説明

歯科用カチオン硬化性組成物

【課題】酸素による重合阻害を受けないカチオン硬化性の歯科用組成物であって、室温下でも速やかに硬化し、十分な硬化体物性を有し、更に重合に伴う収縮も極めて少なく、高い耐湿性を有する歯科用カチオン硬化性組成物を提供すること。
【解決手段】(I)分子内にオキセタン基を少なくとも2個有するオキセタン化合物、
(II)下記一般式(a)
【化1】


(式中、R〜R20は、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基であり、R21およびR22は水素原子、または炭素数1〜10の炭化水素基であり、R21およびR22の合計炭素数は2以上であり、nは0または1の整数である)
で示されるような特定構造のエポキシ化合物、および
(III)カチオン重合開始剤
を含んでなる歯科用カチオン硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科用硬化性組成物に関する。より好ましくは歯科用充填修復材料として好適に使用されるカチオン硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕や破折等により損傷をうけた歯牙の修復においては、一般にコンポジットレジンと呼ばれる光硬化性の複合充填修復材料が、その操作の簡便さや審美性の高さから汎用されている。このようなコンポジットレジンは、通常、重合性単量体、フィラー(充填材)及び重合開始剤からなり、重合性単量体としては、その光重合性の良さから(メタ)アクリレート系のラジカル重合性単量体が用いられている。
【0003】
しかしながら、通常のラジカル重合性単量体は付加重合型のものであり、その硬化機構に由来して本質的に重合収縮率が大きく、更に酸素による重合阻害を受け易いという問題を有している。
【0004】
修復を要する歯牙の窩洞に対して、コンポジットレジン等の充填修復材料を充填後、重合硬化させる際には、充填された充填修復材の表面、即ち、歯質から遠い位置から光を照射する必要がある。しかし、上記の、重合にともなう収縮により、歯質との界面から浮き上がろうとする応力が作用し、このため、歯と充填修復材の間に間隙を生じやすくなる傾向がある。この重合収縮応力に対抗するため極めて強固な接着力を発現する各種歯科用接着剤が提案されているが、歯の状態は個人ごと、あるいは同一人でも各歯ごとに異なるため、このような歯科用接着剤を用いても、必ずしもあらゆる歯に対して完璧な接着を得られていないのが実情である。
【0005】
また、(メタ)アクリレート系のラジカル重合性単量体が用いたコンポジットレジンは、上述のように酸素による重合阻害を受けるため、硬化体表面に未重合層や低重合層が存在し、硬化後表面を研磨しない場合には、経時的な硬化体の着色や変色という問題を生じる。
【0006】
従って、できるだけ重合収縮が小さく、歯の状態によっては充分な接着力が得られなくても重合収縮による間隙を生じ難く、更に空気中の酸素による重合阻害を受け難い歯科用コンポジットレジンが求められていた。さらには、上述ような接着剤は、高い接着力を得るために複雑な術式を要し、またコストの増大を招くため、その簡略化も望まれていた。
【0007】
一方、重合収縮を低減する一般的な手法の一つとして、重合性単量体において、重合性官能基1molあたりの質量(官能基当量;g/mol)を増やす手法がある。即ち、一分子中に二つの(メタ)アクリレート基を有する単量体である場合、単量体分子量の増加に伴いその重合収縮が低下する。しかしながら、単量体の官能基を著しく増加させると、単量体の粘度が上昇し、取り扱いが困難になる問題や、架橋密度が低下し、硬化体の物性が著しく低下するといった問題が生じる。
【0008】
他方、開環重合単量体は付加重合単量体に比べて重合収縮が小さいことが知られている。中でも酸によって重合を開始することができるカチオン開環重合性単量体は、酸素による重合阻害を受け難い単量体として知られている。このようなカチオン開環重合性単量体としてはエポキシ化合物、オキセタン化合物、テトラヒドロフラン、ビシクロオルトエステル化合物、スピロオルトエステル化合物、環状カーボネート化合物、又はスピロオルトカーボネート等が挙げられる。中でも、ビシクロオルトエステル化合物、スピロオルトエステル化合物、環状カーボネート化合物、又はスピロオルトカーボネートは、重合時に収縮しない、或いは膨張する重合性単量体として知られている(非特許文献1)。しかしながら、これら非収縮性、或いは膨張性カチオン開環重合性単量体は、重合が極めて遅く、十分に硬化させるためには加熱条件を必要とするため、口腔内で重合−硬化させなければならない場合が多い歯科用途には相応しくない。
【0009】
一方、エポキシ化合物は、非収縮性、或いは膨張性は有していないものの、(メタ)アクリレート系の単量体に比べて重合収縮が低減できる。更に上記の非収縮或いは膨張性開環重合性単量体に比べて重合速度が速く常温でも硬化する。特に、シクロヘキセンオキシドに代表される脂環式エポキシ化合物が硬化活性が高い。
【0010】
他方、オキセタン化合物は、エポキシ化合物に比べて重合反応が速いことが報告されている。更に、オキセタンにエポキシ化合物を配合する事で、各々を単独で用いた場合よりも重合速度が向上することが報告されている(非特許文献2)。
【0011】
以上の理由から、重合収縮がより少なく、常温硬化が好ましい、歯科用の硬化性組成物の成分として、脂環式エポキシ或いはオキセタンの利用が提案されている(特許文献1〜14)。
【0012】
しかしながら、従来のエポキシ或いはオキセタン化合物を用いた場合でも、その重合収縮率、或いは硬化速度は、歯科用途としては未だ満足のいくレベルのものではないことがほとんどであった。また、寸法安定性に優れた同様な脂環式エポキシが報告されていたり(特許許文献12)、更に同脂環式エポキシ組を、分子内にオキセタン基を一つしか有しないオキセタン化合物と組み合わせて使用することが開示されるものもあるが(特許許文献13)、その具体的組み合わせでは、得られる硬化体の架橋密度等が低く、硬化体物性に大きく劣るものしか得られなかった。更に重合収縮を低減する目的で、エポキシ或いはオキセタン化合物の官能基当量を増加させた場合の問題も、上述のとおりであった。
【0013】
【特許文献1】特表平10−508067号公報
【特許文献2】特開平11−130945号公報
【特許文献3】特表2001−520758号公報
【特許文献4】特表2001−520759号公報
【特許文献5】特開平8−245783号公報
【特許文献6】特表2001−513117号公報
【特許文献7】特表2002−526391号公報
【特許文献8】特開昭48−29899号公報
【特許文献9】特開昭58−172387号公報
【特許文献10】特開2004−99467号公報
【特許文献11】特開2004−285125号公報
【特許文献12】特開2005−68303号公報
【特許文献13】特開2005−75907号公報
【特許文献14】特表2002−526391号公報
【非特許文献1】ラドテック研究会編、「UV・EV硬化技術の現状と展望」、株式会社シーエムシー出版、2002年12月27日、p.45−48
【非特許文献2】J.Polym.Sci.,Part A:Polym.Chem.,31,199(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上の背景にあって、本発明は、酸素による重合阻害を受けないカチオン硬化性の歯科用組成物であって、室温下でも速やかに硬化し、十分な硬化体物性を有し、更に重合に伴う収縮も極めて少なく、高い耐湿性を有する歯科用カチオン硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定のオキセタン化合物に対して、特定の構造を有するエポキシ化合物を組み合わせることにより、酸素による重合阻害が無く、速やかに硬化し、十分な硬化体物性を有し、更に重合に伴う収縮も極めて少なくなることを見出し、更に検討を進めた結果、本発明を完成した。
【0016】
即ち、本発明は、
(I)分子内にオキセタン基を少なくとも2個有するオキセタン化合物、
(II)置換基を有していても良いシクロヘキセンオキシド基の3位または4位の炭素原子に、下記式(1)
【0017】
【化1】

