説明

歯科用硬化性組成物

【課題】 重合活性に優れるヨードニウム塩系光重合開始剤を用いたカチオン重合・硬化型の歯科用硬化性組成物において、配合される全成分を混合した状態で長期間安定に保存できるようにする。
【解決手段】 カチオン重合性単量体及びヨードニウム塩系の光重合開始剤を含んでなる歯科用硬化性組成物に、さらに安定化剤として、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール等のヒンダードフェノール類、及び2,6−ジメチルピペリジン、N−メチル−2,6−ジメチルピペリジン等のヒンダードアミン類の双方を配合する。上記ヒンダードフェノール類とヒンダードアミン類とは別化合物として配合する必要がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用の硬化性組成物に関する。より詳しくは歯科用充填修復材料として好適に使用される、高温下においてもゲル化せず、長期間安定に保存可能であり、かつ硬化性に優れたカチオン重合性の歯科用硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕や破折等により損傷をうけた歯牙の修復においては、一般にコンポジットレジンと呼ばれる光硬化性の充填修復材料が、その操作の簡便さや審美性の高さから汎用されている。このようなコンポジットレジンは、通常、重合性単量体、フィラー及び重合開始剤からなり、重合性単量体としては、その光重合性の良さから(メタ)アクリレート系のラジカル重合性単量体が用いられている。
【0003】
しかしながら、ラジカル重合性単量体は、酸素による重合阻害を受けるため、口腔内で重合・硬化させた際には、表面に未重合層や重合度の低い層が残存し、この未重合層のために経時的に着色・変色し、充分な審美性を得にくいという問題がある。そのため、ラジカル重合性単量体を用いた従来の歯科用コンポジットレジンは、その良好な審美性を充分に発揮させるためには、口腔内で重合硬化させた後に、表面を充分に研磨しなくてはならない。さらに、(メタ)アクリレート系のラジカル重合性単量体は、その重合収縮が大きいという問題も有している。即ち、修復を要する歯牙の窩洞に対して、コンポジットレジン等の充填修復材料を充填後、重合硬化させる際には、充填された充填修復材の表面から光を照射する必要があるが、重合にともなう収縮により、歯の界面から浮き上がろうとする応力が作用し、このため、歯と充填修復材の間に間隙を生じやすくなる傾向がある。この重合収縮応力に対抗するため極めて強固な接着力を発現する各種歯科用接着剤が提案されているが、歯の状態は個人ごと、あるいは同一人でも各歯ごとに異なるため、このような歯科用接着剤を用いても、必ずしもあらゆる歯に対して完璧な接着を得られていないのが実情である。従って、できるだけ重合収縮が小さく、歯の状態によっては充分な接着力が得られなくても重合収縮による間隙を生じ難い歯科用コンポジットレジンが求められていた。さらには、このような接着剤は、高い接着力を得るために複雑な術式を要し、またコストの増大を招くため、その簡略化も望まれていた。
【0004】
このような酸素による重合阻害がなく、また重合収縮の小さい重合性単量体としては、エポキシドやビニルエーテル等のカチオン重合性単量体がある。しかしながら一般に歯科用として用いられている、α−ジケトン化合物やアシルフォスフィンオキサイド系化合物等の光ラジカル重合開始剤はカチオン重合性単量体を重合させることができないため、光カチオン重合性開始剤が必要となる。
【0005】
このような光カチオン重合開始剤としては、ヨードニウム塩類、或いはスルホニウム塩類等の、光酸発生剤を用いた光重合開始剤が挙げられる。特にヨードニウム塩系の光重合開始剤は、高いカチオン重合開始活性を持っているため、口腔内で迅速に硬化させなければならない歯科用途で有用である。実際にヨードニウム塩系の光重合開始剤をカチオン重合性単量体と組み合わせて歯科用途に応用した報告がある(特許文献1〜3)。
【0006】
しかしながら、ヨードニウム塩系の光重合開始剤を配合したカチオン重合性組成物は、50℃程度の比較的高の条件下で比較的早期に、或いは室温下においても、長期の保存に於いて、ゲル化してしまう問題がある。これは、ヨードニウム塩が、光照射によって分解し酸を発生する以外に、熱的に分解し、同様に酸を発生してしまう事に起因するためであると推測される。歯科用材料においては、歯科医院等へ輸送の際に自家用自動車等で輸送される場合が多いが、夏季には、このような車内の温度が50℃を超えることも珍しくない。また、50℃より低い温度でも長期間の保存では、同様にゲル化が起こることが予想される。
【0007】
したがって、このようなヨードニウム塩系の光重合開始剤を光カチオン重合開始剤として用いる場合には、保存中のヨードニウム塩の分解によるゲル化を防ぐために、カチオン重合性単量体とは別に、ヨードニウム塩系の光重合開始剤、あるいはこれらの溶液を別途保存し、使用前にこれら二つを混合し、光照射を行うことが多い。しかしながら、このような操作は、混合操作により気泡が入りやすく、咬合圧に耐えうる高い強度を必要とする歯科材料においては強度の低下を招く。さらに微小な気泡により生じる隙間から、細菌が浸入繁殖して不衛生となり、二次齲蝕の原因となりうる。
【0008】
一方、カチオン重合性単量体およびヨードニウム塩を含む組成物に対して、フェノール系のラジカル重合禁止剤或いは酸化防止剤を添加することで、ヨードニウム塩の分解が抑制され、ゲル化が防止できることが報告されている(特許文献4)。しかしながら、本発明者による検討では、上記のような比較的高温の条件下において、ゲル化を十分に抑制するに至っていない。一方、同様な組成物に対して、塩基性物質であるヒンダードアミン類を添加することでゲル化を抑制できる事が報告されている(特許文献5〜7)。しかしながらこの場合も同様に上記高温条件ではゲル化を抑制できるには至っていない。
【0009】
【特許文献1】特開平10−508067号公報
【特許文献2】特表2000−520758号公報
【特許文献3】特表2001−520759号公報
【特許文献4】特開2002−69269号公報
【特許文献5】特開2000−516660号公報
【特許文献6】特表2002−500255号公報
【特許文献7】特表2003−292606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、高温下、或いは常温で長期間保存してもゲル化せず、尚且つ高い硬化活性を有する、光カチオン重合性歯科用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は上記課題を克服すべく鋭意検討を重ねたところ、ヨードニウム塩系の光重合開始剤を含む光カチオン硬化性組成物に対して、特定の化合物を添加することで、ゲル化を防止する事ができ、尚且つ、重合硬化させる必要が場合においては、良好に硬化する性質を、該組成物に付与することができるという知見を得るに至った。
【0012】
即ち、本発明は、
・カチオン重合性単量体
・ヨードニウム塩系の光重合開始剤
・ヒンダードフェノール類、及び
・ヒンダードアミン類
を含んでなり、上記の全成分が混合された液体又はペーストの状態で保存されるものであることを特徴とする歯科用硬化性組成物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い光カチオン重合活性を有するヨードニウム塩系光重合開始剤を含むカチオン重合性単量体にたいして、ヒンダードフェノール及びヒンダードアミンを添加することで、保存期間中のゲル化を防ぐことか可能であり、更に重合硬化させる必要が場合においては、硬化不良を起こさず、良好に硬化させることが可能である。従って、口腔内で速やかに硬化させなければならないコンポジットレジンとして好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の歯科用硬化性組成物には、重合性成分としてカチオン重合性単量体が配合される。該カチオン重合性単量体は、ヨードニウム塩の分解によって生じる酸によって重合する化合物であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。
【0015】
代表的なカチオン重合性単量体を例示すれば、ビニルエーテル化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物、環状エーテル化合物、双環状オルトエステル化合物、環状アセタール化合物、双環状アセタール化合物、環状カーボネート化合物が挙げられるが、特に入手が容易でかつ体積収縮が小さく、重合反応がはやい点において、オキセタン化合物及び/又はエポキシ化合物が好適に使用される。
【0016】
当該オキセタン化合物を具体的に例示すれば、トリメチレンオキサイド、3−メチル−3−オキセタニルメタノール、3−エチル−3−オキセタニルメタノール、3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン、3,3−ジエチルオキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシルオキシ)オキセタン等の1つのオキセタン環を有すもの、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチルオキシ)ベンゼン、4,4′−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチルオキシ)ビフェニール、4,4′−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチルオキシメチル)ビフェニール、エチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)ジフェノエート、トリメチロールプロパントリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等、あるいは下記に示す化合物
【0017】
【化1】

