説明

歯科用抗菌性組成物

【解決手段】抗菌性アルデヒド化合物と水酸基含有ビニル重合体との脱水縮合により合成されたポリビニルアセタール(A)と、重合性単量体(B)と、重合開始剤(C)とを含有する歯科用抗菌性組成物。
【効果】高い抗菌作用を長期にわたって発現し、しかも硬化物の靭性が高い歯科用抗菌性組成物が提供される。抗菌作用を長期にわたって発現するのは、水酸基含有ビニル系重合体とのアセタール化により抗菌成分(抗菌性アルデヒド化合物)をポリマー(ポリビニルアセタール(A))の分子内に固定化し、溶出を防止したからである。硬化物の靭性が高いのは、硬化物の靭性が高いのは、硬化物中において鎖状ポリマーであるポリビニルアセタール(A)が互いに絡み合うためと考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用抗菌性組成物に係わり、詳しくは、口腔内において、歯科用コンポジットレジン、義歯床用レジン、歯科用コート材、歯科用プライマー、歯科用接着剤、歯科用レジンセメントなどとして使用される歯科用抗菌性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯牙の代表的な疾患であるう蝕は、口腔内細菌によって産生される酸によりエナメル質が溶かされることによって発症する。なかでもミュータンス菌(Streptococcusmutans)は、う蝕の主たる原因菌とされている。また、歯周組織の疾患である歯周炎も、口腔内細菌が原因となって発症するとされている。いずれの疾患の予防にも、口腔内細菌による歯質表面への歯垢の形成を防ぐこと、図らずも歯垢が形成された場合にはそれを速やかに除去することが重要と考えられている。歯磨きの励行が推奨されている所以である。
【0003】
一方、レジン材料やコンポジットレジン等の歯科用材料によりう蝕部分の充填修復や欠損部の補綴処置(例えば義歯)を行うと、歯科用材料の表面に細菌が付着して歯垢が形成されやすいので、歯垢の除去が二次う蝕や歯周炎の防止に重要とされている。
【0004】
う蝕の一般的な予防法としては、酸性フッ素リン酸溶液やフッ化ジアミン銀溶液などを歯質の表面に塗布してエナメル質の耐酸性を向上させる方法がある。また、歯垢の形成、特に歯科用材料の表面への歯垢の形成を予防する方法として、歯科用材料に抗菌剤を配合する方法がある。例えば、コンポジットレジンへのクロロヘキシジンの配合(非特許文献1)、及び、リン酸カルシウム系セメントへのメトロニダゾールの配合(非特許文献2)が知られている。
【0005】
上述したように、従来は、う蝕細菌を死滅させるか不活性化させるためには、抗菌成分を細菌に取り込ませるか、細菌を抗菌成分に取り込ませるかする必要があるとの考え方から、抗菌成分を歯科用材料から溶出させて細菌と自由に接触させる方法が採られていた。
【0006】
しかしながら、この従来の方法では、抗菌成分が溶出により減少すると歯科用材料の抗菌性は経時的に低下し、抗菌成分が溶出して口腔内から消失した時点で抗菌性は完全に失われる。また、抗菌成分の中には正常組織に対して為害作用を及ぼすものも少なくない。それゆえ、溶出した抗菌成分が正常組織にも移行した場合は、為害作用が問題となることもある。さらに、抗菌成分の溶出に因り歯科用材料の機械的性質の低下が問題となる場合もある。
【0007】
近年、上述の問題を解決した歯科用材料がいくつか提案されている。例えば、特許文献1には、抗菌性を有し、且つ水に非溶出性の単官能性ないし3官能性の特定のモノマーを含有する重合性組成物が記載されている。また、特許文献2には、ウンデセン基およびエトキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を含有する抗菌性歯科用重合性組成物が記載されている。後者は、ウンデシレン酸及びその誘導体のウンデセン基内に存在する二重結合に恒久的な抗菌作用があるとの知見に基づいて提案された組成物である。
【0008】
【特許文献1】特開平6−9725号公報
【特許文献2】特開2004−189661号公報
【非特許文献1】竹村金造ら、日本歯科保存学会誌,第26巻第2号540〜547頁、1983年
【非特許文献2】岩久正明ら、日本歯科保存学会誌、第30巻第5号1444〜1448頁、1987年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び2記載の組成物では、抗菌成分として、重合性基を有する抗菌性化合物が使用されているので、硬化後、抗菌成分は重合体の一部となる。このため、特許文献1及び2記載の組成物は、従前の重合性基を有しない抗菌成分を使用した組成物が有していた、硬化物からの抗菌成分の溶出に起因した隙間の発生、ひいては硬化物の機械的性質の経時的な低下といった課題を有しない。しかしながら、特許文献1及び2記載の組成物には、硬化物の靱性が実用上未だ不十分であるという課題があった。
