説明

歯科用組成物

【課題】歯周病を代表とする歯科疾患の治療に際し、歯周治療の際に患部に貼薬し、罹患部の治療および周囲の組織の疾病予防に用いることに有用である、患部への適用および適用後の除去が容易な歯科用組成物を提供すること。
【解決手段】酸性ラジカル重合性単量体(Ma)の単量体単位を有する高分子重合体と、歯周組織に対する薬効剤、殺菌剤および消毒剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種の薬剤とを含有する歯科用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周疾患の予防および治療に用いることができる歯科用組成物に関する。さらに詳しくは、歯周治療の際に患部に貼薬し、罹患部の治療および周囲の組織の疾病予防に用いることに有用な歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病はう蝕と並ぶ歯科の二大疾患とされ、プラーク内に存在する複数の細菌による混合感染症であることが証明されている。従来、歯周病の治療方法としては、軽度の場合、スケーリング等による感染病巣の機械的除去法が用いられ、重度の場合には、歯周外科処置が行われている。これに加え、最近では消毒薬や抗炎症薬、抗生物質等の化学療法を併用する治療法が試みられ、歯周病の進行、予防に有効な方策であることが示されている。
これら薬剤による化学療法の方法には、薬剤の経口投与あるいは患部への直接塗布があげられるが、薬剤の特性を考慮し、適した方法がある場合には、全身的な副作用を惹起せずに、局所に必要な薬効濃度を得ることができることから、直接塗布の方法が用いられる。この場合、健全組織、とりわけ口腔粘膜に対するこれら薬剤の感作性などの悪影響が懸念され、適用部周囲からの薬剤の流出などが問題とされている。治療現場においては、ラバーダム、綿球などにより流出を防ぐ方法が用いられるが、根本的解決に至っていない。
これら問題を解決すべく、特許文献1にはコラーゲンマトリックスからなる歯周病処置用複合物質が提案されているが、原料となるコラーゲンが動物由来であることによる安全性の問題が新たに懸念される。
【特許文献1】特開平7−179361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、歯周病を代表とする歯科疾患の治療に際し、歯周治療の際に患部に貼薬し、罹患部の治療および周囲の組織の疾病予防に用いることに有用である、患部への適用および適用後の除去が容易な歯科用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明者らが鋭意検討した結果、本発明の上記目的は、
(A)酸性ラジカル重合性単量体(Ma)の単量体単位を有する高分子重合体、
(B)歯周組織に対する薬効剤、殺菌剤および消毒剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種の薬剤、
を含有することを特徴とする歯科用組成物により達成しうることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0005】
本発明の歯科用組成物により、特に歯周病に罹患した歯周組織に対して、効果的に薬物を貼薬することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳述する。以下、特別の断りのない限り「部」あるいは「%」は重量基準を示す。なお、好適な数値範囲にて「好ましくはXX〜YY」という記載は、原則として「好ましくは、XX以上、および/または,YY以下」を意味する。また、「アクリ・・・」と「メタアクリ・・・」の総称として、「(メタ)アクリ・・・」と記載する。
以下、本発明を第一の態様と第二の態様の好ましい2つの態様に分けて説明する。
【0007】
まず、本発明の第一の態様について詳述する。
本発明の第一の態様における歯科用組成物は、酸性ラジカル重合性単量体(Ma)の単量体単位を有する重合体(A)と、歯周組織に対する薬効剤、殺菌剤および消毒剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種の薬剤(B)と、さらに水および/または有機溶媒(C)とより構成される。
本発明の第一の態様の歯科用組成物における(A)成分の形態は水性エマルジョン(Ae)あるいは水溶性ポリマー(Aw)であることが好ましい。なお、(A)成分の存在形態が水性エマルジョンだけでなく、分散媒が実質上除去された状態であるが分散媒を加えれば容易に水性エマルジョンになりえる乾燥状態(粉末など)のものであってもよい。ここで言う水性エマルジョンとは、水を含む分散媒中に、微細な粒子状の重合体が分散した状態を言う。また特に、水溶性である場合には、25℃における高分子重合体(A)の水に対する溶解度が25重量%以上であることが好ましい。
【0008】
また、本発明の第一の態様における(A)成分の高分子重合体は、(Ma)成分を単量体単位として含んでいれば、特に限定されるものではない。また1種の共重合体からなっても、2種以上の重合体の混合物からなってもかまわない。あるいは、当該重合体の主鎖は、ラジカル重合体構造であることが好ましいが、短い(分子鎖長15原子以下)架橋やペンダントに脱水縮合系の分子鎖を有していてもよい。
重合性基としては、ラジカル重合性基であればとくに制限はないが、好ましい具体例としては、ビニル基、シアン化ビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアマイド基などを挙げることができる。
【0009】
本発明の第一の態様の歯科用組成物における酸性ラジカル重合性単量体である(Ma)化合物は、上述のラジカル重合性官能基を有し、酸性の性質を有する単量体であれば、特に制限されるものではない。具体的な酸性基としては、例えばカルボキシル基、およびその酸無水基、リン酸基、チオリン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基などを挙げることができる。この他、上記カルボキシル基の酸無水基のように、実用条件において容易に分解して酸性基に転換されて実質上酸性基として機能するものも、酸性基とみなされる。あるいは、上記酸基の一部ないし全部がカリウム、ナトリウム、カルシウムなどの金属塩、アンモニウム塩などの酸塩も含まれる。
【0010】
具体的な(Ma)化合物として、分子中にカルボキシル基を有する重合性化合物としては、例えば
(メタ)アクリル酸、マレイン酸などのα−不飽和カルボン酸;
4−ビニル安息香酸などのビニル芳香環化合物;
11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸などの(メタ)アクリロイルオキシ基とカルボン酸基の間に直鎖炭化水素基が存在するカルボン酸化合物;
