説明

歯周病リスクの評価方法

【課題】歯周病リスクを簡便に評価する方法の提供。
【解決手段】ヒト歯肉縁上及び/又は縁下歯垢から抽出したDNAより、T−RFLP法により菌叢解析し、次いでクラスター解析を行って歯垢菌叢パターンをその類似度によって分類し、これを指標として歯周病リスクを評価することを特徴とする歯周病リスクの評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T−RFLP法を用いた歯周病リスクの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔はパラサイト(口腔微生物)とホスト(歯周組織、歯牙など)の相互作用によって特有の環境を形成しており、パラサイトの感染種によっては疾病を惹起することが知られている。これまでは単独の病原性細菌と齲蝕、歯周病などの口腔疾患の関連性を示す報告は多くなされているが、近年では病原性は菌叢内の細菌同士の相互作用によって左右される(非特許文献1)と考えられており、必ずしも単独細菌に依存したKochの病因論だけでは説明できないのが現状である。
【0003】
一方、600種以上と推定される口腔細菌叢(非特許文献2)の多様性がどのように歯周病や齲蝕に関連するかについて網羅的な解析を試みた報告は多くない。これまで菌叢の網羅的解析法であるTerminal-restriction fragment length polymorphism (T−RFLP)の従来法については、健常者と歯周炎患者の唾液菌叢パターンの相違(非特許文献3)、唾液菌叢パターンと歯周ポケット深さとの相関(非特許文献4)、歯周病治療前後の歯垢における既知歯周病原性細菌検出量の変化(非特許文献5)が報告されている。
【0004】
唾液は非侵襲に採取できる検体であり間接的に病変部の菌叢を反映する可能性はあるが、唾液菌叢と歯周病の関連性については報告例が少なくこれからの議論が必要である。また従来のT−RFLP法を用いた解析では特定の歯周病原性細菌に依存した解析に収束されるなどこれからの課題も多い。またDNA−DNAハイブリダイゼーション法による菌叢解析も報告されているが、定量性に乏しいなどの問題点もある(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kuramitsu H.K. et al., Microbiol. Mol. Biol. Rev., 71,653-670, 2007
【非特許文献2】Kazor C.E. et al., J. Clin. Microbiol., 41(2), 558-563, 2003
【非特許文献3】Sakamoto M. et al.,J.Med.Microbiol.,52(Pt 1),79-89,2003
【非特許文献4】Takeshita T. et al.,ISME J.,3(1),65-78,2009
【非特許文献5】Sakamoto M. et al.,J.Med.Microbiol.,53(Pt 6),563-571,2004
【非特許文献6】Socransky S.S. et al.,Biotechniques,17,788-792,1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、歯周病リスクを簡便に評価する方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、T−RFLP法による菌叢解析において、サイズスタンダードとして、解析対象となる菌叢に含まれる細菌由来の16SrRNA遺伝子をテンプレートとして用いて作成されたPCRフラグメントを用いることにより、泳動によって得られるフラグメント長と、配列から予測されるフラグメント長との間に生じる誤差が減少できることを見出し特許出願した(米国特許第7560236明細書)。そして、当該T−RFLP法を用いて、ヒト歯周病病変部の歯垢細菌叢を網羅的に解析し、クラスター分類を進めた結果、各クラスターが、歯周病関連の歯科臨床指標と相関し、歯周病リスクを評価するための指標となることを見出した。
【0008】
本発明は、以下の1)〜3)の発明に係るものである。
1)ヒト歯肉縁上及び/又は縁下歯垢から抽出したDNAより、T−RFLP法により菌叢解析し、次いでクラスター解析を行って歯垢菌叢パターンをその類似度によって分類し、これを指標として歯周病リスクを評価することを特徴とする歯周病リスクの評価方法。
2)T−RFLP法が、下記a)〜d)の工程を含む上記1)の歯周病リスクの評価方法。
a)抽出されたDNAをテンプレートとして蛍光標識プライマーを用いて16SrRNA遺伝子をPCR法により増幅し、当該増幅産物を制限酵素により切断してサンプルPCRフラグメントを作成する工程
b)口腔疾患関連細菌由来のDNAをテンプレートとして蛍光標識プライマーを用いて16SrRNA遺伝子をPCR法により増幅し、当該増幅産物を制限酵素により切断してサイズスタンダードPCRフラグメントを作成する工程
