説明

歯科用セメント用の反応性充填材

歯科用アイオノマーセメント用の粒状反応性充填材を改質する方法であって、(a)粒状反応性充填材を用意する工程、及び(b1)表面改質剤で粒状反応性充填材の表面を処理して、遷移金属に対する配位基を示す表面改質された粒状反応性充填材を得る工程、及び(b2)遷移金属を含有する薬剤で表面改質された粒状反応性充填材を処理して、表面改質された粒状反応性充填材の表面上に示される配位基で遷移金属を錯化させる工程、及び/又は(c)表面改質剤と遷移金属前駆体化合物との反応生成物である表面改質遷移金属錯体で粒状反応性充填材の表面を処理する工程を有し、歯科用アイオノマーセメント用の、遷移金属錯体により表面改質された粒状反応性充填材を得る方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用アイオノマーセメント用の反応性粒状充填材を改質する方法に関する。さらに、本発明は、本発明の方法によって得られる歯科用アイオノマーセメント用の改質された反応性粒状充填材に関する。さらに、本発明は、本発明の反応性粒状充填材を含む歯科用アイオノマーセメントに関する。最後に、本発明は、歯科用アイオノマーセメントにおける反応性粒状充填材の使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、シラン又はシラノールカップリング剤で表面処理された反応性充填材を含む歯科用組成物を開示している。組成物はフッ化物放出材料をさらに含み、このフッ化物放出材料は任意選択的に、金属イオンと錯化することができる有機キレート部位を含有する金属錯体のフッ化物塩であってもよい。
【0003】
特許文献2は、無機充填材がシラン化合物で処理された歯科用充填材を開示している。
【0004】
アイオノマーは既知のものである。アイオノマーセメントは一般に、水の存在下で硬化反応により反応するポリカルボン酸及び無機粉末を含有する。従来のアイオノマーセメントは一般的に、アルミノケイ酸塩を含有する粉末成分と、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、又はこれらの酸の少なくとも2つのコポリマー等のポリ酸を通常含有する液状部分とを含有する(非特許文献1参照)。ガラスアイオノマーセメントにおいて、ガラスアイオノマーセメントを硬化させる主反応は、イオン力に基づくガラスからの金属イオンによるポリカルボン酸鎖の架橋である。さらに、凝固時に、ガラスアイオノマーセメントの酸がガラス構造を溶解し、ガラスの金属成分を放出させる。カルシウム及びストロンチウムのイオン性カルボン酸塩は主に凝固プロセス中に生成される。
【0005】
アイオノマーセメントは、エナメル質及び象牙質に対する良好な接着特性、良好な美観特性、及びフッ化物含有ガラス充填材からのフッ化物の放出による齲蝕予防特性に関する可能性を特徴とする。したがって、アイオノマーセメントは、齲蝕窩洞の充填、歯冠のセメント付け、インレーすなわち架工義歯、又は矯正用バンド、窩洞のライニング、根管及びコア構造の封止、並びに予防封止に関する歯科分野において広範に使用されている。
【0006】
しかしながら、アイオノマーセメントの機械特性は一般的に問題があり、ガラスアイオノマー材料は本質的に脆性である。それゆえ、アイオノマーセメントの塗布は通常、圧がかからない領域に限定される。アイオノマーセメント材料は、永久的な後部(posterior)における使用において、特に大きい修復物に関して著しい限定を有し続けている。樹脂で改質されたガラスアイオノマーセメントが、従来のガラスアイオノマーが脆性破壊する傾向に関連する問題を克服するために導入され、フッ化物の放出及び接着等の利点を依然として持ち続けている(特許文献3、特許文献4、及び特許文献5)。したがって従来のガラスアイオノマーセメント中の水のいくらかを親水性モノマーで置き換えるか、又はポリマー酸を改質することにより、酸基のいくらかが重合性部位で置換され、ポリマー酸が重合反応にも関与し得ることが示唆された。
【0007】
さらに、アイオノマーセメント材料の機械特性を改善する問題を検討するために、特許文献6は、特定の酸性成分、すなわちアクリル酸又はメタクリル酸を含むアミノ酸のアクリロイル誘導体又はメタクリロイル誘導体のコポリマーの使用を示唆している。特許文献7は、曲げ抵抗性及びねじり抵抗性を改善したガラスアイオノマー歯科用修復物中に使用されるポリマー組成物を開示しており、このポリマーは少なくとも2つの特定のポリマーから形成される。特許文献8は、機械特性を改善するアミノ酸を含有するアイオノマーセメントを開示している。
【特許文献1】米国特許第6,126,922号
【特許文献2】欧州特許出願公開第1,101,484号
【特許文献3】欧州特許第0323120号
【特許文献4】米国特許第4,872,936号
【特許文献5】米国特許第5,154,762号
【特許文献6】米国特許第5,369,142号
【特許文献7】国際公開第02/062861号
【特許文献8】国際公開第03/061606号
【特許文献9】米国特許第3,655,605号
【特許文献10】米国特許第3,814,717号
【特許文献11】米国特許第4,143,018号
【特許文献12】米国特許第4,209,434号
【特許文献13】米国特許第4,360,605号
【特許文献14】米国特許第4,376,835号
【特許文献15】米国特許第4,016,124号
【特許文献16】米国特許第4,089,830号
【特許文献17】米国特許第4,342,677号
【特許文献18】米国特許第4,360,605号
【特許文献19】米国特許第5,130,347号
【特許文献20】米国特許第4,035,321号
【特許文献21】米国特許第4,317,681号
【特許文献22】米国特許第4,374,936号
【特許文献23】米国特許第5,154,762号
【特許文献24】米国特許第5,063,257号
【特許文献25】米国特許第5,520,725号
【特許文献26】米国特許第5,859,089号
【特許文献27】米国特許第5,962,550号
【特許文献28】米国特許第4,872,936号
【特許文献29】米国特許第5,227,413号
【特許文献30】米国特許第5,367,002号
【特許文献31】米国特許第5,965、623号
【非特許文献1】"New Aspects of the Setting of Glass-ionomer Cements" Wasson他, Journal of Dental Research; Vol. 72, No. 2、1993年2月、481〜483頁
【非特許文献2】Strahle J., Schweda E.: “Einfuhrung in das anorganisch−chemische Praktikum”, 13. Auflage, Hirzel-Verlag, Stuttgart 1990
【非特許文献3】Ducreux-Zappa M., Mermet J.-M.: Spectrochim Acta Part B 51: 333-341 (1996)
【非特許文献4】Imbert J. L., Telouk P,: Mikrochim Acta 110: 151-160 (1993)
【非特許文献5】Guadagnino E., Corumluoglu O.: Glass Technology 41: 130-134 (2000)
【非特許文献6】Crisp et al., "Glass ionomer cement formulations. II. The synthesis of novel polycarboxylic acids", in J. Dent. Res 59(6): 1055-1063 (1980)
【非特許文献7】Prosser, J. Chem. Tech. Biotechnol. 29: 69-87 (1979)
【非特許文献8】Mathis et al., "Properties of a New Glass Ionomer/ Composite Resin Hybrid Restorative", Abstract No. 51, J.Dent Res., 66:113 (1987)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、機械特性、特に圧縮強度及び曲げ強度が改善されると同時に、優れた作業時間及び凝固時間を有するアイオノマーセメントを提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、機械特性、特に圧縮強度及び曲げ強度が改善されるアイオノマーセメント用の改質された反応性ガラス充填材を提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、歯科用アイオノマーセメント用の反応性粒状充填材を改質する方法を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、本発明により得られる反応性粒状充填材の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、歯科用アイオノマーセメント用の反応性粒状充填材を改質する方法であって、
(a)粒状反応性充填材を用意する工程、及び
(b1)表面改質剤で粒状反応性充填材の表面を処理し、遷移金属に対する配位基を示す表面改質された粒状反応性充填材を得る工程、及び
(b2)遷移金属を含有する薬剤で表面改質された粒状反応性充填材を処理することにより、表面改質された粒状反応性充填材の表面上に示される配位基で遷移金属を錯化させる工程、及び/又は
(c)表面改質剤と遷移金属前駆体化合物との反応生成物である表面改質遷移金属錯体で粒状反応性充填材の表面を処理する工程、
を有する、歯科用アイオノマーセメント用の、遷移金属錯体により表面改質された粒状反応性充填材を得る方法を提供する。
【0013】
本発明は、粒状反応性充填材と、従来のアイオノマーセメントの硬化中に生成される酸性成分との間の境界面でイオン性塩橋が、ガラスアイオノマー材料の良好な機械特性、特に改善された圧縮強度及び曲げ強度をもたらすのに本質的に不十分であるという認識に基づいている。本発明はさらに、酸性成分と粒状反応性充填材との間の境界面の結合が、粒状反応性充填材の表面改質によって改善され得るという認識に基づいている。本発明によれば、粒状反応性充填材と酸性成分との間の境界面の結合は、従来のイオン性塩橋と、粒状反応性充填材及びポリ酸ポリマーにより示される配位子によって錯化、特にキレート化される遷移金属の相互作用とを組み合わせることによりもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、歯科用アイオノマーセメント用の反応性粒状充填材を改質する方法を提供する。この方法は粒状反応性充填材を用意する工程を含む。「粒状反応性充填材」とは、粉末状の金属酸化物又は金属水酸化物、無機ケイ酸塩、又はイオン浸出可能なガラス又はセラミックであり、これは水の存在下でアイオノマーと反応してヒドロゲルを生成することができる。粒状反応性充填材料の例としては、ガラスアイオノマーセメントの分野において一般に既知の材料、例えばカルシウム又はストロンチウム含有材料及びアルミニウム含有材料が挙げられる。好ましくは、粒状反応性充填材は、浸出可能なフッ化物イオンを含有する。粒状反応性充填材の具体例は、カルシウムアルミノケイ酸塩ガラス、カルシウムアルミノフルオロケイ酸塩ガラス、カルシウムアルミニウムフルオロホウケイ酸塩ガラス、ストロンチウムアルミノケイ酸塩ガラス、ストロンチウムアルミノフルオロケイ酸塩ガラス、ストロンチウムアルミノフルオロホウケイ酸塩ガラスから選択される。好適な粒状反応性充填材は、例えば、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13及び特許文献14に記載されているような、酸化亜鉛及び酸化マグネシウム等の金属酸化物、並びにイオン浸出可能なガラスをさらに含む。
【0015】
粒状反応性充填材は通常、0.005〜100μm、好ましくは0.01〜40μmの平均粒径を有し、平均粒径は、例えば電子顕微鏡を用いて、又はMALVERN Mastersizer S装置又はMALVERN Mastersizer 2000装置を用いた従来のレーザー回折式粒度測定法によって測定される。粒状反応性充填材は、様々な平均粒径を有する2つ以上の粒状破片(fractions)の混合物を示す様々な形態の粒状反応性充填材であり得る。また粒状反応性充填材は、様々な化学組成物粒子の混合物であり得る。とりわけ、粒状反応性材料と粒状非反応性材料との混合物を使用することができる。
【0016】
本発明の方法は、表面改質する工程をさらに含み、これにより歯科用アイオノマーセメント用の、遷移金属錯体で表面改質された反応性粒状充填材を得る。表面改質は、粒状ガラスアイオノマーの表面を表面改質剤で処理して、遷移金属に対する配位基を示す表面改質された粒状ガラスアイオノマーを得ること、及び表面改質された粒状ガラスアイオノマーを、遷移金属を含有する薬剤で処理し、表面改質された粒状ガラスアイオノマーの表面上に示される配位基で遷移金属を錯化させることにより達成され得る。好ましくは、配位子はキレート配位子である。
【0017】
代替的に又は付加的に、表面改質は、表面改質剤と遷移金属との反応生成物であり得る表面改質遷移金属錯体で、粒状ガラスアイオノマーの表面を処理することにより達成され得る。
【0018】
本発明の方法では、表面改質剤が二元機能を付与する改質化合物を含有する。改質化合物は、粒状反応性充填材の表面原子と反応することができ、これにより粒状反応性充填材の表面原子と改質化合物との間に共有結合を形成する。その上、改質化合物は、遷移金属イオンを錯化することができる1つ又は複数のヘテロ原子を含有し、これにより遷移金属イオンを粒状反応性充填材の表面に結合させる。好ましくは、改質化合物は、遷移金属をキレート化することができる。改質剤は1種又は複数の改質化合物を含有していてもよい。好ましくは、改質化合物は、遷移金属を2つ以上のヘテロ原子と錯化することができるキレート配位子を提供する。
【0019】
好ましくは、表面改質剤は加水分解性の有機官能性ケイ素化合物を含有する。加水分解性の有機官能性ケイ素化合物は、下記式(I)、(II)及び(III):

