説明

歯科用材料

【課題】
歯科用材料に求められる諸物性(機械的特性など)を満たしながら、硬化性に優れ、かつ、透明性とX線造影性が優れる歯科用材料または歯科用組成物を提供する。
【解決手段】
一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物または/および該化合物を構成成分に含む重合体を含む歯科用材料。
【化1】


(1)
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、X1およびX2はそれぞれ独立にヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキレン基を表し、mおよびnはそれぞれ独立に0〜4の整数を表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の化学構造を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を用いた歯科用材料に関し、より詳しくは、取り扱い操作性、硬化性が良好で、高い透明性およびX線造影性を有する歯科用材料ならびに歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸エステル化合物などの重合性化合物を含有する歯科用材料は操作性、審美性、強度に優れるなどの利点から、歯科治療分野において広く使用されている。特に、可視光線重合型の歯科用組成物は生体に対して安全な可視光線を用いることができ、かつ、前述の利点を有していることから特に多く使用されている(特許文献1)。
【0003】
従来から、機械的強度を付与するとともにレジンマトリックスの諸物性を向上させる目的で、コンポジットレジン、硬質レジンあるいは人工歯等の歯科用組成物に含有される充填材として、シリカ、ガラスなどの粉末状無機成分が添加されている。
【0004】
歯科治療時にはX線撮影によってその治療状態を確認することが多いことから、これら歯科用組成物に含有される粉末状無機成分として、歯科治療時にX線撮影が可能となるように、X線造影性を有するバリウム、ジルコニウム、ストロンチウム等の重金属元素を含有したガラスを粉砕した粉末(粉砕ガラス粉末)が使用されている。かかる粉砕ガラス粉末は、例えば、上記のようなガラスを粉砕することにより製造されているのが一般的であ
るが、従来のガラス粉砕技術では、ガラスを微小に粉砕することが難しく、通常は数十μm(20ないし30μm)〜10μm前後のガラス粉末が使用されてきた。しかしながら、このような粒子径の大きなガラス粉末を配合した歯科用組成物を用いた場合、臨床的に天然歯と同様な艶のある仕上がり面を形成することが非常に困難であった。
【0005】
かかるガラス粉末を含有することに付随する上記の問題を解決するために、近年、平均粒径が2μm以下に微粉砕されたガラス粉末を主に使用したコンポジットレジン等が開発されている。すなわち、例えば、平均粒径が0.1〜5μmの粉砕ガラス粉末および/または平均粒径が0.01〜0.04μmのシリカ微粒子等の無機化合物を使用することが開示されている(特許文献2)。
【0006】
該微粉砕ガラス粉末を使用したコンポジットレジンでは、従来の比較的粒径の大きな粉砕ガラス粉末を用いたコンポジットレジンの欠点とされてきた表面艶は向上するものの、こうした微粉砕ガラス粉末を含有する歯科用組成物には、透明性、光硬化性およびX線造影性等のバランスに関して改善すべき点が残されている。すなわち、例えば、平均粒径2μm以下という微粉砕充填材を均一に充填した歯科用組成物においては充填材とレジンマトリックス(樹脂硬化物)との境界面の面積が飛躍的に増大するため、その透明性を確保するためには、充填材とレジンマトリックスとの屈折率を近似させる必要がある。高いX線造影性を確保するために充填材中の重金属元素の含有量を増やしてゆくと充填材の屈折率は高くなる。従来、歯科用途に使用されてきた2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称、ビスフェノールA)から誘導されるエポキシメタクリレート(以下、Bis−GMAと略する)等のレジンマトリックスの屈折率は最大で1.55程度であり、使用する充填材の屈折率をその値に近似させることで歯科用組成物の透明性を確保しているが、前述したような高いX線造影性を有する充填材と適合する屈折率の高い樹脂硬化物を与える重合性化合物が要望されており、いくつかの提案がなされている(特許文献3〜特許文献4)。
【0007】
このように、歯牙における透明性に関して、前歯切端部などに使用されるコンポジットレジンあるいは硬質レジンでは外観上非常に高い透明度が要求されることが多い。多くの場合、このような部位では、歯科用光照射器の照射波長である480nmの光線透過率が5%以上であることが要求される。他方、象牙質などの部位では、こうした外観上の問題がないので、歯科用レジンあるいは硬質レジンは比較的透明度は低くてもよく、透明度が1%以下であっても使用することは可能である。しかしながら、こうした象牙質であっても歯牙の色調を調整するために酸化チタン、ベンガラなどの顔料を配合することから、着色の自由度を高くするためには、透明度は高いことが好ましい。また、透明度が高いと光重合タイプの歯科材料の場合、硬化深度が大きくなり、また重合率が高くなるので機械物性が向上するとの利点もある。
【0008】
顔料を含まない歯科用組成物において、上記の光線透過率は0.05%以上であることが好ましく、さらに1%以上であることがさらに好ましく、実用的には5%以上であることが特に望ましい。このような現在市販されている材料では、X線造影性は対アルミニウムで最大で200〜300%程度になり、X線による歯牙エナメル質(X線造影性は対アルミニウムで180%程度)との区別は通常の充填治療などでは可能であるが、少量、あるいは薄く充填する場合は、エナメル質との明瞭な区別は難しくなる。
【0009】
また、歯科材料について臨床上大きな問題である重合収縮を小さくする方法として、無機充填材を予め重合性化合物と混合し硬化させて得られた硬化物を粉砕した複合充填材を歯科用組成物に混合して使用する方法が知られている。このような歯科用組成物では重合収縮は低減されるが、上記複合充填材の場合には透明性を確保するためにさらに無機充填材と複合充填材中のレジンマトリックス、および歯科組成物中のレジンマトリックスの屈折率を細かく適合させる必要がある。
【特許文献1】特開昭48−49875号公報
【特許文献2】特開平5−194135号公報
【特許文献3】特開平8−157320号公報
【特許文献4】特開平8−208417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、歯科用材料および歯科用組成物における上記課題を解決しようとするものである。すなわち、本発明は取り扱い操作性、硬化性が良好で、高い透明性およびX線造影性を有する歯科用材料および歯科用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、一般式(1)で表される化合物または/および該化合物を構成成分に含む重合体を含有する歯科用材料および歯科用組成物が取り扱い操作性、硬化性が良好で、高い透明性およびX線造影性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、一般式(1)で表される化合物または/および該化合物を構成成分として含有する重合体を含む歯科用材料に関する。
【0013】
【化1】

