説明

歯科用セメント

【課題】高い機械的強度を有すると共に、歯質接着性も備え、更に吸水膨張が小さく、またセメント硬化体の崩壊率が低い歯科用セメントを提供する。
【解決手段】酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーと、水酸基及び/又はアミノ基が2個以下であって酸基を持たない分子量160以上の(メタ)アクリレートモノマーと、該酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーに対して不活性な特定平均粒子径のフィラーと、後記する第二ペースト中の重合触媒の重合促進剤としてのアミン化合物とから成る第一ペーストと、
水酸基及び/又はアミノ基が2個以下であって酸基を持たない分子量160以上の(メタ)アクリレートモノマーと、特定平均粒子径のフィラーと、重合触媒としての−SO2−基を少なくとも1個含有する有機芳香族化合物及び過酸化物とから成る第二ペーストとから歯科用セメントを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯牙修復等に用いる歯科用セメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より歯科用セメントとしては、リン酸亜鉛セメント,カルボキシレートセメント,グラスアイオノマーセメント,レジンセメントが広く使用されている。これらの中で、リン酸亜鉛セメントは歯質に対する接着性が無いこと、リン酸を含むことによりpH値が低く、硬化初期に歯質に対して刺激を起こすことがあり、使用の頻度は減少している。カルボキシレートセメントは歯質に対する刺激は少ないが、機械的強度が低いため信頼性に欠ける欠点がある。グラスアイオノマーセメントは、ポリカルボン酸とフルオロアルミノシリケートガラス粉末とを水の存在下で反応させ硬化させて使用する歯科用セメントであり、生体に対する親和性が極めて良好であること、硬化体が半透明であり審美性に優れていること、エナメル質や象牙質等の歯質に対して優れた接着力を有していること、更にはフルオロアルミノシリケートガラス中に含まれるフッ素が徐放されることによる抗う蝕作用があること等、優れた特長を有しているため歯科分野では広く使用されている。しかし、レジンセメントと比較して曲げ強さが低く、脆い性質がある。一方、レジンセメントは機械的強度に優れているが、歯質に対する接着性が無いという欠点があった。
【0003】
そこで歯科用グラスアイオノマーセメントの欠点である、レジン系セメント等と比較して脆く特に曲げ強度が低い問題、硬化後の崩壊率が高い問題を解決するために、レジン成分として(メタ)アクリレートモノマー等の重合性モノマーを配合したレジン強化型グラスアイオノマーセメントが開発された(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
しかし、このようなレジン強化型グラスアイオノマーセメントは吸水膨張が大きい欠点があった。これは、レジン強化型グラスアイオノマーセメントは液剤としてポリカルボン酸、水、水に溶け難い重合性モノマーを含むので、それらを相溶させるために水酸基を持つ分子量160未満の親水性の高い重合性モノマー、例えば2−ヒドロキシエチルメタクリレート等を配合する必要があり、この2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の重合性モノマーは、分子の構造上、親水性が非常に高いために、セメント硬化体が口腔内で吸水し膨張してしまう性質を持つようになるからである。このように吸水膨張を起こしたセメント硬化体は膨張ストレスにより、歯科用補綴物として強度の低いセラミックスクラウンを用いた場合、その歯科用補綴物を破折させてしまうことがあるため、従来のレジン強化型グラスアイオノマーセメントは強度の低いセラミックスクラウンには使用できないという問題があった。
【0005】
本出願人は、液剤にポリカルボン酸及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート等を使用せずに、4−メタクリロキシエチルトリメリット酸と水とから成る液剤を用いた歯科用セメントを提案した(特許文献4参照。)。しかしながら、この歯科用セメントは酸基を有する4−メタクリロキシエチルトリメリット酸の配合割合が高く、硬化反応初期に粉剤であるフルオロアルミノシリケートガラス粉末又は酸化亜鉛を主成分とする金属酸化物粉末に起因する金属イオンから成る塩を多く生成してしまうため、経時的に水溶液中で塩が溶解してしまいセメント硬化体の崩壊率が高くなってしまう欠点があった。
【0006】
【特許文献1】特開平8−026925号公報
【特許文献2】特開平9−255515号公報
【特許文献3】特公平6−070088号公報
【特許文献4】特開2000−53518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、レジン強化型歯科用グラスアイオノマーセメントやレジンセメントのように高い機械的強度を有すると共に、歯質接着性も備え、更に吸水膨張が小さく、またセメント硬化体の崩壊率が高い問題を解決した歯科用セメントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、第一ペーストを酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーと、特定の分子量の酸基を持たない(メタ)アクリレートモノマーと前記酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーに対して不活性な特定の平均粒子径のフィラーと、第二ペースト中の重合触媒の重合促進剤との配合とし、第二ペーストを第一ペースト中の特定の分子量の酸基を持たない(メタ)アクリレートモノマーと同様の特定の分子量の酸基を持たない(メタ)アクリレートモノマーと、特定の平均粒子径のフィラーと、酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーと酸基を持たない(メタ)アクリレートモノマーとの重合用の重合触媒との配合とすると、ポリカルボン酸等の酸基を持ったポリマー及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート等を配合しなくてもよい配合が可能となることを究明し、前記課題を解決できることを究明して本発明を完成した。
