説明

歯科用針状治療器具

【課題】本発明は、生理的根尖孔541とアピカルシート55との距離55tが所望の距離になるように、アピカルシート55を形成することのできる針状治療器具10を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、電気的根管長測定器20に接続して使用される針状治療器具10であって、前記針状治療器具10は、根管52を拡大するためのらせん溝が形成された溝領域12と、前記溝領域12の先端12aに設けられ、生理的根尖孔541の内径より小径の根管孔検出部14と、を含み、電気的根管長測定器20によって、前記根管孔検出部14が前記生理的根尖孔541に達したことを検出することを可能としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯牙の根管治療に使用される針状治療器具であり、特に、適切な根管形成に適した針状治療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
虫歯が進行して根管内の神経組織にまで達している場合や、以前に治療した神経組織や根管が細菌感染して、歯根の周囲の組織(歯槽骨、歯根膜など)が炎症を起こしている場合には、根管内の感染源を除去する治療(根管治療)を行う必要がある。根管治療では、根管内に針状治療器具(ファイル、リーマ等)を挿入・抜去して根管内の感染源を機械的に除去する。その後、必要に応じて根管内を消毒(場合によっては、数週間かけて消毒)し、最終的に根管内を根管充填材で充填する。
【0003】
以下に、図8を参照しながら根管治療の手順(工程1〜4)を説明する。
・工程1:歯冠部を削り、根管52に通じる穴を開ける。
・工程2:歯冠部の穴から、針状治療器具(例えば、図9に示すようなファイル100)の溝領域12を根管52内に出し入れする。溝領域12に形成されたらせん溝の縁部が切削刃として機能して、根管52の内部にある歯髄53(図8(a))と、根管52の内面の感染部分とを切削除去する。さらに、直径の大きいファイル100を用いて、根管52を拡大する(図8(b))。
・工程3:根管52の最深部を整形して、アピカルシート(段差形状)55を形成する(図8(C))。複数のファイル100を交換しながら、慎重にアピカルシート55を形成する
・工程4:根管52に根管充填材90を充填して、根管52を密閉する(図8(d))。
【0004】
このような根管治療において、いくつかの課題が知られている。
第1の課題は、湾曲した歯根51の歯牙50の根管治療の困難さである。歯牙50の歯根51は、人によって又は歯牙種類によって、著しく湾曲していることがある。そのような湾曲した歯根51の根管52を、工程2で根管拡大するとき、根管52の内面にレッジ(棚状突起)、ジップ(ギザギザ面)又は穿孔(パーフォレーション)などの不適切な切削部が形成されやすい。そのような不適切な切削部が形成されると、その位置より奥側の根管52を拡大することも、次の工程3(アピカルシート55の形成)に進むことも困難になり、さらに工程4(根管充填)も不十分になりやすい。
【0005】
そこで、レッジ等の不適切な切削部の形成を防止するために、先端にパイロットチップを設けたファイルが知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1において「パイロットチップ」とは、根管52の側面に沿ってファイルを案内するためのものである。パイロットチップを非切削性にし、さらに先端に丸みを付けることにより、レッジ形成を防止している。
【0006】
根管治療における第2の課題は、適切なアピカルシート55の形成の困難さである。
工程3において、アピカルシート55を適切な位置、適切な寸法形状に形成することが、次の工程4(根管充填)において重要である。根管充填材90の充填の際、根管充填材90に圧力をかけながら充填を行うことにより、根管52内に空間を残さずに充填できる。アピカルシート55は、この充填時における根管充填材90に対する抵抗形態であるため、根管52の全体に隙間なく根管充填材90を充填するためには、適切なアピカルシート55を形成する必要がある。特に、アピカルシート55の形成位置(正確には、アピカルシート55と根尖孔54との距離55t、図11(b))が適切であることが要求される。
【0007】
アピカルシート55が根尖孔54から離れすぎた位置に形成された場合(すなわち、アピカルシート55と根尖孔54との距離55tが長すぎる場合)には、根管充填材90と根尖孔54との間の空間が死腔になる。死腔では細菌が増殖しやすく、根管治療が完了した後に根尖部45に病巣が生じる恐れがある。
一方、アピカルシート55が根尖孔54から近すぎる位置に形成された場合(すなわち、アピカルシート55と根尖孔54との距離55tが短すぎる場合)には、アピカルシート55が根管充填時の圧力に耐えきれず、アピカルシート55と根尖孔54が破壊する恐れがある。アピカルシート55が破壊すると、根管充填材90を隙間なく充填することが困難になる。
