説明

歯のエナメル質の再石灰化のためのチュアブルコンパウンド

本発明は、以下の工程:a例えばカルボン酸およびリン酸の群からの少なくとも1の酸性化剤の水溶液の調製、b反応性カルシウム源の添加、d)矯味剤および補助剤の添加e乾燥または前膨潤させた増粘剤、例えばゼラチンとの混合を有する、歯のエナメル質の再石灰化のためのチュアブルコンパウンドの製造方法に関する。第一の場合、成形する前に増粘剤を膨潤させ、第二の場合、すぐに成形してよい。d.コンパウンドの乾燥。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯のエナメル質の再石灰化のためのチュアブルコンパウンドならびにそのようなチュアブルコンパウンドの製造方法に関する。
【0002】
今日までフッ化物の使用はう食に対する選択の予防方法としてみなされている。というのも、口腔衛生または栄養指導のような他の可能性は少なくとも人間の怠慢ゆえに失敗するからである。それにもかかわらず、フッ化物は歯の健康維持に限ってのみ有効である。というのも該フッ化物の重要な作用機構、歯のエナメル質の再石灰化の促進はカルシウムの自由イオンおよびリン酸塩の自由イオンの存在下でのみ可能だからである。
【0003】
歯のエナメル質が口腔内の微生物から分離した酸により脱石灰する間、小さい細孔がその表面に形成される。これらの細孔から、カルシウム塩はエナメル質の深部から歯石へ、次いで口腔内に移動する。それゆえ、無機質のカルシウムおよびリン酸塩が不足している深部細孔はそのまま残る。この脱石灰が止まらない限り、これらは次いで後で実際のう食形成において侵入する。
【0004】
歯のエナメル質の再石灰化が自然に起こる場合、そのような細孔は唾液中に存在する中性点付近のカルシウムイオンおよびリン酸塩イオンにより極めて迅速にコルクを用いたように閉じられる。その際、それでもより深い位置にあるエナメル層は無機質が乏しくなったまま残る。
【0005】
この段階で、いわゆる「強制動的再石灰化」(forcierte dynamische Remineralisation)が始まる。例えばカルシウムおよびリン酸塩を混合した酸性の再石灰化溶液を用いるか、または相応して調製されたチュアブルコンパウンドまたはトローチコンパウンド(Lutschmasse)を用いてpH値を低下させることにより同時に無機質濃度が増加し、口腔内環境で無機質の濃度が飽和点を実質的に上回ることなく何倍にも増加しうる。このような措置の場合、脱石灰した多孔性の歯のエナメル質は無機質により含浸される。このようにして、溶解した大量の無機質が損傷部の全ての領域に輸送される。
【0006】
適用の後、歯の環境内のpH値は唾液クリアランスにより再び上昇するが、しかし同時にそこでの無機質濃度は極端に下がる。陽子のみならずまた、適用の間に導入された無機質の一部もまた多孔性のエナメル質領域から再び口腔内に拡散し戻る。H−イオンの比較的大きい可動性および拡散時間と拡散範囲との間の非線形相関が原因で、表面付近の領域は、より深い位置にある層より速く無機質が乏しくなる。無機質はヒドロニウムイオンの比較的大きい可動性が原因で該層内へ捕集され、かつヒドロニウムイオンの除去のあと−このことにより生じるpH上昇のために−細孔壁に堆積する。このようにして位置のみならずまた無機質取り込みの量も、適用によりあらかじめ設定される一時的な濃度分布により肯定的な影響を受ける。
【0007】
カルシウムの添加物を3ミリモル/kgの範囲で含有するフルーツグミは実地より公知である。この濃度はう食予防のためには低すぎる。
【0008】
前記の一時的な濃度分布を口腔内で生み出すための可能性を、カルシウムおよびリン酸塩により富化された、とりわけフルーツグミの形のチュアブルコンパウンドが提供する。このようなチュアブルコンパウンドは、カルシウムおよびリン酸塩の濃度に関してヨーロッパ特許EP0648108B1号明細書で一般的な形において他の実施例と並んで記載される。そこでチュアブルコンパウンド中のカルシウムの濃度を200ミリモル/kg〜800ミリモル/kgに、かつリン酸塩の濃度を50ミリモル/kg〜400ミリモル/kgの範囲に調整することが提案されている。このようなチュアブルコンパウンドの製造方法は明らかにされていない。
【0009】
米国特許US2001/0033831A1では、再石灰化チューイングガムへのα−リン酸三カルシウムの添加が提案されている。α−リン酸三カルシウムは、他の中性および塩基性のリン酸塩カルシウムより良好に溶解するが、唾液の再石灰化効果を上回る有効な再石灰化効果を期待することができない。