(1)
【0014】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、X1およびX2はそれぞれ独立にヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキレン基を表し、mおよびnはそれぞれ独立に0〜4の整数を表す)
【0015】
さらには、
(A)重合性化合物および(B)重合開始剤を含有する歯科用組成物であって、該重合性化合物が前記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする歯科用組成物、
前記歯科用組成物に、さらに(C)充填材を含有することを特徴とする前記歯科用組成物、
前記歯科用組成物に、さらに一般式(1)で表される化合物以外の他の重合性化合物を含有することを特徴とする前記歯科用組成物、ならびに、
重合後の硬化物の屈折率が1.55以上である、前記歯科用組成物に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物を含有する歯科用材料および歯科用組成物は、取り扱い操作性、硬化性が良好で、高い透明性およびX線造影性を有している。本発明の歯科用材料、歯科用組成物は透明感があって審美性を有しついつ、使用部位をX線撮影で確認しながら確実に歯科治療をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明は、 一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物または/および該化合物を構成成分として含有する重合体を含む歯科用材料、であり、
(A)重合性化合物および(B)重合開始剤を含有する歯科用組成物であって、該重合性化合物が請求項1記載の一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする歯科用組成物、である。
【0019】
以下、まず本発明に係る一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物について説明する。一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物とは、分子内にフルオレンビスフェノール構造を有することを構造上の特徴とする(メタ)アクリル酸エステル化合物であって、それ自体公知化合物である。
【0020】
【化2】

(1)
【0021】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、X1およびX2はそれぞれ独立にヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキレン基を表し、mおよびnはそれぞれ独立に0〜4の整数を表す)
【0022】
以下、一般式(1)の化合物について説明する。
【0023】
一般式(1)において、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表す。
【0024】
アルキル基としては、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0025】
該R1およびR2としては、好ましくは、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、より好ましくは、水素原子またはメチル基である。
【0026】
一般式(1)において、X1およびX2はそれぞれ独立にヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキレン基を表す。該X1およびX2として、例えば、メチレン基、ジメチレン基、プロピレン基、1,3−トリメチレン基、2−ヒドロキシ−1,3−トリメチレン基、1,4−トリメチレン基が挙げられる。
【0027】
該X1またはX2として、好ましくは、ヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数2〜4のアルキレン基であり、より好ましくは、ヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数2〜3のアルキレン基であり、さらに好ましくは、ジメチレン基、プロピレン基、1,3−トリメチレン基、2−ヒドロキシ−1,3−トリメチレン基である。
【0028】
一般式(1)において、mおよびnはそれぞれ独立に0〜4の整数を表す。該mおよびnとして、好ましくは、0〜3の整数であり、より好ましくは、0〜2の整数であり、さらに好ましくは、整数1または2である。
【0029】
本発明に係る一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物における好ましい態様としては、下記の一般式(1−A)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物が示される。
【0030】
【化3】

(1−A)
[上記式中、R1、R2、X1、X2、mおよびnは前記と同じ意味を表す]
【0031】
本発明に係る一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、例えば、以下に示す化合物が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
【表5】