【0018】
(式中、RおよびRは、水素原子、または置換基を有していても良い炭素数1〜13の炭化水素基であり、RおよびRの合計炭素数は2以上である。)
で示される基が結合するか、または5員環〜8員環の炭化水素環を構成する炭素原子が結合する
シクロヘキセンオキシド環含有単位を、少なくとも2単位有するエポキシ化合物、および
(III)カチオン重合開始剤
を含んでなる歯科用カチオン硬化性組成物である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の歯科用カチオン硬化性組成物は、従来公知の(メタ)アクリレート系のラジカル重合性単量体を用いた歯科用材料に比べてはもちろんのこと、従来知られているエポキシ化合物やオキセタン化合物を用いた場合に比較しても、重合収縮も極めて小さく、酸素による重合阻害も無い。
【0020】
また、硬化時間も短く、口腔内で使用しても患者に大きな負担をかけることがなく、機械的強度も高く、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のカチオン硬化性組成物は、カチオン重合性単量体として、
(I)分子内にオキセタン基を少なくとも2個有するオキセタン化合物と、
(II)置換基を有していても良いシクロヘキセンオキシド基の3位または4位の炭素原子に、下記式(1)
【0022】
【化2】

【0023】
(式中、RおよびRは、水素原子、または置換基を有していても良い炭素数1〜13の炭化水素基であり、RおよびRの合計炭素数は2以上である。)
で示される基が結合するか、または5員環〜8員環の炭化水素環を構成する炭素原子が結合する
シクロヘキセンオキシド環含有単位を、少なくとも2単位有するエポキシ化合物
とを併用する。
【0024】
ここで、上記(I)のオキセタン化合物としては、分子内にオキセタン基を2個以上、好適には2〜8個のオキセタン基を有し、カチオン重合可能な化合物であれば特に限定されることはなく公知の化合物を使用することができる。かかるオキセタン化合物は、分子内に2個以上のオキセタン基を有するため、後述する(II)エポキシ化合物と組み合わせて使用した際に、高い曲げ強度等の機械的強度に関する優れた硬化体物性が得られる。分子内にオキセタン基が1個しかない場合、得られるカチオン硬化性組成物は、その硬化体の物性は劣るものになる。
【0025】
なお、オキセタン基とは、下記式(3)
【0026】
【化3】

【0027】
(式中、mは1〜6の整数である。)
で示される四員環エーテル(オキセタン環)基である。上記式(3)において、オキセタン環の3位の1個または2個の結合手に結合する水素原子が置換されており、その他の位置は置換されず水素原子が結合する基が好ましく、特に、該オキセタン基が下記式(4)
【0028】
【化4】

【0029】
(式中、R23は、水素原子、または炭素数1〜10のアルキル基である。)
で示される基として含まれるものが好ましい。上記炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素数1〜10のアルキル基が挙げられ、このうち炭素数1〜3のアルキル基、特にエチル基が好適である。
【0030】
また、こうしたオキセタン化合物のうち、分子内にエステル結合を有する化合物は、これを用いて得たカチオン硬化性組成物が、そのカチオン硬化時に湿潤条件に曝されると、重合開始剤として用いた酸の作用により、該エステル結合が加水分解して硬化体物性が低下する虞がある。したがって、このようなエステル結合は有しないものを用いるのが好ましい。
【0031】
当該オキセタン化合物を具体的に例示すると、ビス[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、1,2−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシ]エタン、1,3−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシ]プロパン、1,4−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシ]ブタン、1,5−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシ]ペンタン、1,6−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシ]ヘキサン、1,7−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシ]ヘプタン、1,8−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシ]オクタン、1,4−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシメチル]ベンゼン、4,4′−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシメチル]ビフェニール、2,2′−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシメチル]ビフェニール、ジエチレングリコールビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]エーテル、トリチレングリコールビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]エーテル、テトラエチレングリコールビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]エーテル、トリメチロールプロパントリス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]エーテル、あるいは下記に示す化合物
【0032】
【化5】

【0033】
が挙げられる。
【0034】
さらに、オキセタン基としては、下記式(2)
【0035】
【化6】

【0036】
(式中、Arは、置換基を有していても良いアリール基であり、R23は、水素原子、または炭素数1〜10のアルキル基である。)
で示される基として含まれるものが、該オキセタン基を有する化合物を後述する(II)エポキシ化合物と組み合わせて使用した際に、より硬化速度が速く、低重合収縮であることから特に好ましい。上記アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等があげられる。その置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素数1〜10のアルキル基;シクロヘキシル基、シクロペンチル等の炭素数3〜8のシクロヘキシル基;塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基等が挙げられ、このうちメチル基、エチル基等の炭素数1〜3のアルキル基が好適である。アリール基に置換している、これら置換基の数は4個以下、より好適には2個以下であるのが好ましい。
【0037】
このようなオキセタン基を有する化合物としては、
【0038】
【化7】

【0039】
等が挙げられる。このうち下記一般式(b)
【0040】
【化8】

【0041】
(式中、R24は、酸素原子、または炭素数1〜20の2価の炭化水素基であり、nは0または1の整数である)
で示される化合物が特に好ましい。ここで、炭素数1〜20の2価の炭化水素基としては、前記式(2)のオキセタン基を有する化合物として例示したものが有する直鎖または分岐鎖状の2価の、脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基等が挙げられる。好ましくいR24としては、酸素原子、または炭素数1〜5の2価のアルキレン基であるものが最も好ましい。
【0042】
本発明において、これらオキセタン化合物は、複数種のものを併用しても良い。
【0043】
また、歯科用途である本発明の組成物においては、揮発性、組成物の操作性の観点から官能基当量が150〜500g/molものが好適に利用され、更に常温で液状のものがより好適に利用できる。
【0044】
次に、前記(II)エポキシ化合物としては、置換基を有していても良いシクロヘキセンオキシド基の3位または4位の炭素原子に、下記式(1)
【0045】
【化9】

