説明

歯周疾患診断用具および歯周疾患原因細菌の検出方法

【課題】
本発明は、歯周疾患の原因細菌の種類まで特定でき且つ非常に簡便に実施できる歯周疾患原因細菌の検出方法と、その様な歯周疾患の診断に用いることができる歯周疾患診断用具を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明の歯周疾患診断用具は、吸水性基材上に、(1)被検試料受領部、(2)歯周疾患原因細菌に対するものであり且つ標識を有する抗体Aが、被検試料中の水分の移動に伴って移動できるように保持されている歯周疾患原因細菌標識部、および(3)歯周疾患原因細菌に対する抗体Bが固定されている歯周疾患原因細菌検出部を(1)〜(3)の順番で有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周疾患を診断するための用具と、イムノクロマト法により歯周疾患原因細菌を検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯周疾患は、歯を支持するための組織である歯周組織における疾患の総称であり、主として特定細菌の感染を原因とする。この歯周疾患は、はじめ歯肉の炎症から始まって歯周組織が崩壊し、ついには歯の脱落に至る。この様に歯周疾患は歯に重大な影響を及ぼす一方で、進行が緩慢であり痛み等がほとんどないために自覚症状がないまま悪化してしまう。そこで従来、歯周疾患を診断するための技術が種々開発されている。
【0003】
例えば特許文献1には、歯周疾患の原因となるバクテロイデス ジンジバリス(ポルフィロモナス ジンジバリス、以下、「P.ジンジバリス」という場合がある)に対するモノクローナル抗体と被検試料とを反応させる歯周病(歯周疾患)の診断方法が記載されている。また、特許文献2には、歯周疾患原因細菌の菌体表層由来多糖と特異的に反応する抗体と、これを用いた歯周疾患の診断方法が開示されている。これら特許文献には、各診断方法で用いられる測定方法として数種の方法が例示されているが、実施例で具体的に用いられているのは酵素免疫測定法(ELISA)のみである。ところがこの酵素免疫測定法は、例示されている他の方法と同様に操作が非常に煩雑であり、測定には専門性が必要とされるために手軽に行えるものではない。
【0004】
一方、特許文献3には、イムノクロマトエラスターゼ試薬としての顆粒球エラスターゼ測定試薬であって、歯周病の早期診断に有用なものが記載されている。この測定試薬が用いられるイムノクロマト法は酵素免疫測定法と異なって簡便であり、特に専門知識を要せず実施することができる。しかし、当該技術では顆粒球エラスターゼを測定対象としていることから、歯周疾患の原因とはならない細菌の感染により誘導されたエラスターゼを検出し、歯周疾患に罹患していない場合であっても陽性と判定してしまうおそれがある。そして何よりも、当該技術では歯周疾患原因細菌の種類までは特定することができないという問題がある。
【0005】
即ち、非特許文献1の通り歯周疾患原因細菌としては様々なものが知られているが、これら細菌と歯周疾患との関連度合いも多様である。従って、プラーク(歯垢)中に含まれる細菌の種類を特定できれば歯周疾患の治療に関する重要な情報となり得るが、特許文献3の技術では斯かる情報を得ることができない。
【特許文献1】特開昭60−73463号公報(請求項1、第3頁左下欄)
【特許文献2】特開平6−43166号公報(特許請求の範囲、段落[0019])
【特許文献3】特開2000−39435号公報(請求項1と11)
【非特許文献1】Socransky SSら,「歯肉縁下プラークにおける細菌複合体(Microbial complexes in subgingival plaque)」,ジャーナル・オブ・クリニカル・ペリオドントロジー(J.Clin.Periodontol.),第25巻,第134〜144頁(1998年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した様に、特定の歯周疾患原因細菌に対するモノクローナル抗体を用いた歯周疾患診断方法は知られていたが、専門的知識を有するなど簡便なものではなかった。その一方でイムノクロマト法という非常に簡便な技術を用いる歯周疾患診断方法はあったが、その原因細菌の種類まで特定できるものではなかった。