【0018】
等のオキセタン環を2つ以上有す化合物が挙げられる。
【0019】
上記オキセタン化合物のなかでも、特に得られる硬化体の物性の点から、1分子中にオキセタン環を2つ以上有するものが好適に使用される。
【0020】
また、エポキシ化合物もカチオン重合可能な化合物であれば特に限定されることはなく公知のものが使用できる。当該エポキシ化合物を具体的に例示すると、1,2−エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、2,3−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシオクタデカン、ブタジエンモノオキサイド、2−メチル−2−ビニルオキシラン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−7−オクテン、1,2−エポキシ−9−デセン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、グリシドール、2−メチルグリシドール、メチルグリジジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、グリシジルプロピルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、シクロオクテンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、シクロオクテンオキサイド、シクロドデカンエポキシド、エキソ−2,3−エポキシノルボルネン、4−ビニル−1−シクロヘキセン−1,2−エポキシド、リモネンオキサイド、スチレンオキサイド、(2,3−エポキシプロピル)ベンゼン、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、グリシジル2−メチルフェニルエーテル、4−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、4−クロロフェニルグリシジルエーテル、グリシジル4−メトキシフェニルエーテル等のエポキシ官能基を一つ有するもの、また、1,3−ブタジエンジオキサイド、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3−プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,5−ペンタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンメタノールジグリシジルエーテル、ジグリシジルグルタレート、ジグリシジルアジペート、ジグリシジルピメレート、ジグリシジルスベレート、ジグリシジルアゼレート、ジグリシジルセバケート、2,2−ビス[4−グリシジルオキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−グリシジルオキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン、4−ビニル−1−シクロヘキセンジエポキシド、リモネンジエポキシド、1,2,5,6−ジエポキシシクロオクタン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシラート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)グルタレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)ピメレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)スベレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)ゼレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)セバケート、1,4−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルオキシメチル)ベンゼン、1,4−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルオキシメチル)ビフェニル、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロパン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)スルホン、メチルビス[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]フェニルシラン、ジメチルビス[(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メチル]シラン、メチル[(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メチル][2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]シラン、1,4−フェニレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、1,2−エチレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]シラン、1,3−ビス[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、2,5−ビシクロ[2.2.1]ヘプチレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、1,6−へキシレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン等のエポキシ官能基を二つ有する化合物、或いはグリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサグリシジルエーテル、更に
【0021】
【化2】

