説明

歯周病治療剤

本発明は、歯周病病原菌の凝集阻害活性と白血球による殺菌促進活性とを併せ持ち、好ましくは、ヘミンの結合を阻害する40−kDa OMPに対するモノクローナル抗体であって、さらに、副作用等の心配のないヒトモノクローナル抗体および該モノクローナル抗体を含む抗歯周病剤の提供する。本発明は、(1)P.gingivalis共凝集阻害活性、および(2)ヒト好中球貪食賦活活性、および(3)ヘミンと40−kDa OMPとの結合阻害活性の少なくとも一つを有する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、抗歯周病剤に関する。具体的には、本発明は歯周病病原菌の凝集阻害活性と白血球による殺菌促進活性とを併せ持ち、好ましくは、40−kDa OMPとヘミンの結合を阻害する40−kDa OMPに対するモノクローナル抗体であって、さらに、マウス等の非ヒト動物の抗体と比較して副作用を生じる可能性が低いヒトモノクローナル抗体および該モノクローナル抗体を含む抗歯周病剤に関する。
【背景技術】
歯周病は国民の約80%以上が罹患する疾患であり、口腔内細菌の感染、歯周病病原性細菌の増加、細菌の組織内侵入及び感染に対する宿主免疫応答等が主たる原因と考えられている。歯周病は最終的には歯の喪失に至りQuality of lifeを損なう極めて重要な疾患である。さらに、近年、歯周病は歯牙喪失だけでなく、循環系疾患、低体重児出産・早産、糖尿病、心内膜炎、肺炎と因果関係があることが分かってきている(Abiko Y.,Crit.Rev.Oral.Biol.Med.,2000 Vol 11:140)。
歯周病の治療法は感染源の排除が治療上重要であることから、ブラッシングとスケーリングといった極めて原始的な方法や歯周外科等がいまだに主流である。しかし、これらの機械的除去療法のみでは歯周病病原菌を完全に駆逐するのは不可能であり、菌血症や病巣感染をも招くことから、全身疾患を有する患者に適用できないことがある。また、テトラサイクリン、ミノサイクリン等の抗生物質や抗菌剤の投与も歯周治療として有効とされてきたが、最近では複数の耐性菌、耐性関連遺伝子、副作用等の問題が指摘されており、薬物療法の限界も示唆されている。したがって、歯周病に対し未だ有効な治療法が確立されていないのが現状であり、人体への安全性が高く歯周病病原菌を完全に駆逐しうる新しい治療法の開発が期待されている。
口腔細菌の中でPorphyromonas gingivalis(P.gingivalis)は成人型歯周病患者の歯周ポケットから高頻度で分離され、歯周病の病原菌として最も有力視されている。この菌は血液平板上で黒色コロニーを形成するグラム陰性の桿菌であり、本菌体表層成分や菌体外産物が歯周組織の破壊に関わると考えられている。このため、歯周病を効果的に予防また治療するためには、P.gingivalisの定着を抑え、歯周ポケット内から本菌体を排除することが重要である。
P.gingivalis駆除の方法として抗体療法が考えられる。同療法は、歯周病病原菌の病原因子に対する特異抗体を作製し、歯周ポケットに投与することで、1)歯周ポケットへの病原菌定着の抑制、2)歯周ポケット白血球による殺菌促進、等を期待するものである。1)について抗原は未同定であるがP.gingivalisに対する抗体を局所投与することで、9カ月間同細菌の歯周ポケット内再定着を抑制できたと報告されている(Booth,V.et al.,Infect Immun.,1996 Vol 64:422)。このように特異抗体により歯周病病原菌定着を抑制することで、歯周病はある程度克服できる可能性がある。さらに、重度な歯周感染症で観血的処置が不可能な場合には、歯周ポケット内の白血球による殺菌促進活性(貪食賦活活性)を積極的に期待するような抗体療法も必要であると考えられる。
近年、P.gingivalisに発現している抗原の一つとして、40−kDa Outer membrane protein(OMP)が報告されている(Abiko,Y.et.al.,Arch.Oral.Biol.1990 Vol 35:689,Kawamoto,Y.et.al.,Int.J.Biochem.,1991 Vol 23:1053)。40−kDa OMPは、多くのP.gingivalis株間で保存され発現している(Hiratsuka,K.et.al,1996.FEMS.Microbiol.Lett.138:167−172)。40−kDa OMP抗原に対するモノクローナル抗体は P.gingivalisとActinomyces viscosusの共凝集を阻害することから、この抗原はP.gingivalisの定着に重要な因子である(Abiko,Y.et.al.,Infect.Immun.,1997 Vol 65:3966,Hiratsuka,K.et.al.,Arch.Oral.Biol.,1992 Vol 37:717,Saito S.et.al.,Gen.Pharmacol.,1997 Vol 28:675)。さらに、抗40−kDa OMPポリクローナル抗体が前骨髄球細胞株HL60の貪食能を賦活化する活性があることも報告されている(Saito,S.et.al,J.Periodontol.,1999 Vol 70:610)。したがって、P.gingivalisの共凝集阻害活性と白血球によるP.gingivalis貪食賦活活性を有し、かつ、患者への応用を考えた場合に安全性や効果の持続性の点で優れているヒトモノクローナル抗体の提供は、新規歯周病治療法の開発に大きく貢献すると考えられる。しかし、そのような抗体は未だ全く報告されていない。一般にP.gingivalisの共凝集阻害活性を持つ全ての抗体が、白血球による殺菌促進活性を持つかは必ずしも明らかではない。さらに、P.gingivalisの生長や増殖さらには本菌の病原性発揮にヘミンの取り込みが必須であることが知られている。40kDa−OMPタンパクにはヘミン結合部位として知られているheme regulatory motifが存在し、実際、40kDa−OMPはヘミンが結合するヘミン結合タンパクの一種であることが報告されている(Shibata,Y.et.al.,B.B.R.C.,2003 Vol 300:351)。40kDa−OMPとヘミンの結合を阻害する抗体は、P.gingivalisの生長や増殖を阻害し本菌に強い傷害を与える可能性が高いと考えられる。
【発明の開示】
本発明は、歯周病病原菌として知られるP.gingivalisを歯周ポケット内から排除しながらも人体に安全と考えられる抗歯周病剤を提供することを目的とする。とくに本発明は、上記歯周病病原菌の凝集阻害活性と白血球による殺菌促進活性とを併せ持ち、好ましくは、ヘミンの結合を阻害する40−kDa OMPに対するモノクローナル抗体であって、さらに、マウス等の非ヒト動物の抗体と比較して副作用を生じる可能性が低いヒトモノクローナル抗体を提供することを目的とする。
本発明は、上記従来の課題を解決することを目的とするものである。すなわち、本発明者は、歯周病病原菌として知られるP.gingivalisを歯周ポケット内から排除しながらも人体に安全と考えられる抗歯周病剤の開発を目的とし鋭意検討を行い、歯周病病原菌の凝集阻害活性と白血球による殺菌促進活性とを併せ持ち、好ましくは、ヘミンの結合を阻害する40−kDa OMPに対するモノクローナル抗体であって、さらにマウス等の非ヒト動物の抗体と比較して副作用を生じる可能性が低いヒトモノクローナル抗体が抗歯周病剤として優れた効果を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]ヘミンと40−kDa OMPとの結合阻害活性を有する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片、
[2](1)P.gingivalis共凝集阻害活性、および(2)ヒト好中球貪食賦活活性を有する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片、
[3](1)P.gingivalis共凝集阻害活性、および(2)ヘミンと40−kDa OMPとの結合阻害活性を有する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片、
[4](1)ヒト好中球貪食賦活活性、および(2)ヘミンと40−kDa OMPとの結合阻害活性を有する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片、
[5](1)P.gingivalis共凝集阻害活性、および(2)ヒト好中球貪食賦活活性、および(3)ヘミンと40−kDa OMPとの結合阻害活性を有する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片、
[6]P.gingivalis共凝集が、P.gingivalisとActinomyces viscosusの共凝集である、[2]、[3]および[5]のいずれかの抗体またはその機能的断片、
[7]歯槽骨の吸収抑制活性を有する、40−KDaOMPと結合する抗体またはその機能的断片、
[8]抗体がヒト抗体である[1]〜[7]のいずれかの抗体またはその機能的断片、
[9]マウス−マウスハイブリドーマにより産生される[1]〜[8]のいずれかの抗体またはその機能的断片、
[10]抗体がモノクローナル抗体である、[1]から[9]のいずれかの抗体またはその機能的断片、
[11]治療薬剤と共有的または非共有的に結合した、[1]〜[10]のいずれかの抗体またはその機能的断片、
[12]治療薬剤が抗生物質または抗菌剤から選択される、[11]の抗体またはその機能的断片、
[13]抗生物質または抗菌剤がテトラサイクリンまたはミノサイクリンから選択される[12]の抗体またはその機能的断片、
[14]抗体のクラスがIgGである[1]〜[13]のいずれかの抗体またはその機能的断片、
[15]IgGがIgG1である[14]の抗体またはその機能的断片、
[16]抗体のクラスがIgAである[1]〜[13]のいずれかの抗体またはその機能的断片、
[17]重鎖定常領域のアミノ酸配列を改変した、[1]〜[16]のいずれかの抗体またはその機能的断片、