【0007】
そこで本発明が解決すべき課題は、歯周疾患の原因細菌の種類まで特定でき且つ非常に簡便に実施できる歯周疾患原因細菌の検出方法と、当該方法に用いることができるものであって、歯周疾患の疾患活動性、疾患の重篤度、疾患リスク等の診断に用いることができる歯周疾患診断用具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、歯周疾患を診断するための用具の構成につき鋭意研究を重ねた。その結果、目的とする歯周疾患原因細菌へ特異的に反応する抗体を2種用いてイムノクロマト法を行なうことにより上記課題を解決できることを見出して本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明の歯周疾患診断用具は、
吸水性基材上に、
(1) 被検試料受領部、
(2) 歯周疾患原因細菌に対するものであり且つ標識を有する抗体Aが、被検試料中の水分の移動に伴って移動できるように保持されている歯周疾患原因細菌標識部、および
(3) 歯周疾患原因細菌に対する抗体Bが固定されている歯周疾患原因細菌検出部、
を(1)〜(3)の順番で有することを特徴とする。
【0010】
上記歯周疾患診断用具には、さらに、(4) 被検試料中の水分が上記歯周疾患原因細菌検出部を通過したことを確認するための確認部を(3)に続く位置に設けることが好ましい。目的とする歯周疾患原因細菌が被検試料中に存在しない場合であっても、検査が終了したことを容易に確認できるからである。
【0011】
また、吸水性基材としては非イオン界面活性剤を含むものが好適である。被検試料の展開が速やかであり、診断時間を短縮できるからである。
【0012】
上記歯周疾患診断用具においては、その抗体Aと抗体Bが、歯周疾患原因細菌の膜タンパク質、表層多糖類、表層脂質類、表層リポ多糖類、分泌物質およびこれらの複合体と特異的に反応するものであることが好ましい。被検試料を超音波処理等することなく、そのまま検査に付しても目的とする歯周疾患原因細菌を検出できるからである。
【0013】
抗体Aと抗体Bとしては、ポルフィロモナス ジンジバリス、バクテロイデス フォーサイサス、トレポネーマ デンティコラ、フゾバクテリウム ヌクレアタム、プレボテラ インターメディア、ストレプトコッカス サンギス、ストレプトコッカス オラーリス、エイケネラ コローデンス、アクチノバチラス アクチノミセテムコミタンスおよびアクチノマイセス ネスランディよりなる群から選択される1または2以上の歯周疾患原因細菌と特異的に反応するものが好適である。これら細菌は、その存在量、菌種の組合わせ、同一菌種における免疫型、抗原の種類等により、歯周疾患の疾患活動性、疾患の重篤度、疾患リスク等との相関性が高く、口腔内におけるこれら細菌の有無を確認することは、歯周疾患の診断において極めて重要だからである。
【0014】
上記抗体Aと抗体Bとしては、1種または2種以上のモノクローナル抗体が好適である。歯周疾患の原因となっている細菌を、より正確に特定できるからである。
【0015】
本発明に係る歯周疾患原因細菌の検出方法は、イムノクロマト法により歯周疾患原因細菌を検出する方法であって、歯周疾患原因細菌に対するものであり且つ標識を有する抗体Aと、歯周疾患原因細菌に対する抗体Bを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、歯周疾患の原因となる細菌のうち特定の種類のものを被検試料から検出することができる。しかもその操作は極めて簡便であり、例えば歯科医師が専門的な生化学等の知識を有しない場合であっても容易に特定細菌の有無を判断することができる。よって、本発明は、多くの人が自覚のないまま罹患し且つ病状が進行し得る歯周疾患の診断を容易にするものとして非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の歯周疾患診断用具は、
吸水性基材上に、
(1) 被検試料受領部、
(2) 歯周疾患原因細菌に対するものであり且つ標識を有する抗体Aが、被検試料中の水分の移動に伴って移動できるように保持されている歯周疾患原因細菌標識部、および
(3) 歯周疾患原因細菌に対する抗体Bが固定されている歯周疾患原因細菌検出部、
を(1)〜(3)の順番で有することを特徴とする。
