説明

歯科インプラント施術シミュレーションシステム、歯科インプラント施術シミュレーションプログラム。

【課題】歯科インプラントの埋入シミュレーションをするための、精度の高い患者の口腔内の3次元データの取得のためのマーカ、歯科インプラント施術シミュレーションプログラム及びコンピュータシステムを提供する。
【解決手段】マーカーは、患者の口腔内の粘膜に接着させるマーカーであって、当該マーカーは、X線非透過物質を含み、前記患者の口腔内の粘膜に接着する接着面を有し、口腔内計測器での計測の際、前記患者の口腔内の粘膜と区別できる素材で作製されており、(1)患者の口腔内の粘膜に当該マーカーが接着された状態での、X線CT機器によるCT撮影によって、当該患者の顎骨と当該マーカーとを含んだCT3次元データを取得でき、(2)患者の口腔内の粘膜に当該マーカーが接着された状態での、口腔内計測器による計測によって、当該患者の口腔内の粘膜と当該マーカーとを含んだ口腔内計測器3次元データを取得できる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科インプラント施術シミュレーションシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来は、特許文献1に開示されているように、ダブルスキャニング方法という手法が行われていた。
この手法は、まず、印象材とトレーを使用して歯の型をとる印象採得(いんしょうさいとく)を行い、その型に石膏などを流し込み、歯科インプラント施術の患者の歯の作業用模型を作製する。
そして、作製した歯の作業用模型を元にして、CT撮影用テンプレートを作製する。CT撮影用テンプレートとは、歯の3Dの立体画像であるCTデータを得るためにX線CT機器を用いてCT撮影をする際に患者が装着するものであり、造影剤を含んでいるもので作製される。
【0003】
CT撮影用テンプレートを用いてCT撮影をするのは、CT撮影時に粘膜面などの軟組織は撮影されにくく、また、アーチファクト(ノイズ)が起こるので正確な粘膜形状を得ることが難しいためである。
アーチファクト発生の原因は、CT撮影時に口腔内の金属歯冠などによるノイズが放射状に発生し、正常な顎骨や歯冠の画像が歪められ、正確な形状データが得られなくなるためである(メタルアーチファクト)。
メタルアーチファクト以外にも、CT撮影によるアーチファクトとして、リング状アーチファクト、シャワー状アーチファクト、モーションアーチファクト、ビームハードニングアーチファクト、階段状アーチファクト等がある。
【0004】
そして、(1)患者の口腔内に、上記で作製したCT撮影用テンプレートを装着して、CT撮影をし、X線CT機器からCTデータを出力する。
さらに、(2)上記で製作した患者の歯の作業用模型に、CT撮影用テンプレートを装着等させ、CT機器や計測器により計測して、3次元データを得る。
その上で、(1)で発生するアーチファクトが含まれたCTデータ(3次元データ)と、(2)で得られた歯の作業用模型の形状の3次元データとを、両方のデータに含まれるCT撮影用テンプレートの位置を合成(位置合わせ)の基準にして合成し、(1)のアーチファクトを取り除く。
このようにして、CTデータからアーチファクトを取り除き、かつ、CT撮影では撮影しづらい粘膜面などの軟組織のデータを取り込む方法は、ダブルスキャニング方法と呼ばれている。
【0005】
アーチファクトを取り除いたCTデータを元に、サージカルガイド(歯科インプラントを手術する際にドリルの挿入方向や深さを規定するためのガイド)の設計を行い、サージカルガイドが制作される。
制作されたサージカルガイドは、歯科インプラント手術時に、骨(歯槽骨・歯槽突起)に歯科インプラント(人工歯根)を埋めるための孔を開けるドリルが、最適な位置に導かれるよう、歯科インプラント(人工歯根)の施術に活用される。
【0006】
なお、歯科インプラントを手術する際にドリルの挿入方向や深さを規定するためのガイド(サージカルガイド)には、ガイドをどの部分で支持するかにより、骨(歯槽骨・歯槽突起)で支持する「骨支持タイプ」と、骨(歯槽骨・歯槽突起)を覆う粘膜で支持する「粘膜支持タイプ」と、歯牙で支持する「歯牙支持タイプ」の、3種類が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−191985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願に係る発明の課題は、以下の内容の解決である。
