説明

歯科材料、歯科用組成物、歯科用接着材、再石灰化促進材、生体用接着材および齲蝕検出材

【課題】歯科用あるいは生体用接着材、再石灰化促進材、齲蝕検知材として使用することができる組成物の提供。
【解決手段】分子内の重合性基と少なくとも1個のスルホン酸基とを有する単量体(A)のスルホン酸基がカルシウムにより実質上完全中和されている単量体カルシウム塩(SA)、および/または、分子内に重合性基と少なくとも1個のスルホン酸基とを有する単量体(A)を含む重合性単量体の重合体(P)であり、該スルホン酸基がカルシウムにより実質上完全中和されている重合体カルシウム塩(SP)を含む組成物。
【効果】組成物は、特定の充填材を含有しており、歯科用接着材、生体用接着材、再石灰化促進材、齲蝕検知材として使用することができ、優れた接着性を示すと共に、適用した患部周辺に再石灰化を促すことができる。また、齲蝕検知材として精度よく齲蝕を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科材料、歯科用組成物、歯科用接着材、再石灰化促進材、生体用接着材および齲蝕検出材に関する。さらに詳しくは本発明は、歯科用ボンディング材、歯科用レジンセメント、歯科用充填材、歯科用プライマー材などの歯科用組成物、歯科用接着材あるいは生体用接着材、歯などの硬組織に対して適用し、適用部位よりカルシウム成分を供給することが可能な再石灰化促進材、塗布することにより齲蝕を検出可能な齲蝕検出材に関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕は口腔内に存在する齲蝕病原菌が産生する酸によって歯牙が脱灰を受ける病気であり、治療は感染部位の切削、歯科材料の充填・修復により行われる。このような齲蝕の治療において、脱灰を受けた歯牙の中で、例えば重篤な齲蝕により歯髄が露出した症例では、通常、歯髄除去療法が選択される。こうして歯髄を失った歯は機械的強度が低くなり、破折したり、歯周組織の化膿性炎症を惹起する危険が増加し、最終的に抜歯に至る時期が早まってしまう。したがって、歯の寿命を考えると、過度な切削を行なわず、齲蝕病原菌による感染の可能性が低く、再石灰化して硬化する余地のある象牙質を残したまま、次の処置へ移ることが好ましい。この場合、わずかに残った細菌が増殖しないように根絶する必要があり、さらに補綴物等の装着に際に使用する接着材の接着性能不足などを補う必要があり、強アルカリを用いて殺菌を行うと共に硬組織を形成するために水酸化カルシウムなどの無機化合物を使用した後に接着材を適用する手法が採られている。しかしながら、このような無機化合物は、その適用期間が、数週間〜数か月と長くなり、その期間中に生じる新たな齲蝕感染、接着効果の減少による歯質−接着材界面に間隙が生じて、いわゆる微小漏洩など生じやすい。また、歯科用接着材とこれら無機化合物を同時に併用することによる接着性能の著しい低下も懸念される。
【0003】
微小漏洩を併発した場合には、この間隙より刺激性物質や細菌等が侵入し、さらに修復部分での齲蝕再発生の確率が高くなる。このため、優れた接着効果を持ち、同時に微小漏洩を発生させないとともに、周囲の歯質に対する再石灰化能を兼ね備えた歯科用組成物あるいは歯科用接着材が望まれている。
【0004】
さらに、従来から利用されている歯科用接着材に、例えば、再石灰化促進材を添加することなどにより、硬組織形成作用、つまり、象牙質再石灰化を促す性質を付与させられると上記の問題が解決でき、治療時間の短縮のみならず、歯質切削量の削減ないしは歯牙の喪失をも減少させられることから、再石灰化能を付与した組成物が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、歯科用に使用される歯科材料を提供することを目的としている。さらに詳しくは歯牙の齲蝕や摩耗に対する修復、齲蝕予防充填材等として使用した場合に優れた接着硬化性を有するとともに、硬化接着後に歯髄への外的刺激、疼痛などの症状を沈静し、また、歯質を予防的に被覆保護することができる歯科材料、歯科用組成物、歯科用接着材、生体用接着材を提供することを目的としている。
【0006】
また、本発明は、再石灰化促進材を提供することを目的としている。さらに詳しくは本発明は、象牙質等の硬組織に対する再石灰化能を有し、口腔内組織等の接着に使用しうる再石灰化促進材を提供することを目的としている。
【0007】
さらに本発明は、齲蝕を検出するための齲蝕検出材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の歯科材料は、分子内の重合性基と少なくとも1個のスルホン酸基とを有する単
量体(A)のスルホン酸基がカルシウムにより実質上完全中和されている単量体カルシウム塩(SA)、
および/または
分子内に重合性基と少なくとも1個のスルホン酸基とを有する単量体(A)を含む重合
性単量体の重合体(P)であり、該スルホン酸基がカルシウムにより実質上完全中和されている重合体カルシウム塩(SP)を含むことを特徴としている。
【0009】
また、本発明の歯科用組成物は、次の(B)〜(D)から構成を有するものである。
(B)単官能(メタ)アクリレート:90〜99重量部(ただし、(B)と(C)との合計を100重量部とする)、
(C)分子内に酸性基を少なくとも1つ有する重合性単量体:1〜10重量部(ただし、(B)と(C)との合計を100重量部とする)、
(D)上記単量体カルシウム塩(SA)、および/または重合体カルシウム塩(SP)からなる充填材:0.5〜300重量部(ただし、上記(B)と(C)との合計を100重量部したときの比率である)。
【0010】
さらに、本発明の歯科用接着材あるいは生体用接着材は、上記の歯科用組成物からなることを特徴としている。
また本発明の再石灰化促進材は、上記の歯科用組成物からなることを特徴としている。
【0011】
さらにまた本発明の齲蝕検出材は、上記の歯科用組成物からなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の歯科材料は、歯科用接着材あるいは生体接着材の充填材として用いることにより、操作性を損なうことなく、優れた接着性能を有する接着材とすることができる。
また、本発明の歯科材料および歯科用組成物は、再石灰化促進材として使用することにより、周囲の硬組織、例えば歯質に対してカルシウムを供給して再石灰化を促進させると共に、この再石灰化促進材は、優れた接着性能をも有している。
【0013】
さらに上記歯科用組成物は、齲蝕を検出するための検出材とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に本発明の歯科材料、歯科用組成物、歯科用接着材、生体用接着材、再石灰化促進材および齲蝕検出材について、具体的に説明する。以下、本発明において、特別の表記がない限り「部」および「%」は重量基準を示す。
【0015】
本発明の歯科材料は、歯牙あるいは生体に使用することにより、患部周辺の再石灰化を促すとの効果を有するものである。
さらに、本発明の歯科用組成物は、歯質に代表される硬組織の修復治療を行う際に適用し、適用部位において重合することにより、歯科用金属、歯科用コンポジットレジン、歯科用硬質レジン、あるいは骨セメント等に代表される修復材との接着材となると共に、適用部位にカルシウム成分を供給し、適用部位周囲の再石灰化を促すとの効果を有する。
【0016】
本発明の歯科材料は、分子内に重合性基と少なくとも1個のスルホン酸基とを有する単
量体(A)のスルホン酸基がカルシウムにより実質上完全中和されている単量体カルシウム塩(SA)、
