説明

歯車の摩耗検出装置

【課題】モータの制御系を利用して歯車の摩耗をより正確に検出する。
【解決手段】互いに噛み合う一対の歯車のうちの一方の歯車に直結されたモータが制御手段によって指令角度だけ回転駆動されたとき、当該モータの実際の回転角度を回転センサによって検出し、それら指令角度と検出角度とを比較して、指令角度が検出角度よりも大きく、且つ、検出角度が予め定められた閾値角度以下とされたとき、摩耗なしと判定し、指令角度が検出角度よりも大きく、且つ、検出角度が予め定められた閾値角度を超えているとされたとき、摩耗ありと判定する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯車を駆動するモータを僅か回転させることによって歯車の摩耗を検出する構成の歯車の摩耗検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
互いに噛み合う一対の歯車の摩耗を検出する方法として、特許文献1,2に開示された方法がある。特許文献1の方法は、歯車を駆動するモータの電流値を積分してその積分値の中から最大負荷量を選択し、この最大負荷量と、1サイクルでの歯車の噛み合い回数と、所定時間内のサイクル回数とを歯車磨耗量を求める式に代入して摩耗量を算出するというものである。
【0003】
特許文献2の方法は、アーム先端のツールの位置座標データとアームの姿勢データとツールおよびアームの重量データから歯車の角度関数や角加速度関数などを算出すると共に、1サイクル中の歯車の歯面の噛み合い回数する。また、データ入力部から入力されるデータに基づいて、サイクル時間をパラメータとする負荷トルク関数と負荷慣性モーメント関数とを算出し、角加速度センサとから1サイクル中の歯車の負荷変動を導く。そして、噛合い回数と負荷変動から最大負荷を算出し、歯車摩耗量を算出するというものである。
【特許文献1】特開平7−100782号公報
【特許文献2】特開平9−136287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2の摩耗量検出方法では、新たなセンセを付加することなく、モータを制御するための制御系を利用して歯車の摩耗量を検出することができる。しかしながら、これらの方法は、負荷量や歯面の噛み合い回数などから歯車の摩耗を計算する方法であって、摩耗量を直接的に検出するものではないため、正確性の点で問題がある。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は、新たなセンサを付加することなく、モータの制御系を利用して歯車の摩耗をより正確に検出することができる歯車の摩耗検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1では、互いに噛み合う一対の歯車のうちの一方の歯車に直結されたモータが制御手段によって指令角度だけ回転駆動されたとき、当該モータの実際の回転角度を回転センサによって検出し、それら指令角度と検出角度とを比較して、指令角度が検出角度よりも大きく、且つ、検出角度が予め定められた閾値角度以下とされたとき、摩耗なしと判定し、指令角度が検出角度よりも大きく、且つ、検出角度が予め定められた閾値角度を超えているとされたとき、摩耗ありと判定するので、新たなセンサを付加することなく、モータの制御系を利用して歯車の摩耗の有無を検出することができる。
【0007】
請求項2では、モータを正方向および逆方向に同じ角度だけ回転させる正回転指令信号および逆回転指令信号を出力することを、正回転指令信号に対する回転センサの検出角度と逆回転指令信号に対する回転センサの検出角度との差が所定値内となるまで繰り返すので、一方の歯車の1枚の歯が、他方の歯車の2枚の歯の間の中央に位置するように、当該他方の歯車を動かすことができる。したがって、請求項1の磨耗有り無しの計測を、歯の偏りのない状態で行い得るようになるので、計測の正確性が増す。
