説明

歯科用ハンドピースの流量制御機構

【課題】作用流体の流量を調節可能な歯科用ハンドピースにおいて、流量調節の最中にユーザが現在の設定流量を視覚的に認識することを可能にする。
【解決手段】操作リング70の内周面に360°より小さな回転角範囲にわたって延長する案内溝72を形成することにより、操作リング70が1回転以上は回転しないようにする。そして、操作リング70の外周面の360°より小さな回転角範囲内に、可動弁体62の最小流量位置および最大流量位置に対応する流量マークを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用エアタービン・ハンドピースや歯科用空気動式スケーラーのような歯科用ハンドピースに供給される圧縮空気や水のような作用流体の流量を制御するための流量制御機構に関する。より詳しくは、本発明は、特公平7−16497号に開示された流量制御機構の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
特公平7−16497号には、歯科用ハンドピースの本体の外周に回転可能に嵌合した操作リングを回転させて、ハンドピースの長手方向軸線に平行に可動弁体を変位させることにより、ハンドピース内の流体通路を流れる作用流体の流量を調節するようになった歯科用ハンドピースの流量制御機構が開示されている。
この流量制御機構は、ハンドピースの本体のうち歯科用ユニットからのホース継手を差し込むための軸方向ボアとハンドピース本体の外周との間の限られた半径方向肉厚内に制御弁を組み込むことができるという利点がある。
【0003】
この流量制御機構では、操作リングの内周に形成したピッチの小さな内ネジと可動弁体の外周に形成した外ネジとが噛み合っており、操作リングを指でグルグルと回転させることにより可動弁体がその全閉位置(又は最小流量位置。以下同じ)と全開位置(又は最大流量位置)との間で変位するようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この流量制御機構においては、可動弁体が全開位置(又は全閉位置)に突き当たるまで操作リングを何回転かグルグルと回転させた時には、操作リングはそれ以上は回転し得ないので、ユーザは操作リングから受ける反力により可動弁体が全開位置(又は全閉位置)に突き当たったことを知ることはできる。
しかしながら、操作リングを回転させることによって設定した流量を表示する手段が設けてないので、可動弁体が全開位置と全閉位置との間の位置にあり、従って可動弁体がこれらの極端位置に突き当たっていない時には、ユーザは流量の設定がどのようになっているかを知ることができないという不便があった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、作用流体の流量が現在どのように設定されているかをユーザが視覚的に認識しながら流量を調節することの可能な歯科用ハンドピースの流量制御機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、歯科用ハンドピースの本体の外周に回転可能に嵌合した操作リングを回転させることにより、ハンドピースの長手方向軸線に平行に可動弁体を変位させ、これによりハンドピース内の流体通路を流れる作用流体の流量を調節するようになった歯科用ハンドピースの流量制御機構において:前記操作リングの内周面に360°より小さな回転角範囲(回転方向角度範囲)にわたって延長する部分螺旋形の案内溝(スプライン)を形成し、前記案内溝に係合するピンを前記可動弁体に固定し、操作リングが可動弁体の最小流量位置および最大流量位置に対応する回転角位置(回転方向角位置)にあることを示す流量マークを操作リングの外周面の360°より小さな回転角範囲内に設けると共に、ハンドピースの本体の外周面に前記流量マークのための1つの基準マークを設けたことを特徴とするものである。
【0007】
このように、案内溝が延長する回転角範囲を360°より小さく制限することにより、操作リングが1回転以上は回転しないようにしたので、異なる流量を示す複数のマークを操作リングの外周面の360°の回転角範囲内に配置することが可能になる。従って、ユーザは、現在の設定流量をこれらのマークにより視認しながら、操作リングを回転させて流量を調節することができるので、ハンドピースの使い勝手が良い。
【0008】
好ましくは、前記部分螺旋形の案内溝は90°〜180°、好ましくは約120°の回転角範囲にわたって延長し、前記複数のマークは90°〜180°、好ましくは約120°の回転角範囲内に分配してある。
このような限られた角度範囲内にマークが配置してあれば、ユーザはハンドピースの側方から複数のマークの全貌を一目で認識することができる。従って、流量調節にあたり、ユーザは、このハンドピースの流量調節可能な範囲と、その中で自分が現在設定している流量とを容易に認識することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
添付図面を参照しながら本発明の実施例を説明する。図1および図2は、本発明の流量制御機構が組み込まれた歯科用ハンドピースを示すもので、図示した実施例ではこのハンドピースは歯科用空気動式スケーラー(歯石除去用ハンドピース)として構成されている。
【0010】
