説明

歯科用の方法、組成物、および酸感受性色素を含むキット

歯科および歯科矯正処置で使用される、方法および酸感受性色素を含有する水性液を含む組成物が開示されている。その水性液は、例えば、エッチング組成物、セルフエッチング接着剤、および粘着性組成物を含む酸性材料との接触を示すために、目に見える色の変化を提供するのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
様々な歯科処置に関して、酸性物質と接触している材料および表面を医師が検出することができるのは重要であるが、困難な場合が多い。例えば、エッチング組成物は、様々な接着手順の一部として歯科構造の表面に通常塗布される酸性材料であり、どの表面がそれにエッチング組成物が塗布されているのかを医師が容易に決定できることが重要である。しかしながら、どの表面がそれにエッチング液が塗布されているのかを医師が視覚的に検出することは難しい場合が多い。
【0002】
歯科学における最近の進歩によって、セルフエッチングであり、したがって個々のエッチング段階を必要としない歯科用接着剤および組成物が提供されている。これらのセルフエッチング接着剤および組成物の一部は、歯科構造の湿潤面に塗布することができ、さらには歯科構造の湿潤面に塗布されることが好ましい。場合によっては、セルフエッチング接着剤または組成物を塗布する前にどの表面が適切に湿潤されているかを判断することが難しい。場合によっては、その表面がセルフエッチング接着剤または組成物を塗布する前に適切に湿潤されていない場合には、歯科構造の表面が適切にエッチングされない。
【0003】
酸性材料と接触している表面および材料を視覚的に示す方法および組成物が必要とされている。
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,506,816号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0206932 A1号明細書
【特許文献3】米国特許出願第10/916,168号明細書
【特許文献4】米国特許出願第10/916,169号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0110864 A1号明細書
【特許文献6】米国特許出願第10/916,240号明細書
【特許文献7】米国特許第5,172,809号明細書
【特許文献8】米国特許第6,089,861号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2003/0196914 A1号明細書
【特許文献10】米国特許第6,213,767号明細書
【特許文献11】米国特許出願第10/967,797号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2005/0074716号明細書
【非特許文献1】Floyd J.Green,The Sigma−Aldrich Handbook of Stains,Dyes,and Indicators[with Transmission Spectrum Reference],Aldrich Chemical Co.,Milwaukee,WI(1990)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様において、本発明は、歯科構造にエッチング組成物を塗布する方法を提供する。この方法は:酸感受性色素および水を含む液体で歯科構造の表面を湿潤させる段階;その上にエッチング組成物が塗布された歯科構造面の部分において視覚的に確認可能な色の変化を生じさせるのに有効な条件下で、湿潤歯科構造面の少なくとも一部にエッチング組成物を塗布する段階;を含む。
【0006】
他の態様において、本発明は、歯科構造にセルフエッチング接着剤を塗布する方法を提供する。この方法は:酸感受性色素および水を含む液体で歯科構造の表面を湿潤させる段階;その上にセルフエッチング接着剤が塗布された歯科構造面の部分において視覚的に確認可能な色の変化を生じさせるのに有効な条件下で、湿潤歯科構造面の少なくとも一部にセルフエッチング接着剤を塗布する段階;を含む。好ましくは、その視覚的に確認可能な色の変化は、色付きから本質的に無色への変化である。
【0007】
他の態様において、本発明は、歯科構造に粘着性組成物を塗布する方法を提供する。この方法は:酸感受性色素および水を含む液体で歯科構造の表面を湿潤させる段階;その上に粘着性組成物が塗布された歯科構造面の部分において視覚的に確認可能な色の変化を生じさせるのに有効な条件下で、湿潤歯科構造面の少なくとも一部に粘着性組成物を塗布する段階;を含む。好ましくは、その視覚的に確認可能な色の変化は、色付きから本質的に無色への変化である。
【0008】
任意に、粘着性組成物は、製造元によってプレコートされた歯科矯正装置として提供され、プレコート歯科矯正装置は、湿潤歯科構造面に取り付けることができる。例示的な歯科矯正装置としては、例えば、ブラケット、バッカルチューブ、バンド、クリート、ボタン、リンガルリテーナー、バイトブロック、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0009】
代替方法としては、粘着性組成物は、医師によって歯科矯正装置の表面に塗布され、コートされた歯科矯正装置を提供することができ、コートされた歯科矯正装置は、湿潤歯科構造面に適用することができる。任意に、粘着性組成物は、基材の接着剤移行領域上に提供することができ、粘着性組成物は、歯科矯正装置に塗布するために、基材の接着剤移行領域から移動することができる。
【0010】
他の態様において、本発明は、歯科構造に歯科材料を接着する方法を提供する。この方法は、酸感受性色素および水を含む液体で歯科構造の表面を湿潤させる段階;その上にセルフエッチング接着剤が塗布された歯科構造面の部分において視覚的に確認可能な色の変化を生じさせるのに有効な条件下で、湿潤歯科構造面の少なくとも一部にセルフエッチング接着剤を塗布する段階;歯科構造面を乾燥させ、その上に第1接着剤層を形成する段階;任意に、第1層上に第2接着剤を塗布して、その上に第2接着剤層を形成する段階;第1接着剤層および任意にその上に第2接着剤層を有する歯科構造面に歯科材料を適用する段階;歯科材料と歯科構造との結合を形成するのに有効な条件下で、接着剤層の少なくとも1つを硬化させる段階;を含む。好ましくは、その視覚的に確認可能な色の変化は、色付きから本質的に無色への変化である。好ましくは、接着剤は、歯科材料と歯科構造との結合を形成するのに有効な、少なくとも7MPaの条件下で硬化される。歯科材料を適用する前、適用する間、または適用した後に、接着剤を硬化することができる。第2接着剤は、セルフエッチング接着剤と同じであるか、またはセルフエッチング接着剤と異なる。歯科材料としては、例えば、歯科用修復材、歯科矯正接着剤、または歯科矯正装置が挙げられる。