【0037】
本発明に係る一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物は既知化合物であり、製造方法それ自体は公知の方法に従って製造される。
【0038】
本発明に係る一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物は合成反応終了後、公知の操作、処理方法(例えば、中和、溶媒抽出、水洗、分液、溶媒留去など)によって後処理されて単離される。さらに所望に応じて、(メタ)アクリル酸エステル化合物は公知の方法(例えば、クロマトグラフィー、活性炭や各種吸着剤による処理など)等により分離、精製されて、より高純度の化合物として単離される。
【0039】
さらに、溶液時に濾過など不溶物、不溶性粒子、塵、粉塵、異物などの不純物の含有量が少なく高い透明性を有していることは好ましく、例えば、一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物を、例えば、クリーンルームなどの施設内でフィルターを用いて濾過する方法により、前記不純物を除去することが可能である。
【0040】
また必要に応じて、一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する際に、製造中間体において前記操作、処理方法を行なうことにより純度を高めることもできる。
【0041】
本発明に係る一般式(1)で表される化合物は、特にその状態に関して限定されるものではないが、歯科用材料として用いる場合に、好ましくは、常温で液体であり、より好ましくは、常温での粘度が100〜1000000cps(mPa.s)である。
【0042】
常温で液体であって、前記の粘度を有する化合物は、重合させないで単量体のまま歯科用材料に好適に利用できる。これより低い粘度であると、所望の特性を有する重合性組成物を得ることが困難になる可能性がある。逆にこれより高い粘度を有すると、後記する充填材とくにガラス粉末などの無機充填材を硬化組成物中に充分な量を均等に含有することが困難となる傾向がある。また、他の成分との混合に時間を要するだけでなく、重合反応も短時間に終了しないこともある。一般式(1)で表される化合物の粘度は1000〜100000cps(mPa・s)の範囲であることが、特に好ましい。
【0043】
常温で液体であることは、歯科用材料として、あるいは組成物の硬化物を調製する際に他の成分または添加剤を容易に溶解できるなど使いやすさの観点から好ましい。
【0044】
しかしながら、歯科用組成物に使用される場合には、一般式(1)で表される化合物は、液体に限定されず、固体であっても他の液状の重合性化合物と併用することにより使用可能である。
【0045】
本発明に係る一般式(1)で表される化合物は、室温での液体屈折率が1.53〜1.65であることが好ましく、より好ましくは、1.54〜1.65である。
【0046】
また、一般式(1)で表される化合物において、その硬化物の屈折率は、室温で、1.55〜1.67であることが好ましく、より好ましくは、1.55〜1.66であり、さらに好ましくは、1.56〜1.65ある。後で詳しく述べるように、組成物中に共存する充填材などと屈折率を一致させ、組成物を硬化後に硬化物の透明性を確保するためである。
【0047】
一般式(1)で表される化合物は、単独で用いてもよく、あるいは、一般式(1)で表される化合物であって互いに異なる複数(2種類以上)を、併用しても差し支えない。
【0048】
次に、本発明の歯科用材料および歯科用組成物について具体的に説明する。
【0049】
歯科用材料とは、下記の歯科用組成物を含む広く歯科分野において使用される材料全般である。歯科用組成物とは、重合性化合物の他に、重合開始剤、充填材等を混合したものをいい、これには硬化前の重合性組成物と該重合性組成物を重合して得られる硬化物が包含される。
【0050】
本発明の歯科用材料は、一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする。該化合物は前述した通り、分子内に、フルオレンビスフェノール構造を部分構造として有することを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル化合物である。
【0051】
本発明の歯科用組成物は、(A)重合性化合物および(B)重合開始剤を必須構成成分として含有してなる組成物において、該重合性化合物として、一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする。該歯科用組成物は後述するように、所望に応じて、充填剤を含有してもよい。
【0052】
本発明の歯科用組成物(または歯科用材料)における重合開始剤としては、特に限定されるものではなく、公知の各種化合物(例えば、光重合開始剤、有機過酸化物、ジアゾ系化合物、レドックス系化合物など)が挙げられ、好適に使用される。
【0053】
重合開始剤として、前記光重合型開始剤を使用する場合は、光増感剤単独または光増感剤と光重合促進剤との組み合わせが利用できる。
【0054】
光増感剤としては、ベンジル、カンファ−キノン、α−ナフチル、p,p'−ジメトキシベンジル、ペンタジオン、1,4−フェナントレンキノン、ナフトキノン、トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシドなどの可視光あるいは紫外光の照射で励起され重合を開始する公知のα−ジケトン化合物類およびリン原子含有化合物などが例示される。これらの化合物は単独で使用されてもよく、あるいは、2種類以上を混合して使用されても差し支えない。
【0055】
これら化合物の中でも、カンファーキノンおよびトリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシドは、好ましい化合物である。
【0056】
光重合促進剤としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸、p−N,N−ジエチルアミノ安息香酸、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−N,N−ジエチルアミノ安息香酸エチル、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチル、p−N,N−ジエチルアミノ安息香酸メチル、p−N,N−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−n−ブトキシエチル、p−N,N−ジエチルアミノ安息香酸2−n−ブトキシエチル、p−N,N−ジメチルアミノベンゾニトリル、p−N,N−ジエチルアミノベンゾニトリル、p−N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、p−ジメチルアミノフェネチルアルコ−ル、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、N−エチルエタノールアミンなどの第3級アミン類;前記第3級アミンとクエン酸、リンゴ酸、2−ヒドロキシプロパン酸との組み合わせ;5−ブチルアミノバビルツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバビルツ−ル酸などのバビルツール酸類;ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物などが例示される。これらの化合物は、単独で使用されてもよく、あるいは、2種類以上を混合して使用されても差し支えない。