先ず、これらの図を参照しながら、空気動式スケーラーの概要を説明するに、空気動式スケーラー10は細長い中空のハンドピース本体12を有する。製造および組立の便宜上、図示した実施例では、ハンドピース本体12は長手方向に例えば3つの区間に分割してあり、これらの区間は互いに螺合されている。
ハンドピース本体12の内部には圧縮空気作動式の振動発生装置14が収容されている。振動発生装置14は複数のOリング(図2にハッチングで示す)を用いてハンドピース本体12に対して振動絶縁されている。振動発生装置14は前記特公平7−16497号に記載されたものとほぼ同一の構成を有し、同様に作動するので、詳細な説明を要しないであろう。
簡単にのみ説明するに、振動発生装置14は、歯科用ユニット(図示せず)から圧縮空気の供給を受けて振動を発生し、振動発生装置14の先端に螺合されたスケーラー・チップ16を振動させることにより歯石を除去するようになっている。
【0011】
空気動式スケーラー10は、歯科用ユニット(図示せず)から延長する歯科用ホース18にスケーラー10を接続することにより、歯科用ユニットから作用流体としての圧縮空気と圧力水の供給を受けるようになっている。スケーラー10と歯科用ホース18との接続は、ホース18の端部に取り付けた従来型のホース継手20の雄部材22をハンドピース本体12の後部軸方向孔24に差し込むことにより行われる。
【0012】
ホース継手20の雄部材22には、歯科用ホース18内の圧縮空気供給通路および圧力水供給通路(いづれも図示せず)に夫々連通した圧縮空気供給ポート26および水供給ポート28が設けてある。
周知のように、スケーラー10とホース継手20とを接続した時には、圧縮空気供給ポート26はハンドピース本体12に形成した三日月形の圧縮空気取入用切欠き30に連通し、水供給ポート28はハンドピース本体12に形成した三日月形の水取入用切欠き32に連通するようになっている。
【0013】
圧縮空気取入用切欠き30は、図3および図4を参照しながら後述する流量制御機構34の弁室36と、ハンドピース本体12に適宜形成した一連の軸方向圧縮空気通路38、39、40、41を介して振動発生装置14の周りの圧縮空気充満室42に連通しており、歯科用ユニットから送られて来た圧縮空気を振動発生装置14の圧縮空気取入口44に供給するようになっている。振動発生装置14に供給される圧縮空気の流量は、後述するように本発明の流量制御機構34によって調節することができる。
【0014】
他方、水取入用切欠き32は、ハンドピース本体12に適宜形成した一連の軸方向水通路46、47、48、半径方向水通路50、水パイプ52、振動発生装置14の出力軸54に形成した水通路56を介して、スケーラー・チップ16の水供給ノズル58に連通しており、スケーラー・チップ16に洗浄冷却水を供給するようになっている。水供給ノズル58に供給される洗浄冷却水の流量は、従来型のピンチバルブ機構60によって制御することができる。このピンチバルブ機構60は本発明を構成しないので、説明は省略する。
【0015】
次に、図1から図4を参照しながら、本発明の流量制御機構34を説明する。
流量制御機構34は、ハンドピース10の長手方向軸線に平行にハンドピース本体12に形成された円柱形の弁室36を有する。図4から良く分かるように、圧縮空気取入用切欠き30は弁室36の側方に開口しており、軸方向には弁室36は圧縮空気通路38に連通している。この弁室36にはスプール型の可動弁体62が摺動自在に嵌合されている。可動弁体62の外周には環状の溝が設けてあり、この溝には弁室36と可動弁体62との間をシールするためのOリング63が装着してある。
可動弁体62の後部には、矩形断面の摺動ブロック64が一体的に形成又は固定してある。この摺動ブロック64は弁室36の後方延長上にハンドピース10の長手方向軸線に平行に形成したガイド溝66に摺動自在に嵌合してあり、可動弁体62を回り止めする作用を果たす。摺動ブロック64にはピン68が設けてある。
【0016】
ハンドピース本体12の外周には操作リング70が回転可能に嵌合してある。操作リング70の後端面は、ハンドピース本体12のねじ71(図3(A))に螺合されたリテーナ76(図1、図2、図4)によって規制されている。
図3に示したように、操作リング70の内周面には、部分螺旋形の案内溝(スプライン)72が形成してある。案内溝72の部分螺旋形状は、図3(A)のB−B矢視断面を示す図3(B)に最も良く示されている。図示した実施例では、この案内溝72はハンドピース10の長手方向軸線を中心とする約120°の回転角範囲にわたって形成してある(図3(A))。この角度範囲は必要に応じて適宜増減することができる。
この案内溝72には摺動ブロック64に固定したピン68が摺動可能に係合させてある。従って、操作リング70をいづれかの方向へ回転させると、可動弁体62がハンドピース10の長手方向軸線に平行に変位するであろう。
案内溝72は約120°の回転角範囲にしか形成してないと共に、案内溝72に係合したピン68は操作リング70の回転を規制するので、操作リング70は約120°しか回転させることができない。
【0017】
図1に示したように、操作リング70の外周面には、流量を示すマーク74が約120°の回転角範囲にわたって設けてある。図示した実施例では、これらのマーク74は、最小流量を表す“1”の文字および1つの点と、中間流量を表す“2”の文字および2つの点と、最大流量を表す“3”の文字および3つの点を含む。勿論、これらのマーク74の数は適宜増減することができる。
