説明

歯科技工用平行測定器

【課題】顎模型の歯面に最大豊降ラインとともに、アンダーカットラインを正確に描記する。
【解決手段】測定器は、顎模型Mを固定している模型台11と、顎模型Mの歯面に最大豊降ラインT、アンダーカットラインU等を描記するための描記棒12と、描記棒12を描記のために必要な任意の位置、姿勢に移動させうるように保持している測定器本体13とよりなる。測定器本体13によって、描記棒12は、垂直姿勢およびこれに対し所定角度をなす傾斜姿勢間で任意の角度をもつ姿勢に変更自在となされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、義歯の設計や製造にあたり、採取した顎模型上支台歯や残存歯、歯槽歯、歯槽堤等の平行関係やアンダーカットの位置等の測定を行ったり、残存歯にサベーラインその他、傾斜ラインすなわちクラスプと称される義歯装着用の鈎、または、義歯床の延長部を掛止するためのラインを描記するために用いられる歯科技工用平行測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の測定器において、例えば、顎模型の湾曲状歯面に最大豊降ラインを描記する場合、同歯面の湾曲面および垂直状に保持した描記棒の外周面を点接触させた状態で、接触点が連続したラインを描くように顎模型および描記棒のいずれか一方を定位置に保持した状態で、その他方を移動させるようにしている。
【0003】
さらに、この種の測定器において、最大豊降ラインに加えて、アンダーカットラインを描画しようとする場合、アンダーカットゲージを用いる必要があった。
【0004】
この種の測定器としては、大きく分けて、描記棒を移動させる可動性タイプのものと、顎模型を移動させる非可動性タイプのものとが知られている。今日では、操作性に優れた可動性タイプのものが主流である。
【0005】
可動性タイプの測定器としては、顎模型を傾斜角度の調整自在に固定する模型台と、描記棒を垂直姿勢に保持した状態で、描記棒を水平面内で自由に移動させる移動機構とを備えているものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
この測定器において、アンダーカットゲージを用いないで、アンダーカットラインを描記しようとする場合、最大豊降ラインを描記したときの顎模型の角度から、アンダーカット量に見合った角度だけ、顎模型を別の角度に設定し、最大豊降ラインを描記したときと同様に描記棒を移動させ、これにより、アンダーカットラインの描記が試みられた。しかしながら、このやり方では、必要とする正確なアンダーラインを描記することは不可能であった。
【0007】
その理由を、図8を参照しながら、以下に説明する。図8には、説明を分かり易くするために、顎模型の歯牙の1つを球体状模型Pとしてモデル化している。模型Pの球面および垂直状描記棒Rの外周面が点接触させられている。この状態で、垂直線L1の周りに模型Pを回転させると、模型Pの球面に円形状ラインが描かれる。このラインを、一応、アンダーカットラインUとして、実線で示す。図8中には、垂直線L1に対して反時計方向に所定角度θだけ傾斜させられた傾斜線L2が示されている。この傾斜線L2の周りに模型Pを回転させられると、アンダーカットラインUとは別の円形状ラインが描記されるが、これが、アンダーカットラインUを描記する前に描記された最大豊降ラインTに相当する。アンダーカットラインUおよび最大豊降ラインTをそれぞれ含む平面は、互いに交差させられている。これが意味するところは、最大豊降ラインTに対するアンダーカット量は変化して、上記アンダーカットラインUは、一定のアンダーカット量を描いていないため、真のアンダーカットラインではない、ということである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−289994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明の目的は、最大豊降ラインに対して、一定のアンダーカット量をもつアンダーカットラインを正確に描くことのできる歯科技工用平行測定器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明による歯科技工用平行測定器は、顎模型に描記するための描記棒が測定器本体に保持されており、測定器本体によって、描記棒は、垂直姿勢およびこれに対し所定角度をなす傾斜姿勢間で任意の角度をもつ姿勢に変更自在となされているものである。
【0011】
この発明による歯科技工用平行測定器では、最大豊降ラインおよびアンダーカットラインを描記する際に、顎模型を回転させるための角度を変更するのでは無く、描記棒の角度を変更することが可能である。したがって、一定のアンダーカット量をもつアンダーカットラインを正確に描くことができる。
【0012】
さらに、測定器本体が、水平状基台と、基台に立てられている支柱と、支柱から側方に突き出しているアームと、アームに取付られかつ描記棒を保持しているホルダとよりなり、基台に対する支柱の傾斜角度、支柱に対するアームの傾斜角度およびアームに対するホルダの傾斜角度の少なくともいずれか1つの傾斜角度が変更自在となされていると、描記棒の角度変更を、多くの自由度でもって、簡単に行うことができる。
【0013】