(式中、
Xは加水分解性基であり、
Rは、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、
L、L’、L’’及びL’’’は同じであっても異なっていてもよく、互いに独立して、遷移金属に配位することができるヘテロ原子を含有する有機基であり、
nは1以上の整数であり、
これより、X、R、L、L’、L’’及びL’’’の合計は式(I)、(II)及び(III)のそれぞれで4である)
の1種の化合物、又はその加水分解生成物であってもよい。
【0020】
好ましくは、Xがハロゲン原子又はOR(式中、Rはアルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基である)である。より好ましくは、R又はRは独立してアルキル基である。
【0021】
錯化能力を有機官能性ケイ素化合物に付与するために、L、L’、L’’及びL’’’は、遷移金属と結合することができる、窒素原子、酸素原子、イオウ原子及び/又はリン原子を含有する。好ましい実施形態において、L、L’、L’’及びL’’’は、下記式:
−[(CHZ](CHZR’
(式中、
Zは同じであっても異なっていてもよく、かつ、互いに独立したものであり、−NR’−、−O−、S又はPR’であり、R’は独立して水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、
o及びpは互いに独立したものであり、同じであっても異なっていてもよく、1〜6の整数であり、
qは0〜12の整数である)
で表される。
【0022】
さらなる好ましい実施形態において、L、L’、L’’及びL’’’は、下記式:
−[(CHNR’](CHNR’’R’’’
(式中、
R’、R’’及びR’’’は互いに独立したものであり、同じであっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、
o及びpは互いに独立したものであり、同じであっても異なっていてもよく、1〜6の整数であり、
qは0〜12、好ましくは1〜6の整数である)
で表される。
【0023】
またさらなる好ましい実施形態において、L、L’、L’’及びL’’’が、下記式:
−[(CHZ](CHZR’
(式中、
R’は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、
Zは酸素原子又はイオウ原子であり、
o及びpは互いに独立したものであり、同じであっても異なっていてもよく、1〜6の整数であり、
qは0〜12、好ましくは1〜6の整数である)
で表される。
【0024】
アルキル基は、直鎖又は分枝鎖C1〜16アルキル基、一般的にはC1〜8アルキル基であり得る。C1〜6アルキル基の例としては、1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル及びn−ヘキシルが挙げられ得る。シクロアルキル基はC3〜16シクロアルキル基であり得る。シクロアルキル基の例としては、3〜14個の炭素原子を有するもの、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロヘキシルが挙げられ得る。シクロアルキルアルキル基としては、4〜22個の炭素原子を有するものが挙げられ得る。シクロアルキルアルキル基の例としては、1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基と3〜14個の炭素原子を有するシクロアルキル基との組み合わせが挙げられ得る。シクロアルキルアルキル基の例としては、例えば、メチルシクロプロピル、メチルシクロブチル、メチルシクロペンチル、メチルシクロヘキシル、エチルシクロプロピル、エチルシクロブチル、エチルシクロペンチル、エチルシクロヘキシル、プロピルシクロプロピル、プロピルシクロブチル、プロピルシクロペンチル、プロピルシクロヘキシルが挙げられ得る。アラルキル基は、C7〜26アラルキル基、一般的には1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基と6〜10個の炭素原子を有するアリール基との組み合わせであり得る。アラルキル基の具体例は、ベンジル基又はフェニルエチル基である。アリール基としては、6〜10個の炭素原子を有するアリール基が挙げられ得る。アリール基の例はフェニル及びナフチルである。
【0025】
1〜6アルキル基及びC3〜14シクロアルキル基は任意選択的に、C1〜4アルキル基、C1〜4アルコキシ基、フェニル基及びヒドロキシ基から選択される基の1つ又は複数の成員で置換されていてもよい。C1〜4アルキル基の例としては、1〜4個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルが挙げられ得る。C1〜4アルコキシ基の例としては、1〜4個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルコキシ基、例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ及びtert−ブトキシが挙げられ得る。
【0026】
アリール基は1〜3個の置換基を含有していてもよい。このような置換基の例としては、ハロゲン原子、C1〜4アルキル基、C1〜4アルコキシ基、C1〜4アルキルチオ基、C1〜4アルキルスルホニル基、カルボキシル基、C2〜5アルコキシカルボニル基及びC1〜4アルキルアミノ基が挙げられ得る。ここで、ハロゲン原子の実例は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素であり得る。C1〜4アルキル基は例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル及びn−ブチルである。C1〜4アルコキシ基の実例は例えば、メトキシ、エトキシ及びプロポキシである。C1〜4アルキルチオ基の実例は例えば、メチルチオ、エチルチオ、及びプロピルチオである。C1〜4アルキルスルホニル基の実例は例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル及びプロピルスルホニルである。C2〜5アルコキシカルボニル基の実例は、1〜4個の炭素原子をそれぞれ含有するアルコキシ基を有するもの、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル及びプロポキシカルボニルであり得る。C1〜8アルキルアミノ基の実例は、1〜4個の炭素原子をそれぞれ含有する1つ又は2つのアルキル基を有するもの、例えばメチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ及びプロピルアミノであり得る。これらの置換基におけるアルキル部位は、直鎖、分枝鎖又は環状であってもよい。
【0027】
本発明において使用される表面改質剤中に含有される改質化合物の具体例は、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルメチルジメトキシシラン、アミノプロピルジメチルメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(AEPTMS)、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、(3−ジメトキシメチルシリルプロピル)ジエチレントリアミン、(3−ジメチルメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、(3−トリエトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン(TMSPDETA)、(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)ジエチレントリアミン、(3−ジメチルエトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンである。化合物は、単独又は2つ以上の異なる化合物を組み合わせて用いることができる。
【0028】
表面活性剤による粒状反応性充填材の処理に基づき、反応性充填材の表面は、遷移金属を錯化することができる配位基を示す。配位基は例えば、上記の基L、L’、L’’及びL’’’に該当する。配位基は、単座配位基又はキレート配位基であってもよい。
【0029】
表面改質剤は、それ自体を使用してもよく、又は好適な溶剤中に溶解させるか若しくは分散させて使用してもよい。好適な溶剤の例は、トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール及び酢酸エチルである。
【0030】
粒状反応性充填材の表面の表面改質に続いて、表面改質された粒状反応性充填材は、遷移金属を含有する薬剤で処理し、表面改質された粒状反応性充填材の表面上に示される配位基で遷移金属を錯化させる。
【0031】
好ましい遷移金属は、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、マンガン、銅、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、亜鉛及び鉄である。
【0032】
遷移金属のより好ましい群は、イットリウム、ランタン、セリウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ホルミウム、イッテルビウム、ルテチウム、銅及び亜鉛である。
【0033】
遷移金属を含有する薬剤は、1種の遷移金属又は2つ以上の遷移金属の組み合わせを含有していてもよい。遷移金属は、イオンの形態、好ましくは歯科の用途で許容可能であると同時にカルボキシル基と錯体を形成することができるイオンの形態であり得る。薬剤中に含有される遷移金属は、遷移金属前駆体成分から誘導されたものであってもよい。遷移金属前駆体成分は、ハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、又は酢酸塩等のカルボン酸塩等の可溶性塩であってもよい。
【0034】
遷移金属を含有する薬剤は、好適な溶剤をさらに含有していてもよい。溶剤は、水性溶剤若しくは有機溶剤、又はそれらの混合物から選択され得る。好適な有機溶剤は、アルコール、エーテル、ケトン、炭化水素、ハロゲン化炭化水素である。
【0035】
代替的に又は付加的に、粒状反応性充填材の表面改質は、表面改質遷移金属錯体で粒状ガラスアイオノマーの表面を処理することにより達成され得る。遷移金属錯体は、表面改質剤と遷移金属前駆体化合物との反応生成物である。改質剤は、1種又は複数の改質化合物を含有していてもよい。改質化合物は、遷移金属イオンを錯化することができる1つ又は複数のヘテロ原子を含有する。その上、表面改質剤は、粒状反応性充填材の表面原子と反応することができる改質化合物を含有する。したがって、表面改質遷移金属錯体は、粒状反応性充填材の表面と改質化合物との間の共有結合によって、粒状反応性充填材の表面と結合され得る。
【0036】
表面改質遷移金属錯体を調製するのに用いられる改質剤は、上記の改質剤と同じものであってもよい。具体的には、改質剤は上記の1種又は複数の改質化合物を含有していてもよい。改質化合物は、それ自体を使用してもよく、又は好適な溶媒、例えば、トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール及び酢酸エチル中に溶解させるか若しくは分散させて使用してもよい。
【0037】
上記表面改質は、歯科用アイオノマーセメント用の、遷移金属錯体により表面改質された反応性粒状充填材を提供する。
【0038】
本発明はまた、歯科用アイオノマーセメント用の非反応性粒状充填材に関し、この非反応性粒状充填材は、粒状充填材を改質する方法であって、
(a)非反応性粒状充填材を用意する工程、及び
(b1)表面改質剤で非反応性粒状充填材の表面を処理することにより、遷移金属に対する配位基を示す表面改質された非反応性粒状充填材を得る工程、及び
(b2)遷移金属を含有する薬剤で表面改質された非反応性粒状充填材を処理することにより表面改質された非反応性粒状充填材の表面上に示される配位基で遷移金属を錯化させる工程、及び/又は
(c)表面改質剤と遷移金属前駆体化合物との反応生成物である表面改質遷移金属錯体で非反応性粒状充填材の表面を処理する工程、
を有する、歯科用アイオノマーセメント用の、遷移金属錯体により表面改質された非反応性粒状充填材を得る方法により得られる。
【0039】
非反応性充填材は、石英、コロイダルシリカ、長石、ホウケイ酸塩ガラス、カオリン、タルク、チタニア又は発熱性シリカを用いることにより得ることができる。粒状非反応性充填材は、0.005〜100μmの平均粒径を有する。粒状非反応性充填材は、0.01〜40μmの平均粒径を有していてもよい。反応性充填材の改質の場合と同様に、表面改質剤は、加水分解性の有機官能性ケイ素化合物を含有していてもよい。加水分解性の有機官能性ケイ素化合物は、下記式(I)、(II)及び(III):

