説明

歯科用口腔内撮影システム

【課題】 口蓋に接触した場合でも、被験者が痛みを感じにくい歯科用口腔内撮影システムを提供する。
【解決手段】 歯科用口腔内撮影システムは、X線撮像素子を有する受光部11を有する撮影部10を備える。受光部11におけるX線撮像素子を内包する部分の上部にかぶせるキャップ30を備える。キャップ30は、受光部11におけるX線撮像素子を内包する部分に比べて軟らかい素材で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用口腔内撮影システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のように、X線装置を使った歯牙の撮影において使用される撮影補助具(インジケータ)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−174162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、撮影補助具や、X線撮像素子を含む受光部は、比較的硬い素材が用いられるため、口蓋に接触した場合には、被験者が痛みを感じるおそれがある。
【0005】
したがって本発明の目的は、口蓋に接触した場合でも、被験者が痛みを感じにくい歯科用口腔内撮影システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る歯科用口腔内撮影システムは、X線撮像素子を有する受光部を有する撮影部と、受光部におけるX線撮像素子を内包する部分の上部にかぶせるキャップとを備え、キャップは、受光部におけるX線撮像素子を内包する部分に比べて軟らかい素材で構成される。
【0007】
ゴムなどの軟らかい素材で構成されたキャップが、被験者の口蓋とX線撮像素子を内包する部分との間に介在するため、被験者の口蓋などに触れた場合でも、被験者の痛みを軽減することが可能になる。
【0008】
また、X線撮像素子を内包する工程とは無関係に、軟らかい素材のキャップをかぶせるだけで良いため、製造工程も簡素化出来るし、通常の硬い素材がX線撮像素子を内包して出来た既製品に対しても、キャップをかぶせるだけで、被験者の痛みを軽減することが可能になる。
【0009】
好ましくは、キャップの前面側の上下方向の寸法は、受光部におけるX線撮像素子を内包する部分の上部にかぶせた時に、X線撮像素子の受光領域と重ならない長さを有する。
【0010】
X線画像にキャップの一部が写り込むことを防ぐことが可能になる。
【0011】
さらに好ましくは、キャップの背面側の上下方向の寸法は、キャップの前面側よりも長い。
【0012】
キャップの背面側の上下方向の寸法は、X線撮像素子との関係では特に制約は無いが、前面側が比較的短いため、キャップをかぶせた状態を安定的に維持するために、少なくとも前面側よりは長く設定するのが望ましい。
【0013】
本発明に係る歯科用口腔内撮影で使用するキャップは、X線撮像素子を有する受光部におけるX線撮像素子を内包する部分の上部にかぶせるキャップであって、キャップは、受光部におけるX線撮像素子を内包する部分に比べて軟らかい素材で構成される。
【0014】
本発明に係る歯科用口腔内撮影で使用するキャップは、X線撮像素子を有する受光部におけるX線撮像素子を内包する部分の上部、下部、側部の少なくとも一つにかぶせるキャップであって、キャップは、受光部におけるX線撮像素子を内包する部分に比べて軟らかい素材で構成される。
【発明の効果】
【0015】
以上のように本発明によれば、口蓋に接触した場合でも、被験者が痛みを感じにくい歯科用口腔内撮影システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態における歯科用口腔内X線撮影システムの構成図である。
【図2】キャップを取り付ける前の撮影部とキャップとを背面から見た斜視図である。
【図3】キャップを取り付ける前の撮影部とキャップとを前面から見た斜視図である。
【図4】キャップを取り付けた後の撮影部とキャップとを背面から見た斜視図である。