[18]ハイブリドーマh13−17(受託番号FERM BP−8325)が産生する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片、
[19]ハイブリドーマh13−17(受託番号FERM BP−8325)が産生する抗体の可変領域を有する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片、
[20]治療薬剤と共有的または非共有的に結合した、[18]または[19]の抗体またはその機能的断片、
[21]治療薬剤が抗生物質または抗菌剤から選択される、[20]の抗体またはその機能的断片、
[22]抗生物質または抗菌剤がテトラサイクリンまたはミノサイクリンから選択される[21]の抗体またはその機能的断片、
[23]抗体のクラスがIgGである[28]〜[22]のいずれかの抗体またはその機能的断片、
[24]IgGがIgG1である[23]の抗体又はその機能的断片、
[25]抗体のクラスがIgAである[28]〜[22]のいずれかの抗体またはその機能的断片、
[26]重鎖定常領域のアミノ酸配列を改変した、[28]〜[25]のいずれかの抗体またはその機能的断片、
[27]ハイブリドーマh13−17(受託番号FERM BP−8325)、
[28]ハイブリドーマ5−89−2(受託番号FERM BP−8323)が産生する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片、
[29]ハイブリドーマ5−89−2(受託番号FERM BP−8323)が産生する抗体の可変領域を有する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片、
[30]治療薬剤と共有的または非共有的に結合した、[28]または[29]の抗体またはその機能的断片、
[31]治療薬剤が抗生物質または抗菌剤から選択される、[30]の抗体またはその機能的断片、
[32]抗生物質または抗菌剤がテトラサイクリンまたはミノサイクリンから選択される[31]の抗体またはその機能的断片、
[33]抗体のクラスがIgGである[28]〜[32]のいずれかの抗体またはその機能的断片、
[34]IgGがIgG1である[33]の抗体又はその機能的断片、
[35]抗体のクラスがIgAである[28]〜[32]のいずれかの抗体またはその機能的断片、
[36]重鎖定常領域のアミノ酸配列を改変した、[28]〜[35]のいずれかの抗体またはその機能的断片、
[37]ハイブリドーマ5−89−2(受託番号FERM BP−8323)、
[38]ハイブリドーマa44−1(受託番号FERM BP−8324)が産生する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片、
[39]ハイブリドーマa44−1(受託番号FERM BP−8324)が産生する抗体の可変領域を有する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片、
[40]治療薬剤と共有的または非共有的に結合した、[38]または[39]の抗体またはその機能的断片、
[41]治療薬剤が抗生物質または抗菌剤から選択される、[40]の抗体またはその機能的断片、
[42]抗生物質または抗菌剤がテトラサイクリンまたはミノサイクリンから選択される[41]の抗体またはその機能的断片、
[43]抗体のクラスがIgGである[38]〜[42]のいずれかの抗体またはその機能的断片、
[44]IgGがIgG1である[43]の抗体又はその機能的断片、
[45]抗体のクラスがIgAである[38]〜[42]のいずれかの抗体またはその機能的断片、
[46]重鎖定常領域のアミノ酸配列を改変した、[38]〜[45]のいずれかの抗体またはその機能的断片、
[47]ハイブリドーマa44−1(受託番号FERM BP−8324)、
[48]ハイブリドーマh13−17(受託番号FERM BP−8325)、ハイブリドーマ5−89−2(受託番号FERM BP−8323)およびハイブリドーマa44−1(受託番号FERM BP−8324)からなる群から選択されるハイブリドーマの保有する核酸であって、前記ハイブリドーマが産生する抗体の可変領域を含む抗体をコードする核酸または該抗体の機能的断片をコードする核酸、
[49][48]の核酸によりコードされる、抗体またはその機能的断片である蛋白質、
[50][48]の核酸を有する発現ベクター、
[51][50]の発現ベクターを有する宿主、
[52]大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳類細胞および植物細胞並びに哺乳動物からなる群から選ばれる[51]の宿主、
[53]ハイブリドーマh13−17(受託番号FERM BP−8325)、ハイブリドーマ5−89−2(受託番号FERM BP−8323)およびハイブリドーマa44−1(受託番号FERM BP−8324)からなる群から選択されるハイブリドーマから40−kDa OMPと結合する抗体をコードする遺伝子を単離し、該遺伝子を有する発現ベクターを構築し、該発現ベクターを宿主に導入して該抗体を発現せしめ、得られる宿主、宿主の培養上精または宿主の分泌物から該抗体を採取することを含む、40−kDa OMPと結合する抗体の製造方法、
[54]40−KDaOMPと結合する抗体またはその機能的断片を有効成分として含有する、歯槽骨の吸収抑制剤、
[55]抗40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片を有効成分として含有する、歯周病の予防、診断または治療剤、
[56]40−KDaOMPと結合する抗体またはその機能的断片の歯槽骨の吸収抑制剤の製造のための使用、
[57]40−KDaOMPと結合する抗体またはその機能的断片を調製し、動物に投与することを含む、歯槽骨の吸収抑制方法、
[58]40−KDaOMPと結合する抗体またはその機能的断片の歯周病の予防、診断または治療剤の製造のための使用、
[59]40−KDaOMPと結合する抗体またはその機能的断片を調製し、動物に投与することを含む、歯周病を診断、予防または治療する方法、
[60][1]〜[26]、[28]〜[36]、[38]〜[46]および[49]のいずれかの抗体またはその機能的断片を有効成分として含有する、歯周病の予防、診断または治療剤、
[61][1]〜[26]、[28]〜[36]、[38]〜[46]および[49]のいずれかの抗体またはその機能的断片を有効成分として含有する、歯槽骨の吸収抑制剤、
[62][1]〜[26]、[28]〜[36]、[38]〜[46]および[49]のいずれかの抗体またはその機能的断片の歯周病の予防、診断または治療剤の製造のための使用、
[63][1]〜[26]、[28]〜[36]、[38]〜[46]および[49]のいずれかの抗体またはその機能的断片の歯槽骨の吸収抑制剤の製造のための使用、
[64][1]〜[26]、[28]〜[36]、[38]〜[46]および[49]のいずれかの抗体またはその機能的断片を調製し、動物に投与することを含む、歯周病を診断、予防または治療する方法、ならびに
[65][1]〜[26]、[28]〜[36]、[38]〜[46]および[49]のいずれかの抗体またはその機能的断片を調製し、動物に投与することを含む、歯槽骨の吸収抑制方法。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2003−072714号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
図1は、各抗40kDa−OMP抗体のr40kDa−OMPおよびP.gingivalisに対する反応性を示す図である。
図2は、各抗40kDa−OMP抗体と歯周病患者血清のP.gingivalisに対する結合活性の比較を示す図である。
図3は、各抗40kDa−OMP抗体とP.gingivalisの反応解析結果を示す図である。
図4は、40kDa−OMPとヘミン相互作用に各抗40kDa−OMP抗体が及ぼす影響を示す図である。
図5は、h13−17抗体の40kDa−OMPとヘミン結合阻害活性を示す図である。
図6は、各種P.gingivalis株への各抗40kDa−OMP抗体の反応性を示す図である。
図7は、各抗40kDa−OMP抗体のラット歯槽骨吸収抑制活性を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
40−kDa OMPは、公知の塩基配列(日本DNAデータバンク:アクセッション番号AB059658)又はアミノ酸配列に基づいて、遺伝子組換え技術のほか、化学的合成法、細胞培養方法等のような技術的分野において知られる方法を適宜用いることにより製造することができる。40−kDa OMPの塩基配列を配列番号1に、アミノ酸配列を配列番号2に示す。また40−kDa OMPの部分配列は、後述する技術的分野において知られる方法に従って、遺伝子組換え技術又は化学的合成法により製造することもできるし、また40−kDa OMPをタンパク分解酵素等を用いて適切に切断することにより製造することができる。
本発明の抗体またはその機能的断片には、以下のような反応性を有する各種の抗40−kDa OMPモノクローナル抗体またはその機能的断片が包含される。すなわち、▲1▼ P.gingivalis共凝集阻害活性およびヒト好中球貪食賦活活性を有する、40−kDa OMPと結合する抗体もしくはその機能的断片、▲2▼ P.gingivalis共凝集阻害活性、ヒト好中球貪食賦活活性およびヘミンと40−kDa OMPとの結合阻害活性を有する、40−kDa OMPと結合する抗体もしくはその機能的断片、▲3▼ ヒト好中球貪食賦活活性およびヘミンと40−kDa OMPとの結合阻害活性を有する、40−kDa OMPと結合する抗体もしくはその機能的断片、▲4▼ P.gingivalis共凝集阻害活性およびヘミンと40−kDa OMPとの結合阻害活性を有する、40−kDa OMPと結合する抗体もしくはその機能的断片、または▲5▼ ヘミンと40−kDa OMPとの結合阻害活性を有する、40−kDa OMPと結合する抗体もしくはその機能的断片、が包含される。