【0022】
等のエポキシ官能基を三つ以上有するものが挙げられる。これらエポキシ化合物は、複数種のものを併用しても良い。
【0023】
上記エポキシ化合物のなかでも、特に得られる硬化体の物性の点から、1分子中にエポキシ官能基を2つ以上有するものが好適に使用される。
【0024】
また、オキセタン化合物及びエポキシ化合物以外のカチオン重合性単量体を具体的に示すと、環状エーテル化合物としては、テトラヒドロフラン、オキセパン等が、双環状オルトエステル化合物としては、ビシクロオルトエステル、スピロオルトエステル、スピロオルトカーボネート等が、環状アセタール化合物としては、1,3,5−トリオキサン、1,3−ジオキソラン、オキセパン、1,3−ジオキセパン、4−メチル−1,3−ジオキセパン、1,3,6−トリオキサシクロオクタン等が、双環状アセタール化合物としては、2,6−ジオキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,7−ジオキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン、6,8−ジオキサビシクロ[3.2.1]オクタン等が、環状カーボネート化合物としては、エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート等が挙げられる
これらのカチオン重合性単量体は単独、または二種類以上を組み合わせて用いることができる。とりわけ、1分子平均a個のオキセタン官能基を有するオキセタン化合物をAモルと、1分子平均b個のエポキシ官能基を有するエポキシ化合物をBモルとを混合し、(a×A):(b×B)が90:10〜45:55の範囲になるように調製したものが、硬化速度が速く、水分による重合阻害を受けにくい点で好適である。
【0025】
本発明の歯科用硬化性組成物は、重合開始剤としてヨードニウム塩系光重合開始剤を用いる。該ヨードニウム塩系光重合開始剤は、光照射によって励起されることにより、ヨードニウム塩が分解され、その結果、重合開始種を生成することのできる開始剤である。光照射によって励起される化合物は、ヨードニウム塩そのものであってもよいが、ヨードニウム塩は通常、近紫外〜可視域には吸収の無い化合物が多く、重合反応を励起するためには、特殊な光源が必要となる場合が多い。そのため、近紫外〜可視域に吸収をもち、光照射によって励起された結果、ヨードニウム塩分解を引き起こす化合物を増感剤として組み合わせた光重合開始剤であることが好ましく、特に歯科用であることを考慮すると、可視域に吸収を持つ化合物を増感剤として組み合わせた可視光重合開始剤であることが好ましい。更に、光照射によるヨードニウム塩の分解の高効率化のために上記増感化合物以外の化合物を組み合わせても良い。このようなヨードニウム塩系光重合開始剤としては、例えば、特開2004−149587号公報や特開2004−196949号公報に開示されているような、増感化合物として、縮合多環式芳香族化合物を用いる光重合開始剤、特表平10−508067号公報に開示されているような、増感化合物としてα−ジカルボニル化合物を用いる光重合開始剤、特開2004−196775号公報に開示ざれているような、酸化型の光ラジカル発生剤と縮合多環式芳香族化合物の双方を併用する光重合開始剤などが挙げられる。さらに、特開平11−199681号公報、特開2000−7716号公報、特開2001−81290号公報、特開平11−322952号公報、特開平11−130945号公報、特表2001−520758号公報等に記載のヨードニウム塩系光重合開始剤を用いることができる。以下、このようなヨードニウム塩系光重合開始剤をより詳細に説明する。
【0026】
本発明の歯科用硬化性組成物に配合されるヨードニウム塩系光重合開始剤の成分であるヨードニウム塩としては、従来公知のものが何ら制限なく利用可能である。具体例を例示すれば、ジフェニルヨードニウム、ビス(p−クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、p−イソプロピルフェニル−p−メチルフェニルヨードニウム、ビス(m−ニトロフェニル)ヨードニウム、p−tert−ブチルフェニルフェニルヨードニウム、p−メトキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p−メトキシフェニル)ヨードニウム、p−オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム、p−フェノキシフェニルフェニルヨードニウム等のカチオンと、クロリド、ブロミド、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート等のアニオンからなるジアリールヨードニウム塩系化合物が挙げられる。
【0027】
これらのなかでも、重合性単量体に対する溶解性の点から、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネートをアニオンとして有する化合物が好適に使用でき、また、アニオンの求核性が低く、重合速度が速い点から、ヘキサフルオロアンチモネート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレートをアニオンとして有する化合物が好適に使用できる。更に、アニオン由来する毒性がより低い事から、テトラキスペンタフルオロフェニルボレートが最も好適に利用できる。
【0028】
これらヨードニウム塩は必要に応じて、1種または2種以上混合して用いても何等差し支えない。これらヨードニウム塩の使用量は、光照射により重合を開始しうる量であれば特に制限されることはないが、適度な重合の進行速度と得られる硬化体の各種物性(例えば、耐候性や硬度)を両立させるために、一般的には上述したカチオン重合性単量体100質量部に対し、0.001〜10質量部を用いればよく、好ましくは0.05〜5質量部を用いるとよい。
【0029】
また、ヨードニウム塩と組み合わせて用いる増感剤としては、例えばアクリジン系色素、ベンゾフラビン系色素、アントラセン、ペリレン等の縮合多環式芳香族化合物、フェノチアジン、ジアリールケトン化合物、α−ジケトン化合物又はクマリン化合物等が挙げられる。これらは単独で用いても、適宜2種又はそれ以上組み合わせて用いてもよい。
【0030】
上記増感剤のなかでも、重合活性が良好な点で、縮合多環式芳香族化合物が好ましく、さらに、少なくとも1つの水素原子を有する飽和炭素原子が縮合多環式芳香族環と結合した構造を持つ縮合多環式芳香族化合物が好適である。
【0031】
このような少なくとも1つの水素原子を有する飽和炭素原子が縮合多環式芳香族環と結合した構造を持つ縮合多環式芳香族化合物を具体的に例示すると、1−メチルナフタレン、1−エチルナフタレン、1,4−ジメチルナフタレン、アセナフテン、1,2,3,4−テトラヒドロフェナントレン、1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン、ベンゾ[f]フタラン、ベンゾ[g]クロマン、ベンゾ[g]イソクロマン、N−メチルベンゾ[f]インドリン、N−メチルベンゾ[f]イソインドリン、フェナレン、4,5−ジメチルフェナントレン、1,8−ジメチルフェナントレン、アセフェナントレン、1−メチルアントラセン、9−メチルアントラセン、9−エチルアントラセン、9−シクロヘキシルアントラセン、9,10−ジメチルアントラセン、9,10−ジエチルアントラセン、9,10−ジシクロヘキシルアントラセン、9−メトキシメチルアントラセン、9−(1−メトキシエチル)アントラセン、9−ヘキシルオキシメチルアントラセン、9,10−ジメトキシメチルアントラセン、9−ジメトキシメチルアントラセン、9−フェニルメチルアントラセン、9−(1−ナフチル)メチルアントラセン、9−ヒドロキシメチルアントラセン、9−(1−ヒドロキシエチル)アントラセン、9,10−ジヒドロキシメチルアントラン、9−アセトキシメチルアントラセン、9−(1−アセトキシエチル)アントラセン、9,10−ジアセトキシメチルアントラセン、9−ベンゾイルオキシメチルアントラセン、9,10