【図5】キャップを取り付けた後の撮影部とキャップとを前面から見た斜視図である。
【図6】撮影部を取り付ける前の撮影補助具を背面から見た斜視図である。
【図7】撮影部を取り付ける前の撮影補助具を前面から見た斜視図である。
【図8】撮影部を取り付けた後の撮影補助具を背面から見た斜視図である。
【図9】撮影部を取り付けた後の撮影補助具を前面から見た斜視図である。
【図10】撮影部、撮影補助具、及びX線装置の構成を示す側面図である。
【図11】撮影部、撮影補助具、及びX線装置の構成を示す上面図である。
【図12】第1防水カバー、第2防水カバーを取り付けた状態における、撮影部、撮影補助具、及びX線装置の構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態における歯科用口腔内X線撮影システムの構成について、図を用いて説明する。本実施形態に係る歯科用口腔内撮影システム1は、撮影部10、キャップ30、撮影補助具(インジケータ)50、X線装置70を備える(図1参照)。
【0018】
撮影部10の詳細について説明する(図2〜図5参照)。撮影部10は、受光部11、ケーブル17、腕部18、グリップ19を有する。
【0019】
受光部11は、X線受光部を内蔵する板状部材である前面部11a、中間部11b、腕部18のボール18aを回転自在な状態で保持する背面部11cを有する。
【0020】
前面部11aと背面部11cで挟まれる中間部11bは、前面部11aの背面側の一部が背面方向に突出する形状を有し、高さ方向(X線受光部に含まれるX線撮像素子の撮像面の法線に垂直な上下方向)の寸法が、前面部11aや背面部11cよりも短く、後述する保持部51の下部51aと上部51bに挟まれる。前面部11aと背面部11cとで、中間部11bが凹んだ形状にすることで、凹んだ部分で保持部51と中間部11bとが係合し、保持部51の下部51aと上部51bが中間部11bを挟んだ時に、外れにくいメリットを有する。
【0021】
但し、中間部11bが、保持部51で挟むことが出来れば良いため、前面部11aの一部が背面方向に突出する形状を中間部11bが有していればよく、背面部11cを設けない形態であってもよい。この場合には、中間部11bが背面部を兼ね、ボール18aを保持したりすることになる。
【0022】
背面部11cの背面側(若しくは底面側)には、後述する腕部18のボール18aを受ける受け皿が設けられる。
【0023】
ケーブル17は、前面部11aに設けられたX線受光部への電力供給や信号送受信するための電気線であり、後述するグリップ19と接続される。本実施形態では、ケーブル17が、背面部11cで、受光部11と接続される形態を示すが、中間部11bや前面部11aで、受光部11と接続される形態であってもよい。
【0024】
前面部11aのX線受光部は、X線を可視光に変換するシンチレータ、該可視光を電荷に変換するCCDなどのX線撮像素子を有する。
【0025】
X線撮像素子と直接接続される電気線がフレキシブル基板上に設けられている場合には、中間部11bや背面部11cの内部に、フレキシブル基板とケーブル17とを接続するための基板を設けても良い。
【0026】
また、前面部11aのX線撮像素子を駆動するための電気回路を、受光部11の内部に設ける形態であってもよい。但し、X線撮像素子を駆動するための電気回路を構成する部材は、後述するグリップ19や、さらに後段の画像処理装置などに配置される形態であってもよい。
【0027】
また、X線受光部からの信号送受信を、ケーブル17を介して行う形態に代えて、無線で行う形態であってもよい。この場合には、受光部11の内部に、無線通信を行う装置や、かかる装置やX線撮像素子を駆動するバッテリーを内蔵する。
【0028】
腕部18は、ボール18a、第1腕部18b1、第2腕部18b2、接続部18cを有する。
【0029】
第1腕部18b1は、一方の端部がボール18aに固定され、他方の端部が接続部18cと接続される棒状部材である。第1腕部18b1と、背面部11cとのなす角度は、ボールジョイントを構成するボール18aと背面部11cに設けられた受け皿とを介して、自在に変更出来る。
【0030】