【0008】
請求項3では、モータの正回転および逆回転のそれぞれに対して、回転センサが所定時間継続して同じ角度を検出するか否かを判断し、所定時間継続して同じ角度を検出しないときには、モータを、前回よりも大きい角度だけ正逆回転させるので、摩耗があっても、その摩耗量が大きくても、一方の歯車の1枚の歯が、他方の歯車の2枚の歯の間の中央に位置するように、他方の歯車を動かすことができる。
【0009】
請求項4では、正回転指令信号または逆回転指令信号に対して、回転センサが所定時間継続して同じ角度を検出するとき、正回転指令信号および逆回転指令信号に応じた指令角度と正回転指令信号および逆回転指令信号に対する回転センサの検出角度を比較するので、一方の歯車の1枚の歯が他方の歯車の2枚の歯の間の中央に位置する状態から、回転指令信号によって正逆回転する状態が得られ、摩耗の有無をより正確に検出できる。更に、請求項4では、摩耗量を角度で量的に検出することが可能となる。
【0010】
請求項5では、判定手段が摩耗ありと判定したとき、回転センサの検出角度から摩耗量を演算するので、どの程度摩耗したのかを具体的に知ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明をロボットのアーム駆動装置における歯車減速装置に適用した一実施形態につき図面を参照しながら説明する。例えば、垂直多関節型ロボットでは、各アームは、互いに回転関節によって連結されている。そして、各アームは、アーム駆動装置によって回転駆動される。
図2は、アーム駆動装置1の一例を示しており、例えば、駆動対象アームの前段のアーム2内に配設されている。このアーム駆動装置1は、モータ3を駆動源とする歯車減速装置4を主体とするもので、入力軸としてのモータ3の回転軸5、中間軸6および出力軸7を備え、入力軸4に取着された小歯車8、中間軸6に取着された大歯車9、同じく中間軸6に取着された小歯車10、出力軸7に取着された大歯車11から構成されている。
【0012】
これら歯車8〜11のうち、回転軸5の小歯車8と中間軸6の大歯車9が噛合し、中間軸6の小歯車10と出力軸7の大歯車11が噛合している。したがって、回転軸5の回転は、1組の小歯車8と大歯車9によって減速されて中間軸6に伝えられ、この中間軸6の回転が更に別の1組の小歯車10と大歯車11によって減速されて出力軸7に伝えられる。そして、この出力軸7の回転によって次段のアーム(図示せず)が回転駆動される。
【0013】
図1はモータ3の制御系を示すブロック図である。この図1に示すように、制御装置12は、CPU13、駆動回路(駆動手段)14、位置検出回路(位置検出手段)15を備えている。そして、CPU13には、ロボット全体のシステムプログラムなどを記憶したROM16、RAM17、操作盤18、パーソナルコンピュータ19を接続するためのインターフェース20が接続されている。
【0014】
上記位置検出回路15は、モータ3の回転位置を検出するためのもので、この位置検出回路15には、モータ3の回転軸5の回転を検出するための回転センサとしてのロータリエンコーダ21が接続されている。なお、図2には、モータ3およびロータリエンコーダ21は、1個ずつしか図示していないが、実際には、各関節に対して一対一の関係で複数設けられているものである。
【0015】
モータ3を回転駆動する場合、CPU13は、回転指令信号を駆動回路14に出力する。これに対し、位置検出回路15は、従来の制御構成と同様に、ロータリエンコーダ21の検出信号によってモータ3の回転角度を検出し、その検出角度信号をフィードバック信号としてCPU13および駆動回路14に与える。駆動回路14は、CPU13からの回転指令信号に応じた指令角度と、位置検出回路15からのフィードバック信号に応じた検出角度とを比較し、その比較結果に応じてモータ3の回転を制御する。具体的には、駆動回路14は、指令角度と検出角度とを比較し、その差分に応じた駆動電流をモータ3に供給する。これにより、モータ3は、回転軸5をCPU13の指令角度と同一の回転角度となるように回転させる。したがって、CPU13は、位置検出回路15および駆動回路14の指令角度と検出角度とを比較して差分を出す加減算部と共に、モータ3を指令角度だけ回転するように制御する制御手段として機能する。