【0046】
(式中、RおよびRは、水素原子、または置換基を有していても良い炭素数1〜13の炭化水素基であり、RおよびRの合計炭素数は2以上である。)
で示される基が結合するか、または5員環〜8員環の炭化水素環を構成する炭素原子が結合するシクロヘキセンオキシド環含有単位を、少なくとも2単位、好適には2〜8単位有するものが制限なく使用できる。
【0047】
上記式(1)で示される基の中心炭素原子も、さらには、5員環〜8員環の炭化水素環を構成する個々の炭素原子も、周囲の結合基の状態が非常に嵩高い密な状態にあり、これら状態にある該炭素原子の結合手の一つが、シクロヘキセンオキシド基の3位または4位の炭素原子に結合することにより、該シクロヘキセンオキシド環含有単位では、シクロヘキセンオキシド環の配座が固定されたものとなる。これにより、該シクロヘキセンオキシド環含有単位の占める体積は、通常のシクロヘキセンオキシド基を含む基よりも小さなものになる。
【0048】
一方、該シクロヘキセンオキシド環のエポキシ環が開環すると、シクロヘキセンオキシド環含有単位は、比較的自由な配座をとりうるため、占める体積も増加する。その結果、該構造単位を備えたエポキシ化合物を、前述の(I)オキセタン化合物と組み合わせて得られたカチオン硬化性組成物は、エポキシ基の官能基当量が小さい場合であっても、その重合収縮率が著しく小さく、極めて速やかにカチオン硬化するものになる。また、これらエポキシ化合物も、前述のオキセタン化合物と同様に、シクロヘキセンオキシド環含有単位が分子内に2個以上有するため、機械的強度等の硬化体物性に優れたものになる。
【0049】
上記エポキシ化合物において、シクロヘキセンオキシド基が有していても良いその他の置換基としては、前記式(2)の基におけるアリール基の置換基として説明したもの等が好適に採用でき、特に、メチル基等の炭素数1〜3のアルキル基が好適である。シクロヘキセンオキシド基に置換している、これら置換基の数は4個以下、より好適には2個以下であるのが好ましい。
【0050】
また、前記式(1)で示される基が有するRおよびRの炭素数1〜13の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;シクロヘキシル基、シクロペンチル等のシクロヘキシル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基が挙げられる。その置換基としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子や酸素原子が挙げられる。また、これらRおよびRの炭化水素基としては、炭素数1〜13の範囲内にあり、置換基として酸素原子を有する基ということから、シクロヘキセンオキシド基であっても良い。
【0051】
これらのRおよびRの合計炭素数は、式(1)の基を嵩高いものにし、本発明の効果を発揮させるためには2以上であることが必要であるが、その効果をより顕著に発揮させるためには2〜10とするのが好適であり、RおよびRのいずれか一方が水素原子のときは該合計炭素数は3〜10であるのがより好ましい。
【0052】
なお、RおよびRの炭化水素基は、互いに結合して環を形成していても良い。
【0053】
(II)エポキシ化合物のうち、こうした置換基を有していても良いシクロヘキセンオキシド基の3位または4位の炭素原子に、前記式(1)で示される基が結合したシクロヘキセンオキシド環含有単位を、少なくとも2単位有する化合物としては、例えば、
【0054】
【化10】

【0055】
等が挙げられる。
【0056】
他方、シクロヘキセンオキシド基の3位または4位の炭素原子に結合する炭素原子を備える炭化水素環としては、5員環〜8員環、より好適には5員環6および6員環のものが挙げられる。これらは同様の炭化水素環が2個以上、好適には2個が縮環したものであっても良い。具体的には、シクロペンタン環、シクロペンテン環、シクロペンテンオキシド環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、シクロヘキセンオキシド環等の脂環族炭化水素やベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0057】
(II)エポキシ化合物のうち、こうした置換基を有していても良いシクロヘキセンオキシド基の3位または4位の炭素原子に、5員環〜8員環の炭化水素環を構成する炭素原子が結合するシクロヘキセンオキシド環含有単位を、少なくとも2単位有する化合物としては、例えば、
【0058】
【化11】

【0059】
が挙げられる。
【0060】
こうした周囲が嵩高い状態の炭素原子が結合するシクロヘキセンオキシド基の炭素原子は、製造の容易さからシクロヘキセンオキシド基の4位のものであるのがより好適である。さらに、これらエポキシ化合物も、前述のオキセタン化合物と同様に、分子内にエステル結合を有しないものが、硬化時の吸湿による硬化体の物性低下が少なくより好ましい。
等が挙げられる。
【0061】
上記エポキシ化合物の中でも、下記一般式(a)
【0062】
【化12】

【0063】
(式中、R〜R20は、それぞれ同一または異なっていて良い、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、またはアルキル基であり、R21およびR22は、水素原子、または炭素数1〜10の炭化水素基であり、R21およびR22の合計炭素数は2以上であり、mは0または1の整数である)
で示される化合物が、入手の容易さや、重合収縮の小さい効果が特に顕著であり、特に好適に使用される。具体的には、
【0064】
【化13】

【0065】
で示される化合物が挙げられる。
【0066】
本発明において、これらエポキシ化合物は、複数種のものを併用しても良い。
【0067】
本発明において、(I)オキセタン化合物と(II)エポキシ化合物との配合比は特に制限されないが、重合反応に対する水分の影響を大幅に低減することができ、口腔内のような高湿度条件下でも硬化可能となることから、オキセタン化合物が1分子平均a個のオキセタン官能基を有し、エポキシ化合物が1分子平均b個のエポキシ官能基を有する場合、(a×A):(b×B)が90:10〜45:55の範囲となるように、オキセタン化合物をAモルと、エポキシ化合物をBモル配合することが好ましい。さらに、(a×A):(b×B)を45:55よりもエポキシ官能基の割合を小さくすることにより、硬化速度がより速くなるため好ましい。更に本発明においては、より重合収縮が低減できることから、好ましくは、(a×A):(b×B)が80:20〜45:55の範囲であり、より好ましくは70:30〜45:55の範囲である。
【0068】
本発明のカチオン硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、他のエポキシ化合物が配合されていても良いが、硬化性組成物中の割合が増えるほど、重合収縮が大きくなるため、カチオン硬化性組成物中の全カチオン重合性官能基の総和を100質量部としたとき、その他のエポキシ化合物は30質量部以下であることが好ましい。
【0069】
これら他のエポキシ化合物の中でも、硬化活性が高いことから、脂環式のエポキシ基を2つ以上有するエポキシ化合物が好ましい。このようなエポキシ化合物の具体例を示すと、1,2,5,6−ジエポキシシクロオクタン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシラート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)グルタレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)ピメレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)スベレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)ゼレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)セバケート、1,4−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルオキシメチル)ベンゼン、1,4−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルオキシメチル)ビフェニル、メチルビス[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]フェニルシラン、ジメチルビス[(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メチル]シラン、メチル[(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メチル][2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]シラン、1,4−フェニレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、1,2−エチレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]シラン、1,3−ビス[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、2,5−ビシクロ[2.2.1]ヘプチレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、1,6−へキシレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、或いは下記に示す化合物
【0070】
【化14】