【0010】
本発明は、上述の課題を解決するべくなされたものであって、硬化物の靭性が高く、しかも長期にわたって抗菌効果を発現する歯科用抗菌性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための請求項1記載の歯科用抗菌性組成物は、抗菌性アルデヒド化合物と水酸基含有ビニル重合体との脱水縮合により合成されたポリビニルアセタール(A)と、重合性単量体(B)と、重合開始剤(C)とを含有する。
【0012】
請求項2記載の歯科用抗菌性組成物では、請求項1記載の歯科用抗菌性組成物における抗菌性アルデヒド化合物が、一般式:CH2=CH(CH2)nCHO 〔式中、nは5〜12の整数を表す〕で表されるものに限定される。
【0013】
請求項3記載の歯科用抗菌性組成物では、請求項1記載の歯科用抗菌性組成物における抗菌性アルデヒド化合物がペリルアルデヒドに限定される。
【0014】
請求項4記載の歯科用抗菌性組成物は、請求項1〜3のいずれか1項記載の歯科用抗菌性組成物にして、ポリビニルアセタール(A)を0.1〜50重量%含有するものである。
【0015】
請求項5記載の歯科用抗菌性組成物は、請求項1〜4のいずれか1項記載の歯科用抗菌性組成物にして、ポリビニルアセタール(A)のアセタール化度が1〜50モル%のものである。
【発明の効果】
【0016】
抗菌効果を長期にわたって発現し、しかも硬化物の靭性が高い歯科用抗菌性組成物が提供される。抗菌効果を長期にわたって発現するのは、抗菌成分(抗菌性アルデヒド化合物)を水酸基含有ビニル重合体とのアセタール化によりポリマー(ポリビニルアセタール(A))の分子内に固定化し、溶出を防止したからである。硬化物の靭性が高いのは、硬化物中において鎖状ポリマーであるポリビニルアセタール(A)が互いに絡み合うためと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る歯科用抗菌性組成物は、ポリビニルアセタール(A)と、重合性単量体(B)と、重合開始剤(C)とを含有する。
【0018】
ポリビニルアセタール(A)は、抗菌性アルデヒド化合物と水酸基含有ビニル重合体との脱水縮合により合成されたものである。抗菌性アルデヒド化合物は、特に限定されないが、炭素数6〜20の非環式又は環式のアルデヒド化合物が好ましく、具体例としては、一般式:CH2=CH(CH2)nCHO 〔式中、nは5〜12の整数を表す〕で表されるアルデヒド化合物、オクチルアルデヒド、8−メチル−ノナナール、ペリルアルデヒド、シトラール、シトロネラール、シンナムアルデヒド、サリチルアルデヒド、アニスアルデヒド、フルフラール、ポリゴジアール、1,5−ペンタンジアールが挙げられる。中でも、10−ウンデセナール((CH2=CH(CH2)8CHO)及びペリルアルデヒドが好ましい。抗菌性アルデヒド化合物は一種単独を使用してもよく複数種を併用してもよい。
【0019】
水酸基含有ビニル重合体は抗菌性アルデヒド化合物とアセタール化反応するものであれば特に限定はされず、具体例としては、ポリビニルアルコール(PVA)が挙げられる。アセタール化反応が容易に進行するポリビニルアルコールが好ましい。水酸基含有ビニル重合体は一種単独を使用してもよく複数種を併用してもよい。ポリビニルアルコールの重合度は400〜3500が好ましく、500〜2400がより好ましい。重合度が400より小さい場合は、得られるポリビニルアセタール(A)の粘度が低くなって組成物の粘度が低くなり、歯科材料としての取り扱い性が低下するとともに、硬化物の靱性が低下する傾向がある。一方、重合度が3500より大きい場合は、得られるポリビニルアセタール(A)の粘度が高くなって他の成分との混合が困難になるという製造上の問題が生じる場合がある。また、ポリビニルアルコールのケン化度は60〜100%が好ましく、80〜100%がより好ましい。ケン化度が60%未満の場合は、ポリビニルアルコールと抗菌性アルデヒド化合物との縮合反応(アセタール化反応)により得られるポリビニルアセタール(A)のアセタール化度の低下、粘度の低下などを引き起こすことがある。
【0020】
ポリビニルアセタール(A)は、抗菌性アルデヒド化合物と水酸基含有ビニル重合体とを、含水溶媒中、酸触媒を用いてアセタール化(脱水縮合)することにより合成することができる。ポリビニルアセタール(A)のアセタール化度は、1〜50モル%が好ましく、2〜30モル%がより好ましく、3〜20モル%が最も好ましい。アセタール化度が1モル%未満のポリビニルアセタール(A)は抗菌性を示さない場合がある。アセタール化度が50モル%を超えるポリビニルアセタール(A)は一般に製造が困難である。
【0021】