ここでP.gingivalisの共凝集とは、P.gingivalisがActinomyces viscosusやStreptococcus gordonii等の他の微生物と凝集することをいい、この凝集により歯周ポケットに病原菌がプラークとして定着する。従って、本発明の抗体のP.gingivalisの凝集阻害活性とは、P.gingivalisと他の菌との凝集を阻害し得る活性をいう。抗体がこのような凝集阻害活性を有しているか否かは、本明細書の実施例9に記載の方法により決定することができる。実施例9に記載の方法により凝集阻害活性を測定した場合、本発明の抗体のスコアは好ましくは2以下である。また、本発明の抗体の白血球による殺菌促進活性とは、好中球等の白血球のP.gingivalis貪食の賦活化活性をいい、本明細書の実施例10に記載の方法により決定することができる。実施例10に記載の方法で貪食賦活化活性を測定した場合、本発明の抗体の貪食率はコントロール抗体に比べ有意に高い。さらに、本発明の抗体には、P.gingivalisの40kDa−OMPとヘミンとの結合を阻害する活性を有する抗体が包含される。抗体がP.gingivalisの40kDa−OMPとヘミンとの結合を阻害するか否かは、本明細書の実施例14に記載の方法により決定することができる。実施例14に記載の方法によりヘミン結合阻害活性を測定した場合、本発明の抗体の活性はコントロール抗体に比べて有意に高い。本発明の抗体の活性の検定にP.gangivalisを用いるが、P.gingivalisは40−kDa OMPを発現するものであればいずれでもよく、例えば本発明の実施例で用いたP.gingivalis381あるいはP.gingivalisW50(ATCC番号:53978)が挙げられる。
該抗体またはその機能的断片の例には、後に記載されるような抗40−kDa OMPモノクローナル抗体、あるいは、該抗体を構成する重鎖及び/又は軽鎖の各々のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する重鎖及び/又は軽鎖からなるモノクローナル抗体であって、上記▲1▼から▲5▼のいずれかの反応性を有する抗体も包含される。前記のようなアミノ酸の「改変」(欠失、置換、挿入、付加)は、そのアミノ酸配列をコードする塩基配列を部分的に改変することにより導入することができる。例えばこの塩基配列の部分的改変は、既知の部位特異的変異導入法(Site specific mutagenesis)を用いて常法により導入することができる(Proc Natl Acad Sci USA,,1984 81:5662;Sambrook et al.,Molecular Cloning A Laboratory Manual(1989)Second edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press)。例えば、本発明において重鎖定常領域のアミノ酸配列を改変した抗体は、改変前の抗体に比べて、Fcレセプターに対する親和性向上による、より強力な白血球によるP.gingivalis貪食賦活化活性を有する可能性がある。
本発明の「抗体」には、いずれのイムノグロブリンクラス及びサブクラスを有する抗体も包含するが、好ましくはヒトイムノグロブリンクラス及びサブクラスを有する抗体であり、好ましいクラス、サブクラスはイムノグロブリンG(IgG)あるいはIgA、特にIgG1及びIgAである。
本発明の抗体又はその断片の好ましい別の例は、40−kDa OMPのアミノ酸配列中のエピトープを認識し、かつ、上記▲1▼から▲5▼のいずれかの反応性を有するモノクローナル抗体又はその断片からなる配列である。
本発明における抗体の断片とは、前記で定義した抗体の一部分を意味し、具体的にはF(ab’)2、Fab’、Fab、Fv、disulphide−linked FV、Single−Chain FV(scFV)及びこれらの重合体等が挙げられる(D.J.King.,Applications and Engineering of Monoclonal Antibodies.,1998 T.J.International Ltd)。このような抗体断片は慣用法、例えばパパイン、ペプシン等のプロテアーゼによる抗体分子の消化、あるいは公知の遺伝子工学的手法により得ることができる。「機能的断片」とは、完全抗体が特異的に結合する抗原に対して、特異的に結合する抗体の断片を意味する。
本発明の抗体は、例えば、下記のような方法によって製造することができる。即ち、例えば、前記で定義したような40−kDa OMP若しくはその一部、又は抗原の抗原性を高めるための適当な物質(例えば、bovine serum albumin等)との結合物、又は40−kDa OMPを細胞表面に多量に発現している細胞を、必要に応じて免疫賦活剤(Freund’s Adjuvant等)とともに、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマ等の非ヒト哺乳動物に免疫する。あるいは、40−kDa OMPを組み込んだ発現ベクターを非ヒト哺乳動物に投与することにより免疫感作を行うことができる。モノクローナル抗体は、免疫感作動物から得た抗体産生細胞と自己抗体産生能のない骨髄腫系細胞(ミエローマ細胞)からハイブリドーマを調製し、ハイブリドーマをクローン化し、免疫に用いた抗原に対して特異的親和性を示すモノクローナル抗体を産生するクローンを選択することによって製造される。また好ましくは、再配列されていないヒト抗体遺伝子を保持し、免疫感作により当該免疫原に特異的なヒト抗体を産生する非ヒト動物を免疫に用いることにより、本発明の抗体をヒト抗体として得ることができる。該非ヒト動物としてマウスが挙げられ、ヒト抗体を産生し得るマウスの作成方法は、国際公開WO02/43478に記載されている。ここで、ヒト抗体とは、ヒト由来の抗体遺伝子の発現産物である抗体、又はその機能的な断片を意味する。本発明のモノクローナル抗体として、例えば独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にブダペスト条約の規定下で2003年3月11日付で国際寄託したハイブリドーマクローンh13−17(受託番号 FERM BP−8325)、5−89−2(FERM BP−8323)及びa44−1(FERM BP−8324)が産生するモノクローナル抗体またはその機能的断片が挙げられる。また、これらのモノクローナル抗体のクラスまたはサブクラスを改変させた抗体も含まれる。さらに、これらのハイブリドーマの産生する抗体の重鎖定常領域のアミノ酸配列を改変した抗体またはその機能的断片も含まれる。
本発明は上記ハイブリドーマが有する核酸であって、該ハイブリドーマが産生する抗体の可変領域を含む抗体をコードする核酸または該抗体の機能的断片をコードする核酸も包含し、これらの核酸はハイブリドーマから通常の遺伝子工学的手法により得ることができ、またその塩基配列も公知の塩基配列決定法により決定することができる。さらに、本発明は前記のようにして得られる核酸がコードするタンパク質も含み、該タンパク質は上記▲1▼から▲5▼のいずれかの反応性をもつ。さらに、本発明は前記核酸を含む発現ベクター、該発現ベクターを含む宿主細胞も包含する。ベクター、及び宿主細胞は限定されず、宿主として例えば大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳動物細胞、植物細胞のみならず昆虫個体、哺乳動物個体も含まれる。昆虫個体としては例えばカイコが挙げられ、哺乳動物個体としては例えば、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ等が挙げられるが、これらには限定されない。発現ベクターとしては、それぞれの宿主に対応した公知のベクター、市販のベクターを用いることができる。また、発現ベクターを用いての昆虫個体または哺乳動物個体のトランスフェクションも公知の方法により行うことができる。本発明は、さらに前記本発明の核酸を含む発現ベクターを含む宿主細胞または宿主個体において前記核酸を発現させ発現産物を宿主細胞の培養液または宿主個体の体液または乳汁等の分泌物から抗体またはその機能的断片を採取することを含む本発明の抗体またはその機能的断片の製造法をも包含する。
本発明の抗体またはその機能的断片は、具体的には下記のようにして製造することができる。モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマの調製は、ケーラー及びミルシュタインらの方法(Nature.,1975 Vol.256:495−497)及びそれに準じて行うことができる。即ち、前述の如く免疫感作された動物から取得される脾臓、リンパ節、骨髄又は扁桃等、好ましくはリンパ節又は脾臓に含まれる抗体産生細胞と、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ又はヒト等の哺乳動物に由来する自己抗体産生能のないミエローマ細胞とを、細胞融合させることにより調製される。細胞融合は例えば、ポリエチレングリコール(例えば分子量1500〜6000)等の高濃度ポリマー溶液中、通常約30〜40℃、約1〜10分間、抗体産生細胞とミエローマ細胞を混合することによって行うことができる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンのスクリーニングは、ハイブリドーマを、例えばマイクロタイタープレート中で培養し、増殖の見られたウェル中の培養上清の免疫抗原に対する反応性を、例えばELISA等の酵素免疫測定法、ラジオイムノアッセイ、蛍光抗体法などの免疫学的方法を用いて測定することにより行なうことができる。
ハイブリドーマからのモノクローナル抗体の製造は、ハイブリドーマをインビトロで培養して培養上清から単離することにより行うことができる。また、マウス、ラット、モルモット、ハムスター又はウサギ等の腹水中等でインビボで培養し、腹水から単離することもできる。