【0071】
等が挙げられる。これらエポキシ化合物は、複数種のものを併用しても良い。
【0072】
また、必要に応じて(メタ)アクリレート系単量体等の付加重合型のラジカル重合性単量体を配合することも可能である。しかしながら、付加重合型のラジカル重合性は酸素により重合阻害をうけるため、あまり多量に配合することは好ましくない。ラジカル重合性単量体を配合する場合のその配合量は、カチオン重合性単量体とラジカル重合性単量体の合計100質量%に対して、30質量%以下とすることが好ましく、10質量%以下とすることが好ましい。
【0073】
このようなラジカル重合性単量体を具体的に例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−シアノメチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ウレタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系単量体等を挙げることができる。
【0074】
次に、本発明のカチオン硬化性組成物に配合する(III)カチオン重合開始剤について説明する。
【0075】
当該(I)カチオン重合開始剤は特に限定されるものではなく、公知の如何なるカチオン重合開始剤でもよい。このようなカチオン重合開始剤としては、ルイス酸或いはブレンステッド酸、又は加熱や光照射によりルイス酸或いはブレンステッド酸を生じる化合物などが知られている。口腔内などの環境で速やかに重合させることが容易な点で、光照射によりルイス酸或いはブレンステッド酸を生じる、所謂、光酸発生剤を採用することが特に好適である。
【0076】
当該光酸発生剤としては、ジアリールヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、スルホン酸エステル化合物、ピリジニウム塩化合物、およびハロメチル置換−S−トリアジン有導体等が挙げられる。
【0077】
これらの中でも、ジアリールヨードニウム塩系化合物及びスルホニウム塩系化合物が、重合活性が特に高い点で優れている。ジアリールヨードニウム塩系化合物の具体例を例示すれば、ジフェニルヨードニウム、ビス(p−クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、p−イソプロピルフェニル−p−メチルフェニルヨードニウム、ビス(m−ニトロフェニル)ヨードニウム、p−tert−ブチルフェニルフェニルヨードニウム、p−メトキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p−メトキシフェニル)ヨードニウム、p−オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム、p−フェノキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p−ドデシルフェニル)ヨードニウム等のカチオンと、クロリド、ブロミド、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート等のアニオンからなるジアリールヨードニウム塩系化合物が挙げられる。
【0078】
これらのなかでも、重合性単量体に対する溶解性の点から、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネートをアニオンとして有する化合物が好適に使用でき、また、求核性が低く、光照射を行わなければ重合性単量体との混合物として安定に保存できる点で、ヘキサフルオロアンチモネート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレートをアニオンとして有する化合物が好適に使用できる。
【0079】
また、スルホニウム塩系化合物としては、ジメチルフェナシルスルホニウム、ジメチルベンジルスルホニウム、ジメチル−4−ヒドロキシフェニルスルホニウム、ジメチル−4−ヒドロキシナフチルスルホニウム、ジメチル−4,7−ジヒドロキシナフチルスルホニウム、ジメチル−4,8−ジヒドロキシナフチルスルホニウム、トリフェニルスルホニウム、p−トリルジフェニルスルホニウム、p−tert−ブチルフェニルジフェニルスルホニウム、ジフェニル−4−フェニルチオフェニルスルホニウム等のカチオンと、クロリド、ブロミド、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート等のアニオンとからなるスルホニウム塩系化合物が挙げられる。
【0080】
これら光酸発生剤は必要に応じて、1種または2種以上混合して用いても何等差し支えない。これら光酸発生剤の使用量は、光照射により重合を開始しうる量であれば特に制限されることはないが、適度な重合の進行速度と得られる硬化体の各種物性(例えば、耐候性や硬度)を両立させるために、一般的にはカチオン重合性単量体100質量部に対し、0.001〜10質量部を用いればよく、好ましくは0.05〜5質量部を用いるとよい。
【0081】
上記のような光酸発生剤は通常、近紫外〜可視域には吸収の無い化合物が多く、重合反応を励起するためには、特殊な光源が必要となる場合が多い。そのため、近紫外〜可視域に吸収をもつ化合物を増感剤として、上記光酸発生剤に加えてさらに配合することが好ましい。
【0082】
このような増感剤として用いられる化合物は、例えばアクリジン系色素、ベンゾフラビン系色素、アントラセン、ペリレン等の縮合多環式芳香族化合物、フェノチアジン等が挙げられる。
【0083】
これら増感剤のなかでも、重合活性が良好な点で、縮合多環式芳香族化合物が好ましく、さらに、少なくとも1つの水素原子を有する飽和炭素原子が縮合多環式芳香族環と結合した構造を持つ縮合多環式芳香族化合物が好適である。
【0084】
このような少なくとも1つの水素原子を有する飽和炭素原子が縮合多環式芳香族環と結合した構造を持つ縮合多環式芳香族化合物を具体的に例示すると、1−メチルナフタレン、1−エチルナフタレン、1,4−ジメチルナフタレン、アセナフテン、1,2,3,4−テトラヒドロフェナントレン、1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン、ベンゾ[f]フタラン、ベンゾ[g]クロマン、ベンゾ[g]イソクロマン、N−メチルベンゾ[f]インドリン、N−メチルベンゾ[f]イソインドリン、フェナレン、4,5−ジメチルフェナントレン、1,8−ジメチルフェナントレン、アセフェナントレン、1−メチルアントラセン、9−メチルアントラセン、9−エチルアントラセン、9−シクロヘキシルアントラセン、9,10−ジメチルアントラセン、9,10−ジエチルアントラセン、9,10−ジシクロヘキシルアントラセン、9−メトキシメチルアントラセン、9−(1−メトキシエチル)アントラセン、9−ヘキシルオキシメチルアントラセン、9,10−ジメトキシメチルアントラセン、9−ジメトキシメチルアントラセン、9−フェニルメチルアントラセン、9−(1−ナフチル)メチルアントラセン、9−ヒドロキシメチルアントラセン、9−(1−ヒドロキシエチル)アントラセン、9,10−ジヒドロキシメチルアントラン、9−アセトキシメチルアントラセン、9−(1−アセトキシエチル)アントラセン、9,10−ジアセトキシメチルアントラセン、9−ベンゾイルオキシメチルアントラセン、9,10−ジベンゾイルオキシメチルアントラセン、9−エチルチオメチルアントラセン、9−(1−エチルチオエチル)アントラセン、9,10−ビス(エチルチオメチル)アントラセン、9−メルカプトメチルアントラセン、9−(1−メルカプトエチル)アントラセン、9,10−ビス(メルカプトメチル)アントラセン、9−エチルチオメチル−10−メチルアントラセン、9−メチル−10−フェニルアントラセン、9−メチル−10−ビニルアントラセン、9−アリルアントラセン、9,10−ジアリルアントラセン、9−クロロメチルアントラセン、9−ブロモメチルアントラセン、9−ヨードメチルアントラセン、9−(1−クロロエチル)アントラセン、9−(1−ブロモエチル)アントラセン、9−(1−ヨードエチル)アントラセン、9,10−ジクロロメチルアントラセン、9,10−ジブロモメチルアントラセン、9,10−ジヨードメチルアントラセン、9−クロロ−10−メチルアントラセン、9−クロロ−10−エチルアントラセン,9−ブロモ−10−メチルアントラセン、9−ブロモ−10−エチルアントラセン、9−ヨード−10−メチルアントラセン、9−ヨード−10−エチルアントラセン、9−メチル−10−ジメチルアミノアントラセン、アセアンスレン、7,12−ジメチルベンズ(a)アントラセン、7,12−ジメトキシメチルベンズ(a)アントラセン、5,12−ジメチルナフタセン、コラントレン、3−メチルコラントレン、7−メチルベンゾ(a)ピレン、3,4,9,10−テトラメチルペリレン、3,4,9,10−テトラキス(ヒドロキシメチル)ペリレン、ビオランスレン、イソビオランスレン、5,12−ジメチルナフタセン、6,13−ジメチルペンタセン、8,13−ジメチルペンタフェン、5,16−ジメチルヘキサセン、9,14−ジメチルヘキサフェン等が挙げられる。