6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸などの(メタ)アクリロイルオキシアルキルナフタレン(ポリ)カルボン酸;
4−(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメリット酸、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリット酸、4−(4−(メタ)アクリロイルオキシブチル)トリメリット酸)などの(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメリット酸;
4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシ]ブチルトリメリット酸などのさらに水酸基を含有する化合物;
2,3−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレ−トなどのカルボキシベンゾイルオキシを有する化合物;
N,O−ジ(メタ)アクリロイルオキシチロシン、O−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン、O−(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン、N,O−ビス((メタ)アクリロイルオキシ)フェニルアラニンなどのN−および/またはO−モノまたはN,O−ジ(メタ)アクリロイルオキシアミノ酸;
N−(メタ)アクリロイル−4−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノ安息香酸、2−または3−または4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−または5−(メタ)アクリロイルアミノサリチル酸などのN−および/またはO−モノまたはジ(メタ)アクリロイル(アミノまたはオキシ)安息香酸系化合物;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとピロメリット酸二無水物の付加生成物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−トと無水マレイン酸または3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物または3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の付加反応物などのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと不飽和ポリカルボン酸無水物の付加反応物;
2−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)−1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン等)などのポリカルボキシベンゾイルオキシと(メタ)アクリロイルオキシを有する化合物;
N−フェニルグリシンまたはN−トリルグリシンとグリシジル(メタ)アクリレ−トとの付加物;
4−[N−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸、3または4−[N−メチル−N−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸などのN−アルキル−N−(ヒドロキシ(メタ)アクリロイルオキシアルキル)アミノフタル酸化合物
などを挙げることができる。これらのうち、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸および/またはその塩および/または酸無水物、および4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸および/またはその塩および/または酸無水物が特に好ましく用いられる。
【0011】
また、(Ma)化合物として、リン酸基および水中で容易に該基に変換し得る官能基を有する化合物としては、例えばリン酸エステル基で水酸基を1個または2個を有する基を好ましく例示することができる。このような基を有する重合性単量体としては、例えば2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェート、2−および/または3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシドホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルアシドホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルアシドホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルアシドホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルアシドホスフェートなどの(メタ)アクリロイルオキシアルキルアシドホスフェート;
ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]アシドホスフェート、ビス[2−または3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル]アシドホスフェートなどの2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を有するアシドホスフェート;
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−p−メトキシフェニルアシドホスフェートなどの(メタ)アクリロイルオキシアルキル基とフェニレン基などの芳香環やさらには酸素原子などのヘテロ原子を介して有するアシドホスフェート
などを挙げることができる。これらの化合物におけるリン酸基を、チオリン酸基に置き換えた化合物も例示することができる。これらのうち、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェートおよび/またはその塩は特に好ましく使用することができる。
【0012】
さらに(Ma)成分として、スルホン酸基あるいはスルホン酸基に容易に水中で変換し得る官能基を有する重合性単量体(Maa)として、例えば2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2−または1−スルホ−1−または2−プロピル(メタ)アクリレート、1−または3−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロキシ−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホアルキル(メタ)アクリレート;