【0011】
他の態様において、本発明は、歯科構造を修復する方法を提供する。この方法は、酸感受性色素および水を含む液体で歯科構造の表面を湿潤させる段階;その上に粘着性組成物が塗布された歯科構造面の部分において視覚的に確認可能な色の変化を生じさせるのに有効な条件下で、湿潤歯科構造面の少なくとも一部に粘着性組成物を塗布する段階;硬化された組成物と歯科構造との結合を形成するのに有効な、少なくとも7MPaの条件下で粘着性組成物を硬化する段階;を含む。好ましくは、粘着性組成物は、充填剤を少なくとも40重量%含有する。好ましくは、視覚的に確認可能な色の変化は、色付きから本質的に無色への変化である。
【0012】
他の態様において、本発明は、歯に歯科矯正装置を接着する方法を提供する。一実施形態において、この方法は、酸感受性色素および水を含む液体で歯の表面を湿潤させる段階;その上に粘着性組成物が塗布された歯の表面部分において視覚的に確認可能な色の変化を生じさせるのに有効な条件下で、湿潤した歯の表面の少なくとも一部に粘着性組成物を塗布する段階;その上に粘着性組成物が塗布された歯の表面に歯科矯正装置を取り付ける段階;歯科矯正装置と歯との結合を形成するのに有効な条件下で、粘着性組成物を硬化させる段階;を含む。
【0013】
他の実施形態において、その方法は、酸感受性色素および水を含む液体で歯の表面を湿潤させる段階;その上に歯科矯正装置および粘着性組成物が適用された歯表面の部分において視覚的に確認可能な色の変化を生じさせるのに有効な条件下で、湿潤した歯の表面の少なくとも一部に、その上に粘着性組成物を有する歯科矯正装置を取り付ける段階;歯科矯正装置と歯との結合を形成するのに有効な条件下で粘着性組成物を硬化させる段階;を含む。一部の実施形態において、その方法はさらに、歯科矯正装置に粘着性組成物を塗布して、その上に粘着性組成物を有する歯科矯正装置を提供することを含む。他の実施形態において、その上に粘着性組成物を有する歯科矯正装置は、プレコートされた歯科矯正装置として提供される。
【0014】
他の態様において、本発明は、酸感受性色素を含む第1成分;酸を含む第2成分;を含む多成分(multi−part)歯科用組成物であって、第1成分と第2成分を接触させることが、色の変化を生じさせるのに有効である、組成物を提供する。
【0015】
他の態様において、本発明は、酸感受性色素を含む第1成分と、酸を含む第2成分とを接触させることを含む多成分歯科用組成物を使用する方法であって、接触が色の変化を生じさせるのに有効である、方法を提供する。好ましくは、色の変化は、色付きから本質的に無色への変化である。任意に、第2成分は、セルフエッチング接着剤または粘着性組成物を含む。
【0016】
他の態様において、本発明は、酸感受性色素を含むキットを提供する。一実施形態において、そのキットは:酸感受性色素および水を含む液体;歯科用エッチング組成物;を備える。他の実施形態において、キットは:酸感受性色素および水を含む液体;セルフエッチング歯科用接着剤;を備える。他の実施形態において、キットは:酸感受性色素および水を含む液体;および粘着性歯科用組成物;を備える。
【0017】
定義
本明細書で使用される、「接着剤」または「歯科用接着剤」とは、「歯科材料」(例えば、「修復材」、歯科矯正装置(例えば、ブラケット)、または「歯科矯正用接着剤」)を歯科構造に付着させるために、歯科構造(例えば、歯)上で前処理として使用される組成物を意味する。「歯科矯正用接着剤」とは、歯科構造(例えば、歯)の表面に歯科矯正装置を接着するために使用される高(一般に40重量%を超える)充填組成物(「歯科用接着剤」よりも「修復材料」に類似している)を意味する。一般に、歯科構造の表面は、歯科構造への「歯科矯正用接着剤」の接着性を高めるために、例えば、エッチング、下塗り、および接着剤の塗布によって前処理される。
【0018】
本明細書で使用される、「修復材」または「歯科用修復材」は同義で使用され、例えば、ガラスイオノマーセメントおよび改質ガラスイオノマーセメントなどの硬化または未硬化コンポジット、充填物、シーラント、インレー、オンレー、クラウン、ブリッジ、およびそれらの組み合わせを含む。
【0019】
本明細書で使用される、「充填物」とは、歯の構造における実質的な空隙を充填するのに適している高充填化ペーストを意味する。
【0020】
本明細書で使用される、「非水性」組成物(例えば、接着剤)は、成分として水が添加されていない組成物を意味する。しかしながら、組成物の他の成分において水は付随的に存在し得るが、水の総量は、非水性組成物の安定性(例えば、貯蔵寿命)に悪影響を及ぼすものではない。非水性組成物は、非水性組成物の全重量を基準にして、水を好ましくは1重量%未満、さらに好ましくは0.5重量%未満、最も好ましくは0.1重量%未満含有する。
【0021】
本明細書で使用される、「セルフエッチング」組成物とは、エッチング液で歯科構造表面を前処理することなく、歯科構造に接着する組成物を意味する。好ましくは、セルフエッチング組成物は、別個のエッチング液またはプライマーが使用されないセルフプライマーとして機能することもできる。
【0022】
本明細書で使用される、「粘着性」組成物とは、プライマーまたはボンディング剤で歯科構造の表面を前処理することなく、歯科構造に接着することができる組成物を意味する。好ましくは、粘着性組成物は、別個のエッチング液が使用されないセルフエッチング組成物でもある。
【0023】
本明細書で使用される、組成物を「硬化する」または「固める」は、同義で使用され、例えば、組成物中に含有される1種または複数種の材料を要する、光重合反応および化学重合技術(例えば、エチレン性不飽和化合物を重合するのに有効なラジカルを形成するイオン反応または化学反応)などの重合および/または架橋反応を意味する。
【0024】
