説明

歯車装置及び駆動装置

【課題】偏心揺動型の歯車装置のギヤ比を任意に変更可能にする。
【解決手段】内歯歯車12と、内歯歯車12の内方に配置される外歯歯車11と、外歯歯車11に形成された孔部に回転可能に挿入される入力軸10と、外歯歯車11に係合して自転を阻止する自転阻止部19とを備え、入力軸10は偏心部10aを有し、外歯歯車11を、自転阻止部19により自転を阻止した状態で、内歯歯車12に噛み合わせながら偏心揺動運動させる偏心揺動型の歯車装置1において、自転阻止部19は、入力軸10が挿入されるように形成されるとともに、該入力軸10の中心線周りに回転可能に設けられ、自転阻止部19の入力軸10周りの回転速度を変更する速度変更装置15を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内歯歯車の内方に配置された外歯歯車を偏心揺動運動させながら内歯歯車に噛み合わせるように構成された歯車装置及びその歯車装置を備えた駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、特許文献1、2に開示されているように、内周面に内歯が形成された環状の内歯歯車と、内歯歯車の内方に配置されて該内歯歯車と噛み合いながら偏心揺動運動するとともに内歯歯車よりも少ない数の外歯が形成された外歯歯車とを備えた、いわゆる偏心揺動型の歯車装置が知られている。
【0003】
特許文献1の歯車装置の入力軸には、偏心部が設けられており、この偏心部が外歯歯車の中心部に形成された中心孔に軸受を介してその軸線周りに回転可能に挿入されている。歯車装置のケーシングには、クランク軸の一端側が回転可能に支持され、一方、クランク軸の他端側は外歯歯車の外周寄りに形成された挿入孔に回転可能に挿入されている。
【0004】
この歯車装置では、入力軸をモーターによって回転させると、偏心部の動きによって外歯歯車が駆動される。そして、この外歯歯車によりクランク軸が回転駆動され、このクランク軸の一端側がケーシングに支持されていることから、外歯歯車の自転がクランク軸によって阻止されることとなり、外歯歯車は偏心部の偏心量だけ偏心して内歯歯車に噛み合いながら揺動運動する。これにより、内歯歯車が回転駆動されてモーターの回転力が出力されることとなる。
【0005】
また、特許文献2の歯車装置では、外歯歯車の側面には多数の歯が周方向に連続して形成されている。また、入力軸には、偏心部とは別に該偏心部の中心線に対し傾斜して延びる傾斜軸部が設けられている。この傾斜軸部には、円盤が回転可能に支持されており、この円盤の側面には、外歯歯車の側面の歯に係合する歯が形成されている。
【0006】
この歯車装置では、入力軸が回転すると、外歯歯車が偏心部の動きに対応して動く。このとき、外歯歯車の側面の歯に円盤が係合しているので、外歯歯車と円盤とが一体化し、円盤によって外歯歯車の自転が阻止されることとなる。これにより、外歯歯車は偏心部の偏心量だけ偏心して内歯歯車に噛み合いながら揺動運動する。
【0007】
上記特許文献1、2の偏心揺動型の歯車装置では、コンパクトでありながら、大きなギヤ比を得ることができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実公平2−45554号公報
【特許文献2】特開2010−84907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記偏心揺動型の歯車装置を例えば電気自動車の駆動系の一部として用いることが考えられる。すなわち、モーターの出力を歯車装置に入力し、歯車装置から出力される回転力によって車輪を駆動する。これにより、最大出力の小さなモーターを使用しながらも駆動力を十分に得ることができるので、消費電力の低減を図ることができる。
【0010】
しかしながら、電気自動車の場合は常用される速度域が広く、例えば、100km/hを越える高速走行時と、0km/hからの発進加速時とでは、モーターの回転数が大きく異なり、歯車装置による大きなギヤ比のままでは高速走行に対応できないことが考えられる。
【0011】
また、上記偏心揺動型の歯車装置を用いて、例えばプレス加工装置のプレス型をモーターで駆動することが考えられる。この場合、高推力が得られるという利点があるが、加圧時以外、例えばプレス型を単に移動させる際の移動速度が遅くなってしまうという問題がある。
【0012】
つまり、コンパクトでありながら大きなギヤ比を得ることができる偏心揺動型の歯車装置のギヤ比を変更したいという要求がある。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、偏心揺動型の歯車装置のギヤ比を任意に変更可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明では、外歯歯車の自転を阻止する自転阻止部を動かすことによってギヤ比を変更できるようにした。