3−ブロモ−2−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシ−1−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレートなどの前記のアルキル部にハロゲンや酸素などのヘテロ原子を含む原子団を有する化合物;
1,1−ジメチル−2−スルホエチル(メタ)アクリルアマイド、2−(メタ)アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸などの前記(メタ)アクリレート、あるいは(メタ)アクリロキシに換えて(メタ)アクリルアマイドである化合物など;
さらには4−スチレンスルホン酸、4−(プロプ−1−エン−2−イル)ベンゼンスルホン酸などのビニルアリールスルホン酸
などを挙げることができる。
これら(Ma)化合物のうち、(Maa)化合物を好ましく使用することができ、なかでも4−スチレンスルホン酸および/またはその塩を使用することが特に好ましい。これらの(Ma)化合物は単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0013】
また、本発明の第一の態様における重合体(A)を構成する単量体には、さらに疎水性のラジカル重合性単量体(Mb)を含有することができる。かかる単量体としては(Ma)化合物と共重合しうるラジカル重合性基を有する単量体を好ましく使用することができる。具体的な化合物名としては、
例えばブタジエン,イソプレンなどの共役ジエン単量体;
スチレン,α−メチルスチレン,クロルスチレンなどの芳香族ビニル単量体;
塩化ビニル,臭化ビニル,塩化ビニリデン,臭化ビニリデンなどのハロゲン化ビニルおよびハロゲン化ビニリデン;
酢酸ビニル,プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;
N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−アセトアマイド、N−(メタ)アクリロキシプロピル−アセトアマイド、N−(メタ)アクリロキシイソプロプル−アセトアマイド、N−(メタ)アクリロキシブチル−アセトアマイド、N−(メタ)アクリロキシプロピル−アセトアマイドなどの(メタ)アクリロキシアルキルアセトアマイド;
シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレート;
(テトラハイドロフラン−2−イル)(メタ)アクリレートなどのヘテロ原子を含む環状アルキル(メタ)アクリレート;
パーフルオロオクチル(メタ)アクリレートおよびヘキサフルオロ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステル;
3−(トリメトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレートなどの (メタ)アクリロキシアルキル基を有するシラン化合物
あるいは、
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリ(オキシアルキレン)ジ(メタ)アクリレート;
グリセロールジ(メタ)アクリレート;
トリメチロールプロパンなどのブタントリオールのジ(メタ)アクリレート;
メソ−エリスリトールなどのブタンテトラオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート、ペンタントリオールのジ(メタ)アクリレート;
テトラメチロールメタンなどのペンタンテトラオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート;
キシリトール及びその異性体の水酸基を1〜2個有する多官能(メタ)アクリレート;
ヘキサントリオールのジ(メタ)アクリレート;
ヘキサンテトラオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート;
ヘキサンペンタオールの水酸基を1〜2個有する多官能(メタ)アクリレート;
ヘキサンヘキサオールの水酸基を1〜2個有する多官能(メタ)アクリレート;
あるいは下記式(1)
【0014】
【化1】

【0015】
〔式中、Rは少なくとも1個の芳香族環を有しかつ分子中に酸素原子または硫黄原子を有していてもよい2価の芳香族残基あるいはシクロアルキル残基、好ましくは下記式(2)
【0016】
【化2】

【0017】
から選択されるいずれかの基を示し、RおよびRは互いに独立して水素原子またはメチル基を示し、nおよびmは正の整数を示す〕で示される多官能(メタ)アクリレートなど;
さらに上記のうち、(メタ)アクリレートもしくは(メタ)アクリロイルオキシを(メタ)アクリルアマイドとした化合物;
を挙げることができる。
これらは単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
さらには、所望により、抗菌性を有するラジカル重合性単量体(Mz)を使用することができる。(Mz)を用いることにより(A)成分に抗菌性を付与することで、長期間にわたりう蝕、歯周病等の歯科疾患の予防効果を期待できる。
【0018】
かかる化合物としては、例えば12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、ベンジルビス[(メタ)アクリロイルオキシエチル]ドデシルアンモニウムクロライド、N,N,N−トリス[(メタ)アクリロイルオキシエチル]ドデシルアンモニウムクロライド、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートに10−ウンデセニルアルコールがエーテル付加した化合物などを挙げることができる。
これらは単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
本発明の第一の態様の歯科用組成物における(A)酸性ラジカル重合性単量体(Ma)の単量体単位を有する高分子重合体には、さらに上述の(Ma)、(Mb)や(Mz)以外のラジカル重合性単量体(Mn)の単量体単位が含まれていてもよく、例えば、非酸性非疎水性ラジカル重合性単量体として、水酸基やアセトアセトキシ基等の親水性基を有するラジカル重合性単量体等が、高分子重合体(A)の構成単位として好適に用いることができる。
かかる単量体の具体例としては、特に限定されるわけではないが、