本明細書で使用される、「歯科構造」とは、歯の構造(例えば、エナメル、象牙質、およびセメント質)および骨を意味する。本明細書で使用される、「歯科構造表面」または「歯の表面」とはそれぞれ、歯科構造または歯の露出面を意味する。露出面は任意に、歯科構造または歯の上の材料(例えば、材料の層)を含み得る。
【0025】
本明細書で使用される、「未切削」歯科構造表面とは、切断、研磨、穿孔等によって加工されていない歯科構造表面を意味する。
【0026】
本明細書で使用される、「未エッチング」歯科構造表面とは、本発明のセルフエッチング接着剤または粘着性組成物を塗布する前に、エッチング液で処理されていない歯または骨の表面を意味する。
【0027】
本明細書で使用される、「エッチング液」とは、歯科構造表面を完全または部分的に可溶化(つまり、エッチング)することができる酸性組成物を意味する。エッチングの効果は、ヒトの肉眼で見ることができ、かつ/または機器によって(例えば、光学顕微鏡によって)検出可能である。一般に、エッチング液は、歯科構造表面に約10〜30秒間塗布される。
【0028】
本明細書で使用される、「湿潤」歯科構造表面とは、目に見える(つまり、ヒトの肉眼で見える)水が存在する歯科構造の表面を意味する。
【0029】
本明細書で使用される、「乾燥」歯科構造表面とは、乾燥(例えば、自然乾燥)されており、かつ目に見える水が存在しない歯科構造の表面を意味する。
【0030】
本明細書で使用される、「歯科材料」とは、歯科構造に接着することができる材料を意味し、例えば、歯科用修復材、歯科矯正装置、および/または歯科矯正用接着剤が挙げられる。
【0031】
本明細書で使用される、「界面活性剤」とは、表面の性質を変化させる(例えば、表面張力を減らす)表面活性剤を意味し、一般に「湿潤剤」と呼ばれる表面活性剤を包含する。
【0032】
本明細書で使用される、「a」または「an」は、別段の指定がない限り「少なくとも1つ(1種類)」または「1つまたは複数(1種または複数種)」を意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
例示的な一実施形態において、本発明は、水性液と接触された歯科構造表面を視覚的に示し(または識別し)、さらに、その湿潤表面がその後に酸性歯科用組成物と接触された場合に示す方法および組成物を提供する。かかる結果は、水性液中に酸感受性色素を含有させることによって達成することができる。
【0034】
他の例示的な実施形態において、本発明は、多成分歯科用組成物が接触または混合された時に示す酸感受性色素を提供する。例えば、多成分歯科用組成物の1つの成分(例えば、水性液成分)が、その成分が多成分歯科用組成物の他の成分(1種または複数種)と接触または混合された時に視覚的に示す酸感受性色素を含み得る。
【0035】
本発明において有用な酸感受性色素は、異なるpH条件で異なる色を示す(色を欠く)色素である。有用な酸感受性色素としては、例えば、公知のpH指示薬色素が挙げられる。一般に、かかる色素は低毒性であり、液体、好ましくは水性液(つまり、水を好ましくは主成分として含む液体)に混和性または分散性である。好ましくは、かかる色素は、水性液に可溶性であり、さらに好ましくは、安定な水溶液を形成する。
【0036】
本発明において有用な適切な酸感受性色素は、当業者にはよく知られており、例えば、エオシン色素(例えば、ローズベンガル、ブロモチモールブルー、エリトロシンB、およびエオシンY)、アゾ色素(メチルレッドおよびメチルオレンジ)、トリアリールメタン色素、オキソノール色素、およびフェノールフタレインが挙げられる。有用な酸感受性色素は、よく市販されている。例示的な酸感受性色素については、例えば、(非特許文献1)を参照されたい。例示的な好ましい酸感受性色素としては、ローズベンガル、ブロモチモールブルー、メチルレッド、およびメチルオレンジが挙げられる。さらに好ましい酸感受性色素はローズベンガルである。
【0037】
本発明の方法および組成物は、酸感受性色素および水を含む液体(つまり、水性液)を含む。好ましくは、酸感受性色素を水性液に溶解し、それによって、水性液中の酸感受性色素の溶液が形成される。好ましくは、その水性液は、水性液の全重量を基準にして、酸感受性色素を少なくとも0.0001重量%、さらに好ましくは少なくとも0.001重量%、最も好ましくは少なくとも0.01重量%含有する。好ましくは、水性液は、水性液の全重量を基準にして、酸感受性色素を多くとも5重量%、さらに好ましくは多くとも2重量%、最も好ましくは多くとも1重量%含有する。
【0038】
本発明において有用な酸感受性色素を含む水性液は、水性液のpHが変化した場合に少なくとも1つの視覚的に確認可能な色の変化を示す。好ましくは、水性液は、水性液のpHが変化して酸性が高くなった場合に視覚的に確認可能な色の変化を示す。特定の具体的な実施形態(例えば、歯科構造にエッチング組成物を塗布することを含む実施形態)では、水性液は好ましくは、そのpHが、5以上から3以下のpHへと変化した場合に視覚的に確認可能な色の変化を示す。
【0039】
「視覚的に確認可能な色の変化」という言い方は、通常の仕事場の照明条件下でヒトの観察者の肉眼で確認可能な、色付きから本質的に無色までの色の変化、本質的に無色から色付きまでの色の変化、または第1色から第2色までの変化を包含することを意味する。好ましくは、視覚的に確認可能な色の変化は、少なくとも10、さらに好ましくは少なくとも20、最も好ましくは少なくとも30のCIELAB色座標ΔE単位の変化に相当する。
【0040】
酸感受性色素の他に、本発明で有用な水性液は任意に、安定剤、緩衝剤、界面活性剤、抗菌薬、水可溶性モノマー(例えば、重合性成分)、pH調整剤、増粘剤、フッ化物アニオン、フッ化物剥離剤、およびそれらの組み合わせも含有することができる。特定の実施形態において、構造に第1色が付与されるように、酸感受性色素を含む水性液を歯科構造に適用する。その後、湿潤構造に酸性材料(例えば、歯科用エッチング液、歯科用セルフエッチング接着剤、または歯科用粘着性組成物)を塗布すると、酸感受性色素を含有する最初に塗布された水性液のpHが下がり、それによって、構造に第2色が付与される。好ましくは、第1色は観察者が容易に目で見ることができ(例えば、赤色、ピンク色、オレンジ色、または青色)、第2色は本質的に無色である。本明細書で使用される、「本質的に無色」とは、歯科構造と、それに水性液が塗布された歯科構造との間の色差が、通常の仕事場の照明条件下でヒトの観察者の肉眼で確認できないことを意味する。好ましくは、「本質的に無色」は、多くとも10、さらに好ましくは多くとも6、最も好ましくは多くとも3のCIELAB色座標であるΔE単位における、歯科構造とそれに水性液が塗布された歯科構造との色差に相当する。手順の最後で、歯科構造は本質的に無色のままであること、つまり時間の経過にしたがって歯科構造表面に視覚的に確認可能な色が戻らないことが一般に望ましい。