【0010】
フルーツ酸もしくはカルボン酸のカルシウム塩およびリン酸塩からのカルシウムおよびリン酸塩の使用は所望された結果をもたらさない。たしかに、リン酸カルシウムが添加されている製品はアメリカ合衆国特許US5,015,628から公知である。しかし、再石灰化処理に利用できるカルシウムの必要な濃度があまりに低すぎる。
【0011】
相応する製品は市場にもない。製造における問題点は公知技術により、とりわけゼラチンベースのチュアブルコンパウンドに関しては解決されていない。
【0012】
公知のように、Ca−イオンはゼラチンの膨潤挙動に否定的な影響を及ぼす。カルシウムにより、フルーツグミに使用されるゼラチンはそれが凝固するまで混濁することになりうる。通常、カルシウムが砂糖、着色剤、香料等と一緒に塩の形で添加される場合、ゼラチンの混濁の限界値は約5ミリモル/kgである。しかしながら、市販可能な製品のために常に高透明で均質なゼラチンのコンシステンシーが有利である。
【0013】
ところで解決すべき課題は、カルシウムおよびリン酸塩を適切な変性で並びに十分な量でチュアブルコンパウンド(とりわけフルーツグミ)の製造方法に導入して、最終生成物が、グミコンパウンドの味覚および透明性並びに「歯の間で触る感触「taktile Gefuehl」」、つまり最終生成物を噛むか、または咀嚼する感覚を損なうことなく効果の点で要求に対応することである。本発明の他の課題は、低濃度のカルシウムおよびリン酸塩においても良好な効果を有するチュアブルコンパウンドを作ることである。
【0014】
これらの課題は、請求項1記載の特徴を有する方法により、かつ請求項6記載の特徴を有するチュアブルコンパウンドにより解決される。
【0015】
歯のエナメル質の再石灰化のためのチュアブルコンパウンドを製造するための本発明による方法において以下の工程:
a.例えばカルボン酸、とりわけフルーツ酸およびリン酸の群からの食品法に基づいて認可された少なくとも1の酸性化剤の水溶液の調製;
b.反応性カルシウム源、例えば水酸化カルシウムの添加;
c.増粘剤、例えば粉砕または膨潤した形で存在するゼラチンの溶液への添加;
d.成分の完全な混和;
e.コンパウンドの成形および、例えばコーンスターチ中での乾燥
が予定されているので、う食予防において所望される特性を有し、かつ初期う食に影響を及ぼすための透明で均質なチュアブルコンパウンドが得られる。この方法により製造される生成物は、とりわけ良好な透明性および均質性により優れている。
【0016】
ゲル化剤は、矯味剤および補助剤の一部を含有してよい。しかしながら、これらは別々に溶液に添加してもよい。
【0017】
リン酸の添加は工程(b)と(c)との間で行ってもよい。同様に、ゲル化剤を粗く粉砕して溶液へ添加し、かつそこで膨潤させることも可能である。
【0018】
請求項7に記載のチュアブルコンパウンドにおいて、カルシウム含有率が最終生成物に対して30ミリモル/kg〜190ミリモル/kg(1.4g/kg〜9.0g/kg)であることが予定されているので、容易に製造することができ、長期安定性であるがインビボで良好な効果を有する生成物が得られる。この効果は、歯面の局所濃度が付着するチュアブルコンパウンドによりとりわけ大きく、かつ唾液によって引き起こされるカルシウムイオンおよびリン酸塩イオンの除去がチュアブルコンパウンドと歯の接触面においてそれほど起こらないことにより達成される。とりわけリン含有率は、このカルシウム濃度の場合、15ミリモル/kg〜500ミリモル/kgでよい。
【0019】
最終生成物に対して、カルシウム含有率が50ミリモル/kg〜150ミリモル/kg(2.3g/kg〜7.0g/kg)である場合、とりわけ、良好な特性は歯表面に付着するチュアブルコンパウンドにおいて生じる。
【0020】
強制再石灰化の良好な機能のために、カルシウムおよびリン酸塩はフルーツグミ中で出来る限り完全に溶解して存在すべきである。つまり、それは出来る限りイオン形および/またはコロイド状で存在すべきであるが、しかし塩として結晶質で存在すべきではない。
【0021】
本方法は、それがフルーツグミの製造において従来の作業過程に出来る限り良好に導入されるように設計する。その際、そのつどの増粘剤、例えばゼラチンを補助剤および添加剤の一部も含有してよい液体の一部分で膨潤させる。次いで、以下で「部1」と示される膨潤したゲル化剤を、以下で「部2」と示される残りの添加物(残りの水、砂糖、酸、香料および着色剤並びにカルシウムおよびリン酸塩)と気泡を避けながら慎重に混合しフルーツグミコンパウンドにし、成形し、コーンスターチ型で乾燥させ、次いでさらに例えばワックス処理等の処理を行う。
