説明

歪み計測システム及びICタグ

【課題】建築物等に生じた歪みを、非破壊且つ非接触で計測できるようにする。
【解決手段】建築物の構造部材の内部に埋設されるICタグ1と、ICタグから情報を読み出す読み出し装置200とを備える歪み計測システムであって、ICタグは、構造部材のICタグが埋設された部分の歪みを検出するためのセンサー102,104と、センサーの出力信号を無線で外部に送信する送信回路112,114とを備え、読み出し装置は、ICタグから送信された信号を受信する受信回路202,204を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物等を構成する柱、梁、壁、床等に生じた歪みを非接触で計測する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物等を構成する柱、梁、壁、床等のコンクリート部材は、年月の経過と共に劣化し、歪みを生ずる。このようなコンクリート構造物の劣化を評価する方法は、従来より種々考えられているが、コンクリートの中性化やそれに伴う鉄筋の腐食度を測定する場合は、コアを採取したり、鉄筋に電流を流して抵抗値の変化を測定したりする方法が一般的に用いられている。
【特許文献1】特開2006−184025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特に鉄筋の腐食度を検査する方法では、鉄筋が露出するまでコンクリートにドリルで孔を開け、露出した鉄筋に通電するという方法がとられる。この場合、ドリルでの穿孔時に鉄筋を損傷させる場合があり、最悪の場合、鉄筋を破断させてしまうことがある。即ち、このような検査は、いわば微破壊検査であり、コンクリートに僅かではあるが損傷を与えるものであり、構造物にとってはあまり好ましい方法ではない。
【0004】
また、この検査を行う場合には、検査のたびに検査試料としてコンクリートからコアを抜き取る必要があり、コアを抜き取る場所の調査にも時間を要する。
【0005】
なお、特開2006−184025号公報(特許文献1)には、非破壊で機器類の検査をする方法として、発電所、変電所、工場等における配管の検査個所にICタグを取り付け、そのICタグからの信号により検査個所を特定し、その検査個所を聴診棒で聴診することにより、配管の状態のデータをとる方法が開示されている。しかしながら、この方法は聴診することで検査をする方法であるので、建築物に生じた歪みを検出することはできない。
【0006】
したがって、本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、建築物等に生じた歪みを、非破壊且つ非接触で計測できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係わる歪み計測システムは、構造部材の内部に埋設されるICタグと、該ICタグから情報を読み出す読み出し装置とを備える歪み計測システムであって、前記ICタグは、前記構造部材の前記ICタグが埋設された部分の歪みを検出するためのセンサーと、前記センサーの出力信号を無線で外部に送信する送信手段とを備え、前記読み出し装置は、前記ICタグから送信された信号を受信する受信手段を備えることを特徴とする。
【0008】
また、この発明に係わる歪み計測システムにおいて、前記送信手段及び前記受信手段は、RFIDの原理により無線通信を行なうことを特徴とする。
【0009】
また、この発明に係わる歪み計測システムにおいて、前記ICタグは、前記センサーの出力信号を増幅する増幅手段と、該増幅手段で増幅された信号をデジタル信号に変換するA/D変換手段とをさらに備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係わるICタグは、建築物の構造部材の内部に埋設されるICタグであって、前記構造部材の前記ICタグが埋設された部分の歪みを検出するためのセンサーと、前記センサーの出力信号を無線で外部に送信する送信手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、この発明に係わるICタグにおいて、前記送信手段は、RFIDの原理により無線通信を行なうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、建築物等に生じた歪みを、非破壊且つ非接触で計測することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係わる歪み計測システムに用いられる歪みセンサータグのセンサーパッケージを示す図である。そして、図1(a)は、コンクリート部材に埋設される歪みセンサータグのセンサーパッケージ100の外観図、図1(b)は、センサーパッケージ100の断面図である。
【0015】
図1において、センサーパッケージ100は、歪みセンサータグ1と、歪みセンサータグ1を被覆する保護材を構成するビニールシート2とからなる。歪みセンサータグ1は2枚のビニールシート2に挟み込まれるようにしてビニールシート2により被覆されている。なお、保護材はビニールシートに限定されるものではなく、非金属材料であれば他の材料であっても良い。
【0016】
歪みセンサータグ1の周囲のビニールシート2は、接着、圧着、溶着等の各種の方法により貼着され、特に歪みセンサータグ1に対してコンクリートの水分が浸透しないように水密に貼着され、防水性を確保する。
【0017】
次に、図2は、本発明の一実施形態に係わる歪み計測システムの概略構成を示すブロック図である。