【0041】
好ましい酸感受性色素は、pHを下げると、第1色(本質的に無色ではない)から、本質的に無色(さらに好ましくは無色)までの色の変化を示す色素である。
【0042】
セルフエッチング接着剤
セルフエッチング接着剤は、エッチング液で歯科構造表面を前処理することなく、歯科構造に結合する接着剤を意味する。好ましくは、セルフエッチング接着剤は、別個のエッチング液またはプライマーが使用されないセルフプライマーとしても機能する。セルフエッチング接着剤は当業者にはよく知られており、例えば、(特許文献1)(アリオ(Ario)ら);(特許文献2)(Abuelyaman);2004年8月11日出願の(特許文献3);および2004年8月11日出願の(特許文献4)に開示されている接着剤が挙げられる。例示的なセルフエッチング接着剤としては、3Mエスペ社(3M ESPE)(ミネソタ州セントポール(St.Paul,MN))から商品名ADPER PROMPT L−POPとして市販されている接着剤も挙げられる。
【0043】
例示的な一実施形態において、セルフエッチング接着剤は非水性セルフエッチング接着剤である。非水性セルフエッチング接着剤としては、例えば、酸性官能基を有するエチレン性不飽和化合物、酸性官能基を含有しないエチレン性不飽和化合物、および開始剤系が挙げられる。例示的な酸性官能基としては、カルボン酸官能基、リン酸官能基、ホスホン酸官能基、スルホン酸官能基、またはそれらの組み合わせが挙げられる。任意に、非水性セルフエッチング接着剤はさらに、充填剤を含む。任意に、非水性セルフエッチング接着剤はさらに、界面活性剤を含む。例示的な非水性セルフエッチング接着剤は、例えば、2004年8月11日出願の(特許文献3)に開示されている。
【0044】
他の例示的な実施形態において、セルフエッチング接着剤としては、油中水型エマルジョン(例えば、マイクロエマルション)が挙げられる。好ましくは、そのエマルジョンは、物理的および/または化学的に安定性である。セルフエッチング接着剤は、例えば、酸性官能基を有するエチレン性不飽和化合物、酸性官能基を含有しないエチレン性不飽和化合物、開始剤系、および水を含むことができる。一部の実施形態において、セルフエッチング接着剤は、水30重量%未満を含有する。例示的な酸性官能基としては、カルボン酸官能基、リン酸官能基、ホスホン酸官能基、スルホン酸官能基、またはそれらの組み合わせが挙げられる。任意に、セルフエッチング接着剤はさらに、充填剤を含む。任意に、セルフエッチング接着剤はさらに、界面活性剤を含む。油中水型エマルジョンなどの例示的なセルフエッチング接着剤は、例えば、2004年8月11日出願の(特許文献4)に開示されている。
【0045】
粘着性組成物
粘着性組成物とは、歯科構造をプライマーまたはボンディング剤で前処理することなく、歯科構造に接着することができる組成物を意味する。好ましくは、粘着性組成物は、別個のエッチング液が使用されないセルフエッチング組成物でもある。粘着性組成物は当業者にはよく知られており、例えば、(特許文献5)(ヘクト(Hecht)ら)および2004年8月11日出願の(特許文献6)に開示されている組成物が挙げられる。
【0046】
例示的な一実施形態、粘着性組成物は非水性粘着性組成物である。非水性粘着性組成物は、例えば、酸性官能基を有するエチレン性不飽和化合物、酸性官能基を含有しないエチレン性不飽和化合物、開始剤系、および非水性粘着性組成物の全重量を基準にして少なくとも40重量%の充填剤を含むことができる。例示的な酸性官能基としては、例えば、カルボン酸官能基、リン酸官能基、ホスホン酸官能基、スルホン酸官能基、またはそれらの組み合わせが挙げられる。任意に、非水性粘着性組成物はさらに、界面活性剤を含む。例示的な非水性粘着性組成物は、例えば、2004年8月11日出願の(特許文献6)に開示されている。
【0047】
方法、組成物、およびキット
本明細書に記載の酸感受性色素を含む水性液は、歯科構造の表面が、それにセルフエッチング接着剤または粘着性組成物を塗布する前に適切に湿潤されているかどうかを医師が判断するのを助けるのに特に有用である。
【0048】
例えば、歯科構造表面の少なくとも一部にエッチング組成物、セルフエッチング接着剤、または粘着性組成物を塗布する前に、歯科構造の表面を酸感受性色素および水を含む液体で湿潤させることができる。エッチング組成物、セルフエッチング接着剤、または粘着性組成物の塗布によって、その上にエッチング組成物、セルフエッチング接着剤、または粘着性組成物が塗布された歯科構造表面の部分において視覚的に確認可能な色の変化が生じる。好ましくは、その視覚的に確認可能な色の変化は、色付きから本質的に無色への変化である。
【0049】
任意に、粘着性組成物は、適切な容器に包装されたプレコート歯科矯正装置として製造元によって提供され、プレコート歯科矯正装置は、湿潤歯科構造表面に医師によって取り付けることができる。例示的な歯科矯正装置としては、例えば、ブラケット、バッカルチューブ、バンド、クリート、ボタン、リンガルリテーナー、バイトブロック、およびそれらの組み合わせが挙げられる。例示的な容器は当技術分野でよく知られており、(特許文献7)(ジェイコブス(Jacobs)ら)、(特許文献8)(ケリー(Kelly)ら)、および(特許文献9)(ツォウ(Tzou)ら)に開示されている。
【0050】
代替方法としては、医師によって粘着性組成物を歯科矯正装置の表面に塗布して、コートされた歯科矯正装置を提供することができ、コートされた歯科矯正装置を湿潤歯科構造表面に取り付けることができる。任意に、粘着性組成物を基材の接着剤移行領域上に提供することができ、歯科矯正装置に塗布するために、基材の接着剤移行領域から粘着性組成物を移動することができる。移行領域を有する例示的な基材は、例えば、(特許文献10)(ディクソン(Dixon)ら)に記載されている。
【0051】