−ジベンゾイルオキシメチルアントラセン、9−エチルチオメチルアントラセン、9−(1−エチルチオエチル)アントラセン、9,10−ビス(エチルチオメチル)アントラセン、9−メルカプトメチルアントラセン、9−(1−メルカプトエチル)アントラセン、9,10−ビス(メルカプトメチル)アントラセン、9−エチルチオメチル−10−メチルアントラセン、9−メチル−10−フェニルアントラセン、9−メチル−10−ビニルアントラセン、9−アリルアントラセン、9,10−ジアリルアントラセン、9−クロロメチルアントラセン、9−ブロモメチルアントラセン、9−ヨードメチルアントラセン、9−(1−クロロエチル)アントラセン、9−(1−ブロモエチル)アントラセン、9−(1−ヨードエチル)アントラセン、9,10−ジクロロメチルアントラセン、9,10−ジブロモメチルアントラセン、9,10−ジヨードメチルアントラセン、9−クロロ−10−メチルアントラセン、9−クロロ−10−エチルアントラセン,9−ブロモ−10−メチルアントラセン、9−ブロモ−10−エチルアントラセン、9−ヨード−10−メチルアントラセン、9−ヨード−10−エチルアントラセン、9−メチル−10−ジメチルアミノアントラセン、アセアンスレン、7,12−ジメチルベンズ(a)アントラセン、7,12−ジメトキシメチルベンズ(a)アントラセン、5,12−ジメチルナフタセン、コラントレン、3−メチルコラントレン、7−メチルベンゾ(a)ピレン、3,4,9,10−テトラメチルペリレン、3,4,9,10−テトラキス(ヒドロキシメチル)ペリレン、ビオランスレン、イソビオランスレン、5,12−ジメチルナフタセン、6,13−ジメチルペンタセン、8,13−ジメチルペンタフェン、5,16−ジメチルヘキサセン、9,14−ジメチルヘキサフェン等が挙げられる。
【0032】
また上記以外の縮合多環式芳香族化合物としては、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ナフタセン、ベンズ[a]アントラセン、ピレン、ペリレン等が挙げられる。
【0033】
これら縮合多環式芳香族化合物のなかでも、本発明の歯科用硬化性組成物を口腔内で用いることを考慮すると、可視光で重合を励起することが可能となるように、可視域に吸収を有する化合物であることが好ましく、可視域に極大吸収を有する化合物であることがより好ましい。また、これら縮合多環式芳香族化合物は必要に応じて複数の化合物を併用しても良い。
【0034】
縮合多環式芳香族化合物の添加量も、組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、通常は前記したヨードニウム塩1モルに対し、縮合多環式芳香族化合物が0.001〜20モルであり、0.005〜10モルであることが好ましい。
【0035】
さらに増感剤として、上記縮合多環式芳香族化合物に加えて、酸化型の光ラジカル発生剤を配合すると、より一層重合活性が向上し好ましい。酸化型の光ラジカル発生剤は、光照射により励起してラジカルを発生する化合物であって、励起により水素供与体から水素を引き抜いてラジカルを生成するいわゆる水素引き抜き型のラジカル発生剤、励起により自己開裂を起こしてラジカルを発生し(自己開裂型ラジカル発生剤)、次いで該ラジカルが電子供与体から電子を引き抜くタイプのもの、及び光照射により励起して電子供与体から直接電子を引き抜いてラジカルとなるもの等の、光照射による励起によって活性ラジカル種を発生させる機構が酸化剤的な作用による(自らは還元される)ものである光ラジカル発生剤である。これら酸化型の光ラジカル発生剤は特に制限されず、公知の化合物を用いれば良いが、光照射を行った際の重合活性が他の化合物に比してより高い点で、水素引き抜き型の光ラジカル発生剤が好ましく、なかでも、ジアリールケトン化合物、α−ジケトン化合物又はケトクマリン化合物が特に好ましい。
【0036】
ジアリールケトン化合物を具体的に例示すると4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、9−フルオレノン、3,4−ベンゾ―9−フルオレノン、2―ジメチルアミノ―9−フルオレノン、2−メトキシ―9―フルオレノン、2−クロロ―9−フルオレノン、2,7−ジクロロ―9―フルオレノン、2−ブロモ―9―フルオレノン、2,7−ジブロモ―9―フルオレノン、2−ニトロ−9−フルオレノン、2−アセトキ−9−フルオレノン、ベンズアントロン、アントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ジメチルアミノアントラキノン、2,3−ジメチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1,5−ジクロロアントラキノン、1,2−ジメトキシアントラキノン、1,2−ジアセトキシ−アントラキノン、5,12−ナフタセンキノン、6、13−ペンタセンキノン、キサントン、チオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、9(10H)−アクリドン、9−メチル−9(10H)−アクリドン、ジベンゾスベレノン等を挙げることができる。
【0037】
α−ジケトン化合物の具体例を例示すれば、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、アセチルベンゾイル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4’−ジメトキシベンジル、4,4’−オキシベンジル、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等が挙げられる。
【0038】
またケトクマリン化合物としては、3−ベンゾイルクマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−7−メトキシクマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)7−メトキシ−3−クマリン、3−アセチル−7−ジメチルアミノクマリン、3−ベンゾイル−7−ジメチルアミノクマリン、3,3’−クマリノケトン、3,3’−ビス(7−ジエチルアミノクマリノ)ケトン等を挙げることができる。
【0039】
これら酸化型の光ラジカル発生剤は単独または2種類以上を混合して用いて使用できる。また、添加量も組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、通常は前記したジアリールヨードニウム塩1モルに対し、該光ラジカル発生剤が0.001〜20モルであり、0.005〜10モルであることが好ましい。
【0040】
また、上記成分以外にも、ヨードニウム塩の分解を促進させるために、ジメトキシベンゼン、フェニルアラニン、4−ジメチルアミノ安息香酸エステル等の電子供与性の化合物を含んでいても良い。
【0041】
本発明の歯科用硬化性組成物の特徴は、上記カチオン重合性単量体とヨードニウム塩系光重合開始剤を含む液状又はペースト状の組成物中に、保存時のゲル化等を防止して保存安定性を良好なものとするために、ヒンダードフェノール類及びヒンダードアミン類の双方を配合する。ここで、ヒンダードフェノール類は、フェノール性水酸基の結合する芳香族炭素に隣接する二つの芳香族炭素の少なくとも1つが、第2級アルキル基、或いは第3級アルキル基によって置換されているものを示す。該芳香族炭素上の置換基が水素原子であったり、上記アルキル基以外の置換基では、本発明による効果を発揮し得ない。また、ヒンダードアミン類は、第2級或いは第3級脂肪族アミン化合物であり、かつ該アミンを成す窒素原子に結合するアルキル基の少なくとも2つ以上が第2級或いは第3級アルキル基であるものを示す。一方、第1級アミンであったり、アミンを成す窒素原子に結合するアルキル基の、2つ以上が第1級のアルキル基である場合、本発明の効果を発揮し得ない。
【0042】
本発明においては、これらヒンダードフェノール類とヒンダードアミン類とは別々の化合物である。同一分子中に双方の官能基を有する化合物、例えば、下記式、
【0043】
【化3】