【0008】
また、根管拡大時にファイル100を前進させ過ぎて根尖孔54まで拡大してしまった場合には、アピカルシート55が形成できないため、根管充填材90を隙間なく充填することが困難になる。
【0009】
そこで、アピカルシート55を適切な位置に設けるために、アピカルシート55の形成に際して、根尖孔54とファイル100との距離の測定が行われている。距離の測定方法は、主に、X線撮影法と電気的根管長測定法の2つがある。
【0010】
X線撮影法では、ファイル100を根管52内に挿入し、その状態で歯牙50のX線撮影を行う。一般的なファイル100はX線非透過性材料から形成されているので、ファイル100の位置をX線写真で確認できる。また、根尖孔54の先端(解剖学的根尖孔542、図11参照)も、X線写真で確認できる。よって、X線写真から、解剖学的根尖孔542とファイル100との距離を測定することができる。
【0011】
その後、X線写真から測定した距離と、X線撮影時のファイル100の挿入深さとを用いて、所望の位置にアピカルシート55を形成するのに適したファイル100の挿入深さを決定する。そして、アピカルシート55の形成に使用するファイル100を複数準備し、ストッパー18を取り付ける。ストッパー18を取り付けたファイル100では、ストッパー18の下面18bが歯冠に当接したら、それ以上深く挿入しないための目安とする。よって、ファイル100の先端100aからストッパー18の下面18bまでの距離が「決定した挿入深さ」と一致するように、ストッパー18の位置を調節し、その後、ストッパー18を頼りにファイル100を出し入れしてアピカルシート55を形成する。
【0012】
一方、電気的根管長測定法では、電気的根管長測定器20を用いて電気的インピーダンス測定を行う(図10)。人の歯牙50では、口腔粘膜と根尖孔54の最狭部(生理的根尖孔541、図11参照)との間の電気的インピーダンス値は、歯牙種類、人種、年齢に関係なく6.5kΩである。そこで、電気的根管長測定法では、口腔粘膜に接触させた口角導子22と、根管52内に挿入したファイル100との間の電気的インピーダンスを測定し、その値が6.5kΩになったときに、ファイル100の先端100aが生理的根尖孔541に接触したと判断する。
近年の電気的根管長測定器20では、ファイル100の先端100aが生理的根尖孔541に達する前の、それらの距離を表示することができる。この表示された距離は、その時点での電気的インピーダンスを補正して算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2006−502816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
アピカルシート55と生理的根尖孔541との距離55tは、0.2〜2.0mmであるのが好ましく、特に、0.2〜0.7mmであるのが最適である。距離55tが極めて短いため、誤って生理的根尖孔541を破壊する可能性も高い。また、最適範囲が極めて狭いため、距離55tが最適範囲内に入るようにアピカルシート55を形成するのは困難である。
よって、アピカルシート55の形成時には、ファイル100の先端100aが生理的根尖孔541に到達しないように監視しながら、生理的根尖孔541とファイル100の先端100aとの距離を正確に測定する必要がある。
【0015】
しかしながら、特許文献1では、生理的根尖孔541とファイル100の先端100aとの距離を測定することができない。
X線撮影法では、ファイル100の挿入時に、ファイル100の先端100aが生理的根尖孔541に到達しないように監視することはできない。また、X線写真では生理的根尖孔541を確認できないので、生理的根尖孔541とファイル100の先端100aとの距離を正確に測定することができない。さらに、ストッパー18を頼りにアピカルシート55を形成するが、ストッパー18だけでは、ファイル100の侵入深さを精度よく制御することは困難である。
また、電気的根管長測定法では、電気的根管長測定器20に表示される「生理的根尖孔541とファイル100の先端100aとの距離」は補正値であるため、表示された距離が実際の距離55tと相違するおそれがある。
【0016】
このように、公知技術では、アピカルシート55と生理的根尖孔541との距離55tが常に0.2〜2.0mm、より好ましくは常に0.2〜0.7mmの範囲に入るように、アピカルシート55を形成するための手法は確立されていない。
【0017】
そこで、本発明は、生理的根尖孔とアピカルシートとの距離が常に所望の範囲に入るように、アピカルシートを形成することのできる針状治療器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、電気的根管長測定器に接続して使用される針状治療器具であって、