【0018】
本発明で用いる吸水性基材は、毛細管現象により被検試料に含まれる水分を吸収し展開できるものであればよい。その材質は特に問わないが、例えばナイロン多孔質シート、ガラス繊維濾紙、織布、不織布、濾紙等を用いることができる。また、歯周疾患原因細菌標識部と歯周疾患原因細菌検出部等とで別の基材を用い、両者を結合させてもよい。例えば、ニトロセルロース多孔質シートへは、抗体の水溶液または分散液を塗布して乾燥させることによって、抗体をシート状へ容易に固定できることから、歯周疾患原因細菌検出部として有用である。一方、歯周疾患原因細菌標識部には抗体を固定化せず単に保持する必要があるため、ニトロセルロース多孔質シートは不向きである。
【0019】
吸水性基材の形状も特に問わないが、被検試料に対して吸水性基材が大き過ぎると水分が十分に展開できない場合があり、一方、小さ過ぎると判定が難しくなるおそれがある。そこで一般的には、用具全体の長軸方向長さを40〜70mm、歯周疾患原因細菌標識部の用具長軸方向長さを5〜12mm、歯周疾患原因細菌検出部は後述する確認部と合わせて同長さを17〜30mmとし、それぞれの幅を3〜12mm、厚さを0.1〜3mmとすることができる。但し、これら長さ等は目的や用途に応じて適宜調整することができ、例示した大きさに限られるものではない。
【0020】
吸水性基材には、非イオン界面活性剤を含ませることが好ましい。被検試料の展開が速やかになり、診断をより迅速に行なえるからである。ここで用いることができる非イオン界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートに代表されるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ラウリン酸モノエタノールアミド、ミリスチン酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン脂肪酸エステルアルキルグリコシド(例えばアルキル鎖:C8-16程度)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(例えば脂肪酸部分のアルキル鎖:C8-16程度)、ショ糖脂肪酸エステル(例えば脂肪酸部分のアルキル鎖:C8-16程度)等を例示することができ、この中でもポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートに代表されるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシエチレン脂肪酸エステルが好適である。
【0021】
吸水性基材に非イオン界面活性剤を含ませるには、非イオン界面活性剤の水溶液に吸水性基材を浸漬し、乾燥すればよい。その際における非イオン界面活性剤水溶液の濃度としては、1質量%以上とすることが好ましい。1質量%未満であると非イオン界面活性剤の効果が十分に発揮されない場合がある。
【0022】
吸水性基材は、操作性を向上させるために、被検試料受領部を外部に露出させ歯周疾患原因細菌検出部等を外部に露出させるか或いは外部から確認できる範囲で、プラスチックケースなどにより被覆してもよい。
【0023】
本発明の歯周疾患診断用具は、吸水性基材上に被検試料受領部を有するが、この被検試料受領部は特別な処理をする必要はなく、吸水性基材の一端であればよい。但し、被検試料を滴下したり或いは被検試料に浸漬する部位として、目印を設けておいてもよい。
【0024】
本発明の歯周疾患診断用具は、図1に示す様に、上記被検試料受領部2(吸水性基材1の一端)よりも内側(被検試料受領部とは逆側)に歯周疾患原因細菌標識部3を有する。この歯周疾患原因細菌標識部3には、歯周疾患原因細菌に対するものであり且つ標識を有する抗体A31が、被検試料中の水分の移動に伴って移動できるように保持されている。
【0025】
検出対象となる歯周疾患原因細菌に対する抗体は、溶血プラーク法などの常法により調製することができる。
【0026】