【0057】
これら化合物の中でも、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチル、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−n−ブトキシエチル、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートなど芳香族に直接窒素原子が結合した第3級芳香族アミンもしくは重合性基を有する脂肪族第3級アミンは、好ましい化合物である。
【0058】
硬化を速やかに終了させるためには、光増感剤と光重合促進剤との組み合わせて使用することは好ましく、カンファーキノンまたはトリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシドと、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルもしくはp−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−n−ブトキシエチルなど芳香族に直接窒素原子が結合した第3級芳香族アミンのエステル化合物との組み合わせて使用することは、好ましい。
【0059】
重合開始剤として、有機過酸化物、ジアゾ系化合物を使用する場合において、公知の各種化合物が制限はなく、好適に使用される。
【0060】
有機過酸化物として、例えば、ジアセチルパ−オキサイド、ジイソブチルパーオキサイド、ジデカノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、スクシン酸パーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジアリルパーオキシジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート類;tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ブチルネオデカネート、クメンパーオキシネオデカネートなどのパーオキシエステル類;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシドなどの過酸化スルホネート類等が挙げられる。
【0061】
また、ジアゾ系化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメトキシバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)などを挙げることができる。
【0062】
重合を短時間で終了させたい場合には、80℃での分解半減期が10時間以下である化合物は好ましく、上記化合物の中でも、ベンゾイルパ−オキサイド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルは好ましい化合物である。
【0063】
重合開始剤としてレドックス開始剤系を使用する場合において、特に限定はなく、公知の各種開始剤が使用される。
【0064】
前記の有機過酸化物と第3級アミンの組み合わせ;有機過酸化物/スルフィン酸もしくはそのアルカリ金属塩類/第3級アミンの組み合わせ;過硫酸カリウムなどの無機過酸化物と亜硫酸ナトリウム、無機過酸化物と亜硫酸水素ナトリウムのような無機過酸化物と無機還元剤の組み合わせなどを挙げることができる。中でも、ベンゾイルパ−オキサイドとN,N−ジメチル−p−トルイジン、ベンゾイルパ−オキサイドとN,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジンが好適に使用される。
【0065】
これらの重合開始剤の使用量は、特に限定するものではないが、通常、重合性化合物 100重量部に対して、0.001〜10重量%の範囲内であり、好ましくは0.001〜5重量%の範囲内である。
【0066】
本発明の歯科用組成物において(C)充填剤が含まれるが、かかる充填材は、機械的強度の確保、光透過性の向上、X線造影性の付与、重合収縮の低減などの目的で添加される。
【0067】
本発明において使用される充填材としては、特に制限されるものではなく、通常、公知の無機または有機の充填材、もしくは、有機−無機複合の充填材が使用されるが、本発明においては無機化合物の充填材、特に以下に説明する無機化合物が好ましいものとして挙げられる。
【0068】
本発明の充填材として使用される無機化合物は、通常、ガラス粉末で、平均粒子径2μm以下、好ましくは0.1〜1.5μmの粉末を使用する。この範囲内の粒径であれば充填材の比表面積が極めて増大することはないため、充填材の重合性化合物に対する相対的な割合を大幅に増大させることにより重合収縮の低減を効果的に図ることができる。このガラス粉末の屈折率は1.55以上であることが好ましく、さらに屈折率が1.57〜1.65の範囲内にあることが特に好ましい。
【0069】
さらに、本発明で使用されるガラス粉末の屈折率と、このガラス粉末が配合される歯科用組成物中の、重合性化合物の硬化物(レジンマトリックス)の屈折率との差が0.05以下であるガラス粉末を使用することが好ましく、さらにこの屈折率の差が0.02以下であるガラス粉末を使用することが特に好ましい。すなわち、本発明で使用されるガラス粉末は、重合性化合物の硬化体と非常に近似した屈折率を有している。このようなガラス粉末を使用することにより、本発明に係る歯科用組成物の硬化体の光透過性が向上する。
【0070】
一般に、臨床治療においては充填物の存在がX線写真で明瞭に確認できることが重要であるため、本発明において使用されるガラス粉末は、X線造影性を有することが好ましい。ガラス粉末にX線造影性を付与するためには、ガラス構成元素として、通常バリウム、ストロンチウム、ジルコニウム、ビスマス、タングステン、ゲルマニウム、モリブデン、ランタニド等のX線造影性を有する元素(重金属元素)が添加される。
【0071】
このようにガラス粉末にX線造影性を付与する目的で重金属元素を添加すると、その添加量が多くなるにつれガラス粉末の屈折率は高くなる傾向にある。従って、本発明の歯科用組成物におけるガラス粉末中の重金属元素は、ガラス粉末にX線造影性を付与する機能を有する一方で、ガラス粉末の屈折率を変化させる影響を有している。
【0072】
前述した(メタ)アクリレートなどの重合性モノマーの硬化物とガラス粉末の屈折率の差が0.05より大きくなると、硬化組成物の透明性は低下し、光硬化性が低下する傾向にある。そのため、光硬化深度の低下や充分に硬化反応が進行しないため硬化物の物性が低下する可能性がある。また、ガラス粉末の屈折率を調整する場合、その屈折率を、硬化前の重合性モノマーの屈折率と該重合性モノマーの硬化物の屈折率の間に調整することが好ましい。これにより、硬化前(組成物)の透明性と硬化前後の組成物(硬化体)の透明性との間に変化が生じないという利点がある。さらにモノマー硬化物の屈折率をガラス粉末の屈折率に合わせると硬化後の組成物の透明性が最高になるという利点もある。これらの屈折率の調整方法は、臨床現場の要求により適宜、使い分けることができる。
【0073】
通常、サブミクロン〜数μm程度の平均粒子径を有するX線造影性ガラス粉末を60重量%程度以上含有する本発明の歯科用組成物は、含有するガラス粉末の屈折率が1.50以上であれば硬化体が透明になるとともに、X線によってその存在が明瞭に確認できるようになる。このとき使用するガラス粉末は、単独のガラス粉末であっても、組成が異なる2種類以上のガラス粉末の混合物であってもよい。複数の異なる組成のガラス粉末を使用する場合には、使用するガラス粉末同士の屈折率をなるべく近似させることによって、本発明の歯科用組成物を硬化させた後の硬化体の透明性を高い状態で確保することができる。