c)前記サイズスタンダードPCRフラグメントとサンプルPCRフラグメントを同時に電気泳動し、泳動度を比較し、サイズスタンダードのPCRフラグメントの分子量を基準にサンプルPCRフラグメントのサイズを決定する工程
d)c)で得られたサイズとデータベース上のサイズを比較することにより菌種を同定し存在比率を推定する工程
3)菌叢解析において、BP−TRFMA法により菌種を同定し存在比率を推定するものである上記1)又は2)の歯周病リスクの評価方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、簡易に、且つ確度の高い歯周病リスクの評価が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】菌叢パターンに基づくクラスター解析結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における歯周病リスクの評価は、ヒト歯肉縁上及び/又は縁下歯垢から抽出したDNAより、T−RFLP法により菌叢解析し、次いでクラスター解析を行って歯垢菌叢パターンをその類似度によって分類し、これを指標として行うものである。
(1)DNAの抽出
本発明において、解析対象となるサンプルには、ヒトの歯肉縁上及び/又は縁下歯垢が用いられる。
縁上歯垢、縁下歯垢は、何れか一方でも良いが、好ましくは縁下歯垢であり、縁上及び縁下歯垢を共に解析するのがより好ましい。
歯垢からのDNAの採取は、既知の方法で行うことができ、例えば、ビーズ振盪や酵素による菌破砕、市販のキット等を用いてDNAの抽出を行い、適宜精製すればよい。
例えば、採取された歯垢にPBS(-)等のバッファーを添加後、90〜100℃、10分加熱処理し、滅菌済ジルコニア/シリカビーズにて歯垢内の細菌を振盪破砕する。次いでその遠心上清液を定法に従いフェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール等にて除蛋白し、エタノール、酢酸ナトリウム処理することによってゲノムDNAを抽出することができる。
【0012】
(2)T−RFLP法による菌叢解析
T−RFLP法としては、細菌群集から抽出したDNAをテンプレートとして16SrRNA遺伝子を蛍光標識プライマーを用いてPCR法により増幅し、当該増幅産物を制限酵素により切断してサンプルPCRフラグメントを得、これをサイズスタンダードPCRフラグメントと共に電気泳動して、その泳動度を比較することによりサンプルPCRフラグメントのサイズを決定できるものであれば良いが、サイズスタンダードとして、解析対象となる菌叢に含まれる口腔疾患関連細菌由来の16SrRNA遺伝子を用いて作成されたPCRフラグメントを用いるものが好ましい。
本発明において好適に用いられるT−RFLP法としては、具体的には、以下のa)〜d)の工程を含む方法が挙げられる。
a)抽出されたDNAをテンプレートとして蛍光標識プライマーを用いて16SrRNA遺伝子をPCR法により増幅し、当該増幅産物を制限酵素により切断してサンプルPCRフラグメントを作成する工程
b)口腔疾患関連細菌由来のDNAをテンプレートとして蛍光標識プライマーを用いて16SrRNA遺伝子をPCRにより増幅し、当該増幅産物を制限酵素により切断してサイズスタンダードPCRフラグメントを作成する工程
c)前記サイズスタンダードPCRフラグメントとサンプルPCRフラグメントを同時に電気泳動し、泳動度を比較し、サイズスタンダードのPCRフラグメントの分子量を基準にサンプルPCRフラグメントのサイズを決定する工程
d)c)で得られたサイズとデータベース上のサイズを比較して菌種を同定する工程
【0013】
i)a工程
抽出されたDNAについて、蛍光標識プライマーを用いてPCR法により指標配列となる16SrRNA遺伝子の増幅が行われる。16SrRNA遺伝子(16SrDNA)は、微生物の分子生物学的分類指標として一般に利用されており、本発明の歯垢菌叢の解析において、最も好ましい指標配列である。
【0014】
プライマーは、16SrRNA遺伝子の増幅に適したものが使用されるが、増幅される領域中に16SrRNA遺伝子の全長が含まれるように設計されることが必要である。また網羅的な菌種同定を行うため、殆どの菌種が有する16SrRNA遺伝子の保存領域をプライマーとして選択することが必要である。
斯かるプライマーは、遺伝子の上流側及び下流側用に2種類のプライマーが使用されるが、どちらか一方又は両方のプライマーの5’末端を蛍光色素で標識したものを用いるのが好ましい。特に、上流側用プライマーにはある色の蛍光標識を用いたプライマー(フォワードプライマー)を用い、下流側用プライマーには前記蛍光標識とは異なる色の蛍光標識を用いたプライマー(リバースプライマー)を用いて、順方向と逆方向に増幅するのが特に好ましい。斯かるプライマーセットを用いることにより、1回の制限酵素処理から得られる情報を2倍にでき手間が半分になり、また、細菌の同定精度や定量性を改善することができる。