2−ハイドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ハイドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのハイドロキシアルキル(メタ)アクリレート;
1,3−または2,3−または3,3−ジハイドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの(ポリ)ハイドロキシアルキル(メタ)アクリレート;
エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート;
アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアミドエチル(メタ)アクリレート、
上記の(メタ)アクリレートに代えて(メタ)アクリルアマイドである化合物等があげられる。
【0020】
本発明の第一の態様の歯科用組成物における(A)成分である高分子重合体は、組成物の全量を基準に、好ましくは0.1〜70重量%、より好ましくは0.5〜60重量%、さらに好ましくは1〜55重量%の範囲で用いられる。この範囲を下回ると、後述する(B)成分の保持力を発揮し難く効果を発揮し難く、上回ると、保存中の構成成分の凝集等が懸念され、ともに好ましくない。
さらに、単量体(Ma)に由来する単量体単位の含有量は重合体(A)を構成する単量体単位の全量に対して、好ましくは0.1〜30モル%、より好ましくは0.1〜20モル%、さらに好ましくは0.5〜10モル%の範囲である。この範囲を下回ると、口腔組織や配合する(B)成分などとのなじみが悪くなり、操作性に影響を与え易く、上回ると、保存安定性の著しい低下や(B)成分などとの凝集が懸念され、ともに好ましくない。
【0021】
疎水性ラジカル重合性単量体(Mb)を重合体(A)の単量体成分として使用する場合に、単量体(Mb)に由来する単量体単位の含有量は、重合体(A)を構成する単量体単位の全量に対して、好ましくは99.9〜1モル%、より好ましくは99.5〜10モル%、さらに好ましくは99〜50モル%、特に好ましくは98〜60モル%、最も好ましくは97〜70モル%の範囲である。この範囲を下回ると、保存安定性の著しい低下や(B)成分などとの凝集が懸念され、上回ると、口腔組織や配合する(B)成分などとのなじみが悪くなって、操作性に影響を与えるおそれがあり、ともに好ましくない。
さらに、単量体(Mn)を重合体(A)の単量体成分として使用する場合に、単量体(Mn)に由来する単量体単位の含有量は重合体(A)を構成する単量体単位の全量に対して、好ましくは99.9〜1モル%、より好ましくは99.5〜10モル%、さらに好ましくは99〜50モル%、特に好ましくは98〜60モル%、最も好ましくは97〜70モル%の範囲である。この範囲を下回ると、口腔組織や配合する(B)成分などとのなじみが悪くなって、操作性に影響を与えるおそれがあり、上回ると、組成物の適用後に後述する(B)成分が不用意に口腔内に流出するおそれがあり、ともに好ましくない。
【0022】
本発明の第一の態様における(A)成分の高分子重合体の数平均分子量Mnは、GPC法で測定した値として、好ましくは3,000以上であり、より好ましくは7,000以上、さらに好ましくは10,000以上である。数平均分子量の上限は好ましくは500万である。
【0023】
本発明の第一の態様の歯科用組成物における(A)成分として好ましい水性エマルジョン形態を有する重合体(Ae)としては、(Ma)成分に由来する単量体単位としてスチレンスルホン酸単位を有し、更に、重合体の分子中に、(Mb)成分としてアルキル基の炭素数が1〜8の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位を有する共重合体を挙げることができる。この場合、スルホン酸基を共重合体1g当り、好ましくは5.0×10−6〜2.6×10−3モル/g、より好ましくは5.0×10−6〜1.9×10−3モル/g、更に好ましくは2.5×10−5〜1.1×10−3モル/g有する。
【0024】
また、本発明の第一の態様の歯科用組成物における(A)成分としての好ましい水溶性を有する重合体(Aw)としては、重合体の分子中に、(Ma)に由来する単量体単位として、(メタ)アクリルアマイドアルカンスルホン酸(HC=C(R)−CO−NR−R−SOH、RおよびR:それぞれ独立に水素原子またはメチル基、R:2価の炭化水素基)に由来する単量体単位を有することが好ましい。この場合スルホン酸基のモル割合(前記(Ma)化合物に由来する単量体単位中のスルホン酸基のモル数/重合体中の単量体単位の総モル数)は、好ましくは3.0×10−6〜3.1×10−3モル/g、より好ましくは3.0×10−6〜2.3×10−3モル/g、更に好ましくは1.5×10−5〜1.3×10−3モル/gで有するものを挙げることができる。
【0025】
また、重合体の分子中に、(Mn)に由来する単量体単位として、水酸基を1つ以上有する炭素数4〜8の(ポリ)ハイドロキシアルキル(メタ)アクリルアマイド(HC=C(R)−CO−NR−R(OH)、 RおよびR:それぞれ独立に水素原子またはメチル基、R:炭化水素基、n:1以上の整数)に由来する単量体単位を有することが好ましい。この場合、水酸基を重合体1gあたり、好ましくは4.1×10−3〜3.5×10−2モル/g、より好ましくは5.5×10−3〜3.5×10−2モル/g、更に好ましくは7.3×10−3〜3.4×10−2モル/gで有する。
【0026】
前記(メタ)アクリルアマイドアルカンスルホン酸単位と(ポリ)ハイドロキシアルキル(メタ)アクリルアマイド単位を有する共重合体(ここでは、以下、AS−HA重合体という)以外の共重合体(ここでは、以下、AS−HA相当重合体という)では、AS−HA相当重合体の重量に対するAS−HA相当重合体に含まれる酸性基(スルホン酸等)や水酸基のモル数の比率であるモル重量比[モル/g]の数値範囲が、AS−HA重合体の場合におけるモル比[モル/モル]の数値範囲に対応するモル重量比(但し、AS−HA重合体は2,3−ジハイドロキシプロピル(メタ)アクリルアマイドと2−(メタ)アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸より共重合体として比を計算)の範囲にあることが好ましい。
【0027】
本発明の第一の態様の歯科用組成物における(A)成分の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法であることができる。
具体的に(A)成分がエマルジョンである場合には、重合開始剤を含んだ分散媒を加温し、高速回転の下、単量体を滴下して重合させるか、あるいは重合開始剤と界面活性剤とを含んだ分散媒を加温し、低速にて撹拌しながら単量体と重合開始剤と界面活性剤との混合物を滴下して重合させる工程を経た後に、濃縮あるいは噴霧乾燥等により(A)成分を得る方法などを挙げることができる。重合温度は、好ましくは40〜100℃の範囲にある。
また、(A)成分が水溶性高分子である場合には、水あるいは有機溶媒等の溶媒、重合開始剤、単量体を撹拌しながら加温し、重合の後、再沈殿などにより精製する方法を例示することができる。この場合の重合温度は好ましくは40℃〜200℃である。
【0028】
本発明の第一の態様の歯科用組成物における薬剤(B)成分は、歯周組織に対する薬効剤および/または殺菌剤および/または消毒剤である。
歯周組織に対する薬効剤としては、抗生物質、抗炎症剤、鎮痛剤、止血剤、血行促進剤、抗ヒスタミン剤を挙げることができる。
【0029】
抗生物質としては、例えばアンピシリンなどのβ−ラクタム;カナマイシンンなどのアミノグリコシド;塩酸テトラサイクリンなどのテトラサイクリン;エリスロマイシンなどのマクロライド;クロラムフェニコール;テリスロマイシンなどのケトライド;アムフォテリシンBなどのポリエンマクロライド;バンコマイシンなどのグリコペプチド;ホスミドシンなどの核酸のほか、レボフロキサシンなどのピリドンカルボン酸類;リネゾリドなどのオキサゾリジノン類などを挙げることができる。
抗炎症剤としては、例えばβ−グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、ε−アミノカプロン酸、塩化リゾチーム、インドメタシン、イブプロフェン、エピジハイドロコレステリン、ジハイドロコレステロール、ヒノキチオール、セラペプターゼ、プロナーゼ、オウバクエキス、アラントインなどが挙げられる。
【0030】
鎮痛剤としては、例えばアスピリン、アセトアミノフェン、サリチル酸メチル、エピリゾール、ナプロキセン、エトドラク、フルルビプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム、メフェナム酸などが挙げられる。
止血剤としては、例えばルチン、アスコルビン酸、トラネキサム酸、トロンビンなどが挙げられる。
血行促進剤としては、例えばビタミンE、塩化ナトリウム、ニコチン酸−d,l−α−トコフェロールなどが挙げられる。
抗ヒスタミン剤としては、例えばシメチジン、マレイン酸クロルフェラミン、塩酸プロメタジン、塩酸ジフェンヒドラミンなどを挙げることができる。
殺菌剤としては、例えば塩酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、グリチルリチン酸ジカリウム、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、塩化ベンゼトニウムなどを挙げることができる。
消毒剤としては、過酸化水素、ヨードグリセリン、ヨードチンキ、クロラミン、アクリノール、ポピドンヨードなどを挙げることができる。
これら薬剤は1種あるいは2種以上を併用して使用することができる。
【0031】
本発明の第一の態様の歯科用組成物における(B)成分の配合量は、組成物の全量を基準に、好ましくは0.01〜20重量%、より好ましくは0.02〜15重量%、さらに好ましくは0.2〜10重量%の範囲である。この範囲を下回ると薬効が期待でき難く、上回る場合には副作用が懸念され、ともに好ましくない。
本発明の第一の態様における歯科用組成物の(C)成分は、水および/または有機溶媒である。具体的な化合物としては、水のほか、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチエレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコールのほか、グリセロール、ソルビトール、エタノールなどのモノあるいはポリアルコールを挙げることができる。
【0032】
本発明の第一の態様の歯科用組成物における(C)成分の使用量は、組成物の全量を基準に、好ましくは10〜99.89重量%、より好ましくは25〜99.48重量%、さらに好ましくは35〜98.8重量%の範囲である。この範囲を下回っても、上回っても、操作性が著しく悪化するおそれがあり、ともに好ましくない。
本発明の第一の態様の歯科用組成物には、所望により無機あるいは有機無機複合化フィラー(D)添加することができる。
【0033】
無機フィラーの例としては、ジルコニウム酸化物、ビスマス酸化物、チタン酸化物、酸化亜鉛および酸化アルミニウム粒子などの金属酸化物粉末、シリカ、炭酸ビスマス、リン酸ジルコニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウムあるいは、CaHPO、Ca(PO、Ca(POOH、CaO(PO、Ca(PO、Ca10(PO(OH)、CaP11、Ca(PO、Ca、Ca(HPO、CaO、Ca(OH)、CaHCO、CaCO、CaClなどの無機カルシウム塩、さらには、4−(2−(メタ)アクリロキシエチル)トリメリット酸カルシウムや4−スチレンスルホン酸など、上述した(Ma)化合物に代表される有機酸のカルシウム塩などの金属塩粉末、シリカガラス、アルミニウム含有ガラス、バリウム含有ガラス、ストロンチウム含有ガラスおよびジルコニウムシリケートガラスなどのガラスフィラー、銀徐放性を有するフィラー、フッ素徐放性を有するフィラーなどを挙げることができる。また、無機充填材と樹脂との間に強固な結合を得るために、これら充填剤に、従来公知の方法によりシラン処理、ポリマーコートなどの表面処理を施した無機充填材を使用してもよい。
【0034】
さらに無機有機複合フィラーなどを挙げることもできる。無機有機複合フィラーとしてはトリメチロールプロパンメタアクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したものなどが使用できる。
これらの無機フィラーおよび無機有機複合フィラーは、単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明の第一の態様における(D)成分の粒子の平均粒子径は、0.001〜30μmの範囲内にあることが好ましく、0.005〜25μmの範囲内にあることが特に好ましい。
【0035】
本発明の第一の態様における歯科用組成物において、所望により(D)を使用する場合、その使用量は、組成物の全量を基準に、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは1〜40重量%、さらに好ましくは3〜30重量%の範囲である。この範囲を下回ると、所望の効果が期待し難く、上回ると、組成物の操作性が著しく悪化するおそれがある。
【0036】
本発明の第一の態様における歯科用組成物には、所望により水中においてフッ化物イオンを放出する化合物(E)を添加してもよい。化合物(E)としては、可溶性の有効フッ素イオンを組成物中に放出するものであれば、いずれも使用しえ、例えば、フルオロリン酸二ナトリウム、フッ化スズ、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ケイ素ナトリウム、フルオロアルミノシリケ−トガラス、フッ化アンモニウム等が使用しうるが、中でもフッ化ナトリウム、フッ化カルシウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一スズの使用が好ましい。その配合量は、本発明の歯科用組成物の使用量と適用頻度、ならびに耐酸性や再石灰化の有効性と人体への影響を考慮して適宜設定される。(E)成分は、硬組織の耐酸性の向上効果を期待できる。
本発明において所望により(E)成分を使用する場合、その使用量は組成物中のフッ素イオン濃度として、好ましくは0.0001〜5重量%、さらに好ましくは0.001〜2重量%、特に好ましくは0.01〜1重量%の範囲である。この範囲を下回ると、所望の歯質の耐酸性効果や再石灰化効果が十分に表れ難く、上回ると、生体への為害性が懸念される。
【0037】
本発明の第一の態様における歯科用組成物には、所望により結合材(F)を添加してもよい。(F)成分としては組成物に可塑性を与えるものであれば、特に制限はない。例えばポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマー、アラビアゴム、アルギン酸、カラギーナン、デキストリン、プルラン、ザンタンガム、でんぷんなどの天然高分子の他、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ハイドロキシプロピルセルロース、ハイドロキシプロピルメチルセルロース、などを好ましく挙げることができる。、これらは1種単独であるいは2種以上を併用することができる。
本発明の第一の態様における歯科用組成物において、所望により(F)成分を使用する場合、使用量は組成物の全量を基準に、好ましくは1〜35重量%、さらに好ましくは5〜30重量%、特に好ましくは10〜25重量%の範囲である。この範囲を下回ると(F)成分の使用の効果が現れ難く、上回ると、操作性が著しく悪くなるおそれがあり、ともに好ましくない。
【0038】
本発明の第一の態様における歯科用組成物には、さらに、本発明の効果を損なわない限りにおいて、その他の添加成分(G)として、
アミラーゼ、ムタナーゼ、デキストラナーゼ、プロテアーゼなどのプラーク溶解剤;
シリカ、タルク等の増粘剤;
ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム等の発泡剤;
ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリマー;
キシリトール、ソルビトール、アスパルテーム、スクラロース、ステビアなどの甘味料;
ソルビトール、l−メントール、リモネンなどの香料;
雲母チタン、酸化チタン、オキシ塩化ビスマス、合成金雲母、マイカ、酸化鉄などの無機顔料;
青色1号、青色404号、赤色106号、赤色201号、赤色220号、赤色225号、赤色226号、赤色227号、黄色4号、緑色3号、グンジョウ、コンジョウなどの口腔内での組成物の識別を容易にするための着色料;
クエン酸および/またはその塩、ホウ酸および/またはその塩、リンゴ酸および/またはその塩、酒石酸および/またはその塩、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、硫酸ナトリウムなどのpH調整剤;
レチノール類、リボフラビン、アスコルビン酸、コレカルシフェロール類、ニコチン酸類などのビタミン類;
アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、およびこれらの塩および/または水酸化物のほか、トラネキサム酸、タウリン等のアミノ酸類ないしはその類縁体を添加しても何ら差し支えない。
【0039】
続いて、本発明の第二の態様を詳述する。
本発明の第二の態様の歯科用組成物は、加熱により軟化させた組成物を直接患部へ一液にて塗布することが可能であり、患部への適用後、体温では、固化しているため、除去が容易であることに利点がある。
即ち、本発明の第二の態様における(A)成分は、酸性ラジカル重合性単量体(Ma)の単量体単位および、アルキル基の炭素数が1〜4の短鎖アルキル(メタ)アクリレート単量体(Mc1)の単量体単位、および/または、アルキル基の炭素数が6以上の長鎖アルキル(メタ)アクリレート単量体(Mc2)の単量体単位を有する重合体である。
【0040】
(Ma)成分は、酸性の性質を有しているラジカル重合性単量体であれば、特に制限はない。本発明の第一の態様における歯科用組成物で示した(Ma)化合物を好ましく使用することができる。
(Mc1)成分はアルキル基の炭素数が1〜4の直鎖状もしくは分岐形の短鎖アルキルの(メタ)アクリレート単量体化合物である。具体的な化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0041】
(Mc2)成分はアルキル基の炭素数が6以上、より好ましくは8〜20、さらに好ましくは8〜18、の直鎖状もしくは分岐形の長鎖アルキル(メタ)アクリレート単量体化合物である。具体的な化合物としては、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、3,5,5−トリメチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。(Mc1)成分、(Mc2)成分ともに、これら化合物に限定されるものではない。なお、(Mc2)のアルキル鎖の炭素数の上限は、当該構造の単量体の製造上の限界によるものであり、発明の効果においては特に上限はない。
【0042】
上記(Ma)および(Mc1)および/または(Mc2)化合物の単量体単位を有する重合体のガラス転移温度(Tg)は、組成物の特性から、好ましくは−35℃〜35℃、好ましくは−25〜25℃、さらに好ましくは−15〜20℃の範囲である。−35℃を下回ると、適用後の組成物の除去除去が難しくなり、また、35℃を超えると溶融時に組成物の術部へのなじみが悪くなるため、ともに好ましくない。
【0043】
本発明の第二の態様における(A)成分のガラス転移温度は、(Ma)および(Mc1)および(Mc2)の単独重合体(ホモポリマー)のガラス転移温度よりFoxの式などから算出することが可能である。これより、(Ma)および(Mc1)および(Mc2)の好ましい使用量は、(Ma)が(A)成分の全量を基準に、好ましくは0.1〜15重量%、より好ましくは0.2〜10重量%、さらに好ましくは0.5〜8重量%、(Mc1)が(A)成分の全量を基準に、好ましくは9.9〜90重量%、より好ましくは15〜84.9重量%、さらに好ましくは19.9〜80重量%、(Mc2)が(A)成分の全量を基準に、好ましくは90〜9.9重量%、より好ましくは84.9〜15重量%、さらに好ましくは80〜19.9重量%である。これらの数値範囲を外れると適用時における余剰組成物、あるいは治療後の組成物の除去が困難となる場合がある。