抗菌性アルデヒド化合物と水酸基含有ビニル重合体とを酸触媒を用いてアセタール化する方法としては、水酸基含有ビニル重合体を水に加熱溶解して5〜30%水溶液を調製し、5〜50°Cまで冷却した後、所定量の抗菌性アルデヒド化合物を加えて−10〜30°Cまで冷却し、酸を添加して溶液のpHを1以下としてアセタール化反応を開始する方法、及び、水酸基含有ビニル重合体を水に加熱溶解して5〜30%水溶液を調製し、5〜50°Cまで冷却した後、酸を添加して溶液のpHを1以下とし、さらに−10〜30°Cまで冷却した後、所定量の抗菌性アルデヒド化合物を加えてアセタール化反応を開始する方法が例示される。アセタール化反応に要する時間は、通常、1〜10時間程度である。アセタール化反応は攪拌しながら行うことが好ましい。反応後に得られる反応生成物を濾過し、ろ物を水洗し、乾燥することにより、粉末状のポリビニルアセタール(A)が得られる。なお、反応終了時のアセタール化度が企図したレベルにまで上昇していない場合は、そのレベルのアセタール化度に達するまで、50〜80°C程度の温度でさらに反応を継続してもよい。
【0022】
アセタール化反応に使用する酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が例示される。無機酸と有機酸の混合物を用いてもよい。
【0023】
ポリビニルアセタール(A)の配合量は、ポリビニルアセタール(A)と重合性単量体(B)と重合開始剤(C)との総量(100重量%)に基づいて、0.1〜50重量%が好ましく、1〜50重量%がより好ましい。同配合量が50重量%を超えた場合は、組成物中に含まれる重合性単量体(B)等の重合性単量体の硬化反応が阻害されたり、硬化物の機械的強度が低下したりすることがある。一方、同配合量が0.1重量%未満の場合は、抗菌効果や靱性の向上が得られなくなることがある。
【0024】
重合性単量体(B)の具体例を、オレフィン性二重結合(官能基)の個数により分類して下記する。なお、以下において、(メタ)アクリレートとあるのは、メタクリレートとアクリレートとを包括的に記載したものであり、また(メタ)アクリロイルとあるのは、メタクリロイルとアクリロイルとを包括的に記載したものである。
【0025】
一官能性単量体:2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド
【0026】
二官能性単量体:エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(「3G」)、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数が9、14および23)、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルメタアクリレート(「Bis−GMA」)、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス[4−〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート(「UDMA」)、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロパン
【0027】
三官能性以上の単量体:トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、N,N' −(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタン
【0028】
重合性単量体(B)として酸性基含有重合性単量体を配合してもよい。酸性基含有重合性単量体とは、リン酸基〔ホスフィニコ基:=P(=O)OH、ホスホノ基:−P(=O)(OH)2〕、ピロリン酸基〔−P(=O)(OH)−O−P(=O)(OH)−〕、カルボン酸基〔カルボキシル基;−C(=O)OH、酸無水物基;−C(=O)−O−C(=O)−〕、スルホン酸基〔スルホ基:−SO3H、−OSO3H〕等の酸性基を少なくとも一つ有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、ビニルベンジル基等の重合可能な不飽和基を有する重合性単量体である。酸性基含有重合性単量体としては、リン酸基含有重合性単量体、ピロリン酸基含有重合性単量体、カルボン酸基含有重合性単量体、スルホン酸基含有重合性単量体が例示される。
【0029】