【0085】
また上記以外の縮合多環式芳香族化合物としては、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ナフタセン、ベンズ[a]アントラセン、ピレン、ペリレン等が好適に用いられる。
【0086】
これら縮合多環式芳香族化合物のなかでも、生体に対する為害性を考慮すると可視光で重合を励起することが可能となる、可視域に吸収を有する化合物が好ましく、可視域に極大吸収を有する化合物がより好ましい。また、これら縮合多環式芳香族化合物は必要に応じて複数の化合物を併用しても良い。
【0087】
縮合多環式芳香族化合物の添加量も、組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、通常は前期した光酸発生剤1モルに対し、縮合多環式芳香族化合物が0.001〜20モルであり、0.005〜10モルであることが好ましい。
【0088】
さらに上記縮合多環式芳香族化合物に加えて、酸化型の光ラジカル発生剤を配合すると、より一層重合活性が向上し好ましい。酸化型の光ラジカル発生剤とは、光照射により励起してラジカルを発生する化合物であって、励起により水素供与体から水素を引き抜いてラジカルを生成するいわゆる水素引き抜き型のラジカル発生剤、励起により自己開裂を起こしてラジカルを発生し(自己開裂型ラジカル発生剤)、次いで該ラジカルが電子供与体から電子を引き抜くタイプのもの、及び光照射により励起して電子供与体から直接電子を引き抜いてラジカルとなるもの等の、光照射による励起によって活性ラジカル種を発生させる機構が酸化剤的な作用による(自らは還元される)ものである光ラジカル発生剤である。これら酸化型の光ラジカル発生剤は特に制限されず、公知の化合物を用いれば良いが、光照射を行った際の重合活性が他の化合物に比してより高い点で、水素引き抜き型の光ラジカル発生剤が好ましく、なかでも、ジアリールケトン化合物、α−ジケトン化合物又はケトクマリン化合物が特に好ましい。
【0089】
ジアリールケトン化合物を具体的に例示すると4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、9−フルオレノン、3,4−ベンゾ―9−フルオレノン、2―ジメチルアミノ―9−フルオレノン、2−メトキシ―9―フルオレノン、2−クロロ―9−フルオレノン、2,7−ジクロロ―9―フルオレノン、2−ブロモ―9―フルオレノン、2,7−ジブロモ―9―フルオレノン、2−ニトロ−9−フルオレノン、2−アセトキ−9−フルオレノン、ベンズアントロン、アントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ジメチルアミノアントラキノン、2,3−ジメチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1,5−ジクロロアントラキノン、1,2−ジメトキシアントラキノン、1,2−ジアセトキシ−アントラキノン、5,12−ナフタセンキノン、6、13−ペンタセンキノン、キサントン、チオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、9(10H)−アクリドン、9−メチル−9(10H)−アクリドン、ジベンゾスベレノン等を挙げることができる。
【0090】
α−ジケトン化合物の具体例を例示すれば、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、アセチルベンゾイル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4’−ジメトキシベンジル、4,4’−オキシベンジル、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等が挙げられる。
【0091】
またケトクマリン化合物としては、3−ベンゾイルクマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−7−メトキシクマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)7−メトキシ−3−クマリン、3−アセチル−7−ジメチルアミノクマリン、3−ベンゾイル−7−ジメチルアミノクマリン、3,3’−クマリノケトン、3,3’−ビス(7−ジエチルアミノクマリノ)ケトン等を挙げることができる。
【0092】
これら酸化型の光ラジカル発生剤は単独または2種類以上を混合して用いて使用できる。また、添加量も組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、通常は前記した光酸発生剤1モルに対し、光ラジカル発生剤が0.001〜20モルであり、0.005〜10モルであることが好ましい。
【0093】
本発明の歯科用カチオン硬化性組成物には、上記重合開始剤及び重合性単量体に加えて、歯科用硬化性組成物の配合成分として公知の他の成分を配合することができる。
【0094】
代表的な他の配合成分としては充填材(フィラー)が挙げられる。本発明の歯科用カチオン硬化性組成物に充填材を配合することにより、重合収縮をさらに小さくすることができる。また、充填材を用いることにより、硬化前の硬化性組成物の操作性を改良したり、あるいは、硬化後の機械的物性の向上を計ることができ、特に歯科用の充填修復材料として有用性の高いものとなる。
【0095】
本発明の歯科用カチオン硬化性組成物に対して充填材を配合する場合、その充填材の種類や配合量は、該組成物の用途に応じて適宜設定すればよい。例えば、本発明の歯科用カチオン硬化性組成物を充填修復材料として用いる場合には、歯科用充填修復材料の充填材として公知の充填材を配合すればよい。
【0096】
より具体的には、非晶質シリカ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、石英、アルミナ等の無機充填材が挙げられる。さらに、これら無機酸化物粒子を高温で焼成する際に緻密な無機酸化物粒子を得やすくする等の目的で、少量の周期律表第I族の金属酸化物を該無機酸化物粒子中に存在させた複合酸化物の粒子を用いることもできる。歯科用としては、シリカとジルコニアとを主な構成成分とする複合酸化物の無機フィラーがX線造影性を有することから、特に好適に用いられる。
【0097】
これら無機充填材の粒径、形状は特に限定されず、一般的に歯科用材料として使用されている、球状や不定形の、平均粒子径0.01μm〜100μmの粒子を目的に応じて適宜使用すればよい。また、これら充填材の屈折率も特に限定されず、一般的な歯科用組成物の充填材が有する1.4〜1.7の範囲のものが制限なく使用できる。中でもより高い表面滑沢性や、対磨耗性を得るために、形状が球状もしくは略球状の無機紛体及び/またはその凝集体を用いることが好適である。なお、ここで言う略球状とは、走査型電子顕微鏡で無機フィラーの写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子の最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で徐した平均均斉度が0.6以上の物であることを言う。
【0098】