あるいは
分子内に重合性基と少なくとも1個のスルホン酸基とを有する単量体(A)を含む重合
性単量体の重合体(P)であり、該スルホン酸基がカルシウムにより実質上完全中和されている重合体カルシウム塩(SP
を含有する。本発明の歯科材料には、上記の単量体カルシウム塩(SA)、および、重
合体カルシウム塩(SP)の両者が含まれていてもよいし、いずれか一方が含まれていて
もよい。
【0017】
本発明の歯科材料に含有される上記の単量体カルシウム塩(SA)、あるいは、重合体
カルシウム塩(SP)は、口腔内などに代表される生体内で、徐々にカルシウムイオンを
放出して、周囲の組織が再石灰化するのを促すものである。
【0018】
本発明で使用する単量体カルシウム塩(SA)は、分子内に重合性基と、少なくとも1
個のスルホン酸基とを有する単量体(A)のスルホン酸基がカルシウムによって実質上完
全中和された重合性単量体である。
【0019】
また、本発明で使用する重合体カルシウム塩(SP)は、分子中に重合性基と、少なく
とも1個のスルホン酸基とを有する単量体(A)を含む重合性単量体の重合体(P)のカルシウム塩であり、この重合体中に存在するスルホン酸基がカルシウムによって実質上完全中和されている。
【0020】
本発明において、「実質上完全中和」しているとは、前記スルホン酸基の酸のグラム当量と、カルシウムのグラム当量とが、実質上等しくされている状態にあることを意味する。ここでグラム当量とは使用する酸性基(または塩基性基)のモル数を酸(又は塩基)としての価数で乗じた値を言う。即ち、酸(又は塩基)が中和に放出し得るH+(又はOH-)のモル数である。なお、弱酸基であるスルホン酸基を強塩基であるカルシウムで中和すると、厳密に完全中和しても、pH値は7にはならず、やや、アルカリ側に傾く傾向がある。
【0021】
本発明においては、スルホン酸基のカルシウムに起因するカルシウム塩基グラム当量とスルホン酸の酸グラム当量との比(カルシウム塩基グラム当量/スルホン酸基の酸グラム当量)を、好ましくは0.5〜2.0[グラム当量/グラム当量]、より好ましくは0.7〜1.5[グラム当量/グラム当量]、さらに好ましくは0.8〜1.2[グラム当量/グラム当量]の範囲内にする。前記数値範囲の下限値を下回るとカルシウム分の放出量が低下し、再石灰化に寄与することが実質上不可能となることがあり、一方、上限値を上回るとアルカリ成分が過多となり硬化後の物性が低下することがある。
【0022】
本発明において、「起因する」とは、例えば歯科材料あるいは歯科用組成物中に存するカルシウムの殆ど全ては実質上完全中和されたカルシウム塩を起源とする場合も指すが、カルシウム塩より構成されている素材(例えば(D)等)に存する酸性基と、歯科材料ある
いは組成物全体(前記素材以外(組成物マトリックス等)も含む)に存するカルシウムの、両者のグラム当量が実質上中和されている当量比になっている状態も指し、カルシウムイオンの起源は、必ずしも当該カルシウム塩に限定されるものではないということである。
【0023】
このような実質上完全中和されたカルシウム塩は、単量体(A)あるいは重合体(P)とCa(OH)2等のカルシウム化合物とを実質上同グラム当量反応させることにより製
造することができる。この中和反応は、単量体(A)あるいは重合体(P)とカルシウム
化合物とが反応し得る反応形態であればよく、通常は水等の反応溶媒の存在下に反応させ、反応後に反応溶媒を、例えば、蒸散、濾過、膜分離等により適宜除去することが望ましい。さらに、生成したカルシウム塩を水あるいはエタノールなどの水性溶媒で洗浄することが好ましく、このように洗浄して使用する場合には、前記洗浄に用いて残留している溶媒を積極的に除去して使用することが好ましい。このようにして精製された生成物に含有されるカルシウム塩の含有量は、好ましくは40〜100%、より好ましくは60〜100%、更に好ましくは80〜100%である。このような生成物中に含有されるカルシウム塩以外の成分は、通常は反応の際に反応溶媒として使用した水もしくは水性溶媒であり、このようなカルシウム塩以外の成分の含有量は、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜4%、更に好ましくは0〜2%である。
【0024】
なお、pH値を適切に管理してカルシウム塩を調製すれば、カルシウムが喪失されることは極めて少ないので、仕込み量を生成物組成(酸塩基グラム当量比)と看做すことが可能である。必要に応じて、除去した溶媒乃至は洗浄液のpH値、あるいは、生成物のpH値を測定確認しても良い。
【0025】
本発明において、単量体(A)の分子内に存在する重合性基としては、ラジカル重合性基が好ましく、これらの重合性基の例としては、ビニル基、シアン化ビニル基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基などを挙げることができる。
【0026】
従って、本発明において、分子内に重合性基と、少なくとも1個のスルホン酸基とを有
する単量体(A)の具体的な例としては、2−スルホエチル(メタ)アクリレート(「(
メタ)アクリレート」とは「アクリレート」と「メタクリレート」の総称、以下同様)、
2−または1−スルホ−1−または2−プロピル(メタ)アクリレート、1−または3−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート等のスルホアルキル(メタ)アクリレート;
前記のアルキル鎖の一部にハロゲン原子や酸素原子などのヘテロ原子を含む原子団を有する化合物、例えば、3−ブロモ−2−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシ−1−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート等;
4−スチレンスルホン酸、4−(プロプ−1−エン−2−イル)ベンゼンスルホン酸などのスチレンスルホン酸類、
((メタ)アクリルアマイド)メタンスルホン酸、2−((メタ)アクリルアマイド)エタンスルホン酸、3−((メタ)アクリルアマイド)プロパン−1−スルホン酸、2−(メタ)アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸などの(メタ)アクリルアマイド−アルカンスルホン酸類などを挙げることができる。
【0027】
これらのうち、4−メチルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸を好ましく使用することができる。
これら酸性基を有する単量体は、一般的に水に対する溶解度が高く、カルシウム塩も基本的には水可溶性である。これらは単独であるいは2種以上併用して重合に用いられる。
【0028】
また、本発明で使用するカルシウム塩(S)には、上記以外のその他の成分(T)が混合乃至は共重合等の形態にて含まれていても良い。その他の成分(T)としては、好適には、酸性基を有していない単量体あるいは重合体であり、例えば、後述の単官能(メタ)アクリレート(B)又はその重合体である。或いは、後述の(C)分子内に酸性基を少なくとも1つ有する重合性単量体であり、スルホン酸基を有しないもの(カルボン酸基またはリン酸基を有する重合性単量体等)又はその重合体であっても良い。本発明の歯科材料が、前記のような酸性基を有していない成分(TB)を含む場合には、酸性基を有してい
ない成分(TB)の合計100重量部に対してカルシウム塩(S)の比率は、通常は0.