【0009】
即ち本発明は、酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマー:5〜75重量%と、水酸基及び/又はアミノ基が2個以下であって酸基を持たない分子量160以上の(メタ)アクリレートモノマー:5〜55重量%と、該酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーに対して不活性な平均粒子径0.05〜20μmのフィラー:10〜80重量%と、後記する第二ペースト中の重合触媒の重合促進剤としてのアミン化合物:0.01〜5重量%とから成る第一ペーストと、
水酸基及び/又はアミノ基が2個以下であって酸基を持たない分子量160以上の(メタ)アクリレートモノマー:10〜75重量%と、平均粒子径0.05〜20μmのフィラー:20〜85重量%と、酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーと水酸基及び/又はアミノ基が2個以下であって酸基を持たない分子量160以上の(メタ)アクリレートモノマーとの重合用重合触媒としての−SO2−基を少なくとも1個含有する有機芳香族化合物及び過酸化物:合計が0.01〜10重量%とから成る第二ペーストと、
から構成され、第一ペーストに対して第二ペーストを重量比で0.25〜5の割合で混合して使用されることを特徴とする歯科用セメントである。
【0010】
このような歯科用セメントには、第一ペースト中に水:1〜20重量%が更に配合されている態様や、平均粒子径5〜40nmの無機系の増粘剤及び/又は有機系の増粘剤が何れかのペースト中に0.1〜10重量%含まれていたり、酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーと水酸基及び/又はアミノ基が2個以下であって酸基を持たない分子量160以上の(メタ)アクリレートモノマーとの重合促進用の光重合触媒が何れかのペースト中に0.01〜3重量%含まれていたりする態様もある。
【0011】
そして、このような各態様において、第一ペースト中の酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーとして、カルボキシル基を有するモノマーが含まれている場合や、第二ペースト中の平均粒子径0.05〜20μmのフィラーが第一ペースト中の酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーに対して不活性なフィラーであったり、第一ペースト中の酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーと水の存在下でセメント反応(酸−塩基反応)を起こして硬化することができるフルオロアルミノシリケートガラス粉末,歯科用リン酸亜鉛セメント粉末,歯科用カルボキシレートセメント粉末に使用されている金属酸化物粉末であったりする場合があり、このセメント反応を起こして硬化することができるフルオロアルミノシリケートガラス粉末や金属酸化物粉末である場合には第一ペーストと第二ペーストとの混合物中の水の割合が3〜10重量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る歯科用セメントは、レジン強化型歯科用グラスアイオノマーセメントやレジンセメントのように高い機械的強度を持ちながら、歯質接着性があり、吸水膨張が小さく、更に崩壊率を低下させることができる優れた歯科用セメントである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る歯科用セメントにおける第一ペーストの構成成分である酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーは、それ自体が歯質への接着性を付与する効果を有すると共に、本発明に係る歯科用セメントにおける他の構成成分である酸基を持たない特定分子量の(メタ)アクリレートモノマーと共に重合硬化して歯科用セメントのマトリックスを形成する。この酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーの配合量が第一ペースト中に5重量%未満であると歯科用セメントの接着性が低く、75重量%を超えるとこの酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーは高価であるので本発明に係る歯科用セメントが高価となってしまう。
【0014】