抗体としてはモノクローナル抗体が好適である。歯周疾患の原因となっている細菌を、より正確に特定できるからである。モノクローナル抗体の調製は、常法に従えばよい。例えば、歯周疾患原因細菌のうち検出を目的とする細菌または細菌群に特有のタンパク質等を単離精製し、これを用いてマウスを免疫してその脾細胞や抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを得る。このハイブリドーマをクローニングし、上記タンパク質等へ特異的に反応する抗体を産生しているクローンをスクリーニングする。このクローンを培養し、分泌されるモノクローナル抗体を精製すればよい。
【0027】
本発明の抗体は、歯周疾患原因細菌の膜タンパク質、表層多糖類、表層脂質類、表層リポ多糖類、分泌物質およびこれらの複合体のうち1または2以上と特異的に反応するものであることが好ましく、膜タンパク質、表層リポ多糖類およびこれらの複合体のうち1または2以上と特異的に反応するものがより好ましく、膜タンパク質の1または2以上と特異的に反応するものがさらに好ましい。歯周疾患原因細菌の細胞質等に存在するタンパク質等と特異的に反応する抗体の場合には、被検試料を超音波処理するなどによって細菌を破壊しなければならないが、膜タンパク質等に対する抗体を用いれば、被検試料をそのまま検査に付すことができるからである。
【0028】
また、本発明の抗体が特異的に結合する歯周疾患原因細菌は、歯周疾患との関係がより深いものであることが好ましい。歯周疾患の診断をより正確にするためである。斯かる歯周疾患原因細菌としては、P.ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、バクテロイデス フォーサイサス(Bacteroides forsythus)、トレポネーマ デンティコラ(Treponema denticola)、フゾバクテリウム ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、プレボテラ インターメディア(Prevotella intermedia)、ストレプトコッカス サンギス(Streptococcus sanguis)、ストレプトコッカス オラーリス(Streptococcus oralis)、エイケネラ コローデンス(Eikenella corrodens)、アクチノバチラス アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、アクチノマイセス ネスランディ(Actinomyces naeslundii)を例示することができる。
【0029】
検出対象となる上記歯周疾患原因細菌としては、P.ジンジバリス、バクテロイデス フォーサイサス、トレポネーマ デンティコラ、フゾバクテリウム ヌクレアタム、プレボテラ インターメディア、エイケネラ コローデンス、アクチノバチラス アクチノミセテムコミタンスおよびアクチノマイセス ネスランディよりなる群から選択される1または2以上がより好ましく、P.ジンジバリス、バクテロイデス フォーサイサス、アクチノバチラス アクチノミセテムコミタンスおよびトレポネーマ デンティコラよりなる群から選択される1または2以上がさらに好ましく、P.ジンジバリスが特に好ましい。
【0030】
得られた抗体は、歯周疾患原因細菌の検出のために標識する必要がある。抗体の標識方法は公知のものを用いればよく、例えば、金コロイド粒子等の金属コロイド粒子やラテックス粒子等の合成ゴム樹脂粒子の溶液に抗体を添加し、この抗体を吸水性基材に塗布または浸漬し、自然乾燥または凍結乾燥することにより標識できる。
【0031】
歯周疾患原因細菌に対するものであり且つ標識を有する抗体Aを、吸湿性基材上へ被検試料中の水分の移動に伴って移動できるように保持する方法は、常法を用いることができる。例えば、水溶性ポリマーや糖類の水溶液に抗体Aを分散させ、所定位置へ吸収させた後に乾燥すればよい。ここで用いる水溶性ポリマーとしてはポリビニルアルコール等が挙げられ、糖類としてはサッカロース等を挙げることができる。さらに抗体Aの移動を容易にするために、歯周疾患原因細菌標識部の予定部位へ事前に界面活性剤溶液を塗布しておいた上で抗体Aの分散液を塗布し、乾燥させてもよい。
【0032】
本発明の歯周疾患診断用具には、歯周疾患原因細菌標識部3に続く位置、即ち歯周疾患原因細菌標識部3の被検試料受領部2とは反対側に歯周疾患原因細菌検出部4を設ける。この歯周疾患原因細菌検出部4には歯周疾患原因細菌に対する抗体B41が固定されている。
【0033】