【0044】
で示される化合物を配合しても、ヒンダードフェノール類及びヒンダードアミン類の双方を配合した場合に比べて、保存安定性の向上効果は大幅に劣るものとなる。この理由は不明であるが、同一分子中に双方の官能基を有する場合、強固な分子内塩を形成して、これら官能基の保存安定性向上に対する活性が消失してしまうためではないかと推測される。なお、上記式で示されるような、同一分子中に双方の官能基を有する化合物であっても、いずれか一方の官能基が多い化合物である場合には、その多いほうの官能基を有する化合物として作用する(上記の場合には、ヒンダードアミン類として作用する)。
【0045】
上記ヒンダードフェノール類としては、公知の化合物が特に制限なく使用でき、例えば、樹脂用の酸化防止剤として知られるヒンダードフェノール類を使用できる。これらのなかでも、フェノール性水酸基の結合する芳香族炭素に隣接する二つの芳香族炭素の少なくとも1つが第3級アルキル基によって置換されているものが、より優れた効果が得られる点で好ましい。これは、このようなヒンダードフェノール類は組成物中でアミン類と塩を生成しにくいためと推測される。
【0046】
このようなヒンダードフェノール類を具体的に例示すると、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、2−t−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、或いは下記式に示す化合物
【0047】
【化4】