本発明に係る歯科用セメントにおける第一ペーストの構成成分である酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーは、酸基としてリン酸基又はカルボキシル基を有する(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましく、リン酸基は水が存在する場合に、カルボキシル基よりも強い酸性を示すことから歯面のスメアー層の溶解や歯質脱灰の効果が高く、特にエナメル質に対して高い接着性の向上効果を発揮する。リン酸基を有する重合性モノマーは、1分子中にリン酸基を1個又は複数個有する重合性モノマーであり、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス(メタ)アクリロキシエチルフォスフェート、ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]ハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、アシッドホスホキシエチル(メタ)アクリレート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニルハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルプロパン−2−ジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルプロパン−2−フェニルハイドロジェンホスフェート、ビス[5−{2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニル}ヘプチル]ハイドロジェンホスフェート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの6−ヘキサノリド付加重合物と無水リン酸との反応生成物等が挙げられる。中でも10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートが接着性及びモノマー自体の安定性の点から特に好ましい。これらのリン酸基を有する重合性モノマーは、単独或いは2種以上を混合して用いてもよい。
【0015】
カルボキシル基を有するモノマーとしては、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸無水物、4−(メタ)アクリロキシデシルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロキシデシルトリメリット酸無水物、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシピロメリット酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸などが挙げられる。中でも4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸,4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸無水物が接着性の点から特に好ましい。
【0016】
酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとして、カルボキシル基を有するモノマー例えば4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸無水物等を使用する場合には、水溶液の形態で使用することにより保存安定性が向上される。そのため、セメントの第一ペーストに水を更に1〜20重量%配合することが好ましい。水の配合量が1重量%未満では酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーの保存安定性を向上させる効果を得難く、20重量%を超えて配合するとセメント硬化体の機械的強度、特に曲げ強さが低くなる傾向がある。
【0017】
本発明に係る歯科用セメントにおける第一ペースト及び第二ペーストの構成成分である水酸基及び/又はアミノ基が2個以下であって酸基を持たない分子量160以上の(メタ)アクリレートモノマーは、分子量に対して親水基部分が少ないため重合後の硬化体が吸水し難く、その結果として膨張が起こり難いので強度の低いセラミックスのクラウン型補綴物への使用が可能となる。また重合後の硬化体は水中においてより安定となるため崩壊率も低下させることができる。更にセメント硬化体の機械的強度、特に曲げ強度を増加させる効果を持つ。分子量が160未満であると分子量に対して親水基部分が多くなってしまうので重合後の硬化体が吸水膨張し易くなるので不適である。また分子量が160以上であっても、水酸基及び/又はアミノ基を併せて3個以上持っていると、親水基の割合が多くなってしまうため重合後の硬化体の吸水膨張が大きくなってしまうので不適である。
【0018】
水酸基及び/又はアミノ基が2個以下であって酸基を持たない分子量160以上の(メタ)アクリレートモノマーの配合量は、第一ペースト中に5重量%未満あるいは第二ペースト中に10重量%未満配合した場合は上記効果を得られず、第一ペースト中に55重量%あるいは第二ペースト中に75重量%を超えて配合すると歯質への接着性が低下する。
【0019】
水酸基及び/又はアミノ基が2個以下であって酸基を持たない分子量160以上の(メタ)アクリレートモノマーとしては、従来から歯科に用いられている多くのモノマーが使用でき、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、2,2−ビス[(メタ)アクリロキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル]プロパン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、1,2−ジヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパン、2,2−ビス[4−{2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロポキシ}フェニル]プロパン等を、また分子中にウレタン結合を有する酸基を有さない重合性モノマーとして、ジ−2−(メタ)アクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジカルバメート等を例示することができる。
