合には常にユーザがバランスを崩している可能性が高いというわけではない。補助具が杖の場合、歩行中にもユーザは杖を突くので杖は荷重を受ける。上記の歩行訓練システムのコントローラは、補助具に加わる荷重が閾値を超えた場合に、歩行動作に応じた制御を停止する。
【0009】
別言すれば、上記の歩行訓練システムは、いわゆる緊急停止スイッチとして補助具を利用する。なお、補助具は、緊急停止スイッチであるとともに、歩行訓練システムをユーザが意図的に操作するためのヒューマン・マシン・インタフェイスを兼ねてもよい。具体的には、ユーザが補助具に軽く触れた場合、コントローラは、ユーザが直立姿勢で静止できるように歩行訓練システムを制御してもよい。
【0010】
ユーザがバランスを崩した状態にも様々なレベルが考えられる。そこで歩行補助システムのコントローラは、歩行動作に応じた制御を停止するとともに、ユーザの姿勢から定まる特徴量に応じて異なる停止制御モードを実行することが好ましい。ユーザの姿勢から定まる特徴量には、例えば、鉛直方向に対するユーザの体幹の姿勢角、足の接地状態(接地しているか否かの相違)、或いは、両足間の距離などが挙げられる。
【0011】
脚装具は例えば、ユーザの上腿に装着される上部リンクと下腿に装着される下部リンクがジョイントによって揺動可能に連結されている多リンク構造を有している。ジョイントは、脚装具がユーザに装着されたときに膝と同軸に位置する。即ちそのような装具は、ユーザの膝に適切にトルクを加えることによって歩行を補助する。脚装具は、ジョイントの回転を禁止する禁止手段を備えている。禁止手段は、典型的にはブレーキでよい。
【0012】
脚装具が上記構成を備えている場合の停止制御モードは、例えば次の通りである。脚装具は、ユーザの姿勢を検出するセンサを備えている。「ユーザの姿勢」とは、鉛直方向に対するユーザの体幹の傾斜角や、脚の曲がり具合、足の位置などである。本明細書では、鉛直方向に対する傾斜角を絶対傾斜角と称する場合がある。歩行訓練システムのコントローラは、歩行動作に応じた制御を停止するとともに、ユーザの姿勢から定まる第1特徴量が予め定められた第1範囲内である場合に禁止手段を作動させる第1停止制御モードを実行し、第1特徴量が第1範囲外の場合には禁止手段を解放して下部リンクを揺動自在とする第2停止制御モードを実行する。第1特徴量は、例えばユーザの体幹の傾斜角でよい。ユーザの傾斜角が第1範囲内の場合は、バランスを少し崩した場合に相当する。そのような場合には、禁止手段を作動させてジョイントをロックし、脚によるバランスの立て直しを図り易くする。他方、ユーザの傾斜角が第1範囲外の場合は、バランスを大きく崩している場合に相当する。そのような場合には、禁止手段を解放してジョイント揺動自在とし、ユーザの下肢の自由な揺動を妨げないようにする。一例を示すと、コントローラは、ユーザの体幹の姿勢角が鉛直方向に対して閾値角度以内(第1範囲内)の場合にブレーキを作動させる第1停止制御モードを実行し、体幹の姿勢角が閾値角度を超える場合(第1範囲外)の場合にブレーキを解放する第2停止制御モードを実行する。閾値角度は例えば30度に規定される。
【0013】
脚装具はさらに、下部リンクの回転に減衰を付与するダンパを備えていることが好ましい。このとき、上記した第2停止制御モードはさらに2つのサブモード(第3停止制御モードと第4停止制御モード)に分けられる。即ちコントローラは、第1特徴量が第1範囲外の場合、ユーザの姿勢から定まる第2特徴量が第2範囲内の場合には禁止手段を解放するとともにダンパを作動させる第3停止制御モードを実行し、第2特徴量が第2範囲外の場合には禁止手段を解放するとともにダンパを解放する第4停止制御モードを実行することが好ましい。第2特徴量とは、例えばユーザの両足間の距離でよい。前述したように、脚の姿勢(即ち、脚の各関節の角度)からそれぞれの足の位置が求まるので、両足間の距離も、ユーザの姿勢から定まる。