【0074】
このようなガラス粉末は、重合性化合物100重量部に対して、通常は5〜2000重量部、好ましくは、50〜1000重量部、より好ましくは、100〜700重量部を使用される。
【0075】
本発明の歯科用組成物では、充填材として、複合充填材を用いることもできる。
【0076】
本発明において使用される複合充填材は、例えば、重合性化合物と粉末ガラスと過酸化ベンゾイルなどのような熱重合開始剤とを混合して、加熱重合し、次いで、得られた重合物を粉砕することにより製造することができる。
【0077】
このような複合充填材を使用することにより本発明の歯科用組成物は、硬化する際の重合収縮が効果的に低減することができる。また、こうした複合充填材は、光重合よりも重合率を上げることができる条件(例えば加熱重合)で重合性化合物を重合させることにより製造されるため、硬化体の機械的特性が光重合した硬化体よりも高く、従って、こうした複合充填材を配合することにより、本発明に係る歯科用組成物の硬化体の機械物性および耐摩耗性が向上する。さらに、この複合充填材に用いるガラス粉末と複合材を構成する重合性化合物硬化物の屈折率を前述した重合性化合物硬化物およびガラス粉末に一致させることにより高い透明性を得ることが可能となる。この複合充填材は、必要に応じて微粒子シリカ、金属酸化物などの粉末ガラス以外の充填材や顔料などを添加して製造しても良い。この複合充填材の平均粒径は、特に限定するものではないが、通常、1〜100μm、好ましくは5〜20μmである。
【0078】
このような複合充填材の使用量は、重合性化合物100重量部に対して、通常、5〜2000重量部であり、好ましくは、50〜700重量部である。
【0079】
また、本発明において、充填材としては、上述のガラス粉末の他に微粒子シリカを使用することもできる。
【0080】
かかる微粒子シリカは、通常、気相法によって製造される高純度コロイダルシリカでありX線造影性は全く有していない。それにもかかわらずペーストの粘度やべとつきなどを調製する目的で添加されることもある。この微粒子シリカは、例えば気相法によって製造された高純度コロイダルシリカをそのまま使用することもでき、あるいは高純度コロイダルシリカをジメチルジクロルシランのようなシラン化合物で処理することにより疎水化して使用することもできる。また、メタクリロキシシラン処理やアミノシラン処理などによってレジンマトリックスとの親和性を向上させて使用することが好ましい。また、この微粒子シリカは屈折率が1.45と低く、屈折率が使用する充填材とかけ離れているが、平均粒径が0.05μm以下で、可視光線の波長である0.3〜0.7μmよりかなり小さく、透明性を大きく阻害しない。しかしながら、より小さい微粒子シリカの方が透明性をより高く保てるため、平均粒径0.01μm以下の微粒子シリカを使用することが高い透明性を維持する見地からは好ましい。
【0081】
このような微粒子シリカは、本発明の歯科用組成物中の(メタ)アクリレートモノマー100重量部に対して、通常は5〜250重量部、好ましくは10〜200重量部以下、特に好ましくは、20〜150重量部の範囲内の量で使用される。
【0082】
次に、一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物に以外の他の重合性化合物について詳しく説明する。
【0083】
かかる重合性化合物としては、特に限定されるものではなく、歯科用材料分野で使用されている各種既知の重合性化合物(重合性モノマーまたは重合性オリゴマーなど)が使用される。
【0084】
一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物と組み合わせて用いられる一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物以外の他の重合性化合物としては、公知の各種重合性化合物(例えば、重合性モノマーまたは重合性オリゴマーなど)が挙げられ、重合性、硬化性などを考慮すると、通常、(メタ)アクリレート化合物、または(メタ)アクリルアミド化合物が好ましい。
【0085】
この重合性化合物として、単官能モノマー、重合時に橋架け構造を形成して重合後の物理的物性(例えば、吸水率、曲げ強度、耐摩耗性などの機械的特性など)を向上させるために効果的な多官能モノマー、および、組成物に歯質などへの接着性を付与させることを目的に添加する酸性基含有モノマーなどがある。
【0086】
本発明で使用される重合性化合物としては、特に限定されるものではなく、前述した通り、公知の各種重合性化合物が例示され、具体的には
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル化合物;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−または3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、1,2−または1,3−ジヒドロキシプロピルモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル化合物;
ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート化合物;
エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート等の(ポリ)グリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート;
パーフルオロオクチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステル;
γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリ(トリメチルシロキシ)シラン等の(メタ)アクリロキシアルキル基を有するシラン化合物;
β−メタクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、β−メタクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、β−メタクリロイルオキシエチルマレエート等のカルボン酸含有(メタ)アクリレート化合物;
3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどのハロゲン含有(メタ)アクリレート、ならびに、テトラフルフリル(メタ)アクリレート等の複素環を有する(メタ)アクリレート化合物;
また、多官能モノマーの例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、へキシレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロープロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のアルカンポリオールのポリ(メタ)アクリレート、
ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレート化合物;
【0087】
下記一般式(2)で表わされる脂肪族、脂環族または芳香族の(メタ)アクリレート化合物;
【0088】
【化4】