(式中、
Xは加水分解性基であり、
Rはアルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、
L、L’、L’’及びL’’’は同じであっても異なっていてもよく、互いに独立して、遷移金属に配位することができるヘテロ原子を含有する有機基であり、
nは1以上の整数であり、
これより、X、R、L、L’、L’’及びL’’’の合計は式(I)、(II)及び(III)のそれぞれで4である)
の1種の化合物、又はその加水分解生成物であってもよい。
【0040】
好ましくは、Xはハロゲン原子又はOR(式中、Rは上記で定義される通りである)である。Rは好ましくはアルキル基である。L、L’、L’’及びL’’’は、遷移金属と結合することができる、窒素原子、酸素原子、イオウ原子及び/又はリン原子を含有していてもよい。L、L’、L’’及びL’’’は、下記式:
−[(CHZ](CHZR’
(式中、
Zは同じであっても異なっていてもよく、かつ、互いに独立したものであり、−NR’−、−O−、S又はPR’であり、
R’は独立して水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、
o及びpは互いに独立したものであり、同じであっても異なっていてもよく、1〜6の整数であり、
qは0〜12、好ましくは1〜6の整数である)
で表される。
【0041】
好ましい実施形態において、L、L’、L’’及びL’’’は、下記式:
−[(CHNR’](CHNR’’R ’’’
(式中、
R’、R’’及びR’’’は互いに独立したものであり、同じであっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、
o及びpは互いに独立したものであり、同じであっても異なっていてもよく、1〜6の整数であり、
qは0〜12の整数である)
で表される。
【0042】
さらなる実施形態において、L、L’、L’’及びL’’’は、下記式:
−[(CHZ](CHZR’
(式中、
R’は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、
Zは酸素原子又はイオウ原子であり、
o及びpは互いに独立したものであり、同じであっても異なっていてもよく、1〜6の整数であり、
qは0〜12、好ましくは1〜6の整数である)
で表される。
【0043】
非反応性充填材は、好ましくは表面改質剤が、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルメチルジメトキシシラン、アミノプロピルジメチルメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(AEPTMS)、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、(3−ジメトキシメチルシリルプロピル)ジエチレントリアミン、(3−ジメチルメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、(3−トリエトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン(TMSPDETA)、(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)ジエチレントリアミン、(3−ジメチルエトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンから成る群より選択される化合物を含有する方法により得られる。
【0044】
非反応性充填材は、遷移金属が好ましくは、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、マンガン、銅、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、亜鉛及び鉄から成る群より選択される方法により得られる。より好ましくは、遷移金属は、イットリウム、ランタン、セリウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ホルミウム、イッテルビウム、ルテチウム、銅及び亜鉛から成る群より選択される。遷移金属は、好ましくはカルボキシル基と錯体を形成することができるイオンである。
【0045】
好ましくは、本発明の方法により得られる改質された反応性粒状充填材及び/又は非反応性粒状充填材は、遷移金属を表面改質として0.005〜1,000、より好ましくは0.05〜300、特に0.05〜100mmol(遷移金属)/kg(充填材)の量で含有し、この量は、充填材の酸パルプ化後に誘導結合プラズマ原子発光分光分析(EN ISO 11885)により測定される。酸パルプ化は遷移金属を量的に可溶化するのに用いられるため、この目的に好適な任意の酸を用いるのがよい。セリウム、亜鉛及びイッテルビウムの場合には、フッ化水素酸/硝酸のパルプ化が有益に適用され得る。銅及びガドリニウムの場合には、フッ化水素酸/硫酸のパルプ化が有益に適用され得る。ガラス及びセラミックスからの多くの遷移金属の酸パルプ化の詳細は、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4および非特許文献5に記載されている。
【0046】
好ましくは、本発明の方法により得られる改質された反応性粒状充填材及び/又は非反応性粒状充填材は、遷移金属を表面改質として2.5×10−6〜0.5、より好ましくは2.5×10−5〜0.15、特に2.5×10−5〜5×10−2mmol(遷移金属)/m(充填材のBET表面)の量で含有し、遷移金属の量は、充填材の酸パルプ化後に誘導結合プラズマ原子発光分光分析(EN ISO 11885)により測定される。充填材のBET表面は、DIN66131によって、好ましくは上記表面改質剤による表面処理前に測定される。
【0047】
歯科用アイオノマーセメントは、本発明の方法により得られる改質された反応性粒状充填材及び/又は非反応性粒状充填材とアイオノマーとを含む。本発明による改質された非反応性粒状充填材を特定の組成物中に組み入れる場合にのみ、ガラスアイオノマー反応を可能にするために、従来の反応性充填材等の反応性充填材を使用することが当然ながら必要になる。したがって、(i)本発明の方法により得られる改質された非反応性充填材と、(ii)反応性充填材と、(iii)アイオノマーとを含む歯科用アイオノマーセメントを提供することができる。
【0048】
アイオノマーは、十分な量のペンダント型(pendent)イオン性基を有するポリマーを含有し、改質された反応性充填材料及び/又は非反応性充填材料及び水の存在下で、凝固反応又は硬化反応を受ける。本明細中で使用される場合、「ポリマー」という用語は、骨格が1つのモノマーに由来する分子(すなわちホモポリマー)又は2つ以上のモノマーに由来する分子(すなわちコポリマー)を含む。ポリマーは一般に、少なくとも約2,000の重量平均分子量を有する。アイオノマーは、光又は酸化還元反応によって活性化される開始剤系の存在下で重合することができるモノマー酸又はモノマーをさらに含有していてもよく、これにより、セメントをさらに硬化する。水は、アイオノマーと充填材との間のイオンの移送を容易にする溶媒として作用し、これにより酸−塩基化学硬化凝固反応を引き起こす。本発明において、アイオノマーのペンダント型イオン性基はまた遷移金属と反応することができ、これにより、遷移金属と、粒状反応性充填材及び/又は粒状非反応性充填材の表面に共有結合する表面改質化合物の配位基と、アイオノマーのペンダント型イオン性基とを含む遷移金属錯体を形成する。
【0049】
ガラスアイオノマーセメント系に有用なアイオノマーポリマーを調製するのに使用される重合可能な酸としては、アルケン酸及び不飽和モノ−、ジ−及びトリカルボン酸が挙げられる。代表的なアルケン酸は、例えば、特許文献15、特許文献16、特許文献9、特許文献11、特許文献17、特許文献18、特許文献14及び特許文献19に記載されている。具体例は、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、並びにそれらの酸塩化物、それらの酸無水物及びそれらのクロロ誘導体又はブロモ誘導体等のそれらの誘導体である。特に好ましいモノマーは、アクリル酸、イタコン酸及びマレイン酸、並びにそれらの塩化物又は無水物である。アイオノマーのペンダント型カルボン酸基は、改質された粒状反応性充填材及び/又は粒状非反応性充填材の存在下で、凝固反応又は硬化反応を引き起こすのに十分な数又は十分な重量パーセントでなければならない。
【0050】
改質された粒状反応性充填材及び/又は粒状非反応性充填材は、付加的な共有架橋の供給源を生成することができ、カルボン酸基の一部を二官能性モノマーと反応させることにより、さらなる強度を最終的なアイオノマーセメント組成物に付与する。好適な二官能性モノマーの例としては、塩化アクリロイル、塩化メタクリロイル、ビニルアズラクトン(vinyl azalactone)、アリルイソシアネート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、2−アミノエチルメタクリレート、2−イソシアナトエチルメタクリレート(IEM)、アクリル酸、メタクリル酸及びN−ビニルピロリドンが挙げられる。好適な二官能性モノマーの他の例は、特許文献19及び特許文献20に記載されている。重合性樹脂成分をアイオノマーセメントに付加することにより、脆性がさらに改善されるだけでなく、機械的強度及び歯構造に対する接着性等の物理特性も改善される。さらに、光重合触媒を重合性樹脂成分を重合させる触媒として用いて、可視光により迅速に硬化することができるアイオノマーセメントが提供され得る。
【0051】
セメントの架橋又は付加的な架橋を達成するために、1種又は複数のコモノマーをセメント組成物中に含んでいてもよい。好適なコモノマーは、少なくとも1つの重合性官能基を含有する。好適な重合性官能基は、エチレン性不飽和基(例えば、アルケニル基及び好ましくはビニル基)である。エチレン性不飽和基はフリーラジカル機構により重合可能である。好ましい例は、置換及び非置換のアクリレート、メタクリレート又はアルケンである。
【0052】
アイオノマーを調製する方法は既知である(非特許文献6)。歯科用アイオノマーセメントは、改質された粒状反応性充填材とアイオノマーを、水の存在下で混合することにより調製される。アイオノマーセメント系の成分は、本発明のアイオノマーセメントを形成するために、多様な様式及び量で(混合又は調合等で)配合させることができる。例えば、アイオノマーの濃縮水溶液は、改質された粒状反応性充填材及び任意選択的にさらなる成分と使用時に混合してもよい。アイオノマーの得られる配合物、改質された粒状反応性充填材及び水によって凝固反応が開始する。代替的には、アイオノマー及び改質された粒状反応性充填材は、凝固反応を促進させるのに十分な水が存在しない条件下で、凍結乾燥又は減圧凍結乾燥(lyophilized)された粉末状調合物として提供される。このため、このような系は、凝固反応を開始させるために使用時に水と配合され得る。凝固反応が開始すると、得られる混合物を所望の形状にした後で硬化して、混合物を完全に固めることができる。一般には、アイオノマー対水の重量対重量の比は、約1:10〜約10:1である。一般には、水中のアイオノマーの濃度は、25〜75重量%、好ましくは40〜65重量%の範囲である。得られる水溶液は、一般的に約1.5〜8の範囲のポリマー対液体の比を有する。
【0053】
また、反応混合物は酒石酸等の改質剤を含んでいてもよく、当該改質剤は、特許文献16、特許文献12、特許文献21及び特許文献22に記載されるようにセメントを調製する際に作業時間及び凝固時間をそれぞれ調節する。一般的に、作業時間の増大は同様に凝固時間を増大させる。「作業時間」とは、アイオノマー及び改質された粒状反応性充填材を水の存在下で配合する際の凝固反応の開始と、歯科用途又は医療用途のために、系におけるさらなる物理的作業(例えば配合物をへらでのばすこと又は配合物を再形成すること)を実施することがもはや有効ではない点まで凝固反応が促進した時点との間の時間である。「凝固時間」とは、修復物の凝固反応の開始から、その後の臨床手法又は外科手法を修復物の表面上で実施するための十分な硬化が行われた時点までで測定される時間である。
【0054】
凝固反応において、改質された粒状反応性充填材は、塩基と同様に作用し、酸性アイオノマーと反応して、結合マトリクスとして作用する金属ポリ塩を形成する(非特許文献7)。その上、配位子交換又はさらなる配位が可能な配位部を有する遷移金属錯体の存在により、アイオノマーと、改質された粒状反応性充填材の表面と共有結合した遷移金属錯体との反応が起きる。このため、アイオノマーと改質された粒状反応性充填材との結合は、機械特性に関して問題のあるイオン性塩橋によるだけでなく、共有結合及び錯体結合にもよるものである。したがって、凝固反応は、アイオノマーと改質された粒状反応性充填材料とを、水の存在下で混合することにより自動的に進行する二重化学硬化系であることを特徴とする。セメントはゲル様状態に数分で凝固し、急速に硬化して強度を発現する。
【0055】
粉末対液体の比率は、混合アイオノマーセメント系の作業性に影響を与える。20:1より大きい重量比率は乏しい作業性を示す傾向にある一方で、1:1未満の比率では乏しい機械特性、例えば強度を示す傾向にあるため、これらの比率は好ましくない。好ましい比率は、約1:3〜約6:1及び好ましくは約1:1〜約4:1程度である。
【0056】
本発明のアイオノマーセメントが重合反応によってさらに硬化され得る場合、既知の技法に従いセメントを重合してもよい。大半の重合方法では、酸化/還元反応に基づくもの並びに紫外線及び可視光等の少なくとも1種の開始剤が必要とされる。
【0057】
セメントが酸化還元開始剤を含有する場合、還元剤及び酸化剤の量は、所望の重合度をもたらすのに十分でなければならない。好ましくは、本発明の混合されているが凝固していないセメントは、混合されているが凝固していないセメント成分の総重量(水を含む)に対して、還元剤及び酸化剤を約0.01〜約10%、より好ましくは約0.2〜約5%、及び最も好ましくは約0.5〜約5%の合計重量で含む。還元剤又は酸化剤は、特許文献23に記載されているようにマイクロカプセル化することができる。これにより一般的に、セメント部分の保存安定性が高められ、必要であれば還元剤及び酸化剤を一緒にパッケージすることが可能になるであろう。水溶性封入材及び水不溶性封入材を使用することができる。好適な封入材料としてはセルロース系材料が挙げられ、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースが好ましい。他の封入材としては、ポリスチレン、ポリスチレンと他のビニルモノマーとのコポリマー、及びポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレートと他のエチレン性不飽和モノマーとのコポリマーが挙げられる。好ましい封入材は、エチルセルロース及び酢酸酪酸セルロースである。封入材及び封入条件の選択を変更することにより、硬化の発生が、数秒から数分の範囲の時間で開始するように調整され得る。封入材対活性化物質の量の比率は一般的に、0.5〜約10、好ましくは約2〜約6の範囲をとる。好適な酸化剤(開始剤)としては、塩化コバルト(III)、tert−ブチルヒドロペルオキシド、塩化第二鉄、(還元剤の選択に応じて)ヒドロキシアミン、過ホウ酸及びその塩、並びに過マンガン酸アニオン又は過硫酸アニオンの塩が挙げられる。好ましい酸化剤は、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム及び過酸化水素である。好適な還元剤(活性化物質)としては、アスコルビン酸、塩化コバルト(II)、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、ヒドラジン、(酸化剤の選択に応じて)ヒドロキシルアミン、シュウ酸、チオ尿素、及びジチオナイトアニオン又は亜硫酸アニオンの塩が挙げられる。好ましい還元剤としては、アスコルビン酸及び硫酸第一鉄が挙げられる。