また、基台が、顎模型を固定するための固定台と、固定台の外周にそって水平面内を回転自在でありかつ支柱とともに回転させられる可動台とよりなり、支柱が、可動台に固定されている固定支柱と、固定支柱に水平軸線周りに揺動自在に連結されている可動支柱とよりなり、アームが、可動支柱から側方に突出させられるアーム長を有しており、そのアーム長が変更自在となされており、描記棒が、ホルダから下方に突出させられる描記棒長を有しており、その描記棒長が変更自在となされていると、可動台の回転動作と、アームの直線動作とによって、描記棒の姿勢を一定角度に保持した状態で、描記棒を水平面内において自由に移動させることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、最大豊降ラインに対して、一定のアンダーカット量をもつアンダーカットラインを正確に描くことのできる歯科技工用平行測定器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明による測定器の側面図である。
【図2】同斜視図である。
【図3】同測定器によって最大豊降ラインを描記する動作説明図である。
【図4】同測定器によってアンダーカットラインを描記する動作説明図である。
【図5】同最大豊降ラインおよびアンダーカットラインを模式的に示す説明図である。
【図6】同測定器の変形例を示す図1相当の側面図である。
【図7】同測定器の他の変形例を示す図1相の当側面図である。
【図8】従来の測定器によって描記した最大豊降ラインおよびアンダーカットラインを模式的に示す図5相当の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1および図2を参照すると、測定器は、顎模型Mを固定している模型台11と、顎模型Mの歯面に最大豊降ラインT、アンダーカットラインU等を描記するための描記棒12と、描記棒12を描記のために必要な任意の位置、姿勢に移動させうるように保持している測定器本体13とよりなる。
【0017】
模型台11は、下部台21と、下部台21に自由継手22を介して傾斜角度調整自在に取付られている上部台23とよりなる。下部台21には磁石(図示略)が内蔵されている。図示しないレバーの操作によって、磁石による吸引力がON・OFFされるようになっている。上部台23上には固定爪23aおよび可動爪23bが向き合うように設けられている。固定爪23aおよび可動爪23bに顎模型Mが挟まれることによって、顎模型Mが上部台23上に固定されている。
【0018】
描記棒12は、鉛筆の芯またはその類似物よりなるものであって、磁性金属製丸棒状ケース31の軸孔に出入り自在に収納されている。
【0019】
測定器本体13は、水平状基台41と、基台41に立てられている支柱42と、支柱42から側方に突き出しているアーム43と、アーム43に取付られかつ描記棒12を保持しているホルダ44とよりなる。
【0020】
基台41は、下部台21が磁石の磁力によって吸着されている横断面輪郭円形状外周面を有する水平円板状固定台51と、固定台51の外周面に摺動回転自在にはめ被せられている水平円環状可動台52とよりなる。
【0021】
支柱42は、一本の角棒状に連なっている下支柱61、中間支柱62および上支柱63よりなる。
【0022】
下支柱61の下端面は、可動台52上面に固定されている。下支柱61の上端部および中間支柱62の下端部は、下水平連結ピン71によって揺動自在に連結されている。下水平連結ピン71の軸線は、可動台52の回転中心線と直交させられている。下水平連結ピン71には下縦回転摘み72が備えられている。下縦回転摘み72の正逆回転によって、下支柱61に対する中間支柱62の揺動が拘束・自由とされる。下支柱61および中間支柱62の側面の境界には下角度ゲージ73が表示されている。
【0023】
中間支柱62の上端部および上支柱63の下端部は、上水平連結ピン74によって揺動自在に連結されている。上水平連結ピン74の軸線は、下水平連結ピン71の軸線と直交する方向にのびている。上水平連結ピン74には上縦回転摘み75が備えられている。上縦回転摘み75の正逆回転によって、中間下支柱61に対する上支柱63の揺動が拘束・自由とされる。中間支柱62および上支柱63の側面の境界には上角度ゲージ76が表示されている。
【0024】
上支柱63の上端面には可動ガイド片81が垂直連結ピン82によって揺動自在に連結されている。垂直連結ピン82には横回転摘み83が備えられている。横回転摘み83の正逆回転によって、上支柱63に対する可動ガイド片81の揺動が拘束・自由とされる。
【0025】
アーム43は、可動ガイド片81に摺動自在に貫通させられかつ下水平連結ピン71の軸線と同じ方向に互いに平行にのびている一対の進退ロッド91と、両進退ロッド91の先端部またがってこれと一体化されているヘッド92とよりなる。横回転摘み83の正逆回転によって、可動ガイド片81の揺動を規制すると同時に、進退ロッド91の進退が同じように規制されるようになっている。
【0026】
ホルダ44は、進退ロッド91の長さ方向と直交してヘッド92に垂下状に固定されている有蓋円筒状筒体よりなる。ホルダ44の上端部には磁石(図示略)が取付られている。ホルダ44には、描記棒12がケース31とともに出入自在かつ長さ方向に摺動自在にはめ入れられている。ホルダ44にその上端に当接するまでケース31をはめ入れると、ホルダ44に取付られた磁石にホルダ44が吸引されて、ホルダ44からケース31が不用意に脱落しないようになっている。