【0015】
第1の発明は、内歯歯車と、上記内歯歯車の内方に該内歯歯車と噛み合うように配置される外歯歯車と、上記外歯歯車に形成された孔部に回転可能に挿入される入力軸と、上記外歯歯車に係合して該外歯歯車の自転を阻止する自転阻止部とを備え、上記入力軸は、該入力軸の中心線に対し偏心した偏心部を有し、該偏心部を上記外歯歯車の孔部に挿入して上記入力軸を回転させることにより、該外歯歯車を、上記自転阻止部により自転を阻止した状態で、上記内歯歯車に噛み合わせながら偏心揺動運動させる偏心揺動型の歯車装置において、上記自転阻止部は、上記入力軸が挿入されるように形成されるとともに、該入力軸の中心線周りに回転可能に設けられ、上記自転阻止部の上記入力軸周りの回転速度を変更する速度変更装置を備えていることを特徴とするものである。
【0016】
この構成によれば、自転阻止部の入力軸周りの回転速度が速度変更装置によって0とされれば、外歯歯車の入力軸周りの自転が自転阻止部によって阻止されるので、モーター等の回転力が内歯歯車と外歯歯車とのギヤ比に応じた回転速度となって出力される。
【0017】
一方、自転阻止部の入力軸周りの回転速度が0からある値に変更されると、外歯歯車の自転が許容されることになる。外歯歯車が入力軸の回転方向に自転すると、内歯歯車と外歯歯車とのギヤ比よりも小さなギヤ比に変化してモーター等の回転力が出力される。ギヤ比の変化量は自転阻止部の回転速度に依存するので、速度変更装置によって任意に変化させることが可能になる。
【0018】
第2の発明は、第1の発明にかかる歯車装置と、入力軸を回転駆動するモーターとを備えていることを特徴とするものである。
【0019】
この構成によれば、コンパクトな駆動装置となる。
【発明の効果】
【0020】
第1発明によれば、外歯歯車の自転を阻止する自転阻止部の入力軸周りの回転速度を速度変更装置によって変更するようにしたので、ギヤ比を任意に変化させることができる。これにより、モーター等の回転力を任意の回転速度及びトルクで出力することができる。
【0021】
第2の発明によれば、コンパクトで、かつ、駆動速度を任意に変更できる駆動装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態1にかかる駆動装置の断面図である。
【図2】駆動装置のブロック図である。
【図3】実施形態2にかかる図1相当図である。
【図4】実施形態3にかかる図1相当図である。
【図5】外歯歯車の側面図である。
【図6】揺動板の側面図である。
【図7】実施形態4にかかる図1相当図である。
【図8】実施形態5にかかる図1相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0024】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1にかかる歯車装置1を備えた駆動装置Aの断面図である。この駆動装置Aは、図示しないが、電気自動車の駆動系の一部として用いられるものであり、ホイール内に配設されるインホイールモーターである。歯車装置1の一部を構成する出力軸Bは、ボルト及びナット(図示せず)によってホイールに連結される一方、駆動装置AのケーシングCは、例えばサスペンション装置等を介して車体に取り付けられている。
【0025】
駆動装置Aは、上記歯車装置1及びケーシングCの他に、入力軸駆動モーターM1及び制御装置(制御部)2(図2に示す)を備えている。
【0026】
図1に示すように、歯車装置1は、上記出力軸Bの他、入力軸10と、偏心揺動運動する外歯歯車11と、出力軸Bに固定された内歯歯車12と、外歯歯車11の自転を阻止するための自転阻止板13及びクランクピン14と、自転阻止板13の入力軸10周りの回転速度を変更する速度変更装置15とを備えている。この実施形態1の歯車装置1における外歯歯車11の自転を阻止するための構造は、上記実公平2−45554号公報に開示された構造と略同じである。
【0027】
入力軸10は、ケーシングCに軸受C1,C1を介して回転可能に支持されており、ケーシングC内において該ケーシングCの他端側(図1の左側)から一端側(図1の右側)近傍に亘って延びている。入力軸10の一端側には、偏心部10aが設けられている。偏心部10aは、入力軸10の中心線Xに対し径方向に所定量だけ偏心した中心線Yを有する円柱状に形成されている。この偏心部10aは、ケーシングC内において一端側に収容されるようになっている。
【0028】
