説明

殺菌用水氷製造法

【課題】本発明が解決しようとする課題は、生鮮物を貯蔵、輸送、冷却する場合に衛生的に実施するために用いる、殺菌力のある次亜塩素酸根を所望の濃度で均一に含んだ氷を製造する技術を提供することである。
【解決手段】一時に凍結する水量を少なくする方法と凍結前の水温を下げておく方法を検討した結果、水温をある一定温度以下に下げておくことのみで、氷中の有効塩素の残存が画期的に改良され、工業的にかつ安価に殺菌用水氷を製造できることを知り、本課題を解決するための手段とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌力を持つ次亜塩素酸根を高濃度に含んだ殺菌力のある氷を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農産物、海産物或いは生鮮食品等の貯蔵、移送時の鮮度保持には古くから氷が利用されてきた。又氷の利用は、食品等の加熱後の急速冷却や漁業において漁場での生き締めへの利用など広範に亘っている。これは、氷の大きな融解熱に基づく冷却能力の大きさや、対象物や環境への無影響性、あるいは資源としての豊富さに基づくものである。
【0003】
しかし、氷には問題点もある。それは一旦融解し温度が上昇すると、微生物の増殖や分散を助長してしまうことである。それを防ぐために、融解し生成した水を速やかに排除する工夫がされているが、その方法は冷却のエネルギー効率の面からは不利となる。
【0004】
それらの問題を解決するために殺菌力のある物質を含んだ水を凍結させて製造した氷を利用する技術が発表されている。そのような氷を使用すると、溶解した場合でも、溶解水が殺菌力を持っていることが予想されるため、生鮮物等の細菌汚染を防止できると期待されているのである。
【0005】
そのような技術の内、特許文献1に示した技術は、電解水の有効成分を含んだ電解水氷に関するものである。電解水生成装置により生成された電解水を貯水式製氷機の製氷部に供給して電解水氷を製造する装置である。この技術は製氷用の貯水槽に貯水された水を冷却凍結させ氷を製造するものである。しかし、一般に、不純物を含んだ水溶液を凍結させると、まず初めに純粋の水のみが凍結し、不純物は排除される。最終的には排除された不純物部分も凍結するが、不純物の氷内の分布は偏ったものになる。また不純物が気化しやすい成分である場合は凍結の途中で気化し、最終的な氷内に留まる不純物濃度は低くなる。
【0006】
また、特許文献2には、円筒状の製氷器内面に、機能性物質を不純物として含む水を接触させ、その内面に氷結した氷を掻きとって製氷する技術が示してある。しかし、この技術も前述の技術同様に、溶液中の不純物の分離が起きることにより氷に含まれる不純物濃度は低いものになる。
【0007】
一方、特許文献3には、電解水を−40℃以下の冷却条件下で凍結させる技術が示してある。
説明には一時に凍結させる水の量や、伝熱体の形態等の記述が不明確のため細部の理解は困難である。そこで一般的な解釈として判断すると、この技術の問題点は、もし貯水方式の製氷であるなら、製氷面に接触した水は短い時間で凍結し、不純物の分離も少なく、比較的不均一にかつ不純物濃度が原水の濃度に近い氷が製造されるが、製氷面から離れるに従って、前述の現象が作用し、不純物の分離が起きて不純物が均一で高濃度の氷の製造は困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】 特開平11−166775号公報
【特許文献2】 特開2006−194500号公報
【特許文献3】 特開2002−350016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、殺菌力のある次亜塩素酸根を所望の濃度で均一に含んだ氷を製造する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、有効塩素を含む氷を調整するに当たり、鋭意検討を行った結果、凍結に必要な時間をできるだけ短くすることにより高濃度の有効塩素が残留することを知るに至った。さらに凍結に要する時間を短くする方法として、一時に凍結する水量を少なくする方法と凍結前の水温を下げておく方法を検討した。その結果、水温をある一定温度以下に下げておくことのみで、氷中の有効塩素の残存が画期的に改良され、工業的にかつ安価に殺菌用水氷を製造できることを知り、本課題を解決するための手段として以下のように各態様を提供するに至った。
【0011】
まず、有効塩素を含む殺菌用水を、予め10℃以下、0℃以上の温度に冷却した後に製氷機で製氷する殺菌用水氷の製造法を、本課題を解決するための手段の第1の態様とした。
【0012】