【0016】
一方、パーソナルコンピュータ19は、周知のように、CPU、ROM、RAMなどを有した制御部と、キーボードやマウスなどからなる操作部と、液晶ディスプレイなどからなる表示部(いずれも図示せず)とを有する。このパソコン19には、互いに噛み合う一対の歯車の摩耗量を演算するためのプログラム(摩耗測定プログラム)が格納されている。
【0017】
次に、このパソコン19の摩耗測定プログラムを用いて歯車の摩耗を検出する場合の制御内容を図3のフローチャートをも参照して説明する。歯車減速装置4は、互いに噛み合う一対の歯車の組を2組有しているが、摩耗測定対象となる一対の歯車は、モータ3に直結された小歯車8とこの小歯車8に噛合する大歯車9である。ここで、モータ3に直結とは、入力軸をモータ3の回転軸5とは別の軸から構成し、この入力軸にモータ3の回転軸5を継手を介して結合したものも含むものとする。
【0018】
本実施形態では、CPU13から回転指令信号を出力し、そのときのモータ3の回転軸5の実際の回転角度をロータリエンコーダ21によって検出する。そして、回転指令信号に応じた指令角度とロータリエンコーダ21の検出角度とを比較することによって摩耗の有無を判定し、更に、摩耗量を演算しようとするものである。回転指令信号としては、モータ3の回転軸5を、停止位置(基準位置)を角度0とし、この角度0の基準位置から正方向の角度+θnだけ回転させて元の基準位置に戻す正回転指令信号と、基準位置から逆方向の角度−θnだけ回転させて元の基準位置に戻す逆回転指令信号とを1組にして出力する。この1組の正回転指令信号の指令角度+θnと逆回転指令信号の指令角度−θnとは、回転方向が互いに逆となるだけで、その角度の大きさは同一である。
【0019】
この1組の正回転指令信号の指令角度+θnおよび逆回転指令信号の指令角度−θnの絶対値の大小は、添え字nで示される数字(n=1,2,3……)で表すこととし、|θ1|<|θ2|<|θ3|<……のように数値が大きいほど大きい角度であるとする。なお、|θ1|、|θ2|、|θ3|、……は、予めパソコン19のROM(指令角度記憶手段)に記憶されているものとする。この指令角度の絶対値のうち、最も小さい|θ1|は、一対の歯車8,9の歯が摩耗量0のときのバックラッシュ内での小歯車8の回転角度の半分の大きさよりも所定量βだけ大きな値に設定されている。
【0020】
ここで、以下の説明において、指令角度θ1のように示した場合は、絶対値での大きさを表し、+θ1、−θ1のように示した場合には、正回転指令信号の指令角度、逆回転指令信号の指令信号を表すものとする。また、CPU13は、回転指令信号が、例えば+θ1、−θ1の指令角度を内容とするものである場合、いきなり+θ1、−θ1の指令角度を出力するのではなく、+θ1、−θ1となるまで、或いは、+θ1、−θ1の位置から基準位置に戻るまで、一定の率で漸増或いは漸減する指令角度をごく短い時間間隔で出力するものである。したがって、正回転指令信号および逆回転指令信号の指令角度の波形は、三角形となる。
【0021】
さて、モータ3に直結された小歯車8と、この小歯車8に噛み合う大歯車9の摩耗の有無を検出するために、パソコン19をロボットの制御装置12のインターフェース20に接続して摩耗測定プログラムを起動させる。すると、まず、パソコン19は、指令信号の大きさを示す数値nを1にセットし(図3のステップS1)、指令する回転角度の大きさをθ1に定めて制御装置12のCPU13に対し、指令角度が+θ1の正回転指令信号と、−θ1の逆回転指令信号を出力するようにコマンドを送信する(ステップS2)。
