説明

歯科用樹脂材料および歯科用成型体

【課題】本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、歯科用成型体として義歯床、義歯保持材などを口腔内に装用した際、装着感が良好であり、長期にわたる使用に対しても靭性を保持し、成型性に優れた歯科用樹脂材料を提供することを目的とする。
【解決手段】ガラス転移温度〔Tg〕が10℃以下のエラストマー性高分子を含むことを特徴とする歯科用樹脂材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用樹脂材料および歯科用成型体に関する。さらに詳しくは、本発明は、エラストマー性高分子で靭性を付与された歯科用樹脂材料および該歯科用樹脂材料を成型してなる歯科用成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科分野では、義歯床、義歯保持材などを製造するための材料としてポリメチルメタクリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂、エチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物などの歯科用高分子が提案され、一部が使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、歯科用高分子として、エチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物が適度な強度を有し、安全性が高い歯科用補綴物として提案されている。
また、特許文献2には義歯床として用いる場合に成型性が優れているため、ポリカーボネート樹脂が好適であることが開示されている。
【0004】
同じく、特許文献3においては、特定のシクロオレフィンポリマーが、装用感に優れることから、マウスピースや義歯保持材および義歯床などの歯科用樹脂材料として好適であることが陳述されている。
【0005】
さらに、シクロオレフィンポリマーは、低免疫原性、低細胞毒性など生体適合性に優れ、かつ成型性が良好なことから、歯科用樹脂材料として従来から好適に使用されてきた。
しかしながら、例示した樹脂などを歯科用途に使用する場合、吻合時圧力などに対する充分な強度が必要とされ、特に、義歯、義歯床、義歯保持材、クラウン、歯科用矯正具、マウスピース、クラスプなどに用いる場合は、使用中の衝撃に耐える必要があるが、これら樹脂は必ずしもその耐性が充分であると言えるものではなかった。
【0006】
他方、特許文献4には、歯科用高分子材料として、丸みのある形状に形成されたポリカーボネート樹脂が開示されている。
ポリカーボネート樹脂は、機械的強度,耐熱性等が優れており、歯科材料(義歯、義歯保持材、クラウン、歯科用矯正具、マウスピースおよびクラスプ等)として必要な色に着色が可能であるとの特徴がある。
【0007】
しかしながら、ポリカーボネート樹脂は比較的硬度が高く、その歯科樹脂成型体は装用に際し、口内歯肉組織などとの適合性に劣り、長期装用に際し患者に不快感を生ずる症例が多く、極度の場合は装用を中止する事態を生ずるなど、患者に不利益を与えてきたのが現状であった。
【0008】
また、装用により、繰返し圧力が樹脂成型体にかかり、当初は緩みとして覚知されるが、長期に渡る装用により、樹脂成型体の欠損、回復不可能な撓み、変形を生じ、患者の装用不快感を高めるとともに、装用中止の大きな原因となっていた。
【0009】
ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート樹脂なども同様な問題を抱えている。
また、樹脂成型体の撓み、変形に対しては、その撓み、変形が小さな場合、通常歯科技工士による矯正処置が取られる。
【0010】
その矯正処置の多くは歯科用冶具により機械的に撓み、変形を元に戻す修正方法が採用
されている。
しかしながら、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアセタール、シクロオレフィン樹脂などの従来の樹脂は、本来的に靭性に乏しく、機械的修正に対しての許容幅が小さく、ときには成型体を欠損させ、あるいは回復不可能な変形を生ずることで、治療上の障害になっていたばかりか、患者にとり大きな不利益を生じさせる原因となっていた。
【特許文献1】特開2008−74842号公報
【特許文献2】特開平7−88120号公報
【特許文献3】特開2007−261970号公報
【特許文献4】特開平7−88120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、歯科用成型体として義歯床、義歯保持材などを口腔内に装用した際、装着感が良好であり、長期にわたる使用に対しても靭性を保持し、成型性に優れた歯科用樹脂材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、歯科用樹脂材料に特定のエラストマー性高分子を配合することによって、歯科用樹脂材料を成型してなる歯科用樹脂成形体の靭性が優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の歯科用樹脂材料は、ガラス転移温度〔Tg〕が10℃以下のエラストマー性高分子を含むことを特徴とし、さらに、ガラス転移温度〔Tg〕が80℃以上の非結晶性樹脂および/または結晶融点温度〔MP〕が100℃以上の結晶性樹脂を含むことが好ましい。
【0014】
樹脂成分と上記エラストマー性高分子との合計重量を100重量%とするとき、該エラストマー性高分子の含有量は、4〜50重量%であることが好ましい。
本発明の歯科用樹脂材料は、さらにフィラーを含有し、該材料中のフィラーの含有量は、3〜30重量%であることが好ましい。
【0015】
本発明の歯科用樹脂材料の、射出成型により作製した長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの試験片を用いて、JIS K7171に準拠して測定した曲げ弾性率は、1,600〜3,200MPaであることが好ましく、射出成型により作製した長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの試験片に、2mmのノッチを入れ、JIS K7110に記載のアイゾッド衝撃強さの試験方法に従い測定した耐衝撃強度は、40〜800J/mであることが好ましい。
【0016】
