説明

歯布の接着処理方法、及び歯付ベルト

【課題】溶剤系処理を省略した環境負荷の少ない、歯布の接着処理を提供する。
【解決手段】歯付ベルトの歯部表面を被覆する歯布の接着処理は、以下のような方法で行われる。即ち、硫黄化合物の水分散物、キノンオキシム系化合物、メタアクリレート系化合物、マレイミド系化合物、のうち少なくとも何れか一の加硫助剤又は当該加硫助剤を水に分散させたものを添加したレゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス処理液に繊維織物を含浸し、乾燥させる工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯布の接着処理方法、及び歯付ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、特許文献1や特許文献2は、ベルト長手方向において複数で配される歯部と、心線を埋設した背部と、から成り、歯部の表面に歯布が貼着された構成の歯付ベルトを開示する。
【0003】
これらの特許文献1・特許文献2にも示されるように、一般に、歯付ベルトの歯部を補強している歯布の歯部に対する接着処理として、下記(1)〜(3)のうちのいずれかひとつ又は組み合わせたDip処理が実施される。
(1)水系処理である、レゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス処理(以下、単にRFL処理とも称する。)
(2)溶剤系処理である、イソシアネート含有ゴム糊処理(P1処理とも称する。)
(3)溶剤系処理である、ゴム糊処理(S1処理とも称する。)
【0004】
更に、高負荷環境における剥離故障を防止するために、所謂ロールコーティング処理(Coat処理とも称する。)として(4)ゴム糊処理、又は(5)圧延ゴム処理が為され、これにより、歯ゴムと歯布の優れた接着性が確保され、もって、歯布が歯ゴムの補強剤としての役割を果たせるようになっている。
【0005】
Dip処理(上記(1)、(2))の目的は、主として歯布に使用される繊維織物(ナイロン、アラミド繊維等)への接着層被覆(接着層形成)であり、繊維と接着層基材の接着性が重要とされる。Coat処理(上記(3)〜(5))(なお、上記(3)のS1処理をDip処理に分類するのかCoat処理に分類するのかは、技術的に特に有意ではない。)は、Dip処理により形成された接着層基材と歯ゴムとの間に介在する接着層を形成するものであって、Dip処理により形成された接着層基材と歯ゴムの両方への接着性が重要とされる。
【0006】
上述のDip処理及びCoat処理を含む歯布の接着処理は、以下の課題/問題がある。即ち、第一に、処理工程を減らして低コストを実現することである。第二に、環境負荷を考慮することである。特に、上記(2)及び(3)に示されるような溶剤系処理は環境負荷が大きい。第三に、接着ゴム層との相溶性向上を目的としてRFL処理液中のゴムラテックス成分の比率を高くすると、このゴムラテックス自体の強度が不十分となりRFL処理液により形成される接着層基材全体の強度が低くなってしまう。第四に、接着に作用する科学的性質や接着層の基材が相互に異なる多層構造であるから、使用環境により接着層間剥離又は局所的に弱い部分の接着層凝集破壊による剥離が起こり易いし、複数の接着層を目的(例えば耐高負荷や耐熱性)に合わせて一度に制御することは困難である。
【0007】
この種の技術として、特許文献3は、例えばプリンター等のOA機器など低負荷環境向けの歯付ベルトを開示する。この歯付ベルトの構成は上記特許文献1に開示される構成と類似する。即ち、心線が埋設された背ゴム部と、該背ゴム部にベルト長手方向に所定のピッチで配設された複数の歯ゴム部とからなるベルト本体を備え、該ベルト本体のはゴム部側に歯布が被着された構成である。この特許文献3に記載される接着処理として、RF液又はRFL液に歯布を浸漬する点が記載されている。
【0008】
ところで、処理対象たる繊維が歯付ベルト用歯布ではなくゴム補強用コードであるが、特許文献4は、「ゴム補強用コード及び製造方法ならびにそれを用いたゴム製品」を開示する。
【0009】
【特許文献1】特開平6-323367号公報
【特許文献2】特開2005-98313号公報