【0022】
ロボットの制御装置12のCPU13は、上記コマンドを受信すると、駆動回路14に指令角度+θ1の正回転指令信号と、指令角度−θ1の逆回転指令信号とを順に出力する(ステップS3、ステップS5)。これにより駆動回路14は、モータ3を、その回転軸5が停止位置(基準位置)から正方向にθ1だけ回転し、θ1回転したところで、逆方向に回転して元の基準位置に戻り且つこの基準位置から更に逆方向にθ1だけ回転するように駆動する。
【0023】
このとき、ロータリエンコーダ21は、実際の回転軸5の回転角度を所定の短時間毎に検出してその検出信号を位置検出回路15に与え、位置検出回路15は、ロータリエンコーダ21による検出角度をCPU13に与える(ステップS4、ステップS6)。そして、CPU13は、正回転指令信号および逆回転指令信号の指令角度と、ロータリエンコーダ21による検出角度をRAM17に記憶し(指令値・検出値記憶手段)、且つそれら指令角度と検出角度をパソコン19に送信する。
【0024】
パソコン1は、制御装置12のCPU13から送信されてきた指令角度と検出角度により、それら指令角度の変化(指令角度波形)と検出角度の変化を示す波形(検出角度波形)を生成する(ステップS7:波形生成手段)。次いで、パソコン1は、指令値+θn(ここでは+θ1)になった時から一定時間経過t1するまでの間の検出角度波形と、指令値−θn(ここでは−θ1)になった時から所定時間t1経過するまでの間の検出角度波形が対称であるか否かを判断する(ステップS8:波形形状判定手段)。この場合の対称とは、完全に対称である外、両検出波形が互いに所定の誤差範囲内にある場合も含むものとする。したがって、このステップS8は、つきつめると、指令値が+θnになった時点から所定時間t1内で、および指令値が−θnになった時点から所定時間t1内で、+θ1および−θ1となった時から任意の時間経過した時点の検出角度の差が所定値内にあるか否かを判断することと等価となる。
【0025】
ところで、θ1の正回転指令信号と逆回転指令信号とがCPU13から出力されたとき、小歯車8と大歯車9との歯の噛み合い状態は様々である。理想的には、図4に示すように、小歯車8の1枚の歯8aが大歯車9の隣り合う2枚の歯9a,9bの間の中央に位置した状態(歯の偏りがない状態)、つまり1枚の歯8aの両側の隙間G1,G2が互いに等しい状態が現出され、この状態で、正回転指令信号および逆回転指令信号が出力されることが好ましい。
【0026】
この理想的な状態の典型的な例として、小歯車8と大歯車9の回転中心点を結ぶ直線Cが大歯車9の2枚の歯9a,9bの間(歯みぞ)の中央を通り、且つ、その歯みぞの中央に小歯車8の1枚の歯8aが位置している場合を、図5(a)に示した。なお、歯の摩耗が0の場合、図5(a)において、歯8aの両側の隙間G1,G2は、当初設定されたバックラッシュの1/2となる。
図4(a)の状態と図5(a)の状態とは、本発明の摩耗検出を適用する場合、条件として完全に同じではないが、ほぼ同等と考えられるので、以下では、小歯車8と大歯車9の回転中心を結ぶ直線Cが小歯車8の歯8aの中央を通っている状態にあるとして説明する。
【0027】
さて、指令角度+θ1の正回転指令信号と、指令角度−θ1の逆回転指令信号とが順に出力された場合、小歯車8と大歯車9が上記理想的な状態にある場合、指令角度が+θ1のときも、−θ1のときも、角度0の位置(歯8aが存在する位置)から同じ角度(θ1−β)だけ回転したところで、歯8aが歯9a或いは歯9bに当たる。そして、その回転位置で小歯車8が大歯車9から回転抵抗を受けるので、回転軸5はそれ以上回転しなくなる。
このため、指令値+θ1になった時から所定時間t1が経過するまでの間のロータリエンコーダ21の検出角度の変化を示す波形(正側検出角度波形)と、指令値−θ1になった時から一定時間t1が経過するまでの間のロータリエンコーダ21の検出角度の変化を示す波形(逆側検出角度波形)とは、図5(b)に示すように対称となる。