また、ハイブリドーマ等の抗体産生細胞からモノクローナル抗体をコードする遺伝子をクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主(例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等の哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞など)に導入し、遺伝子組換え技術を用いて組換型抗体を調製することができる(P.J.Delves.,ANTIBODY PRODUCTION ESSENTIAL TECHNIQUES.,1997 WILEY、P.Shepherd and C.Dean.,Monoclonal Antibodies.,2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS,J.W.Goding.,Monoclonal Antibodies:principles and practice.,1993 ACADEMIC PRESS)。さらに、トランスジェニック動物作製技術を用いて目的抗体の遺伝子が内在性遺伝子に組み込まれたトランスジェニックなウシ、ヤギ、ヒツジ又はブタを作製し、そのトランスジェニック動物のミルク中からその抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得することも可能である。ハイブリドーマをインビトロで培養する場合には、培養する細胞種の特性、試験研究の目的及び培養方法等の種々条件に合わせて、ハイブリドーマを増殖、維持及び保存させ、培養上清中にモノクローナル抗体を産生させるために用いられるような既知栄養培地又は既知の基本培地から誘導調製されるあらゆる栄養培地を用いて実施することが可能である。
産生されたモノクローナル抗体は、当該分野において周知の方法、例えばプロテインAあるいはプロテインGカラムによるクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、硫安塩析法、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィー等を適宜組み合わせることにより精製することができる。
上記の方法で作製された本発明のモノクローナル抗体又はその断片は、治療用薬剤とコンジュゲートすることによって、ミサイル療法等の治療目的に使用可能な複合体を形成できる。抗体へ結合させる治療用薬剤の例としては、以下のものに限定されないが、テトラサイクリン、ミノサイクリン等の抗生物質や抗菌剤等が挙げられる。抗体と治療用薬剤の結合は共有又は非共有結合(例えばイオン結合)のいずれでもよい。例えば、抗体分子中の反応性基(例えばアミノ基、カルボキシル基、水酸基等)又は配位性基を利用し、該反応性基と反応しうる官能基(細菌毒素、化学療法剤の場合)又は該配位性基との間で錯体を形成しうるイオン性基(放射性核種の場合)をもつ治療用薬剤と抗体とを接触させることによって、本発明の複合体を得ることができる。あるいは複合体の形成に際してビオチン−アビジン系の利用も可能であろう。また、治療用薬剤がタンパク質又はペプチドである場合は、遺伝子工学的手法により抗体と前記タンパク質又はペプチドとの融合タンパク質として生産することも可能である。
また、本発明の抗40−kDa OMP抗体、あるいは上記治療用薬剤と結合した抗40−kDa OMP抗体を含有する歯周病の予防用、診断用または治療用医薬組成物もまた本発明の範囲内に含まれる。本発明の抗40−kDa OMP抗体の投与により口腔からP.gingivalisを排除することができ、P.gingivalisによる歯周組織の破壊を防止し、歯周病を予防、治療することができる。該組成物には治療上有効量の治療用薬剤が含まれているべきであり、経口、非経口投与用の種々の形態に製剤化される。ここで、治療上有効量とは、所与の症状や投与計画について治療効果を与える量をいう。本発明の組成物は、抗体に加えて、生理学的に許容され得る製剤上の添加物、例えば希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、アジュバント、酸化防止剤、等張化剤、賦形剤及び担体のうち1種又は複数を含むことができる。また、他の抗体又は抗生物質のような他の薬剤との混合物とすることもできる。適切な担体には、生理的食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水グルコース液、及び緩衝生理食塩水が含まれるが、これらに限定されるものではない。さらに当該分野において周知であるアミノ酸、糖類、界面活性剤等の安定化剤、表面への吸着防止剤を含んでいてもよい。製剤の形態としては、ペースト、液体、凍結乾燥製剤(この場合上記のような緩衝水溶液を添加することにより再構成して使用可能である。)、徐放製剤、腸溶性製剤、注射剤又は点滴剤などを含む製剤を、治療目的、治療計画に応じて選択可能である。
投与経路は、経口経路、並びに静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内の注射又は配薬を含む非経腸的経路が考えられるが、動物を用いた試験により最適の経路が選択される。あるいは、患者の患部に直接本発明の組成物を接触させる方法も可能であろう。また直接歯周病患部への適用を考慮すると、口腔内あるいは歯周ポケットへの投与も好ましい。投与量は、動物を用いた試験、臨床試験の実施により適宜決定されるが、一般に患者の状態若しくは重篤度、年齢、体重、性別などが考慮されるべきである。
また、本発明の抗体またはその機能的断片を歯磨き用ペースト、口腔内洗浄剤に混合させて歯周病患部に適用してもよいし、また食品、飲料等に混合した機能性食品の形態で適用することもできる。
さらに、本発明の抗体またはその機能的断片を歯周病の診断剤としても使用することができる。例えば、本発明の抗体またはその機能的断片を用いて歯周ポケットにP.gingivalisが存在するか否かを検出することができる。該検出は、歯周ポケットのプラークを採取し、該プラーク中のP.gingivalisの存在を、EIA、RIA、免疫凝集法との公知の免疫測定法により検出することにより行うことができる。
以下、実施例を以て本発明をさらに詳細に説明するが、本発明がその実施例に記載される態様のみに限定されるものではない。
(実施例1)組換体40−kDa OMP(r40−kDa OMP)の調製
組換体40−kDa OMP(r40−kDa OMP)は以下のように調製した。完全長r40−kDa OMP DNA(日本DNAデータバンク:アクセッション番号AB059658)をベクター組み込んだ組み換えプラスミド pMD125をもつ大腸菌(Escherichia coli K−12)を、テトラサイクリン10μg/mLを含むLB培地(1% tryptone(ベクトン・ディッキンソン社製),0.5% yeast extract(ベクトン・ディッキンソン社製),0.5% NaCl)で培養した。菌体を遠心機にて回収後、超音波処理により菌体を破壊した。遠心分離機を用いて菌体破壊上清を得た後、Kawamotoら(Int.J.Biochem.1991 Vol 23:1053)の方法に従いr40−kDa OMPを精製した。調製されたr40−kDa OMPは透析膜(分子量10000以下カット,Spectrum Laboratories社製)を用いてPBS(−)に置換し、SDS/PAGE電気泳動で分子量40,000の単一バンドの精製タンパクを得た。
(実施例2)ヒト抗体産生マウスの作製
免疫に用いたマウスは、内因性Ig重鎖破壊及びκ軽鎖破壊の両者についてホモ接合体の遺伝的背景を有しており、かつヒトIg重鎖遺伝子座を含む14番染色体断片(SC20)及びヒトIgκ鎖トランスジーン(KCo5)を同時に保持する。このマウスは、ヒトIg重鎖遺伝子座を持つ系統(系統A)のマウスと、ヒトIgκ鎖トランスジーンを持つ系統(系統B)のマウスとの交配により作製した。系統Aは、内因性Ig重鎖及びκ軽鎖破壊の両者についてホモ接合体であり、子孫伝達可能な14番染色体断片(SC20)を保持するマウス系統であり、例えば富塚らの報告(Tomizuka.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,2000 Vol 97:722)に記載されている。また、系統Bは、内因性Ig重鎖及びκ軽鎖破壊の両者についてホモ接合体であり、ヒトIgκ鎖トランスジーン(KCo5)を保持するマウス系統であり、例えばFishwildらの報告(Nat.Biotechnol.,1996 Vol 14:845)に記載されている。系統Aの雄マウスと系統Bの雌マウス、あるいは系統Aの雌マウスと系統Bの雄マウスの交配により得られた、血清中にヒトIg重鎖及びκ軽鎖が同時に検出される固体(Ishida&Lonberg,IBC’s 11th Antibody Engineering,Abstract 2000)を以下の免疫実験に用いた。なお、前記ヒト抗体産生マウスは、契約を結ぶことによって、麒麟麦酒株式会社より入手可能である。
(実施例3)40−kDa OMPに対するヒトモノクローナル抗体の調製
本実施例におけるモノクローナル抗体の作製は、単クローン抗体実験操作入門(安東民衛ら著作、講談社発行 1991)等に記載されるような一般的方法に従って調製した。免疫原としての40−kDa OMPは、実施例1で調製したr40−kDa OMPを用いた。被免疫動物は、実施例2で作製したヒト免疫グロブリンを産生するヒト抗体産生マウスを用いた。
ヒト抗体産生マウスに、実施例1で作製したr40−kDa OMPをRIBIアジュバンド(Corixa社製)と混合し、20μgのr40−kDa OMPを腹腔内投与することにより初回免疫した。r40−kDa OMPとRIBIアジュバンド混液を初回免疫から1週間〜2週間毎に腹腔内投与により4回追加免疫した。さらに、以下に述べる脾臓細胞の取得3日前にr40−kDa OMPを尾静脈内注射により追加免疫した。