【0015】
斯かる蛍光標識に利用可能な蛍光色素としては、公知の蛍光色素をいずれも使用することができるが、中でも、光安定性や波長領域、汎用性等の点から、FAM(6-Carboxyfluorescein)、HEX(6-carboxy-2',4,4',5',7,7'-hexachlorofluorescein)、ROX(5(6)-Carboxy-X-rhodamine)、JOE(6-carboxy-4',5'-dichloro-2',7'-dimethoxyfluorescein)、TET(5'-tetrachloro-fluorescein phosphoramidite)、NED(fluorescein benzoxanthene)、TAMRA(6-carboxy-N,N,N,N-tetramethylrhodamine)、FITC(fluorescein isothiocianate)、VIC、PET、Texas Red、Cy3、Cy5等が好ましく、FAM、HEX、ROXがより好ましい。
【0016】
本発明において用いられる蛍光標識プライマーとしては、5’末端側をFAMで標識したフォワードプライマーと、5’末端側をHEXで標識を用いたリバースプライマーをセットで用いるのが特に好ましい。より具体的にプライマーセットとして、フォワードプライマーとして5’末端を6-carboxyfluorescein(6-FAM)で標識した8F(5’-AGA GTT TGA TYM TGG CTC AG-3’<配列番号1>)、リバースプライマーとして5’末端を6-carboxy-2',4,4',5',7,7'-hexachlorofluorescein(HEX)で標識した806R(5’-GGA CTA CCR GGG TAT CTA A-3’<配列番号2>)が挙げられる。
【0017】
PCR法による増幅は、例えば、2本鎖DNAを1本鎖にする熱変性反応(98℃、15秒)、プライマー対を1本鎖DNAにハイブリダイズさせるアニーリング反応(60℃、2秒)、DNAポリメラーゼを作用させる伸長反応(72℃、30秒)というサイクルを単位として30サイクル程度行うことによって実現できる。
【0018】
次いで、増幅されたPCR産物は、残存プライマーを取り除いた後、適当な制限酵素で切断される。
上記制限酵素としては、公知のものが使用でき、例えばAciI、TaqI、HhaI、AluI、MseI、SacII、BstUI、RsaI、HaeIII、MspI、CfoI、MrnI、San96I、FokI、AlnI、DdeI、HinfI、MboI等が挙げられる。これらの制限酵素は1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0019】
ii)b工程
解析対象となる口腔疾患関連細菌群に含まれる細菌、例えば、Porphyromonas gingivalisStreptococcus mutansVeillonella parvulaNeisseria mucosaFusobacterium nucleatumRothia dentocariosaPorphyromonas endodontalis 等に由来するDNAをテンプレートとして、前記と同様の蛍光標識プライマーを用いて16SrRNA遺伝子を増幅し、当該増幅産物を上記の制限酵素により切断して、蛍光標識されたサイズスタンダードPCRフラグメントを作成する。
斯かるPCRフラグメントをサイズスタンダードとして用いることにより、フラグメントコンフォメーションに由来すると考えられる誤差の縮小を図ることができる。
尚、サイズスタンダードとしては、上記サイズスタンダードPCRフラグメントに加えて、T−RFLP法で従来使用されている市販のサイズスタンダード、例えばプラスミド酵素分解フラグメントであるGeneScan500-ROX (Applied Biosystems)等を組み合わせて用いることができる。
また、Genescan-500ROXと前記口腔疾患関連細菌由来の16SrRNA遺伝子を用いて作成されたPCRフラグメント(例えば、FAMラベルサイズスタンダード、HEXラベルサイズスタンダード等)の泳動度を別途比較しデータベース化しておくことによって、実際にはGenescan-500ROXを使用するものであってもよい。
【0020】
本発明において用いられる好適なサイズスタンダードとしては、例えば、プラスミド酵素分解フラグメントであるGeneScan500-ROX (Applied Biosystems)にPorphyromonas gingivalisの16SrRNA遺伝子(具体的には、例えばPorphyromonas gingivalis W83株16SrRNA遺伝子由来の500〜800base長 ROX標識DNAフラグメント6本)を追加したものが挙げられる。