【0020】
酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーに対して不活性な平均粒子径0.05〜20μmのフィラーとしては二酸化珪素、金属酸化物、各種ガラス粉末等の粉末が使用でき、第一ペースト中に10〜80重量%配合される。配合量が10重量%未満であると第一ペーストの粘度が低すぎるため、第二ペーストとの練和操作や混合後のペースト粘度が低くなりすぎる。また保管中にペーストの固体と液体成分の分離が起こる虞もがある。80重量%を超えると第一ペーストの粘度が高すぎて第一ペーストをシリンジ包材から押し出すことが困難となる。また第二ペーストとの練和操作や混合後のペースト粘度が高すぎるので適当でない。
【0021】
この第一ペースト中のフィラーの平均粒子径が0.05〜20μmでなければならないのは、0.05μm未満ではペーストの粘度が高くなってしまい、20μmを超えると歯面と歯科用補綴物との間のセメントの厚みが大きくなり歯科用補綴物の適合が悪化してしまうからである。
【0022】
本発明に係る歯科用セメントにおける第一ペースト中に配合される第二ペースト中の重合触媒の重合促進剤としてのアミン化合物としては、芳香族第3級アミン,脂肪族第3級アミンなどが有効である。具体的には、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、トリエチルアミン、N−エチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどが挙げられる。これらのアミン化合物も単独或いは2種以上を混合して用いてもよいのは勿論である。
【0023】
このアミン化合物は第一ペースト中に0.01〜5重量%含有されていることが必要であり、0.01重量%未満では第二ペースト中の重合触媒の重合促進剤としての能力が不十分であり、5重量部%を超えると効果が向上しないにも拘らず硬化体が変色する虞がある。
【0024】
本発明に係る歯科用セメントにおける第二ペーストは、第一ペースト中のフィラーと共に歯科用セメントのフィラー成分を供給する。第二ペースト中のフィラーは、平均粒子径が0.05〜20μmであって、第一ペースト中の酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーに対して不活性な二酸化珪素、金属酸化物、各種ガラス粉末等の粉末であっても、第一ペースト中の酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーと水の存在下ではセメント反応(酸−塩基反応)を起こして硬化することができるフルオロアルミノシリケートガラス粉末,歯科用リン酸亜鉛セメント粉末,歯科用カルボキシレートセメント粉末に使用されている金属酸化物粉末であってもよく、第二ペースト中に20〜85重量%配合される。配合量が20重量%未満であると第二ペーストの粘度が低すぎるため、第一ペーストとの練和操作や混合後のペースト粘度が低くなりすぎる。また保管中にペーストの固体と液体成分の分離が起こる虞もがある。85重量%を超えると第二ペーストの粘度が高すぎて第二ペーストをシリンジ包材から押し出すことが困難となる。また第一ペーストとの練和操作や混合後のペースト粘度が高すぎるので適当でない。
【0025】
第二ペースト中のフィラーの平均粒子径が0.05〜20μmでなければならないのは、0.05μm未満ではペーストの粘度が高くなってしまい、20μmを超えると歯面と歯科用補綴物との間のセメントの厚みが大きくなり歯科用補綴物の適合が悪化してしまうからである
【0026】
前記フルオロアルミノシリケートガラス粉末とは、従来から歯科用グラスアイオノマーセメントに用いられているガラス粉末であり、主成分としてAl3+,Si4+、F-,O2-を含み、更にSr2+及び/又はCa2+を含むフルオロアルミノシリケートガラス粉末であることが好ましい。更に、ガラスの総重量に対してAl3+:10〜21重量%、Si4+:9〜24重量%、F-:1〜20重量%、Sr2+とCa2+の合計10〜34重量%であることが好ましい。これ等主成分の割合は、第一ペースト中の酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーと水の存在下ではセメント反応(酸−塩基反応)を起こす場合に硬化速度,最終強度,溶解度などの操作性や物性に多大な影響を及ぼす。Al3+の割合が10重量%未満であると硬化が緩慢で強度も低い傾向がある。Al3+の割合が21重量%を超えるとガラスの作製が困難であり、透明性が低下して審美性に劣る傾向がある。Si4+の割合が9重量%未満の場合もガラスの作製が困難となり易い。Si4+の割合が24重量%を超える場合は硬化速度が遅くなり易く、また強度も低くなり耐久性に問題がでる傾向がある。F-の割合が1重量%未満であると第一ペーストと第二ペーストとを練和する際の操作余裕時間が少なく使用操作が困難となり易い。F-の割合が20重量%を超えると最終硬化時間が長くなると共に、水中での溶解度が大きくなり耐久性が劣る傾向がある。Sr2+とCa2+の合計が10重量%未満であると硬化のシャープさが発揮できず、硬化時間が長くなり易く、更にこの場合はガラスの作製も困難となる傾向がある。Sr2+とCa2+の合計が34重量%を超えると、操作余裕時間が少なくなり硬化が速過ぎて実際の使用が困難となる傾向がある。この場合は水中での溶解度が大きくなり耐久性が低下し易い。本発明で使用されるフルオロアルミノシリケートガラスは公知のガラス作製法により作製することができる。