リン酸基含有重合性単量体の具体例としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル−2−ジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル=2−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル=フェニルホスホネート等;特開平3−294286号公報に記載されている(5−メタクリロキシ)ペンチル−3−ホスホノプロピオネート、(6−メタクリロキシ)ヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、(10−メタクリロキシ)デシル−3−ホスホノプロピオネート、(6−メタクリロキシ)ヘキシル−3−ホスホノアセテート、(10−メタクリロキシ)デシル−3−ホスホノアセテート等;特開昭62−281885号公報に記載されている2−メタクリロイルオキシエチル(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2−メタクリロイルオキシプロピル(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート等;更には、特開昭52−113089号公報、特開昭53−67740号公報、特開昭53−69494号公報、特開昭53−144939号公報、特開昭58−128393号公報、特開昭58−192891号公報に記載されているリン酸基含有重合性単量体が挙げられるが、更には、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩等も挙げられる。
【0030】
ピロリン酸基含有重合性単量体の具体例としては、ピロリン酸ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕並びにこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩が挙げられる。
【0031】
カルボン酸基含有重合性単量体の具体例としては、マレイン酸、メタクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸、およびこれらの酸無水物;5−(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ヘキサンジカルボン酸、8−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−オクタンジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−デカンジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸並びにこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩が挙げられる。
【0032】
スルホン酸基含有重合性単量体の具体例としては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート並びにこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩が挙げられる。
【0033】
重合性単量体(B)の配合量は、ポリビニルアセタール(A)と重合性単量体(B)と重合開始剤(C)との総量(100重量%)に基づいて、30〜99.8重量%が好ましく、50〜99.0重量%がより好ましい。同配合量が99.8重量%を超えた場合は、抗菌性が十分に発揮されなくなることがある。一方、同配合量が30重量%未満の場合は、組成物が硬化しにくくなり、硬化物の機械的強度が低下する傾向がある。
【0034】
重合開始剤(C)としては、歯科用材料や外科用材料の重合開始剤として従来公知のラジカル重合開始剤又は光重合開始剤を特に制限なく使用することができる。
【0035】
ラジカル重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソブチルバレロニトリル等のアゾ化合物、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシアセテート、ラウリルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジンカーボネイト、ジアセチルペルオキシド、ジプロピルペルオキシド、ジブチルペルオキシド、ジラウリルペルオキシド、p,p’−ジクロルベンゾイルペルオキシド、p,p’−ジメトキシベンゾイルペルオキシド、p,p’−ジメチルベンゾイルペルオキシド、p,p’−ジニトロジベンゾイルペルオキシド等の有機過酸化物、トリアルキルボラン又はトリアルキルボランの部分酸化物等の有機ホウ素化合物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の無機過酸化物が例示される。
【0036】