さらに、本発明は、歯科材料を歯科構造に接着するのに有用である。例えば、湿潤歯科構造表面の少なくとも一部にセルフエッチング接着剤を塗布する前に、歯科構造の表面を酸感受性色素および水を含む液体で湿潤させることができる。セルフエッチング接着剤の塗布によって、その上にセルフエッチング接着剤が塗布された歯科構造表面の部分に視覚的に確認可能な色の変化が生じる。好ましくは、視覚的に確認可能な色の変化は、色付きから本質的に無色への変化である。歯科構造表面を乾燥させて、その上に第1接着剤層を形成することができる。任意に、第2接着剤を第1層上に塗布して、その上に第2接着剤層を形成することができる。第2接着剤は、セルフエッチング接着剤と同じであるか、またはセルフエッチング接着剤と異なる。最後に、第1接着剤層およびその上に任意に第2接着剤層を有する歯科構造表面に歯科材料を適用することができる。歯科材料としては、例えば、歯科用修復材、歯科矯正用接着剤、または歯科矯正装置が挙げられる。歯科材料と歯科構造との結合を形成するのに有効な条件下で、接着剤層のうちの少なくとも1つを硬化させることができる。歯科材料を適用する前、適用する間、または適用した後に、接着剤を硬化させることができる。好ましくは、接着剤は、歯科材料と歯科構造との結合を形成するのに有効な、少なくとも7MPaの条件下で硬化される。
【0052】
さらに、本発明は、歯科構造を修復するのに有用である。例えば、湿潤歯科構造表面の少なくとも一部に粘着性組成物を塗布する前に、酸感受性色素および水を含む液体で歯科構造の表面を湿潤させることができる。好ましくは、粘着性組成物は、充填剤を少なくとも40重量%含有する。粘着性組成物の塗布によって、その上に粘着性組成物が塗布された歯科構造表面の部分に視覚的に確認可能な色の変化が生じる。好ましくは、視覚的に確認可能な色の変化は、色付きから本質的に無色への変化である。粘着性組成物は、硬化された組成物と歯科構造との結合を形成するのに有効な、少なくとも7MPaの条件下で硬化される。
【0053】
さらに、本発明は、歯科矯正装置を歯に接着するのに有用である。例えば、湿潤した歯表面の少なくとも一部に粘着性組成物および歯科矯正装置を適用する前に、酸感受性色素および水を含む液体で歯の表面を湿潤させることができる。一部の実施形態において、粘着性組成物のみが湿潤した歯の表面に塗布される。他の実施形態において、その上に粘着性組成物を有する歯科矯正装置が湿潤した歯の表面に取り付けられる。任意に、その上に粘着性組成物を有する歯科矯正装置は、プレコート歯科矯正装置として提供することができる。その他の選択肢として、患者の歯の輪郭に正確に一致する輪郭を有する特注ボンディングパッドまたはベースを形成するために、装置のベース上に予めコーティングされ、かつ予め硬化された接着剤に、粘着性組成物を塗布することができる。粘着性組成物の塗布によって、その上に粘着性組成物が塗布された歯表面の部分に視覚的に確認可能な色の変化が生じる。歯科矯正装置と歯との結合を形成するのに有効な条件下で粘着性組成物が硬化される。
【0054】
さらに他の選択肢として、2004年10月18日出願の(特許文献11)に記載の特注移動器具などのトランスファートレイを使用して、歯科矯正接着処置の間に粘着性組成物が塗布される。この選択肢において、患者の歯の表面は最初に、酸感受性色素および水を含む液体で湿潤される。次に、トレイの選択された領域に塗布された粘着性組成物を有するトランスファートレイを患者の歯の上に置き、その結果、患者の歯の相当する領域に粘着性組成物が移行される。この実施形態において、粘着性組成物はセルフエッチングプライマーであり、得られる色の変化によって、プライマーが患者の歯の選択領域に塗布されているという目に見える確認が得られる。次いで、歯科矯正装置が、歯それぞれの選択領域に接着される。好ましくは、歯科矯正装置は、プレコートされた装置である。任意に、装置は、(特許文献12)(クリアリー(Cleary)ら)に記載の装着デバイスを用いて、間接的な接着処置において歯の表面上に設置される。
【0055】
本明細書に記載の酸感受性色素を含む水性液は、多成分歯科用組成物の一部分として使用することもできる。例えば、多成分歯科用組成物は:酸感受性色素を含む第1成分;酸を含む第2成分;を含むことができる。第1成分と第2成分との接触は、色の変化を生じさせるのに有効である。したがって、色の変化によって、いつ多成分歯科用組成物の第1成分と第2成分が接触され、かつ/または混合されたかが示される。好ましくは、色の変化は、色付きから本質的に無色への変化である。任意に、第2成分は、セルフエッチング接着剤または粘着性組成物を含む。
【0056】
医師の都合のため、本発明の方法で使用される組成物(例えば、酸感受性色素を含む水性液)はキットで提供することができる。例示的な一実施形態において、キットは:酸感受性色素および水を含む液体;歯科用エッチング組成物;を備える。他の例示的な実施形態において、キットは:酸感受性色素および水を含む液体;セルフエッチング歯科用接着剤;を備える。他の例示的な実施形態において、キットは:酸感受性色素および水を含む液体;粘着性歯科用組成物;を備える。
【0057】
本発明の目的および利点は以下の実施例によってさらに説明されるが、これらの実施例に記載の特定の材料およびその量、ならびに他の条件および詳細は、本発明を過度に制限するものと解釈すべきではない。別段の指定がない限り、すべての部およびパーセンテージは重量に基づき、すべての水が脱イオン水であり、すべての分子量が重量平均分子量である。
【実施例】
【0058】
試験方法
エナメルまたは象牙質に対する接着剤せん断接着強さの試験方法
所定の試験試料の接着剤せん断接着強さを以下の手順によって評価した。
【0059】
歯の作製。軟部組織を含有しないウシの切歯を円形アクリルディスクに包埋した。使用前、包埋された歯を冷蔵庫内で水中で保存した。接着剤試験の準備において、宝石用砥石車に取り付けられた120グリットのサンドペーパーを使用して、包埋された歯を研削して、平らなエナメルまたは象牙質面を露出させた。歯の表面の更なる研削および研磨を、宝石用砥石車に取り付けられた320グリットのサンドペーパーを使用して行った。研削プロセス中に、歯を水で連続的にすすいだ。研磨された歯を脱イオン水中に保存し、研磨して2時間以内に試験に使用した。使用前に、36℃のオーブン内で歯を室温(23℃)〜36℃に温めた。
【0060】