【0058】
光開始剤をセメントに添加することもできる。光開始剤は、好適な波長及び輝度の光に露光させると重合性基の重合を促進させることができるものでなければならない。光開始剤は、好ましくは十分に保存安定性であり、望ましくない色を呈していないため、一般的な歯科条件下での保存及び使用が容認される。可視光開始剤が好ましい。光開始剤は水溶性又は水混和性であることが好ましい。好適な可視光誘起開始剤及び紫外線誘起開始剤としては、付加的な水素供与体(例えばナトリウムベンゼンスルフィナート、アミン及びアミンアルコール)を有するか又は有していないα−ジケトン(例えばカンファーキノン)が挙げられる。光開始剤は、光重合の所望の速度をもたらすのに十分な量で存在し得る。この量は、光源、放射エネルギーに曝されるセメント層の厚み、及び光開始剤の吸光度に一部依存するであろう。好ましくは、本発明の混合されているが凝固していない光硬化性セメントは、混合されているが凝固していないセメント成分の総重量(水を含む)に対して約0.01〜約5%、より好ましくは約0.1〜約2%の光開始剤を含有するであろう。
【0059】
セメントの塗布及び重合を達成する様式に応じて、セメント組成物の様々な成分を別々にパッケージしてもよい。例えば、酸化還元に基づく系の場合、セメント組成物の成分は、2つの別々のパッケージ(コポリマー、コモノマー、開始剤及び水を含有する第1のパッケージ、並びに反応性充填材及び活性化物質を含有する第2のパッケージ)に分配される。別の実施形態では、第1のパッケージは全ての固体材料(例えば、コポリマー、コモノマー、反応性充填材、及び所望であれば還元剤)を含有し、第2のパッケージは、水、及び所望であれば開始剤を含有する。光開始反応である場合、光開始剤は、セメントの固体部分(例えばペースト)又は液体部分のいずれかに含まれ得る。
【0060】
本発明のセメントは、非反応性充填材、溶剤、顔料、非ガラス質充填材、フリーラジカル捕集剤、重合阻害剤、反応性希釈剤及び非反応性希釈剤(例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシプロピルメタクリレート)、界面活性剤(阻害剤(例えばポリオキシエチレン)の溶解性を高めるもの等)、充填材(例えば3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート)の反応性を高めるカップリング剤、並びにレオロジー改質剤をさらに含有していてもよい。
【0061】
好適な非反応性充填材は、現在歯科用修復組成物で使用されている充填材から選択されてもよい。充填材は細分されて、好ましくは約100μm未満の最大粒径及び約10μm未満の平均粒径を有しているのがよい。充填材は、単一モード又は多重モード(例えば二重モード)の粒径分布を有し得る。充填材は無機材料であり得る。充填材はまた、重合性樹脂に不溶性であり、かつ、任意選択的に無機充填材で充填される架橋有機材料であり得る。充填材は、放射線不透過性、放射線透過性又は非放射線透過性であり得る。好適な非反応性無機充填材の例は、天然材料又は合成材料、例えば、石英、窒化ケイ素等の窒化物、例えばCe、Sb、Sn、Zr、Sr、Ba及びAlから誘導されるガラス、コロイダルシリカ、長石、ホウケイ酸塩ガラス、カオリン、タルク、チタニア、及び亜鉛ガラス、並びに発熱性シリカ等のサブミクロンシリカ粒子である。好適な非反応性有機充填材粒子の例としては、充填されるか又は充填されていない微粉ポリカーボネート又はポリエポキシドが挙げられる。好ましくは、充填材粒子の表面は、充填材とマトリクスとの結合を増強するためにカップリング剤で処理される。好適なカップリング剤の使用としては、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン及びγ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0062】
好適な溶剤又は非反応性希釈剤としては、エタノール及びプロパノール等のアルコールが挙げられる。好適な反応性希釈剤は、靭性、接着及び凝固時間等の可変特性を付与するα,β不飽和モノマーである。
【0063】
好適なα,β−不飽和モノマーは、水溶性、水混和性又は水分散性であってもよい。水溶性、水混和性又は水分散性アクリレート及びメタクリレート、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、ビス−フェノールAのメタクリル酸ジグリシジル(「bis−GMA」)、グリセロールモノ−及びジ−アクリレート、グリセロールモノ−及びジ−メタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(ここで、酸化エチレンの繰り返し単位の数は2〜30で変化する)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(ここで、酸化エチレンの繰り返し単位の数は2〜30で変化して、特にメチレングリコールジメタクリレート(「TEGDMA」)である)、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトール及びジペンタエリスリトールのモノ−、ジ−、トリ−及びテトラ−アクリレート及びメタクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジ−2−メタクリロイルオキシエチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ−2−メタクリロイルオキシエチルトリメチルへキサンエチレンジカルバメート、ジ−2−メタクリロイルオキシエチルジメチルベンゼンジカルバメート、メチレン−ビス−メタクリルオキシエチル−シクロヘキシルカルバメート、ジ−2−メタクリルオキシエチル−ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン−ビス−2−メタクリルオキシエチル−4−シクロヘキシルカルバメート、ジ−i−メチル−2−メタクリルオキシエチル−トリメチル−ヘキサメチレンジカルバメート、ジ−i−メチル−2−メタクリルオキシエチル−ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ−1−メチル−2−メタクリルオキシエチル−ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン−ビス−1−メチル−2−メタクリルオキシエチル−4−シクロヘキシルカルバメート、ジ−1−クロロメチル−2−メタクリルオキシエチル−ヘキサメチレンジカルバメート、ジ−1−クロロメチル−2−メタクリルオキシエチル−トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ−i−クロロメチル−2−メタクリルオキシエチル−ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ−1−クロロメチル−2−メタクリルオキシエチル−ジメチルシクロへキサンジカルバメート、メチレン−ビス−2−メタクリルオキシエチル−4−シクロヘキシルカルバメート、ジ−1−メチル−2−メタクリルオキシエチル−ヘキサメチレンジカルバメート、ジ−1−メチル−2−メタクリルオキシエチル−トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ−1−メチル−2−メタクリルオキシエチル−ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ−1−メチル−2−メタクリルオキシエチル−ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン−ビス−1−メチル−メタクリルオキシエチル−シクロヘキシルカルバメート、ジ−i−クロロメチル−2−メタクリルオキシエチル−ヘキサメチレンジカルバメート、ジ−1−クロロメチル−メタクリルオキシエチル−トリメチルへキサメチレンジカルバメート、ジ−1−クロロメチル−2−メタクリルオキシエチル−ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ−1−クロロメチル−2−メタクリルオキシエチル−ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン−ビス−1−クロロメチル−メタクリルオキシエチル−シクロヘキシルカルバメート、2,2’−ビス(4−メタクリルオキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アクリルオキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス[4(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシフェニル)]プロパン、2,2’−ビス[4(2−ヒドロキシ−3−アクリルオキシ−フェニル)]プロパン、2,2’−ビス(4−メタクリルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アクリルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−メタクリルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アクリルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−メタクリルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アクリルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス[3(4−フェノキシ)−2−ヒドロキシプロパン−1−メタクリレート]プロパン、及び2,2’−ビス[3(4−フェノキシ)−2−ヒドロキシプロパン−1−アクリレート]プロパン等が言及され得る。他の好適な重合性成分の例は、イソプロペニルオキサゾリン、ビニルアザラクトン、ビニルピロリドン、スチレン、ジビニルベンゼン、アクリル酸ウレタン又はメタクリル酸ウレタン、アクリル酸エポキシ又はメタクリル酸エポキシ、及びアクリル酸ポリオール又はメタクリル酸ポリオールである。α,β−不飽和モノマーの混合物は、必要に応じて添加することができる。本発明の混合されているが凝固していない混合物は、混合されているが凝固していないセメント成分の総重量(水、溶剤、希釈剤及びα,β−不飽和モノマーを含む)に対して、水、溶剤、希釈剤及びα,β−不飽和モノマーを好ましくは約0.5〜約40%、より好ましくは約1〜約30%及び最も好ましくは約5〜20%の合計量で含有し得る。
【0064】
好適なフリーラジカル捕集剤の例は4−メトキシフェノールである。好適な阻害剤の例は、ヒドロキシトルエン又はブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)である。阻害剤の量は、コポリマー/コモノマー/水の混合物の総重量に対して0.001〜2%、好ましくは0.02〜0.5%から選択され得る。
【0065】
遷移金属錯体により表面改質された反応性粒状充填材及び/又は非反応性粒状充填材は、歯科用アイオノマーセメントに使用し得る。このようなセメントの2つの主要な種類が確認され得る。第1の種類は、主成分としてα,β−不飽和カルボン酸(例えば、ポリアクリル酸、コポリ(アクリル酸又はイタコン酸)等)のホモポリマー又はコポリマー、改質された粒状反応性充填材及び/又は粒状非反応性充填材(例えば改質されたフルオロアルミノケイ酸塩ガラス)、水、及びキレート化剤(例えば酒石酸)を使用する従来のガラスアイオノマーに関する。このような歯科用アイオノマーセメントは、使用の直前に混合される粉末/液体製剤中に供給され得る。混合物は、ポリカルボン酸の酸性基とガラスから浸出するカチオンとのイオン性反応、並びに遷移金属とポリカルボン酸の酸性基との錯化反応のために暗闇で自己硬化を起こすであろう。第2の主要な種類は、樹脂で改質されたガラスアイオノマーセメントに関する。従来のガラスアイオノマーと同様に、樹脂で改質されたガラスアイオノマーセメントは、本発明の方法により得られる改質された粒状反応性充填材を使用するため、樹脂で改質されたガラスアイオノマーセメントの有機部分が異なる。樹脂で改質されたガラスアイオノマーセメントの1つの種類において、ポリカルボン酸は、ペンダント型硬化性基を有する酸性繰り返し単位のいくらかを置換するか又はエンドキャッピングするように改質され、光開始剤を添加して、例えば、特許文献19におけるような第2の硬化機構をもたらす。アクリレート基又はメタクリレート基は、ペンダント型硬化性基として使用されてもよい。酸化還元硬化系を添加して、例えば、特許文献23におけるような第3の硬化機構をもたらすことができる。樹脂で改質されたガラスアイオノマーセメントの別の種類では、例えば、非特許文献8におけるように、また、特許文献24、特許文献25、特許文献26及び特許文献27におけるように、セメントは、ポリカルボン酸、アクリレート又はメタクリレート官能性モノマー及び光開始剤を含む。様々なモノマー含有セメンント又は樹脂含有セメントも、特許文献28、特許文献29、特許文献30及び特許文献31に示される。樹脂で改質されたガラスアイオノマーセメントは、粉末/液体系又はペースト/ペースト系として配合されていてもよく、混合及び塗布される水を含有していてもよい。樹脂で改質されたガラスアイオノマーセメントは、ポリカルボン酸の酸性基とガラスから浸出するカチオンとのイオン性反応、並びに遷移金属とポリカルボン酸の酸性基との錯化反応のために暗闇中で硬化する。その上、樹脂で改質されたガラスアイオノマーセメントはまた、セメントを歯科用硬化ランプからの光に露光させると硬化する。
【0066】
ここで本発明を以下の実施例によりさらに例示する。全てのパーセントは、特に記述がなければ重量%を示す。
【実施例1】
【0067】
ガラス表面上におけるアミノ配位子の固定化
【0068】
【化1】

