説明

歯科用透明樹脂組成物および歯科用成型体

【課題】本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、歯科用成型体として義歯床、義歯保持材などを口腔内に装用した際、装着感が良好であり、長期に渡る使用に対しても靭性を保持し、成型性に優れ、美的特性にも優れた歯科用透明樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリブタジエン系樹脂(A)および、下記構造単位(a)〜(c)を有する樹脂(B)を含み、ポリブタジエン系樹脂(A)と該樹脂(B)との合計を100重量%とするとき、ポリブタジエン系樹脂(A)を5〜15重量%含むことを特徴とする歯科用透明樹脂組成物;(a)極性基を有する構造単位、(b)極性基を有さない芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、および(c)極性基を有さず、かつスチレン骨格を含まない(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/または(メタ)アクリル酸アリールエステルに由来する構造単位。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用透明樹脂組成物および歯科用成型体に関する。さらに詳しくは、本発明は、ポリブタジエンで靭性を付与された歯科用透明樹脂組成物および該組成物を成型してなる歯科用成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科分野では、従来、義歯床、義歯保持材などを製造するための材料としてエチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物、シクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリアセタール樹脂などの歯科用高分子が提案され、実際にその一部が使用されている。
【0003】
エチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物は、適度な強度を有し、安全性が高い歯科用補綴物として特許文献1に記載されている。
特定のシクロオレフィン樹脂は、装用感に優れることから、マウスピースや義歯保持材および義歯床などの歯科用樹脂材料として好適であることが特許文献2に記載されている。シクロオレフィン樹脂は、低免疫原性および低細胞毒性であることから生体適合性に優れ、かつ成型性が良好なことから、歯科用樹脂材料として従来から好適に使用されてきた。
【0004】
しかしながら、このような樹脂を歯科用途とする場合、すなわち吻合時圧力などに対する充分な強度が必要とされる、特に、義歯、義歯床、義歯保持材、クラウン、歯科用矯正具、マウスピース、クラスプなどに用いる場合、これら樹脂は必ずしもその強度が充分であると言えるものではなかった。
【0005】
ポリカーボネート樹脂は、特許文献3に、義歯床として用いる場合に成型性が優れ、歯科用高分子材料として丸みのある形状に成形されたものが記載されている。ポリカーボネート樹脂は、機械的強度、耐熱性などに優れており、歯科材料(義歯、義歯保持材、クラウン、歯科用矯正具、マウスピース、クラスプなど)として着色が可能であるとの特徴を有する。
【0006】
しかしながら、ポリカーボネート樹脂は比較的硬度が高く、その歯科樹脂成型体は装用に際し、口内歯肉組織などとの適合性に劣り、長期装用に際し患者に不快感を生ずる症例が多く、極度の場合は装用を中止する事態を生ずるなど、患者に不利益を与えるおそれがある。また、装用により、繰返し圧力が樹脂成型体にかかり、当初は緩みとして知覚されるが、長期に渡る装用により、樹脂成型体の欠損、回復不可能な撓み、変形を生じ、患者の装用不快感を高めるとともに、装用中止の大きな原因となっていた。
【0007】
ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート樹脂などもポリカーボネート樹脂と同様な問題を抱えている。
ところで、樹脂成型体の撓み、変形に対しては、その撓み、変形が小さな場合、通常歯科技工士による矯正処置が取られる。その矯正処置の多くは歯科用冶具により機械的に撓み、変形を元に戻す修正方法が採用されている。
【0008】
しかしながら、従来のシクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリアセタール樹脂などは、本来的に靭性に乏しく、機械的修正に対しての許容幅が小さく、ときには成型体を欠損させ、あるいは回復不可能な変形を生ずることで、治療上の障害になっていたばかりか、患者にとり大きな不利益
を生じさせる原因となっていた。
【0009】
また、比較的近距離から見られる場所で歯の働きがなされる場合、美的特性(例えば、透明性や艶)が必要であるが、これまで、義歯床、義歯保持材などの歯科用材料としての適度な強度、装用感と美的特性を兼ね備えた歯科材料が得られていなかった。
【特許文献1】特開2008−74842号公報
【特許文献2】特開2007−261970号公報
