説明

殺菌/浸透性が向上した安定なタンパク質生成物およびそれを含む薬剤組成物

【課題】新規で、生物学的に活性で、組換え生成したBPI(rBPI)タンパク質、および二量体とシステイン付加体の形成を抑止し、薬学用途に非常に有用な生成物をもたらすタンパク質断片生成物、rBPI生成物および類似体をコードする新規DNA配列、このDNAを含むプラスミドベクター、このプラスミドで安定に形質転換あるいは形質変換された宿主細胞、組換え調製法、安定な薬剤組成物、および治療方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、カルボキシ末端残基として第193位にロイシン残基を有する殺菌性/浸透性が向上したタンパク質の生物学的に活性な断片をコードするDNA。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、殺菌性/浸透性が向上した新規なタンパク質生成物およびそれを含む薬剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リポ多糖(LPS)は、グラム陰性細菌の外膜の主要構成成分であり、コアオリゴ糖およびリピドAの定常領域に結合する血清型に特異的な酸素側鎖多糖から構成される。非特許文献1。LPSは、米国での集中治療部での医療における主要な死因の一つである、グラム陰性敗血症ショックの病理における重要な媒体である。非特許文献2。
【0003】
LPS結合タンパク質は、多様な哺乳類組織にて同定されている。非特許文献3; 非特許文献4。最も広範に研究されているLPS結合タンパク質は、多形核白血球のアズール性顆粒に認められる基本タンパク質の、殺菌性/浸透性が向上したタンパク質(BPI)である。ヒトBPIタンパク質は、イオン交換クロマトグラフィー[非特許文献5]あるいはE.coli親和性クロマトグラフィー[非特許文献6]のいずれかと酸抽出を組み合わせて、多形核好中球から単離され、そして、グラム陰性細菌の多様な菌に対して強い殺菌活性を有する。
【0004】
BPIタンパク質は多くのグラム陰性細菌に対して細胞毒性を呈するが、グラム陽性細菌、カビ、あるいは哺乳類細胞に対する細胞毒性は報告されていない。ヒトBPIの全タンパク質のアミノ酸配列ならびにそのタンパク質をコードするDNA(配列番号:1および2)は、本明細書に参考として引用する非特許文献7の図1にて解明されている。非特許文献7は、ヒト前骨髄細胞白血病HL−60細胞系(ATCC CCL 240)のDMSO誘発細胞から誘導したcDNAライブラリーからの、cDNAをコードするヒトBPIの単離を開示している。そのDMSO誘発したHL−60細胞から誘導した新たに調製されたcDNAライブラリーからの度重なるPCR増幅は、第151位のアミノ酸が、バリンを特定するGTC(配列番号:1に示した)あるいはGTGのいずれかのコドンである、cDNAをコードするヒトBPIの存在を示した。さらに、第151位にバリンを特定するGTGを用いたcDNAが、第185位のアミノ酸がリシン(AAG)(配列番号:1および2のように)あるいはグルタミン酸残基(GAG)のいずれかを特定するものであることがわかっている。
【0005】
ヒトBPIホロタンパク質のN末端部分に対応するタンパク質分解断片は、自然に誘導された55kDaヒトBPIホロタンパク質の抗菌効果を有している。N末端部分とは対照的に、単離したヒトBPIタンパク質のC末端領域は、かすかに検出できるだけの抗菌活性を示すに過ぎないものであった。非特許文献8。ヒトBPIホロタンパク質の最初の約199個のアミノ酸を含むBPIN末端断片は、組換法により23kDaのタンパク質ろして生成された。非特許文献9。
【0006】
ヒトのグラム陰性敗血症の治療のためのBPI生成物の計画された臨床応用では、安定で、均質な薬剤調製物への応用に適切な組換BPI(rBPI)生成物を大量に生成するために相当の努力がなされている。
【0007】
例えば、共同所有に係る、Grinnaによる係属中の米国特許出願No.08/072,063は、培養基中での遺伝子的に形質転換された哺乳類宿主細胞で発現し、そこから分泌された組換BPI生成物の精製のための方法を開示している。精製プロセスの効果は、ヒトBPIの31個のアミノ酸の「リーダー」配列と成熟タンパク質の最初の199個のアミノ末端残基(すなわち、配列番号:2の31〜199のアミノ酸に対応する)をコードするDNAを発現する形質転換したCHO細胞の生成物の程度にて立証されている。共同所有に係る、Theofan,et alによる係属中の米国特許出願No.08/064,693は、BPIのリーダー配列と、免疫グロブリン重鎖の定常領域をコードするDNAに融合したヒト BPIの191あるいは199位のアミノ末端残基のいずれかをコードするDNAの発現の結果得られた、新規の、組換え生成したBPIタンパク質類似体生成物に関する。
【0008】
ヒトのグラム陰性敗血症の治療のための薬剤クラスのBPI生成物に向けた努力は、未だ満足の行く結果に至っていない。この主たる理由として、ヒトBPIのアミノ酸配列固有の性質と生成物を生成する組換え宿主細胞が置かれた環境が挙げられる。一例として、形質転換したCHO宿主細胞の分泌物として生成される、BPI[rBPI(1−199)]の最初の199残基を含む生物学的に活性なrBPI生成物は、恐らく、良好な収率で精製されるであろう。しかしながら、単離したBPI生成物は、当初に、BPIの二量体形態ならびにシステイン付加物を含む。さらに、二量体および付加物の形成により、生理学的温度および pHでの保管にて、BPI生成物は不安定になる。生物学的活性は保持しているものの、かような二量体および付加物を、ヒトへ適用される薬剤組成物へ取り入れることは好ましくない。二量体の形成およびシステイン付加物の形成は、BPIの生物学的に活性なアミノ末端領域、すなわち、第132、135および175位に位置する、三つのシステインアミノ酸残基をBPIが含んでいることによるものと思われる。三つのシステインの内の二つのシステインの間のジスルフィド単結合の形成は、宿主細胞の細胞質および/または細胞培養上清にてシステインを残さずに、二量体の形成およびシステイン付加物の形成を許容する。
【0009】
単量体rBPI生成物であっても、かような生成物におけるカルボキシ末端残基の数に関して様々な微小不均質性の程度を示す。例えば、rBPI(1− 199)をコードするDNAで形質転換あるいは形質変換した宿主細胞を含む培地にて、発現物質の全長を検出することは難しい。その代わりに、かような細胞から取得した発現生成物は、rBPIのN末端断片のカルボキシ末端を切除した不均一な配置を示す。
【0010】
実際のところ、予想される全長の生成物(1− 199)は、不均一な配置におけるrBPIの中から検出されない場合の方が多い。rBPI(1−199)生成物のカルボキシ末端アミノ酸配列の不均一性は、宿主細胞の細胞質および/または培養上清のカルボキシペプチダーゼの活性によるものと思われる。
【0011】
薬剤レベルのBPI生成物の調製における他の問題点は、生成物の均質性ならびに活性を減少させる、肉眼で捉えられる粒子の形成にある。本発明のrBPI生成物を含む好ましい薬剤組成物は、ポロキサマー(ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロックコポリマー)界面活性剤とポリソルベート(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)界面活性剤の組み合わせを含む。かような組み合わせは、粒子形成に対して薬学的に
活性なポリペプチドを安定化せしめる相乗効果を得る目的で、共同所有に係る、係属中で、同時に出願された米国特許出願No.08/012,360にて教示されている。rBPI生成物が、0.1重量%のポロキサマー188(Pluronic F−68,BASF Wyandotte,パルシパニィー、ニュージャージー州)および0.002重量%のポリソルベート80(Tween 80,ICI Americas Inc.,ウィルミントン、デラウェア州)を含むクエン酸緩衝化生理食塩水(0.02Mクエン酸、0.15M塩化ナトリウム、pH5.0)に、1mg/mlの濃度で存在させることが最も好ましい。
【0012】
当該技術分野では、安定で均質な薬剤調製物に適切な改善されたrBPI生成物が依然として必要とされている。かような生成物が形質転換した宿主細胞から高収率で理想的に取得でき、BPIの殺菌活性およびLPS−結合の生物学的活性を維持し、そして、二量体ならびにシステイン付加物の形成を抑止し、ひいては、カルボキシ末端の変異を限定する。
【非特許文献1】Raetz,Ann.Rev.Biochem.(1990年)59:p.129−170
【非特許文献2】Morrisonら,Ann.Rev.Med.(1987年)38:p.417−432
【非特許文献3】Morrison,Microb.Pathol.(1989年)7:p.389−398
【非特許文献4】Roederら,Infect.,Immun.(1989年)57;p.1054−1058
【非特許文献5】Elsbach,J.Biol.Chem.(1979年)254:p.11000
【非特許文献6】Weiss,etら,Blood,(1987年)69:p.652
【非特許文献7】Gray,et al.,J.Biol.Chem.(1989年)264:p.9505
【非特許文献8】Ooi,et al.,J.ExP.Med.(1991年)174:p.649
【非特許文献9】Gazzano−Santoroet aL.,Infect.Immun.(1992年)60:p.4754−4761
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の概要)
本発明は、以下の項を提供する:
項1.第132位あるいは第135位のシステイン残基が異なるアミノ酸で置換されている、殺菌性/浸透性が向上したタンパク質のポリペプチド類似体あるいはその生物学的に活性な断片;
項2.前記システイン残基を置換するアミノ酸が、アラニンおよびセリンからなるグループから選択された非極性アミノ酸である請求の範囲第1項に記載のポリペプチド類似体;項3.第132位のシステイン残基が、アラニンで置換される請求の範囲第1項に記載のポリペプチド類似体;
項4.第135位のシステイン残基が、セリンで置換される請求の範囲第1項に記載のポリペプチド類似体;
項5.殺菌性/浸透性が向上したタンパク質の、第132位あるいは第135位のシステイン置換を除く、第176位から第199位の開始アミノ末端アミノ酸残基を含む請求の範囲第1項、第2項、第3項もしくは第4項に記載のポリペプチド類似体;
項6.殺菌性/浸透性が向上したタンパク質の第193位のアミノ末端アミノ酸残基を含む請求の範囲第5項に記載のポリペプチド類似体;
項7.第132位あるいは第135位のシステイン残基が異なるアミノ酸で置換されている、殺菌性/浸透性が向上したタンパク質のポリペプチド類似体あるいはその生物学的に活性な断片をコードするDNA;
項8.31個のアミノ酸リーダー配列ならびに殺菌性/浸透性が向上したタンパク質の最初の193位のN−末端残基をコードし、第193位のロイシン残基のためのコドンの直後に続くコドンに続く停止コドンを有する請求の範囲第7項に記載のDNA;
項9.31個のアミノ酸リーダー配列ならびに殺菌性/浸透性が向上したタンパク質の最初の199位のN−末端残基をコードし、第199位のイソロイシンのためのコドンの直後に続くコドンに続く停止コドンを有する請求の範囲第7項に記載のDNA;
項10.請求の範囲第7項に記載のDNAを含む自律複製DNA;
項11.前記ポリペプチド類似体の宿主細胞での発現を許容する方法にて、請求の範囲第7項に記載のDNAで安定的に形質変換あるいは形質転換された宿主細胞;
項12.請求の範囲第11項に記載の真核細胞;
項13.ATCC CRL 11246およびATCC HB 11247からなるグループから選択されたATCC受託番号を有する請求の範囲第12項に記載の宿主細胞;
項14.適切な培養培地で請求の範囲第11項に記載の宿主細胞を生長させ、および前記宿主細胞あるいは前記培養培地からポリペプチド類似体を単離することを含む、殺菌性/
浸透性が向上したタンパク質のポリペプチド類似体あるいはその生物学的に活性な断片を製造する方法;
項15.アミノ末端に請求の範囲第1項に記載の類似体ポリペプチドを、および、カルボキシ末端に免疫グロブリン重鎖あるいはその対立性変異体の少なくとも一つの定常領域を含むハイブリッド融合タンパク質;
項16.請求の範囲第15項に記載のハイブリッド融合タンパク質をコードするDNA;項17.請求の範囲第16項に記載のDNAを含む自律複製DNAベクター;
項18.前記融合タンパク質の宿主細胞での発現を許容する方法にて、請求の範囲第16項に記載のDNAで安定的に形質変換あるいは形質転換された宿主細胞;