【0018】
図2において、歪み計測システムは、建築物の柱、梁、壁、床等のコンクリート部材に埋設される歪みセンサータグ1を内包したセンサーパッケージ100と、センサーパッケージ100とは別体で、歪みセンサータグ1が検出するコンクリート部材の歪みを無線で読み出す、あるいは歪みセンサータグ1に必要な情報を記録するための情報読み出し/記録装置200とから構成されている。
【0019】
歪みセンサータグ1は、歪みを検出するためのひずみゲージ102aを備えるブリッジ回路102と、ブリッジ回路102に電源を供給するためのブリッジ電源回路103と、ブリッジ回路102の出力を検出する平衡回路104と、平衡回路104から出力されるアナログ電気信号をデジタル信号に変換するA/D変換器106と、A/D変換器106から出力された歪みを表わすデジタルデータを処理するICチップ108と、ICチップ108で処理されたデジタルデータを記憶するメモリ110と、歪みを表わすデジタルデータを情報読み出し/記録装置200に送信するための送受信回路112と、送受信回路112と情報読み出し/記録装置200との間の信号のやり取りを行なうと共に、情報読み出し/記録装置200から発信される電磁波等によりICチップ108の電源となる起電力を発生するためのアンテナ114とを備えて構成されている。アンテナ114で発生された電力は、ブリッジ電源回路103、平衡回路104、A/D変換器106、ICチップ108に供給される。なお、本実施形態で言う歪みセンサーとは、ひずみゲージ102aと平衡回路104をあわせたものである。
【0020】
ここで、ひずみゲージ102aは、既によく知られたひずみゲージであり、説明するまでもないが、念のために、ひずみゲージによるひずみを検出する原理について説明しておく。
【0021】
図3は、図2に示したブリッジ回路(ホイットストーンブリッジ回路)102の具体的な構成を示す図である。
【0022】
ブリッジ回路102は、抵抗R1であるひずみゲージ102aと、抵抗R2,R3,R4を備えている。
【0023】
ひずみゲージ102aが貼り付けられた構造物に歪みが生ずると、ひずみゲージ102aが伸縮し、抵抗値が変化する。この抵抗値の変化をブリッジ回路102で検出する。
【0024】
構造物の歪みとひずみゲージ102aの抵抗の関係は、次の式で表わされる。
【0025】
ε=ΔL/L=(ΔR1/R1)/K
ここで、εは歪み、Lは構造物の長さ、ΔLは構造物の伸び量、R1はひずみゲージの抵抗、ΔR1はひずみゲージが歪みを受けたときの抵抗変化量、Kはゲージ率である。
【0026】
そして、上記の抵抗変化量を、微小変化を前提として、ブリッジ回路102を用いて電圧に変換する。
【0027】
図3における入力電圧Eに対するブリッジ回路102の出力電圧eは、R1・R3=R2・R4の関係を用いると、
e={(R1+R2)/(R1+R2)2}×
{(ΔR1/R1)−(ΔR2/R2)+(ΔR3/R3)−(ΔR4/R4)}E
となる。
【0028】
R1がひずみゲージ102aの抵抗であるとし、R2〜R4には抵抗がないものすると、
e=(1/4)K・ε・E
となる。
【0029】
上記の式から、歪みεを求めることができる。
【0030】
以上が、ひずみゲージ102aで歪みを検出する原理である。
【0031】
次に、図2に戻って、情報読み出し/記録装置200は、歪みセンサータグ1に電磁波等を送信するためのアンテナ202と、歪みセンサータグ1から歪みデータを読み出す、あるいは歪みセンサータグ1に必要な情報を送信するためのリーダ/ライタ部204とを備えている。
【0032】
ここで、歪みセンサータグ1は無線ICタグであり、情報読み出し/記録装置200とともに、所謂RFID(Radio Frequency Identification)と呼ばれる無線通信システムを構成している。
【0033】
RFIDには、交流磁界によるコイルの相互誘導を利用して550KHz以下の長波帯での交信を行なう電磁結合方式と、主に135KHz以下、あるいは13.56MHz帯の短波の電磁波を利用する電磁誘導方式と、800/900MHzのUHF帯を利用する電磁波伝播方式と、2.45GHzの準マイクロ波帯により交信を行なうマイクロ波方式とがあるが、いずれの方式も本実施形態に適用可能である。
【0034】
上記のように構成される歪み計測システムにおいては、情報読み出し/記録装置200から誘導磁場によりアンテナ114を介して電力を供給された送受信回路112から、歪みセンサータグ1の内部の機器に電力が供給される。これにより、ブリッジ回路102は、歪みに比例した電圧を出力し、この電圧が平衡回路104で検出され、さらにA/D変換器106でデジタルデータに変換されて、ICチップ108を介してメモリ110に記憶される。そして、情報読み出し/記録装置200は、メモリ110に記憶された歪みデータをアンテナ114,202を介して読み出す。この歪みデータの利用方法については後述する。
【0035】
次に、図4は、本実施形態の歪み計測システムを、より具体的に示した図である。
【0036】
図2における説明と一部重複するが、歪みセンサータグ1は、歪みを検出するためのブリッジ回路102と、ブリッジ回路102から出力される信号を処理する処理回路部120と、処理回路部120と情報読み出し/記録装置200との間の信号のやり取りを行なうと共に、情報読み出し/記録装置200から発信される電磁波等により処理回路部120の電源となる起電力を発生するためのアンテナ114とを備えて構成されている。なお、図2における平衡回路104、A/D変換器106、ICチップ108、メモリ110、送受信回路112が、図4における処理回路部120に相当する。