【0021】
iii)c工程
前記サイズスタンダードPCRフラグメントとサンプルPCRフラグメントを同時に電気泳動し、両者の泳動度を比較することにより、サンプルPCRフラグメントのサイズ決定がなされる。
電気泳動は、サンプルPCRフラグメントをサイズスタンダードPCRフラグメントと共に、キャピラリー電気泳動装置等を用いて行うことができ、標識した蛍光にて検出が行われる。
次いで、電気泳動の泳動度を比較することにより、サンプルPCRフラグメントのサイズが決定されるが、それに際しては、サイズスタンダードのPCRフラグメントの分子量を基準にサンプルPCRフラグメントのサイズを決定するのが好ましい。
従来、DNAフラグメント長は、塩基数(base)で規定されているが、塩基数よりも分子量(MW)で記載する方が、理論値からのズレを効果的に抑えることができ、フラグメント長をより正確に測定できる。
サイズスタンダード長の分子量表示への換算は、以下の数式:
分子量=(NA×313.2)+(NC×289.2)+(NG×329.2)+(NT×304.2)−61.9+蛍光色素分子量
※ NA,NC,NG,NT:A,C,G,T それぞれの塩基数
により算出でき、実際には解析ソフトウェア(Genemapper 4.0, ABI)を用いることにより行われる。
【0022】
iv)d工程
前工程で得られた分子量に換算されたサンプルPCRフラグメント長から、BP−TRFMA等の手法を用いて菌種を同定、具体的には存在菌群及び存在比率を推定し、後述のクラスター解析に供する。
菌種同定、存在比率推定法としては、ピークパターン法(Takeshita T. et al.,Oral Microbiol Immunol.,22(6),419-428,2007)、BP−TRFMA法(Nakano Y. et al., J. Microbiol. Methods., 75(3), 501-505,2008)、近似解法(大石進一著,「精度保証付き数値計算」, コロナ社,2000年)等が知られているが、BP−TRFMA法を用いるのが好ましい。
BP−TRFMA(batch-processing T-RFLP analysis)法は、細菌由来16SrRNA遺伝子のPCR産物を制限酵素処理することによって生成された5´末端側と3´末端側フラグメントが菌種毎に理論上同量であることを利用している。より具体的には上記文献を基に作製されたプログラムにT−RFLPデータ(分子量に換算されたサンプルPCRフラグメント長)を代入し、存在菌群(菌種同定)及びその比率データを得るものである。
【0023】
(3)クラスター解析
各サンプルの菌種と存在比率(百分率として算出)を一人分の菌叢パターンとして階層的クラスター解析に供するものである。
階層的クラスター解析は、フリーソフトウェアR version2.6.0(R Development Core Team、2007)を用い階層的クラスタリング(ボトムアップ型)により系統樹を作成することにより行われる。当該クラスター解析によると、縁上歯垢及び縁下歯垢共に、図1に示すように分類される。
【0024】
(4)歯科臨床指標との関連性
縁上歯垢の第1層をAグループ及びBグループ、縁下歯垢の第1層をCグループ及びDグループとし、当該クラスターと歯科臨床指標(歯周ポケット深さ<PD>、出血指数<BOP>、歯肉炎症指数<GI>)との関連性をみると、縁下歯垢ではAグループ、縁上歯垢ではCグループで歯科臨床指標の悪化が確認され、縁下歯垢ではBグループ、縁上歯垢ではDグループで歯科臨床指標が相対的に軽いか健常であることが示された(表1及び表2参照)。
更に、上記T−RFLP法により解析されたそれぞれの菌群の存在比率を一つの軸とし、各被験者を縁上歯垢(35菌群)に関しては35次元空間内、縁下歯垢(50菌群)に関しては50次元空間内の点として表し、また各グループに属する被験者の各座標の平均点を各グループの中心点として算出した(実施例2参照)。そして、新たな被験者からの歯垢菌叢パターンがどのグループに近いかを予測するために、94名の各被験者の検体のT−RFLPデータから得られる多次元空間内の座標点と4グループの中心点との距離を求めた結果、縁上歯垢では90.1%、縁下歯垢では97.9%と高い確率で被験者が本来のグループに属すると予測された。
従って、縁上・縁下歯垢のクラスター分類、例えば上記の縁上歯垢のAグループ及びBグループ、及び/又は縁下歯垢のCグループ及びDグループを基に、新たな被験者における歯周病のリスクを評価することができる。
【実施例】
【0025】
実施例1
1)方法
20〜90歳代男女94名を被験者とし、歯肉縁上・縁下歯垢をそれぞれ採取した。更に、歯科臨床指標である歯周ポケット深さ(PD)、出血指数(BOP)、歯肉炎症指数(GI)を歯科医師が判定した。