【特許文献3】特開平7−88120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、歯科用成型体として義歯床、義歯保持材などを口腔内に装用した際、装着感が良好であり、長期に渡る使用に対しても靭性を保持し、成型性に優れ、美的特性にも優れた歯科用透明樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、歯科用透明樹脂組成物に、エラストマーとしてポリブタジエン系樹脂、および基材として特定の構造を有する樹脂を含有させることによって、該組成物を成型してなる歯科用成形体の靭性が優れ、光透過率が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の歯科用透明樹脂組成物は、ポリブタジエン系樹脂(A)および、下記構造単位(a)〜(c)を有する樹脂(B)を含み、ポリブタジエン系樹脂(A)と該樹脂(B)との合計を100重量%とするとき、ポリブタジエン系樹脂(A)を5〜15重量%含むことを特徴とする。
【0013】
(a)極性基を有する構造単位、
(b)極性基を有さない芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、および
(c)極性基を有さず、かつスチレン骨格を含まない(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/または(メタ)アクリル酸アリールエステルに由来する構造単位。
【0014】
上記樹脂(B)は、上記構造単位(a)を1〜15重量%、上記構造単位(b)を10〜30重量%、および上記構造単位(c)を55〜89重量%含むことが好ましい。
また、本発明の歯科用成型体は、上記歯科用透明樹脂組成物を成型してなることを特徴とし、義歯、義歯保持材、義歯床、クラウン、歯科用矯正具、マウスピースまたはクラスプであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の歯科用透明樹脂組成物は成型性に優れ、さらに該組成物を成型してなる本発明の歯科用成型体は、適度な曲げ弾性率を有し、靭性に優れるため、口腔内組織との優れた親和性を示し、装用感が良好であり、しかも長期装用に対する優れた耐久性を有し、従来のポリメチルメクリレート、ポリカーボネート、ポリアセタール樹脂、シクロオレフィン樹脂、エチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物などの欠点を解決できる。
【0016】
特に、本発明の歯科用成型体は、高靭性に基づく良好な耐久性が得られるため、義歯、義歯保持材、義歯床、クラウン、歯科用矯正具、マウスピース、クラスプなどの歯科用成型体を製造するのに好適である。
【0017】
なお、本発明において「靭性に優れる」とは、衝撃試験(例えば、アイゾット衝撃試験
、シャルピー衝撃試験など)による耐衝撃強度が高く、かつ曲げ荷重を加えた際、適度にたわむことを言い、耐衝撃強度と曲げ弾性率とのバランス性に富むとも換言できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の歯科用透明樹脂組成物について具体的に説明する。
<歯科用透明樹脂組成物>
本発明の歯科用透明樹脂組成物は、ポリブタジエン系樹脂(A)、および下記構造単位(a)〜(c)を有する樹脂(B)を含み、ポリブタジエン系樹脂(A)と該樹脂(B)との合計を100重量%とするとき、ポリブタジエン系樹脂(A)を5〜15重量%含むことを特徴とするものである。
【0019】
(a)極性基を有する構造単位、
(b)極性基を有さない芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、および
(c)極性基を有さず、かつスチレン骨格を含まない(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/または(メタ)アクリル酸アリールエステルに由来する構造単位。
【0020】
[ポリブタジエン系樹脂(A)]
本発明の歯科用透明樹脂組成物を成型してなる歯科用成型体において、ポリブタジエン系樹脂(A)は、主に靭性に寄与するエラストマーとしてはたらき、ガラス転移点温度〔Tg〕が好ましくは10℃以下、より好ましくは0℃以下、特に好ましくは−10℃以下である。
【0021】
ポリブタジエン系樹脂(A)のTgが10℃を超えると、上記樹脂(B)に対して充分な靭性を付与することができないおそれがある。
このようなポリブタジエン系樹脂(A)としては、例えば、ポリブタジエン、ポリブタジエンイソプレン、ポリスチレンブタジエン、ポリアクリロニトリルブタジエン、水素添加ポリアクリロニトリルブタジエン、スチレン-ブタジエンブロックコポリマー、水素添
加スチレン−ブタジエンブロックコポリマーなどが挙げられる。
【0022】
これらのうち、得られる歯科用成型体の靭性が向上する観点から、ポリブタジエン、ポリブタジエンイソプレン、ポリスチレンブタジエン、ポリアクリロニトリルブタジエン、スチレン−ブタジエンブロックコポリマーおよび水素添加スチレン−ブタジエンブロックコポリマーが好ましい。
【0023】
これらポリブタジエン系樹脂は、1種単独で用いてもよく、また目的に応じて特性を制御するために適宜2種以上ブレンドしてもよい。