5重量部以上、好ましくは1重量部以上、さらに好ましくは2重量部以上である。また、
本発明の歯科材料が、前記のような酸性基を有している成分(TC)を含む場合には、酸
性基を有している成分(TC)の合計100重量部に対して、カルシウム塩(S)の比率
は、通常は10重量部以上、好ましくは20重量部以上、さらに好ましくは30重量部以上である。なお、酸性基を有している成分(TC)が含有される場合には、この酸性基を
有している成分(TC)は、実質上カルシウムにより完全中和されていることが好ましい

【0029】
また、カルシウム塩(S)におけるカルシウム元素(Ca)の比率は、好ましくは0.05〜26%、より好ましくは0.1〜22%、更に好ましくは0.2〜19%である。前記数値範囲の下限値を下回るとカルシウム放出能が過小となりやすく、他方、上限値を上回ると充分な物性が発現しないことがある。
【0030】
本発明の歯科材料において、カルシウム塩は、口腔内などに代表される生体内で徐々にカルシウムイオンを放出して周囲の組織の再石灰化を促すものである。さらに、このカルシウム塩(SA)は後述する単量体(B)および/または(C)と共重合し、硬化体を形
成することで、修復材の接着材となるばかりでなく、適用部位周辺に対するカルシウム供給源となる。
【0031】
次の本発明の歯科用組成物について説明する。
本発明の歯科用組成物は、単官能(メタ)アクリレート(B)、分子内に酸性基を少な
くとも1つ有する重合性単量体(C)、および、充填材(D)とを含むものである。そして、本発明の歯科用組成物においては、充填材(D)として、上記単量体カルシウム塩(SA)、および/または重合体カルシウム塩(SP)からなる充填材(D)を用いることが好ましい。
【0032】
本発明の歯科用組成物を構成する単官能(メタ)アクリレート(B)としては、通常は酸性基を有しない単量体であり、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレ−ト類;
2−ハイドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ハイドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのハイドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;
メチルビス(オキシ−2,1−エタンジイル)(メタ)アクリレート、メチルテトラ(オキシ−2,1−エタンジイル)(メタ)アクリレートなどのアルキルポリ(オキシアルカンジイル)(メタ)アクリレート類;
アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート;
シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレート類;
(テトラハイドロフラン−2−イル)(メタ)アクリレートなどのヘテロ原子を含む環状アルキル(メタ)アクリレート類;
パーフルオロオクチル(メタ)アクリレートおよびヘキサフルオロ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステル;
3-(トリメトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリロキシアルキル基を有するシラン化合物を挙げることができる。これらの単量体は単独であるいは2種以上併用して重合に用いられる。
【0033】
また、歯質など硬組織に対する高い接着力を得るために、歯質などとの接着界面へのモノマーの拡散に低分子量モノマー、例えば分子量が300以下の低分子量モノマーが有益であり、このような低分子量モノマーとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレートを挙げることができる。本発明においては、単官能(メタ)アクリレート(B)
としてこのような低分子量モノマーも使用することができる。
【0034】
特に本発明では単官能(メタ)アクリレート(B)として、人体への刺激性が比較的低いメタクリレート類が特に好ましく使用される。
本発明の歯科用組成物における単官能(メタ)アクリレート(B)は、本発明の歯科用組成物を形成する単官能(メタ)アクリレート(B)、および酸性基を有する重合性モノマー(C)の合計量を100重量部中に、90〜99重量部の範囲内の量、好ましくは91〜98重量部の範囲内の量、特に好ましくは92〜97重量部の範囲内の量で含有される。この単官能(メタ)アクリレート(B)は、本発明の優れた特性を発現させるための基礎となるモノマーであり、上記範囲内で使用することによって本発明の物性に関する基礎的特性が確立する。
【0035】
本発明の歯科用組成物を構成する分子内に酸性基を少なくとも1つ有する重合性単量体(C)は、同一分子内に酸性基と不飽和二重結合とを有する化合物である。
このような分子内に酸性基を少なくとも1つ有する重合性単量体(酸性基含有単量体)(C)を配合することにより、本発明の歯科用組成物中の単量体成分と共重合して歯質あるいは骨質などの硬組織と間に高い接着強度が発現する。
【0036】
本発明で使用することができる酸性基含有単量体(C)の例としては、カルボキシル基含有重合性単量体、リン酸基含有重合性単量体、スルホン酸基含有重合性単量体を挙げることができる。
【0037】
本発明で酸性基含有重合性単量体(C)として使用可能なカルボキシル基含有重合性単量体の例としては、(メタ)アクリル酸(以下、アクリル酸と(メタ)アクリル酸の総称としてこのように記載する。)、マレイン酸等のようなα−不飽和カルボン酸;
4−ビニル安息香酸等のようなビニル芳香環類が付加したカルボン酸;
11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸(以下、アクリロイルとメタアクリロイルの総称として(メタ)アクリロイルと記載する。)等のような(メタ)アクリロイルオキシ基とカルボン酸基の間に直鎖炭化水素基が存在するカルボン酸;
1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルピロメリット酸、6-(メタ)アクリロ
イルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸等のような芳香環を有するカルボン酸;
4−(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸等のような4−(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメリット酸;
4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシ]ブチルトリメリット酸等のようなアルキル鎖に水酸基等の親水基を有するカルボン酸;
2,3−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレ−ト等のようなカルボキシベンゾイルオキシを有する化合物;
N,O−ジ(メタ)アクリロイルオキシチロシン、O−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン等のようなN−および/またはO−モノまたはジ(メタ)アクリロイルオキシアミノ酸;
2−または3−または4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−または5−(メタ)アクリロイルアミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノ安息香酸などの官能性置換基を有する安息香酸の(メタ)アクリロイル化合物;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとピロメリット酸二無水物の付加生成物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−トと無水マレイン酸または3,3’,4,4’
−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物または3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の付加反応物等のようなヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと不飽和ポリカルボン酸無水物の付加反応物;
2−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)−1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン等のようなポリカルボキシベンゾイルオキシと(メタ)アクリロイルオキシを有する化合物;