また、本発明の歯科用成型体は、本発明の歯科用樹脂材料を成型してなることを特徴とし、義歯、義歯保持材、義歯床、クラウン、歯科用矯正具、マウスピースまたはクラスプであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の歯科用樹脂材料は、成型性に優れ、適度な曲げ弾性率を有し、靭性に優れるため、歯科用成形体に成型した際、口腔内組織との優れた親和性を示し、装用感が良好であり、しかも長期装用に対する優れた耐久性を有し、従来のポリメチルメクリレート、ポリカーボネート、ポリアセタール樹脂、シクロオレフィン樹脂、エチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物などの欠点を解決できる。
【0018】
特に、本発明の樹脂材料の高靭性に基づく良好な耐久性が得られるため、義歯、義歯保持材、義歯床、クラウン、歯科用矯正具、マウスピース、クラスプなどの歯科用成型体を製造するのに好適である。
【0019】
なお、本発明において「靭性に優れる」とは、衝撃試験(例えば、アイゾット衝撃試験、シャルピー衝撃試験など)による耐衝撃強度が高く、かつ曲げ荷重を加えた際、適度にたわむことを言い、耐衝撃強度と曲げ弾性率とのバランス性に富むとも換言できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<歯科用樹脂材料>
まず、本発明のエラストマー性高分子で靭性を付与された歯科用樹脂材料の構成について説明する。
【0021】
本発明の歯科用樹脂材料は、ガラス転移温度〔Tg〕が10℃以下のエラストマー性高分子を含むことを特徴とするものである。好ましくは、歯科用樹脂材料は、基材となる樹脂成分に該エラストマー性高分子(以下「エラストマー成分」ともいう。)を混合させることで得ることができる樹脂組成物であり、より好ましくはさらにフィラーを含有することができる。
【0022】
樹脂成分として、ガラス転移温度〔Tg〕が80℃以上の非結晶性樹脂および/または結晶融点温度〔MP〕が100℃以上の結晶性樹脂を含むことが好ましい。
(エラストマー成分)
エラストマー成分としてのエラストマー性高分子は、ガラス転移点温度〔Tg〕が10℃以下、好ましくは0℃以下、より好ましくは−10℃以下の高分子を用いることができる。エラストマー性高分子のTgが10℃を超えると、樹脂成分に対する充分な靭性を付与することができないおそれがある。
【0023】
次にそれらを例示する。
ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリブタジエンイソプレン、ポリスチレンブタジエン、ポリスチレンイソプレン、ポリアクリロニトリルブタジエン、水素添加ポリアクリロニトリルブタジエン、ポリジメチルシロキサン、スチレン-ブタジエンブロックコポリマ
ー、スチレン−イソプレンブロックコポリマー、水素添加スチレン−ブタジエンブロックコポリマー、水素添加スチレン-イソプレンブロックコポリマー、アクリルエラストマー
、エチレンプロピレンエラストマー、ウレタンエラストマーなどが挙げられる。これらのうち、靭性を付与する効果が高いことから、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリブタジエンイソプレン、ポリスチレンブタジエン、ポリスチレンイソプレン、ポリアクリロニトリルブタジエン、スチレン−ブタジエンブロックコポリマー、スチレン−イソプレンブロックコポリマー、水素添加スチレン−ブタジエンブロックコポリマー、水素添加スチレン−イソプレンブロックコポリマーおよびアクリルエラストマーが好ましい。
【0024】
これらエラストマー性高分子は、それぞれ1種単独でも、また目的に応じ特性をコントロールするため適宜2種以上ブレンドしてもよい。
樹脂成分中、エラストマー成分の含有量は、好ましくは4〜50重量%、より好ましくは6〜30重量%、さらに好ましくは10〜20重量%であり、曲げ弾性率として好ましくは10〜20,000MPaの範囲で調節され、より好ましくは100〜10,000MPa、特に好ましくは200〜7,000MPaの範囲が好適である。
【0025】
エラストマー成分の含有量が、4重量%未満の場合は目的とする靭性付与の効果が充分に得られない場合がある。また、50重量%を超える場合は、樹脂が柔軟になり過ぎて十分な強度が得られない場合がある。
【0026】
靭性を付与された樹脂(樹脂成分)の、JIS K7113に準拠して測定した最大伸びは好ましくは5〜300%であり、より好ましくは8〜200%である。樹脂成分の最大伸びが上記範囲内であると、クラスプ付き義歯の取り外しをスムーズに実施できるため好適である。
【0027】
(樹脂成分)
本発明において用いられる樹脂成分を例示する。
このような樹脂成分としては、非結晶性樹脂の場合は、ガラス転移点温度〔Tg〕が好ましくは80℃以上、より好ましくは90〜330℃、特に好ましくは95〜300℃の高分子、結晶性樹脂の場合は、結晶融点温度〔MP〕が好ましくは100℃以上、より好ましくは110〜340℃、特に好ましくは120〜320℃の高分子を挙げることができる。
【0028】
本発明において「非結晶性樹脂」とは、明確な融点を示さない樹脂のことをいう。
また、本発明において「結晶性樹脂」とは、分子配列が高い秩序を有し、明瞭な結晶性、X線回折が認められる高分子物質のことである。
【0029】
それらを例示すれば次の通りである。
非結晶性樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン、スチレンジビニルベンゼンコポリマー、ポリアクリロニトリルスチレンコポリマー、ポリメチルメタクリレートスチレンコポリマー、ポリメチルメタクリレートアクリロニトリルスチレンコポリマー、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリ酢酸ビニル、ポリブチラール、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリカプロラクトン、ポリ塩化ビニルなどが挙げられる。
【0030】
結晶性樹脂としては、例えば、ポリブタジエンレジン、ポリアクリロニトリル、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリプロピレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46などが挙げられる。
【0031】
これら樹脂は、それぞれ1種単独でも、また目的に応じ特性をコントロールするため適宜2種以上ブレンドしてもよい。