ポリブタジエン系樹脂(A)の含有量は、ポリブタジエン系樹脂(A)と下記「樹脂(B)」との合計を100重量%とするとき、5〜15重量%、好ましくは7〜13重量%、より好ましくは8〜12重量%である。
【0024】
ポリブタジエン系樹脂(A)の含有量が5重量%未満であると、得られる歯科用成型体の靭性が充分でなく、また15重量%を超えると、得られる歯科用成型体の強度に劣る場合がある。
【0025】
(ポリブタジエン系樹脂(A)の重合方法)
ポリブタジエン系樹脂(A)の重合方法としては、例えば、溶液重合、乳化重合などが挙げられる。
【0026】
また、ポリブタジエン系樹脂(A)は、200〜400nmの体積平均粒子径を有するポリブタジエン系樹脂(A)の微粒子を5〜80重量部含有するラテックスが、靭性付与
の点から好適である。
【0027】
[樹脂(B)]
本発明の歯科用透明樹脂組成物を成型してなる歯科用成型体において、主に基材として機能する「(a)極性基を有する構造単位、(b)極性基を有さない芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、および(c)極性基を有さず、かつスチレン骨格を含まない(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/または(メタ)アクリル酸アリールエステルに由来する構造単位を有する樹脂(B)」(以下、単に「樹脂(B)」ともいう。)は、非結晶性樹脂の場合、ガラス転移点温度〔Tg〕が好ましくは80℃以上、より好ましくは90〜330℃、特に好ましくは95〜300℃であり、結晶性樹脂の場合、結晶融点温度〔MP〕が好ましくは100℃以上、より好ましくは110〜340℃、特に好ましくは120〜320℃である。
【0028】
なお、本発明において「非結晶性樹脂」とは、明確な融点を示さない樹脂を指し、「結晶性樹脂」とは、明瞭な結晶性を示す(すなわち、X線回折が認められる)樹脂を指す。
樹脂(B)は、構造単位(a)〜(c)の合計を100重量%とするとき、該構造単位(a)〜(c)それぞれの含有率として、該構造単位(a)は1〜15重量%が好ましく、5〜12重量%がより好ましい;該構造単位(b)は10〜30重量%が好ましく、15〜28重量%がより好ましい;該構造単位(c)は55〜89重量%が好ましく、60〜80重量%がより好ましい。
【0029】
該構造単位(a)〜(c)それぞれの含有率が上記範囲内であると、樹脂(B)は歯科成形体に強度を付与する点から好適である。
((a)極性基を有する構造単位)
「(a)極性基を有する構造単位」とは、極性基として、例えば、水酸基、フェノール性水酸基、カルボキシル基、ニトリル基(シアノ基)などを有する単量体に由来する構造単位であって、このような構造単位としては、例えば、
3−ヒドロキシスチレン、4−ヒドロキシスチレン、ビニル−4−ヒドロキシベンゾエート、3−イソプロペニルフェノール、4−イソプロペニルフェノール等のフェノール性水酸基を有する単量体に由来する構造単位;
2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに由来する構造単位;
(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸に由来する構造単位;
マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸等のジカルボン酸に由来する構造単位;
2−マレイノロイルオキシエチルメタクリレート、2−サクシノロイルオキシエチルメタクリレート、2−ヘキサヒドロフタロイルオキシエチルメタクリレート等のカルボキシル基およびエステル結合を有するメタクリル酸誘導体に由来する構造単位;
アクリロニトリルに由来する構造単位などが挙げられる。
【0030】
構造単位(a)として、このような構造単位を1種単独で含むこともでき、2種以上を含むこともできる。
((b)極性基を有さない芳香族ビニル化合物に由来する構造単位)
「(b)極性基を有さない芳香族ビニル化合物に由来する構造単位」とは、芳香族環の環構成原子に直接結合している水素原子がビニル基に置換されている化合物に由来する構造単位であって、このような構造単位としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレンなどに由来する構造単位が挙げられる。
【0031】
構造単位(b)として、このような構造単位を1種単独で含むこともでき、2種以上を含むこともできる。
((c)極性基を有さず、かつスチレン骨格を含まない(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/または(メタ)アクリル酸アリールエステルに由来する構造単位)
「極性基を有さず、かつスチレン骨格を含まない(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位」としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位が挙げられる。
【0032】
「極性基を有さず、かつスチレン骨格を含まない(メタ)アクリル酸アリールエステル」としては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アリールエステルに由来する構造単位が挙げられる。
【0033】
構造単位(c)として、このような構造単位を1種単独で含むこともでき、2種以上を含むこともできる。
(樹脂(B)の重合方法)
樹脂(B)の重合方法としては、例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合などが挙げられる。これらのうち、得られる樹脂の特性、コストの観点から、乳化重合が好適である。
【0034】
樹脂(B)を重合する際、上記構造単位(a)〜(c)それぞれに導かれる単量体(a)〜(c)の仕込み比としては、単量体(a)は1〜15重量%が好ましく、5〜12重量%がより好ましい;単量体(b)は10〜30重量%が好ましく、15〜28重量%がより好ましい;単量体(c)は55〜89重量%が好ましく、60〜80重量%がより好ましい。ただし、単量体(a)〜(c)の合計を100重量%とする。
【0035】
樹脂(B)を重合する際に用いられる「重合溶媒」として、例えば、
メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;
テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールのアルキルエーテル類;
エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート等の多価アルコールのアルキルエーテルアセテート類;
トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;
酢酸エチル、酢酸ブチル、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−3−メチルブタン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル等のエステル類などが挙げられる。
【0036】
これらのうち、環状エーテル類、多価アルコールのアルキルエーテル類、多価アルコールのアルキルエーテルアセテート類、ケトン類、エステル類が好ましい。
樹脂(B)を重合する際に用いられる「ラジカル重合開始剤」としては、特に限定されず、従来公知のものであってもよく、例えば、
2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス−(4−メトキシ−2,−ジメチルバレロニトリル)
等のアゾ化合物;
ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシピバレート、1,1'−ビス−(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、ジイソプロピルベンゼン
ハイドロペルオキシド、クメンハイドロペルオキシド等の有機過酸化物;過酸化水素などが挙げられる。
【0037】
過酸化物をラジカル重合開始剤として用いる場合、還元剤を組み合わせてレドックス型の開始剤として用いてもよい。
これらの樹脂(B)は、1種単独でも用いても、また目的に応じ特性を制御するため適宜2種以上ブレンドしてもよい。
【0038】
樹脂(B)の、JIS K7113に準拠して測定した最大伸びは、好ましくは5〜300%であり、より好ましくは8〜200%である。
樹脂(B)の最大伸びが上記範囲内であると、得られる歯科用透明樹脂組成物を成型してなるクラスプ付き義歯の取り外しをスムーズに実施できるため好適である。
【0039】
[歯科用透明樹脂組成物]
本発明の歯科用透明樹脂組成物は、上述したように、上記「ポリブタジエン系樹脂(A)」および上記「樹脂(B)」を含み、該(A)と該(B)との合計を100重量%とするとき、(A)の含有率が5〜15重量%であることを特徴とするものである。
【0040】
このような歯科用透明樹脂組成物は、(i)樹脂(B)をあらかじめ合成した後、ポリブタジエン系樹脂(A)を機械的に混練・混合する方法、(ii)ポリブタジエン系樹脂(A)と樹脂(B)とをそれぞれ溶剤に溶解した後に混合し、溶剤を蒸発除去する方法、(iii)樹脂(B)中にポリブタジエン系樹脂(A)からなる微粒子を微分散させる方法などを用いることによって調製することができる。
【0041】
(iii)の方法として、具体的には、下記(1)〜(4)が例示できる。
(1)乳化重合によりモノマーと必要に応じ架橋剤成分とを重合し、ポリブタジエン系樹脂(A)の微粒子懸濁液を調製し、次いでこの微粒子懸濁液に樹脂(B)となるモノマーと必要に応じ乳化剤とをともに仕込み重合を行い、その後硫酸および/または塩化ナトリウムなどによる酸塩凝固によりポリマー分を析出させ、析出物の洗浄、乾燥工程を経て、ポリブタジエン系樹脂(A)の微粒子が微分散した樹脂(B)を含む歯科用透明樹脂組成物が得られる。
【0042】
(2)乳化重合によりポリブタジエン系樹脂(A)の微粒子懸濁液を調製し、別途乳化重合により得られた樹脂(B)の懸濁液に混合し、酸塩凝固の後、洗浄、乾燥工程を経て、ポリブタジエン系樹脂(A)を微分散した樹脂(B)を含む歯科用透明樹脂組成物が得られる。
【0043】
(3)ポリブタジエン系樹脂(A)が微分散した樹脂(B)を調製後、再度混練する。
(4)適宜溶剤を使用して溶液とした状態で新たな樹脂に添加し、希釈し調製する。
一般的に、ポリブタジエン系樹脂(A)のようなエラストマーが、樹脂(B)のような基材に均一に溶解分散しているものより、微分散しているものの方が、より優れた靭性を発揮することができる。
【0044】
ただし、本発明は、上記(i)〜(iii)に記載の方法に限定されることはなく、歯科用途に合わせて、ポリブタジエン系樹脂(A)を樹脂(B)に分散または相溶させる方法の中から適宜選択することができる。
【0045】
本発明の歯科用透明樹脂組成物は、さらに機械的強度を向上させ、曲げ強度、曲げ弾性率、伸び率、耐衝撃性のバランスに優れたものとするために、フィラーが添加されていてもよい。
【0046】
歯科用透明樹脂組成物中のフィラーの含有率は、得られる歯科用透明樹脂組成物の全光線透過率が70%以上であり、曲げ強度と曲げ弾性率とのバランスが良好なことから、3〜30重量%が好ましく、5〜25重量%がより好ましい。
【0047】
歯科用透明樹脂組成物中のフィラーの含有率が30重量%を超えると、曲げ強度および曲げ弾性率は大きくなるが、吸水性が増加して接着強度が低下する場合があり、3重量%未満では目的とする機械的強度が上記の物性バランスを達成することが困難な場合がある。
【0048】
フィラーとしては、有機系、無機系;繊維状、粒子状などを問わず目的に適したものを用いることができ、例えば、アラミド繊維、ビニロン繊維、アルミナ、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドなどが挙げられる。
【0049】
無機系のフィラーの具体例としては、マイカ、タルク、ウオラストナイト等の天然物;シリカ、ガラス、石英、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、硫酸バリウムなど珪酸、炭酸塩、金属酸化物などである。
【0050】
繊維状のフィラーの具体例としては、シリカ、ガラス、繊維状強化剤などである。
粒子状のフィラーの具体例としては、アルミナなどである。
これらフィラーは、1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0051】
本発明の歯科用透明樹脂組成物は、フィラー以外にその目的を損なわない範囲で、歯科用途に適した着色剤、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、フッ素系の汚れ防止剤、抗菌剤、ステアリン酸アミドなどの可塑剤、熱安定剤などを配合することができる。
【0052】
<歯科用成型体>
本発明の歯科用成型体は、上記「歯科用透明樹脂組成物」を成型してなることを特徴とするものであり、該成形体の具体例としては、義歯、義歯保持材、義歯床、クラウン、歯科用矯正具、マウスピース、クラスプなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
また、本発明の歯科用成型体は、美粧または傷の保護の観点から、その表面を塗料で着色する、または保護剤を塗布することができる。
(歯科用成型体の成型方法)
本発明の歯科用成型体の成型方法は、特に限定されるものではないが、一般的な射出成型機を用い、樹脂(B)のガラス転移温度〔Tg〕以上の温度、例えば200〜350℃程度のシリンダー温度にて溶融させ、加温された金型内に射出して成型を行う射出成型法が望ましい。
【0054】
その他の成型方法として、例えば、トランスファー成型法、押出成型法など公知の成型方法であってもよく、また適切な溶剤に溶解後、鋳型に流し込み、該溶剤を蒸発除去する
ことによっても歯科用成型体を得られる。
【0055】
義歯、義歯床、矯正用マウスピース、保護用マウスピースなどの作製方法については、一般に公知の方法を採用することができ、義歯床について例示すると以下のようになる。
患者の口腔内の形状をシリコンエラストマーのような硬化性エラストマー状物質で型取りを行う。この型に石膏を流し込み、患者の口腔内の形状を模った印象模型を作製する。この模型を咬合器にあてはめ、患者から採取した咬み合せ型をもとに義歯を配列し、その後ワックス義歯の作製の工程を経て、義歯床型を作製する。次いでこの鋳型に義歯床用の樹脂を流し込み、義歯床を得る。
【0056】
マウスピースも同様の方法で作製することができる。
歯科用矯正具、ブリッジ、クラスプなどの係留部品の成型には、通常、溶融成型法により製造される。溶融成型法は、公知の方法であってもよく、上述の射出成型法、トランスファー成型法、押出成型法などが挙げられ、また歯科用透明樹脂組成物が少量の場合は手作業による型への流し込み、ショッティングの方法であってもよい。
【0057】
ブリッジやクラスプのような係留部品を成型する際、まず金属製の係留部材を有する義歯を患者に装着し、その装着具合を調整後、係留部品を作製することが好ましい。
ブリッジ、クラスプのような係留部品の形状については、固定する部位に適した形状を選択することができるが、固定の確実さ、口腔内への刺激の軽減、強度の確保の点から、0.1〜4mm程度の棒状の形状が好適であり、その先端は口腔内での固定を確実にし、違和感を低減させる目的から、通常テーパー状に加工する。
【0058】
(歯科用成形体の特性)
歯科用成型体の曲げ弾性率は、長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの形状に成型した試験片を用いる場合、好ましくは1,600〜3,200MPa、より好ましくは1,800〜3,000MPa、特に好ましくは1,900〜2,800MPaである。