前記針状治療器具は、
根管を拡大するためのらせん溝が形成された溝領域と、
前記溝領域の先端に設けられ、根管孔の内径より小径の根管孔検出部と、を含み、
電気的根管長測定器によって、前記根管孔検出部が前記根管孔に達したことを検出することを可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の針状治療器具は、電気的根管長測定器と共に使用することにより、根管孔検出部が生理的根尖孔とが接触したことを正確に測定することができる。アピカルシートの位置は溝領域の先端の位置に一致するため、アピカルシートと生理的根尖孔との距離は、根尖孔検出部の長さと正確に一致する。よって、根尖孔検出部の長さが例えば0.5mmの針状治療器具を、電気的根管長測定器に接続してアピカルシートを形成すれば、根尖孔検出部が生理的根尖孔に接触した時に、アピカルシートと根尖孔との相対位置は正確に0.5mmになる。
【0020】
また、根尖孔検出部の長さが長め(例えば、3.0mm)の針状治療器具を使用すると、根尖孔検出部が生理的根尖孔に接触した時に、アピカルシートと根尖孔との相対位置は正確に3.0mmになる。よって、アピカルシートを最終形状に形成する前の予備切削に利用すれば、根尖孔を誤って拡張する恐れがない。
また、根管孔検出部の直径(外径)が根管孔の内径より小さいので、根管孔を破壊することなく根管孔検出部を根管孔内に挿入することができる。よって、根管孔検出部が根尖孔に接触した後、所定距離(=(根尖孔検出部の長さ)−(0.2〜2.0mm))だけ、根管孔検出部を根尖孔に挿入させることにより、アピカルシートと根尖孔との距離55tを0.2〜2.0mmにすることができる。
【0021】
このように、本発明の針状治療器具を用いることにより、生理的根尖孔とアピカルシートとの距離が常に所望の範囲に入るように、アピカルシートを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る針状治療器具の正面図(a)と模式図(b)である。
【図2】本発明の実施の形態に係る針状治療器具を用いた根管治療を説明するための模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る針状治療器具を用いた根管治療を説明するための歯根の拡大模式図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る針状治療器具を用いた根管治療を説明するための歯根の拡大模式図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る針状治療器具を用いた根管治療を説明するための歯根の拡大模式図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る針状治療器具を用いた根管治療を説明するための歯根の拡大模式図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る針状治療器具の先端部分の部分拡大断面図である。
【図8】根管治療の手順を説明するための歯根の拡大模式図である((a)〜(d))。
【図9】従来の針状治療器具の正面図である。
【図10】従来の針状治療器具を用いた根管治療を説明するための模式図である。
【図11】根管治療における根管の形状を説明するための歯根の拡大模式図である((a)〜(b))
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1〜図2に示すように、実施の形態に係る針状治療器具10は、電気的根管長測定器20に接続して使用される針状治療器具であり、根管を拡大するためのらせん溝が形成された溝領域12と、前記溝領域12の先端12aに設けられ、根管孔54の内径より小さい直径14Dの根管孔検出部14と、を含んでいる。溝領域12の後端には溝のないシャフト領域15が設けられ、シャフト領域15の後端には樹脂製のハンドル16が設けられている。
【0024】
図2〜図4を参照しながら、針状治療器具10の使用方法を説明する。
針状治療器具10を使用する際には、電気的根管長測定器20の端子24をシャフト領域15に取り付ける。また、電気的根管長測定器20の口角導子22の先端を口内粘膜に接触させる。この配線により、電気的根管長測定器20は、針状治療器具10と口角導子22との間の電気的インピーダンスを測定することができる。
端子24を取り付けたら、ハンドル16を指先で把持して根管孔検出部14及び溝領域12を根管52に挿入し、さらに根尖孔54に向かって前進させる。溝領域12は可撓性を有しているので、溝領域12は、湾曲した根管52の形状に沿って湾曲しながら前進する。
【0025】