ダンパを作動させることでユーザの下肢を緩やかに曲げることができる。他方、ダンパを解放すると、ユーザの下肢を速やかに曲げることができる。具体的な一例を示すと、コントローラは、ユーザの体幹の姿勢角が鉛直方向に対して閾値角度を超える場合(第1範囲外の場合)、さらに両足間の距離(第2特徴量)が閾値距離以上の場合、即ち、第2特徴量が第2範囲内の場合、ブレーキを解放するとともにダンパを作動させる第3停止制御モードを実行する。他方、両足間の距離が閾値距離を下回る場合、即ち、第2特徴量が第2範囲外の場合、コントローラは、ブレーキを解放するとともにダンパも解放する第4停止制御モードを実行する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の歩行訓練システムは、堅実なフェイルセーフを備えており、ユーザがバランスを崩したことを検知して歩行動作に応じた制御を迅速に停止する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施例の歩行訓練システムの概要図である。
【図2】脚装具の概要図である。
【図3】第1実施例のコントローラが実行する停止制御モードの一覧を示す。
【図4】第2実施例の歩行訓練システムの概要図である。
【図5】第2実施例のコントローラが実行する停止制御モードの一覧を示す。
【図6】第3実施例の歩行訓練システムの概要図である。
【図7】第4実施例の歩行訓練システムの概要図である。
【図8】第5実施例の歩行訓練システムの概要図である。
【実施例】
【0016】
(第1実施例)図面を参照して第1実施例の歩行訓練システム100を説明する。歩行訓練システム100は、ユーザの歩行動作を補助する。図1は、歩行訓練システム100の概略図である。歩行訓練システム100は、ユーザが装着する脚装具12と、手摺50を備える。手摺50は、バランスを崩したときにユーザが体を預けて自重を支えることができる補助具の一種である。なお、後述するように、手摺50は、歩行訓練システム100のヒューマン・マシンインタフェイスとしても機能する。例えば、ユーザが手摺50に軽く触れると、歩行訓練システム100は、ユーザが直立姿勢を保てる状態に脚装具12を制御して停止する。図1は、脚装具12の概略のみを示している。図2に、脚装具12の構造を示す。図2(A)は正面図を示し、図2(B)は側面図を示す。本実施例では、脚装具12は、ユーザの左膝関節に適切なトルクを加えることができる。
【0017】
まず、図2を参照して、脚装具12を説明する。脚装具12は、右脚装具12Rと左脚装具12Lが支持リンク30によって連結されている構造を有する。左脚装具12Lは、ユーザの大腿部から下腿部に沿って脚の外側に装着される。左脚装具12Lは、上部リンク14L、下部リンク16L、及び足底リンク18Lを有する多リンク機構である。右脚装具12Rも、左脚装具12Lと同様に、上部リンク14R、下部リンク16R、及び足底リンク18Rを有する多リンク機構である。左右の脚装具12R、12Lは、支持リンク30によって連結されている。支持リンク30は、ユーザの背中側に配置され、右脚装具12Rの上端と左脚装具12Lの上端を連結している。
【0018】
左脚装具12Lについて詳しく説明する。上部リンク14Lの上端が腰ジョイント20aLを介して支持リンク30に連結されている。下部リンク16Lは、膝の外側に位置する膝ジョイント20bLによって、上部リンク14Lに連結されている。足底リンク18Lは、ユーザ踝の外側に位置する足首ジョイント20cLによって、下部リンク16Lに揺動可能に連結されている。上部リンク14Lは、ベルトでユーザの大腿部に固定される。下部リンク16Lは、ベルトでユーザの下腿部に固定される。足底リンク18Lは、ベルトでユーザの足底に固定される。足底リンク18Lを固定するベルトは、図示を省略している。支持リンク30は、ユーザの体幹(腰)に固定される。
【0019】