入力軸10には、該入力軸10の回転速度を検出する入力軸回転センサ17が設けられている。図2に示すように、この入力軸回転センサ17は制御装置2に接続されている。
【0029】
図1に示すように、出力軸Bは、ケーシングCの他端側の壁部を貫通してケーシングCの外部へ突出している。出力軸BはケーシングCの壁部に対し軸受22を介して回転可能に支持されている。出力軸Bの中心線Zと、入力軸10の中心線Xとは一致している。
【0030】
出力軸Bには、該出力軸Bの回転速度を検出する出力軸回転センサ18が設けられている。図2に示すように、この出力軸回転センサ18は制御装置2に接続されている。
【0031】
出力軸BにおけるケーシングC外へ突出した部分にホイールが固定されるようになっている。出力軸BにおけるケーシングC内に位置する部分には、径方向に延びる延出部B1が形成されており、この延出部B1に内歯歯車12が回転一体に固定されている。
【0032】
内歯歯車12は、ケーシングC内において一端側に収容されており、全体として円環状に形成されて内周面に多数の歯を有している。内歯歯車12の回転中心は出力軸Bの中心線Zと一致している。
【0033】
内歯歯車12の内方には、外歯歯車11が該内歯歯車12と噛み合うように配置されている。すなわち、外歯歯車11の中心部には、円形の中心孔11aが該歯車11の厚み方向に貫通するように形成されている。外歯歯車11の中心孔11aには、入力軸10の偏心部10aが挿入されている。外歯歯車11の中心孔11aと入力軸10の偏心部10aとの間には、軸受20,20が嵌入されており、外歯歯車11は、偏心部10aに対しその中心線Y周りに回転可能に支持されている。
【0034】
入力軸10の偏心部10aの偏心量は、外歯歯車11の一部の歯が内歯歯車12の一部の歯と噛み合い、外歯歯車11の他の歯は、内歯歯車12の他の歯から離れた状態となるように設定されている。
【0035】
また、外歯歯車11の歯数は、内歯歯車12の歯数よりも少なく設定されている。例えば、内歯歯車12の歯数は44枚で、外歯歯車11の歯数は43枚である。外歯歯車11及び内歯歯車12の歯数は任意に設定できる。
【0036】
外歯歯車11の外周側には、クランクピン14が挿入される6つのピン挿入孔11bが周方向に略等間隔に形成されている。尚、ピン挿入孔11bの数は、クランクピン14と同数でなくてもよく、余分に形成してもよい。
【0037】
クランクピン14はピン挿入孔11bの数と同じ数だけ設けられている。クランクピン14の一端側には、一側軸部14aが形成され、この一側軸部14aが外歯歯車11のピン挿入孔11bに挿入されている。一側軸部14aは、ピン挿入孔11bに挿入された状態で、一側軸部14aの中心線周りに回転可能となっている。また、クランクピン14の他端側には、他側軸部14bが形成されている。一側軸部14aの他側軸部14bに対する偏心量は、上記入力軸10の中心線Xに対する偏心部10aの中心線Yの偏心量と同じである。
【0038】
自転阻止板13は、略円形の板で構成されている。自転阻止板13の中心部には、貫通孔13aが厚み方向に貫通するように形成されている。自転阻止板13の貫通孔13aには、入力軸10の偏心部10aよりも他端側が挿入され、この状態で自転阻止板13の側面と外歯歯車11の側面とは対向している。自転阻止板13の貫通孔13aと入力軸10との間には、軸受24が設けられており、自転阻止板13は、入力軸10に対しその中心線X周りに回転可能に支持されている。尚、軸受24は必要に応じて設ければよく、省略することも可能である。
【0039】
自転阻止板13の外周側には、クランクピン14が挿入される6つのピン挿入孔13bが上記外歯歯車11のピン挿入孔11bに対応するように形成されている。尚、ピン挿入孔13bの数は、クランクピン14と同数でなくてもよく、余分に形成してもよい。
【0040】
各ピン挿入孔13bにクランクピン14の他側軸部14bが挿入されるようになっている。他側軸部14bは、ピン挿入孔13bに挿入された状態で、他側軸部14bの中心線周りに回転可能となっている。クランクピン14により、自転阻止部19が外歯歯車11に係合する。尚、この実施形態では、クランクピン14の数を6本としているが、これに限らず、例えば3本であってもよい。
【0041】
自転阻止板13の外周面には、多数の歯が周方向に並ぶように形成されている。この自転阻止板13は、ケーシングCの下部に形成された開口部C3から歯が外部に臨むように配置されている。
【0042】
上記自転阻止板13とクランクピン14とで本発明の自転阻止部19が構成されている。
【0043】
入力軸駆動モーターM1は、ケーシングC内の他端側に収容されており、ローターDとステータEとを備えている。ローターDの内周面が入力軸10の他端側の外周面に固定されている。ステータEの外周面がケーシングCの内周面に固定されている。入力軸駆動モーターM1は制御装置2に接続され、制御装置2により回転方向の切り替えや回転速度の変更が行われるようになっている。尚、入力軸駆動モーターM1は、乗用車タイプの電気自動車で一般に用いられているモーター(最高出力が60kW〜120kW)の1/5〜1/4程度の最高出力を持つ小型で省電力タイプのモーターである。入力軸駆動モーターM1の出力は上記に限られるものではなく、仕様等によって各種選択できる。
【0044】
速度変更装置15は、クランクピン14も含めて自転阻止板13の入力軸10周りの偏心部10aに対する回転を停止可能にしながら、自転阻止板13を入力軸10周りに任意の速度で回転駆動することもできるように構成されている。
【0045】
詳しくは、速度変更装置15は、変速用モーターM2と、変速用モーターM2の回転軸(図示せず)に連結される出力軸15aと、出力軸15aに固定された駆動歯車16と、クラッチ装置15bと、ブレーキ装置15cと、出力軸15aの回転速度を検出する変速用回転センサ15dとを備えている。
【0046】
変速用モーターM2は、ケーシングC外において該ケーシングCの下壁部に固定されており、出力軸15aが入力軸10の中心線X方向に延びる姿勢とされている。駆動歯車16は、自転阻止板13の歯に噛み合うように配置されている。
【0047】
変速用モーターM2は、制御装置2により制御されて停止状態と回転状態との切替、回転方向の切替、及び回転速度の無段階の変更が行われるようになっている。この変速用モーターM2としては、減速機を内蔵したものが好ましい。
【0048】
クラッチ装置15bは、変速用モーターM2の回転軸と出力軸15aとの間に配置される電磁クラッチで構成されており、それら回転軸及び出力軸15aを結合した状態と切り離した状態とに切り替えることができるとともに、仮に出力軸15aに対して駆動歯車16側から所定以上の無理な回転力が作用した場合には、クラッチ装置15bの内部にすべりを生じさせて変速用モーターM2の回転軸に無理な負荷がかからないようになっている。クラッチ装置15bは、制御装置2に接続されている。
【0049】
尚、クラッチ装置15bは、電磁クラッチ装置以外にも、例えば磁性粉体を利用したパウダークラッチ装置等であってもよい。
【0050】
ブレーキ装置15cは、変速用モーターM2の回転軸を停止させるブレーキ状態と、回転軸の回転を許容させる解除状態とに切り替えられる、いわゆる電気式ブレーキである。このブレーキ装置15cも制御装置2に接続されている。
【0051】
尚、ブレーキ装置15cは、電磁ブレーキ装置以外にも、例えば磁性粉体を利用したパウダーブレーキ装置等であってもよい。
【0052】
次に、上記のように構成された駆動装置Aの動作について説明する。
【0053】
まず、歯車装置1が最大の減速比で運転する最大減速比運転について説明する。最大減速比運転では、速度変更装置15の変速用モーターM2は停止させ、クラッチ装置15bを結合状態にするとともに、ブレーキ装置15cをブレーキ状態にする。これにより出力軸15aの回転、即ち、駆動歯車16の回転がロックされた状態となる。このとき、例えば、ブレーキ装置15cを省略して変速用モーターM2によってロック状態を作り出してもよい。
【0054】
このとき、駆動歯車16の歯と自転阻止板13の外周部の歯とが噛み合っているので、速度変更装置15によって自転阻止板13の回転速度が0、即ち、回転不能状態とされる。この状態で入力軸駆動モーターM1を回転させて入力軸10が回転駆動されると、偏心部10aが入力軸10の中心線X周りに回転し、この偏心部10aの回転によって外歯歯車11が揺動し始める。この外歯歯車11には、自転阻止板13に挿入されているクランクピン14が挿入されて係合状態となっているので、クランクピン14によって外歯歯車11の自転が阻止され、クランクピン14によって外歯歯車11の動きが制御される。これにより、外歯歯車11は、内歯歯車12と噛み合いながら、中心線X周りに偏心揺動運動する。
【0055】
このとき、駆動側である外歯歯車11の歯数が従動側である内歯歯車12の歯数よりも1枚少ないので、外歯歯車11の1回の揺動運動により、内歯歯車12が歯1枚分に相当する角度だけ回る。つまり、この実施形態の場合、内歯歯車12の歯数が44枚であるため、外歯歯車11が44回転すると内歯歯車12が1回転することになり、1:44という大きなギヤ比が得られる。
【0056】