項19.適切な培養培地で請求の範囲第18項に記載の宿主細胞を生長させ、および前記宿主細胞あるいは前記培養培地から前記類似体を単離することを含む、請求の範囲第15項に記載のハイブリッド融合タンパク質を製造する方法;
項20.請求の範囲第1項に記載のポリペプチド類似体および薬学的に許容される希釈剤、補助剤、あるいは担体を含む薬学的組成物;
項21.請求の範囲第15項に記載のハイブリッド融合タンパク質および薬学的に許容される希釈剤、補助剤、あるいは担体を含む薬学的組成物;
項22.請求の範囲第20項もしくは第21項に記載の薬学的組成物の有効量を投与することを含む、細菌性疾患あるいはその後遺症を治療するための方法;
項23.カルボキシ末端残基の第193位にロイシン残基を有する殺菌性/浸透性が向上したタンパク質の生物学的に活性な断片をコードするDNA;
項24.31個のアミノ酸リーダー配列ならびに殺菌性/浸透性が向上したタンパク質の最初の193位のN−末端アミノ酸をコードし、第193位のロイシン残基のためのコドンの直後に続くコドンに続く停止コドンを有する請求の範囲第23項に記載のDNA;
項25.請求の範囲第23項に記載のDNAを含む自律複製DNAベクター;
項26.宿主細胞での発現を許容する方法にて、請求の範囲第23項に記載のDNAで安定的に形質変換あるいは形質転換された宿主細胞;
項27.請求の範囲第23項に記載のDNAで安定的に形質変換あるいは形質転換された宿主細胞を適切な培養培地で生長させ、および前記宿主細胞あるいは前記培養培地から前記断片を単離することを含む、生物学的に活性な殺菌性/浸透性が向上した断片を製造する方法。
【0014】
本発明は、新規で、生物学的に活性で、組換え生成したBPI(rBPI)タンパク質、および二量体とシステイン付加体の形成を抑止し、薬学用途に非常に有用な生成物をもたらすタンパク質断片生成物を提供する。また、カルボキシ末端での低減した分子の不均一性によって特徴付けられたrBPI生成物を提供される。rBPI生成物および類似体をコードする新規DNA配列、このDNAを含むプラスミドベクター、このプラスミドで安定に形質転換あるいは形質変換された宿主細胞、組換え調製法、安定な薬剤組成物、および治療方法もが本発明によって提供される。
【0015】
本発明の一態様によると、第132あるいは135位のアミノ酸位置にあるシステインが、他のアミノ酸、好ましくは、セリンあるいはアラニンのような非極性アミノ酸で置換されたBPIのN末端断片を含むrBPIタンパク質類似体が提供される。本発明の好ましい態様において、BPIの最初の199個のN末端残基を含むポリペプチドの第132位のシステイン残基が、「rBPI(1−199)ala132」と称する組換え生成物のアラニン残基によって置換される。また、本発明の好ましい態様では、BPIの最初の199個のN末端残基を含むポリペプチドの第135位のシステイン残基が、「rBPI(1−199)ser135」と称する組換え生成物のセリンによって置換される。カルボキシ末端残基の同一性に関する低減された不均一性によって特徴付けられる、「rBPI(1−193)ala132」と称する組換え生成物が非常に好ましい。また、本発明の好ましい態様では、BPIの最初の193個のアミノ末端残基を含み、第193位のロ
イシンのためのコドンの直後に停止コドンを有するポリペプチドが教示されている。
【0016】
本発明の他の態様によると、上記したrBPIタンパク質および類似生成物を含めたタンパク質断片生成物をコードするDNA配列が提供される。かようなDNA配列は、31残基のBPIリーダー配列とBPIポリアデニル化シグナルもコードする。
【0017】
また、上記した生成物ならびに類似体をコードするDNAを含む自律複製DNAプラスミドベクターと、そのDNAが十分に発現を許容する方法で該DNAで安定に形質転換あるいは形質変換した宿主細胞も提供される。本発明による形質転換あるいは形質変換した宿主細胞は、本発明のrBPIタンパク質生成物の大規模製造において非常に有用な手段である。
【0018】
本発明は、アミノ末端に本発明のrBPIタンパク質類似体、そしてカルボキシ末端に免疫グロブリンの重鎖の定常領域あるいはその対立性変異体を含む、融合タンパク質の形態のrBPIタンパク質類似体も意図している。BPI/免疫グロブリン融合タンパク質の天然配列は、その開示を参考までに本明細書に取り込んだ、共同所有に係る、Theofan,et alによる係属中の米国特許出願No.08/064,693にて教示されている。さらに、本発明は、上記した融合タンパク質の製造方法も意図している。
【0019】
BPIのN末端アミノ酸の約176から約198のアミノ酸を有する生物学的に活性なrBPIタンパク質断片生成物をコードするDNAも本発明の範疇にある。これらDNAは、生成物がカルボキシ末端にて低減された不均一性を示すよう、CHO細胞のような真核宿主細胞でのBPI生成物の生成を許容する。BPIの193個のN末端残をコードするDNA(例えば、BPIの31個のアミノ酸リーダー配列、最初の193個のN末端アミノ酸、および1つ以上の停止コドンをコードするDNA)が目下のところ好ましい。第132位あるいは第135位のシステインのいずれかが置換されたタンパク質(例えば、rBPI(1−193)ala132)を付加的にコードするDNAが最も好ましい。
【0020】
最後に、本発明は、薬学的に許容される希釈剤、補助剤および担体に、本発明のrBPIタンパク質生成物を含む、安定で、均質な薬剤組成物も提供する。かような薬剤組成物は、rBPI生成物粒子の形成を抑止する。このような組成物は、内毒素関連ショック症状、ならびに散在性血管凝固、貧血、血小板減少症、白血球減少症、成人呼吸障害症候群、腎不全、低血圧症、発熱、および代謝酸血症などのそれに関連する1種以上の症状を含む、グラム陰性細菌感染症およびその後遺症の治療において有用である。
【0021】
本発明の無数の他の態様ならびに利点は、本発明の好ましい態様を記載した以下の発明の詳細な説明を考慮すれば、当業者であれば容易に想到できるものと思われる。
【0022】
発明の詳細な説明 以下の詳細な説明は、システイン残基でのアミノ酸置換および/または高度に均質化されたカルボキシ末端を含む様々なrBPI生成物の製造と特性に関する。具体的には、実施例1は、BPIタンパク質の例示的なN末端断片をコードするヌクレオチド配列に塩基置換をもたらす例示的な手段、およびかように変異させた配列のプラスミドベクターへの導入に関する。実施例2は、適切な宿主細胞への実施例1のベクターの導入、および本発明の組換えBPIタンパク質ポリペプチド生成物の発現についてさらに記述している。実施例3は、本発明のシステイン置換した類似体生成物をコードするDNAの構築、およびinvitroでの転写/翻訳過程におけるその使用に関する。実施例4は、本発明のrBPI生成物ポリペプチドの特性に関する。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
(BPIのシステイン置換類似体を含むベクターの構築)
(A.プラスミドpING4519とpING4520の構築)
発現ベクターpING4503を、rBPI(1−199)と称する組換え発現生成物をコードするDNA源として、すなわち、第151位のバリンがGTCよりもむしろGTGで特定され、また第185位の残基が(AAGで特定される)リシンよりむしろ(GAGで特定される)グルタミン酸であることを除いて、配列番号:1および2に説明したような、31残基のシグナル配列と成熟したヒトBPIのN末端の最初の199個のアミノ酸を含むポリペプチドをコードするDNA源として用いた。
【0024】
プラスミドpING4503は、本発明の背景に関する参照のために採用した、共同所有に係る、係属中のTheofan,et alによる米国特許出願No.08/064,693に記載されている。要約すれば、pING4503の構築は、マウス免疫グロブリン重鎖エンハンサー要素、Abelsonマウス白血病ウィルス(A−MuLv)DNAからのLTRエンハンサー・プロモーター要素、発現しようとする遺伝子の5’端のSV40 19S/16S連結ジャンクション、および発現しようとする遺伝子の3’端のヒトゲノミックガンマ−1ポリアデニル化部位を含むプラスミド pING2237Nに基づいている。プラスミドpING2237Nは、マウスジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)での選択が可能なマーカーも有している。天然の5’非翻訳領域の30bp、31個のアミノ酸シグナル配列をコードする塩基、ならびにBPIの199個のN末端アミノ酸を含んだ、rBPI(1−199)をコードするDNAを、pING4503の独特のSalIおよびSstII制限部位の間に挿入した。
【0025】
二つのベクター、pING4519およびpING4520は、BPIの自然に発生した三つのシステイン残基の一つを他のアミノ酸と置換したrBPI(1− 199)システイン置換類似体の発現のためのpING4503に基づいて構築した。rBPI(1−199)をコードするDNAに一度だけ発生し、第132 位のシステインと第135位のシステインの間に位置するPvuII部位(CAGCTG)をこれらの構築に用いた。pING4503には他にも幾つかの PvuII部位があるので、pING4503から、rBPI(1−199)をコードする挿入体を含んだSalI−SstII断片を、SalIとSstII で消化することでまず単離する必要がある。精製したSalI−SstII rBPI(1−199)挿入体を、次に、PvuIIで消化し、個別に精製された、約529bpのSalI−PvuII断片と、約209bpのPvuII− SstIIが得られた。
【0026】
プラスミドpING4519は、アラニンのためのコドンが第132位の本来のシステインを特定するコドンに置換されているrBPI(1−199)をコードするDNA挿入体をpING4519が含んでいる以外は、pING4503と同一である。上記したように、宿主細胞発現とその挿入体の分泌過程による組換え生成物を、「rBPI(1−199)ala132」と称した。pING4519を生成するために、 30bpのBPI非翻訳領域の5’端にSalI制限部位を挿入したプライマーBPI−6:AAGCTTGTCGACCAGGCCTTGAGGT(配列番号:3)、およびPvuIIの半分と第132位にアラニンをコードするために必要な塩基置換を含んだBPI−14:CTGGAGGCGGTGATGGTG (配列番号:4)を用いて、BPIDNA配列をpING4503をPCR増幅した。PCR増幅は、製造業者の説明書に従って、GeneAmp PCR Kit(Perkin Ermer Cetus、ノウォーク、コネチカット州)を用いて行った。
【0027】
得られたPCR断片はSalIで消化して、約529bpのSalI鈍化した断片が得られ、これは上記した約209bpのPvuII− SstII断片とpING4503のSalIとSstIIによる消化で得られた大きな断片と共に、pING4519を得
るために三片接合した。
【0028】
プラスミドpING4520は、セリンコドンが第135位の本来のシステインを特定するコドンに置換されているrBPI(1−199)類似体をコードするDNA挿入体をpING4520が含んでいる以外は、pING4519と同一である。上記したように、宿主細胞発現による組換え生成物を、「rBPI(1 −199)ser135」と称した。pING4520を生成するために、選択マーカーがDHFRに代えてgptであること、 cDNA挿入体がシグナル配列と、rBPI(1−199)の一部に代えてBPI全長(456残基)をコードすることを除けば、実質的にpING4503と同様のプラスミドであるpING4513からBPIDNAはPCR増幅される。
【0029】
5’端に変異したPvuII部位(”CTG”が”CTC”に変化している)の半分と第135位にセリンをコードするために必要な塩基置換を含んだプライマーBPI−15:CTCCAGCAGCCACATCAAC(配列番号:5)と、199位のBPI残基をコードする領域の下流に位置するrBPIをコードする配列を意味するプライマーBPI−7:GAACTTGGTTGTCAGTCG(配列番号:6)を用いてPCRによる増幅を行った。このPCR断片を、 135位のシステインの変異部位の下流を切断するBstBIで消化し、得られた約100bpの切断したBstBI断片をゲル精製した。上記した529bp のSalI− PvuIIBPI制限断片、100bpの切断したBstBI断片、およびpING4503のBstBI−SalI消化により得られた大きな断片を用いて、 pING4520を生成するために三片接合を行った。
【0030】
(B.プラスミドpING4530の構築)