ユーザが左脚装具12Lを装着すると、腰ジョイント20aL、膝ジョイント20bL、及び、足首ジョイント20cLは夫々、ユーザの股関節のピッチ軸、膝関節のピッチ軸、及び、足首関節のピッチ軸と同軸に位置する。即ち、左膝装具12Lは、ユーザの左脚の動きに応じて揺動することができる。各ジョイントには、リンク間の角度を検出するためのエンコーダ21が取り付けられている。
【0020】
足底リンク18Lの足底面には、複数の接地センサ22a、22bが取り付けられている。図2(B)に示すように、複数の接地センサは、足底リンク18Lの前方と後方に離間して取り付けられている。接地センサ22aは、足底リンク18Lの前方に取り付けられており、接地センサ22bは、足底リンク18Lの後方に取り付けられている。前方の接地センサ22aは、ユーザの拇指球に相当する位置に取り付けられており、後方の接地センサ22bはユーザの踵に相当する位置に取り付けられている。夫々の接地センサは、足底リンク18Lと歩行面との接地を検知する。
【0021】
膝ジョイント20bLには、モータ32が取り付けられている。モータ32は、ユーザの膝関節の外側に位置する。モータ32は、上部リンク14Lに対して下部リンク16Lを回転させることができる。即ちモータ32は、ユーザの左膝関節にトルクを加えることができる。モータ32は、ブレーキ33とダンパ34を内蔵している。ブレーキ33を作動させると、上部リンク12Lと下部リンク16Lは、それらの相対位置が固定される。即ち、膝ジョイント20bLがロックされる。ダンパ34は、下部リンク16Lの回転に減衰を付与する。ダンパ34は、常に作動しているのではなく、コントローラ40からの指令によって作動する。
【0022】
右脚リンク12Rは、モータ32(ブレーキ33、ダンパ34)を除いて、左脚リンク12Lと同じ構造を有している。
【0023】
支持リンク30にはコントローラ40が取り付けられている。コントローラ40の内部には、傾斜センサ27が備えられている。傾斜センサ27は、鉛直方向に対する支持リンク30の傾斜角(絶対傾斜角)を検出する。なお、支持リンク30の絶対傾斜角は、ユーザ体幹の絶対傾斜角に相当する。
【0024】
コントローラ40は、傾斜角センサ27、エンコーダ21、及び接地センサ22の出力に基づいて、モータ32を制御する。具体的には、コントローラ40は、予め記憶している歩行パターンを、ユーザの歩幅、歩行速度、及び、歩行面のスロープ角に応じて修正し、ユーザの左脚が修正された歩行パターンに追従するようにユーザの膝関節にトルクを加える。歩行訓練システムが有する歩行パターンとその修正については、既に出願されている特許出願(特願2008−235463、2008年9月12日出願)に詳しく開示されているのでここでは説明を省略する。歩行訓練システム100は、歩行パターンを用いてユーザの歩行動作に応じて膝関節にトルクを加えるようにモータ32を制御する。
【0025】
図1に戻って、手摺50を説明する。手摺50の表面に、シート状のタッチセンサ54が貼られている。手摺50の支柱には、力センサ52が取り付けられている。タッチセンサ54と力センサ52の信号は、脚装具12が備えるコントローラ40に送られる。図示を省略しているが、手摺50には、タッチセンサ54等の信号をコントローラ40へ送る無線装置が備えられている。
【0026】
タッチセンサ54と力センサ52の信号に基づくコントローラ40の処理を説明する。脚装具12は、歩行時に膝関節角が描く軌道にユーザの膝関節が追従するように、モータ32を駆動する。このときの制御が歩行動作に応じた制御に相当する。以下では、説明を解り易くするために「歩行動作に応じた制御」を「歩行補助制御」と換言することがある。ユーザが手摺50に触れると、タッチセンサ54が作動するとともに、力センサ52が手摺50に加わる荷重を検出する。コントローラ40は、力センサ52が検出する荷重が荷重閾値を超えない場合は、力センサ52の出力を無視する。ここで荷重閾値は、例えばユーザの自重の半分に設定される。