図3は、根管孔検出部14が根尖孔54に到達する前の状態を示している。この時点で、電気的根管長測定器20は、根管孔検出部14と生理的根尖孔541との距離の補正値を示す。上述したように、距離の補正値は精度が低いものの、根管孔検出部14のおよその位置を知るには有用である。
【0026】
図4は、根管孔検出部14が生理的根尖孔541に接触した状態を示している。この時点で、電気的根管長測定器20は、電気的インピーダンス値が6.5kΩになったことを示す。このように、本発明の針状治療器具10によれば、電気的根管長測定器20によって、根管孔検出部14が生理的根尖孔541に達したことを検出することが可能である。
図4の状態では、アピカルシート55と生理的根尖孔541との距離55tは、根管孔検出部14の長さ14Lと正確に一致する。よって、長さ14Lが所望の距離55t(0.2〜2.0mm、より好ましくは0.2〜0.7mm)の針状治療器具10を用いている場合には、針状治療器具10をこれ以上前進させずに、針状治療器具10を抜去する。これにより、術者の技量や、電気的根管長測定器20の補正値に頼ることなく、生理的根尖孔541とアピカルシート55との距離55tが0.2〜2.0mm(好ましくは、0.2〜0.7mm)になるように、アピカルシート55を形成することができる。
【0027】
なお、本発明の針状治療器具10を使用して、根管52内(詳細には、アピカルシート55の歯冠側)で、ステップバックプレパレーションを行うこともできる。「ステップバックプレパレーション」とは、根尖孔54から数mmの範囲において、根管52の内径が根尖孔54側で小さく、歯冠側で大きくなるように、根管52の内径を変化させる根管拡大の手法である。ステップバックプレパレーションを行った根管52では、内径が変化する位置に段差(ステップ)が生じる(図5〜図6)。
適切なステップバックプレパレーションを行うためには、熟練した技術を必要とする。しかしながら、本発明の針状治療器具10を用いると、適切なステップバックプレパレーションを容易に行うことができる。
【0028】
図4〜6を参照しながら、本発明の針状治療器具10を用いたステップバックプレパレーションの方法を具体的に説明する。
【0029】
まず、所定位置にアピカルシート55を形成する(図4)。このときに使用する針状治療器具10の例としては、#20(溝領域12の先端径0.20mm)で、根管孔検出部14の長さ14L=1.0mmのものが挙げられる。
この針状治療器具10と、電気的根管長測定器20とを用いて根管を拡大することにより、生理的根尖孔541とアピカルシート55との間の距離55tを、根管孔検出部14の長さ14L(=1.0mm)に一致させることができる。すなわち、針状治療器具101を用いることにより、生理的根尖孔541から1.0mmだけ歯冠側に、アピカルシート55の形成を形成することができる。
アピカルシート55の形成が完了したら、針状治療器具10を抜去する。
【0030】
次に、図5に示すように、別の針状治療器具101を用いて、アピカルシート55よりも歯冠側に、第1のステップ551を形成する。第1のステップ551形成用の針状治療器具101の溝領域121は、アピカルシート55形成用の針状治療器具10の溝領域12よりも太くする。また、針状治療器具101の根管孔検出部141は、針状治療器具10の根管孔検出部14よりも長くする。針状治療器具101の例としては、#30(溝領域12の先端径0.30mm)で、根管孔検出部141の長さ141L2.0mmのものが挙げられる。
この針状治療器具101と、電気的根管長測定器20とを用いて根管を拡大することにより、生理的根尖孔541と第1のステップ551との間の距離551tを、根管孔検出部141の長さ141L(=2.0mm)に一致させることができる。すなわち、針状治療器具101を用いることにより、生理的根尖孔541から2.0mmだけ歯冠側に、第1のステップ551を形成することができる。
第1のステップ551の形成が完了したら、針状治療器具102を抜去する。
【0031】
そして、図6に示すように、さらに別の針状治療器具102を用いて、第1のステップ551よりも歯冠側に、第2のステップ552を形成する。第2のステップ552形成用の針状治療器具102の溝領域122は、第1のステップ551形成用の針状治療器具101の溝領域121よりも太くする。また、針状治療器具102の根管孔検出部142は、針状治療器具101の根管孔検出部141よりも長くする。針状治療器具102の例としては、#35(溝領域12の先端径0.35mm)で、根管孔検出部142の長さ142L=3.0mmのものが挙げられる。
この針状治療器具102と、電気的根管長測定器20とを用いて根管を拡大することにより、生理的根尖孔541と第2のステップ552との間の距離552tを、根管孔検出部142の長さ142L(=3.0mm)に一致させることができる。すなわち、針状治療器具102を用いることにより、生理的根尖孔541から3.0mmだけ歯冠側に、第2のステップ552を形成することができる。