【特許文献3】特開平9-229142号公報
【特許文献4】国際公開第2004/057099号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1〜4は、前述した第一乃至第四の課題/問題については一切言及していない。特許文献3に記載される歯付ベルトは主として低負荷環境向けとされ、層間剥離はさほど問題とならない。また、特許文献4は、本願と比較して、(1)処理対象がそもそも異なるし、(2)Dip処理の際に用いられる処理液にレゾルシン−ホルマリンが含有されるか否かの点でも異なる。付言するならば、後述するように処理温度についての制約の有無についても大きく異なっている。
【0011】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、溶剤系処理を省略した環境負荷の少ない、歯布の接着処理を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0013】
本発明の第一の観点によれば、歯付ベルトの歯部表面を被覆する歯布の接着処理は、以下のような方法で行われる。即ち、硫黄化合物の水分散物、キノンオキシム系化合物、メタアクリレート系化合物、マレイミド系化合物、のうち少なくとも何れか一の加硫助剤又は当該加硫助剤を水に分散させたものを添加したレゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス処理液に繊維織物を含浸し、乾燥させる工程を含む。これによると、溶剤系処理であるP1処理(イソシアネート含有ゴム糊処理)やS1処理(ゴム糊処理)を省略しても、これらの溶剤系処理を為して得られる歯布の接着力と同等以上の接着力が得られるので、溶剤系処理を省略した環境負荷の少ない接着処理が実現される。本接着処理方法は、溶剤系処理の省略により、処理工程が少ないという点でも有意である。更に、前記の歯布及び歯部の間の層の数を少なくできるので、用途に応じた該層の特性の制御が容易となる。
【0014】
本発明の第二の観点によれば、歯付ベルトの歯部表面を被覆する歯布の接着処理は、以下のような方法で行われる。即ち、(1)第一処理液としての、レゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス処理液に繊維織物を含浸し、乾燥させる工程としてのA工程と、(2)第二処理液としての、前記第一処理液と比較してゴムラテックス成分を多く含み、硫黄化合物の水分散物、キノンオキシム系化合物、メタアクリレート系化合物、マレイミド系化合物、のうち少なくとも何れか一の加硫助剤又は当該加硫助剤を水に分散させたものを添加したレゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス処理液に上記A工程の処理が為された前記繊維織物を含浸し、乾燥させる工程としてのB工程と、を含む。これによると、溶剤系処理であるP1処理(イソシアネート含有ゴム糊処理)やS1処理(ゴム糊処理)を省略しても、これらの溶剤系処理を為して得られる歯布の接着力と同等以上の接着力が得られるので、溶剤系処理を省略した環境負荷の少ない接着処理が実現される。本接着処理方法は、溶剤系処理の省略により、処理工程が少ないという点でも有意である。更に、前記の歯布及び歯部の間の層の数を少なくできるので、用途に応じた該層の特性の制御が容易となる。加えて、極めて良好な接着性が得られる。
【0015】
上記の歯布の接着処理は、更に、以下のような方法で行われる。即ち、前記加硫助剤はマレイミド系化合物を含むものとする。これによれば、歯布の接着性が良好となる。
【0016】
上記の歯布の接着処理は、更に、以下のような方法で行われる。即ち、上記の歯布の接着処理方法に沿って処理されたものに、前記レゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス処理液に添加した前記加硫助剤と同一の加硫助剤を含むゴム糊と、前記レゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス処理液に添加した前記加硫助剤と同一の加硫助剤を含む圧延ゴムと、をこの順にコーティングする。
【0017】