第2腕部18b2は、一方の端部が接続部18cと接続され、他方の端部がグリップ19に固定される棒状部材である。接続部18cは、第1腕部18b1と第2腕部18b2とのなす角度を自在に変更出来、且つその角度を固定出来る状態で、これらを保持する。
【0031】
第1腕部18b1、第2腕部18b2の位置関係を変化させることにより、グリップ19を持った状態で、前面部11aのX線撮像素子の撮像面の法線の方向を自在に変化させることが可能になる。すなわち、使用者(術者若しくは被験者)がグリップ19を把持することにより、第1腕部18b1とX線撮像素子の撮像面とのなす角が調整可能な状態で、受光部11が保持される。なお、ケーブル17は、紐状部材で、第2腕部18b2等にくくりつける形態や、第2腕部18b2の内部を通る形態であってもよい。
【0032】
なお、本実施形態では、二本の棒状部材(第1腕部18b1と第2腕部18b2)を使って、受光部11などを保持する方向を調整する形態を説明するが、棒状部材の数はこれに限られるものではない。
【0033】
グリップ19は、ケーブル17や腕部18を介して、受光部11と接続される。グリップ19の内部には、X線撮像素子に電力を供給するバッテリーやX線撮像素子を制御する制御部やX線撮像素子で得られた画像信号に画像処理を施す画像処理装置を内蔵する形態であってもよいし、グリップ19から、外部の画像処理装置(例えばパソコン)に、有線か無線で画像信号を伝達する形態であってもよい。
【0034】
グリップ19は、被験者が保持する形態であってもよいし、歯科医などの術者が把持する形態であってもよいため、被験者が咬合をうまく行えない場合でも、X線撮像素子等を口腔内に維持することが可能になる。また、グリップ19の把持により、歯科用口腔内撮影システム1のグリップ19以外の部材(受光部11や受光部11を保持する撮影補助具50)が保持されるため、咬合により保持される形態に比べて、保定基板55等の重量が大きくなっても保持が容易に行えるメリットを有する。
【0035】
また、グリップ19は、保定基板55や受光部11に比べて大きさの制限が緩く、内部にバッテリーなどの電気部品を内蔵させるスペースを確保しやすい。また、グリップ19の内部に電気部品を出来るだけ集めることで、歯科用口腔内X線撮影システム1のグリップ19以外の部材(受光部11や撮影補助具50)を軽くすることが可能になり、グリップ19を把持した時に、安定した状態で、歯科用口腔内X線撮影システム1のグリップ19以外の部材(受光部11や撮影補助具50)を保持することが可能になる。
【0036】
次に、キャップ30の構成について説明する(図2〜図5参照)。キャップ30は、受光部11の前面部11a(X線撮像素子を内包する部分)の上部にかぶせるものであり、X線撮像素子を内包する前面部11aよりも軟らかい素材(例えば、ゴムやエラストマー樹脂やシリコンなど)で構成される。
【0037】
キャップ30の前面側の上下方向の寸法は、X線画像にキャップ30の一部が写り込むことを防ぐために、前面部11aの上部にかぶせた時に、X線撮像素子の受光領域と重ならない長さに設定される。キャップ30の背面側の上下方向の寸法は、X線撮像素子との関係では特に制約は無いが、前面側が比較的短いため、キャップ30を前面部11aにかぶせた状態を安定的に維持するために、少なくとも前面側よりは長く設定するのが望ましい。
【0038】
次に、撮影補助具50の詳細について説明する(図6〜図11参照)。撮影補助具50は、保持部51、回転軸53、保定基板55、角度表示部57、案内リング59を有する。
【0039】
保持部51は、下部51a、上部51b、下部51aと上部51bとを接続する柱部51cを有し、下部51aと上部51bとで、上下方向で、受光部11の中間部11bを挟み、受光部11を保持する。
【0040】
下部51a、上部51bの中間部11bを挟む部分における厚さ方向の寸法は、中間部11bの厚さ方向の寸法(前面部11aと背面部11cの距離)とほぼ同じ長さにするのが望ましい。
【0041】