免疫されたマウスから脾臓を外科的に取得し、回収した脾臓細胞をマウスミエローマSP2/0(ATCC No.:CRL1581)と5:1で混合し、融合剤としてポリエチレングリコール1500(Boehringer Mannheim社製)を用いて細胞融合させることにより多数のハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマの選択は、10%のウシ胎児血清(Fetal Calf Serum、FCS)とヒポキサンチン(H)、アミノプテリン(A)、チミジン(T)を含有するHAT含有DMEM培地(Gibco BRL社製)中で培養することにより行った。さらに、HT含有DMEM培地を用いて限界希釈法によりシングルクローンにした。培養は、96−wellマイクロタイタープレート(ベクトンディッキンソン社製)中で行った。抗r40−kDa OMPヒトモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンの選択(スクリーニング)及び各々のハイブリドーマが産生するヒトモノクローナル抗体の特徴付けは、後述する酵素標識免疫吸着アッセイ(ELISA)及び蛍光活性化セルソーター(FACS)により測定することにより行った。
ヒトモノクローナル抗体産生ハイブリドーマのELISAによるスクリーニングは、以下に述べる Enzyme linked immunosorbent Assay(ELISA)およびFluorescence Activated Cell Sorting(FACS)により、ヒト免疫グロブリンγ鎖(hIgγ)及びヒト免疫グロブリン軽鎖κを有し、かつ、r40−kDa OMPに特異的な反応性を有するヒトモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得た。なお、本実施例を含め以下のいずれの実施例中、並びに実施例における試験結果として示した表又は図中においては、各々の本発明のヒト抗40−kDa OMPモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンは記号を用いて命名した。以下のハイブリドーマクローンはシングルクローンを表わす:h13−17,5−89−2,a44−1又は1−85−16。それらの内3つのハイブリドーマクローンh13−17,5−89−2及びa44−1を、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にブダペスト条約の規定下で国際寄託した。ハイブリドーマクローンh13−17,5−89−2及びa44−1は各々受託番号FERM BP−8325、FERM BP−8323及びBP−8324である(2003年3月11日付)。
(実施例4)ヒト免疫グロブリンγ鎖を有するモノクローナル抗体の検出
実施例1で作製したr40−kDa OMP(1μg/ml 50mMNaHCO)を、ELISA用96穴マイクロプレート(Maxisorp、Nunc社製)の各ウェルに50μl加え、室温で30分インキュベートし、r40−kDa OMPをマイクロプレートに吸着させた。次いで、上清を捨て、各ウェルにブロッキング試薬(SuperBlockTM Blocking Buffer,PIERCE社製)を加え室温で10分間インキュベートし、r40−kDa OMPが結合していない部位をブロックした。このようにして、各ウェルをr40−kDa OMPでコーティングしたマイクロプレートを作製した。また、P.gingivalis 381株を嫌気的に5μg/mLヘミン(Sigma社製)、0.5μg/mLビタミンK、0.5%yeast extract(Difco社製)添加Tripticase soy broth(BBL社製)中にて37℃で培養し、中期対数期までP.gingivalisを増殖させた。その後、遠心分離(10,000xg,10分,4℃)によって同細菌の細胞を回収し、60℃、30分で熱処理した。次にPBS中に再懸濁させ、超音波ホモジナイザー(Branson Sonifier250)を使用し、氷上で15分音波処理をした。この超音波処理物を遠心分離(100,000xg,30分,4℃)し、上清を濾過(0.22μm)した。超音波処理物の濃度は280nmの吸光度を測定し、1mg/mlを1.0Optimal density(O.D.)として算出した。P.gingivalis超音波処理物(50μg/ml 50mMNaHCO,50μl/ウェル)を、ELISA用96穴マイクロプレート(Maxisorp、Nunc社製)の各ウェルに加え、室温で30分インキュベートし、P.gingivalis超音波処理物をマイクロプレートに吸着させた。次いで、上清を捨て、各ウェルにブロッキング試薬(SuperBlockTM Blocking Buffer,PIERCE社製)を加え室温で10分間インキュベートした。各ウェルを、0.1%Tween20含有リン酸緩衝液(PBS−T)で2回洗浄した。r40−kDa OMPあるいはP.gingivalis超音波処理物をコーティングしたマイクロプレートの各ウェルに、各々のハイブリドーマの培養上清50μlを加え、室温下で30分反応させた後、各ウェルを、PBS−Tで2回洗浄した。次いで、過酸化酵素で標識されたヤギ抗ヒトIgG F(ab’)抗体(Biosource International社製)を10%ブロックエース(大日本製薬株式会社製)含有PBS−Tで2,000倍に希釈した溶液50μlを、各ウェルに加え、室温下30分インキュベートした。マイクロプレートを、PBS−Tで3回洗浄後、発色基質液(TMB、DAKO社製)を各ウェルに100μl加え、室温下で20分間インキュベートした。各ウェルに2M硫酸50μlを加え反応を止めた。波長450nm(参照波長570nm)での吸光度をマイクロプレートリーダー(MTP−300,コロナ電気社製)で測定した。その結果、300クローン以上の抗r40−kDa OMP抗体が取得できた。その一部を図1に示す。
(実施例5)ヒト免疫グロブリン軽鎖κ(IgLκ)を有するモノクローナル抗体の検出
実施例1で作製したr40−kDa OMP(1μg/ml 50mMNaHCO)を、ELISA用96穴マイクロプレート(Maxisorp、Nunc社製)の各ウェルに50μl加え、室温で30分インキュベートし、r40−kDa OMPをマイクロプレートに吸着させた。次いで、上清を捨て各ウェルにブロッキング試薬(SuperBlockTM Blocking Buffer,PIERCE社製)を加え室温で10分間インキュベートした。各ウェルを、PBS−Tで2回洗浄した。r40−kDa OMPをコーティングしたマイクロプレートの各ウェルに、各々のハイブリドーマの培養上清50μlを加え30分反応させた後、各ウェルをPBS−Tで2回洗浄した。次いで各ウェルに過酸化酵素で標識したヤギ抗ヒトIgκ抗体(2,000倍希釈、Biosource International社製)を50μl加え、室温下で30分間インキュベートした。PBS−Tで3回洗浄後、基質緩衝液(TMB、DAKO社製)を各ウェルに100μl加え、室温下で20分間インキュベートした。次いで、2M硫酸50μlを各ウェルに加え、反応を止めた。波長450nm(参照波長570nm)での吸光度をマイクロプレートリーダー(MTP−300,コロナ電気社製)で測定した。
(実施例6)各モノクローナル抗体のサブクラス同定
実施例1で作製したr40−kDa OMP(1μg/ml 50mMNaHCO)をELISA用96穴マイクロプレート(Maxisorp、Nunc社製)の各ウェルに50μl加え、室温で30分インキュベートしr40−kDa OMPをマイクロプレートに吸着させた。次いで、上清を捨て各ウェルにブロッキング試薬(SuperBlockTM Blocking Buffer,PIERCE社製)を加え室温で10分間インキュベートした。各ウェルを、PBS−Tで2回洗浄した。r40−kDa OMPをコーティングしたマイクロプレートの各ウェルに、各々のハイブリドーマの培養上清50μlを加え30分反応させた後、各ウェルをPBS−Tで2回洗浄した。次いで、各ウェルにそれぞれ過酸化酵素で標識したヒツジ抗ヒトIgG1抗体、ヒツジ抗ヒトIgG2抗体、ヒツジ抗ヒトIgG3抗体又はヒツジ抗ヒトIgG4抗体(各2,000倍希釈、The Binding Site社製)を50μl加え、室温下で30分間インキュベートした。PBS−Tで3回洗浄後、基質緩衝液(TMB、DAKO社製)を各ウェルに100μl加え、室温下で20分間インキュベートした。次いで2M硫酸50μlを各ウェルに加え反応を止めた。波長450nm(参照波長570nm)での吸光度をマイクロプレートリーダー(MTP−300,コロナ電気社製)で測定した。
(実施例7)各抗体の調製
抗r40−kDa OMP抗体を含む培養上清の調製は以下の方法にて行った。抗r40−kDa OMP抗体産生ハイブリドーマをウシインシュリン(5μg/ml、Gibco BRL社製)、ヒトトランスフェリン(5μg/ml、Gibco BRL社製)、エタノールアミン(0.01mM、シグマ社製)、亜セレン酸ナトリウム(2.5x10−5mM、シグマ社製)含有eRDF培地(極東製薬社製)に馴化した。スピナーフラスコにて培養し、ハイブリドーマの生細胞率が90%になった時点で培養上清を回収した。回収した上清は、10μmと0.2μmのフィルター(ゲルマンサイエンス社製)に供し、ハイブリドーマ等の雑排物を除去した。
上記培養上清からの抗r40−kDa OMP抗体の精製は以下の方法で行った。抗r40−kDa OMP抗体を含む培養上清をHyper D Protein Aカラム(日本ガイシ社製)を用い、付属の説明書に従い吸着緩衝液としてPBS(−)、溶出緩衝液として0.1Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.5)を用いてアフィニティー精製した。溶出画分は1M Tris−HCl(pH8.0)を添加してpH7.2付近に調整した。調製された抗体溶液は、透析膜(分子量10000カット、Spectrum Laboratories社製)を用いてPBS(−)に置換し、孔径0.22μmのメンブランフィルターMILLEX−GV(MILLIPORE製)でろ過滅菌し、精製抗r40−kDa OMP抗体を得た。精製抗体の濃度は280nmの吸光度を測定し、1mg/mlを1.45O.D.として算出した。
(実施例8)アイソタイプコントロール抗体の調製
同様の方法にてヒト抗体産生マウスにDNP−KLHを免疫後、その脾臓細胞をマウスミエローマSP2/0細胞融合させることにより多数のハイブリドーマを作製し、各々の抗ヒトIgG1,IgG2,IgG4抗体を調製した。