従来の方法では、CT撮影を行うとアーチファクトが発生するので、そのままの状態では必要なデータを得ることが困難である。
また、CT撮影によるCTデータから、アーチファクトを除去するためには、CT撮影用のテンプレートを、別途作製する必要があった。このCT撮影用テンプレートを作製するには時間がかかるため、インプラントの施術をスムーズに行うための阻害要因となっていた。
さらに、CT撮影での計測精度は、CT機器の断層ピッチ、CT機器の性能に依存するので、歯科インプラントの埋入シミュレーションをするために必要な精度が得られない可能性があった。
加えて、CT撮影用テンプレートを用いてCT撮影をした場合に、患者の口腔内の粘膜面などの軟組織は撮影されにくい上に、作製したCT撮影用テンプレートを装着している(噛んでいる)ため、患者の口腔内の粘膜(特に、歯茎の粘膜)が縮んで通常時とは形状が変わってしまう可能性がある。
この場合は、患者の口腔内の正確な粘膜の情報を得るのが難しいため、上記の骨(歯槽骨・歯槽突起)を覆う粘膜で支持する「粘膜支持タイプ」のサージカルガイドを作製しようとする場合に、困難が伴う。
また、歯科インプラントの施術のインプラント埋入位置による、歯科インプラント施術後の咬合平面、歯列のシミュレーションにおいて、正確なシミュレーションが実施できない可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1、
【0010】
(1)
【0011】
そこで、本発明に係るマーカーは、患者の口腔内の粘膜に接着させるマーカーであって、当該マーカーは、X線非透過物質を含み、前記患者の口腔内の粘膜に接着する接着面を有し、口腔内計測器での計測の際、前記患者の口腔内の粘膜と区別できる素材で作製されており、
(1) 患者の口腔内の粘膜に当該マーカーが接着された状態での、X線CT機器によるCT撮影によって、当該患者の顎骨と当該マーカーとを含んだCT3次元データを取得でき、
(2) 患者の口腔内の粘膜に当該マーカーが接着された状態での、口腔内計測器による計測によって、当該患者の口腔内の粘膜と当該マーカーとを含んだ口腔内計測器3次元データを取得できること、
を特徴とするマーカーである。
【0012】
(2)
【0013】
「口腔内の粘膜」には、歯肉が含まれる。
「X線非透過物質」としては、原子番号がおよそ50以上の物質が考えられる。例えば、バリウム、ヨウ素、タングステン、金、白金、等が考えられる。
「患者の口腔内の粘膜に接着」とは、接着力が強力でなくともよいが、少なくとも、患者の口腔内の粘膜に接着した状態で、X線CT機器によるCT撮影や、口腔内計測器による計測を行える程度の接着力は必要である、という意味である。
「患者の口腔内の粘膜に接着する接着面」としては、口腔内の口蓋側、舌側、歯槽粘膜、等に接着する面が考えられ、素材としては、通常の歯科医療において使用される人体に無害な物質のうち、口腔内の粘膜に接着する性質を有する物質を採用することや、人体に無害な接着剤を利用する事が考えられる。
「患者の口腔内の粘膜と区別できる素材」の例として、患者の口腔内の粘膜と混同しないように、赤色系統の素材を採用せず、赤色系統の色と区別がつきやすい色の素材を採用することが考えられる。
マーカーの形状として、口腔内計測器で計測しやすい形状にすることが考えられる。例えば、アンダーカット(くぼみ、くびれ、出っ張りの下)がある形状では、マーカーを口腔内計測器で計測する際に、捕捉漏れが生じる可能性がある。そこで、マーカーの形状として、アンダーカット(くぼみ、くびれ、出っ張りの下)がない形状を採用する事が考えられる。
また、マーカーの形状として、CTデータと口腔内計測器で撮影した計測データとを合成しやすい形状にすることが考えられる。例えば、マーカーの厚みが一定の形状とするよりも、マーカーにDカット面等を設け、マーカーの厚みを一定にしないことにより、当該Dカット面等を基準にしてCTデータと口腔内計測器で撮影した計測データとを合成しやすくなる。すなわち、何らかの凹凸形状をマーカーの表面に採用することにより、マーカーの厚みを一定にせず、当該凹凸形状を基準にして、CTデータと口腔内計測器で撮影した計測データとを合成すれば、より精度を高めることができる。