中間部11bを挟む方法としては、下部51aと上部51bとの距離を、中間部11bの高さ方向の寸法と同程度にし、横方向から、中間部11bを下部51aと上部51bとの間に差し込むように受光部11をスライドさせる方法が考えられる。
【0042】
また、下部51aと上部51bの少なくとも一方を移動可能な状態で柱部51cに取り付ける形態も考えられる。この場合には、柱部51cを上下方向に長くして、下部51aと上部51bとの距離を、中間部11bの高さ方向の寸法よりも長くしておき、中間部11bを挟み込んだ後に、下部51aと上部51bを近づけて、ネジなどで中間部11bを下部51aと上部51bで挟み込んだ状態を固定させる。
【0043】
挟み込んだ状態を解除すれば、保持部51による受光部11の保持状態を解除出来る。すなわち、保持部51による挟み込み機構により、受光部11の着脱が容易に行える。
【0044】
保持部51が受光部11を保持した状態で、回転軸53を中心に回転した時に、保持部51や受光部11が保定基板55と干渉しないように、これらの部材の寸法が決定される。
【0045】
回転軸53は、一方の端部で保持部51と接続され、他方の端部で角度表示部57、と接続され、保持部51の回転軸53を中心とした回転運動は、回転軸53を介して角度表示部57に伝達され、角度表示部57を回転させる。同様に、角度表示部57の回転軸53を中心とした回転運動は、回転軸53を介して保持部51に伝達され、保持部53を回転させる。なお、保持部51の前面側(受光部11の前面部11aが取り付けられる側)が、保定基板55の上面に近づくような付勢力が与えられるように、回転軸53にバネなどの付勢部材が設けられてもよい。
【0046】
保定基板55は、平板状に形成された部材で、本実施形態では、保定基板55が、奥歯の撮影用に、上から見て略コの字形状を有する形態を説明するが、前歯の撮影用に、直線形状を有する形態であってもよい(不図示)。
【0047】
角度表示部57は、保持部51が口腔内に挿入された時にも口腔外から見えるように、保定基板55の口腔内に挿入されない部分に取り付けられ、円柱形状を有しており、該円柱形状の筒状部分(側面)や天面には、保持部51と保定基板55とのなす角度θ(図10参照)に関連する情報として、複数の目印線を含む目盛りが付されている。
【0048】
角度表示部57の目盛りと保定基板55との位置関係に基づいて、すなわち、基準位置(例えば、保定基板55の上面)と最も近い目印線に基づいて、口腔内に挿入されて見えない保持部51と保定基板55とのなす角度θに関する情報を読み取ることが可能になり、案内リング59の位置決め部59aにおけるX線装置70を配置する際の位置合わせに使用される。
【0049】
なお、リーマーを取り付けた状態では、撮影対象歯牙が保定基板10に接触することが出来ないため、リーマーを避けるように、撮影時に撮影対象歯牙と対向する位置に切欠部(又は孔部)を設ける形態も考えられる。
【0050】
案内リング59は、保定基板55を介して、受光部11を保持する保持部51と対向する位置に設けられ、X線撮影におけるX線装置70の照射口の位置決めに使用される。案内リング59は、保持部51側から見て縦長の略楕円形状を有する。
【0051】
案内リング59は、保定基板55の上方から見て、X線撮像素子の撮像面の中心を通り、撮像面に垂直な基準線LP上にあって、撮像面から特定の距離(200mm)だけ離れた位置にX線源LSが配置されるように、X線源LSを含むX線装置70を位置決めするために使用される(図11参照)。
【0052】
案内リング59の側部には、位置決め部59aが設けられる。位置決め部59aには、角度表示部57の目盛りの目印線に対応する情報(複数の位置決め用目印)が記載される。対応関係にある角度表示部57の目盛りの目印線と、位置決め部59aの位置決め用目印とは同じ色で示されるのが望ましい。
【0053】
角度表示部57の目盛りにおける目印線のうち基準位置(例えば、保定基板55の上面)に最も近いものに対応する位置決め用目印に合わせて設置したX線源LSから出射されるX線束の中心軸LXが、保定基板55の側方から見て、受光部11に内蔵されたX線撮像素子の撮像面を含む面と撮影対象歯牙の歯軸との二等分面に略垂直にすることが出来るように、複数の位置決め用目印が位置決め部59aに設けられる(図10参照)。