【0037】
このように構成される歪みセンサータグ1は、例えば、ブリッジ回路102の長さL1=10mm、処理回路部120の幅L2=10mm、歪みセンサータグ1の長さL=60mm、歪みセンサータグ1の幅W=20mm、と言った程度の寸法で実現することが可能である。
【0038】
そして、歪みセンサータグ1から情報読み出し/記録装置200により読み出されたコンクリート或いは鉄筋の歪みを示すデータは、PC(パーソナルコンピュータ)300に入力され保存される。PC300では、入力された歪みデータに基づいて、初期値からのひずみの変化を解析し、表示する。さらに、PC300は、歪みデータを他の場所にあるデータベースに無線で送信する。
【0039】
次に、図5は、センサーパッケージ100をコンクリート部材に埋設した状態を示した図である。
【0040】
図5において、センサーパッケージ100は、施工時のコンクリート打設前に、鉄筋400の適切な場所に貼り付けられる。或いは、既存の構造物で、鉄筋の腐食の進行をモニタリングしたい個所があれば、その部位のコンクリートを取り除いて、センサーパッケージ100を貼り付けることも容易にできる。
【0041】
図6は、センサーパッケージ100内の歪みセンサータグ1から情報読み出し/記録装置200により歪みデータを読み取る様子を示す図である。
【0042】
図6の例では、柱部材を構成するコンクリート部材B内に複数のセンサーパッケージ100が埋設されている。作業者は、情報読み出し/記録装置200を用いて、センサーパッケージ100内の歪みセンサータグ1から情報を読み取ったり、新たな情報を書き込むことができる。センサーパッケージ100が複数埋設されているので、いずれかが動作不良になったとしても、他のセンサーパッケージ100から情報を読み取ったり、或いは、書き込むことができ、信頼性の高い情報管理が可能となる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の歪み計測システムにおいては、コンクリート構造物に傷をつけないばかりか、非接触で測定することで、鉄筋の表面の状況に関わらず、鉄筋の腐食状況を入手することができる。また、計測器も小型で、しかも計測時間は、従来の試験法に比べて格段に速い。例えば、従来では、ドリル穿孔、配線、通電、計測、埋め戻し、を一連の作業とすれば、1箇所の検査に少なくとも1時間以上かかる。一方、本実施形態の方法では、鉄筋の一箇所における歪みを瞬時に(1秒足らずで)、しかも非接触で検出可能で、ひずみの時間変化も瞬時に見ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態に係わる歪み計測システムに用いられる歪みセンサータグのセンサーパッケージを示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係わる歪み計測システムの概略構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示したブリッジ回路(ホイットストーンブリッジ回路)の具体的な構成を示す図である。
【図4】一実施形態の歪み計測システムを、より具体的に示した図である。
【図5】センサーパッケージをコンクリート部材に埋設した状態を示した図である。
【図6】センサーパッケージ内の歪みセンサータグから情報読み出し/記録装置により歪みデータを読み取る様子を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 歪みセンサータグ
2 ビニールシート
100 センサーパッケージ
102 ブリッジ回路
102a ひずみゲージ
103 ブリッジ電源回路
104 平衡回路
106 A/D変換器
108 ICチップ
110 メモリ
112 送受信回路
114 アンテナ
200 情報読み出し/記録装置
202 アンテナ
204 リーダ/ライタ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造部材の内部に埋設されるICタグと、該ICタグから情報を読み出す読み出し装置とを備える歪み計測システムであって、
前記ICタグは、
前記構造部材の前記ICタグが埋設された部分の歪みを検出するためのセンサーと、
前記センサーの出力信号を無線で外部に送信する送信手段とを備え、
前記読み出し装置は、
前記ICタグから送信された信号を受信する受信手段を備えることを特徴とする歪み計測システム。
【請求項2】
前記送信手段及び前記受信手段は、RFIDの原理により無線通信を行なうことを特徴とする請求項1に記載の歪み計測システム。
【請求項3】
前記ICタグは、前記センサーの出力信号を増幅する増幅手段と、該増幅手段で増幅された信号をデジタル信号に変換するA/D変換手段とをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の歪み計測システム。
【請求項4】
建築物の構造部材の内部に埋設されるICタグであって、
前記構造部材の前記ICタグが埋設された部分の歪みを検出するためのセンサーと、
前記センサーの出力信号を無線で外部に送信する送信手段と、
を備えることを特徴とするICタグ。
【請求項5】
前記送信手段は、RFIDの原理により無線通信を行なうことを特徴とする請求項4に記載のICタグ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate