説明

歯科用組成物

【課題】塗布時の垂れ落ちが少なく、容器からの採取性が良好な分包型の歯科用組成物を提供すること。
【解決手段】第1のペースト(A)と第2のペースト(B)からなり、前記ペーストのいずれもが、芳香環を有し、水酸基を有する重合性単量体(a)、芳香環を有し、水酸基を有さない重合性単量体(b)、(a)及び(b)以外の重合性単量体(c)ならびに無機充填材(d)を含有してなる分包型の歯科用組成物であって、前記第1のペースト(A)と第2のペースト(B)を1:1の重量比で混合した際に、該混合物において、前記重合性単量体(a)、(b)及び(c)それぞれの含有量が全重合性単量体中、15〜25重量%、55〜65重量%、及び15〜25重量%であり、前記無機充填材(d)の含有量が全重合性単量体100重量部に対して150〜300重量部であり、さらに前記ペーストのいずれか一方が酸化剤、他方が還元剤をそれぞれ含有してなる、分包型の歯科用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科医療の分野において、天然歯の一部分又は全体を代替し得る歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
重合性単量体、無機フィラー及び重合開始剤から構成される歯科材料において、Bis−GMAに代表される芳香環を有し、水酸基を有する重合性単量体と、3Gに代表される芳香環を有さない重合性単量体を含有するものは、歯科用セメント、支台築造材料、充填用コンポジットレジンなどとして、今日最も多用される材料となっている。これら材料の物性、例えば、歯牙に対する接着性、機械的強度等を向上させるための技術が多数開示されている。
【0003】
特許文献1では、α−アミノアセトフェノン系光開始剤を用いてアクリレート系単量体を硬化する事により、機械的強度及び耐着色性に優れる硬化物が得られている。
【0004】
また、コンポジットレジンの硬化反応触媒量に着目して、特許文献2では、有機過酸化物を含有するキャタリストペーストとアミンを含有するユニバーサルペーストに加えて、アミンを特定量含有する硬化時間調整剤を用いる3ペースト型の歯科用コンポジットレジンにより、硬化時間の調整を行っている。
【0005】
また、コンポジットレジンの取り扱い性に着目して、特許文献3では、a)フィラーと、b)重合可能な樹脂と、c)25℃において前記重合可能な樹脂に分散され、分子量が約500〜100,000のポリマー取り扱い性改良剤と、d)重合開始剤とを含む歯科用樹脂セメント材料が開示されている。
【特許文献1】特開平6−345614号公報
【特許文献2】特開平5−148118号公報
【特許文献3】特開2001−510146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
歯科用セメント、支台築造材料、充填用コンポジットレジンなどの歯科材料は、その重合開始反応が酸化還元反応である場合には、酸化剤を含むペーストと還元剤を含むペーストの2ペーストからなる分包型として歯科医に提供されてきた。また、従来技術によれば、歯科用組成物単体の接着性を向上させることは可能である。しかしながら、分包型では、2ペースト混合後の粘性や接着性を調整することが難しいために、塗布時の垂れ落ちや容器への付着等の問題がある。また、取り扱い性を考慮すると、混合ペーストの容器からの採取に抵抗が少ないことも、分包型組成物には求められる。
【0007】
本発明は、塗布時の垂れ落ちが少なく、容器からの採取性が良好な分包型の歯科用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の重合性単量体と無機充填材を特定の比率で配合することにより、塗布時の垂れ落ちが少なく、容器からの採取性が良好な分包型の歯科用組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、第1のペースト(A)と第2のペースト(B)からなり、前記ペーストのいずれもが、芳香環を有し、水酸基を有する重合性単量体(a)、芳香環を有し、水酸基を有さない重合性単量体(b)、(a)及び(b)以外の重合性単量体(c)ならびに無機充填材(d)を含有してなる分包型の歯科用組成物であって、前記第1のペースト(A)と第2のペースト(B)を1:1の重量比で混合した際に、該混合物において、前記重合性単量体(a)、(b)及び(c)それぞれの含有量が全重合性単量体中、15〜25重量%、55〜65重量%、及び15〜25重量%であり、前記無機充填材(d)の含有量が全重合性単量体100重量部に対して150〜300重量部であり、さらに前記ペーストのいずれか一方が酸化剤、他方が還元剤をそれぞれ含有してなる、分包型の歯科用組成物、に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の分包型の歯科用組成物は、塗布時の垂れ落ちが少なく、容器からの採取性が良好であるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の分包型の歯科用組成物は、第1のペースト(A)と第2のペースト(B)からなり、前記ペーストのいずれもが、芳香環を有し、水酸基を有する重合性単量体(a)、芳香環を有し、水酸基を有さない重合性単量体(b)、(a)及び(b)以外の重合性単量体(c)ならびに無機充填材(d)を含有する分包型の歯科用組成物であって、前記第1のペースト(A)と第2のペースト(B)を1:1の重量比で混合した際に、該混合物において、前記重合性単量体(a)、(b)及び(c)ならびに前記無機充填材(d)の含有量が特定範囲内にあることに1つの特徴を有する。
【0012】
芳香環を有し、かつ水酸基を有する重合性単量体(a)は、芳香環及び水酸基を有する重合性単量体であれば特に限定はなく、芳香環数及び水酸基数はそれぞれ独立した数であり、いずれの官能基も少なくとも1個有していればよい。かかる化合物としては、例えば、ビスフェノールA骨格を有し、水酸基を有する重合性単量体が挙げられ、より具体的には、2,2-ビス[4-〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン(以下、Bis−GMAと記載する場合がある)、2-[4-〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]-2-[4-〔2,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ〕フェニル]プロパン(以下、Bis3と記載する場合がある)、2-[4-〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]-2-〔4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル〕プロパン、2-[4-〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]-2-〔4-(メタ)アクリロイルオキシジトリエトキシフェニル〕プロパン、2-[4-〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]-2-〔4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル〕プロパン等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。なかでも、歯科用組成物として用いた場合に歯質との接着力が高くなる観点から、Bis−GMAが好ましい。
【0013】
芳香環を有し、かつ水酸基を有さない重合性単量体(b)は、芳香環を有し、水酸基を有さない重合性単量体であれば特に限定はなく、少なくとも1個の芳香環を有していればよい。かかる化合物としては、例えば、ビスフェノールA骨格を有し、水酸基を有さない重合性単量体が挙げられ、より具体的には、式(I):
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、m及びnはエトキシ基の平均付加モル数を示す0又は正の数であり、mとnの和は好ましくは1〜6、より好ましくは2〜4である)
で表される化合物、例えば、m+n=2.6である2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン(以下、D2.6Eと記載する場合がある)、m+n=6である2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン(以下、D6Eと記載する場合がある)、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシフェニル〕プロパン(m+n=0)、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル〕プロパン(m+n=2)、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル〕プロパン(m+n=4)、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル〕プロパン(m+n=5)等が挙げられる。また、2,2-ビス〔(メタ)アクリロイルオキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル〕プロパン、2-〔4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル〕-2-〔4-(メタ)アクリロイルオキシジトリエトキシフェニル〕プロパン、2-〔4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル〕-2-〔4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル〕プロパン等も例示される。これらは単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。なかでも、重合性単量体の性状(析出性等)の観点から、D2.6E及びD6Eが好ましい。
【0016】
重合性単量体(c)としては、(a)及び(b)以外の重合性単量体であれば特に限定はなく、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2,3-ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(以下、3Gと記載する場合がある)、1,2-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート(以下、DDと記載する場合がある)、N,N’-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)エタン-1-オール〕ジ(メタ)アクリレート(以下、UDMAと記載する場合がある)、N,N’-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6-テトラアクリロイルオキシメチル-4-オキシヘプタンが挙げられる。これらのなかでも、重合性単量体の性状の観点から、3G及びDDが好ましい。
【0017】
また、重合性の向上による硬化物の機械的物性確保の観点から、重合性単量体(a)、(b)及び(c)がジ(メタ)アクリレート系重合性単量体であることが好ましく、それぞれは独立したジ(メタ)アクリレート系重合性単量体である。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを意味する。
【0018】
第1のペーストと第2のペーストを1:1の重量比で混合した際に、該混合物における重合性単量体(a)の含有量は、全重合性単量体中、15〜25重量%であり、好ましくは18〜22重量%である。
【0019】
第1のペーストと第2のペーストを1:1の重量比で混合した際に、該混合物における重合性単量体(b)の含有量は、全重合性単量体中、55〜65重量%であり、好ましくは58〜62重量%である。
【0020】
重合性単量体(a)の重量と重合性単量体(b)の重量の比(重合性単量体(a)/重合性単量体(b))は、1/4〜1/1が好ましく、1/4〜1/2がより好ましい。
【0021】
第1のペーストと第2のペーストを1:1の重量比で混合した際に、該混合物における重合性単量体(c)の含有量は、全重合性単量体中、15〜25重量%であり、好ましくは18〜22重量%である。
【0022】
なお、本発明における全重合性単量体とは、重合性単量体(a)、(b)及び(c)により構成される前記単量体を合わせたものをいう。
【0023】
各ペーストにおける重合性単量体(a)、(b)及び(c)それぞれの含有量は、組成物における総含有量が上記範囲内であれば特に制限されないが、各ペーストの粘度や押し出し応力を均等にすることで取扱性を改善することができる観点から、第1のペースト(A)において、重合性単量体(a)、重合性単量体(b)及び重合性単量体(c)それぞれの含有量が、第1のペースト(A)に含まれる全重合性単量体中、15〜25重量%、55〜65重量%、及び15〜25重量%であり、かつ、第2のペースト(B)において、重合性単量体(a)、重合性単量体(b)及び重合性単量体(c)それぞれの含有量が、第2のペースト(B)に含まれる全重合性単量体中、15〜25重量%、55〜65重量%、及び15〜25重量%であることが好ましい。
【0024】
前記重合性単量体の重合は、各ペーストに含有される酸化剤及び還元剤を用いて公知の方法に従って行うことができる。
【0025】
酸化剤は、第1のペーストと第2のペーストのいずれか一方に含有され、かかる酸化剤としては、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類などの有機過酸化物が有効である。
【0026】
具体的には、ジアシルパーオキサイド類としてはベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド等が挙げられる。パーオキシエステル類としては、例えば、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ビス-t-ブチルパーオキシイソフタレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが挙げられる。
【0027】
ジアルキルパーオキサイド類としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドが挙げられる。パーオキシケタール類としては、例えば、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサンが挙げられる。
【0028】
ケトンパーオキサイド類としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイドが挙げられる。ハイドロパーオキサイド類としては、例えば、t-ブチルハイドロパーオキサイドが挙げられる。
【0029】
上記酸化剤は、単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。
【0030】
酸化剤の含有量は、前記第1のペースト(A)と第2のペースト(B)を1:1の重量比で混合した際に、該混合物における全重合性単量体100重量部に対し、0.25〜1.5重量部であることが好ましく、0.25〜1.0重量部であることがより好ましい。
【0031】
還元剤は、第1のペーストと第2のペーストのいずれか一方で酸化剤を含有していない方に含有され、かかる還元剤としては、芳香族第3級アミン、脂肪族第3級アミン、スルフィン酸またはその塩が有効である。
【0032】
具体的には、芳香族第3級アミンとしては、例えば、ジエタノール-p-トルイジン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-i-プロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-i-プロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-i-プロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸n-ブトキシエチル、4-ジメチルアミノ安息香酸(2-メタクリロイルオキシ)エチルが挙げられる。
【0033】
脂肪族第3級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N,N-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、(2-ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレートが挙げられる。
【0034】
スルフィン酸またはその塩としては、例えば、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、トルエンスルフィン酸、トルエンスルフィン酸ナトリウム、トルエンスルフィン酸カリウム、トルエンスルフィン酸カルシウム、トルエンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウムが挙げられる。
【0035】
上記還元剤は、単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。
【0036】
還元剤の含有量は、前記第1のペースト(A)と第2のペースト(B)を1:1の重量比で混合した際に、該混合物における全重合性単量体100重量部に対し、0.25〜1.25重量部であることが好ましく、0.25〜0.75重量部であることがより好ましい。
【0037】
また、前記重合性単量体の重合は、重合硬化をより反応性を高めて行う観点から、各ペーストに含有される酸化剤及び還元剤に、さらに公知の光重合開始剤を併用して行うことができる。なお、光重合開始剤としては、公知の光重合開始剤を使用することができ、通常、重合性単量体の重合性と重合条件を考慮して選択する。
【0038】
可視光線照射による光重合を行う場合には、α−ジケトン/第3級アミン、α-ジケトン/アルデヒド、α-ジケトン/メルカプタン等の酸化−還元系開始剤が好ましい。光重合開始剤としては、例えば、α−ジケトン/還元剤、ケタール/還元剤、チオキサントン/還元剤等が挙げられる。α−ジケトンの例としては、カンファーキノン、ベンジル、2,3-ペンタンジオンなどが挙げられる。ケタールの例としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等が挙げられる。チオキサントンの例としては、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン等が挙げられる。還元剤の例としては、ミヒラーケトン等;2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N,N-ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエチル〕-N-メチルアミン、N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸ブチル、4-ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチル、N-メチルジエタノールアミン、4-ジメチルアミノベンゾフェノン、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、ジメチルアミノフェナントール等の第三級アミン;シトロネラール、ラウリルアルデヒド、フタルジアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒド等のアルデヒド類;2-メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、4-メルカプトアセトフェノン等のチオサリチル酸、チオ安息香酸等のチオール基を有する化合物等をあげることができる。これらの酸化−還元系に有機過酸化物を添加したα−ジケトン/有機過酸化物/還元剤の系も好適に用いられる。
【0039】
紫外線照射による光重合を行う場合には、ベンゾインアルキルエーテル、ベンジルジメチルケタール等が好適である。さらに、アシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤も好適に用いられる。かかるアシルフォスフィンオキサイドとしては、例えば、ベンゾイルメチルエーテル、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ-(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイドが挙げられる。これらアシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤は、単独もしくは各種アミン類、アルデヒド類またはメルカプタン類、スルフィン酸塩等の還元剤と併用することもできる。上記可視光線の光重合開始剤とも好適に併用することができる。
【0040】
上記光重合開始剤は単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができ、光重合開始剤の含有量は、第1のペースト(A)と第2のペースト(B)を1:1の重量比で混合した際に、該混合物における全重合性単量体100重量部に対して、0.1〜10重量部が好ましく、0.2〜5.0重量部がより好ましい。なお、光重合開始剤は、第1のペーストと第2のペーストのいずれか一方に含有されていても、両方に含有されていてもよく、酸化剤及び還元剤により制限されない。
【0041】
本発明における無機充填材(d)としては、例えば、ケイ素、カルシウム、チタン、鉄、亜鉛、ストロンチウム、ジルコニウ、スズ、バリウム、ランタン、セリウム、ハフニウム、タングステン等の酸化物が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。
【0042】
無機充填材(d)は、ペーストに適度な粘性を付与し、取扱性を向上させる観点から、0.5〜30μmの粒子径を有する粒子の割合が好ましくは95体積%以上、より好ましくは97体積%以上で、体積中位粒径が好ましくは0.7〜10μm、より好ましくは0.7〜5μmである無機粒子であることが望ましい。なお、本明細書において、無機充填材の体積中位粒径及び粒子数の割合は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0043】
無機充填材(d)は、公知の粉砕法又は溶液反応による沈殿生成法により容易に製造することができ、その形状は、破砕状、球状、鱗片状等いずれであってもよく、特に制限されない。
【0044】
また、無機充填材(d)は、適当な表面処理を行ったものであってもよく、表面処理後に他の構成要素と配合されてもよい。例えば、無機充填材として体積中位粒径が0.7〜10μmの無機粒子を表面処理したものと、一次平均粒子径が100nm以下の少量の無機粒子を併用すると、ペースト性状が改善される点や長期保存時におけるペーストの分離が抑制される点で好ましい。一次平均粒子径が100nm以下の無機粒子の含有量は、無機充填剤100重量部に対して1〜10重量部であることが好ましい。なお、表面処理剤としては、公知のカップリング剤、例えば、γ―メルカプトプロピルトリメトキシシランが挙げられ、その添加量は、無機充填材100重量部に対し0.5〜3.0重量部であることが好ましい。
【0045】
無機充填材(d)の含有量は、前記第1のペースト(A)と第2のペースト(B)を1:1の重量比で混合した際に、該混合物における全重合性単量体100重量部に対して150〜300重量部であり、好ましくは200〜300重量部であり、より好ましくは220〜260重量部である。また、各ペーストの粘度や押し出し応力を均等にすることで取扱性を改善することができる観点から、第1のペースト(A)における無機充填材(d)の含有量が、第1のペースト(A)に含まれる全重合性単量体100重量部に対して150〜300重量部であり、かつ、第2のペースト(B)における無機充填材(d)の含有量が、第2のペースト(B)に含まれる全重合性単量体100重量部に対して150〜300重量部であることが好ましい。
【0046】
本発明においては、重合性単量体(a)、(b)及び(c)、無機充填材(d)、酸化剤、ならびに還元剤以外に、重合禁止剤、顔料等を原料として配合してもよい。
【0047】
本発明の組成物は、各ペーストが重合性単量体(a)、(b)及び(c)、ならびに無機充填材(d)を所定の含有量で含有し、かつペーストのいずれか一方が酸化剤、他方が還元剤をそれぞれ含有していれば特に限定はなく、当業者に公知の方法により容易に製造することができる。
【0048】
本発明の組成物のペーストは、通常、使用時に、第1のペーストと第2のペーストをダブルシリンジ等に充填して、ピストンを押すことによりダブルシリンジの先端に装着したスタティックミキサー内で容易に混合することができる。
【0049】
かくして得られる本発明の組成物のペーストは、歯面に対する接着性が良好であり、塗布時の垂れ落ちが少なく、また、容器からの採取性が良好であるという優れた効果を奏するものである。
【0050】
本発明の組成物は、公知の歯面処理剤、ボンディング剤、金属プライマー等と併用することにより、歯面に対する接着性をさらに高めることが出来る。
【実施例】
【0051】
〔無機充填材の体積中位粒径及び粒子数の割合〕
体積中位粒径とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
測定機:粒度分布計SALD−2100(島津製作所製)
解析ソフト:WingSALD
分散液:0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム
分散条件:前記分散液20mLに試料15mgを添加し、超音波分散機にて30分間分散させて、試料分散液を調製する。
測定条件:前記試料分散液を測定し、体積中位粒径及び0.5〜30μmの粒子径を有する粒子数の割合を求める。
【0052】
無機充填材の製造例1
バリウムガラスセラミックス「GM27884」(ショット社製)を振動ボールミルで粉砕し、体積中位粒径3.5μm、0.5〜30μmの粒子径を有する粒子数の割合が99体積%の無機粒子微粉末を得た。得られた無機粒子微粉末100重量部に対して、γ―メルカプトプロピルトリメトキシシラン 1重量部を添加して混合し、表面処理無機粒子を得た。
【0053】
得られた上記の表面処理無機微粒子粉末69重量部に対して、AEROSIL380(一次平均粒子径:約7nm、日本アエロジル社製)1重量部を添加して混合し、0.5〜30μmの粒子径を有する粒子の割合97体積%、体積中位粒径2.1μmである無機微粒子B−1を得た。
【0054】
実施例1〜6及び比較例1〜6
表1に示す原料をペースト毎に混合し、実施例1〜6及び比較例1〜6の第1のペーストと第2のペーストを調製した。得られた各ペーストを用いて、以下の試験例1及び2を行った。結果を表1に示す。
【0055】
なお、表1に示す略号は、以下のことを意味する。
U4TH:N,N’-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス[2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール]テトラメタクリレート
BPO:ベンゾイルパーオキサイド
DEPT:ジエタノール-p-トルイジン
【0056】
〔試験例1〕(塗布時の垂れ性)
実施例1〜6及び比較例1〜6の第1のペーストと第2のペーストをスタティックミキサーによって1:1(第1のペースト:第2のペースト)の重量比で混合後、練和紙上(11.5cm×8.5cm)に得られたペーストを200mg乗せ、練和紙を垂直に立てて1分後にペーストが垂れた長さを測定した。なお、垂れた長さが7mm以下のものが実使用レベルである。
【0057】
〔試験例2〕(容器からの採取性)
MIXPAC社製ダブルシリンジ(品番:ML2.5−08−S)に実施例1〜6及び比較例1〜6の第1のペーストと第2のペーストを充填し、先端にスタティックミキサーを装着した状態でペースト吐出時にかかる応力を、オートグラフ(AG−100kN(島津製作所製))を用いて、クロスヘッドスピード:14mm/minの条件で測定した。なお、吐出応力が40N以下のものが実使用レベルである。
【0058】
【表1】

【0059】
以上の結果より、実施例の歯科用組成物は比較例の歯科用組成物に比べて、塗布時の垂れ性が小さく、かつ吐出応力も小さく容器からの採取性が良好なことが分かる。一方、重合性単量体(a)又は(b)のいずれか一方しか含有しない比較例1〜4は、適度な粘性であっても吐出応力が高すぎたり、吐出応力が適度であっても粘性が低すぎたりと不良なものであった。また、重合性単量体(a)、(b)及び(c)の含有量がそれぞれ、20重量部、60重量部、及び20重量部と適量であっても、無機充填材の含有量に過不足が生じた比較例5、6も、粘性及び接着性と、容器からの採取性とを両立することが困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の歯科用組成物は、歯科医療の分野において、天然歯の一部分又は全体を代替し得るものとして好適に用いられるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のペースト(A)と第2のペースト(B)からなり、前記ペーストのいずれもが、芳香環を有し、水酸基を有する重合性単量体(a)、芳香環を有し、水酸基を有さない重合性単量体(b)、(a)及び(b)以外の重合性単量体(c)ならびに無機充填材(d)を含有してなる分包型の歯科用組成物であって、前記第1のペースト(A)と第2のペースト(B)を1:1の重量比で混合した際に、該混合物において、前記重合性単量体(a)、(b)及び(c)それぞれの含有量が全重合性単量体中、15〜25重量%、55〜65重量%、及び15〜25重量%であり、前記無機充填材(d)の含有量が全重合性単量体100重量部に対して150〜300重量部であり、さらに前記ペーストのいずれか一方が酸化剤、他方が還元剤をそれぞれ含有してなる、分包型の歯科用組成物。
【請求項2】
第1のペースト(A)において、重合性単量体(a)、重合性単量体(b)及び重合性単量体(c)それぞれの含有量が、第1のペースト(A)に含まれる全重合性単量体中、15〜25重量%、55〜65重量%、及び15〜25重量%であり、無機充填材(d)の含有量が、第1のペースト(A)に含まれる全重合性単量体100重量部に対して150〜300重量部であり、かつ、第2のペースト(B)において、重合性単量体(a)、重合性単量体(b)及び重合性単量体(c)それぞれの含有量が、第2のペースト(B)に含まれる全重合性単量体中、15〜25重量%、55〜65重量%、及び15〜25重量%であり、無機充填材(d)の含有量が、第2のペースト(B)に含まれる全重合性単量体100重量部に対して150〜300重量部である、請求項1記載の分包型の歯科用組成物。
【請求項3】
無機充填材(d)が、0.5〜30μmの粒子径を有する粒子の割合が95体積%以上、体積中位粒径が0.7〜10μmである無機粒子である、請求項1又は2記載の分包型の歯科用組成物。
【請求項4】
重合性単量体(a)、(b)及び(c)がジ(メタ)アクリレート系重合性単量体である、請求項1〜3いずれか記載の分包型の歯科用組成物。

【公開番号】特開2008−273889(P2008−273889A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120788(P2007−120788)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【出願人】(301069384)クラレメディカル株式会社 (110)
【Fターム(参考)】