【0028】
一方、例えば図6(a)に示すように、大歯車9が小歯車8に対し上記理想的な状態からずれていた場合には、歯8aの両側の隙間G1、G2の大きさが異なるので、回転軸5が角度0の位置から正方向に回転する場合と逆方向に回転する場合とで、小歯車8の歯8aが大歯車9の一方の歯9aに当たるまでの回転角度と他方の歯9bに当たるまでの回転角度が異なることようになる。したがって、図6(b)に示すように、上記の正側検出角度波形と逆側検出角度波形とは対称にならない。
【0029】
このように正側検出角度波形と逆側検出角度波形とが非対称であった場合(ステップS8で「NO」)、パソコン19は、再び、指令角度+θ1の正回転指令信号と、指令角度−θ1の逆回転指令信号とを出力するように制御装置12のCPU13にコマンドを送信し、CPU13から送信されてくる指令角度と検出角度とから指令角度波形および検出角度波形を生成し、正側検出角度波形と逆側検出角度波形が対象であるか否かを判定する(以上、ステップS3〜8)。
【0030】
そして、パソコン19は、正側検出角度波形と逆側検出角度波形とが対称でなかった場合、その正側検出角度波形と逆側検出角度波形とが対象となるまで、ステップS3〜ステップS8を繰り返し実行する。このように、指令角度の大きさを一定にしたまま、正回転指令信号と、逆回転指令信号とを出力する動作を繰り返すことにより、小歯車8の歯8aが大歯車9の2枚の歯9a,9b間で往復移動(回動)する。これにより、隙間G1、G2のうち小なる隙間側の歯、図6の例では、歯9aの方が、大間隙側の歯9bよりも、小歯車8の歯8aから大きな当接力を受ける。
このため、図7(a)に示すように、大歯車9が隙間の大なる歯9bから隙間の小なる歯9aに向かう方向に僅かずつ回転し、最終的には、図5(a)に示すように、歯8aの両側の隙間G1、G2が同じ大きさになる。すると、正側検出角度波形と逆側検出角度波形が対称になる。
【0031】
以上のようにして、正側検出角度波形と逆側検出角度波形との対称性が検出されると(ステップS8で「YES」)、次に、パソコン19は、指令値が+θ1になった時点から所定時間t2、ロータリエンコーダ21の検出角度が同一角度である状態が継続するか否かを判断する(ステップS9)。なお、t2は、指令角度の大きさが角度βだけ変化する時間に相当する時間以内に定められている。
【0032】
このステップS9の意義は次の通りである。つまり、正側検出角度波形と逆側検出角度波形の対称性が確認されたことと、小歯車8の歯8aが大歯車9の2枚の歯9a,9bの双方に均等に当接したこととは必ずしも一致しない。例えば、図8(a)のように、歯の摩耗量が大きい場合、+θ1、−θ1の指令角では、歯8aが2枚の歯9a,9bに当たらず、歯みぞ内で往復移動しているだけかも知れない。この場合の検出角度波形は、図8(b)のようになり、正側検出角度波形と逆側検出角度波形は対称となる。しかし、これでは、磨耗量を検出することはできない。磨耗量を検出するためには、歯8aが2枚の歯9a,9bの双方に均等に当たらなければならない。
【0033】
歯8aが2枚の歯9a,9bの双方に均等に当たれば、検出角度が一定の状態が現出される。ステップS9では、この検出角度が一定の状態があること、換言すれば、歯8aが2枚の歯9a,9bの双方に均等に当接したことを検出するものである。なお、歯8aが2枚の歯9a,9bの双方に当たると、大歯車9が若干回転するが、その回転角度は、極々小さなものであるから、検出角度としては概ね一定の状態となるのである。
【0034】
さて、正側検出角度波形と逆側検出角度波形が対称であっても、指令値が+θ1になった時点から所定時間t2内のロータリエンコーダ21の検出角度が同一角度である状態がt2時間継続されない場合(ステップS9で「NO」)、パソコン19は、指令信号の大きさを示す数値nをインクリメントする(ステップS10)。ここでは、nは「1」であったので、ステップS10で「2」に変更されたこととなる。その後、パソコン19は、前述のステップS2に戻り、指令する角度の大きさをθ1より一段階大きいθ2にセットして制御装置12のCPU13に指令角度が+θ2、−θ2の正回転指令信号と逆回転指令信号を出力するようにコマンドを送信する。