【0054】
角度θが小さい場合、すなわちX線撮像素子の撮像面が、保定基板55の上面と平行に近い状態の場合には、保定基板55から離れた位置決め用目印に対応する角度表示部57の目盛りの目印線が基準位置に近くなる。
【0055】
角度θが大きい場合、すなわちX線撮像素子の撮像面が、保定基板55の上面と垂直に近い状態の場合には、保定基板55に近い位置決め用目印に対応する角度表示部57の目盛りの目印線が基準位置に近くなる。
【0056】
X線装置70は、1つのX線光源LSから照射口を介してX線を照射する装置であり、X線画像を得る場合に使用される。X線装置70の照射口は、X線源LSから出射されるX線束の中心軸LXに垂直な面を有する。
【0057】
X線装置70の照射口が、案内リング59の所定の位置(基準位置に最も近い目盛りの目印線に対応した位置決め部59aの位置決め用目印に合わせた位置)に設置された場合に、上方から見て、X線源LSから出射されるX線束の中心軸LXが、X線撮像素子の撮像面の中心を通るように、案内リング59は、側方から見て略円弧形状を有し、上方から見て直線形状を有する(図10、図11参照)。
【0058】
このため、保定基板55の上方から見て、X線受光部の撮像面の中心を通り、撮像面に垂直な基準線LPと、X線源LSから出射されるX線束の中心軸LXとが重なる位置関係で、X線装置70の照射口は、案内リング59の近傍に配置されることになる。
【0059】
なお、側方から見て中心軸LXと平行な直線状の指標をX線装置70の側部に設け、かかる指標と案内リング59の位置決め部59aの位置決め用目印とが一致させるようにすると、位置合わせが容易に行える。
【0060】
X線装置70を使った撮影時は、受光部11などの撮影部10の一部や、保持部51などの撮影補助具50の一部が、被験者の口腔内に挿入され、撮影対象歯牙の歯軸と保定基板55とが垂直になるような状態で、受光部11や、撮影補助部50がグリップ19によって保持される。このとき、角度表示部57、案内リング59は、口腔外に位置する。但し、撮影対象歯牙の歯軸と保定基板55とのなす角度は垂直で無くても良い。
【0061】
また、撮影時には、歯科用口腔内X線撮影システム1の被験者の口腔内に挿入される部分(保定基板55の一部、受光部11、ケーブル17や腕部18の一部)に、防水カバーが覆われるのが望ましい。
【0062】
受光部11の前面部11aの上部は、防水カバーで覆われた場合には間接的に、覆われなかった場合には直接的に、口蓋に接触する可能性が高い。通常、X線撮像素子を内包する部分(本実施形態では、受光部11の前面部11a)は、ゴムよりも硬い素材で構成されることが多く、硬い素材が口蓋に接触した場合には、被験者が痛みを感じるおそれがある。特に、X線撮像素子を内包する部分の四隅(角の部分)が硬いと、ここに触れて被験者が痛みを感じる可能性が高い。本実施形態では、ゴムなどの軟らかい素材で構成されたキャップ30が、被験者の口蓋とX線撮像素子を内包する部分との間に介在するため、X線撮像素子を内包する部分(特に四隅)の硬さを被験者が感じにくく、被験者の口蓋などに触れた場合でも、被験者の痛みを軽減することが可能になる。
【0063】
なお、X線撮像素子を内包する部分をゴムなどの軟らかい素材で構成する形態も考えられるが、X線撮像素子を所定の位置からずれないように、かかる軟らかい素材で内包する工程は、通常の硬い素材でX線撮像素子を内包する工程よりも難易度が高い。これに対して、本実施形態では、X線撮像素子を内包する工程とは無関係に、軟らかい素材のキャップ30をかぶせるだけで良いため、製造工程も簡素化出来るし、通常の硬い素材がX線撮像素子を内包して出来た既製品に対しても、キャップ30をかぶせるだけで、被験者の痛みを軽減することが可能になる。
【0064】