これら樹脂のうち、装用時の審美的なの観点(目立ちづらい)から、シクロオレフィンポリマー(以下「シクロオレフィン系(共)重合体」ともいう。)が好ましく、ノルボルネン系化合物を少なくとも1種含む単量体または単量体組成物を(共)重合し、必要に応じて、さらに水素添加して得られた樹脂がより好ましい。
【0032】
例えば、シクロオレフィン系(共)重合体は、下記式(1)で表される構造単位:0〜99重量%と下記式(2)で表される構造単位:1〜100重量%とを含有するものであって、下記式(3)または下記式(4)で表されるノルボルネン誘導体化合物をメタセシス開環(共)重合させ、主鎖に生成する炭素−炭素二重結合を水素添加することによって得ることができる。
【0033】
なお、下記式(1)および下記式(2)で表される構造単位は、それぞれ下記式(3)および下記式(4)で表されるノルボルネン誘導体化合物から導かれたものである。
【0034】
【化1】

【0035】
(式中、R1は、水素原子または炭素原子数1〜10の1価の炭化水素基を表し、R2は、水素原子と炭素原子とを含まない原子群から選ばれる1種以上の原子を含む1価の極性基を表し、mは、0、1または2を表し、nは、0または1を表す。)
【0036】
【化2】

【0037】
(式中、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1〜10の1価の炭化水素基を表し、pは、0、1または2を表し、qは、0または1を表す。)
【0038】
【化3】

【0039】
(式中、R1、R2、mおよびnは、上記式(1)に定義されたR1、R2、mおよびnと同様である。)
【0040】
【化4】

【0041】
(式中、R3、R4、pおよびqは、上記式(2)に定義されたR3、R4、pおよびqと同
様である。)
上記式(1)または(3)中、R1は、水素原子または炭素原子数1〜10、好ましく
は1〜4、より好ましくは1〜2の炭化水素基を表すのが望ましい。該炭化水素基はアルキル基であることが好ましく、炭素原子数1〜4のアルキル基、より好ましくは炭素原子数1〜2、特に好ましくはメチル基であることが望ましい。
【0042】
上記R2は、水素原子と炭素原子とを含まない原子群から選ばれる1種以上の原子を含
む1価の極性基を表し、該極性基としては、カルボキシル基、水酸基、アルコキシカルボニル基、アリロキシカルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基などが挙げられる。これらの極性基は、メチレン基などの極性を有さない連結基を介して結合していてもよいし、カルボニル基、エーテル基、シリルエーテル基、チオエーテル基、イミノ基などの極性を有する2価の有機基を介して結合していてもよい。これらの極性基のうち、カルボキシル基、水酸基、アルコキシカルボニル基およびアリロキシカルボニル基が好ましく、特にアルコキシカルボニル基およびアリロキシカルボニル基が好ましい。
【0043】
また、上記極性基が、式:−(CH2xCOORで表される場合、得られるシクロオレフィン系(共)重合体が、他材料と良好な接着性を示すようになるため好ましい。
上記式:−(CH2xCOORにおいて、Rは、炭素原子数1〜12、好ましくは炭素原子数1〜4、より好ましくは炭素原子数1〜2の炭化水素基、好ましくはアルキル基であることが望ましい。xは、通常0〜5を表すが、好ましくは0〜3を表す。xの値が小さいものほど、シクロオレフィン系(共)重合体が熱による変形を受けにくくなるので好ましく、さらにxが0を表す場合は、その合成も容易である点で好ましい。
【0044】
上記式(1)または(3)中、好ましくはmが1のとき、nは0を表すことが望ましい。m=1、n=0である場合、シクロオレフィン系(共)重合体が充分な耐熱性と強靭性を併せ持つようになるため好ましい。
【0045】
上記式(2)または(4)中、R3およびR4は、水素原子を表すことが好ましい。
上記式(2)または(4)中、好ましくはpが0のとき、qは0を表すことが望ましい。p=q=0である場合、シクロオレフィン系(共)重合体が高い靭性を有するようになるため好ましい。
【0046】
上記式(3)で表されるノルボルネン誘導体化合物としては、具体的には以下の化合物が例示でいるが、これらに限定されるものではない。
5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン
、8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン

8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ド
デセン、
8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ド
デセン、
8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデ
セン、
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−
3−ドデセン、
8−メチル−8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−
3−ドデセン、
8−メチル−8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10
]−3−ドデセンなどが挙げられる。
【0047】
上記式(4)で表されるノルボルネン誘導体化合物としては、具体的には以下の化合物が例示でいるが、これらに限定されるものではない。
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
トリシクロ[4.3.0.12,5]−8−デセン、
トリシクロ[4.4.0.12,5]−3−ウンデセン、
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]−4−ペンタデセン、
5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−エチリデンビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
5−フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−フェニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンなどが挙げ
られる。
【0048】