本発明の第三の観点によれば、以下のように構成される、歯付ベルトが提供される。即ち、上記の歯布の接着処理方法に沿って処理されたものにより表面が被覆され、ベルト長手方向において所定間隔で複数配設される、歯部と、心線が埋設される背部と、を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第一実施形態)
以下、図面を参照しつつ、本発明の第一実施形態を説明する。図1は、本発明に係る歯付ベルトの断面斜視図である。
【0019】
本実施形態において歯付ベルト1は、ベルト長手方向(図中で矢視する方向。)において所定間隔で配設される歯部2・2・・・と、心線3が埋設される背部4と、を含み、歯部2・2・・・の表面は歯布5により被覆される。
【0020】
歯部2・2・・・及び背部4に使用される原料ゴムは、水素化ニトリルゴム(HNBR)を始めとして、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン(ACSM)、クロロプレンゴムなどの耐熱老化性の改善されたものが好適である。
【0021】
歯布5として用いられる繊維織物は、平織物や綾織物、朱子織物などから成る。この繊維織物のベルト幅方向に延在する緯糸6は、例えば、(a)パラ系アラミド繊維のマルチフィラメント糸、メタ系アラミド繊維から成る紡績糸、ウレタン弾性糸、を合撚したものや、(b)パラ系アラミド繊維のマルチフィラメント糸、脂肪族繊維糸(6ナイロン、66ナイロン、ポリエステル、ポリビニルアルコール等)、ウレタン弾性糸、を合撚したもの、(c)メタ系アラミド繊維から成る紡績糸、ウレタン弾性糸、を合撚したもの、の(a)〜(c)が挙げられる。上記のアラミド繊維のマルチフィラメント糸は、0.3〜1.2デニールのフィラメント原糸を複数収束したものを複数本寄せ集めたマルチフィラメント糸、あるいは0.3〜1.2デニールのフィラメント原糸を複数収束したマルチフィラメント糸である。パラ系アラミド繊維としては、商品名ケブラー、テクノーラ、トワロン等が挙げられる。メタ系アラミド繊維としては、ノーメックス、コーネックス等が挙げられる。
【0022】
歯布5のベルト長手方向に延在する経糸7としては、パラ系アラミド繊維やメタ系アラミド繊維から成るアラミド繊維のフィラメント糸、6ナイロン、6.6ナイロン、12ナイロン等のポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル等のフィラメント糸から成る。
【0023】
次に、歯布5の接着処理について詳細に説明する。
【0024】
本実施形態における歯布5の接着処理においては、先ず、硫黄化合物の水分散物、キノンオキシム系化合物、メタアクリレート系化合物、マレイミド系化合物、のうち少なくとも何れか一の加硫助剤又は当該加硫助剤を水に分散させたものを添加したレゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス処理液に前述の繊維織物(未処理の繊維織物、未処理繊維織物)を含浸し、乾燥させる。
【0025】
上記「硫黄化合物の水分散物」としては、例えば、硫黄の水分散物やテトラメチルチウラムジスルフィドなどが採用され得る。上記「キノンオキシム系化合物」としては、例えば、p-キノンジオキシムなどが採用され得る。上記「メタアクリレート系化合物」としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレートやトリメチロールプロパントリメタクリレートなどが採用され得る。上記「マレイミド系化合物」としては、例えば、N,N’-m-フェニレンビスマレイミドやN,N’-(4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド)などが採用され得る。
【0026】
上記「当該加硫助剤を水に分散させたもの」における「水」は、例えばアルコールなどのメタノールを若干程度含むものであってもよい。これによれば、「当該加硫助剤」が水に対して不溶性の場合であっても、「当該加硫助剤」の水に対する親和性が向上して「当該加硫助剤」が分散し易くなる。
【0027】
本工程における、含浸後の乾燥は、例えば80〜220℃×2分とする。なお、ここで言う「乾燥」は、「加熱処理」の概念を含む場合もある。
【0028】