【0048】
等が挙げられる。さらに、これらのヒンダードフェノール類の中でも、フェノール性水酸基の結合する芳香族炭素に隣接する二つの芳香族炭素の、両方が第3級アルキル基によって置換されている物が最も好適に利用される。これらヒンダードフェノール類は、必要に応じて複数の化合物を併用しても良い。
【0049】
ヒンダードフェノール類の添加量も、組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、本発明の効果を十分に得られ、かつ硬化後の硬化体物性に悪影響を与え難い点で、通常は前記したジアリールヨードニウム塩1モルに対し、ヒンダードフェノール基が0.001〜1モルであり、0.005〜0.8モルであることが好ましい。
【0050】
またヒンダードアミン類としては、公知の化合物が特に制限なく使用でき、例えば、樹脂用の光安定剤として知られるヒンダードアミン類を使用できる。これらのなかでも、化学的に安定な環状アミンであるピロリジン類、ピペリジン類、ピペラジン類が好ましく、入手容易な点からピペリジン類がより好ましい。このようなヒンダードアミン類の具体例を挙げると、2,6−ジメチルピペリジン、N−メチル−2,6−ジメチルピペリジン、N−メチル−2,6−ジメチルピペリジン−4−オン、N−メチル−4―ヒドロキシ―2,6−ジメチルピペリジン、或いは下記式に示す化合物
【0051】
【化5】