pING4519のようにアラニンからシステインへの置換を含み、pING4503からpING4519に運ばれたDHFRマーカーに代えて(マイコフェノール酸耐性を許容する)gpt選択可能なマーカーを含む他のベクター、pING4530を構築した。pING4530を構築するために、1629bpのSalI−DraIII制限断片が、pING4519から単離された。この断片は、rBPI(1−199)ala132のコード領域をすべて、ならびにこのコード領域の3’末端での約895bpのベクター配列を含んでいる。この断片は、pING4530を生成するために、pING4513から単離された大きな(約7230bp)DraIII−SalIベクター断片に接合した。
【0031】
(C.プラスミドpING4533の構築)
BPIシグナル配列の5番目のアミノ酸である、−27位のメチオニン(ATG)を特定するコドンを、Kozakの定常翻訳開始配列 GCCACCRCCATGG(配列番号:7)[Kozak,Nucl.Acid.Res.,15:8125(1987)]との関連で置換し、BPIシグナルの最初の四つのアミノ酸をコードするDNA配列を削除して、rBPI(1−199)ala132の発現のためのプラスミドpING4533を構築した。BPIシグナルの−27位のATG(メチオニン)の前にSalI制限部位およびヌクレオチドGCCACCを組み込んだPCRプライマーBPI−23:ACTGTCGACGCCACCATGGCCAGGGGC(配列番号:8)、およびrBPI(1−199)コード配列の3’端に対応するプライマーBPI−2:CCGCGGCTCGAGCTATATTTTGGTCAT(配列番号:9)を用いて、[pGEM−7zf (+)中の]ヒトBPI cDNAの全長を含むプラスミドからBPI配列のPCR増幅によって構築を行った。約700bpのPCR増幅したDNAをSalIおよびEcoRIで消化し、BPI(1−199)コード配列の約1/3を含む270bpの得られた断片を精製した。このSalI−EcoRI断片を、gptマーカーを含む pING4533を生成するために、(1)132位のシステインをアラニンで置換したBPI(1−199)の残部をコードするpING4519からの 420bpのEcoRI−S
stII断片、および(2)pING4502からの約8000bpのSstII−SalIベクター断片(30bpの5’非翻訳配列を含まず、DHFRよりもむしろgPtマーカーを有することを除けば実質的にpING4503と同様のベクター)の二つの断片と接合した。
【0032】
(D.プラスミドpING4221、pING4222、およびpING4223の構築)
シグナル配列の−27位のメチオニン残基に対応する至適なKozakの翻訳開始部位と、システインからアラニンへの132位での置換を含む挿入体を有する pING4533と同様のベクターを構築した。しかしながら、これら構築体では193位残基にて、BPI断片がコードする配列は終了している。上記したように、このDNAの宿主発現から得られた組換え生成物は、「rBPI(1−193)ala132」と称した。これら挿入体を含むベクターは、BPIのDNA挿入体の5’端を切断する、SalIでまずpING4533を消化し、192位残基の3’側に覆い被さる3bpを残すAlwNI で消化することで作製される。そして、得られた約700bpの断片は精製された。この断片は、二つのアニールした相補性オリゴヌクレオチド、BPI− 30:CTGTAGCTCGAGCCGC(配列番号:10)およびBPI−31:GGCTCGAGCTACAGAGT(配列番号:11)によって、 SstII−SalIでのpING4533消化から得られた大きな断片へ再接合された。これは、AlwNIとSstII部位の間の領域を、193位の残基(ロイシン)のためのコドン、停止コドン、およびXhoI制限5’部位と共にSstII部位に置換し、AlwNIとSstII部位双方を再生し、また、193位のアミノ酸(ロイシン)のためのコドン(CTG)の直後に停止コドンとTAGを置くことになる。得られたプラスミドをpING4223と称し、gPtマーカーを有していた。異なる選択マーカーを用いてベクターを生成するために、異なるSstII−SalIベクター断片が用いられていることを除けば、pING4223のために記載された方法と同じくして同様の構築体が作製される。例えば、gptマーカーの代わりに(ヒスチジノールに耐性を付与する)hisマーカーを含むことを除けば、pING4221はpING4223と同一であり、また、gptの代わりにDHFRマーカーを含むことを除けば、pING4222はpING4223と同一である。
【0033】
(E.プラスミドpING4537、pING4143、pING4146、 pING4150、およびpING4154の構築)
rBPI(1−193)ala132をコードする挿入体、至適化されたKozakの翻訳開始部位、SstII部位の3’端のヒトゲノミックガンマ1重鎖のポリアデニル化および転写終了領域が、ヒト軽鎖ポリアデニアル化配列、続いてマウス軽鎖(カッパ)ゲノミック転写終了配列で置換されていることを除いて実質的にpING4221、 pING4222およびpING4223と同一である異なる選択マーカーを含んだ一連のベクターが構築された。並行した遺伝子発現の研究にて、軽鎖ポリアデニアル化シグナルおよび転写終止領域は、Sp2/0およびCH0−K1細胞でのBPI発現レベルの2.5〜5倍の増大に寄与しているものと思われる。
【0034】
上記したベクターの構築は、rBPI(1−199)ala132挿入体を含んだpING4533と同様のベクターであるpING4537をまず構築することから始めた。しかしながら、pING4537は、ヒト重鎖配列に代えて、ヒト軽鎖ポリアデニアル化配列を含んでいる。マウスカッパ3’配列は、ヒト軽鎖cDNAをコードする発現ベクターであるpING3170から取得され、マウスゲノミック軽鎖3’転写終止配列を含んでいる。これは、マウス軽鎖停止コドンの35bp上流を切断するSstIで消化し、切断端を作成するためにT4DNAポリメラーゼで処理し、マウスカッパ3’配列を含む約1350bp の断片を精製することで達成される。得られた断片は、ヒト軽鎖定常領域cDNAの3’部分の約250bpと、Lui et al.,J.Immunol.1
39:3521(1987)にてΔ8と称されている構築体にて記載されているBam HIリンカーが続くポリアデニル化シグナルから構成されている。約1350bp断片の残りの部分は、転写終止配列を供給するBglII−Bam HIマウスカッパ3’ゲノミック断片〔Xu et al.,J.Biol.Chem.261:3838(1986)の断片”D”〕から構成されている。この断片は、BPI挿入体の全部とSstIIでの消化、T4ポリメラーゼ処理、および(BPI挿入体の全部とベクターの一部を含む)NotI消化により得られたベクターの一部を含む3044bp断片であるpING4533と、約4574bpのBam HI−NotI断片の二つの断片による三片接合に用いた。得られたベクター、pING4537は、上記したゲノミック3’非翻訳領域の相違点を除いて pING4533と同一である。
【0035】
カッパ3’非翻訳配列を含む他のベクターを、カッパ3’断片の入手源としてpING4537を用いて構築した。カッパ3’非翻訳配列を、XhoI(BPI 停止コドンの直後に生じる独特の部位)とBam HIによるpING4537の消化により単離された。rBPI(1−193)ala132をコードする挿入体をすべてが含み、また、シグナルの−27位残基に至適化されたKozakの翻訳開始部位を有している以下の4つのベクターを生成するために、得られた約1360bpのXho I−Bam HI断片を三片接合に用いた。すなわち、(1)4574bpのBam HI−NotI断片(gptマーカー)であるpING4223、約3019bpの断片を含むNotI− XhoIBPI挿入体であるpING4223、およびXho I−Bam HI断片であるpING4537の接合により得られたPING4143(gptマーカー)、(2)約4159bpのBam HI−NotI断片(DHFRマーカー)であるpING4222、約3019bpの断片を含むNotI−XhoIBPI挿入体であるpING4223、およびXho I−Bam HI断片である pING4537の接合により得られたpING4146(DHFRマーカー)、(3)約4772bpのBam HI−NotI断片を含むpING4221 his、断片を含むNotI− XhoIBPI挿入体であるpING4222、およびXhoI−Bam HI断片であるpING4537の接合により得られたpING4150(hisマーカー)、および(4)約4042bpのBam HI−BsaI断片を含むpING3174 neo、約3883bpの断片を含むBsaI−XhoIBPI挿入体であるpING4221、およびXhoI −Bam HI断片であるpING4537の接合により得られたpING4154(neoマーカー)である。プラスミドpING3174は、抗体重鎖DNAをコードする挿入体ならびにneoマーカーを含んでいる。neo遺伝子とその開裂配列は、Southern et al.,J.Mol.Appl.Genet.,1:327(1982)にて報告されているpSv2 neoプラスミドから取得した。
【0036】
(F.プラスミドpING4114およびpING4151の構築)
rBPIコード配列の発現が、Abelsonマウス白血病ウィルス(A−MuLv)LTRプロモーターに代えてヒトサイトメガロウィルス(hCMV)の直接の初期エンハンサー/プロモーターの制御下にあることを除けば、pING4143とpING4150のそれぞれと同一であるpING4144と pING4151の二つのプラスミドを構築した。よって、pING4144とpING4151の双方は、第132位でのシステインからアラニンへの変異、至適化されたKozak翻訳開始配列、およびヒト軽鎖ポリ−A/マウスカッパゲノミック転写終止領域を含んでいる。当初のベクター(pING4143と pING4150)の第879位から第1708位のヌクレオチド領域を、本明細書に参考までに採り入れた、Boshart et al.,Cell41:521(1985)の図3に見られるように、第−598位から第+174位のヌクレオチドに対応するhCMVエンハンサー/プロモーターの領域と置換した。BPI発現ベクターにhCMVプロモーター領域に導入するために、抗体軽鎖挿入体の発現を進めるhCMVプロモーターを含むプラスミドpING2250からの断片を含む約1054bpのEc
oRI−SalI/hCMVプロモーターで、pING4222の断片を含む約1117bpのEcoRI−SalI/A−MuLv プロモーターでまず置換することで、プラスミドpING4538を構築した。pING4144を構築するために、三つの断片を接合した。すなわち、(1) pING4538のNotI−XhoI断片を含む約2955bpのrBPI(1−193)、(2)pING4537からの約1360bpのXhoI− Bam HI、および(3)pING4221からのhis遺伝子を含む約4770bpのBam HI−NotI断片である。
【0037】
(G.プラスミドpING4145、pING4148、およびpING4152の構築)
第132位のアラニン置換に代えて野性型(自然配列)のシステインを含むことを除けば、pING4143、pING4146、およびpING4150と同一である、プラスミドpING4145、 pING4148、およびpING4152を構築した。よって、これら三つのプラスミドは、rBPI(1−193)挿入体、至適化したKozakの翻訳開始配列、およびヒト軽鎖ポリA/マウスカッパゲノミック転写終止領域を含んでいた。これら三つのプラスミドは、以下のようにして構築した。 pING4145を構築するために、三つの断片を接合した。すなわち、(1)(第132位に野性型システインが含まれていることを除けば、 pING4221と同一である)pING4140からの断片を含む約3000bpのNot I−XhoIBPI(1−193)、(2)pING4537からの約1360bpのXhoI− Bam HI断片、および(3)pING4222からのDHFR遺伝子を含む約4150bpの Bam HI− Not I断片である。pING4152を構築するために、三つの断片を接合した。すなわち、(1)(第132位に野性型システインが含まれていることを除けば、pING4223と同一である)pING4142からの断片を含む約3000bpのNotI− XhoI断片、(2)pING4537からのXhoI−BamHI断片、および(3)pING4221からのhis遺伝子を含む約4770bpのBam HI−Not I断片である。
【0038】
以下の表1は、上記AからGの節にて記載したプラスミドの内容を要約したものである。
【0039】
【表1−1】

【0040】
【表1−2】

【0041】
【表1−3】

【0042】
【表1−4】

(実施例2)
(rBPIのシステイン置換類似体の発現のための細胞の形質変換)
哺乳類細胞は、その好適な分泌、保持力、および発現タンパク質の翻訳後の修飾を許容
するので、哺乳類細胞は、本発明のrBPIタンパク質類似体の生成のための好適な宿主である。目下のところ、本発明の類似体の生成のための好適な哺乳類宿主細胞には、CH0−K1細胞(ATCC CCL61);CHO−DG44細胞、コロンビア大学のLawrence Chasin博士よりいただいたCHO Torontoのジヒドロ葉酸レダクターゼ欠損[DHFR−]変異株、Lawrence Chasin博士よりいただいたCHO−K1のDHFR−変異株であるCHO−DBX−11、Velo細胞(ATCC CRL81)、幼ハムスター腎臓(BHK)細胞(ATCC CCL10)、Sp2/0−Ag14ハイブリドーマ細胞(ATCC CRL1581)およびNSO骨髄腫(ECACC No.85110503)のような、繊維芽細胞およびリンパ球由来の細胞が含まれる。
【0043】
哺乳類細胞の形質変換は、様々な方法で実施できる。一般的な方法として、宿主細胞によって取り上げられる発現ベクターDNAの燐酸カルシウム沈澱による方法がある。他の方法では、強力な電磁場で作られた膜孔を通してDNAを採取する細胞を作り上げるエレクトロポレーション[(Sambrook et al.,Molecular Cloning.A Laboratory Manual,Cold Spring Laboratory Harbor Press,16.30−16.31 1989)]がある。形質変換した細胞の選択は、選択された条件下で形質変換した細胞が生存し、生長することを許容する生成物の遺伝子の発現ベクターへの組み込みによって達成できる。 かような遺伝子のいくつかが同定されている。それには、次のようなものが含まれる。(1)neo、アミノグリコシド抗菌性G418への耐性をコードする原核細胞遺伝子、(2)キサンチンの存在下でマイコフェノール酸(MPA)への耐性をコードするE.coliグアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)、[Mulligan,et
al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,78:2072−2076(1981)]、(3)ヌクレオシドの欠乏下でのDHFR−細胞の生長と、メトトレキセートの増大した濃度の下での遺伝子増幅を許容するジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、(4)ヒスチジノルの存在下での生長を許容する Salmonella ryphimuriumの hisD遺伝子[Hartman,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:8047−8051(1988)]、(5)インドールの存在下で(トリプトファン無しに)の生長を許容するE.coliのtrPB遺伝子[Hartman,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:8047−8051(1988)]、および(6)グルタミンを欠いた培地での生長を許容するグルタミンシンターゼ遺伝子などがある。
【0044】
これら選択可能なマーカーの単独あるいは様々な組み合わせの利用は、高レベルでの組換え生成物の発現を許容する哺乳類細胞の調製を自在ならしめる。
【0045】
(A.pING4533でのCHO−K1細胞の形質変換)
プラスミドpING4533は、A−MuLvプロモーターに融合したrBPI(1−199)ala132をコードする遺伝子配列、至適化したKozakの翻訳開始配列、ヒトガンマ−1重鎖3’非翻訳領域、およびMPA−耐性細胞の選択のためのgptマーカーを含む。
【0046】
CHO−K1細胞系は、グルタミン/ペニシリン/ストレトマイシン(Irvine Scientific社、イルビン、カリフォルニア州)を補充し、10%胎児ウシ血清(FBS)を足したHamのF12培地で維持した。これら細胞は、 NotIでまず消化し、フェノール−クロロホルムで抽出し、そしてエタノール沈澱したpING4533
DNAの40μgでエレクトロポレーションして形質変換した。エレクトロポレーションに続いて、細胞を非選択性HamのF12培地で24時間かけて再生した。そして、この細胞をトリプシン処理し、MPA(25μg/ml)とキサンチン(250μg/ml
)を補充したHamのF12培地で5×10細胞/mlの濃度で再懸濁し、そして、96ウェルプレートにて、10細胞/ウェルの割合で置いた。形質変換していないCHO−K1細胞は、MPAによるピリミジン合成の阻害のために、この培地では生長しなかった。
【0047】
2週間後に、形質変換した細胞からなるコロニーが、96ウェルプレートにて観察された。単一コロニーを含むウェルからの上清を、標準としてrBPI(1−199)を用いた抗BPI ELISAによるBPI反応性タンパク質の存在に関して分析を行った。
【0048】
この分析にて、イムロン−II 96ウェルプレート(Dynatech社、チャンティリー、バージニア州)を、アフィニティー精製したウサギ抗rBPI(1−199)抗血清で前被覆した。上清試料を添加し、アフィニティー精製し、ビオチン化したウサギ抗rBPI(1−199)抗血清とペルオキシダーゼ標識したアビジンを用いて検出を行った。
【0049】
この方法で、約800のコロニーをスクリーニングした。 最大の生成が認められた31個のコロニーを、生成効率の評価を行うために24ウェルプレートに移した。細胞を、10%FBSを補充したHamのF12培地を用いて24ウェルプレートにて、集合体が形成されるまで生長させた。細胞が、一旦、集合体を形成すれば、HamのF12培地を除去し、そして、共同所有に係る、係属中のGrinnaによる米国特許出願No.08/072,063にあるように、殺菌したS−セファロースビーズ(Pharmacia社、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)の 4Oμlを足した1mlの血清を含まないHB−CHO培地(Irvine Scientific社)を添加した。この細胞を、7日間インキュベートしてから、S−セファロースビーズを除去し、10mlのTris緩衝液(pH 7.5)中の0.1M塩化ナトリウムで洗浄した。Tris緩衝液中の1.0M塩化ナトリウムを添加してビーズから生成物を溶出し、そして、上記したようにELISAで定量した。A135と命名した、最高の生成能力が認められた形質転換体は、この分析にて約3μg/mlの転換体の分泌を示し、血清を含まないExcell301培地(JRH Scientific社、レナクサ、カンサス州)での生長に適していた。適合する細胞は、S−セファロースビーズが入ったExcell301培地を用いた
1.5L醗酵にて生長した。S−セファロースビーズ(50ml分画)から溶出した生成物のC4 HPLC分析により、生産効率を、120から140時間にわたって分析した。醗酵のこの段階での生産効率は、15から25μg/Lであった。
【0050】
(B.pING4222でのCHO−DG44細胞の形質変換)
プラスミドpING4222は、A−MuLvプロモーターに融合したrBPI(1−193)ala132をコードするDNA、至適化したKozakの翻訳開始配列、ヒトガンマ−1重鎖3’非翻訳領域、およびヌクレオシドを含まない培地での形質転換した細胞の選択のためのマウスDHFR遺伝子を含む。
【0051】
CHO DG44細胞系は、グルタミン/ペニシリン/ストレトマイシンを補充し、10%FBSを足したHamのF12培地で維持した。これら細胞は、 Weiger,et al.,Cell,11:223(1977)のカルシウム沈澱法を用いて、直線化したpING4222 DNA(PvuIで消化し、フェノール−クロロホルムで抽出し、そしてエタノール沈澱した40μg)で形質変換した。カルシウム沈澱に続いて、細胞を約10細胞/ウェルの割合で96ウェルプレートに置き、ヌクレオシド(Irvine Scientific社)を欠いたαMEM培地、および透析したFBS(6000−8000の分子量基準で、4Lの冷たい0.15M塩化ナトリウムに対して、16時間、4℃で透析した100mlの血清)を足した選択培地で生長させることで形質転換体を得た。
【0052】
形質変換していないCHO−DG44細胞は、DHFR変異および透析した血清が足された培地にヌクレオシドが欠けていたため、この培地では生長しなかった。
【0053】
2週間後に、約2から3個のコロニーが、各ウェルで観察された。96ウェルプレートのウェルからの上清を、上記A節で述べたELISAにより、rBPI(1−193)ala132の存在に関して分析した。24個の生産効率の最も良好なクローンを、DNAをコードするrBPI類似体の遺伝子増幅を誘発するために、0.05Mのメトトレキセートを足した選択用αMEM培地が入った24ウェルプレートに入れた。生長の観察過程にて、細胞を新しい24ウェルプレートに移し、 pING4533/CHO−K1形質転換体に関する上記A節でのS−セファロース溶出物から生産効率を分析した。五つの最も高い生産効率を示すクローンが組み合わされ、96ウェルプレートでの限定希釈によりサブクローニングした。単一コロニーを含む上清を、ELISAにより、rBPI(1−193)ala132のレベルに関して分析を行った。次に、20個の生産効率の最も良好なサブクローンを24ウェルプレートに入れ、0.4μMのメトトレキセートの存在下でさらに増幅せしめ、そして、増幅した細胞による生成物の発現レベルをELISAにより決定した。最高の生成体である、クローン4、75および80は、S−セファロースを含む24ウェルプレートにて、7日間で、25から37μg/mlの生成物を分泌した。
【0054】
(C.pING4223およびpING4221でのSp2/O細胞の形質変換)
所望のrBPI生成物の至適な発現を行うために適用する手法は、第一マーカーでの第一発現プラスミドを有する細胞の形質変換、最高の生成体のスクリーニング、および異なる第二マーカーを有する第二の発現プラスミドを用いたスクリーニングした生成体の形質変換を含む。この手法を、Sp2/O細胞を用いた場合について、下記する。
【0055】
プラスミドpING4223は、A−MuLvプロモーターに融合したrBPI(1−193)ala132をコードするDNA、至適化したKozakの翻訳開始配列、ヒトガンマ−1重鎖3’非翻訳領域、およびMPA−耐性細胞の選択のためのgptマーカーを含む。
【0056】
Sp2/O細胞系は、グルタミン/ペニシリン/ストレトマイシンを補充し、10%FBSを足したDMEM培地で維持した。これらSp2/O細胞は、 NotIで消化し、フェノール−クロロホルムで抽出し、そしてエタノール沈澱したpING4223 DNAの40μgを用いたエレクトロポレーションで形質変換した。エレクトロポレーションに続いて、非選択性DMEM培地で48時間置いて再生した。細胞を遠心分離し、MPA(6μg/ml)とキサンチン(250μg/ml)を足したDMEM培地中に5×10細胞/mlの濃度にまで再懸濁し、そして、10細胞/ウェルの割合で96ウェルプレートに置いた。形質変換していないSp2/O細胞は、MPAによるピリミジン合成の阻害のために、この培地では生長しなかった。1.5から2週間後に、形質転換した細胞を含むコロニーが、96ウェルプレートで観察された。単一コロニーを含むウェルの上清を、ELISAによって、生成物反応性タンパク質の存在に関して分析した。最も良好な生成体を24ウェルプレートに移し、グルココルチコイド受容体との相互作用の結果として、A−MuLvプロモーターによる発現の増大を招く、10−7Mのデキサメトサンの有無により、24ウェルプレートでの停止した細胞生長から生産効率を測定した。最高の生成体であるクローン2×3は、デキサメトサンの有無により、それぞれ、約2μg/mlと7μg/mlの生成物を分泌した。
【0057】
形質変換体の選択のためのhzs遺伝子を含むpING4221を用いたエレクトロポレーションにより、クローン2×3を形質変換した。10%FBSを足したDMEM培地での48時間にわたる再生に続いて、6μg/ml MPA、250μg/mlキサンチ
ン、および8mMヒスチジノールを足したDMEM/FBS中に、約10個の細胞/ウェルになるように、96ウェルプレートに細胞を置いた。形質変換していない細胞は、MPAおよびヒスチジノールの存在下では生長しなかった。 1.5から2週間後に、形質転換した細胞が、96ウェルプレートで観察された。単一コロニーを含むウェルからの上清を、ELISAによって、rBPI反応性タンパク質の存在に関して分析した。