【0044】
また、重合体(A)の融点(Tm)は、好ましくは40〜60℃、より好ましくは40〜58℃、さらに好ましくは42〜55℃の範囲である。40℃を下回ると口腔内に適用後、適用部より組成物が溶け出す可能性があるとともに、操作時に余剰となった組成物の除去が口腔内で粘調であることから困難となるためである。また、60℃を上回ると溶融時の組成物の温度が高くなり、術部へ適用する際、術者の手指および患者の術部周囲に熱傷をもたらす可能性があるとともに、(B)成分の変性を来すおそれがあるためである。なお、ガラス転移温度および融点はJIS K7121などによって測定することができる。
【0045】
さらに、本発明の第二の態様における(A)成分の重量平均分子量は、好ましくは20,000〜200,000、より好ましくは30,000〜150,000、さらに好ましくは33,000〜130,000の範囲である。20,000以下では溶融時の粘度が小さく、また、200,000を超えると溶融時の粘度が高くなり、ともに口腔内といった細部への適用が著しく困難となるためである。なお、重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用いて測定し、ポリスチレンあるいはポリメチルメタクリレートなどの分子量標準から換算値を得ることができる。
【0046】
本発明の第二の態様における(A)成分の製造法としては、生体への安全性が確保される限りにおいて、特に制限はなく、たとえば従来公知の方法で製造することができる。具体的には有機溶剤、ラジカル重合開始剤、単量体を反応器内で撹拌しながら加熱し、重合させた後に、有機溶媒を留去するかもしくは反応マスを貧溶媒中に投下して、重合体を得る方法などで行われる。重合温度は、好ましくは20〜200℃、より好ましくは40〜150℃である。
【0047】
本発明の第二の態様における(A)成分の使用量は、組成物の全量を基準に、好ましくは0.01〜99.99重量%、より好ましくは0.1〜99.9重量%、さらに好ましくは1〜90重量%である。
【0048】
本発明の第二の態様における(B)成分は、歯周組織に対する薬効剤および/または殺菌剤および/または消毒剤である。具体的な化合物としては本発明の第一の態様における歯科用組成物での(B)成分と同様の化合物を挙げることができる。
本発明の第二の態様の歯科用組成物において、(B)成分の使用量は、組成物の全量を基準に、好ましくは99.99〜0.01重量%、より好ましくは99.9〜0.1重量%、さらに好ましくは99〜10重量%の範囲である。この範囲を下回ると薬効が期待し難く、上回る場合には副作用が懸念され、ともに好ましくない。
【0049】
さらに本発明の第二の態様において、所望により、成分(C)として水および/または有機溶媒、成分(D)として無機あるいは有機無機複合化フィラー、成分(E)として水中においてフッ化物イオンを放出する化合物、成分(F)として結合材のほか、添加剤として成分(G)を添加することができる。これら成分(C)、成分(D)、成分(E)、成分(F)、成分(G)としてあげられる具体的な化合物名、その使用量は前述した、本発明における第一の態様の歯科用組成物におけるものと同様である。
本発明において、「構成される」とは、はじめから、この組成にてすべて混合されていることに限定されるものではなく、必要に応じて、各成分が適宜分封して保存されていて、使用時に混合されることも含まれる。
【0050】
本発明の歯科用組成物の使用の形態としては、好ましくは、次に挙げる様式が選択される。
(1)(A)成分、(B)成分、さらに第一の形態においては(C)成分を混合して一緒に含む組成物を容器に保存し、筆やスポンジ等を用いて直接患部に塗布する方法、
(2)(A)成分、(B)成分、さらに第一の形態においては(C)成分を混合して一緒に含む組成物をチューブ状容器あるいはシリンジに保存し、直接患部に絞り出して塗布する方法、
(3)(A)成分、さらに第一の形態においては(C)成分とを含む組成物の入った容器Iと(B)成分を含む組成物の入った容器IIによって保存して、それぞれの組成物を任意の順で逐次的に塗布、または使用直前に混合し、筆やスポンジ等を用いて直接患部に塗布する方法、
などを例示することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明をさらに詳述するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0052】
<組成物Aの製造例>
撹拌装置、滴下ロート、温度計および窒素導入口を備えたガラス製反応容器に、日本薬局方精製水50gを60℃に昇温し、窒素ガスを1時間バブリングした。窒素雰囲気下、メチルメタクリレート2.0g、スチレンスルホン酸ナトリウム0.54g、過硫酸カリウム30mg、亜硫酸水素ナトリウム10mgを添加し、2.5時間60℃で激しく攪拌した。さらに、メチルメタアクリレート1.0g、過硫酸カリウム15mg、亜硫酸水素ナトリウム7mgを30分間隔で4回添加した後、さらに19.5時間激しく攪拌した。室温に冷却後、濃塩酸0.19mlを加えて2時間攪拌し、透析チュ−ブ(限外分子量10,000)に入れて蒸留水を5日間毎日交換しながら透析を繰り返した。このチュ−ブを常温、常圧下に乾燥して、固形分28.9重量%のエマルジョンを得た。元素分析からこの重合体のメチルメタアクリレートユニットの含量は96.9モル%であった。得られた重合体を分子量既知のポリメタクリル酸メチルを標準試料としてゲル除外クロマトグラフィを用いて分析したところ数平均分子量(Mn)は1.0×10であった。透過型顕微鏡観察より、この乳化重合体エマルジョン粒子は直径0.1〜0.5μmの範囲にあり、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(LA−910、堀場製作所)により全ての重合体のエマルジョン粒子の直径が1μm以下であることが確認された。以下、このエマルジョンをMSEと略記する。なお、重合体に対する400以下の低分子量体ないしはトリマー以下のオリゴマーの比率は0.2重量%以下であった。
MSEを用い、表1の組成で常法によりペーストを調製し、メタフィルflo(商品名、歯科用流動性コンポジットレジン、サンメディカル(株)製)のシリンジに充填、組成物Aを得た。
【0053】
<組成物Bの製造例>