【0035】
すると、ロボットの制御装置12のCPU13が指令角度+θ2の正回転指令信号と、指令角度−θ2の逆回転指令信号とを順に出力し、ロータリエンコーダ21による検出角度をパソコン19に送信し、パソコン19は、正側検出角度波形と逆側検出角度波形の対称性が確認されたら、指令値+θ2から所定時間t2内で同一角度を維持する状態になるかを判断する。t2時間同一角度が維持されなければ、パソコン19は、指令の角度の大きさを示す数値を更に一段大きくし(ステップS10)、その指令角度の正回転指令信号と逆回転指令信号を出力するようにコマンドをロボットの制御装置12に送信し、制御装置12から送られてくる検出角度情報から正側検出角度波形と逆側検出角度波形が対称で、且つ、正回転指令信号の指令値のピーク後、所定時間t2だけ検出角度一定の状態が存在することが確認されるまで、指令角度を一段ずつ上げてモータ3を正逆方向に駆動し、回転軸5の実際の回転角度を検出するという動作を、繰り返す。
【0036】
正回転指令信号の指令値のピーク後、所定時間t2だけ検出角度一定の状態が存在することが確認されると(ステップS9で「YES」)、パソコン19は、その時の指令角度θnと予め定められた閾値角度θyとを比較し、指令角度θnが閾値角度θy(θ1−β)を超えているか否かを判断する(ステップS11:比較手段)。指令角度θnが閾値角度θyを超えていなければ、パソコン19は、摩耗なしと判定し(ステップS12:判定手段)、エンドとなる。なお、この場合の「摩耗なし」は、正しくは、ユーザが設定した摩耗の許容範囲内にあって問題となるような摩耗に至っていない状態にあることを言う。
【0037】
指令角度θnが閾値角度θyを超えていた場合、パソコン19は、摩耗ありと判断して検出角度の最大角度を摩耗角θxとし(ステップS13:判定手段、摩耗角検出手段)、次式に摩耗角θxを代入して摩耗量を求め(ステップS14:摩耗量演算手段)、エンドとなる。
摩耗量=歯車の基準ピッチ円直径×π×2θx÷360
なお、上式での歯車の基準ピッチ円直径は、回転軸5に直結した歯車、本実施形態では小歯車8の基準ピッチ円直径D0(図4参照)である。
【0038】
このように本実施形態によれば、歯車の摩耗の有無を、モータ3の制御系を利用して検出することができる。しかも、駆動側の小歯車8の歯8aが従動側の大歯車9の2枚の歯9a,9bに当たるときのモータ3の回転軸5の回転角度によって歯車の摩耗量を検出するので、より正確に摩耗を検出できる。
【0039】
なお、本発明は上記し且つ図面に示す実施形態に限られるものではなく、次のような変更或いは拡張が可能である。
ステップS8は、指令値が+θn、−θnのときの検出角度の差、または、指令値が+θn、−θnになった時点から所定時間後の検出角度の差が所定値内であるか否かを判断することに変えても良い。
摩耗の有無を検出する機能だけに止めても良い。
1枚の歯8aを2枚の歯9a,9b間の中央にセットした状態で回転指令信号を出力すれば、回転指令信号は、正または逆のうちの一方だけで摩耗の有無と摩耗量の検出を行うことができる。
パソコン19の機能は、制御装置12のCPU13が果たすようにしてパソコン19を用いずとも歯車の摩耗検出が行い得るようにしても良い。
ロボットのアーム駆動装置の歯車を対象とする場合に限られず、歯車の摩耗を検出する場合に広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態におけるモータの制御系の構成を示すブロック図
【図2】歯車減速装置の概略を示す断面図
【図3】摩耗検出のためのフローチャート