【0052】
【化6】

【0053】
等が挙げられる。これらヒンダードアミン類は、必要に応じて複数の化合物を併用しても良い。
【0054】
ヒンダードアミン類の添加量も、組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、本発明の効果を十分に得られ、かつ硬化後の硬化体物性に悪影響を与え難い点で、通常は前記したヨードニウム塩1モルに対し、ヒンダードアミノ基が0.001〜1モルであり、0.005〜0.8モルであることが好ましい。
【0055】
本発明の歯科用硬化性組成物には、上記各成分に加えて、該組成物のより細分化された用途に応じ、本発明の効果を損なわない種類及び配合量の範囲で、他の配合成分が含まれていてもよい。
【0056】
例えば、本発明の歯科用硬化性組成物を歯科用コンポジットレジン等の充填修復材料として用いる場合には、充填材(フィラー)が配合されていることが好ましい。
【0057】
当該充填材としては、歯科用の充填修復材料に配合される有機、無機あるいは有機−無機複合充填材のいずれも配合することが可能であり、
有機充填材としては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体、架橋型ポリメチルメタクリレート、架橋型ポリエチルメタクリレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等の有機高分子からなる粒子が挙げられる。
【0058】
無機充填材を具体的に例示すると、石英、シリカ、アルミナ、シリカチタニア、シリカジルコニア、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等の無機粒子が挙げられる。また、有機−無機複合充填材としては、これら無機粒子と重合性単量体を予め混合し、ペースト状にした後、重合させ、粉砕して得られる粒状の有機−無機複合粒子が挙げられる。なお、無機充填材として、ジルコニア等の重金属を含むものを用いることによってX線造影性を付与することもできる。
【0059】
これら充填材の粒径、形状は特に限定されず、一般的に歯科用材料として使用されている、球状や不定形の、平均粒子径0.01μm〜100μmの粒子を目的に応じて適宜使用すればよい。また、これら充填材の屈折率も特に限定されず、一般的な歯科用組成物の充填材が有する1.4〜1.7の範囲のものが制限なく使用できる。
【0060】
本発明の歯科用硬化性組成物に上記充填材を配合する場合の配合量も、該組成物が液状を維持、又はペースト状となる範囲であれば特に限定されないが、歯科用充填修復材料として用いる場合には、無機及び/又は有機−無機複合充填材を採用し、これを前記カチオン重合性単量体100質量部に対して、50〜1500質量部、好ましくは70〜1000質量部とすることが好ましい。さらに、これら無機充填材、有機−無機複合充填材等の充填材は各々単独で用いても良いし、材質、粒径、形状等の異なる複数種のものを併用しても良い。硬化後の機械的物性に優れる点で、歯科用充填修復材料として用いる場合には、無機充填材を主とすることが特に好ましい。
【0061】
また、本発明の歯科用硬化性組成物には、必要に応じて(メタ)アクリレート系単量体等の付加重合型のラジカル重合性単量体を配合することも可能である。ラジカル重合性単量体を配合することにより、さらに見かけの硬化時間を短くすることができる。但し、付加重合型のラジカル重合性は酸素により重合阻害をうけるため、あまり多量に配合することは好ましくない。ラジカル重合性単量体を配合する場合のその配合量は、カチオン重合性単量体とラジカル重合性単量体の合計100質量%に対して、30質量%以下とすることが好ましく、10質量%以下とすることが好ましい。
【0062】
このようなラジカル重合性単量体を具体的に例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−シアノメチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ウレタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系単量体等を挙げることができる。
【0063】
本発明の歯科用硬化性組成物には、上記した成分に加えて、歯科用組成物、特に歯科用充填修復材料の配合成分として公知の他の成分が配合されていてもよい。
【0064】
このような成分としては、紫外線吸収剤、染料、顔料、帯電防止剤、香料、有機溶媒や増粘剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0065】
本発明の歯科用硬化性組成物は、歯科用充填修復材料、歯科用接着材や義歯床用材料等、公知の歯科用の硬化性組成物の用途に特に制限されることなく使用することができるが、特に歯科用充填修復材料として好適である。
【0066】
本発明の歯科用硬化性組成物の製造方法は特に制限されるものではなく、公知の歯科用硬化性組成物の製造方法を適宜採用すればよい。具体的には、暗所において本発明の歯科用硬化性組成物を構成する、カチオン重合性単量体、ヨードニウム塩等の光重合開始剤を構成する成分、ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン類ならびに必要に応じて配合されるその他の配合成分を所定量秤取り、これらを混合してペースト状とすればよい。このようにして製造された本発明の歯科用硬化性組成物は、使用時まで遮光下で保存される。
【0067】
本発明の歯科用硬化性組成物を硬化させる手段としては用いたヨードニウム塩系光重合開始剤の重合開始機構に従い適宜、公知の重合手段を採用すればよく、具体的には、カーボンアーク、キセノンランプ、メタルハライドランプ、タングステンランプ、蛍光灯、太陽光、ヘリウムカドミウムレーザー、アルゴンレーザー等の光源による光照射、またはこれらを組み合わせた方法等が何等制限なく使用される。また、光照射に加えて加熱重合器等を用いた加熱を行ってもよい。光照の時間は、光源の波長、強度、硬化体の形状等によって異なるため、予備的な実験によって予め決定しておけばよいが、一般には、照射時間が5〜60秒程度の範囲になるように、各種成分の配合割合を調整しておくことが好ましい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこの実施例によって何等限定されるものではない。尚、本文中、並びに実施例中に使用した化合物の名称および構造を下に示す。
【0069】
1.カチオン重合性単量体
【0070】
【化7】

【0071】
2.ヨードニウム塩系の光重合開始剤
2−1.ジアリールヨードニウム塩
【0072】
【化8】

【0073】
2−2.増感剤
【0074】
【化9】

【0075】
3.ヒンダードフェノール類
【0076】
【化10】

【0077】
4.ヒンダードアミン類
【0078】
【化11】

【0079】
5.その他の化合物
【0080】
【化12】

【0081】
6.充填材
球状フィラー:3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランで処理した球状シリカ(粒径0.2〜2μm)を用いた。
【0082】
また実施例、比較例における各種物性の評価方法を以下に示す。
【0083】
(1)硬化性
(1−1)充填材を含まない場合
各実施例、比較例で調製した組成物を、内径1.6cm、深さ1.1cmのポリプロピレン容器に0.9gを入れ、硬化厚膜を4mmとした。ついで歯科用の光照射器(TOKUSO POWER LITE、(株)トクヤマ社製)を用い、照射距離0.5cmで光照射を1分間行った。このとき、照射後の組成物全体が十分に硬化するものを○、硬化体が柔らかい、或いは未硬化部分が有りべたついている、或いは全く降下していないものを×とした。
【0084】
(1−2)充填材を含む場合
各実施例、比較例で調製した組成物を、練和紙上に取り出し、充填材を含まない場合と同様にして光照射を行った。このとき、光照射後の組成物が十分に硬化し、硬化体が容易に手で割れないものを○、容易に割れるか、或いは全く硬化しないものを×とした。
【0085】
(2)ゲル化までの保存日数
(2−1)充填材を含まない場合
各実施例、比較例で調製した組成物を、遮光条件下50℃恒温装置内で保存した。この硬化性組成物を、1日置きに恒温装置から取り出し、暗所下において室温まで放冷した後、該硬化性組成物の性状を観察した。この際に、同一のカチオン重合性単量体のみからなる(重合開始剤を含まない)組成物と比較し、流動性が大きく失われて粘度が上昇しているか、流動せずゼリー状になった日数をゲル化までの保存日数とした。
【0086】
(2−2)充填材を含む場合
各実施例、比較例で調製した組成物を、遮光条件下50℃恒温装置内で保存した。この硬化性組成物を、1日置きに恒温装置から取り出し、暗所下において室温まで放冷した後、該硬化性組成物の性状を金属製スパチュラで検査した。金属製スパチュラで附形することが出来ず、該充填材料が割れてしまう、或いは硬化し、金属製スパチュラでは割ることが出来ない状態になった日数をゲル化までの保存日数とした。
【0087】
実施例1
60質量部のOX−1及び40質量部のEP−1からなるカチオン重合性単量体100質量部に対して、ヨードニウム塩系光重合開始剤として1.5質量部のIMDPI、0.2質量部のDMBAn及び0.6質量部のCQを、ヒンダードフェノール類として、0.1質量部のBHTを、ヒンダードアミン類として0.1質量部のTN765を加え、均一溶液になるまで攪拌した。この組成物の硬化性とゲル化までの保存日数を評価した。結果を表1に示す。
【0088】
実施例2〜5、比較例1〜19
配合するヒンダードフェノール類及び/又はヒンダードアミン類を表1に記載したように変化させた以外は実施例1と同様にして組成物を調製し、その硬化性とゲル化までの保存日数を評価した。結果を併せて表1に示す。なお、HQMEは立体障害のないフェノール、DMPNは立体障害のないアミンであり、本発明におけるヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン類に相当しない。
【0089】
【表1】