【0032】
上記の3つの針状治療器具10、101、102を用いて根管54を拡大すると、
−生理的根尖孔541から歯冠に向かって1mmの位置に、アピカルシート55
−アピカルシート55から歯冠に向かって1mmの位置に、第1のステップ551
−第1のステップ551から歯冠に向かって1mmの位置に、第2のステップ552
が、それぞれ形成される。すなわち、この例では、ステップバックプレパレーションは、生理的根尖孔541から歯冠に向かって1mm〜3mmの範囲で行われた。
【0033】
このようにステップバックプレパレーションを行う利点は、針状治療器具の可撓性が、溝領域12の太さに依存することに関係する。直径の細い針状治療器具10は、根管拡大には不利であるが、可撓性が高いため、湾曲した歯根の根尖孔54近傍まで挿入するのが容易である。一方、直径の太い針状治療器具10は、根管拡大には有利であるが、可撓性が低いため、湾曲した歯根の根尖孔54近傍まで挿入するのは困難である。そこで、直径の細い針状治療器具10を用いて、根管52の湾曲のきつい範囲(すなわち、根尖孔54の近傍領域)にアピカルシート55を形成し(図4)、徐々に太い針状治療器具10(101、102)に交換しつつ、侵入深さを浅くすることで、根管52の比較的湾曲の緩やかな範囲の根管を拡大する(図5、図6)。このように、溝領域12の太さ及び根管孔検出部14の長さ14Lの異なる針状治療器具10、101、102を順次使用して根管拡大することにより、根尖孔54近傍の所定位置にアピカルシート55を形成でき、且つ根管を所定内径まで拡大するのを容易にできる。
【0034】
なお、ステップバックプレパレーションを行う範囲、ステップの間隔、及びステップの数は、使用する針状治療器具10のサイズ、根管孔検出部14の長さ14L、及び本数を変更することにより、任意に調節することができる。
例えば、ステップバックプレパレーションを行う範囲は、アピカルシートの形成に使用する針状治療器具10の根管孔検出部14の長さ14L、及び/又は、最後のステップ(=N番目のステップとする)の形成に使用する針状治療器具10Nの根管孔検出部(14N)Lの長さを変更することで、調節できる。例えば、長さ14L=0.2mm、長さ(14N)L=4.0mmに変更すれば、生理的根尖孔541から歯冠に向かって0.2mm〜4.0mmの範囲でステップバックプレパレーションを行うことができる。
【0035】
また、ステップの間隔は、(現在使用している針状治療器具102の根管孔検出部142の長さ142L)−(直前に使用した針状治療器具101の根管孔検出部141の長さ141L)で算出される。よって、長さ141L=2.0mm、長さ142L=2.5mmに変更すれば、ステップの間隔=2.5mm−2.0mm=0.5mmに調節することができる。
さらに、ステップの数は、アピカルシート形成用の針状治療器具10の使用後に、N本の針状治療器具10Nを交換しながら使用すれば、N段のステップを形成することができる。例えば、アピカルシート55形成用の針状治療器具10と、5本の針状治療器具101〜105とを準備して、それらを交換しながら使用すれば、アピカルシート55より歯冠側に、5つのステップが形成できる。
【0036】
次に、各構成部分の好ましい形態を説明する。
根管孔検出部14の直径14Dは、0.08mm〜0.17mmであるのが好ましい。直径14Dが0.08mmより小さいと、根尖孔検出部14の強度が低くなりすぎて、根管52の治療中に折れやすくなるので好ましくない。一方、直径14Dが0.17mmより大きいと、生理的根尖孔541の内径より大きくなるので好ましくない。
【0037】
また、根管孔検出部14の長さ14Lが0.2mm〜3.0mmであるのが好ましい。長さ14Lが0.2mmより短いと、電気的根管長測定器20が電気的インピーダンスの値が6.5kΩを示した時点で、生理的根尖孔541とアピカルシート55との距離55tが0.2mmより短くなってしまうので、好ましくない。一方、長さ14Lが長いほど加工にかかる時間が増加するため、不必要に長い根管孔検出部14は実用的ではない。本発明の用途において、最も長い根管孔検出部14が必要となるのはステップバックプレパレーションである。このステップバックプレパレーションを行う範囲は、一般的に、生理的根尖孔541から歯冠に向かって(最大で)3mm程度である。よって、本発明において長さ14Lが最大で3.0mmであれば、適切なステップバックプレパレーションを行うことができる。よって、本発明では、長さ14Lが、0.2〜3.0mmであるのが好ましい。
【0038】