【図4】摩耗検査のための歯車の理想的な状態の一例を示す部分的な平面図
【図5】(a)は摩耗検査のための歯車の理想的な状態の他の例を示す部分的な平面図、(b)は指令角度と検出角度の波形図
【図6】(a)は歯みぞ内に1枚の歯が偏って位置する例を示す平面図、(b)は指令角度と検出角度の波形図
【図7】(a)は歯みぞ内の1枚の歯の偏りが是正されてゆく途中を示す平面図、(b)は指令角度と検出角度の波形図
【図8】(a)は摩耗量が大きい場合の歯車の部分的な平面図、(b)は指令角度と検出角度の波形図
【符号の説明】
【0041】
図面中、4は歯車減速装置、5は回転軸、6は中間軸、7は出力軸、8は小歯車、9は大歯車、12は制御装置、13はCPU(制御手段、比較手段、判定手段、摩耗量演算手段)、14は駆動回路、15は位置検出回路、19はパソコン、21はロータリーエンコーダ(回転センサ)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに噛み合う一対の歯車の摩耗を検出する装置であって、
前記一対の歯車のうちの一方の歯車に直結されたモータと、
回転指令信号を出力し、前記モータの回転角度を検出する回転センサからの検出信号をフィードバック信号として前記モータが前記回転指令信号に応じた指令角度だけ回転するように当該モータを制御する制御手段と、
前記回転指令信号に応じた前記指令角度と前記回転センサの検出角度とを比較する比較手段と、
前記比較手段の比較により、前記指令角度が前記検出角度よりも大きく、且つ、前記検出角度が予め定められた閾値角度以下とされたとき、摩耗なしと判定し、前記指令角度が前記検出角度よりも大きく、且つ、前記検出角度が予め定められた前記閾値角度を超えているとされたとき、摩耗ありと判定する判定手段と、
を具備してなる歯車の摩耗検出装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記回転指令信号として、前記モータを正方向および逆方向に同じ角度だけ回転させる正回転指令信号および逆回転指令信号を出力することを、前記正回転指令信号に対する前記回転センサの検出角度と前記逆回転指令信号に対する前記回転センサの検出角度との差が所定値内となるまで繰り返す
ようにしてなる請求項1記載の歯車の摩耗検出装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記正回転指令信号に対する前記回転センサの検出角度と前記逆回転指令信号に対する前記回転センサの検出角度との差が前記所定値内となったとき、前記正回転指令信号または前記逆回転指令信号に対して、前記回転センサが所定時間継続して同じ角度を検出するか否かを判断し、所定時間継続して同じ角度を検出しないときには、前記正回転指令信号および前記逆回転指令信号を、前回よりも大きい指令角度にして出力することを、前記正回転指令信号または前記逆回転指令信号に対して、前記回転センサが所定時間継続して同じ角度を検出するまで繰り返す
ようにしてなる請求項2記載の歯車の摩耗検出装置。
【請求項4】
前記正回転指令信号または前記逆回転指令信号に対して、前記回転センサが所定時間継続して同じ角度を検出するとき、前記比較手段が前記正回転指令信号および前記逆回転指令信号に応じた前記指令角度と前記正回転指令信号および前記逆回転指令信号に対する前記回転センサの検出角度を比較する
ことを特徴とする請求項3記載の歯車の摩耗検出装置。
【請求項5】
前記判定手段が摩耗ありと判定したとき、前記回転センサの前記検出角度から摩耗量を演算する摩耗量演算手段を
備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の歯車の摩耗検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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