上記のようにRFL処理液に加硫助剤を添加することで以下の効果が期待される。即ち、RFL処理液中に含まれるゴムラテックス成分と外層ゴム(後記のCoat処理で形成されるゴム糊又は圧延ゴムを意味する。Coat処理が省略される場合は歯部を意味する。)との層間の化学的結合力が強化され(接着性が向上す)ることで、歯部2・2・・・に対する歯布5の接着性を維持しつつ、溶剤系処理であるP1処理やS1処理を省略できると考えられる。更に期待される効果として、RFL処理液中に含まれるゴムラテックス成分自身の化学的結合力(架橋の力)が強化され、その結果、接着層の凝集破壊による剥離(即ち、層間剥離)よりも、接着対象たる上記外層ゴムの破壊による剥離が先行すると考えられる。勿論、RFL処理液に加硫助剤を添加した上で、更に上記P1処理やS1処理を実施することは技術上、何ら制約を受けるものではない。
【0029】
次いで、上記工程において処理(含浸及び乾燥処理、なお、「含浸処理」・「含浸及び乾燥処理」は、Dip処理とも称される。)されたものに、上記工程においてRFL処理液に添加した加硫助剤と同一の加硫助剤を含むゴム糊と、上記工程においてRFL処理液に添加した加硫助剤と同一の加硫助剤を含む圧延ゴムと、をこの順にコーティングする。本工程は、Coat処理とも称される。「この順に」とあるのは、詳細には「繊維織物から歯部へ向かって、この順に」を意味する。上記工程においてRFL処理液に添加した加硫助剤と同一の加硫助剤をゴム糊と圧延ゴムの何れにも添加することで、(a)RFL処理液で処理された繊維織物とゴム糊の間の接着力、(b)RFL処理液で処理された繊維織物と圧延ゴムの間の接着力、(c)RFL処理液で処理された繊維織物とゴム糊と圧延ゴムの間の接着力、の著しい改善が期待される。
【0030】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態を説明する。以下、本実施形態が上記第一実施と相違する点を中心に説明し、重複する記載は適宜、割愛する。端的に言えば、本実施形態では、RFL処理液に繊維織物を含浸し、乾燥させる上述した工程を2回に分けて、実施する。
【0031】
<1回目:A工程、第一処理液>
第一処理液としての、RFL処理液に繊維織物(未処理の繊維織物、未処理繊維織物)を含浸し、乾燥させる。このとき、RFL処理液には、前述した何れの加硫助剤も添加しないこととする。これは、本工程においては、ゴムラテックス成分の架橋よりもRFの熱硬化を優先するためである。
【0032】
本工程における、含浸後の乾燥の処理条件は、例えば120〜220℃×2分とする。なお、220℃以上の高温で乾燥すると、一般に、RFLとナイロン繊維との接着性が良好となるものの、RFL処理液中のゴムラテックス成分の一部が分解してしまいゴム(ここで言う「ゴム」は、接着させる相手ゴムを意味する。)との接着性が悪化すると考えられる。他方、低温(例えば120℃以下)で乾燥すると、ゴムとの接着性は向上するが、RFLとナイロン繊維との接着性が悪化してしまう。いわば、これらの接着性はトレードオフであると言える。
【0033】
<2回目:B工程、第二処理液>
次に、第二処理液としての、上記第一処理液と比較してゴムラテックス成分を多く含み、硫黄化合物の水分散物、キノンオキシム系化合物、メタアクリレート系化合物、マレイミド系化合物、のうち少なくとも何れか一の加硫助剤又は当該加硫助剤を水に分散させたものを添加したRFL処理液に上記A工程の処理が為された繊維織物を含浸し、乾燥させる。
【0034】
本工程における、含浸後の乾燥の処理条件は、例えば室温〜200℃×3分とする。当該乾燥の処理条件は、種々の観点から決定すべきであって、例えば、第一に、RFの熱硬化を妨げることなく且つ加硫助剤を失活させない温度が好ましく、他の観点から第二に、一切加熱することなく室温とすることも有意義と考えられる。
【0035】
なお、上述したように、第一処理液に含まれるゴムラテックス成分の割合と、第二処理液に含まれるゴムラテックス成分の割合と、に差を設けるのは、以下の理由による。即ち、親和性の異なる繊維とゴムへの両方の接着性を高めることを目的とするからである。
【0036】
以下、上記各実施形態に係る歯布の接着処理方法の技術的効果を確認するための試験に関して説明する。上述した歯布の接着処理方法の技術的効果乃至意義は、下記の確認試験により合理的に裏付けられている。