【0014】
(3)
【0015】
本発明により、本発明に係るマーカーを患者の口腔内の粘膜に接着した状態での、X線CT機器によるCT撮影によって、X線非透過物質をマーカーが含んでいるため、当該患者の顎骨と当該マーカーとを含んだCT3次元データを取得できる。
また、本発明に係るマーカーを患者の口腔内の粘膜に接着した状態での、口腔内計測器による計測によって、マーカーが患者の口腔内の粘膜と区別できる素材であるため、当該患者の口腔内の粘膜と当該マーカーとを含んだ口腔内計測器3次元データを取得できる。
よって、マーカーを介して、CT3次元データと口腔内計測器3次元データとから、アーチファクトを除去した患者の口腔内の顎骨及び粘膜を含む3次元データを生成することができる。
【0016】
2、
【0017】
(1)
【0018】
また、他の本発明に係るコンピュータプログラムは、情報を記憶する記憶手段と、情報を処理する処理手段と、利用者に情報を表示する出力手段と、利用者からの命令を受け付ける入力手段と、を備えたコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムであって、
当該コンピュータプログラムは、人の口腔内の顎骨及び粘膜を含む3次元データを利用して、前記出力手段に口腔内を再現して表示し、歯科インプラント施術のインプラント埋入位置による歯科インプラント施術後の咬合平面、歯列のシミュレーションを行うための歯科インプラント施術シミュレーションプログラムであり、
前記処理手段に、
(1) 前記入力手段を介した命令により、患者の口腔内の粘膜に前記のマーカーが接着された状態での、X線CT機器によるCT撮影によって取得され、前記記憶手段に記憶された、当該患者の顎骨と当該マーカーとを含んだCT3次元データを、読み込ませること、
(2) 前記入力手段を介した命令により、患者の口腔内の粘膜に前記のマーカーが接着された状態での、口腔内計測器による計測によって取得され、前記記憶手段に記憶された、当該患者の口腔内の粘膜と当該マーカーとを含んだ口腔内計測器3次元データを、読み込ませること、
(3) 前記入力手段を介した命令により、前記マーカーの位置を基準として、前記読み込んだ患者の顎骨と当該マーカーとを含んだCT3次元データと、前記読み込んだ患者の口腔内の粘膜と当該マーカーとを含んだ口腔内計測器3次元データと、から、患者の口腔内の顎骨及び粘膜を含む3次元データを生成させ、前記記憶手段に記憶させること、
(4) 当該記憶手段に記憶させた前記患者の口腔内の顎骨及び粘膜を含む3次元データを利用して、前記歯科インプラント施術のインプラント埋入位置による歯科インプラント施術後の咬合平面、歯列のシミュレーションを行わせること、
を特徴とする歯科インプラント施術シミュレーションプログラムである。
【0019】
(2)
【0020】
「記憶手段」とは、例えば、RAM、ROM、HDD等のコンピュータシステムにおける記憶装置が該当する。
「処理手段」とは、例えば、CPU等のコンピュータシステムにおける演算装置や、通信ネットワークで接続されたコンピュータシステムにおける中央処理サーバコンピュータが該当する。
「出力手段」とは、例えば、ディスプレイ等のコンピュータシステムにおける情報を表示する出力装置や、通信ネットワークで接続されたコンピュータシステムにおける情報端末としての携帯電話端末やパーソナルコンピュータ等が該当する。
「入力手段」とは、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等のコンピュータシステムにおける入力装置や、通信ネットワークで接続されたコンピュータシステムにおける情報端末としての携帯電話端末やパーソナルコンピュータ等が該当する。
【0021】
「コンピュータシステム」は、パーソナルコンピュータ等の1のハードウェア内にて完結して構成される場合もあるし、複数のコンピュータにより構成される場合もある。複数のコンピュータにより構成される場合の例として、通信ネットワークで接続されたコンピュータシステムにおいて、「処理手段」は中央処理サーバコンピュータ、「記憶手段」は中央処理サーバコンピュータが管理する記憶装置、「通信手段」は中央処理サーバコンピュータが管理する通信装置、「出力手段」や「入力手段」としては中央処理サーバコンピュータと通信する情報端末(携帯電話、パーソナルコンピュータ)、等の場合が該当する。