上記無機球状フィラーの粒径等は特に制限される物ではないが、より高い表面滑沢性や対磨耗性を得る為には、平均粒径が0.01μm〜1μmの無機粒子及び/又は概無機粒子の凝集体からなる無機球状フィラーを用いるのが好適である。これら無機球状フィラーは、単一の粒子系、及び平均粒子経が異なる2つあるいはそれ以上の群からなる混合粒子系で使用することができる。
【0099】
上記無機フィラーは、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理することが、重合性単量体とのなじみをよくし機械的強度や耐水性を向上させる上で望ましい。表面処理の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、3−エチル−3−[3−(トリエトキシシリル)プロポキシメチル]オキセタン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられる。特に重合性単量体がカチオン重合成単量体である場合、カチオン重合性の官能基を有するシランカップリング剤である3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、3−エチル−3−[3−(トリエトキシシリル)プロポキシメチル]オキセタン等が望ましい。上記シランカップリング剤は1種類あるいは2種類以上を合わせて用いることができる。
【0100】
また、更に高いフィラー充填率と良好な操作性を両立する目的で、有機無機複合フィラーが好適に使用できる。有機無機複合フィラーとは、重合性単量体と、無機フィラーを主成分とする重合硬化性組成物を重合硬化させた後に粉砕して得られるものであり、公知の製造方法によって製造される有機無機複合フィラーが何ら制限なく用いられる。
【0101】
本発明のカチオン硬化性組成物に上記フィラーを配合する場合の配合量も特に限定されないが、歯科用充填修復材料として用いる場合には、前記重合性単量体100質量部に対して、50〜1500質量部、好ましくは70〜1000質量部とすることが好ましい。さらに、これら無機フィラー、有機−無機複合フィラー等の充填材は各々単独で用いても良いし、材質、粒径、形状等の異なる複数種のものを併用しても良いが、硬化後の機械的物性に優れる点で、無機フィラー単独、或いは無機フィラーと有機−無機複合フィラー併用して用いることが特に好ましい。
【0102】
さらに本発明の歯科用カチオン硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、重合禁止剤、酸化防止剤および紫外線吸収剤等の安定化剤、その他染料、帯電防止剤、顔料、香料、有機溶媒や増粘剤等の公知の添加剤が配合されていても良い。
【0103】
特に本発明の歯科用硬化性組成物に、重合開始剤としてヨードニウム塩系開始剤を配合した場合、50℃程度の比較的高の条件下や、或いは室温下における長期の保存おける同硬化性組成物のゲル化を抑制できる事から、ビンダードフェノール類及びヒンダードアミン類が配合されることが好ましい。ここで、ヒンダードフェノール類は、フェノール性水酸基の結合する芳香族炭素に隣接する二つの芳香族炭素の少なくとも1つが、第2級アルキル基、或いは第3級アルキル基によって置換されているものを示す。中でもフェノール性水酸基の結合する芳香族炭素に隣接する二つの芳香族炭素の、両方が第3級アルキル基によって置換されている物が最も好適に利用される。このような化合物としては2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート等が挙げられる。これらヒンダードフェノール類は、必要に応じて複数の化合物を併用しても良い。これらヒンダードフェノール類の添加量は、組み合わせる他の成分によって異なるが、通常は前記したジアリールヨードニウム塩1モルに対し、ヒンダードフェノール基が0.001〜1モルであり、0.005〜0.8モルであることが好ましい。
【0104】
また、ヒンダードアミン類は、第2級或いは第3級脂肪族アミン化合物であり、かつ該アミンを成す窒素原子に結合するアルキル基の少なくとも2つ以上が第2級或いは第3級アルキル基であるものを示す。このようなヒンダードアミン類としては、公知の化合物が特に制限なく使用でき、例えば、樹脂用の光安定剤として知られるヒンダードアミン類を使用できる。これらのなかでも、化学的に安定な環状アミンであるピロリジン類、ピペリジン類、ピペラジン類が好ましく、入手容易な点からピペリジン類がより好ましい。このようなヒンダードアミン類の具体例を挙げると、2,6−ジメチルピペリジン、N−メチル−2,6−ジメチルピペリジン、N−メチル−2,6−ジメチルピペリジン−4−オン、N−メチル−4―ヒドロキシ―2,6−ジメチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オン、N−メチル−4―ヒドロキシ―2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ[(6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジ/2,4−ジイル][ (2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)イミノ]ヘキサメチルレン(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)イミノール、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン重縮合物等が挙げられる。これらヒンダードアミン類は、必要に応じて複数の化合物を併用しても良い。
【0105】
ヒンダードアミン類の添加量も、組み合わせる他の成分によって異なるが、硬化後の硬化体物性に悪影響を与え難い点で、通常は前期したヨードニウム塩1モルに対し、ヒンダードアミノ基が0.001〜1モルであり、0.005〜0.8モルであることが好ましい。
【0106】
本発明の歯科用カチオン重合性組成物は上記のような歯科用充填修復材料として特に好適に使用されるが、それに限定されるものではなく、歯科用接着材や義歯床用材料等その他の用途にも使用できる。
【0107】
本発明の歯科用カチオン硬化性組成物の製造方法は特に制限されるものではなく、公知の製造方法を適宜採用すればよい。具体的には、本発明の歯科用カチオン硬化性組成物を構成する、カチオン重合開始剤、カチオン重合性単量体ならびに必要に応じて配合されるその他の配合成分を所定量秤取り、これらを混合すればよい。
【0108】
本発明の歯科用カチオン硬化性組成物の包装形態は特に制限されるものではなく、その目的や保存安定性を考慮して適宜決定すればよい。例えば、カチオン重合開始剤として光カチオン重合開始剤を配合した際には、本発明の歯科用カチオン硬化性組成物を構成する全ての成分を遮光状態で一つの包装とすればよい。一方、光照射を行わずとも室温でカチオン重合を開始できるような成分を重合開始剤として用いる場合には、保存中に重合・硬化してしまわないように、2つ以上の包装に分割しておき、使用直前に両者を混合するような形態が好ましい。
【0109】
本発明の歯科用カチオン硬化性組成物を硬化させる手段としては用いたカチオン重合開始剤の重合開始機構に従い適宜、公知の重合手段を採用すればよく、具体的には、カーボンアーク、キセノンランプ、メタルハライドランプ、タングステンランプ、蛍光灯、太陽光、ヘリウムカドミウムレーザー、アルゴンレーザー等の光源による光照射、或いは加熱重合器等を用いた加熱、またはこれらを組み合わせた方法等が何等制限なく使用される。光照射により重合させる場合には、その照射時間は、光源の波長、強度、硬化体の形状や材質によって異なるため、予備的な実験によって予め決定しておけばよいが、一般には、照射時間が5〜60秒程度の範囲になるように、各種成分の配合割合を調整しておくことが好ましい。同様に加熱時間及び加熱温度も予備的な実験によって予め決定しておけばよい。
【実施例】
【0110】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこの実施例によって何等限定されるものではない。尚、本文中、並びに実施例中に使用した化合物の略称は以下の通りである。なお、()内は官能基当量を示す。
1.本発明の必須成分である(i)オキセタン化合物
【0111】
【化15】