N−フェニルグリシンまたはN−トリルグリシンとグリシジル(メタ)アクリレ−トとの付加物;
4−[(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸;
3または4−[N−メチル−N−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸などを挙げることができる。
【0038】
これらのうち、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸および4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸が好ましく用いられる。
本発明で酸性基含有重合性単量体(C)として使用可能なリン酸基含有重合性単量体としては、少なくとも1個の水酸基がリン原子に結合している基および水中で容易に該基に変換し得る官能基を有する重合性単量体を使用することができる。ここで水中で容易に該基に変換し得る官能基として、例えばリン酸エステル基で水酸基を1個または2個を有する基を好ましく例示することができる。
【0039】
このようなリン酸基含有重合性単量体の例としては、
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェート、2−および3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシドホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルアシドホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルアシドホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルアシドホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルアシドホスフェート等のような(メタ)アクリロイルオキシアルキルアシドホスフェート;
ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]アシドホスフェート、ビス[2−または3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル]アシドホスフェート等のような2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を有するアシドホスフェート;
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−p−メトキシフェニルアシドホスフェート等のような(メタ)アクリロイルオキシアルキル基とフェニレン基などの芳香環やさらには酸素原子などのヘテロ原子を介して有するアシドホスフェートを挙げることができる。また、本発明で使用されるリン酸基含有重合性単量体としては、上記のような化合物におけるリン酸基を、チオリン酸基に置き換えた化合物も例示することができる。これらのうち、本発明では2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェートを好ましく使用することができる。
【0040】
本発明において酸性基含有重合性単量体(C)として使用されるスルホン酸基含有重合性単量体はスルホン酸基、または水中でスルホン酸基に容易に変換し得る官能基を有する化合物である。
【0041】
このようなスルホン酸基含有重合性単量体の例としては、
2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2−または1−スルホ−1−または2−プロピル(メタ)アクリレート、1−または3−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート等のようなスルホアルキル(メタ)アクリレート;
3−ブロモ−2−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシ−1−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート等のような前記のアルキル鎖の一部にハロゲン
原子あるいは酸素原子などのヘテロ原子を含む原子団を有する化合物;
1,1−ジメチル−2−スルホエチル(メタ)アクリルアミド、2−メチル−2−(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸等のような前記アクリレートに換えてアクリルアミドである化合物;
4−スチレンスルホン酸、4−(プロプ-1-エン−2−イル)ベンゼンスルホン酸など
のようなビニルアリールスルホン酸を挙げることができる。
【0042】
これら酸性基含有重合性単量体はすべて単独でまたは組み合わせて使用することができる。
本発明の歯科用組成物における分子内に酸性基を含有する重合性単量体(C)は、単官能(メタ)アクリレート(B)および酸性基を有する重合性モノマー(C)の合計量を100重量部中に、1〜10重量部の範囲内の量、好ましくは2〜9重量部の範囲内の量、特に好ましくは3〜8重量部の範囲内の量で使用することができる。このような量で分子内に酸性基を含有する重合性単量体(C)を使用することにより、本発明の歯科用接着性組成物は、被着体である歯質に代表される硬組織に対して良好な接着性を示すようになる。
【0043】
また、本発明の歯科用組成物における単官能(メタ)アクリレート(B)および分子内に
少なくとも1つの酸性基を有する重合性単量体(C)の合計量は、本発明の歯科用組成物
100重量部に対して、通常は13〜99.5重量部、好ましくは16〜99重量部、さらに好ましくは20〜98.5重量部である。これらが下限値を下回る13重量部未満である場合には、組成物の操作性が著しく劣ると共に、微小漏洩が懸念される。上限である99.5重量部を上回ると、再石灰化促進効果の低下が懸念される。
【0044】
本発明の歯科用組成物に配合される充填材(D)は、上述の分子内の重合性基と少なくとも1個のスルホン酸基とを有する単量体(A)のスルホン酸基がカルシウムにより実質
上完全中和されている単量体カルシウム塩(SA)、
および/または
分子内に重合性基と少なくとも1個のスルホン酸基とを有する単量体(A)を含む重合
性単量体の重合体(P)であり、該スルホン酸基がカルシウムにより実質上完全中和されている重合体カルシウム塩(SP)を含む歯科材料である。
【0045】
本発明においては充填材(D)として、両者は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
本発明の歯科用組成物において、上記充填材(D)は、上記単官能(メタ)アクリレート(B)と分子中に少なくとも1つの酸性基を有する重合性単量体(C)との合計100重量部に対して、通常は0.5〜300重量部、好ましくは1〜210部、さらに好ましくは2〜150重量部の範囲内の量で使用される。
【0046】
本発明の歯科用組成物を再石灰化促進材として使用する場合には、再石灰化促進材によって形成される皮膜厚さを低減し、さらに修復効果を向上させるためには、上記充填材の平均粒子径が、0.001〜30μmの範囲内にあることが好ましく、さらに、0.01〜25μmの範囲内にあることが特に好ましい。
【0047】
本発明の歯科用組成物においては、上記のような充填材(D)に加えて、歯科用に通常に使用される充填材(D’)を使用することができる。ここで使用される充填材(D’)としては、歯科用に通常使用される充填材であれば特に制限されず、公知の有機充填材、無機充填材、または無機有機複合充填材を使用することができる。
【0048】
本発明における充填材(D’)である有機充填材の例としては、(メタ)アクリレート
成分単位を70%以上含む実質上非架橋の(メタ)アクリレート重合体粒子が好ましく使用される。
【0049】
この(メタ)アクリレート成分単位を構成するモノマーの例としては、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート系モノマーを挙げることができる。また、この実質上非架橋の(メタ)アクリレート重合体粒子を形成する単量体成分として、(メタ)アクリレート系モノマー以外のモノマーを共重合させることができる。このような(メタ)アクリレート系モノマー以外のモノマーの例としては、ビニル酢酸エステル、ビニルピロリドン、無水マレイン酸、マレイン酸、ビニル安息香酸などを挙げることができる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0050】