【0027】
また、歯科用リン酸亜鉛セメント粉末や歯科用カルボキシレートセメント粉末は、酸化亜鉛を主成分とする金属酸化物粉末である。これらは、一般的に酸化亜鉛70〜90重量%に酸化マグネシウム等の金属酸化物を10〜30重量%混合し、700℃以上の高温で焼結した後、冷却しボールミル等で粉砕して作製することができる。なお、酸化マグネシウム等の金属酸化物における他の金属酸化物としては、例えば酸化ストロンチウム,二酸化珪素,酸化第二鉄,酸化イットリウム等の金属酸化物を挙げることができる。
【0028】
第一ペースト中及び第二ペースト中に配合されるフィラーは通常の方法でシラン処理を行ったものを使用することもできる。
【0029】
本発明に係る歯科用セメントにおける第二ペースト中の構成成分である重合触媒である−SO2−基を少なくとも1個含有する有機芳香族化合物及び過酸化物中の過酸化物は、第一ペースト中のアミン化合物の重合促進剤としての作用によって酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーと水酸基及び/又はアミノ基が2個以下であって酸基を持たない分子量160以上の(メタ)アクリレートモノマーとの重合用重合触媒として作用するものであり、特に−SO2−基を少なくとも1個含有する有機芳香族化合物の存在により(メタ)アクリレートモノマーの重合性が向上される。−SO2−基を少なくとも1個含有する有機芳香族化合物は、芳香族スルフィン酸又はその金属塩、又は芳香族スルホニル化合物である。例えば、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸リチウム、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルホニルクロライド、p−トルエンスルホニルフルオライド、o−トルエンスルホニルイソシアネート、p−トルエンスルホニルヒドラジド、p−トルエンスルホンアミド、p−トルエンスルホニルイミダゾール、p−トルエンスルホニルシアニド、2−(p−トルエンスルホニル)アセトフェノン、p−トルエンスルホニル−N−ジエチルアミド、α−N,α−トルエンスルホニル−N−アルギニン、α−N,p−トルエンスルホニル−L−アルギニンメチルエステル、p−トルエンスルホニルメチルイソシアネート、p−トルエンスルホニル−N−メチル−N−ニトロサミド、N−(p−トルエンスルホニル)−L−フェニルアラニン、N−p−トルエンスルホニルーLーフェニルアラニルクロライド、p−トルエンスルホニルアセトニトリル、2ー(p−トルエンスルホニル)アセトフェノン、トルエン−3,4−ジスルホニルクロライド、ベンゼンスルホンアミド、ベンゼンスルホヒドロキサンミン酸、ベンゼンスルホニルクロリド、ベンゼンスルホニルイソシアネート、ベンゼンスルホンアニリド、ベンゼンスルホンクロラミドナトリウム、ベンゼンスルホンジクロラミド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ベンゼンスルホニル−N−メチルアミド、2−フェニルスルホニルアセトフェノン、ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−スルホニルジフェノール。スルファピリジン、スルファエアゾール、スルファメチゾール、エチルベンゼンスルホニルクロライド、ニトロベンゼンスルホニルクロライド、ニトロベンゼンスルホニルフルオライドなどが挙げられる。なお、これら−SO2−基を少なくとも1個含有する有機芳香族化合物は含水塩であってもよい。
【0030】
過酸化物としては、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ベンゾイルパーオキサイド、4,4’−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイドなどが挙げられるが、特に好ましくはペルオキソ二硫酸カリウムやベンゾイルパーオキサイドであり、これ等はそれぞれ1種又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
−SO2−基を少なくとも1個含有する有機芳香族化合物及び過酸化物の配合量は、第二ペーストに対して合計で0.01〜10重量%である。0.01重量%未満では重合触媒としての能力が不充分となり、酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーと水酸基及び/又はアミノ基が2個以下であって酸基を持たない分子量160以上の(メタ)アクリレートモノマーとの重合が不均質となる。10重量%を超えて配合しても効果は向上し難いにも拘らず硬化体が変色する虞れがある。
【0032】
本発明に係る歯科用セメントの第一ペーストと第二ペーストとの混合割合は、重量で第一ペースト1に対して第二ペーストが0.25〜5である。0.25未満であると硬化後の歯科用セメントの機械的強度が低下する傾向がある。5を超えると歯質への接着性が劣る傾向がある。特に重量で第一ペースト1に対して第二ペーストが0.8〜3であると、練和操作、混合後のペーストの粘度の点からより好ましい。