一方、ギヤ比を変更する場合には、クラッチ装置15bを結合状態にするとともに、ブレーキ装置15cを解除状態にし、変速用モーターM2を回転させる。変速用モーターM2の回転力は、出力軸15a及び駆動歯車16を経て自転阻止板13に伝達される。変速用モーターM2の回転軸の回転方向は、自転阻止板13の回転方向が入力軸10の回転方向となる方向である。このときの変速用モーターM2の回転速度によってギヤ比が変化する。尚、ブレーキ装置15cは省略することも可能である。
【0057】
例えば、自転阻止板13の回転速度を入力軸10の回転速度と同じにすると、この自転阻止板13と外歯歯車11とはクランクピン14により連結された状態となっているので、外歯歯車11が変速用モーターM2によってクランクピン14を介して駆動されて入力軸10と等速回転することになる。そして、この外歯歯車11は内歯歯車12と噛み合っているので、内歯歯車12が外歯歯車11と等速回転する。つまり、ギヤ比は上記最大減速比運転よりも小さなギヤ比(1:1)となる。
【0058】
自転阻止板13の回転速度が入力軸10の回転速度よりも低くなるように変速用モーターM2を回転させると、外歯歯車11が、入力軸10の偏心部10aの中心線Y周りに、偏心部10aに対して入力軸10の回転速度よりも低速で相対回転(自転)しながら、かつ、揺動することになる。これにより、ギヤ比が1:44よりも小さく、かつ、1:1よりも大きくなる。変速用モーターM2の回転速度を無段階に変化させることで、ギヤ比も無段階に変化することになる。
【0059】
制御装置2は、従来から電気自動車の制御装置として用いられてきたものであり、周知のマイクロコンピュータ等を内蔵し、周知のモーター制御方法によって入力軸駆動モーターM1を制御するように構成されている。制御装置2には、少なくとも運転者のアクセルペダルの操作量や、車速が入力されるようになっている。制御装置2は、アクセルペダルの操作量、車速、入力軸回転センサ17、出力軸回転センサ18、変速用回転センサ15d等から入力される信号に基づいて、上記入力軸駆動モーターM1、クラッチ装置15b、ブレーキ装置15c及び変速用モーターM2を制御する。
【0060】
上記した変速用モーターM2の回転速度は、制御装置2によって変化させることができる。この場合、入力軸回転センサ17、出力軸回転センサ18及び変速用回転センサ15dの出力信号と、外歯歯車11及び内歯歯車12の歯数、自転阻止板13の外周面の歯数及び駆動歯車16の歯数とに基づいて、内歯歯車12が要求された回転速度となるように変速用モーターM2の回転速度を変化させる。
【0061】
次に、制御装置2による具体的な制御内容について説明する。車速が0km/hで発進しようとしているときには大きなトルクが必要であるため、歯車装置1を最大減速比運転状態としておく。そして、アクセルペダルが踏み込まれたことを制御装置2が検出すると、その踏み込み量に応じたトルクが得られるように入力軸駆動モーターM1に電流を供給する。これにより、入力軸駆動モーターM1のトルクが増大されて出力軸Bから出力されるので、十分な発進加速が得られる。
【0062】
車速が増加して例えば40km/hを越えると、歯車装置1のギヤ比を変化させる。すなわち、自転阻止板13の入力軸10周りの回転速度を0の状態から徐々に高めていく。これにより、歯車装置1のギヤ比が徐々に低下していき、入力軸駆動モーターM1の回転速度を高めなくても車速を高めることが可能になる。そして、車速が例えば80km/hになると、ギヤ比を1:1とする。ギヤ比の変化は変速用モーターM2の回転速度の変化によるものなので、変速用モーターM2の回転速度を滑らかに高めていくことで、ギヤ比は滑らかに変化し、乗員が変速ショックを感じることは殆どない。
【0063】
また、車速が高速(例えば80km/h)の状態から低速(例えば40km/h以下)になると、歯車装置1のギヤ比を高めていく。すなわち、自転阻止板13の入力軸10周りの回転速度を高速走行時に比べて低下させていき、やがて0にする。
【0064】
以上説明したように、この実施形態1によれば、外歯歯車11の自転を阻止する自転阻止板13の入力軸10周りの回転速度を速度変更装置15によって変更するようにしたので、ギヤ比を任意に変化させることができる。これにより、入力軸駆動モーターM1の出力を任意の回転速度及びトルクで歯車装置1から出力することができる。
【0065】
(実施形態2)
図3は、本発明の実施形態2にかかる駆動装置Aを示すものである。この実施形態2の駆動装置Aは、速度変更装置15の構造が実施形態1のものと異なるだけであり、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と異なる部分について詳細に説明する。
【0066】