【0090】
上記表1に示すように、ヒンダードフェノール類とヒンダードアミン類の双方を配合した場合には、硬化性に優れ、50℃での保存下でもゲル化までの保存日数は極めて長い。それに対し、ヒンダードフェノール類、又はヒンダードアミン類の一方のみを配合した場合(比較例2〜13)には、どちらも配合しない場合(比較例1)に比べればゲル化までの保存日数は長くなるが、各実施例に比べれば大幅に短く十分な保存性が得られない。また、比較例7〜9に示されるように、ヒンダードアミン類の配合量を多くすることは若干効果があるが、ヒンダードアミン類は硬化性を低下させる傾向もある。そのため、ヒンダードアミン類のみの配合では、十分な硬化性を保持したままヒンダードフェノール類とヒンダードアミン類の双方を配合した場合ほどの長い保存日数を得ることは困難である。
【0091】
また、比較例12は、一分子中にヒンダードフェノール基とヒンダードアミノ基の双方を有する化合物を用いた場合の結果であるが、ゲル化までの日数を延長する効果は極めて弱く、別々の化合物として配合する必要があることが理解される。
【0092】
比較例14〜19は、アミン又はフェノールとして立体障害のない化合物を用いた場合の例であるが、この場合にも十分な効果は得られない。
【0093】
以上の結果から、本発明の効果を得るためには、ヒンダードフェノール類とヒンダードアミン類の双方を(別化合物として)配合する必要があることが理解される。
【0094】
実施例6,7、比較例20
60質量部のOX−1及び40質量部のEP−1からなるカチオン重合性単量体100質量部に対して、表2に示すヨードニウム塩系光重合開始剤、及びヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン類を配合して実施例1と同様にして組成物を調製した。この組成物の硬化性とゲル化までの保存日数を評価した。結果を表2に示す。
【0095】
【表2】

【0096】
実施例8,9、比較例21,22
1.5質量部のIMDPI、0.2質量部のDMBAn及び0.6質量部のCQからなるヨードニウム塩系光重合開始剤を用い、これとカチオン重合性単量体としてOX−1又はEP−1を単独で用いて、ヒンダードフェノール類及びヒンダードアミン類を配合した場合と、配合しなかった場合で比較した。組成と評価結果を表3に示す。
【0097】
【表3】

【0098】
実施例10
表4に示す割合で、カチオン重合性単量体、ヨードニウム塩系光重合開始剤、ヒンダードフェノール類及びヒンダードアミン類からなる液状組成物を実施例1と同様にして調製した。この液状組成物に対して、充填材として球状シリカを含有率70質量%となるように加えて、メノウ乳鉢で混合し、該混合物を真空下、脱泡して気泡を取り除き、充填材を含むペースト状の組成物を得た。この組成物について、硬化性とゲル化までの保存日数を評価した。結果を併せて表4に示す。
【0099】
実施例11〜13、比較例23〜26
表4に示す割合で、実施例10と同様にして充填材を含む組成物を調整した。この組成物について、硬化性とゲル化までの保存日数を評価した。結果を併せて表4に示す。
【0100】
【表4】

【0101】
上記表4に示すように、充填材が含まれる場合でも、ヒンダードフェノール類及びヒンダードアミン類の双方を配合することにより、いずれか一方しか配合しない場合よりも遥かに優れた保存安定性を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
・カチオン重合性単量体
・ヨードニウム塩系の光重合開始剤
・ヒンダードフェノール類、及び
・ヒンダードアミン類
を含んでなり、上記の全成分が混合された液体又はペーストの状態で保存されるものであることを特徴とする歯科用硬化性組成物。
【請求項2】
更にフィラーを含んでなる請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項3】
歯科用充填修復材料であることを特徴とする請求項1又は2記載の歯科用硬化性組成物。

【公開番号】特開2006−249040(P2006−249040A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70981(P2005−70981)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】