各歯垢の処理は以下の通り行った。PBS(-)添加後90℃、10分で加熱処理し、滅菌済ジルコニア/シリカビーズにて歯垢内の細菌を振盪破砕した。その遠心上清液を定法に従いフェノール・クロロホルム・イソアミルアルコールにて除蛋白し、エタノール、酢酸ナトリウム処理によって歯垢からのゲノムDNAを抽出した。
【0026】
次に抽出ゲノムDNAの16SrRNA遺伝子をPCRにて増幅した。フォワードプライマーとして5´末端を6-carboxyfluorescein(6-FAM)で標識した8F(5´-AGA GTT TGA TYM TGG CTC AG-3´<配列番号1>)を用い、リバースプライマーとして5´末端を6-carboxy-2',4,4',5',7,7'-hexachlorofluorescein(HEX)で標識した806R(5´-GGA CTA CCR GGG TAT CTA A-3´<配列番号2>)を用いた。PCR産物を市販キットにて精製後、HaeIIIにより37℃、2.5hrで制限酵素処理した(Takeshita T. et al.,ISME J.,3(1),65-78,2009、米国特許第7560236号明細書)。
【0027】
制限酵素処理サンプルとサイズスタンダード(GeneScan500-ROX(Applied Biosystems)にPorphyromonas gingivalis W83株16SrRNA遺伝子由来の500〜800base長 ROX標識DNAフラグメント6本を追加したもの(米国特許第7560236明細書、前記非特許文献4参照)、及びHiDiホルムアミドを加え、DNA変性反応(100℃、2分)を行い蛍光ラベルフラグメントを1本鎖にした。その後DNAシークエンサー(ABI PRISM 3130、Applied Biosystem)に供し、Terminal-restriction fragment length polymorphism (T-RFLP)法によるフラグメント解析を行った(非特許文献1、特許文献1)。得られたフラグメント長を解析ソフトウェア(Genemapper 4.0, Applied Biosystem)にて分子量に換算した上でBP-TRFMA(Nakano Y. et al., J. Microbiol. Methods., 75(3), 501-505,2008)にて存在菌群及び比率推定を行った。
【0028】
各被験者の歯垢菌叢パターンをその類似度によって分類するためクラスター解析を行った。フリーソフトウェアR version2.6.0(R Development Core Team、2007)を用い階層的クラスタリング(ボトムアップ型)により系統樹を作成した。
また菌叢パターンと歯科臨床指標の関連性を確認するため、各クラスターにおける平均PD、BOP、GIを算出し、sutudent's T-testにより統計処理を行った。
【0029】
2)結果
菌叢パターンに基づくクラスター解析結果を図1に示す。
各グループの歯科臨床指標を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
縁下歯垢ではAグループ、縁上歯垢ではCグループが歯科臨床指標の悪化が確認された。よって、菌叢と歯科臨床指標の関連性を推定する方法として有益であった。また、BグループをB-1及びB-2、CグループをC-1及びC-2のサブクラスターに分類すると、B-2とC-2の方が歯科臨床指標が相対的に軽いか健常であることが示され、健常から炎症への過渡期などの微少な変化も推定できる可能性が示された。
【0033】
実施例2
実施例1にて、歯科臨床指標が悪化しているグループ(縁下:Aグループ、縁上:Cグループ)、相対的に症状が軽いまたは健常なグループ(縁下:Bグループ、縁上:Dグループ)に分類された。次にT-RFLPにより得たそれぞれの菌群の存在比率を一つの軸とし、各被験者を縁上歯垢(35菌群を検出)に関しては35次元空間内、縁下歯垢(50菌群を検出)に関しては50次元空間内の点として表した。また各グループに属する被験者の各座標の平均点を各グループの中心点として算出した。得られた中心点の座標を以下に示す。
【0034】
縁下歯垢・グループA
(2.1998 ,2.6911 ,7.0224 ,1.3540 ,1.3895 ,1.9484 ,2.7897 ,0.4764 ,4.5800 ,4.1056 ,1.8937 ,2.1509 ,1.1818 ,1.9589 ,0.1206 ,0.5885 ,0.6565 ,3.1679 ,0.5575 ,7.9688 ,2.7233 ,2.2073 ,0.9969 ,4.6390 ,2.3401 ,0.6079 ,0.5221 ,0.5865 ,0.4198 ,1.4039 ,1.8718 ,2.7104 ,4.9913 ,0.3427 ,0.4725 ,2.7381 ,0.9546 ,0.7941 ,1.9769 ,0.5867 ,0.1469 ,2.6955 ,0.7156 ,0.1325 ,0.1904 ,2.8980 ,1.2498 ,2.8069 ,0.2485 ,6.2282)