光重合開始剤としては、ベンジル、4,4’−ジクロロベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、9,10−アントラキノン、ジアセチル、d,l−カンファキノン(CQ)が例示される。L−アスコルビン酸、L−ソルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、ロンガリット、有機還元性化合物等の還元剤を光重合開始剤と併用してもよい。有機還元性化合物の具体例としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン(DMPT)、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジエタノール−p−トルイジン(DEPT)、4−ジメチルアミノフェネチルアルコール(DPA)、N,N−ジメチル−p−tert−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニシジン、N,N−ジメチル−p−クロルアニリン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート(DMAEMA)、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノ安息香酸及びそのアルキルエステル、N,N−ジエチルアミノ安息香酸(DEABA)及びそのアルキルエステル、N,N−ジメチルアミノベンツアルデヒド(DMABAd)等の芳香族アミン類;N−フェニルグリシン(NPG)、N−トリルグリシン(NTG)、N,N−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)フェニルグリシン(NPG−GMA)が挙げられる。中でも、DMPT、DEPT、DPA、DMAEMA、DEABA、DMABAd、NPG、NTGが好ましい。その外、ベンゼンスルフィン酸、o−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、クロルベンゼンスルフィン酸、ナフタリンスルフィン酸等の芳香族スルフィン酸及びその塩、芳香族スルフィン酸のチオールエステル、芳香族スルフィン酸アミド類が例示される。
【0037】
重合開始剤(C)の配合量は、ポリビニルアセタール(A)と重合性単量体(B)と重合開始剤(C)との総量(100重量%)に基づいて、0.01〜20重量%が好ましく、0.02〜10重量%がより好ましい。同配合量が20重量%を超えた場合は、変色、着色(触媒自身の色による着色)の問題や、硬化速度が速くなり過ぎることがある。一方、同配合量が0.01重量%未満の場合は、組成物が硬化しにくくなることがある。
【0038】
上記の必須3成分(A)、(B)、(C)の外に、用途に応じて、本発明に係る歯科用抗菌性組成物に、フィラー、重合禁止剤、着色剤、蛍光剤、紫外線吸収剤などを配合してもよい。
【0039】
フィラーとしては、従来公知の有機フィラー、無機フィラー及び有機・無機複合フィラーを挙げることができる。有機フィラーとしては従来から使用されている溶解性の高分子量重合体、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート又はブチル(メタ)アクリレートの単独重合体及びこれらの共重合体が挙げられる。無機フィラーとしては、無定形シリカ、アルミナ、ジルコニア、石英、アルミナ石英、シリカ−アルミナ化合物、シリカ−ジルコニア化合物、シリカ−チタニア化合物、酸化チタン、ガラス(フルオロアルミノシリケートガラス、バリウムガラスを含む)、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、雲母、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイトが例示される。無機フィラーは、常法により表面処理を施して用いることが望ましい。表面処理剤としては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン等の有機ケイ素化合物、チタネートカップリング剤が例示される。有機・無機複合フィラーとしては、無機フィラーの粒子表面を重合性単量体の重合体で被覆した後、粉砕して得られるフィラーが例示される。その具体例としては、無機フィラーのうち、微粉末シリカをトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートを主成分とする重合性単量体で重合被覆し、得られた重合体を粉砕して得られるフィラー、及び、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を溶かしたアセトン等の溶液にシリカや酸化ジルコニウム等の無機フィラーを加えて分散させ、溶媒を留去して乾燥した後に粉砕して得られるフィラーが挙げられる。
【0040】
フィラーの平均粒径は0.1〜100μmが好ましい。異なる粒径のフィラーを混合して用いることが好ましい。フィラーの配合量は用途によって異なるが、通常、ポリビニルアセタール(A)と重合性単量体(B)と重合開始剤(C)との総量(100重量部)に対して、0〜2000重量部、好ましくは0〜1000重量部である。