また、この(メタ)アクリレート重合体粒子は、実質的に非架橋であるが、必要に応じて少量であれば架橋性モノマーを共重合させることができる。架橋性モノマーとして、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタジエンなどの多官能モノマーを挙げることができる。
【0051】
本発明で充填材(D’)として好適に使用される(メタ)アクリレート重合体粒子の重
量平均分子量は、5万〜30万の範囲内にあることが好ましい。
また、本発明において、これらの有機充填材は、単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0052】
本発明における充填材(D’)である無機充填材の例としては、ジルコニウム酸化物、
ビスマス酸化物、チタン酸化物、酸化亜鉛および酸化アルミニウム粒子などの金属酸化物粉末;炭酸カルシウム、炭酸ビスマス、リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウムおよび硫酸バリウムなどの金属塩粉末;シリカガラス、アルミニウム含有ガラス、バリウム含有ガラス、ストロンチウム含有ガラスおよびジルコニウムシリケートガラスなどのガラスフィラー;銀徐放性を有するフィラー、フッ素徐放性を有するフィラーなどを挙げることができる。これら無機充填材は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0053】
また、無機充填材と樹脂との間に強固な結合を得るには、シラン処理、ポリマーコートなどの表面処理を施した無機充填材を使用することが好ましい。
さらに本発明で使用することができる充填材(D’)としては、上記無機充填材および
有機充填材を含む無機有機複合フィラーなどを挙げることができる。
【0054】
無機有機複合フィラーとしてはトリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したTMPTフィラーなどを使用することができる。
これらの有機充填材、無機充填材および無機有機複合充填材は,単独であるいは組み合
わせて使用することができる。
【0055】
本発明の歯科用組成物において、上記充填材(D')としては、歯科用組成物の皮膜厚
さを低減し、さらに修復効果を向上させるためには、平均粒子径が、0.001〜30μ
mの範囲内にある粒子を使用することが好ましく、さらに、0.01〜25μmの範囲内
にある粒子を使用することが特に好ましい。
【0056】
本発明の歯科用組成物においては、上記充填材(D’)は、本発明の歯科用組成物を形成
する前記単官能(メタ)アクリレート(B)および分子中に少なくとも1つの酸性基を有する重合性単量体(C)の合計量100重量部に対して、通常は0.4〜300重量部、好ましくは0.5〜250重量部、さらに好ましくは0.7〜210重量部の範囲内の量で使
用することができる。特に本発明の歯科用組成物を再石灰化促進材として使用する場合には、上記範囲内の量で充填材(D’)を使用することが好ましい。
【0057】
さらに、本発明の歯科用組成物には、物性の向上、硬化時間の調整のために、上記単官能(メタ)アクリレート化合物(B)、酸性基含有重合性単量体(C)、充填材(D)、さらに必要により通常の充填材(D')の他に、多官能ラジカル重合性単量体(E)を添
加することができる。
【0058】
本発明で使用される多官能ラジカル重合性単量体(E)の例としては、
グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンなどのブタントリオールのジ(メタ)アクリレート、メソ−エリスリトールなどのブタンテトラオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート、ペンタントリオールのジ(メタ)アクリレート;
テトラメチロールメタンなどのペンタンテトラオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート;
キシリトール及びその異性体の水酸基を1〜2個有する多官能(メタ)アクリレート;
ヘキサントリオールのジ(メタ)アクリレート;
ヘキサンテトラオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート;
ヘキサンペンタオールの水酸基を1〜2個有する多官能(メタ)アクリレート;
ヘキサンヘキサオールの水酸基を1〜2個有する多官能(メタ)アクリレート
あるいは
下記化学式(1)で示される多官能(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0059】
【化1】

【0060】
上記式(1)において、R1は少なくとも1個の芳香族環ないしは環状アルキル基を有
しかつ分子中に酸素原子または硫黄原子を有していてもよい2価の芳香族残基、好ましくは下記化学式(2)から選択されるいずれかを示し、R2およびR3は水素原子またはメチル基を示し、nおよびmは正の整数を示す。
【0061】
【化2】

【0062】
これら多官能(メタ)アクリレートは、官能基の数が2〜3個のものが好ましく用いられ、2官能のものがより好ましい。官能基数が多い場合には、添加量によって組成物の硬化体の架橋度が高くなり、組成物の硬化体の柔軟性を損なわれ、歯質や歯科用金属への接着性を低下させる傾向がある。
【0063】
本発明の歯科用組成物においては、多官能ラジカル重合性単量体(E)は単官能(メタ)アクリレート(B)、酸性基を有する重合性単量体(C)およびこの多官能ラジカル重合性単量体(E)の合計100重量部中に、1〜35重量部の範囲内の量で含有させることができ、好ましくは1〜20重量部の範囲内の量で、最も好ましくは2〜9重量部の範囲内の量で含有させることができる。多官能ラジカル重合性単量体(E)が少ない場合には、硬化速度の促進効果が小さく、多官能ラジカル重合性単量体(E)が多い場合には、硬化時間が短くなりすぎて治療を適切に施す余裕がなくなったり、組成物硬化体の吸水性が高くなり、金属や歯質あるいは骨等の硬組織への接着耐久性が低下する傾向がある。また、組成物硬化体の架橋度が高くなり、組成物硬化体の柔軟性を損なう傾向がある。特に本発明の歯科用組成物を再石灰化促進材として使用する場合には、多官能ラジカル重合性単量体(E)を上記範囲内の量で使用することが好ましい。
【0064】
本発明の歯科用組成物には、有機ホウ素化合物(F)を配合することができる。
この有機ホウ素化合物(F)は、本発明の歯科用組成物中に含有される重合体単量体に対して重合開始剤として作用する。
【0065】
本発明で使用することができる有機ホウ素化合物(F)の例としては、
トリエチルホウ素、トリ(n−プロピル)ホウ素、トリイソプロピルホウ素、トリ(n−ブチル)ホウ素、トリ(s−ブチル)ホウ素、トリイソブチルホウ素、トリペンチルホ
ウ素、トリヘキシルホウ素、トリオクチルホウ素、トリデシルホウ素、トリドデシルホウ素、トリシクロペンチルホウ素、トリシクロヘキシルホウ素、ブチルジシクロヘキシルボランなどのトリ(シクロ)アルキルホウ素;ブトキシジブチルホウ素などのアルコキシアルキルホウ素;
ジイソアミルボラン、9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナンなどのジアルキルボラン;
テトラフェニルホウ素ナトリウム、テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩、テトラフェニルホウ素ジメチル−p−トルイジン塩、テトラフェニルホウ素ジメチルアミノ安息香酸エチルなどのアリールボレート化合物;
部分酸化トリブチルホウ素などの部分酸化トリアルキルホウ素などを挙げることができる。これらの中では、トリブチルホウ素あるいは部分酸化トリブチルホウ素を用いることが好ましく、最も好ましい有機ホウ素化合物は部分酸化トリブチルホウ素である。
【0066】
本発明の歯科用組成物に配合される有機ホウ素化合物(F)は、本発明の歯科用組成物を形成する前記単官能(メタ)アクリレート(B)、および酸性基を有する重合性モノマー(C)および(E)の合計量100重量部に対して、通常は0.5〜10重量部、好ましくは、1〜10重量部の範囲内の量で使用することができる。可使時間と硬化時間とを好適にバランスさせるためには、有機ホウ素化合物(F)を上記の範囲内の量で使用する。
【0067】
本発明の歯科用組成物において硬化剤の助剤として必要に応じて、有機過酸化物、無機過酸化物または酸化還元性金属化合物を配合することができる。有機過酸化物としては、例えばジアセチルペルオキシド、ジプロピルペルオキシド、ジブチルペルオキシド、ジカプロルペルオキシド、ジラウリルペルオキシド、過酸化ベンゾイル(BPO)、p,p’−ジクロルベンゾイルペルオキシド(ClBPO)、p,p’−ジメトキシベンゾイルペ