実施形態2では、速度変更装置15の変速用モーターM2は、出力軸15aが入力軸10の中心線Xの径方向に延びる姿勢となるようにケーシングCに固定されている。出力軸15aには駆動歯車16としてかさ歯車が固定されており、このかさ歯車に噛み合うように自転阻止板13の外歯歯車11と反対側の側面に歯が形成されている。
【0067】
この実施形態2のものにおいても、変速用モーターM2の回転によってギヤ比を変更することができるので、実施形態1と同様な作用効果を奏することができる。
【0068】
また、変速用モーターM2の回転力を自転阻止板13に伝達する手段としては、例えば、ハイポイドギヤ、ウォームギヤ、ゼロールベベルギヤ等を用いることができ、また、チェーンやベルトを用いることもできる。
【0069】
(実施形態3)
図4は、本発明の実施形態3に係る駆動装置Aを示すものである。実施形態3の駆動装置Aは、自転阻止部の構造が特開2010−84907号公報に開示されている構造となっている点で実施形態1のものと異なっており、他の部分は実施形態1と同じである。以下、実施形態1と異なる部分について詳細に説明する。
【0070】
すなわち、実施形態3の歯車装置1では、クランクピン14を省略している代わりに、揺動板40を備えている。
【0071】
入力軸10の偏心部10aよりも他端側(図4の左側)には、入力軸10の中心線Xに対し傾斜して延びる傾斜軸部10bが形成されている。また、図5にも示すように、外歯歯車11の自転阻止板13側の側面には、該側面の外周部に複数の歯11eが周方向に連続して形成されている。
【0072】
自転阻止板13の外歯歯車11側の側面には、該側面の外周部に複数の歯13cが周方向に連続して形成されている。自転阻止板13は、入力軸10の中心線X方向には移動しないように該入力軸10に支持されている。
【0073】
揺動板40は、外歯歯車11と自転阻止板13との間に配設されている。揺動板40は、中心孔40aを有する円環状をなしている。図16に示すように、揺動板40の外歯歯車11側の側面の外周部には、外歯歯車11の歯11eに噛み合う複数の歯40bが周方向に連続して形成されている。揺動板40の自転阻止板13側の側面の外周部には、自転阻止板13の歯13cに噛み合う複数の歯40c(図14に示す)が周方向に連続して形成されている。
【0074】
揺動板40の中心孔40aには、入力軸10の傾斜軸部10bが回転可能に挿入されている。従って、揺動板40は、該揺動板40の中心線が傾斜軸部10bの中心線と一致した状態で入力軸10に支持されることになる。
【0075】
このため、揺動板40は、周方向の一部が外歯歯車11に近接し、この近接した部位とは中心孔40aを挟んで反対側の部位が外歯歯車11から最も離れるように、外歯歯車11に対し傾斜している。この状態で、揺動板40の歯40b,40b,…のうち、外歯歯車11に近接した部位の歯40bのみが外歯歯車11の歯11eに噛み合って、揺動板40と外歯歯車11とが係合するようになっている。
【0076】
また、揺動板40は、自転阻止板13によって外歯歯車11と反対側から支持される。そして、揺動板40の歯40c,40c,…のうち自転阻止板13に近接した部位の歯40cのみが自転阻止板13の歯13cに噛み合って、揺動板40と自転阻止板13とが係合するようになっている。揺動板40を入力軸10に組み付ける場合には、揺動板40を径方向に分割可能な構造にすればよい。自転阻止板13及び揺動板40が自転阻止部19である。
【0077】
次に、上記のように構成された駆動装置Aの動作について説明する。最大減速比運転では、速度変更装置15の変速用モーターM2は停止させ、クラッチ装置15bを結合状態にするとともに、ブレーキ装置15cをブレーキ状態にする。これにより、自転阻止板13が固定される。このとき、揺動板40の歯40bが外歯歯車11の歯11eと噛み合っているので、揺動板40と外歯歯車11とは一体化し、相対回転不能となっている。また、揺動板40の歯40cと自転阻止板13の歯13cとが噛み合っているので、揺動板40と自転阻止板13とも一体化している。
【0078】
この状態で入力軸駆動モーターM1が回転して入力軸10が回転駆動されると、偏心部10aが動き、この偏心部10aの動きによって外歯歯車11が揺動し始める。このとき、外歯歯車11と自転阻止板13とが揺動板40を介して相対回転しないようになっており、自転阻止板13が固定されている。このため、外歯歯車11の自転が阻止され、偏心揺動運動する。これにより、最大減速比が得られる。
【0079】
一方、ギヤ比を変更する場合には、クラッチ装置15bを結合状態にするとともに、ブレーキ装置15cを解除状態にし、変速用モーターM2を回転させる。これにより、自転阻止板13及び揺動板40が自転し、実施形態1と同様にギヤ比が変化する。