(2)
(ただし、上記式において、R11は水素原子またはメチル基を示し、mおよびnは0または正の整数を示し、R12は二価の有機連結基である。)
【0089】
下記一般式(3)で表される脂環族または芳香族エポキシジ(メタ)アクリレート;
【0090】
【化5】

(3)
(上記式において、R13は水素原子またはメチル基を示し、nは0または正の数を示し、R14は二価の有機連結基である)
【0091】
さらに、下記一般式(4)で表される分子内にウレタン結合を有する(メタ)アクリレート化合物;
【0092】
【化6】

(4)
(上記式において、R15は水素原子またはメチル基を表し、R16は二価の有機連結基を表す)
【0093】
などの単官能もしくは多官能(メタ)アクリル酸エステル化合物が例示される。
【0094】
上記一般式(2)または(3)における、二価の有機連結基R12またはR14はそれぞれ、−(CH)−、−(CH)−、−(CH)−、
【0095】
【化7】

【0096】
を表す。
【0097】
また前記一般式(4)における、二価の有機連結基R16は、
−(CH)−、−(CH)−、−(CH)−、
【0098】
【化8】

【0099】
を表す。
【0100】
また、本発明で使用される酸性基含有の重合性モノマーの例としては、以下のものが挙げられる。1分子中に少なくとも1個のカルボキシル基を有するモノマーとしては、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸およびテトラカルボン酸またはこれらの誘導体を挙げることができる。例えば(メタ)アクリル酸、マレイン酸、p−ビニル安息香酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸(MAC−10)、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルピロメリット酸、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメリット酸およびその無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸およびその無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸およびその無水物、4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシ]ブチルトリメリット酸およびその無水物、2,3−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレート、N−o−ジ(メタ)アクリロイルオキシチロシン、o−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−o−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル4−アミノサリチル酸、2または3または4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとピロメリット酸二無水物の付加生成物(PMDM)、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと無水マレイン酸または3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)または3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の付加反応物、2−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン、N−フェニルグリシンまたはN−トリルグリシンとグリシジル(メタ)アクリレートとの付加物、4−[(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸、3または4−[N−メチル-N−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸などを挙げることができる。
【0101】
また、1分子中に少なくとも1個のリン酸基を有するモノマーとしては、例えば2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェート、2および3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシドホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルアシドホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルアシドホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルアシドホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルアシドホスフェート、ビス{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}アシドホスフェート、ビス{2または3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル}アシドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルp−メトキシフェニルアシドホスフェートなどを挙げることができる。これらの化合物におけるリン酸基は、チオリン酸基に置き換えることができる。
【0102】
また、1分子中に少なくとも1個のスルホン酸基を有するモノマーとして、例えば2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2または1−スルホ−1または2−プロピル(メタ)アクリレート、1または3−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート、3−ブロモ−2−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシ−1−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、1,1−ジメチル−2−スルホエチル(メタ)アクリルアミドなどを挙げることができる。
【0103】
以上に例示した中で、低毒性で重合が速やかに達成され、加水分解を受けにくく製造も容易である(メタ)アクリル酸エステル類が特に好ましい。単官能の重合性(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチルメタクリレート(屈折率;1.42)、エチルメタアクリレート(屈折率;1.42)のようなアルキルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(屈折率;1.45)のような水酸基含有(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(屈折率;1.44)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(屈折率;1.45)のような分子内にエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリレート等が特に好ましく用いられる。
【0104】
また、多官能性の重合性(メタ)アクリル酸エステルとしては、エチレングリコールジメタクリレート(屈折率;1.45)、トリエチレングリコールジメタクリレート(屈折率;1.46)のような分子内にエチレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレート、または下記一般式(5)、(6)または(7)等で表される化合物等が特に好ましく用いられる。
【0105】
【化9】