ルオキシド、p,p’−ジメチルベンゾイルペルオキシドおよびp,p’−ジニトロジベンゾイルペルオキシドなどを挙げることができる。無機過酸化物としては、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、塩素酸カリウム、臭素酸カリウムおよび過リン酸カリウムなどを挙げることができる。酸化還元性金属化合物としては、例えば銅、鉄、コバルトなど遷移金属の硝酸塩、塩化塩、アセチルアセト塩などのカルボキシ塩などを挙げることができる。これらのうちでも過酸化ベンゾイル(BPO)、p,p’−ジクロルベンゾイルペルオキシド(ClBPO)、アセチルアセト銅が好ましい。
【0068】
本発明の歯科用組成物における硬化剤の助剤として使用される有機過酸化物、無機過酸化物または酸化還元性金属化合物の使用量は、有機ホウ素化合物(F)の使用量の0.1〜2倍量である。
【0069】
本発明の歯科用組成物を再石灰化促進材として使用する場合には、本発明の目的を損なわない限り、光重合開始剤(G)を配合されていても良い。
本発明で使用される光重合開始剤(G)としては、可視光線を照射することによって重合性モノマーの重合を開始し得るものが好ましく使用され、例えば
ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのようなベンゾイン類;
ベンジル、4,4'−ジクロロベンジル、ジアセチル、α−シクロヘキサンジオン、d
,l−カンファキノン(CQ)、カンファキノン−10−スルホン酸、カンファキノン−10−カルボン酸などのようなα−ジケトン類;
ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸メチル、ヒドロキシベンゾフェノンなどのようなジフェニルモノケトン類;
2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントンなどのようなチオキサントン類;
2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどのようなアシルホスフィンオキサイド類などの光増感剤を挙げることができる。これら光重合開始剤は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0070】
本発明の歯科用組成物を再石灰化促進材として使用する場合には、光重合開始剤を使用する場合には、光重合開始剤としては、ベンジル、4,4'−ジクロロベンジル、ジアセ
チル、α−シクロヘキサンジオン、d,l−カンファキノン(CQ)、カンファキノン−10−スルホン酸、カンファキノン−10−カルボン酸などのようなα−ジケトン類及びアシルホスフィンオキサイド類が好ましく用いられる。これらの中ではd,l−カンファキノン、カンファキノン−10−カルボン酸、2、4、6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドが特に好ましい。
【0071】
本発明で光重合開始剤を使用する場合、光重合開始剤は、有機ホウ素化合物(F)の使用量を100重量部とした場合に、0.1〜10重量部の範囲内の量、好ましくは0.2〜5重量部の範囲内の量で使用される。
【0072】
上記光重合開始剤の重合開始効果を向上するため、有機ホウ素化合物の触媒効果に悪影響を及ぼさない還元性化合物の併用も可能である。例えば、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル-p−トルイジン、N,N−ジエ
タノール−p−トルイジン、N,N−ジメチル−p−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニシジン、N,N−ジメチル-p−クロルアニリン、N,N−ジメチルアミノエチ
ル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステルおよびそれらの塩、N,N−ジエチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステルおよびそれらの塩、N,N−ジメチルアミノベンズアルデヒド、N‐フェニルグリシンおよびその塩、N−トリルグリシンおよびその塩、N,N−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)フェニルグリシンおよびその塩などの有機還元性化合物を挙げることができる。
【0073】
上記還元性化合物の配合量は、通常は使用される光重合開始剤量の0.5〜3.0倍の範囲内にある。
本発明の歯科用組成物には、水中においてフッ素イオンを供給しうる物質(H)を添加しても良い。前記水中においてフッ素イオンを供給しうる物質(H)としては、可溶性の有効フッ素イオンを組成物中に放出するものであれば、いずれのものも使用することができ、例えば、フルオロリン酸二ナトリウム、フッ化スズ、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ケイ素ナトリウム、フルオロアルミノシリケ−トガラス、フッ化アンモニウム等が使用しうるが、中でもフッ化ナトリウム、フッ化カルシウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一スズの使用が好ましい。その配合量は、本発明の歯科用組成物の使用量と適用頻度、ならびに耐酸性や再石灰化の有効性と人体への影響を考慮して適宜設定される。水中においてフッ素イオンを供給しうる物質(H)を配合することにより、形成される硬組織の耐酸性の向上効果を期待できる。本発明において、水中においてフッ素イオンを供給しうる物質(H)は、組成物中のフッ素イオン濃度として好ましくは0.0001〜5%、より好ましくは0.001〜2%、特に0.01〜1%の範囲内の量で使用することが望ましい。この範囲以下である0.0001%未満では、所望の歯質の耐酸性効果や再石灰化効果が充分に表れないことがあり、5%を超えると、生体への為害性が懸念される。
【0074】
本発明の歯科用組成物には、所望により溶媒あるいは分散媒を使用することができる。ここで使用することができる溶媒あるいは分散媒としては、生体内において為害性を有する可能性のないものであれば、特に限定されず、このような溶媒あるいは分散媒の例としてはエタノール、アセトン、水等を挙げることができる。これらの溶媒ないし分散媒は単
独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0075】
また本発明の歯科用組成物には、所望により増粘材を使用することができる。ここで使用する増粘材としては、多官能ラジカル重合性単量体(E)として挙げた充填材のほか、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースなどを挙げることができる。これらの増粘材は単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0076】
本発明の歯科用組成物には所望により、色素および/または顔料を併用して使用することができる。ここで使用することができる色素および/または顔料の例としては、フロキシンBK、アシッドレッド、ファストアシッドマゼンダ、フロキシンB、ファストグリーンFCF、ローダミンB、塩基性フクシン、酸性フクシン、エオシン、エチスロシン、サフラニン、ローズベンガル、ベーメル、ゲンチアナ紫、銅クロロフィルソーダ、ラッカイン酸、フルオレセインナトリウム、コチニールおよびシソシン、タルク、チタンホワイトなどを挙げることができる。これらの色素および/または顔料は単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0077】
本発明の歯科用組成物は、
(1)上記カルシウム塩(S)からなる充填材(D)を適当な溶媒あるいは分散媒に懸濁させ、プライマーあるいはライナー組成物とし、筆等を用いて直接適用部位に塗布し、エアーガンによって溶媒あるいは分散媒を蒸発させる方法、
(2)上記カルシウム塩(S)からなる充填材(D)と適当な単官能(メタ)アクリレート(B)、酸性基含有重合性単量体(C)、多官能(メタ)アクリレート(E)に挙げられる重合性モノマーとを組み合わせ混合しプライマーあるいはライナー組成物とし、直接適用部位に塗布し、エアーガンによって、過剰の重合性モノマーを蒸発させ、適用部位の改質を行う方法、
(3)上記単官能(メタ)アクリレート(B)、酸性基含有重合性単量体(C)、カルシウム塩からなる充填材(D)、多官能(メタ)アクリレート(E)、有機ホウ素化合物(F)を組み合わせて混合することにより、硬化性を有する歯科用組成物を調製し、この歯科用組成物を適用部位に直接塗布し、硬化させる方法、あるいは接着材として使用する方法などにより使用することができる。