そして、第二ペースト中の平均粒子径0.05〜20μmのフィラーが第一ペースト中の酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーと水の存在下でセメント反応するフルオロアルミノシリケートガラス粉末,歯科用リン酸亜鉛セメント粉末又は歯科用カルボキシレートセメント粉末に使用されている金属酸化物粉末であって且つ第二ペースト中に水が配合されている場合に、そのセメント反応を確実に行わせるには、第一ペーストと第二ペーストとの混合物中の水の割合が3〜10重量%であることが好ましいので、第一ペーストと第二ペーストとの混合割合は第二ペースト中に配合されている水の割合を考慮して決定すればよい。
【0033】
本発明に係る歯科用セメントでは、第一ペースト及び第二ペーストにおいて、より操作性の高いペースト状とすることを目的として増粘剤を用いることが好ましい。本発明に用いる増粘剤はセメント硬化体の物性に影響を与えない量、具体的には各ペースト中に0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%の配合量である。0.1重量%未満では増粘剤による効果が得られ難く、10重量%を超えると歯質との接着性が低下する傾向がある。
【0034】
このような本発明に使用する増粘剤としては、無機系,有機系のどちらを使用しても構わず、例えば、平均粒子径が5〜40nmのヒュームドシリカ等の無機系の増粘剤や、カルボキシメチルセルロースカルシウム,カルボキシメチルセルロースナトリウム,デンプン,デンプングリコール酸ナトリウム,デンプンリン酸エステルナトリウム,メチルセルロース,ポリアクリル酸ナトリウム,アルギン酸,アルギン酸ナトリウム,アルギン酸プロピレングリコールエステル,カゼイン,カゼインナトリウム,ポリエチレングリコール,エチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,グルテン,ローカストビーンガム,ゼラチン等の有機系の増粘剤を挙げることができる。これらの増粘剤は2種以上を混合して用いてもよいのは勿論である。
【0035】
本発明に係る歯科用セメントにおいては、何れかのペースト中に前述した化学重合による反応に加えて光重合触媒を0.01〜3重量%配合して併用することも可能である。化学重合触媒と光重合触媒を併用することにより、化学重合による重合性モノマーの速やかな重合反応に加えて、可視光線照射による急激な光重合反応が加わる。この場合、必要に応じて光重合と化学重合とを使い分ける使用法、例えば、合着後の余剰セメントの仮硬化として光重合、セラミックやレジン製で半透明のインレーやクラウンの合着の際の硬化用として光重合、また金属製で不透明のインレーやクラウンの合着用として化学重合といった使用法が可能であり、更により一層の用途の拡大が期待できる。
【0036】
光重合触媒を用いた場合には、紫外線又は可視光線等の活性線を照射することにより、重合性モノマーの重合反応が達せられる。光源としては、超高圧,高圧,中圧及び低圧の各水銀灯、ケミカルランプ、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、蛍光ランプ、タングステンランプ、キセノンランプ、アルゴンイオンレーザーなどを使用することができる。
【0037】
なお、本発明に係る歯科用セメントには必要に応じて通常用いられる重合禁止剤,紫外線吸収剤,抗菌剤,顔料,安定剤等を適宜配合することもできるのは勿論である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
第一ペースト中に配合されるフィラー
SiO2フィラー:二酸化珪素 平均粒子径 約20μm(商品名:ヒューズレックスX,龍森社製)
【0039】
第一ペースト中の酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーに対して不活性な第二ペースト中に配合されるフィラー
SiO2フィラー:二酸化珪素 平均粒子径 約5μm(商品名:クリスタライスVX−S2,龍森社製)
【0040】
第二ペースト中に配合される第一ペースト中の酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーに対して活性なフィラー
『フルオロアルミノシリケートガラス粉末の調製』
フルオロアルミノシリケートガラス粉末I、II及びIIIの配合を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
フルオロアルミノシリケートガラス粉末I及びIIIについては、原料を充分混合し1200℃の高温電気炉中で5時間保持しガラスを溶融させた。溶融後冷却し、ボールミルを用いて10時間粉砕し、200メッシュ(ASTM)ふるいを通過させた後の粉末100gに対し1gのγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを9gのエタノールと共に加え、通例に従い乾式のシランカップリング処理を行い、これをフルオロアルミノシリケートガラス粉末とした。フルオロアルミノシリケートガラス粉末IIについては、1100℃で溶融した以外はフルオロアルミノシリケートガラス粉末I及びIIIと同様の操作を行い、フルオロアルミノシリケートガラス粉末とした。
【0043】
『フルオロアルミノシリケートガラス粉末以外の金属酸化物粉末の調製』
歯科用リン酸亜鉛セメント粉末,歯科用カルボキシレートセメント粉末に使用されている金属酸化物粉末I及びIIの配合を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