(実施例9)抗r40−kDa OMP抗体によるP.gingivalisの共凝集阻害
P.gingivalisの共凝集阻害試験は、Ellen R.P.らの方法(Infect.Immun.1989;57:1618−1620)を改変し実施した。P.gingivalis 381((1)〒271−8587 千葉県松戸市栄町西2−870−1 日本大学松戸歯学部口腔生化学講座 安孫子宜光教授、または(2)〒951−8514 新潟市学校町通2番町5274番地 新潟大学大学院 医歯学総合研究科 摂食環境制御学講座 歯周診断・再建学分野 吉江弘正教授から分譲可能)のvesicles(0.7ng/mL)をHiratsukaらの方法(Arch.Oral.Biol.1982;37:717−724)に従い調製し、各々の抗体と37℃、30分間反応させた。また、Actinomyces viscosus(A.viscosus、ATCC19246)を嫌気的に5mg/mL yeast extract(BBL社製)添加37mg/mL Brain heart infusion(BBL社製)中、37℃で培養し、PBSで吸光度が1.5(波長500nm)になるよう調製した。調製されたA.viscosus 50μLを等量のPBSで懸濁し、この溶液に各抗体と反応させたP.gingivalis 381のvesicles 50μLを添加し、フロキュレーションスライド上で37℃、10分間反応させた。反応後、肉眼あるいは光学顕微鏡下で凝集活性を評価した。阻害活性の基準(スコア0−4)はCisar.J.O.らの方法に従った(Infect.Immun.,1979 Vol 33:467)。その結果、13個の抗r40−kDa OMP抗体がP.gingivalis 381のvesiclesとA.viscosusの共凝集阻害活性を示した。活性のある抗体の中で共凝集阻害活性が強いh13−17,5−89−2,a44−1および1−85−16を選抜した(表1)。以下の実験はこれら4つの抗体を用い実施した。
表1
各抗40kDa−OMP抗体によるP.gingivalisの共凝集阻害活性

(実施例10)抗r40−kDa OMP抗体によるヒト好中球貪食の賦活化
貪食試験はPerticarari S.らの方法(Cytometry 1991;12:687−693)を改変し実施した。P.gingivalis 381株を嫌気的に5μg/mLヘミン、0.5μg/mLビタミンK、0.5%yeast extract(Difco社製)添加Tripticase soy broth(BBL社製)中にて37℃で培養し、中期対数期までP.gingivalisを増殖させた。その後、遠心分離(10,000xg,10分,4℃)によって同細菌の細胞を回収し、60℃、30分で熱処理しPBSで2回洗浄後2x10cfu/mLに調製した。P.gingivalis 381懸濁液1mLに、0.1M sodium carbonate buffer(pH9.6)で1mg/mLに調製されたFITC(Molecular Probes社製)を1mL添加し、37℃、30分培養し、PBSで3回洗浄後、FITC標識P.gingivalis 381を2x10cfu/mLに調製した。FITC標識P.gingivalis 381への抗r40−kDa OMP抗体の結合は、標識されていないP.gingivalis 381と同程度であった。ヒト好中球の分離法については、ヘパリンコート真空採血管によりヒト末梢静脈血を採取後、Histopaque1077と1119(Sigma社製)を用いた2重密度勾配遠心法にて行った。更に、氷令した溶血液(10mM Tris,10mM KCl,1mM MgCl,pH7.4)にて残存赤血球を低張溶血し、PBSにて浸透圧を回復後、洗浄し、2x10/mLに調製した。調製された好中球は直ちに次の貪食試験に供した。
2x10cfu/mLのFITC標識P.gingivalis 381を各々の抗r40−kDa OMP抗体あるいはコントロール抗体を(1μg/mL,5μL)を加え、37℃、30分間反応させた。PBSで2回洗浄後、再懸濁した。ヒト好中球とFITC標識P.gingivalisを1:20の割合になるよう混合し、4℃あるいは37℃で30分間培養した。貪食反応後10,000個の好中球をFACScan(Becton Dickinson社製)で取り込み、FITCの蛍光強度を測定することにより、貪食能を評価した。貪食した好中球の割合(貪食率)は以下の計算式により求めた。貪食率(%)=(37℃でのFITC陽性好中球の割合(%))−(4℃でのFITC陽性好中球の割合(%))その結果、何れの抗体もコントロール抗体と比較した場合、好中球の貪食活性を増強する効果があることが観察された(表2)。さらに、報告されているマウス40−kDa OMP抗体(Pg−ompA3:Sito S.et.al.,Gen.Pharmacol,1997 Vol 28:675)とヒト40−kDa OMP抗体(h13−17,5−89−2,a44−1)と活性を同じ評価系にて比較した。その結果、マウス抗体Pg−ompA3はヒト好中球の貪食能を増強する活性は非常に弱く、ヒト抗体が優れていることが示された(図2)。
表2
各抗40kDa−OMP抗体によるヒトpolymorphonuclear neutrophilsのP.gingivalis貪食賦活化活性

(実施例11)r40−kDa OMP抗体と患者血清のP.gingivalisへの結合活性比較
4つのr40−kDa OMP抗体と慢性歯周病患者血清のP.gingivalisへの結合の強さを実施例4と同法のELISAにて比較した。r40−kDa OMPあるいはP.gingivalis超音波処理物をコーティングしたマイクロプレートの各ウェルに、各々の抗体(150ng/mL)あるいは適宜希釈した患者血清由来IgG抗体(Kobayashi,T.et.al.,Infect.Immun.,2001 Vol 69:2935)を50μl加え反応させた。洗浄後、過酸化酵素標識ヤギ抗ヒトIgG F(ab’)抗体(免疫生物研究所社製)と発色基質液(TMB)で結合抗体を検出した。その結果、r40−kDa OMPと同等に結合する濃度で比較すると、全ての抗体が患者血清より、P.gingivalisに強い結合活性を有する抗体であることが判明した(図3)。
(実施例12)各抗r40−kDa OMP抗体のヒト血液細胞交叉反応性
各モノクローナル抗体のヒト血液細胞への交叉反応性をFACS解析で調べた。1mLヘパリン(Novo社製)入りヒト末梢血10mLを10mLのPBS(−)で2倍に希釈し、20mLのFicoll−Paque PLUS液(Amersham Pharmacia Biotech社製)上に重層した。1500r.p.m.で30分間遠心後単核球画分を回収し、PBS(−)で2回洗浄した。調製された細胞は1%ラット血清入り、0.1%NaN、2%FCS含有PBSのStaining Buffer(SB)に2x10/mlの濃度で浮遊させた。細胞浮遊液(100μl/ウェル)を96−well丸底プレート(ベクトンディッキンソン社製)に分注した。h13−17,5−89−2,a44−1又は1−85−16の各々の抗体を5μg/mLの濃度で氷温下30分間インキュベートした。SBで2回洗浄した後、300μlのFACS緩衝液に懸濁し、FACS(FACScan、ベクトンディッキンソン社製)で各抗体の反応性を調べた。その結果、いずれの抗体もヒト末梢血細胞に結合しなかった。このことから全ての抗体がヒトに投与したときに副作用の生じにくい抗体であることが予想された。
(実施例13)抗r40−kDa OMP抗体のP.gingivalisに対する結合活性
各抗体のP.gingivalisに対する結合を表面プラズモン共鳴法(BIACORE、BIACORE社製)を用いて評価した。センサーチップ(CM5)を実験プロトコールに従い、アミンカップリング法で固定化した(固定化量:cIgG1=9097RU,a44−1=7355RU,h13−17=7473RU,5−89−2=7595RU,1−85−16=7870RU)。60℃で30分処理し死滅させたP.gingivalis菌体を10mM Tris−HCl/150mM NaCl,pH8.0の緩衝液にてO.D.550nm=0.4の濃度に調製し、流速10μL/minで供給した。その結果5−89−2は他の抗体と比べた場合解離速度が遅く、P.gingivalisに強く結合する抗体であることが分かった(図4)。歯周病の治療の際予想される唾液による抗体排除作用を考慮した場合、5−89−2のような解離が遅い抗体が良い。このことから5−89−2はヒトに投与したときに高い治療効果を示す抗体であることが予想された。
(実施例14)抗r40−kDa OMP抗体のP.gingivalisに対するヘミン結合阻害活性
40−kDa OMPに対するヘミンの結合を抗r40−kDa OMP抗体が阻害するか表面プラズモン共鳴法(BIACORE、BIACORE社製)を用いて評価した。アミンカップリング法でr40−kDa OMPを固定化した(RU=3500)。図5は、10mM Tris−HCl/150mM NaCl,pH8.0(T−B)の緩衝液にて20μg/mLに調製した各抗体を流速20μL/mで供給し、さらに、T−Bの緩衝液にて調製した5μg/mLのヘミン(シグマ社製)を供給した結果である。ヘミンの供給が開始された時間を0秒としたセンサグラムを示している。h13−17をr40−kDa OMPに前結合させた場合、ヘミンの結合がcIgGに比べ優位に低下していることが観察された。一方、他の3クローンは、前結合させてもコントロールと同程度のr40−kDa OMPとヘミンの結合が観察された。これらの結果より、h13−17は、ヘミンのr40−kDa OMPに対する結合を阻害することが示唆された。さらに、図6は、h13−17とヘミンを同時に反応させh13−17がヘミンとr40−kDa OMPの結合を阻害するかを調べたものである。h13−17とヘミンをT−B緩衝液にてそれぞれ20μg/mLと5μg/mLに調製し、r40−kDa OMP固定化センサーチップに流速20μL/mで供給した。対象抗体としてh13−17と解離速度がほぼ同じ(図4参照)であるa44−1抗体を用いた。その結果、アナライト拡散後の平衡期に近い時点(380秒)でのシグナルを見ると、h13−17存在下ではヘミンとr40−kDa OMPの結合シグナルは255RUで、h13−17単独のシグナル(252RU)とほぼ同じである。そのシグナルの差(255RU−252RU=3RU)は、この時点でのコントロールIgG1+ヘミンのシグナル(30RU)より明らかに低く、ヘミンはr40−kDa OMPと結合していない。一方、対象のa44−1の380秒時のシグナルはa44−1のシグナルとコントロールIgG1+ヘミンのシグナルの総和が180RU(148RU+32RU)で、a44−1+ヘミンのシグナルは170RUと抗体とヘミンが競合しない時の理論値(180RU)に近い値を示した。これらの結果より、h13−17はヘミンとOMP40の結合を強く阻害する抗体であることが示された。