スキーム1:アミノ末端化ガラスの合成
【0069】
APTESシラン化ガラス(1a)
乾燥トルエン200ml中の、85gの事前乾燥させたストロンチウムアルミノケイ酸塩ガラス(BET表面積2m/g)の懸濁液に、60ml(56.9g)のアミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を添加した。混合物を環流下で一晩攪拌し、加えて、室温でさらに8時間攪拌して反応を完了した。スラリーを吸引フィルターによりろ過し、3×50mlのDCM、及び3×50mlの石油エーテル(40/60)で洗浄した。50℃、400Pa(4mbar)下で乾燥して、ペンダント型モノアミノ官能基を示す淡黄色ガラスを得た。
【0070】
TMSPDETAシラン化ガラス(1b)
乾燥トルエン240ml中の、85gの事前乾燥させたストロンチウムアルミノケイ酸塩ガラス(BET表面積2m/g)の懸濁液に、60gの3−トリメトキシシリルプロピルジエチレントリアミン(TMSPDETA)を添加した。混合物を環流下で一晩攪拌し、加えて、室温でさらに8時間攪拌して反応を完了した。スラリーを吸引フィルターによりろ過し、3×50mlのジクロロメタン(DCM)、及び3×50mlの石油エーテル(40/60)で洗浄した。50℃、400Pa(4mbar)の減圧下で乾燥して、ペンダント型ジエチレントリアミノ官能基を示す淡黄色ガラスを得た。
【実施例2】
【0071】
遷移金属TMSPDETA錯体により改質されたガラスの調製
【0072】
【化2】