【0022】
「X線CT機器」には、通常の歯科インプラント施術において使用される各種のX線CT機器が含まれる。
「当該患者の顎骨と当該マーカーとを含んだCT3次元データ」の例として、DICOM DATA、VOLUME DATA、等がある。
「口腔内計測器」の例として、CEREC(登録商標) AC、等がある。
「当該患者の口腔内の粘膜及び歯牙と当該マーカーとを含んだ口腔内計測器3次元データ」の例として、DICOM DATA、VOLUME DATA、STL DATA、等がある。
「前記マーカーの位置を基準として、前記読み込んだ患者の顎骨と当該マーカーとを含んだCT3次元データと、前記読み込んだ患者の口腔内の粘膜及び歯牙と当該マーカーとを含んだ口腔内計測器3次元データと、から、患者の口腔内の顎骨及び粘膜を含む3次元データを生成させ」とは、CT3次元データと口腔内計測器3次元データとには、同じ位置にマーカーが存在するため、このマーカーの位置を基準として両3次元データを合成することを意味する。
マーカーの位置を基準として両3次元データを合成する手法としては、CT3次元データと口腔内計測器3次元データとを単純に合成する手法や、CT3次元データと口腔内計測器3次元データとに差異が生じる場合にどちらかの3次元データを優先する手法、CT3次元データと口腔内計測器3次元データとを単純に合成した上でソフトウェアにより微修正を行う手法、等が考えられる。
他にも、例えば、ソフトウェアの分野において行われている画像やデータの合成手法を活用する事が考えられる。
【0023】
(3)
【0024】
本発明により、マーカーの位置を基準として、前記読み込んだ患者の顎骨と当該マーカーとを含んだCT3次元データと、前記読み込んだ患者の口腔内の粘膜と当該マーカーとを含んだ口腔内計測器3次元データと、から、患者の口腔内の顎骨及び粘膜を含む3次元データを生成、利用して、歯科インプラント施術のインプラント埋入位置による歯科インプラント施術後の咬合平面、歯列のシミュレーションを行うことができる。
よって、CT撮影用のテンプレートを別途作製せずに、アーチファクトを含んだCT3次元データからアーチファクトを除去することができる。
これにより、CT撮影用テンプレートを作製する時間を省略し、インプラントの施術を、従来よりもスムーズに行うことができる。
さらに、CT撮影での計測精度は、CT機器の断層ピッチ、CT機器の性能に依存するが、口腔内計測器3次元データとの合成により、歯科インプラントの埋入シミュレーションをするための精度を高めることができる。
加えて、CT撮影では撮影しにくい、患者の口腔内の粘膜面などの軟組織の撮影が実現でき、患者の口腔内の通常時の粘膜の形状を撮影できる。
これは、患者の口腔内の正確な粘膜の情報が必要となる、上記の骨(歯槽骨・歯槽突起)を覆う粘膜で支持する「粘膜支持タイプ」のサージカルガイドを作製しようとする場合に、特に有益である。
【発明の効果】
【0025】
本願に係る発明により、CT撮影用のテンプレートや石膏模型等を別途作製せずに、アーチファクトを含んだCT3次元データからアーチファクトを除去することができる。
また、正確な粘膜情報を得ることで、歯科インプラントの施術のインプラント埋入位置による歯科インプラント施術後の咬合平面、歯列のシミュレーションにおいて、より正確なシミュレーションを実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】歯科インプラント施術用のサージカルガイドの種類と特徴。
【図2】歯科インプラント施術用のサージカルガイドの種類と特徴2。
【図3】本発明に係るマーカーを、患者の口腔内の粘膜に接着させた図。
【図4】図3の患者の口腔内の状態で、口腔内計測器による計測によって取得した口腔内計測器3次元データの例。
【図5】図3の患者の口腔内の状態で、X線CT機器によるCT撮影によって取得したCT3次元データの例。
【図6】マーカーの位置を基準として、図4の口腔内計測器3次元データと、図5のCT3次元データと、から生成した、アーチファクトを除去した患者の口腔内の顎骨、粘膜及び歯牙を含む3次元データの例。
【発明を実施するための形態】
【0027】