歯の処理。実施例に詳述されている具体的な塗布技術に従って、作製されたエナメルまたは象牙質面の表面全体に歯科用アプリケーターブラシで接着剤試験試料を塗布した。塗布後、XL3000歯科硬化ライト(dental curing light)(ミネソタ州セントポールの3M社(3M Company,St.Paul,MN))で、接着剤コーティングを10秒間光硬化した。接着剤で準備された歯の表面の部分を型の穴が露出するように、包埋された歯に直径約4.7mmの穴を有する厚さ2.5mmのテフロン(登録商標)(Teflon)型に固定した。穴は完全に充填されるが、充填されすぎないように、コンポジット材、FILTEK Z250 Universal RestorativeのA2シェード(3M社)を穴に充填し、20秒間光硬化して、歯に接着剤で取り付けられる「ボタン」を形成した。
【0061】
接着結合強度試験。インストロン(INSTRON)試験機(インストロン(Instron)4505、マサチューセッツ州カントンのインストロン社(Instron Corp.Canton,Massachusetts))のつかみ部に締め付けられたホルダーに集成体(assembly)を取り付けることによって、硬化試験試料の接着強度を評価した。研磨された歯の面は引張る方向に平行であった。歯科矯正用ワイヤー(直径0.44mm)のループを、研磨された歯の面に隣接するZ250ボタンの周りに配置した。歯科矯正用ワイヤーの末端をインストロン(INSTRON)装置の引張りつかみ部に取り付け、クロスヘッド速度2mm/分で引張り、それによって接着結合がせん断応力下に置かれた。結合が破損した力(キログラム(kg))を記録し、ボタンの既知の表面積を用いて、この数値を単位面積の力(kg/cm2またはMPaの単位)に変換した。エナメルに対する接着力または象牙質に対する接着力の報告される各値は、2〜6回の反復試験の平均値である。
【0062】
【表1】

【0063】
出発原料の調製
6−メタクリルオキシヘキシルホスフェート(P25からのMHP)
6−メタクリルオキシヘキシルホスフェートの合成:機械攪拌機と、フラスコに乾燥した空気を吹き込む細いチューブとを備えた1L三口フラスコに、1,6−ヘキサンジオール(1000.00g、8.46mol、シグマ・アルドリッチ社(Sigma−Aldrich))を入れた。固体ジオールを90℃に加熱し、その温度ですべての固体が融解した。連続的に攪拌しながら、p−トルエンスルホン酸結晶(18.95g、0.11mol)、続いてBHT(2.42g、0.011mol)およびメタクリル酸(728.49.02g、8.46mol)を添加した。攪拌しながら90℃での加熱を5時間続け、その間、30分間の各反応時間後、水道水吸引器を使用して、5〜10分間真空にした。加熱を止め、反応混合物を室温に冷却した。得られた粘性液を10%炭酸ナトリウム水溶液(2×240ml)で2回洗浄し、続いて水(2×240ml)で洗浄し、最後に飽和NaCl水溶液100mlで洗浄した。無水Na2SO4を使用して、得られた油を乾燥させ、次いで吸引真空濾過によって単離し、6−ヒドロキシヘキシルメタクリレート、黄色い油1067g(67.70%)を得た。所望の生成物は1,6−ビス(メタクリロイルオキシヘキサン)15〜18%と共に形成された。化学的キャラクタリゼーションは、NMR分析による。
【0064】
6−メタクリルオキシヘキシルホスフェートの合成:機械攪拌機を備えた1Lフラスコ中でN2気流下雰囲気下にて、P410(178.66g、0.63mol)および塩化メチレン(500ml)を混合することによって、スラリーを形成した。スラリーを氷浴(0〜5℃)中で15分間冷却した。連続的に攪拌しながら、6−ヒドロキシヘキシルメタクリレート(962.82g、上述のようにそのジメタクリレート副生成物と共に、モノ−メタクリレート3.78molを含有した)を2時間にわたってゆっくりとフラスコに添加した。添加が完了した後、混合物を氷浴中で1時間攪拌し、次いで室温で2時間攪拌した。BHT(500mg)を添加し、次いで、温度を上げて45分間還流させた(40〜41℃)。加熱を止め、混合物を室温に冷却した。溶媒を真空下で除去し、黄色の油として6−メタクリルオキシヘキシルホスフェート1085g(95.5%)を得た。化学的キャラクタリゼーションは、NMR分析による。
【0065】
表面処理ZrO2充填剤
ジルコニアゾル(217.323g;固形分23.5%;イリノイ州ネーパーヴィルのナルコ社(Nalco,Naperville,IL))をプラスチックフラスコに計り入れ、次いで、プラスチックフラスコに収容された、1−メトキシ−2−プロパノール(200.001g;シグマ・アルドリッチ社(Sigma−Aldrich))中のモノ−2−(メタクリロイルオキシ)エチルスクシネート(28.796g;シグマ・アルドリッチ社(Sigma−Aldrich))の溶液に、激しく攪拌しながらゆっくりと添加した。次いで、得られた混合物を対流オーブン内で90℃で粉末状(乾燥状態)に乾燥させて、続いて、後の再分散を容易にするために、乳鉢および乳棒で微粉末状に粉砕した。ジルコニア充填剤の平均一次粒径は約5nmであり、50〜75nmのゆるい凝集塊を有した。
【0066】
実施例1:歯への接着剤の塗布およびSBS評価
水(5g)にローズベンガル(7.5mg)を溶解することによって、色素水溶液を調製した。ミクロブラシを使用して、表面が目に見える赤みを帯びた色/ピンク色になるように、乾燥した歯の表面に色素溶液を塗布した。次いで、着色された湿潤した歯の表面に、歯科用接着剤組成物(接着剤組成物A、表1)をミクロブラシによって塗布した。歯の表面と接着剤とが接触すると、表面は、赤みを帯びた色/ピンク色から無色に変化した。接着剤層を乾燥させ、接着剤(接着剤組成物A)の第2層を乾燥した歯の表面に塗布し、弱くエアーを吹付けた。次いで、歯の表面を10秒間硬化し、硬化して16時間後にせん断接着強さについて評価した。最初の歯の作製、硬化条件、および接着結合強度の試験手順は一般に、本明細書に記載される、エナメルまたは象牙質に対する接着剤せん断接着強さの試験方法に記述されるとおりである。得られたSBS試験結果は、エナメルに対して26.8MPa(6回反復試験の平均)および象牙質に対して29.9MPa(2回反復試験の平均)であった。
【0067】
歯表面への最初の塗布として水のみ(色素なし)を使用した同一の実験において、同様なSBS値が得られた。これらの結果から、最初の水コーティング中に色素が存在することによって、接着強さ性能は影響を受けないことが示唆されている。
【0068】
【表2】

【0069】
実施例2:2成分接着剤組成物の混合:
実施例1に記載されるローズベンガル色素水溶液の1成分を接着剤組成物A(表1)の2成分と混合した。2成分を接触させ、共に混合した際に、混合物の色は、赤みを帯びた色/ピンク色から本質的に無色へと変化した。色の変化は、混合が完全に行われたことを示す。この実施例から、酸感受性色素が、酸性成分(例えば、セルフエッチング接着剤)および色素を含む第2成分に対する接触または混合指示薬としての役割を果たし得ることが実証されている。
【0070】
本発明の範囲および精神から逸脱することなく、種々の修正および変更を本発明に加えることができることは、当業者には明らかであるだろう。本発明は、例証となる実施形態および本発明に記載の実施例によって過度に制限されることを意図するものではなく、かかる実施例および実施形態は一例として示されており、本発明の範囲は、以下の本明細書に記載の特許請求の範囲によってのみ制限されることが意図されることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸感受性色素および水を含む液体で歯科構造の表面を湿潤させる段階;
その上に組成物が塗布された歯科構造表面の部分に視覚的に確認可能な色の変化を生じさせるのに有効な条件下にて、湿潤歯科構造表面の少なくとも一部に組成物を塗布する段階;
を含む、歯科構造に組成物を塗布する方法であって、前記組成物が、エッチング組成物、セルフエッチング接着剤、粘着性組成物、またはそれらの組み合わせである、方法。
【請求項2】
前記の視覚的に確認可能な色の変化が、色付きから本質的に無色への変化である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記の視覚的に確認可能な色の変化が、本質的に無色から色付きへの変化である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記の視覚的に確認可能な色の変化が、第1色から第2色への変化であり、前記第2色が第1色と異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記酸感受性色素が、ローズベンガル、ブロモチモールブルー、メチルレッド、メチルオレンジ、エリトロシンB、エオシンY、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記液体が酸感受性色素0.0001〜5重量%を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記液体がさらに、抗菌剤、水可溶性モノマー、pH調整剤、緩衝剤、安定剤、界面活性剤、フッ化物アニオン、フッ化物剥離剤、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記歯科構造が、エナメル、象牙質、またはセメント質を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記セルフエッチング接着剤が非水性セルフエッチング接着剤である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記非水性セルフエッチング接着剤が、酸性官能基を有するエチレン性不飽和化合物、酸性官能基を含有しないエチレン性不飽和化合物、および開始剤系を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記非水性セルフエッチング接着剤がさらに充填剤を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記セルフエッチング接着剤が油中水型エマルジョンを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記セルフエッチング接着剤が、酸性官能基を有するエチレン性不飽和化合物、酸性官能基を含有しないエチレン性不飽和化合物、開始剤系、および水を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記セルフエッチング接着剤がさらに充填剤を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記エマルジョンが物理的に安定性である、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記セルフエッチング接着剤が水30重量%未満を含む、請求項12〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記エマルジョンが油中水型マイクロエマルジョンである、請求項12〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記エマルジョンが化学的に安定性である、請求項12〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記粘着性組成物が非水性粘着性組成物である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記非水性粘着性組成物が、酸性官能基を有するエチレン性不飽和化合物、酸性官能基を含有しないエチレン性不飽和化合物、開始剤系、および非水性粘着性組成物の全重量を基準にして少なくとも40重量%の充填剤を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記粘着性組成物が、プレコートされた歯科矯正装置として提供され、かつ前記プレコート歯科矯正装置が、湿潤歯科構造表面に取り付けられる、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記歯科矯正装置が、ブラケット、バッカルチューブ、バンド、クリート、ボタン、リンガルリテーナー、バイトブロック、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記粘着性組成物が歯科矯正装置の表面に塗布されて、コートされた歯科矯正装置が提供され、かつ前記コート歯科矯正装置が、湿潤歯科構造表面に取り付けられる、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記粘着性組成物が、基材の接着剤移行領域上に提供され、かつ前記粘着性組成物が、歯科矯正装置に塗布するために基材の接着剤移行領域から移行される、請求項21または22に記載の方法。
【請求項25】