抗体Bは、抗体Aと同様の方法により調製することができ、抗体Aと同一の歯周疾患原因細菌に結合するものである必要がある。抗体Aと結合した歯周疾患原因細菌或いはその破砕物へ結合する必要があるからである。抗体Bの結合対象は抗体Aと同一であってもよいが、抗体Aとは別の結合対象へ結合することが好ましい。歯周疾患原因細菌の検出感度をより一層向上させることができるからである。
【0034】
抗体Bの固定化方法は特に問わないが、用いる吸水性基材の種類に応じた方法を採用することができる。例えば、吸水性基材としてニトロセルロースからなるものを用いる場合には、抗体Bの水溶液または分散液を塗布した上で乾燥するのみで固定することができる。なお、ここでいう「固定」は、被検試料に含まれる水分の移動に伴って抗体Bが移動しない程度をいう。
【0035】
本発明の歯周疾患診断用具には、歯周疾患原因細菌検出部4に続く位置、即ち歯周疾患原因細菌検出部4の被検試料受領部2とは反対側に、被検試料中の水分が上記歯周疾患原因細菌検出部を通過したことを確認するための確認部5を設けることが好ましい。被検試料中に歯周疾患原因細菌が含まれておらず歯周疾患原因細菌検出部に変化が表れない場合であっても、検査の終了を知ることができるからである。
【0036】
本発明の確認部の態様としては、所定の位置に水溶性色素の線を設けておくことがある。その結果、被検試料中の水分が確認部を通過した場合、水溶性色素が溶解して水分の展開と共に移動するので、歯周疾患原因細菌検出部に変化が生じない場合であっても、被検試料が歯周疾患原因細菌標識部と歯周疾患原因細菌検出部を通過したことを確認できるからである。
【0037】
確認部を設ける方法としては、水溶性色素の水溶液を所定位置に塗布し、乾燥すればよい。また、水溶性色素としては、ブロムフェノールブルーなどを使用することができる。
【0038】
本発明に係る歯周疾患原因細菌の検出方法は、イムノクロマト法により歯周疾患原因細菌を検出する方法であって、歯周疾患原因細菌に対するものであり且つ標識を有する抗体Aと、歯周疾患原因細菌に対する抗体Bを用いることを特徴とする。当該方法は、上記で説明した本発明の歯周疾患診断用具を使用して実施できることから、以下では本発明の歯周疾患診断用具を模式的に表した図1を参照して説明する。
【0039】
被検試料としては、被験者が歯周疾患に罹患している場合に歯周疾患原因細菌が存在すると考えられる唾液、洗口吐出液、歯肉縁上および歯肉縁下プラークの懸濁液、歯肉溝滲出液を挙げることができる。被検試料に含まれる水分が少ない場合は、精製水や蒸留水等を加えてもよい。
【0040】
本発明の歯周疾患診断用具を使用する場合には、図1中2の被検試料受領部へ被検試料を適量滴下するか、或いは被検試料受領部を被検試料に浸漬する。被検試料中に含まれる水分は毛細管現象により他端側へ向かって展開し、それに伴って被検試料に含まれる細菌等も移動する。
【0041】
被検試料中に抗体と特異的に反応する歯周疾患原因細菌が存在する場合には、当該歯周疾患原因細菌は歯周疾患原因細菌標識部3で抗体A31と結合する。この歯周疾患原因細菌標識部3と抗体A31との結合体は、水分の展開に伴いさらに移動する。そして、歯周疾患原因細菌検出部4において、抗体A31と結合している歯周疾患原因細菌は、さらに抗体B41と結合する。この抗体B41は基材1に固定されているため、歯周疾患原因細菌はそれ以上移動することができない。その結果、歯周疾患原因細菌と結合している抗体A上の標識がこの部位で濃縮されるため、歯周疾患原因細菌検出部4が発色等することになる。
【0042】
その後、さらに被検試料中の水分が展開して確認部5へ達すると、確認部5に変化が表れる。例えば水溶性マーカーを用いた場合には、水溶性マーカーは水分に溶解して水分の移動につれ移動することから、水分が確認部5に達したことを確認できる。よって、被検試料中に所定の歯周疾患原因細菌が存在せず歯周疾患原因細菌検出部4に何ら変化が生じない場合であっても、確認部5に変化が生じれば検査が終了したことを知ることができる。
【0043】
以上の通り、本発明によれば特定の歯周疾患原因細菌を非常に簡便に検出することができることから、本発明に係る歯周疾患診断用具および歯周疾患原因細菌の検出方法は非常に有用である。
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0045】