【0027】
まず、最大豊降ラインTを描記する場合を説明する。支柱42の下支柱61、中間支柱62および上支柱63を全体として、真っ直ぐのびた垂直姿勢とし、これらの揺動を、下縦回転摘み72および下縦回転摘み72によって拘束しておく。同時に、横回転摘み83によって、可動ガイド片81の揺動および進退ロッド91の進退は自由としておく。この状態で、描記棒12は垂直姿勢に保持されている。
【0028】
この状態で、可動台52の回転動作と、アーム43の直動動作と、描記棒12の昇降動作との組合せ動作によって、図3に示すように、描記棒12の外周面を顎模型Mの描記しようとする歯面の最大豊降部に点接触させる。そして、さらなる組合せ動作によって、主として、描記棒12を水平方向に移動させることによって、接触点の軌跡が最大豊降ラインTを描記する。
【0029】
最大豊降ラインTの描記に続いて、アンダーカットラインUを描記するためには、図4に示すように、描記棒12を垂直姿勢から傾斜姿勢に傾斜させる。これには、描記すべき歯面の位置に対応して、下縦回転摘み72および上縦回転摘み75のいずれかを選択し、下支柱61に対して、中間支柱62および上支柱63のいずかを傾斜させる。最大豊降ラインTを描記した場合と同様に、上記の組合せ動作を行わせると、最大豊降ラインTの下方レベルにアンダーカットラインUが描記される。
【0030】
上記により描記した最大豊降ラインTおよびアンダーカットラインUについて、図5を参照しながら、さらに詳しく説明する。図5において、図8に示した歯牙模型Pと同じ歯牙模型Pが示されている。図5において、実線で示す傾斜姿勢の描記棒12が、歯牙模型P球面との接触点に実線で示す円形状アンダーカットラインUを描記する。図5中、鎖線で、いま1つの描記棒12が垂直姿勢で示されている。この描記棒12によって描記された鎖線で示す円形状ラインが最大豊降ラインTである。アンダーカットラインUは、最大豊降ラインTより小径であるとともに、アンダーカットラインUを含む平面は、最大豊降ラインTを含む平面と平行でありかつ下方レベルに位置させられている。これは、アンダーカットラインUは、最大豊降ラインTに対して一定のアンダーカット量を正確に描記したラインであるということを意味する。
【0031】
つぎに、上記実施例の変形例を説明する。
【0032】
描記棒12を垂直姿勢から傾斜姿勢に、またはこの逆にするために、上記実施例では支柱42を傾斜させていたが、これに代わり、図6に示すように、アーム43を傾斜させるようにしても良い。アーム43は、支柱42上の支点C1を中心として揺動させられる。さらに、別の形態としては、図7に示すように、ホルダ44を傾斜させるようにしても良い。ホルダ44は、アーム43上の支点C2を中心として揺動させられる。
【0033】
以上は、可動性タイプの測定器について説明したが、この発明は、非可動性タイプの測定器にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
この発明による歯科技工用平行測定器は、顎模型の歯面に最大豊降ラインとともに、アンダーカットラインを正確に描記することを達成するのに適している。
【符号の説明】
【0035】
11 模型台
12 描記棒
13 測定器本体
M 顎模型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顎模型に描記するための描記棒が測定器本体に保持されており、測定器本体によって、描記棒は、垂直姿勢およびこれに対し所定角度をなす傾斜姿勢間で任意の角度をもつ姿勢に変更自在となされている歯科技工用平行測定器。
【請求項2】
測定器本体が、水平状基台と、基台に立てられている支柱と、支柱から側方に突き出しているアームと、アームに取付られかつ描記棒を保持しているホルダとよりなり、基台に対する支柱の傾斜角度、支柱に対するアームの傾斜角度およびアームに対するホルダの傾斜角度の少なくともいずれか1つの傾斜角度が変更自在となされている請求項1に記載の歯科技工用平行測定器。
【請求項3】
基台が、顎模型を固定するための固定台と、固定台の外周にそって水平面内を回転自在でありかつ支柱とともに回転させられる可動台とよりなり、支柱が、可動台に固定されている固定支柱と、固定支柱に水平軸線周りに揺動自在に連結されている可動支柱とよりなり、アームが、可動支柱から側方に突出させられるアーム長を有しており、そのアーム長が変更自在となされており、描記棒が、ホルダから下方に突出させられる描記棒長を有しており、その描記棒長が変更自在となされている請求項2に記載の歯科技工用平行測定器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−160940(P2011−160940A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26134(P2010−26134)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(591081309)ハイデンタル・ジャパン株式会社 (3)
【Fターム(参考)】