【0022】
例えば、カルシウムおよびリン酸塩を、通常の方法で塩から溶液の部2に使用する場合、ゼラチンは常に塊となり、とりわけカルシウム−乳酸塩−乳酸−リン酸塩緩衝剤においてそれが強い。
【0023】
さらに、生成物の透明性および均質性並びにその再石灰化力は、部2の成分としての種々の酸性化剤の適切な混合により調整することができる。とりわけ、チュアブルコンパウンドの関連する特性は、カルシウムの様々の錯化力により酸の割合を変化させることで調整される。
【0024】
例えばピルビン酸に基づいて考えられているフルーツグミへのリンゴ酸またはクエン酸の混合により、良好な効果を有する、とりわけ清澄で、かつ心地よい酸味のフルーツグミ混合物が得られる。
【0025】
調製と実施例
以下の実施例において、膨潤させるために純水を使用する。板ゼラチンの膨潤時間は37℃〜60℃の温度で1時間〜24時間の間で変化する(部1)。
【0026】
ゼラチンの膨潤挙動を妨害しない部2の成分は、部1に添加してもよい。
【0027】
出発物質は、強制再石灰化のために適した濃度の、かつ反応性カルシウム源である酸化カルシウム、水酸化カルシウムもしくは炭酸カルシウムまたはこれらの混合物としての部2の液体量中で溶解したカルボン酸およびリン酸である。リン酸の量は、最終生成物の所望されるリン酸塩濃度に向けられ、かつ最終生成物に対して15ミリモル/kg〜500ミリモル/kg(1.4g/kg〜48g/kg)の範囲にある。比較的高いリン酸塩含有率が付加的に効果に有益であるとしても、記載された実施例においてリン酸塩70ミリモル/kgの含有率は超過しない。この制限は出願時に有効なドイツ食品法を考慮に入れている。フルーツ酸またはカルボン酸濃度は、チュアブルコンパウンドの所望されるカルシウム含有率、pH値および味に向けられる。
【0028】
最終生成物に対して、カルシウム含有率は30ミリモル/kg〜600ミリモル/kg(1.2g/kg〜24g/kg)である。中和反応は強い正の実熱量を示すので、そのため通常、反応過程を促進するための付加的な加熱を省いてよい。実施例に記載される酸性化剤、リン酸塩およびカルシウムの濃度の場合、これらの溶液は長期にわたって安定である。
【0029】
以下で詳細に説明される実施例は、本発明の可能な実現化である。
【0030】
以下の材料を添加物として使用した:
ゼラチン: Dr.Oetkerの板ゼラチン;
Ca(OH): Merck2047;
オルトリン酸85%: Merk1.00563;
クエン酸: Merck8.18707;
リンゴ酸: Merck1.00382;
ピルビン酸: Merck8.20170
以下の配合物の収率は約65gである。
【0031】
全てのゼラチンは常にまず蒸留水15ml中で約50℃で12時間、膨潤させる。
【0032】
生成物中のCaの濃度は200ミリモル/kg、リン酸塩濃度は70ミリモル/kgである。
【0033】
実施例1:
部1:蒸留水15ml中のゼラチン6.7g
部2:リンゴ酸10ml(1.5モル/l)+クエン酸10ml(1.0モル/l)+リン酸0.3ml+水酸化カルシウム0.9g+家庭用砂糖20g
3つの酸を混合し、かつ水酸化カルシウムを攪拌しながら添加する。完全に溶解した後、弱く加熱しながら砂糖を溶液中で溶解し、かつ暖かいゼラチン溶液を部2の溶液の中へ入れて攪拌する。次いでコーンスターチ型の中へ導入し、かつ約20〜48時間、乾燥を行う。
【0034】
実施例2:
部1:蒸留水15ml中のゼラチン6.7g
部2:クエン酸20ml(1.5モル/l)+リン酸0.3ml+水酸化カルシウム0.7g+家庭用砂糖20g
実施例1と同様の処理
【0035】
実施例3:
部1:蒸留水15ml中のゼラチン10g
部2:ピルビン酸20ml(1モル/l)+リン酸0.3ml+水酸化カルシウム0.7g+家庭用砂糖20g
実施例1と同様の処理
【0036】
実施例4:
部1:蒸留水15ml中のゼラチン8g
部2:リンゴ酸10ml(1.5モル/l)+ピルビン酸10ml(1.5モル/l)+リン酸0.3ml+水酸化カルシウム0.7g+家庭用砂糖20g
実施例1と同様の処理
【0037】
実施例5:
部1:蒸留水15ml中のゼラチン8g
部2:ピルビン酸10ml(1.5モル/l)+クエン酸10ml(1.5モル/l)+リン酸0.3ml+水酸化カルシウム0.8g+家庭用砂糖20g
実施例1と同様の処理
【0038】
効果の検証