【0041】
本発明に係る歯科用抗菌性組成物に、アセトン、エタノール等の水溶性有機溶剤及び/又は水を、ポリビニルアセタール(A)と重合性単量体(B)と重合開始剤(C)との総量(100重量部)に対して、0〜2000重量部、好ましくは0〜1000重量部配合してもよい。
【0042】
本発明の歯科用抗菌性組成物は、粉剤/液剤タイプ、粉剤/ペーストタイプ、液剤/ペーストタイプ、ペースト/ペーストタイプ、カプセルタイプ等の種々の剤型とすることができる。
【0043】
本発明に係る歯科用抗菌性組成物は、コンポジットレジン、接着材、小窩裂講填塞材、義歯、義歯床用レジン、コーティング材、暫間修復用レジン、レジン系セメント、人工歯根などとして用いることができる。口腔内に用いられる歯科用材料の表面には常在菌が繁殖し易いので、抗菌作用が長期にわたって持続される本発明に係る歯科用抗菌性組成物は歯科用材料として極めて有用である。
【実施例】
【0044】
本発明を実施例により更に詳細に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0045】
〈ポリビニルアセタールの合成〉
合成例1〜4によりポリビニルアセタールPVAC−1〜PVAC−4を合成した。アセタール化度は、日本工業規格JIS−K6726に準拠して求めた。すなわち、アセタール化度は、試料を重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO−d6)に溶かし、プロトンに対する基準周波数が500MHzのプロトンNMR測定装置(日本電子社製、商品コード「JEOLGX−500」)を用いて求めた。
【0046】
(合成例1)
ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名「PVA−117」、ケン化度98〜99%、重合度1700)450gを水5550mlに投入し、95°Cに昇温し、2時間撹拌して、PVA−117を溶かした。このようにして得た水溶液を35°Cまで徐冷した後、ウンデシレンアルデヒド65gを添加して分散させ、0°Cまで冷却した。液温が0°Cに達した直後から20%塩酸200mlを30分かけて滴下し、滴下終了1時間後にさらに20%塩酸500mlを30分かけて滴下した。その後、反応溶液を2時間かけて27°Cまで昇温し、この温度に2時間保持した。2時間後に、析出した粒状物を濾別し、入念に水洗し、減圧下にて40°Cで乾燥して、アセタール化度5.8モル%のポリビニルアセタールPVAC−1を合成した。
【0047】
(合成例2)
ウンデシレンアルデヒド65gに代えて、ペリルアルデヒド65gを用いたこと以外は合成例1と同様にして、アセタール化度6.3モル%のポリビニルアセタールPVAC−2を合成した。
【0048】
(合成例3)
ウンデシレンアルデヒドを65gに代えて6.5g用いたこと以外は合成例1と同様にして、アセタール化度0.6モル%のポリビニルアセタールPVAC−3を合成した。
【0049】
(合成例4)
ウンデシレンアルデヒドを65gに代えて650g用いたこと以外は合成例1と同様にして、アセタール化度55.7モル%のポリビニルアセタールPVAC−4を合成した。
【0050】
〈歯科用抗菌性組成物の調製〉
(実施例1)
Bis−GMA(60重量部)、トリエチレングリコールジメタクリレート(20重量部)、ポリビニルアセタールPVAC−1(20重量部)、カンファーキノン(1重量部)、ジメチルアミノエチルメタクリレート(2重量部)よりなる混合物と、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理した石英粉(平均粒径2.4μm)とを、重量比17:83で混合して、コンポジットレジン用の歯科用抗菌性組成物を調製した。この歯科用抗菌性組成物を円盤状に成形し、このようして得た成形体の両面に歯科用光照射器(群馬牛尾電気社製、商品名「ライテルII」)にて10秒間光照射して直径10mm、厚さ2mmの円盤状の試験片を作製し、エチレンオキサイドガスにて滅菌処理した。この試験片について、下記の抗菌性の評価方法A及びBにより抗菌性を評価するとともに、下記の破壊靭性試験により破壊靱性を評価した。結果を表1に示す。
【0051】
(実施例2)
ポリビニルアセタールPVAC−1(20重量部)に代えて、ポリビニルアセタールPVAC−2(20重量部)を用いたこと以外は実施例1と同様にして円盤状の試験片を作製し、エチレンオキサイドガスにて滅菌した。この試験片について、下記の抗菌性の評価方法A及びBにより抗菌性を評価するとともに、下記の破壊靭性試験により破壊靱性を評価した。結果を表1に示す。
【0052】
(比較例1)