(5)
(上記式において、R17は水素原子またはメチル基を表す)
【0106】
【化10】

(6)
(上記式において、R17は水素原子またはメチル基を表し、m+nは平均2.6である)
【0107】
【化11】

(7)
(上記式において、R17は水素原子またはメチル基を表す)
【0108】
また、酸性基含有モノマーとしては、11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物、N−メタクリロイル5−アミノサリチル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェート、2−メチル−2−(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸等が特に好ましく用いられる。
【0109】
このような一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物以外の他の重合性化合物は、本発明の歯科用組成物中の全ての重合性化合物100質量部中、通常、5〜80質量%の範囲で使用され、好ましくは、5〜70質量%、より好ましくは、5〜50質量%部、さらに好ましくは、10〜40質量%の範囲内の量で使用される。
【0110】
また、このような酸性基含有モノマーは、本発明の歯科用材料または歯科用組成物中の重合性化合物100質量部に対して、通常は0.01〜100質量部の範囲で使用され、好ましくは、0.1〜50質量部、より好ましくは、0.5〜20質量部、さらに好ましくは、1〜10質量部の範囲内の量で使用される。
【0111】
本発明の歯科用組成物においては、これらの(メタ)アクリレートモノマーと一般式(1)で表される重合性化合物混合物の硬化体の屈折率と充填材として配合されるガラス粉末の屈折率との差が、0.05以下になるモノマーを選択して使用することが好ましく、さらにこの差が0〜0.02の範囲内になるようにモノマーを選択して使用することが特に好ましい。
【0112】
通常、(メタ)アクリレートモノマーは重合することによりモノマーの屈折率よりも硬化体の屈折率が0.02〜0.03程度高くなる。さらに、(メタ)アクリレートモノマーの屈折率は、通常は、水酸基やカルボン酸基のような極性基、芳香族環、あるいはハロゲン原子などの重元素を含有させることによってこうした基あるいは元素を有しないモノマーの屈折率よりも高くなる傾向があり、基または重元素を含有するモノマーの屈折率は、通常は1.48〜1.54の範囲内になる。これに対して、アルキル基のみを骨格として持つモノマーやフッ素化アルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーの屈折率は、これらの基を有していないモノマーの屈折率よりも低くなる傾向があり、こうした(メタ)アクリル系モノマーの屈折率は、通常は1.40〜1.48の範囲内になる。
【0113】
本発明の歯科用組成物中において、重合性化合物の含有率は、5〜50重量%の範囲内にあることが好ましく、さらに10〜30重量%の範囲内にあることが特に好ましい。
【0114】
本発明の歯科用組成物は、一般式(1)で表される重合性化合物および重合開始剤を少なくとも含有し、必要に応じ充填材を含有しているが、所望の効果を損なわない限りにおいて、その他に顔料、染料、安定剤、ポリマー粉末、紫外線吸収剤などが必要に応じ配合されていてもよい。
【0115】
本発明の組成物の製造方法として、具体的には、一般式(1)で表される重合性化合物(A)のほか、重合開始剤(B)、充填材(C)、さらに所望する場合には(A)以外の重合性化合物(D)を溶解・混合させて重合反応を行わせる。該重合性組成物は、不溶物または異物が混入しないようにする必要があり、その場合重合前にろ過などにより除去してもよい。さらに好ましくは該組成物を減圧下で充分に脱泡して重合、硬化を行わせると硬化物中への気泡などの混入が防止できる。
【0116】
本発明の歯科用組成物は、従来の光重合性材料と同様に、紫外線または可視光線などの活性光線の照射により重合反応を達成することができる。このための光源として、蛍光灯、各種水銀灯、キセノンランプ、タングステンランプ、ハロゲンランプまたは太陽光などを使用することができる。また光照射時間は、1秒〜5分である。光重合の際の好適温度は通常0〜100℃、好ましくは5〜60℃の範囲にある。重合硬化は、歯科治療の都合および患者の負担など使用状況の特殊性を考慮して常温でなるべく短時間で完了するのが好ましく、特に1〜30分間で終了させるように組成を調整してもよい。
【0117】
本発明の歯科用組成物は、機械的強度、耐磨耗性、耐水性、硬化性などの歯科用の材料あるいは組成物に求められる要件を充足するとともに、両立しにくい特性である透明性とX線造影性にもバランス良く優れているが、組成物の硬化物としての光線透過率(透明性)が1%以上である組成物が好ましく、5%以上がより好ましい。また組成物のX線造影性については、100〜1000(%アルミニウム)である組成物が好ましく、200〜800(%アルミニウム)がより好ましい。また、本発明は上述の特性と併せて、重合収縮の少ない特性も有している。このため欠損部の修復および穿設した穿孔内に充填して使用することができるほか、前歯などの歯質の接合あるいは接着、仮歯の製造、ブリッジのポンティック、前装冠など幅広く使用することができる。
【0118】
またさらに、本発明の歯科用材料は、一般式(1)で表される重合性化合物(A)そのものを、単独であるいは、種類の異なる複数の重合性化合物とともに使用することもできる。この場合、該重合性化合物は常温で液体であることが好ましく、さらに常温でのその粘度が、100〜1,000,000cps、好ましくは1,000〜100,000cpsであることが望ましい。かかる単量体はレジン接着材を適用する際の下処理用として使用するプライマーなどに利用される。これらには殺菌剤、消毒剤、安定化剤、保存剤などの添加剤を本発明の効果を損なわない量であれば必要に応じて含めても良い。
【0119】
また上記重合性化合物とともに、硬化させるために重合開始剤を伴うものも本発明に含まれ、このような歯科用の材料は、例えばボンディング剤、レジン系接着剤、仮着材として利用できる。重合開始剤は、上記硬化性組成物の場合と同様の物質を使用でき、100重量部に対して、特に限定するものではないが、通常、0.001〜10重量%の範囲内であり、好ましくは0.001〜5重量%の範囲で使用される。
【0120】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本発明の歯科材料、歯科用組成物を製造する際に使用する重合性化合物、充填剤は以下の通りである。
【0121】
〔重合性化合物〕
・本発明に係る式(1−1)で表されるアクリル酸エステル化合物を主成分とするモノマー(新中村化学株式会社製、A−BPFL)
【0122】
【化12】