【0058】
最も良好な生成体を24ウェルプレートに移した。10−7Mのデキサメトサンの有無により、24ウェル培養での停止した細胞生長から生産効率を測定した。最高の生成体であるクローン2×3−130は、デキサメトサンの有無により、それぞれ、約15μg/mlと30μg/mlの生成物を分泌した。次に、単離物を、96ウェルプレートにて限界希釈法によってサブクローニングした。単一コロニーを含むウェルを、ELISAによってスクリーニングし、最高の生成体を、10−7Mのデキサメトサンの有無により、24ウェル培養にて再試験した。最高の生成サブクローンであるNo.25は、デキサメトサンの有無により、それぞれ、約16μg/mlと33μg/mlの生成物を分泌した。
【0059】
(D.pING4143およびpING4150でのSp2/O細胞の形質変換)
プラスミドpING4143は、A−MuLvプロモーターに融合したrBPI(1−193)ala132をコードするDNA、至適化したKozakの翻訳開始配列、ヒトガンマ−1重鎖3’非翻訳領域、およびMPA−耐性細胞の選択のためのgptマーカーに沿ったマウスカッパ軽鎖3’非翻訳領域を含む。Sp2/O細胞は、NotIで消化し、フェノール−クロロホルムで抽出し、そしてエタノール沈澱したpING4143 DNAの40μgを用いたエレクトロポレーションで形質変換した。エレクトロポレーションに続いて、非選択性DMEM培地で48時間置いて再生した。細胞を遠心分離し、MPA(6μg/ml)とキサンチン(250μg/ml)を足したDMEM培地中に5×10細胞/mlの濃度にまで再懸濁し、そして、10細胞/ウェルの割合で96ウェルプレートに置いた。約2週間後に、形質転換した細胞を含むコロニーが、96ウェルプレートで観察された。単一コロニーを含むウェルの上清を、ELISAによって、BPI−反応性タンパク質の存在に関して分析した。最も良好な生成体を24ウェルプレートに移した。10−7Mのデキサメトサンの有無により、24ウェルプレートでの停止した細胞生長から生産効率を測定した。最高の生成体であるクローン134は、デキサメトサンの有無により、それぞれ、約12μg/mlと28μg/mlの生成物を分泌した。
【0060】
A−MuLvプロモーターに融合したrBPI(1−193)ala132をコードするDNA、マウスガンマ−1軽鎖3’非翻訳領域、および形質転換体の選択のためのhis遺伝子を含むプラスミドpING4150をベクターとしたエレクトロポレーションでクローン134を形質変換した。エレクトロポレーションに先行して、ベクターをまず消化し、フェノール−クロロホルム抽出し、そしてエタノール沈澱した。10%FBSを足したDMEM培地で48時間置いて再生した後、6μg/mlのMPA、250μg/mlのキサンチン、および8mMのヒスチジノールを足したDMEM/FBS培地中に10細胞/ウェルの割合で96ウェルプレートに置いた。形質変換していない細胞は、MPAおよびヒスチジノールの存在下では生長しなかった。約2週間後に、形質転換した細胞が、96ウェルプレートで観察された。単一コロニーを含むウェルからの上清を、ELISAによって、BPI反応性タンパク質の存在に関して分析した。最も良好な生成体を24ウェルプレートに移した。10−7M のデキサメトサンの有無により、24ウェル培養での停止した細胞生長から生産効率を測定した。最高の生成体であるクローン134−11は、再消化した C1770であった。クローンC1770は、デキサメトサン欠乏下で、36μg/mlの生成物を分泌し、またデキサメトサン存在下で、42μg/mlを越える量の生成物を分泌した。このクローン(c1770)は、受託番号HB 11247として、メリーランド州、20852、ロックヴィル、12301パークロウンドライブに所在のアメリカンタイプカルチャーコレクションに寄託されている。
【0061】
(E.pING4143でのCHO−K1細胞の形質変換)
CHO−K1細胞系を、pING4533によるCHO−K1細胞の形質変換のための、上記A節に記載した方法により、pING4143で形質変換した。約2週間後に、単一コロニーを含む約800個のウェルからの上清を、ELISAによって、BPI−反応性タンパク質の存在に関して分析した。約9から 13μg/mlの生成物を分泌する最高の生成体は、醗酵時の生長のための血清を含まない培地に適用されうる。rBPI生成物を高レベルで生成する細胞系を提供するために、選択マーカーとしてhisあるいはneoを有するpING4150あるいはpING4154のようなベクターを用いて再度形質変換する。
【0062】
(F.pING4144でのCHO−K1細胞の形質変換)
A−MuLvプロモーターの代わりにヒトサイトメガロウィルス(hCMV)プロモーターを含むことを除けば、プラスミドpING4144は、pING4143と同様である。CHO−K1細胞系を、上記A節に記載した方法により、pING4144で形質変換した。約2週間後に、単一コロニーを含む約200個のウェルからの上清を、ELISAによって、BPI−反応性タンパク質の存在に関して分析した。最高の生成体を、24ウェルプレートに移し、酪酸ナトリウムを入れた24ウェルプレートにてrBPI発現を決定した。この分析にて、最高の生成体(クローン174)は、酪酸塩の欠乏下で約3から5μg/mlの生成物を、また5mM酪酸塩の存在下で約15から18μg/mlの生成物を分泌した。クローンC1771と改めて命名したこのクローンは、受託番号CRL
11246として、メリーランド州、20852、ロックヴィル、12301パークロウンドライブに所在のアメリカンタイプカルチャーコレクションに寄託されている。最高の生成体は、醗酵時の生長のための血清を含まない培地に適用されうる。 BPI生成物を高レベルで生成する細胞系を提供するために、選択マーカーとしてhisあるいはneoを有する、hCMVプロモーターの制御下でのBPI遺伝子を含む、pING4151あるいはpING4155のようなベクターを用いて再度形質変換されうる。
【0063】
(G.pING4143でのNSO細胞の形質変換)
NSO細胞を、pING4143を用いたエレクトロポレーションで形質変換した。
約3週間後に、形質変換した細胞からなるコロニーが、96ウェルプレートにて観察された。単一コロニーを含むウェルからの上清を、ELISAによって、 BPI−反応性タンパク質の存在に関して分析した。最高の生成体を、24ウェルプレートに移した。生産効率を、細胞の生長が停止した24ウェル培養にて測定した。最高の生成体は、15から16μg/mlの生成物を分泌した。最高の生成体は、より生成能の優れた生成体を得るために、上記したようにして、pING4150のようなベクターで再度形質変換されうる。
【0064】
(H.pING4143でのNSO細胞の形質変換)
ベクターpEE13[Bebbington,et al.,Biotechnology,10:169−175(1992)]にクローニングされた至適化したKozakの翻訳開始配列に融合したrBPI(1−193)ala132をコードするDNAを含むpING4132を用いたエレクトロポレーションによってNSO細胞を形質変換した。ベクターpEE13は、グルタミンが欠乏した培地でも生長できる形質変換体を選択するためのグルタミン合成遺伝子を含んでいる。
【0065】
約3週間後に、形質変換した細胞からなるコロニーが、96ウェルプレートにて観察された。単一コロニーを含むウェルからの上清を、ELISAによって分析した。
最高の生成体を、24ウェルプレートに移した。生産効率を、細胞の生長が停止した24ウェル培養にて測定した。7から15μg/mlの生成物を24ウェル培養で分泌した最
高の生成体は、様々な濃度のメチオニンスルホキシミンの存在下での増幅に適用されうる。
【0066】
(I.pING4145でのSp2/0細胞の形質変換)
プラスミドpING4145は、A−MuLvプロモーターに融合したrBPI(1−193)ala132をコードするDNA、至適化したKozakの翻訳開始配列、マウスカッパ軽鎖3’非翻訳領域、およびMPA−耐性細胞の選択のためのgpt遺伝子を含む。 Sp2/O細胞は、Not Iで消化し、フェノール−クロロホルムで抽出し、そしてエタノール沈澱したpING4145 DNAの40μgを用いたエレクトロポレーションで形質変換した。エレクトロポレーションに続いて、非選択性DMEM培地で48時間置いて再生し、細胞を遠心分離し、MPA(6μg/ml)とキサンチン(250μg/ml)を足したDMEM培地中に5×10細胞/mlの濃度にまで再懸濁した。そして、10細胞/ウェルの割合で96ウェルプレートに置いた。約2週間後に、形質転換した細胞を含むコロニーが、96ウェルプレートで観察された。単一コロニーを含むウェルの上清を、ELISAによって、BPI−反応性タンパク質の存在に関して分析した。最も良好な生成体を24ウェルプレートに移し、10−7Mのデキサメトサンの有無により、24ウェルプレートでの停止した細胞生長から生産効率を測定した。BPIの発現を最高ならしめるために、最高の生成体であるSp2/O形質転換体は、A−MuLvプロモーターに融合したrBPI(1−193)ala132をコードする遺伝子配列、および形質転換体の選択のためのhis遺伝子を有するマウスカッパ軽鎖3’非翻訳領域を含むベクターを用いたエレクトロポレーションによって形質変換されうる。
【0067】
(J.pING4145でのCHO−K1細胞の形質変換)
CHO−K1細胞系を、上記A節に記載した方法により、pING4145DNAで形質変換した。約2週間後に、単一コロニーを含む約500から800個のウェルからの上清を、ELISAによって、BPI−反応性タンパク質の存在に関して分析した。最高の生成体を24ウェルプレートに移し、S−セファロースを含む24ウェルプレートにてBPI発現を決定した。この最高の生成体は、次に、醗酵時の生長のための血清を含まない培地に適用されうる。rBPI生成物を高レベルで生成する細胞系を提供するために、異なる選択マーカーを含むベクターを用いて、これらは再度形質変換されうる。
【0068】
(K.昆虫細胞からのrBPI生成物の発現)
rBPI生成物が発現しうる他の真核細胞系は、rBPI生成物をコードするDNAを含む組換えバキュロウィルスで感染した昆虫細胞である。組換えウィルスを生成し、またそこからの組換え生成物の発現を達成するシステム(Invitrogen社、サンディエゴ、カリフォルニア州)が、通常利用されている。 31個のアミノ酸シグナル配列を含むrBPI(1−199)をコードするDNAは、pB1ueBac転移ベクター(Invitrogen社)のNheI部位にクロ−ニングされる。Sf9昆虫細胞(BRL社、ATCC CRL 1711)を、このベクターと、野性型AcMNPV(Autographa california多核ポリヒドロシスウィルス、Invitrogen社)を用いて共形質変換した。組換えウィルスプラークを同定し、精製し、そして、 BRL社から入手した実験説明書に従って、より高い力価の組換えウィルス性株を生成するために用いた。
【0069】
組換え生成したバキュロウィルスを、Sf9細胞をさらに感染するために用いた。これを行うために、8つの60mm皿に置いたSf9細胞を、バキュロウィルスで感染させた。感染した細胞を入れた皿から培地を回収することで、日中の間に、異なる時間に8つの各皿から試料を採取した。試料が回収されると、培地を 1000rpmで、10分間遠心分離し、その上清を4℃で保管した。4mlのPBSで一度細胞を洗浄し、そして、氷上で30分間インキュベートして、 100μl/皿のNP40溶菌緩衝液(1%NP4
0、150mM NaCl、50mM Tris−HCl、pH 8.0)で溶菌した。そして細胞を、細胞掻き取り器で、エッペンドルフ管に回収した。細胞溶解物を、2分間、マイクロ遠心分離した。溶解物の上清を、新しい管に移し、そして、−20℃で保管した。毎日の採取時間に得られた培地試料は、ELISAによってBPI含量が分析され、そして、溶解物を抗−BPI抗体を用いたウェスターン法によって解析した。
【0070】
感染後1から4日の培地のELISA分析においては、rBPI生成物は検出されなかった。しかしながら、感染後5から6日目では、培地試料から、200− 500ng/mlのrBPI生成物のピークが検出された。溶解物のウェスターン分析は、感染後2日目の試料にて、約23KdのBPI−反応性バンドが認められた。このバンドは、6日目の試料まで強度を高めながら認められた。
【0071】
下記表2は、上記AからJ節での形質変換の内容をまとめたものである。
【0072】
【表2】