記載されるフルーツグミの再石灰化効果をインビトロ実験で検証した。計測される数値の意味を把握するために、かつインビボとインビトロ実験との関係を識別するために、インサイチューで、かつそれと平行してインビトロで実施されるフッ化物練り歯磨きの再石灰化効果に関する実験からの無機質沈積の数値が表の最後の6行に記録されている。
【0039】
インビトロおよびインサイチューで計測される数値は相互に正しいことが確認され、このことにより実験計画法の転用性が与えられる。
【0040】
この結果は、再石灰化フルーツグミにより処理される試料において明らかな無機質取り込みを示す。取り込まれた無機質の量は個々のフルーツ酸のカルシウムの錯化により変化する。
【0041】
当該実験において判明した取り込み割合は、そのつど処理に対して、再石灰化フルーツグミの場合、フッ化物の練り歯磨きによる歯の手入れの場合の4倍である。
【0042】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
a.食料品に適した少なくとも1の酸性化剤の水溶液の調製;
b.反応性カルシウム源の添加;
c.例えば粉砕または膨潤した形で存在するゼラチンの増粘剤への溶液の添加;
d 成分のコンパウンドへの完全な混和;
e.コンパウンドの成形および乾燥;
を有する、歯のエナメル質の再石灰化のためのチュアブルコンパウンドの製造方法であって、この際、a、bまたはcの少なくとも1の工程でリン酸を添加する、歯のエナメル質の再石灰化のためのチュアブルコンパウンドの製造方法。
【請求項2】
さらに以下の工程:
方法工程a)のための原料としての種々の酸性化剤の混合
が予定されていることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程a)における酸性化剤が純粋にまたは混合物として以下のもの:
−カルボン酸、なかでもとりわけ
−乳酸
−フルーツ酸、とりわけ
−ピルビン酸
−クエン酸
−リンゴ酸
を包含する群から選択されていることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
さらに以下の工程:
方法工程a)においてそれほど強くカルシウムを錯化しない酸により製造されている溶液への、強くカルシウムを錯化する酸の混合
が予定されていることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
強くカルシウムを錯化する酸がリンゴ酸またはクエン酸であり、かつそれほど強くカルシウムを錯化しない酸がピルビン酸であることを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
カルシウム源が純粋な化合物または混合物として以下のもの:
−酸化カルシウム
−水酸化カルシウム
−炭酸カルシウム
を包含する群から選択されていることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法により製造されるチュアブルコンパウンド。
【請求項8】
カルシウム含有率が最終生成物に対して30ミリモル/kg〜190ミリモル/kg(1.4g/kg〜9.0g/kg)であることを特徴とする、歯のエナメル質の再石灰化のためのチュアブルコンパウンド。
【請求項9】
リン含有率が15ミリモル/kg〜500ミリモル/kgであることを特徴とする、請求項8記載のチュアブルコンパウンド。
【請求項10】
カルシウム含有率が最終生成物に対して50ミリモル/kg〜150ミリモル/kg(2.3g/kg〜7.0g/kg)であることを特徴とする、請求項8または9記載のチュアブルコンパウンド。

【公表番号】特表2007−508334(P2007−508334A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534629(P2006−534629)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【国際出願番号】PCT/EP2004/010860
【国際公開番号】WO2005/037238
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(506130849)ノヴァ デンタリア ツァーンプフレーゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【氏名又は名称原語表記】Nova Dentalia Zahnpflege GmbH
【住所又は居所原語表記】Laubenstrasse 7, D−60594 Frankfurt a. M., Germany
【Fターム(参考)】