【0037】
[1]ピール試験の概要
本ピール試験の目的は、処理歯布(RFL処理液に対する含浸及び乾燥に関する上述した処理が為された歯布を意味する。)と接着ゴム(Coat処理に係るもの。)の間の接着力を評価することにある。評価対象としては、第一に、高負荷用歯付ベルトを想定したもの、第二に、カム駆動用歯付ベルトを想定したもの、を挙げる。
【0038】
[1.1]試験条件
(1)接着ゴム(縦15cm、横3cm、厚み4mm)と処理歯布(縦15cm、横3cm、厚み4mm)を積層し、処理歯布と接着ゴムを挟んで反対側に補強用帆布を配し、この状態で加硫する。加硫条件は、165℃×30minとする。このとき、積層前に予め、縦方向の端2.5cmの部分であって処理歯布と接着ゴムとの間をマスキングテープを用いて隔てておく。
(2)加硫後、上記マスキングテープにより隔てられた端(処理歯布の端、補強用帆布付接着ゴムの端)をオートグラフの上下チャックに挟持させ、引張速度を50mm/minとして、引き剥がす。このときの剥離力(N/25mm)の最大値を後記の表6及び表7に記載すると共に、剥離面を目視観察して剥離態様を判断する。剥離態様は3種類に分類することとする。第一は、「界面」であり、これは「接着ゴムが歯布側剥離面に一切ついていない状態」を意味する。第二は、「ゴム付」であり、これは「破壊した接着ゴムが歯布側剥離面に一部、ついている状態」を意味する。第三は、「ゴム破壊」であり、これは「破壊した接着ゴムが歯布側剥離面に全面に亘ってついている状態」を意味する。
【0039】
[1.2]各種データ
【0040】
下記表1〜7中、特記ない限り、数字の単位は[wt%]であり、空欄は「添加なし」又は「処理なし」を意味する(後記の表8以降も同様である。)。下記表3に示される「P1用ゴム糊」は、下記表6及び表7の「P1」(P1処理)に対応する。下記表3に示される「S1用ゴム糊」は、下記表6及び表7の「S1」(S1処理)に対応する。下記表4に示される「タテ糸」は「緯糸」を、「ヨコ糸」は「経糸」を意味する。下記表5に示される「Coat-1」及び「Coat-2」は、本ピール試験において歯布と補強用帆布の間に配される接着ゴムを意味し、下記表6及び表7の「Coat-1」及び「Coat-2」に夫々、対応する。下記表6においてD及びEで特定されるピール試験は第一実施形態に係るものであり、Fで特定されるピール試験は第二実施形態に係るものである。下記表7においてI〜Kで特定されるピール試験は第一実施形態に係るものである。その他は、比較例である。
【0041】
なお、下記表6及び表7において「RFL-1」で特定される処理では、繊維織物をRFL処理液に含浸後、180℃×3分の条件で乾燥乃至加熱することとする。下記表6及び表7において「RFL-2」で特定される処理では、「RFL-1」で特定される処理が為された繊維織物をRFL処理液に含浸後、160℃×3分の条件で乾燥乃至加熱することとする。同様に、下記表6及び表7において「P1」で特定される処理では、予備乾燥(温度指定なし)した後、160℃×3分の条件でベーキングすることとする。下記表6及び表7において「S1」で特定される処理では、80℃×15分の条件で乾燥させることとする。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
【表5】

【0047】
【表6】

【0048】
【表7】

【0049】
[1.3.1]考察1
上記表6中、Bで特定されるピール試験の結果によれば、Coat処理(P1処理、S1処理)を省略すると接着力が低くなることが判る。Cで特定されるピール試験の結果によれば、Bで特定するピール試験と比較してRFL処理液のラテックス成分の割合を増しても接着力に改善は見込めないことが判る。Dで特定されるピール試験の結果によれば、マレイミド系化合物(加硫助剤)をRFL処理液に添加するだけで、接着力の観点において著しい改善が認められることが判る。Eで特定されるピール試験の結果によれば、同じ加硫助剤ではあるものの、マレイミド系化合物に比べてTAIC(トリアリルイソシアヌレート)は、接着力の改善にさほど寄与しないことが判る。これは、表5に示される接着ゴムの主成分(Coat-1及びCoat-2は、HNBRを主成分とする。)と加硫助剤との相性の問題ではないかと思われる。Fで特定されるピール試験の結果によれば、第二実施形態に係る歯布の接着処理方法が他の接着処理方法と比較して技術的に極めて優れていることが判る。