(実施例15)抗r40−kDa OMP抗体のラット実験歯周炎に対する抑制効果
ラット末梢血よりラット好中球をLympholite−Rat(sigma社製)を用い密度勾配遠心法により分離し、実施例10と同様に各抗r40−kDa OMP抗体のラット好中球貪食賦活化活性の評価を行ったところ活性が観察された。そこで、P.gingivalisをラット口腔に接種することにより歯槽骨の吸収を惹起する実験的歯周炎の系を用いて、試験管内実験においてP.gingivalisに対して強い結合能、共凝集能阻害活性、好中球貪食賦活化活性を有する抗r40−kDa OMP抗体のラット実験歯周炎に対する抑制効果について検討した。P.gingivalis接種によるラット実験的歯周炎の惹起感染は、生後3週齢のSprague−Dawley系のSPFラットを使用し、1群6匹で行なった。健康状態を観察後、イオン交換水中に最終濃度1mg/mlのサルファメトキサゾールと200μg/mlのトリメトプリムを混合したものを飲料水として1週間与えて口腔常在菌を減少させた。その後,3日間抗生物質を含まないイオン交換水を与えPBSで作製した5%カルボキシメチルセルロース(CMC)溶液で調製したP.gingivalis株(ATCC33277)の菌液(10CFU/ml)を2日毎に3回、ラット口腔内へ直接投与した。P.gingivalis未接種群(sham)には5%CMC溶液のみを与え、同条件で飼育した。抗体の投与は、a44−1,h13−17,5−89−2抗体を各0.5mg/ml濃度に調製し、3抗体を等量づつ混ぜ合わせ5%CMC溶液で希釈した溶液の投与群とコントロールとしてPBSで作製した5%CMC溶液で0.5mg/mlに調製したDNPヒト抗体(IgG1)投与群を用いた。投与回数は、P.gingivalisの投与開始2日前から最終投与2日後まで毎日、計9回投与した。尚、P.gingivalis接種時においては、菌接種10分後に抗体を投与した。すべてのラットは、食事,飲料水を自由に摂取できるようにし、温度23℃、湿度60%および明暗12時間サイクルの環境下で飼育した。
ラット口腔内のP.gingivalisの存在は、PCR反応を行なって確認した。すなわち、綿棒でラット口腔内を30秒間拭って、プラーク細菌を採取し、ISOPLANT(ニッポンジーン社製)を用いてDNAを抽出した。抽出したDNAを20μLのT10溶液にて溶解し保存した。プライマーは、Ashimotoらが報告(Ashimoto,A.et.al.,Oral Microbiol Immunol.,1996 Vol 11:266)した16S rRNAの塩基配列に基づいて作製し、PCR反応は95℃5分間加熱変性後、95℃30秒、60℃1分、72℃1分を35サイクルで行った。
骨吸収の測定は以下の様に実施した。P.gingivalis接種最終日から42日目にすべてのラットをエーテル麻酔下で断頭瀉血により屠殺した。歯槽骨吸収量の評価は、上顎臼歯部のセメントエナメル境から歯槽骨頂までの距離を7個所測定して行なった。頭蓋骨を2気圧下で10分間加熱後、3%次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸漬して軟組織を除去し、1%メチレンブルー溶液で歯槽骨を染色乾燥させた試料をキーエンス社製デジタルHDマイクロスコープ(実体顕微鏡)で40倍の倍率で測定した。7個所の測定値を平均して個体当たりの骨吸収量とし、それぞれ6匹分の平均値を実験群の骨吸収量としてミリメートルで表示した。測定は、同一試料について3回実施し平均値と標準誤差(SE)を求めた。統計解析は、Fisher’s PLSD(StatView)にて行った。
その結果(図7)、P.gingivalisを投与した群は、明らかに非投与群に比較して有意に骨吸収量の増加が認められた(p<0.01)。また、抗r40−kDa OMP抗体の投与により有意に骨吸収の抑制が確認され、0.5mg/ml濃度で使用した群ではP.gingivalis非投与群と同程度で、P.gingivalis投与による骨吸収がほとんど認められなかった。コントロール抗体(DNP抗体)を投与した群では、P.gingivalisのみを投与した群に比較して、多少骨吸収量が減少したが、有意差は認められなかった。以上の結果から、骨吸収を指標とした今回の実験では、OMP40抗原に対するモノクローナル抗体がラット歯槽骨の吸収を抑制できることが明らかになった。OMP40抗体の投与により、骨吸収量に明らかな減少が認められたことから、実験終了時におけるP.gingivalisのラット口腔内残存率をPCRで検討の結果、P.gingivalis接種群では、6匹すべてにP.gingivalisの存在が確認されたが、OMP40抗体を投与した群では、6匹中5匹においてP.gingivalisの存在が確認されなかった(表3)。
表3

以上の結果より、OMP40モノクローナル抗体は歯周病治療に有効であることが強く示唆された。
【産業上の利用可能性】
実施例に示すように、本発明の40−kDa OMPと結合する抗体はP.gingivalisの凝集を阻害し、また白血球の貪食能を促進する。さらに、本発明の40−kDa OMPと結合する抗体は、口腔からP.gingivalisを排除することがでる。このことより、本発明の抗体またはその機能的断片を歯周病の治療、診断に有効に用いることができる。
本明細書に引用されたすべての刊行物は、その内容の全体を本明細書に取り込むものとする。また、添付の請求の範囲に記載される技術思想および発明の範囲を逸脱しない範囲内で本発明の種々の変形および変更が可能であることは当業者には容易に理解されるであろう。本発明はこのような変形および変更をも包含することを意図している。
【配列表】




【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘミンと40−kDa OMPとの結合阻害活性を有する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片。
【請求項2】
(1)P.gingivalis共凝集阻害活性、および(2)ヒト好中球貪食賦活活性を有する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片。
【請求項3】
(1)P.gingivalis共凝集阻害活性、および(2)ヘミンと40−kDa OMPとの結合阻害活性を有する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片。
【請求項4】
(1)ヒト好中球貪食賦活活性、および(2)ヘミンと40−kDa OMPとの結合阻害活性を有する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片。
【請求項5】
(1)P.gingivalis共凝集阻害活性、および(2)ヒト好中球貪食賦活活性、および(3)ヘミンと40−kDa OMPとの結合阻害活性を有する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片。
【請求項6】
P.gingivalis共凝集が、P.gingivalisとActinomyces viscosusの共凝集である、請求項2、3および5のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項7】
歯槽骨の吸収抑制活性を有する、40−KDaOMPと結合する抗体またはその機能的断片。
【請求項8】
抗体がヒト抗体である請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項9】
マウス−マウスハイブリドーマにより産生される請求項1〜8のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項10】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項1から9のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項11】
治療薬剤と共有的または非共有的に結合した、請求項1〜10のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項12】
治療薬剤が抗生物質または抗菌剤から選択される、請求項11記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項13】
抗生物質または抗菌剤がテトラサイクリンまたはミノサイクリンから選択される請求項12記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項14】
抗体のクラスがIgGである請求項1〜13のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項15】
IgGがIgG1である請求項14記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項16】
抗体のクラスがIgAである請求項1〜13のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項17】
重鎖定常領域のアミノ酸配列を改変した、請求項1〜16のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項18】