(実施例3)
(rBPI(1−199)ala132およびrBPI(1−199)Ser135のin vitro での転写および翻訳のためのプラスミドの構築)
rBPI(1−199)をコードするDNAの源としてのプラスミドpIC127を用いてin vitroでの転写/翻訳の研究を行った。pIC127の構築は、以下のようにして行った。31個のアミノ酸シグナル配列を含むrBPI(1−199)をコードするDNAを、pGEM−72f(+)にあるBPIをコードするcDNAの全長を含んだプラスミドからPCR増幅した。プライマーBPI−3:GTCGACGCATGCGAGAGAACATGGC(配列番号:12)およびBPI−2: CCGCGGCTCGAGCTATATTTTGGTCAT(配列番号:9)を用いて、rBPIをコードする配列の3’端にXhoIとSstII部位を、また、5’端にSalI部位が組み込まれるようにして増幅を行った。得られたPCR増幅した断片は、pIC102を生成するために、プラスミドpT7T3 18u(Pharmacia LKB Technology社、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)のマルチプルクローニング領域のSmaI部位にその切断端をクローニングした。
【0073】
rBPI(1−199)および31個のアミノ酸シグナルをコードするpIC102挿入体を、Bam HIとAsP 7181を用いたプラスミドの消化により切り出した。
Bam HI部位は、pIC102のSalI部位を、また、AsP 718I部位はpIC102のSstII部位をそれぞれ切断した。切り出した断片の末端は、T4 DNAポリメラーゼで平滑化され、そして、PstIとEcoRIでまず消化され、T4 DNAポリメラーゼで平滑化したプラスミドpGEM1(ProMega社、マジソン、ウィスコンシン州)へその平滑化断片はクローニングされる。得られた構築体はpIC124と命名され、5’端がpGEM1のSp6プロモーターに近接するよう置かれた挿入体をコードするrBPI(1−199)を有している。
【0074】
pIC124挿入体の31個のアミノ酸シグナル配列は、pIC127を生成するために、pIC124の二つのHincII部位の間の領域を削除することで切り出した。切り出した領域は、開始コドン(ATG)とBPIの最初のアミノ酸をコードする配列を復元するリンカーで置換した。HincIIおよび SstIIを用いたpIC124消化から二つの断片が単離された。すなわち、(1)最初のアミノ酸を除くrBPI(1−199)コード領域を含む HincII−SstII断片、および(2)そのプラスミドの他の部分を含むSstII−HincII断片である。 BPIコード配列での最初のコドンならびにBPI配列の前のメチオニンのためのコドンを、二つの相補性ヌクレオチド、BPI−28: GACGCCACCATGGTC(配列番号:13)およびBPI−29:GACCATGGTGGCGTC(配列番号:14)から形成したリンカーを用いて挿入した。これら二つのオリゴヌクレオチドは、pIC127を形成するために、pIC124からのHincII−SstII断片およびSStII− HincII断片で共に連結した。
二つのプラスミド、pML101およびpML102を、rBPI(1−199)ala132およびrBPI(1−199)Ser135のin vitroでの転写/翻訳のためにpIC127を用いて構築した。
【0075】
これを行うために、SalIとEco RIでpIC127を消化し、大きなSstII−Eco RI断片を精製した。rBPI(1−199)ala132挿入体を含むpmL101を構築するために、pING4519からのEco RI−SstIIを、pI127からのSstII−Eco RI断片に連結した。rBPI(1−199)Ser135挿入体を含むpML102を構築するために、pING4520からのEco RI−SstIIを、pI127からのSstII−Eco RI断片に連結した。
【0076】
ProMega社(マジソン、ウィスコンシン州)の網状赤血球溶解システムと組み合わせたTNT SP6を用いて、rBPI(1−199)、rBPI(1−199)Ser135およびrBPI(1−199)ala132を、 in vitroでプラスミドpIC127、pML106、およびpML102から発現させた。このシステムは、真核生物翻訳システムを用いて、クローニングした遺伝子のin vitroでの転写と翻訳の組み合わせを可能ならしめる。組み合わせた転写/翻訳のそれぞれは、標識したタンパク質を生成するための35S− メチオニンを含み、全量25μl中の2μgのプラスミドDNAを用いて、製造業者の実験説明書に従って行った。標識したタンパク質を、5μlずつ、 20μlの尿素試料緩衝液に添加し、そして、95℃で、3分間加熱した。各試料の画分(10μl)を、DDT(50mM)を使用あるいは使用せずして、15%SDS−ポリアクリルポリアミドゲルに適用した。ゲルを固定して乾燥した後、標識したタンパク質バンドを、オートラジオグラフィーで視覚化した。オートラジオグラフィーの結果は、rBPI(1−199)、rBPI(1−199)cys135およびrBPI(1−199)ala132をコードするcDNAが、BPIN末端断片の約23Kdの予想された大きさのタンパク質生成物を発現したことを実証したのである。さらに、三つの発現したすべての生成物、rBPI(1−199)、rBPI(1−199)cys135およびrBPI(1−199)ala132が、DTTによる還元で消失する、BPI(1−199)の二量体に関して予想していた以上の大きな分子量ならびに分子種を
生成できる。rBPI(1−199)cys135およびrBPI(1−199)ala132における二量体生成物の発現が、細胞を含まないin vitroでの転写/翻訳システムを用いた結果によるものと考えられる。
【0077】
このようなシステムでは、細胞における翻訳にて通常発生する、適切な翻訳後の処理、保存等を維持できない。よって、in vitroシステムでは適切なジスルフィド結合は形成されず、場合によっては、二量体の形成に至る可能性がある。
上記したin vitro発現システムにて生成した標識付けしたタンパク質を、LPS結合活性について試験した。マイクロタイタープレートのウェルを、pH 9.4の0.1M Na2CO3/20mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸)中のSalmonrlla minnesota R7(Rd変異体)(メタノール保管培養基中の5mg/ml)からのLPS(50μlウェルの全量で2μgのLPS)で被覆した。4℃で、一晩インキュベートした後、ウェルを水で洗浄し、37℃で乾燥した。次に、ウェルを215μlの Dulbecco’s−PBS/0.1%BSAを用いて、37℃で、3時間ブロックした。ブロック溶液を廃棄し、ウェルをPBS/0.2%Tween− 20で洗浄した。rBPI試料を、PBS/0.2%Tweenに全量が50μl(翻訳反応物の2μl)となるよう添加した。
【0078】
4℃ で、一晩インキュベートした後、ウェルをPBS/0.2%Tweenで三回洗浄し、各ウェルに残った標識したタンパク質の量を、液体シンチレーションカウンターで決定した。その結果は、ほぼ等価のLPS結合が、上記した三つのすべてのBPI種にとって代わっていたことが実証された。rBPI(1−199)は48,690cpmの結合を、rBPI(1−199)ala132は59,911cpmの結合を、またrBPI(1−199)cys135は52,537cpmの結合を示し、上記した数値のそれぞれは、3回の決定値の平均を示す。対照(DNA無し)の平均結合値は、5,395cpmであった。
【0079】
(実施例4)
(生成物の特徴)
(A.物理的特徴)
rBPIの生成物の特徴付けを、逆相(C4)HPLC、陽イオン交換(MA7C)HPLC、SDS−PAGE、および電子噴射イオン化質量分光測定法(ESI−MS)を用いて実施した。
【0080】
特徴付けを行うrBPI生成物を、ローラボトルあるいは10Lの醗酵槽収穫機から、単段階精製手段あるいは多段階精製手段のいずれかによって特徴付けた。単段階精製手段は、本明細書にて参考として組み込んだ、共同所有に係る、係属中のGrinnaによる、第二洗浄工程も備えた、米国特許出願No. 08/072,063にて実質的に開示されたものである。要約すれば、rBPI生成物を含む成長培地に、S−セファロースビーズが添加されている。S−セファロースは培地から除去され、pH4.0にて、20mM酢酸ナトリウムおよび100mM塩化ナトリウムで洗浄される。第二の洗浄は、pH4.0にて、 20mM酢酸ナトリウムおよび700mM塩化ナトリウムで行われる。精製したrBPI生成物を、pH4.0にて、20mM酢酸ナトリウムおよび 1700mM塩化ナトリウムで溶出する。
【0081】
多段階精製は、上記したようにしてまず個別に精製したrBPI生成物の精製を含む。単段階精製法で20のrBPI生成物の各々を精製した後、各rBPI生成物を貯蔵し、200mMにまで貯蔵生成物の塩濃度を希釈する。そして、貯蔵した試料を、S−セファロースカラムに負荷し、pH4.0にて、20mM酢酸ナトリウムおよび200mM塩化ナトリウムに続いて700mM塩化ナトリウムで洗浄する。pH4.0にて、20mM酢
酸ナトリウムおよび1000mM塩化ナトリウムを用いて、rBPI生成物を溶出した。そして、精製したrBPI生成物を、その物理的特徴を決定するために分析した。
【0082】
(1.rBPI生成物のSDS−PAGE分析)
rBPI生成物のSDS−PAGE分析を、14%ポリアクリルアミドゲルおよび、還元あるいは非還元条件下でのtris−グリシン緩衝液システムを用いて実施した。視覚化のためにクーマシーブルーあるいは銀染色のいずれかによって、タンパク質バンドを染色した。
【0083】
図1に示したように、非還元rBPI(1−199)は、約23Kdに主要なバンドが、また、約40Kdに小さなバンドが認められる。この主要なバンドは、同時に行った標準との比較からrBPI(1−199)と同定され、また、小さなバンドは、免疫染色によってrBPI(1−199)の二量体であると同定された。 rBPI(1−199)の個別の試料に1/20容量の0.4Mジチオトレイトール(DDT)を添加することで、上記したような非還元条件下にて同定された rBPI(1−199)の23Kdの二量体種に対応する単一の明確なバンドを示した。rBPI(1−199)ala132生成物のSDS−PAGE分析で、還元条件下で単一の23Kd rBPI(1−199)と共に移動する単一のバンドを示された。非還元条件下では、(23Kdのバンドに対応する)rBPI(1−199)について認められる近接する二つのバンドの迅速な移動にあわせて、rBPI(1−199)ala132が移動した。図2に示したように、これら結果は、rBPI(1−199)ala132が精製後には単量体の形態で存在することを示すものである。このように、システイン残基がアラニンで置換されたrBPI生成物は、二量体の形成に対して顕著な抵抗性を示した。
【0084】
(2.rBPI生成物の陽イオン交換HPLC分析)
MA7Cカラムを用いた陽イオン交換HPLCも、rBPI生成物の二量体の程度を測定するために使用した。40%緩衝液B(20mMMES、1M塩化ナトリウム、pH 5.5)で、1.0ml/分で平衡化したBio−Rad MA7Cカートリッジ(4.6×30mm、Bio−RadカタログNo.125−00556)を使用した。rBPI(1−199)生成物を、1mlの試料を、100μg/mlにまで希釈し、200μlの希釈試料をカラムに注入して分析した。rBPIを、40から100%の緩衝液Bの勾配で、6分間にわたって溶出した。緩衝液Aは、pH 5.5にて20mM MESを含んでいた。229nmにて吸収度を測定した。
【0085】
rBPI(1−199)の分析にて、二つのピークが現れた。最初のピークは、図3に示すように、約3分間の保持時間で溶出されたものであった。第二のやや小さいピークは、約6分間にて溶出されたものであった。図3に示すように、最初のピークは、rBPI(1−199)単量体であり、また、図3の第二のピークは、精製した単量体および二量体標準の保持時間との比較から、rBPI(1−199)の二量体であると決定された。カラムに注入する前にDTTで試料を還元した場合には、第二の(二量体)ピークは認められなかった。rBPI(1−199)ala132の溶出パターンを決定するために、同じ手順を踏んだ。 図4に示したように、rBPI(1−199)単量体ピークについて認められたピークに対応する保持時間にて、単一のピークが認められる。rBPI(1−199)ala132試料にて、二量体に関するデータは得られなかった。
【0086】
(3.rBPI生成物の逆相(C4)HPLCおよび電子噴射)
イオン化質量分光測定法による分析 rBPI生成物の微小な不均一性が、逆相HPLCおよび電子噴射イオン化質量分光測定法(ESI−MS)によって示された。HPLC分析のために、Brownlee BU−300 C4カラムを、流速0.5ml/分で、37%移動相B(80%アセトニトリル/ 0.65%TFA)で平衡化した。rBP
I(1−199)の試料(各1ml)を、100μl/mlにまで希釈し、その50mlを注入した。カラムを、 2.5分間にわたって37%移動相Bで洗浄し、37から50%の移動相Bの勾配で、20分間にわたって溶出した。移動相Aは、5%アセトニトリル
/0.1%TFAであり、220nmで吸収度を測定した。
【0087】
rBPI生成物の逆相HPLCでの結果を、図5に示した。第二ピークの先端に部分的に崩れた第一(小さな)ピークを伴う第二(主要)ピークとして、rBPI(1−199)生成物は溶出した。第二ピークに対応するピークだけが、DTTで還元すれば、カラムから溶出した。
rBPI(1−199)ala132生成物を分析するために、同じ手順を踏んだ。図6に示したように、上記した第二(主要)ピークに対応する単一ピークとして、rBPI(1−199)ala132は溶出した。
【0088】
三つの異なるrBPI(1−199)からの、上記した第一および第二HPLCピークに対応する溶出液は単離され、ESI−MSによる含量の決定のために分析された。rBPI(1−199)からの第二(主要)ピークを生成する溶出液の分析では、199個のアミノ酸タンパク質について予想された質量よりもわずかに小さい質量が示された。これらデータは、第二ピーク溶出液に認められるほとんどの質量が、1−193 rBPIタンパク質断片に対応していることを示している。しかしながら、1−198から1−194の大きさの他の種も認められる。
rBPI(1−199)ala132に関してHPLCから取得された単一ピークを生成する溶出液の分析は、上記した第二(主要)ピークを生成する溶出液から取得したデータと同様のものであった。これらデータは、rBPI(1−199)生成物の切り詰めたカルボキシ末端を示すペプチドマッピングのデータと符合する。
【0089】
rBPI(1−193)生成物に関して同じ分析を行ったところ、顕著に低減されたC−末端の不均一性が認められた。rBPI(1−193)生成物に関して得られたESI−MSデータは、BPIN末端のアミノ酸の191、193、あるいは193(+N末端アラニン)のアミノ酸のいずれかを含んだ、約85%のタンパク質含量を示した。その結果を、下記表3に示した。
【0090】
【表3】