【0059】
なお、曲げ弾性率は、(株)島津製作所製のオートグラフAG−50Bを用いて、テストスピード5mm/minの速度で、JIS K7171に準拠し測定したものである。
歯科用樹脂材料の曲げ弾性率が上記範囲内であると、クラスプ付き義歯の固定が安定化するため好適である。
【0060】
歯科用成型体の耐衝撃強度は、長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの形状に成型し、2mmのノッチを入れたものを試験片として用いる場合、好ましくは40〜800J/m、より好ましくは60〜700J/m、特に好ましくは70〜600J/mである。
【0061】
なお、耐衝撃強度は、JIS K7110に記載のアイゾッド衝撃強さの試験方法に従い測定したものである。
歯科用成型体の耐衝撃強度が上記範囲内であると、固い食べ物を食した時にもクラスプ部の欠損を生じないため好適である。
【0062】
歯科用成型体の全光線透過率は、長さ50mm×幅50mm×厚さ3mmの形状に調製した試験片を用いる場合、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは89%以上である。
【0063】
なお、全光線透過率は、JIS K7105に記載の全光線透過率の試験方法に従い測定したものである。
歯科用成型体の全光線透過率が上記範囲内であると、美的特性付与の点から好適である。
【0064】
歯科用成形体としての鈎部(クラスプ)付き人工歯を、患者が終日装用し、通常の食事を伴う日常生活送り評価した場合、鈎部の欠損・緩みが認められないことが好ましい。
なお、このような鈎部(クラスプ)付き人工歯は、以下の方法に従い製造されたものとする。
【0065】
まず、歯科用樹脂材料を溶融ポットに仕込み加熱し、溶融させる。あらかじめ、歯欠損部の口腔型から人工歯を作製しておき、その人工歯を患者の健常な歯に固定できるよう、金属製のワイヤーにて鈎部(クラスプ)を作製する。この金属製のワイヤーからなる鈎部(クラスプ)を元にして石膏鋳型を作製し、溶融させた樹脂を石膏鋳型に流し込む。冷却後石膏型から樹脂部を取り外し、洗浄を経て、樹脂製の鈎部(クラスプ)が得られる。
【実施例】
【0066】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこの実施例により限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、断りがない限り、それぞれ「重量部」および「重量%」を表す。
【0067】
実施例・比較例で得られた歯科用成型体について、下記に従って各物性値を測定し、鈎部(クラスプ)付き人口歯の装用を評価した。
(1)曲げ弾性率
まず、得られた樹脂を射出成型機にて、長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの形状に成型し試験片とした。
【0068】
次に、(株)島津製作所製のオートグラフAG−50Bを用いて、テストスピード5mm/minの速度で、JIS K7171に準じて該試験片の曲げ弾性率を測定し、n=5点の平均値から曲げ弾性率(GPa)とした。
【0069】
(2)耐衝撃強度
まず、得られた樹脂を射出成型機にて、長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの形状に成型し、2mmのノッチを入れ、試験片を作製した。
【0070】
次に、JIS K7110に記載のアイゾッド衝撃強さの試験方法に従い、該試験片の耐衝撃強度(J/m)を測定した。
(3)全光線透過率
まず、得られた樹脂を射出成型機にて、長さ50mm×幅50mm×厚さ3mmの形状に成型し、試験片を作製した。
【0071】
次に、JIS K7105に記載の全光線透過率の試験方法に従い、該試験片の全光線透過率(%)を測定した。
(4)鈎部(クラスプ)付き人工歯の装用評価
得られた樹脂を溶融ポットに仕込み加熱し、溶融させた。
【0072】
あらかじめ、歯欠損部の口腔型から人工歯を作製しておき、その人工歯を患者の健常な歯に固定できるよう、金属製のワイヤーにて鈎部(クラスプ)を作製した。
この金属製のワイヤーからなる鈎部(クラスプ)を元にして石膏鋳型を作製し、溶融させた樹脂を石膏鋳型に流し込んだ。冷却後石膏型から樹脂部を取り外し、洗浄を経て、樹脂製の鈎部(クラスプ)が得られ、あらかじめ作製した人工歯に歯科用接着剤で固定した。
【0073】
この樹脂製の鈎部(クラスプ)付き人工歯を患者が装用し、通常の食事を伴う日常生活
を終日過ごし、以下の基準により評価した。
○:鈎部の欠損・緩みが認められない。
【0074】
△:鈎部の欠損または緩みが認められる。
×:鈎部の欠損・緩みが認められる。
[合成例1](樹脂(B−1)の合成)
内容積30リットルのリボン翼を備えたジャケット付き重合反応器を2基連結し、窒素置換した後、1基目の重合反応器にスチレン21部、アクリロニトリル7部、メタクリル酸メチル72部およびトルエン20部を連続的に投入した。
【0075】