【0112】
2.本発明の必須成分でないオキセタン化合物
【0113】
【化16】

【0114】
3.本発明の必須成分である(ii)エポキシ化合物
【0115】
【化17】

【0116】
4.本発明の必須成分でないエポキシ化合物
【0117】
【化18】

【0118】
5.ラジカル重合性化合物
【0119】
【化19】

【0120】
6.光酸発生剤
【0121】
【化20】

【0122】
7.縮合多環芳香族化合物
【0123】
【化21】

【0124】
8.酸化型の光ラジカル発生剤
CQ:カンファーキノン
9.その他
DMBE:4−ジメチルアミノエチル安息香酸エチル
また実施例、比較例における各種組成物の調製法、物性の評価方法を以下に示す。
【0125】
(1)マトリックスの調製
暗所下、重合性単量体に対し、重合開始剤を加え均一になるまで攪拌・溶解し、マトリックスA〜Oを調整した。表1にその組成を示す。
【0126】
【表1】

【0127】
(2)無機フィラーの表面処理
球状シリカ−ジルコニア(粒径0.2μm)20gを、pH4.0に調整した塩酸80mlに縣濁させ、攪拌しながら3−エチル−3−(3−トリエトキシシリルプロポキシ)メチルオキセタン1.2gを滴下した。1時間攪拌後、エバポレーターで水を留去し、得られた固体を乳鉢で粉砕後、減圧下80℃で15時間乾燥した。乾燥後、得られた粉末を無機フィラーPF1とし、シリカゲルを乾燥剤としたデシケーター中で保存した。
【0128】
同様に、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン1gで処理したものを無機フィラーPF2とした。
【0129】
(3)有機無機複合フィラーの調整
60質量部のBis−GMAと40重量部の3Gの混合物100質量部に対して、予め重合開始剤として0.5質量部のアゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBN)を溶解させたもの25質量部と、75質量部のPF2を、メノウ乳鉢で混合し、ペースト化した。これを、95℃、窒素雰囲気下で1時間加熱重合した。重合硬化体を振動ボールミルを用いて粉砕し、これを有機無機複合フィラーHF1(平均粒径;20μm)とした。
【0130】
(4)ペーストの調整
無機フィラーPF1と有機無機複合フィラーHF1の質量比40:60になるよう混合し、この混合物82質量部と、18質量部のマトリックスAをメノウ乳鉢で混合し、該混合物を真空下、脱泡して気泡を取り除きペーストAを得た。
【0131】
同様にマトリックスBから、ペーストBを、マトリックスG〜IからペーストG〜Iを、マトリックスK、LからペーストK、Lを得た。
【0132】
(5)表面未重合
6mmφ×0.3mmの孔を有するポリテトラフルオロエチレン製のモールドの底面に、パスツールピペットを用いてマトリックスを塗布した。同様に組成物液面上面約5mmの距離から歯科用可視光線照射器(トクヤマデンタル社、パワーライト)にて60秒間光照射し、光硬化させた。硬化体の照射面にべたつきがある物を×、べたつきがないものを○とした。
【0133】
(6)フィラーを含まない組成物(マトリックス)の硬化時間
内径1.6cm、深さ1.1cmのポリプロピレン容器に、本発明のカチオン重合組成物0.9gを入れ、硬化厚膜を4mmとした。ついで照射距離0.5cmから歯科用の光照射器(TOKUSO POWER LITE、(株)トクヤマ社製)によって光照射を2分間行った。このとき、照射開始から、重合体表面を鋭利なピンセット先端で垂直に強く押しても、ピンセット先端が重合体に刺さらなくなるまでの時間を硬化時間とした。
【0134】
(7)フィラーを含まない組成物の重合収縮率
硬化前の液状組成物を、重量既知の10mlメスフラスコに入れ、液面を標線に合わせた後、23℃インキュベーター中で一晩保存した。保存後、液面が標線に合っていることを確認し、その重量を測定した。測定した重量から組成物を入れる前のメスフラスコの重量を引き、更に体積で割ることで組成物の密度を算出した。以上の操作を3サンプル以上で行い、その平均値を組成物密度d1とした。
【0135】
硬化時間評価に用いたものと同様な組成物を、直径3cm、深さ1cmのポリプロピレン樹脂製の容器に深さ0.5cmまで入れ、歯科用光照射器αライト(製)で10分間光照射し、硬化させた。硬化後、室温で30分放置し、デジタル比重計(ザルトリウス社製)を用い、浮力発生液体を水(水温23〜24℃)として密度を測定した。同様な操作を3サンプル以上で行い、その平均値を硬化体密度d2とした。得られたd1、d2から、下記式
(d2―d1)/d2 × 100 = 収縮率(%)
により重合収縮率を算出した。
【0136】
(8)フィラーを含まない組成物の硬化体性状
上記重合収縮率測定に用いた硬化体を手で割ろうとした場合、目視で変形が認められず、割れないものをH、変形は認められるが割れないものをS、容易に割れるものをFとした。
【0137】
(9)フィラー含有組成物(ペースト)の硬化時間
ガラス板上に、約直径6mm、高さ3mmにペーストを築盛し、築盛物上面約5mmの距離から光照射した。そのとき、太さ約0.4mmの針で照射光を遮らない様、築盛物上面および側面の硬さを調べ、築盛物全体に針が刺さらなくなった時を硬化時間とした。
【0138】
(10)フィラー含有組成物の重合収縮率
直径3mm、高さ7mmの孔を有するSUS製割型に、直径3mm、高さ4mmのSUS製プランジャーを填入して孔の高さを3mmとした。これに硬化性組成物を充填し、上からスライドグラスで圧接した。フィルム面を下に向けて歯科用照射器の備え付けてあるガラス製台の上に載せ、更にSUS製プランジャーの上から微小な針の動きを計測できる短針を接触させた。歯科用照射器によって重合硬化させ、照射開始より10分後の収縮(%)を、短針の上下方向の移動距離から算出した。
【0139】
(11)水中浸漬前の曲げ強度
硬化性組成物を2×2×25mmの金型に充填し、ポリプロピレンフィルムで覆い、光照射器にて1.5分間光照射し硬化させた。硬化物を空気中、37℃で7日間保存した後、オートグラフ(島津製作所社製)を使用し、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分で3点曲げ強度を各々5個の硬化物について測定し、その平均値を算出した。
【0140】
(12)水中浸漬後の曲げ強度
同様に硬化体を作成し、該硬化物を水中、37℃で7日間保存した後、各々5個の硬化物について同様に測定し、その平均値を算出した。
【0141】
(13)水中浸漬後の曲げ強度保持率
下記式より計算した値を、水中浸漬後の曲げ強度保持率とした。