1、

【0028】
図1及び2は、歯科インプラント施術用のサージカルガイドの種類と特徴を図示したものである。図1及び図2を使用して、以下、説明する。
【0029】
同図に示すのは、歯科インプラント施術用のサージカルガイドの種類と特徴についての出願人の考察であり、上記説明したように、サージカルガイド(図1(a))は、ガイドをどの部分で支持するかにより、骨(歯槽骨・歯槽突起)で支持する「骨支持タイプ(図1(b))」と、骨(歯槽骨・歯槽突起)を覆う粘膜で支持する「粘膜支持タイプ(図1(c))」と、歯牙で支持する「歯牙支持タイプ(図1(d))」の、3種類が存在する。
【0030】
このうち、歯牙の修復物として金属等を使用している場合、メタルアーチファクトが発生する。したがって、「骨支持タイプ」の場合は、サージカルガイド制作時に必要となる3次元データが「患者の口腔内の顎骨(歯槽骨・歯槽突起を含む)の3次元データ」であり、歯牙部にメタルアーチファクトが発生しても、顎骨の3次元データに影響する可能性は、比較的少ない。
また、「粘膜支持タイプ」の場合は、サージカルガイド制作時に必要となる3次元データが、「患者の口腔内の顎骨(歯槽骨・歯槽突起を含む)と粘膜の3次元データ」であるが、無歯顎の場合によく使用され、CT3次元データにアーチファクトが含まれる可能性は、比較的少ない。
「歯牙支持タイプ」の場合は、サージカルガイド制作時に必要となる3次元データが、「患者の口腔内の顎骨(歯槽骨・歯槽突起を含む)と粘膜と歯牙の3次元データ」であり、アーチファクトが含まれる可能性が比較的高い。
【0031】
図2に示すように、これら3種類のうち、「粘膜支持タイプ」と「歯牙支持タイプ」は、口腔内計測器で測定した、患者の口腔内の粘膜及び歯牙を含んだ口腔内計測器3次元データを活用することができる。
【0032】
よって、「粘膜支持タイプ」と「歯牙支持タイプ」の歯科インプラント施術用のサージカルガイド制作を伴う場合、歯科インプラント施術前に、本発明に係るマーカー、コンピュータプログラム、コンピュータシステム、を活用して歯科インプラント施術シミュレーションを行うことは、有益である。
【0033】