【0078】
本発明の歯科用組成物は、上記のようにして再石灰化促進材として使用することができる他、歯科用接着材として、歯科用金属、義歯、歯科用充填物の接着に、あるいは生体用接着材として、骨等の接着に使用することもできる。
【0079】
また、本発明の歯科用組成物は、例えば特開昭56−967000号公報などに記載されている齲蝕検知液中に配合させて齲蝕検知材として使用することもできる。
即ち、本発明の齲蝕検知材は、アシッドレッドあるいは塩基性フクシンないしはフルオロセイン類などに代表される色素を、水、ポリエチレングリコールに代表される溶媒あるいは分散媒に溶解もしくは分散させ、さらに充填材(D)を溶解させた溶液、あるいは分散させた分散液からなる。
【0080】
この溶液あるいは分散液を齲蝕感染の疑われる部位に塗布し、余剰の組成物を水等で除去して齲蝕感染部分を染色し、染色状態を観察することにより齲蝕部分を視覚的に検知することができる。さらに、本発明の齲蝕検出材によれば、適用部分に対する再石灰化を促すことができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明の実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実
施例によって限定されるものではない。
〔カルシウム塩の製造例1〕
撹拌装置、冷却管、温度計、滴下ロートを取り付けた反応装置に、4−スチレンスルホン酸ナトリウム20.6g(0.1mol)、脱イオン水100g、2,2’−アゾビス(
イソブチロニトリル)0.1gを仕込み、系内を窒素置換した後、内温を70℃で保持しながら撹拌し、4時間重合させた。
【0082】
内温を室温まで冷却した後、反応物に36%塩酸10.1g(0.1mol)を加え、3
0分間撹拌した後、得られた反応マスを透析チューブ(排除分子量10000、三光純薬(株)製)に入れ、脱イオン水で充分透析した。
【0083】
脱イオン水を留去し、無色のポリマー16.3gを得た。
さらに撹拌装置、冷却管、温度計、滴下ロートを取り付けた反応装置に、上記のようにして得られたポリマー16.3gおよび脱イオン水150gを入れ、室温にて撹拌した。
【0084】
次いで、この反応装置内にポリマー分散液に、脱イオン水500gに水酸化カルシウム3.3g(0.045mol)を溶解した水溶液を、1時間かけて滴下し、2時間熟成の後
、溶媒を留去することで無色固体19.9gを得た。
【0085】
得られた無色固体は、IR分析、NMR分析、元素分析の結果、ポリ(4−スチレンスルホン酸)のカルシウム塩であることが確認された。
得られたポリ(4−スチレンスルホン酸)のカルシウム塩を遊星ボールミルでさらに粉砕した後、#280篩で分級して充填材として使用可能な歯科材料を得た。
【0086】
なお、得られた生成物の酸塩基グラム当量比(カルシウム塩基グラム当量/酸グラム当量)は1.0[グラム当量/グラム当量]であった。
〔カルシウム塩の製造例2〕
陽イオン交換樹脂(アンバーライトIR118H、オルガノ(株)製)500g、脱イオン水1000gを用いてカラムを作製し、これに4−スチレンスルホン酸ナトリウム20.6gおよび脱イオン水100gからなる水溶液をチャージし、さらに脱イオン水2000gを用いてリンスし、全量を回収した。これに2,6−ジ−tert−ブチル−4−クレゾール0.05gを添加した後、溶媒を留去した。これに、蒸留水700gに水酸化カルシウム7.41g(0.1mol)を溶解した水溶液を、内温を10℃以下に保持しな
がら90分かけて滴下し、さらに2時間温度を保持しながら熟成した。
【0087】
得られた反応マスを濃縮、濾過し、エタノールで洗浄、乾燥し、無色粉末21.9gを得た。得られた無色粉末は、NMR分析および元素分析の結果、4−スチレンスルホン酸のカルシウム塩であることが確認された。
【0088】
得られた4−スチレンスルホン酸のカルシウム塩を遊星ボールミルでさらに粉砕した後、#280篩で分級し、充填材として使用可能な歯科材料を得た。
なお、得られた生成物の酸塩基グラム当量比(カルシウム塩基グラム当量/酸グラム当量)は1.0[グラム当量/グラム当量]であった。
〔カルシウム放出能試験〕
ペプシン可溶化タイプIコラーゲン塩酸溶液(新田ゼラチン(株)製、セルマトリックス)を蒸留水で充分透析し、得られたコラーゲンゲルを凍結乾燥し、コラーゲンスポンジを得た。
【0089】
ポリエチレン製容器に50mMのTris−HCl(pH値=7.4)を6.6ml入れ、さら
に上記のようにして得られたコラーゲンスポンジ20mgを加え2時間撹拌して懸濁液を得
た。
【0090】
上記の懸濁液が入ったポリエチレン製容器を、排除分子量10000の透析膜(三光純薬(株)製)で蓋をした。
これを上記製造例で得たカルシウム塩を1%の割合で添加した50mMのTris−HCl(pH値=7.4)の懸濁液15mlと透析膜を介して接触下に攪拌しながら、4℃で20日間透析した。
【0091】
次いで、カルシウム塩を添加したTris−HClを脱イオン水に交換し、さらに4℃で5
日間透析を行い、ポリエチレン製容器の内部を凍結乾燥し、石灰化コラーゲンゲルを得た。
【0092】
得られた石灰化コラーゲンゲル10mgに濃硝酸6mlを加え3時間煮沸した後、60%過塩素酸を0.6ml加えて150℃に加熱して有機成分の分解を行った。
さらに乾固寸前まで濃縮し、1%塩酸を加えて10mlとし、石灰化コラーゲンゲル中に含まれていたカルシウム量、リン量を、誘導プラズマ発光装置(セイコーインスツルメンツ(株)製)にて測定した。
【0093】
その結果から、コラーゲンの有する石灰化能が、試験試料で促進されるかどうかを評価することができる。
〔象牙質接着強度の測定〕
ウシ下額前歯を注水下#600エメリーペーパーで研磨し平坦な接着用象牙質面を削りだし、象牙質面を象牙質表面処理材グリーン(クエン酸と塩化第二鉄とを主成分とする象牙質用の歯科用表面処理剤、サンメディカル(株)製)で処理し、水洗、乾燥した後両面テープで、直径4.8mmの接着面積を規定した。
【0094】
混合皿に所定組成のモノマー液を約0.09g採り、スーパーボンドキャタリスト(部分酸化トリブチルホウ素:(F)成分に相当、サンメディカル(株)製)約0.007g(モノマー液100重量部に対して7.8重量部)を滴下し、下記に示す粉末0.08gと接着用筆で混合し、接着歯面に塗布、続いて、PMMA製接着ロッドを圧接して植立させた。
【0095】
1時間経過後に接着したサンプルを37℃の蒸留水中浸漬し、24時間経過した後、引張接着強さを評価した。
この結果から、接着材用途として本発明の再石灰化促進材を使用した場合、あるいは、接着材に対する生体用プライマー、ライナーとして使用した場合の基本特性を評価することができる。
〔辺縁封鎖性の評価〕
ウシ下顎前歯を注水下#180エメリーペーパーで研磨し、平坦な象牙質表面を削りだし、歯科用エアタービンを用いて注水下、直径約3mm、深さ2mmの窩洞を形成した。
【0096】
窩洞表面を象牙質表面処理材グリーン(クエン酸と塩化第二鉄とを主成分とする象牙質用の歯科用表面処理剤、サンメディカル(株)製)で10秒間処理し、水洗、乾燥させた。
【0097】
混合皿にメチルメタアクリレート95g(上記(B)成分に相当)、および、4−メタアクリロキシエチルトリメリット酸無水物5g(上記(C)成分に相当)の組成からなるモノマー液を約0.09g採り、スーパーボンドキャタリスト(部分酸化トリブチルホウ素、上記(E)成分に相当、サンメディカル(株)製)約0.007g(モノマー液100重量部に対して7.8重量部)を滴下し、後述する粉末0.08gと接着用筆で混合し
、窩洞内部に充填し、充填した表面をセロハンで被覆した後に37℃、飽和湿度で一晩放置した。
【0098】
放置後、充填面を#600エメリーペーパーで注水下研磨し、平滑な表面をした後に、0.3%塩基性フクシン水溶液中に、上記のように窩洞内部に組成物を充填した歯牙を3分間浸漬した。
【0099】
歯牙をフクシン水溶液から取り出し、蒸留水で洗浄した後に、歯牙の充填面をさらに#100エメリーペーパーで注水下研磨し、研磨表面から歯質への方向にフクシンが浸入しているかどうかをマイクロスコープを用いて観察した。
【0100】
さらに窩洞の切削方向に対し平行に充填歯牙を割断し、窩洞表面より歯質内部方向へフクシンが浸入しているかどうかを、上記と同様にマイクロスコープを用いて観察した。ともにフクシンの浸入がないものを○、フクシンの浸入があったものを×と評価した。
〔齲蝕検知材の染色識別性試験〕
蒸留水100g、実施例で示す色素5gおよび上記製造例で得たカルシウム塩1gを加えて懸濁し、本発明の齲蝕検知材を調製した。
【0101】