【0035】
縁下歯垢・グループB
(4.5967 ,0.6252 ,8.1833 ,0.2397 ,1.0746 ,2.5252 ,9.8362 ,0.1453 ,7.2890 ,2.3632 ,1.6726 ,3.9877 ,0.5418 ,9.6127 ,0.1627 ,0.3143 ,0.7218 ,0.3761 ,0.0985 ,6.3225 ,0.8062 ,4.2729 ,0.6665 ,3.0272 ,1.3408 ,0.3369 ,0.2322 ,0.2079 ,0.1735 ,2.5287 ,2.2809 ,1.1800 ,1.5093 ,0.4353 ,0.3551 ,6.1775 ,0.7426 ,0.7775 ,1.0568 ,0.2775 ,0.0856 ,0.6536 ,0.3154 ,0.0548 ,0.1111 ,1.1200 ,0.9732 ,2.9225 ,0.4396 ,4.2495)
【0036】
縁上歯垢・グループC
(2.9422 ,3.1547 ,2.7376 ,14.9823 ,3.3135 ,1.3808 ,0.1544 ,5.9711 ,1.1026 ,10.6487 ,0.7960 ,0.3548 ,0.3298 ,4.9366 ,2.4303 ,0.2327 ,0.1063 ,0.6534 ,2.8437 ,0.6098 ,4.0763 ,5.2330 ,1.5237 ,0.6082 ,3.5733 ,0.8027 ,0.6845 ,0.4127 ,0.6950 ,3.1612 ,12.0883 ,6.6859 ,0.1735 ,0.2522 ,0.3480)
【0037】
縁上歯垢・グループD
(3.2416,3.1483,1.7278,6.9039,2.4816,5.3728,0.7549,4.3269,1.2143,20.4172,0.6486,0.2969,0.4300 ,2.9752,2.4291,0.379,0.2574,1.5506,2.8373,1.1458,7.5271,3.2115,1.0832,0.293,3.2167,1.4401,0.4794,0.692,0.444,1.3679,12.3318,4.873,0.3742,0.0903,0.0365)
【0038】
新たな被験者からの歯垢菌叢パターンがどのグループに近いかを予測するために、検体のT-RFLPデータから得られる多次元空間内の座標点と4グループの中心点との距離を求めた。距離は相関係数Rを用いた距離(1-|R|)を使用した。|R|はRの絶対値を示す。
上記の予測法の妥当性を判断するため、94名の各被験者が本来のグループに帰属するかを各個人レベルで確認した。その結果、縁上歯垢では90.1%、縁下歯垢では97.9%と高い確率で被験者が本来のグループに属すると予測され本予測法が妥当であることが示唆された。これにより本法は、実施例1で得られたグループを基に、新たな被験者の歯科臨床指標などの口腔状態を評価・診断する方法に応用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト歯肉縁上及び/又は縁下歯垢から抽出したDNAより、T−RFLP法により菌叢解析し、次いでクラスター解析を行って歯垢菌叢パターンをその類似度によって分類し、これを指標として歯周病リスクを評価することを特徴とする歯周病リスクの評価方法。
【請求項2】
T−RFLP法が、下記a)〜d)の工程を含む請求項1記載の歯周病リスクの評価方法。
a)抽出されたDNAをテンプレートとして蛍光標識プライマーを用いて16SrRNA遺伝子をPCR法により増幅し、当該増幅産物を制限酵素により切断してサンプルPCRフラグメントを作成する工程
b)口腔疾患関連細菌由来のDNAをテンプレートとして蛍光標識プライマーを用いて16SrRNA遺伝子をPCR法により増幅し、当該増幅産物を制限酵素により切断してサイズスタンダードPCRフラグメントを作成する工程
c)前記サイズスタンダードPCRフラグメントとサンプルPCRフラグメントを同時に電気泳動し、泳動度を比較し、サイズスタンダードのPCRフラグメントの分子量を基準にサンプルPCRフラグメントのサイズを決定する工程
d)c)で得られたサイズとデータベース上のサイズを比較することにより菌種を同定し存在比率を推定する工程
【請求項3】
菌叢解析において、BP−TRFMA法により菌種を同定し存在比率を推定するものである請求項1又は2記載の歯周病リスクの評価方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−193810(P2011−193810A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64709(P2010−64709)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】