シクロオレフィン系(共)重合体は、上記式(1)で表される構造単位を好ましくは0〜99重量%、より好ましくは0〜92重量%、さらに好ましくは1〜92重量%、および上記式(2)で表される構造単位を好ましくは100〜1重量%、より好ましくは100〜10重量%含有する。
【0049】
なお、上記式(1)で表される構造単位と上記式(2)で表される構造単位との合計は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上である。
【0050】
上記式(3)で表されるノルボルネン誘導体化合物は、好ましくは0〜99重量%、より好ましくは0〜90重量%、さらに好ましくは1〜70重量%、および上記式(4)で表されるノルボルネン誘導体化合物は、好ましくは100〜1重量%、より好ましくは100〜10重量%の割合で、メタセシス開環(共)重合触媒に接触させ、シクロオレフィン系開環(共)重合体に導かれることが望ましい。上記式(4)で表されるノルボルネン誘導体化合物を用いることによって、歯科用成型体の靭性が向上し、吸水率を低減することができる。
【0051】
(樹脂成分の混合・分散の態様)
混合態様は、樹脂成分をあらかじめ調製し、その後エラストマー成分を機械的に混練混合する方法;樹脂成分とエラストマー成分とを溶剤に可溶後混合し、脱溶剤工程経てエラストマー成分を含んだ樹脂を得る方法などを挙げることができる。
【0052】
さらに、異なる実施態様として、樹脂成分中にエラストマー成分を微分散させる方法を採ることができる。
微分散させる方法として、具体的に、乳化重合法によりモノマーと必要に応じ架橋剤成分とを重合し、エラストマー微粒子懸濁液を調製し、次いでこの微粒子懸濁液に樹脂成分となるモノマーと必要に応じ乳化剤とをともに仕込み重合を行い、その後硫酸および/または塩化ナトリウムなどによる酸塩凝固によりポリマー分を析出させ、析出物の洗浄、乾
燥工程を経て、エラストマー微粒子成分が微分散した樹脂を得る方法などが例示できる。
【0053】
また、別の態様として、乳化重合によりエラストマー微粒子懸濁液を得、別途乳化重合により得られた樹脂懸濁液に混合し、酸塩凝固の後、洗浄、乾燥工程を経て、エラストマー成分を微分散した樹脂を調製する方法;一旦エラストマー成分が微分散した樹脂を調製後、再度混練する方法;適宜溶剤を使用して溶液とした状態で新たな樹脂に添加し、希釈し調製する方法も採ることができる。
【0054】
一般的には、エラストマー成分が樹脂成分に均一に溶解分散している樹脂よりも、樹脂成分中にエラストマー微粒子成分が溶解することなく微分散する方が、より優れた靭性を得ることができる。
【0055】
ただし、本発明は上記方法に限定されることはなく、歯科用途に合わせて、エラストマー性高分子を樹脂成分に分散または相溶させる方法の中から適宜選択することができる。
(フィラー)
本発明では、さらに機械的強度を向上させ、曲げ強度、曲げ弾性率、伸び率、耐衝撃性のバランスのとれた歯科用樹脂材料とするために、フィラー、例えば、繊維状強化剤などが添加されていてもよい。フィラーを添加する場合、上記エラストマー性高分子によって靭性を付与された樹脂とフィラーとの重量割合は、70〜97:30〜3となるようにすることが好ましい。
【0056】
フィラーの含有割合が30重量%を超えると、曲げ強度および曲げ弾性率は大きくなるが、吸水性が増加して接着強度が低下する場合があり、3重量%未満では目的とする機械的強度が上記の物性バランスを達成することが困難な場合がある。
【0057】
添加されるフィラーの種類としては、有機系、無機系;繊維状、粒子状などを問わず目的に適したものを用いることができ、例えば、アラミド繊維、ビニロン繊維、アルミナ、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドを例示することができる。
【0058】
無機系のフィラーとしては、マイカ、タルク、ウオラストナイトなどの天然物;カーボンブラックなどの炭素系フィラー;シリカ、ガラス、石英、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、硫酸バリウムなど珪酸、炭酸塩、金属酸化物などを例示することができる。
【0059】
繊維状のフィラーとしては、例えば、シリカ、ガラス、繊維状強化剤などが挙げられる。
粒子状のフィラーとしては、例えば、炭素系フィラー、アルミナなどが挙げられる。
【0060】
これらフィラーは1種単独でも2種以上併用してもよい。
本発明の歯科用樹脂材料は、その目的を損なわない範囲で、歯科用途に適した着色剤、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、フッ素系の汚れ防止剤、抗菌剤、ステアリン酸アミドなどの可塑剤、熱安定剤などを含むことができる。
【0061】
さらに、本発明の歯科用樹脂材料を成型してなる成型体の表面を、美粧の点から、または傷の保護の点から、塗料での着色、保護剤の塗布などを施すことができる。
(歯科用樹脂材料の調製方法)
エラストマー性高分子で靭性を付与された歯科用樹脂材料の調製方法として、その態様を以下に例示する。
【0062】
体積平均粒子径200〜400nmのジエン系エラストマー質重合体(a)5〜80重
量部を含むラテックスの存在下に、メタクリル酸メチル(b1)60〜95重量%、芳香族ビニル化合物(b2)4〜40重量%およびシアン化ビニル化合物(b3)1〜10重量%からなる単量体成分(b)(ただし、(b1)+(b2)+(b3)=100重量%である。)20〜95重量部(ただし、(a)+(b)=100重量部である。)を重合することで、エラストマー性高分子で靭性を付与した共重合樹脂(A1)を得ることができる。
【0063】
または、このようなエラストマー強化共重合樹脂(A1)と上記単量体成分(b)の共重合体(A2)とからなる混合物よりなり、上記ジエン系エラストマー質重合体(a)の含有量が好ましくは5〜40重量%であるエラストマー性高分子で靭性を付与した樹脂を得ることができる。
【0064】
他の一態様を以下に例示する。
エラストマー質重合体(a)5〜80重量部の存在下に、メタクリル酸メチルおよび/または芳香族ビニル化合物からなる単量体(b1)60〜100重量%、およびこれらの化合物と共重合可能な他の単量体(b3)0〜40重量%からなる単量体成分(b)(ただし、(b1)+(b2)+(b3)=100重量%である。)20〜95重量部(ただし、(a)+(b)=100重量部である。)を重合してエラストマー性高分子で靭性を付与した共重合樹脂(A1)、またはこのようなエラストマー強化共重合樹脂(A1)と上記単量体成分(b)の(共)重合体(A2)とからなる混合物を得る。