【0080】
したがって、この実施形態3によれば、実施形態1と同様に、変速用モーターM2の回転によってギヤ比を変更することができるので、実施形態1と同様な作用効果を奏することができる。
【0081】
尚、上記実施形態1〜3において、速度変更装置15の変速用モーターM2の出力は、例えば、プーリ及びベルトを用いた伝達機構や、スプロケット及びローラチェーンを用いた伝達機構等で伝達するようにしてもよい。また、ギヤ機構で伝達する場合には各種形式のギヤを用いることができる。
【0082】
(実施形態4)
図7は、本発明の実施形態4に係る駆動装置Aを示すものである。実施形態4の駆動装置Aは、速度変更装置の構造が実施形態1のものと異なっており、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と異なる部分について詳細に説明する。
【0083】
実施形態4では、パウダーブレーキ装置を速度変更装置50として用いている。速度変更装置50は、自転阻止板13の外歯歯車11と反対側の側面に固定されて該外歯歯車11と一体に回転する回転部材50aと、ケーシングC内面に固定された本体部50bとを備えており、磁性粉体を利用した周知の構造のものである。
【0084】
速度変更装置50は、制御装置2に接続されており、少なくとも、回転部材50aを本体部50bに対し回転不能に結合した結合状態と、回転部材50aを本体部50bに対し任意の回転速度で回転可能にする回転可能状態(いわゆる半クラッチ状態)とに切り替えることができるように構成されている。
【0085】
速度変更装置50を結合状態にすると、自転阻止板13がケーシングCに固定された状態となる。これにより、駆動装置Aは最大減速比運転となる。
【0086】
一方、速度変更装置50を回転可能状態にすると、自転阻止板13は、入力軸10の中心線X周りに自転し始める。これにより、外歯歯車11が、入力軸10の偏心部10aの中心線Y周りに、入力軸10の回転速度よりも低速で自転しながら、かつ、揺動することになり、ギヤ比が1:44よりも小さく、かつ、1:1よりも大きくなる。速度変更装置50の回転部材50aと本体部50bとの結合力を弱めると外歯歯車11の自転速度が高まり、結合力を高めると外歯歯車11の自転速度が低下し、ギヤ比が無段階に変化することになる。
【0087】
したがって、この実施形態4によれば、速度変更装置50によってギヤ比を変更することができるので、実施形態1と同様な作用効果を奏することができる。
【0088】
また、速度変更装置50の回転部材50aと本体部50bとの結合を完全に断つことも可能であり、こうすることで、外歯歯車11がフリーな状態になり、入力軸駆動モーターM1の駆動力の伝達が行われなくなる。
【0089】
(実施形態5)
図8は、本発明の実施形態5に係る駆動装置Aを示すものである。実施形態5の駆動装置Aは、速度変更装置の構造が実施形態1のものと異なっており、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と異なる部分について詳細に説明する。
【0090】
実施形態5では、速度変更用歯車装置52及びモーターM2によって速度変更装置51が構成されている。
【0091】
速度変更装置51の速度変更用歯車装置52は、基本的には実施形態1の歯車装置1と同様に構成されているので、同じ部品には同じ符号を付して各々の詳細な説明は省略する。この速度変更用歯車装置52の出力は、内歯歯車12から直接出力されるようになっている。この内歯歯車12の外周面には、歯車装置1の自転阻止板13の外周面の歯に噛み合う歯が周方向に並んで設けられている。速度変更装置51の速度変更用歯車装置52は歯車装置1に固定されている。
【0092】
また、速度変更装置51の速度変更用歯車装置52には、クランクピン14が挿入される固定板53が設けられている。固定板53はケーシングCの内面に固定されている。固定板53の中心部には、貫通孔53aが厚み方向に貫通するように形成されている。貫通孔53aには、入力軸10の偏心部10aよりも他端側が挿入されている。貫通孔53aと入力軸10との間には、軸受24が設けられている。固定板53の外周側には、クランクピン14が挿入される6つのピン挿入孔53bが外歯歯車11のピン挿入孔11bに対応するように形成されている。
【0093】
固定板53を設けていることにより、速度変更装置51の速度変更用歯車装置52における外歯歯車11の自転が阻止される。
【0094】
速度変更装置51のモーターM2の回転力は減速されて内歯歯車12を介し、自転阻止板13に伝達されて自転阻止板13が回転駆動される。自転阻止板13の回転速度はモーターM2の回転速度によって任意に変更することが可能である。