他方、ハンドピース本体12の最後部区間であるリテーナ76の外周には、前記流量マーク74の基準位置を示す1つの基準マーク78が設けてある。
【0018】
図4は、操作リング70を120°回転させる時の可動弁体62の3つの代表的位置を示す。
図4(A)は、操作リング70を図3(A)において反時計方向に回し切ることにより可動弁体62が最小開度位置に持ち来されたところを示す。この時には、図1の最小流量マーク“1”は基準マーク78に整列しており、振動発生装置14に供給される圧縮空気の流量は最小に設定されていることを示している。
反対に、図4( C )は、操作リング70を時計方向に回し切ることにより可動弁体62が最大開度位置に持ち来されたところを示す。この時には最大流量マーク“3”が基準マーク78に整列しており、振動発生装置14に送られる圧縮空気の流量が最大に設定されていることを示している。
図4(B)は、可動弁体62が中間位置にあるところを示し、この位置では図1に示したように流量マーク“2”が基準マーク78に整列し、設定流量は中間であることを表す。
【0019】
従って、ユーザーは、基準マーク78と流量マーク74との相対位置関係を眼で見ながら操作リング70を回すことにより、圧縮空気の流量を所望のレベルに設定することができる。
このように、現在の設定流量をユーザが眼で確認しながら操作リング70を回して流量を調節することができる。
【0020】
冒頭に述べた従来の流量制御機構では、操作リングは何回転も回転するようになっているので、操作リングの外周に流量を表すマークを配置することができなかった。何故ならば、操作リングの外周の360°しかない角度範囲には、最小流量と最大流量との間の目盛りの何分の一かしか割り振ることができないからである。
これに対して、本発明は、案内溝の角度範囲を制限することにより、操作リングが1回転以上回転しないようにしたので、操作リングの外周面の360°(好ましくは90°〜180°、より好ましくは約120°)の回転角範囲内に最小流量から最大流量までを表すマークを配置することが可能になったのである。その結果、前述したように、現在の設定流量をユーザが眼で確認しながら流量を調節することができるので、ハンドピースの使い勝手が著しく向上する。
【0021】
以上には本発明の特定の実施例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の設計変更を施すことができる。即ち、本発明の流量制御機構は、歯科用空気動式スケーラーだけでなく、作用流体を用いる歯科用エアタービン・ハンドピースその他の歯科用ハンドピースにも適用することができる。また、本発明の流量制御機構は、圧縮空気だけでなく、洗浄冷却水の流量制御にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の流量制御機構が組み込まれた歯科用ハンドピース(歯科用空気動式スケーラー)の側面図である。
【図2】図2に示したハンドピースの軸方向断面図で、ホース継手を併せて示す。
【図3】図3(A)は図1および図2に示したハンドピースから流量制御機構のみを概念的に抜き出したところを示す分解斜視図であり、図3(B)は図3(A)のB−B矢視図である。
【図4】図2に示した流量制御機構の中心軸線より上の部分の拡大図で、流量制御機構の可動弁体が3つの異なる位置にあるところを示す。
【符号の説明】
【0023】
10: 歯科用ハンドピース(歯科用スケーラー)
12: ハンドピース本体
14: 振動発生装置
30: 圧縮空気取入用切欠き
34: 流量制御機構
36: 弁室
38、39、40、41: 圧縮空気通路
62: 可動弁体
68: ピン
70: 操作リング
72: 案内溝
74: 流量マーク
78: 基準マーク

特許出願人 株式会社ミクロン
代理人 弁理士 伊藤 宏

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用ハンドピースの本体の外周に回転可能に嵌合した操作リングを回転させることにより、ハンドピースの長手方向軸線に平行に可動弁体を変位させ、これによりハンドピース内の流体通路を流れる作用流体の流量を調節するようになった歯科用ハンドピースの流量制御機構において:
前記操作リングの内周面に360°より小さな回転角範囲にわたって延長する部分螺旋形の案内溝を形成し、前記案内溝に係合するピンを前記可動弁体に固定し、操作リングが可動弁体の最小流量位置および最大流量位置に対応する回転角位置にあることを示す流量マークを操作リングの外周面の360°より小さな回転角範囲内に設けると共に、ハンドピースの本体の外周面に前記流量マークのための1つの基準マークを設けたことを特徴とする歯科用ハンドピースの流量制御機構。
【請求項2】
前記部分螺旋形の案内溝は90°〜180°の回転角範囲にわたって延長し、前記複数のマークは操作リングの外周面の90°〜180°の回転角範囲内に分配してあることを特徴とする請求項1に基づく流量制御機構。
【請求項3】
前記部分螺旋形の案内溝は約120°の回転角範囲にわたって延長し、前記複数のマークは操作リングの外周面の約120°の回転角範囲内に分配してあることを特徴とする請求項2に基づく流量制御機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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