【0065】
(歯科用樹脂材料の特性)
歯科用樹脂材料の曲げ弾性率は、好ましくは1,600〜3,200MPa、より好ましくは1,800〜3,000MPa、特に好ましくは1,900〜2,800MPaである。
【0066】
なお、歯科用樹脂材料の曲げ弾性率の測定方法は以下のとおりである。
まず、歯科用樹脂材料を射出成型機にて、長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの形状に成型し、試験片とする。
【0067】
次に、(株)島津製作所製のオートグラフAG−50Bを用いて、テストスピード5mm/minの速度で、試験片を用いて、JIS K7171に準拠し曲げ弾性率を測定し、n=5点の平均値から曲げ弾性率(GPa)とする。
【0068】
歯科用樹脂材料の曲げ弾性率が、上記範囲内であると、クラスプ付き義歯の固定が安定化するため好適である。
歯科用樹脂材料の耐衝撃強度は、好ましくは40〜800J/m、より好ましくは60〜700J/m、特に好ましくは70〜600J/mである。
【0069】
なお、歯科用樹脂材料の耐衝撃強度の測定方法は以下のとおりである。
歯科用樹脂材料を射出成型機にて、長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの形状に成型し、2mmのノッチを入れ、試験片を作製する。
【0070】
次いで、JIS K7110に記載のアイゾッド衝撃強さの試験方法に従い、耐衝撃強度(J/m)を測定する。
歯科用樹脂材料の耐衝撃強度が、上記範囲内であると、固い食べ物を食した時にもクラスプ部の欠損を生じないため好適である。
【0071】
また、長期間装用しても、装用感に優れ、かつ撓み、変形を生じない、または生じても軽度とする義歯床を製造するのに適した歯科用樹脂材料の条件としては、例えば、
(1)口内組織と馴染む硬度、伸びを有すること(靭性を付与された樹脂の最大伸びは、好ましくは5〜300%であり、より好ましくは8〜200%)、
(2)エラストマー的な特性を樹脂に与え、靭性を付与すること、
(3)適度な機械的強度(曲げ弾性率が10〜20,000MPa、より好ましくは100〜10,000MPa)を有すること、
(4)一般の歯科用補修材および方法にて修理が可能であり、高い接着力(5.0MPa以上)を有すること等が挙げられる。
【0072】
次に、本発明の歯科用成型体について説明する。
<歯科用成型体>
本発明の歯科用成型体は、上述の本発明の歯科用樹脂材料を成型してなることを特徴とするものであり、成形体の具体例としては、義歯、義歯保持材、義歯床、クラウン、歯科用矯正具、マウスピース、クラスプなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
また、本発明の歯科用成型体を製造する際の方法についても特に限定されるものではないが、一般な射出成型機を用い、上述のエラストマー性高分子で靭性を付与された樹脂をそのガラス転移温度〔Tg〕以上の温度、例えば200〜350℃程度のシリンダー温度にて溶融させ、加温された金型内に射出して成型を行う射出成型法が好ましい。
【0074】
その他の成型方法として、トランスファー成型、押出成型など公知の成型方法を採用することができ、また適切な溶剤に溶解後鋳型に流し込み、溶剤を蒸発除去することで樹脂成型物を得ることができる。
【0075】
義歯、義歯床、矯正用マウスピース、保護用マウスピースなどの作製方法については、一般に公知の方法を採用することができ、義歯床について例示すると以下のようになる。
患者の口腔内の形状をシリコンエラストマーのような硬化性エラストマー状物質で型取りを行う。
【0076】
この型に石膏を流し込み、患者の口腔内の形状を模った印象模型を作製する。
この模型を咬合器にあてはめ、患者から採取した咬み合せ型をもとに義歯を配列し、その後ワックス義歯の作製の工程を経て、義歯床型を作製する。
【0077】
次いでこの鋳型に義歯床用の樹脂を流し込み、義歯床を得る。
マウスピースも同様の方法で得ることができる。
歯科用矯正具、ブリッジ、クラスプなどの部品の成型には、通常溶融法が採用されて製造される。
【0078】
溶融成型法には公知の方法が採られ、上述のように射出成型法、トランスファー成型法、押出成型法などを採用することができ、また少量の場合は手作業による型への流し込み、ショッティングの方法を採用することができる。
【0079】
ブリッジやクラスプのような係留部材を成型する場合、まず金属製の係留部材を有する義歯を患者に装着し、その装着具合を調整後樹脂製の係留部材を作製する方法を例示することができる。
【0080】
ブリッジ、クラスプのような係留部材の形状については、固定する部位に適した形状を選択することができるが、固定の確実さ、口腔内への刺激の軽減、強度の確保の点から、0.1から4mm程度の棒状の形状が好適に適用される、その先端は同様口腔内での固定を確実にする、違和感の低減からテーパー状に加工することが通常採られる。
【0081】
(歯科用成形体の特性)
歯科用成形体としての鈎部(クラスプ)付き人工歯を、患者が終日装用し、通常の食事を伴う日常生活送り評価した場合、鈎部の欠損・緩みが認められないことが好ましい。
【0082】
なお、このような鈎部(クラスプ)付き人工歯は、以下の方法に従い製造されたものとする。
まず、歯科用樹脂材料を溶融ポットに仕込み加熱し、溶融させる。
【0083】
あらかじめ、歯欠損部の口腔型から人工歯を作製しておき、その人工歯を患者の健常な歯に固定できるよう、金属製のワイヤーにて鈎部(クラスプ)を作製する。
この金属製のワイヤーからなる鈎部(クラスプ)を元にして石膏鋳型を作製し、溶融させた樹脂を石膏鋳型に流し込む。冷却後石膏型から樹脂部を取り外し、洗浄を経て、樹脂製の鈎部(クラスプ)が得られる。
【実施例】
【0084】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこの実施例により限定されるものではない。なお、「部」は断りがない限り「重量部」を表す。
実施例・比較例で得られた歯科用樹脂材料について、下記方法に従って各物性値を測定し、歯科用樹脂材料を成型してなる歯科用成形体(鈎部(クラスプ)付き人口歯)の装用の評価を行った。
【0085】
(1)曲げ弾性率
得られた樹脂を射出成型機にて、長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの形状に成型し、試験片とした。