次いで、分子量調節剤としてtert−ドデシルメルカプタン0.1部をトルエン5部に溶解させた溶液、および重合開始剤として1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−
カーボニトリル)0.1部をトルエン5部に溶解させた溶液を連続的に供給した。
【0076】
1基目の重合反応器の温度は110℃に制御し、平均滞留時間を2時間として重合させた。重合転化率は60%であった。
その後、得られた重合体溶液から、1基目の重合反応器の外部に設けられたポンプにより、スチレン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、トルエン、分子量調節剤および重合開始剤の合計供給量と同量を連続的に取り出し、2基目の重合反応器に供給した。
【0077】
この2基目の重合反応器における重合温度は130℃、平均滞留時間は2時間として重合させた。重合転化率は80%であった。
つづいて、2基目の重合反応器から重合体溶液を取り出し、この重合体溶液を直接2軸3段ベント付き押出機に供給し、未反応単量体および溶媒を除去し、樹脂(B−1)を得た。
【0078】
得られた樹脂(B−1)の組成は、IRチャートのピーク比からスチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル=28%/5%/67%であることがわかった。また、樹脂(B−1)のアセトン可溶分の極限粘度〔η〕は0.25dL/gであり、ガラス転移温度〔Tg〕は101℃であった。
【0079】
[合成例2](樹脂(B−2)の合成)
撹拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、イオン交換水100部、ロジン酸カリウム1部、tert−ドデシルメルカプタン0.5部、スチレン5部およびメタクリル酸メチル15部を投入し、撹拌しながら昇温させた。
【0080】
温度が50℃となった時点で、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.2部、硫酸第1鉄0.01部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート・2水和物0.2部およびイオン交換水10部からなる活性剤水溶液と、クメンハイドロペルオキシド0.2部とを添加し、1時間反応させた。
【0081】
その後、スチレン15部、メタクリル酸メチル47部およびクメンハイドロペルオキシド0.2部を4時間かけて、連続的に添加しながら反応を継続した。反応後の単量体の重合転化率は96%であった。
【0082】
次に、反応生成物を90℃まで昇温し、36%塩化カルシウム水溶液で凝固させ、得られたスラリーを95℃まで昇温させて5分間保持した。つづいて、これを水洗した後、脱水し、75℃で24時間乾燥させ、粉末状の樹脂(B−2)を得た。
【0083】
得られた樹脂(B−2)について、アセトン可溶分の組成は、IRチャートのピーク比
からスチレン/メタクリル酸メチル=26.9%/73.1%であり、ガラス転移温度〔Tg〕は103℃であった。
【0084】
[合成例3](樹脂(B−3)の合成)
攪拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、イオン交換水100部、ロジン酸カリウム2部、tert−ドデシルメルカプタン0.5部、スチレン4部、アクリロニトリル2部およびメタクリル酸メチル15部を投入し、攪拌しながら昇温させた。
【0085】
温度が50℃となった時点で、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.2部、硫酸第1鉄0.05部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート・2水和物0.2部およびイオン交換水10部よりなる活性剤水溶液と、ジイソプロピルベンゼンハイドロペルオキシド0.2部とを添加し、1時間反応させた。
【0086】
その後、スチレン8部、アクリロニトリル8部、メタクリル酸メチル45部およびジイソプロピルベンゼンハイドロペルオキシド0.2部を4時間かけて、連続的に添加しながら反応を継続した。反応後の単量体の重合転化率は96%であった。
【0087】
その後、反応生成物を90℃まで昇温し、36%塩化カルシウム水溶液で凝固させ、得られたスラリーを95℃まで昇温させて5分間保持した。つづいて、これを水洗した後、脱水し、75℃で24時間乾燥させ、粉末状の樹脂(B−3)を得た。
【0088】
得られた樹脂(B−3)について、アセトン可溶分の組成は、IRチャートのピーク比からスチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル=14.0%/11.1%/74.9%であり、ガラス転移温度〔Tg〕は104℃であった。
【0089】
[合成例4](ポリブタジエンの合成)
攪拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、イオン交換水200部、ブタジエン100部、オレイン酸カリウム1部、過硫酸カリウム0.2部、および炭酸カリウム0.1部を投入し、50℃に加温し40時間乳化重合を行ってポリブタジエンを合成した。
【0090】
[調製例1](ポリブタジエン微粒子が微分散した樹脂の調製)