【0095】
この実施形態5では、モーターM2のトルクを増大させて自転阻止板13に伝達できるので、駆動装置Aの出力が高い場合にも対応することができる。
【0096】
したがって、この実施形態5によれば、速度変更装置51によってギヤ比を変更することができるので、実施形態1と同様な作用効果を奏することができる。
【0097】
また、実施形態5において、速度変更用歯車装置52の内歯歯車12の回転をロックするブレーキ装置を設けてもよい。
【0098】
また、上記実施形態1〜5のかかる駆動装置Aは、電気自動車のインホイールモーターとして使用して使用することができ、また、例えば既存の車両が有する車軸の一部を改造し、この車軸に駆動装置Aを設けるようにすることもできる。
【0099】
また、上記実施形態1〜5では、駆動装置Aを電気自動車の駆動系に用いた場合について説明したが、これに限らず、駆動装置Aを用いてネジ送り機構を駆動することも可能である。これにより、例えば図示しないがプレス加工装置のプレス型を入力軸駆動モーターM1で駆動することができる。この場合、駆動装置Aによるプレス型の駆動速度を上述の如く変更することができるので、加圧時に高推力を得ながら、プレス型を単に移動させる際の移動速度を早くすることができる。
【0100】
また、駆動装置Aは、例えば、圧入機や射出成形機の駆動部として用いることもできる。
【0101】
また、上記実施形態1〜5では、ケーシングCに内蔵した入力軸駆動モーターM1で歯車装置1を駆動するようにしているが、これに限らず、入力軸駆動モーターM1は外部に取り付けるタイプであってもよく、この場合、入力軸駆動モーターM1と歯車装置1とは別々に製造し流通させて、ユーザーの好みに応じて組み合わせることができる。
【0102】
また、入力軸回転センサ17及び出力軸回転センサ18は、例えば本歯車装置1をプレス加工装置に用いる場合には省略してもよい。
【0103】
また、入力軸駆動モーターM1、変速用モーターM2の種類としては、例えばブラシレスモーター、スイッチトリラクタンスモーター(SRモーター)、直流モーター、誘導モーター等が挙げられる。
【0104】
また、入力軸駆動モーターM1、変速用モーターM2は、いわゆる電動機以外にも流体圧で作動するモーター等であってもよいし、例えば内燃機関等のエンジンであってもよく、動力源は特に限定されない。
【0105】
また、クラッチ装置15b及びブレーキ装置15cのいずれか一方、又は両方を省略してもよい。
【0106】
また、歯車装置1は、歯数の設定により増速機として利用することもできる。
【0107】
また、本発明は、エンジン付きの中古自動車を電気自動車化する場合に適用できるのはもちろんのこと、電気自動車として専用設計された車体にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
以上説明したように、本発明にかかる歯車装置及び駆動装置は、例えば、電気自動車やプレス加工装置等に用いることができる。
【符号の説明】
【0109】
1 歯車装置
2 制御装置(制御部)
10 入力軸
10a 偏心部
11 外歯歯車
12 内歯歯車
13 自転阻止板
14 クランクピン
15 速度変更装置
15d クラッチ装置
15c ブレーキ装置
19 自転阻止部
40 揺動板
50,51 速度変更装置
A 駆動装置
M1 入力軸駆動モーター
M2 変速用モーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車と、
上記内歯歯車の内方に該内歯歯車と噛み合うように配置される外歯歯車と、
上記外歯歯車に形成された孔部に回転可能に挿入される入力軸と、
上記外歯歯車に係合して該外歯歯車の自転を阻止する自転阻止部とを備え、
上記入力軸は、該入力軸の中心線に対し偏心した偏心部を有し、該偏心部を上記外歯歯車の孔部に挿入して上記入力軸を回転させることにより、該外歯歯車を、上記自転阻止部により自転を阻止した状態で、上記内歯歯車に噛み合わせながら偏心揺動運動させる偏心揺動型の歯車装置において、
上記自転阻止部は、上記入力軸が挿入されるように形成されるとともに、該入力軸の中心線周りに回転可能に設けられ、
上記自転阻止部の上記入力軸周りの回転速度を変更する速度変更装置を備えていることを特徴とする歯車装置。
【請求項2】
請求項1に記載の歯車装置と、
入力軸を回転駆動するモーターとを備えていることを特徴とする駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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