Bis−GMA(60重量部)、トリエチレングリコールジメタクリレート(20重量部)、ポリビニルアルコール(前出の「PVA−117」)(18重量部)、ウンデシレンアルデヒド(2.6重量部)、カンファーキノン(1重量部)、ジメチルアミノエチルメタクリレート(2重量部)よりなる混合物と、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理した石英粉(平均粒径2.4μm)とを、重量比17:83で混合して、コンポジットレジン用の歯科用抗菌性組成物を調製した。この歯科用抗菌性組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして直径10mm、厚さ2mmの円盤状の試験片を作製し、エチレンオキサイドガスにて滅菌した。この試験片について、下記の抗菌性の評価方法A及びBにより抗菌性を評価するとともに、下記の破壊靭性試験により破壊靱性を評価した。結果を表1に示す。
【0053】
(比較例2)
Bis−GMA(60重量部)、トリエチレングリコールジメタクリレート(20重量部)、ポリビニルアルコール(前出の「PVA−117」)(18重量部)、ぺリルアルデヒド(2.6重量部)、カンファーキノン(1重量部)、ジメチルアミノエチルメタクリレート(2重量部)よりなる混合物と、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理した石英粉(平均粒径2.4μm)とを、重量比17:83で混合して、コンポジットレジン用の歯科用抗菌性組成物を調製した。この歯科用抗菌性組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして直径10mm、厚さ2mmの円盤状の試験片を作製し、エチレンオキサイドガスにて滅菌した。この試験片について、下記の抗菌性の評価方法A及びBにより抗菌性を評価するとともに、下記の破壊靭性試験により破壊靱性を評価した。結果を表1に示す。
【0054】
(比較例3)
Bis−GMA(60重量部)、トリエチレングリコールジメタクリレート(20重量部)、ポリビニルアルコール(前出の「PVA−117」)(20重量部)、カンファーキノン(1重量部)、ジメチルアミノエチルメタクリレート(2重量部)よりなる混合物と、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理した石英粉(平均粒径2.4μm)とを、重量比17:83で混合して、コンポジットレジン用の歯科用抗菌性組成物を調製した。この歯科用抗菌性組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして直径10mm、厚さ2mmの円盤状の試験片を作製し、エチレンオキサイドガスにて滅菌した。この試験片について、下記の抗菌性の評価方法A及びBにより抗菌性を評価するとともに、下記の破壊靭性試験により破壊靱性を評価した。結果を表1に示す。
【0055】
(比較例4)
Bis−GMA(70重量部)、トリエチレングリコールジメタクリレート(28重量部)、ウンデシレンアルデヒド(2.6重量部)、カンファーキノン(1重量部)、ジメチルアミノエチルメタクリレート(2重量部)よりなる混合物と、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理した石英粉(平均粒径2.4μm)とを、重量比17:83で混合して、コンポジットレジン用の歯科用抗菌性組成物を調製した。この歯科用抗菌性組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして直径10mm、厚さ2mmの円盤状の試験片を作製し、エチレンオキサイドガスにて滅菌した。この試験片について、下記の抗菌性試験A及びBにより抗菌性を評価するとともに、下記の破壊靭性試験により破壊靱性を評価した。結果を表1に示す。
【0056】
〈抗菌性試験A〉
調製したBHI(ブレインハートインフュージョン)寒天平板上に、一夜培養したミュータンス菌(StreptococcusmutansMT8148株)培養菌液を塗布し、乾燥した。その上にエチレンオキサイドガスを十分に抜去した試験片を置き、37°Cで48時間培養した後、試験片の周囲及び表面における菌の発育状況を観察し、それぞれの部位における試験片の抗菌性を下記の基準で評価する。
【0057】
()試験片周囲における発育阻止斑の形成状況
−:試験片周囲に菌の発育阻止斑が全く認められない。
±:試験片周囲に幅1mm未満のリング状の発育阻止斑が認められる。
+:試験片周囲に幅1mm以上2mm以下のリング状の発育阻止斑が認められる。
++:試験片周囲に幅2mmを超える発育阻止斑が認められる。
【0058】
(ii)試験片表面における菌の発育阻止状況
−:試験片直下の寒天平板上に菌の発育阻害が全く認められず、菌が平板上に均一に発育している。
±:試験片直下の寒天平板上に菌の発育阻害効果が少し認められる。