なお、防水カバーは、撮影部10の一部(受光部11、ケーブル17や腕部18の一部)とキャップ30を覆う第1防水カバー91と、撮影補助具50の一部(保持部51、保定基板55の一部)を覆う第2防水カバー92とが別体で構成されるのが望ましい(図12参照)。この場合には、第1防水カバー91も、第2防水カバー92も、撮影部10の一部とキャップ30と撮影補助具50の一部を一体で覆う防水カバーに比べて単純な形状にすることが可能になり、製作が容易になるメリットがある。なお、この場合には、保持部51が受光部11を挟み込む部分に、第1防水カバー91と第2防水カバー92とが挟み込まれる。
【0065】
次に、動作手順について説明する。キャップ30が受光部11の前面部11aに取り付けられ、受光部11が保持部51に取り付けられ、保定基板55の一部や、受光部11等が、防水カバーで覆われた状態で、歯科用口腔内X線撮影システム1の受光部11を含む部分が、撮影対象歯牙を有する被験者の口腔内に挿入される。
【0066】
被験者の口腔内の形状や、歯科用口腔内X線撮影システム1が挿入された位置などに基づいて、国腔内における受光部11と保定基板55との位置関係が決定し、角度θが決定する。
【0067】
歯科用口腔内X線撮影システム1の使用者は、角度表示部57の目盛りを見て、基準位置に最も近い目印線を確認し、案内リング59の位置決め部59aにおける当該目印線に対応する位置決め用目印に指標を合わせるようにして、X線装置70の照射口を設置する。その後、X線装置70によるX線の照射、カルテ番号の入力、電源の立ち上げなど、所定の操作を行うことにより、撮像動作が行われる。
【0068】
撮像動作においては、X線撮像素子は、シンチレータで変換された可視光を撮像する。撮像動作で得られた画像信号は、グリップ19に内蔵された画像処理装置(若しくは、グリップ19と有線または無線で接続された外部の画像処理装置)で、X線画像を得るための画像処理が施される。
【0069】
また、基準位置(例えば、保定基板55の上面)に一番近い目印線に対応する位置決め部59aの位置決め用目印に合わせて、X線装置70の照射口を配置すれば、X線装置70のX線源LSから出射されるX線束の中心軸LXが、側方から見て、受光部11に内蔵されたX線受光部の撮像面を含む面と撮影対象歯牙の歯軸との二等分面に略垂直にすることが出来、二等分面撮影法により、実長に近い状態で撮影対象歯牙のX線画像を得ることが可能になる。
【0070】
なお、本実施形態では、二等分面撮影法を考慮して、すなわち、X線束の中心軸LXが、側方から見て、受光部11に内蔵されたX線撮像素子の撮像面を含む面と撮影対象歯牙の歯軸との二等分面に略垂直になるように、案内リング59の側部の形状や、位置決め部59aの位置決め用目印が決定される形態を説明したが、他の撮影法を考慮してこれらを決定する形態であってもよい。
【0071】
例えば、X線束の中心軸LXが、側方から見て、受光部11に内蔵されたX線撮像素子の撮像面を含む面に略垂直になるように、案内リング59の側部の形状や、位置決め部59aの位置決め用目印が決定される形態であってもよい。
【0072】
また、本実施形態では、保持部51が軸53を中心に回転し、保持部51と保定基板55とのなす角度θが変化し、角度θに関する情報を、角度表示部57を使って口腔外に表示する形態を説明したが、保持部51が保定基板55に固定され、角度θが固定されたものであってもよい。この場合は、回転軸53や角度表示部57は不要になり、案内リング59の位置決め部59aは、固定的な角度θに対応した最適な位置決め用目印だけを有する形態になる。
【0073】
本実施形態では、X線撮像素子を含む受光部11と、保定基板55を含む撮影補助具50が別体で構成され、受光部11が、撮影補助具50の保持部51に取り付けられる。
【0074】
受光部11を保持部51に取り付ける際に、X線撮像素子がある前面部11aから背面方向に突出した中間部11bを、保持部51の下部51aと上部51bとで挟み込む。X線撮像素子がある部分を撮像面の法線に垂直な上下方向や左右方向で挟み込むと、かかる部分の実質的なサイズが大きくなってしまい、口蓋や撮影対象歯牙の周囲の歯牙との干渉で、適切な撮影位置を確保することが難しくなる問題があるが、本実施形態のように、かかる挟み込み機構によって、X線撮像素子がある部分の上下方向や左右方向のサイズが大きくなることは無いため、かかる問題は発生しない。
【0075】