又、第1の態様において、有効塩素を含む殺菌用水を、予め8℃以下、0℃以上の温度に冷却することを、本課題を解決するための手段の第2の態様とした。
【0013】
又、第1又は2の態様において、殺菌用水の有効塩素濃度が1ppm以上、30ppm以下であることを、本課題を解決するための手段の第3の態様とした。
【0014】
又、第1乃至3の何れかの態様において、有効塩素を含む殺菌用水が微酸性次亜塩素酸水であることを、本課題を解決するための手段の第4の態様とした。
【0015】
そして、第1乃至4の何れかの態様で製造した氷を、本課題を解決するための手段の第5の態様とした。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって次の効果がもたらされる。まず、有効塩素を含む殺菌用水を、予め10℃以下、0℃以上の温度に冷却した後に製氷機で製氷することによって、均一にかつ有効塩素を高い残存率で含んだ、殺菌用水氷が得られる。
【0017】
又、本発明によってもたらされる別の効果は、有効塩素を含む殺菌用水を、予め8℃以下、0℃以上の温度に冷却した後に製氷機で製氷することによって、有効塩素をより一層高い残存率で含んだ、殺菌用水氷が得られることである。
【0018】
又、本発明によってもたらされる別の効果は、殺菌用水の有効塩素濃度が1ppm以上、30ppm以下であることによって広い範囲の目的に利用できる、殺菌用水氷が得られることである。
【0019】
又、本発明によってもたらされる別の効果は、有効塩素を含む殺菌用水が微酸性次亜塩素酸水であることによって、食品に直接接触する状態で利用できる、殺菌用水氷が得られることである。
【0020】
又、本発明によってもたらされる別の効果は、前述の製造法で製造した氷とすることによって、どこでもすぐに利用できる殺菌用水氷を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】 殺菌用水氷の製造工程図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に利用できる殺菌用水は塩素ガスを溶かし込んだ水、次亜塩素酸ナトリウム溶液、晒し粉溶液、各種の電解水等次亜塩素酸根を含む溶液ならどのようなものでも利用可能である。
それらの溶液を冷却する方法は、一般に利用されている液体の冷却法ならどのような方法でも利用できる。製氷の方法も貯水法、掻取法、スプレー法、滴下法など氷の使用目的に適した方法で行えばよい。氷の利用法としては、ブロックとして利用する方法、砕氷、シャーベット状などどのような形態でも利用できる。
【実施例】
【0023】
実施例を、図1を使って説明する。水道水を原水として、原水入り口1から微酸性次亜塩素酸水生成装置2に供給し、生成した有効塩素濃度24ppmの微酸性次亜塩素酸水を生成水タンク3に貯留した。次に、給水ポンプ4で微酸性次亜塩素酸水を、蛇管式水冷却器5で8℃に冷却し、掻き取り式製氷機6に供給した。製氷能力は約100kg/hで運転した。得られた砕氷を融解して測定した微酸性次亜塩素酸の有効塩素濃度は18ppmであった。この氷を漁船に搭載し、縦網漁で水揚げされた魚の生き締めに使用したところ、通常の氷を使った場合に比べ、36時間後の魚体菌数は50分の1以下であった。また、生臭さもほとんど感じられなかった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明による技術は生鮮物の氷蔵に利用すると、品質維持に効果があるので、水産物、農産物の品質を良好に保ちながら移送、貯蔵、展示することに利用できる。
【符号の説明】
【0025】
1 原水入り口
2 微酸性次亜塩素酸水生成装置
3 生成水タンク
4 給水ポンプ
5 蛇管式水冷却器
6 掻き取り式製氷機
7 貯氷箱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効塩素を含む殺菌用水を、予め10℃以下、0℃以上の温度に冷却した後に製氷機で製氷することを特徴とする殺菌用水氷の製造法
【請求項2】
有効塩素を含む殺菌用水を、予め8℃以下、0℃以上の温度に冷却することを特徴とする請求項1記載の殺菌用水氷の製造法
【請求項3】
殺菌用水の有効塩素濃度が1ppm以上、30ppm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の殺菌用水氷の製造法
【請求項4】
有効塩素を含む殺菌用水が微酸性次亜塩素酸水であることを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載の殺菌用水氷の製造法
【請求項5】
請求項1乃至4の製造法で製造した殺菌用水氷

【図1】
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