2、

【0034】
図3乃至図6は、本発明に係るマーカー、コンピュータプログラム、コンピュータシステム、の活用方法を図示したものである。図3乃至図6を使用して、以下、説明する。
【0035】
図3は、本発明に係るマーカーを、患者の口腔内の粘膜に接着させた図である。
本発明に係るマーカーは、患者の口腔内の粘膜に接着する接着面を有しているため、患者の口腔内の粘膜に接着させることができる。
【0036】
図4は、図3の患者の口腔内の状態で、口腔内計測器による計測によって取得した口腔内計測器3次元データの例である。
本発明に係るマーカーは、患者の口腔内の粘膜に接着する接着面を有しているため、患者の口腔内の粘膜に接着させたまま、口腔内計測器による計測によって口腔内計測器3次元データを取得することができる。
また、本発明に係るマーカーは、口腔内計測器での計測の際、前記患者の口腔内の粘膜と区別できる素材で作製されているため、図4の口腔内計測器3次元データの例のように、患者の口腔内の粘膜及び歯牙と、マーカーとを区別して、データ上認識することができる。
図4の口腔内計測器3次元データの例では、患者の口腔内の粘膜及び歯牙とマーカーとを含んだ3次元データとなっている。
【0037】
図5は、図3の患者の口腔内の状態で、X線CT機器によるCT撮影によって取得したCT3次元データの例である。
本発明に係るマーカーは、患者の口腔内の粘膜に接着する接着面を有しており、X線非透過物質を含んでいるため、患者の口腔内の粘膜に接着させたまま、X線CT機器によるCT撮影によって取得したCT3次元データを取得することができる。
図5のCT3次元データの例では、患者の顎骨と口腔内の粘膜及び歯牙とマーカーとを含んだ3次元データとなっている。
【0038】
一方、情報を記憶する記憶手段と、情報を処理する処理手段と、利用者に情報を表示する出力手段と、利用者からの命令を受け付ける入力手段と、を備えた本発明に係るコンピュータシステムが存在する。当該記憶手段には、本発明に係るコンピュータプログラムが記憶されている。
そして、当該コンピュータプログラムは、人の口腔内の顎骨、粘膜及び歯牙を含む3次元データを利用して、出力手段に口腔内を再現して表示し、歯科インプラント施術のインプラント埋入位置による歯科インプラント施術後の咬合平面、歯列のシミュレーションを行うための歯科インプラント施術シミュレーションプログラムである。
【0039】
図6は、マーカーの位置を基準として、図4の口腔内計測器3次元データと、図5のCT3次元データと、から生成した、アーチファクトを除去した患者の口腔内の顎骨、粘膜及び歯牙を含む3次元データの例である。
患者の口腔内の粘膜の同じ位置に本発明に係るマーカーを接着させたまま、図4の口腔内計測器3次元データと、図5のCT3次元データと、を取得することにより、マーカーの位置を基準として、アーチファクトを除去した患者の口腔内の顎骨、粘膜及び歯牙を含む3次元データを生成している。
【0040】
具体的には、上記のコンピュータシステムの入力手段を介した命令によって、図4の口腔内計測器3次元データと、図5のCT3次元データとを、それぞれ記憶手段に記憶させる。
さらに、入力手段を介した命令により、記憶手段に記憶された、図4の口腔内計測器3次元データと、図5のCT3次元データと、を処理手段に読み込み、マーカーの位置を基準として、CT3次元データからアーチファクトを除去し、患者の口腔内の顎骨、粘膜及び歯牙を含む3次元データを生成する。
【0041】
そして、当該記憶手段に記憶させたアーチファクトを除去した前記患者の口腔内の顎骨、粘膜及び歯牙を含む3次元データを利用して、歯科インプラント施術のインプラント埋入位置による歯科インプラント施術後の咬合平面、歯列のシミュレーションを行わせる。
【0042】
これにより、CT撮影用のテンプレートを別途作製せずに、アーチファクトを含んだCT3次元データからアーチファクトを除去することができる。
また、CT撮影用テンプレートを作製する時間を省略し、インプラントの施術を、従来よりもスムーズに行うことができる。
さらに、CT撮影での計測精度は、CT機器の断層ピッチ、CT機器の性能に依存するが、口腔内計測器3次元データとの合成により、歯科インプラントの埋入シミュレーションをするための精度を高めることができる。
【0043】
例えば、比較的、歯牙の本数が残っている患者については、
患者の口腔内の粘膜に本発明に係るマーカーが接着された状態で、X線CT機器によるCT撮影によって取得された患者の顎骨、歯牙及びマーカーを含んだCT3次元データと、
患者の口腔内の粘膜に本発明に係るマーカーが接着された状態で、口腔内計測器による計測によって取得された患者の口腔内の粘膜、歯牙及びマーカーを含んだ口腔内計測器3次元データと、
から、本発明に係る歯科インプラント施術シミュレーションシステムにより、アーチファクトを除去して患者の口腔内の顎骨、粘膜及び歯牙を含む3次元データを生成させ、当該3次元データを利用して歯科インプラント施術のインプラント埋入位置による歯科インプラント施術後の咬合平面、歯列のシミュレーションを行わせることにより、
CT撮影用のテンプレートや石膏模型等を別途作製せずに、アーチファクトを含んだCT3次元データからアーチファクトを除去することができる。
よって、歯牙で指示する「歯牙支持タイプ」のサージカルガイドを製作する場合には、アーチファクトを除去した、患者の口腔内の顎骨、粘膜及び歯牙を含む3次元データを利用することが適する。
【0044】
一方、歯牙が残っていない、あるいは残本数が少ない患者については、
患者の口腔内の粘膜に本発明に係るマーカーが接着された状態で、X線CT機器によるCT撮影によって取得された患者の顎骨及びマーカーを含んだCT3次元データと、
患者の口腔内の粘膜に本発明に係るマーカーが接着された状態で、口腔内計測器による計測によって取得された患者の口腔内の粘膜及びマーカーを含んだ口腔内計測器3次元データと、
から、本発明に係る歯科インプラント施術シミュレーションシステムにより、患者の口腔内の顎骨及び粘膜を含む3次元データを生成させ、当該3次元データを利用して歯科インプラント施術のインプラント埋入位置による歯科インプラント施術後の咬合平面、歯列のシミュレーションを行わせることにより、
CT撮影用のテンプレートや石膏模型等を別途作製せずに、CT撮影では撮影しにくい、患者の口腔内の粘膜面などの軟組織の撮影が実現でき、患者の口腔内の通常時の粘膜の形状を撮影できる。
よって、患者の口腔内の正確な粘膜の情報が必要となる、骨(歯槽骨・歯槽突起)を覆う粘膜で支持する「粘膜支持タイプ」のサージカルガイドを製作する場合には、患者の口腔内の顎骨及び粘膜を含む3次元データを利用することが適する。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係るマーカー、コンピュータプログラム、コンピュータシステム、を生産、販売することにより、産業の発達に寄与することができるため、産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の口腔内の粘膜に接着させるマーカーであって、
当該マーカーは、
X線非透過物質を含み、
前記患者の口腔内の粘膜に接着する接着面を有し、
口腔内計測器での計測の際、前記患者の口腔内の粘膜と区別できる素材で作製されており、