【0050】
[1.3.2]考察2
上記表7中、G〜Kで示されるピール試験では、上記表6中の各ピール試験と比較して、全体的に接着力が低くなっている。これは、公知の通り、以下の理由による。即ち、カム駆動用歯付ベルト用のRFL処理液には、歯布低摩擦効果を得るためにPTFE微粒子ディスパージョンが添加されており、このPTFE微粒子がRFL層に多く含まれることとなって、RFL層と接着ゴムとの間の接着力が阻害されるからである。Hで特定されるピール試験の結果によれば、Coat処理を省略すると接着力が極端に低くなることが判る。そこで、Iで特定されるピール試験の結果によれば、例えCoat処理を省略したとしても、RFL処理液に加硫助剤(本ピール試験ではマレイミド系化合物)を添加すれば、Coat処理を省略したことによる接着力の低下分を賄えることが判る。換言すれば、接着力の観点からは、上記Coat処理に代えて、RFL処理液に加硫助剤を添加してもよいことが判る。即ち、処理の一つを省略できる。さて、Jで特定されるピール試験と、Kで特定されるピール試験と、を比較することにより、RFL処理液に加硫助剤を添加した上で、更にP1処理及びS1処理を実施すると、処理歯布と接着ゴムとの間の接着力を更に強固とできることが判る。同様に、Kで特定されるピール試験は、Gで特定されるピール試験と比較した場合でも、処理歯布と接着ゴムとの間の接着力について優れていることが判る。言うなれば、RFL処理液に加硫助剤を添加することで得られる効果は、P1処理及びS1処理の有無とは完全に独立して奏されることが判る。
【0051】
[2]耐久試験の概要
本耐久試験の目的は、2軸高負荷走行試験機を用いて歯付ベルトの耐久性を広く調査することにある。評価対象としては、第一に、高負荷用歯付ベルトを想定したもの、第二に、カム駆動用歯付ベルトを想定したもの、を挙げる。以下、「2A」とあるのは「高負荷用歯付ベルト」を指し、「2B」とあるのは「カム駆動用歯付ベルト」を指す。
【0052】
[2A.1]試験条件
試験機:2軸高負荷走行試験機
評価ベルトサイズ:130H14M20(ベルト歯数:130歯、歯型H14M、ベルト幅:20mm)
ベルト製造方法:公知の圧入方法、又は公知の予成型工法
駆動プーリ歯数:33歯
従動プーリ歯数:61歯
設定張力:500N
回転数:1200rpm
負荷:従動プーリに対して600Nm
なお、「予成型工法」とは、予成型物(歯布/歯ゴム)と心線間に接着シートを配し、その配し方(接着層角度)によって、接着層が受ける応力を逃がすようにし、耐剥離性を改善したものである。
【0053】
[2A.2]各種データ
【0054】
下記表9に示される「丸1」・「丸2」は下記表11の「丸1」・「丸2」に対応する。下記表10に示される「R-1」・「R-2」は下記表11の「R-1」・「R-2」に対応する。下記表11に示される「ベルト1」は比較例であり、「ベルト2」・「ベルト3」は第二実施形態の実施例である。
【0055】
【表8】

【0056】
【表9】

【0057】
【表10】

【0058】
【表11】

【0059】
[2A.3]考察1
上記表11によれば、第二実施形態の実施例たるベルト2及びベルト3は、寿命時間や故障モードの観点において、従来品(ベルト1)と比較して、極めて優れた性能を呈していることが判る。詳細には以下の通りである。即ち、RFL液に加硫助剤を添加することにより、RFL層と外層ゴム(接着コートゴム層又は歯部ゴム層)との接着性が向上し、超高負荷における耐久走行評価において剥離故障現象を起こすことなく走行し、歯布摩耗からの歯欠け故障にて終了できた。ただし、高負荷時における張力維持が重要とされるので、抗張体である心線の構成等の最適化により張力を維持する必要があるだろう。
【0060】
[2B.1]試験条件
(1)
試験装置:クランクプーリ(22歯)、カムプーリ(44歯)、ウォータポンププーリ(19歯)、偏心プーリ(歯無し)、アイドラー(歯無し)を歯付ベルトの走行方向に沿って順に合理的に配設して成るレイアウトの試験装置