スキーム2:ガラス表面上における遷移金属TMSPDETA錯体の固定化
【0073】
銅改質ガラス(2a)
MeOH50ml中の、23gのTMSPDETA改質ストロンチウムアルミノケイ酸塩ガラス(1b)のスラリーを、34mgの酢酸Cu(II)のMeOH溶液(10ml)と共に、室温(RT)で一晩攪拌した。ガラスをP3−フリットでろ過し、全ての可動金属イオンを除去するためにMeOH(メタノール)で過剰に洗浄した。50℃で24時間乾燥して、青緑色のCu(II)改質ガラス2aを得た。
【0074】
亜鉛改質ガラス(2b)
MeOH50ml中の、20gのTMSPDETA改質ストロンチウムアルミノケイ酸塩ガラス(1b)のスラリーを、20mgの酢酸亜鉛のMeOH溶液(10ml)と共に、室温で一晩攪拌した。ガラスをP3−フリットでろ過し、全ての可動金属イオンを除去するためにMeOHで過剰に洗浄した。50℃で24時間乾燥して、淡黄色の亜鉛改質ガラス2bを得た。
【0075】
ランタン改質ガラス(2c)
MeOH50ml中の、20gのTMSPDETA改質ストロンチウムアルミノケイ酸塩ガラス(1b)のスラリーを、37mgの塩化ランタン水和物のMeOH溶液(10ml)と共に、室温で一晩攪拌した。ガラスをP3−フリットでろ過し、全ての固定化されていない金属イオンを除去するためにMeOHで過剰に洗浄した。50℃で24時間乾燥して、淡黄色のランタン改質ガラス2cを得た。
【0076】
イットリウム改質ガラス(2d)
MeOH50ml中の、20gのTMSPDETA改質ストロンチウムアルミノケイ酸塩ガラス(1b)のスラリーを、26mgの酢酸イットリウムのMeOH溶液(10ml)と共に、室温で一晩攪拌した。ガラスをP3−フリットでろ過し、全ての可動金属イオンを除去するためにMeOHで過剰に洗浄した。50℃で24時間乾燥して、淡黄色のイットリウム改質ガラス2dを得た。
【0077】
ガドリニウム改質ガラス(2e)
EtOH(エタノール)50ml中の、20gのTMSPDETA改質ストロンチウムアルミノケイ酸塩ガラス(1b)のスラリーを、26mgの酢酸ガドリニウム水和物のEtOH溶液(10ml)と共に、室温で一晩攪拌した。ガラスをP3−フリットでろ過し、全ての可動金属イオンを除去するためにEtOHで過剰に洗浄した。50℃で24時間乾燥して、ガドリニウム改質ガラス2eを得た。
【0078】
マンガン改質ガラス(2f)
MeOH50ml中の、20gのTMSPDETA改質ストロンチウムアルミノケイ酸塩ガラス(1b)のスラリーを、18mgの酢酸Mn(II)のMeOH溶液(10ml)と共に、室温で一晩攪拌した。ガラスをP3−フリットでろ過し、全ての可動金属イオンを除去するためにMeOHで過剰に洗浄した。50℃で24時間乾燥して、淡褐色のマンガン改質ガラス2dを得た。
【0079】
セリウム改質ガラス(2g)
MeOH55ml中の、20gのTMSPDETA改質ストロンチウムアルミノケイ酸塩ガラス(1b)のスラリーを、60mgのCe(III)2−エチルヘキサノエートのMeOH溶液(10ml)と共に、室温で一晩攪拌した。ガラスをP3−フリットでろ過し、全ての可動金属イオンを除去するためにMeOHで過剰に洗浄した。50℃で24時間乾燥して、淡褐色のセリウム改質ガラス2eを得た。充填材粒子上の金属の充填量(酸パルプ化(フッ化水素酸/硝酸)後に誘導結合プラズマ原子発光分光分析(EN ISO 11885)により測定された):197mg Ce/kg(0.14mmol Ce/kg)
【実施例3】
【0080】
改質ガラスを含有するGIC製剤の調製
アミン錯体又は遷移金属錯体により改質された上述のガラスのそれぞれに基づき、実験的アイオノマーセメントを調製し、未処理のストロンチウムアルミノケイ酸塩ガラスを含有する製剤と比較した。
【0081】
実験的アイオノマーセメントは、実験的ガラスアイオノマー粉末と実験的ガラスアイオノマー液とを含有する。実験的ガラスアイオノマー粉末は、アミン錯体又は遷移金属錯体により改質されたガラスを72%、及び粉末状ポリアクリル酸を28%含有し、この実験的ガラスアイオノマー粉末を、水(59%)、PAA(32%)及び酒石酸(9%)を含有する実験的ガラスアイオノマー液と3.7:1の比率で混合させた。これらの製剤をそれらの作業時間、凝固時間、圧縮強度及び曲げ強度について検査した。結果を以下の表1に挙げる。
【0082】
【表1】