製造例1−1 モノクローナル抗体の調製
歯周疾患と非常に強い関係を有する細菌の1つであるポルフィロモナス ジンジバリスが産生するトリプシン様酵素の一つであるPase−Cに対するモノクローナル抗体を調製した。具体的には、先ずPase−Cを精製し、これによりマウスを免疫した。当該マウスから脾細胞を得、常法に従ってこの脾細胞とミエローマを融合させてハイブリドーマを得た。このハイブリドーマを96穴のマルチプレートに1ウェル当たりの細胞数が1個となる様に播き、コロニーの形成が観察されたウェルの培養上清を採取し、Pase−Cの粗抽出液との反応性を調べてスクリーニングを行なった。再クローニングの後、抗原との反応性が強い抗体産生株であるハイブリドーマを得た。より強く安定した反応性を有するクローンを選ぶため、ハイブリドーマの再クローニングを行なった。Pase−Cの粗抽出液を抗原とし、同時にP.ジンジバリス381株の精製酵素Pase−Sを抗原のネガティブコントロールとして酵素免疫測定法を行ない、特に反応性が強いサブクローンであるハイブリドーマをモノクローナル抗体の作製のためのハイブリドーマとして選択し、このハイブリドーマが産生する抗Pase−Cモノクローナル抗体が含まれるマウス腹水を得た。このマウス腹水を濾過した上で56℃、30分の条件で非働化し、この非働化したものを抗Pase−Cモノクローナル抗体とした。当該抗体を、金コロイド粒子の溶液に浸漬することにより標識した。また、別途P.ジンジバリスに対するモノクローナル抗体を調製し、こちらは標識しなかった。
【0046】
製造例1−2 本発明に係る歯周疾患診断用具の作成
ガラス繊維濾紙からなるシートを長さ10mmに裁断して、上記製造例1−1で得た金コロイド粒子標識抗体の水溶液を塗布し、50℃で一昼夜乾燥した。これを、歯周疾患原因細菌標識部とした。
【0047】
また、ニトロセルロースからなるシートを長さ25mmに裁断し、所定位置に製造例1−1で得たモノクローナル抗体(標識無し)の水溶液を塗布し、自然乾燥させた。乾燥後、牛乳由来タンパク質製剤10%を含む水溶液に浸漬し、自然乾燥させたものを歯周疾患原因細菌検出部とした。さらに同じシート上の所定位置にブロムフェノールブルー水溶性色素を塗布した上で自然乾燥し、これを確認部とした。
【0048】
別途、ポリエステルからなるシートを長さ15mmに裁断し、1%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート含有20mMトリス緩衝液を塗布し、25℃で一昼夜乾燥したものを被検試料受領部(被検試料吸収パッド)とした。また、セルロースからなるシートを長さ20mmに裁断したものを、検査完了後における被検試料吸収パッドとした。
【0049】
表面に粘着剤が塗布されたプラスチックシートを長さ60mmに裁断し、これを土台用シートとした。この土台用シートの中央部へ、歯周疾患原因細菌検出部と確認部を有するニトロセルロースシートを貼付けした。このニトロセルロースシートと端部が重なる様に、歯周疾患原因細菌検出部側の端へ歯周疾患原因細菌標識部を有するガラス繊維濾紙シートを貼付けし、確認部側の端へ検査完了後における被検試料吸収パッドを貼付けした。さらに、歯周疾患原因細菌標識部を有するガラス繊維濾紙シートと端部が重なる様に、被検試料受領部を有するポリエステルシートを土台用シート上に貼付けした。最後に、ポリエチレンテレフタレートよりなる粘着ラミネーションフィルムを長さ30mmに裁断し、乾燥を防止するために、当該フィルムを歯周疾患原因細菌検出部と検査完了後における被検試料吸収パッドの一部が覆われる様に貼付けした。得られたシートを幅8mmに整え、本発明に係る歯周疾患診断用具とした。
【0050】
試験例1
上記製造例1−2で得られた歯周疾患診断用具について、細菌種に対する特異性を試験した。即ち、表1に示す各細菌株を細菌数濃度が107cell/mLとなる様に細菌浮遊液を調製し、当該細菌浮遊液を上記製造例1〜3の歯周疾患診断用具の被検試料受領部へ適量滴下し、滴下後15分後、30分後および60分後に判定を行なった。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