前記酸性官能基が、カルボン酸官能基、リン酸官能基、ホスホン酸官能基、スルホン酸官能基、またはそれらの組み合わせを含む、請求項10、11、13〜18、または20〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記非水性セルフエッチング接着剤がさらに界面活性剤を含む、請求項10、11、13〜18、または20〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
酸感受性色素および水を含む液体で歯科構造の表面を湿潤させる段階;
その上にセルフエッチング接着剤が塗布された歯科構造表面の部分に視覚的に確認可能な色の変化を生じさせるのに有効な条件下にて、湿潤歯科構造表面の少なくとも一部にセルフエッチング接着剤を塗布する段階;
前記歯科構造表面を乾燥させて、その上に第1接着剤層を形成する段階;
任意に、第1層上に第2接着剤を塗布して、その上に第2接着剤層を形成する段階;
その上に第1接着剤層および任意に第2接着剤層を有する歯科構造表面に歯科材料を適用する段階;
前記歯科材料と前記歯科構造との結合を形成するのに有効な条件下にて、接着剤層のうちの少なくとも1つを硬化する段階;
を含む、歯科構造に歯科材料を接着する方法。
【請求項28】
前記接着剤が、前記歯科材料と前記歯科構造との結合を形成するのに有効な、少なくとも7MPaの条件下で硬化される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記接着剤が、歯科材料を適用する前、適用する間、または適用した後に硬化される、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
前記第2接着剤がセルフエッチング接着剤と同じである、請求項27〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記第2接着剤がセルフエッチング接着剤と異なる、請求項27〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記歯科材料が、歯科用修復材、歯科矯正用接着剤、歯科矯正装置、またはそれらの組み合わせを含む、請求項27〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
酸感受性色素および水を含む液体で歯科構造の表面を湿潤させる段階;
その上に粘着性組成物が塗布された歯科構造表面の部分に視覚的に確認可能な色の変化を生じさせるのに有効な条件下にて、湿潤歯科構造表面の少なくとも一部に粘着性組成物を塗布する段階;
粘着性組成物を硬化させる段階であって、硬化させた組成物と歯科構造との結合を形成するのに有効な少なくとも7MPaの条件下にて粘着性組成物を硬化させる段階;
を含む、歯科構造を修復する方法。
【請求項34】
前記粘着性組成物が充填剤を少なくとも40重量%含有する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
酸感受性色素および水を含む液体で歯の表面を湿潤させる段階;
その上に粘着性組成物が塗布された歯の表面の部分に視覚的に確認可能な色の変化を生じさせるのに有効な条件下にて、湿潤した歯の表面の少なくとも一部に粘着性組成物を塗布する段階;
その上に粘着性組成物が塗布された歯の表面に歯科矯正装置を取り付ける段階;
歯科矯正装置と歯との結合を形成するのに有効な条件下にて、粘着性組成物を硬化させる段階;
を含む、歯に歯科矯正装置を接着する方法。
【請求項36】
前記粘着性組成物がセルフエッチングプライマーである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記セルフエッチングプライマーがトランスファートレイを使用して塗布される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記歯科矯正装置が歯科矯正用接着剤でプレコートされる、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
酸感受性色素および水を含む液体で歯の表面を湿潤させる段階;
その上に歯科矯正装置および粘着性組成物が適用された歯の表面の部分に視覚的に確認可能な色の変化を生じさせるのに有効な条件下にて、湿潤した歯の表面の少なくとも一部に、その上に粘着性組成物を有する歯科矯正装置を取り付ける段階;
歯科矯正装置と歯との結合を形成するのに有効な条件下にて、粘着性組成物を硬化させる段階;
を含む、歯に歯科矯正装置を接着する方法。
【請求項40】
歯科矯正装置に粘着性組成物を塗布して、その上に粘着性組成物を有する歯科矯正装置を提供する段階をさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
その上に粘着性組成物を有する前記歯科矯正装置が、プレコートされた歯科矯正装置として提供される、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
酸感受性色素を含む第1成分;
酸を含む第2成分;
を含む多成分歯科用組成物であって、前記第1成分と前記第2成分とを接触させることが、色の変化を生じさせるのに有効である、多成分歯科用組成物。
【請求項43】
酸感受性色素を含む第1成分と酸を含む第2成分とを接触させることを含む、多成分歯科用組成物を使用する方法であって、接触が色の変化を生じさせるのに有効である、方法。
【請求項44】
前記の色の変化が、色付きから本質的に無色への変化である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記第2成分が、セルフエッチング接着剤、粘着性組成物、またはそれらの組み合わせを含む、請求項43または44に記載の方法。
【請求項46】
酸感受性色素および水を含む液体;
歯科用エッチング組成物、セルフエッチング接着剤、および粘着性組成物のうちの1つまたは複数;
を備えるキット。

【公表番号】特表2008−505924(P2008−505924A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520545(P2007−520545)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【国際出願番号】PCT/US2005/024291
【国際公開番号】WO2006/014597
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】