撹拌装置、冷却管、温度計、窒素導入口および滴下ロートを取り付けた反応装置に蒸留水200g、2,3−ジハイドロキシプロピルメタクリルアマイド31.8g(0.2mol)、2−アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸10.4g(0.05mol)、過硫酸アンモニウム1.1g、亜硫酸ナトリウム0.6gを装入、15分間窒素バブリングし、撹拌しながら内温を70℃に昇温し、2時間重合を行った後、室温に冷却した。反応マスをアセトン/メタノールで再沈殿精製し、乾燥、無色のポリマー30gを得た。得られたポリマーの分子量は980,000であった。以下、このポリマーをMCPと略記する。なお、重合体に対する400以下の低分子量体ないしはトリマー以下のオリゴマーの比率は0.2%以下であった。
MCPを用い、表1の組成で常法によりペーストを調製し、メタフィルflo(商品名、歯科用流動性コンポジットレジン、サンメディカル(株)製)のシリンジに充填、組成物Bを得た。
【0054】
<組成物Cの製造例>
撹拌装置、温度計、コンデンサ、窒素ガス導入管およびモノマー導入口を取り付けたガラス製反応容器内にトルエン560gを仕込み、反応容器内を窒素気流下、98℃まで昇温した。これにn−ブチルアクリレート280.7g、ステアリルアクリレート405.3g、4−メタアクリロキシエチルトリメリット酸無水物7.0gとパーブチル−O(商品名、日本油脂(株)製t−ブチル−パーオキシ−2−エチルヘキサノエート)との混合物を5時間かけて導入、1時間熟成の後、さらにパーブチル−O1.7gを添加し、さらに1時間温度を保持した。冷却後、溶媒を留去、乾燥した。得られたポリマーの重量平均分子量は153,000、Tgは10.0℃、Tmは47.3℃であった。以下、このポリマーをSMPと略記する。なお、重合体に対する400以下の低分子量体ないしはトリマー以下のオリゴマーの比率は0.2重量%以下であった。
98℃にて15分間加熱したSMPを用い、80℃にて表1の組成にてペーストを混練し、メタフィルflo(商品名、歯科用流動性コンポジットレジン、サンメディカル(株)製)のシリンジに充填、組成物Cを得た。
【0055】
【表1】

【0056】
<操作性試験>
37℃飽和湿度下に設置したブタ下顎の舌側臼歯2本の歯茎部および歯肉に対し、約0.1gの組成物を直接絞り出して塗布した。37℃飽和湿度下で30分間放置後に歯科用エクスプローラー、歯科用スリーウェイシリンジを用いて塗布した組成物を除去し、塗布性能、放置中の組成物のたれ、取り外し性能につき、次に示す基準で判定を行った。
塗布性能 ○:組成物は塗布しやすい。
塗布性能 ×:組成物は非常に塗布しにくい。
たれ ○:組成物は放置中にたれを生じなかった。
たれ ×:組成物は放置中にたれを生じた。
除去性能 ○:組成物の除去は簡便だった。
除去性能 ×:組成物の除去が著しく難しかった。
【0057】
<抗菌性試験>
歯周病罹患者からヒト口腔内細菌をカルチュレットにて採取し、直ぐにリン酸緩衝溶液中に分散させ所定量を嫌気性菌用羊血液寒天培地(日本ベクトン・ディッキンソン(株)製)に塗抹した。続いて、内径8mm、厚さ約1.5mmのテフロン(登録商標)製モールドを寒天平板状に置き、モールド内に組成物を寒天平板と接するよう、緊密に充填し、静かにモールドを取り除き、嫌気性下、37℃にて24時間培養させた。24時間後に静置した組成物周辺の菌の発育状況を観察し、下記に示す基準で判定を行った。
− :組成物周囲に菌の発育阻止斑が全く認められない。
± :組成物周囲に菌の発育阻止斑が幅約1mm未満のリング状で認められる。
+ :組成物周囲に菌の発育阻止斑が幅約1〜2mmのリング状で認められる。
++:組成物周囲に菌の発育阻止斑が幅約2mmを超えるリング状で認められる。
【0058】
実施例1 組成物Aを用い、上述の操作性試験、抗菌性試験を行った。結果はそれぞれ塗布性能○・たれ○・除去性能○、++であった。
【0059】
実施例2 組成物Bを用い、上述の操作性試験、抗菌性試験を行った。結果はそれぞれ塗布性能○・たれ○・除去性能○、++であった。
【0060】
実施例3 98℃水浴にて15分間加熱した後、60℃の水浴で30分以上保管した組成物Cを用い、上述の操作性試験、抗菌性試験を行った。結果はそれぞれ塗布性能○・たれ○・除去性能○、++であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸性ラジカル重合性単量体(Ma)の単量体単位を有する高分子重合体と、
(B)歯周組織に対する薬効剤、殺菌剤および消毒剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種の薬剤、
とを含有することを特徴とする歯科用組成物。
【請求項2】
上記酸性ラジカル重合性単量体(Ma)がスルホン酸基を有するラジカル重合性単量体(Maa)である請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
さらに(C)水および/または有機溶剤を含有する請求項1または2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
上記高分子重合体(A)が酸性ラジカル重合性単量体(Ma)の単量体単位と、疎水性ラジカル重合性単量体(Mb)の単量体単位とを有する重合体である請求項1〜3のいずれかに記載の歯科用組成物。
【請求項5】
上記高分子重合体(A)が酸性ラジカル重合性単量体(Ma)単量体単位と、アルキル基の炭素数が6以上の長鎖アルキル(メタ)アクリレート単量体(Mc2)の単量体単位、および/またはアルキル基の炭素数が1〜4の短鎖アルキル(メタ)アクリレート単量体(Mc1)の単量体単位とを有する重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の歯科用組成物。
【請求項6】
上記薬剤(B)がテトラサイクリン系抗生物質およびその塩、アクリジン化合物、クロルヘキシジン系化合物、クロラムフェニコール、ペニシリンおよびその塩、ヨード化合物、塩化ベンザルコニウムおよび塩化ベンゼトニウムよりなる群から選択される少なくとも1つの化合物である請求項1〜5のいずれかに記載の歯科用組成物。
【請求項7】
さらに(D)フィラーを含有する請求項1〜6のいずれかに記載の歯科用組成物。
【請求項8】
さらに(E)フッ化化合物を含有する請求項1〜7のいずれかに記載の歯科用組成物。
【請求項9】
さらに(F)結合材を含有する請求項1〜8のいずれかに記載の歯科用組成物。

【公開番号】特開2008−208085(P2008−208085A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47898(P2007−47898)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(592093578)サンメディカル株式会社 (61)
【Fターム(参考)】