【0086】
(株)島津製作所製のオートグラフAG−50Bを用いて、テストスピード5mm/minの速度で、試験片を用いてJIS K7171に準じて曲げ弾性率を測定し、n=5点の平均値から曲げ弾性率(GPa)とした。
【0087】
(2)耐衝撃強度
得られた樹脂を射出成型機にて、長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの形状に成型し、2mmのノッチを入れ、試験片を作製した。
【0088】
JIS K7110に記載のアイゾッド衝撃強さの試験方法に従い、耐衝撃強度(J/m)を測定した。
(3)鈎部(クラスプ)付き人工歯の装用評価
得られた樹脂を溶融ポットに仕込み加熱し、溶融させた。
【0089】
あらかじめ、歯欠損部の口腔型から人工歯を作製しておき、その人工歯を患者の健常な歯に固定できるよう、金属製のワイヤーにて鈎部(クラスプ)を作製した。
この金属製のワイヤーからなる鈎部(クラスプ)を元にして石膏鋳型を作製し、溶融させた樹脂を石膏鋳型に流し込んだ。冷却後石膏型から樹脂部を取り外し、洗浄を経て、樹脂製の鈎部(クラスプ)が得られ、あらかじめ作製した人工歯に歯科用接着剤で固定した。
【0090】
この樹脂製の鈎部(クラスプ)付き人工歯を患者が装用し、通常の食事を伴う日常生活を終日過ごし、以下の基準により評価した。
○:鈎部の欠損・緩みが認められない。
【0091】
△:鈎部の欠損または緩みが認められる。
×:鈎部の欠損・緩みが認められる。
[実施例1]
シクロポリオレフィン系樹脂「アートンF」(JSR(株)社製)のペレット80重量%と、乳化重合法によるスチレン−ブタジエンランダム共重合体「SBR0202」(JSR(株)社製)(以下「SBR−1」という。)をエラストマー用粉砕機で粉砕したもの20重量%とを混合し、この混合物を押出機「TEM37BS」(東芝機械(株)製)により連続的に溶融混練することにより、ペレット状の歯科用樹脂材料(AX−1)を調製した。
【0092】
なお、上記シクロポリオレフィン系樹脂は、下記式(5)で表される8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン(以下
「DNM」ともいう。)をメタセシス開環重合して得られる開環重合体を、さらに水素添加して得られる水素添加重合体よりなるものであって、そのガラス転移温度〔Tg〕が160℃、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量〔Mn〕が25,000、重量平均分子量〔Mw〕が102,000、温度30℃のクロロホルム中で測定した固有粘度〔ηinh〕が0.49dL/g、温度
260℃におけるメルトフローレートが5.0g/10minのものである。
【0093】
【化5】

【0094】
また、「SBR−1」は、ガラス転移温度〔Tg〕が−30℃であり、結合スチレン量が46重量%であり、ムーニー粘度〔ML1+4,100℃〕が45であった。
得られた歯科用樹脂材料の各物性値および装用評価の結果を表1に示す。
【0095】
[実施例2]
実施例1において、SBR−1の代わりにSBR−2を用いた以外は実施例1と同様にしてペレット状の歯科用樹脂材料(AX−2)を調製した。
【0096】
なお、「SBR−2」は、溶液重合法によるスチレン−ブタジエンランダム共重合体「SL557」(JSR(株)社製)であって、ガラス転移温度〔Tg〕が−49℃であり、結合スチレン量が29重量%、ムーニー粘度〔ML1+4,100℃〕が44であった。
【0097】
得られた歯科用樹脂材料の各物性値および装用評価の結果を表1に示す。
[実施例3]
実施例1において、SBR−1の代わりにSBR−3を用いた以外は実施例1と同様にしてペレット状の歯科用樹脂材料(AX−3)を調製した。
【0098】
なお、「SBR−3」は、乳化重合法によるスチレン−ブタジエンランダム共重合体「SBR1502」(JSR(株)社製)であって、ガラス転移温度〔Tg〕が−51℃であり、結合スチレン量が23.5重量%、ムーニー粘度〔ML1+4,100℃〕が52で
あった。
【0099】
得られた歯科用樹脂材料の各物性値および装用評価の結果を表1に示す。
[実施例4]
実施例1において、SBR−1の代わりにNBR−1を用いた以外は実施例1と同様にしてペレット状の歯科用樹脂材料(AX−4)を調製した。
【0100】
なお、「NBR−1」は、アクリロニトリル−ブタジエンランダム共重合体「NBR250S」(JSR(株)社製)であって、ガラス転移温度〔Tg〕が−42℃であり、結合アクリロニトリル量が20重量%、ムーニー粘度〔ML1+4,100℃〕が63であっ
た。
【0101】
得られた歯科用樹脂材料の各物性値および装用評価の結果を表1に示す。
[実施例5]
実施例1において、SBR−1の代わりにNBR−2を用いた以外は実施例1と同様にしてペレット状の歯科用樹脂材料(AX−5)を調製した。
【0102】
なお、「NBR−2」は、アクリロニトリル−ブタジエンランダム共重合エラストマー「NBR230S」(JSR(株)社製)であって、ガラス転移温度〔Tg〕が−30℃であり、結合アクリロニトリル量が35重量%、ムーニー粘度〔ML1+4,100℃〕が
56であった。
【0103】
得られた歯科用樹脂材料の各物性値および装用評価の結果を表1に示す。
[実施例6]
上記シクロポリオレフィン系樹脂のペレット80重量%と、SBR−1をエラストマー用粉砕機で粉砕したもの20重量%とを混合し、得られた混合物を、該混合物の5倍重量のトルエンに溶解攪拌して両成分の溶液を調製し、この溶液にメタノールを加えることにより凝固した固形分を分離して混合樹脂を得て、さらにこの混合樹脂を押出機「TEM37BS」(東芝機械(株)製)により造粒処理することにより、ペレット状の歯科用樹脂材料(AX−6)を調製した。
【0104】
得られた歯科用樹脂材料の各物性値および装用評価の結果を表1に示す。
[実施例7]
(エラストマー性高分子(A−1)の製造)
攪拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、イオン交換水100部、ロジン酸カリウム2部、tert−ドデシルメルカプタン0.5部、体積平均粒子径300nmのポリブタジエンエラストマーラテックス30部(固形分換算)、スチレン4部、アクリロニトリル1部およびメタクリル酸メチル12部を投入し、攪拌しながら昇温させた。温度が50℃となった時点で、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.2部、硫酸第1鉄0.05部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート・2水和物0.2部およびイオン交換水10部からなる活性剤水溶液と、クメンハイドロパーオキサイド0.2部とを添加し、1時間反応させた。その後、スチレン12部、アクリロニトリル4部、メタクリル酸メチル37部およびクメンハイドロパーオキサイド0.2部を4時間かけて連続的に添加しながら反応を継続した。反応後の単量体の重合転化率は96%であった。