【実施例4】
【0083】
[N−(アミノエチル)−トリメトキシシリルプロピルアミン]−銅(II)−ジアセテートの合成
【0084】
【化3】

【0085】
1.81g(10mmol)の酢酸Cu(II)の乾燥MeOH溶液(100ml)に、2.22g(10mmol)の[3−(2−アミノエチル)アミノプロピル]−トリメトキシシランの乾燥MeOH溶液(20ml)を滴下した。混合物を室温で30分間攪拌した。その後、溶剤を真空下で除去し、所望のトリメトキシシリル官能化銅−ジアミン錯体3を紺色の高粘度の油として得た。
【0086】
IR:2939、2841(CH,CH)1562、1387(OAc)、1190(Si−CH)、1075(Si−OCH
【0087】
[N−(アミノエチル)−トリメトキシシリルプロピルアミン]−銅(II)−ジアセテートの固定化
【0088】
【化4】

【0089】
43gの事前乾燥させたアルミノケイ酸塩ガラスを50mLの乾燥酢酸エチルと混合した。このスラリーに、1.03g(2.5mmol)の[N−(アミノエチル)−トリメトキシシリルプロピルアミン]−銅(II)−ジアセテートのMeOH溶液(20ml)を添加した。このスラリーを50℃で2日間攪拌した。ガラスをP3−フリットでろ過し、全ての可動銅ジアミン錯体を除去するためにMeOHで過剰に洗浄した。50℃で24時間乾燥して、青緑色のCu(II)ジアミン改質ガラス3aを得た。充填材粒子上の金属の充填量(酸パルプ化(フッ化水素酸/硫酸)後に誘導結合プラズマ原子発光分光分析(EN ISO 11885)により測定された):604mg Cu/kg(9.5mmol Cu/kg)
【実施例5】
【0090】
[N−(アミノエチル)−トリメトキシシリルプロピルアミン]−ガドリニウム(III)−トリアセテートの合成
【0091】
【化5】

【0092】
3.34g(10mmol)の酢酸Gd(III)の乾燥EtOH溶液(100ml)に、2.22g(10mmol)の[3−(2−アミノエチル)アミノプロピル]−トリメトキシシランの乾燥EtOH溶液(20ml)を滴下した。混合物を30分間室温で攪拌した。その後、溶剤を真空下で除去し、所望のトリメトキシシリル官能化ガドリニウム−ジアミン錯体4を無色の高粘度の油として得た。
【0093】
IR:2971、2928、2838(CH,CH)1544、1406(OAc)、1188(Si−CH)、1074(Si−OCH
【0094】
[N−(アミノエチル)−トリメトキシシリルプロピルアミン]−ガドリニウム(III)−トリアセテートの固定化
【0095】
【化6】

【0096】
40gの事前乾燥させたアルミノケイ酸塩ガラスを100mLの乾燥酢酸エチルと混合した。このスラリーに、1.30g(2.5mmol)の[N−(アミノエチル)−トリメトキシシリルプロピルアミン]−ガドリニウム(III)−トリアセテートのEtOH溶液(50ml)を添加した。このスラリーを50℃で2日間攪拌した。ガラスをP3−フリットでろ過し、全ての可動ガドリニウムジアミン錯体を除去するためにMeOHで過剰に洗浄した。50℃で24時間乾燥して、無色のGd(III)ジアミン改質ガラス4aを得た。充填材粒子上の金属の充填量(酸パルプ化(フッ化水素酸/硫酸)後に誘導結合プラズマ原子発光分光分析(EN ISO 11885)により測定された):323mg Gd/kg(2.1mmol Gd/kg)
【0097】
改質ガラスを含有するガラスアイオノマーセメント製剤の調製
遷移金属錯体により改質された上述のガラスのそれぞれから実験的アイオノマーセメントを調製し、未処理のストロンチウムアルミノケイ酸塩ガラスを含有する製剤と比較した。
【0098】
実験的アイオノマーセメントは、実験的ガラスアイオノマー粉末と実験的ガラスアイオノマー液とを含有する。実験的ガラスアイオノマー粉末は、アミン錯体又は遷移金属錯体により改質されたガラスを72%、及び粉末状ポリアクリル酸を28%含有し、この実験的ガラスアイオノマー粉末を、水(59%)、PAA(32%)及び酒石酸(9%)を含有する実験的ガラスアイオノマー液と3.7:1の比率で混合させた。これらの製剤をそれらの作業時間、凝固時間、圧縮強度及び曲げ強度について検査した。結果を表2に挙げる。
【0099】
【表2】

【実施例6】
【0100】
[N−(アミノエチル)−トリメトキシシリルプロピルアミン]−亜鉛−ジアセテートの合成
【0101】
【化7】

【0102】
4.38g(20mmol)の酢酸亜鉛の乾燥EtOH溶液(75ml)に、4.44g(10mmol)の[3−(2−アミノエチル)アミノプロピル]−トリメトキシシランの乾燥EtOH溶液(20ml)を滴下した。混合物を30分間室温で攪拌した。その後、溶剤を真空下で除去し、所望のトリメトキシシリル官能化亜鉛−ジアミン錯体5を無色の高粘度の油として得た。
【0103】
IR:3249、3168(NH,NH);2939、2844(CH,CH);1576、1385(O=C)、1069(Si−OCH);
H−NMR:δ=0.67(2H,Si−CW);1.72(2H,HC−CH−CH);1.98(6H,HCCOO);2.76(2H,CH−CH−CW−NH);2.85(2H,NH−CH−CH−NH);2.94(2H,NH−CH−CH−NH);3.35(OCH
13C−NMR:δ=11.9(Si−CH);23.9(HC−CH−CH);24.1(HCCOO);40.3(NH−CH−CH−NH);49.8(OCH);51.4(CH−CH−CH−NH);53.3(NH−CH−CH−NH);181.2(HCCOO
【0104】
[N−(アミノエチル)−トリメトキシシリルプロピルアミン]−亜鉛−ジアセテートの固定化
【0105】
【化8】

【0106】
45gの事前乾燥させたアルミノケイ酸塩ガラスを75mLの乾燥酢酸エチルと混合した。このスラリーに、1.60g(4.0mmol)の[N−(アミノエチル)−トリメトキシシリルプロピルアミン]−亜鉛−ジアセテートのMeOH溶液(25ml)を添加した。このスラリーを50℃で2日間攪拌した。ガラスをP3−フリットでろ過し、全ての固定化されていない亜鉛ジアミン錯体を除去するためにMeOHで過剰に洗浄した。35℃で12時間真空乾燥して、無色のZnジアミン改質ガラス5aを得た。
【0107】
充填材粒子上の金属の充填量(酸パルプ化(フッ化水素酸/硝酸)後に誘導結合プラズマ原子発光分光分析(EN ISO 11885)により測定された):405mg Zn/kg(6.2mmol Zn/kg)
【0108】
上記の実施例及び比較例で示したように、本発明により改質された粒状反応性充填材の使用により、機械特性、特に圧縮強度及び曲げ強度が改善されると同時に、優れた作業時間及び凝固時間を有する歯科用アイオノマーセメントが提供される。
【0109】
改質ガラスを含有するガラスアイオノマーセメント製剤の調製
実施例6に従ってZn金属錯体により改質されたガラスから、実施例3に従い実験的アイオノマーセメントを調製し、未処理のストロンチウムアルミノケイ酸塩ガラスを含有する製剤と比較した。これらの製剤をそれらの作業時間、凝固時間、圧縮強度及び曲げ強度について検査した。結果を表3に挙げる。
【0110】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用アイオノマーセメント用の粒状反応性充填材を改質する方法であって、
(a)粒状反応性充填材を用意する工程、及び
(b1)前記粒状反応性充填材の表面原子と反応する表面改質剤で前記粒状反応性充填材の表面を処理することにより、前記粒状反応性充填材の表面原子と改質化合物との間に共有結合を形成し、遷移金属に対する配位基を示す表面改質された粒状反応性充填材を得る工程、及び
(b2)前記遷移金属を含有する薬剤で前記表面改質された粒状反応性充填材を処理することにより、前記表面改質された粒状反応性充填材の表面上に示される前記配位基で前記遷移金属を錯化させる工程、及び/又は
(c)表面改質剤と遷移金属前駆体化合物との反応生成物である表面改質遷移金属錯体で前記粒状反応性充填材の表面を処理する工程
を有する、歯科用アイオノマーセメント用の、遷移金属錯体により表面改質された粒状反応性充填材を得る方法。
【請求項2】
前記反応性充填材がガラスを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応性充填材が、カルシウムアルミノケイ酸塩ガラス、カルシウムアルミノフルオロケイ酸塩ガラス、カルシウムアルミニウムフルオロホウケイ酸塩ガラス、ストロンチウムアルミニウムケイ酸塩ガラス、ストロンチウムアルミノフルオロケイ酸塩ガラス、ストロンチウムアルミニウムフルオロホウケイ酸塩ガラスから選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記粒状反応性充填材が、0.005〜100μmの平均粒径を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記粒状反応性充填材が、0.01〜40μmの平均粒径を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記表面改質剤が、加水分解性の有機官能性ケイ素化合物を含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記加水分解性の有機官能性ケイ素化合物が、下記式(I)、(II)及び(III):