rBPI(1−199)をコードするDNAは全長のタンパク質(すなわち、BPI N−末端の1−199のアミノ酸)を生成しないが、rBPI(1−193)をコードするDNAは著量のrBPI(1−193)タンパク質を生成することを、これらデータは実証している。これらデータおよび他のデータから、rBPIをコードするDNAを切り詰めた形態とすることで、不均一性の顕著な減少と、意図したタンパク質(すなわち、挿入したDNAがコードしたもの)の生成が増大する一方で、至適な殺菌性とLPS−結合活性が維持される。第175位のアミノ酸残基であるシステインを越えないように、発現しようとするDNAを切断することが、発現生成物の不均一性を顕著な低減をもたらすものと思われる。BPI N−末端の最初の176個のアミノ酸からBPI N−末端の最初の193個のアミノ酸の範囲のrBPIをコードする切断したDNAの発現生成物も、十分な殺菌性とLPS−結合活性を保持することが期待される。
ESI−MSデータも、rBPI生成物のアミノ末端での微小な不均一性の存在を示した。アミノ末端にアラニン残基を有するrBPI生成物の形態が知見され、そして、トリプシンペプチドの配列決定によって確認された。
【0091】
図5に示したように、第一(小さな)逆相HPLCピークを生成した溶出液のESI−
MS研究は、各質量値が約119−120kDa大きいことを除けば、それが、第二(主要)
ピークを形成するタンパク質と同様の質量分布を有するタンパク質であることを示した。これらデータは、上記した第一(小さな)逆相HPLCピークを生成した溶出液が、質量値の均質な移動に寄与する、ジスルフィド結合したシステイン付加物を含むことを示唆している。
【0092】
rBPI(1−199)によって形成された第一(小さな)逆相HPLCピークがシステイン付加物によるものとする仮説を試験するために、モル数的にほぼ等価の遊離メルカプト基に結合するエルマン試薬(ジチオニトロ安息香酸、DTNB)にrBPI(1−199)を曝した。かような処理をすることで、rBPI (1−199)の1モル当たりに1モルに満たない遊離メルカプト基があることが実証された。BPI(の第132、135および175位)に、三つのシステイン残基があったと仮定した場合、rBPI生成物には分子間のジスルフィド結合もあるということ、あるいはメルカプト基の二つが立体的に利用できない、とする考えをこれら結果は支持することになる。rBPI(1−199)ala132は、エルマン試薬とは反応性を示さなかった。
【0093】
(4.rBPI(1−199)生成物の保存安定性)
20mMクエン酸ナトリウム、0.15M塩化ナトリウム緩衝液、0.1%ポロキサマー、および0.002%ポリソルベート80を含むpH5.0の緩衝液中のrBPI(1−199)の試料(1mg/ml)を、好ましいとされる保管温度2から8℃と、高めの保管温度22℃と37℃で、8週間にわたってその保存安定性を決定すべく分析を行った。
表4に示した、2から8℃での保存の結果は、二量体の割合の(1%から4%への)増大が示されているが、システイン付加物あるいは試料中の粒子形成において顕著な増大は認められなかった。
【0094】
【表4】