【0027】
タッチセンサは、歩行訓練システム100のヒューマン・マシンインタフェイスとして機能する。即ち、ユーザは静止したい場合に手摺50に軽く触れる。歩行補助制御中にタッチセンサ54が作動すると、コントローラ40は、歩行補助制御を停止する。このときは、コントローラ40は、上部リンク14Lと下部リンク16Lが一直線となる角度にモータ32を制御する。そのような制御によって、ユーザは直立姿勢を保持できる。力センサ52が検出する荷重が荷重閾値以下であり、かつ、タッチセンサ54が作動したときは、ユーザはバランスを崩していない可能性が高いので、そのような場合には、コントローラ40は、ユーザが直立姿勢を保持できる膝角度にモータ32を制御した後にブレーキ33を作動させて歩行補助制御を停止する。
【0028】
他方、力センサ52は、歩行訓練システム100の緊急停止スイッチとして機能する。力センサ52が検出する荷重が荷重閾値を超えた場合、ユーザはバランスを崩して手摺にもたれている可能性が高い。コントローラ40は、力センサ52が検出する荷重が荷重閾値を超えたタイミングを、ユーザがバランスを崩しているタイミングとして検知する。このタイミングを検知するとコントローラ40は、歩行補助制御を停止するとともに、荷重閾値を超えたときのユーザの姿勢に応じて異なる停止制御モードを実行する。ここで、コントローラ40が考慮する「ユーザの姿勢」は、ユーザ体幹の絶対傾斜角と両足間の距離である。ユーザ体幹の絶対傾斜角は、「ユーザの姿勢」を表す特徴量の一つである。両足間の距離は、ユーザの脚の姿勢によって定まるので、本明細書では、両足間の距離も「ユーザの姿勢」を表す特徴量の一つとして捉える。具体的には、コントローラ40は、荷重閾値を超えたときのユーザ体幹の絶対傾斜角と両足間の距離に応じて異なる停止制御モードを実行する。コントローラ40は、傾斜センサ27からユーザ体幹の絶対傾斜角を得る。またコントローラ40は、エンコーダ20によって計測される角関節角から、両足間の距離を得る。多リンク機構の各関節角から先端(足)の位置への変換は、ロボットの運動学として良く知られているので説明は省略する。また以下では簡単のため、絶対傾斜角を単に傾斜角と称する場合がある。
【0029】
図3に、ユーザの姿勢に応じた停止制御モードの一覧を示す。図3に示した停止制御モードについて説明する。「フリー(ダンパなし)」とは、コントローラ40が、ブレーキ33を解除するとともに、ダンパ34を停止(解放)する制御を意味する。この場合、下部リンク16Lは自在に揺動することができる。「フリー(ダンパあり)」とは、コントローラ40が、ブレーキ33を解除するとともに、ダンパ34を作動させる制御を意味する。この場合、下部リンク16Lは、外力が加わると回転することができるとともに、その回転に減衰が付与される。「ロック」とは、コントローラ40がブレーキ33を作動させる制御を意味する。この場合、膝ジョイント20bLがロックされ、下部リンク16Lの揺動が禁止される。なお、コントローラ40は、いずれかの停止制御モードを開始するとともに、モータ32を停止する。上記のいくつかの「停止制御モード」は総じて言えば、脚装具のジョイントを能動的に駆動することなく、ジョイントに付加したブレーキとダンパを作動或いは解除(停止)する制御と表現できる。以下では、「ロック」に相当する制御モードを「第1停止制御モード」と称し、「フリー(ダンパあり)」に相当する制御モードを「第3停止制御モード」と称し、「フリー(ダンパなし)」に相当する制御モードを「第4停止制御モード」と称する場合がある。また、第3停止制御モードと第4停止制御モードは共に、ブレーキ33を解放する制御であることから、これらを「第2停止制御モード」と総称することがある。
【0030】