【0105】
その後、反応生成物であるラテックスを90℃まで昇温し、36%塩化カルシウム水溶液で凝固させ、得られたスラリーを95℃まで昇温させて5分間保持した。次いで、これ
を水洗し、その後、脱水した。次いで、75℃で24時間乾燥し、粉末状のエラストマー性高分子(A−1)を得た。このエラストマー性高分子(A−1)について、アセトン可溶分の組成は、スチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル=24.3%/7.7%/68.0%であり、ガラス転移温度〔Tg〕は103℃であった。
【0106】
(非結晶性樹脂(B−1)の製造)
内容積30リットルのリボン翼を備えたジャケット付き重合反応器を2基連結し、窒素置換した後、1基目の重合反応器にスチレン21部、アクリロニトリル7部、メタクリル酸メチル72部およびトルエン20部を連続的に投入した。次いで、分子量調節剤としてtert−ドデシルメルカプタン0.1部をトルエン5部に溶解させた溶液、および重合開始剤として1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)0.1部をト
ルエン5部に溶解させた溶液を連続的に供給した。1基目の重合反応器の温度は110℃に制御し、平均滞留時間を2時間として重合させた。重合転化率は60%であった。
【0107】
その後、得られた重合体溶液から、1基目の重合反応器の外部に設けられたポンプにより、スチレン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、トルエン、分子量調節剤および重合開始剤の合計供給量と同量を連続的に取り出し、2基目の重合反応器に供給した。この2基目の重合反応器における重合温度は130℃、平均滞留時間は2時間として重合させた。重合転化率は80%であった。
【0108】
次いで、2基目の重合反応器から重合体溶液を取り出し、この重合体溶液を直接2軸3段ベント付き押出機に供給し、未反応単量体及び溶媒を除去し、非結晶性樹脂(B−1)を得た。この非結晶性樹脂(B−1)の組成は、スチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル=28%/5%/67%であった。また、この非結晶性樹脂(B−1)のアセトン可溶分の極限粘度〔η〕は0.25dL/gであり、ガラス転移温度〔Tg〕は101℃であった。
【0109】
(歯科用樹脂材料(C−1)の製造)
エラストマー性高分子(A−1)56部と、非結晶性樹脂(B−1)44部とを、ヘンシェルミキサーにより混合した。
【0110】
その後、この混合物を2軸押出機に導入して、温度200〜240℃で溶融混練し、ペレット状の歯科用樹脂材料(C−1)を得た。
得られた歯科用樹脂材料の各物性値および装用評価の結果を表1に示す。
【0111】
[実施例8]
(エラストマー性高分子(A−2)の製造)
撹拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、イオン交換水100部、ロジン酸カリウム1部、tert−ドデシルメルカプタン0.5部、体積平均粒子径310nmのポリブタジエンエラストマーラテックス18部(固形分換算)、スチレン5部およびメタクリル酸メチル15部を投入し、撹拌しながら昇温させた。温度が50℃となった時点で、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.2部、硫酸第1鉄0.01部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート・2水和物0.2部及びイオン交換水10部からなる活性剤水溶液、並びにクメンハイドロパーオキサイド0.2部を添加し、1時間反応させた。その後、スチレン15部、メタクリル酸メチル47部およびクメンハイドロパーオキサイド0.2部を4時間かけて、連続的に添加しながら反応を継続した。反応後の単量体の重合転化率は96%であった。
【0112】
その後、反応生成物であるラテックスを90℃まで昇温し、36%塩化カルシウム水溶液で凝固させ、得られたスラリーを95℃まで昇温させて5分間保持した。次いで、これ
を水洗し、その後、脱水した。次いで、75℃で24時間乾燥し、粉末状のエラストマー性高分子(A−2)を得た。このエラストマー性高分子(A−2)について、アセトン可溶分の組成は、スチレン/メタクリル酸メチル=26.9%/73.1%であり、ガラス転移温度〔Tg〕は104℃であった。
【0113】
(歯科用樹脂材料(C−2)の製造)
実施例7において、(A−1)の代わりに(A−2)を用いた以外は実施例7と同様にしてペレット状の歯科用樹脂材料(C−2)を得た。
【0114】
得られた歯科用樹脂材料の各物性値および装用評価の結果を表1に示す。
[実施例9]
(エラストマー性高分子(A−3)の製造)
攪拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、イオン交換水100部、ロジン酸カリウム2部、tert−ドデシルメルカプタン0.5部、体積平均粒子径280nmのポリブタジエンエラストマーラテックス18部(固形分換算)、スチレン4部、アクリロニトリル2部及びメタクリル酸メチル15部を投入し、攪拌しながら昇温させた。温度が50℃となった時点で、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.2部、硫酸第1鉄0.05部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート・2水和物0.2部及びイオン交換水10部よりなる活性剤水溶液、並びにジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.2部を添加し、1時間反応させた。その後、スチレン8部、アクリロニトリル8部、メタクリル酸メチル45部及びジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.2部を4時間かけて、連続的に添加しながら反応を継続した。反応後の単量体の重合転化率は96%であった。