(式中、
Xは加水分解性基であり、
Rは、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、
L、L’、L’’及びL’’’は同じであっても異なっていてもよく、互いに独立して、遷移金属に配位することができるヘテロ原子を含有する有機基であり、
nは1より大きい整数であり、
これより、X、R、L、L’、L’’及びL’’’の合計は式(I)、(II)及び(III)のそれぞれで4である)
の1種の化合物、又はその加水分解生成物である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
Xがハロゲン原子又はOR(式中、Rは請求項7に定義される通りである)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
Rがアルキル基である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
L、L’、L’’及びL’’’が、前記遷移金属と結合することができる、窒素原子、酸素原子、イオウ原子及び/又はリン原子を含有する、請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
L、L’、L’’及びL’’’が、下記式:
−[(CHZ](CHZR’
(式中、
Zは同じであっても異なっていてもよく、かつ、互いに独立したものであり、−NR’−、−O−、S又はPR’であり、
R’は独立して水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、
o及びpは互いに独立したものであり、同じであっても異なっていてもよく、1〜6の整数であり、
qは0〜12の整数である)
で表される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項12】
L、L’、L’’及びL’’’が、下記式:
−[(CHNR’](CHNR’’R’’’
(式中、
R’、R’’及びR’’’は互いに独立したものであり、同じであっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、
o及びpは互いに独立したものであり、同じであっても異なっていてもよく、1〜6の整数であり、
qは0〜12の整数である)
で表される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項13】
L、L’、L’’及びL’’’が、下記式:
−[(CHZ](CHZR’
(式中、
R’は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、
Zは酸素原子又はイオウ原子であり、
o及びpは互いに独立したものであり、同じであっても異なっていてもよく、1〜6の整数であり、
qは0〜12の整数である)
で表される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項14】
前記表面改質剤が、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルメチルジメトキシシラン、アミノプロピルジメチルメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(AEPTMS)、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、(3−ジメトキシメチルシリルプロピル)ジエチレントリアミン、(3−ジメチルメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、(3−トリエトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン(TMSPDETA)、(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)ジエチレントリアミン、(3−ジメチルエトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンから成る群より選択される化合物を含有する、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記遷移金属が、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、マンガン、銅、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、亜鉛及び鉄から成る群より選択される、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記遷移金属が、イットリウム、ランタン、セリウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ホルミウム、イッテルビウム、ルテチウム、銅及び亜鉛から成る群より選択される、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記遷移金属が、カルボキシル基と錯体を形成することができるイオンである、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
歯科用アイオノマーセメント用の反応性粒状充填材及び/又は非反応性粒状充填材であって、請求項1〜17のいずれかに記載の方法によって得られ、及び/又は、粒状充填材を改質する方法によって得られ、
(a)非反応性粒状充填材を用意する工程、及び
(b1)表面改質剤で前記非反応性粒状充填材の表面を処理することにより、前記粒状反応性充填材の表面原子と改質化合物との間に共有結合を形成し、遷移金属に対する配位基を示す表面改質された非反応性粒状充填材を得る工程、及び
(b2)前記遷移金属を含有する薬剤で前記表面改質された非反応性粒状充填材を処理することであって、それにより、前記表面改質された非反応性粒状充填材の表面上に示される前記配位基で前記遷移金属を錯化させる工程、及び/又は
(c)表面改質剤と遷移金属前駆体化合物との反応生成物である表面改質遷移金属錯体で前記非反応性粒状充填材の表面を処理する工程、
を有する、歯科用アイオノマーセメント用の、遷移金属錯体により表面改質された非反応性粒状充填材を得る方法により得られる、反応性粒状充填材及び/又は非反応性粒状充填材。
【請求項19】
石英、コロイダルシリカ、長石、ホウケイ酸塩ガラス、カオリン、タルク、チタニア又は発熱性シリカを非反応性粒状充填材として用いることにより得られる、請求項18に記載の非反応性粒状充填材。
【請求項20】
0.005〜100μmの平均粒径を有する、請求項18又は19に記載の非反応性粒状充填材。
【請求項21】
0.01〜40μmの平均粒径を有する、請求項18又は19に記載の非反応性粒状充填材。
【請求項22】
前記表面改質剤が、加水分解性の有機官能性ケイ素化合物を含有する、請求項18〜21のいずれかに記載の非反応性粒状充填材。
【請求項23】
前記加水分解性の有機官能性ケイ素化合物が、下記式(I)、(II)及び(III):

(式中、
Xは加水分解性基であり、
Rはアルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、
L、L’、L’’及びL’’’は同じであっても異なっていてもよく、互いに独立して、遷移金属に配位することができるヘテロ原子を含有する有機基であり、
nは1以上の整数であり、
これより、X、R、L、L’、L’’及びL’’’の合計は式(I)、(II)及び(III)のそれぞれで4である)
の1種の化合物、又はその加水分解生成物である、請求項22に記載の非反応性粒状充填材。
【請求項24】
Xがハロゲン原子又はOR(式中、Rは請求項23に定義される通りである)である、請求項23に記載の非反応性粒状充填材。
【請求項25】
Rがアルキル基である、請求項23又は24に記載の非反応性粒状充填材。
【請求項26】
L、L’、L’’及びL’’’が、前記遷移金属と結合することができる、窒素原子、酸素原子、イオウ原子及び/又はリン原子を含有する、請求項23〜25のいずれかに記載の非反応性粒状充填材。
【請求項27】
L、L’、L’’及びL’’’が、下記式:
−[(CHZ](CHZR’
(式中、
Zは同じであっても異なっていてもよく、互いに独立したものであり、−NR’−、−O−、S又はPR’であり、
R’は独立して水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、
o及びpは互いに独立したものであり、同じであっても異なっていてもよく、1〜6の整数であり、
qは0〜12の整数である)
で表される、請求項23又は24に記載の非反応性粒状充填材。
【請求項28】
L、L’、L’’及びL’’’が、下記式:
−[(CHNR’](CHNR’’ R’’’
(式中、
R’、R’’及びR’’’は互いに独立したものであり、同じであっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、
o及びpは互いに独立したものであり、同じであっても異なっていてもよく、1〜6の整数であり、
qは0〜12の整数である)
で表される、請求項23又は24に記載の非反応性粒状充填材。
【請求項29】
L、L’、L’’及びL’’’が、下記式:
−[(CHZ](CHZR’
(式中、
R’は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、
Zは酸素原子又はイオウ原子であり、
o及びpは互いに独立したものであり、同じであっても異なっていてもよく、1〜6の整数であり、
qは0〜12の整数である)
で表される、請求項23又は24に記載の非反応性粒状充填材。
【請求項30】
前記表面改質剤が、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルメチルジメトキシシラン、アミノプロピルジメチルメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(AEPTMS)、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、(3−ジメトキシメチルシリルプロピル)ジエチレントリアミン、(3−ジメチルメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、(3−トリエトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン(TMSPDETA)、(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)ジエチレントリアミン、(3−ジメチルエトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンから成る群より選択される化合物を含有する、請求項18〜29のいずれかに記載の非反応性粒状充填材。
【請求項31】
前記遷移金属が、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、マンガン、銅、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、亜鉛及び鉄から成る群より選択される、請求項18〜30のいずれかに記載の非反応性粒状充填材。
【請求項32】
前記遷移金属が、イットリウム、ランタン、セリウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ホルミウム、イッテルビウム、ルテチウム、銅及び亜鉛から成る群より選択される、請求項18〜31のいずれかに記載の非反応性粒状充填材。
【請求項33】
前記遷移金属が、カルボキシル基と錯体を形成することができるイオンである、請求項18〜32のいずれかに記載の非反応性粒状充填材。
【請求項34】
請求項18〜33のいずれかに記載の反応性粒状充填材及び/又は非反応性粒状充填材からなる、歯科用アイオノマーセメント。
【請求項35】
さらに、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、及びポリイタコン酸、又はアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及びイタコン酸のコポリマーから選択されるポリ酸ポリマーを含む、請求項34に記載の歯科用アイオノマーセメント。
【請求項36】
さらに、酒石酸と、アエロジル等の非反応性充填材と、顔料とを含む、請求項34又は35に記載の歯科用アイオノマーセメント。
【請求項37】
樹脂で改質した歯科用アイオノマーセメントである、請求項34〜36のいずれかに記載の歯科用アイオノマーセメント。
【請求項38】
歯科用組成物の調製用の、請求項18〜33のいずれかに記載の反応性粒状充填材及び/又は非反応性粒状充填材の使用。

【公表番号】特表2008−509106(P2008−509106A)
【公表日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−524293(P2007−524293)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【国際出願番号】PCT/EP2005/008517
【国際公開番号】WO2006/013111
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(502289695)デンツプライ デトレイ ゲー.エム.ベー.ハー. (28)
【Fターム(参考)】