図3に示すように、コントローラ40は、ユーザの体幹の傾斜角Aが30度を超える場合は、歩行補助制御を停止するとともに第4停止制御モードを実行する。傾斜角Aが30度を超えている場合は、ユーザが大きくバランスを崩している場合に相当する。この場合は、ユーザが姿勢を回復できる可能性が小さいので、ブレーキ33を解放するとともにダンパ34を解放して下部リンク16Lを揺動可能にする。そのように制御することによって、ユーザの左膝に過度のトルクが加わることを防止する。
【0031】
傾斜角Aが30度以下の場合は、ユーザが僅かにバランスを崩している状態に相当する。この場合、コントローラ40は、接地脚の種類と足間距離Wに応じて異なる停止制御モードを選択する。両脚が接地しており、足間距離Wが30cm以下の場合、コントローラ40は、第3停止制御モードを実行する。即ち、コントローラ40は、ブレーキ33を解除するとともにダンパ34を作動させる。両脚が接地しており、足間距離Wが30cmを超えている場合、コントローラ40は、第1停止制御モードを実行する。即ち、コントローラ40は、ブレーキ33を作動させる。患脚が遊脚状態であり、足間距離Wが30cm以下の場合、コントローラ40は、第4停止制御モードを実行する。即ち、コントローラ40は、ブレーキ33を解除するとともに、ダンパ34を解放(停止)する。患脚が遊脚状態であり、足間距離Wが30cmを超えている場合、コントローラ40は、第3停止制御モードを実行する。即ち、コントローラ40は、ブレーキ33を解除するとともに、ダンパ34を作動させる。健常脚が遊脚状態であり、足間距離Wが30cm以下の場合、コントローラ40は、第1停止制御モードを実行する。健常脚が遊脚状態であり、足間距離Wが30cmを超えている場合、コントローラ40は、第3停止制御モードを実行する。
【0032】
上記の停止制御モード選択ルールには、次の利点がある。傾斜角Aが大きい場合は、ユーザがバランスを大きく崩している可能性が非常に高い。そのような場合は、ユーザが自力でバランスを回復するのは困難であるから、下部リンクを揺動自在にすることによって、ユーザの膝関節に負荷を与えないようにする。傾斜角Aが小さく、患脚のみで接地している場合(即ち、健常脚が遊脚の場合)は、両足間距離Wに応じて停止制御モードを選択する。両足間距離Wが小さい場合は、ブレーキ33を作動させる。患脚のみで接地しており、両足間距離Wが小さい場合は、ブレーキ33を作動させることによって、手摺等で自重を支えるために腕に衝撃が加わることを防止する。
【0033】
以上のように、コントローラ40は、歩行補助制御を停止するとともに、ユーザの姿勢を表す特徴量に応じて異なる停止制御モードを実行する。この歩行訓練システムは、補助具の力センサによってユーザがバランスを崩したことを検知するとともに、そのときのユーザの姿勢に応じて適切に歩行補助制御を停止する。
【0034】
上記実施例のコントローラ40は、ユーザの姿勢から定まる特徴量に応じて異なる停止制御モードを実行する。より具体的に表現すると、コントローラ40は、ユーザの姿勢から定まる傾斜角、夫々の足が浮いているか否かの区別、及び、両足間の距離、に応じて、ブレーキ33とダンパ34の作動/解放の組み合わせで規定される複数の停止制御モードの中から適切な停止制御モードを選択して実行する。
【0035】
歩行訓練システムが備えるべき補助具には、第1実施例の手摺50以外にも様々な態様が考えられる。以下、補助具の好ましい形態について説明する。以下の実施例では、脚装具は第1実施例と同じでよいので、補助具についてのみ説明する。なお、第2実施例では、停止制御モードの他の選択ルールも例示する。
【0036】
(第2実施例) 図4は、第2実施例の歩行訓練システム200の概要図である。この歩行訓練システム200は、ユーザの自重を支える補助具として、杖60を備える。杖60には、ユーザが掴む把持部にスイッチ64が配置されている。また、杖の支柱に力センサ62が配置されている。ユーザは、スイッチ64を介して、歩行訓練システムを操作することができる。この歩行訓練装置200は、杖60に内蔵された力センサ62が検出する荷重がユーザの自重の半分を超えると、この歩行訓練システム200は、歩行補助制御を停止するとともに、荷重閾値を超えたときのユーザ体幹の絶対傾斜角と両足間の距離に応じて異なる停止制御モードを実行する。