ハイブリドーマh13−17(受託番号FERM BP−8325)が産生する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片。
【請求項19】
ハイブリドーマh13−17(受託番号FERM BP−8325)が産生する抗体の可変領域を有する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片。
【請求項20】
治療薬剤と共有的または非共有的に結合した、請求項18または19に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項21】
治療薬剤が抗生物質または抗菌剤から選択される、請求項20記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項22】
抗生物質または抗菌剤がテトラサイクリンまたはミノサイクリンから選択される請求項21記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項23】
抗体のクラスがIgGである請求項18〜22のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項24】
IgGがIgG1である請求項23記載の抗体又はその機能的断片。
【請求項25】
抗体のクラスがIgAである請求項18〜22のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項26】
重鎖定常領域のアミノ酸配列を改変した、請求項18〜25のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項27】
ハイブリドーマh13−17(受託番号FERM BP−8325)。
【請求項28】
ハイブリドーマ5−89−2(受託番号FERM BP−8323)が産生する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片。
【請求項29】
ハイブリドーマ5−89−2(受託番号FERM BP−8323)が産生する抗体の可変領域を有する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片。
【請求項30】
治療薬剤と共有的または非共有的に結合した、請求項28または29に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項31】
治療薬剤が抗生物質または抗菌剤から選択される、請求項30記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項32】
抗生物質または抗菌剤がテトラサイクリンまたはミノサイクリンから選択される請求項31記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項33】
抗体のクラスがIgGである請求項28〜32のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項34】
IgGがIgG1である請求項33記載の抗体又はその機能的断片。
【請求項35】
抗体のクラスがIgAである請求項28〜32のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項36】
重鎖定常領域のアミノ酸配列を改変した、請求項28〜35のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項37】
ハイブリドーマ5−89−2(受託番号FERM BP−8323)。
【請求項38】
ハイブリドーマa44−1(受託番号FERM BP−8324)が産生する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片。
【請求項39】
ハイブリドーマa44−1(受託番号FERM BP−8324)が産生する抗体の可変領域を有する、40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片。
【請求項40】
治療薬剤と共有的または非共有的に結合した、請求項40または41記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項41】
治療薬剤が抗生物質または抗菌剤から選択される、請求項40記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項42】
抗生物質または抗菌剤がテトラサイクリンまたはミノサイクリンから選択される請求項41記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項43】
抗体のクラスがIgGである請求項38〜42のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項44】
IgGがIgG1である請求項43記載の抗体又はその機能的断片。
【請求項45】
抗体のクラスがIgAである請求項38〜42のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項46】
重鎖定常領域のアミノ酸配列を改変した、請求項38〜45のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片。
【請求項47】
ハイブリドーマa44−1(受託番号FERM BP−8324)。
【請求項48】
ハイブリドーマh13−17(受託番号FERM BP−8325)、ハイブリドーマ5−89−2(受託番号FERM BP−8323)およびハイブリドーマa44−1(受託番号FERM BP−8324)からなる群から選択されるハイブリドーマの保有する核酸であって、前記ハイブリドーマが産生する抗体の可変領域を含む抗体をコードする核酸または該抗体の機能的断片をコードする核酸。
【請求項49】
請求項48に記載の核酸によりコードされる、抗体またはその機能的断片である蛋白質。
【請求項50】
請求項48に記載の核酸を有する発現ベクター。
【請求項51】
請求項50に記載の発現ベクターを有する宿主。
【請求項52】
大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳類細胞および植物細胞並びに哺乳動物からなる群から選ばれる請求項51記載の宿主。
【請求項53】
ハイブリドーマh13−17(受託番号FERM BP−8325)、ハイブリドーマ5−89−2(受託番号FERM BP−8323)およびハイブリドーマa44−1(受託番号FERM BP−8324)からなる群から選択されるハイブリドーマから40−kDa OMPと結合する抗体をコードする遺伝子を単離し、該遺伝子を有する発現ベクターを構築し、該発現ベクターを宿主に導入して該抗体を発現せしめ、得られる宿主、宿主の培養上精または宿主の分泌物から該抗体を採取することを含む、40−kDa OMPと結合する抗体の製造方法。
【請求項54】
40−KDaOMPと結合する抗体またはその機能的断片を有効成分として含有する、歯槽骨の吸収抑制剤。
【請求項55】
抗40−kDa OMPと結合する抗体またはその機能的断片を有効成分として含有する、歯周病の予防、診断または治療剤。
【請求項56】
40−KDaOMPと結合する抗体またはその機能的断片の歯槽骨の吸収抑制剤の製造のための使用。
【請求項57】
40−KDaOMPと結合する抗体またはその機能的断片を調製し、動物に投与することを含む、歯槽骨の吸収抑制方法。
【請求項58】
40−KDaOMPと結合する抗体またはその機能的断片の歯周病の予防、診断または治療剤の製造のための使用。
【請求項59】
40−KDaOMPと結合する抗体またはその機能的断片を調製し、動物に投与することを含む、歯周病を診断、予防または治療する方法。
【請求項60】
請求項1〜26、28〜36、38〜46および49のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片を有効成分として含有する、歯周病の予防、診断または治療剤。
【請求項61】
請求項1〜26、28〜36、38〜46および49のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片を有効成分として含有する、歯槽骨の吸収抑制剤。
【請求項62】
請求項1〜26、28〜36、38〜46および49のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片の歯周病の予防、診断または治療剤の製造のための使用。
【請求項63】
請求項1〜26、28〜36、38〜46および49のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片の歯槽骨の吸収抑制剤の製造のための使用。
【請求項64】
請求項1〜26、28〜36、38〜46および49のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片を調製し、動物に投与することを含む、歯周病を診断、予防または治療する方法。
【請求項65】
請求項1〜26、28〜36、38〜46および49のいずれか1項に記載の抗体またはその機能的断片を調製し、動物に投与することを含む、歯槽骨の吸収抑制方法。

【国際公開番号】WO2004/083425
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【発行日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503719(P2005−503719)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003569
【国際出願日】平成16年3月17日(2004.3.17)
【出願人】(000253503)麒麟麦酒株式会社 (247)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(505079785)学校法人神奈川歯科大学 (6)
【Fターム(参考)】