【0115】
その後、反応生成物であるラテックスを90℃まで昇温し、36%塩化カルシウム水溶液で凝固させ、得られたスラリーを95℃まで昇温させて5分間保持した。次いで、これを水洗し、その後、脱水した。次いで、75℃で24時間乾燥し、粉末状のエラストマー性高分子(A−3)を得た。このエラストマー性高分子(A−3)について、アセトン可溶分の組成は、スチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル=14.0%/11.1%/74.9%であり、ガラス転移温度〔Tg〕は105℃であった。
【0116】
(歯科用樹脂材料(C−3)の製造)
実施例7において、(A−1)の代わりに(A−3)を用いた以外は実施例7と同様にしてペレット状の歯科用樹脂材料(C−3)を得た。
【0117】
得られた歯科用樹脂材料の各物性値および装用評価の結果を表1に示す。
[実施例10]
(エラストマー性高分子(A−4)の製造)
実施例7において、ポリブタジエンエラストマーラテックスの体積平均粒子径を450nmに変更した以外は実施例7と同様にしてエラストマー性高分子(A−4)を製造した。
【0118】
このエラストマー性高分子(A−4)について、アセトン可溶分の組成は、スチレン/メタクリル酸メチル=27.1%/72.9%であり、ガラス転移温度〔Tg〕は105℃であった。
【0119】
(歯科用樹脂材料(C−4)の製造)
実施例7において、(A−1)の代わりに(A−4)を用いた以外は実施例7と同様にしてペレット状の歯科用樹脂材料(C−4)を得た。
【0120】
得られた歯科用樹脂材料の各物性値および装用評価の結果を表1に示す。
[実施例11]
(エラストマー性高分子(A−5)の製造)
実施例7において、ポリブタジエンエラストマーラテックスの体積平均粒子径を80nmに変更した以外は実施例7と同様にしてエラストマー性高分子(A−5)を製造した。
【0121】
このエラストマー性高分子(A−5)について、アセトン可溶分の組成は、スチレン/メタクリル酸メチル=26.7%/73.3%であり、ガラス転移温度〔Tg〕は105℃であった。
【0122】
(歯科用樹脂材料(C−5)の製造)
実施例7において、(A−1)の代わりに(A−5)を用いた以外は実施例7と同様にしてペレット状の歯科用樹脂材料(C−5)を得た。
【0123】
得られた歯科用樹脂材料の各物性値および装用評価の結果を表1に示す。
[比較例1]
上記シクロポリオレフィン系樹脂をもって歯科用樹脂材料(C−6)とした。
【0124】
歯科用樹脂材料の各物性値および装用評価の結果を表1に示す。
[比較例2]
(非結晶性樹脂(B−2)の製造)
実施例7のエラストマー性高分子の製造において、ポリブタジエンエラストマーラテックスを用いなかった以外は実施例7と同様にして重合し、非結晶性樹脂(B−2)を製造した。得られた非結晶性樹脂(B−2)のガラス転移温度〔Tg〕は103℃であった。
【0125】
(歯科用樹脂材料(C−7)の製造)
実施例7において、(A−1)の代わりに(B−2)を用いた以外は実施例7と同様にしてペレット状の歯科用樹脂材料(C−7)を得た。
【0126】
得られた歯科用樹脂材料の各物性値および装用評価の結果を表1に示す。
[比較例3]
(非結晶性樹脂(B−3)の製造)
実施例8において、ポリブタジエンエラストマーラテックスを用いなかった以外は、実施例8と同様にして重合し、非結晶性樹脂(B−3)を製造した。得られた非結晶性樹脂(B−3)のガラス転移温度〔Tg〕は104℃であった。
【0127】
(歯科用樹脂材料(C−8)の製造)
実施例7において、(A−1)の代わりに(B−3)を用いた以外は実施例7と同様にしてペレット状の歯科用樹脂材料(C−8)を得た。
【0128】
得られた歯科用樹脂材料の各物性値および装用評価の結果を表1に示す。
【0129】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の歯科用成型体は、特定のエラストマー性高分子で靭性を付与された樹脂を成型することで得られ、成型性、装用感に優れ、かつ靭性に優れることから、義歯、義歯保持材、クラウン、歯科用矯正具、矯正用マウスピース、保護用マウスピース、クラスプなどに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度〔Tg〕が10℃以下のエラストマー性高分子を含むことを特徴とする歯科用樹脂材料。
【請求項2】
ガラス転移温度〔Tg〕が80℃以上の非結晶性樹脂、および/または結晶融点温度〔MP〕が100℃以上の結晶性樹脂を、さらに含むことを特徴とする請求項1に記載の歯科用樹脂材料。
【請求項3】
樹脂成分と上記エラストマー性高分子との合計重量を100重量%とするとき、該エラストマー性高分子の含有量が、4〜50重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の歯科用樹脂材料。
【請求項4】
さらにフィラーを含有し、歯科用樹脂材料中のフィラーの含有量が、3〜30重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の歯科用樹脂材料。
【請求項5】
射出成型により作製した長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの試験片を用いて、JIS K7171に準拠して測定した曲げ弾性率が、1,600〜3,200MPaであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の歯科用樹脂材料。
【請求項6】
射出成型により作製した長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの試験片に、2mmのノッチを入れ、JIS K7110に記載のアイゾッド衝撃強さの試験方法に従い測定した耐衝撃強度が、40〜800J/mであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の歯科用樹脂材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の歯科用樹脂材料を成型してなることを特徴とする歯科用成型体。
【請求項8】
義歯、義歯保持材、義歯床、クラウン、歯科用矯正具、マウスピースまたはクラスプであることを特徴とする請求項7に記載の歯科用成型体。