(水中浸漬後の曲げ強度保持率/水中浸漬前の曲げ強度)×100
=水中浸漬後の曲げ強度保持率/%
実施例1
本発明の必須成分である、(I)オキセタン化合物として、OX−1を70質量部と、同様に(II)エポキシ化合物としてEP−1を30質量部に対し、重合開始剤としてIMDPIを1質量部、DMAnを0.1質量部、カンファーキノンを0.6質量部を溶解させたマトリックスAについて、硬化時間、硬化体性状、重合収縮率、及び表面未重合を評価した。その結果を表2にしめす。
【0142】
3秒で硬化し、硬い硬化体が得られた。また、表面未重合も無く、重合収縮は2.8%であった。
実施例2〜6
実施例1と同様に、マトリックスB〜Fについて硬化時間、硬化体性状、重合収縮率、及び表面未重合を評価した。その結果を表2にしめす。
【0143】
何れも3秒以内で硬化し、硬い硬化体が得られた。また、表面未重合も無く、重合収縮は2.8%以下あった。
【0144】
比較例1〜3
実施例1と同様に、重合性単量体としてOX−1を70質量部と、本発明の必須成分でないエポキシ化合物であるEP−3、EP−4、或いはEP−5を30重量部からなるマトリックスG、H、Iを用い、硬化時間、硬化体性状、重合収縮率、及び表面未重合を評価した。その結果を表2にしめす。
【0145】
何れも硬化に、6秒以上を要し、更に3.5%以上の重合収縮を示した。
【0146】
比較例4
実施例1と同様に、重合性単量体として本発明の必須成分でないオキセタン化合物(OX−3)70質量部と、EP−1を30重量部からなるマトリックスJを用い、硬化時間、硬化体性状、重合収縮率、及び表面未重合を評価した。その結果を表2にしめす。
【0147】
表面未重合は無いが、得られた硬化体の性状は柔らかく、容易に変形した。
【0148】
比較例5
実施例1と同様に、重合性単量体として、OX−1のみからなるマトリックスKを用い、硬化時間、硬化体性状、重合収縮率、及び表面未重合を評価した。その結果を表2にしめす。
【0149】
硬化に、10秒を要し、重合収縮も3.8%であった。
【0150】
比較例6、7
実施例1と同様に、重合性単量体として、EP−1のみ、或いはEP−2のみからなるマトリックスL、Mを用い、各々の硬化時間、硬化体性状、重合収縮率、及び表面未重合を評価した。その結果を表2にしめす。
【0151】
重合収縮は何れも1%未満と小さいものであったが、硬化時間が長くなり、得られた硬化体は非常に脆い物であった。
【0152】
比較例8
実施例1と同様に、重合性単量体として、EP−3のみからなるマトリックスNを用い、硬化時間、硬化体性状、重合収縮率、及び表面未重合を評価した。その結果を表2にしめす。
【0153】
硬化までに16秒を要し、重合収縮も4.1%であった。
【0154】
比較例9
ラジカル重合性単量体からなるマトリックスOを用い、硬化時間、硬化体性状、重合収縮率、及び表面未重合を評価した。その結果を表2にしめす。
【0155】
重合収縮は7.8%と大きく、表面未重合が生じた。
【0156】
【表2】

【0157】
実施例7、8
ペーストA及びBについて硬化時間、重合収縮、水中浸漬前後の曲げ強度、及び曲げ強度保持率を評価した。その結果を表3に示す。
【0158】
調整したペーストA、Bの硬化体は、0.7%以下の低い重合収縮率を示し、更に高い硬化性と曲げ強度を示し、水中浸漬後においても、浸漬前の曲げ強度の96%以上を維持している
比較例10〜14
ペーストG、H、I、J、K、L及びMの各々を用い、上記方法に従ってペーストを作製し、各ペーストについて硬化時間、重合収縮、水中浸漬前後の曲げ強度、及び曲げ強度保持率を評価した。その結果を表3に示す。
【0159】
本発明の必須成分でないEP−3、4を用いたペーストG、Hの硬化体は水中浸漬後の曲げ強度が、浸漬前の77%以下まで低下した(比較例10、11)。また、本発明の必須成分でないEP−5を用いたペーストIの硬化体は、ペーストA及びBと比べて、重合収縮率が1.1と大きいものであった(比較例12)。同様に、本発明の必須成分でないOX−3を用いたペーストJの硬化体は、その曲げ強度が著しく低いものであった(比較例13)。一方、単量体として、本発明の必須成分中、OX−1のみを用いたペーストKは、硬化までに15秒の時間を要した(比較例14)。同様にEP−3或いはEP−4のみからなるペーストL、Mの硬化体は、その曲げ強度は低いものであった(比較例15、16)。
【0160】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)分子内にオキセタン基を少なくとも2個有するオキセタン化合物、
(II)置換基を有していても良いシクロヘキセンオキシド基の3位または4位の炭素原子に、下記式(1)
【化1】

(式中、RおよびRは、水素原子、または置換基を有していても良い炭素数1〜13の炭化水素基であり、RおよびRの合計炭素数は2以上である。)
で示される基が結合するか、または5員環〜8員環の炭化水素環を構成する炭素原子が結合する
シクロヘキセンオキシド環含有単位を、少なくとも2単位有するエポキシ化合物、および
(III)カチオン重合開始剤
を含んでなる歯科用カチオン硬化性組成物。
【請求項2】
(II)エポキシ化合物が、下記一般式(a)
【化2】

(式中、R〜R20は、それぞれ同一または異なっていて良い、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、またはアルキル基であり、R21およびR22は、水素原子、または炭素数1〜10の炭化水素基であり、R21およびR22の合計炭素数は2以上であり、mは0または1の整数である。)
で示される化合物である請求項1記載の歯科用カチオン硬化性組成物。
【請求項3】
(I)オキセタン化合物が、下記式(2)
【化3】

(式中、Arは、置換基を有していても良いアリール基であり、R23は、水素原子、または炭素数1〜10のアルキル基である。)
で示される基を、分子内に少なくとも2つ有する化合物であるある請求項1または請求項2記載の歯科用カチオン硬化性組成物。
【請求項4】
(I)オキセタン化合物と(II)エポキシ化合物との配合比が、1分子平均a個のオキセタン官能基を有する(I)オキセタン化合物をAモルとし、1分子平均b個のエポキシ官能基を有する(II)エポキシ化合物をBモルとして、(a×A):(b×B)が90:10〜45:55になる範囲である請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科用カチオン硬化性組成物。

【公開番号】特開2007−15946(P2007−15946A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196418(P2005−196418)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】