【0037】
図5に、第2実施例の歩行補助システム200が実行する停止制御モードの一覧を示す。歩行補助システム200のコントローラ40は、ユーザの体幹の傾斜角Aが30度以下の場合は第1停止制御モードを実行する。即ち、コントローラ40は、ブレーキ33を作動させる。他方、ユーザの体幹の傾斜角Aが30度を超える場合、コントローラ40は、第2停止制御モードを実行する。即ち、コントローラ40は、ブレーキ33を解放する。
「30度以下」を第1範囲と別言すると、コントローラ40は、傾斜角Aが第1範囲以内の場合は第1停止制御モードを実行し、傾斜角Aが第1範囲外の場合は第2停止制御モードを実行する。
【0038】
第1実施例と同様に、ブレーキ33を解放する第2停止制御モードは、ダンパを作動させる第3停止制御モードとダンパを解放する第4停止制御モードに分かれる。コントローラ40は、両足間の距離Wが30cm以上の場合は第3停止制御モードを実行し、距離Wが30cm未満の場合は第4停止制御モードを実行する。「30cm以上」を第2範囲と別言すると、コントローラ40は、両足間距離Wが第2範囲内の場合は第3停止制御モードを実行し、両足間距離Wが第2範囲外の場合は第4停止制御モードを実行する。
【0039】
(第3実施例) 図6は、第3実施例の歩行訓練システム300の概要図である。この歩行訓練システム300は、ユーザの自重を支える補助具として、クレーン70を備える。クレーン70は、クレーンレール76と、クレーンレール76に沿って移動する吊具74を備える。吊具74は、ユーザがバランスを崩したときに自重を支えるための道具である。吊具74には力センサ72が配置されている。この歩行訓練装置300は、力センサ72が検出する荷重がユーザの自重の半分を超えると、第1実施例或いは第2実施例の歩行訓練システムと同様のルールで、歩行補助制御を停止するとともにユーザの姿勢に対応した停止制御モードを実行する。
【0040】
(第4実施例) 図7は、第4実施例の歩行訓練システム400の概要図である。この歩行訓練システム400は、ユーザの自重を支える補助具として、クレーン80を備える。クレーン80は、クレーンレール86と、クレーンレール86に沿って移動する懸架具84を備える。懸架具84の下端には、ハーネス88が取り付けてある。ユーザは、脚装具12を装着するとともに、背中にハーネス88を装着する。ユーザがバランスを崩したとき、ハーネス88と懸架具84がユーザを支える。ユーザは、バランスを崩したときでも、クレーン80によって転倒を免れる。懸架具84には力センサ82が配置されている。この歩行訓練装置400は、力センサ82が検出する荷重がユーザの自重の半分を超えると、第1実施例或いは第2実施例の歩行訓練システムと同様のルールで歩行補助制御を停止するとともにユーザの姿勢に対応した停止制御モードを実行する。
【0041】
(第5実施例) 図8は、第5実施例の歩行訓練システム500の概要図である。この歩行訓練システム500は、自走式クレーン90を備える。自走式クレーン90は、ユーザとともに移動する。自走式クレーン90の先端に、吊具94が取り付けられている。吊具94は、ユーザがバランスを崩したときに自重を支えるための道具である。吊具94には力センサ92が配置されている。この歩行訓練装置500は、力センサ92が検出する荷重がユーザの自重の半分を超えると、第1実施例或いは第2実施例の歩行訓練システムと同様のルールで、歩行補助制御を停止するとともにユーザの姿勢に対応した停止制御モードを実行する。
【0042】