(1) 患者の口腔内の粘膜に当該マーカーが接着された状態での、X線CT機器によるCT撮影によって、当該患者の顎骨と当該マーカーとを含んだCT3次元データを取得でき、

(2) 患者の口腔内の粘膜に当該マーカーが接着された状態での、口腔内計測器による計測によって、当該患者の口腔内の粘膜と当該マーカーとを含んだ口腔内計測器3次元データを取得できること、

を特徴とするマーカー。

【請求項2】
情報を記憶する記憶手段と、情報を処理する処理手段と、利用者に情報を表示する出力手段と、利用者からの命令を受け付ける入力手段と、を備えたコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムであって、
当該コンピュータプログラムは、人の口腔内の顎骨及び粘膜を含む3次元データを利用して、前記出力手段に口腔内を再現して表示し、歯科インプラント施術のインプラント埋入位置による歯科インプラント施術後の咬合平面、歯列のシミュレーションを行うための歯科インプラント施術シミュレーションプログラムであり、

前記処理手段に、

(1) 前記入力手段を介した命令により、患者の口腔内の粘膜に請求項1記載のマーカーが接着された状態での、X線CT機器によるCT撮影によって取得され、前記記憶手段に記憶された、当該患者の顎骨と当該マーカーとを含んだCT3次元データを、読み込ませること、

(2) 前記入力手段を介した命令により、患者の口腔内の粘膜に請求項1記載のマーカーが接着された状態での、口腔内計測器による計測によって取得され、前記記憶手段に記憶された、当該患者の口腔内の粘膜と当該マーカーとを含んだ口腔内計測器3次元データを、読み込ませること、

(3) 前記入力手段を介した命令により、前記マーカーの位置を基準として、前記読み込んだ患者の顎骨と当該マーカーとを含んだCT3次元データと、前記読み込んだ患者の口腔内の粘膜と当該マーカーとを含んだ口腔内計測器3次元データと、から、患者の口腔内の顎骨及び粘膜を含む3次元データを生成させ、前記記憶手段に記憶させること、

(4) 当該記憶手段に記憶させた前記患者の口腔内の顎骨及び粘膜を含む3次元データを利用して、前記歯科インプラント施術のインプラント埋入位置による歯科インプラント施術後の咬合平面、歯列のシミュレーションを行わせること、

を特徴とする歯科インプラント施術シミュレーションプログラム。


【請求項3】
情報を記憶する記憶手段と、情報を処理する処理手段と、利用者に情報を表示する出力手段と、利用者からの命令を受け付ける入力手段と、を備えたコンピュータシステムであって、
請求項2記載のコンピュータプログラムを前記記憶手段が記憶し、

請求項2記載の(1)乃至(4)の処理を、前記処理手段が行う、

歯科インプラント施術シミュレーションコンピュータシステム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−322(P2013−322A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134143(P2011−134143)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】