攪拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、イオン交換水100部、ロジン酸カリウム2部、tert−ドデシルメルカプタン0.5部、体積平均粒子径280nmのポリブタジエンエラストマーラテックス18部(固形分換算)、スチレン4部、アクリロニトリル2部及びメタクリル酸メチル15部を投入し、攪拌しながら昇温させた。温度が50℃となった時点で、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.2部、硫酸第1鉄0.05部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート・2水和物0.2部及びイオン交換水10部よりなる活性剤水溶液、並びにジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.2部を添加し、1時間反応させた。その後、スチレン8部、アクリロニトリル8部、メタクリル酸メチル45部及びジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.2部を4時間かけて、連続的に添加しながら反応を継続した。反応後の単量体の重合転化率は96%であった。
【0091】
その後、反応生成物であるラテックスを90℃まで昇温し、36%塩化カルシウム水溶液で凝固させ、得られたスラリーを95℃まで昇温させて5分間保持した。次いで、これを水洗し、その後、脱水し、75℃で24時間乾燥させ、ポリブタジエン微粒子が微分散した樹脂を得た。得られた樹脂のアセトン可溶分の組成は、IRチャートのピーク比からスチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル=14.0%/11.1%/74.9%であり、ガラス転移温度〔Tg〕は105℃であった。
【0092】
[実施例1](歯科用成型体(C−1)の製造)
調製例1で得られた「ポリブタジエン微粒子が微分散した樹脂」56部に、さらに合成例1で得られた樹脂(B−1)44部をヘンシェルミキサーにより混合した。
【0093】
その後、この混合物を2軸押出機に導入して、温度200〜240℃で溶融混練し、ペレット状の歯科用成型体(C−1)を得た。
得られた歯科用成型体(C−1)の各物性値および装用評価の結果を表1に示す。
【0094】
[実施例2](歯科用成型体(C−2)の製造)
合成例4で得られたポリブタジエン10質量部と、樹脂(B−1)90質量部とをヘンシェルミキサーにより混合した。
【0095】
この混合物を2軸押出機に導入して、温度200〜240℃で溶融混練し、ペレット状の歯科用成型体(C−2)を得た。
得られた歯科用成型体(C−2)の各物性値および装用評価の結果を表1に示す。
【0096】
[比較例1](歯科用成型体(C−3)の製造)
樹脂(B−2)56部と、樹脂(B−1)44部とをヘンシェルミキサーにより混合した。
【0097】
この混合物を2軸押出機に導入して、温度200〜240℃で溶融混練し、ペレット状の歯科用成型体(C−3)を得た。
得られた歯科用成型体(C−3)の各物性値および装用評価の結果を表1に示す。
【0098】
[比較例2](歯科用成型体(C−4)の製造)
樹脂(B−3)56部と、樹脂(B−1)44部とをヘンシェルミキサーにより混合した。
【0099】
この混合物を2軸押出機に導入して、温度200〜240℃で溶融混練し、ペレット状の歯科用成型体(C−4)を得た。
得られた歯科用成型体(C−4)の各物性値および装用評価の結果を表1に示す。
【0100】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の歯科用成型体は、成型性、装用感、靭性に優れ、かつ審美性も兼ね備えることから、義歯、義歯保持材、クラウン、歯科用矯正具、矯正用マウスピース、保護用マウスピース、クラスプなどに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブタジエン系樹脂(A)および、下記構造単位(a)〜(c)を有する樹脂(B)を含み、
ポリブタジエン系樹脂(A)と該樹脂(B)との合計を100重量%とするとき、ポリブタジエン系樹脂(A)を5〜15重量%含むことを特徴とする歯科用透明樹脂組成物;
(a)極性基を有する構造単位、
(b)極性基を有さない芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、および
(c)極性基を有さず、かつスチレン骨格を含まない(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/または(メタ)アクリル酸アリールエステルに由来する構造単位。
【請求項2】
上記樹脂(B)が、上記構造単位(a)を1〜15重量%、上記構造単位(b)を10〜30重量%、および上記構造単位(c)を55〜89重量%含むことを特徴とする請求項1に記載の歯科用透明樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の歯科用透明樹脂組成物を成型してなることを特徴とする歯科用成型体。
【請求項4】
義歯、義歯保持材、義歯床、クラウン、歯科用矯正具、マウスピースまたはクラスプであることを特徴とする請求項3に記載の歯科用成型体。