実施例の歩行訓練システムの変形例を説明する。実施例の脚装具12は、ユーザの片膝にトルクを加えるモータを備える。脚装具は、膝以外の脚関節にトルクを加えるアクチュエータを備えていてもよい。また、脚装具は、ユーザの両脚の関節にトルクを加えて歩行動作を補助するものであってもよい。
【0043】
脚装具12は、ダンパ34を備える代わりに、ダンパモードにおいて、モータの角度ゲインを低下させるものであってもよい。角度ゲインを下げることによっても、ダンパと同様の効果を得ることができる。
【0044】
歩行訓練システムは、手摺等の補助具に加わる荷重を検出するためのセンサとして、力センサに代えて歪みゲージを採用してもよい。
【0045】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0046】
12、12R,12L:脚装具
14R、14L:上部リンク
16R、16L:下部リンク
18R、18L:足底リンク
20:ジョイント
21:エンコーダ
22:接地センサ
27:傾斜センサ
30:支持リンク
32:モータ
33:ブレーキ
34:ダンパ
40:コントローラ
50:手摺(補助具)
52:力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの脚に装着され、脚の関節にトルクを加えるアクチュエータを有している脚装具と、
ユーザの歩行動作に応じてアクチュエータを制御するコントローラと、
ユーザが体を預けて自重を支えることができる補助具と、
補助具がユーザから受ける荷重を検出する荷重センサと、を備えており、
コントローラは、荷重センサが検出した荷重が閾値を超えた場合に、歩行動作に応じた制御を停止することを特徴とする歩行訓練システム。
【請求項2】
前記コントローラは、歩行動作に応じた制御を停止するとともに、ユーザの姿勢から定まる特徴量に応じて、異なる停止制御モードを実行することを特徴とする請求項1に記載の歩行訓練システム。
【請求項3】
前記脚装具は、
ユーザの上腿に装着される上部リンクと下腿に装着される下部リンクがジョイントによって揺動可能に連結されている多リンク構造を有しているとともに、
ユーザの姿勢を検出するセンサと、
ジョイントの回転を禁止する禁止手段と、
を備えており、
前記コントローラは、歩行動作に応じた制御を停止するとともに、ユーザの姿勢から定まる第1特徴量が予め定められた第1範囲内である場合に前記禁止手段を作動させる第1停止制御モードを実行し、第1特徴量が第1範囲外の場合には前記禁止手段を解放して下部リンクを揺動自在とする第2停止制御モードを実行することを特徴とする請求項2に記載の歩行訓練システム。
【請求項4】
前記脚装具はさらに、下部リンクの回転に減衰を付与するダンパを備えており、
コントローラは、第1特徴量が第1範囲外の場合、ユーザの姿勢から定まる第2特徴量が第2範囲内の場合には前記禁止手段を解放するとともにダンパを作動させる第3停止制御モードを実行し、第2特徴量が第2範囲外の場合には前記禁止手段を解放するとともにダンパを解放する第4停止制御モードを実行することを特徴とする請求項3に記載の歩行訓練システム。
【請求項5】
前記第1特徴量は、ユーザの体幹の傾斜角であり、第2特徴量は、ユーザの両足間の距離であることを特徴とする請求項4に記載の歩行訓練システム。
【請求項6】
前記補助具は、手摺、杖、上方から吊り下げられてユーザが掴むことのできる吊具、及び、上方からユーザを吊り支える懸架具のいずれか一つであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の歩行訓練システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−162064(P2010−162064A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4558(P2009−4558)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】