なお、受光部11と、保持部51を含む撮影補助具50とを一体にする形態も考えられる。この場合には、右上用の撮影補助具と受光部とを一体にしたものと、右下用の撮影補助具と受光部とを一体にしたものの2種類の撮影装置を用意する必要があり、X線撮像素子のコストが他の部材に比べて高いため、2種類の撮影装置を用意するのはコスト的なデメリットが大きい。これに対して、本実施形態では、コストが高いX線撮像素子を含む撮影部10は、1種類のものだけ用意すれば良いため、かかる問題は発生しない。
【0076】
また、本実施形態では、受光部11などの保持は、グリップ19を把持することにより行われるため、受光部11などの保持のために、保定基板55を咬合する必要がなく、口を開けた状態を維持したまま、撮影が可能である。このため、中間部11bの分だけ、受光部11は奥行き方向に厚みが増えるが、撮影に支障を来す可能性は少ない。
【0077】
なお、本実施形態では、撮像面の法線に垂直な上下方向で、受光部11の背面方向に突出した部分(中間部11b)を挟み込む形態を説明したが、撮像面の法線に垂直な左右方向で、受光部11の背面方向に突出した部分(中間部11b)を挟み込む形態であってもよい。
【0078】
また、X線撮像素子は、撮像面の法線に垂直な上下方向が、左右方向に比べて長い縦長のものを使用し、上部にキャップ30を取り付ける形態を説明したが、撮像面の法線に垂直な上下方向が、左右方向に比べて短い横長のものを使用し、上部にキャップ30を取り付ける形態であっても良い。また、キャップ30を取り付ける位置は、X線撮像素子を内包する部分の上部に取り付ける形態だけでなく、側部や下部に取り付ける形態であってもよい。撮影を行う姿勢によっては、側部や下部が口蓋など被験者に接触する場合も考えられるからである。
【符号の説明】
【0079】
1 歯科用口腔内撮影システム
10 撮影部
11 受光部
11a 前面部
11b 中間部
11c 背面部
17 ケーブル
18 腕部
18a ボール
18b1、18b2 第1腕部、第2腕部
18c 接続部
19 グリップ
30 キャップ
50 撮影補助具
51 保持部
53 回転軸
55 保定基板
57 角度表示部
59 案内リング
59a 位置決め部
70 X線装置
91、92 第1防水カバー、第2防水カバー
LX 中心軸
LP 上方から見て、X線受光部の撮像面の中心を通り、撮像面に垂直な線
LS X線源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線撮像素子を有する受光部を有する撮影部と、
前記受光部における前記X線撮像素子を内包する部分の上部にかぶせるキャップとを備え、
前記キャップは、前記受光部における前記X線撮像素子を内包する部分に比べて軟らかい素材で構成されることを特徴とする歯科用口腔内撮影システム。
【請求項2】
前記キャップの前面側の上下方向の寸法は、前記受光部における前記X線撮像素子を内包する部分の上部にかぶせた時に、前記X線撮像素子の受光領域と重ならない長さを有することを特徴とする請求項1に記載の歯科用口腔内撮影システム。
【請求項3】
前記キャップの背面側の上下方向の寸法は、前記キャップの前面側よりも長いことを特徴とする請求項2に記載の歯科用口腔内撮影システム。
【請求項4】
X線撮像素子を有する受光部における前記X線撮像素子を内包する部分の上部にかぶせるキャップであって、
前記キャップは、前記受光部における前記X線撮像素子を内包する部分に比べて軟らかい素材で構成されることを特徴とする歯科用口腔内撮影で使用するキャップ。
【請求項5】
X線撮像素子を有する受光部における前記X線撮像素子を内包する部分の上部、下部、側部の少なくとも一つにかぶせるキャップであって、
前記キャップは、前記受光部における前記X線撮像素子を内包する部分に比べて軟らかい素材で構成されることを特徴とする歯科用口腔内撮影で使用するキャップ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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