これを用いて便宜抜去したヒト齲蝕象牙質の切断面に、使用直前によく撹拌した各種齲蝕検知材50μリットルを塗布、10秒後にその適用部位を蒸留水で洗浄し、齲蝕部分と健全象牙質部分がより鮮明に染め分けられているかどうかを観察し、以下に記載する基準で判定した。
【0102】
また、色素としてフルオロセインナトリウムを用いた齲蝕検知材を使用して、市販の歯科用可視光照射器を用いて光照射を行い、齲蝕部分と健全象牙質部分とがより鮮明に染め分けられているかどうかを観察し、以下に記載の基準で判定した。
++:鮮明に染着
+:染着
±:わずかに染着
−:ほとんど染着しない
〔実施例1〜2〕
製造例1〜2で得たカルシウム塩の粉末を用い、上述の再石灰化誘導試験およびカルシウム放出能試験をそれぞれ行った。
【0103】
結果を表1に示す。
〔比較例1〕
実施例1においてカルシウム塩の代わりにスーパーボンド粉材クリア(商品名;ポリメチルメタアクリレート、サンメディカル(株)製)を用いた以外は同様にして、上述の再石灰化誘導試験およびカルシウム放出能試験をそれぞれ行った。
【0104】
結果を表1に示す。
〔実施例3〜7〕
カルシウム塩の製造例1で得た粉末とスーパーボンド粉材クリア(商品名;ポリメチルメタアクリレート、サンメディカル(株)製)の所定割合で加えて、遊星ボールミルを用いて粉砕混合し、#280篩で分級した。
【0105】
得られた粉末を用い、上述の象牙質接着強さの測定および辺縁封鎖性評価をそれぞれ行った。
結果を表1に示す。
〔実施例8〜12〕
カルシウム塩の製造例2で得た粉末とスーパーボンド粉材クリア(商品名;ポリメチルメタアクリレート、サンメディカル(株)製)の所定割合を遊星ボールミルにて粉砕混合、#280篩で分級した。
【0106】
得られた粉末を用い、上述の象牙質接着強さの測定および辺縁封鎖性評価をそれぞれ行った。結果を表1に示す。
〔比較例2〜7〕
前もって遊星ボールミルにて粉砕した水酸化カルシウムとスーパーボンド粉材クリア(商品名;ポリメチルメタアクリレート、サンメディカル(株)製)の所定割合を遊星ボールミルにて混合、#280篩で分級した。
【0107】
得られた粉末を用い、上述の象牙質接着強さの測定と辺縁封鎖性評価をそれぞれ行った。結果を表1に示す。
〔実施例13〜14〕
上述の染色識別性試験において、色素としてアシッドレッド、カルシウム塩として、上記カルシウム塩製造例1〜2で得られた生成物を用いて試験した。結果を表3に示す。
〔実施例15〜16〕
上述の染色識別性試験において、色素として塩基性フクシンを用い、カルシウム塩として、上記カルシウム塩製造例1〜2で得られた生成物を用いて試験を行った。
【0108】
結果を表3に示す。
〔実施例17〜18〕
上述の染色識別性試験において、色素としてフルオロセインナトリウムを用い、カルシウム塩として、上記カルシウム塩製造例1〜2で得られた生成物を用いて試験を行った。
【0109】
結果を表3に示す。
〔比較例8〕
上述の染色識別性試験において、色素としてアシッドレッドを配合し、カルシウム塩を配合せずに染色液を調製して試験を行った。
【0110】
結果を表3に示す。
〔比較例9〕
上述の染色識別性試験において、色素として塩基性フクシンを配合し、カルシウム塩を配合せずに染色液を調製して試験を行った。
【0111】
結果を表3に示す。
〔比較例10〕
上述の染色識別性試験において、色素としてフルオロセインナトリウムを配合し、カルシウム塩を配合せずに染色液を調製して試験を行った。
【0112】
結果を表3に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
【表3】

【0116】
表1より本発明のカルシウム塩が、再石灰化促進能を有することが示された。
表2より本発明のカルシウム塩を含有する歯科用組成物が歯科用接着材として有用であり、接着性能を損なうことがないことが示された。
【0117】
さらに、表3から本発明のカルシウム塩を含有する齲蝕検知液が、本来の性能を損なうことないこと、また、表1とあわせ、適用部位における再石灰化を促す可能性を有していることが示された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に重合性基と少なくとも1個のスルホン酸基とを有する単量体(A)のスルホン
酸基がカルシウムにより実質上完全中和されている単量体カルシウム塩(SA)、
および/または
分子内に重合性基と少なくとも1個のスルホン酸基とを有する単量体(A)を含む重合
性単量体の重合体(P)であり、該スルホン酸基がカルシウムにより実質上完全中和されている重合体カルシウム塩(SP)を含むことを特徴とする歯科材料。
【請求項2】
上記歯科材料中におけるスルホン酸基のカルシウムに起因するカルシウム塩基グラム当量とスルホン酸の酸グラム当量との比(カルシウム塩基グラム当量/スルホン酸基の酸グラム当量)が、0.5〜2.0[グラム当量/グラム当量]の範囲内にあることを特徴とする請求項第1項記載の歯科材料。
【請求項3】
上記歯科材料が、4-スチレンスルホン酸および((メタ)アクリルアマイド)アルカンスルホン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体(A1)のカルシウム塩(SA1)および/または、該単量体(A1)から誘導される繰返し単位を有する重合体(P1)のカルシウム塩(SP1)を含むことを特徴とする請求項第1項記載の歯科材料。
【請求項4】
次の(B)〜(D)から構成されることを特徴とする請求項第1項乃至第3項のいずれ
かの項記載の歯科用組成物;
(B)単官能(メタ)アクリレート:90〜99重量部(ただし、(B)と(C)との合計を100重量部とする)、
(C)分子内に酸性基を少なくとも1つ有する重合性単量体:1〜10重量部(ただし、(B)と(C)との合計を100重量部とする)、
(D)上記単量体カルシウム塩(SA)、および/または重合体カルシウム塩(SP)からなる充填材:0.5〜300重量部(ただし、上記(B)と(C)との合計を100重量部に対する比率である)。
【請求項5】
上記歯科用組成物中におけるカルシウム塩基グラム当量と(D)中のスルホン酸の酸グ
ラム当量との比(カルシウム塩基グラム当量/スルホン酸基の酸グラム当量)が、0.5〜2.0[グラム当量/グラム当量]の範囲内にあることを特徴とする請求項第4項記載の歯科用組成物。
【請求項6】
上記歯科用組成物が、さらに(E)多官能(メタ)アクリレート:1〜35重量部(ただし、上記(B)と(C)と(E)との合計を100重量部に対する比率である)を含む
ことを特徴とする請求項第4項または第5項記載の歯科用組成物。
【請求項7】
上記歯科用組成物が、さらに(F)有機ホウ素化合物を含むことを特徴とする請求項第4項乃至第6項のいずれかの項記載の歯科用組成物。
【請求項8】
上記歯科用組成物が、さらに(G)光重合開始剤を含むことを特徴とする請求項第4項乃至第7項のいずれかの項記載の歯科用組成物。
【請求項9】
上記歯科用組成物が、さらに(H)水中においてフッ化物イオンを供給しうる化合物を含むことを特徴とする請求項第4項乃至第8項のいずれかの項記載の歯科用組成物。
【請求項10】
上記歯科用組成物中に含有される(C)分子内に酸性基を少なくとも1つ有する重合性単量体が、4-メタアクリロキシエチルトリメリット酸および/またはその無水物であることを特徴とする請求項第4項乃至第9項のいずれかの項記載の歯科用組成物。
【請求項11】
上記歯科用組成物中に含有される(F)有機ホウ素化合物が、トリアルキルホウ素、アルコキシアルキルホウ素、ジアルキルボランおよび部分酸化トリアルキルホウ素よりなる群から選ばれる少なくとも1種のホウ素化合物であることを特徴とする請求項第7項乃至第10項のいずれかの項記載の歯科用組成物。
【請求項12】
上記有機ホウ素化合物を構成するアルキル基の少なくとも1つがブチル基であることを特徴とする請求項第11項記載の歯科用組成物。
【請求項13】
請求項第4項乃至第12項のいずれかの項記載の歯科用組成物よりなることを特徴とする歯科用接着材。
【請求項14】
請求項第4項乃至第12項のいずれかの項記載の歯科用組成物よりなることを特徴とする再石灰化促進材。
【請求項15】
請求項第4項乃至第12項のいずれかの項記載の歯科用組成物よりなることを特徴とする生体用接着材。
【請求項16】
請求項第4項乃至第12項のいずれかの項記載の歯科用組成物よりなることを特徴とする齲蝕検知材。

【公開番号】特開2006−347944(P2006−347944A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175440(P2005−175440)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(592093578)サンメディカル株式会社 (61)
【Fターム(参考)】