しかしながら、22℃と37℃の高めの保管温度の場合、試料中の二量体と粒子が飛躍的に増大し、システイン付加物の量も緩やかながらも増えている。これら結果を、表5に示した。さらに、rBPI(1−199)ala132を22から37℃で保存した場合、二週間保存した後でも二量体は検出されなかった。同様の条件下で、rBPI(1−199)は顕著な増大を示した。
【0095】
【表5】

(5.rBPI薬剤組成物の濁度)
薬剤組成物を含む様々なrBPIの濁度を決定するための実験を行った。この実施例にて、濁度とは薬剤組成物の崩れ(すなわち、タンパク質の三次元構造の喪失)、および/または粒子形成(大きな(>10μm)粒子を形成する各タンパク質間の相互作用)に関係する程度を指す。試験した薬剤組成物は、クエン酸緩衝液(20mMクエン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウム、pH5.0)、あるいは0.1%ポロキサマー188(ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロックコポリマーを含むポロキサマー界面活性剤)および0.002%ポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含むポリソルベート界面活性剤)を含むクエン酸緩衝液中のいずれかにある、rBPI(1−199)、rBPI(1−199)ala132あるいはrBPI(1−193)ala132のいずれかを含んでいた。上述したように、ポロキサマー/ポリソルベート界面活性剤系の組み合わせの使用は、本明細書に参考までに取り入れた、共同所有に係る、McGregor,et alによる、係属中の、1993年2月1日に出願された米国特許出願No. (代理人整理番号27129/31162)に教示されたような薬剤組成物を安定ならしめるのである。
【0096】
pH7.0あるいは5.0での上昇した温度にて、経時的な濁度を決定するために試料を分析した。分析に先駆けて、pH 7.0で、50mM燐酸カリウムあるいは20mMクエン酸緩衝液のいずれかで、すべての試料を、0.1mg/mlの濃度にまで希釈した。循環水用水槽に温度制御したキュベットホルダーを備えた、Shimadzu UV−160 UV−Vis分光光度計(Shimadzu、プラサントン、カリフォルニア州)に適用するために、試料を石英キュベットに置くことから濁度の測定は始まった。所望の温度(57℃、65℃あるいは85℃、下記参照)にまでキュベットホルダーを平衡させ次第、試料が適当な濃度にまで希釈されたかどうかを確認するために、280nmで吸
収度を測定した。これに続いて、吸収度の経時的な変化を決定するために、350nmでの試料の吸収度を2分ごとに1時間にわたって計測した。
【0097】
その結果を図7に示した。図7にて「製剤化した」とは、rBPI生成物が上記したポロキサマー/ポリソルベートの組み合わせを含むクエン酸緩衝液中にあること、そして、「非製剤化」とは、単にクエン酸緩衝液中にrBPI化合物があることを意味する。濁度の低率での変化(すなわち、計測中の吸収度の低率での増大)は、粒子の崩壊と形成に対する安定性の増大を意味する。図7に示したように、上記した界面活性剤の組み合わせを添加することで、試験したすべての組成物の安定性(粒子形成と崩壊に対する抵抗性)がもたらす結果となった。 さらに、rBPI(1−199)ala132およびrBPI(1−193)ala132は、先の界面活性剤の組み合わせの有無にかかわらず、野性型組成物の場合からして、粒子形成と崩壊に対する抵抗性が非常に改善されていた。pH5.0と65℃、pH5.0と75℃および85℃の各条件でも、同様の結果が得られた。
【0098】
総合すれば、界面活性剤の組み合わせおよび/またはシステインの削除は、野性型BPI(1−199)N−末端構造を有し、および/または界面活性剤を含まない組成物と比較して、試験期間において、また温度上昇を伴っても、それによる安定性の顕著な増大が認められた。
【0099】
(B.In vitro活性の特徴)
rBPI(1−199)ala132生成物のin vitro活性を、LPSへ生成物を結合することにより、LAL阻害分析によって、また、生成物の殺菌性強度により決定した。
【0100】
(1.LPSへのrBPI(1−199)ala132の結合)
E.coli(0111−B4株)あるいはS.minnesota(Rd変異体)リポ多糖(Sigma Chemical社、セントルイス、モンタナ州)の試料(それぞれ、20μgから60μg)を、LPSへのrBPI(1−199)ala132生成物の結合能力を決定するために用いた。
【0101】
LPS試料をSDS−PAGEでサイズ分画化し、そして、視覚化のための銀染色、あるいは標準の適切な前染色を行ってからニトロセルロース膜(BA25、 Schleicher and Schuell、キーン、ニューメキシコ州)に電気転移した。50mM Tris、0.2M塩化ナトリウム(TBS)、および30mg/mlのウシ血清アルブミン(BSA)、pH7.4の溶液に、37℃で、30分間にわたって浸すことでLPSの痕跡を作成した。そして、部分的あるいは全体的に精製したrBPI(1−199)ala132の2から4μg、あるいは対照タンパク質(rBPI(1−199)またはrBPIホロタンパク質のいずれか)を含む溶液に、21から42℃で、12から18時間かけて、膜をインキュベートした。インキュベーションの後、膜をTBS−BSAで洗浄した。30分間隔で、溶液を少なくとも3回交換した。洗浄した膜を、1mg/mlのBSAを含むTBSで1:1000に希釈したウサギ抗rBPI(1−199)で、3時間にわたってインキュベートした。膜をさらに少なくとも3回洗浄し、I−ブロックに代えて5×PBSおよび0.25%ゼラチン(Bio−Rad社)を用いて、製造業者の指示に従って、化学ルミネセンス検出システム(Tropix Systems社、ベッドフォード、マサチューセッツ州)に適用した。
【0102】
そして、rBPI(1−199)ala132が、rBPI(1−199)と同等あるいはそれ以上良好にニトロセルロースに固定したLPSに結合する結果が得られた。
【0103】
(2.E.coli成長阻害の分析)
rBPI生成物の殺菌性強度を決定するために、E.coliをrBPI(1−199)またはrBPI(1−199)ala132類似体で処理し、殺菌性活性の測定として培地での成長阻害を観察することで、E.coliの培地での成長阻害の分析を行った。J5(E.coli株 0111:B4のUDP−4−エピメラーゼの少ない自然変異体)と命名された、短鎖LPSを有するE.coliの「自然」株をこの分析にて用いた。BPI に対する感受性をE.coliに付与する、トリエタノールアミンで緩衝化した鉱物塩培地(Simon,et al.,Proc.Natl.Acad.Scz,51:877(1964))にて細胞を成長させた。 細胞を洗浄し、約5×10細胞/mlの密度になるまで、0.9%塩化ナトリウム中で再懸濁を行った。
【0104】
約5×10から1×10のE.coli細胞を、200から400mlの緩衝液(10%ハンクス液、40mM Tris−HCl、pH 7.5、0.1%カザミノ酸)で、5μg/mlの濃度のrBPI(1−199)またはrBPI(1−199)ala132類似体のいずれかと共に、30から60分間にわたってインキュベートした。加えて、rBPI(1−199)またはrBPI(1−199)ala132類似体のいずれかと、100mM塩化マグネシウムを用いて分析を個別に行った。インキュベーションに続いて、0.9%の塩化ナトリウムを足した10倍量の栄養培地で細胞を希釈した。数時間にわたって、培地での成長を観察した。
【0105】
rBPI(1−199)ala132類似体が、rBPI(1−199)と同等あるいはそれ以上の殺菌活性を有することを実証する結果が得られた。rBPI(1−199)ala132類似体とrBPI(1−199)の双方の殺菌性活性は、塩化マグネシウムによって、予想していた通り低減していた。
【0106】
(3.LAL阻害の分析)
rBPI(1−199)ala132の LPSへの結合性を決定するために、LAL阻害検定を行った。LAL阻害検定は、Gazzano−Santoro,Infect.Immun.,60: 4754−4761(1992)に記載した方法を使用した。LAL検定の結果は、rBPI(1−199)と同等の10というIC−50値を、rBPI(1 −199)ala132が有していたことを実証するものであった。
これらデータは、LPSに結合するための野性型rBPI生成物に類似体が匹敵することを示すものである。
【0107】
(C.致命的な内毒素血症の動物モデルでのrBPI(1−199)ala132の効果)
内毒素血症の動物モデルを、内毒素ショックに対するrBPI(1−199)ala132類似体とrBPI(1−199)の効果の比較を行うために用いた。
【0108】
雄のICRマウスに、800μg/kgのアクチノマイシン−Dと、0.5μg/kgあるいは1.0μg/kgのいずれかの内毒素(E.coli,0111:B4株)を静脈注射した。内毒素の注射後直ちに、rBPI(1−199)ala132あるいはrBPI(1−199)のいずれか(0.5mg/kgあるいは5.0mg/kg)を、マウスに静脈注射した。緩衝化した賦形剤を対照として用いた。7日間にわたってマウスの死を記録した。その結果を、下記表6に示した。
【0109】
【表6】

表6にあるように、rBPI(1−199)とrBPI(1−199)ala132の双方は、内毒素の致死作用に対して顕著な防御機能を呈する。本発明を好ましい実施態様に関して記載してきたが、当業者であれば、開示した範囲内で無数の修正と変更を想到できるものと思われる。例えば、BPI N−末端断片の第132位あるいは第135位のシステインを、アラニンあるいはセリン以外の非極性アミノ酸と置換することも本発明では意図されている。従って、本発明の範疇に課すべき限定は、添付の請求の範囲および将来に補正した請求の範囲に記した限定にとどめるべきである。
【0110】
【表7−1】

【0111】
【表7−2】

【0112】
【表7−3】

【0113】
【表7−4】

【0114】
【表7−5】

【0115】
【表7−6】

【0116】
【表7−7】

【0117】
【表7−8】

【0118】
【表7−9】

【0119】
【表7−10】

【0120】
【表7−11】

【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】図1は、rBPI(1−199)生成物のSDS−PAGE分析の結果を示している。
【図2−1】図2は、rBPI(1−193)およびrBPI(1−199)ala132生成物のSDS−PAGE分析の結果を示している。
【図2−2】図2は、rBPI(1−193)およびrBPI(1−199)ala132生成物のSDS−PAGE分析の結果を示している。
【図3】図3は、rBPI(1−199)生成物の陽イオン交換HPLC分析の結果を記載している。
【図4】図4は、rBPI(1−199)ala132生成物の陽イオン交換HPLC分析の結果を記載している。
【図5】図5は、rBPI(1−199)生成物の逆相HPLC分析の結果を記載している。
【図6】図6は、rBPI(1−199)ala132生成物の逆相HPLC分析の結果を記載している。
【図7】図7は、pH 7.0、57℃での、ポロキサマー/ポリソルベート界面活性剤の有無による、rBPI生成物を含む薬剤組成物の濁度に関する研究結果を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第132位あるいは第135位のシステイン残基が異なるアミノ酸で置換されている、殺菌性/浸透性が向上したタンパク質のポリペプチド類似体あるいはその生物学的に活性な断片。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−321813(P2006−321813A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204005(P2006−204005)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【分割の表示】特願2004−108131(P2004−108131)の分割
【原出願日】平成6年2月2日(1994.2.2)
【出願人】(594075802)ゾーマ・コーポレイション (4)
【氏名又は名称原語表記】XOMA CORPORATION
【Fターム(参考)】