なお、アピカルシート55と生理的根尖孔541との距離55tが0.2mm〜2.0mmになるようにアピカルシート55を形成するには、根管孔検出部14の長さ14Lが0.2mm〜2.0mmの針状治療器具10が適しており、距離55tが0.2〜0.7mmになるようにアピカルシート55を形成するには、根管孔検出部14の長さ14Lが0.2mm〜0.7mmの針状治療器具10が適している。それらの針状治療器具10を用いることにより、電気的根管長測定器20が電気的インピーダンスの値が6.5kΩを示した時点で針状治療器具10の前進を停止することで、アピカルシート55と生理的根尖孔541との距離55tを根管孔検出部14の長さ14Lの長さと一致させることができる。
【0039】
図7に示すように、針状治療器具10の中心軸Cを通る断面において、溝領域12の外面12sと根管孔検出部14の外面14sとを接続する接続面17と、中心軸Cとのなす角度θが30°〜60°であるのが好ましい。このような針状治療器具10でアピカルシート55を形成すると、アピカルシート55と根管52の中心線とのなす角度(これを「アピカルシート55の角度」と称する)が30°〜60°になる。
角度θが30°未満であると、アピカルシート55の角度も30°未満となり、アピカルシート55の抵抗形態としての機能が低下するので好ましくない。一方、角度θが60°より大きいと、根管拡大するときに、接続面17が抵抗になって針状治療器具10が前進しにくくなるので好ましくない。

特に、根管充填のしやすさから、角度θ=30°〜50°であるのが好ましく、角度θ=35°であるのが最も好ましい。
【0040】
針状治療器具10のハンドル16を除く針状部分(根管孔検出部14、溝領域12及びシャフト領域15)は、導電性材料から一体に形成されている。これにより、シャフト領域15に電気的根管長測定器20の端子24を接続して、根管孔検出部14と口角導子22との間の電気的インピーダンスを測定することができる。特に、針状部分は、ステンレス鋼、チタン又はチタン合金から形成するのが好ましい。これらの金属材料は、生体安全性が高いため、歯牙50及び周囲組織への悪影響を抑制することができる。また、これらの金属材料は機械的強度が高いので、針状部分の折損を起こしにくくすることができる。
【0041】
本発明の針状治療器具10は、電気的根管長測定器20と共に使用することにより、術者の技量や、電気的根管長測定器20の補正値に頼ることなく、アピカルシート55を適切な位置に形成することができる。
【符号の説明】
【0042】
10 針状治療器具、 12 溝領域、 12a 溝領域の先端、 14 根管孔検出部、 15 シャフト領域、 16 ハンドル、 18 ストッパー、 20 電気的根管長測定器、 22 口角導子、 24 端子、 50 歯牙、 51 歯根、 52 根管、 53 神経組織、 541 生理的根尖孔の位置、 542 解剖学的根尖孔、 55 アピカルシート、 55t アピカルシートと生理的根尖孔との距離、 90 根管充填剤、 100 従来のファイル、 C 針状治療器具の中心軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的根管長測定器に接続して使用される針状治療器具であって、
前記針状治療器具は、
根管を拡大するためのらせん溝が形成された溝領域と、
前記溝領域の先端に設けられ、根管孔の内径より小径の根管孔検出部と、を含み、
電気的根管長測定器によって、前記根管孔検出部が前記根管孔に達したことを検出することを可能としたことを特徴とする針状治療器具。
【請求項2】
前記根管孔検出部の直径が0.08mm〜0.17mmであることを特徴とする請求項1に記載の針状治療器具。
【請求項3】
前記根管孔検出部の長さが0.2mm〜3.0mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の針状治療器具。
【請求項4】
前記針状治療器具の中心軸を通る断面において、前記溝領域の外面と前記根管孔検出部の外面とを接続する接続面と、前記中心軸とのなす角度が30°〜60°であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の針状治療器具。
【請求項5】
ステンレス鋼、チタン又はチタン合金から形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の針状治療器具。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の針状治療器具と、
電気的根管長測定器と、から成る根管治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−63171(P2013−63171A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203556(P2011−203556)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(597116296)
【出願人】(511227392)
【Fターム(参考)】