+:試験片直下の寒天平板上に菌の発育がほとんど認められない。
++:試験片直下の寒天平板上に菌の発育が全く認められない。
【0059】
〈抗菌性試験B〉
37°Cの水中に一箇月間浸漬した試験片について上記の抗菌性試験Aと同じ試験を行い、試験片の抗菌性を評価する。
【0060】
〈破壊靭性試験〉
硬化物の破壊靭性を、公知文献(松本、「歯科材料・器械」第7巻、第5号、第756〜768頁、1988年発行)に記載の方法に準拠して測定する。すなわち、ペースト状の歯科用抗菌性組成物を、中心部に剃刀による2.5mmの切り欠き部を有する2.5×5×30mmの角柱状のモールドに充填し、ガラス板を載置してペーストを被覆し、光照射してペーストを重合硬化させて試験片を作製する。次いで、この試験片を、37°Cの水中に1日浸漬した後、万能試験機(インストロン社製)を用いて、クロスヘッドスピードを1mm/分、支点間距離を20mmに設定して常温下にて破壊靭性試験を行い、試験片が破断した時の荷重を破壊靭性強さとする。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示すように、実施例1、2で調製した歯科用抗菌性組成物は、抗菌性の評価結果が全て+であり、また破壊靭性値がそれぞれ1.95及び1.88と高かった。一方、比較例1、2で調製した歯科用抗菌性組成物は、抗菌性試験Bでの抗菌性の評価(±)が抗菌性試験Aでの抗菌性の評価(+)に比べて悪く、抗菌効果の経時的な低下が認められた。また、破壊靭性値がそれぞれ1.64及び1.59と低かった。比較例3で調製した歯科用抗菌性組成物は、破壊靭性値は2.01と高いものの抗菌作用がなく、また比較例4で調製した歯科用抗菌性組成物は、比較例1、2で調製した歯科用抗菌性組成物と同様、抗菌性試験Bでの抗菌性の評価(±)が抗菌性試験Aでの抗菌性の評価(+)に比べて悪く、抗菌効果の経時的な低下が認められた。また、比較例4で調製した歯科用抗菌性組成物は、破壊靭性値が1.29と極めて低かった。
【0063】
(実施例3〜8)
表2に示す成分を混合して、8種の歯科用抗菌性組成物を調製した。これらの歯科用抗菌性組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして直径10mm、厚さ2mmの円盤状の試験片を作製し、エチレンオキサイドガスにて滅菌した。これらの試験片について、先の抗菌性試験A及びBにより抗菌性を評価するとともに、先の破壊靭性試験により破壊靱性を評価した。結果を表3に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
表3に示す、実施例3で調製した歯科用抗菌性組成物と実施例4で調製した歯科用抗菌性組成物との抗菌性及び靱性の比較より、ポリビニルアセタール(A)の配合量が過少な場合(実施例4)は、抗菌性及び靱性が低下することが分かる。また、表3に示す、実施例5で調製した歯科用抗菌性組成物と実施例6で調製した歯科用抗菌性組成物との靱性の比較より、ポリビニルアセタール(A)の配合量が過多な場合(実施例6)は、靱性が低下することが分かる。さらに、表3に示す、実施例7で調製した歯科用抗菌性組成物と実施例8で調製した歯科用抗菌性組成物との抗菌性及び靱性の比較より、ポリビニルアセタール(A)のアセタール化度が、低過ぎる場合(実施例7)は抗菌性が低下する傾向があり、一方高過ぎる場合(実施例8)は靱性が低下する傾向がある、ことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性アルデヒド化合物と水酸基含有ビニル系重合体との脱水縮合により合成されたポリビニルアセタール(A)と、重合性単量体(B)と、重合開始剤(C)とを含有する歯科用抗菌性組成物。
【請求項2】
前記抗菌性アルデヒド化合物が一般式:CH2=CH(CH2)nCHO 〔式中、nは5〜12の整数を表す〕で表される請求項1記載の歯科用抗菌性組成物。
【請求項3】
前記抗菌性アルデヒド化合物がペリルアルデヒドである請求項1記載の歯科用抗菌性組成物。
【請求項4】
前記ポリビニルアセタール(A)を0.1〜50重量%含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の歯科用抗菌性組成物。
【請求項5】
前記ポリビニルアセタール(A)のアセタール化度が1〜50モル%である請求項1〜4のいずれか1項記載の歯科用抗菌性組成物。

【公開番号】特開2007−269637(P2007−269637A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93587(P2006−93587)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(301069384)クラレメディカル株式会社 (110)
【Fターム(参考)】