評価ベルトサイズ:120ZBS15(ベルト幅15mm、ベルト歯形ZBS、歯数120歯、歯ピッチ9.525mm)。
ベルト製造方法:公知の圧入工法
ベルトに掛かる有効張力:2500N
初張力:350N
クランクプーリ回転数:4000rpm
雰囲気温度:200℃(加速試験のため、超高温で実施)
なお、「初張力」とは、冷時初期設定張力を意味する。
【0061】
[2B.2]各種データ
【0062】
下記表13に示される「丸3」は、下記表15の「丸3」に対応する。下記表14に示される「R-3」は、下記表15の「R-3」に対応する。下記表15の「ベルト1」は比較例であり、「ベルト2」は第一実施形態の実施例である。
【0063】
【表12】

【0064】
【表13】

【0065】
【表14】

【0066】
【表15】

【0067】
[2B.3]考察1
上記表15に示されるベルト1とベルト2は、RFL処理液の種類が異なる。即ち、ベルト2を作成するにあたり用いられたRFL処理液(A6、詳しくは上記表2参照)には、ベルト1を作成するにあたり用いられたRFL処理液(A1)と異なり、マレイミド系の加硫助剤が添加されている。そして、斯かる添加によって、歯付ベルトとしての寿命が3倍以上に延び、更に故障モードが剥離から歯欠け(歯布摩耗によるもの。)に切り替わっていることが判る。これは、斯かる添加によってRFL層と外層ゴム(接着コートゴム層又は歯部ゴム層)との接着性が向上し、この結果、超高負荷における耐久走行評価において剥離故障現象を起こすことなく走行できたからだと考えられる。なお、高負荷時における張力維持が重要とされるので、対張体である心線の構成等の最適化により張力を維持する必要があるだろう。
【0068】
以上説明したように上記第一実施形態において、歯付ベルト1の歯部2・2・・・表面を被覆する歯布5の接着処理は、以下のような方法で行われる。即ち、硫黄化合物の水分散物、キノンオキシム系化合物、メタアクリレート系化合物、マレイミド系化合物、のうち少なくとも何れか一の加硫助剤又は当該加硫助剤を水に分散させたものを添加したレゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス処理液に繊維織物を含浸し、乾燥させる工程を含む。これによると、溶剤系処理であるP1処理(イソシアネート含有ゴム糊処理)やS1処理(ゴム糊処理)を省略しても、これらの溶剤系処理を為して得られる歯布の接着力と同等以上の接着力が得られるので、溶剤系処理を省略した環境負荷の少ない接着処理が実現される。本接着処理方法は、溶剤系処理の省略により、処理工程が少ないという点でも有意である。更に、前記の歯布5及び歯部2・2・・・の間の層の数を少なくできるので、用途に応じた該層の特性の制御が容易となる。
【0069】
また、上記第二実施形態において、歯付ベルト1の歯部2・2・・・表面を被覆する歯布5の接着処理は、以下のような方法で行われる。即ち、(1)第一処理液としての、レゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス処理液に繊維織物を含浸し、乾燥させる工程としてのA工程と、(2)第二処理液としての、前記第一処理液と比較してゴムラテックス成分を多く含み、硫黄化合物の水分散物、キノンオキシム系化合物、メタアクリレート系化合物、マレイミド系化合物、のうち少なくとも何れか一の加硫助剤又は当該加硫助剤を水に分散させたものを添加したレゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス処理液に上記A工程の処理が為された前記繊維織物を含浸し、乾燥させる工程としてのB工程と、を含む。これによると、溶剤系処理であるP1処理(イソシアネート含有ゴム糊処理)やS1処理(ゴム糊処理)を省略しても、これらの溶剤系処理を為して得られる歯布の接着力と同等以上の接着力が得られるので、溶剤系処理を省略した環境負荷の少ない接着処理が実現される。本接着処理方法は、溶剤系処理の省略により、処理工程が少ないという点でも有意である。更に、前記の歯布5及び歯部2・2・・・の間の層の数を少なくできるので、用途に応じた該層の特性の制御が容易となる。加えて、極めて良好な接着性が得られる。
【0070】
上記の歯布5の接着処理は、更に、以下のような方法で行われる。即ち、前記加硫助剤はマレイミド系化合物を含むものとする。これによれば、歯布5の接着性が良好となる。