金属酸化粉末Iについては、原料を充分混合し1000℃の高温電気炉中で5時間保持し焼結させた。焼結後冷却し、ボールミルを用いて10時間粉砕し、200メッシュ(ASTM)ふるいを通過させ酸化亜鉛を主成分とする金属酸化物粉末とした。同様に金属酸化粉末IIについては900℃で焼結し、以後金属酸化粉末Iと同様の操作を行い、酸化亜鉛を主成分とする金属酸化物粉末とした。
【0046】
『第一ペーストと第二ペーストの調製』
各実施例及び比較例に用いた第一ペーストと第二ペーストとの配合を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
表3中の略語はそれぞれ以下の通りである。
酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマー
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
PM2:ビスメタクリロキシエチルホスフェート
PM21:2−ヒドロキシエチルメタクリレートの6−ヘキサノリド付加重合物と無水リン酸との反応生成物
ホスマーM:アシッドホスホキシエチルメタクリレート
4META:4−メタクリロキシエチルトリメリット酸無水物
【0049】
水酸基及び/又はアミノ基が2個以下であって酸基を持たない分子量160以上の(メタ)アクリレートモノマー
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
GDMA:2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン
UDMA:ジ−2−メタクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジカルバメート
【0050】
アミン化合物
P amine:N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン
【0051】
−SO2−基を少なくとも1個含有する有機芳香族化合物
BSNa:ベンゼンスルフィン酸ナトリウム・二水和物
pTSNa:p−トルエンスルフィン酸ナトリウム・四水和物
【0052】
過酸化物
BPO:ベンゾイルパーオキサイド
KPS:ペルオキソ二硫酸カリウム
NaPS:ペルオキソ二硫酸ナトリウム
【0053】
その他の添加物
無機系増粘剤:フュームドシリカ 平均粒子径 約30nm
CMC(有機系の増粘剤):カルボキシメチルセルロースカルシウム
PAA:ポリアクリル酸(重量平均分子量約20000)
CQ(光重合触媒):カンファーキノン
BHT(安定剤):2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール
【0054】
金属酸化物粉末
ガラス粉末I:フルオロアルミノシリケートガラス粉末I
ガラス粉末II:フルオロアルミノシリケートガラス粉末II
ガラス粉末III:フルオロアルミノシリケートガラス粉末III
金属酸化物粉末I:酸化亜鉛を主成分とする金属酸化物粉末I
金属酸化物粉末II:酸化亜鉛を主成分とする金属酸化物粉末II
【0055】
『接着力試験』
牛前歯表面を注水下で耐水研磨紙#600によって研磨し、エナメル質及び象牙質表面を露出させて被着面を得た。直径3mmの孔を開けた樹脂製マスキングテープにて接着面積を規定した。その後、練和した歯科用セメント組成物を被着面に盛り、その上から予め耐水研磨紙#120で表面研磨し、サンドブラスト処理してあるステンレス製の円柱ロッドを手圧にて圧接した。また光重合触媒を含む歯科用セメント組成物の場合は、同様の処理を施したアクリル製の円柱ロッドを用い、圧接後、歯科用可視光線照射器(製品名:ジーシー コービー,ジーシー社製)にて、前後左右方向から20秒ずつ光照射を行った。試験体は37℃、相対湿度100%の恒温槽に1時間放置後、37℃水中に23時間浸漬した。その後、万能試験機(製品名:オートグラフ,島津製作所社製)にてクロスヘッドスピード1.0mm/min.にて引張り接着強さを測定した。
【0056】
『曲げ強さ』
練和した歯科用セメント組成物を内径3mm、長さ25mmのアクリル管内に填入し円柱型の硬化体を得た。また光重合触媒を含む歯科用セメント組成物の場合は、歯科用可視光線照射器(製品名:ジーシー コービー,ジーシー社製)にて、4方向から20秒ずつ光照射を行った。得られた試験片を37℃の蒸留水に96時間浸漬し、万能試験機(製品名:オートグラフ,島津製作所社製)にてスパン20mm、クロスヘッドスピード1.0mm/min.で3点曲げによる曲げ強さ試験を行った。
【0057】
『吸水膨張』
練和した歯科用セメント組成物を直径4mm、高さ6mmの金型に填入し硬化体を得た。また光重合触媒を含む歯科用セメント組成物の場合は金型に填入し、歯科用可視光線照射器(製品名:ジーシー コービー,ジーシー社製)にて、高さ方向から表裏20秒ずつ光照射を行った。24時間後に試験片を型から取り出し、高さ方向の初期長さを測定した。次いで37℃の蒸留水に24時間浸漬した後、高さ方向の長さを測定し、37℃の蒸留水に24時間浸漬した後の測定した高さ方向の長さから初期長さを差し引いた値を初期長さで除して100を乗じた値である線膨張率を吸水膨張率とした。
【0058】
『酸溶解性』
歯科用セメント組成物の崩壊率の評価として酸溶解性試験を行った。練和後の歯科用セメント組成物を、直径5mm、深さ2mmの孔が設けられたポリメチルメタクリレート製の型に填入し、フィルムを介して圧接した後に、37℃、相対湿度100%の恒温槽に24時間放置した。また光重合触媒を含む歯科用セメント組成物の場合は型に填入しフィルムを介し圧接した後に、歯科用可視光線照射器(製品名:ジーシー コービー,ジーシー社製)にて、セメント表面から20秒光照射を行った後に37℃、相対湿度100%の恒温槽に24時間放置した。その後、セメント硬化体表面を型と一体のままで注水下耐水研磨紙#600によって研磨を行い平坦にし、セメント硬化体表面とその反対側の面の初期長さを測定した。この試験片を37℃の0.1mol/Lの乳酸/乳酸ナトリウム緩衝溶液(pH2.74)中に24時間浸漬させた後、同様に長さを測定し、その減少量を評価した。