(1−2)
【0123】
・ Bis−MPEPP: 2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン
・ TEGDMA: トリエチレングリコールジメタクリレート
・ Bis−GMA: 2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン
・ UDMA: 1,6−ビス(メタクリロイルオキシエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2,4−(または−2,4,4−)トリメチルヘキサン
【0124】
〔充填剤〕
下記の方法により、充填材として使用するガラス粉末を調製した。
・Aガラス: 二酸化珪素40重量%、酸化バリウム40重量%、酸化硼素10重量%、酸化アルミニウム10重量%を含有するガラス(屈折率1.60、平均粒径1μm)を常法により、1重量%の〔3−(メタクリロイルオキシ)プロピル〕トリメトキシシランで処理したもの。
・Bガラス: 二酸化珪素50重量%、酸化バリウム30重量%、酸化硼素10重量%、酸化アルミニウム10重量%を含有するガラス(屈折率1.55、平均粒径1μm)を常法により、3重量%の〔3−(メタクリロイルオキシ)プロピル〕トリメトキシシランで処理したもの。
・微粒子シリカ(R−812)
平均粒子径0.007μmのコロイダルシリカをジメチルジクロルシラン処理して、疎水化して得られた[粒径0.01μm以上の粒子の割合が約10%:日本アエロジル(株)製]。
【0125】
[コンポジットレジンの物性評価方法]
・硬化方法
各実施例および比較例で調製した歯科用組成物(コンポジットレジン)は、所定の形状のモールドに填入した上で、可視光線照射器(クラレ社製、LIGHTEL)を用いて、60秒間可視光線を照射して硬化させた。
・屈折率
アッベ屈折計[アタゴ(株)製:型式1T]を用いて、20℃における屈折率を測定した。
【0126】
・光線透過率(透明性)
横10mm×縦25mmの長方形の穴があいた厚さ1mmのテフロン(登録商標)製モールドにコンポジットレジンを充填し、両面をポリエステルフィルムおよびガラス板で挟み可視光線照射器(クラレ社製、LIGHTEL)を用いて一ヶ所につき60秒間可視光線を照射して硬化させた。可視光の照射方法に関しては、ISO4049(2000)の7.12.3.3に記述の方法などと同様にして、サンプル全体に均等、かつ、充分に光が照射できるようにした。重合、硬化したサンプルについて紫外可視分光光度計[島津製作所(株)製UV−160A]を用いて、480nmでの光線透過率を測定した。
【0127】
・曲げ強さおよびX線造影性
ISO−4049(2000)の7.11(曲げ強さ)および7.14(X線造影性)に準じて試験を行った。
【0128】
曲げ強さは、島津製作所(株)製オートグラフ AGS−2000Gを用いて、クロスヘッドスピード1mm/min.で測定した。また、X線造影性は朝日レントゲン工業(株)製 X線制御装置DCX−100を用いて行った。
【0129】
<コンポジットレジン調製と物性評価>
【実施例1】
【0130】
式(1−2)で表されるメタアクリル酸エステル化合物 70質量部およびBis−MPEPP 30質量部の混合物に、カンファーキノン 0.5質量部とN,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル 0.5質量部を添加して溶解させた。このモノマーに前記Aガラス粉末 400質量部および微粒子シリカ(R−812)20質量部を混合して、均一なペーストとして歯科用組成物を得た。
【0131】
この歯科用組成物の硬化体の屈折率は1.60であり、本硬化体の曲げ強さは実用上十分であり、硬化体の重合収縮は小さかった。該硬化体の光線透過率ならびにX線造影性を第1表に示す。
【実施例2】
【0132】
式(1−2)で表されるメタアクリル酸エステル化合物 85質量部およびTEGDMA 15質量部の混合物に、カンファーキノン 0.5質量部とN,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル 0.5質量部を添加して溶解させた。このモノマーに前記ガラス粉末A 400質量部および微粒子シリカ(R−812)20質量部を混合して、均一なペーストとして歯科用組成物を得た。
【0133】
この歯科用組成物の硬化体の屈折率は1.60であり、本硬化体の曲げ強さは実用上十分であり、硬化体の重合収縮は小さかった。該硬化体の光線透過率ならびにX線造影性を第1表に示す。
【0134】
[比較例1]
Bis−GMA 70質量部およびTEGDMA30質量部を混合したモノマー混合物(屈折率1.52)にカンファーキノン 0.5質量部とN,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル 0.5質量部とを溶解した。このモノマーにAガラス 400質量部およびR−812 25質量部を混合して均一なペーストとして歯科用組成物を得た。
【0135】
この歯科用組成物の硬化体の屈折率は1.54であった。該硬化体の光線透過率ならびにX線造影性を第1表に示す。
【0136】
[比較例2]
Bis−GMA 70質量部およびTEGDMA 30質量部を混合したモノマー混合物(屈折率1.52)にカンファーキノン 0.5重量部とN,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル 0.5質量部とを溶解した。このモノマーにBガラス 350質量部およびR−812 20質量部を混合して均一なペーストとして歯科用組成物を得た。
【0137】
この歯科用組成物の硬化体の屈折率は1.55であった。該硬化体の光線透過率ならびにX線造影性を第1表に示す。
【0138】
[表1: コンポジットレジンの光線透過率、X線造影性]
【0139】
【表6】

【0140】
表1からわかるように、実施例1または実施例2に示された本発明のコンポジットレジンは、透明性を表す光線透過率およびX線造影性については優れた結果を示しており、バランス良く両特性を両立させている。一方、比較例1のコンポジットレジンは、X線造影性は実施例に比べて遜色がないものの、光線透過率が非常に低い値を示した。また比較例2においては、光線透過率は良好な値を示すがX線造影性に関しては実施例および他の比較例に比べて劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明の一般式(1)で表される化合物を含有する歯科用材料および歯科用組成物は、硬化性に優れ、歯科用材料に求められる諸物性(例えば、曲げ強度など)を満たしながら、透明性およびX線造影性を兼ね備えており、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物または/および該化合物を構成成分として含有する重合体を含む歯科用材料。
【化1】

(1)
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、X1およびX2はそれぞれ独立にヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキレン基を表し、mおよびnはそれぞれ独立に0〜4の整数を表す)
【請求項2】
(A)重合性化合物および(B)重合開始剤を含有する歯科用組成物であって、該重合性化合物が請求項1記載の一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする歯科用組成物。
【請求項3】
請求項2記載の歯科用組成物に、さらに(C)充填材を含有することを特徴とする請求項2記載の歯科用組成物。
【請求項4】
請求項2記載の歯科用組成物に、さらに一般式(1)で表される化合物以外の他の重合性化合物を含有することを特徴とする請求項2記載の歯科用組成物。
【請求項5】
重合後の硬化物の屈折率が1.55以上である、請求項2ないし請求項4のいずれかに記載の歯科用組成物。