【0071】
上記の歯布5の接着処理は、更に、以下のような方法で行われる。即ち、上記の歯布5の接着処理方法に沿って処理されたものに、前記レゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス処理液に添加した前記加硫助剤と同一の加硫助剤を含むゴム糊と、前記レゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス処理液に添加した前記加硫助剤と同一の加硫助剤を含む圧延ゴムと、をこの順にコーティングする。
【0072】
また、歯付ベルト1は、以下のように構成される。即ち、上記の歯布5の接着処理方法に沿って処理されたものにより表面が被覆され、ベルト長手方向において所定間隔で複数配設される、歯部2・2・・・と、心線3が埋設される背部4と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係る歯付ベルトの断面斜視図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯付ベルトの歯部表面を被覆する歯布の接着処理方法において、
硫黄化合物の水分散物、キノンオキシム系化合物、メタアクリレート系化合物、マレイミド系化合物、のうち少なくとも何れか一の加硫助剤又は当該加硫助剤を水に分散させたものを添加したレゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス処理液に繊維織物を含浸し、乾燥させる工程を含む、
ことを特徴とする歯布の接着処理方法
【請求項2】
歯付ベルトの歯部表面を被覆する歯布の接着処理方法において、
(1)第一処理液としての、レゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス処理液に繊維織物を含浸し、乾燥させる工程としてのA工程と、
(2)第二処理液としての、前記第一処理液と比較してゴムラテックス成分を多く含み、硫黄化合物の水分散物、キノンオキシム系化合物、メタアクリレート系化合物、マレイミド系化合物、のうち少なくとも何れか一の加硫助剤又は当該加硫助剤を水に分散させたものを添加したレゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス処理液に上記A工程の処理が為された前記繊維織物を含浸し、乾燥させる工程としてのB工程と、
を含む、ことを特徴とする歯布の接着処理方法
【請求項3】
前記加硫助剤はマレイミド系化合物を含むものとする、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の歯布の接着処理方法
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一に記載の歯布の接着処理方法に沿って処理されたものに、前記レゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス処理液に添加した前記加硫助剤と同一の加硫助剤を含むゴム糊と、前記レゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス処理液に添加した前記加硫助剤と同一の加硫助剤を含む圧延ゴムと、をこの順にコーティングする、
ことを特徴とする歯布の接着処理方法
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一に記載の歯布の接着処理方法に沿って処理されたものにより表面が被覆され、ベルト長手方向において所定間隔で複数配設される、歯部と、
心線が埋設される背部と、
を含む、ことを特徴とする歯付ベルト

【図1】
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【公開番号】特開2008−297671(P2008−297671A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146493(P2007−146493)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】