当該結果の通り、P.ジンジバリスに対するモノクローナル抗体を有する本発明の歯周疾患診断用具を用いることによって、被検試料を滴下するのみで歯周疾患の主要な原因細菌であるP.ジンジバリスを非常に簡便且つ特異的に検出することができた。
【0053】
試験例2
上記製造例1−3で使用した吸水性基材シートをTween20の0、1、3、5または10質量%水溶液に浸漬し、自然乾燥した。また、特定の被験者(年齢:48歳、性別:男)から1日に3回(10時、14時と17時)ずつ3日間洗口吐出液を採取し、上記吸水性基材シートの一端に適量滴下し、10分後と30分後における試料の展開を観察した。他端(試料を滴下した端と反対側の端)まで水分が非常に速やかに展開する場合を○、水分が他端まで展開するものの多少速さが劣る場合を△、展開速度が遅く水分が他端まで展開しきらない場合を×として、結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
当該結果の通り、非イオン界面活性剤を吸水性基材に含ませない場合であっても、試料中に含まれる水分は展開できる。しかし非イオン界面活性剤を基材に添加することによって、水分の展開を非常に速やかにできることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の歯周疾患診断用具の一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1 : 吸水性基材
2 : 被検試料受領部
3 : 歯周疾患原因細菌標識部、 31 : 抗体A
4 : 歯周疾患原因細菌検出部、 41 : 抗体B
5 : 確認部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯周疾患を診断するための用具であって、
吸水性基材上に、
(1) 被検試料受領部、
(2) 歯周疾患原因細菌に対するものであり且つ標識を有する抗体Aが、被検試料中の水分の移動に伴って移動できるように保持されている歯周疾患原因細菌標識部、および
(3) 歯周疾患原因細菌に対する抗体Bが固定されている歯周疾患原因細菌検出部、
を(1)〜(3)の順番で有することを特徴とする歯周疾患診断用具。
【請求項2】
さらに、(4) 被検試料中の水分が上記歯周疾患原因細菌検出部を通過したことを確認するための確認部を有する請求項1に記載の歯周疾患診断用具。
【請求項3】
上記吸水性基材が非イオン界面活性剤を含むものである請求項1または2に記載の歯周疾患診断用具。
【請求項4】
上記抗体Aと抗体Bが、歯周疾患原因細菌の膜タンパク質、表層多糖類、表層脂質類、表層リポ多糖類、分泌物質およびこれらの複合体からなる1または2以上と特異的に反応するものである請求項1〜3のいずれかに記載の歯周疾患診断用具。
【請求項5】
上記抗体Aと抗体Bが、ポルフィロモナス ジンジバリス、バクテロイデス フォーサイサス、トレポネーマ デンティコラ、フゾバクテリウム ヌクレアタム、プレボテラ インターメディア、ストレプトコッカス サンギス、ストレプトコッカス オラーリス、エイケネラ コローデンス、アクチノバチラス アクチノミセテムコミタンスおよびアクチノマイセス ネスランディよりなる群から選択される1または2以上の歯周疾患原因細菌と特異的に反応するものである請求項1〜4のいずれかに記載の歯周疾患診断用具。
【請求項6】
上記抗体Aが1種または2種以上のモノクローナル抗体である請求項1〜5のいずれかに記載の歯周疾患診断用具。
【請求項7】
上記抗体Bが1種または2種以上のモノクローナル抗体である請求項1〜6のいずれかに記載の歯周疾患診断用具。
【請求項8】
イムノクロマト法により歯周疾患原因細菌を検出する方法であって、
歯周疾患原因細菌に対するものであり且つ標識を有する抗体Aと、歯周疾患原因細菌に対する抗体Bを用いることを特徴とする歯周疾患原因細菌の検出方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−51979(P2007−51979A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238905(P2005−238905)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【出願人】(593146877)株式会社特殊免疫研究所 (1)
【Fターム(参考)】