【0059】
実施例1〜11
それぞれの実施例において、第一ペースト1.5g、第二ペースト1.0gを練和紙上に測り採り、スパチュラを用いて30秒間の練和操作を行うことで第一ペーストと第二ペーストとを均一に混合した。この歯科用セメントの引張り接着強さ試験、曲げ強さ試験、吸水膨張試験及び酸溶解性試験の結果を表3に示す。
【0060】
比較例1
歯科用グラスアイオノマーセメントにポリカルボン酸及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート等を使用せずに、酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーと水とから成る液剤を用いた従来の歯科用セメントとして表3中の比較例1のセメントを使用した。第一ペースト1.5gと第二ペースト1.0gとを練和紙上に計り採り、スパチュラを用いて実施例1〜11と同様の練和操作を行うことで液剤と粉剤とを均一に混合した。試験方法は実施例に準ずる。
【0061】
比較例2
従来のレジン強化型ペースト状の歯科用グラスアイオノマーセメントとして「フジルーティングS」(ジーシー社製)を使用した。両ペースト専用ディスペンサーで練和紙上に計り採り、スパチュラを用いて実施例1〜11と同様の練和操作を行うことで均一に混合した。試験方法は実施例に準ずる。
【0062】
比較例3
従来のレジン成分を含まないペースト状の歯科用グラスアイオノマーセメントとして表3中の比較例3のセメントを使用した。第一ペースト1.5gと第二ペースト1.0gとを練和紙上に計り採り、スパチュラを用いて実施例1〜11と同様の練和操作を行うことで均一に混合した。試験方法は実施例に準ずる。
【0063】
表3から、実施例1〜11の歯科用セメントは曲げ強度が大きく、歯質接着性があり、吸水膨張が小さく、更に崩壊率が低い優れた歯科用セメントであることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマー:5〜75重量%と、水酸基及び/又はアミノ基が2個以下であって酸基を持たない分子量160以上の(メタ)アクリレートモノマー:5〜55重量%と、該酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーに対して不活性な平均粒子径0.05〜20μmのフィラー:10〜80重量%と、後記する第二ペースト中の重合触媒の重合促進剤としてのアミン化合物:0.01〜5重量%とから成る第一ペーストと、
水酸基及び/又はアミノ基が2個以下であって酸基を持たない分子量160以上の(メタ)アクリレートモノマー:10〜75重量%と、平均粒子径0.05〜20μmのフィラー:20〜85重量%と、酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーと水酸基及び/又はアミノ基が2個以下であって酸基を持たない分子量160以上の(メタ)アクリレートモノマーとの重合用重合触媒としての−SO2−基を少なくとも1個含有する有機芳香族化合物及び過酸化物:合計が0.01〜10重量%とから成る第二ペーストと、
から構成され、第一ペーストに対して第二ペーストを重量比で0.25〜5の割合で混合して使用されることを特徴とする歯科用セメント。
【請求項2】
第一ペースト中に水:1〜20重量%が更に配合されている請求項1に記載の歯科用セメント。
【請求項3】
第一ペースト中の酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーとして、カルボキシル基を有するモノマーが含まれている請求項1又は2に記載の歯科用セメント。
【請求項4】
第二ペースト中の平均粒子径0.05〜20μmのフィラーが第一ペースト中の酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーに対して不活性なフィラーである請求項1ないし3の何れか1項に記載の歯科用セメント。
【請求項5】
第一ペースト中の平均粒子径0.05〜20μmのフィラーがフルオロアルミノシリケートガラス粉末,歯科用リン酸亜鉛セメント粉末又は歯科用カルボキシレートセメント粉末に使用されている金属酸化物粉末である請求項1ないし3の何れか1項に記載の歯科用セメント。
【請求項6】
第一ペーストと第二ペーストとの混合物中の水の割合が3〜10重量%である請求項5に記載の歯科用セメント。
【請求項7】
更に平均粒子径5〜40nmの無機系の増粘剤及び/又は有機系の増粘剤が何れかのペースト中に0.1〜10重量%配合されている請求項1ないし6の何れか1項に記載の歯科用セメント。
【請求項8】
更に酸基を持つ(メタ)アクリレートモノマーと水酸基及び/又はアミノ基が2個以下であって酸基を持たない分子量160以上の(メタ)アクリレートモノマーとの重合促進用の光重合触媒が何れかのペースト中に0.01〜3重量%配合されている請求項1ないし7の何れか1項に記載の歯科用セメント。

【公開番号】特開2008−19183(P2008−19183A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−190466(P2006−190466)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】